説明

傾斜構造物の修復方法

【課題】薬液注入のインターバルを長めに設定しても薬液注入管の先端部内が閉塞されるという問題がなく、また、ゲルタイムが短くて初期強度の高い薬液を使用できる傾斜構造物の修復方法を提供する。
【解決手段】注入管1の先端の側面に設けた第1の噴射ノズル8から第1の薬液を、前記第1の噴射ノズル8の周囲に設けた第2の噴射ノズル9から第2の薬液をそれぞれ噴出して両薬液を注入管1の先端部の外部で混合し瞬結硬化させることにより、基礎下部の地盤に1次注入し、更に、1次注入により形成された固結体内に瞬結性の薬液を2次注入することにより基礎下部の地盤を膨張させて構造物を水平に修復する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地盤沈下や地震による不同沈下により傾斜した構造物を薬液注入工法により水平に修復させる傾斜構造物の修復方法に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の傾斜構造物の修復方法として、例えば、目的構造物の基礎下部の地盤に先端吐出部が位置するように所要の間隔で複数の注入管を設置し、これら注入管によって瞬結性の薬液を所要のインターバルで各薬液注入箇所に順次切り替えて圧入し、各薬液注入箇所において先に注入され強化された地盤及び薬液のホモゲル部に割裂状態で繰り返し前記薬液を圧入することにより、当該部分で反力を次第に増大させる薬液注入操作によって前記基礎部とともに構造物を持ち上げ、正常状態に復元させるという工法がある(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第3126896号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記工法では、図7に示すような構造の薬液注入管20に二種類の瞬結性薬液(A液とB液)を送液し、薬液注入管20の先端混合部21内で混合し地盤中に圧力注入するといったロッド注入工法を採用している(特許文献1の公報第3頁右欄第49〜50行の記載参照)。これによれば、薬液は注入管20の先端からのみ一方向に地盤中に注入するので、注入部分での反力を次第に増大させる利点はあるものの、なお、次の点で改良の余地がある。
すなわち、或る薬液注入箇所から次の薬液注入箇所へ切り替えて元の薬液注入箇所に戻し替えるのに、長めのインターバルを設定することができなかった。その理由は、薬液注入管20の先端混合部21内にゲル化した薬液が残留するので、初期強度が高くなると先端混合部21内が閉塞されてしまう。特に、ゲルタイムが短くて初期強度の高い薬液は、所要のインターバルの間に先端混合部21内のゲル化した硬化性薬液が閉塞状態を惹き起こすので使用できない。初期強度がそれほど高くない薬液であっても、先端混合部21内のゲル化した薬液を管外へ吐出するには高い圧力を要することになり、注入圧の急上昇を起こし、注入圧力が管理ができなくなる。この場合直ちに注入を中止する必要があり、施工時間の延長を来たすという問題がある。
また、上記ロッド注入工法による薬液注入には、地盤に薬液を圧入すると注入圧破壊が起こりその割れ目沿いに圧送されるという割裂注入(脈状注入)を採用しているので、割れ目沿いに圧送される注入薬液が対象地盤外へ逸出し、傾斜構造物の修復完了までに要する注入量が多くなり、それだけコスト高になるという問題もあった。
他方、構造物の基礎下部の地盤を少ない薬液注入量で早く修復するには、ゲルタイムが短くて初期強度の高い薬液が最善である。
【0005】
本発明は、かかる問題を解決するためになされたものであり、その目的とするところは、薬液注入のインターバルを長めに設定しても薬液注入管の先端部内が閉塞されるような問題がなく、また、ゲルタイムが短くて初期強度の高い薬液を使用できる傾斜構造物の修復方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の傾斜構造物の修復方法は、請求項1に記載のように、先端部に第1の噴射ノズルとこの第1の噴射ノズルの周囲に設けた第2の噴射ノズルを有するモニター機構を取り付け、上部に第1の薬液入口と第2の薬液入口を有するスイベルを組み付けた注入管を用意し、傾斜した構造物の基礎下部の地盤に前記第1及び第2の噴射ノズルが臨むように前記注入管を設置して、前記第1の薬液入口から第1の薬液を注入するとともに、第2の薬液入口から第2の薬液を注入して、前記第1の噴射ノズルから第1の薬液を、前記第2の噴射ノズルから第2の薬液をそれぞれ管半径方向外方へ向けて噴出して両薬液を前記モニター機構の外部で混合させて瞬結硬化させることにより、前記基礎下部の地盤に1次注入して固結体を形成し、更に、1次注入により形成された固結体内に瞬結性の薬液を2次注入することにより前記基礎下部の地盤を膨張させて前記構造物を水平に修復することを特徴とするものである。
