元素測定装置及び方法
【課題】 試料が破壊されることなくスムーズな元素の離脱を可能とし、試料中の3次元的原子分布を容易且つ正確に再構成することができる。
【解決手段】 3DAPにおいて、試料11の元素の電界蒸発をアシストするための吸着ガスをチャンバー1内に導入する吸着ガス導入機構6が設けられる。吸着ガスとしては、試料11の元素に吸着し易い(吸着率の高い)ガス種、例えば窒素ガスが選ばれる。
【解決手段】 3DAPにおいて、試料11の元素の電界蒸発をアシストするための吸着ガスをチャンバー1内に導入する吸着ガス導入機構6が設けられる。吸着ガスとしては、試料11の元素に吸着し易い(吸着率の高い)ガス種、例えば窒素ガスが選ばれる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、3次元構造物である試料に電界を印加し、電界による試料からの元素の離脱現象を利用して、離脱した元素の位置及び飛行時間を測定する元素測定装置及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、3次元構造物である試料に電界を印加し、電界による試料からの元素の離脱現象を利用して、位置敏感型検出器(position sensitive detector)により、離脱した元素の位置及び飛行時間を検出する、いわゆる3次元アトムプローブ(Three Dimensional Atom Probe:以下、3DAPと略称する。)が開発されている。この3DAPを用いることにより、各元素が不均一に分布する合金状態の試料や、相異なる複数の材料が積層されてなる多層薄膜試料を、針状構造体の先端部位としたものを対象として、先端表面の元素から順次電界蒸発させてゆく。この電界蒸発により離脱した元素の位置及び飛行時間を位置敏感型検出器で検出することにより、試料中の原子分布を3次元的に再構成することができる。
【0003】
【特許文献1】特開平6−331634号公報
【特許文献2】特開平6−329500号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来の3DAPでは、試料を構成する材料により電界蒸発エネルギーが異なることから、各材料間の電界蒸発エネルギーの差に起因して、元素の離脱がスムーズに行われないという問題がある。このような材料間における電界蒸発エネルギーの相違により、甚だしくは試料が破壊されることもある。
【0005】
本発明は、上記の課題に鑑みてなされたものであり、試料における各材料のスムーズな元素離脱を可能とし、試料が破壊されることもなく、試料中の3次元的原子分布を容易且つ正確に再構成することができる元素測定装置及び方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の元素測定装置は、3次元構造物である試料に電界を印加し、前記電界による前記試料からの元素の離脱現象を利用して、離脱した前記元素の位置及び飛行時間を測定する元素測定装置であって、内部に前記試料が配置されるチャンバーと、前記試料に前記電界を印加するための電源と、前記チャンバー内で前記試料と対向するように設置されており、前記試料から離脱した前記元素を検出する元素検出手段と、前記チャンバー内に吸着ガスを導入するガス導入手段とを含み、前記ガス導入手段により前記チャンバー内に吸着ガスを導入した状態で、前記電源により前記試料に前記電界を印加し、離脱した前記元素と当該元素に吸着した前記吸着ガスとの複合体を前記元素検出手段により検出し、前記測定を行う。
【0007】
本発明の元素測定方法は、元素検出手段が設置され、前記元素検出手段と対向するように3次元構造物である試料が配置されたチャンバー内に、吸着ガスを導入するステップと、前記チャンバー内に吸着ガスを導入した状態で、前記試料に所定の電界を印加するステップと、前記電界の印加により前記試料から離脱した前記元素と、当該元素に吸着した前記吸着ガスとの複合体を前記元素検出手段により検出し、前記元素の位置及び結合状態を測定するステップとを含む。
【発明の効果】
【0008】
本発明の元素測定装置及び方法によれば、試料における各材料のスムーズな元素の離脱を可能とし、試料が破壊されることもなく、試料中の3次元的原子分布を容易且つ正確に再構成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
−本発明の基本骨子−
本発明者は、各材料の均一な電界蒸発を得るべく、試料への吸着率の高いガス(吸着ガス)を用いて、この吸着ガスをチャンバー内に導入した状態で試料に電界を印加する構成に想到した。本発明の構成によれば、試料を構成する材料間で電界蒸発エネルギーが異なるにも係わらず、試料が破損等することなく試料を構成する各材料の原子を元素離脱させることができることが確認された。
【0010】
吸着ガスの導入により、試料を構成する各材料の原子の良好な元素離脱が行われるメカニズムは、現在のところ十分には把握されていない状況にあるが、主なものとしては以下の2つが考えられる。
【0011】
メカニズムA:
ここでは、試料の破損等の主原因が試料に印加される電界に起因して試料に加わる応力であると推測する。
図1に示すように、試料を針状構造体101の先端部分とした場合、針状構造体101への電界の印加により試料には応力が加わる。電界は尖鋭部位に集中し、電界の印加に起因する応力は電界の強さの2乗に比例するため、応力は電界の集中する試料先端部で最も大きくなる。ここで、試料が電界蒸発エネルギーの異なる複数材料の多層構造であり、電界蒸発エネルギーの高い材料(材料a)が前方(先端方向)に、電界蒸発エネルギーの低い材料(材料b)が材料aの後方に設けられている場合について考察する。電界蒸発が進み、材料aが試料の最先端部に露出したとき(或いは材料aが当初から試料の最先端部に設けられているとき)、材料aには電界が集中して大きな応力が加わるものの、材料aの電界蒸発エネルギーが高いために電界蒸発が生じ難い。このように、電界蒸発が遅滞した状態で最先端部の材料aに大きな応力が加わり、この応力が主原因となって材料bや材料aと材料bとの界面近傍等にダメージが生じ、試料の破損等が発生すると考える。
【0012】
本発明では、図2に示すように、吸着ガスをチャンバー内へ導入し、針状構造体101へ電界を印加することにより、吸着ガス分子102は電界の集中する部分、即ち材料aに特に吸着する。また、針状構造体101の後方に吸着ガス分子102が吸着した場合でも、吸着ガス分子102が先端方向へ移動してゆくと考えられる。この吸着ガス分子102の吸着により当該吸着部位の電界蒸発エネルギーが低下する。従って、吸着ガスの導入により、先端部に位置する材料aの電界蒸発エネルギーが低下し、これにより材料aの電界蒸発が促進され、材料aに加わる応力が緩和される。この作用により、試料が破損等することなく試料のスムーズな元素離脱が実現する。なお、吸着ガスとして、試料を構成する各材料のうち、特定の材料、例えば最も電界蒸発エネルギーの高い材料に最も吸着し易い性質を有する吸着ガスを用いて、当該材料への吸着を促進するようにしても良い。
【0013】
メカニズムB:
ここでは、試料の破損等の主原因が、試料を構成する各材料間で電界蒸発エネルギーが異なることに起因して試料表面の元素離脱が各材料で不均一となることにあると推測する。
図1と同様に、試料を針状構造体101の先端部分とした場合、針状構造体101への電界の印加により、電界蒸発エネルギーの低い材料から先に電界蒸発が発生する。これにより、各材料における元素の離脱の割合が不均一となり、試料表面が凹凸状となって、試料の破損等が発生すると考える。
【0014】
本発明では、図3に示すように、吸着ガスをチャンバー内へ導入し、針状構造体101へ電界を印加することにより、吸着ガス分子102は電界の集中する部分に特に吸着する。また、針状構造体101の後方に吸着ガス分子102が吸着した場合でも、吸着ガス分子102が先端方向へ移動してゆくと考えられる。この吸着ガス分子102の吸着により当該吸着部位の電界蒸発エネルギーが低下する。従って、試料のうち電界蒸発エネルギーの高い材料の部分では電界蒸発が発生し難いため、当該高電界蒸発エネルギー材料の原子による突起部が生じても、当該突起部に特に吸着ガス分子102が吸着して優先的に電界蒸発が促進される。この作用により、電界蒸発エネルギーの低い材料の原子が先立って電界蒸発する割合が大幅に減少し、試料表面の凹凸が解消されることになる。
【0015】
なお、メカニズムA,Bに共通して、試料を構成する各材料について、着目する特定材料の前方に、当該特定材料よりも電界蒸発エネルギーの高い材料が1種以上存在する場合に問題となる。換言すれば、本発明は試料が上記の構造を採る場合に特に効果的である。
【0016】
