説明

光カチオン硬化型インク及びカチオン硬化型インクを使用したインクジェット記録方法

【課題】光カチオン硬化型インクについて、光重合開始剤の種類によらず、インク塗膜の硬度を落とすことなく、印刷媒体への密着性を向上させる。
【解決手段】2,2,6,6−テトラメチルピペリジン1−オキシルフリーラジカル、または2,2,6,6−テトラメチルピペリジン1−オキシルフリーラジカル構造を含む化合物を含む光カチオン硬化型インク使用することにより、印刷媒体への密着性の高い光カチオン硬化型インクを得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、活性エネルギー線により硬化する光カチオン硬化型インクに関するものである。
【背景技術】
【0002】
光、紫外線等の活性エネルギー線を照射することで硬化する光硬化型インクは、硬化後に印刷媒体に対する十分な密着性を持つことが求められており、密着性が十分でない場合、硬化したインクが印刷媒体から剥がれやすくなってしまい、印刷媒体に形成された文字、絵等の造形物が、特に摩擦等の外的要因によって消失し易くなる原因となる。
【0003】
ところで、光硬化型インクの硬化の反応には、ラジカル重合によるものと、カチオン重合によるものが知られている。一般的に、カチオン重合を利用した光硬化型インク(以下、光カチオン硬化型インクと記す)は、ラジカル重合を利用した光硬化型インクと比較して印刷媒体に対する密着性が優れていることが知られており、上述した問題点の解決手段となりうる。
【0004】
光カチオン硬化型インクには、重合を開始させる添加剤として光重合開始剤を添加することが一般に行われており、その選択は、硬度を高める等の理由により変わってくるものであるが、選択された光重合開始剤の種類によっては、印刷媒体に対する密着性が悪化して上述したような問題が起こりやすくなる。
【0005】
加えて、添加剤の種類によって硬度は得られても、密着性が得られない等、両方の特性を併せ持つ光カチオン硬化型インクを得ることは困難である。
【0006】
特許文献1では、アミン化合物を含有することで、密着性の向上を図っているが、その硬度は十分とは言えない。
【特許文献1】特開2003−261817号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
前述のように本発明は、光カチオン硬化型インクについて、光重合開始剤の種類によらず、密着性及び硬度の両方を向上させることを目的とする。
【0008】
更に、こうした光カチオン硬化型インクを塗布する方法についてあらゆる方法を可能とする配合を目的とするものでもある。なぜなら、光による硬化型インクは、通常の太陽光、電灯等によっても経時によって硬化するためその取り扱いには注意を要し、あらゆる種類の塗布方法に対応するものでなくてはならないためである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明の第1の態様に従えば、活性エネルギー線により硬化する光カチオン硬化型インクであって、光カチオン硬化型樹脂と、光重合開始剤と、2,2,6,6−テトラメチルピペリジン1−オキシルフリーラジカルを含み、インク中の前記2,2,6,6−テトラメチルピペリジン1−オキシルフリーラジカルのモル濃度が19.6mM〜39.2mMである光カチオン硬化型インクが提供される。
【0010】
本発明の第2の態様に従えば、活性エネルギー線により硬化する光カチオン硬化型インクであって、光カチオン硬化型樹脂及と、光重合開始剤と、2,2,6,6−テトラメチルピペリジン1−オキシルフリーラジカル構造を含む化合物を含み、インク中の前記2,2,6,6−テトラメチルピペリジン1−オキシルフリーラジカル構造のモル濃度が、19.6mM〜39.2mMである光カチオン硬化型インクが提供される。
【0011】
本発明の第3の態様に従えば、本発明の第1の態様又は、第2の態様の光カチオン硬化型インクを印刷媒体に向けて吐出することと、前記吐出した光カチオン硬化型インクに活性エネルギー線を照射することにより前記光カチオン硬化型インクを硬化させることを含むインクジェット記録方法が提供される。
【発明の効果】
【0012】
本発明の光カチオン硬化型インクは、2,2,6,6−テトラメチルピペリジン1−オキシルフリーラジカル又は、2,2,6,6−テトラメチルピペリジン1−オキシルフリーラジカル構造を含む化合物を、印刷媒体への密着性を向上させる目的の添加剤として使用するため、インク塗膜の硬度及び印刷媒体への密着性の高い光カチオン硬化型インクを得ることができる。
