説明

傾斜配向した液晶硬化層を備える位相差フィルムの製造方法

【課題】チルト角が大きく、かつ、高温環境下における位相差変化の小さい位相差フィルムを十分な生産性で得ることができる製造方法を提供すること。
【解決手段】傾斜配向した液晶硬化層を備える位相差フィルムの製造方法であって、次の工程A〜工程Cを含む、位相差フィルムの製造方法;工程A;配向処理が施された基材の該配向処理表面上に、溶媒と1種以上の重合性の液晶化合物とを含む液晶組成物を塗布して、塗布層を形成する工程、工程B;該塗布層を乾燥して、傾斜配向した液晶固化層を形成する工程、工程C;該液晶固化層の表面に、該液晶固化層の表面温度が50℃以下、かつ、該液晶固化層表面の波長365nmにおける照射量が100mJ/cm以下となるように紫外線を照射し、次いで、該液晶固化層表面の波長365nmにおける照射量が600mJ/cm以上となるように紫外線を照射して、傾斜配向した液晶硬化層を形成する工程。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、位相差フィルムの製造方法に関する。具体的には、本発明は、傾斜配向した液晶硬化層を備える位相差フィルムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
位相差フィルムを含む液晶表示装置は、携帯電話、時計、デジタルカメラ、携帯情報端末(PDA)、携帯ゲーム機等の携帯機器に広く利用されている。その位相差フィルムの一つとして、液晶化合物を傾斜配向させた位相差フィルムが知られている。上記液晶化合物を傾斜配向させた位相差フィルムに要求される特性としては、(1)液晶化合物の傾斜角度(チルト角ともいう)を大きくすること、(2)高温環境下における位相差変化を小さくすることが挙げられる。
【0003】
従来、液晶化合物を大きなチルト角で配向させる一つの手段として、側鎖基を有するポリアミド酸またはポリアミド酸エステルと有機シラン化合物とを含む配向膜を用いることが知られている(特許文献1)。しかしながら、このような特殊な配向膜を用いる場合、配向膜を形成するための基材や溶媒が限られている。このため、より生産性に優れた方法で、上記(1)および(2)の特性を満足する、新規な製法が求められている。
【特許文献1】特開2002−220483号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は上記課題を解決するためになされたものであり、その目的とするところは、チルト角が大きく、かつ、高温環境下における位相差変化の小さい位相差フィルムを優れた生産性で得ることができる製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
すなわち、本発明の製造方法は、傾斜配向した液晶硬化層を備える位相差フィルムの製造方法であって、次の工程A〜工程Cを含む;工程A;配向処理が施された基材の該配向処理表面上に、溶媒と1種以上の重合性の液晶化合物とを含む液晶組成物を塗布して、塗布層を形成する工程、工程B;該塗布層を乾燥して、傾斜配向した液晶固化層を形成する工程、工程C;該液晶固化層の表面に、該液晶固化層の表面温度が50℃以下、かつ、該液晶固化層表面の波長365nmにおける照射量が100mJ/cm以下となるように紫外線を照射し、次いで、該液晶固化層表面の波長365nmにおける照射量が600mJ/cm以上となるように紫外線を照射して、傾斜配向した液晶硬化層を形成する工程。
【0006】
好ましい実施形態においては、上記配向処理が、ラビング処理である。
【0007】
好ましい実施形態においては、上記液晶化合物が、配向処理が施されていない基材上において、ホメオトロピック配向性を示す化合物である。
【0008】
好ましい実施形態においては、上記液晶硬化層の厚みが、1μm〜5μmである。
【0009】
本発明の別の局面によれば、位相差フィルムが提供される。この位相差フィルムは、上記の製造方法により得られる。
【0010】
本発明のさらに別の局面によれば、液晶表示装置が提供される。この液晶表示装置は、上記位相差フィルムを含む。
【発明の効果】
【0011】