ここで、試料への電界の印加に同期させて、当該試料にエネルギービームを照射することにより、試料の均一な元素離脱を、吸着ガス分子102による吸着と相俟って更に促進させることが可能となる。エネルギービームとしては、レーザ光や電子線等が好ましい。
【0017】
本発明においては、試料101の離脱した原子103は吸着ガス分子102と結合して複合イオン104として位置敏感型検出器へ向かって飛行する。この複合イオン104の位置敏感型検出器への到達位置及び飛行時間から、試料の原子分布を正確に3次元的に再構成することができる。
【0018】
なお、特許文献1では、試料面の原子数層毎に原子配列を測定する表面分析法を行うに際して、試料面の原子とガス分子とを反応させて当該原子を脱離させてゆく技術が開示されている。特許文献1の発明は、表面分析法を前提として、ガス分子を利用した原子数層毎の脱離を可能とするものであって、3DAP法を前提としてガス分子を利用した試料の均一な元素離脱を可能とする本発明とは、その構成は勿論のこと、目的及び作用効果も異なり、両者は別発明である。
【0019】
また、特許文献2では、レーザ光を用いた薄膜形成に際して、N2ガスをラジカルとしてチャンバー内へ導入する技術が開示されているが、上記と同様に、本発明とはその構成は勿論のこと、目的及び作用効果も異なり、両者は別発明である。
【0020】
−本発明を適用した具体的な実施形態−
以下、本発明を適用した具体的な諸実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0021】
[第1の実施形態]
(元素測定装置の構成)
図4は、第1の実施形態による元素測定装置(3DAP)の概略構成を示す模式図である。
この元素測定装置は、内部に試料11が配置されるチャンバー1と、試料11に電界を印加するための電源2と、チャンバー1内で試料11と対向するように設置されており、試料から離脱した元素を検出する元素検出手段である位置敏感型検出器3と、チャンバー1内において試料11との間で高い直流バイアス電圧が印加される引出電極4と、チャンバー1内を所望の真空状態とするための真空ポンプ等を含む排気機構5と、チャンバー1内に吸着ガスを導入する吸着ガス導入機構6と、電源2及び位置敏感型検出器3と接続されたタイマー7とを備えて構成されている。
【0022】
試料11は、針状構造物の先端部分であり、正面から平面視した際に略同心円状となるように、隣接間で相異なる複数の材料の層が順次略円盤状に設けられてなる多層薄膜試料である。本実施形態では、例えば試料11はその最先端から順に、Ta(5nm程度)/Ni(3nm程度)/Co(3nm程度)/Cu(2.5nm程度)/Co(2nm程度)/Ta(0.8nm程度)/Co(1.5nm程度)/Pt(13nm程度)/Ni(7nm程度)/Si(基板)のように各層が積層されて構成されている。ここで、括弧内の記載は各層の膜厚である。
【0023】
電源2は、試料11と引出電極4との間に直流バイアス電圧を印加するとともに、当該直流バイアス電圧を印加した状態で、試料11にパルス電圧を印加するためのものである。即ち、電源2は、当該元素測定装置の作動時には試料11と引出電極4との間に高い直流バイアス電圧を与えておき、タイマー7の起動により試料11に元素の電界蒸発を惹起する程度のパルス電圧を印加する。1回のパルス電圧の印加により1原子の電界蒸発を生ぜしめるのが理想的であるが、1回のパルス電圧の印加により同時に複数の原子が電界蒸発するという不測の事態を避ける趣旨から、ここでは10回から100回のパルス電圧の印加により1原子の電界蒸発が生じるようにパルス電圧を調節する。
【0024】
位置敏感型検出器3は、平面状の元素検知面を備えており、試料11から電界蒸発した原子(ここでは複合イオン)を2次元マップとして表示する機能を有している。電界蒸発現象を利用して試料11の表面から1原子ずつ、1原子層毎に電界蒸発させてゆくことにより、2次元マップを試料11の深さ方向に拡張させることができる。この2次元マップのデータを不図示のコンピュータに蓄積して所定の計算処理を行うことにより、試料11の原子分布を3次元的に再構成することができる。
【0025】
引出電極4は、空洞の円環形状の電極であり、試料11と位置敏感型検出器3との間で試料11の近傍に配置されており、電源2により試料11との間に直流バイアス電圧が印加される。電源2により直流バイアス電圧に重畳してパルス電圧が試料11に印加されると、電界蒸発した原子は複合イオンの状態で引出電極4の空洞部分を通過して位置敏感型検出器3へ向かって飛行する。
【0026】
吸着ガス導入機構6は、試料11の電界蒸発をアシストするための吸着ガスをチャンバー1内に導入するものである。吸着ガスとしては、試料11の元素に吸着し易い(吸着率の高い)ガス種が選ばれる。ガス種の吸着率(分極エネルギー)は一般的に、
吸着率=(1/2)αF2 α:分極率,F:電界強度(試料表面で最大)
で決定される。従って、分極率の大きいガス種を選ぶことが好ましい。ここでは、分極率が0.2(10-40J-1C2m2)より大きいガス種とする。具体的に、この条件を満たすガス種としては、H2,N2,CO2,CO,HF,HCl,HBr,HI,H2O,NH3,CCl4,CHCl3,CH2Cl2,CH3Cl,CH4,CH3OH,CH3CH2OH,C6H6,C6H5CH3,o−C6H4(CH3)2,He,Ar等のうちから選ばれた少なくとも1種が好適である。
【0027】
タイマー7は、電源2の試料11へ印加するパルス電圧を起動する機能を有している。タイマー7は更に、パルス電圧の印加により試料11の先端から元素離脱が生じたときから複合イオンが位置敏感型検出器3に到達するまでの時間、即ち複合イオンの飛行時間を測定する機能も有している。
【0028】
(元素測定方法)
以下、図4の3DAPを用いた試料11の具体的な元素測定方法について、図5を用いて説明する。
先ず、チャンバー1内に位置敏感型検出器3の元素検知面と先端が対向するように、試料11を先端部分に有する複数の針状構造体を備えた被測定部材20を設置する。この状態で、真空機構5の作動により、チャンバー1を所定の真空度に調節する(ステップS1)。ここでは、いわゆる超高真空状態、例えば2×10-8Pa程度の圧力状態とする。
【0029】
続いて、吸着ガス導入機構6の作動により、チャンバー1内に吸着ガスを導入する(ステップS2)。ここでは、吸着ガスとして窒素(N2)ガスをチャンバー1内が5×10-3Pa程度の圧力状態となるように導入する。
【0030】
続いて、チャンバー1内が吸着ガスの雰囲気とされた状態で、タイマー7の起動により、試料11に電源2の直流バイアス電圧に加えてパルス電圧、例えば5kVのパルス電圧を加える(ステップS3)。このパルス電圧の印加により、試料11の表面に吸着ガス分子、ここではN2が吸着して複合イオンを形成した状態で、例えば10回〜100回のパルス電圧に対応して1個の割合で複合イオンの電界蒸発が生じる。吸着ガス分子は、特に電界蒸発エネルギーの高い部位に吸着し易く、当該吸着により電界蒸発エネルギーが低下して複合イオンの電界蒸発が促進される。
【0031】
続いて、電界蒸発した複合イオンが位置敏感型検出器3に到達した際の位置敏感型検出器3の元素検出面における位置を測定するとともに、タイマー7により複合イオンの飛行時間を測定する(ステップS4)。
【0032】
そして、複合イオンの位置敏感型検出器3の元素検出面における位置及び飛行時間に基づき、2次元マップを作成する。具体的には、ステップS3及びS4からなる一連の工程を、試料11を構成する各層の元素が(測定に要する分だけ)全て電界蒸発するまで繰り返し実行し(ステップS5)、試料11の深さ方向に拡張させた2次元マップを作成する(ステップS6)。このようにして得られた2次元マップのデータを不図示のコンピュータを用いて解析することにより、試料11の原子分布を3次元的に再構成する(ステップS7)。
【0033】
ここで、上述した本実施形態の元素測定方法により、元素測定を途中まで実行した際の試料11の状態を図6に示す。図6では、試料11の表層の一部が電界蒸発した状態を表している。
上述した本実施形態の元素測定方法によれば、元素測定を実行した際の試料11に破損等が生じることがなく、各層の元素離脱がスムーズに行われるという良好な結果が得られた。この事実は、上述のメカニズムA,Bによりそれぞれ以下のように説明できる。
【0034】
メカニズムA:
試料11のように、最上層に電界蒸発エネルギーの比較的高いTa層、その下層に電界蒸発エネルギーの比較的低いNi層が設けられている場合、元素測定時における電界の印加により、電界の集中するTa層に吸着ガス分子が特に吸着し、この吸着によりTa層の電界蒸発エネルギーが低下し、Ta層の元素離脱が促進される。このとき、電界蒸発エネルギーの低下に伴いTa層の応力が緩和されるため、試料11に破損等が生じることはない。従って、試料11では、図6のように良好な状態に元素離脱が行われた痕跡を示す。
