説明

光カチオン重合性組成物

【課題】実質的に酸素不存在下で、高圧水銀ランプを用いた光カチオン重合において、光カチオン重合開始剤として保存安定性に優れた芳香族スルホニウム塩に対し、十分な重合速度を得ることのできる光カチオン重合増感剤を提供すること
【解決手段】光カチオン重合増感剤が、下記一般式(1)に示すナフタレンエーテル化合物である光カチオン重合性組成物。




(一般式(1)において、nは2または3の整数を表し、Rは酸素原子が置換していてもよい炭素数1以上10未満の炭素数を有するアルキル基を表し、X及びYは同一であっても異なっていてもよく、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、アラルキル基、アルコキシ基、アリールオキシ基を表す。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光カチオン重合性組成物及びその重合方法並びにその重合物に関する。更に詳しくは、カチオン重合性化合物と、光カチオン重合開始剤として芳香族スルホニウム塩を含有し、更に光カチオン重合増感剤として特定構造を有するナフタレンエーテル化合物を含有した光カチオン重合性組成物及びその重合方法並びにその重合物に関する。
【背景技術】
【0002】
紫外線等の光線により重合する重合性組成物が広くさまざまな用途で使用されている。この光重合性組成物としては、ラジカル重合型とカチオン重合型とがある。ラジカル重合型としては、(メタ)アクリルロイル基を有する化合物、不飽和ポリエステル系化合物等の不飽和二重結合を有する化合物が知られており、カチオン重合型としては、エポキシ基を有する化合物、ビニルエーテル基を有する化合物等が知られている。そして、これらの化合物は、適当な光重合開始剤及びしばしば光重合増感剤と共に使用される。ラジカル重合型は、重合速度が速く、生成する塗膜硬度が高いという特徴を持つが、基材との密着性が弱いという欠点がある。また、酸素の影響を受けやすく、特に薄膜の生成においては光重合開始剤を多量に添加したり、また窒素封入などの設備が必要となる。一方、カチオン重合型は、重合速度は遅いが基材との密着性が高く、かつ酸素による影響を受けにくいという特徴を有する。そのため、カチオン重合型の光カチオン重合性組成物を用いた飲料缶用の下地塗料やインクジェット用インキが市場に出るようになってきている。
【0003】
また、近年液晶テレビなどにおいて、100インチを超えるサイズの液晶パネルが登場するなど、パネルの大型化の開発競争が激化してきているが、当該パネルの両面接着に使用される光硬化型接着剤が求められている。大型化したパネルに使用される光硬化型接着剤には光重合後の反りの防止や密着性等の寸法安定性が要求されるため、一般的に光ラジカル重合よりも寸法安定性が良好な光カチオン重合を用いた光硬化型接着剤が求められている。しかしながら、光カチオン重合の重合速度は遅く、光カチオン重合速度を向上させるため、高活性な光カチオン重合開始剤及び光カチオン重合増感剤が強く求められている。
【0004】
一方、このような大型化したパネル等を接着させるための光重合設備は大型になるため、光源としてLEDランプは多数の素子を集積して組み立てるなど、使用が難しく、またコスト面から、現在汎用されている高圧水銀ランプを用いることが有用である。よってこれらの用途に対して、高圧水銀ランプで活性な光カチオン重合性組成物が求められている。
【0005】
この光カチオン重合性組成物には、通常カチオン重合性化合物の重合を開始させるための光カチオン重合開始剤が含有されている。当該光カチオン重合開始剤としてはオニウム塩が知られており、特に芳香族ヨードニウム塩や芳香族スルホニウム塩が用いられている。しかし、芳香族ヨードニウム塩は活性が高いが、保存安定性が低く着色しやすいため使用が限られている。したがって、保存安定性が求められる恒久的フィルムなどには芳香族スルホニウム塩が使われることが多い。
【0006】
また、光カチオン重合に用いられる光源の照射光と光カチオン重合開始剤の吸収波長がうまくマッチングしない場合は、光カチオン重合増感剤が更に用いられている。例えば、酸化チタンを含有する下地塗料等の顔料系では、顔料が、光カチオン重合開始剤が働くために必要な波長の照射光を吸収してしまうため、十分な重合速度を得られないという問題がある。そのため、酸化チタンで吸収されない長波長域の光を吸収し、そのエネルギーを光カチオン重合開始剤に伝達する光カチオン重合増感剤が用いられている。このような顔料系では、例えば、光カチオン重合開始剤として芳香族スルホニウム塩を用いた場合、、チオキサントン化合物やジアルコキシアントラセン化合物等が増感剤として用いられている。
