説明

優れたストレス耐性を有する酵母の分子育種法及び遺伝子改変酵母

【課題】優れたストレス耐性を有する遺伝子改変酵母を製造するための核酸カセット、方法、およびその酵母を提供すること。
【解決手段】高ショ糖ストレスもしくは冷凍ストレスまたはその双方に対して耐性の酵母を製造するための核酸カセットであって、高ショ糖ストレスもしくは冷凍ストレスまたはその双方により誘導されるプロモーター;および該プロモーターの下流に作動可能に連結された、酵母のARO1遺伝子、BUD23遺伝子、PMR1遺伝子、SNF5遺伝子、GON7遺伝子、SPT20遺伝子、CBS2遺伝子、もしくはDBF2遺伝子をコードするポリヌクレオチドまたはその5’末端フラグメント、あるいはそれらの組合せ;を含む、核酸カセット。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、優れたストレス耐性を有する遺伝子改変酵母を製造するための核酸カセット、その方法、およびその核酸カセットを使用して得られる遺伝子改変酵母に関する。より具体的には、本発明は、ショ糖ストレスもしくは冷凍ストレスまたはその双方に対して耐性の酵母を製造するための核酸カセット、その方法、および得られる酵母に関する。
【背景技術】
【0002】
酵母の発酵産業への利用において、酵母の発酵および生育阻害要因となるストレスの存在が問題となっている。例えば、パンの製造においては、我が国において需要の多い菓子パン等に用いられる高糖生地では、約30%(対小麦粉比)にも及ぶショ糖が添加されることから、極めて高い浸透圧ストレス(高ショ糖ストレス)が負荷される。また、近年、急速に普及した冷凍生地製パン法においては冷凍ストレスが負荷される。以上のことから、酵母の産業利用においては様々なストレス(例えば、ショ糖ストレスもしくは冷凍ストレス)に対する耐性の向上が求められている。従来より、ストレス耐性の向上を目的とした交配や突然変異導入等による育種が行われてきたが、得られた耐性は十分とは言い難い。近年のバイオマスエタノールへの注目を受け、より優れたストレス耐性を持つ酵母の開発が急務となっている。
【0003】
1990年代以降、ストレス耐性機構に関する知見の蓄積に伴い、耐性関連遺伝子を改変することによって耐性を増強しようという試みがなされている。特許文献1は、ストレスに起因する細胞の障害を緩和する役割を担うことが知られている、いわゆる適合溶質の代謝を操作することによる冷凍耐性酵母の作出を開示する。具体的には、特許文献1は、NTH1遺伝子(中性トレハラーゼ遺伝子)を遺伝子破壊した1倍体酵母または2倍体以上の倍数体酵母を開示する。非特許文献1は、芳香族アミノ酸合成関連の遺伝子(ARO1など)を破壊することによって高ショ糖ストレス耐性が著しく損なわれることを開示する。非特許文献1はまた、BUD23、GON7、SPT20の遺伝子破壊株が高ショ糖ストレスに高い感受性を示すことを開示する。非特許文献2は、PMR1遺伝子またはSNF5遺伝子を破壊することによって冷凍ストレス耐性が損なわれることを開示する。非特許文献3は、CBS2欠損により、乾燥ストレス感受性になることを開示する。非特許文献4は、DBF2の破壊により、ソルビン酸ストレスに対して高感受性になることを開示する。
【特許文献1】特開平10−117771号公報
【非特許文献1】Andoら,「Identification and classification of genes required for tolerance to high−sucrose stress revealed by genome−wide screening of Saccharomyces cerevisiae.」,FEMS Yeast Res(2006)6:249−267
【非特許文献2】Andoら「Identification and classification of genes required for tolerance to freeze−thaw stress revealed by genome−wide screening of Saccharomyces cerevisiae deletion strains.」FEMS Yeast Res.(2007)7:244−253
【非特許文献3】Shimaら「Possible roles of vacuolar H+−ATPase and mitochondrial function in tolerance to air−drying stress revealed by genome−wide screening of Saccharomyces cerevisiae deletion strains」Yeast(2008)25:179−190
【非特許文献4】Makrantoniら「A novel role for the yeast protein kinase Dbf2p in vacuolar H+−ATPase function and sorbic acid stress tolerance」Microbiology(2007)153:4016−4026
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
優れたストレス耐性を有する遺伝子改変酵母を製造するための核酸カセット、方法、およびその酵母を提供すること。
【課題を解決するための手段】
【0005】
(発明の要旨)
本発明は、以下を提供する:
・(項目1)
高ショ糖ストレスもしくは冷凍ストレスまたはその双方に対して耐性の酵母を製造するための核酸カセットであって、
高ショ糖ストレスもしくは冷凍ストレスまたはその双方により誘導されるプロモーター;および
当該プロモーターの下流に作動可能に連結された、酵母のARO1遺伝子、BUD23遺伝子、PMR1遺伝子、SNF5遺伝子、GON7遺伝子、SPT20遺伝子、CBS2遺伝子、もしくはDBF2遺伝子をコードするポリヌクレオチドまたはその5’末端フラグメント、あるいはそれらの組合せ;
を含む、核酸カセット。
・(項目2)
上記プロモーターが、HSP104プロモーターである、項目1に記載の核酸カセット。
・(項目3)
上記ARO1遺伝子が、配列番号1に示されるヌクレオチド配列からなり、
上記BUD23遺伝子が、配列番号2に示されるヌクレオチド配列からなり、
上記PMR1遺伝子が、配列番号3に示されるヌクレオチド配列からなり、
上記SNF5遺伝子が、配列番号4に示されるヌクレオチド配列からなり、
上記GON7遺伝子が、配列番号34に示されるヌクレオチド配列からなり、
上記SPT20遺伝子が、配列番号35に示されるヌクレオチド配列からなり、
上記CBS2遺伝子が、配列番号36に示されるヌクレオチド配列からなり、
上記DBF2遺伝子が、配列番号37に示されるヌクレオチド配列からなる、
項目1に記載の核酸カセット。
・(項目4)
上記プロモーターの上流に、上記ARO1遺伝子、BUD23遺伝子、PMR1遺伝子、SNF5遺伝子、GON7遺伝子、SPT20遺伝子、CBS2遺伝子、もしくはDBF2遺伝子の上流領域のポリヌクレオチドをさらに含む、項目1に記載の核酸カセット。
・(項目5)
選択マーカーをコードするポリヌクレオチドをさらに含む、項目1に記載の核酸カセット。
・(項目6)
上記選択マーカーが、栄養要求性マーカー、抗生物質耐性マーカー、蛍光タンパク質マーカー、発光タンパク質マーカー、酵素タンパク質マーカー、および薬剤耐性マーカーからなる群より選択される、項目5に記載の核酸カセット。
・(項目7)
上記栄養要求性マーカーが、URA3マーカーである、項目6に記載の核酸カセット。
・(項目8)
上記5’末端フラグメントが、導入された酵母中のARO1遺伝子、BUD23遺伝子、PMR1遺伝子、SNF5遺伝子、GON7遺伝子、SPT20遺伝子、CBS2遺伝子、もしくはDBF2遺伝子と相同組換えを生じるために十分な長さである、項目1に記載の核酸カセット。
・(項目9)
上記長さが、少なくとも40ヌクレオチドである、項目8に記載の核酸カセット。
・(項目10)
上記長さが、少なくとも600ヌクレオチドである、項目9に記載の核酸カセット。
・(項目11)
上記酵母が、サッカロミセス・セレビシェである、項目1に記載の核酸カセット。
・(項目12)
高ショ糖ストレスまたは冷凍ストレスに対して耐性の酵母を製造する方法であって、
酵母中に項目1に記載の核酸カセットを導入する工程;
を包含する、方法。
・(項目13)
上記酵母が、サッカロミセス・セレビシェである、項目12に記載の方法。
・(項目14)
上記サッカロミセス・セレビシェが、Y244株(受託番号NITE P−274)である、項目13に記載の方法。
・(項目15)
上記サッカロミセス・セレビシェが、Y245株(受領番号NITE AP−401;受託番号NITE P−401)である、項目13に記載の方法。
・(項目16)
項目1に記載の核酸カセットを含む、酵母。
・(項目17)
サッカロミセス・セレビシェである、項目16に記載の酵母。
・(項目18)
受領番号NITE AP−404(受託番号NITE P−404)、受領番号NITE AP−405(受託番号NITE P−405)、受領番号NITE AP−403(受託番号NITE P−403)、受領番号NITE AP−402(受託番号NITE P−402)、受領番号NITE AP−633、受領番号NITE AP−634、受領番号NITE AP−635、受領番号NITE AP−636からなる群より選択される株である、項目17に記載の酵母。
・(項目19)
項目16に記載の酵母を含む、食品またはその材料。
・(項目20)
パン、パン生地、アルコール、菓子類、漬物、および発酵調味料からなる群より選択される、項目19に記載の食品またはその材料。
・(項目21)
高ショ糖ストレスまたは冷凍ストレスに対して耐性の酵母を製造するための、ARO1遺伝子、BUD23遺伝子、PMR1遺伝子、SNF5遺伝子、GON7遺伝子、SPT20遺伝子、CBS2遺伝子、もしくはDBF2遺伝子をコードするポリヌクレオチドまたはそれらの組合せの使用。
・(項目22)
上記サッカロミセス・セレビシェが、Y249株(受領番号NITE AP−631)である、項目13に記載の方法。
・(項目23)
上記サッカロミセス・セレビシェが、Y251株(受領番号NITE AP−632)である、項目13に記載の方法。
【0006】
本発明は、酵母のARO1遺伝子および/またはBUD23遺伝子および/またはGON7遺伝子および/またはSPT20遺伝子および/またはCBS2遺伝子および/またはDBF2遺伝子の発現を増強することによって酵母の高ショ糖ストレス耐性を増強することに関する。酵母ARO1遺伝子は、芳香族アミノ酸合成の一部を触媒する酵素をコードしている。酵母のARO1遺伝子を含む芳香族アミノ酸合成関連の遺伝子を破壊することによって酵母の高ショ糖ストレス耐性が著しく損なわれることは、以前に公知であった(Andoら,「Identification and classification of genes required for tolerance to high−sucrose stress revealed by genome−wide screening of Saccharomyces cerevisiae.」,FEMS Yeast Res(2006)6:249−267)。酵母BUD23遺伝子は、娘細胞の出芽部位の決定に関与しているが、その分子機構は不明である。酵母BUD23遺伝子破壊株が高ショ糖ストレスに高い感受性を示すこともまた以前に公知であった(Andoら、上記文献)。酵母GON7遺伝子は、N結合型オリゴ糖へのマンノシルリン酸基の転移に関与すると提唱されているタンパク質をコードしており、酵母GON7遺伝子破壊株が高ショ糖ストレスに高い感受性を示すこともまた以前に公知であった(Andoら、上記文献)。酵母SPT20遺伝子は、転写部位選択を変化させるTBPクラスのSPTタンパク質のメンバーをコードしており、酵母SPT20遺伝子破壊株が高ショ糖ストレスに高い感受性を示すこともまた以前に公知であった(Andoら、上記文献)。酵母CBS2遺伝子は、ミトコンドリアタンパク質の翻訳の活性化に関与しており(Krause−Buchholzら「Saccharomyces cerevisiae translational activator Cbs2p is associated with mitochondrial ribosomes」,Current Genetics(2004)46:20−28)、その遺伝子欠損により、乾燥ストレス感受性になることが、以前に公知であった(Shimaら「Possible roles of vacuolar H−ATPase and mitochondrial function in tolerance to air−drying stress revealed by genome−wide screening of Saccharomyces cerevisiae deletion strains」Yeast(2008)25:179−190)。酵母DBF2遺伝子は、セリン−スレオニンプロテインキナーゼをコードしている。DBF2の破壊により、ソルビン酸ストレスに対して高感受性になることが、以前に公知であった(Makrantoniら「A novel role for the yeast protein kinase Dbf2p in vacuolar H−ATPase function and sorbic acid stress tolerance」Microbiology(2007)153:4016−4026)。しかし、酵母のARO1遺伝子および/またはBUD23遺伝子および/またはGON7遺伝子および/またはSPT20遺伝子および/またはCBS2遺伝子および/またはDBF2遺伝子の発現を増強することによって酵母の高ショ糖ストレス耐性を実際に増強し得たという本発明の効果は、このような本願出願時の文献および技術常識から全く予想外であった。なぜなら、遺伝子破壊による表現型と、当該遺伝子の過剰発現による表現型の変化については、一般化できるような法則性はないからである。また、ARO1遺伝子、BUD23遺伝子、GON7遺伝子、SPT20遺伝子、CBS2遺伝子、およびDBF2遺伝子の遺伝子発現と高ショ糖ストレス耐性との関連に言及した報告は現在までにない。従って、これら遺伝子の発現増強によって高ショ糖ストレス耐性の向上が得られたことは予想外であった。
【0007】
本発明はまた、酵母のPMR1遺伝子および/またはSNF5遺伝子の発現を増強することによって酵母の冷凍ストレス耐性を増強することに関する。酵母PMR1遺伝子は、ゴルジ体膜上に局在するイオンポンプをコードしており、ゴルジ体のみならず細胞内のイオン恒常性維持に関与している。PMR1遺伝子を破壊することによって冷凍ストレス耐性が損なわれる(Andoら「Identification and classification of genes required for tolerance to freeze−thaw stress revealed by genome−wide screening of Saccharomyces cerevisiae deletion strains.」FEMS Yeast Res. 2007 7:244−253)。酵母SNF5遺伝子は、DNA複製および転写に関与するSWI/SNF複合体の構成タンパク質の一つをコードしている。SNF5遺伝子を破壊することによって冷凍ストレス耐性が損なわれる(Andoら,FEMS Yeast Res 7,244−253)。しかし、酵母のPMR1遺伝子および/またはSNF5遺伝子の発現を増強することによって酵母の冷凍ストレス耐性を増強し得たという本発明の効果は、このような本願出願時の文献および技術常識から全く予想外であった。なぜなら、遺伝子破壊による表現型と、当該遺伝子の過剰発現による表現型の変化については、一般化できるような法則性はないからである。また、PMR1遺伝子およびSNF5遺伝子の遺伝子発現と冷凍ストレス耐性との関連に言及した報告は現在までにない。従って、これら遺伝子の発現増強によって冷凍ストレス耐性の向上が得られたことは予想外であった。
