説明

光ビームの光子検出装置

【課題】簡単な手段によって、検出装置によってより大きい光子流を検出できるように即ち検出装置によって処理可能な最大計数率が増加されるように構成された光ビームの光子を検出するための装置の提供。
【解決手段】とりわけ蛍光顕微鏡に使用するための、空間的に限定された光源(2)から出射する光ビーム(1)の光子(複数)を検出する装置であって、検出装置を含んで構成された装置において、前記検出装置は、少なくとも2つの検出器(7)を有すること、及び前記光ビーム(1)のビーム路に、前記光子(複数)が検出のために前記検出器(複数)(7)に配分されるように前記光ビーム(1)を分解可能に構成された構成要素(3)が配されることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、とりわけ蛍光顕微鏡に使用するための、空間的に限定された光源から出射する光ビームの光子を検出する装置であって、検出装置を含んで構成された装置に関する。
【背景技術】
【0002】
とりわけ蛍光顕微鏡では、蛍光信号の強度は一般的に比較的小さいので、信号/雑音比(S/N比)は、クリティカルなパラメータである。この信号/雑音比は、検出器に入射する光子の数並びに検出器の検出効率及び雑音によって決定される。検出効率は、検出器の量子効率によって即ち検出器に入射する光子が実際に検出信号を生成する確率によって与えられる。検出器が「光子計数(Photon-Counting)」モードで作動される場合、即ち個々の光子が各自の検出信号を生成する場合、信号/雑音比は、本質的に、ポアソン統計から√nとして与えられる。ここで、nは検出された光子の数を表す。
【0003】
光子計数モードで検出器を作動する場合、原理的に、検出器の不感時間が問題となる。ここに、不感時間とは、検出器が1つの光子を検出した後、次の光子を検出するために再び使用可能になるまでに経過する時間、即ち検出器が1つのイベント(事象)を処理するために必要とする時間をいう。
【0004】
光子検出のために最近使用されることがますます増えている検出器は、雪崩ダイオードとも称されるアバランシフォトダイオード(APD)である。APDは、凡そ200nm〜1050nmの範囲の波長の光に対して最大の検出確率を有するため、とりわけ、蛍光光測定の領域における使用に対しても適する。更に、APDは、大きな量子確率を有する。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
APDでは、不感時間は、凡そ50nsであるが、光電子増倍管の場合、不感時間は、多少、より小さい。光子計数モードにおいて、光子が喪失されないようにするために−更に、APDが過度に入射する光線束によって損傷されないようにするために−、検出器の照射が十分に小さくされることが保証されなければならない。これは、例えば、蛍光顕微鏡の作動に関しては、被検試料の励起に使用可能な照明光強度は極めて小さいものに限られ、その結果、高品質の即ち十分な光子統計による画像撮像のためには、比較的長い時間が必要になることを意味する。従って、画像撮像の時間スケールよりも短い時間スケールで進行する試料中の迅速な生化学的プロセスは、従来の蛍光顕微鏡では対処することができない。
【0006】
それゆえ、本発明の課題は、簡単な手段によって、検出装置によってより大きい光子流を検出できるように即ち検出装置によって処理可能な最大計数率(Zaehlrate)が増加されるように、冒頭に述べた種類の、光ビームの光子を検出するための装置を構成・展開することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題は、請求項1の特徴によって解決される。即ち、冒頭に述べた種類の、光ビームの光子(複数)を検出するための装置において、検出装置は、少なくとも2つの検出器を含むこと、及び光ビームのビーム路に、光子(複数)が検出のために検出器(複数)に配分されるように光ビームを分解可能に構成された構成要素が配されることを特徴とする。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明者は、(1つの)検出器を光子計数モードで作動する場合、該検出器の不感時間(Totzeit)が、最大照射強度に関し限定をする基準(das begrenzende Kriterium)をなすことを確認した。更に、光子計数モードで検出可能な光ビーム中の最大光子流は、並列化によって、即ち検出されるべき光子(複数)を複数の検出器に配分することによって、増大され得ることを確認した。更に、本発明により、光ビームのビーム路に、光ビームを分割する構成要素が配される。