本発明の製造方法によれば、チルト角が大きく、かつ、高温環境下における位相差変化の小さい位相差フィルムを得ることができる。さらに、本発明の製造方法によれば、特殊な配向膜を必要としないので、優れた生産性で上記位相差フィルムを得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明の製造方法は、傾斜配向した液晶硬化層を備える位相差フィルムの製造方法であって、次の工程A〜工程Cを含む;工程A;配向処理が施された基材の該配向処理表面上に、溶媒と1種以上の重合性の液晶化合物とを含む液晶組成物を塗布して、塗布層を形成する工程、工程B;該塗布層を乾燥して、傾斜配向した液晶固化層を形成する工程、工程C;該液晶固化層の表面に、該液晶固化層の表面温度が50℃以下、かつ、該液晶固化層表面の波長365nmにおける照射量が100mJ/cm以下となるように紫外線を照射し、次いで、該液晶固化層表面の波長365nmにおける照射量が600mJ/cm以上となるように紫外線を照射して、傾斜配向した液晶硬化層を形成する工程。以下、本発明について詳細に説明する。
【0013】
A.工程A
工程Aは、配向処理が施された基材の該配向処理表面上に、溶媒と1種以上の重合性の液晶化合物とを含む液晶組成物を塗布して、塗布層を形成する工程である。
【0014】
A−1.基材
基材としては、溶媒と1種以上の重合性の液晶化合物とを含む液晶組成物を展開できるものであれば、任意の適切な基材が採用され得る。具体例としては、ガラス板や石英基板等のガラス基材、フィルムやプラスチックス基板等の高分子基材、アルミや鉄等の金属基材、セラミックス基板等の無機基材、シリコンウエハー等の半導体基材等が挙げられる。好ましくは、上記基材は、高分子基材である。基材表面の平滑性や、液晶組成物のぬれ性に優れ、かつ、ロールによる連続生産が可能で、生産性を大幅に向上させ得るからである。高分子基材を形成する材料としては、熱硬化性樹脂、紫外線硬化性樹脂、熱可塑性樹脂、熱可塑性エラストマー、生分解性プラスチック等が挙げられる。なかでも、基材としては、好ましくは熱可塑性樹脂からなるフィルム、さらに好ましくはポリエチレンテレフタレートフィルムが用いられる。なお、上記基材は、単層であっても、複数の層からなる積層体(例えば、基材の表面に配向剤を吸着させて、配向剤層(配向膜ともいう)が形成されたもの)であってもよい。
【0015】
上記基材の厚みとしては、任意の適切な厚みが採用され得る。該厚みは、好ましくは1μm〜200μmであり、さらに好ましくは5μm〜150μmであり、特に好ましくは10μm〜100μmである。
【0016】
上記基材の表面には、任意の適切な配向処理が施される。配向処理としては、具体的には、機械的な配向処理、物理的な配向処理、化学的な配向処理が挙げられる。機械的な配向処理の具体例としては、ラビング処理、延伸処理が挙げられる。物理的な配向処理の具体例としては、磁場配向処理、電場配向処理が挙げられる。化学的な配向処理の具体例としては、斜方蒸着法、光配向処理が挙げられる。好ましくはラビング処理である。なお、各種配向処理の処理条件は、目的に応じて任意の適切な条件が採用され得る。
【0017】
A−2.液晶組成物
本発明に用いられる液晶組成物は、溶媒と1種以上の重合性の液晶化合物とを含む。上記液晶組成物は、基材に展開して均一な塗布層を形成できるものであれば、分散液であっても溶液であってもよい。好ましくは、上記液晶組成物は、溶媒中に液晶化合物が均一に溶解した溶液である。
【0018】
A−2−1.重合性の液晶化合物
本発明においては、1種以上の重合性の液晶化合物(液晶モノマー)が用いられる。本明細書において、「液晶化合物」とは、分子構造中にメソゲン基(中心コア)を有し、加熱、冷却等の温度変化によるか、またはある量の溶媒の作用により、液晶相を形成する分子をいう。また、「メソゲン基」とは、液晶相を形成するために必要な構造部分をいい、通常、環状単位を含む。
【0019】
上記重合性の液晶化合物の形状は、任意の形状であり得る。例えば、棒状であっても、円盤状であってもよい。好ましくは、上記重合性の液晶化合物は、棒状液晶化合物である。本明細書において、「棒状液晶化合物」とは、分子構造中に、棒状のメソゲン基を有し、該メソゲン基の片側または両側に側差が、エーテル結合やエステル結合で結合しているものをいう。上記メソゲン基としては、例えば、ビフェニル基、フェニルベンゾエート基、フェニルシクロヘキサン基、アゾキシベンゼン基、アゾメチン基、アゾベンゼン基、フェニルピリミジン基、ジフェニルアセチレン基、ジフェニルベンゾエート基、ビシクロヘキサン基、シクロヘキシルベンゼン基、ターフェニル基等が挙げられる。なお、これらの環状単位の末端は、例えば、シアノ基、アルキル基、アルコキシ基、ハロゲン基等の置換基を有していてもよい。なかでも、環状単位等からなるメソゲン基としては、ビフェニル基、フェニルベンゾエート基を有するものが好ましく用いられる。