【発明の効果】
【0008】
本発明により、優れたストレス耐性を有する遺伝子改変酵母を製造するための核酸カセット、方法、およびその酵母が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明を説明する。本明細書の全体にわたり、単数形の表現(例えば、英語の場合は「a」、「an」、「the」など)は、特に言及しない限り、その複数形の概念をも含むことが理解されるべきである。また、本明細書において使用される用語は、特に言及しない限り、当該分野で通常用いられる意味で用いられることが理解されるべきである。矛盾する場合、本明細書(定義を含めて)が優先する。
【0010】
(定義)
以下に本明細書において特に使用される用語の定義を列挙する。
【0011】
用語「ストレスに対して耐性」とは、酵母に関して使用される場合、種々のストレス(例えば、高ショ糖ストレス、冷凍ストレスなど)を負荷された条件下で生育し、かつその条件下でコントロール酵母株と比較して発酵力が強いことを意味する。そのような「発酵力」は、一定の酵母菌体量(OD600 Units)における発酵時のガス発生量により表わされる。
【0012】
用語「高ショ糖ストレス」とは、本明細書において使用される場合、ショ糖濃度が30重量%の酵母発酵条件を意味し、極めて高い浸透圧が酵母に対して負荷される。従って、本発明における高ショ糖ストレスに対して耐性である酵母は、同等の浸透圧を負荷する他の溶液中でも耐性であり得る。
【0013】
用語「冷凍ストレス」とは、本明細書において使用される場合、0℃以下にて酵母を冷凍することを意味する。酵母が冷凍される限り、0℃以下の任意の温度が使用され得る。
【0014】
用語「核酸カセット」とは、核酸またはそのアナログを含む構築物を意味する。この文脈において、核酸とは、一般的な意味において、任意の長さのヌクレオチドのポリマー形態を含み、このヌクレオチドとは、デオキシヌクレオチド、リボヌクレオチドおよび/またはこれらのアナログを含む。核酸は、DNA、RNA、DNA/RNAハイブリッドを含む。核酸のアナログとはまた、改変した骨格を含むもの(例えば、ペプチド核酸(PNA)またはホスホロチオエート)または改変した塩基を含有するものなどの、DNAアナログまたはRNAアナログを包含する。
【0015】
用語「ARO1遺伝子」とは、酵母ARO1タンパク質をコードする遺伝子を意味する。酵母ARO1タンパク質は、芳香族アミノ酸合成に関与する。例えば、酵母サッカロミセス・セレビシェ S288C株のARO1遺伝子のコード領域は、配列番号1に示されるヌクレオチド配列からなる。
【0016】
用語「BUD23遺伝子」とは、酵母BUD23タンパク質をコードする遺伝子を意味する。酵母BUD23タンパク質は、出芽部位の決定に関与する。例えば、酵母サッカロミセス・セレビシェ S288C株のBUD23遺伝子のコード領域は、配列番号2に示されるヌクレオチド配列からなる。
【0017】
用語「PMR1遺伝子」とは、酵母PMR1タンパク質をコードする遺伝子を意味する。酵母PMR1タンパク質は、ゴルジ体のイオンポンプを構成する。例えば、酵母サッカロミセス・セレビシェ S288C株のPMR1遺伝子のコード領域は、配列番号3に示されるヌクレオチド配列からなる。
【0018】
用語「SNF5遺伝子」とは、酵母SNF5タンパク質をコードする遺伝子を意味する。酵母SNF5タンパク質は、転写複合体の一部を構成する。例えば、酵母サッカロミセス・セレビシェ S288C株のSNF5遺伝子のコード領域は、配列番号4に示されるヌクレオチド配列からなる。
【0019】
用語「GON7遺伝子」とは、酵母GON7タンパク質をコードする遺伝子を意味する。酵母GON7タンパク質は、N結合型オリゴ糖へのマンノシルリン酸基の転移に関与すると提唱されている。例えば、酵母サッカロミセス・セレビシェ S288C株のGON7遺伝子のコード領域は、配列番号34に示されるヌクレオチド配列からなる。
【0020】
用語「SPT207遺伝子」とは、酵母SPT20タンパク質をコードする遺伝子を意味する。酵母SPT20タンパク質は、転写部位選択を変化させるTBPクラスのSPTタンパク質のメンバーである。例えば、酵母サッカロミセス・セレビシェ S288C株のSPT20遺伝子のコード領域は、配列番号35に示されるヌクレオチド配列からなる。
【0021】
用語「CBS2遺伝子」とは、酵母CBS2タンパク質をコードする遺伝子を意味する。酵母CBS2タンパク質は、ミトコンドリアタンパク質の翻訳の活性化に関与している。例えば、酵母サッカロミセス・セレビシェ S288C株のCBS2遺伝子のコード領域は、配列番号36に示されるヌクレオチド配列からなる。
【0022】
用語「DBF2遺伝子」とは、酵母DBF2タンパク質をコードする遺伝子を意味する。酵母DBF2タンパク質は、セリン−スレオニンプロテインキナーゼ活性を有する。例えば、酵母サッカロミセス・セレビシェ S288C株のDBF2遺伝子のコード領域は、配列番号37に示されるヌクレオチド配列からなる。
【0023】
本発明の高ショ糖ストレスもしくは冷凍ストレスまたはその双方に対して耐性の酵母を製造するための核酸カセットは、当該核酸カセットに含まれる酵母のARO1遺伝子、BUD23遺伝子、PMR1遺伝子、SNF5遺伝子、GON7遺伝子、SPT20遺伝子、CBS2遺伝子、もしくはDBF2遺伝子をコードするポリヌクレオチドまたはその5’末端フラグメントと、相同組換えを生じ得るARO1遺伝子、BUD23遺伝子、PMR1遺伝子、SNF5遺伝子、GON7遺伝子、SPT20遺伝子、CBS2遺伝子、もしくはDBF2遺伝子を有する任意の株を形質転換するために使用し得ることが、当業者には容易に理解され得る。
【0024】
酵母サッカロミセス・セレビシェ S288C株と、酵母サッカロミセス・セレビシェ Y244株、Y245株、Y249株、およびY251株とは、極めて近縁な株であり、酵母サッカロミセス・セレビシェ S288C株ののARO1遺伝子、BUD23遺伝子、PMR1遺伝子およびSNF5遺伝子ならびにGON7遺伝子、SPT20遺伝子、CBS2遺伝子、およびDBF2遺伝子は、それぞれ、酵母サッカロミセス・セレビシェ Y244株、Y245株、Y249株、およびY251株のARO1遺伝子、BUD23遺伝子、PMR1遺伝子およびSNF5遺伝子ならびにGON7遺伝子、SPT20遺伝子、CBS2遺伝子、およびDBF2遺伝子とほぼ同一または全く同一のヌクレオチド配列を有していると推定される。酵母サッカロミセス・セレビシェ S288C株のARO1遺伝子、BUD23遺伝子、PMR1遺伝子およびSNF5遺伝子ならびにGON7遺伝子、SPT20遺伝子、CBS2遺伝子、およびDBF2遺伝子は、それぞれ、酵母サッカロミセス・セレビシェ Y244株、Y245株、Y249株、およびY251株のARO1遺伝子、BUD23遺伝子、PMR1遺伝子およびSNF5遺伝子ならびにGON7遺伝子、SPT20遺伝子、CBS2遺伝子、およびDBF2遺伝子と、少なくとも相同組換えを生じる程度の配列相同性を有することが、本出願において確認された。
【0025】
当業者は、酵母サッカロミセス・セレビシェ Y244株以外、Y245株以外、およびY249株以外、Y251株以外の酵母の株についても、相同組換えを生じる程度の配列相同性を有する限り任意の酵母サッカロミセス・セレビシェ株(例えば、S288C株であるが、これに限定はされない)のARO1遺伝子、BUD23遺伝子、PMR1遺伝子およびSNF5遺伝子ならびにGON7遺伝子、SPT20遺伝子、CBS2遺伝子、およびDBF2遺伝子に対応するその株の各遺伝子を用いて同様の遺伝子操作をすることができることを理解する。
【0026】
本明細書において「対応する」遺伝子(例えば、ポリペプチド分子またはポリヌクレオチド分子)とは、ある種において、比較の基準となる株における所定の遺伝子と同様の作用を有するか、または有することが予測される遺伝子(例えば、ポリペプチド分子またはポリヌクレオチド分子)をいい、そのような作用を有する遺伝子が複数存在する場合、進化学的に同じ起源を有するものであってもよい。従って、酵母サッカロミセス・セレビシェ Y244株のARO1遺伝子、BUD23遺伝子、PMR1遺伝子およびSNF5遺伝子は、それぞれ、酵母サッカロミセス・セレビシェ Y244株以外の酵母の株において、対応するARO1遺伝子、BUD23遺伝子、PMR1遺伝子およびSNF5遺伝子を見出すことができる。酵母サッカロミセス・セレビシェ Y249株のGON7遺伝子、SPT20遺伝子、CBS2遺伝子、およびDBF2遺伝子は、それぞれ、酵母サッカロミセス・セレビシェ Y249株以外の酵母の株において、対応するGON7遺伝子、SPT20遺伝子、CBS2遺伝子、およびDBF2遺伝子を見出すことができる。そのような対応する遺伝子は、当該分野において周知の技術を用いて同定することができる。したがって、例えば、ある動物(例えば、マウス)における対応する遺伝子は、対応する遺伝子の基準となる遺伝子(例えば、ARO1遺伝子、BUD23遺伝子、PMR1遺伝子およびSNF5遺伝子、ならびにGON7遺伝子、SPT20遺伝子、CBS2遺伝子、およびDBF2遺伝子)の配列をクエリ配列として用いて対象となる酵母株の配列データベースを検索することによって見出すことができる。以下に限定されることはないが、例えば、ARO1遺伝子について言えば、対応する他の酵母株のARO1遺伝子は、配列番号1に示す配列からなる核酸と同一であるかまたは1つ以上、または1もしくは数個のヌクレオチドの置換、付加および欠失からなる群より選択される1つの変異を有し、かつ、生物学的活性を有する(すなわち芳香族アミノ酸合成に関与する)ポリペプチドをコードするものであり得る。あるいは、そのような対応する他の酵母株のARO1遺伝子は、配列番号1がコードするアミノ酸配列において、1または数個のアミノ酸が、置換、付加および欠失からなる群より選択される1つの変異を有する改変体ポリペプチドであって、かつ、生物学的活性を有する(すなわち芳香族アミノ酸合成に関与する)ポリペプチドをコードするものであり得る。BUD23遺伝子、PMR1遺伝子およびSNF5遺伝子、ならびにGON7遺伝子、SPT20遺伝子、CBS2遺伝子、およびDBF2遺伝子についても、同様に対応する遺伝子を見出すことができる。
【0027】
用語「高ショ糖ストレスもしくは冷凍ストレスまたはその双方により誘導されるプロモーター」とは、高ショ糖ストレスもしくは冷凍ストレスのうちのいずれか一方によって誘導されるプロモーター、またはその双方により誘導されるプロモーターを意味する。このようなプロモーターとしては、HSP104プロモーター、HSP12プロモーター、TPS1プロモーター、GPD1プロモーター、ならびに他の公知のプロモーターが挙げられるが、これらに限定されない。
【0028】
用語「HSP104プロモーター」とは、任意の酵母のHSP104遺伝子のプロモーターを意味する。HSP104プロモーターは、高ショ糖ストレス条件下および/または冷凍ストレス条件下で、そのプロモーターに作動可能に連結された遺伝子の発現を誘導することが公知である。このようなHSP104プロモーターとしては、酵母サッカロミセス・セレビシェ S288C株のHSP104遺伝子のプロモーターのヌクレオチド配列(配列番号25)が挙げられるが、これに限定はされない。
【0029】
用語「作動可能に連結された」とは、遺伝子に関して使用される場合、その遺伝子が機能するように適切な調節配列の制御下に連結されていることを指す。例えば、あるプロモーターが、適切な宿主細胞もしくは他の発現系における遺伝子コード配列の転写および/または翻訳の制御を補助する場合に、その遺伝子コード配列は、そのプロモーターに作動可能に連結されている。作動可能に連結されている遺伝子コード配列は、連続的であり得、かつこの遺伝子コード配列は、同じリーディングフレーム中に存在し得るが、特定の遺伝子調節配列は、発現されるべきポリペプチドをコードする遺伝子コード配列に連続的に連結されている必要はない。例えば、エンハンサーは、そのエンハンサーが転写を増強するコード配列に近接している必要はない。
【0030】
用語「酵母」とは、実用株および実験室株を含む、任意の酵母を指す。代表的には、出芽酵母Saccharomyces cerevisiae(サッカロミセス・セレビシェ)(パン酵母、ビール酵母、ワイン酵母)、Saccharomycess carlsbergensis(ビール酵母)、Saccharomycess ellipsoideus(ワイン酵母)、Saccharomycess rouxii(醤油酵母)、Candida属酵母、Torulaspora属酵母、Kluyveromyces属酵母、Pichia属酵母、Zygosaccharomyces属酵母などが挙げられるが、これらに限定はされない。実用株とは、パン酵母、清酒酵母、ビール酵母、ワイン酵母等、産業上優れた形質を持つ株であり、それぞれの用途に応じて当該分野において多数の株が現在までに選別されている。実用株としては、酵母サッカロミセス・セレビシェ Y244株(受託番号NITE P−274)およびそのウラシル要求性変異株Y245(2007年8月23日付けで独立行政法人製品評価技術基盤機構 特許微生物寄託センターに寄託され、受領番号NITE AP−401;受託番号NITE P−401を付与された)、ならびに酵母サッカロミセス・セレビシェ Y249株(2008年8月13日付けで独立行政法人製品評価技術基盤機構 特許微生物寄託センターに寄託され、受領番号NITE AP−631を付与された)およびそのウラシル要求性変異株Y251(2008年8月13日付けで独立行政法人製品評価技術基盤機構 特許微生物寄託センターに寄託され、受領番号NITE AP−632を付与された)が挙げられる。実験室株とは、遺伝学的な解析が行いやすい形質を持つ株である。一般的に、ヘテロタリズムの形質を有し、接合子形成率または胞子形成率が高く、DNA抽出や形質転換、相同組換え等を効率よく行うことの出来る株が実験室株として用いられている。最近では、1996年に全ゲノム配列が解読された酵母サッカロミセス・セレビシェ S288C株およびその誘導株が多く用いられている。酵母サッカロミセス・セレビシェ S288C株は、例えば、ATCC 26108としてアメリカンタイプカルチャーコレクション(ATCC)(アメリカ合衆国,ヴァージニア 20108,マナサス,ピーオーボックス1549)から入手可能であり、NBRC 1136として独立行政法人 製品技術基盤機構生物遺伝資源部門(NBRC)(千葉県木更津市かずさ鎌足2−5−8)からも入手可能である。酵母サッカロミセス・セレビシェ S288C株の全ゲノムのヌクレオチド配列は、Saccharomyces Genome Databaseのホームページhttp://www.yeastgenome.org/にて閲覧可能である。近年、実験室株と実用株の差異がゲノムレベルで議論されている(Yeast 19:441−448 (2002)、Yeast 18:1145−1154 (2001))。