【0007】
しかし、工業的に広く使用される高圧水銀ランプを光源とした光カチオン重合反応において、保存安定性の優れた光カチオン重合開始剤である芳香族スルホニウム塩を用いた時は、これらのチオキサントン化合物やジアルコキシアントラセン化合物等は光カチオン重合増感剤として作用せず、逆に光重合の抑制剤として働くため増感効果が十分に発揮できないことが知られている(非特許文献1)。そのため、光カチオン重合開始剤として芳香族スルホニウム塩を用いるときは、メトキシフェノール等のフェノール系化合物を光カチオン重合増感剤として使用するという報告がある(特許文献1)。
【0008】
しかしながら、このフェノール系光カチオン重合増感剤であるメトキシフェノールは空気雰囲気下での光カチオン重合では効果があったものの、本発明者らが実質的に酸素の存在しない条件で光カチオン重合試験を行なったところ、当該メトキシフェノールには芳香族スルホニウム塩に対する増感効果が弱く、十分な硬化速度が得られないことが分かった。光カチオン重合は、すでに述べたように酸素阻害を受けにくいと考えられていたため(非特許文献1)、これまで光カチオン重合増感剤の増感効果に及ぼす酸素の影響については特に検討されてこなかったが、今回高圧水銀ランプと芳香族スルホニウム塩の組み合わせにおける、酸素の影響を検討したところ、光カチオン重合増感剤を用いない場合は、驚くべきことに、空気雰囲気下の方が酸素不存在下におけるよりも重合速度が幾分速くなることが判明した。そして更に、従来のメトキシフェノール等のフェノール系光カチオン重合増感剤は、空気雰囲気下でこそある程度の増感作用を示すものの、酸素不存在下ではその効果がほとんど無いことが分かった。このことは、パネルの接着など酸素透過性の悪いフィルムの接着などでは特に問題となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平5−230189号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】平野秀樹著、「光応用技術・材料事典」、光応用技術材料事典編集委員会、株式会社産業技術サービスセンター、2006年4月26日、p133−134
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
従って、実質的に酸素不存在下で、高圧水銀ランプを用いた光カチオン重合において、光カチオン重合開始剤として保存安定性に優れた芳香族スルホニウム塩に対し、十分な重合速度を得ることのできる光カチオン重合増感剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
発明者らは、光カチオン重合増感剤の構造と増感性能について鋭意検討したところ、光カチオン重合開始剤として芳香族スルホニウム塩を用い、実質的に酸素不存在下で高圧水銀ランプを使用した場合に、特定構造を有するナフタレンエーテル化合物を光カチオン重合増感剤として添加することにより、高い増感効果が得られることを見出し、本発明を完成した。
【0013】
すなわち、本発明は、以下を特徴とする要旨を有するものである。
第1の発明では、(a)光カチオン重合増感剤、(b)芳香族スルホニウム塩、及び(c)カチオン重合性化合物を含有してなる光カチオン重合性組成物であって、前記(a)光カチオン重合増感剤成分が、一般式(1)に示すナフタレンエーテル化合物であることを特徴とする光カチオン重合性組成物を提供する。
【0014】
【化1】

【0015】
(一般式(1)において、nは2または3の整数を表し、Rは酸素原子が置換していてもよい炭素数1以上10未満の炭素数を有するアルキル基を表し、X及びYは同一であっても異なっていてもよく、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、アラルキル基、アルコキシ基、アリールオキシ基を表す。)
【0016】
第2の発明では、前記(a)光カチオン重合増感剤成分が、一般式(2)に示すナフタレン−1,4−ジエーテル化合物であることを特徴とする第1の発明に記載の光カチオン重合性組成物を提供する。
【0017】
【化2】

【0018】
