説明

光パルス時間拡散装置

【目的】単一波長の光パルスの波長が変動してもこの変動の影響を受けず、かつ隣接する波長が割り当てられたチャンネルの光信号間のクロストークを低減することが可能である。
【解決手段】光ファイバの長さ方向に沿って直列にN個の単位FBGが配置されて構成されるSSFBが利用された第1〜第U光パルス時間拡散器を具えて構成される。これらの光パルス時間拡散器を構成している単位FBGのそれぞれは、屈折率変調が回折格子としての屈折率変調にsinc関数が乗算された関数として与えられ、この関数の極大を繋ぐ包絡線を与えるsinc関数の最大の極大値を取るピーク曲線で包絡される屈折率変調領域からのブラッグ反射光と、隣接する単位FGBにおけるsinc関数の最大の極大値を取るピーク曲線で包絡される屈折率変調領域からのブラッグ反射光の位相差がブラッグ反射光の半波長の奇数倍に設定されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、光多重伝送に利用される光パルス時間拡散装置に係り、特に、周期的屈折率分布構造体である単位ファイバブラック格子(FBG: Fiber Bragg Grating)が、光ファイバの導波方向に沿って複数配置されて構成される超格子構造ファイバブラック格子(SSFBG: Superstructured Fiber Bragg Grating)型光パルス時間拡散器を複数具えて構成される光パルス時間拡散装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、インターネットの普及等により通信需要が急速に増大しており、それに対応して通信の大容量化が図られている。通信の大容量化のための手法として注目されるのが、一本の光ファイバ伝送路に複数チャンネル分の光パルス信号をまとめて伝送する光多重伝送技術である。光多重伝送技術としては、光時分割多重(OTDM: Optical Time Division Multiplexing)方式、波長分割多重(WDM: Wavelength Division Multiplexing)方式及び光符号分割多重(OCDM:Optical Code Division Multiplexing)方式が盛んに研究されている。
【0003】
これらの光多重伝送技術の何れも、一本の光ファイバ伝送路で複数チャンネル分の光パルス信号をまとめて伝送することを可能とする技術であるので、既存の通信網をそのままとして、通信の大容量化が実現可能である。更に、これら光多重伝送技術を組み合わせることによって一層通信の大容量化が図られる。例えば、OCDM方式とOTDM方式を組み合わせた多重伝送システム(例えば、非特許文献1参照)、あるいはOCDM方式とWDM方式とを組み合わせた多重伝送システム(例えば、非特許文献2参照)等が検討されている。
【0004】
WDM方式の光多重伝送システムにあっては、多重するチャンネル数を増やすことに対応して、波長グリッド間隔を狭くする必要がある。波長グリッド間隔を狭くすると、光搬送波を生成する光源のドリフトの絶対値をこの波長グリッド間隔の範囲に収まるように十分小さくする必要がある。これが第1の課題である。光源のドリフトは、時間経過に従って周辺雰囲気温度の変動等に伴って発生する。光源のドリフトの絶対値の変動幅が波長グリッド間隔の範囲を超えると、WDM方式の多重伝送システムにあってはチャンネル識別能力が失われる。
【0005】
ちなみに、国際連合の国際電気通信連合(ITU: International Telecommunication Union)が定めるITU国際標準においては、100 GHz(約0.8 nm間隔)、50 GHz(約0.4 nm間隔)、等という具合にWDMグリッドが設定されている。
【0006】
また、WDM方式の多重伝送システムにおいては、多波長の光搬送波を生成する光源が必要である。多波長光源は高価である上、多重伝送システムに利用できる波長資源には限りがある。また、多波長光源の波長の長時間安定性を確保することは、可能であっても高度な技術を要しかつ高い製造コストがかかる。これが第2の課題である。
【0007】
この出願の発明者は、波長スペクトルが唯一の極大を持つ光パルスであっても、波長スペクトルが有限の幅を有している以上、この波長スペクトルを複数に分割し、その分割された波長成分のそれぞれにチャンネルを割り当てることが可能であることに着目した。また、この出願の発明者は、波長スペクトルが唯一の極大を持つ光パルスを発生する単一波長光搬送波発生光源の波長が雰囲気温度の変動に伴って変動しても、上述の波長成分の相違に基づくチャンネル識別能力に影響を与えない光多重方式を実現させることが可能であることを見出した。
【0008】
この光多重方式は、波長スペクトルを複数に分割しその分割された波長成分のそれぞれにチャンネルを割り当てることから擬似的なWDM方式であるといえる。また、以下に説明するように、波長スペクトルを複数に分割する手法がOCDMの手法と共通する。そこで、以下の説明においてこの波長多重方式をOCDM/WDMハイブリッド多重方式と記載する。
【0009】
OCDM/WDMハイブリッド多重方式は、SSFBGによって単一波長光搬送波発生光源の波長スペクトルを複数の波長成分に分割する方式であり、分割された波長成分はSSFBGの構造によって確定され、単一波長光搬送波発生光源の波長の揺らぎの影響が現れない。すなわち、SSFBGによって分割される波長成分はSSFBGの構造によって確定されるため、単一波長光搬送波発生光源の波長の揺らぎが発生しても、SSFBGによって分割される波長成分は変動しないからである。従って、OCDM/WDMハイブリッド多重方式においては、単一波長光搬送波発生光源の波長の揺らぎの影響を受けないでチャンネル識別が可能となるので、上述の第1及び第2の課題が解決される。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Klaus Grobe, Jorg-Peter Elbers, "PON Evolution from TDMA to WDM-PON", OFC NThD6 (2008)
【非特許文献2】Taro Hamanaka, Xu Wang, Naoya Wada, and Ken-ich Kitayama, "Demonstration of 16-user OCDMA over 3-wavelength WDM using 511-chip, 640 Gchip/s SSFBG en/decoder and single light source", OFC OMO1 (2007)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
この出願の発明者は、更に研究を進めた結果、上述のOCDM/WDMハイブリッド多重方式において、それぞれのSSFBGに設定されるブラッグ反射波長の間隔を狭め、多重するチャンネル数を増やした場合に、隣接する波長が割り当てられたチャンネルの光信号の波長スペクトルの裾野の部分が重なり合って両チャンネル間にクロストークが発生し、通信の精度が低下することを確かめた。従って、このクロストークを低減する方法が求められる。ここで、隣接する波長が割り当てられたチャンネルとは、それぞれに割り当てられた波長の波長差が最小である関係にあるチャンネルをいう。
【課題を解決するための手段】
【0012】
この出願の発明者は、SSFBGを構成する単位FBGのそれぞれを形成する周期的屈折率分布構造に対して、この周期的屈折率分布構造の屈折率変調をsinc関数でアポダイズすることによって、上述したクロストークを低減することが可能である事に想到した。
【0013】
そこで、この発明の目的は、単一波長の光パルスを利用することが可能であり、かつ単一波長の光パルスの波長が雰囲気温度の変動等に伴って変動しても、この変動の影響を受けない擬似的WDM方式の伝送システムを実現することが可能であるOCDM/WDMハイブリッド多重方式において、隣接する波長が割り当てられたチャンネルの光信号の波長スペクトルの裾野の部分が重なり合って発生するクロストークを低減することが可能である符号化及び復号化を行える光パルス時間拡散装置を提供することにある。
【0014】
ここで、用語「単一波長の光パルス」及び「擬似的WDM」について、以下のとおり定義する。すなわち、単一波長の光パルスとは、波長スペクトルが唯一の極大を有する光パルスをいうものとする。また、擬似的WDMとは、単一波長の光パルスの波長スペクトルを分割してそれぞれのチャンネルに割り当て、かつOCDM方式と併用することによって、チャンネル識別を波長スペクトルの成分の相違及び後述する符号の相違に基づき識別する方式を意味するものとする。
【0015】
波長スペクトルとは波長軸に対して表す光スペクトルであるのに対し、周波数スペクトルとは周波数軸に対して表す光スペクトルである。擬似的WDMについての説明においては、両者を特に区別する必要がないので、以下の説明においては波長スペクトルと記載する。
【0016】