【0031】
用語「相同組換えを生じるために十分な長さ」とは、酵母において、2つの核酸の間で相同組換えが生じ得る長さを意味する。そのような2つの核酸は、例えば、酵母ゲノムと外来核酸とであり得る。実験室株については少なくとも約40ヌクレオチドの相同配列があれば、十分な頻度で相同組換えが起こることが公知である(Nuc Acid Res 21(14):3329−3330(1993)、Yeast 10:1793−1808(1994)を参照のこと)。パン酵母または清酒酵母等の実用株における相同組換えのためには、約600ヌクレオチド〜数千ヌクレオチド程度またはそれ以上の相同配列が必要であると考えられている(Appl Environ Microbiol 65(7):2841−2846(1999)、J Biosci Bioeng 97(6):412−418(2004)を参照のこと)。
【0032】
用語「フラグメント」とは、ヌクレオチドに関して使用される場合、好ましくは約40ヌクレオチド長以上の任意のオリゴヌクレオチドフラグメントを意味する。オリゴヌクレオチドフラグメントは、例えば、約40ヌクレオチド長、約45ヌクレオチド長、約50ヌクレオチド長、約55ヌクレオチド長、約60ヌクレオチド長、またはそれ以上など、酵母の実験室株において相同組換えを生じるために十分な長さであり得る。オリゴヌクレオチドフラグメントはまた、好ましくは約600ヌクレオチド長〜数千ヌクレオチド長以上の任意のヌクレオチドフラグメントを意味する。ヌクレオチドフラグメントは、例えば、約600ヌクレオチド長、約650ヌクレオチド長、約700ヌクレオチド長、約750ヌクレオチド長、約800ヌクレオチド長、約850ヌクレオチド長、約900ヌクレオチド長、約950ヌクレオチド長、約1,000ヌクレオチド長、約1,100ヌクレオチド長、約1,200ヌクレオチド長、約1,300ヌクレオチド長、約1,400ヌクレオチド長、約1,500ヌクレオチド長、約1,600ヌクレオチド長、約1,700ヌクレオチド長、約1,800ヌクレオチド長、約1,900ヌクレオチド長、約2,000ヌクレオチド長、約2,200ヌクレオチド長、約2,400ヌクレオチド長、約2,600ヌクレオチド長、約2,800ヌクレオチド長、約3,000ヌクレオチド長、約3,300ヌクレオチド長、約3,600ヌクレオチド長、約3,900ヌクレオチド長、約4,000ヌクレオチド長、約4,400ヌクレオチド長、約4,800ヌクレオチド長、約5,000ヌクレオチド長、約5,500ヌクレオチド長、約6,000ヌクレオチド長、約6,600ヌクレオチド長、約7,000ヌクレオチド長、またはそれ以上など、酵母の実用株において相同組換えを生じるために十分な長さであり得る。
【0033】
用語「約」とは、数値に関して使用される場合、示される値±10%を意味する。
【0034】
用語「選択マーカー」とは、その選択マーカーを含む酵母が検出され得る特性を提供するエレメントを意味する。選択マーカーとしては、栄養要求性マーカー、抗生物質耐性マーカー、蛍光タンパク質マーカー、発光タンパク質マーカー、酵素タンパク質マーカー、薬剤耐性マーカーが挙げられるが、これらに限定はされない。
【0035】
用語「栄養要求性マーカー」とは、酵母の栄養要求性を相補するタンパク質を意味する。栄養要求性マーカーとしては、URA3マーカー、LEU1マーカー、LEU2マーカー、HIS3マーカー、URA4マーカー、TRP1マーカー、HIS5マーカー、LYS2マーカー、MET15マーカー、ECM31マーカーなどが挙げられるが、これらに限定はされない。
【0036】
用語「抗生物質耐性マーカー」とは、抗生物質に対する耐性を付与するタンパク質を意味する。このような抗生物質耐性マーカーとしては、ネオマイシン、カナマイシン、パロモマイシンに対する耐性を付与する、ネオマイシンホスホトランスフェラーゼ;G418耐性を付与する、アミノグリコシドホスホトランスフェラーゼ;ハイグロマイシンB耐性を付与するハイグロマイシンBホスホトランスフェラーゼ;セルレニン耐性を付与する変異型脂肪酸合成酵素;シクロヘキシミド耐性を付与する変異型リボソームタンパク質などが挙げられるが、これらに限定はされない。
【0037】
用語「蛍光タンパク質マーカー」とは、蛍光を発するタンパク質を意味する。このような蛍光タンパク質マーカーとしては、緑色蛍光タンパク質、青色蛍光タンパク質、赤色蛍光タンパク質、黄色蛍光タンパク質などが挙げられるが、これらに限定はされない。
【0038】
用語「発光タンパク質マーカー」とは、発光するタンパク質を意味する。このような発光タンパク質マーカーとしては、エクオリン、ルシフェラーゼなどが挙げられるが、これらに限定はされない。
【0039】
用語「酵素タンパク質マーカー」とは、酵素タンパク質を意味する。このような酵素タンパク質マーカーとしては、β−ガラクトシダーゼ、アルカリフォスファターゼ、β−グルクロニダーゼなどが挙げられるが、これらに限定はされない。
【0040】
用語「薬剤耐性マーカー」とは、薬剤に対する耐性を付与するタンパク質を意味する。薬剤耐性マーカーとしては、代謝物のアナログ(例えば、チアミンアナログであるピリチアミン)への耐性を付与する変異型チアミン輸送タンパク質や、銅耐性を付与する変異型メタロチオニンなど)が挙げられるが、これらに限定はされない。
【0041】
標的遺伝子の「5’末端含有領域」という用語は、標的遺伝子の5’末端を含む核酸領域(すなわち、「5’末端領域」)、または標的遺伝子の5’末端とその下流の領域とを含む核酸領域を指す。この用語において、その下流の領域の範囲は、標的遺伝子内部に限定されず、標的遺伝子の3’末端まで(すなわち、「標的遺伝子全体」)に及び得、さらには標的遺伝子の下流領域(「標的遺伝子およびその下流域」)にさえ及び得る。従って、本明細書において、標的遺伝子の「5’末端含有領域」という用語は、「5’末端領域」、「標的遺伝子全体」、および「標的遺伝子およびその下流域」を包含し得る。
【0042】
(発明の詳細な説明)
本発明者らは、酵母のARO1遺伝子および/またはBUD23遺伝子および/またはGON7遺伝子および/またはSPT20遺伝子および/またはCBS2遺伝子および/またはDBF2遺伝子の発現を増強することによって酵母の高ショ糖ストレス耐性が増強されることを初めて見出し、高ショ糖ストレス耐性が増強された酵母サッカロミセス・セレビシェAY128株およびAY137株ならびにAY174株、AY249株、AY253株、およびAY368株を得た。上記サッカロミセス・セレビシェAY128株は、そのゲノム上のARO1遺伝子上流にURA3−HSP104プロモーターカセットが導入され、高ショ糖ストレス条件下でARO1遺伝子が過剰発現された。理論に束縛されることを望まないが、この遺伝子は、特定の酵母株のみに存在する遺伝子ではなくどの酵母株にも存在すると考えられていることから、この遺伝子の働きは、酵母に普遍的であると考えられる。従って、本発明の対象となる酵母株は特定のものに限定されず、任意の株を使用することができると理解され、高ショ糖ストレス条件下でARO1遺伝子が過剰発現された酵母はどの株由来のものであっても、本発明の効果を有することが理解される。従って、ARO1遺伝子を有するいかなる酵母においても、高ショ糖ストレス条件下におけるARO1遺伝子の発現を増強させることによって、その酵母に高ショ糖ストレス耐性を付与し得る。
【0043】
上記サッカロミセス・セレビシェAY137株は、ゲノム上のBUD23遺伝子上流にURA3−HSP104プロモーターカセットが導入され、高ショ糖ストレス条件下でBUD23遺伝子が過剰発現された。理論に束縛されることを望まないが、この遺伝子は、特定の酵母株のみに存在する遺伝子ではなくどの酵母株にも存在すると考えられていることから、この遺伝子の働きは、酵母に普遍的であると考えられる。従って、本発明の対象となる酵母株は特定のものに限定されず、任意の株を使用することができると理解され、高ショ糖ストレス条件下でBUD23遺伝子が過剰発現された酵母はどの株由来のものであっても、本発明の効果を有することが理解される。従って、BUD23遺伝子を有するいかなる酵母においても、高ショ糖ストレス条件下におけるBUD23遺伝子の発現を増強することにより、その酵母に高ショ糖ストレス耐性を付与し得る。
【0044】
上記サッカロミセス・セレビシェAY174株は、ゲノム上のGON7遺伝子上流にURA3−HSP104プロモーターカセットが導入され、高ショ糖ストレス条件下でGON7遺伝子が過剰発現された。理論に束縛されることを望まないが、この遺伝子は、特定の酵母株のみに存在する遺伝子ではなくどの酵母株にも存在すると考えられていることから、この遺伝子の働きは、酵母に普遍的であると考えられる。従って、本発明の対象となる酵母株は特定のものに限定されず、任意の株を使用することができると理解され、高ショ糖ストレス条件下でGON7遺伝子が過剰発現された酵母はどの株由来のものであっても、本発明の効果を有することが理解される。従って、GON7遺伝子を有するいかなる酵母においても、高ショ糖ストレス条件下におけるGON7遺伝子の発現を増強することにより、その酵母に高ショ糖ストレス耐性を付与し得る。
【0045】
上記サッカロミセス・セレビシェAY249株は、ゲノム上のSPT20遺伝子上流にURA3−HSP104プロモーターカセットが導入され、高ショ糖ストレス条件下でSPT20遺伝子が過剰発現された。理論に束縛されることを望まないが、この遺伝子は、特定の酵母株のみに存在する遺伝子ではなくどの酵母株にも存在すると考えられていることから、この遺伝子の働きは、酵母に普遍的であると考えられる。従って、本発明の対象となる酵母株は特定のものに限定されず、任意の株を使用することができると理解され、高ショ糖ストレス条件下でSPT20遺伝子が過剰発現された酵母はどの株由来のものであっても、本発明の効果を有することが理解される。従って、SPT20遺伝子を有するいかなる酵母においても、高ショ糖ストレス条件下におけるSPT20遺伝子の発現を増強することにより、その酵母に高ショ糖ストレス耐性を付与し得る。
【0046】
上記サッカロミセス・セレビシェAY253株は、ゲノム上のCBS2遺伝子上流にURA3−HSP104プロモーターカセットが導入され、高ショ糖ストレス条件下でCBS2遺伝子が過剰発現された。理論に束縛されることを望まないが、この遺伝子は、特定の酵母株のみに存在する遺伝子ではなくどの酵母株にも存在すると考えられていることから、この遺伝子の働きは、酵母に普遍的であると考えられる。従って、本発明の対象となる酵母株は特定のものに限定されず、任意の株を使用することができると理解され、高ショ糖ストレス条件下でCBS2遺伝子が過剰発現された酵母はどの株由来のものであっても、本発明の効果を有することが理解される。従って、CBS2遺伝子を有するいかなる酵母においても、高ショ糖ストレス条件下におけるCBS2遺伝子の発現を増強することにより、その酵母に高ショ糖ストレス耐性を付与し得る。
【0047】
上記サッカロミセス・セレビシェAY368株は、ゲノム上のDBF2遺伝子上流にURA3−HSP104プロモーターカセットが導入され、高ショ糖ストレス条件下でDBF2遺伝子が過剰発現された。理論に束縛されることを望まないが、この遺伝子は、特定の酵母株のみに存在する遺伝子ではなくどの酵母株にも存在すると考えられていることから、この遺伝子の働きは、酵母に普遍的であると考えられる。従って、本発明の対象となる酵母株は特定のものに限定されず、任意の株を使用することができると理解され、高ショ糖ストレス条件下でDBF2遺伝子が過剰発現された酵母はどの株由来のものであっても、本発明の効果を有することが理解される。従って、DBF2遺伝子を有するいかなる酵母においても、高ショ糖ストレス条件下におけるDBF2遺伝子の発現を増強することにより、その酵母に高ショ糖ストレス耐性を付与し得る。
【0048】
本発明者らはまた、酵母のPMR1遺伝子および/またはSNF5遺伝子の発現を増強することによって酵母の冷凍ストレス耐性が増強されることを初めて見出し、冷凍ストレス耐性が増強された酵母サッカロミセス・セレビシェAY112株およびAY108株を得た。上記サッカロミセス・セレビシェAY112株は、そのゲノム上のPMR1遺伝子上流にURA3−HSP104プロモーターカセットが導入され、冷凍ストレス条件下でPMR1遺伝子が過剰発現された。理論に束縛されることを望まないが、この遺伝子は、特定の酵母株のみに存在する遺伝子ではなくどの酵母株にも存在すると考えられていることから、この遺伝子の働きは、酵母に普遍的であると考えられる。従って、本発明の対象となる酵母株は特定のものに限定されず、任意の株を使用することができると理解され、冷凍ストレス条件下でPMR1遺伝子が過剰発現された酵母はどの株由来のものであっても、本発明の効果を有することが理解される。従って、PMR1遺伝子を有するいかなる酵母においても、冷凍ストレス条件下におけるPMR1遺伝子の発現を増強させることによって、その酵母に冷凍ストレス耐性を付与し得る。
【0049】
上記サッカロミセス・セレビシェAY108株は、そのゲノム上のSNF5遺伝子上流にURA3−HSP104プロモーターカセットが導入され、冷凍ストレス条件下でSNF5遺伝子が過剰発現された。理論に束縛されることを望まないが、この遺伝子は、特定の酵母株のみに存在する遺伝子ではなくどの酵母株にも存在すると考えられていることから、この遺伝子の働きは、酵母に普遍的であると考えられる。従って、本発明の対象となる酵母株は特定のものに限定されず、任意の株を使用することができると理解され、冷凍ストレス条件下でSNF5遺伝子が過剰発現された酵母はどの株由来のものであっても、本発明の効果を有することが理解される。従って、SNF5遺伝子を有するいかなる酵母においても、冷凍ストレス条件下におけるSNF5遺伝子の発現を増強させることによって、その酵母に冷凍ストレス耐性を付与し得る。
【0050】
本発明の高ショ糖耐性酵母は、ショ糖を大量に含む菓子パン生地の発酵が短時間で済む、使用酵母量を減らすことが可能になるなどの利点を提供する。さらに、本発明の高ショ糖耐性酵母は、初発糖濃度が極めて高いアルコール発酵、または漬物・醤油・味噌等の発酵調味料における極めて厳しい浸透圧条件下での発酵を効率よく行うことを可能にする。
【0051】
本発明の冷凍耐性酵母は、冷凍生地製パン法において、冷凍期間の延長、解凍後の発酵特性の改善、発酵時間の短縮、使用酵母量の削減等、種々の利点を提供する。
【0052】
本発明により、酵母のARO1遺伝子および/またはBUD23遺伝子および/またはGON7遺伝子および/またはSPT20遺伝子および/またはCBS2遺伝子および/またはDBF2遺伝子の発現を増強することによって、酵母の高ショ糖ストレス耐性が増強されることが明らかとなった。また、本発明により、酵母のPMR1遺伝子および/またはSNF5遺伝子の発現を増強することによって、酵母の冷凍ストレス耐性が増強されることが明らかとなった。従って、酵母の高ショ糖ストレス耐性および/または冷凍ストレス耐性の増強は、これらの酵母ARO1遺伝子、BUD23遺伝子、PMR1遺伝子、SNF5遺伝子、GON7遺伝子、SPT20遺伝子、CBS2遺伝子および/またはDBF2遺伝子の発現が増強される限り、当業者にとって周知である任意の遺伝子発現増強方法によって行われ得ることを、当業者は理解する。そのような遺伝子発現増強方法としては、酵母ゲノム上にある上記酵母遺伝子領域への遺伝子発現調節領域(例えば、構成的プロモーター、誘導性プロモーター、エンハンサーなど)の挿入、自律複製可能な線状または環状のベクターに連結された上記酵母遺伝子の酵母中への導入、上記酵母遺伝子の発現を誘導する転写因子等の過剰発現、あるいはプロモーターエレメントとの親和性を増大させる変異の導入などが挙げられるが、これらに限定はされない。
