説明

傾斜機能合金素子及びそれを用いたガイドワイヤ

【課題】 本体部の耐キンク性及び高剛性と先端部の柔軟性とを併せ持つ傾斜機能合金素子を用いたガイドワイヤを提供すること。
【解決手段】 Cu−Al−Mn系合金をコア材として使用することにより少なくとも内層部における表面を部分的に外層部で覆うように形成されて長さ方向に傾斜機能を持つと共に、クラッド加工や500℃以上の雰囲気熱処理を適用することにより内層部と外層部とにおける主成分の組成が異なるようにした傾斜機能合金素子を用い、本体部(内層部及び外層部)を被覆部で覆ってガイドワイヤを作製する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主としてCu−Al−Mn系合金から成る長さ方向に傾斜機能を持った傾斜機能合金素子、及びカテーテルを案内可能にするための傾斜機能合金素子を用いて成るカテーテル用ガイドワイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、Cu,Al,Mnを主成分とする所謂Cu−Al−Mn系合金については、その他のCu−Zn系合金,Cu−Zn−Al系合金等のCu基合金に比べて加工性や形状記憶特性に優れることが知られている(特許文献1参照)。
【0003】
この特許文献1は、精密加工製品,薄・極細線等に使用可能な高加工性を有するCu合金から成る銅系形状記憶合金とその製造方法とを提供することを目的とするもので、その銅系形状記憶合金は、Mnを5〜20質量%、Alを3〜10質量%を含み、残部Cuと不可避不純物とから成る銅合金を溶解鋳造した後、所定の形状に成型し、500℃以上の温度でβ単相としてから急冷した後に0〜200℃で規則化処理して得られるものである。
【0004】
又、同様な銅系形状記憶合金を対象として、時効条件によって形状記憶性,超弾性,強度等の機能を任意に傾斜させることができる傾斜機能合金(素子)も提案されている(特許文献2参照)。
【0005】
ところで、カテーテルを案内可能にするためのカテーテル用ガイドワイヤとして、従来ではステンレス線やピアノ線から成るコイル状のものか、或いはモノフィラメントがコア材として使用されているが、最近では形状記憶合金の超弾性機能を利用したTi−Ni超弾性合金のモノフィラメントをコア材として使用した製品も商品化されている。
【0006】
一般に、これらの形状記憶合金材料には一長一短があり、用途によって使い分けが必要である。ガイドワイヤに求められる機能は、血管挿入のための突出性や挿入を要しての血管選択のための捻じり追随性(トルク性)、血管壁破損防止のための先端部の柔軟性並びに自己復元性が挙げられる。ステンレス線やピアノ線の場合にはヤング率を高くできるために突出性には優れるものの、永久変形が起き易いためにトルク性や自己復元性に乏しいという難点がある。又、Ti−Ni超弾性合金の場合はその反対の特徴を特つ。即ち、PTCA用や脳用等のマイクロカテーテル用ガイドワイヤにはステンレス線やピアノ線の製品が使用され、診断用等の汎用的なカテーテル用ガイドワイヤにはTi−Ni超弾性合金による製品が使用されている。特許文献2に開示された傾斜機能合金(素子)の場合、これらの欠点を克服するためにコア材を熱処理条件や加工条件によりその剛性機能を傾斜化できる(ベイナイトプレートの生成・抑制を任意にできる)ため、先端側の柔軟性と本体部の剛性とを保持したガイドワイヤを作製できるようになっている。
【0007】
【特許文献1】特開平7−62472号公報(要約)
【特許文献2】特許第3344946号公報(第3頁乃至第6頁)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献2の傾斜機能合金(素子)の場合、上述したように先端側の柔軟性を確保できると共に、本体部の剛性を向上できるようになっているが、先端部に柔軟性を持たせただけではその長さと共に室温での時効を受け易くなり、本体部の剛性を向上させても折れ易さを招き易いという問題があるため、現状では本体部の耐キンク性及び高剛性と先端部の柔軟性とを併せ持つようなカテーテル用ガイドワイヤ向けの適用性の高い傾斜機能合金が得られていないという課題を残している。
【0009】
本発明は、このような問題点を解決すべくなされたもので、その技術的課題は、本体部の耐キンク性及び高剛性と先端部の柔軟性とを併せ持つ傾斜機能合金素子及びそれを用いたガイドワイヤを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明によれば、Cu,Al,及びMnを主成分とする第1の合金を含む内層部と、Cu,Al,及びMnを主成分として第1の合金とは組成の異なる第2の合金を含む外層部とを有すると共に、該外層部が該内層部表面の一部を覆って成る傾斜機能合金素子が得られる。この傾斜機能合金素子において、内層部及び外層部は、何れもβ(bcc)単相組織を有するものであって、該外層部に含有されるAlが該内層部に含有される該Alに比べて低濃度であると共に、時効処理により該内層部に比べて該外層部が硬くされたことは好ましく、更に、硬質な外層部の外周先端部分をテーパ加工で除去することにより先端部に超弾性特性が持たされたことは好ましい。
【0011】
又、本発明によれば、上記傾斜機能合金素子において、内層部及び外層部は、何れもβ単相組織(bcc)を有するものであって、該外層部に含有されるAlが該内層部に含有される該Alに比べて高濃度であると共に、時効処理により該外層部に比べて該内層部が硬くされた傾斜機能合金素子が得られる。この傾斜機能合金素子において、先端部分を部分的に形状記憶用に熱処理することにより先端部に超弾性特性が持たされたことは好ましい。
【0012】
更に、本発明によれば、上記傾斜機能合金素子において、内層部はβ単相組織(bcc)であり、且つ外層部はβ+aの2相組織(fcc)を有するものであって、該外層部に含有されるAlが該内層部に含有される該Alに比べて低濃度であると共に、時効処理により該外層部に比べて該内層部が硬くされた傾斜機能合金素子が得られる。この傾斜機能合金素子において、先端部分を部分的に形状記憶用に熱処理することにより内層部に超弾性特性が持たされ、更に、内層部の先端部は、非超弾性の外周先端部分をテーパ加工で除去することで露呈されて超弾性特性が持たされたことは好ましい。
【0013】
加えて、本発明によれば、上記傾斜機能合金素子において、内層部はβ単相組織(bcc)であり、且つ外層部はβ+aの2相組織(fcc)を有するものであって、該外層部に含有されるAlが該内層部に含有される該Alに比べて低濃度であると共に、温度傾斜を有する炉で時効処理することにより該外層部に比べて該内層部が硬くされ、且つ該内層部の先端部に超弾性特性が持たされ、更に、内層部の先端部は、非超弾性の外周先端部分をテーパ加工で除去することで露呈されて超弾性特性が持たされた傾斜機能合金素子が得られる。
【0014】
一方、本発明によれば、上記何れか一つの傾斜機能合金素子において、添加元素として、Co,Fe,Ti,V,Cr,Ni,Si,Nb,Mo,W,Sn,Sb,Mg,P,Be,Zr,Zn,B,C,Ag,及びミッシュメタルから成る群から選択した1種以上の元素を総量で0.01〜10.0(質量%)含有した傾斜機能合金素子が得られる。
【0015】
又、本発明によれば、上記何れか一つの傾斜機能合金素子において、内層部と外層部とは、クラッド加工により主成分の組成が異なるように変化させたものである傾斜機能合金素子が得られる。
【0016】
更に、本発明によれば、上記何れか一つの傾斜機能合金素子において、内層部と外層部とは、500℃以上の雰囲気熱処理により主成分の組成が異なるように変化させたものである傾斜機能合金素子が得られる。
【0017】
加えて、本発明によれば、上記何れか一つの傾斜機能合金素子を用いて成るガイドワイヤであって、内層部及び外層部が中空管又はコーティング皮膜から成る被覆部で覆われて成るガイドワイヤが得られる。
【発明の効果】
【0018】
