説明

光ディスク装置および光ディスクの再生方法

【課題】PLL回路を安定動作させることによって、PRML回路の動作を安定させること。
【解決手段】光ディスクに光ビームを照射し、その反射光から検出したRF信号を、第1の等化手段(HD DVD用等価回路23)に供給する。第1の等化手段では光ディスクに記録された最小記録信号に相当する周波数帯域をブーストする。ブーストされたRF信号に基づいてクロック生成手段(PLL回路50)によりクロック信号を生成する。前記クロック生成手段によって生成されたクロック信号および等化係数に基づいて、RF信号を第2の等化手段(等価器41)によってパーシャルレスポンス波形信号に等化し、更に、クロック生成手段によって生成されたクロック信号に基づいて、パーシャルレスポンス波形信号を最尤復号して再生信号を出力する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高密度化された光ディスクからPLL回路を用いて信号を再生する光ディスク装置および光ディスクの再生方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来,光ディスクでは,再生信号レベルがあるしきい値よりも高いか低いかにより,レベルスライスにて二値化してきた。しかし,High Definition Digital Versatile Disc(HD DVD)では,高密度化により再生信号の振幅が低下するため,レベルスライスによる二値化では多くの識別誤りが発生しやすい。そこで,HD DVD(High Definition Digital Versatile Disc)では,再生信号の二値化にPartial Response Maximum Likelihood(PRML)が採用されている(非特許文献1)。
【0003】
HD DVDの再生信号処理ブロックが非特許文献1の図1に示されている。このうち等化器とビタビ復号器とで,PRMLを実行する。RF信号(再生信号)が等化器を通り、ビタビ復号器で実波形から理想波形へ修正されて、再生信号として使われる。図1の回路を正常に動作させるためには、PRML専用のPLL回路をまず正常に動作させなければならない。
【非特許文献1】東芝レビュー:Vol.60 No.1 (2005), P25-P28 「HD DVDの再生信号処理技術」、柏原裕
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
高密度化された光ディスクからPRML処理を行って信号を再生する場合、PRMLを安定に動作させるためにまずPLL動作を安定させる必要がある。
【0005】
本発明の目的は、PLL回路を安定動作させることによって、PRML回路の動作を安定させることが可能な光ディスク装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一例に係わる光ディスク装置は、光ディスクに光ビームを照射し、前記光ディスクからの反射光を受光しRF信号として出力するピックアップ手段と、前記ピックアップ手段からのRF信号を光ディスクに記録された最小記録信号に相当する周波数帯域をブーストする第1の等化手段と、前記第1の等化手段によってブーストされたRF信号からクロック信号を生成するクロック生成手段と、前記クロック生成手段によって生成されたクロック信号および等化係数に基づいて、前記RF信号または前記ブーストされたRF信号をパーシャルレスポンス波形信号に等化する第2の等化手段と、前記クロック生成手段によって生成されたクロック信号に基づいて、前記パーシャルレスポンス波形信号を最尤復号して再生信号を出力する復号部とを具備することを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
PLL回路を安定動作させることによって、PRML回路の動作を安定させることが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下に、HD DVD(High Definition Digital Versatile Disc)系メディア、および非HD DVD系メディアを再生可能な光ディスク装置について説明する。
【0009】
図1は本発明の第1の実施形態にかかる光ディスク装置の構造を概略的に示す図、図2はこの光ディスク装置に組込まれた光ピックアップの構成を示すブロック図である。
【0010】
本実施形態の光ディスク装置は、図1に示すように、ディスク1を回転駆動するディスクモータ2と、ディスク1に記録された信号を読出すピックアップ3と、ピックアップ3をディスク1の半径方向に移動するフィードモータ4と、マイコン、信号処理回路等が搭載されたメイン基板とから主に構成されている。フィードモータ4にはモータの回転周波数、回転数あるいは回転方向などのモータの回転状態を検知する検知手段が設けられており、その検知手段からの出力信号を送りモータ駆動信号回路にて使用することにより、トラックサーチ時に送りモータを制御する。