【0020】
好ましくは、上記重合性の液晶化合物は、配向処理が施されていない基材上において、ホメオトロピック配向性を示す化合物である。上記ホメオトロピック配向性とは、基板平面に対して法線方向に配向する性質をいう。このような性質を示す液晶化合物は、溶媒と混合して、配向処理した基板上に塗布することによって、チルト角の大きい傾斜配向を形成することができる。
【0021】
上記重合性の液晶化合物は、好ましくは、分子構造の一部分に2つ以上の重合性(架橋性)官能基を有する。重合反応によって生じる架橋構造によって、機械的強度が増し、耐久性に優れた位相差フィルムが得られるからである。上記重合性(架橋性)官能基としては、例えば、アクリロイル基、メタクリロイル基、エポキシ基、ビニルエーテル基等が挙げられる。2つ以上の重合性(架橋性)官能基を有する市販の液晶化合物としては、例えば、BASF社製 商品名「Paliocolor LC242」、HUNTSMAN社製 商品名「CB483」等が挙げられる。
【0022】
液晶組成物中の重合性の液晶化合物の含有量は、液晶組成物の全固形分100重量部に対して、好ましくは40重量部以上100重量部未満であり、さらに好ましくは50重量部以上100重量部未満であり、特に好ましくは70重量部以上100重量部未満である。
【0023】
A−2−2.溶媒
上記溶媒としては、上記液晶化合物を溶解または分散し得る任意の適切な溶媒が採用され得る。好ましくは、液晶化合物を均一に溶解し、かつ、基材を過度に侵食したり、配向処理の規制力を阻害したりしない溶媒が用いられ得る。使用される溶媒の種類は、液晶化合物の種類等に応じて適宜選択され得る。溶媒の具体例としては、クロロホルム、ジクロロメタン、四塩化炭素、ジクロロエタン、テトラクロロエタン、塩化メチレン、トリクロロエチレン、テトラクロロエチレン、クロロベンゼン、オルソジクロロベンゼン等のハロゲン化炭化水素類、フェノール、p−クロロフェノール、o−クロロフェノール、m−クレゾール、o−クレゾール、p−クレゾール等のフェノール類、ベンゼン、トルエン、キシレン、メシチレン、メトキシベンゼン、1,2−ジメトキシベンゼン等の芳香族炭化水素類、アセトン、メチルエチルケトン(MEK)、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、シクロペンタノン、2−ピロリドン、N−メチル−2−ピロリドン等のケトン系溶媒、酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸プロピル等のエステル系溶媒、t−ブチルアルコール、グリセリン、エチレングリコール、トリエチレングリコール、エチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、2−メチル−2,4−ペンタンジオールのようなアルコール系溶媒、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミドのようなアミド系溶媒、アセトニトリル、ブチロニトリルのようなニトリル系溶媒、ジエチルエーテル、ジブチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサンのようなエーテル系溶媒、あるいは二硫化炭素、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブ、酢酸エチルセロソルブ等が挙げられる。これらの溶媒は、単独で、または2種類以上を組み合わせて用いられ得る。なかでも、ケトン系溶媒が好ましく、シクロペンタノンがさらに好ましい。
【0024】
A−2−3.その他の成分
上記液晶組成物は、高分子の液晶化合物(液晶ポリマー)をさらに含有し得る。上記高分子液晶化合物は、液晶化合物の配向性を向上させる目的で使用される。上記高分子液晶化合物の含有量は、液晶組成物中の全固形分100重量部に対して、好ましくは10重量部〜40重量部であり、さらに好ましくは15重量部〜30重量部である。上記高分子液晶化合物としては、例えば、下記一般式(I)で表される化合物が挙げられる。
