説明

光ピックアップおよびそれを用いた光学的情報再生装置

【課題】
従来の液晶型コマ収差補正装置では、同一の補正装置で波長や有効ビーム径が異なる複数の光ビームに対して共に良好な収差補正性能を確保することは困難であった。また該収差補正装置に入射する光ビームの入射位置ずれに対する収差補正性能の大幅な低下が免れなかった。本発明の課題はこれら各問題を改善することにある。
【解決手段】
本発明では液晶型収差補正装置の電極パターンを従来公知のパターンから図1のように変更し、かつ入射光ビームの波長、有効ビーム径、コマ収差量、入射光ビームの相対的な入射位置ずれの応じて各電極部に印加される電位を制御することにより、上記各課題を良好に改善できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、収差補正を考慮した光ピックアップおよびそれを用いた光学的情報再生装置に関する。
【背景技術】
【0002】
本技術分野の背景技術としては、例えば特開平11-110802号公報がある。本公報には、課題として「簡易な構成で小型化が可能であると共に、光軸の傾斜による波面収差を効果的に補正しうる収差補正装置及び当該収差補正装置を備えた情報再生装置を提供する。」と記載があり、また、解決手段には「通過する光ビームに対して、その分子方向により位相差を与えることが可能な液晶の両面に、夫々が波面収差の分布に対応した形状のパターン電極30a、30b、31a、31b及び32並びに40a、40b、41a、41b及び42に分割された透明電極10c及び10dを夫々形成し、検出されたタンジェンシャル方向又はラジアル方向のチルト角に対応して各パターン電極に印加する電圧の極性及び電圧値を制御し、各パターン電極により区分される液晶の領域毎に通過する光ビームの位相差を変えて、生じている波面収差を相殺する。このとき、必要な電位差が液晶素子に印加されるように、電圧の極性を反転させて印加する。」と記載がある。
【0003】
【特許文献1】特開平11-110802号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のような波面収差の補正装置としては、液晶素子の両面に所定の形状を有する透明電極を配置した構成の補正装置が知られている。この液晶素子を用いた収差補正装置では、当該液晶素子を挟み込むように配置された各透明電極に電位差を生じさせることにより液晶分子の配向性を変化させ、この液晶分子の配向性の違いによって局所的に屈折率を変化させることにより、この液晶素子を通過する光ビームに局所的な位相変化を与えて波面収差を補正している。
【0005】
特に特許文献では、主に対物レンズや光ディスクの傾きに起因し、光ピックアップの光学性能を左右する波面収差であるコマ収差を補正する目的で、図2に示すように液晶素子1の表面に各々所定の形状の透明電極10a〜10eを備えた液晶収差補正装置の構成が開示されている。
【0006】
しかしながら、上記収差補正装置では、主に以下に示すような2つの重大な技術的課題がある。
【0007】
まず第1の課題について説明する。従来の収差補正装置では波面収差を良好に補正できる光ビームは1種類に限定されている。これは一般に液晶素子の表面に配置される透明電極は、所定の有効ビーム径を有する光ビームにとって最適な収差補正性能が得られるようにその形状や寸法が最適設計されるためである。これは逆に前記有効ビーム径とは異なる有効ビーム径を有する光ビームに対しては、前記補正装置と同じ収差補正装置で収差補正を行なってもその収差補正性能は著しく劣化してしまうことを意味している。
【0008】
【表1】

例えば、表1は有効ビーム径の違いによるコマ収差補正性能の違いの一例を示したものである。収差補正装置としては上記特許文献で開示され、図2に示すような透明電極パターンを備えた最も一般的なコマ収差補正用液晶収差補正装置を用いている。また表中に示した収差補正率というのは、所定の初期(補正前)コマ収差に対して収差補正装置で除去されたコマ収差量の比率を示しており、収差補正性能の評価するための有効な指標である。
【0009】
表1のケースAは、有効ビーム径約2.0mmΦで波長658nmのDVD再生用光ビームについて収差補正率が最大となるように透明電極の形状や寸法を最適設計した液晶収差補正装置を用いた場合である。この場合は表から明らかなように、DVD用の光ビームに対しては60%以上の収差補正率を確保できているが、同じ収差補正装置で有効ビーム約1.6mmΦで波長785nmのCD再生用光ビームのコマ収差補正をおこなうと、その収差補正率は約11%しか得られない。
