説明

光ピックアップ装置

【課題】光源からの光を光記録媒体の情報記録面に集光する対物レンズを樹脂レンズとした場合でも、再生特性が劣化しない光ピックアップ装置を提供する。
【解決手段】光ピックアップ装置は、光源11と、光源11から出射される光を光記録媒体70の情報記録面70aに集光する対物レンズ17と、光源11と対物レンズ17との間の光路中に配置され、光軸方向に可動して対物レンズ17へと至る光の収束或いは発散状態を調整する可動レンズ15と、可動レンズ15の位置を調整するレンズ位置調整手段6と、対物レンズ17のチルト量を調整するチルト量調整手段3と、環境温度を検出する温度検出手段5と、を備える。対物レンズ17は、可動レンズ15から対物レンズ17へと至る光の光軸に対して傾いて配置される。環境温度の変動を検知した場合に、可動レンズ15の位置を変更すると共に対物レンズ17のチルト量を変更する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光記録媒体から情報を読み取ったり、光記録媒体に情報を書き込んだりする際に用いられる光ピックアップ装置に関する。詳細には、光源からの光を光記録媒体の情報記録面に集光する対物レンズが樹脂からなる光ピックアップ装置に対して好適な技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ブルーレイディスク(BD)等の光ディスク(光記録媒体)に記録される情報の読み取りや光ディスクへの情報の書き込みは、光ピックアップ装置を用いて行われる。光ピックアップ装置には、光源からの光を光ディスクの情報記録面に集光する対物レンズが備えられる。従来、この対物レンズについて、例えば光ピックアップ装置のコストを低減するために、ガラスレンズではなく樹脂レンズを用いることがある(例えば、特許文献1、2参照)。
【0003】
ところで樹脂レンズは、環境温度の変動に対して影響を受け易く、光ピックアップ装置が備える対物レンズを樹脂レンズとすると、環境温度の変化に伴って発生する球面収差の影響が問題となる。環境温度の変動によって発生する球面収差に対する対策として、例えば対物レンズ自体に回折溝を形成して球面収差を抑制することが従来行われている。
【0004】
しかし、例えばBDに対応可能な光ピックアップ装置が備えるような高NA(例えばNA=0.85)の対物レンズにおいては、対物レンズ自体に回折溝を設けて球面収差を抑制するのは容易ではない。
【特許文献1】特開平10−40569号公報
【特許文献2】特開2003−287675号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
以上のようなことから、本出願人は、光源と対物レンズとの間の光路中に配置されるコリメートレンズ(入射する光を平行光に変換するレンズで、従来、光ピックアップ装置に備えられるレンズである)を光軸方向に移動可能とし、環境温度の変動に伴ってコリメートレンズの位置を移動して球面収差を抑制する方式を検討している。コリメートレンズを光軸方向に移動すると、対物レンズに入射する光の収束状態或いは発散状態が変化する。そして、この収束状態或いは発散状態を調整することによって、対物レンズで発生する球面収差を抑制することができる。
【0006】
しかしながら、本出願人はこのような方式について検討を行う中で、次のような問題点を見出した。図10は、環境温度の変化に対する光ピックアップ装置のジッタ特性の変化を示す図で、横軸が環境温度で縦軸がジッタ値である。図10において、白抜きの丸印は環境温度が変動しても光ピックアップ装置の設定を全く調整しない(未調整)場合のジッタ特性を示す。また、白抜きの三角印は環境温度の変動に伴ってコリメートレンズ位置を調整した場合のジッタ特性を示す。
【0007】
なお、図10の結果を得るにあたって、25℃においてジッタ特性の最良値が得られるように光ピックアップ装置の構成を調整した。また、各温度におけるコリメートレンズの位置は、環境温度毎に最もジッタ特性が良くなる位置を調べ、そのような位置に配置した。
【0008】
図10によれば、光ピックアップ装置の構成を環境温度の変動に伴ってコリメートレンズの位置を移動する構成とすることで、ジッタ特性が向上する(すなわち再生性能が向上する)ことがわかる。しかしながら、特に低温側において、コリメートレンズ位置の調整を行ってもジッタ特性があまり良くなっていないことがわかる。すなわち、環境温度の変動によって対物レンズに発生する球面収差を補正できるように、コリメートレンズの位置を温度変動に伴って移動するだけでは、十分な再生特性が得られない場合があることがわかった。
【0009】