【化1】

(式中、hは14〜20の整数であり、mとnとの和を100とした場合に、mは50〜70であり、nは30〜50である。)
【0025】
上記液晶組成物は、本発明の目的を損なわない範囲で、任意の添加剤をさらに含有し得る。上記添加剤としては、重合開始剤、表面調製剤、界面活性剤、滑剤、架橋剤等が挙げられる。これらの添加剤の含有量は、液晶組成物中の全固形分100重量部に対して、好ましくは0を超え30重量部以下であり、さらに好ましくは0を超え20重量部以下であり、特に好ましくは0を超え15重量部以下である。上記の範囲とすることによって、均一性の高い位相差フィルムを得ることができる。
【0026】
A−2−4.液晶組成物の調製方法
上記液晶組成物を調製する方法としては、市販品を用いても良く、市販品に、さらに溶媒を添加して用いてもよい。また、液晶化合物の固形分を各種溶媒に溶解させて用いてもよく、液晶化合物と各種添加剤と溶媒とを混合し溶解させて用いてもよい。
【0027】
上記液晶組成物の固形分濃度は、溶解性、塗布粘度、基材上へのぬれ性、塗布後の厚み等によって異なるが、液晶組成物中、好ましくは3〜50重量部、さらに好ましくは5〜40重量部、特に好ましくは10〜30重量部である。上記の範囲であれば、表面均一性の高い位相差フィルムを得ることができる。
【0028】
A−3.塗布手段
塗布手段としては、任意の適切なコータを用いた塗工方式を選択して、用いることができる。上記コータの具体例としては、リバースロールコータ、正回転ロールコータ、グラビアコータ、ナイフコータ、ロッドコータ、スロットオリフィスコータ、カーテンコータ、ファウンテンコータ、エアドクタコータ、キスコータ、ディップコータ、ビードコータ、ブレードコータ、キャストコータ、スプレイコータ、スピンコータ、押出コータ、ホットメルトコータ等が挙げられる。これらのなかでも、コータとして好ましくは、リバースロールコータ、正回転ロールコータ、グラビアコータ、ロッドコータ、スロットオリフィスコータ、カーテンコータ、ファウンテンコータ、スピンコータである。上記のコータを用いた塗工方式であれば、非常に薄く、かつ、均一に塗布層を形成できる。
【0029】
A−4.塗布層
本明細書において「塗布層」とは、溶媒と1種以上の重合性の液晶化合物とを含み、基板上に展開された層をいう。溶媒は、ある程度、蒸発していてもよい。上記塗布層の固形分濃度は、好ましくは10重量%〜30重量%である。上記塗布層の厚みは、好ましくは1μm〜10μm、さらに好ましくは1μm〜8μmである。
【0030】
B.工程B
工程Bは、工程Aで得られた塗布層を乾燥して、傾斜配向した液晶固化層を形成する工程である。
【0031】
B−1.乾燥手段
乾燥手段としては、任意の適切な乾燥手段が採用され得る。例えば、熱風または冷風が循環する空気循環式恒温オーブン、マイクロ波または遠赤外線等を利用したヒーター、温度調節用に加熱されたロール、ヒートパイプロールまたは金属ベルト等を用いた加熱方法や温度制御方法が挙げられる。
【0032】
乾燥時間は、好ましくは20秒〜20分、さらに好ましくは1分〜10分、特に好ましくは1分〜5分である。乾燥温度は、好ましくは30℃以上、液晶相−等方相転移温度(Ti)以下であり、さらに好ましくは30℃〜120℃である。なお、等方相転移温度(Ti)は、液晶化合物を含む液晶組成物のサンプルを、加熱しながら、偏光顕微鏡観察することによって知ることができる。
【0033】
B−2.液晶固化層
本明細書において「液晶固化層」は、溶媒と重合性の液晶化合物とを含む液晶組成物から、上記溶媒を蒸発させ、冷却して、固まった状態のものをいう。上記液晶固化層は、実質的に固まった状態のものであれば、溶媒を含んでいてもよい。上記液晶固化層の固形分濃度は、好ましくは80重量%〜100重量%である。上記液晶固化層の厚みは、好ましくは0.3μm〜5μm、さらに好ましくは0.3μm〜3μmである。
【0034】
上記液晶固化層は、液晶化合物が傾斜配向したものである。液晶化合物の傾斜配向は、塗布層の乾燥過程で、基材側の配向処理による規制力と、基材とは反対側(例えば、空気側)の規制力との差やそれらのバランスにより、生じると推定される。上記傾斜配向は、厚み方向に均一なチルト角を有するものであってもよいし、厚み方向でチルト角の異なるもの(例えば、チルト角が厚み方向に序々に変化した「ハイブリッド配列」)であってもよい。好ましくは、上記液晶固化層は、ハイブリッド配列に配向したものである。