【0010】
また逆にケースBに示すように、上記CD用光ビームにとって収差補正率が最大(約60%強)となるように透明電極の形状や寸法を最適設計した液晶収差補正装置を用いると、今度は上記DVD用光ビームに対しては、やはり11%程度の収差補正率しか得られない。
【0011】
さらに、ケースCに示すように上記DVD用光ビーム(2.0mmΦ)とCD用光ビーム(1.6mmΦ)の中間の有効ビーム径1.8mmΦの光ビームに対して収差補正率が最大になるように収差補正装置の透明電極の形状や寸法を最適設計した場合は、DVD用、CD用両光ビームとも約30%程度の収差補正率しか得られない。
【0012】
このように上記収差補正装置では、透明電極をどのように最適設計しても有効ビーム径が異なる2本の光ビームに対して共に良好な収差補正性能を得られる最適解を得ることはできない。
【0013】
一方、近年、1台の光ピックアップまたは光学的情報再生装置で複数種類の光ディスクの再生を行なえるようにするため、ほぼ同一の光路中を波長や有効ビーム径が異なる複数の光ビームを通す構成を備えた光ピックアップも一般的に用いられるようになった。このような光ピックアップでは、各光ビームごとに別々の収差補正装置を配置するよりも同一の収差補正装置で全ての光ビームが有する波面収差を全て良好に補正できるようにする方が、光ピックアップ自体の大きさや部品点数、コスト等の面で明らかに有利である。しかしながら前記したように、従来は1つの収差補正装置で有効ビーム径が異なる複数種類の光ビームの波面収差を共に良好に補正できるような構成や上記課題については開示されていなかった。
【0014】
次に第2の課題について説明する。従来の収差補正装置では、上記した第1の技術的課題に加え、当該収差補正装置とこの収差補正装置に入射する光ビームとの間に相対的な位置ずれが生じるとそれに伴って収差補正性能が著しく低下するという課題がある。
【0015】
図3は、上記の課題点を示す一例として図2に示したような従来の一般的な透明電極パターンを備えた従来の収差補正装置を用いた際に、この収差補正装置と入射光ビームの間に上記したような相対的位置ずれが生じた場合の相対位置ずれ量とそのときの収差補正率との関係をプロットした図である。なお図3の結果は各電極に加える電位差すなわち位相差は相対位置ずれがゼロの場合に最良の収差補正性能が得られる状態で固定されているものとした場合の計算結果である。
【0016】
図から明らかなように、相対位置ずれがゼロの場合、すなわち入射光ビームが全く位置ずれ無く収差補正装置に入射した場合は、最良の収差補正性能(収差補正率を60%以上確保)を得ることができる一方、相対位置ずれが増加してくるとそれに伴って収差補正性能が急速に落ち込み、0.2mmの相対位置ずれ量で収差補正率はほとんど0%近くにまで低下してしまうことがわかる。
【0017】
このように従来の収差補正装置では、わずかな相対位置ずれでも収差補正性能を著しく低下させてしまう。しかしながら、実際の光ピックアップでは組み立て時の取り付け位置ばらつき等が原因となって光ビームと収差補正装置との間に数十μm程度の相対的に位置ずれしてしまうことは決して免れない。したがって、このような相対的な位置ずれがある場合でも良好な収差補正性能が確保できるかどうかは、光ピックアップの性能を左右する重要な要因である。
【0018】
しかしながら、従来は上記のような課題および相対位置ずれによる収差補正性能の低下を防ぐ有効な手段は全く開示されていなかった。
【0019】
そこで本発明は、使い勝手のよい光ピックアップおよびそれを用いた光学的情報再生装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0020】
上記目的は、特許請求の範囲に記載の発明により解決できる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、使い勝手のよい光ピックアップおよびそれを用いた光学的情報再生装置を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下に、本発明の実施の形態を説明する。
【実施例1】
【0023】
本発明の実施例1を図1を用いて説明する。本実施例における収差補正装置も従来の収差補正装置と同様、所定の液晶素子を挟み込む形で所定の電極面を設けるが、図1はその電極面に設けられた各電極パターンの一例をしめした概略平面図である。なお本図では、図中に示すように図の横軸方向が光ディスクの半径方向に相当し、縦軸方向がディスク接線方向に相当するものとしており、図に示したような電極パターンは図の横軸方向すなわちディスク半径方向に生じるコマ収差を補正する機能をもつ。