本発明の傾斜機能合金素子の場合、Cu−Al−Mn系合金をコア材として内層部における表面を部分的に外層部で覆うように形成された長さ方向に傾斜機能を持つ本体部の内層部と外層部とにおける主成分の組成がクラッド加工や500℃以上の雰囲気熱処理を適用することで異なるようにすることを基本とした上、内層部及び外層部が何れもβ単相組織を有し、しかも外層部に含有されるAlが内層部に含有されるAlに比べて低濃度であると共に、時効処理により内層部に比べて外層部が硬くされた場合、或いは外層部に含有されるAlが内層部に含有されるAlに比べて高濃度であると共に、時効処理により外層部に比べて内層部が硬くされた場合において、それぞれ硬質な外周先端部分をテーパ加工で除去することにより先端部に超弾性特性が持たされようにするか、或いは先端部分を部分的に形状記憶用に熱処理することにより内層部に超弾性特性が持たされる(更に非超弾性の外周先端部分をテーパ加工で除去することにより内層部における先端部に超弾性特性が持たされる)ようにする他、内層部がβ単相組織であり、且つ外層部がβ+aの2相組織を有するものであって、外層部に含有されるAlが内層部に含有されるAlに比べて低濃度であると共に、時効処理により外層部に比べて内層部が硬くされた場合、先端部分を部分的に形状記憶用に熱処理することにより内層部に超弾性特性が持たされ、更に非超弾性の外周先端部分をテーパ加工で除去することで内層部における先端部を露呈させて超弾性特性を持たせるようにするか、或いは温度傾斜を有する炉で時効処理されて内層部の先端部に超弾性特性が持たされたときには、更に非超弾性の外周先端部分をテーパ加工で除去することで内層部における先端部を露呈させて超弾性特性を持たせるようにしているため、何れの場合にも従来に無く本体部の耐キンク性及び高剛性と先端部の柔軟性とを併せ持つ傾斜機能合金素子が得られるようになり、この傾斜機能合金素子の本体部(内層部及び外層部)を被覆部で覆うことにより品質良いカテーテル用ガイドワイヤへの適用が好適となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明の最良の形態に係る傾斜機能合金素子は、Cu,Al,及びMnを主成分とする第1の合金を含む内層部と、Cu,Al,及びMnを主成分として第1の合金とは組成の異なる第2の合金を含む外層部とを有すると共に、外層部が内層部表面の一部を覆って成るものである。
【0020】
このように内層部と外層部とに主成分の組成差を設け、時効処理で剛性を変化させることにより、内層部をソフトにし、且つ外層部をハードにしたり、或いは内層部をハードにし、且つ外層部をソフトとした本体部(コア材)を得ることができる。又、本体部の硬質な外周先端部分をテーパ加工によって除去するか、或いは必要に応じて先端部分を部分的に形状記憶用に熱処理して先端部に超弾性特性を持たせた後、テーパ加工により非超弾性の外周先端部分を除去することで内層部における先端部を露呈させて超弾性化すれば、本体部の耐キンク性及び高剛性と先端部の柔軟性とを併せ持つ傾斜機能合金素子が得られ、更にこの傾斜機能合金素子の本体部(内層部及び外層部)を被覆部で覆うことにより品質良いカテーテル用ガイドワイヤを得ることができる。
【0021】
内層部と外層部との硬さが異なる本体部(コア材)は、主としてAl濃度及び結晶組織を変えることによって得られる。即ち、実質的にβ単相組織(bcc)を有する部材の場合、同一条件の時効処理ではAlが低濃度である程、硬度上昇に必要なベイナイトプレート生成が加速されるため、外層部をハード,内層部をソフトとするとき、外層部のAl濃度を内層部に比べて低くし、両方共に時効処理前が実質的にβ単相組織であることが望ましい。反対に外層部をソフト,内層部をハードとするとき、外層部のAl濃度を内層部に比べて高くすれば良い。更に、Al濃度の低いCu−Al−Mn合金は、β+aの2相組織(fcc)とすることが可能であり、この場合の部材は優れた延性を有し、時効処理による影響を殆ど受けない。それ故、外層部をソフトとし、且つ内層部をハードとした本体部(コア材)は、外層部のAl濃度を内層部に比べて低くし、且つ結晶組織を外層部ではβ+αの2相組織、内層部ではβ単相組織として得られるもので、その後に時効処理することによっても得ることが可能である。
【0022】
[合金組成及び熱処理条件]
本発明のガイドワイヤの作製に要する傾斜機能合金素子の本体部(コア材)は、3〜10質量%のAl、5〜20質量%のMnを含むと共に、残部Cu及び不可避不純物から成り、内層部及び外層部の機械的性質を変化させるために、場合に応じて内層部と外層部との主成分組成に差を設け、内層部と外層部とにおける硬さを変化させることができるものである。
【0023】
主成分組成の異なる内層部及び外層部をクラッド加工し、その後にクラッド材を熱処理することにより内層部及び外層部の硬さが異なった本体部(コア材)にあっての内層部及び外層部のそれぞれにおける主成分の組成及びその熱処理条件は、以下に示すように分類することができる。
【0024】
(1)時効処理前の組織が内層部及び外層部の何れもβ単相組織であり、時効処理により内層部がソフト、外層部がハードとなる本体部(コア材)を構成する場合。
【0025】
この場合、内層部の成分組成は6〜10質量%のAl、5〜20質量%のMnを含むと共に、残部Cu及び不可避不純物から成る組成範囲を選択し、外層部の成分組成は、4〜8質量%のAl、5〜20質量%のMnを含むと共に、残部Cu及び不可避不純物から成る組成範囲を選択し、外層部のAl組成が内層部のそれよりも低濃度となるようにする。
【0026】
ここで、内層部におけるAlを6〜10質量%の範囲とする理由は、6質量%未満では、時効処理後において外層部に比べて充分に低い硬さを持たせることができず、10質量%を超えると結晶構造の規則性が高くなってしまうために加工ができなくなってしまうためである。従って、こうした点を鑑みると、内層部のAlは特に7〜9質量%の範囲とすることが望ましい。
【0027】
内層部におけるMnを5〜20質量%の範囲とする理由は、5質量%未満では、β単相組織を実質的に得ることができず、20質量%を超えると時効処理後において外層部に比べて充分に低い硬さを持たせることができないためである。これは20質量%を超えるとマルテンサイト変態温度が急激に低下するために超弾性特性が得られなくなることによる。従って、こうした点を鑑みると、内層部のMnは特に8〜15質量%の範囲とすることが望ましい。
【0028】
これに対し、外層部におけるAlを4〜8質量%の範囲とする理由は、4質量%未満では、β単相組織を実質的に得ることができず、8質量%を超えると時効処理後において内層部に比べて充分に硬さを上昇させることができないためである。従って、こうした点を鑑みると、外層部のAlは特に6〜8質量%の範囲とすることが望ましい。
【0029】
外層部におけるMnを5〜20質量%の範囲とする理由は、5質量%未満では、β単相組織を実質的に得ることができず、20質量%を超えると時効処理後において内層部に比べて充分に硬さを上昇させることができないためである。従って、こうした点を鑑みると、外層部のMnは特に8〜15質量%の範囲とすることが望ましい。
【0030】
上述した組成範囲の成分を有する外層部及び内層部を持った本体部(コア材)の熱処理条件は、以下のように記述される。
【0031】
(1)−(a)β単相化処理
上述した本体部(コア材)のβ単相化処理は、700〜950℃の温度範囲で0.1〜30分保持することが望ましい。700℃以下では、内層部及び外層部共にβ単相化することができず、950℃以上では溶けてしまう恐れがある。又、この温度範囲での保持時間は、0.1分以上であれば良いが、上限は酸化の影響を考慮して20分未満とすることが一層好ましい。
【0032】
(1)−(b)焼き入れ
β単相組織を高温から室温に凍結するため、β単相化処理の後、室温まで200℃/s以上の冷却速度で本体部(コア材)を冷却することが望ましい。冷却方法は、水等の媒体に投入するか、或いはミスト冷却や強制空冷等により行うことができる。冷却速度が小さ過ぎると、a相が多量析出してしまい、β単相組織を実質的に維持できない。それ故、より好ましい冷却速度は、230〜10000℃/sの範囲である。