そこで、本発明の目的は、光源からの光を光記録媒体の情報記録面に集光する対物レンズを樹脂レンズとした場合でも、再生特性が劣化しない光ピックアップ装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために本発明の光ピックアップ装置は、光源と、前記光源から出射される光を光記録媒体の情報記録層に集光する対物レンズと、前記光源と前記対物レンズとの間の光路中に配置され、光軸方向に可動して前記対物レンズへと至る光の収束或いは発散状態を調整する可動レンズと、前記可動レンズの位置を調整するレンズ位置調整手段と、前記対物レンズのチルト量を調整するチルト量調整手段と、環境温度を検出する温度検出手段と、を備え、前記対物レンズは、前記可動レンズから前記対物レンズへと至る光の光軸に対して傾いて配置され、前記環境温度の変動を検知した場合に、前記可動レンズの位置を変更すると共に前記対物レンズのチルト量を変更することを特徴としている。
【0011】
上述のように、対物レンズを樹脂レンズとした場合、環境温度の変動に伴って発生する球面収差を補正する必要がある。この点、本構成によれば、可動レンズの移動によって球面収差の補正を行える。一方で、本構成では、光ピックアップ装置の製造時において、対物レンズが持つコマ収差の影響を補正するために、対物レンズは可動レンズから対物レンズへと至る光の光軸に対して傾けて配置することとしている。このような構成では、球面収差の補正を行う目的で可動レンズの位置を移動した場合にコマ収差が発生してしまう。そこで、本構成では、環境温度の変動に伴って可動レンズの位置を変更すると共に、対物レンズのチルト量も変更する構成とし、球面収差とコマ収差の補正を同時に行っている。このため、本構成によれば、対物レンズを樹脂レンズとした場合でも、温度変動による収差の影響を適切に抑制できる。
【0012】
上記構成の光ピックアップ装置のより具体的な構成として、前記チルト量調整手段は、特定の軸の軸回り方向に前記対物レンズを傾斜させることによって前記チルト量の調整を行い、前記対物レンズが、前記可動レンズから前記対物レンズへと至る光の光軸に対して傾けられる方向は、前記チルト量調整手段で前記対物レンズを傾けることによってコマ収差を補正できる方向であることとしてもよい。そして、この構成においては、前記特定の軸は、フォーカス方向及びトラック方向に対して直交する軸であるのが好ましい。
【0013】
上記構成の光ピックアップ装置において、前記チルト量調整手段は、前記対物レンズを保持するレンズホルダを傾けて前記対物レンズのチルト量を調整する構成とするのが好ましい。この構成によれば、対物レンズをフォーカス方向やトラック方向へと移動するために備えられる対物レンズアクチュエータの構成に簡単な変更を加えるだけで、チルト量調整手段を得ることができる。
【0014】
上記構成の光ピックアップ装置において、前記環境温度に対応した前記可動レンズの位置及び前記チルト量の情報を予め記憶した記憶手段を更に備え、前記環境温度の変動を検知した場合に、前記記憶手段に記憶される前記可動レンズの位置及び前記チルト量の情報に基づいて、前記可動レンズの位置及び前記対物レンズのチルト量を変更することとしてもよい。本構成によれば、環境温度が変動した場合に、適切に収差を抑制できる設定を迅速に得ることができる。
【0015】
上記構成の光ピックアップ装置において、前記環境温度に対応した前記可動レンズ位置の情報を予め記憶した記憶手段を更に備え、前記環境温度の変動を検知した場合に、前記記憶手段に記憶される前記可動レンズ位置の情報に基づいて前記可動レンズの位置を変更し、前記可動レンズ位置の調整後に前記チルト量を変動させながら最適なチルト量を決定することとしてもよい。
【0016】
上記構成の光ピックアップ装置において、前記可動レンズはコリメートレンズであるのが好ましい。対物レンズに至る光の収束或いは発散状態を調整して球面収差の補正を行う手段として、例えばビームエキスパンダを用いる手法もある。ビームエキスパンダには、通常少なくとも1つの可動レンズが備えられる。このため、本発明の可動レンズをビームエキスパンダが備える可動レンズとすることも可能である。しかし、本構成のように、可動レンズをコリメートレンズとした方が、光ピックアップ装置が備える光学系の部品点数を少なくできて好ましい。
【発明の効果】
【0017】
本発明の光ピックアップ装置によれば、光源からの光を光記録媒体の情報記録面に集光する対物レンズを樹脂レンズとした場合でも、環境温度の変動に対応して収差を適切に抑制することが可能である。すなわち、本発明によれば、前記対物レンズが樹脂レンズである場合でも再生特性が劣化しない光ピックアップ装置を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明の光ピックアップ装置の実施形態について、図面を参照しながら説明する。
【0019】
(光ピックアップ装置の構成)
