説明

光ファイバマイクロ波伝送装置

【課題】光路長の変動を補償できる光ファイバマイクロ波伝送装置を得る。
【解決手段】マイクロ波により変調された変調光を出力するE/O変換器2と、光周波数コム信号を2つの光周波数コム信号S1、S2に分波する光分波器4と、変調光とコム信号S1を合波する光合波器5と、制御信号C1に基づき光路の長さを可変する可変ディレイライン7と、部分反射器9により反射されたコム信号S1の周波数をシフトする光周波数シフタ13と、制御信号C2に基づきコム信号S1、S2の中から波長λm、λの光を分波するWDM14、15と、λm、λの光を合波し、光電変換したマイクロ波の位相差を求める位相比較器20と、位相差と周波数差に基づき、2つの光路間の光路長差を求めて小さくなるように、また、光路長差が所定の閾値より小さくなった場合、周波数差を大きくするように、可変ディレイライン7とWDM14、15を制御する制御装置21とを設けた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、マイクロ波信号で変調された変調光を光ファイバで伝送するシステムにおいて、光ファイバの光路長の変動を補償する光ファイバマイクロ波伝送装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、光ファイバ中を光波が伝搬する場合、光ファイバ周囲の温度変化や光ファイバに対する振動があると、光ファイバの伸び縮みなどによる光路長の変動が生じる。従って、マイクロ波信号を光波に重畳して光ファイバを介して伝送させるRoF(Radio On Fiber)伝送においても、光ファイバの光路長の変動により、光ファイバによる伝送後に復調されたマイクロ波信号の位相変動や遅延時間の変動が生じる。このため、復調されたマイクロ波信号の位相安定性を高めるためには、伝送路である光ファイバの光路長の変動を補償する必要がある。
【0003】
従来、この種の光ファイバ伝送システムにおいて、光ファイバの光路長の変動を測定し、測定結果に基づき変動分を補償する方式が提案されている(例えば、非特許文献1の図1参照)。なお、以下の説明において、カッコ内は、非特許文献1の図1に記載された名称である。
【0004】
従来の光路長変動補償方式では、レーザ(ECLD)から出力されたレーザ光が、第1の光カプラ(10dB coupler)により2分岐させられ、分岐した一方のレーザ光が第1の光サーキュレータ、光ファイバの長さを可変する光ファイバストレッチャ(fiber stretcher)を介して、伝送路である光ファイバ(delay line)を伝送し、第2の光サーキュレータ(optical circulator)、第2の光カプラ(3dB coupler)、音響光学光変調器(AOM)を経て、第2の光サーキュレータにより、光ファイバを往復する。この往復したレーザ光は、音響光学光変調器により周波数がシフトされる。往復したレーザ光は、第1の光サーキュレータで光路が切り替えられ、第3の光カプラ(3dB coupler)において、第1の光カプラにより分岐された他方のレーザ光と合波される。
【0005】
この合波光は、光電変換器(PD)により電気信号に変換される。ここで、電気信号の周波数は、音響光学光変調器により周波数シフトされたマイクロ波信号の周波数となる。光ファイバが温度変化などにより光路長が変動した場合、光電変換された電気信号のビート信号は光路長の変動に応じて位相が変動する。
【0006】
位相検波器(PSD又はDPFD)は、基準信号源(synth. 55MHz)からの基準信号とビート信号との位相を比較し、光移相器は、信号光の位相を所望の位相と一致させるための例えば電圧などの制御信号を出力する。この制御信号は、ループフィルタを介して光移相器に入力され、制御信号に応じた量だけ光信号の位相がシフトされる。ここで、光電変換器(PD)からのビート信号により得られる制御信号が、光移相器に入力されるという動作が繰り返されることにより、帰還回路が構成され、この帰還回路により、擾乱による光路長の変動を補償する制御を行う。
