説明

充放電計画立案システムおよび充放電計画立案方法

【課題】蓄電池の充放電中の温度上昇を抑えて、蓄電池の劣化の促進を抑制するように充放電を計画する。
【解決手段】温度計測器は、蓄電手段の温度を計測する。電流・電圧計測器は、前記蓄電手段の電圧および電流を計測する。内部抵抗推定手段は、前記蓄電手段の内部抵抗を推定する。充放電計画部は、充電量または放電量を指定した充放電指令に基づき、前記蓄電手段に対する充電計画または放電計画を立案する。温度推定手段は、前記充電計画または放電計画を実行した場合の前記蓄電手段の温度の時間推移を、前記蓄電手段の内部抵抗に基づき推定する。負荷推定器は、前記蓄電手段の温度の時間推移に基づき、前記充電計画または前記放電計画を実行した場合に前記蓄電手段にかかる負荷量を推定する。充放電計画部は、前記蓄電手段にかかる前記負荷量が最小または閾値以下になるように、前記充電計画または放電計画を立案する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、蓄電手段の充電計画または放電計画を立案する充放電計画立案システムおよび充放電計画立案方法に関し、たとえば、充電または放電中に蓄電池の劣化をできるだけ抑制するような充電計画または放電計画を立案する充放電計画立案方法および充放電計画立案システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、蓄電池の充放電は、蓄電池の劣化を気にせずに、固定の充放電パターンで充放電を行っていた。このため、蓄電池の内部温度が大きく上昇して蓄電池を劣化させてしまう問題があった。
【0003】
また、車載用蓄電池では、瞬時に求められた放電を行う必要があるが、定置型蓄電池などでは、所定の時間以内に充放電を行えばよいケースが多い。こうしたケースで、蓄電池の劣化を抑制して、充放電を行う充放電計画が求められていた。
【0004】
蓄電池は、充放電を繰り返すことによって徐々に内部抵抗が上昇し、充放電可能量も減少していくことが知られている。この内部抵抗の上昇には、蓄電池あるいは蓄電セルそのものが高い温度条件の状態に置かれた時間が関係する。すなわち、高温状態に長期間置かれた蓄電池は、内部抵抗が上昇し、劣化が促進されることになる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−249770号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の一側面は、蓄電手段の充電または放電中の温度上昇を抑えて、蓄電手段の劣化の促進を抑制するように充電計画または放電計画を立案することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様としての充放電計画立案システムは、温度計測器と、電流・電圧計測器と、内部抵抗推定手段と、充放電計画部と、温度推定手段と、負荷推定器とを備える。
【0008】
前記温度計測器は、蓄電手段の温度を計測する。
【0009】
前記電流・電圧計測器は、前記蓄電手段の電圧および電流を計測する。
【0010】
前記内部抵抗推定手段は、前記蓄電手段の内部抵抗を推定する。
【0011】
前記充放電計画部は、充電量または放電量を指定した充放電指令に基づき、前記蓄電手段に前記充電量の電力を充電するための充電計画、または前記蓄電手段から前記放電量の電力を放電するための放電計画を立案する。
【0012】
前記温度推定手段は、前記充電計画または放電計画を実行した場合の前記蓄電手段の温度の時間推移を、前記蓄電手段の内部抵抗に基づき推定する。
【0013】
前記負荷推定器は、前記蓄電手段の温度の時間推移に基づき、前記充電計画または前記放電計画を実行した場合に前記蓄電手段にかかる負荷量を推定する。
【0014】
前記充放電計画部は、前記蓄電手段にかかる前記負荷量が最小または閾値以下になるように、前記充電計画または放電計画を立案する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の第1実施例の充放電計画立案システムの構成を示す図。
【図2】本発明の第1実施例の処理フローの一例を示す図。
【図3】本発明の第1実施例の内部状態観測・推定器の構成を示す図。
【図4】蓄電手段の構成の一例を示す図。
【図5】本発明の第1実施例の負荷指標テーブルの一例を示す図。
【図6】充放電計画と推定温度の関係の一例を示す図。
【図7】初期温度が高い場合の充放電計画と推定温度の関係の一例を示す図。
【図8】充放電計画部での処理フローの一例を示す図。
【図9】SOCと内部推定温度を考慮した、負荷指標テーブルの一例を示す図。
【図10】本発明の第2実施例の充放電計画立案システムの構成を示す図。
【図11】本発明の第2実施例の複数の蓄電モジュールで構成される蓄電手段の充放電計画部での処理フローの一例を示す図。
【図12】本発明の第3実施例の、推定温度と観測温度、および再計画された充放電計画の関係を示す図。
【図13】本発明の第1実施例の処理フローを示す図。
【図14】充放電計画と推定温度の関係の一例を示す図。
【図15】本発明の第1実施例の処理フローを示す図。
【図16】充放電計画と推定温度の関係の一例を示す図。
【図17】複数の蓄電モジュールで 構成される蓄電手段の充放電計画部での処理フローの一例を示す図。
【図18】本発明の第4実施例の充放電計画立案システムの構成を示す図。
【図19】内部抵抗およびSOCの推定方法を説明するための図。
【図20】内部抵抗およびSOCの推定方法を説明するための図。
【図21】内部抵抗およびSOCの推定方法を説明するための図。
【図22】内部抵抗およびSOCの推定方法を説明するための図。
【図23】内部抵抗およびSOCの推定方法を説明するための図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施例を説明する。
【0017】
図1に本発明の第1実施例に係る充放電計画立案システムの構成図を示す。
【0018】
図1の充放電計画立案システムは、蓄電手段1と、蓄電手段構成情報格納部2と、充放電負荷推定器8と、蓄電手段内部状態観測・推定部10と、内部診断部11と、内部状態記憶部25と、充放電パターンDB22と、充放電計画部23と、充放電管理部24と、から構成される。蓄電手段内部状態観測・推定部10は、代表温度計測器3と、電流・電圧計測器4と、内部状態推定器7とから構成される。蓄電手段1は、当該システムの外部に設けられていてもよい。
【0019】
本実施例は、たとえば充電量または放電量(以下、充放電量と呼ぶ)を指定されて比較的長時間で充電または放電(以下充放電と呼ぶ)を行うシステムでの充電計画または放電計画(以下充放電計画と呼ぶ)、たとえば電力系統で調整電力を保有する蓄電池の充電や、EV充電スタンドに設けられる蓄電池の放電、EVの夜中の充電などの充放電計画に用いることができる。蓄電手段1は、リチウムイオン型の電池であってもかまわないし、その他材料で構成される蓄電池であってもかまわない。