【0013】
印刷印刷
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の光カチオン硬化型インクについて説明する。
【0015】
本発明の光カチオン硬化型インクは、2,2,6,6−テトラメチルピペリジン1−オキシルフリーラジカル、または2,2,6,6−テトラメチルピペリジン1−オキシルフリーラジカル構造を含む化合物を含有する。これらの化合物は、ヒンダードアミンと言われる物質(Hinderd Amine Light Stabilizer:HALS)の一種で、従来光安定剤や酸化防止剤としての利用が知られており、樹脂の物性低下、黄変等の外観不良等の劣化を防止する用途に使用されてきた。本発明者らは、2,2,6,6−テトラメチルピペリジン1−オキシルフリーラジカル、又は2,2,6,6−テトラメチルピペリジン1−オキシルフリーラジカル構造を含む化合物が、従来のヒンダーアミンの用途における効果とは異質の効果を有することを見出した。この化合物を活性エネルギー線により硬化する光カチオン硬化型インク中に含有させると、インク塗膜の硬度を落とすことなく、印刷媒体への密着性が向上する。この理由は、以下のように予想される。光カチオン硬化型インクは、インクに含有される光カチオン硬化型樹脂がカチオン重合することによりインク塗膜を形成する。カチオン重合の反応の後期において重合速度が低下すると、樹脂の成長末端に2,2,6,6−テトラメチルピペリジン1−オキシルフリーラジカル構造が結合し、重合反応が緩和される。その結果、インク塗膜の収縮応力が低減されてインク塗膜の印刷媒体への密着性が向上する。
【0016】
本発明の2,2,6,6−テトラメチルピペリジン1−オキシルフリーラジカルとは、式(1)に示す物質である。
【0017】
【化1】

【0018】
本発明の2,2,6,6−テトラメチルピペリジン1−オキシルフリーラジカル構造を含む化合物とは、式(2)又は(3)に示す化学構造を分子構造中に有する化合物である。また、本発明の化合物は、これらの構造を分子中に複数有していても良い。本発明の化合物の例として、irgastab UV−10(Ciba社製)が挙げられる。
【0019】
【化2】

【0020】
【化3】

【0021】
上述したように、カチオン重合の反応後期において、樹脂の成長末端に2,2,6,6−テトラメチルピペリジン1−オキシルフリーラジカル構造が結合して、インク塗膜の収縮応力を低減するためには、インク中の2,2,6,6−テトラメチルピペリジン1−オキシルフリーラジカル構造の濃度が、19.6mM以上であることが好ましい。一方、インク中に2,2,6,6−テトラメチルピペリジン1−オキシルフリーラジカル構造が多すぎると、重合反応の初期から樹脂の成長末端にこの構造が結合し、インク塗膜の硬度の低下を招く。そのため、インク中の2,2,6,6−テトラメチルピペリジン1−オキシルフリーラジカル構造の濃度は39.2mM以下であることが好ましい。以上より、インク中の2,2,6,6−テトラメチルピペリジン1−オキシルフリーラジカル、又は、2,2,6,6−テトラメチルピペリジン1−オキシルフリーラジカル構造の濃度は、19.6mM〜39.2mMが好ましい。
【0022】
本発明の光カチオン硬化型インクには、光カチオン硬化型樹脂、及び光重合開始剤も含有する。
【0023】
光カチオン硬化型樹脂は、光重合開始剤とともに含有され、所定波長の活性エネルギー線に曝すことにより重合反応や架橋反応を起こして硬化する物質であり、例えば、エポキシ化合物、オキセタン化合物、オキソラン化合物、環状アセタール化合物、環状ラクトン化合物、チイラン化合物、チエタン化合物、ビニルエーテル化合物、エポキシ化合物とラクトンとの反応生成物であるスピロオルソエステル化合物、エチレン性不飽和化合物、環状チオエーテル化合物等を挙げることができる。
【0024】
光カチオン硬化型樹脂として使用することができるエポキシ化合物としては、例えば、脂肪族エポキシ化合物、脂環式エポキシ化合物を挙げることができる。
【0025】