【0007】
従って、光合波器で合波されたRF変調が施された信号光は、光移相器、光サーキュレータを通過して光分波器で分波され、光電変換器での光電検波により、電気信号に変換されるが、この変換されたRF信号は高い位相安定性が得られている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Musha, et. al., “Rubust and precise length correction of 25-km fiber for distribution of local oscillator,” 2005 Digest of the LEOS Summer Topical Meeting, TuB4.4, p.123, 2005. (Figure 1)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従来の光路長変動補償方式は、レーザ光を2つに分岐して、ヘテロダイン検波を行い、この検波で得られるビート信号と、ビート信号を得るために用いた周波数シフト用基準信号との位相比較を行うことで、光信号の位相を検出し、高精度に光路長の変動を求めている。しかしながら、このような構成では、光波の位相より長い(1μm程度)光路長の変動に対応できないという問題点があった。
【0010】
本発明は、前記のような課題を解決するためになされたものであり、光路長の測定可能範囲を可変にし、測定可能範囲を狭くしたときは高精度に、測定可能範囲を広くしたときには粗く、光路長の変動を測定することができ、光路長の変動を補償することができる光ファイバマイクロ波伝送装置を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係る光ファイバマイクロ波伝送装置は、入力される第1のマイクロ波信号により強度変調された変調光を出力する電気/光変換手段と、所定の周波数間隔で複数の光信号が並らんだ光周波数コム信号を発生する光周波数コム信号発生手段と、前記光周波数コム信号発生手段により発生された光周波数コム信号を第1及び第2の分波光周波数コム信号に分波する光分波手段と、前記変調光及び前記第1の分波光周波数コム信号を合波して第1の合波信号を出力する第1の光合波手段と、前記第1の光合波手段の出力側に接続された入力ポートから入力される前記第1の合波信号を入出力ポートへ伝達するとともに、前記入出力ポートから入力される前記第1の分波光周波数コム信号を出力ポートへ伝達する光伝達手段と、前記光伝達手段の入出力ポートに一端が接続され、第1の制御信号に基づいて、光路の長さを可変する光路長可変手段と、前記光路長可変手段の他端から出力された前記第1の合波信号を伝送する光ファイバと、前記光ファイバにより伝送された第1の合波信号のうち、前記変調光を透過させるとともに、前記第1の分波光周波数コム信号を反射する部分反射手段と、前記部分反射手段を透過してきた前記変調光を復調して前記第1のマイクロ波信号を出力する第1の光/電気変換手段と、基準マイクロ波信号を出力する基準マイクロ波信号源と、前記基準マイクロ波信号に応じて、前記部分反射手段により反射され、前記光ファイバ及び前記可変遅延手段を経て、前記光伝達手段の出力ポートから出力された前記第1の分波光周波数コム信号の周波数を偏移する光周波数偏移手段と、第2の制御信号に基づいて、前記光分波手段により分波された第2の分波光周波数コム信号の中から第1及び第2の波長の光信号を分波する第1の光波長分波手段と、前記第2の制御信号に基づいて、前記光周波数偏移手段により周波数偏移された第1の分波光周波数コム信号の中から第3及び第4の波長の光信号を分波する第2の光波長分波手段と、前記第1の波長分波手段から出力された第1の波長の光信号及び前記第2の波長分波手段から出力された第3の波長の光信号を合波して第2の合波