【0007】
このような構成によると、構造物の基礎下部の地盤に第1及び第2の薬液を1次注入することにより、地盤を構成する土壌の微細な空隙部は、この1次注入された瞬結性の薬液によって荒埋めされ、更に瞬結性の薬液を2次注入することで全体として圧密化して前記地盤を膨張させ傾斜構造物を持ち上げて水平に修復することができる。すなわち、瞬結性の1次注入薬液は、注入対象地盤内の間隙を充満し、この充填された改良領域を隆起の反力壁として2次注入により当該箇所を圧密化し、地盤を持ち上げて構造物に対する大きな上昇力を得ることができるので、不同沈下し傾斜した構造物を簡単迅速に水平に修復できる。しかも、第1及び第2の薬液はモニター機構の外部で混合させて硬化させるので、前述した従来のロッド注入工法のように薬液注入管の先端部内部が閉塞されるという問題がなく、注入圧の急上昇は少なく、またゲルタイムが短くて初期強度の高い薬液を使用でき、さらに、必要に応じて、インターバルを長めに設定することもできる。
第1及び第2の薬液の2次注入は1次注入された固結体内という限定された範囲内でスポット的に行われるので、割裂注入(脈状注入)のように割裂した割れ目を通って注入薬液が広範囲に逸出するというような問題はなく、したがって硬化性薬液の注入量が少なくて済み、そのうえ対象地盤の限られた範囲を確実に強化しつつ持ち上げることができる。
なお、1次注入に使用する薬液と2次注入に使用する薬液は、同じものを使用しても良いが、異なる薬液を使用しても良い。
【0008】
請求項1に記載の傾斜構造物の修復方法は、請求項2に記載のように、2次注入は、1次注入により形成された固結体の深さ内で注入管の挿入深さを順次変えて行うという構成を採用することができる。これによると、2次注入薬液を1次注入により形成された固結体内に全体に満遍なく注入でき、2次注入による均質な固結体をより確実に形成することができる。
なお、2次注入を行う深さ位置は、1次注入により形成された固結体の深さ範囲内で注入管の挿入深さを順次浅くなるように変えていっても良いし、1次注入を行った位置よりも順次深い位置に変えて行っても良い。また、1次注入を行った位置よりも深い位置と浅い位置(又は浅い位置と深い位置)とを交互に変えても良い。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、ゲルタイムが短くて初期強度の高い硬化性薬液を使用できて傾斜構造物の基礎下部の地盤を少ない薬液注入量でスポット的にかつ素早く修復できる点で有利である。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】不同沈下により傾斜した構造物とこの構造物の基礎下部に対する注入管の設置箇所を模式的に表す断面図である。
【図2】図1の構造物の基礎下部に対する注入管の設置箇所を模式的に表す平面図である。
【図3】本発明の傾斜構造物の修復方法により構造物を水平に修復した状態を模式的に表す断面図である。
【図4】本発明の傾斜構造物の修復方法に使用する注入管のモニター機構部分の断面図である。
【図5】本発明の傾斜構造物の修復方法に使用する注入管のスイベルの断面図である。
【図6】硬化性薬液の地盤内への注入状況を模式的に表す図であって、(a)は構造物の基礎下部に注入管を設置した状態、(b)は薬液を1次注入している状態、(c)は注入管を少し引き上げて薬液を2次注入している状態、(d)は2次注入を繰り返して修復作業が完了した状態をそれぞれ表す。
【図7】従来の傾斜構造物の修復方法に使用される注入管のモニター機構部分の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明に係る傾斜構造物の修復方法の一実施例について、図面を参照しつつ説明する。
【0012】
まず、図4、図5に示すような注入管1を用意する。注入管1は二重管(または三重管)からなり、その上部には図5に示すような第1の薬液入口2および第2の薬液入口3を有するスイベル4が組み付けられ、その先端部には、図4に示すようなモニター機構5が取り付けられる。スイベル4には後述するように図外の高圧ポンプが配管される。