【0035】
メカニズムB:
ここでは比較のため、吸着ガスの導入を行わない従来の3DAPを用いて元素測定を実行した際の試料11の状態を図7として、更に図6に図7を重ね合わせた様子を図8として示す。図7,8では、試料11の表層の一部が電界蒸発した状態を表しており、破線が本実施形態、一点鎖線が従来例をそれぞれ示す。
【0036】
従来の3DAPでは、図7のように、その各層の材料における電界蒸発エネルギーの差に起因して、試料11の表面が図中矢印で示すような凹凸形状となる。即ち、電界蒸発エネルギーの比較的高い最上層のTa層やRu層,Pt層よりも、電界蒸発エネルギーの比較的低いCu層やNi層,Co層等の方が速く元素離脱が生じてしまい、結果として試料11の表面が不均一な凹凸形状となる。このように従来の3DAPでは、試料11における各層の元素離脱がスムーズに行われず、甚だしくは試料11が破壊されることもある。
【0037】
これに対して、本実施形態の3DAPでは、図6のように、試料11の表面は図中矢印で示す部分に凹凸形状がなく、滑らかな形状となった。これは、試料11の各層で略均一な元素離脱が生じたことを意味している。従って、本実施形態の3DAPでは、試料11における各層の元素離脱がスムーズに行われることが判る。この様子は、図8のように本実施形態の結果と従来例の結果とを重ね合わせて比較すると更に明確となる。
【0038】
以上説明したように、本実施形態の3DAPによれば、試料11における各層のスムーズな元素離脱を可能とし、試料11が破壊されることもなく、試料11中の3次元的原子分布を容易且つ正確に再構成することができる。
【0039】
[第2の実施形態]
(元素測定装置の構成)
図9は、第2の実施形態による元素測定装置(3DAP)の概略構成を示す模式図である。
本実施形態の3DAPは、図4に示した第1の実施形態の3DAPの構成に加え、試料11にレーザ光を照射するためのレーザ機構10を備えて構成されている。なお、図4の構成部材等と同一のものについては同符号を付し、詳細な説明を省略する。
【0040】
レーザ機構10は、例えばフェムトパルスの半導体励起チタンサファイヤレーザ等を有しており、試料11への電界の印加に同期して当該試料11の表面にレーザ光を照射し、試料11からの電界蒸発をアシストするものである。レーザ機構10による試料11へのレーザ光照射により、試料11の先端からの元素離脱を吸着ガス分子による吸着と相俟って更に促進させることが可能となり、特に試料に電界蒸発エネルギーの高い材料が存する場合等においても、材料によらず試料11の最先端からの順次の元素離脱が得られる。
なお、レーザ機構10の代わりに、電子線照射機構を設置し、エネルギービームとして電子線を試料11に照射するようにしても良い。
【0041】
タイマー12は、電源2、位置敏感型検出器3及びレーザ機構10と接続されており、電源2の試料11へ印加するパルス電圧を起動するとともに、当該パルス電圧の印加とレーザ機構10のレーザ光の照射との同期をとる機能を有している。タイマー12は更に、パルス電圧の印加により試料11の先端から元素離脱が生じたときから複合イオンが位置敏感型検出器3に到達するまでの時間、即ち複合イオンの飛行時間を測定する機能も有している。
【0042】
(元素測定方法)
以下、図9の3DAPを用いた試料11の具体的な元素測定方法について、図10を用いて説明する。
先ず、チャンバー1内に位置敏感型検出器3の元素検知面と先端が対向するように、試料11を先端部分に有する複数の針状構造体を備えた被測定部材20を設置する。この状態で、真空機構5の作動により、チャンバー1を所定の真空度に調節する(ステップS11)。ここでは、いわゆる超真空状態、例えば2×10-8Pa程度の圧力状態とする。
【0043】
続いて、吸着ガス導入機構6の作動により、チャンバー1内に吸着ガスを導入する(ステップS12)。ここでは、吸着ガスとして窒素(N2)ガスをチャンバー1内が5×10-6Pa程度の圧力状態となるように導入する。
【0044】
続いて、チャンバー1内が吸着ガスの雰囲気とされた状態で、タイマー12の起動により、試料11に電源2の直流バイアス電圧に加えてパルス電圧、例えば5kVのパルス電圧を加えるとともに、当該パルス電圧と同期するようにレーザ機構10により試料11にレーザ光を照射する(ステップS13)。このパルス電圧の印加及びレーザ光の照射により、試料11の表面では、当該先端に位置する層の元素に吸着ガス分子、ここではN2が吸着して複合イオンを形成した状態で、例えば10回〜100回のパルス電圧に対応して1個の割合で複合イオンの電界蒸発が生じる。吸着ガス分子は、特に電界蒸発エネルギーの高い部位に吸着し易く、当該吸着により電界蒸発エネルギーが低下して複合イオンの電界蒸発が促進される。
【0045】
続いて、電界蒸発した複合イオンが位置敏感型検出器3に到達した際の位置敏感型検出器3の元素検出面における位置を測定するとともに、タイマー12により複合イオンの飛行時間を測定する(ステップS14)。
【0046】
そして、複合イオンの位置敏感型検出器3の元素検出面における位置及び飛行時間に基づき、2次元マップを作成する。具体的には、ステップS13及びS14からなる一連の工程を、試料11を構成する各層の元素が全て電界蒸発するまで繰り返し実行し(ステップS15)、試料11の深さ方向に拡張させた2次元マップを作成する(ステップS16)。このようにして得られた2次元マップのデータを不図示のコンピュータを用いて解析することにより、試料11の原子分布を3次元的に再構成する(ステップS17)。
【0047】
なお、図5及び図10のフロー図等におけるプログラムコード等は、コンピュータのRAMやROMなどに記憶されたプログラムが動作することによって実現できる。このプログラム、及び当該プログラムを記録したコンピュータ読み取り可能な記憶媒体は本発明の実施形態に含まれる。
【0048】
具体的に、前記プログラムは、例えばCD−ROMのような記録媒体に記録し、或いは各種伝送媒体を介し、コンピュータに提供される。前記プログラムを記録する記録媒体としては、CD−ROM以外に、フレキシブルディスク、ハードディスク、磁気テープ、光磁気ディスク、不揮発性メモリカード等を用いることができる。他方、前記プログラムの伝送媒体としては、プログラム情報を搬送波として伝搬させて供給するためのコンピュータネットワーク(LAN、インターネットの等のWAN、無線通信ネットワーク等)システムにおける通信媒体(光ファイバ等の有線回線や無線回線等)を用いることができる。
【0049】
また、コンピュータが供給されたプログラムを実行することにより上述の実施形態の機能が実現されるだけでなく、そのプログラムがコンピュータにおいて稼働しているOS(オペレーティングシステム)あるいは他のアプリケーションソフト等と共同して上述の実施形態の機能が実現される場合や、供給されたプログラムの処理の全てあるいは一部がコンピュータの機能拡張ボードや機能拡張ユニットにより行われて上述の実施形態の機能が実現される場合も、かかるプログラムは本発明の実施形態に含まれる。
【0050】
例えば、図11は、パーソナルユーザ端末装置の内部構成を示す模式図である。この図11において、1200はコンピュータPCである。PC1200は、CPU1201を備え、ROM1202またはハードディスク(HD)1211に記憶された、あるいはフレキシブルディスクドライブ(FD)1212より供給されるデバイス制御ソフトウェアを実行し、システムバス1204に接続される各デバイスを総括的に制御する。
【0051】
PC1200のCPU1201、ROM1202またはハードディスク(HD)1211に記憶されたプログラムにより、本実施形態における図5のステップS1〜S7及び図10のステップS11〜S17等の手順が実現される。
【0052】
1203はRAMであり、CPU1201の主メモリ、ワークエリア等として機能する。1205はキーボードコントローラ(KBC)であり、キーボード(KB)1209や不図示のデバイス等からの指示入力を制御する。
【0053】
1206はCRTコントローラ(CRTC)であり、CRTディスプレイ(CRT)1210の表示を制御する。1207はディスクコントローラ(DKC)であり、ブートプログラム(起動プログラム:パソコンのハードやソフトの実行(動作)を開始するプログラム)、複数のアプリケーション、編集ファイル、ユーザファイル及びネットワーク管理プログラム等を記憶するハードディスク(HD)1211や、フレキシブルディスク(FD)1212とのアクセスを制御する。
【0054】
1208はネットワークインタフェースカード(NIC)であり、LAN1220を介して、ネットワークプリンタ、他のネットワーク機器、あるいは他のPCと双方向のデータのやり取りを行う。