通常のWDM方式では、波長スペクトルが複数の極大を有する光パルスを、各チャンネルにこの極大波長に対応させて分配し、これらの波長を識別することでチャンネルの識別が実現される。すなわち、通常のWDM方式における波長多重信号の光搬送波の波長スペクトルは複数の極大をとるのに対して、この発明の擬似的WDM方式における信号の光搬送波の波長スペクトルは単一の極大をとることに相違点がある。
【0017】
なお、以後の説明においては、符号及び復号という呼称を、従来の慣習からより拡張して広い意味に使うこととする。すなわち、光パルス信号を構成する光パルスを時間軸上に拡散する規則を、通常の意味での符号(狭義の符号ということもある。)に限定せず、一義的に確定する任意の規則(広義の符号ということもある。)であっても、上述の符号化及び復号化という呼称を用いる。従って、広義の符号の場合に対しても、符号化光パルス信号、チップパルス等の用語を使うものとする。
【0018】
また、以下に説明するこの発明の光パルス時間拡散装置を構成するSSFBGから出力されるチップパルスの列は、狭義の符号が設定されたSSFBGから出力されるチップパルスの列のように、厳密な意味での符号に基づいて光パルスが時間拡散されて生成されたものではない。しかしながら、以後の説明においては、便宜上、光パルスをチップパルスの列に変換することを符号化、チップパルスの列を自己相関波あるいは相互相関波として生成することを復号化ということもある。
【0019】
この発明の要旨によれば、以下の構成の光パルス時間拡散装置が提供される。
【0020】
この発明の光パルス時間拡散装置は、入力光パルスを、時間軸上に時間拡散して順次並ぶ、第1から第NチップパルスまでのN個のチップパルスから成るチップパルス列(Nは2以上の整数)として出力する第1〜第U光パルス時間拡散器(UはU≦Nを満たす1以上の整数)を具え、第1〜第U光パルス時間拡散器が並列、または直列に接続されて構成される光パルス時間拡散装置である。
【0021】
第1〜第U光パルス時間拡散器のそれぞれは、N個の単位FBGを具えるSSFBGを具えて構成されており、第1〜第U光パルス時間拡散器からそれぞれ出力される第1〜第Uチップパルス列のスペクトルがそれぞれ互いに異なるように、第p光パルス時間拡散器(pは1からUの全ての整数)のそれぞれにおいて、隣接して配置される単位FBG同士の間隔、及びこの第p光パルス時間拡散器における単位FBGのブラッグ反射波長が設定されている。
【0022】
そして、単位FBGのそれぞれは、屈折率変調が回折格子としての屈折率変調にsinc関数が乗算された関数として与えられ、この関数の極大を繋ぐ包絡線を与えるsinc関数の最大の極大値を取るピーク曲線で包絡される屈折率変調領域から反射されるブラッグ反射光と、隣接する単位FBGにおけるsinc関数の最大の極大値を取るピーク曲線で包絡される屈折率変調領域から反射されるブラッグ反射光の位相差がこのブラッグ反射光の半波長の奇数倍に設定されている。
【0023】
この発明の光パルス時間拡散装置において、好ましくは、第1〜第U光パルス時間拡散器からそれぞれ出力される第1〜第Uチップパルス列のスペクトルがそれぞれ互いに異なり、かつこのチップパルス列のエネルギーが均等の大きさとなるように、第p光パルス時間拡散器(pは1からUの全ての整数)のそれぞれにおいて、隣接して配置される単位FBG同士の間隔、及びこの第p光パルス時間拡散器における単位FBGのブラッグ反射波長を設定するのが良い。
【0024】
また、この発明の光パルス時間拡散装置において、好ましくは、SSFBGが具える各単位FBGを、光ファイバの長さ方向に沿って順次この単位FBGの屈折率変調の最大の極大値の大きさが増大させてありSSFBGの中心位置において最大となり、かつ中心位置をすぎると光ファイバの長さ方向に沿って順次この単位FBGの屈折率変調の最大の極大値の大きさが減少するように設定するのが良い。
【0025】
また、好ましくは、この発明の光パルス時間拡散装置の第p光パルス時間拡散器において、隣接して配置される単位FBG同士の間隔、及びこの第p光パルス時間拡散器における単位FBGのブラッグ反射波長を以下のとおりに構成するのがよい。
【0026】
第p光パルス時間拡散器が具える単位FBGに設定される、ブラッグ反射波長λBpが、入力光パルスの波長スペクトルのピーク波長をλsとして次式(1a)及び(1b)
λBp=λs+k(Δλs/U) (1a)
(ただし、Uが奇数の場合、kは|k|<U/2を満たす整数)
λBp=λs+(2k+1)(Δλs/2U) (1b)
(ただし、Uが偶数の場合、kは|k|<U/2を満たす整数)
で与えられる。
【0027】
単位FBGに設定されるブラッグ反射波長λBpの、最大波長λBmaxと最小波長λBminとの差λR=λBmax−λBminは、次式(2)
λR≦λs2/(2×L×neff) (2)
で与えられる範囲に設定されており、かつλsが次式(3)
λBmin≦λs≦λBmax (3)
で与えられる範囲に設定されている。
【0028】
第p光パルス時間拡散器の隣接する単位FBGから反射されるチップパルスの位相差φが、mを0以上の整数として、次式(4)
φ=(2m+1)(λBp/2) (4)
で与えられるように、第p光パルス時間拡散器において、隣接して配置される単位FBG同士の間隔、及びこの第p光パルス時間拡散器における単位FBGのブラッグ反射波長が設定されている。
【発明の効果】
【0029】
この発明の光パルス時間拡散装置は、入力光パルスを、時間軸上に時間拡散して順次並ぶ、第1から第NチップパルスまでのN個のチップパルスから成るチップパルス列として出力する第1〜第U光パルス時間拡散器を具え、第1〜第U光パルス時間拡散器からそれぞれ出力される第1〜第Uチップパルス列のスペクトルがそれぞれ互いに異なるように、第p光パルス時間拡散器のそれぞれにおいて、隣接して配置される単位FBG同士の間隔、及び当該第p光パルス時間拡散器における単位FBGのブラッグ反射波長が設定されている。
【0030】
そのため、この発明の光パルス時間拡散装置から出力されるチップパルスの波長スペクトルは第1〜第U光パルス時間拡散器の構造によって確定され、入力光パルスの波長スペクトルの変動の影響を受けない。従って、この発明の光パルス時間拡散装置を符号器及び復号器として利用すれば、光搬送波を発生する光源の波長が雰囲気温度の変動等に伴って変動してもこの変動の影響を受けない通信精度の高い光多重方式の光通信システムが実現される。
【0031】
また、この発明の光パルス時間拡散装置の第1〜第U光パルス時間拡散器のそれぞれは、SSFBGを具えて構成されており、SSFBGを構成している単位FBGのそれぞれは、当該単位FBGの屈折率変調が回折格子としての屈折率変調にsinc関数が乗算された関数として与えられ、この関数の極大を繋ぐ包絡線を与えるsinc関数の最大の極大値を取るピーク曲線で包絡される屈折率変調領域から反射されるブラッグ反射光と、隣接する単位FBGにおけるsinc関数の最大の極大値を取るピーク曲線で包絡される屈折率変調領域から反射されるブラッグ反射光の位相差がこのブラッグ反射光の半波長の奇数倍に設定されている。
【0032】
このように構成することにより、各SSFBGから反射されるブラッグ反射光の波長スペクトルの形状は、波長空間において矩形形状となる。そのため、この発明の光パルス時間拡散装置によれば、隣接するチャンネルのSSFBGによって符号化された互い光信号の波長スペクトルの波長空間における形状は、各チャンネルに割り当てられた波長を中心波長とする矩形となる。
【0033】
従って、波長が隣接するチャンネルのSSFBGによって符号化された互いの光信号の波長スペクトル同士が重なり合う部分は、上述のように屈折率変調量の極大を繋ぐ包絡線の形状の設定がなされていないSSFBGを利用する場合と比較して少なくなる。すなわち、この発明の光パルス時間拡散器を符号器及び復号器として利用する光多重通信システムを構築すれば、隣接するチャンネルのクロストークが小さく通信精度の高いシステムが実現される。
【0034】
ここで、屈折率変調を回折格子としての屈折率変調にsinc関数が乗算された関数として与えられるように構成することを回折格子としての屈折率変調をsinc関数によってアポダイズするということもある。一般に、アポダイズとは、周期的に変化する回折格子としての屈折率変化の振幅のピークの包絡線を、ガウスの誤差関数あるいは上述のsinc関数等で変調することをいう。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】この発明の実施形態の光パルス時間拡散装置の構造及びその動作についての説明に供する図である。(A)はこの発明の実施形態の光パルス時間拡散装置を構成する光パルス時間拡散器の構成要素であるSSFBGの概略的構成図であり、(B)は第1〜第U光パルス時間拡散器が並列に接続されて構成されるこの発明の実施形態の光パルス時間拡散装置の概略的ブロック構成図であり、(C)は第1〜第U光パルス時間拡散器が直列に接続されて構成されるこの発明の実施形態の光パルス時間拡散装置の概略的ブロック構成図である。
【図2】OCDM/WDMハイブリッド多重方式についての説明に供する模式的図である。