【0009】
本発明に係る装置によって、例えば、蛍光顕微鏡において、照射強度及び照射強度に関連した撮像速度を増大することができるため、画像(複数)をより迅速に生成すること、従って例えば試料内で迅速に進行する生物学的又は生化学的反応も可視化することができる。更に、光子統計が大きくされているため、同じ撮像時間でより大きい画像品質を得ることができる。n個の検出器を使用することにより、可能な最大計数速度は、n倍に増大され、それに応じて、信号/雑音比は、√n倍改善される。
【0010】
光子計数モードはさて置き、本発明に係る装置によって、一般に、検出装置のダイナミックレンジが増大される。検出装置に入射する光子流が、当該光子流を更に増大しても検出装置の出力信号がそれ以上増大しないほどの大きさになっている状態に相当する飽和限界(Saettigungsschwelle)は、同じく、単一(個別)検出器の数に相当するn倍に増大される。
【0011】
有利な一態様では、単一光子検出に適合化された検出器(複数)、即ち、換言すれば、(それぞれが)光子計数モードで作動可能に構成された検出器(複数)を使用できる。このため、(個々の)検出器はガイガーモードで大きな印加電圧によって作動される。1つの光子が1つの検出器に入射すると、−APDの場合−、電子−正孔対が生成され、検出器出力部は飽和状態となる。このようにして生成された電圧信号は検出器出力部において測定され、イベントとして内部記憶装置に書き込まれるが、この記憶装置はデータ取得の終了後に読み出しが行われる。
【0012】
アバランシフォトダイオードの他に、光子の検出のための他のタイプの検出器、例えば、光電子増倍管又はEMCCD(電子増倍CCD:Electron Multiplying CCD)を使用することも可能である。
【0013】
コンパクトに構成するという観点から、複数の検出器から1つのアレーを構成することも可能である。極めて単純な一実施形態では、そのようなアレーは、例えば、一列に並んでいるという意味で一次元アレーとすることができる。光子(複数)を更に幅広く配分するという観点から、複数の検出器を行列状(マトリックス状)に配置した面状アレーを構成することも可能である。
【0014】
EMCCDを使用する場合は、更に、並置された(前後に並んで配置された)複数の面の各々に複数の部分透光性EMCCDが配された三次元アレーを構成することも可能である。この場合、入射する光子は、ある確率で、1つ又は複数の第1の面を通り抜け、より奥に位置する面において始めてEMCCDによって検出される。
【0015】
光ビームの分解は、種々の態様で実行することができる。例えば、光子の統計学的分布(eine statistische Verteilung)が生成されるように分解することも可能である。このような光子分布は、光ビームの単純なデフォーカシングによって、例えば、円柱状レンズによる光ビームの屈折によって、とりわけ簡単に達成することができる。
【0016】
更に、光子のスペクトル的分布が生成されるように光ビームを分解することも可能である。具体的には、そのような分解は、例えば、プリズムによって実現できる。スペクトル的分解の場合、とりわけ有利な一態様では、アレーに含まれる複数の検出器の各々がそれぞれ1つの特定のスペクトル範囲に適合化されるように構成することも可能である。スペクトル範囲に依存して、例えば、感度の異なる光電陰極を使用することも可能である。
【0017】
光ビームを分解するための上述の構成要素に加えて、原理的に、光電素子又は電気機械的スキャナを使用することも可能である。とりわけ、光ビーム(路)に、複数の−互いに異なる−構成要素を順に(前後に)並べて配置することも可能である。このようにして、例えば、まず、1つの方向においてデフォーカシングを行い、次いで、当該1つの方向に直交する方向においてスペクトル分解を行うことにより、極めて目的に適った光子の分布パターンを生成することができる。
【0018】
光子計数に必要な閾値決定(装置)(Schwellwertbestimmung)並びに検出された光子イベントを計数するための電子カウンタは、有利な一態様では、(1つの)検出器の近傍に配置されることが可能である。とりわけ、EMCCDを使用する場合、更に、カウンタは、チップに直接配置されることも可能である。
【0019】