【0055】
以下、本発明の諸態様を付記としてまとめて記載する。
【0056】
(付記1)3次元構造物である試料に電界を印加し、前記電界による前記試料からの元素の離脱現象を利用して、離脱した前記元素の位置及び飛行時間を測定する元素測定装置であって、
内部に前記試料が配置されるチャンバーと、
前記試料に前記電界を印加するための電源と、
前記チャンバー内で前記試料と対向するように設置されており、前記試料から離脱した前記元素を検出する元素検出手段と、
前記チャンバー内に吸着ガスを導入するガス導入手段と
を含み、
前記ガス導入手段により前記チャンバー内に吸着ガスを導入した状態で、前記電源により前記試料に前記電界を印加し、離脱した前記元素と当該元素に吸着した前記吸着ガスとの複合体を前記元素検出手段により検出し、前記測定を行うことを特徴とする元素測定装置。
【0057】
(付記2)前記吸着ガスは、分極率が0.2(10-40J-1C2m2)より大きいガス種であることを特徴とする付記1に記載の元素測定装置。
【0058】
(付記3)前記吸着ガスは、H2,N2,CO2,CO,HF,HCl,HBr,HI,H2O,NH3,CCl4,CHCl3,CH2Cl2,CH3Cl,CH4,CH3OH,CH3CH2OH,C6H6,C6H5CH3,o−C6H4(CH3)2,He,Arのうちから選ばれた少なくとも1種であることを特徴とする付記2に記載の元素測定装置。
【0059】
(付記4)前記電源による前記電界の印加と同期して、前記試料にエネルギービームを照射する照射手段を更に含むことを特徴とする付記1〜3のいずれか1項に記載の元素測定装置。
【0060】
(付記5)前記試料は、針状構造物の先端部分であり、正面から平面視した際に略同心円状となるように、隣接間で相異なる複数の材料が順次略円盤状に設けられてなるものであることを特徴とする付記1〜4のいずれか1項に記載の元素測定装置。
【0061】
(付記6)前記試料は、着目する特定の前記材料の前方に、当該特定の前記材料よりも電界蒸発エネルギーの高い前記材料が1種以上設けられてなるものであることを特徴とする付記5に記載の元素測定装置。
【0062】
(付記7)元素検出手段が設置され、前記元素検出手段と対向するように3次元構造物である試料が配置されたチャンバー内に、吸着ガスを導入するステップと、
前記チャンバー内に吸着ガスを導入した状態で、前記試料に所定の電界を印加するステップと、
前記電界の印加により前記試料から離脱した前記元素と、当該元素に吸着した前記吸着ガスとの複合体を前記元素検出手段により検出し、前記元素の位置及び結合状態を測定するステップと
を含むことを特徴とする元素測定方法。
【0063】
(付記8)前記吸着ガスは、分極率が0.2(10-40J-1C2m2)より大きいガス種であることを特徴とする付記7に記載の元素測定方法。
【0064】
(付記9)前記吸着ガスは、H2,N2,CO2,CO,HF,HCl,HBr,HI,H2O,NH3,CCl4,CHCl3,CH2Cl2,CH3Cl,CH4,CH3OH,CH3CH2OH,C6H6,C6H5CH3,o−C6H4(CH3)2,He,Arのうちから選ばれた少なくとも1種であることを特徴とする付記8に記載の元素測定方法。
【0065】
(付記10)前記試料に前記電界を印加するステップにおいて、前記電界の印加と同期するように、前記試料にエネルギービームを照射することを特徴とする付記7〜9のいずれか1項に記載の元素測定方法。
【0066】
(付記11)前記試料は、針状構造物の先端部分であり、正面から平面視した際に略同心円状となるように、隣接間で相異なる複数の材料が順次略円盤状に設けられてなるものである特徴とする付記7〜10のいずれか1項に記載の元素測定方法。
【0067】
(付記12)前記試料は、着目する特定の前記材料の前方に、当該特定の前記材料よりも電界蒸発エネルギーの高い前記材料が1種以上設けられてなるものであることを特徴とする付記11に記載の元素測定方法。
【0068】
(付記13)コンピュータに、
元素検出手段が設置され、前記元素検出手段と対向するように3次元構造物である試料が配置されたチャンバー内に、吸着ガスを導入するステップと、
前記チャンバー内に吸着ガスを導入した状態で、前記試料に所定の電界を印加するステップと、
前記電界の印加により前記試料から離脱した前記元素と、当該元素に吸着した前記吸着ガスとの複合体を前記元素検出手段により検出し、前記元素の位置及び結合状態を測定するステップと
を含む元素測定方法を実行させるためのプログラムを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体。
【0069】
(付記14)コンピュータに、
元素検出手段が設置され、前記元素検出手段と対向するように3次元構造物である試料が配置されたチャンバー内に、吸着ガスを導入するステップと、
前記チャンバー内に吸着ガスを導入した状態で、前記試料に所定の電界を印加するステップと、
前記電界の印加により前記試料から離脱した前記元素と、当該元素に吸着した前記吸着ガスとの複合体を前記元素検出手段により検出し、前記元素の位置及び結合状態を測定するステップと
を含む元素測定方法を実行させるためのプログラム。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】吸着ガスにより試料を構成する各材料の原子の良好な元素離脱が行われるメカニズムA,Bを説明するための模式図である。
【図2】メカニズムAを説明するための模式図である。
【図3】メカニズムBを説明するための模式図である。
【図4】第1の実施形態による元素測定装置(3DAP)の概略構成を示す模式図である。
【図5】第1の実施形態による元素測定方法を示すフロー図である。
【図6】第1の実施形態の元素測定方法により元素測定を実行した際の試料の状態を示す模式図である。
【図7】従来の元素測定方法により元素測定を実行した際の試料の状態を示す模式図である。
【図8】第1の本実施形態の元素測定方法により元素測定を実行した際の試料の状態と、従来の元素測定方法により元素測定を実行した際の試料の状態とを重ね合わせて示す模式図である。
【図9】第2の実施形態による元素測定装置(3DAP)の概略構成を示す模式図である。
【図10】第2の実施形態による元素測定方法を示すフロー図である。
【図11】パーソナルユーザ端末装置の内部構成を示す模式図である。
【符号の説明】
【0071】
1 チャンバー
2 電源
3 位置敏感型検出器
4 引出電極
5 排気機構
6 吸着ガス導入機構
7,12 タイマー
10 レーザ機構
11 試料
20 被測定部材
101 針状構造体
102 吸着ガス分子
103 原子
104 複合イオン
【技術分野】
【0001】
本発明は、3次元構造物である試料に電界を印加し、電界による試料からの元素の離脱現象を利用して、離脱した元素の位置及び飛行時間を測定する元素測定装置及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、3次元構造物である試料に電界を印加し、電界による試料からの元素の離脱現象を利用して、位置敏感型検出器(position sensitive detector)により、離脱した元素の位置及び飛行時間を検出する、いわゆる3次元アトムプローブ(Three Dimensional Atom Probe:以下、3DAPと略称する。)が開発されている。この3DAPを用いることにより、各元素が不均一に分布する合金状態の試料や、相異なる複数の材料が積層されてなる多層薄膜試料を、針状構造体の先端部位としたものを対象として、先端表面の元素から順次電界蒸発させてゆく。この電界蒸発により離脱した元素の位置及び飛行時間を位置敏感型検出器で検出することにより、試料中の原子分布を3次元的に再構成することができる。
【0003】
【特許文献1】特開平6−331634号公報
【特許文献2】特開平6−329500号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来の3DAPでは、試料を構成する材料により電界蒸発エネルギーが異なることから、各材料間の電界蒸発エネルギーの差に起因して、元素の離脱がスムーズに行われないという問題がある。このような材料間における電界蒸発エネルギーの相違により、甚だしくは試料が破壊されることもある。
【0005】
