説明

傾斜型圧延機用樽型圧延ロールおよび継目無鋼管の製造方法

【課題】ナーリングに起因する欠落疵の発生を軽減できる傾斜型圧延機用樽型圧延ロールおよび継目無鋼管の製造方法を提案する。
【解決手段】球頭ポンチでゴージ部周辺に初期ナーリング深さを0.20〜0.30mm、そのピッチを10.0±0.5mmとした球頭凹状ナーリングを付与した樽型圧延ロール、およびそれを用いた継目無鋼管の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、継目無鋼管の製造方法にかかり、詳しくは、詳しくは、素材を穿孔する際のピアサー(傾斜型圧延機という)に用いる樽型圧延ロールのナーリング形状に関する。
【背景技術】
【0002】
継目無鋼管は、油井用ケーシング、ボイラ熱交換器や耐熱、化学工業用配管など、主として特殊な用途に用いられる。このような用途に使用される継目無鋼管の製造方法として、素材進行方向に対して互いに逆向きにその軸芯が傾けられた一対の樽型圧延ロールを具備した傾斜型圧延機により素材を穿孔し、その後引き伸ばし工程などを経る製造方法が実用化されている。傾斜型圧延機による穿孔方法について、図3により説明する。
【0003】
図3(a)は、傾斜型圧延機による穿孔状態を示す要部断面図、図3(b)はそのX−X断面図である。傾斜型圧延機は、素材中心部に押し当てた穿孔プラグ2と、一対の樽型圧延ロール1と、一対のガイドシュー3とを具備し、素材を圧延するように構成されている。この一対のガイドシュー3には、固定シューが一般に用いられていたが、現在では可動可能な円盤状部材からなるロータリー・ディスクシューや、ローラ・シューを採用するようになっている。
【0004】
なお、図3(a)で1Aは、素材Wの肉厚の変化を滑らかにする目的で設けられているゴージ部を示す。このゴージ長の領域は、最大径の部分でかつロール径が一定な部分である。また図3(b)中の矢印は、樽型圧延ロール1および素管Wの回転方向を示す。
ところで、樽型圧延ロール1のゴージ部1Aを除く、その周辺にはグリップ力を高める目的で、使用前にナーリング(浅い溝模様や人工の微小な凹み)を付与している(例えば非特許文献1)。
【非特許文献1】日本鉄鋼協会編、第3版 鉄鋼便覧第III巻(2)、丸善出版、1980年5月15日発行、p925
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、ナーリングに起因する欠落疵が発生すると、ゴージ部特有の表面損傷形態により、肌荒れが悪化し、それが素材に転写して、製品の表面疵になるという問題点があった。
本発明は上記に鑑み、ナーリングに起因する欠落疵の発生を軽減できる傾斜型圧延機用樽型圧延ロールおよび継目無鋼管の製造方法を提案することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、ゴージ部周辺(ゴージ部およびその近傍)の表面損傷形態は、入側、出側と大きく異なり、磨り減り摩耗速度が小さいため、ナーリングに起因する欠落疵が発生すると、肌荒れが悪化すると推定した。そして、後述する初期ナーリング深さを変えた実験により、初期ナーリング深さが深いと、ナーリングに起因する欠落疵が発生しやすいことを知見し、以下のように初期ナーリング深さを限定した。
【0007】
すなわち本発明は、素材を穿孔する際の傾斜型圧延機に用いる樽型圧延ロールであって、球頭ポンチでゴージ部周辺に初期ナーリング深さを0.20〜0.30mm、ピッチを10.0±0.5mmとした球頭凹状ナーリングを付与したことを特徴とする樽型圧延ロール。
【0008】
継目無鋼管を製造する方法において、素材を穿孔する際に、傾斜型圧延機に、前記球頭凹状ナーリングを付与した一対の樽型圧延ロールを組み込んで素材を圧延することを特徴とする継目無鋼管の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、ナーリングに起因する欠落疵の発生を軽減できるから、肌荒れが悪化することを抑制できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下に、初期ナーリング深さが深いと、ナーリングに起因する欠落疵が発生しやすいことを知見した実験について、図により説明する。
図1(a)は、ゾーン1にピッチpを10.0±0.5mmとした球頭凹状ナーリングを付与した樽型圧延ロール1の側面図、図1(b)はその球頭凹状ナーリングの形状を示す要部断面図である。球頭凹状ナーリングは、半径r=8±0.25mmの球頭ポンチで付与した。なおゾーン1に付与した球頭凹状ナーリングのピッチpは、胴長方向および周方向のナーリングの中心点間距離で定義した。
【0011】
ここで、初期ナーリング深さd0は、4水準(目標深さ:0.25、0.30、0.33、0.38mm)とした。
(実験方法)
(1)実験対象の樽型圧延ロール1を傾斜型圧延機に組み込む前に、図1(b)に示す初期ナーリング深さd0、および初期ナーリング直径aをそれぞれ実測した。
