説明

光ジャイロ

【課題】結合損失の発生を防止し、実装技術や歩留りの問題を解消した光ジャイロを提供する。
【解決手段】基板1とバッファ層10上に形成された光導波路3、直線状の光導波路7、基板1上に配置された励起光源6、検出器8等を備えている。光導波路3は、閉じた形状を有している。光導波路3の一部には、光増幅材料が添加された発光領域が形成されている。励起光源6からの励起光が発光領域に照射されることにより、発光領域は導波路3内に周回光を発生させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光ジャイロに関する。
【背景技術】
【0002】
回転する物体の角速度を検出するためにジャイロが用いられているが、特に光ジャイロは精度が高い。光ジャイロには、半導体レーザジャイロ、光ファイバージャイロ等がある。半導体レーザジャイロは、製造工程が複雑である。そこで、製造工程を簡単にし、また消費電力を小さくするために、ハイブリッド型光ジャイロが提案されており、新しい光ジャイロとして期待されている。このハイブリッド型光ジャイロの基本構成は、例えば特許文献1に示されるように、半導体光源と光導波路を周回上に配置し、光を取り出すための光結合器、半導体光検出器等を備えた構成になっている。
【特許文献1】特開平2008−2954号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上記従来の構成では、半導体光源と光導波路の配置は、光導波路のコア中心と半導体光源のモードフィールドの中心とがほぼ一致するように結合しなければならない。また、半導体光源と光導波路との間にできる隙間による結合効率の低下を防ぐために、隙間を極力小さくしたり、特別な工夫を行うことが必要である。このように、製造上のアライメントが難しく、結合損失が大きいという問題があった。
【0004】
また、仮に隙間をなくして、半導体光源と光導波路を接合できたとしても、半導体光源と光導波路とでは屈折率が異なるので、半導体光源と光導波路の境界では、光が反射する。この光の反射によって、結合損失が大きくなり、光の増幅度が弱くなる。さらに、実装する際には、半導体光源を光導波路にアライメントしつつ、半田による固定を行わなければならず、高度な実装技術が要求される。このため、歩留りの問題が発生し、生産性にも問題があった。
【0005】
本発明は、上述した課題を解決するために創案されたものであり、結合損失の発生を防止し、実装技術や歩留りの問題を解消した光ジャイロを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、請求項1記載の発明は、励起光を発生するための励起光源と、光を周回させるための閉じた導波路とを備え、前記導波路の少なくとも一部には光増幅材料が添加された発光領域が形成され、前記励起光源からの励起光が該発光領域に照射されることにより、前記導波路内に周回光を発生させることを特徴とする光ジャイロである。
【0007】
また、請求項2記載の発明は、前記光増幅材料は、前記導波路の全領域に添加されていることを特徴とする請求項1に記載の光ジャイロである。
【0008】
また、請求項3記載の発明は、前記光増幅材料は、希土類金属であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の光ジャイロである。
【発明の効果】
【0009】
本発明の光ジャイロでは、光導波路内を周回させる光を発生させる発光領域を、光導波路の一部に光増幅材料が添加して形成しているので、従来のように半導体光源と光導波路との複雑なアライメントの必要がない。また、発光領域は、光導波路の一部に光増幅材料が添加して形成されているので、基本的には光導波路と発光領域とは同じ構成材料である。
【0010】
したがって、従来のように光導波路の端面での反射が、ほとんどない。したがって、発光領域(光源)と光導波路との結合損失は、ほとんど発生しない。また、製造工程中に複雑なアライメントを行う作業が発生しないので、歩留まりが解消され、生産効率を上げることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、図面を参照して本発明の一実施形態を説明する。本発明の光ジャイロの構成例を図1に示す。図1は、光ジャイロを上から見た平面図である。
【0012】
基板1上に形成された光導波路3、直線状の光導波路7、基板1上に配置された励起光源6、検出器8等を備えている。光導波路3は、閉じた形状を有しており、環状に形成されている。光導波路3について、より具体的には、図1のA−A断面に相当する図5(h)に示されるように、基板1上にバッファ層10を介して下部クラッド層2が形成され、その上に光導波路3が形成される。また、光導波路3上に上部クラッド層5が形成される。光導波路7についても同様で、基板1上にバッファ層10、下部クラッド層2、光導波路7、上部クラッド層5と積層された構造となっている。このように、光導波路3、7ともに、クラッド層により挟み込まれた構造となっている。
【0013】
一方、光導波路(パッシブ領域)3の少なくとも一部には、図1の斜線で示されるように、発光領域が形成されている。この発光領域(アクティブ領域)は、図5(h)に示されるように、光増幅材料添加層4として形成される。光増幅材料添加層4(発光領域)は、光導波路3を構成する材料に光増幅材料が添加(ドープ)された構成となっている。例えば、光増幅材料としては、日立化成工業の光増幅ポリイミド材料等が有効であると考えられる。この材料は、母材となるフッ素化ポリイミド材料にEr(エルビウム)錯体を添加したものである。