(一般式(2)において、R及びR2’は同一であっても異なっていてもよく、酸素原子が置換していてもよい炭素数1以上10未満の炭素数を有するアルキル基を表し、X及びYは同一であっても異なっていてもよく、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、アラルキル基、アルコキシ基、アリールオキシ基を表す。)
【0019】
第3の発明では、前記(a)光カチオン重合増感剤成分が、一般式(3)に示すナフタレン−2,6−ジエーテル化合物であることを特徴とする第1の発明に記載の光カチオン重合性組成物を提供する。
【0020】
【化3】

【0021】
(一般式(3)において、R及びR’は同一であっても異なっていてもよく、酸素原子が置換していてもよい炭素数1以上10未満の炭素数を有するアルキル基を表し、X及びYは同一であっても異なっていてもよく、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、アラルキル基、アルコキシ基、アリールオキシ基を表す。)
【0022】
第4の発明では、第1の発明乃至第3の発明のいずれかに記載の光カチオン重合性組成物を、酸素濃度が5000ppm以下の雰囲気で、波長が355〜375nm、308〜318nm、及び/または298〜308nmの紫外線を含むランプを光源として光照射し、光カチオン重合させて得られる光重合物を提供する。
【0023】
第5の発明では、第1の発明乃至第3の発明のいずれかに記載の光カチオン重合性組成物を、酸素濃度が5000ppm以下の雰囲気で、波長が355〜375nm、308〜318nm、及び/または298〜308nmの紫外線を含むランプを光源として光照射し、光カチオン重合させる光重合方法。
【発明の効果】
【0024】
本発明の(a)光カチオン重合増感剤、(b)芳香族スルホニウム塩、及び(c)カチオン重合性化合物を含有してなる光カチオン重合性組成物は、酸素濃度が5000ppm以下という実質的に酸素不存在下、高圧水銀ランプによって速やかに重合する工業的に有用な組成物を与える。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明の光重合組成物は、(a)光カチオン重合増感剤、(b)芳香族スルホニウム塩、及び(c)カチオン重合性化合物を含有してなる光カチオン重合性組成物であって、前記(a)光カチオン重合増感剤成分が、一般式(1)に示すナフタレン骨格を有するエーテル化合物であることを特徴とする光カチオン重合性組成物である。
【0026】
(光カチオン重合増感剤)
本発明における(a)光カチオン重合増感剤としては、一般式(1)に示すナフタレンエーテル化合物が用いられる。
【0027】
【化4】

【0028】
一般式(1)において、nは2または3の整数を表し、Rは酸素原子が置換していてもよい炭素数1以上10未満の炭素数を有するアルキル基を表し、X及びYは同一であっても異なっていてもよく、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、アラルキル基、アルコキシ基、アリールオキシ基を表す。
【0029】
特に、一般式(2)で示すナフタレン−1,4−ジエーテル化合物及び一般式(3)で示されるナフタレン−2,6−ジエーテル化合物は合成が容易であることから好適に用いられる。
【0030】
【化5】

【0031】
一般式(2)において、R及びR’は同一であっても異なっていてもよく、酸素原子が置換していてもよい炭素数1以上10未満の炭素数を有するアルキル基を表し、X及びYは同一であっても異なっていてもよく、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、アラルキル基、アルコキシ基、アリールオキシ基を表す。
【0032】
【化6】

【0033】
一般式(3)において、R及びR’は同一であっても異なっていてもよく、酸素原子が置換していてもよい炭素数1以上10未満の炭素数を有するアルキル基を表し、X及びYは同一であっても異なっていてもよく、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、アラルキル基、アルコキシ基、アリールオキシ基を表す。
【0034】
一般式(1)におけるR1、一般式(2)におけるR2、R2’、及び一般式(3)におけるR3、R3’におけるアルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、i−ブチル基、アミル基、2−エチルヘキシル基、2−メトキシエチル基、2−エトキシエチル基、2−メトキシエトキシエチル基、2−フェノキシエチル基等が挙げられる。
