説明

光ファイバの製造方法

【課題】ガラスファイバの周囲に塗布した樹脂組成物に対して溶剤の揮発及び樹脂の硬化を十分に行うことができる光ファイバの製造方法を提供する。
【解決手段】線引きされたガラスファイバ1の周囲に溶剤を含む樹脂組成物を塗布し、さらに揮発用加熱炉12内を通して加熱して溶剤を揮発させた後、硬化用加熱炉13内を通して加熱して樹脂組成物を硬化させて樹脂被覆層を形成する光ファイバの製造方法であって、揮発用加熱炉12における軸方向の加熱温度分布として、「TAVE1>T>TAVE2」の関係を満たすことを特徴とする。但し、TAVE1:0≦L≦Lの区間での長手方向の平均温度(揮発用加熱炉入口をL=0とする)、TAVE2:L≦L≦Lの区間での長手方向の平均温度(揮発用加熱炉全長をLとする)、T:溶剤沸点、L=k×Vf(Vf:線引き速度、k:定数)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、線引きされたガラスファイバの周囲に溶剤を含む樹脂組成物を塗布し、さらに揮発用加熱炉内を通して加熱して溶剤を揮発させた後、硬化用加熱炉内を通して加熱して樹脂組成物を硬化させて樹脂被覆層を形成することで、被覆付きの光ファイバを製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
光ファイバの樹脂被覆層として、紫外線硬化型樹脂や熱硬化型樹脂を用いることが一般に知られており、例えば、熱硬化型樹脂で樹脂被覆層を形成する場合には、線引きされたガラスファイバの周囲に溶剤を含む樹脂組成物を塗布し、加熱炉内を通して加熱して溶剤を揮発させるとともに樹脂組成物を硬化させる。
【0003】
また、耐熱性に優れた熱硬化型樹脂としてはポリイミド樹脂が知られており、走行する線状体にポリイミド樹脂を被覆する方法も知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
特許文献1に記載されたポリイミド樹脂の被覆方法では、図4に示すように、ポリイミド樹脂を供給する供給装置101と、この供給装置101から送り出されるポリイミド樹脂を線状体100に被覆するコーティング装置102と、被覆したポリイミド樹脂を硬化させる硬化炉103と、硬化炉103内へ不活性ガスを送り込むガス供給装置104と、図示外の巻取り機などを備えた装置を用い、硬化炉103の温度を500℃以上とし、硬化炉103内を不活性ガスの雰囲気として、線状体100にポリイミド樹脂を被覆している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭63−1489号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、ポリイミド樹脂を被覆した光ファイバでは、耐熱性に優れたポリイミド樹脂(ポリイミド樹脂組成物)から脱溶剤及びイミド化の硬化反応により、ポリイミド樹脂がガラスファイバに被覆される。ところが、この被覆の際には、ポリイミド樹脂に溶剤が多く含まれていることから、加熱して溶剤を除去して硬化させるために、十分な加熱が必要である。つまり、得られるポリイミド被覆の品質は、硬化度及び残留溶剤の量的な影響を受ける。このため、良好な被覆状態とするには、最適な温度条件で硬化させることが必要となる。
【0007】
また、光ファイバの品質を良好にするためには、ガラスファイバに対して周方向に均一にポリイミド樹脂を被覆することが要求される。均一な被覆厚とするためには、ガラスファイバに樹脂を塗布するダイスの調整も重要であるが、塗布したポリイミド樹脂の組成物は溶剤が揮発する際に収縮するため、ダイスの調整だけでは硬化後のポリイミド樹脂の形状を調整することが難しく、被覆厚が周方向で不均一になりやすかった。
