説明

光ディスク基板

【課題】ステレオコンプレックスポリ乳酸の耐熱性を活かした光ディスク基板を提供する。
【解決手段】(A)示差走査熱量計(DSC)測定において、昇温過程における融解ピークのうち、195℃以上の融解ピークの割合が70%以上であるポリ乳酸(A成分)を、金型温度80〜130℃の範囲で射出成形して得られる光ディスク基板。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、射出成形性を改良したポリ乳酸樹脂組成物からなる光ディスク基板に関する。さらに詳しくは、特定のポリ乳酸を、特定の射出成形条件で成形することにより得られた、耐熱性、機械特性、耐加水分解性、表面精密転写性に優れた環境配慮型光ディスク基板、およびこの光ディスク基板を用いた光学情報記録媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、石油資源の枯渇の懸念や、地球温暖化を引き起こす空気中の二酸化炭素の増加の問題から、原料を石油に依存せず、また燃焼させても二酸化炭素を増加させないカーボンニュートラルが成り立つバイオマス資源が大きく注目を集めるようになり、ポリマーの分野においても、バイオマス資源から生産されるバイオマスプラスチックが盛んに開発されている。
【0003】
バイオマスプラスチックの代表例がポリ乳酸であり、バイオマスプラスチックの中でも比較的高い耐熱性、機械特性を有するため、食器、包装材料、雑貨などに用途展開が広がりつつあるが、さらに光ディスク基板としての可能性も検討されるようになってきた。
【0004】
例えば、光透過性を維持するために非晶状態のポリ乳酸を光ディスク基板に利用した技術としては、ポリ乳酸光ディスク基板表面温度を結晶化温度まで上昇させずに反射膜をスパッタ蒸着する技術(特許文献1参照)、低複屈折の非晶ポリ乳酸光ディスク基板の射出成形方法(特許文献2参照)などが開示されている。しかしながら、非晶状態のポリ乳酸は、その低いガラス転移温度のために実使用環境温度において基板が変形し、記録・再生が正常にできなくなるという問題がある。また非晶状態の低い耐熱性を逆に利用して、ポリ乳酸光ディスク基板上に形成されたピット形状を熱処理により消去することにより簡単に廃棄できる光ディスク基板も開示されている(特許文献3参照)。しかしながら、かかる耐熱性では実使用において基板変形を生じることは前述の通りである。
【0005】
一方、信号記録部に非晶状態のポリ乳酸を使用しながら同時に光ディスク基板の耐熱性を向上させる技術として、非晶ポリ乳酸基板の両側にUV硬化性樹脂層を設けた光ディスク基板(特許文献4参照)、非晶状態のポリ乳酸中に熱変形温度の高いポリカーボネートのごとき樹脂を、信号記録または再生用レーザー光波長よりも小さい粒径で分布させることにより、該レーザー光に対する透過性を確保しながら耐熱性を向上させた光ディスク基板(特許文献5参照)、金型温度を変えた二色成形によりディスク基板の一部を結晶化ポリ乳酸とすることにより強度補強された光ディスク基板(特許文献6参照)が開示されている。しかしながら、かかる技術においても耐熱性改良の効果は不十分なものであった。
【0006】
ポリ乳酸の耐熱性を向上させるためには、結晶化させることも有効であるが、生産性の高い射出成形によってこのような成形品を得ようとしても、結晶性ポリマーとしてはその結晶性が低いため成形性に劣るという問題がある。通常、ポリ乳酸を射出成形して結晶化した成形品を得るためには、概ね80〜130℃程度の金型温度で成形するのが生産上好ましいが、ポリ乳酸では結晶化速度が劣るため、結晶核剤を使用しても、この温度範囲では固化がほとんど進まない。そこで、金型温度を40℃以下と低くして非晶状態で成形品を作り、これを熱処理することにより結晶化させる方法もとれるが、工程が増えるため生産性は劣ってしまう。
【0007】
一方、ポリ乳酸には光学異性体が存在し、それぞれL−乳酸とD−乳酸の重合体であるポリL−乳酸とポリD−乳酸を混合すると、ステレオコンプレックス結晶を形成し、ポリL−乳酸あるいはポリD−乳酸単独の結晶より高い融点を示す材料となることが知られており(特許文献7、非特許文献1参照)、このステレオコンプレックスポリ乳酸を、その耐熱性を活かして自動車部品や家電部品などの工業用途に利用しようとする試みが行われている(特許文献8参照)。
【0008】
しかしながら、このステレオコンプレックスポリ乳酸を、工業的に有利な溶融押出プロセスにて作製しようとした場合、ステレオコンプレックス化を十分に進めるのが非常に困難であり、ステレオコンプレックス化が不十分であるとその特徴である良好な耐熱性が発揮されないことになる。
【0009】
また、ステレオコンプレックスポリ乳酸は、ポリL−乳酸あるいはポリD−乳酸よりも、結晶化速度が速い傾向があるものの、射出成形で効率よく生産するには未だ不十分である。結晶化速度を速めるため、ステレオコンプレックスポリ乳酸に特定の核剤を添加して、その成形性を向上させる方法の提案もなされているが(特許文献9参照)、その場合においても140℃以上という高い金型温度を要し、改良は十分とはいえないのが現状である。
【0010】
【特許文献1】特開2005−190602号公報
【特許文献2】特開2005−212376号公報
【特許文献3】特開2005−50499号公報
【特許文献4】特開2005−190603号公報
【特許文献5】特開2005−196821号公報
【特許文献6】特開2005−50489号公報
【特許文献7】特開昭63−241024号公報
【特許文献8】特許第3583097号公報
【特許文献9】特開2003−192884号公報
【非特許文献1】Macromolecules, 24, 5651(1991)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
したがって、本発明の主たる目的は、ステレオコンプレックスポリ乳酸の耐熱性を活かした光ディスク基板、およびかかる光ディスク基板を用いた光学情報記録媒体を提供することにある。
本発明者らはかかる目的を達成すべく鋭意研究の結果、特定のポリ乳酸を特定の方法で溶融混練することにより得られたポリ乳酸を、特定の射出成形方法で成形することにより、耐熱性、機械特性、耐加水分解性、表面精密転写性、に優れた光ディスク基板が得られることを見出し、本発明を完成した。
【課題を解決するための手段】
【0012】
すなわち、本発明は、示差走査熱量計(DSC)測定において、昇温過程における融解ピークのうち、195℃以上の融解ピークの割合が70%以上であるポリ乳酸を、金型温度80〜130℃の範囲で射出成形して得られる光ディスク基板である。
【発明の効果】
【0013】
本発明は、高い割合でステレオコンプレックスを形成しているポリ乳酸から得られる光ディスク基板であり、該光ディスク基板は良好な耐熱性、機械特性、耐加水分解性、および表面精密転写性を有するのに加えて、環境負荷の低減された樹脂組成物であることから、その奏する産業上の効果は格別である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の光ディスク基板を構成する樹脂組成物の各成分、それらの配合割合、調製方法等について、順次具体的に説明する。
【0015】
<A成分について>
本発明の光ディスク基板を構成する樹脂組成物におけるA成分のポリ乳酸は、示差走査熱量計(DSC)測定の昇温過程におけるポリ乳酸に由来する融解ピークにおいて、195℃以上の融解ピークの割合が70%以上、好ましくは80%以上、さらに好ましくは90%以上、特に好ましくは95%以上となるものである。195℃以上の融解ピークの割合が大きいほど、射出成形性が高くなる。
【0016】
ポリ乳酸(A成分)の重量平均分子量は、好ましくは8万〜50万である。より好ましくは10万〜30万、更に好ましくは10万〜15万であり、10万から13万が特に好ましい。重量平均分子量は溶離液にクロロホルムを用いたゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)測定による標準ポリスチレン換算の重量平均分子量値である。
【0017】
本発明の光ディスク基板を構成する樹脂組成物におけるポリ乳酸(A成分)は、下記式(i)に示す、L−乳酸単位、D−乳酸単位を基本成分とするポリ乳酸であり、
【化1】

主としてL−乳酸単位からなるポリ乳酸単位であるA−1成分、A−2成分、A−3成分、および主としてD−乳酸単位からなるポリ乳酸単位であるA−4成分、A−5成分、A−6成分であることが好ましい。
【0018】
A−1成分は、L−乳酸単位90〜100モル%と、D−乳酸単位および/または乳酸以外の共重合成分単位0〜10モル%とにより構成されるポリ乳酸単位である。
A−2成分は、L―乳酸単位90〜99モル%と、D−乳酸単位および/または乳酸以外の共重合成分単位1〜10モル%とにより構成されるポリ乳酸単位である。
A−3成分は、L−乳酸単位99モル%を超え100モル%以下と、D−乳酸単位および/または乳酸以外の共重合成分単位0モル%以上1モル%未満とにより構成されるポリ乳酸単位である。
従って、ポリ乳酸単位A−1成分には、ポリ乳酸単位A−2成分、およびポリ乳酸単位A−3成分が包含される。
【0019】
A−4成分は、D−乳酸単位90〜100モル%と、L−乳酸単位および/または乳酸以外の共重合成分単位0〜10モル%とにより構成されるポリ乳酸単位である。
A−5成分は、D―乳酸単位90〜99モル%と、L−乳酸単位および/または乳酸以外の共重合成分単位1〜10モル%とにより構成されるポリ乳酸単位である。
A−6成分は、D−乳酸単位99モル%を超え100モル%以下と、L−乳酸単位および/または乳酸以外の共重合成分単位0モル%以上1モル%未満とにより構成されるポリ乳酸単位である。
従って、ポリ乳酸単位A−4成分には、ポリ乳酸単位A−5成分、およびポリ乳酸単位A−6成分が包含される。
【0020】
本発明の光ディスク基板を構成する樹脂組成物におけるポリ乳酸(A成分)は、主としてL−乳酸単位からなるポリ乳酸単位であるA−1成分、A−2成分、A−3成分と、主としてD−乳酸単位からなるポリ乳酸単位であるA−4成分、A−5成分、A−6成分との特定の組合せからなる。
【0021】
即ち、ポリ乳酸(A成分)は、A−1成分、およびA−4成分からなり、A−1成分とA−4成分の重量比(A−1成分/A−4成分)が10/90〜90/10の範囲にあるポリ乳酸が好ましい。
【0022】
更に、ポリ乳酸(A成分)は、(1)A−1成分、およびA−5成分からなり、A−1成分とA−5成分の重量比(A−1成分/A−5成分)が10/90〜90/10の範囲にある、または(2)A−4成分、およびA−2成分からなり、A−4成分とA−2成分の重量比(A−4成分/A−2成分)が10/90〜90/10の範囲にあるポリ乳酸が好ましい。
【0023】