【0033】
(1)−(c)時効処理
本体部(コア材)における内層部及び外層部の硬さを変化させるために焼入れ後に100℃〜350℃の温度範囲で1〜600分の時間範囲で時効処理を行う。時効処理温度が100℃以下であると、外層部に充分な硬さの上昇が起こらず、350℃を超えると、外層部及び内層部共に硬さの急激な上昇が生じ、内層部の超弾性特性が失われると各部が脆くなってしまう。より好ましくは、時効処理を150℃〜250℃の温度範囲で行うことである。時効処理時間が1分未満では、外層部に充分な硬さの上昇が得られず、又600分を超えると、外層部及び内層部共に硬さの上昇が顕著に生じてしまって各部が脆くなってしまう。より好ましくは、時効処理時間を5〜500分の時間範囲とすることである。更に、本体部(コア材)の外周先端部分をテーパ加工して硬質部分を除去することにより、先端部が超弾性特性を示すようにすることができる。
【0034】
(2)時効処理前の組織が内層部及び外層部の何れもβ単相組織であり、時効処理により内層部がハード、外層部がソフトとなる本体部(コア材)を構成する場合。
【0035】
この場合、内層部及び外層部の合金組成は、(1)で記述した内層部及び外層部それぞれの成分組成を逆にした場合であり、以下のように記述される。
【0036】
即ち、内層部の成分組成は、Alを4〜8質量%、Mn:5〜20質量%、及び残部Cuと不可避不純物とから成る組成範囲を選択し、外層部の成分組成は、6〜10質量%のAl、5〜20質量%のMnを含むと共に、残部Cu及び不可避不純物から成る組成範囲を選択し、内層部のAl組成が外層部のそれよりも低濃度となるようにする。
【0037】
ここで、内層部におけるAlを4〜8質量%の範囲とする理由は、4質量%未満では、β単相組織を実質的に得ることができず、8質量%を超えると時効処理後において外層部に比べて充分に硬さを上昇させることができないためである。従って、こうした点を鑑みると、内層部のAlは特に6〜8質量%の範囲とすることが望ましい。
【0038】
内層部におけるMnを5〜20質量%の範囲とする理由は、5質量%未満では、β単相組織を実質的に得ることができず、20質量%を超えると時効処理後において外層部に比べて充分に硬さを上昇させることができないためである。従って、こうした点を鑑みると、内層部のMnは特に8〜15質量%の範囲とすることが望ましい。
【0039】
これに対し、外層部におけるAlを6〜10質量%の範囲とする理由は、6質量%未満では時効処理後において内層部に比べて充分に低い硬さを持たせることができず、10質量%を超えると結晶構造の規則性が高くなってしまうために加工ができなくなってしまうためである。従って、こうした点を鑑みると、外層部のAlは特に7〜9質量%の範囲とすることが望ましい。
【0040】
外層部におけるMnを5〜20質量%とする理由は、5質量%未満では、β単相組織を実質的に得ることができず、20質量%を超えると時効処理後において内層部に比べて充分に低い硬さを持たせることができないためである。従って、こうした点を鑑みると、外層部のMnは特に8〜15質量%の範囲とすることが望ましい。
【0041】
上述した組成範囲の成分を有する外層部及び内層部を持った本体部(コア材)の熱処理条件は、以下のように記述される。
【0042】
(2)−(a)β単相化処理
上述した本体部(コア材)のβ単相化処理は、700〜950℃の温度範囲で0.1〜30分保持することが望ましい。700℃以下では、内層部及び外層部共にβ単相化することができず、950℃以上では溶けてしまう恐れがある。又、この温度範囲での保持時間は、0.1分以上であれば良いが、上限は酸化の影響を考慮して20分未満とすることが一層好ましい。
【0043】
(2)−(b)焼き入れ
β単相組織を高温から室温に凍結するため、β単相化処理の後、室温まで200℃/s以上の冷却速度で本体部(コア材)を冷却することが望ましい。冷却方法は、水等の媒体に投入するか、或いはミスト冷却や強制空冷等により行うことができる。冷却速度が小さ過ぎると、α相が多量析出してしまい、β単相組織を実質的に維持できない。それ故、より好ましい冷却速度は、230〜10000℃/sの範囲である。
【0044】
(2)−(c)時効処理
本体部(コア材)における内層部及び外層部の硬さを変化させるために焼入れ後に100℃〜350℃の温度範囲で1〜600分の時間範囲で時効処理を行う。時効処理温度が100℃以下であると、内層部に充分な硬さの上昇が起こらず、350℃を超えると、外層部及び内層部共に硬さの急激な上昇が生じ、外層部の超弾性特性が失われると各部が脆くなってしまう。より好ましくは、時効処理を150℃〜250℃の温度範囲で行うことである。時効処理時間が1分未満では、内層部に充分な硬さの上昇が得られず、又600分を超えると、外層部及び内層部共に硬さの上昇が顕著に生じてしまって各部が脆くなってしまう。より好ましくは、時効処理時間を5〜500分の時間範囲とすることである。更に、本体部(コア材)の先端部分を部分的に(2)−(a)、(2)−(b)に記述した手法で熱処理すれば、先端部を超弾性化することが可能である。この時、内層部及び外層部共に超弾性特性を示す。又、必要に応じて外周先端部分をテーパ加工により除去すれば、先端部に適確に超弾性特性を持たせることができる。
【0045】
(3)時効処理前の組織が内層部はβ単相組織であり、外層部はβ+a(fcc構造)の2相組織を有し、時効処理することにより内層部がハード、外層部がソフトとなる本体部(コア材)を構成する場合。
【0046】
この場合、内層部の成分組成は、6〜10質量%のAl、5〜20質量%のMnを含むと共に、残部Cu及び不可避不純物から成る組成範囲を選択し、外層部の成分組成は、3〜7質量%のAl、5〜20質量%のMnを含むと共に、残部Cu及び不可避不純物から成る組成範囲を選択し、外層部のAl組成が内層部のそれよりも低濃度となるようにする。
【0047】
ここで、内層部におけるAlを6〜10質量%の範囲とする理由は、6質量%未満では、時効処理後において外層部に比べて充分に硬さを上昇させることができず、10質量%を超えると結晶構造の規則性が高くなってしまうために加工ができなくなるためである。従って、こうした点を鑑みると、内層部のAlは特に7〜9質量%の範囲とすることが望ましい。
【0048】
内層部におけるMnを5〜20質量%の範囲とする理由は、5質量%未満では、β単相組織を実質的に得ることができず、20質量%を超えると時効処理後において外層部に比べて充分に硬さを上昇させることができないためである。従って、こうした点を鑑みると、内層部のMnは特に8〜15質量%の範囲とすることが望ましい。
【0049】
これに対し、外層部におけるAlを3〜7質量%の範囲とする理由は、3質量%未満では、加工焼鈍後の組織がa単相になってしまうことにより内層部に比べて柔らかくなり過ぎてしまい、クラッド加工し難くなってしまうという問題が生じ、7質量%を超えると充分な柔らかさ(柔軟性)を維持できないためである。従って、こうした点を鑑みると、外層部のAlは特に5〜7質量%の範囲とすることが望ましい。
【0050】
外層部におけるMnを5〜20質量%の範囲とする理由は、5質量%未満では、加工焼銃後において内層部に比べて柔らかくなり過ぎてクラッド加工し難くなってしまい、20質量%を超えると時効処理後において内層部に比べて充分に低い硬さを持たせることができないためである。従って、こうした点を鑑みると、外層部のMnは特に8〜15質量%の範囲とすることが望ましい。
【0051】
上述した組成範囲の成分を有する外層部及び内層部を持った本体部(コア材)の熱処理条件は、以下のように記述される。
【0052】
(3)−(a)β単相化処理