【図3】SSFBGの屈折率変調についての説明に供する図であり、(A)はSSFBGの屈折率変調の様子を模式的に示した図であり、(B)は単位FBGの内の2つ分を取り出して、屈折率変調の様子を拡大して示した図である。
【図4】SSFBGに順次配置される単位FBGの屈折率変調の大きさの分布についての説明に供する図である。
【図5】単位FBGごとの屈折率変調についての説明に供する図であり、(A)はSSFBGの屈折率変調の様子を模式的に示した図であり、(B)は単位FBGの内の2つ分を取り出して、屈折率変調の様子を拡大して示した図であり、(C-1)、(C-2)及び(C-3)はガウスの誤差関数によるアポダイズについての説明に供する図である。
【図6】単位FBGのそれぞれを形成する周期的屈折率分布構造の屈折率変調がsinc関数でアポダイズされた場合についての説明に供する図であり、(A)はSSFBGの屈折率変調の様子を模式的に示した図であり、(B)は単位FBGの内の2つ分を取り出して、屈折率変調の様子を拡大して示した図であり、(C-1)、(C-2)及び(C-3)は、sinc関数によるアポダイズについての説明に供する図である。
【図7】第1番目の単位FBGから第32番目の単位FBGまでの屈折率変調の極大点が上述したガウスの誤差関数でアポダイズされており、かつ単位FBGのそれぞれを形成する周期的屈折率分布構造の屈折率変調も、sinc関数でアポダイズされているSSFBGの反射スペクトルの説明に供する図であり、(A)〜(C)はそれぞれQ=1、2及び3である場合のSSFBGの反射スペクトルを示す図である。
【図8】この発明の実施形態の光パルス時間拡散装置による符号化及び復号化の動作についての説明に供する図であり、(A)はこの発明の実施形態の光パルス時間拡散装置を構成する何れか一つの光パルス時間拡散器によって光パルスがチップパルス列に変換されて符号化される様子を示す図であり、(B)は、符号化を行った光パルス時間拡散装置と同一の構成の光パルス時間拡散装置が具えるいずれか一つの光パルス時間拡散器による復号化の様子を示す図であり、(C)は復号器に入力されるチップパルス列を構成するN個のチップパルスのそれぞれが、復号器によってN個のチップパルスに変換され、これら合計(N×N)個のチップパルスの干渉によって自己相関波あるは相互相関波が生成される過程を説明する図である。
【図9】光パルス時間拡散器から出力される出力光の波長スペクトルの特性についての説明に供する図であり、(A)は屈折率変調にアポダイズが施されていない単位FBGで形成されるSSFBGを具える光パルス時間拡散器から出力される出力光の波長スペクトルを示す図であり、(B)は屈折率変調にガウスの誤差関数に基づくアポダイズが施されている単位FBGで形成されるSSFBGを具える光パルス時間拡散器から出力される出力光の波長スペクトルを示す図であり、(C)は屈折率変調に上述のようにsinc関数に基づくアポダイズが施されている単位FBGで形成されるSSFBGを具える光パルス時間拡散器から出力される出力光の波長スペクトルを示す図である。
【図10】単一波長帯域の裾野の部分が重なり合って発生するクロストークの大きさについての説明に供する図であり、(A)は屈折率変調にアポダイズが施されていない単位FBGで形成されるSSFBGを具える光パルス時間拡散器によって構成される光パルス時間拡散装置における単一波長帯域間のクロストークの様子を示す図であり、(B)は屈折率変調にsinc関数に基づくアポダイズが施されている単位FBGで形成されるSSFBGを具える光パルス時間拡散器によって構成される光パルス時間拡散装置における単一波長帯域のクロストークの様子を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0036】
以下、図を参照して、この発明の実施形態につき説明する。なお、各図は、この発明による実施形態に係る一構成例及びこれに関連するデータ等についての説明に供する図であり、この発明を図示例に限定するものではない。
【0037】
<光パルス時間拡散装置>
図1(A)から図1(C)を参照して、この発明の実施形態の光パルス時間拡散装置の構造及びその動作について説明する。
【0038】
図1(A)は、この発明の実施形態の光パルス時間拡散装置を構成する光パルス時間拡散器の構成要素であるSSFBGの概略的構成図である。図1(A)では、光ファイバの長さ方向に沿って直列にN個の単位FBGが、一定間隔Lを隔てて配置されて構成されているSSFBGの一例を概略的に示しており、単位FBGを縦縞の矩形で概略的に示し、光ファイバのコアあるいはクラッドの詳細な形状は省略して示してある。なお、各単位FBGの長さはDである。
【0039】
図1(B)では、この発明の実施形態の光パルス時間拡散装置において、第1〜第U光パルス時間拡散器が並列に接続されて構成される一例を示している。
【0040】
図1(B)に示すこの発明の実施形態の光パルス時間拡散装置は、入力光パルス11をU分割して、第1入力光パルス13-1〜第U入力光パルス13-Uを出力する光分岐器12を具えている。光分岐器12による入力光パルス11の分割は、入力光の強度分割をする通常の1入力U出力型の光分岐器によって実行される。
【0041】
第1入力光パルス13-1〜第U入力光パルス13-Uのそれぞれは、第1光パルス時間拡散器16-1〜第U光パルス時間拡散器16-Uの前段にそれぞれ設置された第1光サーキュレータ14-1〜第U光サーキュレータ14-Uに入力される。第1入力光パルス13-1〜第U入力光パルス13-Uは、それぞれ第1光サーキュレータ14-1〜第U光サーキュレータ14-Uを介して、第1光パルス時間拡散器16-1〜第U光パルス時間拡散器16-Uに入力される。
【0042】
第1光パルス時間拡散器16-1〜第U光パルス時間拡散器16-Uは、それぞれ第1入力光パルス13-1〜第U入力光パルス13-Uが入力されて、時間軸上に時間拡散して順次並ぶ第1から第NチップパルスまでのN個のチップパルスから成る、第1チップパルス列17-1〜第Uチップパルス列17-Uを第1光サーキュレータ14-1〜第U光サーキュレータ14-Uを介して出力する。
【0043】
第1光パルス時間拡散器16-1〜第U光パルス時間拡散器16-Uのそれぞれは、第1単位FBG〜第N単位FBGまでのN個の単位FBGを具えるSSFBGを具えて構成されている。そして、第1光パルス時間拡散器16-1〜第U光パルス時間拡散器16-Uからそれぞれ出力される第1チップパルス列17-1〜第Uチップパルス列17-Uのスペクトルがそれぞれ互いに異なるように、第p光パルス時間拡散器16-pにおいて、隣接して配置される単位FBG同士の間隔、及び当該第p光パルス時間拡散器16-pにおける単位FBGのブラッグ反射波長が設定されている。
【0044】
この発明の実施形態の光パルス時間拡散装置において、第1光パルス時間拡散器16-1〜第U光パルス時間拡散器16-Uからそれぞれ出力される第1チップパルス列17-1〜第Uチップパルス列17-Uのスペクトルがそれぞれ互いに異なりかつより好ましくはこれらのチップパルス列のエネルギーが均等の大きさとなるように、上述した隣接して配置される単位FBG同士の間隔及び第p光パルス時間拡散器16-pにおける単位FBGのブラッグ反射波長が設定されている。
【0045】
また、第1光パルス時間拡散器16-1〜第U光パルス時間拡散器16-Uを構成している単位FBGのそれぞれは、屈折率変調が回折格子としての屈折率変調にsinc関数が乗算された関数として与えられ、この関数の極大を繋ぐ包絡線を与えるsinc関数の最大の極大値を取るピーク曲線で包絡される屈折率変調領域から反射されるブラッグ反射光と、隣接する単位FGBにおけるsinc関数の最大の極大値を取るピーク曲線で包絡される屈折率変調領域から反射されるブラッグ反射光の位相差が当該ブラッグ反射光の半波長の奇数倍に設定されている。
【0046】
図1(C)では、この発明の実施形態の光パルス時間拡散装置において、第1光パルス時間拡散器26-1〜第U光パルス時間拡散器26-Uが直列に接続されて構成される一例を示している。
【0047】
図1(C)に示すこの発明の実施形態の光パルス時間拡散装置は、入力光パルス21がまず第1光パルス時間拡散器26-1の前段に設置されている第1光サーキュレータ24-1を介して第1光パルス時間拡散器26-1に入力されてブラッグ反射されて、時間軸上に時間拡散して順次並ぶ第1から第NチップパルスまでのN個のチップパルスから成る第1チップパルス列27-1を、再度第1光サーキュレータ24-1を介して外部に出力する。
【0048】
第1光パルス時間拡散器26-1に入力された入力光パルス21は、上述のようにブラッグ反射されて第1チップパルス列27-1として出力される成分のみではなく、第1光パルス時間拡散器26-1を透過する第1光パルス時間拡散器透過成分29-1もある。この第1光パルス時間拡散器透過成分29-1が第2光サーキュレータ24-2を介して第2光パルス時間拡散器26-2に入力さてブラッグ反射されて、時間軸上に時間拡散して順次並ぶ第1から第NチップパルスまでのN個のチップパルスから成る第2チップパルス列27-2として、再度第2光サーキュレータ24-2を介して外部に出力される。