【0011】
ピックアップ3には、図2に示すように、レーザ光を発光する発光ダイオード5と、図示しないワイヤあるいは板バネによって支持され発光ダイオード5より発光されたレーザ光を収束しディスク1の表面に照射する対物レンズ6と、フォーカス方向およびトラッキング方向に対物レンズ6をそれぞれ移動制御するためのフォーカシングコイル7およびトラッキングコイル8と、ディスク1からの反射光を受光するディテクタ9と、ディスク1からの反射光をモニタし発光ダイオード5へフィードバックを行うモニタディテクタ10が主に設けられている。
【0012】
図3は上記ピックアップ3を含む回路ブロックを示す図であり、ピックアップ3で読み出された信号が供給されるアナログ信号処理部20と、アナログ信号処理部20で増幅された信号が供給されるDSP(デジタル・シグナルプロセッサ)12を有する。
【0013】
図3に示されるように、アナログ信号処理部20に接続されるピックアップ3は、4分割ディテクタ9と、CD用のトラックエラー信号作成のためのサブビームディテクタ13、14を有しており、更に、光ディスクに照射するレーザ光を発生する発光ダイオード5、発生したレーザ光と光ディスク1からの反射光を分離するスプリッタ15と、対物レンズ6及び、4分割ディテクタ9の手前に配置される集光レンズ16とを有している。
【0014】
発光ダイオード5から発せられる光ビームは、スプリッタ15、対物レンズ6を介して光ディスク1上に照射され、光ディスク1からの反射光は、対物レンズ6、スプリッタ15、集光レンズ16を介して、4分割ディテクタ9に導かれる。
【0015】
4分割ディテクタ9は、光検出セル9a、9b、9c、9dの4分割の受光素子から成る。
【0016】
光検出セル9a、9b、9c、9d並びにサブビームディテクタ13、14の出力はアナログ信号処理部20に入力され、このアナログ信号処理部は各信号を増幅して加算・減算を行い、トラッキングエラー信号(TE)、フォーカスエラー信号(FE)、RF信号、MIRR信号を出力する。
【0017】
トラッキングエラー(TE)信号とフォーカスエラー(FE)信号は、光ディスクのサーボ信号で対物レンズ6のトッラッキングおよびフォーカシングのサーボ動作を行うための信号である。RF信号は読取った再生データ信号で、MIRR信号はRF信号の包絡線(エンベロープ)を示すである。
【0018】
RFアンプ21は、光検出器9の光検出セル9a、9b、9c、9dの出力信号の加算/増幅を行ってRF信号を生成する。
【0019】
即ち、光検出セル9a、9b、9c、9dの出力をそれぞれA、B、C、Dとすると、RFアンプ21は、RF=A+B+C+Dなる信号により高周波信号RFを生成する。
【0020】
同様にアナログ信号処理部20はFE=(A+C)−(B+D)なる信号によりフォーカスエラー信号FEを生成し、また、TE=(A+B)−(C+D)なる信号によりトラッキングエラー信号TEを生成する。
【0021】
ミラー(MIRR)信号は、RF波形のピークとボトムを検知し{(ピーク)−(ボトム)}の演算をすることで作成される。このMIRR信号は、レンズジャンプしたとき、つまり駆動コイル11を用いてレンズをトラッキング方向に複数トラック分移動したとき、実際に何トラック移動したかを確認するために用いられる。
【0022】
尚、CD再生時のトラックエラー(TE)信号は、サブビームディテクタ13の出力電流Eとサブビームディテクタ14の出力電流Fとの差演算(E−F)により作成される。
【0023】
DSP12はCPU17に接続されており、CPU17からの指示に基づき動作する。
【0024】
次に、RF振幅の調整について説明する。光ディスク機器でのRF振幅調整は、MIRR信号を基に目標となるRF振幅値を目指して調整を行うものであり、具体的には、DSP12にあるAD変換器で現状のMIRR信号レベルを読取り、前もって設定された目標値と比較を行い、その結果をもとにしてRFアンプ21におけるRF振幅を調整する。
【0025】
RFアンプ21で増幅処理されたRF信号は、切り替え器22を介してHD DVD系メディアに対応するHD DVD用等化回路23、またはCD系メディアとDVD系メディアに対応するCD/DVD用等化回路24に供給されている。切り替え器22は光ディスクを入れた時のメディア判別に伴い、どちらの等化回路23,24に信号を供給するのかを決定する。
【0026】
CD/DVD用等化回路24では、例えばジッターが最良になるよう、或いはRF信号のスライスレベルが最適となるようブースト量などが最適化される。つまり読み率が最も良くなるように設定される。
【0027】
メディアがHD DVDの場合、HD DVD用等化回路でPLL回路50が確実に動作するように処理を行う。処理が行われたRF信号は、PLL回路50およびA/D変換器30に供給される。A/D変換器30でデジタル変換された信号は、PRML処理部40に供給される。PRML処理部40では、PRML処理を行った後、DSP12に供給する。