【0035】
一般式(1)におけるX1、Y1、一般式(2)におけるX2、Y2、及び一般式(3)におけるX3、Y3におけるハロゲン原子としてはフッ素原子、塩素原子,臭素原子、ヨウ素原子が挙げられ、アルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、i−ブチル基、アミル基、2−エチルヘキシル基、4−メチルペンチル、4−メチル−3−ペンテニル基等が挙げられ、アラルキル基としては、ベンジル基、フェニルエチル基、フェニルプロピル基、ナフチルメチル基、ナフチルエチル基等が挙げられ、アルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基,n−プロポキシ基,n−ブトキシ基、ヘキシルオキシ基等が挙げられ、アリールオキシ基としては、フェノキシ基、p−トリルオキシ基、o−トリルオキシ基、ナフチルオキシ等が挙げられる。
【0036】
一般式(2)で示されるナフタレン−1,4−ジエーテル化合物としては、例えば次の化合物が挙げられる。すなわち、1,4−ジメトキシナフタレン、1,4−ジエトキシナフタレン、1,4−ジプロポキシナフタレン、1,4−ジブトキシナフタレン、1,4−ジグリシジルオキシナフタレン、1,4−ビス(2−メトキシエトキシ)ナフタレン、1,4−ビス(2−フェノキシエトキシ)ナフタレン、1−メトキシ−4−エトキシナフタレン、1−メトキシ−4−ブトキシナフタレン、1−メトキシ−4−グリシジルオキシナフタレン、2−メチル−1,4−ジエトキシナフタレン、2−クロロ−1,4−ジエトキシナフタレン、2−メトキシ−1,4−ジエトキシナフタレン、 2−フェノキシ−1,4−ジエトキシナフタレン等である。
【0037】
一般式(3)で示されるナフタレン−2,6−ジエーテル化合物としては、例えば次の化合物が挙げられる。すなわち、2,6−ジメトキシナフタレン、2,6−ジエトキシナフタレン、2,6−ジプロポキシナフタレン、2,6−ジブトキシナフタレン、2,6−ジグリシジルオキシナフタレン、2−メトキシ−6−エトキシナフタレン、1−メチル−2,6−ジメトキシナフタレン,1−クロロ−2,6−ジメトキシナフタレン、1−メトキシ−2,6−ジメトキシナフタレン等である。
【0038】
上記ナフタレン化合部のうち特に好ましいものは、1,4−ジメトキシナフタレン、1,4−ジエトキシナフタレン、2,6−ジメトキシナフタレンまたは2,6−ジプロポキシナフタレンである。
【0039】
(芳香族スルホニウム塩)
光カチオン重合開始剤として使用する芳香族スルホニウム塩としては、例えば次の化合物が挙げられる。すなわちS,S,S’,S’−テトラフェニル−S,S’−(4、4’−チオジフェニル)ジスルホニウムビスヘキサフルオロフォスフェート(DOW社製UVI6992)、ジフェニル−4−フェニルチオフェニルスルホニウムヘキサフルオロフォスフェート、トリフェニルスルホニウムヘキサフルオロフォスフェート、トリ−p−トリルスルホニウムヘキサフルオロホスフェート、トリフェニルスルホニウムテトラフルオロボレート等が挙げられる。この中でも、特にS,S,S’,S’−テトラフェニル−S,S’−(4、4’−チオジフェニル)ジスルホニウムビスヘキサフルオロフォスフェートを用いることが好ましい。
【0040】
(カチオン重合性化合物)
本発明に使用することができるカチオン重合性化合物としてはエポキシ化合物、ビニルエーテル化合物が挙げられる。エポキシ化合物として一般的なものは脂環式エポキシ化合物、エポキシ変性シリコーン、芳香族グリシジル化合物である。脂環式エポキシ化合物としては3,4−エポキシシクロヘキシルメチル−3,4−エポキシシクロヘキサンカルボキシレート(DOW製UVR6105、UVR6110)、ビス(3,4−エポキシシクロヘキシル)アジペート等が挙げられ、この中でも、特に3,4−エポキシシクロヘキシルメチル−3,4−エポキシシクロヘキサンカルボキシレートを用いることが好ましい。芳香族グリシジル化合物としては2,2’−ビス(4−グリシジルオキシフェニル)プロパンが挙げられる。ビニルエーテル化合物としてはメチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、イソブチルビニルエーテル、2−エチルヘキシルビニルエーテル等が挙げられる。