検出された光子イベントを計数するための相応の計数ロジックは、有利な一態様では、FPGA(フィールド・プログラマブル・ゲート・アレー:Field Programmable Gate Array)にプログラミングされることも可能である。カウンタには、加算器(複数)を前置することも後置することも可能である。更に、電子装置全体をモノリシックに構成することも可能である。
【0020】
本発明の教示を有利な態様で構成・展開する可能性は多々存在する。これに関し、一方では、請求項1に従属する各請求項を、他方では、後述する本発明の好ましい実施例を参照されたい。本発明の好ましい実施例の説明に関連して、本発明の教示の好ましい実施形態及び展開形態を一般的に説明する。
【実施例】
【0021】
図1は、空間的に限定(画定)された光源2から出射する光ビーム1を示す。この場合、光源2は、具体的には、蛍光放射するよう励起された生物学的試料であり得る。光ビーム1は、半円柱状のレンズ4として透明(透光性)材料から構成された光学要素3に入射する。次いで、光ビーム1は、(半)円柱状レンズ4を通過し、該レンズ4から出射する際、屈折によりデフォーカシングされることにより、(レンズ4の)円柱軸がその面法線をなす照射面内に発散(拡開)光ビーム5が生成する。この照射面内では、光子(複数)は、統計学的に分布している。
【0022】
拡開された光ビームは、次いで、アレー6を構成する複数の検出器7を含む検出装置に入射する。図1には、例として、統合されて1つの一次元アレー6を構成する5つの検出器7のみを示した。光ビーム1の光子(複数)が、1つの検出器において検出されるのではなく、全部で5つの検出器7に一様に(均等に:gleichmaessig)配分(分散)されることによって、可能な最大計数率(Zaehlrate)−従って最大照射強度−が、アレー6の検出器7の数に応じて5倍に増大される。信号/雑音比は、これに応じて、√5倍改善される。即ち、信号/雑音比は、−ピクセル当りの積分(取り込み)時間(Integrationszeit)が一定である場合−明らかに改善される。
【0023】
図2は、統計学的光子分布の代わりに、スペクトル的光子分布が生成される一実施例を示す。1つの次元におけるスペクトル的に互いに異なる複数のチャンネルへの分解は、光ビーム1のビーム路に配されたプリズム8によって実現される。プリズム8を回転することにより、スペクトル分割(分解)を検出器アレー6の個々の構成要素に最適に適合化することができる。
【0024】
図3は、光源2から出射する光ビーム1が、まず、図1に示した上記の実施例に応じて円柱状レンズ4によって1つの方向(X方向)において分解される一実施例を示す。この拡開された光ビーム5は、次いで、プリズム8に入射するが、このプリズム8によって、光ビーム5は、X方向に垂直な方向(Y方向)にスペクトル的に分解される。プリズム8には、二次元検出器アレー9から構成された検出装置が後置されている。検出器アレー9に入射する光子(複数)は、X方向においては一様に配分されるのに対し、Y方向においてはスペクトル的な分布が生成する。この場合、低エネルギの光子は図3の紙面上側に位置するピクセル10に入射し、高エネルギの光子は紙面の更に下方に位置するピクセル10に入射する。
【0025】
図4は、1つの方向において光ビーム1を統計学的に分解する手段と、一次元検出器アレー6とを有する図1に示した本発明の装置の一実施例の模式図を示すが、更に、信号を処理する電子装置も合せて示す。検出器アレー6の個々の検出器7には、それぞれ1つの電気的接続(伝送)要素11を介して、それぞれ1つの光子カウンタ12が配されているため、光子イベントはピクセル毎に読取・計数することができる。光子カウンタ(複数)12の出力部(複数)は、それぞれ1つの電気的接続(伝送)要素13を介して1つの加算器14に供給され、該加算器14において、検出器アレー6全体の検出された光子イベントが加算される。このようにして生成される計数率(値)は、出力信号15として送出される。
【0026】
最後に、ここに強調すべきことは、偶々選択された上述の個々の実施例は、単に、本発明の教示を説明するためのものに過ぎず、本発明の教示は、上記実施例に限定されるものではないことである。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】1つの方向において統計学的光子分布を生成するよう光ビームを分解する手段と、一次元検出器アレーとを有する本発明に係る装置の第1実施例の模式図。
