説明

光ファイバケーブル

【課題】スロットの溝の内部に収納した光ファイバ心線を簡易な構成で保持し、十分な引き抜き力特性が得るとともに、スロットの低温収縮が生じても光ファイバ心線の電送特性を悪化させないようにする。
【解決手段】光ファイバケーブル10は、スロット1の溝2の内部にショアD硬度40以下の充填材7が間欠的に充填されている。また、充填材の長さをL1、充填材7の間隔をL2、溝2の幅方向の断面積をS1、充填材7の幅方向の断面積をS2とし、充填材7の充填率をL1/(L1+L2)、充填材7の溝2における占有率をS2/S1とするとき、充填率は0.03〜0.6であり、占有率は0.3〜0.9とする。また、充填材7は、溝2の幅よりも長い幅を有するテープに間欠的に固着して、テープが溝2を覆うように貼付することにより、充填材7が溝2の内部に間欠的に充填されるようにしてもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光ファイバ心線を溝に収納するスロットを備えた光ファイバケーブルに関する。
【背景技術】
【0002】
図7は、従来のスロット型光ファイバケーブルの断面構成例を示す図である。スロット型の光ファイバケーブル10は、1または複数条の溝2を有し、中心にテンションメンバ(抗張力体ともいう)3を埋設した樹脂製のロッドからなるスロット(スペーサとも言う)1を有している。スロット1の溝には、1本以上の光ファイバ心線4が収納される。図示する例は、多心の光ファイバテープ心線がそれぞれの溝2に複数収納されている。光ファイバ心線4が溝2に収納されたスロット1には、押え巻きテープ5が巻き付けられ、さらにその外側に保護用のシース6が被覆される。
【0003】
スロット1の溝2の軌跡は、光ファイバの伝送特性を確保するために長手方向に撚られている。スロット1は、溝2の形状により大きく2種類に大別される。1つは図8(A)に示すHLと称する一方向撚りの溝2を有するもので、もう1つは、図8(B)に示すSZと称する長手方向に左右に反転した双方向撚りの溝2を有するものである。
【0004】
上記のようなスロット型の光ファイバケーブル10において、スロット1の溝2に収納される光ファイバ心線4の断面積とスロット1の溝2の断面積とを比較すると、一般的には溝2の断面積の方が圧倒的に大きい。つまり溝2の内部には相当の空間的余裕をもって光ファイバ心線4が収納されている。このため、架空などの振動を受けやすい環境に光ファイバケーブル10を敷設すると、溝2の内部で光ファイバ心線4が長手方向に動いてしまうことある。
【0005】
光ファイバ心線4が溝2の内部で動いてしまうと、例えば、架空で光ファイバを接続するクロージャ内で光ファイバ心線4が滞留して伝送損失の増大を招いたり、あるいは最悪の場合、光ファイバが断線することがある。このような溝2の内部の光ファイバ心線4の動きを抑えるための目安として、光ファイバ心線4の引き抜き力9.8N/10mを満足することが必要とされている。
【0006】
この場合、SZ型の双方向撚りの溝を有するスロット1であれば、光ファイバ心線4とスロット1の溝2との摩擦が大きくなり、光ファイバ心線4の引き抜き力9.8N/10mを満足することができるとされている。しかしながら、一方向撚りのHL型のスロットの場合には、十分な引き抜き力を得られないことがあり、敷設環境が制約されるなどの課題が生じる。
【0007】
スロットの溝の内部における光ファイバ心線の動きを抑えるための技術として、例えば、特許文献1には、スロット溝の幅が光ファイバ心線の径より大きい部分と、光ファイバ心線の径より小さい部分とが長手方向に交互に存在する光ファイバケーブルが開示されている。
また、特許文献2には、クッション材を間欠的に取り付けた線状体を溝の内部に配置した光ケーブルが開示されている。クッション材は溝の断面を少なくとも半周以上覆うような形状に形成され、これにより光ファイバ心線の引き抜き力が大きくなるようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】実開昭60−60713号公報