【0041】
(光カチオン重合性組成物)
光カチオン重合性組成物の組成としては、カチオン重合性化合物の100重量部に対し、光カチオン重合開始剤である芳香族スルホニウム塩を0.1〜10重量部、好ましくは1〜5重量部の範囲で使用する。カチオン重合性化合物に対する芳香族スルホニウム塩の使用量が少なすぎると、光カチオン重合性組成物を光カチオン重合させたとき、重合速度が遅くなり、一方、芳香族スルホニウム塩の使用量が多すぎると光カチオン重合性組成物を光重合させたときに得られる光重合物の物性が低下するおそれがあるため好ましくない。
【0042】
光カチオン重合増感剤は、芳香族スルホニウム塩の1重量部に対し、0.2〜5重量部、好ましくは0.5〜1重量部の範囲で使用する。光カチオン重合増感剤が少なすぎると、増感効果が発現し難くなる場合があり、一方、多すぎると光カチオン重合性組成物を光カチオン重合させたとき、重合物の物性が低下するおそれがあるため好ましくない。
【0043】
本発明の光カチオン重合性組成物には、必要に応じてエポキシ系希釈剤、オキセタン系希釈剤、ビニルエーテル系希釈剤を含有しても良い。
【0044】
本発明で用いられるエポキシ系希釈剤の例としては、例えば、フェニルグリシジルエーテル、p−tert−ブチルフェニルグリシジルエーテル、ブチルグリシジルエーテル、2−エチルヘキシルグリシジルエーテル、アリルグリシジルエーテル、1,2−ブチレンオキサイド、1,3−ブタジエンモノオキサイド、1,2−エポキシドデカン、エピクロロヒドリン、1,2−エポキシデカン、スチレンオキサイド、シクロヘキセンオキサイド、3−メタクリロイルオキシメチルシクロヘキセンオキサイド、3−アクリロイルオキシメチルシクロヘキセンオキサイド、3−ビニルシクロヘキセンオキサイド等が挙げられる。オキセタン系希釈剤の例としては、例えば、3−エチル−3−ヒドロキシメチルオキセタン、3−(メタ)アリルオキシメチル−3−エチルオキセタン、(3−エチル−3−オキセタニルメトキシ)メチルベンゼン等が挙げられる。ビニルエーテル系希釈剤の例としては、例えば、メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、プロピルビニルエーテル、n−ブチルビニルエーテル、t−ブチルビニルエーテル、2−エチルヘキシルビニルエーテル等が挙げられる。
【0045】
(重合方法)
当該光カチオン重合性組成物の重合はフィルム状で行うことも出来るし、塊状に硬化させることも可能である。フィルム状に重合させる場合は、当該光カチオン重合性組成物を液状にし、たとえばポリエステルフィルムなどの基材上に、たとえばバーコーターなどを用いて光カチオン重合性組成物を塗布したのちに、紫外線などの光線を照射して重合させる。
【0046】
(基材)
フィルム状に重合させる場合に用いられる基材としてはフィルム、紙、アルミ箔、金属等が主に用いられるが特に限定されない。基材としてのフィルムに用いられる素材としてはポリエステル、トリアセチルセルロース(TAC)、ポリビニルアルコール(PVA)等が用いられる。具体的には例えばポリエステルフィルム(東レ株式会社製ルミラー、ルミラーは東レ株式会社の登録商標)を用いることが出来る。当該ポリエステルフィルムの膜厚は通常100μ未満の膜厚のものを使用する。ポリエステルフィルムの膜厚を調整するために使用するバーコーターは特に指定しないが、膜厚が1μ以上100μ未満に調整できるバーコーターを使用する。
【0047】
(光源)
このようにして調製した塗布膜に紫外線などの光線を照射することにより重合させることができる。用いられる光源としては、波長が355〜375nm、308〜318nm及び/または298〜308nmの紫外線を含む光源を使用することが好ましい。具体的には水銀ランプ、LED、マイクロ波励起方式UVランプ(例えばフュージョン株式会社製のHバルブ、Dバルブ、Vバルブ)、太陽光等が挙げられ、好適なランプとしては、点灯中の水銀蒸気圧が1kPa〜10000kPaの水銀ランプが挙げられ、より好ましくは点灯中の水銀蒸気圧が100kPa〜1000kPaの水銀ランプいわゆる高圧水銀ランプが挙げられる。水銀ランプにおいては水銀の他に金属ハライドのような他化合物を添加してもよい。金属ハライドを添加したいわゆるメタルハライドランプも好適に用いることができる。
【0048】
(雰囲気)