【0024】
図1に示すように液晶素子の電極面1の中央部近傍には略楕円形状の透明電極10aおよび10bが縦軸に対して線対称に配置されている。また透明電極10aおよび10bの外側には略三日月状の透明電極10cおよび10dが電極10aおよび10bを包み込むように配置されている。さらにその外側には一定の間隙を空けてやはり三日月状の透明電極10eおよび10fが配置され、この電極10eおよび10fの外側には、やはり一定の間隙を空けて外側のほとんど領域が透明電極10c’および10d’で覆われている。なお図には示していないが、電極10cと10c’および10dと10d’はそれぞれ結線され、各々常に同じ電位差が加わるようになっている。また電極面1の中で上記電極10a〜10fおよび10c’、10d’以外の部分は(図中でハッチングされていない領域)は全て基準電位を与える透明電極10gで覆われている。
【0025】
上記のように複数の電極が配置された液晶型の収差補正装置を用い、この収差補正装置に入射する光ビームの波長、コマ収差量、有効ビーム径に応じて、前記各電極に所定の電位差を与えると各光ビームごとに最適な収差補正効果を得ることができる。なお、このとき各電極に与える電位差とは、電極10gに印加される電位を基準電位として、この基準電位と各電極それぞれに印加電位との差のことを意味しており、このような電位差が電極10gと各電極間に生じると、その電位差に比例して各透明電極部分を通過する光ビームに局所的な位相(波面)の遅れまたは進みが生じる。そしてこの局所的な波面の進み方は遅れにより、元々この光ビームが持っているコマ収差に相当する波面収差を相殺することで収差補正を実現する。
【0026】
【表2】

表2は、上記コマ収差補正の効果を示す一例として、元々それぞれがRMS値で0.01λ(λは各光ビームの波長)相当のコマ収差が生じているDVD用光ビーム(λ=658nm、有効ビーム径=2.0mmΦ)およびCD用光ビーム(λ=785nm、有効ビーム径1.6mmΦ)を上記実施例における収差補正装置に通すことによって最適収差補正を行なう場合の各電極部分を通過する光ビームの波面に付加されるべき位相差(基準電位が与えられている電極10g部分を通過する光ビームの波面の位相を基準位相とした場合の相対位相差)とそのような位相差が各電極部を通過する光ビームに付加された場合の収差補正率の実例を示したものである。表から明らかなように、図1に示したような電極パターンを備えた収差補正装置を用い、各電極部を通過する光ビームに所定の付加位相差が付加されるよう各電極に所定の電位を印加することにより、同一の収差補正装置を用いても波長や有効ビーム径が異なるDVD用光ビームとCD用光ビームの両方について共に60%以上の高い収差補正率を得ることができる。これは従来の収差補正装置では実現できなかった重要な利点である。
【0027】
なお表2で示した各電極通過光に付加されるべき位相差は、あくまでRMS値0.01λ相当のコマ収差を最適補正する際の位相差を示している。この付加位相差と補正できるコマ収差量との間には一般に単純な比例関係が成り立つ。したがってRMS値が0.01λ以上のコマ収差を補正する場合は、対象とするコマ収差量(RMS値)を0.01λで除算して得られた倍率を表中の各位相差に乗算した結果を付加位相差とすればよい。
【0028】
また表2では、本発明の収差補正装置の一実施例として、互いに有効ビーム径が異なるDVD用光ビームとCD用光ビームの共用化を実現した例を示したが、当然、本実施例はこの組み合わせに限定されるものではなく、例えば近年その開発が急ピッチで進められているBlu−rayやHD−DVDなど高密度記録光ディスクを再生あるいは記録できるような光ピックアップに搭載し、このような高密度記録光ディスクを再生または記録するための光ビームと従来のDVDあるいはCD用の光ビームの両方に対して共用で収差補正できるような収差補正装置についても全く同様に本実施例を適用することができる。
【実施例2】
【0029】