【0053】
(酵母遺伝子領域への遺伝子発現調節領域の挿入)
本発明の酵母遺伝子領域への遺伝子発現調節領域の挿入は、例えば、融合PCR法と相同組換えとの組み合わせにより行われ得る。融合PCR法は、当該分野において公知である。例えば、Kuwayamaら,「PCR−mediated generation of a gene disruption construct without the use of DNA ligase and plasmid vectors」Nucleic Acids Res.(2002)30(2):E2を参照のこと。Kuwayamaらの手法は、遺伝子破壊を目的としたDNA断片を一段階の融合PCRにより増幅するものである。融合PCRにおいては、2つのプライマーを使用するPCRによって、2つ以上のDNA断片が融合して1つの融合断片を生じる。このような融合断片を生じるために、融合PCRにおいて使用される連結されるべき2つDNA断片において、少なくとも一方のDNA断片は、その連結されるべき末端に、もう一方のDNA断片の連結されるべき末端の部分領域と同じ配列を有するタグを有するように設計される。
【0054】
本発明において使用される融合PCR法は、以下のような二段階の融合PCRによる。第一段階の融合PCRにおいて、遺伝子発現調節領域カセットが作製される。より具体的には、選択マーカー遺伝子が、5’プライマー(プライマーA)および3’プライマー(プライマーB)を用いてPCR増幅される。遺伝子発現調節領域もまた、5’プライマー(プライマーC)および3’プライマー(プライマーD)を用いてPCR増幅される。このプライマーCは、増幅される遺伝子発現調節領域の5’末端に、選択マーカーの3’末端領域と同じ配列の5’タグが付加されるように設計される。得られる二つの増幅断片が、5’プライマー(プライマーA)および3’プライマー(プライマーD)を用いる融合PCRにより連結される。得られる融合PCR増幅断片は、遺伝子発現調節領域カセットと呼ばれる。この遺伝子発現調節領域カセットは、プロモーターを使用する場合、プロモーターカセットとも呼ばれ得る。第二段階の融合PCRにおいて、上記遺伝子発現調節領域カセットの両側に、標的酵母遺伝子と相同な(または好ましくは同一の)配列が付加される。より具体的には、標的酵母遺伝子の上流域+3’タグ断片が、5’プライマー(プライマーE)および3’プライマー(プライマーF)を用いてPCR増幅される。このプライマーFは、増幅される標的酵母遺伝子上流域の3’末端に、上記選択マーカー遺伝子の5’末端領域と同じ配列の3’タグが付加されるように設計される。5’タグ+標的酵母遺伝子の5’末端領域(または5’末端含有領域)断片もまた、5’プライマー(プライマーG)および3’プライマー(プライマーH)を用いてPCR増幅される。このプライマーGは、増幅される標的酵母遺伝子5’末端領域(または5’末端含有領域)の5’末端に、上記遺伝子発現調節領域の3’末端領域と同じ配列の5’タグが付加されるように設計される。得られる二つの断片の間に、上記遺伝子発現調節領域カセットが、5’プライマー(プライマーE)および3’プライマー(プライマーH)を用いる融合PCRによって挿入・連結される。得られた融合PCR断片(5’側から3’側に向って、標的遺伝子の上流域、選択マーカー、遺伝子発現調節領域、標的遺伝子5’末端領域(または5’末端含有領域)を含む)は、酵母の形質転換用PCR断片である。この形質転換用PCR断片は、酵母ゲノム上の標的遺伝子の上流域および標的遺伝子の5’末端領域(または5’末端含有領域)と、形質転換用PCR断片上の標的遺伝子の上流域および標的遺伝子の5’末端領域(または5’末端含有領域)との間での相同組換えにより、ダブルクロスオーバー様式で酵母ゲノム中に導入される。得られた酵母は、標的遺伝子の上流に、選択マーカーおよび遺伝子発現調節領域が挿入されている。上記選択マーカーを指標として、遺伝子発現調節領域が導入された酵母株を単離し得る。上記のような相同組換え機構の利用に鑑みれば、標的遺伝子の5’末端領域を含む断片を融合PCRにより増幅してもよいし、標的遺伝子の5’末端含有領域を含む断片を融合PCRにより増幅してもよいことが、当業者には容易に理解され得る。
【0055】
上記の例示的融合PCRにおいては、増幅される遺伝子発現調節領域の5’末端、増幅される標的酵母遺伝子上流域の3’末端、および増幅される標的酵母遺伝子5’末端領域(または5’末端含有領域)の5’末端それぞれに、それらが連結されるべき末端の部分領域と同じ配列のタグが付加されるように設計されている。このようなタグが付加される末端およびその配列は、上記に限定されない。例えば、増幅される選択マーカーの5’末端に標的酵母遺伝子上流域の3’末端領域と同じ配列のタグを付加し得、増幅される選択マーカーの3’末端に遺伝子発現調節領域の5’末端領域と同じ配列のタグを付加し得る。このように、タグが付加される末端およびその配列は、融合PCRが生じる限り適切に変更・改変され得ることが、当業者には明らかである。
【0056】
酵母ゲノムと形質転換用PCR断片との間で生じる相同組換えの長さは、形質転換用PCR断片上の標的遺伝子の上流域の長さおよび標的遺伝子の5’末端領域(または5’末端含有領域)の長さから当業者が容易に決定し得る。このような形質転換用PCR断片上の標的遺伝子の上流域および5’末端領域(または5’末端含有領域)の長さは、これらの標的遺伝子の上流域および標的遺伝子の5’末端領域(または5’末端含有領域)を増幅するために使用されるプライマーEおよびプライマーFの鋳型上での位置、ならびにプライマーGおよびプライマーHの鋳型上での位置から決定され得る。逆に、鋳型上での適切な位置に対応するプライマーE〜Hを設計することによって、相同組換えを生じるために必要な長さを有する標的遺伝子の上流域および5’末端領域(または5’末端含有領域)を含む形質転換用PCR断片を取得し得る。このようなプライマーの設計および相同組換えの長さの算出は、当業者の技術範囲内にある。
【0057】
(遺伝子発現調節領域)
上記のように、本発明において、酵母ARO1遺伝子、BUD23遺伝子、PMR1遺伝子、SNF5遺伝子、GON7遺伝子、SPT20遺伝子、CBS2遺伝子および/またはDBF2遺伝子の発現が、遺伝子発現調節領域によって増強され得る。高ショ糖ストレスもしくは冷凍ストレスまたはその双方の条件下で標的遺伝子の発現を増強し得る限り、任意のプロモーター、エンハンサー、または他の遺伝子発現調節領域を使用して酵母ARO1遺伝子、BUD23遺伝子、PMR1遺伝子、SNF5遺伝子、GON7遺伝子、SPT20遺伝子、CBS2遺伝子および/またはDBF2遺伝子の発現を増強し、それによって酵母に高ショ糖耐性または冷凍耐性を付与し得ることが、当業者には明らかである。好ましい遺伝子発現調節領域は、酵母HSP104プロモーターであり、より好ましくは、酵母サッカロミセス・セレビシェ S288C株のHSP104プロモーターである。
【0058】
(選択マーカー)
本発明において、酵母ゲノム上にある上記酵母遺伝子領域へと遺伝子発現調節領域(例えば、構成的プロモーター、誘導性プロモーター、エンハンサーなど)が挿入された改変酵母、または自律複製可能な線状もしくは環状のベクターに連結された上記酵母遺伝子が導入された改変酵母などを検出する指標として、種々の選択マーカーが使用され得る。このような選択マーカーとしては、改変酵母を検出する効果を奏す限り、適切な任意の選択マーカーが使用され得ることが、当業者にとって明らかである。
【0059】
(PCR増幅)
本発明において使用されるPCR増幅は、種々のポリメラーゼおよびサーマルサイクラー、当業者が容易に決定可能な適切なPCR条件を使用して行われる。例示的なポリメラーゼとしては、TAKARA LA Taqポリメラーゼ(タカラバイオ株式会社,大津市瀬田三丁目4番1号)が挙げられるが、これに限定はされない。例示的なサーマルサイクラーとしては、ABI 9600サーマルサイクラー(アプライドバイオシステムズジャパン株式会社、東京、日本)が挙げられるが、これに限定はされない。
【0060】
(ストレス負荷条件に対する酵母の耐性)
ストレス負荷条件に対する酵母の耐性は、その炭酸ガス発生量を測定することによって評価され得る。酵母の炭酸ガス発生量は、例えば、ファーモグラフ法によって測定され得る。ファーモグラフ法とは、ファーモグラフ(アトー株式会社,東京都文京区本郷1−25−23)を使用して、微生物発酵などによって発生するガス量を計測する方法である。
【0061】
(酵母の形質転換)
酵母を形質転換する方法は、当該分野において周知である。例えば、「High−efficiency Transformation of Yeast」,Methods in Yeast Genetics(2000)p103を参照のこと。
【0062】
(酵母の培地)
酵母を培養・保存するための培地は、当該分野において周知である。そのような培地としては、YPD培地(1% イーストエキス、2% ペプトン、2% グルコース)、YMPD培地(0.3% イーストエキス、0.3% マルトエキス、0.5% ペプトン、3% グルコース)、糖蜜培地(260g/Lの糖に相当する廃糖蜜に19.49g/Lの尿素、および52g/LのKHPOを添加した溶液)などが挙げられるが、これらに限定はされない。
【0063】
(パン生地・パンの製造)
パン生地・パンの製造は、当該分野で周知である。例えば、パン生地・パンは、日本イースト工業会パン用酵母試験法に準ずる方法によって製造され得る。例として、菓子パンなどに使用される高糖生地の一例は、
小麦粉 100重量部
ショ糖 30重量部
食塩 0.5重量部
酵母 4重量部
ショートニング 6重量部
脱脂粉乳 2重量部
水 52重量部
を含む。この高糖生地を、以下のような例示的製パン条件:
ミキシング L3,M2,↓
L2,M2,H1〜
捏ね上げ温度 28℃
第一発酵 30℃、70分
第二発酵 30℃、30分
分割・丸め 450g
ベンチ 30℃、20分
成形 ワンローフ
ホイロ発酵 38℃、RH85%
型上1.5cm
焼成 200℃、25分
にて製パンし得る。
【0064】
また、例えば、冷凍製パン用生地の一例は、
小麦粉 100重量部
ショ糖 5重量部
食塩 2重量部
酵母 2重量部
ショートニング 5重量部
を含む。この生地を、以下のような例示的製パン条件:
凍結前発酵 60分
冷凍期間 1〜2週間(−20℃)
解凍 90分(30℃)
丸め、ベンチ 30分
成形
ホイロ 55分
焼成 25分
にて製パンし得る。上記のような生地の組成および製パン条件は、意図されるパンの性質に依存して、必要に応じて当業者が容易に改変し得ることが明らかである。
【0065】
(菓子類の製造)
酵母を使用した菓子は、酵母を原料混合時に添加し、混捏し、発酵させ、成型し、焙焼することによって製造され得る。詳細な製造方法は、当該分野において周知である。例えば、特開2001−211815を参照のこと。
【0066】
(日本酒の製造)
日本酒の製造方法は、当該分野において周知である。例えば、以下のような方法で、日本酒は製造され得る:
1)精米
米を精米する。玄米の表層部や胚芽には、麹菌および酵母の増殖、発酵促進には過剰な灰分およびビタミン類、また必要以上に多いと製成酒の香りや味を劣化させるタンパク質および脂質が多く含まれている。これらは醸造管理を困難にさせることから、醸造上で不必要な成分を取り除く作業を行う。これが精米である。
【0067】
2)洗米
次に精米した米を洗米する。白米表層に残留している糠分を除去する目的で、白米を水洗いすることを「洗米」という。洗米中に白米の表面が1〜2%摩耗し、二次精米の効果がある。
【0068】
3)浸漬および水切り
3−1)浸漬
次に、洗米した米を浸漬タンクに入れ水に浸漬させる。浸漬の目的は、米粒の中心まで水を充分に吸収させることによって、蒸煮したときに完全な蒸米になるように、すなわちα化(生の米デンプンのかたい結晶構造に水が入り、加熱によってデンプンが膨潤、糊化すること)が完全に行われるようにするためである。
【0069】
3−2)水切り
予定の浸漬時間を経過した後、浸漬タンクから水を排出する。これを水切りという。
【0070】
4)蒸し
次に、浸漬タンクから米を取り出し蒸しの工程を行う。
【0071】
蒸しの目的は、適度に水を吸わせた生米を、蒸気で加熱することによって、米の生デンプンをα化し、麹菌の生産する糖化酵素の作用を受けやすくするためである。また、加熱によって米を殺菌し、以後の醸造工程を安全に遂行するためでもある。
【0072】
よい蒸米とは、さばけがよくて外硬内軟なもの。つまり、完全にα化され、適度のかたさを保ち、表面がべたつかないものを指す。蒸米の硬軟は、以後の製麹管理と醪中の米の溶解に大きな影響を与えるので、大変重要な工程である。
【0073】
5)麹
次に、蒸米に麹菌を増殖させる(これを「麹」という)。麹菌は蒸米上で増殖すると同時に各種の酵素を菌体外に分泌する。麹菌自体は空気中の酸素を必要とする好気的な微生物であるため、空気の存在しない醪の中では生きることができず、死滅してしまう。
【0074】
麹菌の生産した酵素はタンパク質の一種で、生物でなく物質であるため、醪中に残存し、酵素作用を発揮する。
【0075】
日本酒醸造は、酵母によるアルコール発酵(酵母のような微生物が、自己のもっている酵素の力で糖分をアルコールにする作用)によるが、主原料となる白米中のデンプンまたはタンパク質などは、酵母が利用できない高分子物質の状態にあるため、麹菌の生産する酵素をもって、酵母が利用できるブドウ糖またはアミノ酸段階までの形に変えることが麹の最も大きな役割である。
【0076】
6)酒母(モト)および酵母
次に、酵母(サッカロミセス・セレビシェ)を発酵させて酒母(モト)を作る。ついで、日本酒醪を解放状態で発酵を行う。
【0077】
この後、初添え(添え仕込み)、踊り、仲添え(仲仕込み)、留添え(留仕込み)などを行う。通常醪は4日間にわたり、3段階の仕込みをする(段掛法または段仕込み)。
【0078】
その後、上槽、滓引き、濾過を行う。このように生産した日本酒は、調合、火入れなどを行い、出荷するまで貯蔵する。
【0079】
(ビール・発泡酒の製造)
ビール・発泡酒は、原料(大麦麦芽、米、トウモロコシ、でんぷんなど)から糖化・調製した麦汁にホップを加え、酵母で発酵・熟成させて製造する。詳細な製造方法は、当該分野において周知である。例えば、国税庁のホームページ http://www.nta.go.jp、独立行政法人酒類総合研究所のホームページ http://www.nrib.go.jpなどを参照のこと。
【0080】
(ワインの製造)
ワインは、果実全般(特に、ブドウ)を原料として、果実中に含まれる糖類を酵母により直接発酵させること(単式発酵方式)により製造される。詳細な製造方法は、当該分野において周知である。例えば、独立行政法人酒類総合研究所のホームページ http://www.nrib.go.jpを参照のこと。
【0081】
(焼酎・泡盛の製造)
焼酎・泡盛は、でんぷん原料を麹菌のアミラーゼで糖化しながら酵母でアルコール発酵する平行複発酵方式させて得られるもろみを蒸留することによって製造される。詳細な製造方法は、当該分野において周知である。例えば、独立行政法人酒類総合研究所のホームページ http://www.nrib.go.jpを参照のこと。