【0020】
充放電管理部24は、外部から充放電量を含む充放電指令を受取ると、内部状態推定器7からSOC(State Of Charge:充電状態)の情報を得て、蓄電手段の容量制約を満たすように、充放電量を確定させる。充放電指令は、充放電を完了させる期限等の充放電の時間制約を含んでも良い。
【0021】
たとえば制約として蓄電手段の容量の下限が20%、上限が80%としたとき、現在のSOCが50%であったとすると、充電の場合は、充電後のSOCを推定し、推定された値が80%の容量以下であれば、当該指令に示される充電量を確定し、80%を越えるようであれば、80%以下に収まるように充電量を確定する。放電の場合も同様にして、放電後のSOCが20%以上に収まるように放電量を確定する。
【0022】
充放電管理部24は、充放電量を確定すると、充放電計画部23に確定した充放電量を通知するとともに、充電パターンまたは放電パターン(以下充放電パターンと呼ぶ)の選択を指示した、充放電計画立案指令を送る。充放電管理部24は、充放電計画部23で選択された充放電パターンの通知を受け、当該充放電パターンの内容を充放電パターンDB22から読み出し、読み出した充放電パターンに従って蓄電手段1の充放電を制御する。充電の場合は、外部の供給源から電力を取得して、蓄電手段1に充電し、放電の場合は、蓄電手段1の電力を、外部の負荷または外部の蓄電手段1に出力する。
【0023】
充放電計画部23は、充放電パターンDB22から、蓄電手段1の充放電に使用する充放電パターンを選択する。このために、まず、充放電パターンDB22における充放電パターンを順次指定し、指定した充放電パターンで充放電を行った場合の蓄電手段1の負荷を充放電負荷推定器8に計算させる。なお、後述するように、最小計画時間ごとに充放電パターンを生成させ、蓄電手段1の負荷を計算し、その最小計画時間後の内部温度を推定して、次の最小計画時間の充放電パターンを生成する方式を事前に確定した充放電量を満たすまで繰り返し、蓄電手段1の負荷を積算する方式でも構わない。
【0024】
充放電負荷推定器8は、充放電計画部23から指定された充放電パターンを充放電パターンDB22から読み出し、内部状態推定器7から蓄電手段1の内部状態(内部抵抗、SOC、および、温度など)の情報を取得する。充放電負荷推定器8は、当該充放電パターンの充放電によって蓄電手段1に与えられる負荷量を計算し、充放電計画部23に当該負荷量を通知する。
【0025】
充放電計画部23は、充放電負荷推定器8が算出した充放電パターン毎の負荷量を考慮して、負荷量が最小または閾値以下の充放電パターンを選択する。そして、選択した充放電パターンを充放電管理部24に通知する。
【0026】
内部状態推定器7は、代表温度計測器3から蓄電手段1の温度を取得し、電流・電圧計測器4から蓄電手段1の電流および電圧を取得する。また蓄電手段構成情報格納部2から蓄電手段1の基本情報(特性情報)を取得する。内部状態推定器7は、取得したこれらのデータを用いて、演算により蓄電手段1の内部状態(内部抵抗、SOC、および、温度など)を推定する。推定した内部状態(内部抵抗、SOC、および、温度など)を、内部状態記憶部25に格納する。
【0027】
内部状態推定器7は、充放電負荷推定器8から、内部状態の問合せを受けた時には、上記推定を行って、推定した内部状態を通知してもよいし、内部状態記憶部25に以前推定した最新の内部状態情報がある場合は、その最新の内部状態を推定情報として通知してもかまわない。あるいは、内部状態記憶部25に以前推定した最新の内部状態情報がある場合は、この内部状態を参考に演算して、今回の内部状態を推定してもよい。
【0028】
内部診断部11は、代表温度計測器3と電流・電圧計測器4から、蓄電手段1の温度と電流、電圧を取得して、これらの少なくともいずれか1つに大きな変化(たとえば閾値以上の変化)があった場合は、内部状態推定器7に内部状態推定を行うように指示を出す。この内部状態推定のために蓄電手段1の充放電が必要な時は、この旨を充放電管理部24に通知して充放電を行った上、内部状態を推定する。
【0029】
図2に、図1のシステムの処理フローの一例を示す。
【0030】
まず、充放電管理部24は、外部から充放電指令を受け取る(ステップ101)と、内部状態推定器7からSOC(充電状態)の情報を得て、充放電量を確定させる(ステップ102)。続いて、充放電管理部24は、当該確定した充放電量の充放電を行うための充放電パターンの選択を、充放電計画部23に指示する(ステップ103)。
【0031】
充放電計画部23は、充放電パターンDB22から複数の充放電パターンを順次指定し、指定した充放電パターンで充放電を行った場合の蓄電手段1に与える負荷量を計算するように充放電負荷推定器8に指示する(ステップ104)。充放電負荷推定器8は、内部状態推定器7で推定された内部状態の情報を用いて、当該充放電パターンでの負荷量を計算する(ステップ104)。
【0032】
各充放電パターンが蓄電手段1に与える負荷量が計算できたら、充放電計画部23は最も負荷量の少ない充放電パターンを選択(ステップ105)し、充放電管理部24に通知する。充放電管理部24は、選択された充放電パターンによる充放電を開始(ステップ106)する。なお、各充放電パターンの負荷量を順次計算している間、閾値以下の負荷量の充放電パターンが得られた時点で、その充放電パターンを選択するようにし、残りの充放電パターンの負荷量の計算を省略してもよい。あるいは、あらかじめ計算時間に制約があるときは、制約時間内で負荷量が計算された充放電パターンの中で、最小の負荷量のパターンを選択してもよい。
【0033】
<内部状態推定器の動作>
図3に、内部状態推定器7の詳細構成例を示す。
【0034】
代表温度計測器3は、蓄電手段1に設けられた温度センサを用いて、温度センサが設けられた位置の温度を計測する。
【0035】
電流・電圧計測器4は、蓄電手段1の、電流と電圧を計測する。
【0036】
内部状態推定器7は、SOC推定器5と、内部抵抗推定器6と、内部温度上昇推定部21を備える。
【0037】
SOC推定器5は、代表温度計測器3で計測された蓄電手段1の温度と、電流・電圧計測器4によって計測された蓄電手段1の電流値と電圧値、および蓄電手段構成情報格納部2から取得した、蓄電手段1の基本情報をもとに、現在のSOC(充電状態)を推定する。
【0038】
