説明

光ケーブル皮剥ぎ工具

【課題】 光ケーブルを容易にセットができ、光ケーブルの長手方向に直線に移動させるだけで、通信線を傷つけることなく被覆の一部を剥ぎ取って切裂紐を露呈させることのできる皮剥ぎ工具を低コストで提供する。
【解決手段】 通信線2の周囲の被覆3にテンションメンバー線4と切裂紐5が埋設された光ケーブル6の前記被覆3の一部を剥ぎ取って、前記切裂紐5を露呈させる光ケーブル皮剥ぎ工具1であって、光ケーブル6の被覆3を剥ぎ取るカンナ刃7と、光ケーブル6をカンナ刃7に向けて弾性的に押し当てるケーブル保持体8と、ケーブル保持体8をカンナ刃7に向けて弾性的に押し当てるための付勢手段9と、これらを備える横断面コ字状の工具本体10とから構成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、通信線の周囲の被覆にテンションメンバー線と切裂紐が埋設された光ケーブルの前記被覆の一部を剥ぎ取って、前記切裂紐を露呈させる光ケーブル皮剥ぎ工具に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、通信線をゴム等で被覆した光ケーブルは、その端末部分あるいは中間部分で相互接続するために被覆を剥ぎ取って通信線を露出させる作業が伴う。被覆を剥ぎ取る作業は光ケーブルの直径が大きくなるほど困難であり、通信線を傷つけることなく剥ぎ取る必要がある。光ケーブルの直径及び被覆の厚さ毎に専用の皮剥ぎ工具が用意されるのが一般的である。しかし、光ケーブルの種類ごとに1つの皮剥ぎ工具が必要となるため、複数種類の光ケーブルを皮剥ぎ作業を行うためにには、複数種類の皮剥ぎ工具が必要となり、光ケーブルの種類毎に皮剥ぎ工具を対応させる不都合があった。1つの皮剥ぎ工具で複数種類の光ケーブルに皮剥ぎ作業に対応できるものが望まれ、図8に示すような複数種類の光ケーブルに対応できる皮剥ぎ工具が開発されている。
【0003】
図8は、複数種類の光ケーブル41に対応する皮剥ぎ工具を示すもので、通信線を被覆した光ケーブル41のX軸方向直径の一方面に当接するX軸方向支持板30と、光ケーブル41のX方向と直交するY軸方向直径の一方面に弾性付勢された状態で当接するY軸方向弾性支持板31と、X軸方向に進退移動する進退軸32と、この進退軸32の進出移動により光ケーブル41のX軸方向直径の他方面に弾性付勢された状態で当接するX軸方向弾性支持板33と、光ケーブル41のY軸方向直径の他方面に当接するY軸方向支持板34と、進退軸32の進出移動により光ケーブル41のX軸方向から偏心させた方向で被覆の厚さ以下の位置に刃先を進出させるように構成された皮剥ぎ刃35を備えている。そして、この皮剥ぎ工具は、光ケーブル41を2方向から弾性挟持し、挟持時に皮剥ぎ刃35が被覆に接線方向から進入し、光ケーブル41の回りに回転させると、皮剥ぎ刃35の円弧状刃先により被覆が螺旋状に剥ぎ取られるため、光ケーブル41の通信線を傷つけることなく安定して被覆を剥ぎ取ることができるものである(特許文献1参照。)。
【特許文献1】特開2004−79429号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記従来技術に係る皮剥ぎ工具では、これを回転させつつ光ケーブルから被覆を剥ぎ取るものであるため、テンションメンバー線と切裂紐が被覆に埋設された光ケーブル用の皮剥ぎに適用できなかった。また、光ケーブルを皮剥ぎ工具にセットする際に、Y軸方向弾性支持板31を退避させる必要があり、その作業が煩雑であった。また、従来の皮剥ぎ工具は、構成が複雑で部品点数が多く、コスト高であった。
【0005】