上述した本体部(コア材)のβ単相化処理は、600〜900℃の温度範囲で0.1〜30分保持することが望ましい。600℃以下では、内層部をβ単相化することができず、900℃以上では外層部をβ+aの2相にすることができない。又、この温度範囲での保持時間は、0.1分以上であれば良いが、上限は酸化の影響を考慮して20分未満とすることが一層好ましい。
【0053】
(3)−(b)焼き入れ
内層部においてβ単相組織を高温から室温に凍結するため、内層部のβ単相化処理後、室温まで200℃/s以上の冷却速度で本体部(コア材)を冷却することが望ましい。冷却方法は、水等の媒体に投入するか、或いはミスト冷却や強制空冷等により行うことができる。冷却速度が小さ過ぎると、α相が多量析出してしまい、内層部を実質的にβ単相組織とすることができない。それ故、より好ましい冷却速度は、230〜10000℃/sの範囲である。
【0054】
(3)−(c)時効処理
本体部(コア材)における内層部及び外層部の硬さを変化させるために焼入れ後に200℃〜450℃の温度範囲で1〜300分の時間範囲で時効処理を行う。時効処理温度が200℃以下であると、外層部に比べて内層部に充分な硬さの上昇が起こらず、450℃を超えると、組織が粗大してしまうことにより内層部に充分な硬さを得ることができない。より好ましくは時効処理を250℃〜350℃の温度範囲で行うことである。時効処理時間が1分未満では、内層部に充分な硬さの上昇が得られず、又300分を超えると、外層部及び内層部の硬さの相違が小さくなってしまう。より好ましくは、時効処理時間を5〜200分の時間範囲とすることである。更に、本体部(コア材)における先端部分を部分的に(3)−(a)、(3)−(b)に記述した手法で熱処理し、内層部を超弾性化し、軟質な外層部の外周先端部分をテーパ加工により除去することによって本体部(コア材)の先端部が超弾性特性を示すようにさせることができる。
【0055】
又、内層部のβ単相化処理の後、温度傾斜炉を有する炉で時効処理を行うことにより、内層部をハード、外層部をソフトとし、先端部をソフトとする本体部 (コア材)の作製が可能であり、更に、軟質な外層部の外周先端部分をテーパ加工により取り除くことにより、本体部(コア材)における先端部が超弾性特性を示すようにさせることができる。この場合の温度傾斜炉の温度は、本体部(コア材)に対して先端部を低温な250℃以下、内層部を高温な250〜450℃の温度範囲とすることが好ましく、時効処理時間を1〜300分の時間範囲とすることが望ましい。
【0056】
ところで、上述したように、クラッド加工により本体部(コア材)における内層部及び外層部の主成分の組成に差を設けることにより硬さを変化させる以外、500℃以上の雰囲気熱処理(酸素雰囲気等)により内層部と外層部との主成分の組成を変化させることもできる。特に酸化雰囲気の場合、Al形成等による試料表面付近のAl濃度の低下が生じるため、内層部のAl濃度が高く、外層部のAl濃度が低い本体部(コア材)の製造が可能である。従って、上述したクラッド材による内層部のAl濃度が高く、且つ外層部のAl濃度が低い場合 [上記(1),(3)の場合]と同様の効果を得ることができる。
【0057】
但し、このときの成分組成は、4〜10質量%のAl、5〜20質量%のMnを含むと共に、残部Cu及び不可避不純物から成る組成範囲を選択するようにする。
【0058】
成分組成として、Alを4〜10質量%の範囲とする理由は、4質量%未満では、内層部と外層部との充分な硬さ変化を得る目的で表面酸化によりAl濃度を低下させると、β単相組織は勿論、β+aの2相組織さえ得ることができなくなり、熱処理により外層部について内層部との硬さの違いを発現させることができず、又10質量%を超えると、結晶構造の規則性が高くなってしまうために加工ができなくなるためである。従って、こうした点を鑑みると、成分組成のAlは特に7〜9質量%の範囲とすることが望ましい。
【0059】
又、Mnを5〜20質量%の範囲とする理由は、5質量%未満では、内層部においてさえβ単相組織を実質的に得ることができず、20質量%を超えるとマルテンサイト変態温度が急激に低下するために先端部の部分的な熱処理の後に超弾性特性が得られなくなるためである。従って、こうした点を鑑みると、成分組成のMnは特に8〜15質量%の範囲とすることが望ましい。
【0060】
その他、本体部(コア材)に施す熱処理については、以下のa)〜d)に示すように場合分けされる。
【0061】
a)外層部の組成を内層部と比べて変化させるための熱処理
この場合の熱処理は、雰囲気中(酸化雰囲気中等)で500℃以上の温度で15〜600分程度の時間範囲で表面付近の組成を変化させるために行う。500℃未満では、表面酸化等による表面付近(外層部)の組成変化が不十分であるため、望ましくは600℃以上の温度で熱処理を行えば良い。熱処理時間が15分未満では、表面付近(外層部)の組成変化が不十分であり、600分以上では、内層部まで酸化等が進行してしまうことにより内層部と外層部との組成変化が小さくなってしまうため、望ましくは熱処理時間を30分〜500分の時間範囲で行えば良い。
【0062】
b)溶俗化熱処理
600〜950℃の温度範囲にで場合分けに応じて内層部及び外層部共にβ単相組織となるように熱処理するか、或いは内層部がβ単相であり、且つ外層部がβ+αの2相組織となるように熱処理する。前者の場合は、700℃〜950℃の温度範囲で溶俗化熱処理するのが好ましく、後者は600℃〜900℃の温度範囲で溶俗化熱処理するのが望ましい。
【0063】
c)焼き入れ
内層部及び外層部、或いは内層部のみのβ単相組織を高温から室温に凍結するため、β単相化処理の後に室温まで200℃/s以上の冷却速度で本体部(コア材)を冷却することが望ましい。冷却方法は、水等の媒体に投入するか、或いはミスト冷却や強制空冷等により行うことができる。冷却速度が小さ過ぎると、a相が多量析出してしまい、内層部を実質的にβ単相組織とすることができない。より好ましい冷却速度は、230〜10000℃/sの範囲である。
【0064】
d)時効処理
内層部及び外層部が共にβ単相組織の場合、硬さを変化させるために焼入れ後に100℃〜300℃の温度範囲で1〜600分の時効処理を行う。時効温度が100℃以下であると、外層部に充分な硬さの上昇が起こらず、300℃を超えると、外層部及び内層部共に硬さの急激な上昇が生じ、内層部の超弾性特性が失われると各部が脆くなってしまう。より好ましくは、時効処理を150℃〜250℃の温度範囲で行うことである。時効処理時間が1分未満では、外層部に充分な硬さの上昇が得られず、又600分を超えると、外層部及び内層部共に硬さの上昇が顕著に生じてしまって各部が脆くなってしまう。より好ましくは、時効処理時間を5〜500分の時間範囲とすることである。更に、本体部(コア材)の先端部分をテーパ加工することにより本体部(コア材)における先端部が超弾性特性を示すようにさせることができる。
【0065】
又、内層部がβ単相組織、且つ外層部がβ+aの2相組織の場合、硬さを変化させるために焼入れ後に200℃〜450℃の温度範囲で1〜300分の時効処理を行う。時効処理温度が200℃以下であると、外層部に比べて内層部に充分な硬さの上昇が起こらず、450℃を超えると、組織が粗大してしまうことにより内層部に充分な硬さを得ることができない。より好ましくは時効処理温度を250℃〜350℃の温度範囲で行うことである。時効処理時間が1分未満では、内層部に充分な硬さの上昇が得られず、又300分を超えると、外層部及び内層部の硬さの相違が小さくなってしまう。より好ましくは、時効処理時間を5〜200分の時間範囲とすることである。更に、外層部のAl濃度が内層部のそれよりも低く、内層部をハード、外層部をソフトとする場合には、先端部分を部分的に上記c)で説明した手法で熱処理して内層部を超弾性化し、非超弾性の外層部分の外周先端部分をテーパ加工により除去することで本体部(コア材)にあっての内層部における先端部を露呈させて超弾性特性を示すようにさせることができる。
【0066】
