説明

先端柔軟医療用チューブ

【課題】 挿入性に優れ、製造が容易な先端柔軟医療用チューブを提供すること。
【解決手段】 チューブ本体11と先端部12との端部どうしを溶融接合して、先端柔軟医療用チューブ10を構成した。また、チューブ本体11をポリウレタン樹脂で構成し、先端部12を、スチレン−エチレン−ブチレン−スチレンブロック共重合体、ポリプロピレン、ポリウレタンおよび鉱物油を混合した成形材料で構成した。さらに、スチレン−エチレン−ブチレン−スチレンブロック共重合体、ポリプロピレン、ポリウレタンおよび鉱物油を混合した成形材料を、重量比が20〜40%のスチレン−エチレン−ブチレン−スチレンブロック共重合体と、重量比が30〜45%の鉱物油と、合計重量比が15〜50%のポリプロピレンとポリウレタンとで構成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、患者の体から排液を排出したり、患者の体に薬液や血液等の液体を供給したりする際に用いられる先端柔軟医療用チューブに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、医療用チューブを成形するための材料としては、ポリウレタン樹脂、シリコーン樹脂および塩化ビニル樹脂が一般的に用いられている。ポリウレタン樹脂からなる医療用チューブは、ある程度硬さがあり、押したり回転させたりしたときにその力が先端まで伝わり易くなるため、操作性がよいとともに体温軟化性等の生体適合性に優れ、かつ裂け難く、シリコーン樹脂からなる医療用チューブは柔軟性があるが柔らかすぎるため操作性におとり、塩化ビニル樹脂からなる医療用チューブは安価につくなど、それぞれに特性があり、状況に応じていずれかが選択される。
【0003】
このような医療用チューブとしては、体内に挿入したときの刺激が少ないこと、人体の屈曲した部分にも容易に挿入できる挿入性がよいこと、および屈曲したのちに元の形状に戻る復元性などが要求される。このために、チューブ本体にある程度の硬さを持たせ先端部には柔軟性を持たせた先端柔軟医療用チューブが用いられている(例えば、特許文献1参照)。この先端柔軟医療用チューブ(腸管内挿入カテーテル)は、チューブ本体の先端に、柔軟性チューブからなる誘導部を設けた構成になっている。
【特許文献1】特開平4−122267号公報
【発明の開示】
【0004】
しかしながら、前述した先端柔軟医療用チューブでは、チューブ本体を、軟質ポリ塩化ビニル樹脂、ウレタン系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂などの樹脂材料で形成し、誘導部を、シリコーンゴム、ウレタン系樹脂、天然ゴムラテックス系樹脂などの柔軟性樹脂で形成している。このため、チューブ本体を、ポリウレタンとし、誘導部をシリコーンゴムとすると、硬さの点では好適であるが、双方を溶着や接着で接合することは困難である。また、双方にウレタン系樹脂を用いると溶融接合が可能になるが、硬度にさほど差がでなくなる。それ以外の組み合わせでも、容易に接合でき、好適な硬度差を備えた先端柔軟医療用チューブを得ることはできない。このため、前述した先端柔軟医療用チューブでは、製造工程が複雑になったり、製造コストが高くなったり、耐久性が悪くなったり、接着部分の外径が大きくなったりするという問題がある。
【0005】
本発明はこのような事情に鑑みなされたものでその目的は、挿入性に優れ、製造が容易な先端柔軟医療用チューブを提供することである。
【0006】
前述した目的を達成するため、本発明に係る先端柔軟医療用チューブの構成上の特徴は、チューブ本体成形材料でチューブ本体を成形するとともに、チューブ本体成形材料よりも軟質の先端部成形材料で先端部を成形し、成形されたチューブ本体と先端部との端面どうしを溶融接合することにより一体化される先端柔軟医療用チューブにおけるチューブ本体成形材料をポリウレタン樹脂で構成し、先端部成形材料を、スチレン−エチレン−ブチレン−スチレンブロック共重合体、ポリプロピレン、ポリウレタンおよび鉱物油を混合した成形材料で構成したことにある。