脂肪族エポキシ化合物としては、ビスフェノールA型エポキシ化合物、ビスフェノールF型エポキシ化合物、フェノールノボラック型エポキシ化合物、クレゾールノボラック型エポキシ化合物、p−tert−ブチルフェノールノボラック型エポキシ化合物といったアルキルフェノールノボラック型エポキシ化合物、水添ビスフェノールA型エポキシ化合物、ビスフェノールAアルキレンオキサイドジグリシジルエーテル、ビスフェノールFアルキレンオキサイドジグリシジルエーテル、水添ビスフェノールAアルキレンオキサイドジグリシジルエーテル、テトラブロモビスフェノールA型エポキシ化合物、エチレングリコールジグリシジルエーテル、プロピレングリコールジグリシジルエーテル、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、ブタンジオールジグリシジルエーテル、ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、シクロヘキサンジメタノールジグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル、トリメチロールプロパンジグリシジルエーテル、トリメチロールプロパントリグリシジルエーテル、ペンタエリスリトールトリグリシジルエーテル、ペンタエリスリトールテトラグリシジルエーテル、ソルビトールヘプタグリシジルエーテル、ソルビトールヘキサグリシジルエーテル、レゾルシンジグリシジルエーテル、ジシクロペンタジエン・フェノール付加型グリシジルエーテル、メチレンビス(2,7−ジヒドロキシナフタレン)テトラグリシジルエーテル、1,6−ジヒドロキシナフタレンジグリシジルエーテル、1,5−ジヒドロキシナフタレンジグリシジルエーテル等を挙げることができる。
【0026】
脂環式エポキシ化合物としては、例えば、3,4−エポキシシクロヘキシルメチル−3,4−エポキシシクロヘキサンカルボキシレート(例えばセロキサイド2021P:ダイセル化学工業社製)、テトラヒドロフタル酸とテトラヒドロベンジルアルコールとのエステルのエポキシ化物及びそのε−カプロラクトン付加物(例えばエポリードGT301、GT401:ダイセル化学工業社製)、2,2−ビス(ヒドロキシメチル)−1−ブタノールの1,2−エポキシ−4−(2−オキシラニル)シクロヘキセン付加物(例えばEHPE3150:ダイセル化学工業社製)等の多官能脂環式エポキシ化合物、4−ビニルエポキシシクロヘキサン(例えばセロキサイド2000:ダイセル化学工業社製)等の単官能脂環式エポキシ化合物が挙げられる。
【0027】
本発明で用いられるオキセタン化合物とは4員環エーテル類の化合物のことをいい、分子中にオキセタン環を少なくとも1個有する化合物であれば特に限定されるものではない。オキセタン環を1個有する化合物の具体例としては、3−エチル−3−ヒドロキシメチルオキセタン(例えばアロンオキセタンOXT−101:東亞合成社製)、3−(メタ)アリルオキシメチル−3−エチルオキセタン、3−エチル−3−(シクロヘキシロキシ)メチルオキセタン(例えばアロンオキセタンOXT−213:東亞合成社製)、3−エチル−3−(2−エチルシクロヘキシロキシメチル)オキセタン(例えばアロンオキセタンOXT−212:東亞合成社製)、(3−エチル−3−オキセタニルメトキシ)メチルベンゼン、3−エチル−3−(フェノキシメチル)オキセタン(例えばアロンオキセタンOXT−211:東亞合成社製)、4−フルオロ−〔1−(3−エチル−3−オキセタニルメトキシ)メチル〕ベンゼン、4−メトキシ−〔1−(3−エチル−3−オキセタニルメトキシ)メチル〕ベンゼン、〔1−(3−エチル−3−オキセタニルメトキシ)エチル〕フェニルエーテル、イソブトキシメチル(3−エチル−3−オキセタニルメチル)エーテル、イソボルニルオキシエチル(3−エチル−3−オキセタニルメチル)エーテル、イソボルニル(3−エチル−3−オキセタニルメチル)エーテル、2−エチルヘキシル(3−エチル−3−オキセタニルメチル)エーテル、エチルジエチレングリコール(3−エチル−3−オキセタニルメチル)エーテル、ジシクロペンタジエン(3−エチル−3−オキセタニルメチル)エーテル、ジシクロペンテニルオキシエチル(3−エチル−3−オキセタニルメチル)エーテル、ジシクロペンテニル(3−エチル−3−オキセタニルメチル)エーテル、テトラヒドロフルフリル(3−エチル−3−オキセタニルメチル)エーテル、テトラブロモフェニル(3−エチル−3−オキセタニルメチル)エーテル、2−テトラブロモフェノキシエチル(3−エチル−3−オキセタニルメチル)エーテル、トリブロモフェニル(3−エチル−3−オキセタニルメチル)エーテル、2−トリブロモフェノキシエチル(3−エチル−3−オキセタニルメチル)エーテル、2−ヒドロキシエチル(3−エチル−3−オキセタニルメチル)エーテル、2−ヒドロキシプロピル(3−エチル−3−オキセタニルメチル)エーテル、ブトキシエチル(3−エチル−3−オキセタニルメチル)エーテル、ペンタクロロフェニル(3−エチル−3−オキセタニルメチル)エーテル、ペンタブロモフェニル(3−エチル−3−オキセタニルメチル)エーテル、ボルニル(3−エチル−3−オキセタニルメチル)エーテル等が挙げられる。