内部抵抗推定器6は、代表温度計測器3で計測された蓄電手段1の温度と、電流・電圧計測器4によって計測された蓄電手段1の電流値と電圧値から、蓄電手段1の各セルの内部抵抗(なお、各セルの内部抵抗の合計が、蓄電手段1の内部抵抗に相当する)を推定する。また、内部抵抗やSOCは、充電時はSOCが低い方が内部抵抗が低くなり、放電時はSOCが高い方が内部抵抗が低くなる、といった相関を持つため、適宜、内部抵抗とSOCは相互に補正される。
【0039】
<内部抵抗、SOCの推定方法>
ここで、内部抵抗の推定やSOCの推定は、一般に知られている方法で行うことができる。一例として、演算精度の高い内部抵抗推定方法として、特開2010−249770号公報に開示されている方法などが知られている。その方法の概要を、当該公報を引用して、以下説明する。
【0040】
図19は蓄電手段の電流Iに対する電圧Vの関係を示している。蓄電手段は、放電電流Id(>0)が流れると、内部抵抗Rにより端子電圧VがVdまで低下する。また、充電電流Ic(<0)が流れると、内部抵抗Rにより端子電圧VがVcまで上昇する。(1)式に示すように、放電時の電圧Vdと電流Idおよび充電時の電圧Vcと電流Icにより決まる蓄電手段のV−I直線の傾きは、蓄電手段の内部抵抗Rを表す。つまり、放電時の電圧Vdと電流Idおよび充電時の電圧Vcと電流Icを測定することによって、蓄電手段の内部抵抗Rを(1)式に従って演算することができる。
R=(Vc−Vd)/(Id−Ic) ・・・(1)
【0041】
放電時と充電時の電圧と電流から蓄電手段のV−I特性を推定する方法は、放電時または充電時のみの電圧と電流からV−I特性を推定する方法に比べて、電圧と電流の変化量が大きく、正確なV−I特性を推定でき、それによって正確な内部抵抗Rを検出することができる。
【0042】
ここで、開放電圧(OCV)は電流I=0の時の端子電圧Vであり、放電時の電圧Vdと電流Idおよび充電時の電圧Vcと電流Icにより決まるI=0の点の電圧がOCVに相当する。放電時の電圧Vdと電流Idと充電時の電圧Vcと電流Icの測定値、内部抵抗Rを用いたOCVの計算式を(2)式及び(3)式に示す。
OCV=Vd−R×Id ・・・(2)
OCV=Vc+R×Ic ・・・(3)
【0043】
また、事前に図20のように、例えばOCV−SOC特性を計測してマップを作成し、多項式などの数式による補間計算によりOCVからSOCを算出できるようにしてもよい。
【0044】
さらに、図21に放電時のSOCと内部抵抗Rの関係を示すように、内部抵抗RはSOCに応じて変化する。よって、図19に示すようにSOCが大きくなるとIV直線自体が上がってくる。このため、正確な蓄電手段の内部抵抗Rを演算するために、内部抵抗Rを演算した時点のSOCまたはOCVを用いて、所定の電池状態(SOC又はOCV)の内部抵抗Rへ換算或いは補正してもよい。
【0045】
また、事前に図21に示すように内部抵抗R−SOC(或いはOCV)特性を計測してマップを作成し保持させておき、図22に示すように、多項式などの数式による補間計算により、SOC(或いはOCV)から、所定状態の内部抵抗Rを算出できるようにすることもできる。
【0046】
内部抵抗Rは温度状態に応じて変化するため、正確な蓄電手段の内部抵抗Rを演算するために、内部抵抗Rを演算した時点の蓄電手段の温度を用いて、所定の温度状態における内部抵抗Rへ換算或いは補正してもよい。
【0047】
またさらに、事前に内部抵抗R−温度特性を計測しマップを作成し保持させておき、図23に示すように多項式などの数式による補間計算により、蓄電手段の温度から所定の温度状態における内部抵抗Rを換算或いは補正してもよい。
【0048】
<負荷の定義>
上記したように、蓄電手段1の内部抵抗は変化する値であり、劣化が進むと内部抵抗は上昇することが知られている。同様に、劣化が進むと、充放電可能量は減少し、おおむね内部抵抗の上昇と充放電可能量の減少は同様の相関を持つ傾向となる。この劣化の要因としては、高温状態での放置による熱的劣化、充放電サイクル数によるサイクル劣化、あるいは低温状態や高温状態での充放電が影響することが知られている。また、SOCが20%以下となる状態での放電、80%以上での充電など、SOC状態に応じた充放電も劣化の要因となりうる。
【0049】
独立行政法人、交通安全環境研究所のフォーラム2010の資料(http://www.ntsel.go.jp/forum/2010files/10-02p.pdf)では、熱的劣化は、負極の炭素材料の表面に形成される層が厚みを増す現象から、層の厚みと内部回路の定数を関係づける式が紹介されている。また、特定温度での充放電サイクル試験の結果が、温度による劣化とサイクル数による劣化の重ね合わせで表現できることも、同じ資料で紹介されている。このサイクル数によるサイクル劣化は、リチウムイオン電池の場合、物理的に電極表面材料へリチウムイオンが出入りすることにより、電極表面材料にストレスが加わることで生じる劣化過程であるとされている。
【0050】
本実施例は、このような劣化要因の分析から、蓄電手段1に与える負荷量を、測定可能な値から定量的に推定することで、特に充放電を行う際の負荷量を最小化することを目的としている。充放電に伴う負荷の推定であるため、サイクル数は高々1しか変化しないことから、充放電に伴う負荷は、熱的負荷を中心に推定する。また、温度を高低させる熱サイクルをかけることによる劣化影響も考えられるため、この熱サイクルの影響は、充放電パターンを選択する際に参考とする構成とした。
【0051】
本実施例の充放電に伴う負荷の推定は、特に、負荷量として、図5に示すような温度要因による影響の定量化、また図9に示すように、SOCも考慮した負荷の定量化によるものである。図5および図9に基づく負荷量の推定例は後述する。
【0052】
なお、充放電時以外の、蓄電手段1の保存状態での劣化は、同じく図5、図9のような負荷指標によって熱的負荷を算出することができ、これに加えて、充放電サイクル数をカウントして現在の劣化状態を推定することも可能である。この動作は、内部診断部11で行われ、内部状態記憶部25に保存される。
【0053】
<内部温度上昇推定器の推定方法>
内部温度上昇推定部21は、充放電計画部23から指定された充放電パターンを充放電パターンDB22から読み出し、代表温度計測器3で計測された蓄電手段1の温度と、SOC推定器5で推定した蓄電手段1のSOCと、内部抵抗推定器6で推定した蓄電手段1の内部抵抗と、蓄電手段構成情報格納部2から取得した蓄電手段1の特性情報とから、当該充放電パターンで充放電を行った場合の蓄電手段1の内部温度の時間変化(時間推移)を推定する。内部温度の時間変化は、たとえば最小計画時間単位ごとの上昇値、最高温度などの情報を含んでよい。なお、最小計画時間単位ごとの上昇値に関しては、各最小計画時間単位で、変化するSOCを想定し、そのSOCに応じた内部抵抗を推定して、温度上昇量が求められる。
【0054】