本発明の光カチオン重合性組成物は、当該光カチオン重合性組成物の表面を開放した系でも表面を空気と遮断した系でも重合させることができる。例えば、フィルム状で重合させるときに、本発明の光カチオン重合性組成物を基材に塗布し、塗布面を開放したまま、紫外線などの光線を照射して重合させることもできれば、本発明の光カチオン重合性組成物を酸素不透過性基材に塗布し、その表面に酸素不透過性基材貼合した状態で紫外線などの光線を照射して重合させることもできる。
【0049】
一般的に、高圧水銀ランプを光源とした光カチオン重合で光カチオン重合開始剤として芳香族スルホニウム塩を用いた場合、窒素雰囲気下に比べ空気中の方が重合速度はすこし速くなる。そして、その系に従来のフェノール系光カチオン重合増感剤を入れると空気中では増感効果を示し更に重合速度が速くなるが、窒素雰囲気下、例えば酸素濃度が5000ppm(0.5体積%)というような条件下では増感効果を示さなくなることが分かった。本発明の光カチオン重合性組成物は、このような酸素濃度が5000ppm以下の条件下における重合反応においても空気中と同様に重合速度が速いのが特徴である。
【0050】
光カチオン重合性組成物表面開放系の例としては、塗膜として使用に供する用途すなわち塗料、コーティング、インキ等を挙げることができる。具体的には自動車用塗料、木工コーティング、PVC床コーティング、窯業壁コーティング、建材用コーティング、樹脂ハードコート、メタライズベースコート
、フィルムコーティング 、液晶ディスプレイ(LCD)用コーティング、プラズマディスプレイ(PDP)用コーティング、光ディスク用コーティング 、金属コーティング、光ファィバーコーティング、印刷インキ、平版インキ
、金属缶インキ 、スクリーン印刷インキ、インクジェットインキ、グラビアニス 等が挙げられる。また、レジスト、ディスプレイ、封止剤、歯科材料、光造型材料等の分野でもこのような使用態様が用いられる。
【0051】
光カチオン重合性組成物表面遮断系の例としては、接着剤、粘着剤、粘接着剤、シーリング剤等を挙げることができる。さらに、「電子部品用感光性材料の最新動向III−半導体・電子基板・ディスプレー分野の開発状況―」(住ベリサーチ社、2006年7月)、「UV・EB硬化技術の最新動向」(ラドテック研究所、2006年3月)、「光応用技術・材料事典」(山岡亜夫編、2006年4月)、「光硬化技術」(技術情報協会、2000年3月)、「光硬化性材料−製造技術と応用展開−」(東レリサーチセンター、2007年9月)等に例示されている用途に適宜用いることができる。
【0052】
以下に、本発明の実施例について説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。実施例中の「部」は全て重量部を示す。
【0053】
重合状態の判定は、タックフリーテスト(指触テスト)に基づいて行った。すなわち、光照射により重合するとフィルム表面のラジカル重合性組成物のタック(べたつき)が取れるので、フィルム表面を指で触り、タック(表面のべたつき)がなくなった時間を「タック・フリー・タイム」(硬化時間)とした。
【実施例】
【0054】
(実施例1)
カチオン重合性化合物として脂環式エポキシ化合物(DOW社製UVR6105)を100部、光カチオン重合開始剤として芳香族スルホニウム塩(DOW社製UVI6992)を3部、光カチオン重合増感剤として1,4−ジエトキシナフタレン0.8部を混合し、光カチオン重合性組成物を調製した。該組成物をポリエステルフィルム(東レ株式会社製ルミラー)の上にバーコーターを用いて膜厚が12μmになるように塗布した。ついで、窒素雰囲気下(酸素濃度は5000ppm:0.5体積%)、表面から高圧水銀ランプを用いて光照射した。照射光の波長365nmにおける照射強度は3mW/cmである。光照射開始からべたつき(タック)がなくなるまでの光照射時間「タック・フリー・タイム」は35秒であった。
【0055】
(実施例2)
光カチオン重合増感剤として、1,4−ジエトキシナフタレンに代えて1,4−ジメトキシナフタレンを用いた以外は実施施例1と同様にして試験した。光照射開始からべたつき(タック)がなくなるまでの光照射時間「タック・フリー・タイム」は40秒であった。
【0056】
(実施例3)
光カチオン重合増感剤として、1,4−ジエトキシナフタレンに代えて1,4−ジグリシジルオキシナフタレンを用いた以外は実施施例1と同様にして試験した。光照射開始からべたつき(タック)がなくなるまでの光照射時間「タック・フリー・タイム」は45秒であった。