オキセタン環を2個以上有する化合物の具体例としては、3,7−ビス(3−オキセタニル)−5−オキサ−ノナン、3,3’−(1,3−(2−メチレニル)プロパンジイルビス(オキシメチレン))ビス−(3−エチルオキセタン)、ビス〔1−エチル(3−オキセタニル)〕メチルエーテル、1,4−ビス〔(3−エチル−3−オキセタニルメトキシ)メチル〕ベンゼン(例えばアロンオキセタンOXT−121:東亞合成社製)、3−エチル−3−{[(3−エチルオキセタニル)メトキシ]メチル}オキセタン(例えばアロンオキセタンOXT−221:東亞合成社製)1,3−ビス〔(3−エチルオキセタン−3−イル)メトキシ〕ベンゼン、1,2−ビス〔(3−エチル−3−オキセタニルメトキシ)メチル〕エタン、1,3−ビス〔(3−エチル−3−オキセタニルメトキシ)メチル〕プロパン、エチレングリコールビス(3−エチル−3−オキセタニルメチル)エーテル、ジシクロペンテニルビス(3−エチル−3−オキセタニルメチル)エーテル、トリエチレングリコールビス(3−エチル−3−オキセタニルメチル)エーテル、テトラエチレングリコールビス(3−エチル−3−オキセタニルメチル)エーテル、トリシクロデカンジイルジメチレン(3−エチル−3−オキセタニルメチル)エーテル、トリメチロールプロパントリス(3−エチル−3−オキセタニルメチル)エーテル、1,4−ビス(3−エチル−3−オキセタニルメトキシ)ブタン、1,6−ビス(3−エチル−3−オキセタニルメトキシ)ヘキサン、ペンタエリスリトールトリス(3−エチル−3−オキセタニルメチル)エーテル、ペンタエリスリトールテトラキス(3−エチル−3−オキセタニルメチル)エーテル、ポリエチレングリコールビス(3−エチル−3−オキセタニルメチル)エーテル、ジペンタエリスリトールヘキサキス(3−エチル−3−オキセタニルメチル)エーテル、ジペンタエリスリトールペンタキス(3−エチル−3−オキセタニルメチル)エーテル、ジペンタエリスリトールテトラキス(3−エチル−3−オキセタニルメチル)エーテル、カプロラクトン変性ジペンタエリスリトールヘキサキス(3−エチル−3−オキセタニルメチル)エーテル、カプロラクトン変性ジペンタエリスリトールペンタキス(3−エチル−3−オキセタニルメチル)エーテル、ジトリメチロールプロパンテトラキス(3−エチル−3−オキセタニルメチル)エーテル、EO変性ビスフェノールAビス(3−エチル−3−オキセタニルメチル)エーテル、PO変性ビスフェノールAビス(3−エチル−3−オキセタニルメチル)エーテル、EO変性水添ビスフェノールAビス(3−エチル−3−オキセタニルメチル)エーテル、PO変性水添ビスフェノールAビス(3−エチル−3−オキセタニルメチル)エーテル、EO変性ビスフェノールFビス(3−エチル−3−オキセタニルメチル)エーテル、オキセタニルシルセスキオキサン、オキセタニルシリケート、フェノールノボラックオキセタン等が挙げられる。
【0028】
光カチオン硬化型樹脂として使用することのできる他の化合物としては、テトラヒドロフラン、2,3−ジメチルテトラヒドロフラン等のオキソラン化合物、トリオキサン、1,3−ジオキソラン、1,3,6−トリオキサンシクロオクタン等の環状アセタール化合物、β−プロピオラクトン、ε−カプロラクトン等の環状ラクトン化合物、エチレンスルフィド、1,2−プロピレンスルフィド、チオエピクロロヒドリン等のチイラン化合物、3,3−ジメチルチエタン等のチエタン化合物、エチレングリコールジビニルエーテル、トリエチレングリコールジビニルエーテル、トリメチロールプロパントリビニルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、シクロヘキサンジメタノールジビニルエーテル、ヒドロキシブチルビニルエーテル、ドデシルビニルエーテル、プロペニルエーテルプロピレンカーボネート、メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、プロピルビニルエーテル、イソブチルビニルエーテル、エチレングリコールモノビニルエーテル、ジエチレングリコールジビニルエーテル、ブタンジールジビニルエーテル、ヘキサンジオールジビニルエーテル、シクロヘキサンジメタノールモノビニルエーテル、シクロヘキシルビニルエーテル、2−クロロエチルビニルエーテル、2−ヒドロキシエチルビニルエーテル、ジエチレングリコールジビニルエーテル、2、2−ビス(4−ビニロキシエトキシフェニル)プロパン、1、4−ビス(2−ビニロキシエトキシ)ベンゼン、具体的にはラピキュアーDVE−3