次に本発明の第2の実施例について図4および図5を用いて説明する。実際に光ピックアップ内に収差補正装置を組み込む場合、その構成部品の精度や組み込み時のバラツキなどの要因で、収差補正装置とこの収差補正装置に入射する光ビームとの間に相対的な位置ずれが生じる場合が決して稀ではない。しかしながら、前記図3の例で示したように、従来の収差補正装置では、この相対的な位置ずれにより収差補正率すなわちその収差補正装置が有する収差補正性能が急激に低下してしまう。このような場合でも本実施例を用い、相対位置ずれ量に応じて各電極に印加される電位を調整し、各電極部分を通過する光ビーム波面に付加される相対位相差を所定の値に制御すれば、上記入射光ビーム相対位置ずれに対する収差補正率の低下を良好に抑制することができる。
【0030】
例えば図4は、図1に示したような電極パターンを備えた本実施例の収差補正装置でDVD用光ビーム(波長λ=658nm,有効ビーム径2.0mmΦ)のコマ収差補正を行なう場合に該収差補正装置の中心点と入射したDVD用光ビームの中心光軸の入射位置がディスク半径方向に相当する方向(図1の水平方向)にδだけ相対的に位置ずれを起しているものとし、横軸にその相対位置ずれ量δをとり、縦軸にその各場合においてコマ収差0.01λrmsを最適に補正するために各電極部分を通過する光ビームに付加されるべき相対位相差をとってグラフ化した線図である。
【0031】
また図5は図4と同様、横軸に収差補正装置に入射するDVD用光ビームの相対位置ずれ量δをとり、縦軸に最適収差補正時の収差補正率をとってグラフ化した線図である。
【0032】
図4および図5から明らかなように、本実施例の電極パターンを備えた収差補正装置を用い、かつこの収差補正装置に入射する光ビームの相対位置ずれ量に応じて各電極に与える電位を制御し、各電極部分を通過する光ビームに付加される相対位相差を所定の値にすることにより、図3に示した従来の収差補正装置を用いた場合に比較して、入射光の相対位置ずれに対する収差補正性能の低下が各段に改善されていることがわかる。
【0033】
なお図4中に示した各電極通過光ビームに付加されるべき位相差は、表2の場合と同様あくまでRMS値0.01λ相当のコマ収差を最適補正する際の位相差を示している。この付加位相差と補正できるコマ収差量との間には一般に単純な比例関係が成り立つ。したがってRMS値が0.01λ以上のコマ収差を補正する場合は、対象とするコマ収差量(RMS値)を0.01λで除算して得られた倍率を表中の各位相差に乗算した結果を付加位相差とすればよい。
【0034】
また図4および図5の例は、収差補正装置に入射する光ビームがディスク半径方向に相当する方向(図1の水平方向)に位置ずれした場合であるが、当然のことながら、ディスク接線方向に相当する方向(図1の垂直方向)に位置ずれを起した場合についても、その位置ずれ量に応じて各電極部に印加される電位を制御し、各電極部分を通過する光ビームに付加される相対位相差を所定の値にすることにより、上記位置ずれに対する収差補正性能の低下を大幅に改善することができる。すなわち入射光ビームが収差補正装置の電極面内のどの方向に位置ずれを起したとしても、それに応じて各電極部分を通過する光ビームに付加される相対位相差を所定の値に制御することで、入射光ビームの相対位置ずれに伴う収差補正性能の低下を大幅に改善することができるわけである。
【実施例3】
【0035】
図6に第3の実施例として、第1および第2の実施例で説明した本実施例の収差補正装置を搭載した光ピックアップの一例を示す。
【0036】
図中の破線で囲われた光ピックアップ光学系80内には、例えばDVD用の波長650〜660nm帯のレーザ光を出射する半導体レーザ光源50とCD用の波長780〜790nm帯のレーザ光を出射する半導体レーザ光源51が配置されている。そして各半導体レーザ光源から発したレーザ光は光ビーム合成用プリズム52で同一の光路に合成され、回折格子53を経てハープミラー54に入射する。ハープミラー54を反射した各レーザ光ビームは、立ち上げミラー55を経てカップリングレンズ56に達し、このレンズ56によって略平行光ビームに変換され対物レンズ57に向かう。そして対物レンズ57で所定の光ディスク70上の記録トラックに集光される。次に該光ディスク70を反射した復路光ビームは、往路光と逆の光路をたどり対物レンズ57、カップリングレンズ56、立ち上げミラー55を経て再びハーフミラー54に達する。そしてこのハーフミラー54を透過した一部の復路光は検出レンズ58を経て光検出器59に達し、所定の情報信号やフォーカス誤差信号やトラッキング誤差信号などの対物レンズ制御信号などが検出される。なおこの対物レンズ制御信号は所定の制御回路(図示せず。)を経て、対物レンズ57がつながっている2次元アクチュエータ60にフィードバックされ対物レンズの位置制御が行なわれる。
【0037】
