説明

光ファイバの着色方法及び着色光ファイバ

【課題】ボビン下口に巻かれた着色光ファイバの不良部分を簡単に判別でき、誤って不良部を使用することのない光ファイバの着色方法及び着色光ファイバを提供する。
【解決手段】光ファイバを着色しながら巻き取りボビン20に巻き取る光ファイバの着色方法であって、光ファイバ2の巻き取りボビン20上の下口不良部と良好部との境目の位置を、ボビン径、ボビン幅、巻取ピッチ、着色線速設定、およびUV炉パワー設定、に基づいて決定し、最下層である1層目からN層目までは不良部を巻き取り、良好部はN+1層目以降に層を変えて巻き取る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、線引きされた光ファイバの着色方法及び着色光ファイバに関する。
【背景技術】
【0002】
通常、光ファイバは、ガラス母材から線引きする際に、線引き直後のガラスファイバを保護するために紫外線硬化樹脂等による1層又は2層の被覆が施される。その後、着色インクを塗布してからボビンに巻取るようにしている。すなわち、光ファイバに識別用の着色インクを塗布してからUV炉内を通過させて紫外線を照射させて、紫外線硬化型の着色インクを硬化させている。
【0003】
図5に示したように、光ファイバの着色方法では、設定速度になるまで一定加速度で着色線速を上昇させている。この間、線速上昇に合わせて点灯させるUV炉のパワーを調整する等により、過剰なUV照射を与えないようにすることは可能であるが、所定の着色線速Vm/分に達するまでは、どうしても過剰なUV照射を受けることになる。すなわち、巻き取り開始から時刻tまでの低速領域Xでは、光ファイバが不良になってしまい、それ以降の領域Yで着色したファイバのみが良好ファイバとなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−97038号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来の光ファイバの着色方法においては、図6(A),(B)に示すように、過剰な紫外線が照射されてしまった不良部分の着色光ファイバは、見た目では良好部分とほとんど変わらないため、目視で識別するのは難しい。したがって、着色光ファイバをボビンから引き出して使用する場合、不良部分の光ファイバを誤って使用してしまう虞があった。特許文献1に開示された着色方法では、不良部を未着色で巻き取ることにより区別しているが、複雑な制御が必要となる。
【0006】
本発明の目的は、上述した事情に鑑みてなされたものであり、ボビン下口に巻かれた着色光ファイバの不良部分を簡単に判別でき、誤って不良部を使用することのない光ファイバの着色方法及び着色光ファイバを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決することができる本発明に係る光ファイバの着色方法は、光ファイバを着色しながらボビンに巻き取る光ファイバの着色方法であって、
前記光ファイバの前記ボビン上の下口不良部と良好部との境目の位置を、ボビン径、ボビン幅、巻取ピッチ、着色線速設定、およびUV炉パワー設定、に基づいて決定し、最下層からN層目までは不良部を巻き取り、良好部はN+1層目以降に層を変えて巻き取ることを特徴としている。
【0008】
このように構成された光ファイバの着色方法によれば、低速時に紫外線が過剰に照射されることになる不良部分の長さを、ボビン径、ボビン幅、巻取ピッチ、着色線速設定(加速度設定)、およびUV炉パワー設定に基づいて算出して、最下層からN層目までが不良部となるように着色光ファイバのボビン上での1層目の巻き取り開始位置を決定する。そして、不良部分の着色光ファイバをボビンの最下層である1層目の決定した巻き取り開始位置から巻き始め、N層目端部で不良部分の巻き取りを終了させ、N+1層目の巻き始めから良品部分を巻き取るようにする。不良部分を巻き取った時点でターンさせ、不良部と良好部とで層が変わるようにしても良い。このようにボビンに巻き取ることにより、N+1層目を使い終わった段階(N層分だけが残っている状態)で、使用可能な良好ファイバが無<なったことを認識することができる。
【0009】
本発明に係る着色光ファイバは、光ファイバを着色してボビンに巻き取った着色光ファイバであって、