その一例を、図4のように蓄電手段1が3つの蓄電セルで構成される場合を例に以下説明する。
【0055】
蓄電手段1は、温度センサ401と、正極405、負極406と、蓄電セル402(セル1)、蓄電セル403(セル2)、蓄電セル404(セル3)で構成される。
【0056】
まず、蓄電手段構成情報格納部2から温度センサと蓄電セルの位置関係情報、内部抵抗推定器6から内部抵抗情報を取得する。
【0057】
取得した情報に基づき、温度センサ401から蓄電セル402の温度推定点412までの距離d1と蓄電セル402の内部抵抗r1、温度センサ401から蓄電セル403の温度推定点413までの距離d2と蓄電セル403の内部抵抗r2、温度センサ401から蓄電セル404の温度推定点414までの距離d3と蓄電セル404の内部抵抗r3、を得る。
【0058】
また、温度センサ401から、現在の蓄電手段1の代表温度T0を獲得する。
【0059】
指定された充放電パターンに応じて、流される電流iから、各温度推定点の温度を、以下の式で推定する。
温度推定点412の温度T1=k1×i2×r1+T0+k21×k2×i2×r2+k31×k3×i2×r3 式T1
温度推定点413の温度T2=k2×i2×r2+T0+k12×k1×i2×r1+k32×k3×i2×r3 式T2
温度推定点413の温度T3=k3×i2×r3+T0+k13×k1×i2×r1+k23×k2×i2×r2 式T3
なおここで、k1,k2,k3は、セル1,2,3の比熱など物理特性によって決まる値であり、蓄電手段構成情報格納部2から取得される。また、k12,k13,k21,k23,k31,k32は、それぞれのセルからほかのセルに伝達される熱量の影響係数を示す値である。たとえばk21はセル2からセル1に伝達される熱量の影響係数を示す値、k32はセル3からセル2に伝達される熱量の影響係数を示す値である。
【0060】
また、内部抵抗がセル単位で計測できない場合は、r1+r2+r3に相当する蓄電手段単位での内部抵抗rsを用いて、以下の式で、蓄電手段1の内部温度Tsを推定する。ksは、蓄電手段固有の既知の値である。
蓄電手段1の内部温度Ts=ks×i2×rs+T0
【0061】
なお、各最小計画時間単位で、変化するSOCを想定し、そのSOCに応じた内部抵抗を推定して、温度上昇量は求められる。
【0062】
また、充放電を行わない場合の自然放熱による効果も、蓄電手段構成情報格納部2から得た情報を用いて考慮して、蓄電手段1の内部温度が推定されてよい。この場合、たとえば式T1は下記のように、自然放熱の項を加えた式T1’へと書き換えることができる。
温度推定点412の温度T1’
=k1×i2×r1+T0+k21×k2×i2×r2+k31×k3×i2×r3−kenv×|T0-Tenv| 式T1’
ここで、kenvは自然放熱によって蓄電手段1と蓄電手段1の外部とで伝達される熱量の影響係数を示す値であり、Tenvは蓄電手段1の外部の環境温度である。
【0063】
<セルごとの内部抵抗推定方法>
セルごとの内部抵抗は、セルごとに内部状態診断を行って取得することも可能であるが、蓄電手段1の内部抵抗をr0とした場合、電流iで充放電を実際に行った後に温度センサ401で観測される温度Tfから、以下の関係を満足するように、r1,r2,r3を求めることも可能である。
r0=r1+r2+r3
Tf−T0=ks×(k1×i2×r1)/d12+(k2×i2×r2)/d22+(k3×i2×r3)/d32
なお、ksは、上述したように、蓄電手段固有の既知の値である。
【0064】
このように測定されたセルごとの内部抵抗は、充放電後にセルごとの内部抵抗として内部状態記憶部25に格納される。
【0065】
また、このような推定を行うために、充放電計画部23で特定の充放電パターンを指定して、実際に充放電を発生させて、内部状態の測定を行うことも可能である。
【0066】
<充放電負荷推定器の動作>
充放電負荷推定器8では、上記のように計算された蓄電手段1の内部温度の情報を用いて、充放電パターンごとの蓄電手段1に与える負荷を計算する。蓄電セルごとに温度が求められる場合には、T1、T2、T3から最も高い温度を採用する。蓄電手段1全体の温度しか求められない場合は、蓄電手段1の内部温度Tsを採用する。この負荷計算の一例を以下に説明する。
【0067】
あらかじめ、蓄電手段1の特性に応じて図5のような温度に対する負荷指標を設ける。図5は、温度領域ごとに、単位時間当たりの負荷指標(あるいは単に負荷とも呼ぶ)を定めた負荷指標テーブルの一例を示す。充放電パターンを実行した際の負荷量を、以下のような式で算出する。
【数1】

【0068】
このように蓄電手段1の負荷を計算することで、劣化が進み内部抵抗が上昇した蓄電手段1では、同じ電流量に対して温度上昇量が大きくなり、負荷が大きくなることになる。劣化した蓄電手段1、あるいは蓄電セルに対して負荷をかけると劣化が進行するため、充放電計画部23では、温度上昇を抑え、劣化を進行させない充放電パターンが選択されることとなる。ここでは式Aにより負荷量を定義したが、他の方法で定義してもよい。たとえば充放電パターンを実行した際に到達する最高温度を、負荷量として定義することも可能である。
【0069】
<充放電計画部の動作>
充放電計画部23は、充放電パターンDB22に格納された複数の充放電パターンから、指定された充放電量に応じた、候補となりうる充放電パターンを順次選択して、充放電負荷推定器8を用いて蓄電手段1の負荷量Laを計算する。
【0070】
図6を用いて、充放電計画(充放電パターン)の選択の様態を説明する。図6では、充放電計画A-1,A-2,A-3の3パターンでの負荷量La1,La2,La3をそれぞれ計算する例を示している。ここで充放電パターンは、図に示すような最小計画時間(単位時間)ごとの充放電量のパターンとして実現される。図における1つの四角の横サイズが最小計画時間に対応し、縦サイズが最小計画充放電量(最小計画電流量)に対応する。充放電パターンは、たとえば充放電量ごとに、複数用意されている。
【0071】
いずれの充放電パターンも、図5に示した負荷指標が40度以下の温度領域で推移している。これらの中で図5のテーブルに基づき負荷量を計算し、最も負荷量が小さい充放電パターン(充放電計画)を選択する。
【0072】
なお、充放電計画部23では、負荷量が最小の充放電パターンを選択するのではなく、負荷量が小さい複数(例えば3種ほど)の候補となる充放電パターンを選択し、これらの中から、充放電サイクル数(後述)など、別の指標で、最終的な充放電パターンを決定してもかまわない。
【0073】
<セル単位の内部状態を推定する場合>
前記したように、蓄電手段1を構成する蓄電セルごとの温度が推定できる場合は、その蓄電セルの温度のうち、最も高い温度で負荷量の演算を行って、充放電パターンの選択を行う。つまり、最小計画時間単位ごとに最も高い温度のセルをそれぞれ特定し、そのセルを基準に負荷量の演算を行う。