【0049】
同様に、第p光パルス時間拡散器26-pから第pチップパルス列27-pが第p光サーキュレータ24-pを介して外部に出力され、最後に第U光パルス時間拡散器26-Uから第Uチップパルス列27-Uが、第U光サーキュレータ24-Uを介して外部に出力される。
【0050】
第1光パルス時間拡散器26-1〜第U光パルス時間拡散器26-Uのそれぞれの構成は、上述の第1光パルス時間拡散器16-1〜第U光パルス時間拡散器16-Uと同様である。以後の説明において第1光パルス時間拡散器16-1〜第U光パルス時間拡散器16-Uと第1光パルス時間拡散器26-1〜第U光パルス時間拡散器26-Uとを区別する必要がない場合は、第1〜第U光パルス時間拡散器と記載する。
【0051】
第1〜第Uチップパルス列において、スペクトルがそれぞれ互いに異なりかつこれらのチップパルス列のエネルギーが均等の大きさとなるように単位FBG同士の間隔及び単位FBGのブラッグ反射波長を設定するためには、上述の式(1a)、(1b)〜(4)を満足するように、第p光パルス時間拡散器が具える単位FBGのブラッグ反射波長λBp、及び第p光パルス時間拡散器の隣接する単位FBGから反射されるチップパルスの位相差φのそれぞれの値を設定すればよい。
【0052】
実際にこの発明の実施形態の光パルス時間拡散装置を作成するに当たっては、数値シミュレータ等を利用することによって、第1〜第U光パルス時間拡散器からそれぞれ出力される第1〜第Uチップパルス列の波長スペクトル等の特性を確認しながら、上述の式(1a)、(1b)〜(4)を満足する範囲に第p光パルス時間拡散器が具える単位FBGのブラッグ反射波長λBp、及び第p光パルス時間拡散器の隣接する単位FBGから反射されるチップパルスの位相差φのそれぞれの値を設定すればよい。
【0053】
図2を参照して、唯一の極大をもつ入力光パルスのスペクトル成分を複数に分割し、その分割されたスペクトル成分のそれぞれにチャンネルを割り当てることによるOCDM/WDMハイブリッド多重方式について説明する。図2は、横軸に入力光パルスの波長を任意スケールで目盛って示してあり、縦軸は省略してあるが縦軸方向に光強度の大きさを任意スケールで示してある。
【0054】
図2において、破線で示す釣鐘型の曲線は、入力光パルスの波長スペクトルであり、その半値全幅はΔλsである。このような波長スペクトルを有する光パルスがSSFBGに入射すると、SSFBGを構成する単位FBGのブラッグ波長λB及び単位FBGの配置間隔Lによって決まる反射波長帯域が決定される。図2では、第i光パルス時間拡散器を構成するSSFBGによるブラッグ反射スペクトル、及び第j光パルス時間拡散器を構成するSSFBGによるブラッグ反射スペクトルをそれぞれ異なるハッチングを付して示してある。ここで、i及びjは、i≠j、1≦i≦U、及び1≦j≦Uを満たす整数である。
【0055】
SSFBGの反射波長帯域は、入力光パルスの波長スペクトルの範囲に複数箇所存在するようにSSFBGを構成する単位FBGのブラッグ反射波長λB及び単位FBGの配置間隔Lを設定することが可能である。図2では、第i及び第j光パルス時間拡散器を構成するSSFBGの反射波長帯域が、それぞれ2箇所に存在する。SSFBGの反射波長帯域の帯域幅(2箇所にある反射波長帯域のそれぞれの帯域における帯域幅)は単位FBGから反射されるチップパルスの時間波形の逆数に比例する値に決定され、2箇所にある反射波長帯域の間隔ΔλBi及びΔλBjは、それぞれ単位FBGの配置間隔Lによって決定される。
【0056】
SSFBGの反射波長帯域が、入力光パルスの波長スペクトルの範囲に複数箇所存在するように設定されることによって、第1〜第U光パルス時間拡散器からそれぞれ出力される第1〜第Uチップパルス列のエネルギーが均等の大きさとなるように設定することが可能となる。
【0057】
この発明の実施形態の光パルス時間拡散装置を構成する光パルス時間拡散器に設定される符号の符号長Nは、この発明の実施形態の光パルス時間拡散装置が利用される光通信システムの利用可能なチャンネル数Uよりも大きな値に設定される。これは、符号によって識別可能であるチャンネル数Uは符号長Nを上回ることができないためである。
【0058】
N個の単位FBGを直列に配置されて形成される光パルス時間拡散器の構成要素であるSSFBGの全長は、符号長N×隣接する単位FBGの配置間隔Lで与えられる。光パルス時間拡散器へ入力される入力光パルス一つ分が時間軸上に光パルス時間拡散器によって時間拡散される拡散時間幅は次式(5)で与えられる。
(2×N×L×neff)/c (5)
ここで、cは真空中での光の速度、neffは、SSFBGを構成する光ファイバの実効屈折率の値である。
【0059】
入力光パルス列を構成する光パルスのそれぞれが光パルス時間拡散器によって時間軸上に並ぶチップパルスの列として時間軸上に時間拡散されるが、入力光パルス列を構成する隣接する光パルスが時間拡散されたそれぞれのチップパルス列同士が重ならないためには、拡散時間幅が入力光パルス列の隣接する光パルス間の時間軸上での間隔であるデータビット間隔より狭いことが必要である。
【0060】
従って、入力光パルス列を構成する隣接する光パルスが時間拡散されたそれぞれのチップパルス列同士が重ならないための条件は、次式(6)で与えられる。
L≦c/(2×DR×N×neff) (6)
ここで、DRは入力光パルス列を構成する隣接光パルスの時間軸上での間隔の逆数で与えられるデータビットレートを与える値である。データビットレートは、時間の逆数(1/秒)の次元を有する。
【0061】
隣接する単位FBGからのブラッグ反射光の位相は、1/2波長だけシフトするように隣接する単位FBGが配置されている。すなわち隣接する単位FBGは、ブラッグ反射光の波長の整数倍にブラッグ反射光の1/2波長分の長さが加えられた間隔で配置されている。単位FBGの配置間隔をLとして各単位FBGの長さDもLに等しいとして設計するという場合、厳密には、単位FBGの配置間隔は、Lよりも1/2波長分長いことになるが、1/2波長分の長さは1μm以下であり、典型的な単位FBGの配置間隔Lが1 mm程度であるから無視できる長さである。従って、以後の説明において、単位FBGの配置間隔と各単位FBGの長さとを等しく設定するということもある。
【0062】
従って、隣接する単位FBGの配置間隔Lとブラッグ反射波長λBpとの関係は次式(7)で与えられる。ここでは光パルス時間拡散器として第p光パルス時間拡散器を想定してブラッグ反射波長をλBpとしてある。
2×L×neff=λBp×(m+(1/2)) (7)
ここで、mは0以上の整数である。
【0063】
この発明の実施形態の光パルス時間拡散装置をOCDM/WDMハイブリッド多重方式の光通信システムの符号器及び復号器として利用する場合は、このブラッグ反射波長λBpがチャンネル識別標識となる。λBpを光パルス時間拡散器に設定するには、この光パルス時間拡散器を構成する単位FBGの周期的屈折率構造(回折格子周期)の周期Λpを、λBp=2×neffΛpを満たすように設定すればよい。
【0064】
この発明の実施形態の光パルス時間拡散装置を構成する第1〜第U光パルス時間拡散器に設定されるブラッグ反射波長は、それぞれλB1〜λBUであり、λB1〜λBUの最大値をλBmax、最小値をλBminとするとき、入力光パルスの波長スペクトルのピーク波長λsを、上述した式(3)を満たすように設定する。
【0065】
光パルス時間拡散器から出力される、入力光パルス列を構成する光パルス一つ一つが時間拡散されて生成されて出力されるそれぞれのチップパルス列は、時間軸上で(2×L×neff)/cで与えられる周期性を以って配置される。そのため、第p光パルス時間拡散器の単位FBGに設定されるブラッグ反射波長λBpの、最大波長λBmaxと最小波長λBminとの差λR=λBmax−λBminは、上述した式(2)
λR≦λs2/(2×L×neff) (2)
で与えられる範囲に設定される。
【0066】
すなわち、λRmax値は、以下に示すように、λRmax=λs2/(2×L×neff)で与えられるからである。
(c/λBmin)−(c/λBmax)=c/(2×L×neff)
λRmax/(λBmin×λBmax)≒λRmaxs2=1/(2×L×neff)
すなわち、λRmax=λs2/(2×L×neff)となる。
【0067】
以上の議論から、第1〜第U光パルス時間拡散器にそれぞれ設定される、λB1〜λBUについて、隣接するブラッグ反射波長の間隔ΔλBは、次式(8)
ΔλB=λRmax/U=λs2/(2×L×neff×U) (8)
で与えられる。
【0068】
この発明の実施形態の光パルス時間拡散装置を光通信システムに利用する場合にあっては、第p光パルス時間拡散器が具えている単位FBGのブラッグ反射波長λBpは、入力光パルス列あるいは入力チップパルス列の波長スペクトルの中心波長λsを中心にして、ΔλB=λRmax/Uで与えられるΔλBの整数倍ずつ異なる値をとる。以後、第p光パルス時間拡散器が具えている単位FBGに設定されるブラッグ反射波長λBpというところを簡略化して第p光パルス時間拡散器に割り当てられる波長λBpということもある。