更に、内層部がβ単相組織、且つ外層部がβ+aの2相組織の場合、内層部のβ単相化処理の後に温度傾斜炉を有する炉で時効処理を行うことにより、内層部をハード、外層部をソフトとし、且つ非超弾性の外周先端部分をテーパ加工により取り除くことにより内層部における先端部が超弾性特性を示す本体部(コア材)を作製することが可能である。この場合の温度傾斜炉の温度は、高温部を250〜450℃の温度範囲、低温部を250℃以下とすることが好ましく、時効処理時間は、1〜300分の時間範囲とすることが望ましい。
【0067】
[製造方法]
本発明のガイドワイヤの作製に供される傾斜機能合金素子の本体部(コア材)の製造方法としては、クラッド材である場合、先ず外層部及び内層部の組成分をそれぞれ上述した組成範囲内で成分調整し、又雰囲気熱処理で組成変化を生じさせる場合も同様に上述した組成範囲内で成分調整する。又、必要に応じて、Co,Fe,Ti,V,Cr,Ni,Si,Nb,Mo,W,Sn,Sb,Mg,P,Be,Zr,Zn,B,C,Ag,及びミッシュメタルから成る群から選択した1種以上を所定量添加し、適宜原料成分を調整することが好ましい。
【0068】
次に、高周波溶解炉等を用いて溶解したものを鋳造インゴットとし、更に鋳造インゴットに対して700℃〜900℃の温度範囲で熱間鍛造、或いは熱間圧延を施す。クラッド材の場合、この後に成分組成の異なる合金を用いクラッド加工することにより内層部及び外層部の組成を変化させる。上述した熱間加工後、500℃〜600℃の温度範囲で中間焼鈍を行いながら冷間圧延・伸線等の加工工程を経て本体部(コア材)を作製する。中間焼鈍の温度は、良好な加工性を得るためにβ+αの2相組織を得るための温度範囲で行うことが好ましい。更に、上述した熱処理条件で内層部及び外層部の硬さが異なる本体部(コア材)を作製する。加えて、必要に応じて本体部(コア材)の先端部分を部分的に熱処理し、先端部分をテーパ加工することにより先端部を部分的に超弾性化させることもできる。
【0069】
このようにして得られた材料は、本体部の耐キンク性及び高剛性と先端部の柔軟性とを併せ持つ傾斜機能合金素子を作製することができるため、更にガイドワイヤとしての利用が好適となる。
【0070】
以下は、本発明の傾斜機能合金素子について、幾つかの実施例を挙げ、その製造工程を含めて具体的に説明する。
【実施例1】
【0071】
実施例1では、Alを8.4質量%、Mnを11.8質量%を含むと共に、残部Cu及び不可避不純物から成るA合金と、Alを7.1質量%、Mnを11.6質量%を含むと共に、残部Cu及び不可避不純物から成るB合金とによる2種類の合金をアルゴン雰囲気中で高周波溶解して凝固し、直径20mmのビレットを作製した。次いで、両方の合金共、800℃で厚さ2mmまで熱間圧延した後、900℃で15分間熱処理し、水焼入れすることによりβ単相組織を得てから200℃の温度条件下で時効処理することにより、実施例1に係る傾斜機能合金素子を作製した。尚、途中の熱処理後にビッカース硬度(Hv)に及ぼす時効処理時間の影響を調べた。
【0072】
図1は、実施例1に係る傾斜機能合金素子に用いられた2種類の合金(A合金,B合金)における熱処理後の200℃の温度条件下での時効処理による時間(分)に対するビッカース硬度(Hv)の関係を対数プロットにより示した特性図である。但し、ここではA合金をB合金よりもAl濃度が高く、両方の合金共に熱処理によりβ単相組織化した後に200℃の温度条件下で時効処理している。
【0073】
図1からは、A合金の場合、120分程度の時効を施しても硬さは殆ど変化せず、超弾性特性を示しているのに対し、A合金よりも低いAl濃度を有するB合金の場合には、短時間の時効処理により急激な硬さの上昇が生じて120分の時効処理では360HV以上の硬さを有していることが判る。
【0074】
以上により、特にAl濃度を変化させることにより、全く同じ熱処理を施しても、硬さの異なる材料を作製することができる。それ故、クラッド加工や雰囲気熱処理により内層部及び外層部のAl濃度を変化させて時効処理することにより本体部(内層部及び外層部)の硬さが異なる耐キンク性に優れた傾斜機能合金素子を作製することができる。
【実施例2】
【0075】
実施例2では、Alを8.4質量%、Mnを11.8質量%を含むと共に、残部Cu及び不可避不純物から成るA合金と、Alを6.1質量%、Mを12.4質量%を含むと共に、残部Cu及び不可避不純物から成るC合金とによる2種類の合金をアルゴン雰囲気中で高周波溶解して凝固し、直径20mmのビレットを作製した。次いで、両方の合金共に800℃で厚さ2mmまで無間圧延した後、700℃で15分間熱処理して水焼入れすることによりA合金をβ単相組織とし、且つC合金をβ+aの2相組織としてから300℃で時効処理することにより、実施例1に係る傾斜機能合金素子を作製した。尚、途中の熱処理後にビッカース硬度(Hv)に及ぼす時効処理時間の影響を調べた。
【0076】
図2は、実施例2に係る傾斜機能合金素子に用いられた2種類の合金(A合金,C合金)における熱処理後の300℃の温度条件下での時効処理による時間(分)に対するビッカース硬度(Hv)の関係を対数プロットにより示した特性図である。但し、ここではA合金をC合金よりもAl濃度が高く、熱処理によりA合金はβ単相組織化し、C合金はβ+aの2相組織化した後、300℃の温度条件下で時効処理している。
【0077】
図2からは、A合金の場合、300℃の時効処理により急激に硬さの上昇が起こり、20分程度で硬さが飽和しているのに対し、A合金よりも低いAl濃度を有し、β+aの2相組織を有するC合金の場合には、時効処理による硬さの変化は全く起こらないことが判る。
【0078】
以上により、特にAl濃度及び時効処理前の組織を変化させることにより、全く同じ熱処理を施しても、硬さの異なる材料を作製することができる。それ故、クラッド加工や雰囲気熱処理により内層部及び外層部のAl濃度を変化させて時効処理により本体部(内層部及び外層部)の硬さが異なる耐キンク性に優れた傾斜機能合金素子を作製することができる。
【0079】
即ち、これらの実施例1及び実施例2から明らかであるように、本体部(コア材)にあっての内層部及び外層部における特にAl濃度及び時効処理の前の組織を変化させるようにすれば、時効処理により内層部及び外層部の硬さを任意に制御することができる。
【0080】
以下は、このような耐キンク性に優れ、且つ長手方向に傾斜機能を有する傾斜機能合金素子を用いて作製される本発明のガイドワイヤについて、幾つかの実施例及び比較性を挙げ、それらの製造工程を含めて具体的に説明する。
【実施例3】
【0081】
図3は、実施例3に係る傾斜機能合金素子に用いて作製されるガイドワイヤの製造過程における組織変化の推移を複式的に示したもので、(a)は本体部(コア線材)のβ単相組織化処理工程に関するもの,(b)は時効処理工程に関するもの,(c)はテーパ加工処理工程に関するものである。
【0082】
実施例3では、先ず本体部(コア線材)として、Alを8.4質量%、Mnを11.8質量%、Siを0.05質量%を含むと共に、残部Cu及び不可避不純物から成る合金を内層部とし、又Alを7.1質量%、Mnを11.6質量%を含むと共に、残部Cu及び不可避不純物から成る合金を外層部として使用するようにし、アルゴン雰囲気中で高周波溶解して凝固して直径30mmのビレットを作製した。次いで、両方の合金共に800℃にて熱間鍛造することにより内層部用は直径8mmの棒材、外層部用は内径8mmで直径12mmの管材にした後、クラッド加工することにより線材断面を複合化してから550℃の温度条件下で15分の焼鈍及び冷間伸線を繰り返し行うことにより外径0.5mmの複合線材を得た。更に、得られた両方の線材を全長1.5mにカットし、900℃で10分間の熱処理を行った後、水焼入れを行うことにより内層部及び外層部共にβ単相組織とした。
【0083】
ここまでの工程が図3(a)に示されるβ単相化組織処理工程であり、β単相化組織処理によりβ単相組織の内層部の表面全体が同じβ単相組織の外層部で筒状に覆われて本体部(コア線材)が構成される。
【0084】