特に好ましいポリ乳酸(A成分)は、A−2成分および、A−5成分からなり、A−2成分とA−5成分の重量比(A−2成分/A−5成分)が10/90〜90/10の範囲にあるポリ乳酸(組合せ1)、A−3成分および、A−5成分からなり、A−3成分とA−5成分の重量比(A−3成分/A−5成分)が10/90〜90/10の範囲にあるポリ乳酸(組合せ2)、A−6成分および、A−2成分からなり、A−6成分とA−2成分の重量比(A−6成分/A−2成分)が10/90〜90/10の範囲にあるポリ乳酸(組合せ3)である。
【0024】
以上の、特に好ましい組合せをまとめると以下のようになる。
【表1】

【0025】
以上のようにポリ乳酸(A成分)の組合せにおいて、A−3成分とA−6成分との組合せは、特に好ましい範囲からは除外される。
【0026】
ポリ乳酸(A成分)中における、主としてL−乳酸単位からなるポリ乳酸単位(A−1〜A−3成分)と、主としてD−乳酸単位からなるポリ乳酸単位(B−4〜B−6成分)の重量比は、10/90〜90/10であるが、より多くのステレオコンプレックスを形成させるためには、25/75〜75/25であることが好ましく、さらに好ましくは40/60〜60/40である。一方のポリマーの重量比が10未満であるかまたは、90を超えると、ホモ結晶化が優先してしまい、ステレオコンプレックスを形成し難くなるので好ましくない。
【0027】
ポリ乳酸(A成分)中のポリ乳酸単位における乳酸以外の共重合成分単位としては、2個以上のエステル結合形成可能な官能基を持つジカルボン酸、多価アルコール、ヒドロキシカルボン酸、ラクトン等由来の単位およびこれら種々の構成成分からなる各種ポリエステル、各種ポリエーテル、各種ポリカーボネート等由来の単位を単独、もしくは混合して使用することができる。
【0028】
ジカルボン酸としては、コハク酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、テレフタル酸、イソフタル酸等が挙げられる。多価アルコールとしてはエチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、ペンタンジオール、ヘキサンジオール、オクタンジオール、グリセリン、ソルビタン、ネオペンチルグリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等の脂肪族多価アルコール等あるいはビスフェノールにエチレンオキシドが付加させたものなどの芳香族多価アルコール等が挙げられる。ヒドロキシカルボン酸として、グリコール酸、ヒドロキシブチルカルボン酸等が挙げられる。ラクトンとしては、グリコリド、ε−カプロラクトングリコリド、ε−カプロラクトン、β−プロピオラクトン、δ−ブチロラクトン、β−またはγ−ブチロラクトン、ピバロラクトン、δ−バレロラクトン等が挙げられる。
【0029】
<ポリ乳酸(A成分)の製造方法について>
本発明の光ディスク基板を構成する樹脂組成物におけるポリ乳酸(A成分)を構成する各ポリ乳酸単位(A−1〜A−6成分)は、既知の任意のポリ乳酸の重合方法により製造方法することができ、例えばラクチドの開環重合、乳酸の脱水縮合、およびこれらと固相重合を組み合わせた方法などにより製造することができる。
【0030】
各ポリ乳酸単位(A−1〜A−6成分)を既知の任意の重合方法により製造する場合、副生成物として乳酸の環状二量体であるラクチドが生成することがある。各ポリ乳酸単位は、樹脂の熱安定性を損ねない範囲であれば、かかるラクチドを含有していてもよい。
【0031】
かかる各ポリ乳酸単位に含まれるラクチドは、各ポリ乳酸単位の重合終了後、溶融減圧下で除去する方法、溶媒を用いて抽出除去する方法などにより、ポリ乳酸単位から除去することが、樹脂の熱安定性を向上させる上で好ましい。各ポリ乳酸単位に含まれるラクチドは、各ポリ乳酸単位に対して2%以下、好ましくは1%以下、より好ましくは0.5%以下である。
【0032】
ポリ乳酸(A成分)を構成する各ポリ乳酸単位(A−1〜A−6成分)に使用される乳酸以外の共重合成分単位は、2個以上のエステル結合形成可能な官能基を持つジカルボン酸、多価アルコール、ヒドロキシカルボン酸、ラクトン等およびこれら種々の構成成分からなる各種ポリエステル、各種ポリエーテル、各種ポリカーボネート等が挙げられる。
【0033】
ジカルボン酸としては、コハク酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、テレフタル酸、イソフタル酸等が挙げられる。多価アルコールとしてはエチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、ペンタンジオール、ヘキサンジオール、オクタンジオール、グリセリン、ソルビタン、ネオペンチルグリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等の脂肪族多価アルコール等あるいはビスフェノールにエチレンオキシドが付加させたものなどの芳香族多価アルコール等が挙げられる。ヒドロキシカルボン酸として、グリコール酸、ヒドロキシブチルカルボン酸等が挙げられる。ラクトンとしては、グリコリド、ε−カプロラクトングリコリド、ε−カプロラクトン、β−プロピオラクトン、δ−ブチロラクトン、β−またはγ−ブチロラクトン、ピバロラクトン、δ−バレロラクトン等が挙げられる。
【0034】
ポリ乳酸(A成分)を構成する各ポリ乳酸単位(A−1〜A−6成分)は、樹脂の熱安定性を損ねない範囲で重合に関わる触媒を含有していてもよい。このような触媒としては、各種のスズ化合物、アルミニウム化合物、チタン化合物、ジルコニウム化合物、カルシウム化合物、有機酸類、無機酸類などを挙げることができる。このような触媒としては、スズ、アルミニウム、ジルコニウムおよびチタンの脂肪酸塩、炭酸塩、硫酸塩、リン酸塩、酸化物、水酸化物、ハロゲン化物、アルコラート、あるいは、それら金属そのものが挙げられる。具体的には、オクチル酸スズ、アルミニウムアセチルアセトネート、アルミニウムアルコキシド、チタンアルコキシド、ジルコニウムアルコキシドが挙げられる。
【0035】
かかる各ポリ乳酸単位(A−1〜A−6成分)に含まれる重合に関わる触媒は、各ポリ乳酸単位の重合反応終了後に、溶媒を用いて抽出除去する方法、または該触媒を不活性化させる公知の安定剤を共存させる方法などにより、除去または失活させることが、樹脂の熱安定性を向上させる上で好ましい。
【0036】
ポリ乳酸(A成分)を構成する、主としてL−乳酸単位からなるポリ乳酸単位(A−1〜A−3成分)と、主としてD−乳酸単位からなるポリ乳酸単位(A−4〜A−6成分)は、必要により(B)〜(D)成分やその他の成分を配合してもよいが、それらの成分と共に混合する前に、予め両者を共存させて熱処理する方法をとることが、成形品中でステレオコンプレックスを効率的に生成させることが可能となるため好ましい。
【0037】
具体的には、主としてL−乳酸単位からなるポリ乳酸単位(A−1〜A−3成分)と、主としてD−乳酸単位からなるポリ乳酸単位(A−4〜A−6成分)とを共存させたものを、245〜300℃で熱処理する方法が、成形品中でステレオコンプレックスを効率よく生成させるために特に好ましい。
【0038】
また、該熱処理に際しては、主としてL−乳酸単位からなるポリ乳酸単位(A−1〜A−3成分)と、主としてD−乳酸単位からなるポリ乳酸単位(A−4〜A−6成分)とをできるだけ均一に混合することが好ましい。混合は、それらが熱処理したときに均一に混合される方法であればいかなる方法をとることも出来る。
【0039】
そのような混合方法として、主としてL−乳酸単位からなるポリ乳酸単位(A−1〜A−3成分)と、主としてD−乳酸単位からなるポリ乳酸単位(A−4〜A−6成分)とを、溶媒の存在下で混合した後、再沈殿して混合物を得る方法や、加熱により溶媒を除去して混合物を得る方法が例示できる。この場合には、A−1〜A−3成分、およびA−4〜A−6成分とを別々に溶媒に溶解した溶液を調製し両者を混合するか、または両者を一緒に溶媒に溶解させ混合することにより行うことが好ましい。
【0040】
溶媒は、ポリ乳酸単位(A−1〜A−6成分)が溶解するものであれば、特に限定されるものではないが、例えば、クロロホルム、塩化メチレン、ジクロロエタン、テトラクロロエタン、フェノール、テトラヒドロフラン、N−メチルピロリドン、N,N−ジメチルホルムアミド、ブチロラクトン、トリオキサン、ヘキサフルオロイソプロパノール等の単独あるいは2種以上混合したものが好ましい。
【0041】
溶媒が存在しても、加熱することにより溶媒が蒸発し、無溶媒の状態で熱処理することができる。溶媒の蒸発後(熱処理)の昇温速度は、長時間、熱処理をすると分解する可能性があるので短時間で行うのが好ましいが特に限定されるものではない。
【0042】
また、主としてL−乳酸単位からなるポリ乳酸単位(A−1〜A−3成分)と主としてD−乳酸単位からなるポリ乳酸単位(A−4〜A−6成分)の混合を、溶媒の非存在下で行うこともできる。即ち、A−1〜A−3成分、およびA−4〜A−6成分をあらかじめ粉体化あるいはチップ化したものを所定量混合した後に溶融し、あるいは溶融後、混練して混合する方法、または、A−1〜A−3成分、あるいはA−4〜A−6成分のいずれか一方を溶融させた後に残る一方を加えて混練し混合する方法を採用することができる。
【0043】
従って本発明は、主としてL−乳酸単位からなるポリ乳酸単位(A−1〜A−3成分)と、主としてD−乳酸単位からなるポリ乳酸単位(A−4〜A−6成分)とを、溶媒の存在下、または溶媒の非存在下で混合、熱処理するポリ乳酸の製造方法をとることにより作製した樹脂組成物からなる光ディスク基板を包含する。
【0044】
ここで、上記において粉体あるいはチップの大きさは、各ポリ乳酸単位(A−1〜A−6成分)の粉体あるいはチップが均一に混合されれば特に限定されるものではないが、3mm以下が好ましく、さらには1から0.25mmのサイズであることが好ましい。溶融混合する場合、大きさに関係なく、ステレオコンプレックス結晶を形成するが、粉体あるいはチップを均一に混合した後に単に溶融する場合、粉体あるいはチップの直径が3mm以上の大きさになると、ホモ結晶も析出するので好ましくない。
【0045】
ポリ乳酸単位(A成分)を熱処理する方法において、主としてL−乳酸単位からなるポリ乳酸単位(A−1〜A−3成分)、および主としてD−乳酸単位からなるポリ乳酸単位(A−4〜A−6成分)を混合するために用いる混合装置としては、溶融によって混合する場合にはバッチ式の攪拌翼がついた反応器、連続式の反応器のほか、二軸あるいは一軸のエクストルーダー、粉体で混合する場合にはタンブラー式の粉体混合器、連続式の粉体混合器、各種のミリング装置などを好適に用いることができる。
【0046】
本発明における熱処理とは、主としてL−乳酸単位からなるポリ乳酸単位(A−1〜A−3成分)、およびポリ乳酸単位主としてD−乳酸単位からなるポリ乳酸単位(A−4〜A−6成分)を重量比10/90〜90/10の範囲になるように共存させ、245〜300℃の温度領域で維持することをいう。熱処理の温度は好ましくは270〜300℃、より好ましくは280〜290℃である。300℃を超えると、分解反応を抑制するのが難しくなるので好ましくない。熱処理の時間は特に限定されるものではないが、0.2〜60分、好ましくは1〜20分である。熱処理時の雰囲気は、常圧の不活性雰囲気下、または減圧のいずれも適用可能である。