【0035】
C.工程C
工程Cは、工程Bで得られた液晶固化層の表面に、該液晶固化層の表面温度が50℃以下、かつ、該液晶固化層表面の波長365nmにおける照射量が100mJ/cm以下となるように紫外線を照射し(1回目の照射)、次いで、該液晶固化層表面の波長365nmにおける照射量が600mJ/cm以上となるように紫外線を照射して(2回目の照射)、傾斜配向した液晶硬化層を形成する工程である。このように、多段的に紫外線を照射して硬化を行うことにより、液晶化合物のチルト角を大きくすることと、高温環境下における位相差変化を小さくすることとを両立できるという効果が奏され得る。
【0036】
上記のような効果が奏されるメカニズムは詳細には不明であるが、以下のように推測される。すなわち、液晶化合物の傾斜配向は、基材側の配向処理による規制力と、基材とは反対側(例えば、空気側)の規制力との差やそれらのバランスにより、生じると推定される。基材とは反対側の界面が空気である場合、該空気側の規制力は、基材側の配向処理による規制力よりも比較的小さい。このため、液晶化合物の配向が十分固定されていない状態で、該液晶化合物を高温環境下に曝す(温度管理を行わずに強い紫外線を照射する)と、分子の運動エネルギーが、上記空気側の規制力を上回り、該液晶化合物は、基材側の規制力にのみしか規制されない状態となり得る。このため、該液晶化合物のチルト角が低下するものと考えられる。本発明では、液晶化合物の配向が十分固定されていない状態においては、所定の温度条件下で所定量以下の紫外線照射(1回目の照射)を行うので、分子に過度の運動エネルギーを与えない。そのため、上記規制力のバランスを過度に乱すことなく重合性の液晶化合物を重合させ得る。すなわち、該液晶化合物の所望の配向状態(チルト角が大きい配向状態)を十分に固定することができる。さらに、このように液晶化合物の配向状態が十分に固定された場合には、高温環境下に曝(温度管理を行わずに強い紫外線を照射)しても、該配向状態は乱れないことから、紫外線を強く照射することができる。これにより、重合性の液晶化合物の重合をさらに進行させて、安定した網目構造を形成することができる。その結果、高温環境下でも液晶化合物が運動せず、位相差変化の小さい位相差フィルムを得ることができる。
【0037】
C−1.1回目の照射条件
本発明に採用される1回目の照射は、チルト角の大きい傾斜配向した液晶固化層を形成するために、液晶固化層の表面温度が50℃以下、かつ、該液晶固化層表面の波長365nmにおける照射量が100mJ/cm以下の条件下で実施される。1回目の紫外線照射後における液晶固化層は、それに含まれる重合性の液晶化合物が、その傾斜配向が十分に固定される程度に架橋したものである。
【0038】
1回目の照射における上記液晶固化層の表面温度は、好ましくは20℃〜50℃であり、さらに好ましくは30℃〜40℃である。上記照射量は、好ましくは10mJ/cm〜100mJ/cmであり、さらに好ましくは20mJ/cm〜40mJ/cmである。上記の条件であれば、大きなチルト角で液晶化合物の傾斜配向が固定化されるので、2回目の紫外線照射で、配向が乱れてチルト角が低下することがない。
【0039】
C−2.2回目の照射条件
本発明に採用される2回目の照射は、高温環境下における位相差変化が小さい液晶硬化層であって、傾斜配向した液晶硬化層を形成するために、該液晶固化層表面の波長365nmにおける照射量が600mJ/cm以上の条件下で実施される。2回目の紫外線照射後における液晶硬化層は、それに含まれる重合性の液晶化合物が、十分に架橋したものである。上記架橋(重合)反応の進行状況は、液晶化合物の重合性(架橋性)官能基に起因する赤外吸収スペクトルを測定し、該スペクトルが減少することによって確認できる。
【0040】
上記照射量は、好ましくは600mJ/cm〜1500mJ/cmであり、さらに好ましくは800mJ/cm〜1000mJ/cmである。上記の条件であれば、高温環境下における位相差変化が小さい液晶硬化層であって、傾斜配向した液晶硬化層を形成することができる。
【0041】
C−3.照射手段