【図2】1つの方向においてスペクトル的光子分布を生成するよう光ビームを分解する手段と、一次元検出器アレーとを有する本発明に係る装置の第2実施例の模式図。
【図3】2つの方向において光ビームを分解する手段と、二次元検出器アレーとを有する本発明に係る装置の第3実施例の模式図。
【図4】付加的に関連電子処理装置を示した図1の第1実施例の模式図。
【符号の説明】
【0028】
1 光ビーム
2 光源
3 光学要素
4 円柱状レンズ
5 発散された(分解ないし拡開された)光ビーム
6 検出器アレー
7 (個別)検出器
8 プリズム
9 検出器アレー
10 ピクセル
11 電気的接続(伝送)要素
12 光子カウンタ
13 電気的接続(伝送)要素
14 加算器
15 出力信号

【特許請求の範囲】
【請求項1】
とりわけ蛍光顕微鏡に使用するための、空間的に限定された光源(2)から出射する光ビーム(1)の光子(複数)を検出する装置であって、検出装置を含んで構成された装置において、
前記検出装置は、少なくとも2つの検出器(7)を有すること、及び前記光ビーム(1)のビーム路に、前記光子(複数)が検出のために前記検出器(複数)(7)に配分されるように前記光ビーム(1)を分解可能に構成された構成要素(3)が配されること
を特徴とする装置。
【請求項2】
前記検出器(複数)(7)は、単一光子検出(single photon counting)に適合化されていること
を特徴とする請求項1に記載の装置。
【請求項3】
前記検出器(複数)(7)は、アバランシフォトダイオード(APD)、光電子増倍管及び/又はEMCCD(電子増倍CCD:Electron Multipliying CCD)であること
を特徴とする請求項1又は2に記載の装置。
【請求項4】
前記検出器(複数)(7)は、一次元、二次元又は三次元アレー(6、9)を形成すること
を特徴とする請求項1〜3の一に記載の装置。
【請求項5】
前記三次元アレーは、順に並んで配される複数の部分透光性EMCCDから構成されること
を特徴とする請求項4に記載の装置。
【請求項6】
前記構成要素(3)は、好ましくはデフォーカシングによって、前記光ビーム(1)を分解して前記光子(複数)の統計学的分布を生成すること
を特徴とする請求項1〜5の一に記載の装置。
【請求項7】
前記構成要素(3)は、円柱状レンズ(4)であること
を特徴とする請求項6に記載の装置。
【請求項8】
前記構成要素(3)は、前記光ビーム(1)を分解して前記光子(複数)のスペクトル的分布を生成すること
を特徴とする請求項1〜5の一に記載の装置。
【請求項9】
前記構成要素(3)は、プリズム(8)であること
を特徴とする請求項8に記載の装置。
【請求項10】
前記構成要素(3)は、光電素子又は電気機械式スキャナであること
を特徴とする請求項1〜5の一に記載の装置。
【請求項11】
複数の前記構成要素(3)は、前記光ビーム(1)のビーム路に順に並んで配されること
を特徴とする請求項1〜10の一に記載の装置。
【請求項12】
光子計数のための電子的カウンタ(12)は、前記検出器(7)の近傍に、とりわけEMCCDのチップ上に配されること
を特徴とする請求項1〜11の一に記載の装置。
【請求項13】
光子計数のための計数ロジックは、FPGA(フィールド・プログラマブル・ゲート・アレー:Field Programmable Gate Array)にプログラミングされること
を特徴とする請求項1〜12の一に記載の装置。
【請求項14】
前記カウンタ(12)に前置及び/又は後置される加算器(14)を有すること
を特徴とする請求項12又は13に記載の装置。
【請求項15】
関連電子装置がモノリシックに構成されること
を特徴とする請求項1〜14の一に記載の装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2007−501934(P2007−501934A)
【公表日】平成19年2月1日(2007.2.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−522876(P2006−522876)
【出願日】平成16年4月2日(2004.4.2)
【国際出願番号】PCT/DE2004/000718
【国際公開番号】WO2005/015284
【国際公開日】平成17年2月17日(2005.2.17)
【出願人】(505211385)ライカ ミクロジュステムス ツェーエムエス ゲーエムベーハー (25)
【Fターム(参考)】