【0008】
被覆厚が周方向で不均一であると、被覆厚が薄い側の強度が低下し、スクリーニング時の破断強度が著しく低下してしまう。例えば油井用途等では、一連長に長い光ファイバが必要であるが、破断強度が低下すると長い光ファイバを得ることが難しくなってしまう。
【0009】
そこで、本発明の目的は、ガラスファイバの周囲に塗布した樹脂組成物に対して溶剤の揮発及び樹脂の硬化を十分に行い、なおかつ周方向に均一な厚さで被覆層を形成することができる光ファイバの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決することのできる本発明に係る光ファイバの製造方法は、線引きされたガラスファイバの周囲に溶剤を含む樹脂組成物を塗布し、さらに揮発用加熱炉内を通して加熱して前記溶剤を揮発させた後、硬化用加熱炉内を通して加熱して前記樹脂組成物を硬化させて樹脂被覆層を形成する光ファイバの製造方法であって、
前記揮発用加熱炉における樹脂付きファイバ軸方向の加熱温度分布として、
「TAVE1>T>TAVE2」の関係を満たすことを特徴とする。
但し、
AVE1:0≦L≦Lの区間での長手方向の平均温度(揮発用加熱炉入口をL=0とする)
AVE2:L≦L≦Lの区間での長手方向の平均温度(揮発用加熱炉全長をLとする)
:溶剤沸点
=k×Vf(Vf:線引き速度、k:定数)。
【0011】
本発明に係る光ファイバの製造方法において、前記揮発用加熱炉の下流側であって前記硬化用加熱炉の上流側における前記樹脂付きファイバの外径をモニタして、モニタした外径測定値と予め設定した外径目標値との偏差に応じて前記揮発用加熱炉の加熱温度を調整することが好ましい。
【0012】
本発明に係る光ファイバの製造方法において、前記ガラスファイバの外径と、前記樹脂付きファイバを前記揮発用加熱炉に通す前後の外径をそれぞれ測定して、それらにより塗布した前記樹脂組成物の体積変化率を算出し、前記体積変化率が前記樹脂組成物中の前記溶剤の含有割合以上となるように、前記外径目標値を設定することが好ましい。
【0013】
本発明に係る光ファイバの製造方法において、前記揮発用加熱炉における前記樹脂付きファイバ軸方向の加熱温度を複数領域でそれぞれ調整可能であり、前記外径測定値と前記外径目標値との偏差に応じて前記揮発用加熱炉における最も出口側の領域の加熱温度を調整することが好ましい。
【0014】
本発明に係る光ファイバの製造方法において、前記揮発用加熱炉の少なくとも0≦L≦Lの区間では、前記樹脂付きファイバを周方向に均一に加熱することが好ましい。
【0015】
本発明に係る光ファイバの製造方法において、前記樹脂付きファイバと前記揮発用加熱炉における加熱部材を、前記樹脂付きファイバの中心軸を回転軸として相対的に回転させることが好ましい。
【0016】
本発明に係る光ファイバの製造方法において、前記加熱部材が、炉心管と、前記炉心管を昇温させる発熱部材とを含む構成の場合には、前記樹脂付きファイバを、前記樹脂付きファイバの中心軸を回転軸として、前記炉心管または前記発熱部材に対して相対的に回転させることが好ましい。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、線引きされたガラスファイバの周囲に溶剤を含む樹脂組成物を塗布した後、まず揮発用加熱炉内を通して加熱して溶剤を揮発させる。そして、さらにその後、硬化用加熱炉内を通して加熱して樹脂組成物を硬化させて樹脂被覆層を形成する。このように、塗布した樹脂組成物に対して溶剤の揮発及び樹脂の硬化をそれぞれ専用の加熱炉を用いて行うため、溶剤の揮発を十分に行うことができるとともに、その後の硬化も十分に行うことができる。さらに、揮発用加熱炉は、線引き速度によって変動する入口から所定の箇所までの加熱温度を溶剤の沸点温度より高くし、それ以降の出口までの加熱温度を溶剤の沸点温度未満とすることで、入口側で樹脂組成物中の溶剤を揮発させやすくするとともに出口側で樹脂組成物の過加熱による発泡を防ぐことができ、その効果として、溶剤の揮発及び樹脂の硬化を十分に行って均一の被覆厚とし、破断強度を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明に係る光ファイバの製造方法を実施する被覆装置の一例を示す概略構成図である。