【0069】
チャンネル識別パラメータであるUの値が奇数である場合は、ブラッグ反射波長λBの値は、λs−kΔλB、・・・・・、λs−2ΔλB、λs−1ΔλB、λs、λs+1ΔλB、λs+2ΔλB、・・・・・、λs+kΔλBとなる。すなわち、第1光パルス時間拡散器に割り当てられる波長λB1はλs−kΔλBであり、以後、第2光パルス時間拡散器から順に上述の波長が順次割り当てられて、第U光パルス時間拡散器に割り当てられる波長λBUはλs+kΔλBとなる。
【0070】
一方、チャンネル識別パラメータであるUの値が偶数である場合は、ブラッグ反射波長λBの値は、λs−(2k+1)ΔλB/2、・・・・・、λs−3ΔλB/2、λs−1ΔλB/2、λs+1ΔλB/2、λs+3ΔλB/2、・・・・・、λs+(2k+1)ΔλB/2となる。すなわち、第1光パルス時間拡散器に割り当てられる波長λB1はλs−(2k+1)ΔλB/2であり、以後、第2光パルス時間拡散器から順に上述の波長が順次割り当てられて、第U光パルス時間拡散器に割り当てられる波長λBUはλs+(2k+1)ΔλB/2となる。
【0071】
上述した様に、第p光パルス時間拡散器が具える単位FBGに設定されるブラッグ反射波長λBpは、入力光パルスの波長スペクトルのピーク波長をλsとして次式(1a)及び(1b)
λBp=λs+k(Δλs/U) (1a)
(ただし、Uが奇数の場合、kは|k|<U/2を満たす整数)
λBp=λs+(2k+1)(Δλs/2U) (1b)
(ただし、Uが偶数の場合、kは|k|<U/2を満たす整数)
で与えられる。
【0072】
この発明の実施形態の光パルス時間拡散装置の具体的一例として、光パルス時間拡散器に配置される単位FBGの数を32、符号数(チャンネル数U)を16として設計される場合を取り上げて説明する。第1〜第16光パルス時間拡散器に、第1〜第16チャンネルが一対一に対応させて割り当てられている。従って、第1〜第16光パルス時間拡散器に割り当てられる波長というところを第1〜第16チャンネルに割り当てられる波長ということもある。
【0073】
図3(A)及び(B)を参照して、この発明の実施形態の光パルス時間拡散装置を構成する光パルス時間拡散器のSSFBGの実効屈折率変調(以後、単に屈折率変調ということもある。)について説明する。図3(A)及び(B)は、SSFBGの屈折率変調についての説明に供する図であり、図3(A)は、SSFBGが作りつけられた光ファイバの長さ方向の位置座標を横軸方向にとって、屈折率変調の様子を模式的に示した図である。単位FBGを矩形によって模式的に示してあり、矩形の縦軸方向の辺の長さは屈折率変調の度合いの大きさに比例させて示してある。また、矩形の横軸方向の辺の長さは、単位FBGの長さを示している。図3(A)において、横軸に並行に引かれた中心線は、SSFBGの屈折率の平均値を示している。
【0074】
図3(B)は、単位FBGの内の2つ分を取り出して、屈折率変調の様子を拡大して示した図である。波型の曲線の振幅は屈折率変調の大きさを示し、この波型の曲線の中心はSSFBGの屈折率の平均値を示している。単位FBGの回折格子周期Λは、屈折率変調を与える波型の曲線の隣接する極大間の間隔で与えられる。
【0075】
入力光パルスの波長スペクトルのピーク波長λsを1550 nm、単位FBGの配置間隔Lを1 mm、SSFBGを構成する光ファイバの実効屈折率neffを1.45とすると、単位FBGに設定されるブラッグ反射波長λBpの、最大波長λBmaxと最小波長λBminとの差λR=λBmax−λBminは、上述した式(2)によって、
λR=15502/[2×(1×106)×1.45≒0.8(nm)
となる。すなわち、λRmax=0.8(nm)である。また、U=16のとき、隣接するブラッグ反射波長の間隔ΔλBは、上述の式(8)から、ΔλB=λRmax/U=0.8/16=0.05 nmとなる。
【0076】
ここでは、チャンネル識別パラメータであるUの値が16であり偶数であるから、第1〜第16チャンネルに割り当てられるブラッグ反射波長は、|k|<16/2=8を満たす整数であるk=7として、λs−15ΔλB/2、λs−13ΔλB/2、λs−11ΔλB/2、λs−9ΔλB/2、λs−7ΔλB/2、λs−5ΔλB/2、λs−3ΔλB/2、λs−1ΔλB/2、λs+1ΔλB/2、λs+3ΔλB/2、λs+5ΔλB/2、λs+7ΔλB/2、λs+9ΔλB/2、λs+11ΔλB/2、λs+13ΔλB/2、λs+15ΔλB/2となる。すなわち、第1チャンネルにブラッグ反射波長λs−15ΔλB/2が与えられ、以後第2チャンネル〜第15チャンネルまで順次上述の順序でブラッグ反射波長が与えられ、第16チャンネルにはブラッグ反射波長λs+15ΔλB/2が与えられる。
【0077】
この発明の実施形態の光パルス時間拡散装置を構成する光パルス時間拡散器の構成要素であるSSFBGにおいて、SSFBGの中央部分に配置される単位FBGの屈折率変調の大きさが最大となるようにアポダイズした。図4を参照してSSFBGに順次配置される単位FBGの屈折率変調の大きさの分布について説明する。図4は、横軸にSSFBGの一方端に配置される単位FBGを「1」とし、他方端に配置される単位FBGを「32」として示し、縦軸にそれぞれの単位FBGの屈折率変調の大きさを、屈折率変調強度の割合として示してある。
【0078】
図4の縦軸は、SSFBGの中央部分に配置される16番目の単位FBG及び17番目の単位FBGの屈折率変調の大きさを1に規格化して、これ以外の単位FBGの屈折率変調の大きさを16番目の単位FBG及び17番目の単位FBGの屈折率変調の大きさとの比として示してある。
【0079】
図4において、第1番目の単位FBGから第32番目の単位FBGまでの屈折率変調の最大の極大点を滑らかな曲線で繋げた場合、この曲線を与える関数は、次式(9)で与えられる。
exp[-1×ln2×{2×(M-32/2)/(B×32)}2]=exp[-1×ln2×{2×(M-16)/41.6}2] (9)
ここで、expは指数関数を表す記号であり、ln2は2の自然対数を表す。また、Mは単位FBGの配置順の番号であり、例えば、第1番目の単位FBGではM=1、第32番目の単位FBGではM=32である。また、ここでは、B=1.3としてある。
【0080】
次に、図5(A)、図5(B)、図5(C-1)、図5(C-2)及び図5(C-3)を参照して、光パルス時間拡散器を構成するSSFBGの構成要素である単位FBGごとの屈折率変調について説明する。図5(A)は、SSFBGが作りつけられた光ファイバの長さ方向の位置座標を横軸方向にとって、屈折率変調の様子を模式的に示した図である。図5(A)では、屈折率変調の極大の位置を滑らかに繋げる包絡線を模式的に示してある。図5(B)は、単位FBGの内の2つ分を取り出して、屈折率変調の様子を拡大して示した図である。実線で示す波型の曲線の振幅は屈折率変調の大きさを示している。単位FBGの回折格子周期Λは、屈折率変調を与える波型の曲線の隣接する極大間の間隔で与えられる。
【0081】
図5(C-1)〜図5(C-3)では、図5(C-1)に示す回折格子周期がΛである正弦波状の屈折率変調に対して、図5(C-2)に示すアポダイズを与えるガウスの誤差関数との積を算出することによって、図5(C-3)に示すアポダイズされた屈折率変調が得られることを示している。図5(C-3)に示す屈折率変調が単位FBGの屈折率変調として設定される。
【0082】
上述の単位FBGのアポダイズを与える関数であるガウスの誤差関数は、次式(10)で与えられる。
【0083】
exp[-1×ln2×{2×(x-D/2)/(B×D)}2] (10)
ここで、xはSSFBGが形成されている光ファイバの長手方向(導波方向)に沿って設定した位置座標の値であり、Dは単位FBGの長さである。また、ここでは、B=0.5とした。
【0084】
以上説明した様に、図4に示したように第1番目の単位FBGから第32番目の単位FBGまでの屈折率変調の大きさを滑らかに変調すること、及び各単位FBGを図5に示すようにその屈折率変調をアポダイズすることによって、光パルス時間拡散器から出力される出力光の波長スペクトルのサイドバンドローブが抑圧されるという効果が得られる。
【0085】
この発明の実施形態の光パルス時間拡散装置を構成する光パルス時間拡散器のSSFBGにおいては、OCDM/WDMハイブリッド多重方式において、隣接する波長が割り当てられたチャンネルの光信号の波長スペクトルの裾野の部分が重なり合って両チャンネル間にクロストークが発生することによって、通信の精度が低下するという問題を解決するため、SSFBGを構成する単位FBGのそれぞれを形成する周期的屈折率分布構造に対して、この周期的屈折率分布構造の屈折率変調がsinc関数でアポダイズされている。
【0086】