本発明に採用される紫外線の照射手段としては、規定の照射温度および照射量を達成できるものであれば、任意の適切な紫外線照射装置が用いられる。上記紫外線照射装置は、1回目の照射のために、液晶固化層表面の温度を制御する温度制御手段(例えば、加熱・冷却ステージ)を備えることが好ましい。照射光源としては、超高圧水銀ランプ、フラッシュUVランプ、高圧水銀ランプ、低圧水銀ランプ、ディープUVランプ、キセノンランプ、メタルハライドランプ等が挙げられる。
【0042】
上記光源の波長は、本発明に用いられる液晶化合物の重合性(架橋性)官能基が光学吸収を有する波長領域に応じて決定できる。波長は、好ましくは210nm〜380nm、さらに好ましくは250nm〜380nmである。上記光源の波長は、液晶化合物等の光分解反応を抑えるために、100nm〜200nmの領域をフィルタ等でカットして用いることが好ましい。上記の範囲であれば、液晶化合物が重合または架橋反応によって十分に硬化し、機械的強度に優れた位相差フィルムが得られ得る。
【0043】
C−4.液晶硬化層
本明細書において「液晶硬化層」とは、液晶化合物、若しくは液晶化合物を含む混合物の一部または全部が、紫外線により架橋されて、不溶不融または難溶難融の状態となったものをいう。上記液晶硬化層は、成膜前は液晶相を示すが、成膜後は、架橋反応によって網目構造を形成し、液晶相を示さないものであってもよい。
【0044】
上記液晶硬化層の厚みは、好ましくは1μm〜5μm、さらに好ましくは1μm〜3μmである。上記液晶硬化層は、液晶化合物が傾斜配向したものであり、好ましくはハイブリッド配列に配向したものである。
【0045】
傾斜配向した液晶化合物の平均傾斜角度(液晶化合物の一方の側(例えば、空気界面)のチルト角と、他方の側(例えば、基材または配向膜界面)のチルト角の平均値)は、好ましくは10°〜45°であり、さらに好ましくは15°〜42°である。ここで、チルト角とは、隣接する層面と液晶化合物分子とのなす角度を表し、当該分子が面内に平行に配列されている場合を0°とする。
【0046】
D.位相差フィルム
本発明の製法によって得られる位相差フィルムは、傾斜配向した液晶硬化層を備えるものであれば、他の部材を含んでいてもよい。例えば、基材が、透明、かつ、光学的に等方性または液晶セルの視野角拡大に好適な複屈折性を有する場合、上記位相差フィルムは、基材と傾斜配向した液晶硬化層とを備える。また、上記位相差フィルムは、傾斜配向した液晶硬化層を基材から剥離し、接着層を介して、他のフィルムに転写して用いてもよい。また、上記位相差フィルムは、他の位相差層、偏光素子、接着層、ハードコート層、アンカーコート層等が積層されていてもよい。
【0047】
D−1.位相差フィルムの光学特性
上記位相差フィルムが傾斜配向した液晶硬化層のみからなる場合、該位相差フィルムの面内位相差Reは、例えば、50nm〜200nm、好ましくは70nm〜180nmであり得る。なお、本明細書において、「面内位相差Re」は、23℃における波長590nmの光で測定したフィルム(層)面内の位相差値をいう。Reは、波長590nmにおけるフィルム(層)の遅相軸方向(面内の屈折率が最大になる方向)、進相軸方向(面内で遅相軸に垂直な方向)の屈折率をそれぞれ、nx、nyとし、d(nm)をフィルム(層)の厚みとしたとき、式:Re=(nx−ny)×dによって求められる。
【0048】
上記位相差フィルムの23℃における波長590nmの光で測定した透過率は、好ましくは80%以上であり、さらに好ましくは85%以上であり、特に好ましくは90%以上である。なお、透過率の理論上の上限は、100%である。
【0049】
D−2.位相差フィルムの用途
上記位相差フィルムは、好ましくは液晶表示装置に使用される。上記液晶表示装置の用途は、例えば、パソコンモニター、ノートパソコン、コピー機等のOA機器、携帯電話、時計、デジタルカメラ、携帯情報端末(PDA)、携帯ゲーム機等の携帯機器、ビデオカメラ、テレビ、電子レンジ等の家庭用電気機器、バックモニター、カーナビゲーションシステム用モニター、カーオーディオ等の車載用機器、商業店舗用インフォメーション用モニター等の展示機器、監視用モニター等の警備機器、介護用モニター、医療用モニター等の介護・医療機器等である。
【0050】
本発明について、以下の実施例および比較例を用いて更に説明する。なお、本発明は、これらの実施例のみに限定されるものではない。なお、実施例で用いた各分析方法は、以下の通りである。
【0051】
(1)厚みの測定