【0082】
(醤油の製造)
醤油は、本醸造方式、新醸造(化学)方式、およびアミノ酸液混合(半化学)方式などの方法によって製造される。大豆および小麦に種麹を加えた麹からもろみを製造し、麹菌・酵母・乳酸菌などによって醤油が得られる。詳細な製造方法は、当該分野において周知である。例えば、しょうゆ情報センターのホームページ http://www.soysauce.or.jpなどを参照のこと。
【0083】
(みその製造)
発酵型みそは、米、麦などの原料から製麹し、純粋培養した酵母を加えて発酵させることによって製造される。詳細な製造方法は、当該分野において周知である。例えば、全国味噌工業協同組合連合会のホームページ http://zenmi.jpを参照のこと。
【0084】
(酢の製造)
果実酢は、果実を原料として、酵母によりアルコール発酵させ、その後酢酸発酵させることにより製造される。穀類酢は、穀類のデンプンを糖化した後、酵母によりアルコール発酵させ、その後酢酸発酵させることにより製造される。詳細な製造方法は、当該分野において周知である。例えば、全国食酢協会中央会のホームページ http://www.shokusu.org/を参照のこと。
【0085】
(発酵乳の製造)
発酵乳の一種である乳種類(ケフィア、クミスなど)は、原料乳を乳酸菌と酵母とで複合発酵することにより製造される。詳細な製造方法は、当該分野において周知である。例えば、特開2006−34267、特開平10−56961を参照のこと。
【0086】
(漬物の製造)
漬物は、例えば、培養した酵母菌体をスターターとして漬物あるいは糠床等に加える方法などの周知の方法によって製造される。特開2005−73532などを参照のこと。
【0087】
本明細書において引用された、科学文献、特許、特許出願などの参考文献は、その全体が、各々具体的に記載されたのと同じ程度に本明細書において参考として援用される。
【0088】
以上、本発明を、理解の容易のために好ましい実施形態を示して説明してきた。以下に、実施例に基づいて本発明を説明するが、上述の説明および以下の実施例は、例示の目的のみに提供され、本発明を限定する目的で提供したのではない。従って、本発明の範囲は、本明細書に具体的に記載された実施形態にも実施例にも限定されず、特許請求の範囲によってのみ限定される。
【実施例】
【0089】
以下の実施例において、特に記載がない限り、すべてのPCR反応において、TAKARA LA TaqポリメラーゼおよびサーマルサイクラーABI 9600を使用した。
【0090】
(実施例1.URA3遺伝子のPCR増幅)
酵母サッカロミセス・セレビシェ S288C株のゲノムDNAを鋳型として、5’プライマーA(配列番号5)および3’プライマーB(配列番号6)を用いてURA3遺伝子(配列番号26)をPCR増幅した。反応液組成は、以下の通りであった:
2.5μl TAKARA LA Taqポリメラーゼ用10倍濃度反応バッファー
2.5μl 25mM MgCl
4μl 2.5mM dNTPミックス
1μl 10μM 5’プライマーA(配列番号5)
1μl 10μM 5’プライマーB(配列番号6)
0.25μl TAKARA LA Taqポリメラーゼ
10ng 鋳型サッカロミセス・セレビシェ S288CゲノムDNA
以上に滅菌水を加えて、合計25μlにした(反応液組成1)。
【0091】
反応温度サイクルは、
94℃:5分
(94℃:30秒→46℃:30秒→72℃:1分)×35回
72℃:2分
であった(反応温度サイクル1)。
【0092】
(実施例2.5’タグ+HSP104プロモーターのPCR増幅)
酵母サッカロミセス・セレビシェ S288C株のゲノムDNAを鋳型として、HSP104プロモーター(配列番号25)の5’末端に酵母サッカロミセス・セレビシェ S288C株URA3遺伝子(配列番号26)の3’末端領域GGAAAGAAAAAGCTTCATGGCCTTTATAAA(配列番号32)と同じ配列の5’タグが付加した断片をPCR増幅した。反応液組成は、5’プライマーA(配列番号5)および3’プライマーB(配列番号6)の代わりに5’プライマーC(配列番号7)および3’プライマーD(配列番号8)を使用した以外は、反応液組成1と同じであった。反応温度サイクルは、
94℃:5分
(94℃:30秒→48℃:30秒→72℃:1分)×35回
72℃:2分
であった(反応温度サイクル2)。
【0093】
(実施例3.URA3−HSP104プロモーターカセットの融合PCR増幅)
得られたURA3遺伝子断片と5’タグ+HSP104プロモーター断片とを鋳型として、5’プライマーAおよび3’プライマーDを用いて、URA3−HSP104プロモーター融合断片を融合PCR増幅した。反応液組成は、以下の通りであった:
2.5μl TAKARA LA Taqポリメラーゼ用10倍濃度反応バッファー
2.5μl 25mM MgCl
4μl 2.5mM dNTPミックス
0.25μl TAKARA LA Taqポリメラーゼ
10ng 実施例1で得られたURA3 DNA断片
10ng 実施例2で得られた5’タグ+HSP104プロモーターDNA断片
以上に滅菌水を加えて、合計23μlにした(反応液組成2)。反応温度サイクルは、
94℃:2分
(94℃:20秒→50℃:30秒→68℃:2分)×10回
ここで、5’プライマーA(配列番号5)および3’プライマーD(配列番号8)各10μMを1μlずつ添加
(94℃:20秒→50℃:30秒→68℃:2分)×25回
(50℃から68℃までの温度上昇はABI 9600の場合Ramp 10%)
であった(反応温度サイクル3)。
【0094】
得られた融合断片を、URA3−HSP104プロモーターカセットと呼び、以後の実験に使用した。
【0095】
(実施例4.ARO1遺伝子の上流域+3’タグのPCR増幅)
酵母サッカロミセス・セレビシェ S288C株のゲノムDNAを鋳型として、ARO1遺伝子の上流域(ARO1遺伝子の開始コドンATGのAを1として−690〜−1領域)(配列番号27)の3’末端に、酵母サッカロミセス・セレビシェ S288C株URA3遺伝子(配列番号26)の5’末端領域CAGGGTCCATAAAGCTTTTCAATTCATCTT(配列番号31)と同じ配列の3’タグが付加された断片をPCR増幅した。反応液組成は、5’プライマーA(配列番号5)および3’プライマーB(配列番号6)の代わりにARO1用5’プライマーE(配列番号9)およびARO1用3’プライマーF(配列番号10)を使用した以外は、反応液組成1と同じであった。反応温度サイクルは、反応温度サイクル1と同じであった。
【0096】
(実施例5.5’タグ+ARO1遺伝子の5’末端領域のPCR増幅)
酵母サッカロミセス・セレビシェ S288C株のゲノムDNAを鋳型として、ARO1遺伝子(配列番号1)の5’末端領域(ARO1遺伝子の開始コドンATGのAを1として1〜609領域)の5’末端に、酵母サッカロミセス・セレビシェ S288C株のHSP104プロモーター(配列番号25)の3’末端領域ACTACACGTACCATAAAATATACAGAATAT(配列番号33)と同じ配列の5’タグが付加された断片をPCR増幅した。反応液組成は、5’プライマーA(配列番号5)および3’プライマーB(配列番号6)の代わりにARO1用5’プライマーG(配列番号11)およびARO1用3’プライマーH(配列番号12)を用いた以外は、反応液組成1と同じであった。反応温度サイクルは、反応温度サイクル1と同じであった。
【0097】
(実施例6.ARO1遺伝子を標的とする形質転換用PCR断片の融合PCR増幅)
実施例3において得られたURA3−HSP104プロモーターカセットと、実施例4および5において得られたARO1遺伝子の上流域+3’タグ断片および5’タグ+ARO1遺伝子の5’末端領域断片を鋳型として、ARO1用5’プライマーEおよびARO1用5’プライマーHとを用いて、ARO1遺伝子を標的とする形質転換用PCR断片を融合PCR増幅した。反応液組成は、以下の通りであった:
2.5μl TAKARA LA Taqポリメラーゼ用10倍濃度反応バッファー
2.5μl 25mM MgCl
4μl 2.5mM dNTPミックス
0.25μl TAKARA LA Taqポリメラーゼ
10ng 実施例3で得られたURA3−HSP104プロモーターカセットDNA断片
10ng 実施例4で得られたARO1遺伝子の上流域+3’タグDNA断片
10ng 実施例5で得られた5’タグ+ARO1遺伝子の5’末端領域DNA断片
以上に滅菌水を加えて、合計23μlにした。反応温度サイクルは、
94℃:2分
(94℃:20秒→50℃:30秒→68℃:3分)×10回
ここで、10μM ARO1用5’プライマーEおよび10μM ARO1用5’プライマーHを1μlずつ添加
(94℃:20秒→50℃:30秒→68℃:3分)×25回
(50℃から68℃までの温度上昇はABI 9600の場合Ramp 10%(約0.1℃/秒))
であった。得られたARO1遺伝子を標的とする形質転換用PCR断片は、5’側から3’側に向って、ARO1遺伝子の上流域(配列番号27)、URA3遺伝子(配列番号26)、HSP104プロモーター(配列番号25)、ARO1遺伝子5’末端領域(配列番号1の1〜609領域)を含んだ。
【0098】
(実施例7.酵母ゲノム上のARO1遺伝子上流へのURA3−HSP104プロモーターカセットの導入)
実施例6において得られたARO1遺伝子を標的とする形質転換用PCR断片を用いて、酵母サッカロミセス・セレビシェ Y244株(受託番号NITE P−274)のウラシル要求性突然変異株Y245(受領番号NITE AP−401;受託番号NITE P−401)を形質転換した。この形質転換は、以下の手順にて行った:
1. Y245株を含むYPD培地(1% イーストエキス、2% ペプトン、2% グルコース)1mlを一晩(O/N) 前培養した
2. 1.の前培養したY245株を、5mlのYPD培地に5×10cells/ml(OD600=0.2くらい)になるように接種した
3. 2.の培地を3〜5h培養した(2×10cells/ml:OD600=0.7〜1になるまで)
4. 3.の培養物を2,500rpm(3,000xg)にて5分間,室温で遠心分離した後,上清を捨てた
5. 4.で得られた菌体を約1ml滅菌水に懸濁し,エッペンドルフチューブに移した
6. 5.の懸濁物を15,000rpmにて5秒間遠心分離し,上清を捨てた
7. 6.で得られた菌体を約500μlの100mM LiAcに懸濁し,15,000rpmにて,5秒間遠心分離した
8. 7.で生じた上清を捨てて以下の順に溶液を加えた:
240μl PEG(50%w/v,MW 3350)
36μl 1M LiAc
10μl carrier DNA(5mg/ml)
10μl 実施例6で得られた融合PCR増幅液
55μl 滅菌水
9. 8.の溶液を1分間vortexし,30℃にて30分間保温した
10. 9.の溶液を42℃にて25分間保温した
11. 10.の溶液を7,000rpm,15秒間,室温で遠心分離し,上清を捨てた
12. 11.の菌体を滅菌水に懸濁し,ウラシルを含まない寒天培地に播いた。
形質転換体のうちから、ウラシル非要求性株を取得した。このウラシル非要求性株をAY128株と名付けた。このAY128株は、そのゲノム上のARO1遺伝子上流にURA3−HSP104プロモーターカセットが導入されていた。実施例1〜7に示した酵母ゲノム上の標的遺伝子上流へのURA3−HSP104プロモーターカセットの導入についての模式図を、図1に示す。この酵母サッカロミセス・セレビシェ AY128株を、2007年8月23日付けで独立行政法人製品評価技術基盤機構 特許微生物寄託センターに寄託した。このAY128株は、受領番号NITE AP−404(受託番号NITE P−404)を付与された。
【0099】
(実施例8.酵母ゲノム上のBUD23遺伝子上流へのURA3−HSP104プロモーターカセットの導入)
実施例4の手順において、ARO1用5’プライマーE(配列番号9)およびARO1用3’プライマーF(配列番号10)の代わりにBUD23用5’プライマーE(配列番号13)およびBUD23用3’プライマーF(配列番号14)を使用することによって、BUD23遺伝子の上流域(BUD23遺伝子の開始コドンATGのAを1として−675〜−1領域)(配列番号28)の3’末端に、酵母サッカロミセス・セレビシェ S288C株URA3遺伝子(配列番号26)の5’末端領域CAGGGTCCATAAAGCTTTTCAATTCATCTT(配列番号31)と同じ配列の3’タグが付加された断片をPCR増幅した。実施例5の手順において、ARO1用5’プライマーG(配列番号11)およびARO1用3’プライマーH(配列番号12)の代わりにBUD23用5’プライマーG(配列番号15)およびBUD23用3’プライマーH(配列番号16)を使用することによって、BUD23遺伝子(配列番号2)の5’末端領域(BUD23遺伝子の開始コドンATGのAを1として1〜674領域)の5’末端に、酵母サッカロミセス・セレビシェ S288C株のHSP104プロモーター(配列番号25)の3’末端領域ACTACACGTACCATAAAATATACAGAATAT(配列番号33)と同じ配列の5’タグが付加された断片をPCR増幅した。実施例6の手順において、ARO1用5’プライマーEおよびARO1用5’プライマーHの代わりにBUD23用5’プライマーEおよびBUD23用5’プライマーHを使用し、ARO1遺伝子の上流域+3’タグ断片および5’タグ+ARO1遺伝子の5’末端領域断片の代わりにBUD23遺伝子の上流域+3’タグ断片および5’タグ+BUD23遺伝子の5’末端領域断片を使用することによって、BUD23遺伝子を標的とする形質転換用PCR断片を得た。このBUD23遺伝子を標的とする形質転換用PCR断片は、5’側から3’側に向って、BUD23遺伝子の上流域(配列番号28)、URA3遺伝子(配列番号26)、HSP104プロモーター(配列番号25)、BUD23遺伝子5’末端領域(配列番号2の1〜674領域)を含んだ。実施例7において、ARO1遺伝子を標的とする形質転換用PCR断片の代わりにBUD23遺伝子を標的とする形質転換用PCR断片を使用することによって、ゲノム上のBUD23遺伝子上流にURA3−HSP104プロモーターカセットが導入された酵母サッカロミセス・セレビシェ AY137株を得た。このAY137株を、2007年8月23日付けで独立行政法人製品評価技術基盤機構 特許微生物寄託センターに寄託した。このAY137株は、受領番号NITE AP−405(受託番号NITE P−405)を付与された。
【0100】
(実施例9.酵母ゲノム上のPMR1遺伝子上流へのURA3−HSP104プロモーターカセットの導入)