【図2】(a)は図1に示した揮発用加熱炉を拡大して示した構成図であり、(b)はその加熱温度分布の一例である。
【図3】図1に示したガイドローラの一例の上面図である。
【図4】従来のポリイミド被覆ファイバの製造装置の被覆部及び硬化部を示す説明図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明に係る光ファイバの製造方法の実施形態の例を、図面を参照しつつ説明する。
図1は、本実施形態の光ファイバの製造方法を実施する製造装置を示す概略図である。
この製造装置10は、光ファイバ用ガラス母材(図示省略)を加熱して線引きして形成されたガラスファイバ1が鉛直下方向に走行しているパスラインに設けられており、樹脂塗布用のダイス11と、揮発用加熱炉12と、硬化用加熱炉13とを備えている。また、パスラインにおけるダイス11の上流側、ダイス11の下流側であって揮発用加熱炉12の上流側、揮発用加熱炉12の下流側であって硬化用加熱炉13の上流側、硬化用加熱炉13の下流側、のそれぞれの位置には、発光器と受光器を組み合わせてなる外径測定器14,15,16,19が設けられている。そして、被覆装置10は、外径測定器14,15,16,19の測定値に応じて揮発用加熱炉12の加熱温度を調整するための制御部18を備えている。なお、外径測定器15は、ダイス11の下流側近接位置と揮発用加熱炉12の上流側近接位置との2箇所に分けて配置しても良く、外径測定器16は、揮発用加熱炉12の下流側近接位置と硬化用加熱炉13の上流側近接位置との2箇所に分けて配置しても良いが、本実施形態ではそれぞれ1箇所ずつ設けている。なお、外径測定器14,15では線引き開始時のみ外径をモニタすればよいので、線引き開始後に常時モニタする必要はなく、省略することも可能である。
【0020】
ダイス11は、線引きされたガラスファイバ1の周囲に溶剤を含む樹脂組成物を塗布するものである。ここで用いる樹脂組成物としては、ポリイミド樹脂組成物やエステルイミド樹脂組成物が挙げられ、これらに含まれる溶剤としては、例えばNメチル−2−ピロドリンが例示できる。ダイス11に形成された樹脂塗布用の穴の中心が、走行するガラスファイバ1の中心軸と一致するように配置されており、ダイス11を通過したガラスファイバ1の周囲には、その周方向に略均一に樹脂組成物が塗布される。
【0021】
揮発用加熱炉12は、ダイス11の鉛直下方向に設けられ、ガラスファイバ1の周囲に樹脂組成物が塗布されたファイバ(樹脂付きファイバ)1aを挿通させて加熱するものであり、ファイバ1aの樹脂組成物から溶剤を揮発させる。図2(a)に示すように、揮発用加熱炉12は、縦方向に複数(本実施形態では3つ)の短円筒形状の加熱部材であるヒータ(発熱部材)20a,20b,20cを有しており、その内側には共通の円筒形状の炉心管21(加熱部材)を有している。揮発用加熱炉12は、ヒータ20a,20b,20c及び炉心管21がそれぞれ円筒形状でありその中心にファイバ1aを挿通させて加熱するようになっている。
また、ヒータを複数段構造としたことにより、揮発用加熱炉12内におけるファイバ1aの軸方向の加熱温度を複数領域でそれぞれ調整可能である。