信号を出力する第2の光合波手段と、前記第1の波長分波手段から出力された第2の波長の光信号及び前記第2の波長分波手段から出力された第4の波長の光信号を合波して第3の合波信号を出力する第3の光合波手段と、前記第2の合波信号を光電変換して第2のマイクロ波信号を出力する第1の光電変換手段と、前記第3の合波信号を光電変換して第3のマイクロ波信号を出力する第2の光電変換手段と、前記第2及び第3のマイクロ波信号の位相を比較し位相差を求めて出力する位相比較手段と、前記位相差と前記第1及び第2の分波光周波数コム信号の中からそれぞれ選択する2つの波長の波長差である周波数差とに基づいて、前記光分波手段から前記第2の光合波手段まで、又は前記光分波手段から前記第3の光合波手段までの前記第1及び第2の分波光周波数コム信号が通過する2つの光路間の光路長差を算出し、この光路長差が小さくなるように、前記第1の制御信号を前記光路長可変手段へ出力するとともに、算出した光路長差が所定の閾値より小さくなった場合には、前記第1及び第2の分波光周波数コム信号の中からそれぞれ選択する光信号の2つの波長を切り替え、前記周波数差を大きくするように、2つの波長の選択を指示する前記第2の制御信号を前記第1及び第2の光波長分波手段へそれぞれ出力する制御手段とを備えるものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係る光ファイバマイクロ波伝送装置によれば、光路長の測定可能範囲を可変にし、測定可能範囲を狭くしたときは高精度に、測定可能範囲を広くしたときには粗く、光路長の変動を測定することができ、光路長の変動を補償することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】この発明の実施の形態1に係る光ファイバマイクロ波伝送装置の構成を示すブロック図である。
【図2】この発明の実施の形態1に係る光ファイバマイクロ波伝送装置の光波長分波器の構成を示す図である。
【図3】この発明の実施の形態1に係る光ファイバマイクロ波伝送装置の光周波数シフタの動作を示す図である。
【図4】この発明の実施の形態2に係る光ファイバマイクロ波伝送装置の部分反射器の構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の光ファイバマイクロ波伝送装置の好適な実施の形態につき図面を用いて説明する。
【0015】
実施の形態1.
この発明の実施の形態1に係る光ファイバマイクロ波伝送装置について図1から図3までを参照しながら説明する。図1は、この発明の実施の形態1に係る光ファイバマイクロ波伝送装置の構成を示すブロック図である。なお、図1中、光ファイバを実線、電線を破線でそれぞれ描いている。また、以降では、各図中、同一符号は同一又は相当部分を示す。
【0016】
図1において、この発明の実施の形態1に係る光ファイバマイクロ波伝送装置は、マイクロ波を入力するマイクロ波入力部1と、入力されたマイクロ波信号により強度変調された変調光を出力するマイクロ波/光変換器(E/O)(電気/光変換手段)2と、所定の周波数間隔で多数の光信号が並んだ光周波数コム信号を発生する光周波数コム信号発生器(光周波数コム信号発生手段)3と、光周波数コム信号発生器3により発生された光周波数コム信号を第1及び第2の分波光周波数コム信号の2つに分波(分岐)する光分波器(光分波手段)4と、マイクロ波/光変換器2から出力された変調光と光分波器4により分波された第1の分波光周波数コム信号とを合波する光合波器(第1の光合波手段)5とが設けられている。
【0017】
なお、マイクロ波/光変換器2の強度変調方式としては、例えば、半導体レーザを所定のバイアス電流で駆動し、そのバイアスレベルを基準に、入力されたマイクロ波信号で変調する直接変調方式や、連続波(CW)駆動されたレーザ光を入力として、入力されたマイクロ波信号によりCW光の透過率が可変する光変調器を用いた外部変調方式などがある。また、ここでは、強度変調方式で説明するが、位相変調などの他の変調でも適用可能なことは言うまでもない。