まず、本実施形態の光ピックアップ装置の構成について、図1〜図4を参照しながら説明する。図1は、本実施形態の光ピックアップ装置の構成を示す概略平面図である。図2は、本実施形態の光ピックアップ装置が備える光学系の構成を説明するための概略図である。図3は、本実施形態の光ピックアップ装置が備えるコリメートレンズ位置調整機構の構成を示す概略平面図である。図4は、本実施形態の光ピックアップ装置が備える対物レンズアクチュエータの構成を説明するための図で、図4(a)は対物レンズアクチュエータの全体構成を示す概略斜視図、図4(b)は対物レンズアクチュエータが備えるコイルの構成を示す概略斜視図である。
【0020】
図1に示すように、本実施形態の光ピックアップ装置1はスライドベース2を備える。このスライドベース2には、2種類の軸受け部2a、2bが設けられる。スライドベース2が、軸受け部2a、2bを用いて半径方向に延びる2本のガイドシャフト71に摺動可能に支持されることにより、光ピックアップ装置1は半径方向に移動可能となる。なお、スライドベース2の移動は、図示しない公知の移動機構によって行われる。公知の移動機構の一例として、スライドベース2に取り付けられラックと、モータによって回転されるピニオンと、を用いる構成が挙げられる。
【0021】
スライドベース2には、図2に示すような光学系が搭載されている。すなわち、スライドベース2上には、光源11と、回折素子12と、偏光ビームスプリッタ13と、1/4波長板14と、コリメートレンズ15と、立上げミラー16と、対物レンズ17と、シリンドリカルレンズ18と、光検出器19と、が搭載される。なお、対物レンズ17は、対物レンズアクチュエータ3に搭載された状態でスライドベース2上に搭載される。
【0022】
光源11は半導体レーザから成り、光ピックアップ装置1がBDに対応する構成であるために、405nm帯のレーザ光を出射する。回折素子12は、光源11から出射されたレーザ光を主光と2つの副光とに分ける。このように光源11からの光を3つ光に分けるのは、サーボ制御を行う上で必要となる信号を得るためである。
【0023】
偏光ビームスプリッタ13は、1/4波長板14と協働して光アイソレータの役目を果たす。すなわち、偏光ビームスプリッタ13は、光源11からのレーザ光については反射して光ディスク70側へと導くが、光ディスク70によって反射された戻り光については透過して光検出器19側へと導く。
【0024】
コリメートレンズ15は、入射するレーザ光を平行光へと変換するレンズである。ただし、光ピックアップ装置1においては、コリメートレンズ15は光軸方向(図2の左右を指す矢印の方向)に移動可能となっている。このため、光源11から出射されてコリメートレンズ15を出射するレーザ光は必ずしも平行光でなく、収束光であったり発散光であったりする。このようにコリメートレンズ15の位置を調整可能とするのは、コリメートレンズ15の位置を移動することによって対物レンズ17に入射するレーザ光の収束状態或いは発散状態を調整して球面収差を抑制するためである。なお、コリメートレンズ15は、本発明の可動レンズの実施例である。
【0025】
コリメートレンズ15の位置調整を行う手段としては、コリメートレンズ15の光軸方向の位置調整ができれば、その構成は特に限定されるものではない。例えば、図3に示すようなコリメートレンズ位置調整機構6を用いてコリメートレンズ15の位置調整を行うことができる。なお、コリメートレンズ位置調整機構6はスライドベース6上に配置される。また、コリメートレンズ位置調整機構6は、本発明のレンズ位置調整手段の実施例である。
【0026】
図3を参照して、コリメートレンズ位置調整機構6は、コリメートレンズ15を保持し、移動可能に設けられる可動ホルダ61と、可動ホルダ61が光軸方向に移動するようにガイドする2本のガイドシャフト62と、可動ホルダ61に取り付けられたリードナット63に噛合するリードスクリュ64と、リードスクリュ64を回転するステッピングモータ65と、を備える。なお、図示しないが基準位置を定められるようにフォトインタラプタも備えられている。このように構成することにより、ステッピングモータ65でリードスクリュ64を回転することによって、コリメータレンズ15を可動ホルダ61と共に光軸方向に移動できる。そして、ステッピングモータ65のステップ数によってコリメートレンズ15の位置を調整できる。
【0027】
図2に戻って、立上げミラー16はコリメートレンズ15から送られてきたレーザ光を反射する。これにより、光源11から出射されたレーザ光は、その進行方向が曲げられ、光ディスク70の情報記録面70aと直交する方向に進行する光となる。
【0028】