【0047】
熱処理に用いる装置、方法としては、雰囲気調整を行いながら加熱できる装置、方法であれば用いることができるが、たとえば、バッチ式の反応器、連続式の反応器、二軸あるいは一軸のエクストルーダーなど、またはプレス機、流管式の押出機を用いて、成型しながら処理する方法をとることが出来る。
【0048】
<B成分について>
本発明において用いられるB成分である結晶核剤はポリ乳酸、並びに芳香族ポリエステルなどの結晶性樹脂に対して結晶核剤として一般に用いられている公知の化合物が主たる対象となる。
【0049】
例えば、タルク、シリカ、グラファイト、炭素粉、ピロフェライト、石膏、中性粘土等の無機質微粒子や、酸化マグネシウム、酸化アルミニウム、二酸化チタン等の金属酸化物、硫酸塩、リン酸塩、ホスホン酸塩、硅酸塩、蓚酸塩、ステアリン酸塩、安息香酸塩、サリチル酸塩、酒石酸塩、スルホン酸塩、モンタンワックス塩、モンタンワックスエステル塩、テレフタル酸塩、安息香酸塩、カルボン酸塩等があげられる。
【0050】
これらの結晶核剤として用いられる化合物の中で特に効果の大きいものは、タルクであり、平均粒径が20μm以下のものが好ましく用いられるが、平均粒径が5μm以下のものを用いると更に好ましい。
【0051】
これら結晶核剤の配合量は、結晶核剤の種類や形状によってその効果を発現させる量は異なるため一律に規定することはできないが、ポリ乳酸成分(A成分)100重量部あたり、0.01〜5重量部であり、好ましくは0.05〜3重量部、より好ましくは0.1〜2重量部である。結晶核剤の添加量が少なすぎる場合には結晶核剤としての効果が発現されず、逆に多くし過ぎても結晶核剤としての効果が増大されることがないばかりか、むしろ機械特性その他において悪い結果を与える場合がある。
【0052】
本発明において用いられるB成分の結晶核剤の配合方法に特に制約はないが、主としてL−乳酸単位からなるポリ乳酸単位(A−1〜A−3成分)と、主としてD−乳酸単位からなるポリ乳酸単位(A−4〜A−6成分)とを混合した後に、必要により配合される他成分が存在する場合にはそれらと共に混合する際に添加する方法が、ステレオコンプレックス形成に与える悪影響が小さいため好ましい。
【0053】
<C成分について>
本発明の光ディスク基板を構成する樹脂組成物において、末端封鎖剤(C成分)を更に配合すると、耐加水分解性が更に高められた光ディスク基板を得ることができる。
【0054】
C成分の末端封鎖剤とは、本発明の光ディスク基板を構成する樹脂組成物におけるポリ乳酸(A成分)のカルボキシル基末端の一部または全部と反応して封鎖する働きを示すものであり、例えば、脂肪族アルコールやアミド化合物などの縮合反応型化合物や、カルボジイミド化合物、エポキシ化合物、オキサゾリン化合物、オキサジン化合物、アジリジン化合物などの付加反応型の化合物などが挙げられる。後者の付加反応型の化合物を用いれば、例えば、アルコールとカルボキシル基の脱水縮合反応による末端封鎖のように余分な副生成物を反応系外に排出する必要がない。従って、本発明の樹脂組成物を製造するにあたり、主としてL−乳酸単位からなるポリ乳酸単位(A−1〜A−3成分)と、主としてD−乳酸単位からなるポリ乳酸単位(A−4〜A−6成分)とを予め混合しておく方法をとる場合、付加反応型の末端封鎖剤を添加・混合・反応させることにより、副生成物による樹脂の分解を抑制しつつ、十分なカルボキシル基末端封鎖効果を得ることができ、実用的に十分な耐加水分解性を備えた成形品を得ることができる。
【0055】
本発明に用いることのできる末端封鎖剤のうちカルボジイミド化合物(ポリカルボジイミド化合物を含む)としては、一般的に良く知られた方法で合成されたものを使用することができ、例えば、触媒として有機リン系化合物又は有機金属化合物を用い、各種ポリイソシアネートを約70度以上の温度で、無溶媒又は不活性溶媒中で、脱炭酸縮合反応に付することより合成することができるものを挙げることができる。
【0056】
上記カルボジイミド化合物に含まれるモノカルボジイミド化合物としては、ジシクロヘキシルカルボジイミド、ジイソプロピルカルボジイミド、ジメチルカルボジイミド、ジイソブチルカルボジイミド、ジオクチルカルボジイミド、t−ブチルイソプロピルカルボジイミド、ジフェニルカルボジイミド、ジ−t−ブチルカルボジイミド、ジ−β−ナフチルカルボジイミド等を例示することができ、これらの中では、特に工業的に入手が容易であるという面から、ジシクロヘキシルカルボジイミド或いはジイソプロピルカルボジイミドが好適である。
【0057】
また、上記カルボジイミド化合物に含まれるポリカルボジイミド化合物としては、種々の方法で製造したものを使用することができるが、基本的には従来のポリカルボジイミドの製造方法(米国特許第2941956号明細書、特公昭47−33279号公報、J.0rg.Chem.28, 2069−2075(1963)、Chemical Review l981,Vol.81 No.4、p619−621)により製造したものを用いることができる。
【0058】
上記ポリカルボジイミド化合物の製造における合成原料である有機ジイソシアネートとしては、例えば芳香族ジイソシアネート、脂肪族ジイソシアネート、脂環族ジイソシアネートやこれらの混合物を挙げることができ、具体的には、1,5−ナフタレンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルジメチルメタンジイソシアネート、1,3−フェニレンジイソシアネート、1,4−フェニレンジイソシアネート、2,4−トリレンジイソシアネート、2,6−トリレンジイソシアネート、2,4−トリレンジイソシアネートと2,6−トリレンジイソシアネートの混合物、ヘキサメチレンジイソシアネート、シクロヘキサン−1,4−ジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタン−4,4’−ジイソシアネート、メチルシクロヘキサンジイソシアネート、テトラメチルキシリレンジイソシアネート、2,6−ジイソプロピルフェニルイソシアネート、1,3,5−トリイソプロピルベンゼン−2,4−ジイソシアネート等を例示することができる。
【0059】
また、上記ポリカルボジイミド化合物の場合は、モノイソシアネート等の、ポリカルボジイミド化合物の末端イソシアネートと反応する化合物を用いて、適当な重合度に制御することもできる。
【0060】
このようなポリカルボジイミド化合物の末端を封止してその重合度を制御するためのモノイソシアネートとしては、例えば、フェニルイソシアネート、トリルイソシアネート、ジメチルフェニルイソシアネート、シクロヘキシルイソシアネート、ブチルイソシアネート、ナフチルイソシアネート等を例示することができる。
【0061】
本発明に用いることのできる末端封鎖剤のうちエポキシ化合物の例としては、例えば、N−グリシジルフタルイミド、N−グリシジル−4−メチルフタルイミド、N−グリシジル−4,5−ジメチルフタルイミド、N−グリシジル−3−メチルフタルイミド、N−グリシジル−3,6−ジメチルフタルイミド、N−グリシジル−4−エトキシフタルイミド、N−グリシジル−4−クロルフタルイミド、N−グリシジル−4,5−ジクロルフタルイミド、N−グリシジル−3,4,5,6−テトラブロムフタルイミド、N−グリシジル−4−n−ブチル−5−ブロムフタルイミド、N−グリシジルサクシンイミド、N−グリシジルヘキサヒドロフタルイミド、N−グリシジル−1,2,3,6−テトラヒドロフタルイミド、N−グリシジルマレインイミド、N−グリシジル−α,β−ジメチルサクシンイミド、N−グリシジル−α−エチルサクシンイミド、N−グリシジル−α−プロピルサクシンイミド、N−グリシジルベンズアミド、N−グリシジル−p−メチルベンズアミド、N−グリシジルナフトアミド、N−グリシジルステラミド、N−メチル−4,5−エポキシシクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸イミド、N−エチル−4,5−エポキシシクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸イミド、N−フェニル−4,5−エポキシシクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸イミド、N−ナフチル−4,5−エポキシシクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸イミド、N−トリル−3−メチル−4,5−エポキシシクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸イミド、オルソフェニルフェニルグリシジルエーテル、2−メチルオクチルグリシジルエーテル、フェニルグリシジルエーテル、3−(2−キセニルオキシ)−1,2−エポキシプロパン、アリルグリシジルエーテル、ブチルグリシジルエーテル、ラウリルグリシジルエーテル、ベンジルグリシジルエーテル、シクロヘキシルグリシジルエーテル、α−クレシルグリシジルエーテル、p−t−ブチルフェニルグリシジルエーテル、メタクリル酸グリシジルエーテル、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、スチレンオキサイド、オクチレンオキサイド、ヒドロキノンジグリシジルエーテル、レゾルシンジグリシジルエーテル、1,6−ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、水添ビスフェノールA−ジグリシジルエーテルなどが挙げられ、さらには、テレフタル酸ジグリシジルエステル、テトラヒドロフタル酸ジグリシジルエステル、ヘキサヒドロフタル酸ジグリシジルエステル、フタル酸ジメチルジグリシジルエステル、フェニレンジグリシジルエーテル、エチレンジグリシジルエーテル、トリメチレンジグリシジルエーテル、テトラメチレンジグリシジルエーテル、ヘキサメチレンジグリシジルエーテルなどが挙げられる。これらのエポキシ化合物の中から1種または2種以上の化合物を任意に選択してポリ乳酸単位のカルボキシル末端を封鎖すればよいが、反応性の点でエチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、フェニルグリシジルエーテル、オルソフェニルフェニルグリシジルエーテル、p−t−ブチルフェニルグリシジルエーテル、N−グリシジルフタルイミド、ヒドロキノンジグリシジルエーテル、レゾルシンジグリシジルエーテル、1,6−ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、水添ビスフェノールA−ジグリシジルエーテルなどが好ましい。
【0062】