なお以上の光ピックアップ光学系の構成は、通常のものであるため詳細な説明は省略する。
【0038】
以上の構成の光ピックアップにおいて、本実施例の収差補正装置100は図6中に示すように例えばカップリングレンズ56と対物レンズ57の間の光路中に配置され、DVD用およびCD用の各レーザ光ビームがそれぞれ略平行光ビームの状態で入射するようになっている。またこの収差補正装置100は液晶素子部2が電極面1および1’で挟まれた構成になっており、所定の電位印加装置(図示せず。)を用いて前記したように各電極面内の所定の電極に所定の電位を印加させることにより、各光ビームに対して最適な収差補正を行なうようになっている。なお電極面1および1‘に所定の電位を印加させる電位印加装置および印加手段に関しては、前記特許文献1などに詳述されており、既に公知の内容であるので本明細書では説明を省略する。
【0039】
なお図6の実施例は、DVDとCDの両光ディスクの再生または記録に対応した互換光ピックアップを例にあげて説明したが、当然のことながらこれに限定されるものではない。例えば、前記したようなBlu−rayやHD−DVDなど高密度記録光ディスクの再生または記録とDVDまたはCDあるいはその両方の再生または記録に対応した互換光ピックアップなどにも、当然本実施例の収差補正装置を用いることができる。
【0040】
上記したような本実施例にかかるピックアップおよびそれを用いた光学的情報再生装置により、1台の収差補正装置で有効ビーム径が異なる複数の光ビームに対して共に良好な収差補正性能を得ることができる上、入射光ビームと前記収差補正装置間に相対的な位置ずれが生じた場合においても、良好な収差補正性能を得ることができる。
【0041】
なお図1や表2等で説明した本発明の実施例は、ディスクの半径方向(図1の水平方向)に発生するコマ収差を補正する場合を例に挙げて説明しているが、光ピックアップにおいては、当然ディスク半径方向だけではなく、ディスクの接線方向(図1の垂直方向)にコマ収差が発生する場合もある。また半径方向や接線方向以外の任意方向に生じるコマ収差に対しても、そのコマ収差をディスク半径方向成分と接線方向成分に分解し、それぞれの成分を適正に補正することで、発生方向に関係なく良好に収差補正をおこなうことができる。このような理由から光ピックアップにおいては、ディスク半径方向と接線方向の2方向に関して各々独立したコマ収差補正が行なえる収差補正装置を搭載することが、より望ましい。
【0042】
ところで、このように互いに垂直な2方向に関するコマ収差補正を1台の収差補正装置で実施するためには、図1で示した各透明電極パターンを中心軸まわりに90度回転させたような電極配置を備えた第2の電極面を設け、この第2の電極面と図1に示した第1の電極面で液晶素子を挟みこむような構成の収差補正装置を用いればよい。
【0043】
また、上記のような2方向対応の収差補正装置では、図1の実施例に比較してそれぞれ独立に所定の電位を印加する電極数がほぼ倍に増えるが、このような場合は、例えば図1の実施例における電極10aと10fあるいは10bと10eをそれぞれ結線して同じ電位が印加されるようにすれば、独立した電位を印加する電極数を削減させることができる。なお、電極10aと10fあるいは10bと10eを結線して同じ電位が印加されるような構成にした場合、その収差補正性能は本来の実施例のように各電極ごとに適正な電位が印加された場合よりも若干低下するものの、従来の収差補正装置に比較すると格段に良好なコマ収差補正性能を保持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】本実施例のコマ収差補正装置の電極パターン例を示す概略平面図。
【図2】従来のコマ収差補正装置の電極パターン例を示す概略平面図。
【図3】従来のコマ収差補正装置における入射光ビームの相対位置ずれと収差補正率との関係を示す線図。
【図4】本実施例のコマ収差補正装置における入射光ビームの相対位置ずれとその各場合においてコマ収差量0.01λrmsを最適収差補正するために各電極部分通過光ビームに付加される相対位相差との関係の一例を示す線図。
【図5】本実施例のコマ収差補正装置における入射光ビームの相対位置ずれとその各場合における最適収差補正後の収差補正率との関係を示す線図。
【図6】本実施例のコマ収差補正装置を搭載した光ピックアップの一実施例を示した概略構成図。
【符号の説明】
【0045】