【0074】
<充放電指令に、終了時刻制約がある場合>
充放電指令に、充放電終了時間の制約がある場合、その制約を満足する充放電パターンのうち、最も負荷量Laの小さくなる充放電パターンを選択する。
【0075】
図8に、時間制約が存在する可能性を考慮した充放電計画部23による充放電計画立案フローの一例を示す。
【0076】
まず充放電計画部23は、充放電管理部24から、充放電量を含む充放電計画立案指令を受信する(ステップ201)。このとき、時間制約が含まれていてもかまわない。続いて、充放電計画部23は、充放電パターンDB22を参照して、充放電量を満足する充放電パターンを複数、選択または生成する(ステップ202)。
【0077】
選択または生成した充放電パターンは、充放電負荷推定器8に入力され、内部状態推定器7から内部状態(内部抵抗、SOC、および、温度など)の情報を取得して、蓄電手段1の負荷を充放電パターンごとに計算する(ステップ203)。
【0078】
選択または生成した全ての充放電パターンについての負荷計算を終了する(ステップ204)と、時間制約がある場合は、時間制約を満たしているか確認し(ステップ205)、時間制約を満たした充放電パターンの中から、負荷量が最小となる充放電パターンを選択する(ステップ206)。なお、このとき、充放電計画部23で、負荷以外の指標(充放電サイクル数など)での選択を行う場合には、ステップ206では複数の充放電パターンを選択しておき、これらの複数の充放電パターンの中から負荷以外の指標に基づき1つを選択する(ステップ207)。以上により、フローを終了する(ステップ208)。
【0079】
なお、ステップ205において、時間制約が設定されているケースで、時間制約を満たす充放電パターンが存在しなかった場合は、改めて時間軸方向に調整した充放電パターンを再生成する。(ステップ209)。
【0080】
蓄電手段1の負荷を計算する際に、推定温度に加えて、SOCを考慮してもよく、この場合の例を、図9を用いて説明する。図9は、温度領域とSOCとの組み合わせに応じて、単位時間当たりの負荷指標を定めた指標テーブルを示す。このテーブルにしたがって、SOCと推定温度に応じた負荷指標を特定し、式Aのように負荷量Laを計算する。これにより、蓄電手段1の状態を確実にとらえて、劣化させない充放電計画を立案して、充放電動作を行うことができる。特にSOCが高い状態での充電の負荷や、SOCが低い状態での放電の負荷を、正確に見積もることができる。
【0081】
<推定温度が所定の値を必ず超えない充放電計画の立案>
上記では、式Aにより計算される蓄電手段1の負荷量に基づき充放電計画を立案する例を述べたが、より簡便に運用するためには、蓄電手段1の内部温度が、所定の値(閾値)を超えないような充放電計画を立案することも可能である。つまり、負荷量を、蓄電手段1の内部温度の最高値と定義し、当該最高値が所定の値を越えないような充放電計画を立案する。
【0082】
図7に示すように、例えば充放電指令を受けた時点での蓄電手段1の温度が所定温度を超えている場合、自然放熱によって温度が所定温度以下となるまで待機して、充放電を行う充放電パターンとして、実施しても所定温度を超えない充放電計画B-1、あるいは充放電計画B-2を選択する。
【0083】
またこの場合も、充放電計画B-1、B-2のいずれを選択するかは、時間制約や充放電サイクル数を勘案して決定してもよい。
【0084】
<充放電パターンの生成方法の一例>
あらかじめ、最小計画時間と最小計画電流量を設定し、現在の推定内部温度と、図5のような指標テーブルにおいて設定された温度上昇した場合に負荷が変わる次の閾値温度の情報を得て、充放電開始から、当該次の閾値温度を超えるまで、最小計画時間での最小計画電流量を2P個(Pは整数)積み増しする。そして、この充放電を行った際の温度上昇カーブを推定する。
【0085】
続いて、自然放熱カーブによる温度下降カーブを推定し、充放電前の推定内部温度と同一の温度となるか、残りの充放電量を最小計画時間内で充放電した場合の温度上昇分の温度降下量となるか、どちらかのタイミングで、再び次の閾値温度を超えるまで、最小計画時間での電流量を積み増しする。
【0086】
これを繰り返した充放電計画を基本計画(基本パターン)とする。そして、最初の最小計画時間の充放電量を半分にして、次の最小計画時間に移して、この充放電を行った際の温度上昇カーブを推定し、自然放熱カーブによる温度下降カーブを推定し、という先ほどと同様のサイクルを回して、多様な充放電パターンを準備する。
【0087】
なお、各最小計画時間単位で、変化するSOCを想定し、そのSOCに応じた内部抵抗を推定して、温度上昇量は求められる。
【0088】
また時間制約があるケースで、上記次の閾値温度を超えない計画を立案できないときは、図5のような指標テーブルにおいて上記の次の閾値温度の次に高い、負荷が変わる温度を閾値温度にして、充放電計画を立案する。たとえば図5に示される50℃を越えないような計画が立案できないときは、60℃に閾値温度を設定し、充放電計画が立案される。
【0089】
この処理フローを図13に示す。
【0090】
充放電計画部23は、計画立案指示と一緒に充放電量と時間制約の情報を充放電管理部24から受取り(ステップ501)、充放電計画立案を開始する。図5の負荷テーブルを参考に、温度閾値を設定して、また計画を立案する最小計画時間を設定する(ステップ502)。
【0091】
続いて、内部状態推定器7から現在の内部温度の推定値を取得し(ステップ503)、最小計画時間での投入電流量を設定する(ステップ504)。このとき、上記したように、最小計画電流量の倍数となるように、投入電流量を設定する。また、最小計画時間内に投入される電流量は、充放電管理部24から指示された充放電量を超えないように設定される。
【0092】
続いて、その投入電流量を最小計画時間の間投入した場合の内部温度上昇を、式T1、式T2、式T3のように推定して、設定した温度閾値を超えるか否かを判断する(ステップ505)。ここで、温度閾値を超えた場合、投入電流量を上述のように半分にするか、あるいは投入電流量を(2p−q)という形で減少させて、再度、投入電流量を設定して、温度閾値を超えるか否かを判定する。これを繰り返して、温度閾値内となる投入電流量を求めると、最小計画時間での投入電流量を決定する(ステップ506)。
【0093】
投入電流量の積算値が、指示された充放電量に達したか否かを判定し、達していない場合は、次の最小計画時間での投入電流量の決定プロセスに入る(ステップ507)。
【0094】