【0018】
光周波数コム信号発生器3は、所定の周波数間隔で多数の光信号が並んだ光波(光周波数コム信号)を発生するものであり、モードロックレーザを利用して発生する手法や、LiNbO3光変調器を利用して発生させる手法など様々な方式で実現可能である。
【0019】
また、この発明の実施の形態1に係る光ファイバマイクロ波伝送装置は、光サーキュレータ(光伝達手段)6と、駆動信号(第1の制御信号)に基づき、光路の長さ(合波信号の遅延時間)を可変する可変ディレイライン(光路長可変手段)7と、光ファイバ8と、この光ファイバ8により伝送された合波信号のうち、変調光を透過させるとともに、第1の分波光周波数コム信号を反射する部分反射器(部分反射手段)9と、この部分反射器9を透過してきた変調光をマイクロ波信号に復調する光/マイクロ波変換器(O/E)(第1の光/電気変換手段)10と、復調されたマイクロ波信号を出力するマイクロ波出力部11とが設けられている。
【0020】
なお、光サーキュレータ6の入出力の関係は、図中左側の入力ポートから入力した光波は右側の入出力ポートへ、右側の入出力ポートから入力された光波は下側の出力ポートへ出力するものとする。可変ディレイライン7は、例えば、光ファイバの長さを可変する光ファイバストレッチャなどにより実現可能である。部分反射器9は、マイクロ波/光変換器2から出力された光波の波長帯のみを透過し、その他の波長帯を反射するバンドパスフィルタなどにより実現可能であり、このバンドパスフィルタは、誘電帯多層膜フィルタによる手段や、ファイバ・ブラッグ・グレーティングによる手段などさまざまな手段で実現可能である。光/マイクロ波変換器10は、主としてフォトダイオード(PD)と、必要に応じて整合回路やマイクロ波増幅器、バイアス電圧回路からなる。
【0021】
また、この発明の実施の形態1に係る光ファイバマイクロ波伝送装置は、基準マイクロ波信号を出力する基準マイクロ波信号源12と、この基準マイクロ波信号に応じて、反射された第1の分波光周波数コム信号の周波数を偏移(シフト)する光周波数シフタ(光周波数偏移手段)13と、光分波器4により分波された第2の分波光周波数コム信号の中から、後述する制御装置からの第2の制御信号で選択された2つの波長(周波数に相当)の光信号を分波する、つまり、それぞれ異なる出力ポートから出力する光波長分波器(WDM)(第1の光波長分波手段)14と、光周波数シフタ13により周波数シフトされた第1の分波光周波数コム信号の中から、第2の制御信号で選択された同じ2つの波長(周波数に相当)の光信号を分波する、つまり、それぞれ異なる出力ポートから出力する光波長分波器(WDM)(第2の光波長分波手段)15と、光波長分波器14、15から出力した同じ波長(λ)同士の光信号を合波する光カプラ(第2の光合波手段)16と、光波長分波器14、15から出力した同じ波長(λ)同士の光信号を合波する光カプラ(第3の光合波手段)17と、光カプラ16から出力された合波信号を光電変換してマイクロ波信号を出力する光/マイクロ波変換器(O/E)(第1の光電変換手段)18と、光カプラ17から出力された合波信号を光電変換してマイクロ波信号を出力する光/マイクロ波変換器(O/E)(第2の光電変換手段)19とが設けられている。
【0022】
なお、光周波数シフタ13は、例えば音響光学素子に超音波を加えることで入力光の周波数をシフトさせるAO変調器(AOM:Acoust Optic Modulator)や、LiNbO3によるMach−Zehnder型光変調器などにより実現することができる。光波長分波器14、15からそれぞれ出力される2つの光信号の波長をλ及びλとする。
【0023】