【特許文献2】特開平11−64694号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1の光ファイバケーブルは、光ファイバ心線の径より小さい部分を溝内に設けることで、光ファイバ心線を保持しようとするものであるが、溝の幅を光ファイバ心線の径より小さくした部分により光ファイバ心線が側圧を受け、伝送損失の増加を招くおそれがある。また、特許文献2の光ケーブルは、間欠的に設けたクッション材で溝断面の半周以上を覆う必要があり、このような光ケーブルを精度よく安定して製造することは難しい。また、クッション材の硬度は不明であるが、クッション材の硬度が大きいと側圧を受けて伝送損失が増大する、という問題が生じる。
【0010】
また、光ファイバケーブルのスロットは通常ポリエチレン材料で成形されていて、低温環境下で収縮が発生する。スロットの溝内における光ファイバ心線の動きを抑えるために、クッション材のような充填材を溝全体に充填してしまうと、スロット1の収縮により光ファイバ心線4が応力を受けて、伝送損失が悪化してしまう。また、溝2の内部で光ファイバ心線4の動きを抑える構成や部材等は、容易かつ安定して製造できることが必要である。
【0011】
本発明は、上述のごとき実状に鑑みてなされたもので、スロットの溝の内部に収納した光ファイバ心線を簡易な構成で保持し、十分な引き抜き力特性が得られるようにするとともに、スロットの低温収縮が生じても光ファイバ心線の電送特性を悪化させることがない光ファイバケーブルを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の光ファイバケーブルは、多数の光ファイバ心線を内部に収納する溝を備えたスロットと、スロットの周囲を被覆するシースとを有し、溝の内部に硬度40以下の充填材が溝の長手方向に間欠的に充填されている。
そして、溝の長手方向の充填材の長さをL1、間欠的に充填された充填材の間隔をL2、溝の幅方向の断面積をS1、溝に充填した充填材の幅方向の断面積をS2とし、充填材の充填率をL1/(L1+L2)、充填材の溝における占有率をS2/S1とするとき、充填率は0.03〜0.6であり、占有率は0.3〜0.9であることが好ましい。
また、充填材は、溝の幅よりも長い幅を有するテープに間欠的に固着され、テープが溝を覆うように貼付されることによって、充填材が溝の内部に間欠的に充填されていることが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明によるス光ファイバケーブルは、スロットの溝の内部に収納した光ファイバ心線を簡易な構成で保持し、十分な引き抜き力特性が得られるとともに、スロットの低温収縮が生じても光ファイバ心線の電送特性を悪化させないようにすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明によるスロット型光ファイバケーブルの断面を示す図である。
【図2】スロットの溝の内部における光ファイバ心線と充填材の状態を説明する図である。
【図3】スロットが長手方向に収縮したときの溝の状態を説明する図である。
【図4】充填材の充填率が高すぎるときの溝内の状態を説明する図である。
【図5】本発明によるスロット型光ファイバケーブルの他の構成例を示す図である。
【図6】充填材の仕様を変化させて光ファイバ心線の特性を評価した結果を示す図である。
【図7】従来のスロット型光ファイバケーブルの断面を示す図である。
【図8】スロットの溝の軌跡の状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
図により本発明の実施の形態を説明する。図1は、本発明によるスロット型光ファイバケーブルの一例を示す図である。光ファイバケーブル10は、1または複数条の溝2を有し、テンションメンバ(抗張力体)3を埋設した樹脂製のロッドからなるスロット1を有している。スロット1の溝には、1本以上の光ファイバ心線4が収納される。図示する例は、多心の光ファイバテープ心線がそれぞれの溝2に複数収納されている。光ファイバ心線4が溝2に収納されたスロット1には、押え巻きテープ5が巻き付けられ、さらにその外側に保護用のシース(外被ともいう)6が被覆される。また、スロット1の溝2には、光ファイバ心線4が溝2内で動かないように抑えるための充填材7が充填される。充填材7は、スロット1の溝2の長手方向に間欠的に充填される。
【0016】
本発明に係る光ファイバケーブル10は、溝2の軌跡が一方向撚りのHL型のスロット1に好適に適用できる。前述したようにSZ型のスロット1は、光ファイバ心線4とスロット1の溝2との摩擦が比較的大きく、光ファイバ心線4の引き抜き力の基準を満たすことができるとされている。これに対して一方向撚りの溝をもつスロット1では、十分な引き抜き力を得ることができない。このため、充填材7を充填して溝2の内部で光ファイバ心線4を抑えることで、効果的に溝2内の光ファイバ心線4の動きを抑制し、十分な引き抜き力が得られるようになる。また、SZ型のスロット1であっても本発明の構成を適用することにより、より十分な引き抜き力特性を付与することができる。