本発明に用いることのできる末端封鎖剤のうちオキサゾリン化合物の例としては、例えば、2−メトキシ−2−オキサゾリン、2−エトキシ−2−オキサゾリン、2−プロポキシ−2−オキサゾリン、2−ブトキシ−2−オキサゾリン、2−ペンチルオキシ−2−オキサゾリン、2−ヘキシルオキシ−2−オキサゾリン、2−ヘプチルオキシ−2−オキサゾリン、2−オクチルオキシ−2−オキサゾリン、2−ノニルオキシ−2−オキサゾリン、2−デシルオキシ−2−オキサゾリン、2−シクロペンチルオキシ−2−オキサゾリン、2−シクロヘキシルオキシ−2−オキサゾリン、2−アリルオキシ−2−オキサゾリン、2−メタアリルオキシ−2−オキサゾリン、2−クロチルオキシ−2−オキサゾリン、2−フェノキシ−2−オキサゾリン、2−クレジル−2−オキサゾリン、2−o−エチルフェノキシ−2−オキサゾリン、2−o−プロピルフェノキシ−2−オキサゾリン、2−o−フェニルフェノキシ−2−オキサゾリン、2−m−エチルフェノキシ−2−オキサゾリン、2−m−プロピルフェノキシ−2−オキサゾリン、2−p−フェニルフェノキシ−2−オキサゾリン、2−メチル−2−オキサゾリン、2−エチル−2−オキサゾリン、2−プロピル−2−オキサゾリン、2−ブチル−2−オキサゾリン、2−ペンチル−2−オキサゾリン、2−ヘキシル−2−オキサゾリン、2−ヘプチル−2−オキサゾリン、2−オクチル−2−オキサゾリン、2−ノニル−2−オキサゾリン、2−デシル−2−オキサゾリン、2−シクロペンチル−2−オキサゾリン、2−シクロヘキシル−2−オキサゾリン、2−アリル−2−オキサゾリン、2−メタアリル−2−オキサゾリン、2−クロチル−2−オキサゾリン、2−フェニル−2−オキサゾリン、2−o−エチルフェニル−2−オキサゾリン、2−o−プロピルフェニル−2−オキサゾリン、2−o−フェニルフェニル−2−オキサゾリン、2−m−エチルフェニル−2−オキサゾリン、2−m−プロピルフェニル−2−オキサゾリン、2−p−フェニルフェニル−2−オキサゾリンなどが挙げられ、さらには、2,2′−ビス(2−オキサゾリン)、2,2′−ビス(4−メチル−2−オキサゾリン)、2,2′−ビス(4,4′−ジメチル−2−オキサゾリン)、2,2′−ビス(4−エチル−2−オキサゾリン)、2,2′−ビス(4,4′−ジエチル−2−オキサゾリン)、2,2′−ビス(4−プロピル−2−オキサゾリン)、2,2′−ビス(4−ブチル−2−オキサゾリン)、2,2′−ビス(4−ヘキシル−2−オキサゾリン)、2,2′−ビス(4−フェニル−2−オキサゾリン)、2,2′−ビス(4−シクロヘキシル−2−オキサゾリン)、2,2′−ビス(4−ベンジル−2−オキサゾリン)、2,2′−p−フェニレンビス(2−オキサゾリン)、2,2′−m−フェニレンビス(2−オキサゾリン)、2,2′−o−フェニレンビス(2−オキサゾリン)、2,2′−p−フェニレンビス(4−メチル−2−オキサゾリン)、2,2′−p−フェニレンビス(4,4′−ジメチル−2−オキサゾリン)、2,2′−m−フェニレンビス(4−メチル−2−オキサゾリン)、2,2′−m−フェニレンビス(4,4′−ジメチル−2−オキサゾリン)、2,2′−エチレンビス(2−オキサゾリン)、2,2′−テトラメチレンビス(2−オキサゾリン)、2,2′−ヘキサメチレンビス(2−オキサゾリン)、2,2′−オクタメチレンビス(2−オキサゾリン)、2,2′−デカメチレンビス(2−オキサゾリン)、2,2′−エチレンビス(4−メチル−2−オキサゾリン)、2,2′−テトラメチレンビス(4,4′−ジメチル−2−オキサゾリン)、2,2′−9,9′−ジフェノキシエタンビス(2−オキサゾリン)、2,2′−シクロヘキシレンビス(2−オキサゾリン)、2,2′−ジフェニレンビス(2−オキサゾリン)などが挙げられる。さらには、上記した化合物をモノマー単位として含むポリオキサゾリン化合物など、例えばスチレン・2−イソプロペニル−2−オキサゾリン共重合体などが挙げられる。これらのオキサゾリン化合物の中から1種または2種以上の化合物を任意に選択してポリ乳酸単位のカルボキシル末端を封鎖すればよい。
【0063】
本発明に用いることのできる末端封鎖剤のうちオキサジン化合物の例としては、例えば、2−メトキシ−5,6−ジヒドロ−4H−1,3−オキサジン、2−エトキシ−5,6−ジヒドロ−4H−1,3−オキサジン、2−プロポキシ−5,6−ジヒドロ−4H−1,3−オキサジン、2−ブトキシ−5,6−ジヒドロ−4H−1,3−オキサジン、2−ペンチルオキシ−5,6−ジヒドロ−4H−1,3−オキサジン、2−ヘキシルオキシ−5,6−ジヒドロ−4H−1,3−オキサジン、2−ヘプチルオキシ−5,6−ジヒドロ−4H−1,3−オキサジン、2−オクチルオキシ−5,6−ジヒドロ−4H−1,3−オキサジン、2−ノニルオキシ−5,6−ジヒドロ−4H−1,3−オキサジン、2−デシルオキシ−5,6−ジヒドロ−4H−1,3−オキサジン、2−シクロペンチルオキシ−5,6−ジヒドロ−4H−1,3−オキサジン、2−シクロヘキシルオキシ−5,6−ジヒドロ−4H−1,3−オキサジン、2−アリルオキシ−5,6−ジヒドロ−4H−1,3−オキサジン、2−メタアリルオキシ−5,6−ジヒドロ−4H−1,3−オキサジン、2−クロチルオキシ−5,6−ジヒドロ−4H−1,3−オキサジンなどが挙げられ、さらには、2,2′−ビス(5,6−ジヒドロ−4H−1,3−オキサジン)、2,2′−メチレンビス(5,6−ジヒドロ−4H−1,3−オキサジン)、2,2′−エチレンビス(5,6−ジヒドロ−4H−1,3−オキサジン)、2,2′−プロピレンビス(5,6−ジヒドロ−4H−1,3−オキサジン)、2,2′−ブチレンビス(5,6−ジヒドロ−4H−1,3−オキサジン)、2,2′−ヘキサメチレンビス(5,6−ジヒドロ−4H−1,3−オキサジン)、2,2′−p−フェニレンビス(5,6−ジヒドロ−4H−1,3−オキサジン)、2,2′−m−フェニレンビス(5,6−ジヒドロ−4H−1,3−オキサジン)、2,2′−ナフチレンビス(5,6−ジヒドロ−4H−1,3−オキサジン)、2,2′−P,P′−ジフェニレンビス(5,6−ジヒドロ−4H−1,3−オキサジン)などが挙げられる。さらには、上記した化合物をモノマー単位として含むポリオキサジン化合物などが挙げられる。これらのオキサジン化合物の中から1種または2種以上の化合物を任意に選択してポリ乳酸単位のカルボキシル末端を封鎖すればよい。
【0064】
更には、既に例示したオキサゾリン化合物および上述のオキサジン化合物などの中から1種または2種以上の化合物を任意に選択し併用してポリ乳酸のカルボキシル末端を封鎖してもよいが、耐熱性および反応性や脂肪族ポリエステルとの親和性の点で2,2′−m−フェニレンビス(2−オキサゾリン)や2,2′−p−フェニレンビス(2−オキサゾリン)が好ましい。
【0065】
本発明に用いることのできる末端封鎖剤のうちアジリジン化合物の例としては、例えば、モノ,ビスあるいはポリイソシアネート化合物とエチレンイミンとの付加反応物などが挙げられる。
【0066】
また、本発明に用いることのできる末端封鎖剤として上述したカルボジイミド化合物、エポキシ化合物、オキサゾリン化合物、オキサジン化合物、アジリジン化合物などの化合物うち、2種以上の化合物を末端封鎖剤として併用することもできる。
【0067】
本発明のポリ乳酸樹脂組成物では、用途に応じて適度にカルボキシル末端基の封鎖を行えばよいが、具体的なカルボキシル基末端封鎖の程度としてはポリ乳酸単位のカルボキシル基末端の濃度が10当量/103 kg以下であることが耐加水分解性向上の点から好ましく、6当量/103kg以下であることがさらに好ましい。
【0068】
本発明の光ディスク基板を構成する樹脂組成物におけるポリ乳酸(A成分)のカルボキシル基末端を封鎖する方法としては、縮合反応型あるいは付加反応型などの末端封鎖剤を反応させればよく、縮合反応によりカルボキシル基末端を封鎖する方法としては、ポリマー重合時に重合系内に脂肪族アルコールやアミド化合物などの縮合反応型の末端封鎖剤を適量添加して減圧化で脱水縮合反応させるなどしてカルボキシル基末端を封鎖することができるが、ポリマーの高重合度化の観点から、重合反応終了時に縮合反応型の末端封鎖剤を添加することが好ましい。
【0069】
付加反応によりカルボキシル基末端を封鎖する方法としては、ポリ乳酸の溶融状態でカルボジイミド化合物、エポキシ化合物、オキサゾリン化合物、オキサジン化合物、アジリジン化合物などの末端封鎖剤を適量反応させることで得ることができ、ポリマーの重合反応終了後に末端封鎖剤を添加・反応させることが可能であるが、主としてL−乳酸単位からなるポリ乳酸単位(A−1〜A−3成分)と、主としてD−乳酸単位からなるポリ乳酸単位(A−4〜A−6成分)とを、予め混合しておく場合には、その際に併せて添加する方法や、両ポリ乳酸単位を混合する前に、それぞれのポリ乳酸単位中に予め混合しておく方法、更にすべての成分を一括混合する際に併せて混合する方法をとることもができる。
【0070】
この末端封鎖剤(C成分)の含有量はポリ乳酸成分(A成分)100重量部当り、0.01〜5重量部であり、好ましくは0.05〜4重量部、より好ましくは0.1〜3重量部である。
【0071】
<その他の成分について>
(i)熱安定剤
本発明の光ディスク基板を構成する樹脂組成物においては、良好な色相かつ安定した流動性を得るため、リン系安定剤を含有することが好ましい。殊にリン系安定剤として、下記一般式(ii)に示すペンタエリスリトール型ホスファイト化合物を配合することが好ましい。
【0072】
【化2】

[式中R1、R2はそれぞれ水素原子、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数6〜20のアリール基ないしアルキルアリール基、炭素数7〜30のアラルキル基、炭素数4〜20のシクロアルキル基、炭素数15〜25の2−(4−オキシフェニル)プロピル置換アリール基を示す。なお、シクロアルキル基およびアリール基は、アルキル基で置換されていてもよい。]
【0073】
前記ペンタエリスリトール型ホスファイト化合物としては、より具体的には、例えば、ジステアリルペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,6−ジ−tert−ブチル−4−エチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、フェニルビスフェノールAペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(ノニルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ジシクロヘキシルペンタエリスリトールジホスファイトなどが挙げられ、中でも好適には、ジステアリルペンタエリスリトールジホスファイト、およびビス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイトが挙げられる。
【0074】
他のリン系安定剤としては、前記以外の各種ホスファイト化合物、ホスホナイト化合物、およびホスフェート化合物が挙げられる。
【0075】
