説明

光アイソレータ用楔型複屈折率偏光子、光アイソレータの製造方法および光アイソレータ

【課題】 光アイソレータの挿入損失を簡単かつ再現性良く効果的に低減させる。
【解決手段】 偏波無依存型光アイソレータに使用される楔型複屈折率偏光子3A,3Bであって、その楔型の少なくとも1つの側面dを鏡面加工された光学平面31とし、この光学平面31を位置基準にして楔型複屈折率偏光子のペアリングを行わせる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光アイソレータ用楔型複屈折率偏光子および光アイソレータに関し、さらに詳しくは、偏波無依存型の光アイソレータに用いられる一対の楔型複屈折率偏光子と、この楔型複屈折率偏光子を用いた光アイソレータの製造方法および光アイソレータに関するものである。
【背景技術】
【0002】
たとえば、波長多重光通信システムの中継器を構成する光増幅器には、光信号出力を一方向だけに伝送させるための部品として偏波無依存型の光アイソレータが用いられている。
【0003】
この偏波無依存型光アイソレータは、図5に示すように、入射光を導入する入力側光ファイバ1Aと出射光を導出する出力側光ファイバ1Bの間に、入光用コリメータレンズ2A、第1の楔型複屈折率偏光子3A、45度ファラディ回転子4、第2の楔型複屈折率偏光子3B、出光用コリメータレンズ2Bを順次配置したものであって、各構成要素はそれぞれケーシング6内に位置決めされた状態で組み込まれている(たとえば、特許文献1,2参照)。
【0004】
第1の楔型複屈折率偏光子3A、45度ファラディ回転子4、第2の楔型複屈折率偏光子3Bはアイソレータ・ユニット5を形成する。同図に示す例ではユニット5が1つだけの1段構成であるが、アイソレーション(入出力分離性能)を高めるためにユニット5を複数段(2段)直列に重ねた多段構成とする場合もある。
【0005】
この光アイソレータで用いられている楔型複屈折率偏光子3A,3Bは、図6に示すように、光路Lz方向に対して垂直面aとテーパ面bをそれぞれ有する。2つの偏光子3A,3Bは、互いに同じ光学特性に揃えられている(ペアリングされている)とともに、それぞれの垂直面a,aが光路Lz方向に直交し、かつ垂直面a,a同士およびテーパ面b,b同士が互いに平行するように位置決めされた状態で設置される。これは、挿入損失とくに順方向での伝送損失を低く抑えるためである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特公昭61−58811
【特許文献2】特公昭61−58809
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
光アイソレータでは、アイソレーションを高く確保するとともに、挿入損失をできるだけ低く抑えることが求められている。このためには、各構成要素とくに楔型複屈折率偏光子3A,3Bを精度良く組み込む必要がある。
【0008】
従来においては、楔型複屈折率偏光子の外形状を基準にして組立を行っていた。しかし、デバイスサイズの縮小にともない、要求される組立精度を得ること困難になってきた。また、光学的に無効となる光成分(伝送方向以外に漏れる光)をカメラで捉え、このカメラの撮像を手がかりにして組立時の位置決め調整を行う方法もあるが、この方法による組立精度にも限界があった。
【0009】
さらに、挿入損失を減らすためには、楔型複屈折率偏光子3A,3Bの特性とくにテーパ角度が良く揃っていること、いわゆるペアリング精度の良いことが必要である。このペアリング精度を確保する方法として、従来は、同じ生産ロットで造られたもの同士を組み合わせることが行われていた。これは、同じ生産条件によって製造されたものは特性も同じになるであろうという期待に基づくものであるが、これだけでは、光アイソレータ用楔型複屈折率偏光子に要求されるペアリング精度を確保できないことが、本発明者らによってあきらかにされた。
【0010】
楔型複屈折率偏光子3A,3Bは、図7に示すように、予備加工された長尺の光学素材(複屈折率材料)から切り出して造るが、同じ素材から切り出されたものでも、その光学特性には微妙なバラツキがあり、これが光アイソレータの挿入損失低減を妨げる大きな阻害要因になることが判明した。
【0011】