【0028】
PLL回路およびPRML処理部の構成を、図4を参照して説明する。
【0029】
PLL回路50では、A/D変換器30によってデジタル変換されたRF信号が位相比較器51に入力される。位相比較器51は、RF信号と電圧制御発振器(VCO)53から出力される比較信号との位相比較を行い、位相差成分をパルス状の位相差信号として出力する。位相差信号はループフィルタ(積分回路/ローパスフィルタ)52を通して、高周波成分が遮断され直流化される。直流化した信号が電圧制御発振器53に入力する。電圧制御発振器53は、一定の自走周波数を有し、位相差信号に応じて発振周波数を変化させる。電圧制御発振器53は、入力された信号を基に、発振周波数の調整を行って、クロック信号を出力する。クロック信号は比較信号として位相比較器51に供給される。又、電圧制御発振器53から出力されたクロック信号は、A/D変換器30、PRML処理部40に供給される。
【0030】
HD DVD用等化回路23から供給される信号は、A/D変換器30によってデジタル変換され、PRML処理部40の等化器41に供給される。等化器41は、等化係数算出部45によって算出される等化係数に基づいて、パーシャルレスポンス波形に等化する。ここでは、目標のパーシャルレスポンス波形をPR値(1,2,2,2,1)または(3,4,4,3)としている。なお、PR値は他のパターンを使用することも可能である。等化器41はPLL回路50から供給されるクロック信号によって駆動される。
【0031】
等化器41によって等化された信号は、ビタビ復号器42に供給される。ビタビ復号器42は、PLL回路50によって生成されたクロック信号によって駆動され、パーシャルレスポンス波形を最尤復号して、再生信号をDSP12および理想波形算出部43に供給する。理想波形算出部43は、再生信号を理想波形に変換する。変換された理想波形は、等化誤差検出器44に供給される。
【0032】
等化誤差検出器では、遅延器46を介して供給されたパーシャルレスポンス波形と理想波形とを比較することによって等化誤差を検出する。検出された等化誤差は等化係数算出部45に供給される。遅延器46は、パーシャルレスポンス波形と理想波形算出部43から供給された理想波形とが同じタイミングで等化誤差検出器44に入力されるように調整する。
【0033】
等化係数算出部45は、等化誤差検出器44によって検出された等化誤差と、A/D変換器30から遅延器47を介して供給された信号とから等化係数を算出し、算出した等化係数を等化器41に供給する。
【0034】
このPRML処理部40を動作させるためには、PLL回路50の安定な動作が不可欠となっている。PLL回路50を安定動作させるためには、DVDにはない最小信号2Tまで確実にPLLロック信号として使用しなければいけない。この2T信号は全信号の約3割を占めるため、2T信号の検出性能が大きく再生性能に関わってくる。従来、RF信号の再生能力を上げることを主目的にRF信号等化回路を調整してきたが、本装置ではPLLのロック性能を上げることにも考慮して、HD DVD用等化回路23の調整を行っている。
【0035】
PRML処理部40において、PRML処理を行うためにPLL回路50から供給されるクロック信号が必要である。PLL回路50において、PLLをロックするためには、最小信号2Tを含め全ての信号が必要となってくる。そこで、安定PLLのロックを実現するために、最小信号(2T信号)のブースト処理をHD DVD用等化回路23で行っている。図5(a)に示す2T信号をブーストすることにより、図5(b)に示すように2T信号の信号振幅が増幅しPLLロック性能の向上を実現できる。
【0036】
具体的なブースト設定は、図6のように行う。通常、DVDでは3dB程度、HD DVDでは6dB程度のブースト量が規定されている。しかし、HD DVDでは、十分なPLLロック性能を得るために、実験的に12dB以上24dB以下のブースト量が必要なことがわかった。原因として、実信号の品位の劣化が挙げられる。高周波であるため、ピックアップの光学的な帯域が不足しているような場合、2T信号成分が実際より小さくなってしまう現象が実験を通して明らかになった。更に、信号伝送経路にも信号劣化要因は散在しており、伝送経路そのものが低域通過フィルターとなってしまうケースもある。このような場合に高い周波数の2T信号は、信号振幅が実際より落ちてしまう。そのため、PLL回路を安定動作させるためには、2T信号をブーストする方法を取り入れることが必須となってくる。
【0037】
このように、2T信号をブーストする理由はPLL回路を安定に動作させるためである。従って、上記の実施形態ではブーストしたRF信号をPLL回路と共にPRML回路にも供給していたが、PLL回路にはブーストしたRF信号を供給し、PRML回路にはブーストしていないRF信号を供給するようにしてもよい。
【0038】