本発明は、上記の課題に鑑みてなされたものであり、試料における各材料のスムーズな元素離脱を可能とし、試料が破壊されることもなく、試料中の3次元的原子分布を容易且つ正確に再構成することができる元素測定装置及び方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の元素測定装置は、3次元構造物である試料に電界を印加し、前記電界による前記試料からの元素の離脱現象を利用して、離脱した前記元素の位置及び飛行時間を測定する元素測定装置であって、内部に前記試料が配置されるチャンバーと、前記試料に前記電界を印加するための電源と、前記チャンバー内で前記試料と対向するように設置されており、前記試料から離脱した前記元素を検出する元素検出手段と、前記チャンバー内に吸着ガスを導入するガス導入手段とを含み、前記ガス導入手段により前記チャンバー内に吸着ガスを導入した状態で、前記電源により前記試料に前記電界を印加し、離脱した前記元素と当該元素に吸着した前記吸着ガスとの複合体を前記元素検出手段により検出し、前記測定を行う。
【0007】
本発明の元素測定方法は、元素検出手段が設置され、前記元素検出手段と対向するように3次元構造物である試料が配置されたチャンバー内に、吸着ガスを導入するステップと、前記チャンバー内に吸着ガスを導入した状態で、前記試料に所定の電界を印加するステップと、前記電界の印加により前記試料から離脱した前記元素と、当該元素に吸着した前記吸着ガスとの複合体を前記元素検出手段により検出し、前記元素の位置及び結合状態を測定するステップとを含む。
【発明の効果】
【0008】
本発明の元素測定装置及び方法によれば、試料における各材料のスムーズな元素の離脱を可能とし、試料が破壊されることもなく、試料中の3次元的原子分布を容易且つ正確に再構成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
−本発明の基本骨子−
本発明者は、各材料の均一な電界蒸発を得るべく、試料への吸着率の高いガス(吸着ガス)を用いて、この吸着ガスをチャンバー内に導入した状態で試料に電界を印加する構成に想到した。本発明の構成によれば、試料を構成する材料間で電界蒸発エネルギーが異なるにも係わらず、試料が破損等することなく試料を構成する各材料の原子を元素離脱させることができることが確認された。
【0010】
吸着ガスの導入により、試料を構成する各材料の原子の良好な元素離脱が行われるメカニズムは、現在のところ十分には把握されていない状況にあるが、主なものとしては以下の2つが考えられる。
【0011】
メカニズムA:
ここでは、試料の破損等の主原因が試料に印加される電界に起因して試料に加わる応力であると推測する。
図1に示すように、試料を針状構造体101の先端部分とした場合、針状構造体101への電界の印加により試料には応力が加わる。電界は尖鋭部位に集中し、電界の印加に起因する応力は電界の強さの2乗に比例するため、応力は電界の集中する試料先端部で最も大きくなる。ここで、試料が電界蒸発エネルギーの異なる複数材料の多層構造であり、電界蒸発エネルギーの高い材料(材料a)が前方(先端方向)に、電界蒸発エネルギーの低い材料(材料b)が材料aの後方に設けられている場合について考察する。電界蒸発が進み、材料aが試料の最先端部に露出したとき(或いは材料aが当初から試料の最先端部に設けられているとき)、材料aには電界が集中して大きな応力が加わるものの、材料aの電界蒸発エネルギーが高いために電界蒸発が生じ難い。このように、電界蒸発が遅滞した状態で最先端部の材料aに大きな応力が加わり、この応力が主原因となって材料bや材料aと材料bとの界面近傍等にダメージが生じ、試料の破損等が発生すると考える。
【0012】
本発明では、図2に示すように、吸着ガスをチャンバー内へ導入し、針状構造体101へ電界を印加することにより、吸着ガス分子102は電界の集中する部分、即ち材料aに特に吸着する。また、針状構造体101の後方に吸着ガス分子102が吸着した場合でも、吸着ガス分子102が先端方向へ移動してゆくと考えられる。この吸着ガス分子102の吸着により当該吸着部位の電界蒸発エネルギーが低下する。従って、吸着ガスの導入により、先端部に位置する材料aの電界蒸発エネルギーが低下し、これにより材料aの電界蒸発が促進され、材料aに加わる応力が緩和される。この作用により、試料が破損等することなく試料のスムーズな元素離脱が実現する。なお、吸着ガスとして、試料を構成する各材料のうち、特定の材料、例えば最も電界蒸発エネルギーの高い材料に最も吸着し易い性質を有する吸着ガスを用いて、当該材料への吸着を促進するようにしても良い。
【0013】
メカニズムB:
ここでは、試料の破損等の主原因が、試料を構成する各材料間で電界蒸発エネルギーが異なることに起因して試料表面の元素離脱が各材料で不均一となることにあると推測する。
図1と同様に、試料を針状構造体101の先端部分とした場合、針状構造体101への電界の印加により、電界蒸発エネルギーの低い材料から先に電界蒸発が発生する。これにより、各材料における元素の離脱の割合が不均一となり、試料表面が凹凸状となって、試料の破損等が発生すると考える。
【0014】
本発明では、図3に示すように、吸着ガスをチャンバー内へ導入し、針状構造体101へ電界を印加することにより、吸着ガス分子102は電界の集中する部分に特に吸着する。また、針状構造体101の後方に吸着ガス分子102が吸着した場合でも、吸着ガス分子102が先端方向へ移動してゆくと考えられる。この吸着ガス分子102の吸着により当該吸着部位の電界蒸発エネルギーが低下する。従って、試料のうち電界蒸発エネルギーの高い材料の部分では電界蒸発が発生し難いため、当該高電界蒸発エネルギー材料の原子による突起部が生じても、当該突起部に特に吸着ガス分子102が吸着して優先的に電界蒸発が促進される。この作用により、電界蒸発エネルギーの低い材料の原子が先立って電界蒸発する割合が大幅に減少し、試料表面の凹凸が解消されることになる。
【0015】
なお、メカニズムA,Bに共通して、試料を構成する各材料について、着目する特定材料の前方に、当該特定材料よりも電界蒸発エネルギーの高い材料が1種以上存在する場合に問題となる。換言すれば、本発明は試料が上記の構造を採る場合に特に効果的である。
【0016】
ここで、試料への電界の印加に同期させて、当該試料にエネルギービームを照射することにより、試料の均一な元素離脱を、吸着ガス分子102による吸着と相俟って更に促進させることが可能となる。エネルギービームとしては、レーザ光や電子線等が好ましい。
【0017】
本発明においては、試料101の離脱した原子103は吸着ガス分子102と結合して複合イオン104として位置敏感型検出器へ向かって飛行する。この複合イオン104の位置敏感型検出器への到達位置及び飛行時間から、試料の原子分布を正確に3次元的に再構成することができる。
【0018】
なお、特許文献1では、試料面の原子数層毎に原子配列を測定する表面分析法を行うに際して、試料面の原子とガス分子とを反応させて当該原子を脱離させてゆく技術が開示されている。特許文献1の発明は、表面分析法を前提として、ガス分子を利用した原子数層毎の脱離を可能とするものであって、3DAP法を前提としてガス分子を利用した試料の均一な元素離脱を可能とする本発明とは、その構成は勿論のこと、目的及び作用効果も異なり、両者は別発明である。
【0019】
また、特許文献2では、レーザ光を用いた薄膜形成に際して、N2ガスをラジカルとしてチャンバー内へ導入する技術が開示されているが、上記と同様に、本発明とはその構成は勿論のこと、目的及び作用効果も異なり、両者は別発明である。
【0020】
−本発明を適用した具体的な実施形態−
以下、本発明を適用した具体的な諸実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0021】
[第1の実施形態]
(元素測定装置の構成)
図4は、第1の実施形態による元素測定装置(3DAP)の概略構成を示す模式図である。
この元素測定装置は、内部に試料11が配置されるチャンバー1と、試料11に電界を印加するための電源2と、チャンバー1内で試料11と対向するように設置されており、試料から離脱した元素を検出する元素検出手段である位置敏感型検出器3と、チャンバー1内において試料11との間で高い直流バイアス電圧が印加される引出電極4と、チャンバー1内を所望の真空状態とするための真空ポンプ等を含む排気機構5と、チャンバー1内に吸着ガスを導入する吸着ガス導入機構6と、電源2及び位置敏感型検出器3と接続されたタイマー7とを備えて構成されている。
【0022】
試料11は、針状構造物の先端部分であり、正面から平面視した際に略同心円状となるように、隣接間で相異なる複数の材料の層が順次略円盤状に設けられてなる多層薄膜試料である。本実施形態では、例えば試料11はその最先端から順に、Ta(5nm程度)/Ni(3nm程度)/Co(3nm程度)/Cu(2.5nm程度)/Co(2nm程度)/Ta(0.8nm程度)/Co(1.5nm程度)/Pt(13nm程度)/Ni(7nm程度)/Si(基板)のように各層が積層されて構成されている。ここで、括弧内の記載は各層の膜厚である。