1,1’…収差補正装置の電極面、2…液晶素子、10a〜10g,10c’,10d’…収差補正装置の電極面内に配置される各電極、50,51… 半導体レーザ光源、56…カップリングレンズ、57…対物レンズ、70…光ディスク、100…本実施例の収差補正装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のレーザ光源と、
前記複数のレーザ光源の光をディスク上の集光する対物レンズと、
前記レーザ光源から前記対物レンズまでの間に配置され、レーザ光源の収差を補正する収差補正手段と、
を有し、
前記収差補正手段の面上には、前記複数のレーザ光源からの光に対し収差補正が行えるように電極が配置されている、
光ピックアップ。
【請求項2】
前記収差補正手段はコマ収差を補正し、また、前記収差補正手段の面上には、少なくとも6つの電極が配置されている、
光ピックアップ。
【請求項3】
請求項1または2記載の光ピックアップを制御する制御手段を備えた、
光学的情報記録装置。
【請求項4】
第1のレーザ光源と、
前記第1のレーザ光源より光束径が小さい第2のレーザ光源と、
前記第1および第2のレーザ光源の光をディスク上の集光する対物レンズと、
前記第1および第2のレーザ光源のコマ収差を補正するコマ収差補正手段と、
を有し、
前記コマ収差補正手段の面上には、前記第1のレーザ光源からの光に対するコマ収差の補正が行えるように第1の電極が配置され、また、前記第2のレーザ光源からの光に対するコマ収差の補正が行えるように第2の電極が配置されている、
光ピックアップ。
【請求項5】
請求項4記載の光ピックアップを制御する制御手段を備えた、
光学的情報記録装置。
【請求項6】
レーザ光源と該レーザ光源を発した光ビームを所定の光学的情報記録媒体上に集光する対物レンズとの間に配置され、前記光ビームに所定の位相差を与えることにより該光ビームが有する波面収差を補正する機能を備えた収差補正手段と、
該収差補正手段内の前記光ビームが通過する所定の面上の所定位置に各々所定の電位差を印加するために設けられた複数個の電極とを備えた収差補正装置において、少なくとも当該収差補正装置を通過し、かつ互いに光束径が異なる少なくとも2本以上の光束に対して該各光束が有する波面収差をそれぞれ適切に補正するように前記各光束ごとに前記各電極に印加する電位差を制御する機能を備えたことを特徴とする収差補正装置。
【請求項7】
レーザ光源と該レーザ光源を発した光ビームを所定の光学的情報記録媒体上に集光する対物レンズとの間に配置され、前記光ビームに所定の位相差を与えることにより該光ビームが有する波面収差を補正する機能を備えた収差補正手段と、
該収差補正手段内の前記光ビームが通過する所定の面上の所定位置に各々所定の電位差を印加するために設けられた複数個の電極とを備えた収差補正装置において、少なくとも当該収差補正装置内の収差補正手段を通過する各光束に生じた波面収差量と、前記各光束が前記電極配置面に入射する際の光軸の入射位置と前記中心点との相対的な位置ずれ量と、に応じて前記各電極に印加される電位差を各々独立に制御したうえで、前記各電極に印加する機能を備えたことを特徴とする収差補正装置。
【請求項8】
前記収差補正装置は、前記各光束が有する波面収差の中で少なくとも主にコマ収差を補正する機能を備えていることを特徴とする請求項6または7記載の収差補正装置。
【請求項9】
前記収差補正装置は、少なくとも6個以上の独立した電極が配置されており、かつ当該電極はこの電極が配置されている面内の略中心点を通る所定の軸に対して略軸対称に配置されていることを特徴とする請求項6乃至8のいずれかに記載の収差補正装置。
【請求項10】
前記収差補正手段は、前記各電極に印加される電圧に応じて屈折率を変化させ、該屈折率変化によって当該収差補正手段を通過する光ビームに局所的な位相差を与えることにより所定の波面収差を補正する液晶素子からなることことを特徴とする請求項6乃至9のいずれかに記載の収差補正装置。
【請求項11】
請求項6乃至10のいずれかに記載の収差補正装置を搭載し、前記レーザ光源と前記対物レンズとを少なくとも備えた光ピックアップ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−172774(P2007−172774A)
【公開日】平成19年7月5日(2007.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−371301(P2005−371301)
【出願日】平成17年12月26日(2005.12.26)
【出願人】(000153535)株式会社日立メディアエレクトロニクス (452)
【Fターム(参考)】