【0014】
そこで、光導波路3には、例えばフッ素化ポリイミド材料を用い、光増幅材料添加層4には、希土類金属ErをEr錯体にして、光導波路3のフッ素化ポリイミド材料に添加したものを用いることができる。このような材料構成により、短距離での光増幅が可能となる。発光領域に添加する希土類については、Erに限らず、ツリウム(Tm)、イッテルビウム(Yb)、プラセオジウム(Pr)等を用いることができる。その他にユーロピウム(Eu)等短波長で発光する添加材料がある。しかし、フッ素化ポリイミド材料による光導波路に限定した場合、導波路損失が低い長波長側が有利である。したがって、短波長で発光する添加材料を利用する場合は、アクリル、エポキシ系の光導波路材料が望ましい。また、光導波路7については、光導波路3と同様の材料で構成される。
【0015】
上記のように、発光領域自体を光導波路と基本的に同じ構成材料とすることで、屈折率差をなくし、発光領域(アクティブ領域)と光導波路(パッシブ領域)の境界面における反射を防止することができる。このように、屈折率の違いによって生じる結合損失を低減できるとともに、リング形状作製の際も通常のフォトリソグラフィー技術でアクティブ領域とパッシブ領域の結合が容易にでき、生産性が向上する。
【0016】
ここで、下部クラッド層2及び上部クラッド層5の屈折率N1と光導波路3の屈折率N2及び光導波路7の屈折率N3とは異なるように、かつN1よりもN2、N3の方が大きくなるように構成されている。すなわち、光路となる光導波路3、7を進む光が、光導波路とクラッド層の境界面で全反射を起こす。このようにして、光導波路を進行するレーザ光は、光導波路内に閉じ込められ、光はほぼロスなく進行する。
【0017】
励起光源6には、必要とする波長を持つ励起光が発生させられる光源で構成する。励起光源6については、小型化を考えるには、半導体光源が良く、ファブリペロー共振型LD等を用いる。他方、ライン状の光源を作製する場合は、VCSEL、RCLED、アレイ状フォトニック結晶LD等、半導体LDであることが望ましい。
【0018】
図1の構成の具体例を挙げると、光導波路3の全長が12cm程度、発光領域(光増幅材料添加層4)の長さを2〜8mm程度に形成することができる。閉じた光導波路3の形状は、環状、特に円環状(リング状)に形成することができるが、特に限定されるものではなく、発光領域での発光が周回できる構造になっていれば良い。また、クラッド層材料と光導波路材料との比屈折率差をつけることにより、リング部の最小曲げ半径を小さくできる。そこで、比屈折率差を大きくすることで、より小型の光ジャイロを作製することが可能である。比屈折率差は、0.4〜0.6程度とすることができる。このときのクラッド層材料には、フッ素化ポリイミド材料を用いることができる。
【0019】
光導波路3にポリイミド材料を、光増幅材料添加層4に添加する材料は、Er(エルビウム)を用いた。この場合、光導波路3がリング形状でレーザ発振する必要がある。したがって、Er量はリング形状トータルでの損失(伝播損失、吸収損失、方向性結合器による損失)よりも、光増幅材料添加層4のゲインが上回る程度になることが必要である。ポリイミド材料の光導波路の伝播損失が、良くても0.07dB/cmなので,0.07×12cm=0.84dB以上のゲインが光増幅材料添加層4で得られることが必要となる。
【0020】
しかし、接続損や方向性結合器での損失、発光領域自体の損失があるので実際には光増幅材料添加層4では、10dB以上のゲインがあることが望ましい。そこで、10dB以上のゲインが得られるようにEr量を調整する。環状の光導波路3を作製するための基板1としては、Si基板やポリイミド基板等を用いることができる。Si基板ならばその後の実装で自由度が高く、ポリイミド基板ならば導波路自体の伝播損失が低減できる可能性があるため、より高精度な光ジャイロを作製可能である。また、基板1上に積層されるバッファ層10には、SiO等を用いることができ、その膜厚は1μm程度に形成される。
【0021】
図2の光ジャイロは、図1とは少し異なる構成例を示す。図1と同じ符号は同じ構成を示す。図1と異なるのは、光導波路3と光結合する光導波路71が直線状ではなく、リング状に形成されていることである。このように、検出器8により光を検出するために用いられる光導波路については、特に形状が限定されるわけではないが、図1のように直線状の光導波路7とした方が光ジャイロを小型化できるので望ましい。
【0022】
また、図1では、光増幅材料添加層4を光導波路3の一部に形成して、発光領域としたが、光導波路3の全周に渡って光増幅材料添加層4とし、光導波路3の全ての領域を発光領域とするようにしても良い。この場合、後述する製造工程の図4(b)〜図4(d)及び図5(e)の工程を省略することができ、より生産性を向上させることができる。
【0023】
このように構成した光ジャイロの動作について説明する。まず、発光原理は、通信分野で既に使用されているEDFA(エルビウムドープファイバアンプリファイアー)と呼ばれる幹線系光信号増幅器で使用されているものと同じである。これは、図3に示されるように、Erを添加したエルビウムドープファイバに980nmの励起光を照射し、1.55μm帯に反転分布をファイバ中に形成させ、そこにファイバ中を伝搬し、弱ってきた信号光を増幅させるものである。
【0024】