【0007】
この場合のチューブ本体成形材料としては、通常、医療用チューブを構成するポリウレタン樹脂を用いる。そして、先端部をポリウレタン樹脂よりも軟質のスチレン−エチレン−ブチレン−スチレンブロック共重合体、ポリプロピレン、ポリウレタンおよび鉱物油を混合した成形材料(以下、請求項の記載に関連する部分以外では、SEBSブレンド材料と記す。)で構成する。ポリウレタン樹脂は、操作性がよく、体温軟化性等の生体適合性に優れるとともに裂け難いという特性を備えている。このため、ポリウレタン樹脂は、先端柔軟医療用チューブの大部分を占めるチューブ本体を構成する材料として好適である。また、SEBSブレンド材料は柔軟性を備えるとともに成形性がよく、さらに、耐薬剤性がよいという特性を備えている。
【0008】
このため、SEBSブレンド材料は、先端柔軟医療用チューブの先端部を構成する材料として好適である。さらに、ポリウレタン樹脂と、SEBSブレンド材料とは、200℃程度の温度で良好な相溶性を備えている。したがって、チューブ本体をポリウレタン樹脂で構成し、先端部をSEBSブレンド材料で構成することにより、挿入性に優れ、接合強度が強いため耐久性がよく、製造が容易な先端柔軟医療用チューブを得ることができる。また、接合部分の外径が小さな場合であっても良好な接合が可能になる。このため、先端柔軟医療用チューブを、体内の狭く屈曲した部分、例えば腸管などに挿入する際には、先端部が腸管の屈曲した部分に沿うようにして屈曲できるためスムーズな挿入が可能になる。また、先端部が柔軟性を備えているため、腸管を刺激したり傷付けたりすることもない。さらに、先端部が屈曲した部分を通過すると、すぐに元の形状に復元する。
【0009】
また、本発明に係る先端柔軟医療用チューブのさらに他の構成上の特徴は、スチレン−エチレン−ブチレン−スチレンブロック共重合体、ポリプロピレン、ポリウレタンおよび鉱物油を混合した成形材料を、重量比が20〜40%のスチレン−エチレン−ブチレン−スチレンブロック共重合体と、重量比が30〜45%の鉱物油と、合計重量比が15〜50%のポリプロピレンとポリウレタンとで構成したことにある。これによると、より好ましい特性を備えたSEBSブレンド材料からなる先端柔軟医療用チューブの先端部を形成することができる。特に、鉱物油の重量比を30〜45%にすることにより、柔軟性に優れた先端柔軟医療用チューブの先端部を得ることができる。
【0010】
また、本発明に係る先端柔軟医療用チューブのさらに他の構成上の特徴は、先端部成形材料に含まれるポリプロピレンとポリウレタンとの重量比を、それぞれ1%以上にしたことにある。この場合のポリプロピレンとポリウレタンとの比率は、使用に応じて適宜変更することができる。
【0011】
また、本発明に係る先端柔軟医療用チューブのさらに他の構成上の特徴は、鉱物油が、パラフィン系オイル、ナフテン系オイルまたは高級脂肪酸のいずれかであることにある。これによると、鉱物油が軟化剤としての優れた効果を発揮できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の一実施形態を図面を用いて説明する。図1は、同実施形態に係る先端柔軟医療用チューブ10を示している。この先端柔軟医療用チューブ10は、ポリウレタン樹脂からなるチューブ本体11と、SEBSブレンド材料(スチレン−エチレン−ブチレン−スチレンブロック共重合体、ポリプロピレン、ポリウレタンおよび鉱物油を混合した成形材料)からなる先端部12とで構成されている。この先端柔軟医療用チューブ10は、患者の体から排液を排出したり、患者の体に薬液や血液等の液体を供給したりする際に用いられるもので、液体流路を構成するルーメン13が内部に形成されている。
【0013】