さらに、この発明の実施の形態1に係る光ファイバマイクロ波伝送装置は、光/マイクロ波変換器18及び19から出力されたマイクロ波信号の位相を比較しそれらの位相差を求めて出力する位相比較器(位相比較手段)20と、この位相比較器20から出力された位相差と第1及び第2の分波光周波数コム信号の中からそれぞれ選択する2つの波長λ、λの波長差(周波数差Δf)とに基づいて、2つの光路間の光路長差ΔLを算出し、この光路長差ΔLが小さくなるように、可変ディレイライン7を駆動する、後述するドライバへの第1の制御信号を求めてドライバ22へ出力する第1の機能と、算出した光路長差ΔLが所定の閾値より小さくなった場合には、第1及び第2の分波光周波数コム信号の中からそれぞれ選択する2つの波長を切り替え、波長差つまり周波数差Δfを大きくするように、2つの波長の選択を指示する第2の制御信号を光波長分波器14、15へそれぞれ出力する第2の機能とを有する制御装置(制御手段)21と、この制御装置21からの第1の制御信号に基づき可変ディレイライン7を駆動する駆動信号を出力するドライバ22とが設けられている。なお、位相比較器20、制御装置21及びドライバ22は、マイクロコンピュータなどにより一体として構成することができる。
【0024】
図2は、この発明の実施の形態1に係る光ファイバマイクロ波伝送装置の光波長分波器の構成を示す図である。
【0025】
図2において、光波長分波器14は、アレイ導波路グレーティング(AWG:Arrayed Waveguide Grating)(光信号波長分離手段)141と、光スイッチ142とを組み合わせることにより構成される。なお、光波長分波器15も同様である。
【0026】
つぎに、この実施の形態1に係る光ファイバマイクロ波伝送装置の動作について図面を参照しながら説明する。
【0027】
図3は、この発明の実施の形態1に係る光ファイバマイクロ波伝送装置の光周波数シフタの動作を示す図である。同図(a)は、光周波数コム信号発生器3により発生される光周波数コム信号のスペクトル、同図(b)は、光周波数シフタ13により周波数がシフトされた光周波数コム信号のスペクトルをそれぞれ示す。
【0028】
マイクロ波/光変換器2は、マイクロ波入力部1から入力された伝送すべきマイクロ波信号により強度変調された変調光を出力する。一方、光周波数コム信号発生器3は、所定の周波数間隔で複数の波長の光信号が並んだ光周波数コム信号(λ1、λ2、λ3、…、λ、…、λ、…)を発生する。次に、光分波器4は、光周波数コム信号発生器3により発生された光周波数コム信号を第1及び第2の分波光周波数コム信号の2つに分波する。この光分波器4の分波比(分岐比)は、分波後の各光路の損失に応じて設定する。次に、光合波器5は、マイクロ波/光変換器2から出力された変調光と光分波器4により分波された第1の分波光周波数コム信号とを合波する。
【0029】
マイクロ波/光変換器2から出力された、伝送したいマイクロ波信号が重畳された変調光は、光合波器5及び光サーキュレータ6を経て可変ディレイライン7へ進み、光ファイバ8を介して伝送され、部分反射器9を透過して光/マイクロ波変換器10によりマイクロ波信号に復調され、マイクロ波出力部11から伝送したいマイクロ波信号が出力される。光/マイクロ波変換器10に入力した変調光は、光/マイクロ波変換器10内のフォトダイオードにより直接検波され、光/マイクロ波変換器10に入力したマイクロ波信号が復調される。
【0030】
ここで、可変ディレイライン7は、ドライバ22から出力された駆動信号に従って、光路長を可変する。また、光ファイバ8の透過率は、例えば波長1.5ミクロン帯で0.2dB/km以下と非常に小さいため、マイクロ波/光変換器2と光/マイクロ波変換器10を離して設置しても、伝送路の伝搬損失は小さいので、マイクロ波信号の遠方への伝送に有効である。
【0031】
一方、背景技術でも述べたように、伝送路が長くなると、例えば光ファイバ8の温度変化などによる光路長の変動が大きくなるため、光路長の変動に応じて、光/マイクロ波変換器10から出力されるマイクロ波信号の位相(遅延時間)が変動する。
【0032】