【0023】
電源2は、試料11と引出電極4との間に直流バイアス電圧を印加するとともに、当該直流バイアス電圧を印加した状態で、試料11にパルス電圧を印加するためのものである。即ち、電源2は、当該元素測定装置の作動時には試料11と引出電極4との間に高い直流バイアス電圧を与えておき、タイマー7の起動により試料11に元素の電界蒸発を惹起する程度のパルス電圧を印加する。1回のパルス電圧の印加により1原子の電界蒸発を生ぜしめるのが理想的であるが、1回のパルス電圧の印加により同時に複数の原子が電界蒸発するという不測の事態を避ける趣旨から、ここでは10回から100回のパルス電圧の印加により1原子の電界蒸発が生じるようにパルス電圧を調節する。
【0024】
位置敏感型検出器3は、平面状の元素検知面を備えており、試料11から電界蒸発した原子(ここでは複合イオン)を2次元マップとして表示する機能を有している。電界蒸発現象を利用して試料11の表面から1原子ずつ、1原子層毎に電界蒸発させてゆくことにより、2次元マップを試料11の深さ方向に拡張させることができる。この2次元マップのデータを不図示のコンピュータに蓄積して所定の計算処理を行うことにより、試料11の原子分布を3次元的に再構成することができる。
【0025】
引出電極4は、空洞の円環形状の電極であり、試料11と位置敏感型検出器3との間で試料11の近傍に配置されており、電源2により試料11との間に直流バイアス電圧が印加される。電源2により直流バイアス電圧に重畳してパルス電圧が試料11に印加されると、電界蒸発した原子は複合イオンの状態で引出電極4の空洞部分を通過して位置敏感型検出器3へ向かって飛行する。
【0026】
吸着ガス導入機構6は、試料11の電界蒸発をアシストするための吸着ガスをチャンバー1内に導入するものである。吸着ガスとしては、試料11の元素に吸着し易い(吸着率の高い)ガス種が選ばれる。ガス種の吸着率(分極エネルギー)は一般的に、
吸着率=(1/2)αF2 α:分極率,F:電界強度(試料表面で最大)
で決定される。従って、分極率の大きいガス種を選ぶことが好ましい。ここでは、分極率が0.2(10-40J-1C2m2)より大きいガス種とする。具体的に、この条件を満たすガス種としては、H2,N2,CO2,CO,HF,HCl,HBr,HI,H2O,NH3,CCl4,CHCl3,CH2Cl2,CH3Cl,CH4,CH3OH,CH3CH2OH,C6H6,C6H5CH3,o−C6H4(CH3)2,He,Ar等のうちから選ばれた少なくとも1種が好適である。
【0027】
タイマー7は、電源2の試料11へ印加するパルス電圧を起動する機能を有している。タイマー7は更に、パルス電圧の印加により試料11の先端から元素離脱が生じたときから複合イオンが位置敏感型検出器3に到達するまでの時間、即ち複合イオンの飛行時間を測定する機能も有している。
【0028】
(元素測定方法)
以下、図4の3DAPを用いた試料11の具体的な元素測定方法について、図5を用いて説明する。
先ず、チャンバー1内に位置敏感型検出器3の元素検知面と先端が対向するように、試料11を先端部分に有する複数の針状構造体を備えた被測定部材20を設置する。この状態で、真空機構5の作動により、チャンバー1を所定の真空度に調節する(ステップS1)。ここでは、いわゆる超高真空状態、例えば2×10-8Pa程度の圧力状態とする。
【0029】
続いて、吸着ガス導入機構6の作動により、チャンバー1内に吸着ガスを導入する(ステップS2)。ここでは、吸着ガスとして窒素(N2)ガスをチャンバー1内が5×10-3Pa程度の圧力状態となるように導入する。
【0030】
続いて、チャンバー1内が吸着ガスの雰囲気とされた状態で、タイマー7の起動により、試料11に電源2の直流バイアス電圧に加えてパルス電圧、例えば5kVのパルス電圧を加える(ステップS3)。このパルス電圧の印加により、試料11の表面に吸着ガス分子、ここではN2が吸着して複合イオンを形成した状態で、例えば10回〜100回のパルス電圧に対応して1個の割合で複合イオンの電界蒸発が生じる。吸着ガス分子は、特に電界蒸発エネルギーの高い部位に吸着し易く、当該吸着により電界蒸発エネルギーが低下して複合イオンの電界蒸発が促進される。
【0031】
続いて、電界蒸発した複合イオンが位置敏感型検出器3に到達した際の位置敏感型検出器3の元素検出面における位置を測定するとともに、タイマー7により複合イオンの飛行時間を測定する(ステップS4)。
【0032】
そして、複合イオンの位置敏感型検出器3の元素検出面における位置及び飛行時間に基づき、2次元マップを作成する。具体的には、ステップS3及びS4からなる一連の工程を、試料11を構成する各層の元素が(測定に要する分だけ)全て電界蒸発するまで繰り返し実行し(ステップS5)、試料11の深さ方向に拡張させた2次元マップを作成する(ステップS6)。このようにして得られた2次元マップのデータを不図示のコンピュータを用いて解析することにより、試料11の原子分布を3次元的に再構成する(ステップS7)。
【0033】
ここで、上述した本実施形態の元素測定方法により、元素測定を途中まで実行した際の試料11の状態を図6に示す。図6では、試料11の表層の一部が電界蒸発した状態を表している。
上述した本実施形態の元素測定方法によれば、元素測定を実行した際の試料11に破損等が生じることがなく、各層の元素離脱がスムーズに行われるという良好な結果が得られた。この事実は、上述のメカニズムA,Bによりそれぞれ以下のように説明できる。
【0034】
メカニズムA:
試料11のように、最上層に電界蒸発エネルギーの比較的高いTa層、その下層に電界蒸発エネルギーの比較的低いNi層が設けられている場合、元素測定時における電界の印加により、電界の集中するTa層に吸着ガス分子が特に吸着し、この吸着によりTa層の電界蒸発エネルギーが低下し、Ta層の元素離脱が促進される。このとき、電界蒸発エネルギーの低下に伴いTa層の応力が緩和されるため、試料11に破損等が生じることはない。従って、試料11では、図6のように良好な状態に元素離脱が行われた痕跡を示す。
【0035】
メカニズムB:
ここでは比較のため、吸着ガスの導入を行わない従来の3DAPを用いて元素測定を実行した際の試料11の状態を図7として、更に図6に図7を重ね合わせた様子を図8として示す。図7,8では、試料11の表層の一部が電界蒸発した状態を表しており、破線が本実施形態、一点鎖線が従来例をそれぞれ示す。
【0036】
従来の3DAPでは、図7のように、その各層の材料における電界蒸発エネルギーの差に起因して、試料11の表面が図中矢印で示すような凹凸形状となる。即ち、電界蒸発エネルギーの比較的高い最上層のTa層やRu層,Pt層よりも、電界蒸発エネルギーの比較的低いCu層やNi層,Co層等の方が速く元素離脱が生じてしまい、結果として試料11の表面が不均一な凹凸形状となる。このように従来の3DAPでは、試料11における各層の元素離脱がスムーズに行われず、甚だしくは試料11が破壊されることもある。
【0037】
これに対して、本実施形態の3DAPでは、図6のように、試料11の表面は図中矢印で示す部分に凹凸形状がなく、滑らかな形状となった。これは、試料11の各層で略均一な元素離脱が生じたことを意味している。従って、本実施形態の3DAPでは、試料11における各層の元素離脱がスムーズに行われることが判る。この様子は、図8のように本実施形態の結果と従来例の結果とを重ね合わせて比較すると更に明確となる。
【0038】
以上説明したように、本実施形態の3DAPによれば、試料11における各層のスムーズな元素離脱を可能とし、試料11が破壊されることもなく、試料11中の3次元的原子分布を容易且つ正確に再構成することができる。
【0039】
[第2の実施形態]
(元素測定装置の構成)
図9は、第2の実施形態による元素測定装置(3DAP)の概略構成を示す模式図である。
本実施形態の3DAPは、図4に示した第1の実施形態の3DAPの構成に加え、試料11にレーザ光を照射するためのレーザ機構10を備えて構成されている。なお、図4の構成部材等と同一のものについては同符号を付し、詳細な説明を省略する。
【0040】
レーザ機構10は、例えばフェムトパルスの半導体励起チタンサファイヤレーザ等を有しており、試料11への電界の印加に同期して当該試料11の表面にレーザ光を照射し、試料11からの電界蒸発をアシストするものである。レーザ機構10による試料11へのレーザ光照射により、試料11の先端からの元素離脱を吸着ガス分子による吸着と相俟って更に促進させることが可能となり、特に試料に電界蒸発エネルギーの高い材料が存する場合等においても、材料によらず試料11の最先端からの順次の元素離脱が得られる。
なお、レーザ機構10の代わりに、電子線照射機構を設置し、エネルギービームとして電子線を試料11に照射するようにしても良い。