ホスファイト化合物としては、例えば、トリフェニルホスファイト、トリス(ノニルフェニル)ホスファイト、トリデシルホスファイト、トリオクチルホスファイト、トリオクタデシルホスファイト、ジデシルモノフェニルホスファイト、ジオクチルモノフェニルホスファイト、ジイソプロピルモノフェニルホスファイト、モノブチルジフェニルホスファイト、モノデシルジフェニルホスファイト、モノオクチルジフェニルホスファイト、2,2−メチレンビス(4,6−ジ−tert−ブチルフェニル)オクチルホスファイト、トリス(ジエチルフェニル)ホスファイト、トリス(ジ−iso−プロピルフェニル)ホスファイト、トリス(ジ−n−ブチルフェニル)ホスファイト、トリス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスファイト、およびトリス(2,6−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスファイトなどが挙げられる。
【0076】
さらに他のホスファイト化合物としては二価フェノール類と反応し環状構造を有するものも使用できる。例えば、2,2’−メチレンビス(4,6−ジ−tert−ブチルフェニル)(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスファイト、2,2’−メチレンビス(4,6−ジ−tert−ブチルフェニル)(2−tert−ブチル−4−メチルフェニル)ホスファイト、2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−tert−ブチルフェニル)(2−tert−ブチル−4−メチルフェニル)ホスファイト、2,2’−エチリデンビス(4−メチル−6−tert−ブチルフェニル)(2−tert−ブチル−4−メチルフェニル)ホスファイトなどを挙げることができる。
【0077】
ホスフェート化合物としては、トリブチルホスフェート、トリメチルホスフェート、トリクレジルホスフェート、トリフェニルホスフェート、トリクロルフェニルホスフェート、トリエチルホスフェート、ジフェニルクレジルホスフェート、ジフェニルモノオルソキセニルホスフェート、トリブトキシエチルホスフェート、ジブチルホスフェート、ジオクチルホスフェート、ジイソプロピルホスフェートなどを挙げることができ、好ましくはトリフェニルホスフェート、トリメチルホスフェートである。
【0078】
ホスホナイト化合物としては、テトラキス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)−4,4’−ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)−4,3’−ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)−3,3’−ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,6−ジ−tert−ブチルフェニル)−4,4’−ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,6−ジ−tert−ブチルフェニル)−4,3’−ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,6−ジ−tert−ブチルフェニル)−3,3’−ビフェニレンジホスホナイト、ビス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)−4−フェニル−フェニルホスホナイト、ビス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)−3−フェニル−フェニルホスホナイト、ビス(2,6−ジ−n−ブチルフェニル)−3−フェニル−フェニルホスホナイト、ビス(2,6−ジ−tert−ブチルフェニル)−4−フェニル−フェニルホスホナイト、ビス(2,6−ジ−tert−ブチルフェニル)−3−フェニル−フェニルホスホナイト等があげられ、テトラキス(ジ−tert−ブチルフェニル)−ビフェニレンジホスホナイト、ビス(ジ−tert−ブチルフェニル)−フェニル−フェニルホスホナイトが好ましく、テトラキス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)−ビフェニレンジホスホナイト、ビス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)−フェニル−フェニルホスホナイトがより好ましい。かかるホスホナイト化合物は上記アルキル基が2以上置換したアリール基を有するホスファイト化合物との併用可能であり好ましい。
【0079】
ホスホネイト化合物としては、ベンゼンホスホン酸ジメチル、ベンゼンホスホン酸ジエチル、およびベンゼンホスホン酸ジプロピル等が挙げられる。
【0080】
上記のリン系安定剤は、単独でまたは2種以上を併用して使用することができ、少なくともペンタエリスリトール型ホスファイト化合物を有効量配合することが好ましい。リン系安定剤はポリ乳酸(A成分)100重量部当たり、好ましくは0.001〜1重量部、より好ましくは0.01〜0.5重量部、さらに好ましくは0.01〜0.3重量部配合される。
【0081】
(ii)弾性重合体
本発明の光ディスク基板を構成する樹脂組成物には、衝撃改良剤として弾性重合体を使用することができ、弾性重合体の例としては、ガラス転移温度が10℃以下のゴム成分に、芳香族ビニル、シアン化ビニル、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル、およびこれらと共重合可能なビニル化合物から選択されたモノマーの1種または2種以上が共重合されたグラフト共重合体を挙げることができる。より好適な弾性重合体は、ゴム成分のコアに前記モノマーの1種または2種以上のシェルがグラフト共重合されたコア−シェル型のグラフト共重合体である。
【0082】
またかかるゴム成分と上記モノマーのブロック共重合体も挙げられる。かかるブロック共重合体としては具体的にはスチレン・エチレンプロピレン・スチレンエラストマー(水添スチレン・イソプレン・スチレンエラストマー)、および水添スチレン・ブタジエン・スチレンエラストマーなどの熱可塑性エラストマーを挙げることができる。さらに他の熱可塑性エラストマーして知られている各種の弾性重合体、例えばポリウレタンエラストマー、ポリエステルエラストマー、ポリエーテルアミドエラストマー等を使用することも可能である。
【0083】
衝撃改良剤としてより好適なのはコア−シェル型のグラフト共重合体である。コア−シェル型のグラフト共重合体において、そのコアの粒径は重量平均粒子径において0.05〜0.8μmが好ましく、0.1〜0.6μmがより好ましく、0.1〜0.5μmがさらに好ましい。0.05〜0.8μmの範囲であればより良好な耐衝撃性が達成される。弾性重合体は、ゴム成分を40%以上含有するものが好ましく、60%以上含有するものがさらに好ましい。
【0084】
ゴム成分としては、ブタジエンゴム、ブタジエン−アクリル複合ゴム、アクリルゴム、アクリル−シリコーン複合ゴム、イソブチレン−シリコーン複合ゴム、イソプレンゴム、スチレン−ブタジエンゴム、クロロプレンゴム、エチレン−プロピレンゴム、ニトリルゴム、エチレン−アクリルゴム、シリコーンゴム、エピクロロヒドリンゴム、フッ素ゴムおよびこれらの不飽和結合部分に水素が添加されたものを挙げることができるが、燃焼時の有害物質の発生懸念という点から、ハロゲン原子を含まないゴム成分が環境負荷の面において好ましい。
【0085】
ゴム成分のガラス転移温度は好ましくは−10℃以下、より好ましくは−30℃以下であり、ゴム成分としては特にブタジエンゴム、ブタジエン−アクリル複合ゴム、アクリルゴム、アクリル−シリコーン複合ゴムが好ましい。複合ゴムとは、2種のゴム成分を共重合したゴムまたは分離できないよう相互に絡み合ったIPN構造をとるように重合したゴムをいう。
【0086】
ゴム成分に共重合するビニル化合物における芳香族ビニルとしては、スチレン、α−メチルスチレン、p−メチルスチレン、アルコキシスチレン、ハロゲン化スチレン等を挙げることができ、特にスチレンが好ましい。またアクリル酸エステルとしては、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸シクロヘキシル、アクリル酸オクチル等を挙げることができ、メタアクリル酸エステルとしては、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸オクチル等を挙げることができ、メタクリル酸メチルが特に好ましい。これらの中でも特にメタクリル酸メチルなどのメタアクリル酸エステルを必須成分として含有することが好ましい。より具体的には、メタアクリル酸エステルはグラフト成分100重量%中(コア−シェル型重合体の場合にはシェル100重量%中)、好ましくは10重量%以上、より好ましくは15重量%以上含有される。
【0087】
ガラス転移温度が10℃以下のゴム成分を含有する弾性重合体は、塊状重合、溶液重合、懸濁重合、乳化重合のいずれの重合法で製造したものであってもよく、共重合の方式は一段グラフトであっても多段グラフトであっても差し支えない。また製造の際に副生するグラフト成分のみのコポリマーとの混合物であってもよい。さらに重合法としては一般的な乳化重合法の他、過硫酸カリウム等の開始剤を使用するソープフリー重合法、シード重合法、二段階膨潤重合法等を挙げることができる。また懸濁重合法において、水相とモノマー相とを個別に保持して両者を正確に連続式の分散機に供給し、粒子径を分散機の回転数で制御する方法、および連続式の製造方法において分散能を有する水性液体中にモノマー相を数〜数十μm径の細径オリフィスまたは多孔質フィルターを通すことにより供給し粒径を制御する方法などを行ってもよい。コア−シェル型のグラフト重合体の場合、その反応はコアおよびシェル共に、1段であっても多段であってもよい。
【0088】
かかる弾性重合体は市販されており容易に入手することが可能である。例えばゴム成分として、ブタジエンゴム、アクリルゴムまたはブタジエン−アクリル複合ゴムを主体とするものとしては、鐘淵化学工業(株)のカネエースBシリーズ(例えばB−56など)、三菱レイヨン(株)のメタブレンCシリーズ(例えばC−223Aなど)、Wシリーズ(例えばW−450Aなど)、呉羽化学工業(株)のパラロイドEXLシリーズ(例えばEXL−2602など)、HIAシリーズ(例えばHIA−15など)、BTAシリーズ(例えばBTA−IIIなど)、KCAシリーズ、ローム・アンド・ハース社のパラロイドEXLシリーズ、KMシリーズ(例えばKM−336P、KM−357Pなど)、並びに宇部サイコン(株)のUCLモディファイヤーレジンシリーズ(ユーエムジー・エービーエス(株)のUMG AXSレジンシリーズ)などが挙げられ、ゴム成分としてアクリル−シリコーン複合ゴムを主体とするものとしては三菱レイヨン(株)よりメタブレンS−2001あるいはSRK−200という商品名で市販されているものが挙げられる。
【0089】