この後、200℃の温度条件下で120分間の時効処理を施した。この工程が図3(b)に示される時効処理工程であり、時効処理によりβ単相組織の内層部が超弾性特性を持ち、外層部が非超弾性のベイナイトプレートとなる。
【0085】
更に、先端部分をテーパ加工することにより非超弾性特性を持つ外周先端部分を取り除いた。この工程が図3(c)に示されるテーパ加工処理工程であり、テーパ加工処理により硬質な外周先端部分が除去され、本体部(コア線材)は内層部における先端部が露呈されて超弾性特性を有するものとなる。最後に、線材全体を親水性のポリマー樹脂でコーテイングすることにより、実施例3に係るガイドワイヤを作製した。
【実施例4】
【0086】
図4は、実施例4に係る傾斜機能合金素子に用いて作製されるガイドワイヤの製造過程における組織変化の推移を複式的に示したもので、同図(a)は本体部(コア線材)のβ単相組織化処理工程に関するもの,同図(b)は時効処理工程に関するもの,同図(c)はテーパ加工処理工程に関するもの,同図(d)は先端部超弾性化処理工程に関するものである。
【0087】
実施例4では、先ず本体部(コア線材)として、Alを7.0質量%、Mnを11.1質量%を含むと共に、残部Cu及び不可避不純物から成る合金を内層部とし、Alを8.2質量%、Mnを14.2質量%を含むと共に、残部Cu及び不可避不純物から成る合金を外層部として使用するようにし、実施例3の場合と同様にして外径0.5mmの複合線材を得た。そこで、得られた線材を全長1.5mにカットし、900℃で5分間の熱処理を行った後、水焼入れを行うことにより内層部及び外層部共にβ単相組織とした。
【0088】
ここまでの工程が図4(a)に示されるβ単相組織化処理工程であり、β単相組織化処理によりβ単相組織の内層部の表面全体が同じβ単相組織の外層部で筒状に覆われて本体部(コア線材)が構成される。
【0089】
この後、210℃の温度条件下で150分間の時効処理を施した。この工程が図4(b)に示される時効処理工程であり、時効処理により内層部は非超弾性のベイナイトプレートとなり、外層部がβ単相組織となる。
【0090】
更に、先端部分をテーパ加工することにより軟質な外周先端部分を取り除いた。この工程が図4(c)に示されるテーパ加工処理工程であり、テーパ加工処理により軟質な外周先端部分が除去され、本体部(コア線材)は内層部における先端部が露呈された状態となる。
【0091】
そこで、先端部の先端から10cmのところまでの部分を900℃の温度条件下で5分間熱処理し、良好な超弾性特性を得るために150℃の温度条件下で15分間時効処理した。この工程が図4(d)に示される先端部超弾性化処理工程であり、超弾性化処理により内層部の先端部が超弾性特性を持つものとなる。最後に、線材全体を親水性のポリマー樹脂でコーテイングすることにより、実施例4に係るガイドワイヤを作製した。
【実施例5】
【0092】
図5は、実施例5に係る傾斜機能合金素子に用いて作製されるガイドワイヤの製造過程における組織変化の推移を複式的に示したもので、同図(a)は本体部(コア線材)の内層部におけるβ単相組織化、並びに外層部におけるβ+αの2相組織化処理工程に関するもの,同図(b)は時効処理工程に関するもの,同図(c)はテーパ加工処理工程に関するもの,同図(d)は先端部超弾性化処理工程に関するものである。
【0093】
実施例5では、先ず本体部(コア線材)として、Alを8.3質量%、Mnを10.3質量%、Coを0.5質量%を含むと共に、残部Cu及び不可避不純物から成る合金を内層部とし、Alを6.1質量%、Mnを12.4質量%を含むと共に、残部Cu及び不可避不純物から成る合金を外層部として使用するようにし、実施例3の場合と同様にして外径0.5mmの複合線材を得た。そこで、得られた線材を全長1.5mにカットし、800℃で5分間の熱処理を行った後、水焼入れを行うことにより内層部はβ単相組織、外層部はβ+αの2相組織とした。
【0094】
ここまでの工程が図5(a)に示される内層部におけるβ単相組織化、並びに外層部におけるβ+αの2相組織化処理工程であり、このβ単相組織化、並びにβ+αの2相組織化処理によりβ単相組織の内層部の表面全体がβ+αの2相組織の外層部で筒状に覆われて本体部(コア線材)が構成される。
【0095】
この後、300℃の温度条件下で15分間の時効処理を施した。この工程が図5(b)に示される時効処理工程であり、時効処理により内層部は非超弾性のベイナイトプレートとなり、外層部がβ+αの2相組織となる。
【0096】
更に、先端部分をテーパ加工することにより硬質な外周先端部分を取り除いた。この工程が図5(c)に示されるテーパ加工処理工程であり、テーパ加工処理により硬質な外周先端部分が除去された結果、本体部(コア線材)は内層部における先端部が露呈された状態となる。
【0097】
そこで、先端部の先端から10cmのところまでの部分を850℃の温度条件下で5分間熱処理し、良好な超弾性特性を得るために150℃の温度条件下で15分間時効処理した。この工程が図5(d)に示される先端部超弾性化処理工程であり、超弾性化処理により内層部の露呈された先端部が超弾性特性を持つものとなる。最後に、線材全体を親水性のポリマー樹脂でコーテイングすることにより、実施例5に係るガイドワイヤを作製した。
【実施例6】
【0098】
図6は、実施例6に係る傾斜機能合金素子に用いて作製されるガイドワイヤの製造過程における組織変化の推移を複式的に示したもので、同図(a)は本体部(コア線材)の内層部におけるβ単相組織化、並びに外層部におけるβ+αの2相組織化処理工程に関するもの,同図(b)はテーパ加工処理工程に関するもの,同図(c)は温度傾斜炉を用いた時効処理工程に関するものである。
【0099】
実施例6では、先ず本体部(コア線材)として、Alを8.5質量%、Mnを10.8質量%を含むと共に、残部Cu及び不可避不純物から成る合金を内層部とし、Alを5.6質量%、Mnを11.4質量%、Niを1.0質量%を含むと共に、残部Cu及び不可避不純物から成る合金を外層部として使用し、実施例3の場合と同様にして外径0.5mmの複合線材を得た。そこで、得られた線材を全長1.5mにカットし、800℃で5分間の熱処理を行った後、水焼入れを行うことにより内層部はβ単相組織、外層部はβ+αの2相組織とした。
【0100】
ここまでの工程が図6(a)に示される内層部におけるβ単相組織化、並びに外層部におけるβ+αの2相組織化処理工程であり、このβ単相組織化、並びにβ+αの2相組織化処理によりβ単相組織の内層部の表面全体がβ+αの2相組織の外層部で筒状に覆われて本体部(コア線材)が構成される。
【0101】
更に、先端部分をテーパ加工することにより硬質な外周先端部分を取り除いた。この工程が図6(b)に示されるテーパ加工処理工程であり、テーパ加工処理により硬質な外周先端部分が除去された結果、本体部(コア線材)は内層部における先端部が露呈された状態となる。
【0102】
この後、温度傾斜を有する温度傾斜炉で15分の時効処理を行った。この工程が図6(c)に示される温度傾斜炉を用いた時効処理工程であり、温度傾斜炉では低温部を150℃、高温部を325℃とした時効処理を行うことにより内層部における外層部で覆われた部分が非超弾性のベイナイトプレートとなり、且つ先端部の露呈された部分が超弾性特性を持つものとなる。最後に、線材全体を親水性のポリマー樹脂でコーテイングすることにより、実施例6に係るガイドワイヤを作製した。
【実施例7】
【0103】
図7は、実施例7に係る傾斜機能合金素子に用いて作製されるガイドワイヤの製造過程における組織変化の推移を複式的に示したもので、同図(a)は本体部(コア線材)に対する酸化未処理工程に関するもの,同図(b)は本体部(コア線材)に対する酸化雰囲気熱処理工程に関するもの,同図(c)は本体部(コア線材)の内層部及び外層部におけるβ単相組織化処理工程に関するもの,同図(d)は時効処理工程に関するもの,同図(e)はテーパ加工処理工程に関するものである。
【0104】