次の最小計画時間での投入電流量の決定プロセスでは、内部温度の推定値が改めて取得される(ステップ503)が、このとき取得された内部温度推定値と温度閾値との差が所定値以下の場合、自然放熱特性によって内部温度推定値と温度閾値との差が所定値以上となるまで、充放電を行わないよう、最小計画時間での充放電を休止する。
【0095】
このようなプロセスを繰り返して、投入電流量が充放電量に達した後、その計画が時間制約を満たしているか判定される(ステップ508)。時間制約を満たす場合は、充放電計画の立案を終了し(ステップ508)、時間制約を満たさない場合は、温度閾値の設定を、閾値温度がより高くなるように設定し直して(ステップ502)、充放電計画を立て直す。
【0096】
図14は、充放電計画C-1のような計画が立案された後、時間制約を満たしていないことから、閾値を高くして、充放電計画C-2が立案された場合を示している。
【0097】
<最小計画時間が可変の場合>
また、最小計画時間を可変とすることも可能であり、この場合の処理フローを図15に示す。図13の処理フローと異なるのは、投入電流量の積算値が充放電量に達しない場合(ステップ608)に、その投入電流量の積算値が所定の値以下の場合は、最小計画時間を短く設定し、投入電流量の積算値が所定の値以上となった場合に、最小計画時間を長く設定する(ステップ603)操作を行う点である。ステップ603、608以外のステップは図13と同様である。
【0098】
図15の処理フローにより、結果的に図16に示すような充放電計画D-1が立案される。
【0099】
<蓄電手段の劣化量を常時診断>
また、図1に示した構成であれば、内部診断部11が、蓄電手段1の充放電が行われない時も定期的に内部診断を行うことで、蓄電手段1自体の劣化量を以下のような式で求めることができる。
蓄電手段1の劣化量=p1×La+p2×(充放電サイクル数)
【0100】
Laは、式Aで定義された負荷量(温度域に滞在する時間と負荷から求められる値)であり、充放電を行わない状態でも、高温で放置された場合などに劣化が進行する状態を捉えて、時間積算することで、熱的劣化量を定量的に推定することができる。また充放電サイクル数は、以下のような式で求められる「充放電サイクル数の加算値」を積算するもので、充放電を行った際の充放電量に応じて、決定される値である。なお、p1、p2は、蓄電手段1に応じて決定される、劣化に寄与する特有の係数である。
充放電サイクル数の加算値=充放電量/最大充放電可能量
【0101】
このときの、内部診断部11の動作は、充放電管理部24からの指令で、所定時間間隔で、内部状態推定器7から式Aにより蓄電手段1の負荷量を推定し、また充放電を行う際には、充放電管理部24で実際に発生させる充放電量から充放電サイクル数の加算値を求めて、内部状態記憶部25に保存するものである。
【0102】
<低温時の温度強制上昇>
図1に示した構成において、内部診断部11によって、定期的に内部状態推定器7から内部温度を推定した情報を得て、温度が低下して所定の温度以下となっている場合に、充放電管理部24に通知して、強制的な充放電を行うことで、所定の温度以下とならないように蓄電手段1の内部温度を上昇させることも可能である。
【0103】
<第2実施例>
本実施例は、蓄電手段1が複数の蓄電モジュールからなる組電池の場合において、充放電を行う蓄電モジュールと、実行するべき充放電計画を決定する機能を備えたことを特徴とする。
【0104】
図10に、第2実施例に係る充放電計画立案システムの構成例を示す。
【0105】
蓄電手段1が、蓄電モジュールA31、蓄電モジュールB32、蓄電モジュールC33、のように複数の蓄電モジュールで構成されている。それぞれの蓄電モジュールは、図4に示したような複数の蓄電セルから構成されている。代表温度計測器3は、それぞれの蓄電モジュールに設けられた代表温度を個別に計測し、電流・電圧計測器4は、それぞれの蓄電モジュールの電流・電圧を個別に計測する。
【0106】
これによって、内部状態推定器7は、それぞれの蓄電モジュールのSOC、内部抵抗を推定し、内部温度上昇推定部21(図3参照)は、それぞれの蓄電モジュールの代表的な内部温度を推定する。
【0107】
このとき、充放電負荷推定器8は、充放電パターンで充放電を行った際の負荷量を、式Aを用いてそれぞれの蓄電モジュールに対して計算する。充放電計画部23では、どの蓄電モジュールに対してどの充放電パターンで充放電を行うことが、最も蓄電手段1の負荷が小さくなるかを判断して、充放電を行う蓄電モジュールと充放電パターンを選択する。
【0108】
このときの負荷計算式は、図10のような構成の場合、以下のようになる。
【数2】

【0109】
本実施例の処理フローは図11に示すようになる。それぞれの蓄電モジュールに対して、指定された充放電量を満足する充放電パターンを生成する(ステップ302)。ステップ306では、最も負荷の小さい充放電計画および蓄電モジュールを選択する。他のステップ301、303〜305、307、308は、第1の実施例のフロー(図8)のステップ201、203〜205、207、208と同様である。
【0110】
<組電池に対する充放電パターンの生成方法の一例>
まず、充放電量と各蓄電モジュールの充放電可能量から、充放電可能な蓄電モジュールを探索する。もし、充放電可能な蓄電モジュールが選択できれば、その蓄電モジュールで充放電を行う。もし、充放電可能な蓄電モジュールが選択できなければ、充放電量を2分割し、その2分割した充放電量を充放電可能な蓄電モジュールを探索する。もし、2分割した充放電量を充放電可能な蓄電モジュールが2つ見つかれば、その2つの蓄電モジュールを選択し、充放電を行う。もし、2分割した充放電量を充放電可能な蓄電モジュールが1つ見つかれば、その1つの蓄電モジュールを選択し、もう1つの残った充放電量については、さらにその充放電量を2分割し、その充放電量が充放電可能な蓄電モジュールを探索する。このように、全ての充放電量を充放電可能な蓄電モジュールへ割り当てることができるまで探索を繰り返す。
【0111】
こうして、各蓄電モジュールに、充放電量を割り当てた後は、蓄電手段1が1つの蓄電モジュールで構成される場合と同様に、充放電パターンが生成され、それぞれの負荷量が計算される。
【0112】
また、均一な充放電を行うために、次のようにすることも可能である。M個の蓄電モジュールに分散充放電することを目的として、まず充放電量をM分割する。複数の蓄電モジュールの各々のSOCに基づき、充放電可能量が、M分割された充放電量に見合う蓄電モジュールをM個選択する。そして、選択した蓄電モジュール毎に、それぞれM分割された充放電量の充放電パターンを生成する。
【0113】