衝撃改良剤の組成割合は、ポリ乳酸(A成分)100重量部あたり0.2〜50重量部が好ましく、1〜30重量部が好ましく、1.5〜20重量部がより好ましい。かかる組成範囲は、剛性の低下を抑制しつつ組成物に良好な耐衝撃性を与えることができる。
【0090】
(iii)無機充填材
本発明の光ディスク基板を構成する樹脂組成物には、成形品の表面平滑性を損なわない範囲で、無機充填材を配合することもできる。無機充填材としては、繊維状、針状、球状、フレーク状、中空状、板状もしくは層状の種々のものを使用することができるが、機械特性の向上と表面平滑性が両立しやすい板状もしくは層状のものが好ましく、特に層状のものが好ましい。
【0091】
板状もしくは層状の無機充填材としては、マイカ、タルクなどや、層間にイオン交換可能な陽イオンをもつ各種珪酸塩(シリケート)または粘土鉱物(クレー)があげられ、例えば、スメクタイト系鉱物、バーミキュライト、ハロイサイト、および膨潤性雲母などに代表される。具体的には、スメクタイト系鉱物としては、モンモリロナイト、ヘクトライト、フッ素ヘクトライト、サポナイト、バイデライト、スチブンサイト等が、膨潤性雲母としては、Li型フッ素テニオライト、Na型フッ素テニオライト、Na型四珪素フッ素雲母、Li型四珪素フッ素雲母等の膨潤性合成雲母等が挙げられる。これらの、層間にイオン交換可能な陽イオンをもつ各種珪酸塩(シリケート)または粘土鉱物(クレー)では、樹脂中での分散促進のため、層間の陽イオンを、4級アンモニウム塩などの有機物でイオン交換したものも用いることができる。
【0092】
これらの無機充填材を配合した場合、それらの成形品中における分散形態は、その60%以上の数割合が100nm以下の厚みを有することが好ましく、50nm以下であることがより好ましく、20nm以下が更に好ましい。
【0093】
また、無機充填材が配合された場合の成形品の表面平滑性は、JIS B0601に準拠して測定される算術平均粗さRaが0.05μm以下であることが好ましく、0.03μm以下がより好ましい。
【0094】
(iv)その他の添加剤
本発明の光ディスク基板を構成する樹脂組成物には、本発明の効果を発揮する範囲で、他の熱可塑性樹脂(例えば、ポリカーボネート樹脂、ポリアルキレンテレフタレート樹脂、ポリアリレート樹脂、液晶性ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリウレタン樹脂、シリコーン樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリフェニレンスルフィド樹脂、ポリスルホン樹脂、ポリエチレンおよびポリプロピレンなどのポリオレフィン樹脂、ポリスチレン樹脂、アクリロニトリル/スチレン共重合体(AS樹脂)、アクリロニトリル/ブタジエン/スチレン共重合体(ABS樹脂)、ポリスチレン樹脂、高衝撃ポリスチレン樹脂、シンジオタクチックポリスチレン樹脂、ポリメタクリレート樹脂、並びにフェノキシまたはエポキシ樹脂など)、酸化防止剤(例えば、ヒンダ−ドフェノ−ル系化合物、イオウ系酸化防止剤等)、紫外線吸収剤(ベンゾトリアゾール系、トリアジン系、ベンゾフェノン系など)、光安定剤(HALSなど)、離型剤(飽和脂肪酸エステル、不飽和脂肪酸エステル、ポリオレフィン系ワックス、フッ素化合物、パラフィンワックス、蜜蝋など)、流動改質剤(ポリカプロラクトンなど)、着色剤(カーボンブラック、二酸チタン、各種の有機染料、メタリック顔料など)、光拡散剤(アクリル架橋粒子、シリコーン架橋粒子など)、蛍光増白剤、蓄光顔料、蛍光染料、帯電防止剤、無機および有機の抗菌剤、光触媒系防汚剤(微粒子酸化チタン、微粒子酸化亜鉛など)、赤外線吸収剤、並びにフォトクロミック剤紫外線吸収剤などを配合してもよい。これら各種の添加剤は、ポリ乳酸等の熱可塑性樹脂に配合する際の周知の配合量で利用することができる。
【0095】
<樹脂組成物の製造方法について>
本発明の光ディスク基板を構成する樹脂組成物を製造するには、任意の方法が採用される。例えば各成分、並びに任意に他の成分を予備混合し、その後溶融混練し、ペレット化する方法を挙げることができる。予備混合の手段としては、ナウターミキサー、V型ブレンダー、ヘンシェルミキサー、メカノケミカル装置、押出混合機などを挙げることができる。予備混合においては場合により押出造粒器やブリケッティングマシーンなどにより造粒を行うこともできる。予備混合後、ベント式二軸押出機に代表される溶融混練機で溶融混練、およびペレタイザー等の機器によりペレット化する。溶融混練機としては他にバンバリーミキサー、混練ロール、恒熱撹拌容器などを挙げることができるが、ベント式二軸押出機が好ましい。他に、各成分、並びに任意に他の成分を予備混合することなく、それぞれ独立に二軸押出機に代表される溶融混練機に供給する方法も取ることもできる。
【0096】
また、本発明の目的から考えて、異物、不純物等の混入のない原料を用いると共に、樹脂組成物製造時及び成形時における、所定の原料以外の異物、不純物、溶媒等の混入を極力低く抑えることが必要である。この目的で、事前に各原料を精製することや、押出原料中に混入した異物等を除去するためのスクリーンを押出機ダイス部前のゾーンに設置し、異物等を樹脂組成物から取り除くことは有益である。かかるスクリーンとしては金網、スクリーンチェンジャー、焼結金属プレート(ディスクフィルター等)等を用いることができる。さらに、ペレット化に際して外部の埃等の影響を低減する必要がある場合には、押出機周囲の雰囲気を清浄化することが好ましい。
【0097】
<光ディスク基板の製造について>
本発明の光ディスク基板は、通常前記方法で製造されたポリ乳酸のペレットを、金型温度80〜130℃の範囲で射出成形、または射出圧縮成形して得られたものである。金型温度はの更に好ましい範囲は、100〜120℃である。通常のポリ乳酸(ポリL−乳酸、またはポリD−乳酸)は結晶性ポリマーであるが、その結晶化速度は非常に遅く、結晶核剤を添加しても射出成形で結晶化した成形品を得るのは、非常に困難であり、ステレオコンプレックスポリ乳酸についても、ポリ乳酸より結晶化速度は速くなるものの、やはり結晶核剤を添加しても、140℃以上の金型温度を要する。しかしながら、本発明のステレオコンプレックスポリ乳酸は、結晶性ポリマーとしては、生産性の上でも好ましい範囲である80℃〜130℃の金型温度で、結晶化した成形品が良好に射出成形できるようになる。金型温度が130℃より高くなると、成形品の冷却速度が遅くなるため成形サイクルが長くなり好ましくない。また80℃より低い温度では、固化が非常に遅いか、非晶状態で得られるようになるため好ましくない。
【0098】
かかる射出成形、または射出圧縮成形には、射出成形機(射出圧縮成形機を含む)が用いられる。この射出成形機としては、炭化物の発生を抑制し、光ディスク基板の信頼性を高める観点からシリンダーやスクリューとして樹脂との付着性が低く、かつ耐食性、耐摩耗性を示す材料を使用してなるものを用いるのが好ましく、これらによって光学的に優れた光ディスク基板を得ることができる。成形工程の環境は、本発明の目的から考えて、可能な限りクリーンであることが好ましい。また、成形に供する材料を十分乾燥して水分を除去することや、溶融樹脂の分解を招くような滞留を起こさないように配慮することも重要となる。
【0099】
光ディスク基板の形状は、通常円板(円盤)状であるが、その形状や大きさは特に制限されず、用途に応じて適宜選定される。また、光ディスク基板の好適な厚みは0.3〜1.2mmの範囲である。本発明における光ディスク基板は、その成形時にスタンパーにより該基板の片面又は両面にビットやグルーブが設けられることが多いが、光ディスク基板の用途によっては成形時にかかる加工がなされない場合もある。
【0100】
本発明の光ディスク基板上には、その用途に応じて、反射層、記録層、光透過層(透明保護層)等が積層され、情報記録媒体としての光ディスクとなる。
【0101】
反射層は金属元素を単独あるいは二種以上複合させて形成することができる。かかる反射層を形成する金属としては、AlまたはAuを単独で使用するか、もしくは0.5重量%以上10重量%以下、特に好ましくは3.0〜10重量%のTiを含有するAl合金、0.5〜10重量%のCrを含有するAl合金を使用するのが好ましい。上記金属からなる反射層はイオンビームスパッタ法、DC(直流)スパッタ法、またはRFスパッタ法等の手段で形成させることができる。
【0102】
本発明における光ディスク基板上には、かかる反射層に加え、基本的には記録層(DVD−RAM、CD−R、DVD−R、DV−R等の場合には相変化記録層、染料記録層、MO(光磁気ディスク)の場合は光磁気記録層)、および光透過層が形成されて、情報記録媒体としての光ディスクとなる。かかる相変化記録層としては、例えば単体のカルコゲンやカルコゲン化合物が用いられる。具体的には、Te、Seの各単体、Ge−Sb−Te、Ge−Te、In−Sb−Te、In−Se−Te−Ag、In−Se、In−Se−Tl−Co、In−Sb−Se、BiTe、BiSe、SbSe、SbTe等のカルコゲナイト系材料が使用される。また、光磁気記録層には、Tb−Fe−Co等の非晶質合金薄膜等のカー効果やファラデー効果等の磁気光学特性を有する垂直磁化層等が用いられる。
【0103】
記録層の上下の層には誘電体層を設け、光学的特性や熱的特性を制御することが好ましい。誘電体層としては、例えば、Al、Si等の金属、半金属元素の窒化物、酸化物、硫化物等が適用される。その具体例としては、ZnSとSiO2との混合物や、AlN、Si、SiO、Al、ZnS、MgF等が例示される。
【0104】
光透過層は、記録層の上または、誘電体層がある場合には誘電体層の上に形成される。この光透過層は記録層や基板のピットやグルーブを保護するための透明保護層となる。この光透過層の材料は芳香族ポリカーボネートや非晶性ポリオレフィン系樹脂等の透明な熱可塑性樹脂や、各種熱硬化性(特に光硬化性)樹脂等が挙げられる。透明保護層を形成する手段は、例えば記録層上に芳香族ポリカーボネートや非晶性ポリオレフィン系樹脂等の熱可塑性樹脂からなるシート等の透明シートを貼り合わせる方法(この際の接着層としては光硬化性樹脂が好適である)や、紫外線硬化樹脂をスピンコート等の手法によって塗布し、紫外線照射することによって保護層形成する方法等が挙げられる。さらに特に透明シートを使用する方法では、その表面にさらに高硬度特性や帯電防止性等を有する保護透明層を設けることもできる。光透過層(保護透明層がある場合にはその厚みを含む)の厚みは、コマ収差を小さく抑えるために、3〜200μmの範囲に制限される。特に100μm程度の厚みが好ましい。
【0105】
光ディスクは、多くの場合、光線を該ディスクの光透過層側から照射し、光透過層を通じて記録層等に到達・反射させて、情報信号の記録/再生が行われる。
【0106】