図6(A)、図6(B)、図6(C-1)、図6(C-2)及び図6(C-3)を参照して、単位FBGのそれぞれを形成する周期的屈折率分布構造に対して、この周期的屈折率分布構造の屈折率変調がsinc関数でアポダイズされた場合について説明する。図6(A)は、SSFBGが作りつけられた光ファイバの長さ方向の位置座標を横軸方向にとって、屈折率変調の様子を模式的に示した図である。図6(A)では、屈折率変調の極大の位置を滑らかに繋げる包絡線を模式的に示してある。図6(B)では、実線で示す波型の曲線の振幅は屈折率変調の大きさを示している。単位FBGの回折格子周期Λは、屈折率変調を与える波型の曲線の隣接する極大間の間隔で与えられる。
【0087】
図6(C-1)、図6(C-2)及び図6(C-3)は、単位FBGのsinc関数によるアポダイズについての説明に供する図であり、図6(C-1)に示す回折格子周期がΛである正弦波状の屈折率変調に対して、図6(C-2)に示すアポダイズを与えるsinc関数との積を算出することによって、図6(C-3)に示すアポダイズされた屈折率変調が得られることを示している。図6(C-3)に示す屈折率変調が単位FBGの屈折率変調として設定される。
【0088】
上述の単位FBGのアポダイズを与える関数であるsinc関数は、次式(11)で与えられる。
【0089】
sin[Q×{x-(D/2)}]/[Q×{x-(D/2)}]=sinc[Q×{x-(D/2)}] (11)
ただし、x=D/2のときは、sinc[Q×{x-(D/2)}]=1と定義する。ここで、xはSSFGBが形成されている光ファイバの長手方向(導波方向)に沿って設定した位置座標の値であり、Dは単位FBGの長さである。また、Qは正の整数であり、ここでは、Q=1、Q=2、及びQ=3の場合について検討した。
【0090】
<光パルス時間拡散装置の動作特性>
図7(A)〜図7(C)を参照して、第1番目の単位FBGから第32番目の単位FBGまでの屈折率変調の極大点が上述した式(10)でアポダイズされており、かつ単位FBGのそれぞれを形成する周期的屈折率分布構造の屈折率変調も、上述の式(11)で与えられるsinc関数でアポダイズされているSSFBGの反射スペクトルにつき説明する。
【0091】
図7(A)〜図7(C)の横軸は、入射光スペクトル波長の中心波長を0として示す相対波長をnm単位で目盛って示してある。ここでは、入射光スペクトル波長の中心波長は、1550 nmである。すなわち図7(A)〜図7(C)の横軸において0と示してある座標が、波長1550 nmを意味している。また、単位FBGの配置間隔Lと単位FBGの長さDは共に1 mmである。
【0092】
図7(A)〜図7(C)から明らかなように、Qの値を大きくとるに従って、SSFBGの反射スペクトルの帯域幅が広がっていることが分かる。すなわちQ=1である場合は、反射スペクトル強度の顕著なピークは、入射光スペクトル波長の中心波長を挟んで2つであるのに対して、Q=2である場合は4つ、Q=3である場合は6つと増大している。このことから、Qの値を選択することによって、光パルス時間拡散器の構成要素であるSSFBGの反射スペクトル帯域を適宜選択することが可能であることが分かる。
【0093】
図7(A)〜図7(C)に示したように、単位FBGのそれぞれを形成する周期的屈折率分布構造の屈折率変調がsinc関数でアポダイズされているSSFBGから反射されて出力されるチップパルスのそれぞれの光強度時間波形は、上述のアポダイズに使われたsinc関数の2乗で与えられる形状となる。
【0094】
また、単位FBGの配置間隔がLであることによって、SSFBGからブラッグ反射されて出力されるチップパルス列を構成する隣接するチップパルスの時間軸上での間隔tcは、tc=2×L×neff/cで与えられる。チップパルスの繰り返し周波数は、1/tcで与えられるので、チップパルスの繰り返し周波数は、c/(2×L×neff)で与えられる。ここでは、L=1 mm、neff=1.45であるから、SSFBGからブラッグ反射されて出力されるチップパルスの繰り返し周波数は、約100 GHzとなる。
【0095】
<この発明の実施形態の光パルス時間拡散装置による符号化及び復号化>
図8(A)〜(C)を参照して、この発明の実施形態の光パルス時間拡散装置による符号化及び復号化の動作について説明する。
【0096】
図8(C)では、横軸に時間軸Tを示してある。また、縦方向には、復号器に入力されるチップパルス列を構成するN個のチップパルスのそれぞれが、復号器によってN個のチップパルスに変換されることで得られるNとおりのチップパルス列を、復号器から出力される時間遅れの関係を反映させてN段に並べて示してある。i=0と示してあるチップパルス列は、符号器から出力されるチップパルス列を構成するチップパルスの第1番目のチップパルスが復号器でチップパルス列として生成されたものである。同様にi=1〜(N-1)と示してあるチップパルス列は、それぞれ符号器から出力されるチップパルス列を構成するチップパルスの第2〜N番目のチップパルスが復号器でチップパルス列として生成されたものである。i=0〜(N-1)と示してあるチップパルス列が、図8(C)に示すように時間軸上で重なり合って干渉する結果、復号器である光パルス時間拡散器からは、自己相関波あるいは相互相関波が出力される。
【0097】
図8(A)〜(C)では、光パルス時間拡散器を構成するSSFBGは、N個の単位FBGを具えて構成され、各単位FBGのブラッグ反射波長をλBとし、単位FBGの配置間隔をLとしてある。ここで、第1〜第U光パルス時間拡散器にそれぞれ設定するブラッグ反射波長を互いに区別せずに一般的に光パルス時間拡散器に設定されるブラッグ反射波長を指定する場合は単にλBと表すものとする。
【0098】
図8(A)に示すように、光パルスが光サーキュレータ40のポート1から光サーキュレータ40に入力され、光サーキュレータ40のポート2から出力され、光パルス時間拡散器(図8(A)では破線の四角形で囲って示してある。)に入力される。光パルス時間拡散器に入力された光パルスはチップパルス列として生成されて、このチップパルス列は光サーキュレータ40のポート2から光サーキュレータ40に入力されてポート3から出力される。
【0099】
図8(A)に示す光パルス時間拡散器から出力されるチップパルス列の隣接するチップパルス間の位相差は2π×2×L×neffB=2π×(m+(1/2))で与えられるように、各単位FBGのブラッグ反射波長λB及び単位FBGの配置間隔Lが設定されている(ここで、mは0以上の整数)。
【0100】
入力光パルスの波長スペクトルの中心波長をλsとすると、隣接する単位FBGからブラッグ反射されるチップパルス間の位相差φは次式(12)で与えられる。
φ(Δλ)=2π×2×L×neffs=2π×(m+(1/2))×λBs
=2π×(m+(1/2))×(1+(Δλ/λs))
=π+{2π×(m+(1/2))×(Δλ/λs) (12)
ここで、Δλ=λB−λsである。すなわちφ(Δλ)の値はΔλの大きさによって決定される。λB=λsであるとき、φ=πとなる。
【0101】
入力光パルスが符号器である光パルス時間拡散器に入力されると、単位FBGの数と等しい数のチップパルスからなるチップパルス列が生成される。上述したように図8(A)及び(B)に示す図では、単位FBGの数をN個としてある。
【0102】
このチップパルス列を構成するチップパルスの隣接するチップパルス間の位相差は、上述の式(12)で与えられる値を以って光導波路を伝播して、復号器である光パルス時間拡散器に入力される。図8(B)を参照して、上述のチップパルス列が復号器において復号化される過程について説明する。ここで、第i光パルス時間拡散器によって符号化されて生成されたチップパルス列が、第j光パルス時間拡散器によって復号化されると仮定して説明する。ここで、i、jは、それぞれ0≦i≦N-1及び0≦j≦N-1を満たす整数である。
【0103】
第i光パルス時間拡散器によって符号化されて生成され位相Δφeが与えられて出力されたチップパルスが、第j光パルス時間拡散器によって復号化され位相Δφdが更に付加されて与えられたと仮定すると、チップパルス列の第1番目のチップパルスを基準として、このチップパルスは次式(13)
Δφij=i×Δφe+j×Δφd (13)
で与えられる位相Δφijを有している。
【0104】
図8(C)に示すように、復号器に入力されるチップパルス列を構成するN個のチップパルスのそれぞれは、復号器によってN個のチップパルスに変換される。その結果、合計(N×N)個のチップパルスが生成される。符号化されて生成されたN個のチップパルスのそれぞれのチップパルスが復号器で再びN個のチップパルスからなるチップパルス列となり、これらのチップパルス列が時間軸上で重なることによる干渉によって自己相関波あるは相互相関波が生成される。
【0105】
時刻T=i+jにおいて時間軸上で重なりあうチップパルスの位相Δφij(T)は、次式(14)
Δφij(T)=T×Δφd+(Δφe−Δφd)×i (14)
で与えられる。
【0106】