本発明は、上記問題点に鑑み、テンションメンバー線と切裂紐が被覆に埋設された光ケーブルの皮剥ぎに適用できると共に各種径の光ケーブルを容易にセットができ、光ケーブルの長手方向に直線に移動させるだけ、通信線を傷つけることなく被覆の一部を剥ぎ取って、切裂紐を被覆させることのできる皮剥ぎ工具を低コストで提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は上記目的を達成するため、通信線の周囲の被覆にテンションメンバー線と切裂紐が埋設された光ケーブルの前記被覆の一部を剥ぎ取って、前記切裂紐を露呈させる光ケーブル皮剥ぎ工具において、頂壁、側壁、底壁を有する横断面コ字状の工具本体と、工具本体の頂壁に設けられ、光ケーブルの軸線方向に沿って工具本体を移動させることに伴って、被覆の一部を剥ぎ取り切裂紐を露呈させるカンナ刃と、光ケーブルの底部を支持する横断面略V字状の保持溝を有するケーブル保持体と、ケーブル保持体と工具本体の底壁との間に配され、ケーブル保持体を付勢して、光ケーブルを工具本体の頂壁およびカンナ刃に向けて弾性的に押し当てるための付勢手段とを有し、工具本体の側壁にケーブル保持体の光ケーブルの軸線方向の移動を拘束すると共にカンナ刃に向けての離接方向の移動を自在とするガイド部を設けたことを特徴とする。
【0007】
本発明によれば、光ケーブルを工具本体の頂壁とケーブル保持体との隙間から挿入し工具本体内にセットする。このとき光ケーブルは、付勢手段によりケーブル保持体を介してカンナ刃に押し当てられる。そして、工具本体を光ケーブルの軸心方向に直線に移動させると、カンナ刃により光ケーブルの被覆の一部を剥ぎ取って、光ケーブルの切裂紐を露呈させることができる。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、光ケーブルを容易にセットができ、光ケーブルの長手方向に直線に移動させるだけ、通信線を傷つけることなく被覆の一部を剥ぎ取り、切裂紐を露呈させることのできる皮剥ぎ工具を低コストで提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下に本発明の実施形態を図1〜図7に基づいて詳細に説明する。
【0010】
本実施形態の光ケーブル皮剥ぎ工具1は、図6に示すように、通信線2の周囲の被覆3にテンションメンバー線4と切裂紐5が埋設された光ケーブル6の前記被覆3の一部を剥ぎ取って、前記切裂紐5を露呈させるものであって、光ケーブル6の被覆3を剥ぎ取るカンナ刃7と、光ケーブル6をカンナ刃7に向けて弾性的に押し当てるケーブル保持体8と、ケーブル保持体8をカンナ刃7に向けて弾性的に押し当てるための付勢手段9と、これらを備える横断面コ字状の工具本体10とから構成されている。
【0011】
前記光ケーブル6は、図6に示すように、複数の通信ケーブル11を束ねた通信線2の周囲に保護用の被覆3を設け、さらにこの被覆3内に、光ケーブル6の張力や機械的強度を向上させるための一対のテンションメンバー線4と、被覆3を切裂くための一対の切裂紐5を埋設している。これらテンションメンバー線4と切裂紐5とは、円周方向に90°の間隔をおいて交互に配されている。なお、光ケーブル6の断面形状は略円形に形成されており、テンションメンバー線4が埋設された部位において若干厚く被覆3されている。これにより光ケーブル6の外観から厚肉部12にはテンションメンバー線4の埋設位置と容易に確認することができ、また薄肉部13には切裂紐5の埋設位置と確認することができる。
【0012】
前記カンナ刃7は、金属製の平板刃であって、図7に示すように、光ケーブル皮剥ぎ工具1を光ケーブル6の軸線方向に沿って移動することにより前記被覆3の一部を剥ぎ取ることができる。なおカンナ刃7には、刃の進出位置を調整するための長孔14(図3参照。)が設けられている。
【0013】
前記ケーブル保持体8は、図6に示すように、光ケーブル6をカンナ刃7に向け弾性的に押し当てて、光ケーブル6を所定位置に保持するものである。ケーブル保持体8には、光ケーブル6を確実に保持するために、その軸線方向に延びる横断面略V字状の保持溝15が形成されている。また側部には、光ケーブル挿脱用の張出片16と、ガイド凸部17とが側方に突出するように形成されており、底部には付勢手段9の上部を保持するための係合突部18が形成されている。