、ラピキュアーCHVE、ラピキュアーHBVE、ラピキュアーPECP、ラピキュアーDDVE(以上ISP社製)、ベクトマー4010(アライドシグナル社製)、M−VE、E−VE、P−VE、iB−VE、EG−MVE、DGE−DVE、BD−DVE、HD−DVE、CHDM−DVE、CH−VE(以上BASF社製)、CEVE、HEVE、DEG−DVE、TEG−DVE、PBA−DEVE、HQ−DEVE(日曹丸善ケミカル社製)等のビニルエーテル化合物、エポキシ化合物とラクトンとの反応によって得られるスピロオルソエステル化合物、ビニルシクロヘキサン、イソブチレン、ポリブタジエン等のエチレン性不飽和化合物、テトラヒドロチオフェン等の環状チオエーテル化合物等を例示することができる。
【0029】
以上、例示した光カチオン硬化型樹脂は、必要に応じて単独でも、2種以上を組み合わせて使用することもできる。
【0030】
本発明の光カチオン硬化型樹脂の添加量は、樹脂の添加量が多いほど、溶剤の揮発のための加熱、自然乾燥などの後工程及び、環境負荷が少なくなることから、好ましくは50重量%であり、より好ましくは90重量%である。
【0031】
本発明で用いられる光重合開始剤とは、活性エネルギー線照射によりカチオン重合を開始させる物質を放出することが可能な化合物であり、特に好ましいものとしては照射により酸が発生するオニウム塩である。このようなものとしては、ジアゾニウム塩、ヨードニウム塩、スルホニウム塩等が挙げられ、これらはカチオン部分がそれぞれ芳香族ジアゾニウム、芳香族ヨードニウム、芳香族スルホニウムであり、アニオン部分がBF、PF、SbF、[BX(ただし、Xは少なくとも2つ以上のフッ素又はトリフルオロメチル基で置換されたフェニル基)等により構成されたオニウム塩である。より具体的な例としては、四フッ化ホウ素のアリールジアゾニウム塩、六フッ化リンのトリアリールスルホニウム塩、六フッ化リンのジアリールヨードニウム塩、六フッ化アンチモンのトリアリールホスホニウム塩、六フッ化アンチモンのジアリールヨードニウム塩、六フッ化ヒ素のトリ−4−メチルフェニルスルホニウム塩、四フッ化アンチモンのトリ−4−メチルフェニルスルホニウム塩、テトラキス(ペンタフルオロフェニル)ホウ酸トリアリールスルホニウム塩、テトラキス(ペンタフルオロフェニル)ホウ酸ジアリールヨードニウム塩、アセチルアセトンアルミニウム塩とオルトニトロベンジルシリルエーテル混合体、フェニルチオピリジウム塩、六フッ化リンアレン−鉄錯体等を挙げることができる。オニウム塩の具体例としては、アデカオプトマーSP−150、アデカオプトマーSP−170(以上、アデカ社製)、UVI−6992(ダウケミカル社製)、CPI−100P、CPI−101A、CPI−200K、CPI−210S(以上、サンアプロ社製)、TEPBI−S(日本触媒社製)、Rhodorsil2074(Rhodia社製)等が挙げられる。これらは単独でも2種以上を組み合わせて使用することもできる。この中で、硬化膜の着色が少ないスルホニウム塩、ヨードニウム塩の開始剤が好ましい。
【0032】
光重合開始剤と共に、ベンゾフェノン、ベンゾインイソプロピルエーテル、チオキサントン、アントラセン、これらの化合物の誘導体等の光増感剤を併用することもでき、具体例としては、4,4’−ビス(ジエチルアミノ)ベンゾフェノン、2,4’−ジエチルチオキサントン、イソプロピルチオキサントン、9,10−ジエトキシアントラセン、9,10−ジブトキシアントラセン(例えば、Ahthracure UVS−1331:川崎化成工業社製)等が挙げられる。光カチオン重合開始剤の含有量は好ましくは0.1〜20重量%であり、より好ましくは0.2〜15重量%である。生産性の観点から、開始剤を過剰に使用しない方が望ましく、開始剤を過剰に使用すると、光線透過率が低下し、膜底部の硬化が不足したり、腐食性が強くなったりする場合がある。また少な過ぎる場合、活性エネルギー線照射により発生する活性カチオン物質の量が不足し、十分な硬化性が得られなくなる場合がある。
【0033】
本発明に係る光カチオン線硬化型インクには、着色剤を加えてもよい。着色剤としては顔料、及び染料を使用することができ、これらはそれぞれ1種類でも複数種を同時に使用してもよく、また顔料と染料を同時に使用してもよい。使用できる顔料としては、モノアゾ系顔料、ジスアゾ系顔料、アゾレーキ顔料、キナクリドン系顔料、ペリレン系顔料、アンスラピリミジン系顔料、イソインドリノン系顔料、スレン系顔料、フタロシアニン系顔料等の有機顔料、カーボンブラック、黄鉛、ベンガラ、酸化チタン、モリブデン赤、カドミウムレッド、コバルトブルー、クロムグリーン等の無機顔料が挙げられる。また、染料としては、キサンテン系染料、クマリン系染料、メロシアニン系染料、カルボシアニン系染料、スチリル系染料、チアジン系染料、アジン系染料、メチン系染料、オキサジン系染料、フェニルメタン系染料、シアニン系染料、アゾ系染料、アントラキノン系染料、ピラゾリン系染料、スチルベン系染料、キノリン系染料、ロイコ染料等の染料が挙げられる。