【0041】
タイマー12は、電源2、位置敏感型検出器3及びレーザ機構10と接続されており、電源2の試料11へ印加するパルス電圧を起動するとともに、当該パルス電圧の印加とレーザ機構10のレーザ光の照射との同期をとる機能を有している。タイマー12は更に、パルス電圧の印加により試料11の先端から元素離脱が生じたときから複合イオンが位置敏感型検出器3に到達するまでの時間、即ち複合イオンの飛行時間を測定する機能も有している。
【0042】
(元素測定方法)
以下、図9の3DAPを用いた試料11の具体的な元素測定方法について、図10を用いて説明する。
先ず、チャンバー1内に位置敏感型検出器3の元素検知面と先端が対向するように、試料11を先端部分に有する複数の針状構造体を備えた被測定部材20を設置する。この状態で、真空機構5の作動により、チャンバー1を所定の真空度に調節する(ステップS11)。ここでは、いわゆる超真空状態、例えば2×10-8Pa程度の圧力状態とする。
【0043】
続いて、吸着ガス導入機構6の作動により、チャンバー1内に吸着ガスを導入する(ステップS12)。ここでは、吸着ガスとして窒素(N2)ガスをチャンバー1内が5×10-6Pa程度の圧力状態となるように導入する。
【0044】
続いて、チャンバー1内が吸着ガスの雰囲気とされた状態で、タイマー12の起動により、試料11に電源2の直流バイアス電圧に加えてパルス電圧、例えば5kVのパルス電圧を加えるとともに、当該パルス電圧と同期するようにレーザ機構10により試料11にレーザ光を照射する(ステップS13)。このパルス電圧の印加及びレーザ光の照射により、試料11の表面では、当該先端に位置する層の元素に吸着ガス分子、ここではN2が吸着して複合イオンを形成した状態で、例えば10回〜100回のパルス電圧に対応して1個の割合で複合イオンの電界蒸発が生じる。吸着ガス分子は、特に電界蒸発エネルギーの高い部位に吸着し易く、当該吸着により電界蒸発エネルギーが低下して複合イオンの電界蒸発が促進される。
【0045】
続いて、電界蒸発した複合イオンが位置敏感型検出器3に到達した際の位置敏感型検出器3の元素検出面における位置を測定するとともに、タイマー12により複合イオンの飛行時間を測定する(ステップS14)。
【0046】
そして、複合イオンの位置敏感型検出器3の元素検出面における位置及び飛行時間に基づき、2次元マップを作成する。具体的には、ステップS13及びS14からなる一連の工程を、試料11を構成する各層の元素が全て電界蒸発するまで繰り返し実行し(ステップS15)、試料11の深さ方向に拡張させた2次元マップを作成する(ステップS16)。このようにして得られた2次元マップのデータを不図示のコンピュータを用いて解析することにより、試料11の原子分布を3次元的に再構成する(ステップS17)。
【0047】
なお、図5及び図10のフロー図等におけるプログラムコード等は、コンピュータのRAMやROMなどに記憶されたプログラムが動作することによって実現できる。このプログラム、及び当該プログラムを記録したコンピュータ読み取り可能な記憶媒体は本発明の実施形態に含まれる。
【0048】
具体的に、前記プログラムは、例えばCD−ROMのような記録媒体に記録し、或いは各種伝送媒体を介し、コンピュータに提供される。前記プログラムを記録する記録媒体としては、CD−ROM以外に、フレキシブルディスク、ハードディスク、磁気テープ、光磁気ディスク、不揮発性メモリカード等を用いることができる。他方、前記プログラムの伝送媒体としては、プログラム情報を搬送波として伝搬させて供給するためのコンピュータネットワーク(LAN、インターネットの等のWAN、無線通信ネットワーク等)システムにおける通信媒体(光ファイバ等の有線回線や無線回線等)を用いることができる。
【0049】
また、コンピュータが供給されたプログラムを実行することにより上述の実施形態の機能が実現されるだけでなく、そのプログラムがコンピュータにおいて稼働しているOS(オペレーティングシステム)あるいは他のアプリケーションソフト等と共同して上述の実施形態の機能が実現される場合や、供給されたプログラムの処理の全てあるいは一部がコンピュータの機能拡張ボードや機能拡張ユニットにより行われて上述の実施形態の機能が実現される場合も、かかるプログラムは本発明の実施形態に含まれる。
【0050】
例えば、図11は、パーソナルユーザ端末装置の内部構成を示す模式図である。この図11において、1200はコンピュータPCである。PC1200は、CPU1201を備え、ROM1202またはハードディスク(HD)1211に記憶された、あるいはフレキシブルディスクドライブ(FD)1212より供給されるデバイス制御ソフトウェアを実行し、システムバス1204に接続される各デバイスを総括的に制御する。
【0051】
PC1200のCPU1201、ROM1202またはハードディスク(HD)1211に記憶されたプログラムにより、本実施形態における図5のステップS1〜S7及び図10のステップS11〜S17等の手順が実現される。
【0052】
1203はRAMであり、CPU1201の主メモリ、ワークエリア等として機能する。1205はキーボードコントローラ(KBC)であり、キーボード(KB)1209や不図示のデバイス等からの指示入力を制御する。
【0053】
1206はCRTコントローラ(CRTC)であり、CRTディスプレイ(CRT)1210の表示を制御する。1207はディスクコントローラ(DKC)であり、ブートプログラム(起動プログラム:パソコンのハードやソフトの実行(動作)を開始するプログラム)、複数のアプリケーション、編集ファイル、ユーザファイル及びネットワーク管理プログラム等を記憶するハードディスク(HD)1211や、フレキシブルディスク(FD)1212とのアクセスを制御する。
【0054】
1208はネットワークインタフェースカード(NIC)であり、LAN1220を介して、ネットワークプリンタ、他のネットワーク機器、あるいは他のPCと双方向のデータのやり取りを行う。
【0055】
以下、本発明の諸態様を付記としてまとめて記載する。
【0056】
(付記1)3次元構造物である試料に電界を印加し、前記電界による前記試料からの元素の離脱現象を利用して、離脱した前記元素の位置及び飛行時間を測定する元素測定装置であって、
内部に前記試料が配置されるチャンバーと、
前記試料に前記電界を印加するための電源と、
前記チャンバー内で前記試料と対向するように設置されており、前記試料から離脱した前記元素を検出する元素検出手段と、
前記チャンバー内に吸着ガスを導入するガス導入手段と
を含み、
前記ガス導入手段により前記チャンバー内に吸着ガスを導入した状態で、前記電源により前記試料に前記電界を印加し、離脱した前記元素と当該元素に吸着した前記吸着ガスとの複合体を前記元素検出手段により検出し、前記測定を行うことを特徴とする元素測定装置。
【0057】
(付記2)前記吸着ガスは、分極率が0.2(10-40J-1C2m2)より大きいガス種であることを特徴とする付記1に記載の元素測定装置。
【0058】
(付記3)前記吸着ガスは、H2,N2,CO2,CO,HF,HCl,HBr,HI,H2O,NH3,CCl4,CHCl3,CH2Cl2,CH3Cl,CH4,CH3OH,CH3CH2OH,C6H6,C6H5CH3,o−C6H4(CH3)2,He,Arのうちから選ばれた少なくとも1種であることを特徴とする付記2に記載の元素測定装置。
【0059】
(付記4)前記電源による前記電界の印加と同期して、前記試料にエネルギービームを照射する照射手段を更に含むことを特徴とする付記1〜3のいずれか1項に記載の元素測定装置。
【0060】
(付記5)前記試料は、針状構造物の先端部分であり、正面から平面視した際に略同心円状となるように、隣接間で相異なる複数の材料が順次略円盤状に設けられてなるものであることを特徴とする付記1〜4のいずれか1項に記載の元素測定装置。
【0061】
(付記6)前記試料は、着目する特定の前記材料の前方に、当該特定の前記材料よりも電界蒸発エネルギーの高い前記材料が1種以上設けられてなるものであることを特徴とする付記5に記載の元素測定装置。
【0062】
(付記7)元素検出手段が設置され、前記元素検出手段と対向するように3次元構造物である試料が配置されたチャンバー内に、吸着ガスを導入するステップと、
前記チャンバー内に吸着ガスを導入した状態で、前記試料に所定の電界を印加するステップと、
前記電界の印加により前記試料から離脱した前記元素と、当該元素に吸着した前記吸着ガスとの複合体を前記元素検出手段により検出し、前記元素の位置及び結合状態を測定するステップと
を含むことを特徴とする元素測定方法。
【0063】
(付記8)前記吸着ガスは、分極率が0.2(10-40J-1C2m2)より大きいガス種であることを特徴とする付記7に記載の元素測定方法。