【0057】
(実施例4)
光カチオン重合増感剤として、1,4−ジエトキシナフタレンに代えて2,6−ジメトキシナフタレンを用いた以外は実施施例1と同様にして試験した。光照射開始からべたつき(タック)がなくなるまでの光照射時間「タック・フリー・タイム」は40秒であった。
【0058】
(実施例5)
光カチオン重合増感剤として、1,4−ジエトキシナフタレンに代えて2,6−ジプロポキシナフタレンを用いた以外は実施施例1と同様にして試験した。光照射開始からべたつき(タック)がなくなるまでの光照射時間「タック・フリー・タイム」は45秒であった。
【0059】
(実施例6)
カチオン重合性化合物として脂環式エポキシ化合物(DOW社製UVR6105)を100部、光カチオン重合開始剤として芳香族スルホニウム塩(DOW社製UVI6992)を3部、光カチオン重合増感剤として1,4−ジエトキシナフタレン0.8部を混合し、光カチオン重合性組成物を調製した。該組成物をポリエステルフィルム(東レ株式会社製ルミラー)の上にバーコーターを用いて膜厚が12μmになるように塗布した。ついで、空気雰囲気下(酸素濃度21体積%)表面から高圧水銀ランプを用いて光照射した。照射光の波長365nmにおける照射強度は3mW/cmである。光照射開始からべたつき(タック)がなくなるまでの光照射時間「タック・フリー・タイム」は28秒であった。
【0060】
(比較例1)
光カチオン重合増感剤の1,4−ジエトキシナフタレンを使用しないこと以外は実施施例1と同様にして試験した。光照射開始からべたつき(タック)がなくなるまでの光照射時間「タック・フリー・タイム」は65秒であった。
【0061】
(比較例2)
光カチオン重合増感剤として1,4−ジエトキシナフタレンに代えて9,10−ジブトキシアントラセンを用いる以外は実施施例1と同様にして試験した。光照射開始からべたつき(タック)がなくなるまでの光照射時間「タック・フリー・タイム」は75秒であった。
【0062】
(比較例3)
光カチオン重合増感剤として1,4−ジエトキシナフタレンに代えて2,4−ジエチルチオキサントンを用いる以外は実施施例1と同様にして試験した。光照射開始からべたつき(タック)がなくなるまでの光照射時間「タック・フリー・タイム」は70秒であった。
【0063】
(比較例4)
光カチオン重合増感剤として1,4−ジエトキシナフタレンに代えて4−メトキシ−1−フェノールを用いる以外は実施施例1と同様にして試験した。光照射開始からべたつき(タック)がなくなるまでの光照射時間「タック・フリー・タイム」は65秒であった。
【0064】
(比較例5)
光カチオン重合増感剤として1,4−ジエトキシナフタレンに代えて1−エトキシナフタレンを用いる以外は実施施例1と同様にして試験した。光照射開始からべたつき(タック)がなくなるまでの光照射時間「タック・フリー・タイム」は80秒であった。
【0065】
(比較例6)
カチオン重合性化合物として脂環式エポキシ化合物(DOW社製UVR6105)を100部、光カチオン重合開始剤として芳香族スルホニウム塩(DOW社製UVI6992)を3部、光カチオン重合増感剤として4−メトキシ−1−フェノール0.8部を混合し、光カチオン重合性組成物を調製した。該組成物をポリエステルフィルム(東レ株式会社製ルミラー)の上にバーコーターを用いて膜厚が12μmになるように塗布した。ついで、空気雰囲気下、表面から高圧水銀ランプを用いて光照射した。照射光の波長365nmにおける照射強度は3mW/cmである。光照射開始からべたつき(タック)がなくなるまでの光照射時間「タック・フリー・タイム」は39秒であった。
【0066】
(比較例7)
光カチオン重合増感剤として4−メトキシ−1−フェノールに代えて1−エトキシナフタレンを用いる以外は比較例6と同様にして試験した。光照射開始からべたつき(タック)がなくなるまでの光照射時間「タック・フリー・タイム」は50秒であった。
【0067】
実施例1〜6及び比較例1〜7の結果をまとめた表は以下の通りである。
【0068】
【表1】



【0069】
表1に示す略称は以下の通りである。
脂環式エポキシ化合物:DOW社製UVR6105
芳香族スルホニウム塩:DOW社製UVI6992
14DEN:1,4−ジエトキシナフタレン
14DMN:1,4−ジメトキシナフタレン
14DGN:1,4−ジグリシジルオキシナフタレン
26DMN:2,6−ジメトキシナフタレン
26DPN:2,6−ジプロポキシナフタレン