【0034】
本発明の光カチオン硬化型インクを印刷媒体上に塗布する方法は、特に限定されるものではなく、印刷媒体の種類に応じて、インクジェット、スピンコート、バーコート、スプレー噴霧等の既知の塗布方法から選択することができる。
【0035】
本発明の光カチオン硬化型インクを硬化させるための活性エネルギー線としては、光重合開始剤を分解させてプロトンまたはカルボニウムイオン(カルボカイオン)を発生するものであればよく、紫外線、X線、ガンマ線等の電磁波が挙げられる。中でも、光重合開始剤の波長吸収性、使用する樹脂や照射装置の汎用性等の観点から、紫外線硬化型のインクとすることが好ましく、その場合は光源として、高圧水銀ランプ、メタルハライドランプ、キセノンランプ等を好ましく用いることができる。
【0036】
本発明の光カチオン硬化型インクは、2,2,6,6−テトラメチルピペリジン1−オキシルフリーラジカル、または2,2,6,6−テトラメチルピペリジン1−オキシルフリーラジカルを構造の一部に含む化合物、光カチオン硬化型樹脂及び、光重合開始剤の他に、必要に応じて着色剤やその他添加剤とをよく攪拌することで配合される。着色剤として顔料を使用する場合には、別途ボールミル、ビーズミル等で顔料を分散媒(光カチオン硬化型樹脂を使用する)に分散してミルベースとなし、そのミルベースを他の物質と混合、攪拌させることで得られる。作製されたインクは2μm程度のフィルターにてろ過することが望ましい。以上の作業は、作業中におけるインクの硬化を防止するため、使用する装置が、暗室等の活性エネルギー線のない環境下に置かれることが必要である。
【0037】
本発明に用いる印刷媒体は、一般的に印刷に用いることのできる媒体であればよく、例えば、紙、ポリエチレンテレフタレート(PET)等の樹脂、鉄、アルミニウム等の金属、Tシャツ等の布帛等が挙げられる。
【実施例】
【0038】
以下に、本発明の実施例について説明する。ただし、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
(インクの調製)
表1、表2及び表3に示す各成分を暗室にて所定の割合にて容器に採取し、攪拌後、孔径2μmのポリフロンフィルターにてろ過して、各実施例、比較例のインクを調製した。また、表4は、表1、表2及び表3に示されている各物質の製造メーカーの一覧表である。なお、インクは、オキセタン化合物(OXT−213)、カーボンブラック顔料及び顔料分散剤(Solsperse)を、以下に示す割合で採取した後ビーズミルにて顔料分散を行った後、上述した容器に表1及び表2に示した割合になるよう各材料を採取し、攪拌を行った。
【0039】
オキセタン化合物(OXT−213) 60重量%
カーボンブラック顔料 25重量%
顔料分散剤(Solsperse) 15重量%
【0040】
実施例1〜8の光カチオン硬化性インクには、いずれもインクの印刷媒体への密着性を向上させる添加剤として、irgastab UV−10を使用した。irgastab UV−10は、2,2,6,6−テトラメチルピペリジン1−オキシルフリーラジカル構造を含む化合物である。実施例1、3、5及び7のインク中の2,2,6,6−テトラメチルピペリジン1−オキシルフリーラジカル構造の濃度は、39.2mMである。実施例2、4、6及び8のインク中の2,2,6,6−テトラメチルピペリジン1−オキシルフリーラジカル構造の濃度は、19.6mMである。また、実施例9〜10はいずれも密着性を向上させる添加剤として2,2,6,6−テトラメチルピペリジン1−オキシルフリーラジカルを使用した。実施例9及び10のインク中の2,2,6,6−テトラメチルピペリジン1−オキシルフリーラジカルの濃度は、それぞれ、39.2mM及び19.6mMである。
【0041】
一方、比較例1〜4は、実施例1〜8と同じ光重合開始剤を使用したインクで、密着性を向上させる添加剤を添加しなかった。また、比較例5〜8は、実施例1〜8と同じ光重合開始剤を使用したインクで、アデカスタブLA−77Yを添加した。アデカスタブLA−77Yは、2,2,6,6−テトラメチルピペリジン1−オキシルフリーラジカル構造を含まないヒンダードアミンである。