【0064】
(付記9)前記吸着ガスは、H2,N2,CO2,CO,HF,HCl,HBr,HI,H2O,NH3,CCl4,CHCl3,CH2Cl2,CH3Cl,CH4,CH3OH,CH3CH2OH,C6H6,C6H5CH3,o−C6H4(CH3)2,He,Arのうちから選ばれた少なくとも1種であることを特徴とする付記8に記載の元素測定方法。
【0065】
(付記10)前記試料に前記電界を印加するステップにおいて、前記電界の印加と同期するように、前記試料にエネルギービームを照射することを特徴とする付記7〜9のいずれか1項に記載の元素測定方法。
【0066】
(付記11)前記試料は、針状構造物の先端部分であり、正面から平面視した際に略同心円状となるように、隣接間で相異なる複数の材料が順次略円盤状に設けられてなるものである特徴とする付記7〜10のいずれか1項に記載の元素測定方法。
【0067】
(付記12)前記試料は、着目する特定の前記材料の前方に、当該特定の前記材料よりも電界蒸発エネルギーの高い前記材料が1種以上設けられてなるものであることを特徴とする付記11に記載の元素測定方法。
【0068】
(付記13)コンピュータに、
元素検出手段が設置され、前記元素検出手段と対向するように3次元構造物である試料が配置されたチャンバー内に、吸着ガスを導入するステップと、
前記チャンバー内に吸着ガスを導入した状態で、前記試料に所定の電界を印加するステップと、
前記電界の印加により前記試料から離脱した前記元素と、当該元素に吸着した前記吸着ガスとの複合体を前記元素検出手段により検出し、前記元素の位置及び結合状態を測定するステップと
を含む元素測定方法を実行させるためのプログラムを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体。
【0069】
(付記14)コンピュータに、
元素検出手段が設置され、前記元素検出手段と対向するように3次元構造物である試料が配置されたチャンバー内に、吸着ガスを導入するステップと、
前記チャンバー内に吸着ガスを導入した状態で、前記試料に所定の電界を印加するステップと、
前記電界の印加により前記試料から離脱した前記元素と、当該元素に吸着した前記吸着ガスとの複合体を前記元素検出手段により検出し、前記元素の位置及び結合状態を測定するステップと
を含む元素測定方法を実行させるためのプログラム。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】吸着ガスにより試料を構成する各材料の原子の良好な元素離脱が行われるメカニズムA,Bを説明するための模式図である。
【図2】メカニズムAを説明するための模式図である。
【図3】メカニズムBを説明するための模式図である。
【図4】第1の実施形態による元素測定装置(3DAP)の概略構成を示す模式図である。
【図5】第1の実施形態による元素測定方法を示すフロー図である。
【図6】第1の実施形態の元素測定方法により元素測定を実行した際の試料の状態を示す模式図である。
【図7】従来の元素測定方法により元素測定を実行した際の試料の状態を示す模式図である。
【図8】第1の本実施形態の元素測定方法により元素測定を実行した際の試料の状態と、従来の元素測定方法により元素測定を実行した際の試料の状態とを重ね合わせて示す模式図である。
【図9】第2の実施形態による元素測定装置(3DAP)の概略構成を示す模式図である。
【図10】第2の実施形態による元素測定方法を示すフロー図である。
【図11】パーソナルユーザ端末装置の内部構成を示す模式図である。
【符号の説明】
【0071】
1 チャンバー
2 電源
3 位置敏感型検出器
4 引出電極
5 排気機構
6 吸着ガス導入機構
7,12 タイマー
10 レーザ機構
11 試料
20 被測定部材
101 針状構造体
102 吸着ガス分子
103 原子
104 複合イオン
【特許請求の範囲】
【請求項1】
3次元構造物である試料に電界を印加し、前記電界による前記試料からの元素の離脱現象を利用して、離脱した前記元素の位置及び飛行時間を測定する元素測定装置であって、
内部に前記試料が配置されるチャンバーと、
前記試料に前記電界を印加するための電源と、
前記チャンバー内で前記試料と対向するように設置されており、前記試料から離脱した前記元素を検出する元素検出手段と、
前記チャンバー内に吸着ガスを導入するガス導入手段と
を含み、
前記ガス導入手段により前記チャンバー内に吸着ガスを導入した状態で、前記電源により前記試料に前記電界を印加し、離脱した前記元素と当該元素に吸着した前記吸着ガスとの複合体を前記元素検出手段により検出し、前記測定を行うことを特徴とする元素測定装置。
【請求項2】
前記吸着ガスは、分極率が0.2(10-40J-1C2m2)より大きいガス種であることを特徴とする請求項1に記載の元素測定装置。
【請求項3】
前記電源による前記電界の印加と同期して、前記試料にエネルギービームを照射する照射手段を更に含むことを特徴とする請求項1又は2に記載の元素測定装置。
【請求項4】
元素検出手段が設置され、前記元素検出手段と対向するように3次元構造物である試料が配置されたチャンバー内に、吸着ガスを導入するステップと、
前記チャンバー内に吸着ガスを導入した状態で、前記試料に所定の電界を印加するステップと、
前記電界の印加により前記試料から離脱した前記元素と、当該元素に吸着した前記吸着ガスとの複合体を前記元素検出手段により検出し、前記元素の位置及び結合状態を測定するステップと
を含むことを特徴とする元素測定方法。
【請求項5】
前記試料に前記電界を印加するステップにおいて、前記電界の印加と同期するように、前記試料にエネルギービームを照射することを特徴とする請求項4に記載の元素測定方法。
【請求項1】
3次元構造物である試料に電界を印加し、前記電界による前記試料からの元素の離脱現象を利用して、離脱した前記元素の位置及び飛行時間を測定する元素測定装置であって、
内部に前記試料が配置されるチャンバーと、
前記試料に前記電界を印加するための電源と、
前記チャンバー内で前記試料と対向するように設置されており、前記試料から離脱した前記元素を検出する元素検出手段と、
前記チャンバー内に吸着ガスを導入するガス導入手段と
を含み、
前記ガス導入手段により前記チャンバー内に吸着ガスを導入した状態で、前記電源により前記試料に前記電界を印加し、離脱した前記元素と当該元素に吸着した前記吸着ガスとの複合体を前記元素検出手段により検出し、前記測定を行うことを特徴とする元素測定装置。
【請求項2】
前記吸着ガスは、分極率が0.2(10-40J-1C2m2)より大きいガス種であることを特徴とする請求項1に記載の元素測定装置。
【請求項3】
前記電源による前記電界の印加と同期して、前記試料にエネルギービームを照射する照射手段を更に含むことを特徴とする請求項1又は2に記載の元素測定装置。
【請求項4】
元素検出手段が設置され、前記元素検出手段と対向するように3次元構造物である試料が配置されたチャンバー内に、吸着ガスを導入するステップと、
前記チャンバー内に吸着ガスを導入した状態で、前記試料に所定の電界を印加するステップと、
前記電界の印加により前記試料から離脱した前記元素と、当該元素に吸着した前記吸着ガスとの複合体を前記元素検出手段により検出し、前記元素の位置及び結合状態を測定するステップと
を含むことを特徴とする元素測定方法。
【請求項5】
前記試料に前記電界を印加するステップにおいて、前記電界の印加と同期するように、前記試料にエネルギービームを照射することを特徴とする請求項4に記載の元素測定方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2006−260807(P2006−260807A)
【公開日】平成18年9月28日(2006.9.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−73158(P2005−73158)
【出願日】平成17年3月15日(2005.3.15)
【出願人】(000005223)富士通株式会社 (25,993)
【出願人】(593165487)学校法人金沢工業大学 (202)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年9月28日(2006.9.28)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年3月15日(2005.3.15)
【出願人】(000005223)富士通株式会社 (25,993)
【出願人】(593165487)学校法人金沢工業大学 (202)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]