実施例7では、先ず本体部(コア線材)として、Alを8.4質量%、Mnを11.6質量%を含むと共に、残部Cu及び不可避不純物から成る合金をアルゴン雰囲気中で高周波溶解して凝固し、直径20mmのビレットを作製した。次いで、800℃の温度条件下で直径10mmとなるまで熱間鍛造及び圧延した後、600℃の温度条件下で100分の焼鈍及び冷間伸線を繰り返し行うことにより外径0.5mmの線材を得た。ここで線材表面に対する酸化が進行していない段階までの工程が図7(a)に示される本体部(コア線材)に対する酸化未処理工程であり、この状態ではβ+αの2相組織が得られることになる。
【0105】
但し、ここで実際は、意図的に線材表面で酸化が進行するように、焼鈍時間を長くする。この工程が図7(b)に示される本体部(コア線材)に対する酸化雰囲気熱処理工程であり、酸化雰囲気熱処理によりβ+αの2相組織では内層部の酸化されていない部分に対して外層部が酸化された状態となる。
【0106】
引き続いて、900℃で10分間の熱処理を行った後、水焼入れすることにより内層部及び外層部共にβ単相組織とした。この工程が図7(c)に示されるβ単相組織化処理工程であり、β単相組織化処理によりβ単相組織の内層部の表面全体が同じβ単相組織の外層部で筒状に覆われて本体部(コア線材)が構成される。
【0107】
この後、200℃の温度条件下で150分の時効処理を施した。この工程が図7(d)に示される時効処理工程であり、時効処理により内層部にはβ単相組織の超弾性特性が持たされ、外層部が非超弾性のベイナイトプレートとなる。
【0108】
更に、先端部分をテーパ加工することにより硬質な外周先端部分を取り除いた。この工程が図7(e)に示されるテーパ加工処理工程であり、テーパ加工処理により硬質な外周先端部分が除去された結果、本体部(コア線材)は内層部における超弾性特性の先端部が露呈された状態となる。最後に、線材全体を親水性のポリマー樹脂でコーテイングすることにより、実施例7に係るガイドワイヤを作製した。
【0109】
[比較例1]
比較例1では、本体部(コア線材)として、Alを8.1質量%、Mnを9.7質量%、Coを0.5質量%を含むと共に、残部Cu及び不可避不純物から成る合金をアルゴン雰囲気中で高周波溶解して凝固し、直径20mmのビレットを作製した。次いで、800℃の温度条件下で直径10mmまで熱間鍛造及び圧延した後、600℃の温度条件下で15分の焼鈍及び冷間伸線を繰り返し行うことにより外径0.5mmの線材を得た。この後、900℃で10分間の熱処理を行い、水焼入れすることによりβ単相組織とした。引き続いて、300℃の温度条件下で15分の時効処理を施した後、先端から10cmのところまでの部分を900℃で5分間熱処理し、良好な超弾性特性を得るために150℃の温度条件で15分間時効処理した。最後に、線材全体を親水性のポリマー樹脂でコーティングすることにより、比較例1に係るガイドワイヤを作製した。
【0110】
[比較例2]
比較例2では、Ni−Ti合金を用いて直径0.5mmの超弾性ガイドワイヤを作製した。
【0111】
[比較例3]
比較例3では、ステンレス鋼を用いて直径0.5mmのガイドワイヤを作製した。
【0112】
そこで、以上の実施例3〜7と比較例1〜3とにおいて作製した直径0.5mmのガイドワイヤの試料について、本体部における内層部及び外層部の硬さ(Hv)、先端部超弾性、本体部剛性、及び本体部の耐キンク性について評価したところ、表1に示すような結果となった。
【表1】

【0113】
但し、先端部超弾性及び本体部剛性については、曲げ試験で評価した。曲げ試験は、3点曲げ試験機を用い、支点間の距離を15mm、押し込み量を2mmとして評価した。本体部剛性は、2mm押し込み時の曲げ荷重を測定することにより評価した。又、本体部の耐キンク性については、ガイドワイヤの本体部を任意の直径を特つ丸棒に巻き付けることにより、その折損限界曲げ径を評価した。
【0114】
表1の結果からは、実施例3〜実施例7及び比較例1に係るガイドワイヤ試料は、何れも良好な超弾性特性を示し、特にCu−Al−Mn系合金により作製され、内層部及び外層部の硬さが異なる実施例3〜7に係るガイドワイヤ試料の場合には、何れも2mm押し込み時の曲げ荷重が1.55Kg以上を有しており、充分な曲げ剛性を特っている他、口径φ5mmの丸棒に巻き付けても折損せず、更にはヘアピン状に曲げても折損することなく優れた耐キンク性を有しているが、比較例1に係るCu−Al−Mn合金によるガイドワイヤ試料の場合には折損曲げ限界が口径φ8mmであり、高い剛性を有していても耐キンク性が非常に劣っていることが判った。又、比較例2に係るNi−Ti合金によるガイドワイヤ試料の場合、良好な超弾性特性を示しているが、その本体部の曲げ荷重が低くて実施例3〜7に係るガイドワイヤ試料の場合の約半分であることにより剛性が充分でないことが判った。更に、比較例3に係るステンレス鋼によるガイドワイヤ試料の場合、本体部剛性は充分に高いが、先端部が超弾性を示さないため、先端部が容易に永久変形してしまう欠点を特つことが判った。
【0115】
尚、上述した実施例1〜7及び比較例1〜3で開示した形態は、あくまでも諸例であり、本発明の傾斜機能合金素子及びそれを用いたガイドワイヤについての技術範囲は、その他の態様に変更したり、或いは変形等を行っても実施できるので、開示したものに限定されない。
【図面の簡単な説明】
【0116】
【図1】本発明の実施例1に係る傾斜機能合金素子に用いられた2種類の合金(A合金,B合金)における熱処理後の時効処理による時間に対するビッカース硬度(Hv)の関係を対数プロットにより示した特性図である。
【図2】実施例2に係る傾斜機能合金素子に用いられた2種類の合金(A合金,C合金)における熱処理後の300℃の温度条件下での時効処理による時間(分)に対するビッカース硬度(Hv)の関係を対数プロットにより示した特性図である。
【図3】実施例3に係る傾斜機能合金素子に用いて作製されるガイドワイヤの製造過程における組織変化の推移を複式的に示したもので、(a)は本体部 (コア線材)のβ単相組織化処理工程に関するもの,(b)は時効処理工程に関するもの,(c)はテーパ加工処理工程に関するものである。
【図4】実施例4に係る傾斜機能合金素子に用いて作製されるガイドワイヤの製造過程における組織変化の推移を複式的に示したもので、(a)は本体部 (コア線材)のβ単相組織化処理工程に関するもの,(b)は時効処理工程に関するもの,(c)はテーパ加工処理工程に関するもの,(d)は先端部超弾性化処理工程に関するものである。
【図5】実施例5に係る傾斜機能合金素子に用いて作製されるガイドワイヤの製造過程における組織変化の推移を複式的に示したもので、(a)は本体部 (コア線材)の内層部におけるβ単相組織化、並びに外層部におけるβ+αの2相組織化処理工程に関するもの,(b)は時効処理工程に関するもの,(c)はテーパ加工処理工程に関するもの,(d)は先端部超弾性化処理工程に関するものである。
【図6】実施例6に係る傾斜機能合金素子に用いて作製されるガイドワイヤの製造過程における組織変化の推移を複式的に示したもので、(a)は本体部 (コア線材)の内層部におけるβ単相組織化、並びに外層部におけるβ+αの2相組織化処理工程に関するもの,(b)はテーパ加工処理工程に関するもの, (c)は温度傾斜炉を用いた時効処理工程に関するものである。
【図7】実施例7に係る傾斜機能合金素子に用いて作製されるガイドワイヤの製造過程における組織変化の推移を複式的に示したもので、(a)は本体部 (コア線材)に対する未処理工程に関するもの,(b)は本体部(コア線材)に対する酸化雰囲気熱処理工程に関するもの,(c)は本体部(コア線材)の内層部及び外層部におけるβ単相組織化処理工程に関するもの,(d)は時効処理工程に関するもの,(e)はテーパ加工処理工程に関するものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Cu,Al,及びMnを主成分とする第1の合金を含む内層部と、Cu,Al,及びMnを主成分として前記第1の合金とは組成の異なる第2の合金を含む外層部とを有すると共に、該外層部が該内層部表面の一部を覆って成ることを特徴とする傾斜機能合金素子。