【0042】
比較例9は、実施例9及び10と同じ光重合開始剤を使用したインクで、密着性を向上させる添加剤を添加しなかった。また、比較例10及び11は、実施例9及び10と同じ光重合開始剤を使用したインクで、ヒンダードアミンの一種である2,2,6,6−テトラメチルピペリジンを添加した。2,2,6,6−テトラメチルピペリジンは、フリーラジカルを持たないということ以外は、2,2,6,6−テトラメチルピペリジン1−オキシルフリーラジカルと同じ構造の化合物である。
【0043】
比較例12及び13は、実施例7及び8と同じ光重合開始剤及び添加剤を使用したインクである。比較例12及び13のインクにおいて、2,2,6,6−テトラメチルピペリジン1−オキシルフリーラジカル構造のインク中の濃度は、それぞれ、3.92mM及び58.8mMである。
【0044】
【表1】

【0045】
【表2】

【0046】
【表3】

【0047】
【表4】

【0048】
(インク塗膜の形成)
表1、表2及び表3に示された組成に調製したインクは、図1に示すようなピエゾ型インクジェットヘッドを使用したインクジェット記録装置1により印刷媒体上に塗膜を形成した。本実施例では、印刷媒体にはPETフィルムを使用した。図1に示したインクジェット記録装置1は、印刷媒体支持台11上に置かれた印刷媒体2に向かって、インクジェットヘッド12から本発明の光カチオン硬化型インクを吐出する。その際、図示しないモーターユニットによって印刷媒体支持台11が矢印21の方向に移動し、かつ図示しないモーターユニット等の動作により、インクジェットヘッド12がスライドレール13上を矢印22の方向に往復運動することにより、印刷媒体2表面上の任意の箇所に本発明の光カチオン硬化型インクの塗膜を形成することができる。
【0049】
(インク塗膜の硬化)
インクの塗膜が形成されたPETフィルムに対して、紫外線を照射することで、印刷媒体上のインクが硬化する。硬化方法としては、例えば、図2に示すような、紫外線ランプ41による、印刷媒体2上の光カチオン硬化型インクの塗布された範囲31に対する紫外線の照射が挙げられる。なお、照射はメタルハライドランプを用い、ピーク照度は150mW/cm、積算光量が600mJ/cmの条件下にて行った。
【0050】
(評価)
インク塗膜が形成された印刷媒体について、以下の項目に関して評価を行った。
硬度:鉛筆硬度試験(JIS K5600―5−4)にて評価した。
・硬度が3H以上・・・・◎
・硬度がH〜2H・・・・○
・硬度がF以下・・・・・×
密着性:碁盤目試験法(JIS K5400)にて評価した。
・100マスすべて密着していた・・・・・・・・○
・少なくとも1マス以上にて剥がれが生じた・・・△
・100マスすべて剥がれが生じた・・・・・・・×
【0051】
以上の評価結果は、表1、表2及び表3に示した。実施例1〜10の光カチオン硬化性インクは、添加剤を含まない比較例1〜4及び9と比べて、硬度を落とすことなく密着性が向上した。また、比較例5〜8は、実施例と同条件では硬化しなかった。
【0052】
また、比較例10,11は、添加剤を含まない比較例9と比較して、密着性の向上は見られたが硬度が落ちた。
【0053】
更に、実施例1〜10と比較して、インク中の2,2,6,6−テトラメチルピペリジン1−オキシルフリーラジカル構造の濃度が低い比較例12は、インク塗膜の密着性の評価が劣っており、インク中の2,2,6,6−テトラメチルピペリジン1−オキシルフリーラジカル構造の濃度が高い比較例13は、インク塗膜の硬度の評価が劣っていた。
【0054】
実施例1〜10と比較例1〜4及び9の評価結果の比較から、2,2,6,6−テトラメチルピペリジン1−オキシルフリーラジカルまたは、2,2,6,6−テトラメチルピペリジン1−オキシルフリーラジカル構造を含む化合物を光カチオン硬化型インクへ添加すると、添加しない場合と比較して、インク塗膜の硬度を低下させずに、印刷媒体への密着性が向上することが分かった。そして、この効果は、光重合開始剤の種類のよらないことが分かった。更に、実施例1〜10と比較例12及び13の評価結果の比較から、インク中の2,2,6,6−テトラメチルピペリジン1−オキシルフリーラジカル構造の濃度は、19.6mM〜39.2mMが好ましいことが分かった。
【0055】
実施例1〜10と比較例5〜8、10及び11の比較から、本発明のインク塗膜の硬度を低下させずに、印刷媒体への密着性を向上させる効果は、ヒンダードアミン一般的な特性ではなく、2,2,6,6−テトラメチルピペリジン1−オキシルフリーラジカル及び、2,2,6,6−テトラメチルピペリジン1−オキシルフリーラジカル構造を含む化合物に特有の効果であることが分かった。また、化学構造中のフリーラジカルが、インク塗膜の硬度を落とすことなく密着性を向上させる効果に寄与することが明らかになった。