【0014】
前記付勢手段9は、前記ケーブル保持体8をカンナ刃7に向けて弾性的に押し当てるために、光ケーブル6の軸線方向に沿って配されたコイルバネであり、光ケーブル6の軸線方向に沿って工具本体10に複数本(図示例では3本)配されている。
【0015】
前記工具本体10は頂壁51、側壁52、底壁53を有する横断面コ字状に形成され、頂壁51にはカンナ刃7を取り付けるためのカンナ刃取付部19が設けられている。前記側壁52には光ケーブル6の軸線方向におけるケーブル保持体8の移動を拘束すると共に、ケーブル保持体8のカンナ刃7に向けての離接方向の移動を自在にしてケーブル保持体8を案内支持するガイド部20が設けられている。また前記底壁53は付勢手段9のケーブル保持体8に当接する側とは反対の側においてこれらを支持する付勢手段支持部22を備えている。
【0016】
カンナ刃取付部19は、図3に示すように、カンナ刃7を所定の傾斜角度に固定させるための傾斜部23と、取付ネジ24と、傾斜部23に形成された取付ネジ孔25と、被覆排出孔26から構成されている。カンナ刃7を傾斜部23に配し、カンナ刃7を工具本体10内に所定長さ出した状態で、取付ネジ24をカンナ刃7の長孔14を介して取付ネジ孔25に螺合することにより固定する。この取付ネジ24とカンナ刃7に形成された長孔14により、位置調整が可能となり、被覆3を剥ぎ取る量を調整することができる。
【0017】
ガイド部20は、図2、図5に示すように、ケーブル保持体8のガイド凸部17と、これを挿入するために工具本体10の側壁52に形成されたガイド孔部27とから構成されている。これにより光ケーブル6の軸線方向におけるケーブル保持体8の移動を拘束すると共に、ケーブル保持体8のカンナ刃7に向けての離接方向の移動を自在にしてケーブル保持体8を案内支持することができる。
【0018】
前記側壁52の内側面21は、皮剥ぎ作業時に図6に示すように、光ケーブル6に接することにより、前記保持溝15と共働して光ケーブル6の左右方向の位置を規制することができる。
【0019】
付勢手段支持部22は、付勢手段9を保持するためのものであって、工具本体10に3箇所有している。
【0020】
そして、工具本体10の頂壁51と、前記ケーブル保持体8との間に形成される隙間A(図5参照。)を前記張出片16を押し下げて拡大することにより光ケーブル6を工具本体10内に対し挿脱しうるように構成されている。また工具本体10の頂壁51および底壁53には、図1、図4に示すように、光ケーブル6の軸線方向に波形状の把持部28が形成されているため、光ケーブル6に対して工具本体10を移動させることが容易となり、皮剥ぎ作業を容易に行うことができる。
【0021】
次に、本実施形態の光ケーブル皮剥ぎ工具1の動作について説明する。
【0022】
まず、ケーブル保持体8に形成された張出片16を付勢手段9に抗して押し下げる。そして工具本体10の頂壁51と前記ケーブル保持体8との間に形成される隙間Aが押し広げられた状態で、光ケーブル6の薄肉部13(切裂紐5埋設位置)がカンナ刃7に向くようにして、これをケーブル保持体8に形成された保持溝15にセットする(図6参照)。すると付勢手段9によりケーブル保持体8が前記光ケーブル6をカンナ刃7に向け弾性的に押し当てるようにして保持する。この状態で、図7に示すように、光ケーブル皮剥ぎ工具1の把持部28を握りながら、これを光ケーブル6の軸心方向に直線に移動させると、カンナ刃7により光ケーブル6の被覆3を剥ぎ取ってカンナ刃取付部19に形成された被覆排出孔26から帯状の被覆3を排出させながら、光ケーブル6の切裂紐5を露呈させる。なおこのとき、光ケーブル6は、前記保持溝15と頂壁51とによって左右方向の動きを拘束されているが、これに加え光ケーブル6を前記側壁52の内側面21に接するように作業すると、光ケーブル6が左右方向のずれをより一層拘束できる。また、ケーブル保持体8は、ガイド部(ケーブル保持体8のガイド凸部17と工具本体10のガイド孔部27)20により案内支持されるため、より確実安定に皮剥ぎ作業を行うことができる。