対物レンズ17は、立上げミラー16から送られてきたレーザ光を光ディスク70の情報記録面70aに集光する。上述のように対物レンズ17は対物レンズアクチュエータ3に搭載されている。そして、この対物レンズアクチュエータ3によって、対物レンズ17は、光ディスク70に接離する方向(図2の上下方向)であるフォーカス方向と、光ディスク70の半径方向と平行な方向(図2では紙面に対して垂直な方向)であるトラック方向と、に移動可能となっている。また、対物レンズアクチュエータ3によって、対物レンズ17は、フォーカス方向及びトラック方向と直交する軸の軸回り方向に傾斜可能となっている。すなわち、対物レンズアクチュエータ3によって対物レンズ17のチルト量を調整できるようになっており、対物レンズアクチュエータ3は本発明のチルト量調整手段の実施例である。
【0029】
図4を参照して、光ピックアップ装置1が備える対物レンズアクチュエータ3の構成について説明する。対物レンズアクチュエータ3は、アクトベース31と、対物レンズ17を保持するレンズホルダ32と、を備える。アクトベース31上には、レンズホルダ32を挟んで対称配置となるように一対の永久磁石33が立設されている。
【0030】
レンズホルダ32には、片側に3本ずつ、両側で計6本となるワイヤ34の各一端が固定されている。各ワイヤ34の他端は、アクトベース31上に立設される回路基板35に固定され、これにより、レンズホルダ32はワイヤ34によって揺動可能に支持された状態となっている。
【0031】
また、レンズホルダ32には、レンズホルダ32の内部側壁に沿って対物レンズ17の光軸を取り巻くように配置されるフォーカスコイル321と、レンズホルダ32の外部側壁(永久磁石33と対向する側壁)の対称位置に、それぞれ2つずつ配置される4つのトラックコイル322と、レンズホルダ32の内部であってフォーカスコイル321の下部側に、対称的に配置される2つのチルトコイル323と、が取り付けられている。これらのコイル321〜323には、ワイヤ34を介して電流が供給されるようになっている。
【0032】
フォーカスコイル321に電流が流れると、永久磁石33によって作られる磁界との電磁気的な作用によって、電流が流れる向き及び電流の大きさに応じて、対物レンズ17はレンズホルダ32と共にフォーカス方向Fに移動する。同様に、トラックコイル322に電流が流れると、その向き及び大きさに応じて、対物レンズ17はレンズホルダ32と共にトラック方向Tに移動する。
【0033】
また、チルトコイル323に電流が流れると、その向き及び大きさに応じて、対物レンズ17は、レンズホルダ32と共にフォーカス方向及びトラッキング方向に直交する軸(図3(a)に破線で示す)の軸回り方向Rに回転する。この回転によって、対物レンズ17は傾けられる(チルトされる)。
【0034】
再び図2に戻って、情報記録層70aで反射された戻り光は、対物レンズ17、立上げミラー16、コリメートレンズ15、1/4波長板14、偏光ビームスプリッタ13の順に通過して、シリンドリカルレンズ18へと送られる。シリンドリカルレンズ18は、入射したレーザ光に非点収差を与える。なお、シリンドリカルレンズ18によって非点収差を与えるのは、サーボ制御を行う上で必要となる信号を得るためである。
【0035】
シリンドリカルレンズ18によって非点収差を与えられたレーザ光は光検出器19の受光領域に集光する。光検出器19は、受光領域で受光した光信号を電気信号に変化して出力する。光検出器19から出力された電気信号は信号処理部20で処理され、再生信号、フォーカスエラー信号、トラックエラー信号等が生成される。
【0036】
制御部21は、信号処理部20からフォーカスエラー信号及びトラックエラー信号を受け取って、これらの信号に基づいて対物レンズアクチュエータ3を制御してフォーカス制御及びトラック制御といったサーボ制御を行う。ここで、フォーカス制御とは、対物レンズ17の焦点位置が常に情報記録面70aに合うように行う制御のことである。また、トラック制御とは、対物レンズ17によって集光される光スポットが光ディスク70に形成されるトラックに常に追随するように行う制御のことである。
【0037】
また、制御部21は、サーミスタ5(図1参照)からの環境温度情報に基づいて、コリメートレンズ位置調整機構6を用いたコリメートレンズ15の位置調整、及び、対物レンズアクチュエータ3を用いた対物レンズ17のチルト量調整を行う。このような調整を行う理由及び動作の詳細については後述するが、対物レンズ17によって情報記録面70aに集光する光スポットに発生する収差を適切に補正(抑制)するために、これらの調整は行われる。
【0038】
なお、サーミスタ5は光ピックアップ装置1の環境温度を検出するために設けられ、スライドベース2上に配置されるプリント配線基板4(図1参照)上に実装されている。サーミスタ5は、本発明の温度検出手段の実施例であるが、本発明の温度検出手段はサーミスタに限らず、例えば熱電対等、他の構成に適宜変更して構わない。また、本発明の温度検出手段は対物レンズ17の近傍の環境温度を検出できるのが好ましく、本実施形態の位置に限定されず適宜変更して構わない。
【0039】
(光ピックアップ装置の環境温度変動に伴う動作)