【0013】
図4に示すように、モニター機構5は、第1薬液通路6および第2薬液通路7を有する二重管構造であり、その第1薬液通路6の上端部はスイベル4の第1の薬液入口2と、第2薬液通路7の上端部はスイベル4の第2の薬液入口3とそれぞれ連通状態にあり、第1薬液通路6の下端部には第1の噴射ノズル8が、第2薬液通路7の下端部には第2の噴射ノズル9がそれぞれ設けられる。第1の噴射ノズル8はモニター機構5の側面に一個もしくは2個以上、管径方向外向きに第1薬液通路6からの第1薬液(A液)を噴出するように開口され、第2の噴射ノズル9は各第1の噴射ノズル8の周囲に設けられて第1の噴射ノズル8の周囲から管径方向外向きに第2薬液通路7からの第2薬液(B液)を噴出するようになしている。なお、第1の噴射ノズル8と第2の噴射ノズル9は、図示例のようにモニター機構5の側面に同心円状に設ける代わりに、モニター機構5の側面に上下に並べて個別に設けるものであってもよい。
【0014】
しかして、図1に示すように傾いた家屋等の構造物10を上記注入管1を用いて修復するに当たっては、まず、構造物10の基礎11の下部に第1及び第2の噴射ノズル8,9が臨むように注入管1を設置する。この場合、対象となる構造物10の状況、構造物10の支持される地盤12や基礎11の構築状態、構造物10および基礎11の推定重量、基礎11の剛性などを勘案して注入管1の設置箇所、設置本数並びに配置間隔を設定する。
【0015】
図2は、図1の傾いた家屋等の構造物10の平面図で、その構造物10の全体に対する注入管1の設置箇所の一例を示す。図2では、複数本の注入管1が、所要の間隔で構造物10の基礎11にあけた孔に貫通させて基礎11下部の地盤12に対して挿入される。この場合、その注入管1の第1及び第2の噴射ノズル8,9が基礎11の下部の地盤12内に突出するように挿入される。
【0016】
図2において、(1)〜(13)は注入管1の設置箇所を示す。注入管1を所要間隔で複数箇所に設置すれば、これら各注入管1に図外の高圧ポンプからそれぞれ第1の薬液(A液)と第2の薬液(B液)の供給管(図示せず)が配管される。
【0017】
ここで取扱われるゲルタイムが短くて初期強度の高い注入薬液としては、例えば、株式会社菱晃製の商品名「エヌタイトGSP-100」や、三洋化成工業株式会社製の商品名「サンソルトJET」等を使用することができる。また、それ以外の水ガラス系等の瞬結性薬液を用いることもできる。
なお、本実施例では、1次注入に用いる薬液と2次注入に用いる薬液とに同じ薬液を使用する場合について説明するが、必ずしも両者が同じである必要はない。
【0018】
薬液注入に際しては、まず基礎11の上面からこの基礎11の下部の地盤12に向かって先に掘削された孔に注入管1を所要深さまで挿入して設置する。通常、基礎11の底面より0.3m〜1.0m位の突出長(進入深さ)となるように注入管1を設置する。注入管1が設置されると、この注入管1の第1及び第2の薬液入口2,3に前述の瞬結性の第1及び第2の薬液(A液,B液)を予め接続された図外の供給管を通じて圧送し、当該注入管1のモニター機構5の外側で両薬液を混合させて基礎11の下部の地盤12に圧力注入する。この注入時には注入管1は前記所要深さ位置で管軸回りに回転させる。
【0019】
図2に示す実施例では、構造物10及び基礎11の沈下量の大きい箇所から複数個所を同時に圧力注入して行って構造物10及び基礎11を次第に上昇させるように調整する。この場合、縦列で3箇所(1)〜(3)、2箇所(4)、(5)、3箇所(6)〜(8)、2箇所(9)、(10)、3箇所(11)〜(13)といった順に注入施工する。
【0020】
このようにして瞬結性の薬液が1次注入されると、図6(b)で示されるように、注入される瞬結性の薬液(A液,B液)はゲル化するまでの範囲でモニター機構5の周囲の土壌の微細な間隙を充填して該土壌を荒埋めする。この際、硬化性薬液(A液,B液)は注入管1のモニター機構5の第1及び第2の噴射ノズル8,9から管半径方向外方へ向けて水平方向に噴出され、そのゲルタイムが短いので(例えば、約3秒)、噴出すると瞬時に凝結が始まる。このようにして、基礎11下部の対象地盤12には各注入箇所ごとに薬液と土壌とが凝結されて、固結体13が形成されることとなる。