先端部12を構成するSEBSブレンド材料としては、スチレン−エチレン−ブチレン−スチレンブロック共重合体の重量比が20〜40%、鉱物油の重量比が30〜45%、ポリプロピレンとポリウレタンとの合計重量比が15〜50%のものが用いられ、ポリプロピレンとポリウレタンとの重量比は、それぞれ1%以上に設定される。本実施形態に係る先端柔軟医療用チューブ10の先端部12は、重量比が30%のスチレン−エチレン−ブチレン−スチレンブロック共重合体、重量比が38%の鉱物油、重量比がそれぞれ16%のポリプロピレンとポリウレタンとで構成されている。
【0014】
また、SEBSブレンド材料の鉱物油としては、パラフィン系オイルが用いられている。先端柔軟医療用チューブ10は、外径が2mm〜8mm、内径が0.5mm〜5mmのチューブで構成されており、チューブ本体11の長さが500mm〜4000mm、先端部12の長さが3mm〜50mmに設定されている。また、チューブ本体11を構成するポリウレタン樹脂としてはショア硬度が70A〜70Dのものが用いられ、先端部12を構成するSEBSブレンド材料としてはショア硬度が30A〜70Aのものが用いられている。すなわち、チューブ本体11よりも先端部12の方がやや軟質の材料で構成されている。
【0015】
このように構成された先端柔軟医療用チューブ10は、ポリウレタンからなる軟質の熱可塑性樹脂材料と、SEBSブレンド材料とを、それぞれ押出成形機(図示せず)を用いて管状に成形したのちに、例えば、両管状体の端面を熱風式溶着によって溶融接合することによって得られる。この場合、図2に示したように、ステンレスの棒体からなるピン15の外周面に、接合される前のチューブ本体11を構成するチューブ本体用成形体11aと、接合前の先端部12を構成する先端部用成形体12aを取り付け、その端面どうしを当接させる。
【0016】
このピン15の直径は、チューブ本体用成形体11aおよび先端部用成形体12aの内径と同じか、やや小さく設定されている。また、図3に示したように、チューブ本体用成形体11aの端部11bと、先端部用成形体12aの端部12bとは、ともにやや先細りになるようにしておく。この端部11bと端部12bとを当接させる。なお、図2では、端部11bと端部12bとは省略している。
【0017】
つぎに、チューブ本体用成形体11aと先端部用成形体12aとの当接部分およびその近傍部分を外側から充分に覆うことができる管状の熱収縮チューブ16を、チューブ本体用成形体11aと先端部用成形体12aとの当接部分およびその近傍部分に覆い被せる。この熱収縮チューブ16は、例えば、シリコーン樹脂やポリエチレンテレフタレートからなっており、熱を加えることにより、一定の大きさに収縮する性質を備えている。そして、熱収縮チューブ16によって被覆されたチューブ本体用成形体11aと先端部用成形体12aとの当接部分およびその近傍部分に、熱風ヒータ(図示せず)によって、約200℃の熱風を吹き付ける。
【0018】
これによって、熱収縮チューブ16は収縮し、その内径は、図1に示した先端柔軟医療用チューブ10の外径と略同じ大きさになる。そして、チューブ本体用成形体11aの端部11bと先端部用成形体12aの端部12bがともに溶融して接合されたのちに、熱収縮チューブ16を取り外すことにより、チューブ本体用成形体11aと先端部用成形体12aとが一体化した先端柔軟医療用チューブ10が得られる。この場合、熱収縮チューブ16は、内径が、先端柔軟医療用チューブ10の外径と略同じ大きさになるように収縮するため、溶融の際にも、チューブ本体用成形体11aと先端部用成形体12aとの外径を一定に保つことができる。なお、溶融接合の方法としては、前述した熱風式溶着に限らず、高周波加熱装置やレーザ加熱装置を用いた加熱による溶融接合も行える。先端柔軟医療用チューブ10の形状やサイズ等により、適宜、好ましい方法が用いられる。
【0019】