符号器と復号器とが同一構造の光パルス時間拡散器である場合、すなわち、Δφe=Δφd=Δφである場合、Δφij(T)=T×Δφとなり、iの値に依存せず時刻Tにおいて全てのチップパルスが同位相で干渉しあう。すなわち、時刻Tにおいて非常に大きなピークが形成され、自己相関波が形成される。
【0107】
一方、符号器と復号器とが相異なる構造の光パルス時間拡散器である場合、すなわち、ΔφeとΔφdとが異なっている場合、時刻T=i+jにおいて時間軸上で重なりあうチップパルスの位相Δφij(T)は、上述の式(14)から明らかなように、iの値によってΔφij(T)の値がそれぞれ異なってくるから、チップパルス同士は干渉によってそれぞれ打ち消しあってピークが形成されず、相互相関波が形成される。
【0108】
上述したように、同一の構成である、この発明の実施形態の光パルス時間拡散装置を2台そろえ、それぞれを符号器及び復号器として利用することによって、符号化復号化が実現される。同一の構成の光パルス時間拡散装置とは、それぞれの光パルス時間拡散装置が具える第1〜第U光パルス時間拡散器の構成が互いに等しい組み合わせから成っていることを意味する。すなわち、一方の光パルス時間拡散装置の第p光パルス時間拡散器の構成と、他方の光パルス時間拡散装置の第p光パルス時間拡散器の構成とが等しくなっていることを意味する。ここで、pは、1≦p≦Uを満たす全ての整数である。
【0109】
符号化ステップは、この発明の実施形態の光パルス時間拡散装置が具える第1〜第U光パルス時間拡散器にそれぞれ第1〜第Uチャンネルを割り当て、それぞれのチャンネルの送信信号を符号化することで実現される。
【0110】
多重化ステップは、上述の第1〜第U光パルス時間拡散器からそれぞれ出力される第1〜第Uチップパルス列を光合波器等によって合波することによって実現される。
【0111】
復号化ステップは、例えば、図1(B)に示す構成の場合、上述の第1〜第Uチップパルス列が多重化された多重チップパルス列をU分割(強度分割)して、復号器であるこの発明の実施形態の光パルス時間拡散装置が具える第1〜第U光パルス時間拡散器にそれぞれ供給することによって実現される。符号化された際に使われた光パルス時間拡散器と同一構造の光パルス時間拡散器においては自己相関波が生成され、異なる構造の光パルス時間拡散器においては相互相関波が生成されることによって、符号分割多重方式が実現されることになる。
【0112】
また、上述したように第1〜第Uチップパルス列にはそれぞれ互いに異なるスペクトル帯域が割り当てられているので、この光パルス時間拡散装置を符号器及び復号器として利用する通信方式においては、擬似的にWDMも同時に実行されていることになる。すなわち、この発明の実施形態の光パルス時間拡散装置を利用する光多重伝送システムによれば、OCDM/WDMハイブリッド多重方式による光通信を実現させることが可能となる。
【0113】
<この発明の実施形態の光パルス時間拡散装置の利用>
この発明の実施形態の光パルス時間拡散装置へ入力する入力光パルスの時間波形の半値幅を狭くすることによって、入力光パルスの波長スペクトルの半値幅を広げ、入力光パルスの波長スペクトルの波長帯域が光パルス時間拡散器の構成要素であるSSFBGの反射スペクトルの波長帯域を覆いつくすようにすることが可能である。この場合、入力光パルスの中心波長が、SSFBGの反射スペクトル帯域の中心波長の付近であれば、入力光パルスの光搬送波を生成する光源の波長が多少変動しても、複数チャンネルの光信号を光多重伝送するためのOCDM/WDMハイブリッド多重方式による光通信が可能となる。
【0114】
この発明の実施形態の光パルス時間拡散装置を符号器及び復号器として利用して実現されるOCDM/WDMハイブリッド多重方式による光通信にあっては、この光通信の光信号を構成する入力光パルスの光搬送波の波長が多少変動しても、符号化及び復号化の動作に影響を与えることはない。すなわち、入力光パルスの光搬送波が波長変動しても、光パルス時間拡散器を構成するSSFBGの単位FBGのブラッグ反射波長λBが変動しない限り符号化及び復号化の動作に影響を与えることはない。
【0115】
ここで、入力光パルスの光搬送波の波長が多少変動するとは、入力光パルスの波長スペクトルの波長帯域がSSFBGの反射スペクトルの波長帯域を覆いつくすという条件を破らない範囲で入力光パルスの光搬送波の波長が変動することをいう。
【0116】
入力光パルスの光搬送波を生成するための光源である半導体レーザダイオードの出力光の波長は、半導体レーザダイオードの温度によって変動し、その変動量は1℃当たり0.8 nmであるのに対して、SSFBGの単位FBGのブラッグ反射波長λBの温度による変動量は1℃当たり0.01 nmと1/80と非常に小さい。すなわち、この発明の実施形態の光パルス時間拡散装置を符号器及び復号器として利用して実現されるOCDM/WDMハイブリッド多重方式による光通信にあってはその符号化及び復号化動作の信頼性が、従来の同種のWDMによる光通信と比較して格段に高いことが分かる。
【0117】
更に、この発明の実施形態の光パルス時間拡散装置の第1〜第U光パルス時間拡散器のそれぞれはSSFBGを具えて構成されており、SSFBGを構成している単位FBGのそれぞれは、回折格子を構成する屈折率変調がsinc関数との積として強度と位相を表す曲線として与えられ、このsinc関数の絶対値の最大の極大値を取るピーク曲線で包絡される屈折率変調領域から反射されるブラッグ反射光と、隣接する単位FGBにおけるsinc関数の絶対値の最大の極大値を取るピーク曲線で包絡される屈折率変調領域から反射されるブラッグ反射光の位相差が当該ブラッグ反射光の半波長の奇数倍に設定されている。
【0118】
単位FBGの屈折率変調にアポダイズが施されていない場合、及び単位FBGの屈折率変調にガウス誤差関数に基づくアポダイズが施されている場合と比較して、この条件を満たす光パルス時間拡散器から出力される出力光の波長スペクトルの特性について、図9(A)〜図9(C)を参照して説明する。
【0119】
図9(A)〜図9(C)の各図の横軸は波長をnm単位で目盛って示してあり、縦軸は反射率をdB単位で目盛って示してある。
【0120】
図9(A)〜図9(C)において、縦軸に並行な破線で区切った波長帯域は、通常のWDM光多重通信において単一波長として扱われる波長帯域、すなわち波長グリッドを示している。
【0121】
図9(A)に示すように、屈折率変調にアポダイズが施されていない単位FBGで形成されるSSFBGを具える光パルス時間拡散器から出力される出力光の波長スペクトルは、中央部分の波長グリッドの短波長側の隣接する波長帯域にはA1及びA2で示すピークが存在し、長波長側の隣接する波長帯域にはA7及びA8で示すピークが存在する。これらのピークA1、A2、A7及びA8の波長成分は、復号化の際の雑音成分となり、この雑音成分の大きさは-10 dB以上と見積もられる。この雑音の大きさは、通常のWDM光多重通信において無視できない大きさである。
【0122】
図9(B)に示すように、屈折率変調にガウス誤差関数に基づくアポダイズが施されている単位FBGで形成されるSSFBGを具える光パルス時間拡散器から出力される出力光の波長スペクトルは、中央部分の波長グリッドの短波長側の隣接する波長帯域にはB2で示すピーク一つが存在し、長波長側の隣接する波長帯域にはB7で示すピーク一つが存在する。この雑音成分の大きさは-20 dB程度と見積もられ、雑音の大きさは上述の屈折率変調にアポダイズが施されていない場合と比較して格段に小さい。
【0123】
一方、図9(B)に示す光パルス時間拡散器から出力される出力光の波長スペクトルには、中央部分の波長グリッド内の短波長側に存在するB3で示すピークと長波長側に同じく存在するB6で示すピークの大きさが、中央部分の波長グリッド内の中心部分に存在するB4及びB5で示すピークの大きさに比べて小さいという特性がある。これは、信号成分が小さいことを意味し、雑音成分が小さいにしても、復号された信号のS/N比の向上には寄与しない特性である。
【0124】
この発明の実施形態の光パルス時間拡散装置を構成する光パルス時間拡散器にあっては、SSFBGを形成している単位FBGの屈折率変調はsinc関数に基づくアポダイズが施されている。この場合には、図9(C)に示すように、光パルス時間拡散器から出力される出力光の波長スペクトルは、中央部分の波長グリッドの短波長側の隣接する波長帯域にはC1及びC2で示すピークが存在し、長波長側の隣接する波長帯域にはC7及びC8で示すピークが存在するが、何れのピークも上述の図9(A)及び図9(B)に示す波長スペクトルにおける同種のピーク(A1及びA2、B2、A7及びA8、B7)より小さい。しかも、中央部分の波長グリッド内に存在するC3、C4、C5、及びC6で示すピークが大きくしかも全て同一の大きさである。
【0125】
以上説明した様に、この発明の実施形態の光パルス時間拡散装置を構成する光パルス時間拡散器から出力される出力光の波長スペクトルによれば、中央部分の波長グリッドの隣接する短波長側及び長波長側の波長帯域に存在するピークが小さいことから、雑音成分の大きさが小さいことを意味している。また、中央部分の波長グリッド内に存在するC3、C4、C5、及びC6で示すピークが大きくしかも全て同一の大きさであることから、信号成分が十分大きいことを意味しており、復号された信号のS/N比は、図9(A)及び図9(B)に示す波長スペクトルと比較して十分大きく確保することが可能であることを示している。