前記光ファイバの前記ボビン上の下口不良部と良好部との境目の位置を、ボビン径、ボビン幅、巻取ピッチ、着色線速設定、およびUV炉パワー設定、に基づいて決定し、不良部分の前記光ファイバを前記ボビンの最下層である1層目の前記巻き取り開始位置から巻き始め、N層目で不良部分の巻き取りを終了させ、N+1層目の巻き始めから良好部分を巻き取ることを特徴としている。
【0010】
このように構成された着色光ファイバによれば、低速時に紫外線が過剰に照射されることになる不良部分の長さを、ボビン径、ボビン幅、巻取ピッチ、着色線速設定(加速度設定)、及びUV炉パワー設定に基づいて算出して、最下層からN層目までが不良部となるように着色光ファイバのボビン上での1層目の巻き取り開始位置が決定される。そして、不良部分の着色光ファイバをボビンの最下層である1層目の決定した巻き取り開始位置から巻き始められ、N層目端部で不良部分の巻き取りが終了され、N+1層目の巻き始めから良品部分が巻き取られる。不良部分を巻き取った時点でターンさせ、不良部と良好部とで層が変わるようにしても良い。このように着色光ファイバがボビンに巻き取られることにより、N+1層目を使い終わった段階(N層分だけが残っている状態)で、使用可能な良好ファイバが無くなったことを認識することができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る光ファイバの着色方法、及び着色光ファイバによれば、ボビン下口に巻かれた着色光ファイバの不良部分を簡単に判別できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の一実施形態に係る光ファイバの着色方法を適用した光ファイバ着色装置の概略図である。
【図2】図1の光ファイバの着色方法のブロック構成図である。
【図3】(A)は図1の光ファイバの着色方法における1層目を巻き取っている状態を示す図、(B)は(A)の状態からしばらく巻き取ったボビンの断面図である。
【図4】(A)は本発明の他の実施形態に係る光ファイバ着色方法における1層目を巻き取っている状態を示す図、(B)は(A)の状態からしばらく巻き取ったボビンの断面図である。
【図5】光ファイバの着色方法における着色線速の設定を表すグラフである。
【図6】(A)は従来の光ファイバ着色方法において1層目を巻き取っている状態を示す図、(B)は(A)の状態からしばらく巻き取ったボビンの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図を参照して本発明の好適な実施形態を説明する。
【0014】
本発明の光ファイバの着色方法及び着色光ファイバの一実施形態を図1〜3に基づいて説明する。
【0015】
図1に示すように、本発明の実施形態である光ファイバの着色方法が適用される光ファイバ着色装置10は、線引きされた光ファイバ1を巻き取っているサプライボビン11と、着色用のインクを貯蔵しているインク貯蔵タンク12と、塗布装置13と、紫外線照射炉(UV炉)14と、ローラ15,17,19と、トラバース制御部16と、制御部18と、処理後の着色光ファイバ2を巻き取る巻き取りボビン20と、を備えている。
【0016】
サプライボビン11には、光ファイバ母材を加熱・溶融して線引きされ、保護被覆が施された未着色状態の光ファイバ1が巻き取られている。サプライボビン11は、着色処理前の光ファイバ1を、ローラ19を介して塗布装置13へ搬送する。
【0017】
塗布装置13は、送給管24を通じてインク貯蔵タンク12に連通している。塗布装置13は、インク貯蔵タンク12から送給される紫外線硬化樹脂等を含むインクを光ファイバ1に塗布する。紫外線照射炉14は、紫外線硬化樹脂等を含むインクを塗布された光ファイバ1に紫外線を照射させる。これにより、光ファイバ1に塗布された着色インクを硬化させることができる。
【0018】
ローラ15は、トラバース制御部16によりトラバースされる。これにより、着色光ファイバ2は、ローラ17およびローラ15を介して巻き取りボビン20の所定位置から巻き取り開始される。なお、ローラではなく、ボビンをトラバースすることとしても良い。トラバース制御部16は、制御部18に電気的に接続され、制御部18から与えられた電気信号によりトラバース速度の制御を行う。
【0019】
図2に示すように、制御部18は、設備固定データ25であるボビン巻取部直径、設備加速度設定、及び良好下限UVdose(UV炉のパワーを着色線速で割ったもの)に基づいて、条件入力データ26であるUV炉パワー設定、着色線速設定、及び巻取ピッチの入力により不良長Lを算出し、巻取開始位置wを算出する。算出した巻取開始位置wは、エンコーダ27により符号化してトラバース制御部16に出力される。