実施例4の手順において、ARO1用5’プライマーE(配列番号9)およびARO1用3’プライマーF(配列番号10)の代わりにPMR1用5’プライマーE(配列番号17)およびPMR1用3’プライマーF(配列番号18)を使用することによって、PMR1遺伝子の上流域(PMR1遺伝子の開始コドンATGのAを1として−705〜−1領域)(配列番号29)の3’末端に、酵母サッカロミセス・セレビシェ S288C株URA3遺伝子(配列番号26)の5’末端領域CAGGGTCCATAAAGCTTTTCAATTCATCTT(配列番号31)と同じ配列の3’タグが付加された断片をPCR増幅した。実施例5の手順において、ARO1用5’プライマーG(配列番号11)およびARO1用3’プライマーH(配列番号12)の代わりにPMR1用5’プライマーG(配列番号19)およびPMR1用3’プライマーH(配列番号20)を使用することによって、PMR1遺伝子(配列番号3)の5’末端領域(PMR1遺伝子の開始コドンATGのAを1として1〜746領域)の5’末端に、酵母サッカロミセス・セレビシェ S288C株のHSP104プロモーター(配列番号25)の3’末端領域ACTACACGTACCATAAAATATACAGAATAT(配列番号33)と同じ配列の5’タグが付加された断片をPCR増幅した。実施例6の手順において、ARO1用5’プライマーEおよびARO1用5’プライマーHの代わりにPMR1用5’プライマーEおよびPMR1用5’プライマーHを使用し、ARO1遺伝子の上流域+3’タグ断片および5’タグ+ARO1遺伝子の5’末端領域断片の代わりにPMR1遺伝子の上流域+3’タグ断片および5’タグ+PMR1遺伝子の5’末端領域断片を使用することによって、PMR1遺伝子を標的とする形質転換用PCR断片を得た。このPMR1遺伝子を標的とする形質転換用PCR断片は、5’側から3’側に向って、PMR1遺伝子の上流域(配列番号29)、URA3遺伝子(配列番号26)、HSP104プロモーター(配列番号25)、PMR1遺伝子5’末端領域(配列番号3の1〜746領域)を含んだ。実施例7において、ARO1遺伝子を標的とする形質転換用PCR断片の代わりにPMR1遺伝子を標的とする形質転換用PCR断片を使用することによって、ゲノム上のPMR1遺伝子上流にURA3−HSP104プロモーターカセットが導入された酵母サッカロミセス・セレビシェ AY112株を得た。このAY112株を、2007年8月23日付けで独立行政法人製品評価技術基盤機構 特許微生物寄託センターに寄託した。このAY112株は、受領番号NITE AP−403(受託番号NITE P−403)を付与された。
【0101】
(実施例10.酵母ゲノム上のSNF5遺伝子上流へのURA3−HSP104プロモーターカセットの導入)
実施例4の手順において、ARO1用5’プライマーE(配列番号9)およびARO1用3’プライマーF(配列番号10)の代わりにSNF5用5’プライマーE(配列番号21)およびSNF5用3’プライマーF(配列番号22)を使用することによって、SNF5遺伝子の上流域(SNF5遺伝子の開始コドンATGのAを1として−730〜−1領域)(配列番号30)の3’末端に、酵母サッカロミセス・セレビシェ S288C株URA3遺伝子(配列番号26)の5’末端領域CAGGGTCCATAAAGCTTTTCAATTCATCTT(配列番号31)と同じ配列の3’タグが付加された断片をPCR増幅した。実施例5の手順において、ARO1用5’プライマーG(配列番号11)およびARO1用3’プライマーH(配列番号12)の代わりにSNF5用5’プライマーG(配列番号23)およびSNF5用3’プライマーH(配列番号24)を使用することによって、SNF5遺伝子(配列番号4)の5’末端領域(SNF5遺伝子の開始コドンATGのAを1として1〜631領域)の5’末端に、酵母サッカロミセス・セレビシェ S288C株のHSP104プロモーター(配列番号25)の3’末端領域ACTACACGTACCATAAAATATACAGAATAT(配列番号33)と同じ配列の5’タグが付加された断片をPCR増幅した。実施例6の手順において、ARO1用5’プライマーEおよびARO1用5’プライマーHの代わりにSNF5用5’プライマーEおよびSNF5用5’プライマーHを使用し、ARO1遺伝子の上流域+3’タグ断片および5’タグ+ARO1遺伝子の5’末端領域断片の代わりにSNF5遺伝子の上流域+3’タグ断片および5’タグ+SNF5遺伝子の5’末端領域断片を使用することによって、SNF5遺伝子を標的とする形質転換用PCR断片を得た。このSNF5遺伝子を標的とする形質転換用PCR断片は、5’側から3’側に向って、SNF5遺伝子の上流域(配列番号30)、URA3遺伝子(配列番号26)、HSP104プロモーター(配列番号25)、SNF5遺伝子5’末端領域(配列番号4の1〜631領域)を含んだ。実施例7において、ARO1遺伝子を標的とする形質転換用PCR断片の代わりにSNF5遺伝子を標的とする形質転換用PCR断片を使用することによって、ゲノム上のSNF5遺伝子上流にURA3−HSP104プロモーターカセットが導入された酵母サッカロミセス・セレビシェ AY108株を得た。このAY108株を、2007年8月23日付けで独立行政法人製品評価技術基盤機構 特許微生物寄託センターに寄託した。このAY108株は、受領番号NITE AP−402(受託番号NITE P−402)を付与された。
【0102】
(実施例11.GON7遺伝子の上流域+3’タグのPCR増幅)
酵母サッカロミセス・セレビシェ S288C株のゲノムDNAを鋳型として、GON7遺伝子の上流域(GON7遺伝子の開始コドンATGのAを1として−719〜−1領域)(配列番号54)の3’末端に、酵母サッカロミセス・セレビシェ S288C株URA3遺伝子(配列番号26)の5’末端領域CAGGGTCCATAAAGCTTTTCAATTCATCTT(配列番号31)と同じ配列の3’タグが付加された断片をPCR増幅した。反応液組成は、5’プライマーA(配列番号5)および3’プライマーB(配列番号6)の代わりにGON7用5’プライマーE(配列番号38)およびGON7用3’プライマーF(配列番号39)を使用した以外は、反応液組成1と同じであった。反応温度サイクルは、反応温度サイクル1と同じであった。
【0103】
(実施例12.5’タグ+GON7遺伝子の5’末端含有領域断片のPCR増幅)
酵母サッカロミセス・セレビシェ S288C株のゲノムDNAを鋳型として、GON7遺伝子(配列番号34)およびその下流域(GON7遺伝子の開始コドンATGのAを1として1〜670領域)(以後、本明細書において「GON7遺伝子の5’末端含有領域」と呼ぶ)の5’末端に、酵母サッカロミセス・セレビシェ S288C株のHSP104プロモーター(配列番号25)の3’末端領域ACTACACGTACCATAAAATATACAGAATAT(配列番号33)と同じ配列の5’タグが付加された断片をPCR増幅した。反応液組成は、5’プライマーA(配列番号5)および3’プライマーB(配列番号6)の代わりにGON7用5’プライマーG(配列番号40)およびGON7用3’プライマーH(配列番号41)を用いた以外は、反応液組成1と同じであった。反応温度サイクルは、反応温度サイクル1と同じであった。
【0104】
(実施例13.GON7遺伝子を標的とする形質転換用PCR断片の融合PCR増幅)
実施例3において得られたURA3−HSP104プロモーターカセットと、実施例11および12において得られたGON7遺伝子の上流域+3’タグ断片および5’タグ+GON7遺伝子の5’末端含有領域断片を鋳型として、GON7用5’プライマーEおよびGON7用5’プライマーHとを用いて、GON7遺伝子を標的とする形質転換用PCR断片を融合PCR増幅した。反応液組成は、以下の通りであった:
2.5μl TAKARA LA Taqポリメラーゼ用10倍濃度反応バッファー
2.5μl 25mM MgCl
4μl 2.5mM dNTPミックス
0.25μl TAKARA LA Taqポリメラーゼ
10ng 実施例3で得られたURA3−HSP104プロモーターカセットDNA断片
10ng 実施例11で得られたGON7遺伝子の上流域+3’タグDNA断片
10ng 実施例12で得られたGON7遺伝子の5’タグ+5’末端領域DNA断片
以上に滅菌水を加えて、合計23μlにした。反応温度サイクルは、
94℃:2分
(94℃:20秒→50℃:30秒→68℃:3分)×10回
ここで、10μM GON7用5’プライマーEおよび10μM GON7用5’プライマーHを1μlずつ添加
(94℃:20秒→50℃:30秒→68℃:3分)×25回
(50℃から68℃までの温度上昇はABI 9600の場合Ramp 10%(約0.1℃/秒))
であった。得られたGON7遺伝子を標的とする形質転換用PCR断片は、5’側から3’側に向って、GON7遺伝子の上流域(配列番号54)、URA3遺伝子(配列番号26)、HSP104プロモーター(配列番号25)、GON7遺伝子5’末端含有領域(配列番号34の1〜670領域)を含んだ。
【0105】
(実施例14.酵母ゲノム上のGON7遺伝子上流へのURA3−HSP104プロモーターカセットの導入)
実施例13において得られたGON7遺伝子を標的とする形質転換用PCR断片を用いて、酵母サッカロミセス・セレビシェ Y249株(受領番号NITE AP−631)のウラシル要求性突然変異株Y251(受領番号NITE AP−632)を形質転換した。この形質転換は、以下の手順にて行った:
1. Y251株を含むYPD培地(1% イーストエキス、2% ペプトン、2% グルコース)1mlを一晩(O/N) 前培養した
2. 1.の前培養したY251株を、5mlのYPD培地に5×10cells/ml(OD600=0.2くらい)になるように接種した
3. 2.の培地を3〜5h培養した(2×10cells/ml:OD600=0.7〜1になるまで)
4. 3.の培養物を2,500rpm(3,000xg)にて5分間,室温で遠心分離した後,上清を捨てた
5. 4.で得られた菌体を約1ml滅菌水に懸濁し,エッペンドルフチューブに移した
6. 5.の懸濁物を15,000rpmにて5秒間遠心分離し,上清を捨てた
7. 6.で得られた菌体を約500μlの100mM LiAcに懸濁し,15,000rpmにて,5秒間遠心分離した
8. 7.で生じた上清を捨てて以下の順に溶液を加えた:
240μl PEG(50%w/v,MW 3350)
36μl 1M LiAc
10μl carrier DNA(5mg/ml)
10μl 実施例13で得られた融合PCR増幅液
55μl 滅菌水
9. 8.の溶液を1分間vortexし,30℃にて30分間保温した
10. 9.の溶液を42℃にて25分間保温した
11. 10.の溶液を7,000rpm,15秒間,室温で遠心分離し,上清を捨てた
12. 11.の菌体を滅菌水に懸濁し,ウラシルを含まない寒天培地に播いた。
形質転換体のうちから、ウラシル非要求性株を取得した。このウラシル非要求性株をAY174株と名付けた。このAY174株は、そのゲノム上のGON7遺伝子上流にURA3−HSP104プロモーターカセットが導入されていた。この酵母サッカロミセス・セレビシェ AY174株を、2008年8月13日付けで独立行政法人製品評価技術基盤機構 特許微生物寄託センターに寄託した。このAY174株は、受領番号NITE AP−633を付与された。
【0106】
(実施例15.酵母ゲノム上のSPT20遺伝子上流へのURA3−HSP104プロモーターカセットの導入)
実施例11の手順において、GON7用5’プライマーE(配列番号38)およびGON7用3’プライマーF(配列番号39)の代わりにSPT20用5’プライマーE(配列番号42)およびSPT20用3’プライマーF(配列番号43)を使用することによって、SPT20遺伝子の上流域(SPT20遺伝子の開始コドンATGのAを1として−724〜−1領域)(配列番号55)の3’末端に、酵母サッカロミセス・セレビシェ S288C株URA3遺伝子(配列番号26)の5’末端領域CAGGGTCCATAAAGCTTTTCAATTCATCTT(配列番号31)と同じ配列の3’タグが付加された断片をPCR増幅した。実施例12の手順において、GON7用5’プライマーG(配列番号40)およびGON7用3’プライマーH(配列番号41)の代わりにSPT20用5’プライマーG(配列番号44)およびSPT20用3’プライマーH(配列番号45)を使用することによって、SPT20遺伝子(配列番号35)の5’末端領域(SPT20遺伝子の開始コドンATGのAを1として1〜748領域)の5’末端に、酵母サッカロミセス・セレビシェ S288C株のHSP104プロモーター(配列番号25)の3’末端領域ACTACACGTACCATAAAATATACAGAATAT(配列番号33)と同じ配列の5’タグが付加された断片をPCR増幅した。実施例13の手順において、GON7用5’プライマーEおよびGON7用5’プライマーHの代わりにSPT20用5’プライマーEおよびSPT20用5’プライマーHを使用し、GON7遺伝子の上流域+3’タグ断片および5’タグ+GON7遺伝子の5’末端含有領域断片の代わりにSPT20遺伝子の上流域+3’タグ断片および5’タグ+SPT20遺伝子の5’末端領域断片を使用することによって、SPT20遺伝子を標的とする形質転換用PCR断片を得た。このSPT20遺伝子を標的とする形質転換用PCR断片は、5’側から3’側に向って、SPT20遺伝子の上流域(配列番号55)、URA3遺伝子(配列番号26)、HSP104プロモーター(配列番号25)、SPT20遺伝子5’末端領域(配列番号35の1〜748領域)を含んだ。実施例14において、GON7遺伝子を標的とする形質転換用PCR断片の代わりにSPT20遺伝子を標的とする形質転換用PCR断片を使用することによって、ゲノム上のSPT20遺伝子上流にURA3−HSP104プロモーターカセットが導入された酵母サッカロミセス・セレビシェ AY249株を得た。このAY249株を、2008年8月13日付けで独立行政法人製品評価技術基盤機構 特許微生物寄託センターに寄託した。このAY249株は、受領番号NITE AP−634を付与された。
【0107】
(実施例16.酵母ゲノム上のCBS2遺伝子上流へのURA3−HSP104プロモーターカセットの導入)
実施例11の手順において、GON7用5’プライマーE(配列番号38)およびGON7用3’プライマーF(配列番号39)の代わりにCBS2用5’プライマーE(配列番号46)およびCBS2用3’プライマーF(配列番号47)を使用することによって、CBS2遺伝子の上流域(CBS2遺伝子の開始コドンATGのAを1として−739〜−1領域)(配列番号56)の3’末端に、酵母サッカロミセス・セレビシェ S288C株URA3遺伝子(配列番号26)の5’末端領域CAGGGTCCATAAAGCTTTTCAATTCATCTT(配列番号31)と同じ配列の3’タグが付加された断片をPCR増幅した。実施例12の手順において、GON7用5’プライマーG(配列番号40)およびGON7用3’プライマーH(配列番号41)の代わりにCBS2用5’プライマーG(配列番号48)およびCBS2用3’プライマーH(配列番号49)を使用することによって、CBS2遺伝子(配列番号36)の5’末端領域(CBS2遺伝子の開始コドンATGのAを1として1〜717領域)の5’末端に、酵母サッカロミセス・セレビシェ S288C株のHSP104プロモーター(配列番号25)の3’末端領域ACTACACGTACCATAAAATATACAGAATAT(配列番号33)と同じ配列の5’タグが付加された断片をPCR増幅した。実施例13の手順において、GON7用5’プライマーEおよびGON7用5’プライマーHの代わりにCBS2用5’プライマーEおよびCBS2用5’プライマーHを使用し、GON7遺伝子の上流域+3’タグ断片および5’タグ+GON7遺伝子の5’末端含有領域断片の代わりにCBS2遺伝子の上流域+3’タグ断片および5’タグ+CBS2遺伝子の5’末端領域断片を使用することによって、CBS2遺伝子を標的とする形質転換用PCR断片を得た。このCBS2遺伝子を標的とする形質転換用PCR断片は、5’側から3’側に向って、CBS2遺伝子の上流域(配列番号56)、URA3遺伝子(配列番号26)、HSP104プロモーター(配列番号25)、CBS2遺伝子5’末端領域(配列番号36の1〜717領域)を含んだ。実施例14において、GON7遺伝子を標的とする形質転換用PCR断片の代わりにCBS2遺伝子を標的とする形質転換用PCR断片を使用することによって、ゲノム上のCBS2遺伝子上流にURA3−HSP104プロモーターカセットが導入された酵母サッカロミセス・セレビシェ AY253株を得た。このAY253株を、2008年8月13日付けで独立行政法人製品評価技術基盤機構 特許微生物寄託センターに寄託した。このAY253株は、受領番号NITE AP−635を付与された。