部分反射器9は、可変ディレイライン7及び光ファイバ8を通った変調光と第1の分波光周波数コム信号の合波信号うち、第1の分波光周波数コム信号を反射させるものである。部分反射器9で反射せずに透過された変調光は、上述したように、光/マイクロ波変換器10でマイクロ波信号に復調され、マイクロ波出力部11から出力される。
【0033】
部分反射器9で反射された第1の分波光周波数コム信号は、光ファイバ8及び可変ディレイライン7を逆方向から進み、光サーキュレータ6の入出力ポートに入力され、光サーキュレータ6の下側の出力ポートから出力される。
【0034】
基準マイクロ波信号源12は、基準マイクロ波信号を出力し、光周波数シフタ13は、光サーキュレータ6から出力された第1の分波光周波数コム信号を、基準マイクロ波信号源12からの基準マイクロ波信号に応じて周波数をシフトして出力する。ここで、第1の分波光周波数コム信号は多数の光信号が並んでいることから、多数の光信号の各々の周波数が、図3(b)に示すように、基準マイクロ波信号の周波数相当シフトする。
【0035】
光周波数コム信号発生器3により発生された光周波数コム信号は、上述したように、光分波器4で第1及び第2の分波光周波数コム信号の2つに分波(分岐)される。光分波器4により、図1中の下側に分波された第2の分波光周波数コム信号は、光波長分波器14に入力される。
【0036】
光波長分波器14は、第2の分波光周波数コム信号の中から、制御装置21からの第2の制御信号で選択された、波長λ及びλの2成分を分波してそれぞれ異なる出力ポートから出力する。
【0037】
一方、光波長分波器15は、光周波数シフタ13により周波数シフトされた第1の分波光周波数コム信号の中から、制御装置21からの第2の制御信号で選択された、波長λ及びλの2成分を分波してそれぞれ別々の出力ポートから出力する。なお、光波長分波器15から出力される光信号の波長の表記について、正確には周波数シフトされているので、例えば、λm及びλnと異なるλm’及びλn’と表記すべきであるが、説明を簡単にする等ために、波長λ及びλと表記する。
【0038】
光波長分波器14、15から出力される各波長の帯域幅は、周波数コム間隔よりも狭いが、基準マイクロ波信号の周波数よりも広いものとする。
【0039】
ここで、光波長分波器14、15の詳細な動作について説明する。図2に示すように、光波長分波器14内のアレイ導波路グレーティング(AWG)141では、多数の波長の光信号である第2の分波光周波数コム信号(λ1、λ2、λ3、…、λ、…、λ、…)を入力し、波長毎に異なる出力ポートから分離出力する。次に、光スイッチ142は、アレイ導波路グレーティング141からの各波長(λ1、λ2、λ3、…、λ、…、λ、…)の光信号を複数の入力ポートから入力し、その中から制御装置21からの第2の制御信号に従い、選択された2つの入力ポートより入力された波長の光信号(λ、λ)をそれぞれ別々の出力ポートから出力する。また、光波長分波器15についても同様である。
【0040】
光カプラ16は、光波長分波器14から出力された第2の分波光周波数コム信号の中の波長λの光信号と、光波長分波器15から出力され周波数シフトされた第1の分波光周波数コム信号の中の波長λの光信号とを合波する。
【0041】
同様に、光カプラ17は、光波長分波器14から出力された第2の分波光周波数コム信号の中の波長λの光信号と、光波長分波器15から出力され周波数シフトされた第1の分波光周波数コム信号の中の波長λの光信号とを合波する。
【0042】
光/マイクロ波変換器18は、光カプラ16から出力された合波信号を光電変換してマイクロ波信号を出力する。同様に、光/マイクロ波変換器19は、光カプラ17から出力された合波信号を光電変換してマイクロ波信号を出力する。
【0043】