本発明は以上のような問題を解決するものであって、その目的は、偏波無依存型光アイソレータの挿入損失を簡単かつ再現性良く低減させるのにとくに有効な楔型複屈折率偏光子、この楔型複屈折率偏光子を用いた光アイソレータの製造方法、および挿入損失とそのバラツキの小さな光アイソレータを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明が提供する解決手段は以下のとおりである。
(1)入射光を導入する入力側光ファイバと出射光を導出する出力側光ファイバ間に、入光用コリメータレンズ、第1の楔型複屈折率偏光子、45度ファラディ回転子、第2の楔型複屈折率偏光子、出光用コリメータレンズが、それぞれに位置決めされた状態でケーシング内に組み込まれている偏波無依存型光アイソレータにおいて使用される上記楔型複屈折率偏光子であって、その楔型の少なくとも1つの側面を鏡面加工された光学平面としたことを特徴とする光アイソレータ用楔型複屈折率偏光子。
【0013】
(2)手段(1)において、台形断面をなす楔型の底辺側面に上記光学平面を形成したことを特徴とする光アイソレータ用楔型複屈折率偏光子。
(3)手段(1)(2)に記載の光アイソレータ用楔型複屈折率偏光子を用いた偏波無依存型光アイソレータの製造方法であって、上記光学平面を光学位置基準にして行われる光学測定に基づいてペアリングされた複数の楔型複屈折率偏光子を使用し、これらの楔型複屈折率偏光子を上記ケーシング内に組み込む際にはそれぞれ上記光学平面を位置基準にして位置決めを行うことを特徴とする光アイソレータの製造方法。
(4)手段(1)(2)に記載の光アイソレータ用楔型複屈折率偏光子を用いたことを特徴とする光アイソレータ。
(5)手段(3)に記載の方法によって製造されたことを特徴とする光アイソレータ。
【発明の効果】
【0014】
光アイソレータの挿入損失を簡単かつ再現性良く効果的に低減させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明に係る楔型複屈折率偏光子の実施例を示す斜視図である。
【図2】本発明に係る楔型複屈折率偏光子のペアリングや位置決めを行う際の光学測定方法を例示する概略図である。
【図3】本発明に係る楔型複屈折率偏光子を用いた1段構成の光アイソレータを示す概略図である。
【図4】本発明に係る楔型複屈折率偏光子を用いた2段構成の光アイソレータを示す概略図である。
【図5】偏波無依存型光アイソレータの構成概念を示す概略図である。
【図6】光アイソレータに用いられる楔型複屈折率偏光子の斜視図である。
【図7】楔型複屈折率偏光子の製造方法の一例を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
図1は本発明に係る光アイソレータ用楔型複屈折率偏光子3A,3Bを示す。同図に示す楔型複屈折率偏光子3A,3Bはそれぞれ矩形板状であって、光路Lz方向に対して垂直面aとテーパ面bを有する。また、台形断面をなす楔型の底辺側面dが、鏡面加工された光学平面31に形成されている。なお、底辺側面dと対向する頂辺側面cについては必ずしも光学平面であることを要しないが、この面cも光学平面にすることはもちろん好ましい。
【0017】
2つの偏光子3A,3Bはその特性とくにテーパ角度が高精度に揃うべくペアリングされるが、このペアリングは、上記光学平面31を光学位置基準にして行われる光学測定に基づいて行われる。
【0018】
光学測定は、図2はその概略を例示するように、オートコリメータを用いて行われる。オートコリメータはレーザ・コリメート光L1〜L3の出射光と反射光の位置比較によりテーパ角度差などの特性差を高精度に測定することができる。このとき、その位置基準として上記光学平面31が用いられる。この光学平面31を基準にして光学測定される特性がもっとも良く一致するもの同士が選別されて使用される。つまり、ペアリングされる。
【0019】
図3は、本発明に係る楔型複屈折率偏光子3A,3Bを用いて構成された偏波無依存型光アイソレータの実施例を示す。この実施例の光アイソレータは、入射光を導入する入力側光ファイバ1Aと出射光を導出する出力側光ファイバ1Bとの間に、入光用コリメータレンズ2A、第1の楔型複屈折率偏光子3A、45度ファラディ回転子4、第2の楔型複屈折率偏光子3B、出光用コリメータレンズ2Bを順次配置することにより構成されている。