【0020】
トラバース制御部16は、巻取り開始時に上記した巻き取り開始位置wへ、巻き取りボビン20の胴部21の所定位置から予め定められたトラバース速度でローラ15の移動制御を行う。巻き取りボビン20は、胴部21両側に一対の鍔部22,23を有し、トラバース制御部16によりトラバース速度を制御しながら巻き取り回転を行う。
【0021】
次に、図1〜図3を参照して、光ファイバ着色装置10により実行される光ファイバの着色方法の制御動作について説明する。
【0022】
制御動作が開始されると、サプライボビン11に巻取られている未着色の光ファイバ1が引き出される。未着色の光ファイバ1は、ローラ19を介して塗布装置13へ搬送され、塗布装置13により紫外線硬化樹脂等を含むインクを塗布してから、紫外線照射炉14へ搬送する。
【0023】
インクを塗布された光ファイバ1は、紫外線照射炉14で紫外線を照射されてインクが硬化して処理後の光ファイバ2となり、ローラ17およびローラ15を介して巻き取りボビン20に巻き取られる。このとき、図3(A)に示すように、巻き取り開始端は巻き取りボビン20の鍔部22に係止され、その後ローラ15がトラバース制御部16により巻き取り開始位置wに移動し、この位置から巻き取りを開始する。
【0024】
ローラ15は、トラバース制御部16によりトラバースされながら、巻き取り開始位置wから他方の鍔部23に向けて設定された巻取ピッチxで光ファイバ2の1層目を巻き取って行く。
【0025】
巻き取り開始位置wは、不良長Lを巻き取った時に丁度鍔23の位置に達するような位置として制御部18により算出されているので、設定した加速度で着色し、光ファイバ2の長さが不良長Lになったとき、ローラ15は巻き取りボビン20の他方の鍔部23に達する。この位置で巻き取りボビン20への1層目の巻き取りを完了し、ターンする。
【0026】
次に、図3(B)に示すように、ローラ15は、2層目へ移行する。このとき、光ファイバ2の2層目は、他方の鍔部23から一方の鍔部22に向けて設定された巻取ピッチxで巻き取られて行く。そして、光ファイバ2の3層目以降は、ローラ15が両鍔部22,23間を往復しながら巻き取られて行く。
【0027】
このように巻き取られた光ファイバ2は、例えば施工現場で最上層から使用される。この場合、1層目は不良部であるので、作業者は1層目を使用していないことを確認することにより、不良部を使用していないかどうかを簡単に確認することができる。なお、本実施形態では、1層目のみに不良部を巻く場合を例に述べたが、ボビンサイズによっては、1層目からN層目までを不良部として巻くこととして制御しても良い。
【0028】
なお、最下層不良巻きの巻取開始位置決定には、以下の決定式を適用する。
【0029】
1.不良長Lの算出(図5参照)
パラメータ;
【0030】
【数1】

【0031】
2.巻取開始位置wの算出(図3参照)
パラメータ;
【0032】
【数2】

【0033】
このように、本発明に係る光ファイバの着色方法では、光ファイバ1のボビン上の下口不良部と良好部との境目の位置を、ボビン径d、ボビン幅W、巻取ピッチx、着色線速V設定、およびUV炉パワーP設定に基づいて決定し、1層目からN層目までは不良部を巻き取り、良好部はN+1層目以降に層を変えて巻き取る。
【0034】
図4(A),(B)は、本発明の他の実施形態に係る光ファイバ着色方法を表した図である。図3の方法では、不良部が巻き終わる時に丁度鍔の位置に来るように巻き取り開始位置wを定め、巻き取り開始時にこの開始位置wにまでトラバースさせて巻き取り開始したが、本実施形態では、最初に巻き取り開始位置に移動する代わりに、不良長Lを巻き取ったところで、トラバースがターンするようにしている。この方法でも、不良部と良好部とで層を変えることができる。
【0035】
以上説明したように、本発明の本実施形態に係る光ファイバの着色方法は、低速時に紫外線が過剰に照射されることになる不良部分の長さを、ボビン径、ボビン幅、巻取ピッチ、着色線速設定(加速度設定)、及びUV炉パワー設定に基づいて算出して、最下層からN層目までが不良部となるように着色光ファイバのボビン上での1層目の巻き取り開始位置を決定する。そして、不良部分の着色光ファイバをボビンの最下層である1層目の決定した巻き取り開始位置から巻き始め、N層目端部で不良部分の巻き取りを終了させ、N+1層目の巻き始めから良品部分を巻き取るようにする。