また、充放電量と各蓄電モジュールの充放電可能量と、各蓄電モジュールの劣化度合いの情報を取得して、劣化していない蓄電モジュールから順次、選択して、充放電可能量に応じた各蓄電モジュールの充放電量を割り当てる構成とすることも可能である。なおここで、各蓄電モジュールの劣化度合いは、第1実施例の<蓄電手段の劣化量を常時診断>で示した方法によって、得られる劣化量を内部診断部11が取得して、充放電管理部24に通知し、充放電管理部24にて蓄電モジュールに対する充放電量を決定したのち、充放電計画部23に第1実施例と同様な充放電計画の立案を指示する。そのフローを図17に示す。
【0114】
まず、充放電管理部24は、充放電量を指定した充放電指令を受信(ステップ701)し、内部診断部11に指示して、内部状態記憶部25から各蓄電モジュールの充放電可能量と各蓄電モジュールの劣化量を取得する(ステップ702)。続いて、劣化量に応じて、劣化していない蓄電モジュールから、充放電可能量と充放電量の比較を行って、劣化していない蓄電モジュールに充放電量を割り当てていく(ステップ703)。最も劣化度合いの少ない蓄電モジュールの充放電可能量だけで、指示された充放電量に達する場合は、充放電を行う蓄電モジュールを決定して、蓄電モジュールの決定動作を終了し(ステップ705)、充放電量に応じた充放電計画の立案指示を充放電計画部23に対して行う。また、指示された充放電量に達しない場合は(ステップ704)、次に劣化度合いの少ない蓄電モジュールを選択して、充放電可能量と残りの充放電量を比較する動作を繰り返して(ステップ703)、順次充放電量の割り当てを行っていく。
【0115】
<第3実施例>
本実施例は、充放電パターンを決定して実際に充放電を行う際の温度を観測し、観測した温度が、推定した内部温度と、極端に異なることとなった場合を検知して、充放電を停止する機能、あるいは以降の充放電計画を変更・更新する機能を備えたことを特徴とする。
【0116】
本実施例のブロック図は、図1、あるいは図10のシステム構成と同様である。本実施例では、上記したような蓄電手段1の充放電計画を立案し、充放電を行っている際に、内部診断部11が、代表温度計測器3から代表温度を取得し、内部状態推定器7から、計画した充放電パターンで想定される内部推定温度と、現在の内部推定温度を取得する。そして、想定される内部推定温度と、現在の内部推定温度に所定値以上のかい離が発生した場合、これを検出して、充放電管理部24に通知し、充放電を停止させる。
【0117】
あるいは、内部状態推定器7に指示して、測定された現在の内部推定温度から、蓄電手段1の内部抵抗あるいはSOC、あるいは該当する蓄電モジュールの内部抵抗あるいはSOCを再推定し、かい離検出時点以降の充放電計画を、再計画させる。
【0118】
<第4実施例>
図18に第4実施例に係るシステム構成を示す。蓄電手段1が、第2の蓄電手段51に対して、充放電を行う場合、充放電管理部24は、第2の蓄電手段51への充放電量と時間制約の指示を受け取ったのち、上記した実施例と同様に充放電計画部23に対して、充放電計画の立案を指示する。
【0119】
このとき、充放電計画部23は、蓄電手段1と第2の蓄電手段51のそれぞれの内部状態を内部状態推定器7から取得して、蓄電手段1から第2の蓄電手段51への充電の場合は、蓄電手段1と第2の蓄電手段51のいずれに対しても、同じ電流iに対して与える影響の負荷量をそれぞれ式Aを用いて計算する。蓄電手段1への負荷量と第2の蓄電手段51の負荷量のいずれか大きい負荷量が、小さくなる計画を立案する。その立案動作は、第1実施例から第2実施例までに示した通りである。
【0120】
なお、第2の蓄電手段51から蓄電手段1への充電の場合も同様に、蓄電手段1と第2の蓄電手段51のいずれに対しても、同じ電流iに対して与える影響の負荷量をそれぞれ式Aを用いて計算し、同様の動作によって、蓄電手段1への負荷量と第2の蓄電手段51の負荷量のいずれか大きい負荷量が、小さくなる計画を立案する。
【0121】
なお、上記の図では主として充電の場合で説明を行ったが、放電の場合も同様である。
【0122】
なお以上に説明した充放電計画立案システムは、例えば、汎用のコンピュータ装置を基本ハードウエアとして用いることでも実現することが可能である。すなわち、充放電計画立案システムが備える各処理モジュールは、各処理モジュールの処理を行う指示を記述したプログラムをコンピュータに実行させることにより実現してもよい。このとき、充放電計画立案システムは、上記のプログラムをコンピュータ装置にあらかじめインストールすることで実現してもよいし、ハードディスク、メモリ装置、光ディスク等の記憶媒体に記憶して、あるいはネットワークを介して上記のプログラムを配布して、このプログラムをコンピュータ装置に適宜インストールすることで実現してもよい。また、充放電計画立案システム内のデータベースは、上記のコンピュータ装置に内蔵あるいは外付けされたメモリ、ハードディスクもしくはCD−R、CD−RW、DVD−RAM、DVD−Rなどの記憶媒体などを適宜利用して実現することができる。
【0123】
なお、本発明は上記実施形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上記実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合わせにより、種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。さらに、異なる実施形態にわたる構成要素を適宜組み合わせてもよい。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
蓄電手段の温度を計測する温度計測器と、
前記蓄電手段の電圧および電流を計測する電流・電圧計測器と、
前記蓄電手段の内部抵抗を推定する内部抵抗推定手段と、
充電量または放電量を指定した充放電指令に基づき、前記蓄電手段に前記充電量の電力を充電するための充電計画、または前記蓄電手段から前記放電量の電力を放電するための放電計画を立案する充放電計画部と、
前記充電計画または放電計画を実行した場合の前記蓄電手段の温度の時間推移を、前記蓄電手段の内部抵抗に基づき推定する温度推定手段と、
前記蓄電手段の温度の時間推移に基づき、前記充電計画または前記放電計画を実行した場合に前記蓄電手段にかかる負荷量を推定する負荷推定器と、を備え、
前記充放電計画部は、前記蓄電手段にかかる前記負荷量が最小または閾値以下になるように、前記充電計画または放電計画を立案する
ことを特徴とする充放電計画立案システム。
【請求項2】
複数の充電パターンまたは複数の放電パターンを格納した充放電パターンデータベースを備え、
前記充放電計画部は、前記充放電パターンデータベースから前記充電量または放電量に応じた前記充電パターンまたは放電パターンを複数選択し、選択した充電パターンまたは放電パターンのそれぞれについて前記負荷量を計算し、前記負荷量が最小または閾値以下になる充電パターンまたは放電パターンを前記充電計画または放電計画として選択する