なお、炉心管21は、熱伝達率及び熱伝導率が高く、なおかつ溶剤の揮発成分により腐食しない材質であることが望ましく、例えばアルミを用いると良く、その他の材質としては、カーボン、石英、銅などでも良い。
【0022】
揮発用加熱炉12の出口(下端)側には、排気部22が接続されており、炉心管21内の気体が所定の排気量で排気される。また、排気部22では、揮発用加熱炉12から排気された気体内の溶剤濃度を測定し、その測定値に基づき排気量を調整することができる。排気部22の下流側には、排気した気体に含まれる溶剤の揮発成分を適切に処理することが可能な処理部(図示省略)が接続されている。
また、排気部22による排気に伴い、揮発用加熱炉12の炉心管21内の空間には、ファイバ1aが送られてくる入口側(炉心管21の上端開口部)から空気が自然導入される。すなわち、揮発用加熱炉12内で樹脂組成物が加熱されて揮発した溶剤の揮発成分は排気部22により排気され、新しい空気が入口側から導入されることで、揮発用加熱炉12内の気体が揮発成分で飽和することが防がれる。
なお、排気部22を入口側に設けて出口側から空気を導入する構成であっても良い。
【0023】
なお、揮発用加熱炉12の長手方向(ファイバ軸方向)の加熱温度(炉心管温度)分布は、図2(b)に示すように、ファイバ1aの入口側で炉内の平均加熱温度が溶剤の沸点温度T(例えば、202℃)以上となる領域を形成し、それ以外の領域では溶剤の沸点温度未満とする。揮発用加熱炉12の長手方向の位置をLとし、炉の入口をL=0、炉の出口をL=L、線引き速度Vfと炉の加熱構造や炉内の雰囲気ガス等により決まる定数kとの積(k×Vf)によって求められる位置をLとした場合、0≦L≦Lの区間での長手方向の平均温度TAVE1とL≦L≦Lの区間での長手方向の平均温度TAVE2が、「TAVE1>T>TAVE2」の関係を満たすようにしている。なお、TAVE1とTAVE2は次式(1),(2)により定義される。
【0024】
【数1】

【0025】
揮発用加熱炉12の入口側では外気が導入されるので、ファイバ1aを素早く温度上昇させることが難しい。このため、入口側の加熱温度を溶剤の沸点温度以上としておくことで、樹脂組成物中の溶剤を揮発させやすくなる。また、入口側以外の領域で加熱温度を溶剤の沸点温度未満とすることで、樹脂組成物の過加熱による発泡を防ぐことができる。
【0026】
また、ダイス11における樹脂組成物の温度は50℃程度とする必要があるため、揮発用加熱炉12に入る時のファイバ1aの温度は比較的低く、揮発用加熱炉12の入口側で加熱温度が溶剤の沸点温度であっても、樹脂組成物は発泡しない。そして、上記のように入口側で溶剤の沸点温度以上の加熱温度の領域を形成することで、溶剤の揮発効率が向上する。
【0027】
硬化用加熱炉13は、揮発用加熱炉12の鉛直下方向に設けられており、揮発用加熱炉12と同様にヒータ及び炉心管を有する構成である。硬化用加熱炉13は、揮発用加熱炉12により溶剤が十分に揮発されたファイバ1bを、揮発用加熱炉12より高い温度で加熱して、樹脂組成物を硬化させるものである。なお、ここでいう硬化とは、ポリイミド樹脂組成物やエステルイミド樹脂組成物がイミド化することである。これにより、ガラスファイバ1の周囲に樹脂(ポリイミド樹脂やエステルイミド樹脂等)の被覆層が形成された光ファイバ1cが製造される。
【0028】
硬化用加熱炉13を通過した光ファイバ1cは、その後、硬化用加熱炉13の鉛直下方向に設けられたガイドローラ17により走行方向が変更され、巻き取り側に向けて案内される。
なお、樹脂被覆層を2層、3層など複数層形成する場合には、硬化用加熱炉13を通過した光ファイバ1cは再度ダイス11(もしくは別のダイス)へ導入される。
【0029】
次に、本実施形態の光ファイバの製造方法について説明する。なお、図1に示した被覆装置10を用いた場合を一例として説明する。