各光/マイクロ波変換器18、19は、基準マイクロ波信号の周波数と同じ周波数のマイクロ波信号を出力する。また、各光/マイクロ波変換器18、19から出力されるマイクロ波信号の位相差は、光分波器4で分岐する2つの光路の間の位相差となるが、ここで、各光/マイクロ波変換器18、19への合波信号の波長はλ、λと異なるため、光電変換されたマイクロ波信号の位相差もこれらの波長に応じて異なる値となる。
【0044】
光/マイクロ波変換器18へ入力される波長λの光信号は、周波数が基準マイクロ波信号の周波数相当オフセットされた光信号と、周波数相当オフセットされていない光信号であるので、光/マイクロ波変換器18からは、2つの光信号のビート成分、つまり、基準マイクロ波信号の周波数相当のビート周波数を持つマイクロ波信号が出力される。
【0045】
同様に、光/マイクロ波変換器19へ入力される波長λの光信号は、光波長分波器14から出力された第2の分波光周波数コム信号の中の波長λの光信号と、光波長分波器15から出力され周波数シフトされた第1の分波光周波数コム信号の中の波長λの光信号とであるので、光/マイクロ波変換器19からは、2つの光信号のビート成分、つまり、基準マイクロ波信号の周波数相当のビート周波数を持つマイクロ波信号が出力される。
【0046】
ここで、光/マイクロ波変換器18から出力される波長λの光信号の位相は、光分波器4から光合波器5、光サーキュレータ6、可変ディレイライン7及び光ファイバ8を経由して部分反射器9で反射し、光ファイバ8及び可変ディレイライン7を戻り、光サーキュレータ6で光路が切り替わり、光周波数シフタ13及び光波長分波器15を経由して光カプラ16までの光路と、光分波器4から光波長分波器14を経由して光カプラ16までの光路との光路長差(ΔLとおく)となり、光信号の波長λで変化する。
【0047】
同様に、光/マイクロ波変換器19から出力される波長λの光信号の位相は、光信号の波長λで変化する。
【0048】
従って、光/マイクロ波変換器18と光/マイクロ波変換器19から出力されるマイクロ波信号の位相差Δφは、次の式(1)で表すことができる。
【0049】
Δφ/(2π)=ΔL・N/c・Δf (1)
【0050】
ここで、ΔLは光路長差、Nは光ファイバ8の屈折率、cは光速、Δfは波長λの光信号の周波数(c/λ)と波長λの光波の周波数(c/λ)の周波数差である。
【0051】
よって、光路長差ΔLは、次の式(2)で表すことができる。
【0052】
ΔL=Δφ/(2π)・c/N・1/Δf (2)
【0053】
ここで、周波数差Δfを所定の値(予め解っている値)とおくと、位相差Δφの測定値より光路長差ΔLを求めることができる。
【0054】
位相差Δφを2π以下とすると、測定可能な光路長差の最大値ΔLmaxは、次の式(3)で表すことができる。
【0055】
ΔLmax<c/N・1/Δf (3)
【0056】
従って、波長λとλによる周波数差Δfが小さいときは、光路長差ΔLは長く、周波数差Δfが大きいときには、光路長差ΔLは短くなる。このΔLが位相差Δφの測定値に対する光路長差となる。
【0057】
位相比較器20は、光/マイクロ波変換器18と光/マイクロ波変換器19とから出力されたマイクロ波信号の位相を比較し、それらの位相差を求めて出力する。すなわち、2つのマイクロ波信号の位相差Δφは、上記の式(1)に基づき求める。
【0058】
制御装置21は、位相比較器20により求めた位相差Δφと、第1及び第2の分波光周波数コム信号の中からそれぞれ選択する2つの波長λ、λの波長差(周波数差Δf)とから、2つの光路間の光路長差ΔLを算出することができる。すなわち、上記の式(2)に基づき光路長差ΔLを求める。この光路長差ΔLが小さくなるように、可変ディレイライン7を駆動するドライバ22への第1の制御信号を求めてドライバ22へ出力する。ドライバ22は、制御装置21からの第1の制御信号に基づき、光路長差ΔLが小さくなるように、可変ディレイライン7を駆動する駆動信号を出力する。
【0059】