ことを特徴とする請求項1に記載の充放電計画立案システム。
【請求項3】
複数の温度のそれぞれ毎に単位時間当たりに前記蓄電手段にかかる負荷を定めた負荷指標テーブルを備え、
前記負荷推定器は、前記温度推定手段により推定される前記温度の時間推移から、前記蓄電手段にかかる負荷の合計を前記負荷量として計算する
ことを特徴とする請求項1または2に記載の充放電計画立案システム。
【請求項4】
前記負荷量は、前記蓄電手段の温度の時間推移が含む最大温度であり、
前記充放電計画部は、前記最大温度が閾値以下になるように、前記充電計画または放電計画を立案する
ことを特徴とする請求項1または2に記載の充放電計画立案システム。
【請求項5】
前記充放電計画部は、前記温度推定手段により推定される前記蓄電手段の温度が前記閾値に達したときは、前記蓄電手段の自然放熱特性によって、前記温度推定手段により推定される前記蓄電手段の温度と前記閾値との差が所定値以上となるまで、充電または放電の休止期間を設ける
ことを特徴とする請求項4に記載の充放電計画立案システム。
【請求項6】
前記蓄電手段の充電状態を推定する充電状態推定器をさらに備え、
前記負荷推定器は、前記蓄電手段の充電状態をさらに用いて、前記蓄電手段にかかる負荷量を推定する
ことを特徴とする請求項1ないし5のいずれか一項に記載の充放電計画立案システム。
【請求項7】
前記充電状態の範囲毎に、複数の温度のそれぞれ毎に単位時間当たりに前記蓄電手段にかかる負荷を定めた負荷指標テーブルを備え、
前記負荷推定器は、前記蓄電手段の充電状態と、前記蓄電手段の温度の時間推移とから、前記蓄電手段にかかる負荷の合計を前記負荷量として計算する
ことを特徴とする請求項6に記載の充放電計画立案システム。
【請求項8】
前記充放電指令は、充電または放電の時間制約を含み、
前記充放電計画部は、前記時間制約を満たすように、かつ前記負荷量が前記閾値以下になるように前記充電計画または放電計画を立案し、前記時間制約を満たす充電計画または放電計画を立案できなかったときは、前記閾値の値を大きくして、前記充電計画または放電計画を再立案する
ことを特徴とする請求項1ないし7のいずれか一項に記載の充放電計画立案システム。
【請求項9】
前記蓄電手段は、複数の蓄電セルを含む蓄電池であり、
前記内部抵抗推定手段は、前記蓄電セルごとの内部抵抗を推定し、
前記温度計測器は、温度センサを用いて前記蓄電手段の温度を計測し、
前記温度推定手段は、前記温度センサおよび前記蓄電セル間の位置関係と、前記蓄電セルの内部抵抗に基づいて、前記蓄電セルごとに前記温度の時間推移を推定し、
前記充電期間または放電期間は、複数の単位期間を含み、
前記負荷推定器は、前記蓄電セルごとにかつ前記単位期間ごとに、前記単位期間内での前記蓄電セルにかかる負荷量を計算し、
前記充放電計画部は、前記単位時間ごとに前記蓄電セルの負荷量のうち最も高い負荷量を選択し前記単位時間間で合計することにより、前記負荷量を計算する
ことを特徴とする請求項1ないし8のいずれか一項に記載の充放電計画立案システム。
【請求項10】
前記蓄電手段は、複数の蓄電モジュールを含む組電池であり、
前記温度計測器は、前記蓄電モジュールごとに温度を計測し、
前記電流・電圧計測器は、前記蓄電モジュールごとに電流および電圧を計測し、
前記内部抵抗推定手段は、前記蓄電モジュールごとに内部抵抗を推定し、
前記温度推定手段は、前記蓄電モジュールごとに前記温度の時間推移を推定し、
前記負荷推定器は、前記蓄電モジュールごとに前記負荷量を計算し、
前記充放電計画部は、前記負荷量が最小または閾値以下になるように、前記複数の蓄電モジュールのうち充電または放電を行う蓄電モジュールの決定と、前記充電計画または放電計画の立案を行う
ことを特徴とする請求項1ないし8のいずれか一項に記載の充放電計画立案システム。
【請求項11】
前記充放電計画部で立案された前記充電計画または放電計画に基づいて前記蓄電手段の充放電制御を行う充放電管理部をさらに備え、
前記温度計測器は、前記充放電管理部により前記充電計画または放電計画が実行されている間に、前記蓄電手段の温度を計測し、
前記充放電管理部は、前記充電計画または放電計画が実行されている間における前記蓄電手段の温度が、前記蓄電手段の温度の時間推移に対し所定値以上乖離したら、前記蓄電手段の充電または放電を停止する
ことを特徴とする請求項1ないし10のいずれか一項に記載の充放電計画立案システム。
【請求項12】
前記充放電計画部で立案された前記充電計画または放電計画を実行して前記蓄電手段の充放電制御を行う充放電管理部をさらに備え、
前記温度計測器は、前記充放電管理部により前記充電計画または放電計画が実行されている間に、前記蓄電手段の温度を計測し、
前記充放電管理部は、前記充電計画または放電計画が実行されている間における前記蓄電手段の温度が、前記蓄電手段の温度の時間推移に対し所定値以上乖離したら、前記内部抵抗推定手段を用いて内部抵抗を再計算し、前記充放電指令に指定された充電量または放電量の残りの部分に対する充電計画または放電計画を再立案する
ことを特徴とする請求項1ないし10のいずれか一項に記載の充放電計画立案システム。
【請求項13】
蓄電手段の温度を計測する温度計測ステップと、
前記蓄電手段の電圧および電流を計測する電流・電圧計測ステップと、
前記蓄電手段の内部抵抗を推定する内部抵抗推定ステップと、
充電量または放電量を指定した充放電指令に基づき、前記蓄電手段に前記充電量の電力を充電するための充電計画、または前記蓄電手段から前記放電量の電力を放電するための放電計画を立案する充放電計画ステップと、
前記充電計画または放電計画を実行した場合の前記蓄電手段の温度の時間推移を、前記蓄電手段の内部抵抗に基づき推定する温度推定ステップと、
前記蓄電手段の温度の時間推移に基づき、前記充電計画または放電計画を実行した場合に前記蓄電手段にかかる負荷量を推定する負荷推定ステップと、を備え、
前記充放電計画ステップは、前記蓄電手段にかかる前記負荷量が最小または閾値以下になるように、前記充電計画または放電計画を立案する
ことを特徴とする充放電計画立案方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【公開番号】特開2013−106476(P2013−106476A)
【公開日】平成25年5月30日(2013.5.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−250059(P2011−250059)
【出願日】平成23年11月15日(2011.11.15)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】