【0108】
(実施例17.酵母ゲノム上のDBF2遺伝子上流へのURA3−HSP104プロモーターカセットの導入)
実施例11の手順において、GON7用5’プライマーE(配列番号38)およびGON7用3’プライマーF(配列番号39)の代わりにDBF2用5’プライマーE(配列番号50)およびDBF2用3’プライマーF(配列番号51)を使用することによって、DBF2遺伝子の上流域(DBF2遺伝子の開始コドンATGのAを1として−725〜−1領域)(配列番号57)の3’末端に、酵母サッカロミセス・セレビシェ S288C株URA3遺伝子(配列番号26)の5’末端領域CAGGGTCCATAAAGCTTTTCAATTCATCTT(配列番号31)と同じ配列の3’タグが付加された断片をPCR増幅した。実施例12の手順において、GON7用5’プライマーG(配列番号40)およびGON7用3’プライマーH(配列番号41)の代わりにDBF2用5’プライマーG(配列番号52)およびDBF2用3’プライマーH(配列番号53)を使用することによって、DBF2遺伝子(配列番号37)の5’末端領域(DBF2遺伝子の開始コドンATGのAを1として1〜714領域)の5’末端に、酵母サッカロミセス・セレビシェ S288C株のHSP104プロモーター(配列番号25)の3’末端領域ACTACACGTACCATAAAATATACAGAATAT(配列番号33)と同じ配列の5’タグが付加された断片をPCR増幅した。実施例13の手順において、GON7用5’プライマーEおよびGON7用5’プライマーHの代わりにDBF2用5’プライマーEおよびDBF2用5’プライマーHを使用し、GON7遺伝子の上流域+3’タグ断片および5’タグ+GON7遺伝子の5’末端領域含有断片の代わりにDBF2遺伝子の上流域+3’タグ断片および5’タグ+DBF2遺伝子の5’末端領域断片を使用することによって、DBF2遺伝子を標的とする形質転換用PCR断片を得た。このDBF2遺伝子を標的とする形質転換用PCR断片は、5’側から3’側に向って、DBF2遺伝子の上流域(配列番号57)、URA3遺伝子(配列番号26)、HSP104プロモーター(配列番号25)、DBF2遺伝子5’末端領域(配列番号37の1〜714領域)を含んだ。実施例14において、GON7遺伝子を標的とする形質転換用PCR断片の代わりにDBF2遺伝子を標的とする形質転換用PCR断片を使用することによって、ゲノム上のDBF2遺伝子上流にURA3−HSP104プロモーターカセットが導入された酵母サッカロミセス・セレビシェ AY368株を得た。このAY368株を、2008年8月13日付けで独立行政法人製品評価技術基盤機構 特許微生物寄託センターに寄託した。このAY368株は、受領番号NITE AP−636を付与された。
【0109】
(実施例18.Y245株の酵母ゲノム上のMSK1遺伝子上流またはHMO1遺伝子上流へのURA3−HSP104プロモーターカセットの導入)
ARO1用5’プライマーE、ARO1用3’プライマーF、ARO1用5’プライマーGおよびARO1用3’プライマーHと同様の様式で種々の標的遺伝子の上流域および5’末端領域を増幅するために、ARO1を標的とするプライマーE〜Hに対応するプライマーE〜Hを設計した。MSK1遺伝子を標的として、実施例4〜7において、ARO1用5’プライマーE、ARO1用3’プライマーF、ARO1用5’プライマーGおよびARO1用3’プライマーHの代わりに、それぞれMSK1用5’プライマーE、MSK1用3’プライマーF、MSK1用5’プライマーGおよびMSK1用3’プライマーHを使用することによって、Y245株の酵母ゲノム上のMSK1遺伝子上流にURA3−HSP104プロモーターカセットが導入された株HSP−MSK1を得た。同様に、HMO1遺伝子を標的として、実施例4〜7において、ARO1用5’プライマーE、ARO1用3’プライマーF、ARO1用5’プライマーGおよびARO1用3’プライマーHの代わりに、それぞれHMO1用5’プライマーE、HMO1用3’プライマーF、HMO1用5’プライマーGおよびHMO1用3’プライマーHを使用することによって、Y245株の酵母ゲノム上のHMO1遺伝子上流にURA3−HSP104プロモーターカセットが導入された株HSP−HMO1を得た。
【0110】
(実施例19.Y251株の酵母ゲノム上のMSK1遺伝子上流へのURA3−HSP104プロモーターカセットの導入)
GON7用5’プライマーE、GON7用3’プライマーF、GON7用5’プライマーGおよびGON7用3’プライマーHと同様の様式で種々の標的遺伝子の上流域および5’末端領域を増幅するために、GON7を標的とするプライマーE〜Hに対応するプライマーE〜Hを設計した。MSK1遺伝子を標的として、実施例11〜14において、GON7用5’プライマーE、GON7用3’プライマーF、GON7用5’プライマーGおよびGON7用3’プライマーHの代わりに、それぞれMSK1用5’プライマーE、MSK1用3’プライマーF、MSK1用5’プライマーGおよびMSK1用3’プライマーHを使用することによって、Y251株の酵母ゲノム上のMSK1遺伝子上流にURA3−HSP104プロモーターカセットが導入された株HSP−MSK1(Y251)を得た。
【0111】
(実施例20.サッカロミセス・セレビシェ AY128株およびAY137株の高ショ糖ストレス耐性)
酵母サッカロミセス・セレビシェ 野生型Y244株と、そのウラシル要求性変異株Y245のURA3−HSP104プロモーターカセット導入株であるAY128株、AY137株、およびHSP−MSK1株を、5%ショ糖を含む培地(5%ショ糖、5%マルトース、0.25%硫酸アンモニウム、0.5%尿素、1.6%リン酸二水素カリウム、0.5%リン酸一水素ナトリウム12水和物、0.06%硫酸マグネシウム、0.00225%ニコチン酸、0.0005%パントテン酸、0.00025%チアミン、0.000125%ピリドキシン、0.0001%リボフラビン、0.00005%葉酸)または50%ショ糖を含む培地(50%ショ糖、5%マルトース、0.25%硫酸アンモニウム、0.5%尿素、1.6%リン酸二水素カリウム、0.5%リン酸一水素ナトリウム12水和物、0.06%硫酸マグネシウム、0.00225%ニコチン酸、0.0005%パントテン酸、0.00025%チアミン、0.000125%ピリドキシン、0.0001%リボフラビン、0.00005%葉酸)において、30℃にて300分間、90rpmで振盪培養し、炭酸ガス発生量をファーモグラフ法にて測定した。得られた炭酸ガス発生量を、同じ酵母菌体量(OD600 Units)について比較した。その結果を、コントロールである酵母サッカロミセス・セレビシェ Y244を1とする炭酸ガス発生量比として表1および図2Aに表す。
【0112】
【表1】

表1および図2Aから明らかであるように、AY128株およびAY137株は、コントロールであるY244株と比較して、50%ショ糖を含む高ショ糖ストレス条件下で高い炭酸ガス発生量(発酵力)を示した。従って、AY128株およびAY137株は、Y244株と比較して高ショ糖ストレスに対して耐性であった。一方、表1から明らかであるように、HSP−MSK1株は、Y244株と比較して高ショ糖ストレスに対して耐性が低かった。これらの知見は、AY128株およびAY137株の高い高ショ糖ストレス耐性は、URA3−HSP104プロモーターカセット自体に起因するのではなく、それぞれ、高ショ糖ストレス条件下で誘導されたHSP104プロモーターにより発現が増強されたARO1遺伝子およびBUD23遺伝子の効果であることを示した。
【0113】
(実施例21.サッカロミセス・セレビシェ AY112株およびAY108株の冷凍ストレス耐性)
酵母サッカロミセス・セレビシェ 野生型Y244株と、そのウラシル要求性変異株Y245のURA3−HSP104プロモーターカセット導入株であるAY112株、AY108株、およびHSP−HMO1株を、5%ショ糖を含む培地(5%ショ糖、5%マルトース、0.25%硫酸アンモニウム、0.5%尿素、1.6%リン酸二水素カリウム、0.5%リン酸一水素ナトリウム12水和物、0.06%硫酸マグネシウム、0.00225%ニコチン酸、0.0005%パントテン酸、0.00025%チアミン、0.000125%ピリドキシン、0.0001%リボフラビン、0.00005%葉酸)において30℃で120分間培養した後、培養液を−25℃で3日間冷凍した。これを解凍した後、30℃にて300分間、90rpmで振盪培養し、炭酸ガス発生量をファーモグラフ法にて測定した。得られた炭酸ガス発生量を、同じ酵母菌体量(OD600 Units)について比較した。その結果を、コントロールである酵母サッカロミセス・セレビシェ Y244を1とする炭酸ガス発生量比として表2および図2Bに表す。
【0114】
【表2】

表2および図2Bから明らかであるように、AY112株およびAY108株は、コントロールであるY244株と比較して、冷凍ストレス条件下で高い炭酸ガス発生量(発酵力)を示した。従って、AY112株およびAY108株は、Y244株と比較して冷凍ストレスに対して耐性であった。一方、表2から明らかであるように、HSP−HMO1株は、Y244株と比較して高ショ糖ストレスに対して耐性が低かった。これらの知見は、AY112株およびAY108株の高い冷凍ストレス耐性は、URA3−HSP104プロモーターカセット自体に起因するのではなく、それぞれ、冷凍ストレス条件下で誘導されたHSP104プロモーターにより発現が増強されたPMR1遺伝子およびSNF5遺伝子の効果であることを示した。
【0115】
(実施例22.サッカロミセス・セレビシェ AY174株、AY368株、AY249株、およびAY253株の高ショ糖ストレス耐性)
酵母サッカロミセス・セレビシェ 野生型Y249株と、そのウラシル要求性変異株Y251のURA3−HSP104プロモーターカセット導入株であるAY174株、AY368株、AY249株、およびAY253株、およびHSP−MSK1(Y251)株を、5%ショ糖を含む培地(5%ショ糖、5%マルトース、0.25%硫酸アンモニウム、0.5%尿素、1.6%リン酸二水素カリウム、0.5%リン酸一水素ナトリウム12水和物、0.06%硫酸マグネシウム、0.00225%ニコチン酸、0.0005%パントテン酸、0.00025%チアミン、0.000125%ピリドキシン、0.0001%リボフラビン、0.00005%葉酸)または50%ショ糖を含む培地(50%ショ糖、5%マルトース、0.25%硫酸アンモニウム、0.5%尿素、1.6%リン酸二水素カリウム、0.5%リン酸一水素ナトリウム12水和物、0.06%硫酸マグネシウム、0.00225%ニコチン酸、0.0005%パントテン酸、0.00025%チアミン、0.000125%ピリドキシン、0.0001%リボフラビン、0.00005%葉酸)において、30℃にて300分間、90rpmで振盪培養し、炭酸ガス発生量をファーモグラフ法にて測定した。得られた炭酸ガス発生量を、同じ酵母菌体量(OD600 Units)について比較した。その結果を、コントロールである酵母サッカロミセス・セレビシェ Y249株を1とする炭酸ガス発生量比として表3、図3Aおよび図3Bに表す。
【0116】
【表3】

表3、図3Aおよび図3Bから明らかであるように、AY174株、AY368株、AY249株、およびAY253株は、コントロールであるY249株と比較して、50%ショ糖を含む高ショ糖ストレス条件下で高い炭酸ガス発生量(発酵力)を示した。従って、AY174株、AY368株、AY249株、およびAY253株は、Y249株と比較して高ショ糖ストレスに対して耐性であった。一方、表3から明らかであるように、HSP−MSK1(Y251)は、Y249株と比較して高ショ糖ストレスに対して耐性が低かった。これらの知見は、AY174株、AY368株、AY249株、およびAY253株の高い高ショ糖ストレス耐性は、URA3−HSP104プロモーターカセット自体に起因するのではなく、それぞれ、高ショ糖ストレス条件下で誘導されたHSP104プロモーターにより発現が増強されたGON7遺伝子、DBF2遺伝子、SPT20遺伝子、およびCBS2遺伝子の効果であることを示した。
【0117】
(実施例23.酵母ゲノム上のARO1遺伝子上流、BUD23遺伝子上流、PMR1遺伝子上流、SNF5遺伝子上流、GON7遺伝子上流、SPT20遺伝子上流、CBS2遺伝子上流、およびDBF2遺伝子上流のうちの2個、3個、4個、5個、6個、7個、または8個へのURA3−HSP104プロモーターカセットの導入)
実施例6、8、9、10、13、15、16、17において得られたARO1遺伝子を標的とする形質転換用PCR断片、BUD23遺伝子を標的とする形質転換用PCR断片、PMR1遺伝子を標的とする形質転換用PCR断片、SNF5遺伝子を標的とする形質転換用PCR断片、GON7遺伝子を標的とする形質転換用PCR断片、SPT20遺伝子を標的とする形質転換用PCR断片、CBS2遺伝子を標的とする形質転換用PCR断片、またはDBF2遺伝子を標的とする形質転換用PCR断片のうちの2個、3個、4個、5個、6個、7個、または8個を用いて、実施例7または14の形質転換手順に従って酵母サッカロミセス・セレビシェ Y245株またはY251株を形質転換する。形質転換体のうちから、酵母ゲノム上のARO1遺伝子上流、BUD23遺伝子上流、PMR1遺伝子上流、SNF5遺伝子上流、GON7遺伝子上流、SPT20遺伝子上流、CBS2遺伝子上流、およびDBF2遺伝子上流のうちの2個、3個、4個、5個、6個、7個、または8個にURA3−HSP104プロモーターカセットが導入された株を取得する。そのような株は、形質転換体の染色体DNAを鋳型として、各遺伝子用の5’プライマーEおよび3’プライマーHを用いてPCR増幅を行うことによって確認される。得られた目的とする形質転換体を、高ショ糖ストレス耐性および冷凍ストレス耐性について、実施例20〜22に記載される方法に従って測定する。
【0118】
(実施例24.自律複製可能なベクターに連結された酵母遺伝子ARO1遺伝子、BUD23遺伝子、PMR1遺伝子、SNF5遺伝子、GON7遺伝子、DBF2遺伝子、SPT20遺伝子、および/またはCBS2の酵母染色体外への導入)
標的遺伝子ARO1遺伝子、BUD23遺伝子、PMR1遺伝子、SNF5遺伝子、GON7遺伝子、DBF2遺伝子、SPT20遺伝子、および/またはCBS2の開始コドンから当該遺伝子のターミネーターを含む領域をPCR増幅し、酵母自律複製型の酵母・大腸菌シャトルベクター(YEp)にクローン化する。クローン化した遺伝子の上流にHSP104プロモーターを作動可能に挿入・連結し、実施例7または14に記載の形質転換手順により酵母サッカロマイセス・セレビシエ細胞を形質転換する。この場合、形質転換体のほぼ全てが目的ベクターを持つと考えて良い。形質転換体から抽出したDNAを用いて大腸菌の形質転換を行うことにより、目的ベクターを持つ株を検出する。得られた目的とする形質転換株を、高ショ糖ストレス耐性および冷凍ストレス耐性について、実施例20〜22に記載される方法に従って測定する。