まず、線引き開始とともに、ガラスファイバ1を図1の被覆装置10のパスラインに通すとともに、ダイス11に樹脂組成物を供給してガラスファイバ1の周囲に樹脂組成物を塗布する。
【0030】
樹脂組成物が塗布されたファイバ1aは揮発用加熱炉12内で加熱され、樹脂組成物中の溶剤が揮発される。その際、揮発用加熱炉12の加熱温度分布は図2(b)に示したように設定する。また、被覆開始時には、所定の被覆外径を得るための加熱温度調整を行う。
最終的に得られる光ファイバ1cの外径は、ダイス11によりガラスファイバ1に塗布された直後の樹脂組成物の外径に対して、樹脂組成物から溶剤が揮発して体積が減少した分と硬化反応による収縮分だけ小さくなる。そのため、ダイス11を通す前のガラスファイバ1の外径D、樹脂組成物が塗布されて揮発用加熱炉12を通す前のファイバ1aの外径D、揮発用加熱炉12を通した後のファイバ1bの外径D、に基づいて次式(3)により算出される体積変化率Δが、樹脂組成物中の溶剤の含有割合(例えば75体積%)以上となるように、ファイバ1bの外径Dの外径目標値を設定する。
体積変化率Δ(%)=1−{(D−D)/(D−D)}×100 …(3)
【0031】
被覆開始時には、ダイス11を通す前のガラスファイバ1の外径Dを外径測定器14により測定し、樹脂組成物が塗布されて揮発用加熱炉12を通す前のファイバ1aの外径Dを外径測定器15により測定し、揮発用加熱炉12を通した後のファイバ1bの外径Dを外径測定器16により測定し、前記式(3)により算出される体積変化率Δが、樹脂組成物中の溶剤の含有割合以上となるように、なおかつファイバ1bの外径Dが、設定した外径目標値となるように、揮発用加熱炉12の加熱温度を調整する。例えば、外径測定値が外径目標値より大きい場合には、溶剤の揮発に伴う樹脂組成物の収縮が少ないと判断できるため、揮発用加熱炉12の加熱温度を上昇させる。
【0032】
なお、加熱温度の調整は、全てのヒータ20a,20b,20cの温度調整により行なっても良いが、揮発用加熱炉12の出口側で温度変化に対する外径変化量が多くなる傾向があるため、揮発用加熱炉12の出口側の温度調整(すなわちヒータ20cの温度調整)だけでも効果的である。
【0033】
被覆開始時に加熱温度の調整を行った後は、揮発用加熱炉12を通過したファイバ1bの外径を外径測定器16によりモニタして、モニタした外径測定値と予め設定した外径目標値との偏差に応じて、揮発用加熱炉12の加熱温度の調整を行う。これにより、樹脂組成物中の溶剤の揮発が十分に行われた光ファイバ1cを安定して製造することができる。また、硬化用加熱炉13を通過した光ファイバ1cの外径を外径測定器19によりモニタして、得られた光ファイバ1cの外径がチェックされる。
【0034】
また、揮発用加熱炉12内の気体内の溶剤濃度、または、排気部22内の気体内の溶剤濃度を測定し、その測定値に基づき揮発用加熱炉12からの排気量を調整してもよい。それにより、揮発用加熱炉12内の気体が揮発成分で飽和することを防いで、揮発効率を良好な状態に維持することができる。
【0035】
そして、揮発用加熱炉12は、線引き速度によって変動するファイバ1aの入口から所定の箇所までの平均加熱温度を溶剤の沸点温度T以上とし、それ以降の出口までの加熱温度を溶剤の沸点温度未満としている。さらに、揮発用加熱炉12の長手方向の位置0≦L≦Lの区間での長手方向の平均温度TAVE1(前記式(1)参照)とL≦L≦Lの区間での長手方向の平均温度TAVE2(前記式(2)参照)が、「TAVE1>T>TAVE2」の関係を満たすようにしている。これにより、入口側で樹脂組成物中の溶剤を揮発させやすくし、なおかつ出口側で樹脂組成物の過加熱による発泡を防ぎつつ、溶剤の揮発及び樹脂の硬化を十分に行って周方向に均一の被覆厚とすることができる。