以下、本実施形態の光ピックアップ装置1の環境温度変動に伴う動作について説明する。ただし、当該動作の詳細を説明する前に、環境温度の変動に伴って、コリメートレンズ15の位置調整だけでなく、対物レンズ17のチルト量調整も行って収差補正を行う理由について説明する。
【0040】
光ピックアップ装置1の対物レンズ17は樹脂によって形成された樹脂レンズとなっている。このため、環境温度の変動によって生じる球面収差を抑制する必要がある。そこで光ピックアップ装置1においては、環境温度をサーミスタ5で検出し、温度変動があった場合にはコリメートレンズ位置調整機構6によってコリメートレンズ15の位置を調整し、球面収差を補正できるようになっている。しかし、上述したように、単にコリメートレンズ位置調整機構6でコリメートレンズ15の位置を調整するだけでは十分な収差補正ができない(図10参照)。このために、光ピックアップ装置1においては、温度変動があった場合に対物レンズ17のチルト量調整も合わせて行う構成となっている。
【0041】
以下、温度変動があった場合に対物レンズ17のチルト量調整も合わせて行う構成となっている理由について説明する。
【0042】
本実施形態の光ピックアップ装置1においては、その製造時に対物レンズ17のコマ収差を補正するために次のような製造方法を採用している。まず、対物レンズ17のコマ収差の方向が半径方向(トラック方向Tに同じ)に向くように、対物レンズ17を対物レンズアクチュエータ3に搭載する。なお、対物レンズ17のコマ収差の方向については、通常、対物レンズ製造時にその方向がわかるようにマークが形成されている。
【0043】
次に、対物レンズアクチュエータ3をスライドベース2に搭載する際に、対物レンズアクチュエータ3(詳細にはアクトベース31)を対物レンズ17のコマ収差を打ち消す方向に傾ける。なお、上述のように対物レンズ17のコマ収差の方向が半径方向(トラック方向Tに同じ)となるように調整しているため、対物レンズアクチュエータ3を傾ける方向は、フォーカス方向Fとトラック方向Tとの両方に対して垂直な軸の軸回り方向となる。
【0044】
このように光ピックアップ装置1を構成する場合、対物レンズ17の光軸が、コリメートレンズ15を出射し、立上げミラー16で反射された光の光軸に対して傾くことになる。このように対物レンズ17が傾けて配置される場合にコリメートレンズ15の位置を移動すると、半径方向にコマ収差が発生することになる。したがって、光ピックアップ装置1では、温度変動があった場合に、コリメートレンズ位置の調整に合わせて、対物レンズアクチュエータ3を用いた対物レンズ17のチルト量調整も行う構成となっている。
【0045】
次に、光ピックアップ装置1の環境温度変動に伴う動作について、図5を参照しながら説明する。図5は、本実施形態の光ピックアップ装置の環境温度に応じた動作例を示すフローチャートである。図5では、光ディスクに記録される情報を読み取る場合の動作(再生動作)を一例として示している。なお、光ディスクに情報を書き込む場合の動作(記録動作)についても同様である。
【0046】
光ピックアップ装置1を用いて情報の読み取りを開始するにあたって、制御部21によってサーミスタ5で検出された温度の確認が行われる(ステップS1)。そして、確認された温度に基づいてコリメートレンズ15の位置設定、及び、対物レンズ17のチルト設定が行われる(ステップS2)。具体的には、制御部21は、光ピックアップ装置1が備えるメモリ22(図2参照)に予め記憶されている、環境温度毎の最適なコリメートレンズ15の位置及び対物レンズ17のチルト量を読み出す。そして、制御部21は読み出した位置及びチルト量となるように、コリメートレンズ位置調整機構6及び対物レンズアクチュエータ3を制御する。
【0047】
ここで、メモリ22に予め記憶されている最適なコリメートレンズ15の位置、及び、対物レンズ17のチルト量について、更に詳細に説明しておく。
【0048】
図6は、環境温度と、ジッタ値が最小となるコリメートレンズ位置との関係を示すグラフである。図6において、横軸は環境温度(℃)、縦軸はジッタ値が最小となるステッピングモータ65(コリメートレンズ位置調整機構6が備えるモータ;図3参照)のステップ数である。なお、図6におけるステッピングモータ65のステップ数は、基準位置(上述のようにフォトインタラプタ等を用いて定められる位置)からのステップ数であり、ステップ数とコリメートレンズ15の位置とは一対一の関係にある。したがって、図6の縦軸はコリメートレンズ15の位置を表すものとも言える。
【0049】
図6に示すように、環境温度とジッタ値が最小となるコリメートレンズ位置との関係はほぼ直線関係にあり、この関係は各光ピックアップ装置毎に固有に定まる。この点を考慮して、光ピックアップ装置1においては、環境温度毎にジッタ値が最小となるコリメートレンズ15の位置(具体的にはステッピングモータ65のステップ数)を予め実験等によって求めておき、温度毎の最適なコリメートレンズ位置をテーブル化してメモリ22に記憶している。このようにすれば、環境温度に対応してメモリ22から最適なコリメートレンズ15の位置を読み出し、その位置にコリメートレンズ15を配置することが可能である。