【0023】
そして、皮剥ぎが済むと、ケーブル保持体8の挿脱片16を押し下げ、拡大された前記隙間Aより光ケーブル6が取り出されるようにすることにより作業を終える。
【産業上の利用可能性】
【0024】
本発明は、通信線の周囲の被覆にテンションメンバー線と切裂紐が埋設された光ケーブルの前記被覆の一部を剥ぎ取って、前記切裂紐を露呈させる光ケーブル皮剥ぎ工具に適用できるもので、産業上の有用なものである。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の実施形態に係る光ケーブル皮剥ぎ工具を示す斜視図である。
【図2】本実施形態に係る光ケーブル皮剥ぎ工具を示す背面から見た斜視図である。
【図3】本実施形態に係る光ケーブル皮剥ぎ工具を示す正面図である。
【図4】本実施形態に係る光ケーブル皮剥ぎ工具を示す平面図である。
【図5】本実施形態に係る光ケーブル皮剥ぎ工具を示す側面図である。
【図6】本実施形態に係る光ケーブル皮剥ぎ工具を示し、光ケーブルを挿入した状態の側面図である。
【図7】本実施形態に係る光ケーブル皮剥ぎ工具を示し、皮剥ぎ作業の説明図である。
【図8】従来例を示す作用説明図である。
【符号の説明】
【0026】
1 光ケーブル皮剥ぎ工具
2 通信線
3 被覆
4 テンションメンバー線
5 切裂紐
6 光ケーブル
7 カンナ刃
8 ケーブル保持体
9 付勢手段
10 工具本体
15 保持溝
19 カンナ刃取付部
20 ガイド部
21 側壁の内側面
51 頂壁
52 側壁
53 底壁
A 隙間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
通信線の周囲の被覆にテンションメンバー線と切裂紐が埋設された光ケーブルの前記被覆の一部を剥ぎ取って、前記切裂紐を露呈させる光ケーブル皮剥ぎ工具において、
頂壁、側壁、底壁を有する横断面コ字状の工具本体と、
工具本体の頂壁に設けられ、光ケーブルの軸線方向に沿って工具本体を移動させることに伴って、被覆の一部を剥ぎ取り切裂紐を露呈させるカンナ刃と、
光ケーブルの底部を支持する横断面略V字状の保持溝を有するケーブル保持体と、
ケーブル保持体と工具本体の底壁との間に配され、ケーブル保持体を付勢して、光ケーブルを工具本体の頂壁およびカンナ刃に向けて弾性的に押し当てるための付勢手段とを有し、
工具本体の側壁にケーブル保持体の光ケーブルの軸線方向の移動を拘束すると共にカンナ刃に向けての離接方向の移動を自在とするガイド部を設けたことを特徴とする光ケーブル皮剥ぎ工具。
【請求項2】
ケーブル保持体に工具本体の側壁とは反対側の側方に張り出す張出部を設け、この張出部を押し下げ工具本体の頂壁とケーブル保持体との間に形成される隙間を拡大することによって、拡大された隙間から光ケーブルを工具本体に対し挿脱しうるように構成した請求項1記載の光ケーブル皮剥ぎ工具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2007−256478(P2007−256478A)
【公開日】平成19年10月4日(2007.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−78992(P2006−78992)
【出願日】平成18年3月22日(2006.3.22)
【出願人】(000213286)シーキューブ株式会社 (13)
【出願人】(591083772)株式会社永木精機 (65)
【Fターム(参考)】