なお、本発明の光ディスク基板上に転写されるグルーブもしくはビットの構成、基板上に形成される積層構成や、反射層(反射膜)あるいは記録層と光透過層の構成は、特に限定されるものではなく、グルーブ又はピットが基板の両面に設けられ、反射層あるいは記録層及び光透過層も共に両面に設けられていてもよい。なお、光ディスクの上記の如き多層構造は広く知られるところであり、例えばその詳細は特開平11−7658号公報等に記載されている。
【0107】
次に、かかる光ディスクの多層構造の具体例について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、図面は、代表的な光ディスクの構造を単に例示するものであって、本発明の光ディスク基板の用途が、かかる構造の光ディスクのみに限定されないことは言うまでもない。
【0108】
図1〜図4は、それぞれ光記録媒体としての光ディスクの構造の一例を示すものであり、ディスク面における垂直の断面の部分的模式図である。図1に示す光ディスク1は、ポリ乳酸樹脂組成物からなる基板(1)上に、反射層(2)、記録層(3)、および光透過層(4)が順次積層形成されてなるものである。基板(1)には、その上部表面にデータ情報やトラッキングサーボ信号等の記録がなされる位相ピットや、プリグルーブ等の微細な凸凹等の所定の凸凹パターンからなるグルーブが形成されている。また、図2に示す光ディスク2は、ポリ乳酸樹脂組成物からなる基板(1)上に、第1の反射層(5)、第1の記録層(6)、中間層(7)、第2の反射層(8)、第2の記録層(9)、および光透過層(4)が順次複数積層された多層構造を有するものである。さらに、図3に示す光ディスク3では、ピット又はグルーブがポリ乳酸樹脂組成物からなる基板(1)の両面に設けられ、上面には第1の反射層(5)、第1の記録層(6)、および光透過層(4)が、下面には第2の反射層(8)、第2の記録層(9)、および光透過層(4)が、それぞれ順次積層形成されている。なお、これら図1〜図3に示す光ディスクを構成する基板、反射層、記録層、光透過層等の材料としては、それぞれ同一もしくは類似の特性を持つ材料が使用可能である。
【0109】
さらに、図4には、記録層の上下の層に誘電体層が設けられた構成を有する多層構造の光ディスク4を示す。このディスク4では、基板(1)の上に、反射膜(10)、第1の誘電体層(11)、相変化型記録層(12)、第2の誘電体層(13)が積層されており、さらにその表面を光透過層(14)で被覆している。かかる層構成における各層の厚みの一例としては、基板1.1mm、反射膜60nm、第1の誘電体層19nm、相変化型記録層24nm、第2の誘電体層100nm、そして光透過層100μmである態様が例示される。
【0110】
本発明では、既に詳述したポリ乳酸樹脂からなる光ディスク基板を有する限り、その上に積層される層の構成や数等にかかわらず、本発明の範囲に包含される。
【0111】
本発明の光ディスク基板は、射出成形品においても、示差走査熱量計(DSC)測定の昇温過程におけるポリ乳酸に由来する融解ピークにおいて、195℃以上の融解ピークの割合が70%以上であることが好ましく、更に好ましくは80%以上、更に好ましくは90%以上、特に好ましくは95%以上である。195℃以上の融解ピークの割合が大きいほど、成形品の耐加水分解性が高くなる。
【0112】
融点は、195〜250℃の範囲が好ましく、より好ましくは200〜220℃の範囲である。融解エンタルピーは、20J/g以上が好ましく、より好ましくは30J/g以上である。
【0113】
具体的には、示差走査熱量計(DSC)測定の昇温過程におけるポリ乳酸に由来する融解ピークにおいて、195℃以上の融解ピークの割合が70%以上であり、融点が195〜250℃の範囲にあり、融解エンタルピーが20J/g以上であることが好ましい。
【実施例】
【0114】
以下、実施例により本発明を詳述する。ただし、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0115】
下記の製造例に示す方法により、ポリ乳酸単位の製造を行った。また実施例中における各値は下記の方法で求めた。
(1)還元粘度:ポリ乳酸単位0.12gを10mLのテトラクロロエタン/フェノール(容量比1/1)に溶解し、35℃における還元粘度(mL/g)を測定した。
(2)重量平均分子量(Mw):ポリ乳酸単位の重量平均分子量はGPC(カラム温度40℃、クロロホルム)により、ポリスチレン標準サンプルとの比較で求めた。
(3)結晶化点、融点:ポリ乳酸単位をDSCを用いて、窒素雰囲気下、昇温速度20℃/分で測定し、結晶化点(Tc)および融点(Tm)を求めた。
【0116】
<製造例1:ポリ乳酸単位A−3成分の製造>
L−ラクチド(株式会社武蔵野化学研究所)50重量部を重合槽に加え、系内を窒素置換した後、ステアリルアルコール0.05重量部、触媒としてオクチル酸スズ25×10−3重量部を加え、190℃、2時間、重合を行い、ポリ乳酸単位A−3成分を得た。得られたポリ乳酸単位A−3成分の還元粘度は1.48(mL/g)、重量平均分子量11万であった。融点(Tm)は158℃であった。結晶化点(Tc)は117℃であった。
【0117】
<製造例2:ポリ乳酸単位A−6成分の製造>
D−ラクチド(株式会社武蔵野化学研究所)50重量部を重合槽に加え、系内を窒素置換した後、ステアリルアルコール0.05重量部、触媒としてオクチル酸スズ25×10−3重量部を加え、190℃、2時間、重合を行い、ポリ乳酸単位A−6成分を得た。得られたポリ乳酸単位A−6成分の還元粘度は1.95(mL/g)、重量平均分子量11万であった。融点(Tm)は158℃であった。結晶化点(Tc)は121℃であった。
【0118】
<製造例3:ポリ乳酸単位A−2成分の製造>
L−ラクチド(株式会社武蔵野化学研究所製)48.75重量部とD−ラクチド(株式会社武蔵野化学研究所製)1.25重量部を重合槽に加え、系内を窒素置換した後、ステアリルアルコール0.05重量部、触媒としてオクチル酸スズ25×10−3重量部を加え、190℃、2時間、重合を行い、ポリマーを製造した。このポリマーを7%5N塩酸のアセトン溶液で洗浄し、触媒を除去し、ポリ乳酸単位A−2成分を得た。得られたポリ乳酸単位A−2成分の還元粘度は1.47(mL/g)、重量平均分子量10万であった。融点(Tm)は159℃であった。結晶化点(Tc)は120℃であった。
【0119】
<製造例4:ポリ乳酸単位A−5成分の製造>
L−ラクチド(株式会社武蔵野化学研究所)1.25重量部とD−ラクチド(株式会社武蔵野化学研究所)48.75重量部を重合槽に加え、系内を窒素置換した後、ステアリルアルコール0.05重量部、触媒としてオクチル酸スズ25×10−3重量部を加え、190℃、2時間、重合を行い、ポリマーを製造した。このポリマーを7%5N塩酸のアセトン溶液で洗浄し、触媒を除去し、ポリ乳酸単位A−5成分を得た。得られたポリ乳酸単位A−5成分の還元粘度は1.76(mL/g)、重量平均分子量12万であった。融点(Tm)は156℃であった。結晶化点(Tc)は120℃であった。
【0120】
<製造例5:ポリ乳酸1の製造>
製造例1で得られたポリ乳酸単位A−3成分100重量部、および製造例2で得られたポリ乳酸単位A−6成分100重量部を、径30mmφのベント式二軸押出機[(株)日本製鋼所製TEX30XSST]に供給し、シリンダー温度280℃、スクリュー回転数150rpm、吐出量10kg/h、およびベント減圧度3kPaで溶融押出してペレット化し、ポリ乳酸1を得た。
【0121】
<製造例6:ポリ乳酸2の製造>
製造例3で得られたポリ乳酸単位A−2成分100重量部、および製造例4で得られたポリ乳酸単位A−5成分100重量部を、径30mmφのベント式二軸押出機[(株)日本製鋼所製TEX30XSST]に供給し、シリンダー温度230℃、スクリュー回転数150rpm、吐出量10kg/h、およびベント減圧度3kPaで溶融押出してペレット化し、ポリ乳酸2を得た。
【0122】
<製造例7:ポリ乳酸3の製造>
シリンダー温度を260℃とする他は、すべて製造例6と同じ条件にて、ポリ乳酸3を得た。
【0123】
<製造例8:ポリ乳酸4の製造>
シリンダー温度を280℃とする他は、すべて製造例6と同じ条件にて、ポリ乳酸4を得た。
【0124】
<製造例9:ポリ乳酸5の製造>
製造例3で得られたポリ乳酸単位A−2成分100重量部、製造例4で得られたポリ乳酸単位A−5成分100重量部、及びカルボジイミド化合物(カルボジライトHMV−8CA:日清紡(株)製)1重量部を、径30mmφのベント式二軸押出機[(株)日本製鋼所製TEX30XSST]に供給し、シリンダー温度280℃、スクリュー回転数150rpm、吐出量10kg/h、およびベント減圧度3kPaで溶融押出してペレット化し、ポリ乳酸5を得た。
【0125】
下記の実施例、比較例に示す方法により、ISO178に準拠した曲げ試験片、およびディスク成形品の製造を行った。また実施例中における各値は下記の方法で求めた。
(1)195℃以上の融解ピークの割合:DSCを用いて、窒素雰囲気下、昇温速度20℃/分で測定し、195℃以上の融解ピークの割合(%)を、195℃以上(高温)の融解ピーク面積と140〜180℃(低温)融解ピーク面積から以下の式により算出した。
195以上(%)=A195以上/(A195以上+A140〜180)×100
195以上:195℃以上の融解ピークの割合
195以上:195℃以上の融解ピーク面積
140〜180:140〜180℃の融解ピーク面積
(2)曲げ強度:ISO178に準拠して曲げ強度を測定した。試験片形状:長さ80mm×幅10mm×厚み4mm。
(3)曲げ弾性率:ISO178に準拠して曲げ弾性率を測定した。試験片形状:長さ80mm×幅10mm×厚み4mm。
(4)耐熱性:ISO75−1および2に準拠して、荷重たわみ温度を測定した。荷重:1.80MPa。
(5)耐加水分解性:ISO178曲げ試験片を、プレッシャークッカー試験機にて、120℃×100%相対湿度の条件にて8時間処理した後の分子量を、処理前の値に対する保持率で評価した。
(6)ディスク基板転写率:光ディスク成形品に転写した溝の深さを、原子力顕微鏡(セイコー電子工業:SPI3700)を用いて、中央から外周へ40mmの位置にて5箇所を測定した。転写性は次式:
転写率(%)=100×ディスクの溝深さ/スタンパーの溝深さ
で示される転写率として示した。この値が100%に近いほど転写性に優れている。
(7)ディスク基板表面状態:光ディスク成形品の表面状態を、共焦点反射顕微鏡(オリンパス光学工業(株)製:MX50)を用い、光ディスク基板のスタンパー非転写面側、スタンパー中央から外周へ40mmの位置で観察し、下記の基準にて判断した。
○:異物の浮きや微細なヒケといった平滑異常が全く認められないもの
△:平滑異常が僅かに認められるもの
×:平滑異常が明らかに認められるもの
(8)ディスク基板耐熱性:光ディスク成形品に対して、JIS S 8605に定める条件(55℃、70%相対湿度、96時間)の耐熱処理を実施した後に、市販のCDプレーヤーにて問題無く再生できれば○、再生できなければ×と判定した。
【0126】
原料としては、以下のものを用いた。
(B成分)
B−1:タルク(巴工業(株)製:HiTalc Premium HTP ultra 5C)