【0050】
なお、メモリ22に記憶するのは上述のようなテーブルではなく、環境温度と、ジッタ値が最小となるステッピングモータ65のステップ数との関係式(例えば図6に示すような一次関数の式)でも勿論構わない。
【0051】
図7は、環境温度と、コリメートレンズの位置を調整した後にジッタ値が最小となる対物レンズのチルト量との関係を示すグラフである。図7において、横軸は環境温度(℃)、縦軸はコリメートレンズの位置を調整した後にジッタ値が最小となる対物レンズのチルト量(分)である。
【0052】
図7に示すように、コリメートレンズの位置を調整した後にジッタ値が最小となる対物レンズのチルト量は、環境温度が決まると一義的に定まり、その設定値は各光ピックアップ装置毎に固有に定まる。この点を考慮して光ピックアップ装置1においては、コリメートレンズ15の位置を調整した後に、環境温度毎にジッタ値が最小となる対物レンズ17のチルト量(具体的にはチルトコイル323に供給する電流値)を予め実験等によって求めておき、温度毎の最適な対物レンズ17のチルト量をテーブル化してメモリ22に記憶している。このようにすれば、環境温度に対応してメモリ22から最適な対物レンズ17のチルト量を読み出し、そのチルト量となるように対物レンズ17をチルトすることができる。
【0053】
なお、メモリ22に記憶するのは上述のようなテーブルではなく、環境温度と、コリメートレンズの位置を調整した後にジッタ値が最小となる対物レンズのチルト量との関係式(例えば図7に示す曲線の近似式)でも勿論構わない。
【0054】
図5に戻って、コリメートレンズ15の位置設定、及び、対物レンズ17のチルト設定が行われると、その後光ディスク70に記録される情報の読み取り(再生)が開始される(ステップS3)。そして、情報の再生が開始されると、制御部21は環境温度の変動がないか否かの監視を行う(ステップS4)。環境温度の変動がないか否かは、例えば、先にコリメートレンズ15の位置、及び、対物レンズ17のチルトを設定した時点の温度を基準に、温度変化が予め設定した閾値と比較して大きいか否かで判断する。例えば、温度変化が予め設定した閾値より小さければ環境温度の変動がないと判断され、閾値以上であれば環境温度の変動があったと判断する。
【0055】
そして、環境温度の変動がないと判断される場合(ステップS4肯定)には、再生を終了するか否かが確認される(ステップS5)。この際、再生終了であれば、温度変動に応じた収差補正動作を終了する。一方、再生終了でない場合には、ステップS4に戻って環境温度の変動がないか否かの監視が引き続き行われる。
【0056】
環境温度の変動があったと判断される場合(ステップS4否定)には、その際の温度に基づいて、メモリ22からコリメートレンズ15の位置と対物レンズ17のチルト量を読み出し、読み出した設定となるように設定変更する(ステップS6)。設定変更後は、再生を終了するか否かが確認する(上述のステップS5に同じ)。この際、再生終了であれば、温度変動に応じた収差補正動作を終了する。一方、再生終了でない場合には、ステップS4に戻って環境温度の変動がないか否かの監視が引き続き行われる。
【0057】
図8は、環境温度と、光ピックアップ装置1におけるジッタ特性との関係を示すグラフである。図8において、横軸は環境温度(℃)、縦軸はジッタ値である。本実施形態の光ピックアップ装置1においては、環境温度の変動にともなってコリメートレンズ位置の調整を行うと共に対物レンズのチルト量についても調整を行う。このように構成することによって、図8に示すように、環境温度が変動しても、いずれの温度でもジッタ値の変動を小さくでき(図8の黒塗りの四角印参照)、再生性能を向上できることがわかる。なお、図8において、白抜きの丸印と三角印は比較例として示したグラフで、図10に示すグラフと同じものである。
【0058】
(その他)
なお、以上に示した実施形態は本発明の一例であり、本発明は、以上に示した実施形態に限定される趣旨ではない。すなわち、本発明の目的を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【0059】