【0126】
次に、図10(A)及び図10(B)を参照して、従来のWDMにおける波長グリットである単一波長帯域が6つ分含まれ、それぞれの単一波長帯域に16チャンネルのOCDM/WDMハイブリッド多重チャンネルが設定されている場合における、隣接する単一波長帯域の裾野の部分が重なり合って発生するクロストークの大きさについて説明する。隣接する単一波長帯域にはそれぞれ16チャンネルのOCDM/WDMハイブリッド多重チャンネルが設定されている。従って、隣接する波長成分が割り当てられたチャンネルの光信号の波長スペクトルの裾野の部分が重なり合って発生するクロストークとは、隣接する単一波長帯域に含まれる16チャンネルと、もう一方の隣接する単一波長帯域に含まれる16チャンネルとの間に発生するクロストークを意味する。
【0127】
図10(A)及び図10(B)の横軸は波長を任意目盛で示してあり、縦軸は反射率をdBで示してある。6つの単一波長帯域はWDM1〜WDM6と示して区別してある。WDM3領域の他WDMからのクロストークの大きさは、図10(A)及び図10(B)に斜線エリアとして示してある。
【0128】
図10(A)と図10(B)とに示すWDM1〜WDM6で示す単一波長帯域における隣接する単一波長帯域の裾野の重なり部分の大きさ、すなわちクロストークの大きさを比較すると、明らかに10(B)に示すsinc関数に基づくアポダイズが屈折率変調に対して施されている単位FBGで形成されるSSFBGを具える光パルス時間拡散器におけるクロストークが小さいことが読み取れる。
【0129】
これは、この発明の実施形態の光パルス時間拡散装置を構成する光パルス時間拡散器が持つsinc関数に基づくアポダイズが屈折率変調に対して施されている単位FBGで形成されるSSFBGを具えるという特徴に基づくものである。このような特徴を備えていることによって、第1〜第U光パルス拡散器の各構成要素であるSSFBGから反射されるブラッグ反射光の波長スペクトルの形状は、波長空間において矩形形状となる。従って、図10(A)に示すように、WDM1〜WDM6と示して区別されたそれぞれの単一波長帯域が、波長空間において波長スペクトルの裾野が長くなる釣鐘状の形状をとらず、図9(B)に示すように、波長空間において矩形形状となることによって、クロストークが小さくなっていることが理解される。
【符号の説明】
【0130】
12:光分岐器
14-1〜14-U、24-1〜24-U:第1〜第U光サーキュレータ
16-1〜16-U、26-1〜26-U:第1〜第U光パルス時間拡散器
40、42:光サーキュレータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力光パルスを、時間軸上に時間拡散して順次並ぶ、第1から第NチップパルスまでのN個のチップパルスから成るチップパルス列(Nは2以上の整数)として出力する、第1〜第U光パルス時間拡散器(UはU≦Nを満たす1以上の整数)を具える光パルス時間拡散装置であって、
前記第1〜第U光パルス時間拡散器のそれぞれは、N個の単位ファイバブラック格子(FBG: Fiber Bragg Grating)を具える超格子構造ファイバブラック格子(SSFBG: Superstructured Fiber Bragg Grating)を具えて構成されており、
前記第1〜第U光パルス時間拡散器からそれぞれ出力される第1〜第Uチップパルス列のスペクトルがそれぞれ互いに異なるように、第p光パルス時間拡散器(pは1からUの全ての整数)のそれぞれにおいて、隣接して配置される前記単位FBG同士の間隔、及び当該第p光パルス時間拡散器における前記単位FBGのブラッグ反射波長が設定され、かつ
前記単位FBGのそれぞれは、屈折率変調が回折格子としての屈折率変調にsinc関数が乗算された関数として与えられ、該関数の極大を繋ぐ包絡線を与える前記sinc関数の最大の極大値を取るピーク曲線で包絡される屈折率変調領域から反射されるブラッグ反射光と、隣接する単位FGBにおける前記sinc関数の最大の極大値を取るピーク曲線で包絡される屈折率変調領域から反射されるブラッグ反射光の位相差が当該ブラッグ反射光の半波長の奇数倍に設定され
前記第1〜第U光パルス時間拡散器が並列、または直列に接続されて構成されることを特徴とする光パルス時間拡散装置。
【請求項2】
入力光パルスを、時間軸上に時間拡散して順次並ぶ、第1から第NチップパルスまでのN個のチップパルスから成るチップパルス列(Nは2以上の整数)として出力する、第1〜第U光パルス時間拡散器(UはU≦Nを満たす1以上の整数)を具える光パルス時間拡散装置であって、
前記第1〜第U光パルス時間拡散器のそれぞれは、N個の単位ファイバブラック格子(FBG: Fiber Bragg Grating)を具える超格子構造ファイバブラック格子(SSFBG: Superstructured Fiber Bragg Grating)を具えて構成されており、
前記第1〜第U光パルス時間拡散器からそれぞれ出力される第1〜第Uチップパルス列のスペクトルがそれぞれ互いに異なり、かつ当該チップパルス列のエネルギーが均等の大きさとなるように、第p光パルス時間拡散器(pは1からUの全ての整数)のそれぞれにおいて、隣接して配置される前記単位FBG同士の間隔、及び当該第p光パルス時間拡散器における前記単位FBGのブラッグ反射波長が設定され、かつ
前記単位FBGのそれぞれは、屈折率変調が回折格子としての屈折率変調にsinc関数が乗算された関数として与えられ、該関数の極大を繋ぐ包絡線を与える前記sinc関数の最大の極大値を取るピーク曲線で包絡される屈折率変調領域から反射されるブラッグ反射光と、隣接する単位FGBにおける前記sinc関数の最大の極大値を取るピーク曲線で包絡される屈折率変調領域から反射されるブラッグ反射光の位相差が当該ブラッグ反射光の半波長の奇数倍に設定され、
前記第1〜第U光パルス時間拡散器が並列、または直列に接続されて構成されることを特徴とする光パルス時間拡散装置。
【請求項3】
前記SSFBGが具える各単位FBGは、光ファイバの長さ方向に沿って順次当該単位FBGの屈折率変調の最大の極大値の大きさが増大させてあり前記SSFBGの中心位置において最大となり、かつ該中心位置をすぎると光ファイバの長さ方向に沿って順次当該単位FBGの屈折率変調の最大の極大値の大きさが減少するように設定されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の光パルス時間拡散装置。
【請求項4】
前記第p光パルス時間拡散器が具える単位FBGに設定される、ブラッグ反射波長λBpが、前記入力光パルスの波長スペクトルのピーク波長をλsとして次式(1a)及び(1b)
λBp=λs+k(Δλs/U) (1a)
(ただし、Uが奇数の場合、kは|k|<U/2を満たす整数)
λBp=λs+(2k+1)(Δλs/2U) (1b)
(ただし、Uが偶数の場合、kは|k|<U/2を満たす整数)
で与えられ、
前記単位FBGに設定されるブラッグ反射波長λBpの、最大波長λBmaxと最小波長λBminとの差λR=λBmax−λBminは、次式(2)
λR≦λs2/(2×L×neff) (2)
で与えられる範囲に設定されており、かつλsが次式(3)
λBmin≦λs≦λBmax (3)
で与えられる範囲に設定されており、
前記第p光パルス時間拡散器の隣接する単位FBGから反射されるチップパルスの位相差φが、mを0以上の整数として、次式(4)
φ=(2m+1)(λBp/2) (4)
で与えられるように、
前記第p光パルス時間拡散器において、隣接して配置される単位FBG同士の間隔、及び当該第p光パルス時間拡散器における単位FBGのブラッグ反射波長が設定されていることを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の光パルス時間拡散装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate


【公開番号】特開2011−182052(P2011−182052A)
【公開日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−42171(P2010−42171)
【出願日】平成22年2月26日(2010.2.26)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成21年度独立行政法人情報通信研究機構「高度通信・放送研究開発委託研究/広域加入者系光ネットワーク技術の研究開発 課題イ 適応ネットワーク構成技術」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受けるもの)
【出願人】(000000295)沖電気工業株式会社 (6,645)
【Fターム(参考)】