(その他成分)
P−1:ジステアリルペンタエリスリトールジホスファイト(旭電化工業(株)製:アデカスタブPEP−8)
【0127】
<実施例1〜3、比較例1〜5>
表2に示す組成でポリ乳酸、結晶核剤およびリン系安定剤をタンブラーを用いて均一に混合して予備混合物を作成し、かかる混合物を径30mmφのベント式二軸押出機[(株)日本製鋼所製TEX30XSST]の第1供給口より供給し、シリンダー温度260℃、スクリュー回転数150rpm、吐出量20kg/h、およびベント減圧度3kPaで溶融押出してペレット化した。
【0128】
スクリュー構成はサイドフィーダー位置以前に第1段のニーディングゾーン(送りのニーディングディスク×2、送りのローター×1、戻しのローター×1および戻しニーディングディスク×1から構成される)を、サイドフィーダー位置以後に第2段のニーディングゾーン(送りのローター×1、および戻しのローター×1から構成される)を設けてあった。
【0129】
得られたペレットを100℃で5時間、熱風循環式乾燥機により乾燥した。乾燥後、射出成形機(東芝機械(株)製:IS−150EN)により、金型温度を表2記載の温度、シリンダー温度240℃、成形サイクル180秒の条件で、曲げ強度、曲げ弾性率、および荷重たわみ温度評価用の試験片を成形した。また上記乾燥ペレットを用いて、射出成形機((株)名機製作所製:M35B−D−DM)、およびCD用スタンパー(ピット深さ100nm、ピット列間隔1.6μm)を用いて、金型温度は表2記載の温度、シリンダー温度250℃、成形サイクル60秒の条件で直径120mm、厚さ1.2mmの光ディスク基板を成形した。これらの成形品を用いて各特性を測定した。それらの射出成形性および測定結果を表2に示す。
【0130】
【表2】

【0131】
表2の結果から明らかな通り、特定の組合せで得られたポリ乳酸を特定の方法で混合して得られた組成物は、射出成形性に優れ、得られる成形品は耐熱性が向上すると共に、耐加水分解性も向上していることがわかる。更に、ディスク基板成形品においては、転写率も向上し、かつ基板の表面性も良好となることから、精密転写性に優れたディスク基板成形品が得られていることもわかる。
【図面の簡単な説明】
【0132】
【図1】本発明に係る基板を用いた光ディスクの一例を示すディスク面の垂直断面の部分的模式図である。
【図2】本発明に係る基板を用いた光ディスクの他の一例を示すディスク面の垂直断面の部分的模式図である。
【図3】本発明に係る基板を用いた光ディスクの他の一例を示すディスク面の垂直断面の部分的模式図である。
【図4】本発明に係る基板を用いた光ディスクの他の一例を示すディスク面の垂直断面の部分的模式図である。
【符号の説明】
【0133】
1:基板
2:反射層
3:記録層
4:光透過層
5:第1の反射層
6:第1の記録層
7:中間層
8:第2の反射層
9:第2の記録層
10:反射膜
11:第1の誘電体層
12:相変化型記録層
13:第2の誘電体層
14:光透過層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)示差走査熱量計(DSC)測定において、昇温過程における融解ピークのうち、195℃以上の融解ピークの割合が70%以上であるポリ乳酸(A成分)を、金型温度80〜130℃の範囲で射出成形して得られる光ディスク基板。
【請求項2】
ポリ乳酸(A成分)は、(A−1)L−乳酸単位90〜100モル%と、D−乳酸単位および/または乳酸以外の共重合成分単位0〜10モル%とにより構成されるポリ乳酸単位(A−1成分)と、(A−4)D−乳酸単位90〜100モル%と、L−乳酸単位および/または乳酸以外の共重合成分単位0〜10モル%とにより構成されるポリ乳酸単位(A−4成分)からなり、A−1成分とA−4成分の重量比(A−1成分/A−4成分)が10/90〜90/10の範囲にある請求項1に記載の光ディスク基板。
【請求項3】
ポリ乳酸(A成分)は、(1)(A−1)ポリ乳酸単位(A−1成分)および、(A−5)D―乳酸単位90〜99モル%と、L−乳酸単位および/または乳酸以外の共重合成分単位1〜10モル%とにより構成されるポリ乳酸単位(A−5成分)からなり、A−1成分とA−5成分の重量比(A−1成分/A−5成分)が10/90〜90/10の範囲にある、または
(2)(A−4)ポリ乳酸単位(A−4成分)および、(A−2)L―乳酸単位90〜99モル%と、D−乳酸単位および/または乳酸以外の共重合成分単位1〜10モル%とにより構成されるポリ乳酸単位(A−2成分)からなり、A−4成分とA−2成分の重量比(A−4成分/A−2成分)が10/90〜90/10の範囲にある請求項2に記載の光ディスク基板。
【請求項4】
ポリ乳酸(A成分)は、(A−2)ポリ乳酸単位(A−2成分)および、(A−5)ポリ乳酸単位(A−5成分)からなり、A−2成分とA−5成分の重量比(A−2成分/A−5成分)が10/90〜90/10の範囲にある請求項2に記載の光ディスク基板。
【請求項5】
ポリ乳酸(A成分)は、(A−3)L−乳酸単位99モル%を超え100モル%以下と、D−乳酸単位および/または乳酸以外の共重合成分単位0モル%以上1モル%未満とにより構成されるポリ乳酸単位(A−3成分)および、(A−5)ポリ乳酸単位(A−5成分)からなり、A−3成分とA−5成分の重量比(A−3成分/A−5成分)が10/90〜90/10の範囲にある請求項2に記載の光ディスク基板。
【請求項6】
ポリ乳酸(A成分)は、(A−6)D−乳酸単位99モル%を超え100モル%以下と、L−乳酸単位および/または乳酸以外の共重合成分単位0モル%以上1モル%未満とにより構成されるポリ乳酸単位(A−6成分)および、(A−2)ポリ乳酸単位(A−2成分)からなり、A−6成分とA−2成分の重量比(A−6成分/A−2成分)が10/90〜90/10の範囲にある請求項2に記載の光ディスク基板。
【請求項7】
ポリ乳酸(A成分)は、(A−1)L−乳酸単位90〜100モル%と、D−乳酸単位および/または乳酸以外の共重合成分単位0〜10モル%とにより構成されるポリ乳酸単位(A−1成分)と、(A−4)D−乳酸単位90〜100モル%と、L−乳酸単位および/または乳酸以外の共重合成分単位0〜10モル%とにより構成されるポリ乳酸単位(A−4成分)からなり、A−1成分とA−4成分の重量比(A−1成分/A−4成分)が10/90〜90/10の範囲になるように共存させ、245〜300℃で熱処理することにより混合されたポリ乳酸である請求項2に記載の光ディスク基板。
【請求項8】
ポリ乳酸(A成分)は、(1)(A−1)ポリ乳酸単位(A−1成分)および、(A−5)D―乳酸単位90〜99モル%と、L−乳酸単位および/または乳酸以外の共重合成分単位1〜10モル%とにより構成されるポリ乳酸単位(A−5成分)からなり、A−1成分とA−5成分の重量比(A−1成分/A−5成分)が10/90〜90/10の範囲になるように共存させ、245〜300℃で熱処理することにより予め混合されたポリ乳酸、または、
(2)(A−4)ポリ乳酸単位(A−4成分)および、(A−2)L―乳酸単位90〜99モル%と、D−乳酸単位および/または乳酸以外の共重合成分単位1〜10モル%とにより構成されるポリ乳酸単位(A−2成分)からなり、A−4成分とA−2成分の重量比(A−4成分/A−2成分)が10/90〜90/10の範囲になるように共存させ、245〜300℃で熱処理することにより混合されたポリ乳酸である請求項3に記載の光ディスク基板。
【請求項9】
ポリ乳酸(A成分)は、(A−2)ポリ乳酸単位(A−2成分)および、(A−5)ポリ乳酸単位(A−5成分)からなり、A−2成分とA−5成分の重量比(A−2成分/A−5成分)が10/90〜90/10の範囲になるように共存させ、245〜300℃で熱処理することにより混合されたポリ乳酸である請求項4に記載の光ディスク基板。
【請求項10】
ポリ乳酸(A成分)は、(A−3)L−乳酸単位99モル%を超え100モル%以下と、D−乳酸単位および/または乳酸以外の共重合成分単位0モル%以上1モル%未満とにより構成されるポリ乳酸単位(A−3成分)および、(A−5)ポリ乳酸単位(A−5成分)からなり、A−3成分とA−5成分の重量比(A−3成分/A−5成分)が10/90〜90/10の範囲になるように共存させ、245〜300℃で熱処理することにより混合されたポリ乳酸である請求項5に記載の光ディスク基板。
【請求項11】
ポリ乳酸(A成分)は、(A−6)D−乳酸単位99モル%を超え100モル%以下と、L−乳酸単位および/または乳酸以外の共重合成分単位0モル%以上1モル%未満とにより構成されるポリ乳酸単位(A−6成分)および、(A−2)ポリ乳酸単位(A−2成分)からなり、A−6成分とA−2成分の重量比(A−6成分/A−2成分)が10/90〜90/10の範囲になるように共存させ、245〜300℃で熱処理することにより混合されたポリ乳酸である請求項6に記載の光ディスク基板。
【請求項12】
(B)結晶核剤(B成分)を、ポリ乳酸成分(A成分)100重量部あたり0.01〜5重量部含んでなる請求項1〜11のいずれかに記載の光ディスク基板。
【請求項13】
結晶核剤(B成分)は、タルクである請求項12に記載の光ディスク基板。
【請求項14】
示差走査熱量計(DSC)測定において、昇温過程における融解ピークのうち、195℃以上の融解ピークの割合が70%以上である請求項1〜13項に記載の光ディスク基板。
【請求項15】
(C)末端封鎖剤(C成分)を、ポリ乳酸成分(A成分)100重量部あたり、0.01〜5重量部を含んでなる請求項1〜14のいずれかに記載の光ディスク基板。
【請求項16】
上記光ディスク基板は、該基板上に少なくとも光透過層が積層されており、光透過層側から光が照射されて情報信号の記録および/または再生が行われる光ディスクにおける基板であることを特徴とする請求項1〜15のいずれかに記載の光ディスク基板。
【請求項17】
上記光ディスク基板は、該基板上に反射層、記録層および光透過層が積層されており、かつ記録層は反射層と光透過層との間に存在する光ディスクにおける基板であることを特徴とする請求項16に記載の光ディスク基板。
【請求項18】
上記光ディスク基板は、該基板上に記録層あるいは反射層が複数積層されてなる多層構造を形成してなる光ディスクにおける基板であることを特徴とする請求項16または17に記載の光ディスク基板。
【請求項19】
請求項1〜18のいずれかに記載の光ディスク基板を用いたことを特徴とする光学情報記録媒体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−193875(P2007−193875A)
【公開日】平成19年8月2日(2007.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−9763(P2006−9763)
【出願日】平成18年1月18日(2006.1.18)
【出願人】(000215888)帝人化成株式会社 (504)
【出願人】(000003001)帝人株式会社 (1,209)
【Fターム(参考)】