例えば、以上に示した実施形態では、予めメモリ22に環境温度に対応したコリメートレンズ15の位置、及び、対物レンズ17のチルト量に関する情報を記憶しておき、これに基づいて温度変動があった場合にコリメートレンズ15の位置及び対物レンズ17のチルト量を変更する構成とした。しかし、本発明はこの構成に限定される趣旨ではない。例えば、次のように構成することもできる。すなわち、メモリ22には環境温度に対応したコリメートレンズ15の位置のみを予め記憶しておき、これに基づいて温度変動があった場合にはコリメートレンズ15の位置を変動する。そして、その後、収差を最も適切に抑制できる対物レンズ17のチルト量をサーチして、サーチによって決定されたチルト量に対物レンズ17を設定する。このような構成における、光ピックアップ装置の環境温度に応じた動作例を図9に示す。
【0060】
図9を参照して、光ピックアップ装置1を用いて情報の読み取りを開始するにあたって、制御部21によってサーミスタ5で検出された温度の確認が行われる(ステップS11)。そして、確認された温度に基づいて、メモリ22に予め記憶されている最適なコリメートレンズ15の位置を読み出し、その位置にコリメートレンズ15を設定する(ステップS12)。
【0061】
次に、例えばジッタ値(RF信号の振幅値等でも良い)等を監視しながら対物レンズ17のチルト量を変動して、ジッタ値が最小となる場合(RF信号の振幅の場合は最大となる場合)のチルト量(最適チルト量)を検出する(ステップS13)。そして、検出された最適チルト量となるように対物レンズアクチュエータ3を制御して対物レンズ17のチルト設定を行う(ステップS14)。
【0062】
対物レンズ17のチルト設定が行われると、その後、光ディスク70に記録される情報の読み取り(再生)が開始される(ステップS15)。そして、情報の再生が開始されると、制御部21は環境温度の変動がないか否かの監視を行う(ステップS16)。環境温度の変動がないと判断される場合(ステップS16肯定)には、再生を終了するか否かが確認される(ステップS17)。この際、再生終了であれば、温度変動に応じた収差補正動作を終了する。一方、再生終了でない場合には、ステップS16に戻って環境温度の変動がないか否かの監視が引き続き行われる。
【0063】
一方、環境温度の変動があったと判断される場合(ステップS16否定)には、その際の温度に基づいて、メモリ22からコリメートレンズ15の位置を読み出し、読み出した設定となるように設定変更する(ステップS18)。設定変更後に、例えばジッタ値を監視しながら対物レンズ17のチルト量を変動して、ジッタ値が最小となる場合を検出する(ステップS19)。そして、検出されたチルト量となるように対物レンズアクチュエータ3を制御して対物レンズ17のチルト設定を行う(ステップS20)。その後、再生を終了するか否かが確認する(上述のステップS17に同じ)。この際、再生終了であれば、温度変動に応じた収差補正動作を終了する。一方、再生終了でない場合には、ステップS4に戻って環境温度の変動がないか否かの監視が引き続き行われる。
【0064】
また、以上に示した実施形態においては、サーミスタ5からの温度情報を1つの制御部21に出力し、この1つの制御部21によって、環境温度の変動に対応してコリメートレンズ位置調整機構6及び対物レンズアクチュエータ3の制御を行う構成とした。しかし、本発明はこの構成に限定されない。すなわち、例えばコリメートレンズ位置調整機構6と対物レンズアクチュエータ3とに対してそれぞれ別個の制御部を設けてもよい。この場合、サーミスタ5からの温度情報をこれら別個の制御部にそれぞれ出力すればよい。
【0065】
また、以上に示した実施形態においては、対物レンズ17のチルト量を調整する手段として対物レンズアクチュエータ3を用いる構成とした。しかし、この構成に限定されず、例えば、光ピックアップ装置全体を傾ける手段を設け、これにより対物レンズ17のチルト量を調整する構成等としても構わない。また、チルト量調整のために対物レンズをチルトさせる方向についても本実施形態の方向に限定されない。この場合、光ピックアップ装置1の製造時において、対物レンズ17のコマ収差の方向及び対物レンズアクチュエータ3を傾ける方向についても本実施形態の場合とは異なる方向に調整する必要がある。
【0066】
また、以上に示した実施形態においては、本発明における可動レンズがコリメートレンズである構成を示した。しかし、この構成に限定されない。例えば、環境温度の変動に対して発生する球面収差を補正するために例えばビームエキスパンダを用い、本発明における可動レンズがビームエキスパンダに備えられる可動レンズである構成としても良い。
【0067】
その他、本発明は、情報の読み取りや書き込みの対象がBDである光ピックアップ装置に好適に適用できるが、その他の種類の光ディスクに対応する光ピックアップ装置にも適用できるのは言うまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0068】
本発明は、光源からの光を光記録媒体の情報記録面に集光する対物レンズが樹脂レンズで構成される光ピックアップ装置に好適に適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0069】