このようにボビンに巻き取ることにより、N+1層目を使い終わった段階(N層分だけが残っている状態)で、使用可能な良好ファイバが無<なったことを認識することができる。なお、不良部分を巻き取った時点でターンさせ、不良部と良好部とで層が変わるようにしても良い。
【0036】
本発明の本実施形態に係る着色光ファイバは、低速時に紫外線が過剰に照射されることになる不良部分の長さを、ボビン径、ボビン幅、巻取ピッチ、着色線速設定(加速度設定)、及びUV炉パワー設定に基づいて算出して、最下層からN層目までが不良部となるように着色光ファイバのボビン上での1層目の巻き取り開始位置が決定される。そして、不良部分の着色光ファイバをボビンの最下層である1層目の決定した巻き取り開始位置から巻き始められ、N層目端部で不良部分の巻き取りが終了され、N+1層目の巻き始めから良品部分が巻き取られる。
このように着色光ファイバがボビンに巻き取られることにより、N+1層目を使い終わった段階(N層分だけが残っている状態)で、使用可能な良好ファイバが無くなったことを認識することができる。なお、不良部分を巻き取った時点でターンさせ、不良部と良好部とで層が変わるようにしても良い。
【実施例】
【0037】
次に、本発明の光ファイバの着色方法及び着色光ファイバの作用効果を確認するために行った実施例について説明する。
【0038】
実施例では、最下層不良巻きの上記巻取開始位置決定式を用い、以下の数値を適用した。
設備加速度a=1000m/分
良好下限UVdoseD(UVパワーが過剰となる閾値)=UV炉全灯点灯時で線速500m/分の時のUVdose(したがって、この線速に達するまでのt=500/a=0.5分)
ボビン巻取部直径d=300mm
巻取ピッチx=0.5mm
ボビン巻取幅W=400mm
【0039】
前述の式により下口不良長、巻き取り開始位置を求めると、下口不良長は125mとなり、巻き取り開始位置は334mmとなった。巻き取り開始位置を334mmとし、この位置から巻き取ることによって、不良長を巻き終わった時点で鍔位置に達してターンさせることができるので、2層目を使い終わった段階(N層分だけが残っている状態)で、使用可能な良好ファイバが無<なったことを認識することができた。
【0040】
なお、本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、適宜、変形、改良等が自在である。その他、上述した実施形態における各構成要素の材質、形状、寸法、数値、形態、数、配置場所、等は本発明を達成できるものであれば任意であり、限定されない。
【符号の説明】
【0041】
1 光ファイバ
2 着色光ファイバ
10 光ファイバ着色装置
16 トラバース制御部
18 制御部
20 巻き取りボビン


【特許請求の範囲】
【請求項1】
光ファイバを着色しながらボビンに巻き取る光ファイバの着色方法であって、
前記光ファイバの前記ボビン上の下口不良部と良好部との境目の位置を、ボビン径、ボビン幅、巻取ピッチ、着色線速設定、およびUV炉パワー設定、に基づいて決定し、最下層からN層目までは不良部を巻き取り、良好部はN+1層目以降に層を変えて巻き取ることを特徴とする光ファイバの着色方法。
【請求項2】
光ファイバを着色してボビンに巻き取った着色光ファイバであって、
前記光ファイバの前記ボビン上の下口不良部と良好部との境目の位置を、ボビン径、ボビン幅、巻取ピッチ、着色線速設定、およびUV炉パワー設定、に基づいて決定し、不良部分の前記光ファイバを前記ボビンの最下層である1層目の前記巻き取り開始位置から巻き始め、N層目で不良部分の巻き取りを終了させ、N+1層目の巻き始めから良好部分を巻き取ることを特徴とする着色光ファイバ。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−51843(P2011−51843A)
【公開日】平成23年3月17日(2011.3.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−202609(P2009−202609)
【出願日】平成21年9月2日(2009.9.2)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】