【0021】
さらに、1次注入した各注入箇所における固結体13内に各注入管1から前記第1及び第2の薬液(A液,B液)を2次注入する。
本実施例では、2次注入は、1次注入により形成された固結体13の深さH内で注入管1の挿入深さを順次浅く変えていって行う。具体的には、1次注入した深さ位置から10〜20cm引き上げた深さ位置で、前記1次注入に使用した2液混合型の薬液を2次注入する。
但し、2次注入は、1次注入により形成された固結体13内の一定深さの所で行っても良いし、1次注入を行った位置よりも順次深い位置に変えたり、1次注入を行った位置よりも深い位置と浅い位置(又は浅い位置と深い位置)とを交互に変えたりしても良い。地盤状況や沈下状況に応じて最適な条件を選択することができる。
また、前述のとおり、2次注入に使用する薬液は、1次注入に使用したものと異なる薬液を用いても良い。
【0022】
2次注入により、注入管1の第1及び第2の噴射ノズル8,9から、該噴射ノズル8,9と固結体13との間に第1及び第2の薬液(A液,B液)が充填圧入される。その際、すでに1次注入により空隙部が充填された改良領域が隆起の反力壁となるので、図6(c)に示すごとき圧密化した固結体14が形成され、これにより地盤12を膨張させて、その地盤12が隆起する高さに応じて、傾斜した構造物10及び基礎11が押し上げられて水平に修復されることになる(図3参照)。なお、構造物10の床面の水準を計測するなどして、正常な水平状態に復帰するまで前記硬化性薬液(A液,B液)の2次注入作業が行われる。
1次注入時及び2次注入時の圧力(ポンプの吐出圧)及び注入量としては、1次注入時の圧力及び注入量がそれぞれ0.1〜3.0MPa及び8〜20L/分、2次注入時の圧力及び注入量がそれぞれ0.5〜5.0MPa及び3〜15L/分を例示できる。また、注入時間は、地盤等の条件にもよるが、1次注入の注入時間が10分以内、2次注入の注入時間が5分以内を例示することができる。但し、これらに限られるものではない。
【0023】
必要に応じて、仕上げをする場合には微調整修復を行うが、この微調整の圧力注入は注入管1の設置された1箇所毎に圧力注入される。
修復が終了すると、各注入管1を引き抜いて穴埋めを行う。
【0024】
上述のように施工することによって、図3で示されるように、傾斜状態から水平に修復された構造物10の基礎11が支えられる地盤12は、硬化性薬液注入による地盤12の隆起により注入箇所ごとに安定支持されることになる。
【符号の説明】
【0025】
1 注入管
2 第1の薬液入口
3 第2の薬液入口
4 スイベル
5 モニター機構
8 第1の噴射ノズル
9 第2の噴射ノズル
10 構造物
11 基礎
12 地盤
13 1次注入により形成された固結体
14 2次注入により形成された固結体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
先端部に第1の噴射ノズルとこの第1の噴射ノズルの周囲に設けた第2の噴射ノズルを有するモニター機構を取り付け、上部に第1の薬液入口と第2の薬液入口を有するスイベルを組み付けた注入管を用意し、傾斜した構造物の基礎下部の地盤に前記第1及び第2の噴射ノズルが臨むように前記注入管を設置して、前記第1の薬液入口から第1の薬液を注入するとともに、第2の薬液入口から第2の薬液を注入して、前記第1の噴射ノズルから第1の薬液を、前記第2の噴射ノズルから第2の薬液をそれぞれ管半径方向外方へ向けて噴出して両薬液を前記モニター機構の外部で混合させて瞬結硬化させることにより、前記基礎下部の地盤に1次注入して固結体を形成し、更に、1次注入により形成された固結体内に瞬結性の薬液を2次注入することにより前記基礎下部の地盤を膨張させて前記構造物を水平に修復することを特徴とする、傾斜構造物の修復方法。
【請求項2】
2次注入は、1次注入により形成された固結体の深さ内で注入管の挿入深さを順次変えて行う、請求項1に記載の傾斜構造物の修復方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−127294(P2011−127294A)
【公開日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−284715(P2009−284715)
【出願日】平成21年12月16日(2009.12.16)
【出願人】(591141429)
【Fターム(参考)】