薄膜用分光光度計[大塚電子(株)製 製品名「瞬間マルチ測光システム MCPD−2000」]を用いて測定した。
【0052】
(2)チルト角(θ)の測定
チルト角(θ)は、θairとθALの平均値である。θairおよびθALは、オプトサイエンス社製 製品名「Axoscan」を用いて測定した位相差フィルムの角度φにおける位相差値(R)と、アッベ屈折率計で求めた常光および異常光の屈折率(n,n)と、上記薄膜用分光光度計で求めた液晶硬化層の厚み(d)とを、Witteの式(I)または(II)に代入して求めた。位相差値(R)は、角度φを−40°〜+40°の範囲で、5°刻みで測定した。ただし、法線方向をφ=0°とする。なお、θairは、液晶化合物の一方の側(例えば、空気界面)のチルト角を表し、θALは、他方の側(例えば、基材または配向膜界面)のチルト角を表す。
【数1】

【0053】
(3)照射量の測定
アイグラフィックス(株)製 製品名「EYE UV METER UVPF−A1」を用いて照射量を測定した。
【0054】
(4)位相差値(Re)の測定
平行ニコル回転法を原理とする位相差計[王子計測機器(株)製 製品名「KOBRA21−ADH」]を用いて、23℃における波長590nmの光で測定した。
【0055】
(5)位相差変化率
80℃の空気循環式オーブンで100時間加熱(乾燥)した位相差フィルムの位相差値(Re)を測定し、初期(乾燥前)の位相差値(Re)に対する乾燥前後の位相差値(Re)の差を百分率で求めた。すなわち、位相差変化率は、下記式によって求められる。
位相差変化率(%)=(乾燥後の位相差値(Re)−初期の位相差値(Re))/初期の位相差値(Re)×100
【0056】
[実施例1]
1.液晶組成物の調製
20重量部の下記式(II)で表される高分子液晶化合物(重量平均分子量:5,000)と、80重量部の重合性液晶化合物[BASF社製、商品名「PaliocolorLC242」(ne=1.654、no=1.523)]とを、200重量部のシクロペンタノンに溶解した。得られた溶液に、0.3重量部の表面調製剤[ビックケミー社製 商品名「BYK375」]を加え、さらに7重量部の重合開始剤[Ciba社製 商品名「イルガキュア907」]を加えた。この溶液に、固形分濃度が20重量%となるようにシクロペンタノンを加えることにより、液晶組成物を調製した。
【化2】

【0057】
2.工程A
ポリエチレンテレフタレートフィルム[東レ社製 商品名「RC06」]をラビング処理した。該ラビング処理表面に、上記1.で調製した液晶組成物を均一に塗布し、塗布層を形成した。このときの塗布層の厚みは、1.7μmであった。
【0058】
3.工程B
上記2.で得た塗布層を、80℃の空気循環式恒温オーブンで2分間乾燥させ、厚み1.7μmの傾斜配向した液晶固化層を形成した。
【0059】
4.工程C
上記3.で得た液晶固化層に、該固化層の表面温度を制御するための加熱・冷却ステージ[ジャパンハイテック(株)製 顕微鏡用冷却・加熱装置 製品名「LK−600」]と、高圧水銀ランプとを備える紫外線照射装置を用いて、該固化層の表面温度が40℃、かつ、該固化層表面の波長365nmにおける照射量が、20mJ/cmとなるように、紫外線を照射した(1回目の紫外線照射)。その後、該固化層の表面温度を制御せずに、上記紫外線照射装置を用いて、該固化層表面の波長365nmにおける照射量が、600mJ/cmとなるように、空気雰囲気下で紫外線を照射(2回目の紫外線照射)して、傾斜配向した液晶硬化層を形成した。2回目の紫外線照射時の該固化層の表面温度を、熱電対を用いて測定したところ、60℃であった。
【0060】
上記工程A〜Cを経て、基材と液晶硬化層とを備える位相差フィルムAを作製した。工程Cにおける紫外線照射条件を表1に示す。また、該液晶硬化層を基材から剥離して測定した物性を表2に示す。なお、該液晶硬化層の波長590nmにおける透過率は、90%であり、波長590nmにおける面内の位相差値Reは120nmであった。
【0061】
[実施例2]
1回目の紫外線照射時において、液晶固化層の表面温度を30℃とした以外は、実施例1と同様の方法で位相差フィルムBを作製した。工程Cにおける紫外線照射条件を表1に示す。また、該液晶硬化層を基材から剥離して測定した物性を表2に示す。
【0062】
[比較例1]