【0020】
各構成要素はそれぞれケーシング6内に位置決めされた状態で組み込まれているが、挿入損失にもっとも大きく影響する楔型複屈折率偏光子3A,3Bの組み込みについては、オートコリメータによる光学測定下で、テーパ角などを高精度に位置決めしながら行われる。この位置決めも上記光学平面31を基準にすることにより再現性良く高精度に行わせることができる。
【0021】
図3に示した光アイソレータはユニット5が1つだけの1段構成であるが、本発明は、図4に示すように、複数段(2段)のアイソレータ・ユニット51,52を直列に重ねた多段構成とする場合にも有効である。
【0022】
この多段構成の光アイソレータは、アイソレーションを高くすることができる反面、ユニット51,52間の光学軸合わせが難しいという問題があったが、本発明では、楔型の少なくとも1つの側面に光学平面31が形成された楔型複屈折率偏光子3A,3Bを用いることにより、その光学軸合わせも簡単かつ再現性良く、しかも高精度に行わせることができる。
【0023】
以上のように本発明に係る光アイソレータ用楔型複屈折率偏光子3A,3Bは、その楔型の少なくとも1つの側面を鏡面加工された光学平面としたことにより、次のような効果が得られる。
(1)対で使用する楔型複屈折率偏光子3A,3Bのテーパ角度差により生じる光成分を
減らすことができる。
(2)対で使用する楔型複屈折率偏光子3A,3Bの組立対称性が悪いことにより生じる光成分を減らすことができる。
(3)対で使用する楔型複屈折率偏光子3A,3Bの光学軸角度誤差と、ファラディ回転子4の回転角が、異なることにより生じる光成分を減らすことができる。
(4)2段(多段)で使用する場合、1段目と2段目間の光学軸にズレがあることにより生じる光成分を減らすことができる。
【0024】
以上のようにして光アイソレータで無効となる光成分を低減させられることにより、挿入損失が小さく、またそのバラツキも小さな光アイソレータを再現性良く得ることができる。
【符号の説明】
【0025】
1A,1B 光ファイバ
2A,2B コリメータレンズ
3,3A,3B 楔型複屈折率偏光子
31 鏡面加工された光学平面
4 ファラディ回転子
5,51,52 のアイソレータ・ユニット
6 ケーシング
Lz 光路
a 垂直面
b テーパ面
d 楔型の底辺側面
c 楔型の頂辺側面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
入射光を導入する入力側光ファイバと出射光を導出する出力側光ファイバ間に、入光用コリメータレンズ、第1の楔型複屈折率偏光子、45度ファラディ回転子、第2の楔型複屈折率偏光子、出光用コリメータレンズが、それぞれに位置決めされた状態でケーシング内に組み込まれている偏波無依存型光アイソレータにおいて使用される上記楔型複屈折率偏光子であって、その楔型の少なくとも1つの側面を鏡面加工された光学平面としたことを特徴とする光アイソレータ用楔型複屈折率偏光子。
【請求項2】
請求項1において、台形断面をなす楔型の底辺側面に上記光学平面を形成したことを特徴とする光アイソレータ用楔型複屈折率偏光子。
【請求項3】
請求項1,2に記載の光アイソレータ用楔型複屈折率偏光子を用いた偏波無依存型光アイソレータの製造方法であって、上記光学平面を光学位置基準にして行われる光学測定に基づいてペアリングされた複数の楔型複屈折率偏光子を使用し、これらの楔型複屈折率偏光子を上記ケーシング内に組み込む際にはそれぞれ上記光学平面を位置基準にして位置決めを行うことを特徴とする光アイソレータの製造方法。
【請求項4】
請求項1,2に記載の光アイソレータ用楔型複屈折率偏光子を用いたことを特徴とする光アイソレータ。
【請求項5】
請求項3に記載の方法によって製造されたことを特徴とする光アイソレータ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−237268(P2010−237268A)
【公開日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−82320(P2009−82320)
【出願日】平成21年3月30日(2009.3.30)
【出願人】(000237721)FDK株式会社 (449)
【Fターム(参考)】