【0036】
また、揮発用加熱炉12は、加熱部材であるヒータ20a,20b,20c及び炉心管21がそれぞれ円筒形状でありその中心にファイバ1aを挿通させて加熱するようになっているため、ファイバ1aを周方向に均一に加熱して、溶剤の揮発量を周方向で均一にすることができる。揮発用加熱炉12により溶剤が十分になおかつ周方向に均一に揮発されたファイバ1bは、硬化用加熱炉13によって樹脂組成物が十分に硬化され、ガラスファイバ1の周囲に均一かつ所望の厚さの樹脂被覆層が形成される。このように、光ファイバ1cにおける樹脂被覆層の厚さを周方向で均一にすることができる。なお、少なくとも0≦L≦Lの区間において周方向に均一に加熱することができれば、均一な厚さの樹脂被覆層を形成することができる。
【0037】
さらに、樹脂被覆層の厚さを周方向で均一にするためには、ファイバ1aの中心軸を回転軸として、炉心管21またはヒータ20aに対して相対的に回転させることが好ましく、揮発用加熱炉12内のファイバ1aと揮発用加熱炉12を、ファイバ1aの中心軸を回転軸として相対的に回転させると良い。例えば、図3に示すように、ガイドローラ17のガイド面17aの断面を円弧状としておき、このガイドローラ17を図3中の矢印に示すように揺動させることで、ガイドされる光ファイバ1cの中心軸を移動させることなく回転させて、揮発用加熱炉12内のファイバ1aをその中心軸を回転軸として回転させることができる。また、ファイバ1aを回転させずに、炉心管21またはヒータ20aの少なくとも一方を、ファイバ1aの中心軸を回転軸として、ファイバ1aに対して相対的に回転させても良い。
【実施例1】
【0038】
揮発用加熱炉12の長手方向(ファイバ軸方向)の加熱温度(炉心管温度)分布を一定とし、線引きの速度を変えた場合の実施例と比較例を示す。なお、良否の判断は、スクリーニング時(=1%歪負荷)の破断頻度(破断1回あたりの平均長さ、表2では平均破断長さと記載)に基づいて行う。
炉内温度分布を表1に示し、線速Vfを変更した結果を表2に示す。なお、炉の長さL=1mであり、表1の位置Lは、炉の入口(L=0)からの距離である。また、定数k=0.1である。
【0039】
【表1】

【0040】
【表2】

【0041】
溶剤の沸点温度Tは202℃であり、0≦L≦Lの区間での長手方向の平均温度TAVE1とL≦L≦Lの区間での長手方向の平均温度TAVE2が、「TAVE1>T>TAVE2」の関係を満たすのは、線速Vf=4〜6(m/min)の場合であり、平均破断長さは3.5km以上である。これに対して、「TAVE1>T>TAVE2」の関係を満たしていない線速Vf=3,8(m/min)の場合では、平均破断長さは0.9km以下であり、前記関係を満たしている場合と満たしていない場合では、明らかな結果の差が見られる。
【実施例2】
【0042】
線引きの速度を一定とし、揮発用加熱炉12の長手方向の加熱温度分布を変えた場合の実施例と比較例を示す。良否の判断は、実施例1と同様である。
4種類の各炉内温度分布を表3に示し、炉内温度分布を変更した結果を表4に示す。なお、炉の長さL=1mであり、表3の位置Lは、炉の入口(L=0)からの距離である。また、定数k=0.1である。線速Vfは5(m/min)である。
【0043】
【表3】

【0044】
【表4】

【0045】
溶剤の沸点温度Tは202℃であり、0≦L≦Lの区間での長手方向の平均温度TAVE1とL≦L≦Lの区間での長手方向の平均温度TAVE2が、「TAVE1>T>TAVE2」の関係を満たすのは、温度分布1と4の場合であり、平均破断長さは3.9km以上である。これに対して、「TAVE1>T>TAVE2」の関係を満たしていない温度分布2と3の場合では、平均破断長さは0.8kmであり、前記関係を満たしている場合と満たしていない場合では、明らかな結果の差が見られる。