以上のように、本実施形態に係る先端柔軟医療用チューブ10では、チューブ本体11を、操作性に優れる特性を備えるポリウレタン樹脂で構成し、先端部12を、柔軟性を備えるSEBSブレンド材料で構成している。このため、先端柔軟医療用チューブ10を、体内の所定部分に挿入する際には、先端部12が挿入する部分に沿うように屈曲できるためスムーズな挿入が可能になる。また、ポリウレタン樹脂と、SEBSブレンド材料とは、200℃程度の温度で良好な相溶性を備えているため、ポリウレタン樹脂からなるチューブ本体用成形体11aと、SEBSブレンド材料からなる先端部用成形体12aとを容易に接合して接合強度が強く耐久性のある先端柔軟医療用チューブ10を得ることができる。
【0020】
なお、本発明は、前述した実施形態に限るものでなく適宜変更して実施することが可能である。例えば、前述した実施形態では、先端柔軟医療用チューブ10の先端部12を、重量比が30%のスチレン−エチレン−ブチレン−スチレンブロック共重合体、重量比が38%の鉱物油および重量比がそれぞれ16%のポリプロピレンとポリウレタンとで構成しているが、この重量比は、スチレン−エチレン−ブチレン−スチレンブロック共重合体の重量比が20〜40%、鉱物油の重量比が30〜45%、ポリプロピレンとポリウレタンとの合計重量比が15〜50%の範囲で適宜変更することができる。
【0021】
また、前述した実施形態では、鉱物油として、パラフィン系オイルを用いているが、この鉱物油としては、ナフテン系オイルや高級脂肪酸を用いることもできる。また、本発明に係る先端柔軟医療用チューブは、消化管用チューブ、経腸栄養チューブ、腸管減圧用チューブ、排液用チューブ等として用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の一実施形態に係る先端柔軟医療用チューブを示した側面図である。
【図2】熱風式溶着で、チューブ本体用成形体と先端部用成形体とを接合する状態を示した一部切欠き断面図である。
【図3】チューブ本体用成形体と先端部用成形体との端部を示した側面図である。
【符号の説明】
【0023】
10…先端柔軟医療用チューブ、11…チューブ本体、12…先端部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
チューブ本体成形材料でチューブ本体を成形するとともに、前記チューブ本体成形材料よりも軟質の先端部成形材料で先端部を成形し、成形された前記チューブ本体と前記先端部との端面どうしを溶融接合することにより一体化される先端柔軟医療用チューブにおける前記チューブ本体成形材料をポリウレタン樹脂で構成し、前記先端部成形材料を、スチレン−エチレン−ブチレン−スチレンブロック共重合体、ポリプロピレン、ポリウレタンおよび鉱物油を混合した成形材料で構成したことを特徴とする先端柔軟医療用チューブ
【請求項2】
前記スチレン−エチレン−ブチレン−スチレンブロック共重合体、ポリプロピレン、ポリウレタンおよび鉱物油を混合した成形材料を、重量比が20〜40%のスチレン−エチレン−ブチレン−スチレンブロック共重合体と、重量比が30〜45%の鉱物油と、合計重量比が15〜50%のポリプロピレンとポリウレタンとで構成した請求項1に記載の先端柔軟性療用チューブ。
【請求項3】
前記先端部成形材料に含まれる前記ポリプロピレンと前記ポリウレタンとの重量比を、それぞれ1%以上にした請求項2に記載の先端柔軟療用多層チューブ。
【請求項4】
前記鉱物油が、パラフィン系オイル、ナフテン系オイルまたは高級脂肪酸のいずれかである請求項1ないし3のうちのいずれか一つに記載の先端柔軟医療用チューブ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−63648(P2010−63648A)
【公開日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−232875(P2008−232875)
【出願日】平成20年9月11日(2008.9.11)
【出願人】(000228888)日本シャーウッド株式会社 (170)
【Fターム(参考)】