【0056】
以上、本発明を実施例により具体的に説明してきたが、本発明はそれらに限定されるものではない。上記実施例では着色剤として顔料を用いたが、それに代えて染料を用いることもできる。あるいは顔料と染料を同時に用いてもよい。また、インクジェット記録方式、インクジェットヘッド及びインクジェット記録装置については、上記実施例で記載した以外のものを使用することができる。例えば、米国特許6866376号に記載されたようなインクジェット記録装置や記録方法を採用してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】印刷媒体に本発明の光カチオン硬化型インクを塗布するインクジェット記録装置の模式図である
【図2】印刷媒体上に塗布された本発明の光カチオン硬化型インクを硬化させる紫外線照射装置の模式図である
【符号の説明】
【0058】
1 インクジェット記録装置
2 印刷媒体
12 インクジェットヘッド
31 光カチオン硬化型インクの塗布された範囲
41 紫外線ランプ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
活性エネルギー線により硬化する光カチオン硬化型インクであって、
光カチオン硬化型樹脂と、
光重合開始剤と、
2,2,6,6−テトラメチルピペリジン1−オキシルフリーラジカルを含み、
インク中の前記2,2,6,6−テトラメチルピペリジン1−オキシルフリーラジカルのモル濃度が19.6mM〜39.2mMである光カチオン硬化型インク。
【請求項2】
前記2,2,6,6−テトラメチルピペリジン1−オキシルフリーラジカルが、前記光カチオン硬化型インクの印刷媒体への密着性を向上させる添加剤である請求項1に記載の光カチオン硬化型インク。
【請求項3】
着色剤として、染料又は顔料を含有する請求項1に記載の光カチオン硬化型インク。
【請求項4】
前記光カチオン硬化型樹脂が、多官能脂環式エポキシ化合物、単官能脂環式エポキシ化合物及びオキセタン化合物を含む請求項1に記載の光カチオン硬化型インク。
【請求項5】
請求項1に記載の光カチオン硬化型インクを印刷媒体に向けて吐出することと、
前記吐出した光カチオン硬化型インクに活性エネルギー線を照射することにより前記光カチオン硬化型インクを硬化させることを含むインクジェット記録方法。
【請求項6】
インクジェットヘッドを用いて光カチオン硬化型インクを印刷媒体に向けて吐出する請求項5に記載のインクジェット記録方法。
【請求項7】
活性エネルギー線により硬化する光カチオン硬化型インクであって、
光カチオン硬化型樹脂と、
光重合開始剤と、
2,2,6,6−テトラメチルピペリジン1−オキシルフリーラジカル構造を含み、
インク中の前記2,2,6,6−テトラメチルピペリジン1−オキシルフリーラジカル構造のモル濃度が、19.6mM〜39.2mMである光カチオン硬化型インク。
【請求項8】
前記化合物が、前記光カチオン硬化型インクの印刷媒体への密着性を向上させる添加剤である請求項7に記載の光カチオン硬化型インク。
【請求項9】
着色剤として、染料又は顔料を含有する請求項7に記載の光カチオン硬化型インク。
【請求項10】
前記光カチオン硬化型樹脂が、多官能脂環式エポキシ化合物、単官能脂環式エポキシ化合物及びオキセタン化合物を含む請求項7に記載の光カチオン硬化型インク。
【請求項11】
請求項7に記載の光カチオン硬化型インクを印刷媒体に向けて吐出することと、
前記吐出した光カチオン硬化型インクに活性エネルギー線を照射することにより前記光カチオン硬化型インクを硬化させることを含むインクジェット記録方法。
【請求項12】
インクジェットヘッドを用いて光カチオン硬化型インクを印刷媒体に向けて吐出する請求項11に記載のインクジェット記録方法。


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2010−155984(P2010−155984A)
【公開日】平成22年7月15日(2010.7.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−276151(P2009−276151)
【出願日】平成21年12月4日(2009.12.4)
【出願人】(000005267)ブラザー工業株式会社 (13,856)
【Fターム(参考)】