このEDF部分を光導波路で作製したものがEDW(エルビウムドープドウェーブガイド)であり、本発明の光ジャイロの発光領域の一例に相当する。まず、励起光源6から放射された励起光(例えば980nm)が、光導波路3の発光領域に到達すると、光増幅材料添加層4の作用により、励起光と増幅材料に基づいてASE光(Amplified Spontaneous Emission 光:上記例では1.55μm)が発生し、導波路3内を周回して伝搬するとともに、光増幅材料添加層4により、レーザが発振する。
【0025】
発光領域からのレーザ光には、光導波路3内を時計回りに周回する第1のレーザ光と、導波路3内を反時計回りに周回する第2のレーザ光とが存在する。光導波路3は直線状の光導波路7とほぼ平行になっている領域において、光導波路7と結合し、この結合部で、光導波路7側に第1のレーザ光及び第2のレーザ光が取り出される。
【0026】
取り出されるレーザ光量は、結合部における光導波路3と光導波路7との間の距離等によって変化する。結合部で取り出された第1のレーザ光及び第2のレーザ光は、光導波路7の端面から出射され、検出器8で検知される。第1のレーザ光と第2のレーザ光の周波数が異なる場合には、検出器8でビート信号が検出される。
【0027】
図1、2の光ジャイロの発光領域を含んだ部分の製造方法を図4、5を用いて説明する。図4は前半の製造工程を、図5は後半の製造工程を示し、特に、図1のA−A断面の発光領域を含む一部を拡大して示したものである。
【0028】
まず、図4(a)に示すように、単結晶シリコンの基板1上に、図1の上部クラッド層4の領域に相当する四角形状に、バッファ層10、下部クラッド層2、光導波路層3Aを順に形成する。次にマスクパターン11を形成する。
【0029】
マスクパターン11は、一般的なフォトリソグラフィーで形成できる。マスクパターン11は、図4(b)のように、最終的に光増幅材料添加層4が光導波路3の一部を構成するように、光増幅材料添加層4が形成される部分を除いて全面に被覆される。マスクパターン11を形成した後、RIE等のドライエッチング、またはウエットエッチングによって、図4(c)のように光導波路3の一部を除去する。
【0030】
次に、図4(d)に示すように、マスクパターン11上から全面に光増幅材料添加材を塗布して焼成し、光増幅材料添加層4を形成する。次に、エッチバックにより、図5(e)のように、光導波路層3Aと同じ高さ部分までの光増幅材料添加層4を残し、他の領域を除去する。四角形状に形成されていたマスクパターン11を除去し、図5(f)に示すように、光導波路3の形状に沿ったマスクパターン12を形成する。CF又はO等によるポリマーエッチングにより、マスクパターン12で覆われている光導波路層3Aを残し、他の光導波路層を除去して、図5(g)のように環状の光導波路3を得る。
【0031】
次に、マスクパターン12を除去して、光導波路3の上部を覆い、下部クラッド層2の全面を覆うように上部クラッド層4を形成する。なお、下部クラッド層2、光導波路層3A、上部クラッド層4は、例えば、スピンコートと焼成により形成できる。
【0032】
次に、図1の平面図に示すように、フォトダイオード等から構成される検出器8、半導体発光素子等からなる励起光源6を配置する。検出器8は、その受光領域が光導波路7と光学的に結合するように取り付けられる。このようにして、図1に示す光ジャイロが完成する。
【0033】
なお、光導波路3の全周を光増幅材料添加層4(発光領域)にする場合、基板1、バッファ層10、下部クラッド層2、光導波路層3Aを積層した後に、すぐに光導波路3の形状の作製(図5(f))から始めれば良いので、製造工程の図4(b)〜図4(d)及び図5(e)の工程を省略することができる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明の光ジャイロの構成例を示す平面図である。
【図2】光ジャイロの他の構成例を示す平面図である。
【図3】エルビウム添加材料の発光原理を示す図である。
【図4】本発明の光ジャイロの前半の製造工程を示す図である。
【図5】本発明の光ジャイロの後半の製造工程を示す図である。
【符号の説明】
【0035】
1 基板
2 下部クラッド層
3 光導波路
4 光増幅材料添加層
5 上部クラッド層
6 励起光源
7 光導波路
8 検出器
10 バッファ層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
励起光を発生するための励起光源と、
光を周回させるための閉じた導波路とを備え、
前記導波路の少なくとも一部には光増幅材料が添加された発光領域が形成され、前記励起光源からの励起光が該発光領域に照射されることにより、前記導波路内に周回光を発生させることを特徴とする光ジャイロ。
【請求項2】
前記光増幅材料は、前記導波路の全領域に添加されていることを特徴とする請求項1に記載の光ジャイロ。
【請求項3】
前記光増幅材料は、希土類金属であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の光ジャイロ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−91388(P2010−91388A)
【公開日】平成22年4月22日(2010.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−261012(P2008−261012)
【出願日】平成20年10月7日(2008.10.7)
【出願人】(000116024)ローム株式会社 (3,539)
【Fターム(参考)】