【図1】は、本実施形態の光ピックアップ装置の構成を示す概略平面図である。
【図2】は、本実施形態の光ピックアップ装置が備える光学系の構成を説明するための概略図である。
【図3】は、本実施形態の光ピックアップ装置が備えるコリメートレンズ位置調整機構の構成を示す概略平面図である。
【図4】は、本実施形態の光ピックアップ装置が備える対物レンズアクチュエータの構成を説明するための図である。
【図5】は、本実施形態の光ピックアップ装置の環境温度に応じた動作例を示すフローチャートである。
【図6】は、環境温度と、ジッタ値が最小となるコリメートレンズ位置との関係を示すグラフである。
【図7】は、環境温度と、コリメートレンズの位置を調整した後にジッタ値が最小となる対物レンズのチルト量との関係を示すグラフである。
【図8】は、環境温度と、光ピックアップ装置におけるジッタ特性との関係を示すグラフである。
【図9】は、本発明の他の実施形態を説明するための図である。
【図10】は、従来の光ピックアップ装置の問題点を説明するための図で、環境温度の変化に対する光ピックアップ装置のジッタ特性の変化を示す図である。
【符号の説明】
【0070】
1 光ピックアップ装置
3 対物レンズアクチュエータ(チルト調整手段)
5 サーミスタ(温度検出手段)
6 コリメートレンズ位置調整機構(レンズ位置調整手段)
11 光源
15 コリメートレンズ(可動レンズ)
17 対物レンズ
22 メモリ(記憶手段)
32 レンズホルダ
70 光ディスク(光記録媒体)
70a 情報記録面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光源と、
前記光源から出射される光を光記録媒体の情報記録面に集光する対物レンズと、
前記光源と前記対物レンズとの間の光路中に配置され、光軸方向に可動して前記対物レンズへと至る光の収束或いは発散状態を調整する可動レンズと、
前記可動レンズの位置を調整するレンズ位置調整手段と、
前記対物レンズのチルト量を調整するチルト量調整手段と、
環境温度を検出する温度検出手段と、を備え、
前記対物レンズは、前記可動レンズから前記対物レンズへと至る光の光軸に対して傾いて配置され、
前記環境温度の変動を検知した場合に、前記可動レンズの位置を変更すると共に前記対物レンズのチルト量を変更することを特徴とする光ピックアップ装置。
【請求項2】
前記チルト量調整手段は、特定の軸の軸回り方向に前記対物レンズを傾斜させることによって前記チルト量の調整を行い、
前記対物レンズが、前記可動レンズから前記対物レンズへと至る光の光軸に対して傾けられる方向は、前記チルト量調整手段で前記対物レンズを傾けることによってコマ収差を補正できる方向であることを特徴とする請求項1に記載の光ピックアップ装置。
【請求項3】
前記特定の軸は、フォーカス方向及びトラック方向に対して直交する軸であることを特徴とする請求項2に記載の光ピックアップ装置。
【請求項4】
前記チルト量調整手段は、前記対物レンズを保持するレンズホルダを傾けて前記対物レンズのチルト量を調整することを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の光ピックアップ装置。
【請求項5】
前記環境温度に対応した前記可動レンズの位置及び前記チルト量の情報を予め記憶した記憶手段を更に備え、
前記環境温度の変動を検知した場合に、前記記憶手段に記憶される前記可動レンズの位置及び前記チルト量の情報に基づいて、前記可動レンズの位置及び前記対物レンズのチルト量を変更することを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の光ピックアップ装置。
【請求項6】
前記環境温度に対応した前記可動レンズ位置の情報を予め記憶した記憶手段を更に備え、
前記環境温度の変動を検知した場合に、前記記憶手段に記憶される前記可動レンズ位置の情報に基づいて前記可動レンズの位置を変更し、
前記可動レンズ位置の調整後に前記チルト量を変動させながら最適なチルト量を決定することを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の光ピックアップ装置。
【請求項7】
前記可動レンズはコリメートレンズであることを特徴とする請求項1から6のいずれかに記載の光ピックアップ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2010−92536(P2010−92536A)
【公開日】平成22年4月22日(2010.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−261262(P2008−261262)
【出願日】平成20年10月8日(2008.10.8)
【出願人】(000201113)船井電機株式会社 (7,855)
【Fターム(参考)】