【請求項2】
請求項1記載の傾斜機能合金素子において、前記内層部及び前記外層部は、何れもβ(bcc)単相組織を有するものであって、該外層部に含有される前記Alが該内層部に含有される該Alに比べて低濃度であると共に、時効処理により該内層部に比べて該外層部が硬くされたことを特徴とする傾斜機能合金素子。
【請求項3】
請求項2記載の傾斜機能合金素子において、硬質な前記外層部の外周先端部分をテーパ加工で除去することにより先端部に超弾性特性が持たされたことを特徴とする傾斜機能合金素子。
【請求項4】
請求項1記載の傾斜機能合金素子において、前記内層部及び前記外層部は、何れもβ単相組織(bcc)を有するものであって、該外層部に含有される前記Alが該内層部に含有される該Alに比べて高濃度であると共に、時効処理により該外層部に比べて該内層部が硬くされたことを特徴とする傾斜機能合金素子。
【請求項5】
請求項4記載の傾斜機能合金素子において、先端部分を部分的に形状記憶用に熱処理することにより先端部に超弾性特性が持たされたことを特徴とする傾斜機能合金素子。
【請求項6】
請求項1記載の傾斜機能合金素子において、前記内層部はβ単相組織(bcc)であり、且つ前記外層部はβ+aの2相組織(fcc)を有するものであって、該外層部に含有される前記Alが該内層部に含有される該Alに比べて低濃度であると共に、時効処理により該外層部に比べて該内層部が硬くされたことを特徴とする傾斜機能合金素子。
【請求項7】
請求項6記載の傾斜機能合金素子において、先端部分を部分的に形状記憶用に熱処理することにより前記内層部に超弾性特性が持たされ、更に、前記内層部の先端部は、非超弾性の外周先端部分をテーパ加工で除去することで露呈されて前記超弾性特性が持たされたことを特徴とする傾斜機能合金素子。
【請求項8】
請求項1記載の傾斜機能合金素子において、前記内層部はβ単相組織(bcc)であり、且つ前記外層部はβ+aの2相組織(fcc)を有するものであって、該外層部に含有される前記Alが該内層部に含有される該Alに比べて低濃度であると共に、温度傾斜を有する炉で時効処理することにより該外層部に比べて該内層部が硬くされ、且つ該内層部の先端部に超弾性特性が持たされ、更に、前記内層部の先端部は、非超弾性の外周先端部分をテーパ加工で除去することで露呈されて前記超弾性特性が持たされたことを特徴とする傾斜機能合金素子。
【請求項9】
請求項1〜8の何れか一つに記載の傾斜機能合金素子において、添加元素として、Co,Fe,Ti,V,Cr,Ni,Si,Nb,Mo,W,Sn,Sb,Mg,P,Be,Zr,Zn,B,C,Ag,及びミッシュメタルから成る群から選択した1種以上の元素を総量で0.01〜10.0(質量%)含有したことを特徴とする傾斜機能合金素子。
【請求項10】
請求項1〜9の何れか一つに記載の傾斜機能合金素子において、前記内層部と前記外層部とは、クラッド加工により前記主成分の組成が異なるように変化させたものであることを特徴とする傾斜機能合金素子。
【請求項11】
請求項1〜9の何れか一つに記載の傾斜機能合金素子において、前記内層部と前記外層部とは、500℃以上の雰囲気熱処理により前記主成分の組成が異なるように変化させたものであることを特徴とする傾斜機能合金素子。
【請求項12】
請求項1〜11の何れか一つに記載の傾斜機能合金素子を用いて成るガイドワイヤであって、前記内層部及び前記外層部が中空管又はコーティング皮膜から成る被覆部で覆われて成ることを特徴とするガイドワイヤ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Cu,Al,及びMnを主成分とする第1の合金を含む内層部と、Cu,Al,及びMnを主成分として前記第1の合金とは組成の異なる第2の合金を含む外層部とを有すると共に、該外層部が該内層部表面の一部を覆って成ることを特徴とする傾斜機能合金素子。
【請求項2】
請求項1記載の傾斜機能合金素子において、前記内層部及び前記外層部は、何れもβ(bcc)単相組織を有するものであって、該外層部に含有される前記Alが該内層部に含有される該Alに比べて低濃度であると共に、時効処理により該内層部に比べて該外層部が硬くされたことを特徴とする傾斜機能合金素子。
【請求項3】
請求項2記載の傾斜機能合金素子において、硬質な前記外層部の外周先端部分をテーパ加工で除去することにより先端部に超弾性特性が持たされたことを特徴とする傾斜機能合金素子。
【請求項4】
請求項1記載の傾斜機能合金素子において、前記内層部及び前記外層部は、何れもβ単相組織(bcc)を有するものであって、該外層部に含有される前記Alが該内層部に含有される該Alに比べて高濃度であると共に、時効処理により該外層部に比べて該内層部が硬くされたことを特徴とする傾斜機能合金素子。
【請求項5】
請求項4記載の傾斜機能合金素子において、先端部分を部分的に形状記憶用に熱処理することにより先端部に超弾性特性が持たされたことを特徴とする傾斜機能合金素子。
【請求項6】
請求項1記載の傾斜機能合金素子において、前記内層部はβ単相組織(bcc)であり、且つ前記外層部はβ+αの2相組織(fcc)を有するものであって、該外層部に含有される前記Alが該内層部に含有される該Alに比べて低濃度であると共に、時効処理により該外層部に比べて該内層部が硬くされたことを特徴とする傾斜機能合金素子。
【請求項7】
請求項6記載の傾斜機能合金素子において、先端部分を部分的に形状記憶用に熱処理することにより前記内層部に超弾性特性が持たされ、更に、前記内層部の先端部は、非超弾性の外周先端部分をテーパ加工で除去することで露呈されて前記超弾性特性が持たされたことを特徴とする傾斜機能合金素子。
【請求項8】
請求項1記載の傾斜機能合金素子において、前記内層部はβ単相組織(bcc)であり、且つ前記外層部はβ+αの2相組織(fcc)を有するものであって、該外層部に含有される前記Alが該内層部に含有される該Alに比べて低濃度であると共に、温度傾斜を有する炉で時効処理することにより該外層部に比べて該内層部が硬くされ、且つ該内層部の先端部に超弾性特性が持たされ、更に、前記内層部の先端部は、非超弾性の外周先端部分をテーパ加工で除去することで露呈されて前記超弾性特性が持たされたことを特徴とする傾斜機能合金素子。
【請求項9】
請求項1〜8の何れか一つに記載の傾斜機能合金素子において、添加元素として、Co,Fe,Ti,V,Cr,Ni,Si,Nb,Mo,W,Sn,Sb,Mg,P,Be,Zr,Zn,B,C,Ag,及びミッシュメタルから成る群から選択した1種以上の元素を総量で0.01〜10.0(質量%)含有したことを特徴とする傾斜機能合金素子。
【請求項10】
請求項1〜9の何れか一つに記載の傾斜機能合金素子において、前記内層部と前記外層部とは、クラッド加工により前記主成分の組成が異なるように変化させたものであることを特徴とする傾斜機能合金素子。
【請求項11】
請求項1〜9の何れか一つに記載の傾斜機能合金素子において、前記内層部と前記外層部とは、500℃以上の雰囲気熱処理により前記主成分の組成が異なるように変化させたものであることを特徴とする傾斜機能合金素子。
【請求項12】
請求項1〜11の何れか一つに記載の傾斜機能合金素子を用いて成るガイドワイヤであって、前記内層部及び前記外層部が中空管又はコーティング皮膜から成る被覆部で覆われて成ることを特徴とするガイドワイヤ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−57159(P2006−57159A)
【公開日】平成18年3月2日(2006.3.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−242177(P2004−242177)
【出願日】平成16年8月23日(2004.8.23)
【出願人】(000134257)NECトーキン株式会社 (1,832)
【出願人】(504157024)国立大学法人東北大学 (2,297)
【Fターム(参考)】