1回目の紫外線照射時において、固化層の表面温度を60℃とした以外は、実施例1と同様の方法で位相差フィルムCを作製した。工程Cにおける紫外線照射条件を表1に示す。また、該液晶硬化層を基材から剥離して測定した物性を表2に示す。
【0063】
[比較例2]
1回目の紫外線照射時において、固化層の表面温度を30℃とし、2回目の紫外線照射おいて、紫外線の照射量を200mJ/cmとした以外は、実施例1と同様の方法で位相差フィルムDを作製した。工程Cにおける紫外線照射条件を表1に示す。また、該液晶硬化層を基材から剥離して測定した物性を表2に示す。
【0064】
[比較例3]
1回目の紫外線照射時において、該固化層の表面温度を制御せずに、紫外線の照射量を600mJ/cmとし、2回目の紫外線照射を行わなかった以外は、実施例1と同様の方法で位相差フィルムEを作製した。工程Cにおける紫外線照射条件を表1に示す。また、該液晶硬化層を基材から剥離して測定した物性を表2に示す。
【0065】
【表1】

【0066】
【表2】

【0067】
表2に示されるとおり、本発明の製造方法によれば、所定の条件で多段的に液晶固化層を硬化させるので、液晶化合物のチルト角が大きく、かつ、高温環境下における位相差変化が小さい位相差フィルムが得られる。
【0068】
[参考例1]
実施例1で調製した液晶組成物を用いた場合の、1回目の紫外線照射(波長365nmにおける照射量が、20mJ/cm)における液晶固化層の表面温度と、チルト角との関係を調べた。結果を図1に示す。図1に示されるとおり、液晶固化層の表面が50℃を超える場合、チルト角が十分に大きい位相差フィルムが得られないことがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0069】
本発明の製造方法は、チルト角が大きく、かつ、高温環境下における位相差変化の小さい位相差フィルムを十分な生産性で得ることができるので、位相差フィルムの製造分野において好適に適用され得る。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】図1は、1回目の紫外線照射(波長365nmにおける照射量が、20mJ/cm)における液晶固化層の表面温度と、チルト角との関係を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
傾斜配向した液晶硬化層を備える位相差フィルムの製造方法であって、次の工程A〜工程Cを含む、位相差フィルムの製造方法;
工程A;配向処理が施された基材の該配向処理表面上に、溶媒と1種以上の重合性の液晶化合物とを含む液晶組成物を塗布して、塗布層を形成する工程、
工程B;該塗布層を乾燥して、傾斜配向した液晶固化層を形成する工程、
工程C;該液晶固化層の表面に、該液晶固化層の表面温度が50℃以下、かつ、該液晶固化層表面の波長365nmにおける照射量が100mJ/cm以下となるように紫外線を照射し、次いで、該液晶固化層表面の波長365nmにおける照射量が600mJ/cm以上となるように紫外線を照射して、傾斜配向した液晶硬化層を形成する工程。
【請求項2】
前記配向処理が、ラビング処理である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記液晶化合物が、配向処理が施されていない基材上において、ホメオトロピック配向性を示す化合物である、請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記液晶硬化層の厚みが、1μm〜5μmである、請求項1〜3のいずれかに記載の製造方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の製造方法によって得られる、位相差フィルム。
【請求項6】
請求項5に記載の位相差フィルムを含む、液晶表示装置。

【図1】
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【公開番号】特開2008−287004(P2008−287004A)
【公開日】平成20年11月27日(2008.11.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−131906(P2007−131906)
【出願日】平成19年5月17日(2007.5.17)
【出願人】(000003964)日東電工株式会社 (5,557)
【Fターム(参考)】