【0046】
このように、実施例1,2に示したように、「TAVE1>T>TAVE2」の関係を満たすことにより、満たしていない従来の例に対してスクリーニング断線頻度を大きく改善できることがわかり、溶剤の揮発を十分に行い良好な樹脂被覆層を形成できるといえる。
【符号の説明】
【0047】
1 ガラスファイバ
1c 光ファイバ
10 被覆装置
11 ダイス
12 揮発用加熱炉
13 硬化用加熱炉
14,15,16,19 外径測定器
17 ガイドローラ
18 制御部
22 排気部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
線引きされたガラスファイバの周囲に溶剤を含む樹脂組成物を塗布し、さらに揮発用加熱炉内を通して加熱して前記溶剤を揮発させた後、硬化用加熱炉内を通して加熱して前記樹脂組成物を硬化させて樹脂被覆層を形成する光ファイバの製造方法であって、
前記揮発用加熱炉における樹脂付きファイバ軸方向の加熱温度分布として、
「TAVE1>T>TAVE2」の関係を満たすことを特徴とする光ファイバの製造方法。
但し、
AVE1:0≦L≦Lの区間での長手方向の平均温度(揮発用加熱炉入口をL=0とする)
AVE2:L≦L≦Lの区間での長手方向の平均温度(揮発用加熱炉全長をLとする)
:溶剤沸点
=k×Vf(Vf:線引き速度、k:定数)。
【請求項2】
前記揮発用加熱炉の下流側であって前記硬化用加熱炉の上流側における前記樹脂付きファイバの外径をモニタして、
モニタした外径測定値と予め設定した外径目標値との偏差に応じて前記揮発用加熱炉の加熱温度を調整することを特徴とする請求項1に記載の光ファイバの製造方法。
【請求項3】
前記ガラスファイバの外径と、前記樹脂付きファイバを前記揮発用加熱炉に通す前後の外径をそれぞれ測定して、それらにより塗布した前記樹脂組成物の体積変化率を算出し、
前記体積変化率が前記樹脂組成物中の前記溶剤の含有割合以上となるように、前記外径目標値を設定することを特徴とする請求項2に記載の光ファイバの製造方法。
【請求項4】
前記揮発用加熱炉における前記樹脂付きファイバ軸方向の加熱温度を複数領域でそれぞれ調整可能であり、
前記外径測定値と前記外径目標値との偏差に応じて前記揮発用加熱炉における最も出口側の領域の加熱温度を調整することを特徴とする請求項2または3に記載の光ファイバの製造方法。
【請求項5】
前記揮発用加熱炉の少なくとも0≦L≦Lの区間では、前記樹脂付きファイバを周方向に均一に加熱することを特徴とする請求項1から4の何れか一項に記載の光ファイバの製造方法。
【請求項6】
前記樹脂付きファイバと前記揮発用加熱炉における加熱部材を、前記樹脂付きファイバの中心軸を回転軸として相対的に回転させることを特徴とする請求項5に記載の光ファイバの製造方法。
【請求項7】
前記加熱部材は、炉心管と、前記炉心管を昇温させる発熱部材とを含み、
前記樹脂付きファイバを、前記樹脂付きファイバの中心軸を回転軸として、前記炉心管または前記発熱部材に対して相対的に回転させることを特徴とする請求項5に記載の光ファイバの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−163298(P2010−163298A)
【公開日】平成22年7月29日(2010.7.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−5037(P2009−5037)
【出願日】平成21年1月13日(2009.1.13)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】