上述したように、HD DVDを再生する場合に、最小信号(2T信号)を選択的にブーストすることで、PLL回路が安定動作し、PRML処理部にクロック信号が安定して供給される。その結果、PRML処理部が安定動作し、エラーの発生を抑制することができる。
【0039】
なお、DVD系メディアの再生系にPRML技術を用いた場合にも、DVD系の最小信号(3T信号)を増幅することで、PLL回路が安定動作し、これによってPRML処理部が安定動作するので、エラーの発生を抑制することができる。
【0040】
なお、本発明は、上記実施形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上記実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合せにより種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。更に、異なる実施形態に亘る構成要素を適宜組み合せてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明の一実施形態に係わる光ディスク装置の構造を概略的に示す斜視図。
【図2】図1の光ディスク装置における光ピックアップの構成を示すブロック図。
【図3】図2のピックアップを含む回路ブロックを示す図。
【図4】HD DVDの再生を行うシステムを示すブロック図。
【図5】ブースト前の2T信号とブースト後の2T信号とを示す図。
【図6】DVD系メディアの3T信号とHD DVD系メディアの2T信号を示す図。
【符号の説明】
【0042】
1…光ディスク,20…アナログ信号処理部,21…RFアンプ,23…HD DVD用等化回路,30…A/D変換器,40…PRML処理部,41…等化器,42…ビタビ復号器,43…理想波形算出部,44…等化誤差検出器,45…等化係数算出部,46…遅延器,47…遅延器,50…PLL回路,51…位相比較器,52…ループフィルタ,53…電圧制御発振器。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光ディスクに光ビームを照射し、前記光ディスクからの反射光を受光しRF信号として出力するピックアップ手段と、
前記ピックアップ手段からのRF信号を光ディスクに記録された最小記録信号に相当する周波数帯域をブーストする第1の等化手段と、
前記第1の等化手段によってブーストされたRF信号に基づいてクロック信号を生成するクロック生成手段と、
前記クロック生成手段によって生成されたクロック信号および等化係数に基づいて、前記RF信号または前記ブーストされたRF信号をパーシャルレスポンス波形信号に等化する第2の等化手段と、
前記クロック生成手段によって生成されたクロック信号に基づいて、前記パーシャルレスポンス波形信号を最尤復号して再生信号を出力する復号部とを具備することを特徴とする光ディスク装置。
【請求項2】
前記パーシャルレスポンス波形としてパーシャルレスポンス値(1,2,2,2,1)または(3,4,4,3)を用いることを特徴とする請求項1記載の光ディスク装置。
【請求項3】
前記最小記録信号は2T信号であり、前記第1の等化手段によるブースト量は12dB以上24dB以下であることを特徴とする請求項1記載の光ディスク装置。
【請求項4】
光ディスクに光ビームを照射し、前記光ディスクからの反射光を受光しRF信号として出力するステップと、
前記RF信号を光ディスクに記録された最小記録信号に相当する周波数帯域をブーストするステップと、
前記ブーストされたRF信号からクロック信号を生成するステップと、
前記生成されたクロック信号に基づいて、前記RF信号または前記第1の等化手段によってブーストされたRF信号をパーシャルレスポンス波形に等化するステップと、
前記クロック生成手段によって生成されたクロック信号に基づいて、前記パーシャルレスポンス波形を最尤復号して再生信号を出力するステップとを具備することを特徴とする光ディスクの再生方法。
【請求項5】
前記パーシャルレスポンス波形としてパーシャルレスポンス値(1,2,2,2,1)または(3,4,4,3)を用いることを特徴とする請求項4記載の光ディスクの再生方法。
【請求項6】
前記最小記録信号は2T信号であり、前記第1の等化手段によるブースト量は12dB以上24dB以下であることを特徴とする請求項4記載の光ディスクの再生方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−102859(P2007−102859A)
【公開日】平成19年4月19日(2007.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−288758(P2005−288758)
【出願日】平成17年9月30日(2005.9.30)
【出願人】(504224854)東芝サムスン ストレージ・テクノロジー株式会社 (74)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】