【0119】
(実施例25.本発明の酵母を使用するパンの製造)
実施例7〜10、14〜17、または23〜24に従って得られた改変酵母を使用してパンを製造する。まず、以下の組成の高糖生地を製造する:
小麦粉 100重量部
ショ糖 30重量部
食塩 0.5重量部
酵母 4重量部
ショートニング 6重量部
脱脂粉乳 2重量部
水 52重量部。この高糖生地を、以下のような製パン条件:
ミキシング L3,M2,↓
L2,M2,H1〜
捏ね上げ温度 28℃
第一発酵 30℃、70分
第二発酵 30℃、30分
分割・丸め 450g
ベンチ 30℃、20分
成形 ワンローフ
ホイロ発酵 38℃、RH85%
型上1.5cm
焼成 200℃、25分
に従って製パンする。得られたパンについて、その外観、内相、および/または比容積を指標とすることにより、使用した酵母の高ショ糖ストレス耐性効果を確認する。
【0120】
または、以下の組成の冷凍製パン用生地を製造する:
小麦粉 100重量部
ショ糖 5重量部
食塩 2重量部
酵母 2重量部
ショートニング 5重量部。この生地を、以下のような製パン条件:
凍結前発酵 60分
冷凍期間 1〜2週間(−20℃)
解凍 90分(30℃)
丸め、ベンチ 30分
成形
ホイロ 55分
焼成 25分
に従って製パンする。得られたパンについて、その外観、内相、および/または比容積を指標とすることにより、使用した酵母の冷凍ストレス耐性効果を確認する。
【0121】
本明細書は、特定の実施例に関して詳細に記載されているが、これらの実施例は、単に本発明を例示するために提供されているものに過ぎず、これらの実施例は、本発明を限定することは決して意図しない。当業者は、本発明の趣旨および範囲から逸脱することなく、上記実施例に対する変更・改変を施し得ることが、明らかである。本発明の範囲は、添付されている特許請求の範囲およびその均等物によってのみ規定される。
【産業上の利用可能性】
【0122】
本発明は、ショ糖ストレスもしくは冷凍ストレスまたはその双方に対して耐性の酵母を使用し得るあらゆる酵母利用産業(例えば、エタノール製造や製パン産業)において利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0123】
【図1】図1は、酵母ゲノム中へのURA3−HSP104プロモーターカセットの導入の模式図である。
【図2】図2Aは、本発明の遺伝子改変酵母株(ARO1遺伝子発現増強株およびBUD23遺伝子発現増強株)であるサッカロミセス・セレビシェ AY128株およびAY137株の高ショ糖ストレス耐性を、コントロール野生型酵母株(酵母サッカロミセス・セレビシェ Y244株)と比較したグラフである。図2Bは、本発明の遺伝子改変酵母株(PMR1遺伝子発現増強株およびSNF5遺伝子発現増強株)であるサッカロミセス・セレビシェ AY112株およびAY108株の冷凍ストレス耐性を、コントロール野生型酵母株(酵母サッカロミセス・セレビシェ Y244株)と比較したグラフである。
【図3】図3Aは、本発明の遺伝子改変酵母株(GON7遺伝子発現増強株およびDBF2遺伝子発現増強株)であるサッカロミセス・セレビシェ AY174株およびAY368株の高ショ糖ストレス耐性を、コントロール野生型酵母株(酵母サッカロミセス・セレビシェ Y249株)と比較したグラフである。図3Bは、本発明の遺伝子改変酵母株(SPT20遺伝子発現増強株およびCBS2遺伝子発現増強株)であるサッカロミセス・セレビシェ AY249株およびAY253株の高ショ糖ストレス耐性を、コントロール野生型酵母株(酵母サッカロミセス・セレビシェ Y249株)と比較したグラフである。
【配列表フリーテキスト】
【0124】
配列番号1:酵母サッカロミセス・セレビシェ S288C株のARO1遺伝子のコード領域のヌクレオチド配列
配列番号2:酵母サッカロミセス・セレビシェ S288C株のBUD23遺伝子のコード領域のヌクレオチド配列
配列番号3:酵母サッカロミセス・セレビシェ S288C株のPMR1遺伝子のコード領域のヌクレオチド配列
配列番号4:酵母サッカロミセス・セレビシェ S288C株のSNF5遺伝子のコード領域のヌクレオチド配列
配列番号5:5’プライマーAのヌクレオチド配列
配列番号6:3’プライマーBのヌクレオチド配列
配列番号7:5’プライマーCのヌクレオチド配列
配列番号8:3’プライマーDのヌクレオチド配列
配列番号9:ARO1用5’プライマーEのヌクレオチド配列
配列番号10:ARO1用3’プライマーFのヌクレオチド配列
配列番号11:ARO1用5’プライマーGのヌクレオチド配列
配列番号12:ARO1用3’プライマーHのヌクレオチド配列
配列番号13:BUD23用5’プライマーEのヌクレオチド配列
配列番号14:BUD23用3’プライマーFのヌクレオチド配列
配列番号15:BUD23用5’プライマーGのヌクレオチド配列
配列番号16:BUD23用3’プライマーHのヌクレオチド配列
配列番号17:PMR1用5’プライマーEのヌクレオチド配列
配列番号18:PMR1用3’プライマーFのヌクレオチド配列
配列番号19:PMR1用5’プライマーGのヌクレオチド配列
配列番号20:PMR1用3’プライマーHのヌクレオチド配列
配列番号21:SNF5用5’プライマーEのヌクレオチド配列
配列番号22:SNF5用3’プライマーFのヌクレオチド配列
配列番号23:SNF5用5’プライマーGのヌクレオチド配列
配列番号24:SNF5用3’プライマーHのヌクレオチド配列
配列番号25:酵母サッカロミセス・セレビシェ S288C株のHSP104遺伝子のプロモーターのヌクレオチド配列
配列番号26:酵母サッカロミセス・セレビシェ S288C株のURA3遺伝子のヌクレオチド配列
配列番号27:酵母サッカロミセス・セレビシェ S288C株のARO1遺伝子の上流域(−690〜−1領域)のヌクレオチド配列
配列番号28:酵母サッカロミセス・セレビシェ S288C株のBUD23遺伝子の上流域(−675〜−1領域)のヌクレオチド配列
配列番号29:酵母サッカロミセス・セレビシェ S288C株のPMR1遺伝子の上流域(−705〜−1領域)のヌクレオチド配列
配列番号30:酵母サッカロミセス・セレビシェ S288C株のSNF5遺伝子の上流域(−730〜−1領域)のヌクレオチド配列
配列番号31:酵母サッカロミセス・セレビシェ S288C株URA3遺伝子の5’末端領域(配列番号26の1〜30位)のヌクレオチド配列
配列番号32:酵母サッカロミセス・セレビシェ S288C株URA3遺伝子の3’末端領域(配列番号26の1,165〜1,194位)のヌクレオチド配列
配列番号33:酵母サッカロミセス・セレビシェ S288C株のHSP104遺伝子プロモーターの3’末端領域(配列番号25の411〜440位)のヌクレオチド配列
配列番号34:酵母サッカロミセス・セレビシェ S288C株のGON7遺伝子のコード領域のヌクレオチド配列
配列番号35:酵母サッカロミセス・セレビシェ S288C株のSPT20遺伝子のコード領域のヌクレオチド配列
配列番号36:酵母サッカロミセス・セレビシェ S288C株のCBS2遺伝子のコード領域のヌクレオチド配列
配列番号37:酵母サッカロミセス・セレビシェ S288C株のDBF2遺伝子のコード領域のヌクレオチド配列
配列番号38:GON7用5’プライマーEのヌクレオチド配列
配列番号39:GON7用3’プライマーFのヌクレオチド配列
配列番号40:GON7用5’プライマーGのヌクレオチド配列
配列番号41:GON7用3’プライマーHのヌクレオチド配列
配列番号42:SPT20用5’プライマーEのヌクレオチド配列
配列番号43:SPT20用3’プライマーFのヌクレオチド配列
配列番号44:SPT20用5’プライマーGのヌクレオチド配列
配列番号45:SPT20用3’プライマーHのヌクレオチド配列
配列番号46:CBS2用5’プライマーEのヌクレオチド配列
配列番号47:CBS2用3’プライマーFのヌクレオチド配列
配列番号48:CBS2用5’プライマーGのヌクレオチド配列
配列番号49:CBS2用3’プライマーHのヌクレオチド配列
配列番号50:DBF2用5’プライマーEのヌクレオチド配列
配列番号51:DBF2用3’プライマーFのヌクレオチド配列
配列番号52:DBF2用5’プライマーGのヌクレオチド配列
配列番号53:DBF2用3’プライマーHのヌクレオチド配列
配列番号54:酵母サッカロミセス・セレビシェ S288C株のGON7遺伝子の上流域(−719〜−1領域)のヌクレオチド配列
配列番号55:酵母サッカロミセス・セレビシェ S288C株のSPT20遺伝子の上流域(−724〜−1領域)のヌクレオチド配列
配列番号56:酵母サッカロミセス・セレビシェ S288C株のCBS2遺伝子の上流域(−739〜−1領域)のヌクレオチド配列
配列番号57:酵母サッカロミセス・セレビシェ S288C株のDBF2遺伝子の上流域(−725〜−1領域)のヌクレオチド配列

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高ショ糖ストレスもしくは冷凍ストレスまたはその双方に対して耐性の酵母を製造するための核酸カセットであって、
高ショ糖ストレスもしくは冷凍ストレスまたはその双方により誘導されるプロモーター;および
該プロモーターの下流に作動可能に連結された、酵母のARO1遺伝子、BUD23遺伝子、PMR1遺伝子、SNF5遺伝子、GON7遺伝子、SPT20遺伝子、CBS2遺伝子、もしくはDBF2遺伝子をコードするポリヌクレオチドまたはその5’末端フラグメント、あるいはそれらの組合せ;
を含む、核酸カセット。
【請求項2】
前記プロモーターが、HSP104プロモーターである、請求項1に記載の核酸カセット。
【請求項3】
前記ARO1遺伝子が、配列番号1に示されるヌクレオチド配列からなり、
前記BUD23遺伝子が、配列番号2に示されるヌクレオチド配列からなり、
前記PMR1遺伝子が、配列番号3に示されるヌクレオチド配列からなり、
前記SNF5遺伝子が、配列番号4に示されるヌクレオチド配列からなり、
前記GON7遺伝子が、配列番号34に示されるヌクレオチド配列からなり、
前記SPT20遺伝子が、配列番号35に示されるヌクレオチド配列からなり、
前記CBS2遺伝子が、配列番号36に示されるヌクレオチド配列からなり、
前記DBF2遺伝子が、配列番号37に示されるヌクレオチド配列からなる、
請求項1に記載の核酸カセット。
【請求項4】
前記プロモーターの上流に、前記ARO1遺伝子、BUD23遺伝子、PMR1遺伝子、SNF5遺伝子、GON7遺伝子、SPT20遺伝子、CBS2遺伝子、もしくはDBF2遺伝子の上流領域のポリヌクレオチドをさらに含む、請求項1に記載の核酸カセット。
【請求項5】
選択マーカーをコードするポリヌクレオチドをさらに含む、請求項1に記載の核酸カセット。
【請求項6】
前記選択マーカーが、栄養要求性マーカー、抗生物質耐性マーカー、蛍光タンパク質マーカー、発光タンパク質マーカー、酵素タンパク質マーカー、および薬剤耐性マーカーからなる群より選択される、請求項5に記載の核酸カセット。
【請求項7】
前記栄養要求性マーカーが、URA3マーカーである、請求項6に記載の核酸カセット。
【請求項8】
前記5’末端フラグメントが、導入された酵母中のARO1遺伝子、BUD23遺伝子、PMR1遺伝子、SNF5遺伝子、GON7遺伝子、SPT20遺伝子、CBS2遺伝子、もしくはDBF2遺伝子と相同組換えを生じるために十分な長さである、請求項1に記載の核酸カセット。
【請求項9】
前記長さが、少なくとも40ヌクレオチドである、請求項8に記載の核酸カセット。
【請求項10】
前記長さが、少なくとも600ヌクレオチドである、請求項9に記載の核酸カセット。
【請求項11】
前記酵母が、サッカロミセス・セレビシェである、請求項1に記載の核酸カセット。
【請求項12】
高ショ糖ストレスまたは冷凍ストレスに対して耐性の酵母を製造する方法であって、
酵母中に請求項1に記載の核酸カセットを導入する工程;
を包含する、方法。
【請求項13】
前記酵母が、サッカロミセス・セレビシェである、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記サッカロミセス・セレビシェが、Y244株(受託番号NITE P−274)である、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記サッカロミセス・セレビシェが、Y245株(受領番号NITE AP−401;受託番号NITE P−401)である、請求項13に記載の方法。
【請求項16】
請求項1に記載の核酸カセットを含む、酵母。
【請求項17】
サッカロミセス・セレビシェである、請求項16に記載の酵母。
【請求項18】
受領番号NITE AP−404(受託番号NITE P−404)、受領番号NITE AP−405(受託番号NITE P−405)、受領番号NITE AP−403(受託番号NITE P−403)、受領番号NITE AP−402(受託番号NITE P−402)、受領番号NITE AP−633、受領番号NITE AP−634、受領番号NITE AP−635、受領番号NITE AP−636からなる群より選択される株である、請求項17に記載の酵母。
【請求項19】
請求項16に記載の酵母を含む、食品またはその材料。
【請求項20】
パン、パン生地、アルコール、菓子類、漬物、および発酵調味料からなる群より選択される、請求項19に記載の食品またはその材料。
【請求項21】
高ショ糖ストレスまたは冷凍ストレスに対して耐性の酵母を製造するための、ARO1遺伝子、BUD23遺伝子、PMR1遺伝子、SNF5遺伝子、GON7遺伝子、SPT20遺伝子、CBS2遺伝子、もしくはDBF2遺伝子をコードするポリヌクレオチドまたはそれらの組合せの使用。
【請求項22】
前記サッカロミセス・セレビシェが、Y249株(受領番号NITE AP−631)である、請求項13に記載の方法。
【請求項23】
前記サッカロミセス・セレビシェが、Y251株(受領番号NITE AP−632)である、請求項13に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−72187(P2009−72187A)
【公開日】平成21年4月9日(2009.4.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−220525(P2008−220525)
【出願日】平成20年8月28日(2008.8.28)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)「国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成19年度 独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構 生物系特定産業技術研究支援センター委託研究による成果、産業技術力強化法第19条の適用を受けるもの)」
【出願人】(501203344)独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構 (827)
【Fターム(参考)】