【0012】
(2)次いで、実験対象の樽型圧延ロール1と、それに対応する樽型圧延ロールを組み合わせて一対とし、それを傾斜型圧延機に組み込んで、素材を圧延した。
素材の圧延量:素材長さで7km
鋼種:Cr含有量が13%以上の高合金鋼
(3)実験対象の樽型圧延ロール1を傾斜型圧延機から取りだし、ゾーン1に付与した4水準の初期ナーリング深さd0のものの使用後のナーリング長辺長さbを測定した。
【0013】
(4)そして、実測した初期ナーリング直径aと、実測したナーリング長辺長さbとから欠落疵長さx(=b−a)を求め、欠落疵の発生を評価した。ここで、欠落疵長さxが3.0mm(許容限)以上となる場合、欠落疵が発生したと評価した。このようにして得た初期ナーリング深さd0と、欠落疵長さxとの関係を図2(a)に示した。また、図2(b)に使用後のナーリング長辺長さbの測定法を示した。
【0014】
(実験結果)
この実験結果から、初期ナーリング深さd0は、欠落疵長さxに影響を及ぼし、初期ナーリング深さd0が深いほど欠落疵長さxが長くなることがわかった。
また、所定量の圧延を行ったとき、欠落疵長さxが許容限の3.0mm以上となるのは、初期ナーリング深さが0.30mmを超える場合である。このことから、ゴージ部周辺に付与する球頭凹部ナーリングの初期ナーリング深さd0を0.30mm以下とすることで、欠落疵の発生を軽減できることが判明した。
【0015】
さらに、高合金鋼素材の圧延中、全くグリップ力不足による問題がなかったことから、初期ナーリング深さd0は0.20mm以上あれば十分とした。
【実施例】
【0016】
Cr含有量が3%以上の高合金鋼の継目無鋼管の製造を、傾斜型圧延ロールを用いて行った。
(一対の樽型圧延ロールの寸法)
樽型圧延ロールの胴長:780mm、最大径=1160mm。
(各ゾーンの長さ)
入端端からゾーン1までの長さ:280mm、ゾーン1の長さ:90mm、ゴージ長=40mm、ゾーン2の長さ=50mm。
【0017】
(ゾーン1に付与した球頭凹状ナーリング)
球頭ポンチの半径:r=8±0.25mm、ピッチp=10.0±0.5mm、初期ナーリング深さ:目標深さで0.25mm。
(ゾーン2に付与した球頭凹状ナーリング)
球頭ポンチの半径:r=8±0.25mm、ピッチp=10.0±0.5mm、初期ナーリング深さ:目標深さで0.25mm。
【0018】
(入端端からゾーン1までの間に付与したナーリング)
平たがね使用:初期ナーリング深さ:0.30mm。
その結果、本発明例では、一対の樽型圧延ロールで高合金Cr鋼の圧延処理量を本発明適用前の1.3倍とすることが出来た。なお本発明適用前のゾーン1に付与した球頭凹状ナーリングの初期ナーリング深さの目標値は0.35mmであり、本発明例よりも初期ナーリング深さが深い。このため、早期に肌荒れが悪化することにより、一対の樽型圧延ロールの圧延処理量は本発明例に達していなかった。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】(a)は球頭凹状ナーリングを付与した樽型圧延ロール1の側面図、図1(b)はその球頭凹状ナーリングの形状を示す要部断面図である。
【図2】(a)は初期ナーリング深さと欠落疵長さの関係を示す特性図、(b)は使用後のナーリング長辺長さの測定法を示す説明図である。
【図3】(a)は傾斜型圧延機による穿孔状態を示す要部断面図、(b)はそのX−X断面図である。
【符号の説明】
【0020】
0 初期ナーリング深さ
a 初期ナーリング直径
b 使用後のナーリング長辺長さ
p ピッチ
x 欠落疵長さ
r 球頭ポンチの半径
W 素管
1 樽型圧延ロール
1A ゴージ部
2 穿孔プラグ
3 ガイドシュー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
素材を穿孔する際の傾斜型圧延機に用いる樽型圧延ロールであって、
球頭ポンチでゴージ部周辺に初期ナーリング深さを0.20〜0.30mm、ピッチを10.0±0.5mmとした球頭凹状ナーリングを付与したことを特徴とする樽型圧延ロール。
【請求項2】
継目無鋼管を製造する方法において、素材を穿孔する際に、傾斜型圧延機に、請求項1に記載の球頭凹状ナーリングを付与した一対の樽型圧延ロールを組み込んで素材を圧延することを特徴とする継目無鋼管の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−137026(P2008−137026A)
【公開日】平成20年6月19日(2008.6.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−324161(P2006−324161)
【出願日】平成18年11月30日(2006.11.30)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】