【0017】
図2は、スロットの溝の内部における光ファイバ心線と充填材の状態を説明する図で、図2(A)は溝の長手方向の断面を模式的に示す図、図2(B)は溝の幅方向の断面を模式的に示す図である。
スロットの溝2には、単心または多心の光ファイバ心線4が1または複数収納されるが、ここでは説明のため2枚の多心光ファイバテープ心線が収納されているものとして説明する。光ファイバテープ心線がさらに多数積層された場合、あるいは単心の光ファバ心線が複数収納された場合でも挙動は同様である。
【0018】
充填材7は、溝2の長手方向に間欠的に充填される。そして各充填材7は、光ファイバ心線4を溝2の上方から抑える。
ここで溝2の長手方向の充填材7の長さをL1、充填材7の長手方向の間隔をL2とし、充填材7の充填率をL1/(L1+L2)とするとき、充填率は0.03〜0.6の範囲とする。また、溝2の幅方向の断面積をS1、溝2に充填した充填材7の幅方向の断面積をS2とし、充填材7の溝2における占有率をS2/S1とするとき、占有率は0.3〜0.9の範囲とする。
また、充填材7は、JIS−K7215で規定されるショアD硬度(HDD)が40以下の材料で形成する。ショア硬度40以下の材料としては、例えば、ポリエーテルポリウレタン、スチレン系熱可塑性エラストマーなどを用いることができる。
【0019】
上記の構成により、充填材7により光ファイバ心線4の溝2内の動きを抑え、適切な引き抜き力を与えることができる。そして、上記のような充填率、占有率、硬度を満足させることにより、側圧特性や損失温度特性等の伝送特性を阻害することなく、充填材7を充填することができる。
【0020】
図3は、スロットが長手方向に収縮したときの溝の状態を説明する図である。ここでは、光ファイバ心線4が1または複数枚収納された状態を模式的に示す。
スロット1の長手方向に低温収縮が生じると、スロット1の溝2の内部に収納した光ファイバ心線4は、図3に示すように溝2の内部で長さが余って蛇行する。この場合、充填材7が長手方向に間欠的に設けられているため、充填材7によって溝2の内部に光ファイバ心線4が固定されるとともに、充填材7の間隙部分で光ファイバ心線4が側圧を受けないように緩やかに蛇行させることができる。
【0021】
図4は、充填材の充填率が高すぎるときの溝内の状態を説明する図である。本発明に係る光ファイバケーブルでは、充填材7の充填率は、上記のように0.03〜0.6の範囲とされる。充填率がこの範囲より高い場合には、例えば図4(A)に示すような状態となり、充填材7の間の間隔L2が狭くなる。この状態でスロット1の低温収縮が生じた場合、図4(B)に示すように充填材7の間で局所的に光ファイバ心線4が高い曲率で蛇行し、側圧を受けて伝送損失が悪化する。また、充填率が低すぎる場合には、このような問題は発生しないが、光ファイバ心線4の抑えが不十分となって十分な引き抜き力が得られなくなる。
【0022】
なお、溝2の長手方向の充填材7の長さについては特に限定されないが、長さが長すぎる場合、スロット1の低温収縮時に充填材7が充填されている領域では光ファイバ心線4の余長をうまく吸収できなくなって、伝送損失等の不具合が生じる。また充填材7が短すぎると、その充填工程が煩雑となる。充填材7の長さとしては、好ましくは10〜15cm程度で、長くても50cm以下程度とすることが好ましい。
【0023】
また、充填材7の充填方法は特に限定されないが、例えば、充填材7の材料を溶融して間欠的にノズルやダイスから押し出し、進行するスロット1の溝2に直接充填して固化させるような方法をとることができる。また、所定長さに成型した充填材を1つずつ溝2内に充填するようにしてもよい。また、以下に示すようなテープを用いて充填材7を一括して充填することもできる。
【0024】
図5は、本発明によるスロット型光ファイバケーブルの他の構成例を示す図で、光ファイバケーブルの断面要部を示すものである。
本例では、充填材7をスロット1の溝2に間欠的に充填するためにテープ8を使用する。図5(A)に示すように、まずテープ8の長手方向に間欠的に充填材7を配設する。そして図5(B)に示すように、充填材7を配設したテープ8をスロット1の溝2の部分に貼付していく。これにより、溝2の内部に充填材7が充填された形態の光ファイバケーブルを構成することができる。