DBA:9,10−ジブトキシアントラセン
24TXN:2,4−ジエチルチオキサントン
4MPH:4−メトキシ−1−フェノール
1EN:1−エトキシナフタレン
【0070】
表1より次のことが明らかである。すなわち、実施例1〜5の結果と比較例1及び比較例6、7との比較より、本発明の光カチオン重合性組成物は、高圧水銀ランプの照射で、実質的酸素不存在下(酸素濃度5000ppm)においても十分な速度で光カチオン重合が進行することが分かる。即ち、光カチオン重合開始剤である芳香族スルホニウム塩に対して本発明のナフタレンエーテル化合物が有効な光カチオン重合増感剤として働いていることが分かる。一方、比較例2,3と比較例1より芳香族ヨードニウム塩を光カチオン重合開始剤とした場合有効な光カチオン重合増感剤であるDBAや24TXNは、芳香族スルホニウム塩を光カチオン重合開始剤とした場合には、むしろ重合抑制剤として働くことが分かる。また、比較例4から7と比較例1より、芳香族スルホニウム塩を光カチオン重合開始剤とした場合に有効とされるフェノール系光カチオン重合増感剤である4MPHや1ENも、塗布膜表面を開放系にした条件では増感効果を示すが、実質的酸素不存在下では、全く増感効果を示さないことが分かる。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)光カチオン重合増感剤、(b)芳香族スルホニウム塩、及び(c)カチオン重合性化合物を含有してなる光カチオン重合性組成物であって、当該(a)光カチオン重合増感剤成分が、一般式(1)に示すナフタレン骨格を有するエーテル化合物であることを特徴とする光カチオン重合性組成物。
【化1】


(一般式(1)において、nは2または3の整数を表し、Rは酸素原子が置換していてもよい炭素数1以上10未満の炭素数を有するアルキル基を表し、X及びYは同一であっても異なっていてもよく、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、アラルキル基、アルコキシ基、アリールオキシ基を表す。)
【請求項2】
(a)光カチオン重合増感剤成分が、一般式(2)に示すナフタレン−1,4−ジエーテル化合物であることを特徴とする請求項1記載の光カチオン重合性組成物。
【化2】


(一般式(2)において、R及びR’は同一であっても異なっていてもよく、酸素原子が置換していてもよい炭素数1以上10未満の炭素数を有するアルキル基を表し、X及びYは同一であっても異なっていてもよく、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、アラルキル基、アルコキシ基、アリールオキシ基を表す。)
【請求項3】
(a)光カチオン重合増感剤成分が、一般式(3)に示すナフタレン−2,6−ジエーテル化合物であることを特徴とする請求項1記載の光カチオン重合性組成物。
【化3】


(一般式(3)において、R及びR’は同一であっても異なっていてもよく、酸素原子が置換していてもよい炭素数1以上10未満の炭素数を有するアルキル基を表し、X及びYは同一であっても異なっていてもよく、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、アラルキル基、アルコキシ基、アリールオキシ基を表す。)
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか一項に記載の光カチオン重合性組成物を、酸素濃度が5000ppm以下の雰囲気で、波長が355〜375nm、308〜318nm、及び/または298〜308nmの紫外線を含むランプを光源として光照射し、光カチオン重合させた重合物。
【請求項5】
請求項1乃至3のいずれか一項に記載の光カチオン重合性組成物を、酸素濃度が5000ppm以下の雰囲気で、波長が355〜375nm、308〜318nm、及び/または298〜308nmの紫外線を含むランプを光源として光照射し、光カチオン重合させる光重合方法。

【公開番号】特開2011−144277(P2011−144277A)
【公開日】平成23年7月28日(2011.7.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−6763(P2010−6763)
【出願日】平成22年1月15日(2010.1.15)
【出願人】(000199795)川崎化成工業株式会社 (133)
【Fターム(参考)】