【0025】
テープ8は、溝2の幅よりも長い幅を有し、スロット1の外周面で溝2を全て覆うことができる寸法で作成されている。テープ8の基材材料は特に限定されることはないが、例えばPETによる基材を用いることができる。そしてテープ8を貼付したスロット1の外周面に押え巻きテープ5を巻き付けてさらにシース6を被覆成形するが、この構成の場合には押え巻きテープ5を省略することができる。これにより、光ファイバケーブル10の解体を容易にすることができる。
【0026】
上記のような光ファイバケーブル10を製造する場合、まずテープ8を繰り出しながら、充填材7を間欠的にテープ8上に配設していく。この場合、テープ8の粘着剤層上にノズル等により間欠的に充填材材料を押し出して固化させる。そして充填材7を押し出したテープ8をインラインでスロット1の溝2の部分に貼付していく。テープ8を用いることにより、溶融した充填材材料の冷却固化がライン上で進行し、溝2の内部に直接溶融材料を押し出す場合に比較して、溝2の内部の光ファイバ心線4が受ける熱的影響を軽減することができる。また、テープ8に予め充填材7を間欠的に配置しておくことにより、充填材7の充填工程が簡易となる。
【0027】
図6は、充填材の仕様を変化させて光ファイバ心線の特性を評価した結果を示す図である。ここでは、充填材7の硬度(ショアD硬度)、充填率、占有率を変化させてスロット1の溝2に充填し、このときの光ファイバ心線の引き抜き力(N/10m)、損失温度特性、側圧特性を評価した。損失温度特性の評価条件は−30℃〜−70℃の温度変化を3サイクル繰り返して最大損失を測定し、最大損失が0.30dB/km以下のときに評価を○とした。また、側圧特性は、1960Nの側圧板で側圧を1分間印加後10カ所で最大損失を測定し、最大損失が0.1dB/km以下のときに評価を○とした。
【0028】
本発明に係る充填材7の仕様は、ショアD硬度が40以下で、充填率が0.03〜0.6、占有率が0.3〜0.9である。比較例1は、充填材7を充填しない構成のものであり充填率、占有率はともに0である。この場合には引き抜き力が0.1と小さく、溝2の内部で光ファイバ心線4が動きやすく、十分な引き抜き力が得られないことがわかる。
比較例2,3は充填材7を充填しているものの充填率はまだ低く、十分な引き抜き力が得られなかった。比較例4は、溝2における光ファイバ心線4の占有率が大きく、これにより側圧特性が低下した。また、比較例5,6では、充填材7の硬度が高すぎ、これにより側圧特性が低下した。
【0029】
これに対して実施例1〜5はいずれも本発明の充填材の仕様の範囲に含まれている。これらのいずれの実施例においても、引き抜き力、損失温度特性、側圧特性の評価が良好であった。
【符号の説明】
【0030】
1…スロット、2…溝、4…光ファイバ心線、5…押え巻きテープ、6…シース、7…充填材、8…テープ、10…光ファイバケーブル。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多数の光ファイバ心線を内部に収納する溝を備えたスロットと、前記スロットの周囲を被覆するシースとを有する光ファイバケーブルであって、
前記溝の内部にショアD硬度40以下の充填材が前記溝の長手方向に間欠的に充填されていることを特徴とする光ファイバケーブル。
【請求項2】
前記溝の長手方向の前記充填材の長さをL1、前記間欠的に充填された充填材の間隔をL2、前記溝の幅方向の断面積をS1、前記溝に充填した充填材の前記幅方向の断面積をS2とし、
前記充填材の充填率をL1/(L1+L2)、
前記充填材の溝における占有率をS2/S1とするとき、
前記充填率は0.03〜0.6であり、前記占有率は0.3〜0.9であることを特徴とする請求項1に記載の光ファイバケーブル。
【請求項3】
前記充填材は、前記溝の幅よりも長い幅を有するテープに間欠的に固着され、前記テープが前記溝を覆うように貼付されることによって、前記充填材が前記溝の内部に間欠的に充填されていることを特徴とする請求項1または2に記載の光ファイバケーブル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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