次に、制御装置21は、算出した光路長差ΔLが所定の閾値より小さくなった場合には、第1及び第2の分波光周波数コム信号の中からそれぞれ選択する2つの波長を切り替え、波長差つまり周波数差Δfを大きくするように、2つの波長の選択を指示する第2の制御信号を光波長分波器14、15へそれぞれ出力する。
【0060】
これにより、2つの波長λ、λの波長差つまり周波数差Δfが小さいとき(初期状態)は、光路長差ΔLの測定分解能は低いが、測定可能範囲ΔLmaxを広くすることができる。2つの波長λ、λの波長差を順次切り替えながら大きくし、可変ディレイライン7により光路長差ΔLを小さくしていくことにより、光路長差の測定分解能を高めることができる。
【0061】
制御装置21は、上述したように、初期状態では、2つの波長λ、λの波長差つまり周波数差が小さい、光波長分波器14、15の光スイッチ142の2つの入力ポートを選択する。そして、2つの入力ポートを選択するように、第2の制御信号を光波長分波器14、15へそれぞれ出力する。その後、順次周波数差Δfを広げるように、光スイッチ142の2つの入力ポートを選択する。
【0062】
例えば、式(3)を変形した式「ΔL=c/N・1/Δf」において、周波数差Δf=100GHz、光ファイバ8の屈折率N=1.45とすると、光路長差ΔL=2.1mmが得られる。このとき、光ファイバ8の長さが2.1mmの範囲内では、位相差Δφと光ファイバ8の長さは1対1の対応関係にあるため、位相差Δφの測定値から光ファイバ8の長さの絶対値を知ることができ、所望の光ファイバ8の長さに制御することが可能となる。
【0063】
一方、従来の構成では、光波長オーダーでの位相を検波し、制御することは可能だが、それ以上の光ファイバ8の長さを制御することは困難である。しかしながら、図1の実施の形態1の構成を用いることで、2つの光信号の周波数差Δfに応じた光ファイバ8の長さを制御することが可能となり、従来と比較して制御可能な光ファイバ8の長さを増加させる効果が得られる。
【0064】
以上のように、この実施の形態1に係る光ファイバマイクロ波伝送装置は、光周波数コム信号発生器3から出力した多数の光周波数信号の中から、光波長分波器14、15により、任意の2つの光信号を選択できる。つまり、2つの光信号の周波数差Δfを選択できるので、測定可能な光路長差ΔLの範囲を広い範囲で変えることができる。これにより、光ファイバ8などによる光路長の変動量を広い範囲で測定することができる。
【0065】
さらに、測定結果(位相差Δφ)を可変ディレイライン7への駆動信号へと変換することにより、光路長の変動を補償することも可能となる。
【0066】
実施の形態2.
この発明の実施の形態2に係る光ファイバマイクロ波伝送装置について図4を参照しながら説明する。図4は、この発明の実施の形態2に係る光ファイバマイクロ波伝送装置の部分反射器の構成を示す図である。なお、この発明の実施の形態2に係る光ファイバマイクロ波伝送装置の他の構成は、上記の実施の形態1と同様である。
【0067】
図4において、部分反射器9は、光波長分波フィルタ(WDM)91と、ファラディローテータミラー(FR)(偏波回転手段)92とが設けられている。
【0068】
部分反射器9は、図4に図示した構成でも実現可能である。この場合、マイクロ波/光変換器2から出力された変調光の波長のみを透過し、それ以外は反射する光波長分波フィルタ91により、第1の分波光周波数コム信号をマイクロ波/光変換器2とは別の光路に分波する。分波された第1の分波光周波数コム信号は、入射時から偏波方向を90度回転させるファラディローテータミラー92により、反射させられ、光波長分波フィルタ91に逆側から入力する。
【0069】
このとき、光ファイバ8に戻る第1の分波光周波数コム信号(図1で右から左方向)は、進行時(図1で左から右方向)に対して、偏波方向が90度傾く。従って、光サーキュレータ6の代わりに、偏波方向によりビームの出力方向が異なる偏波ビームスプリッタ(PBS)を用いても良い。これにより、光ファイバ8中で光の偏波方向が変動しても、往復する過程で直交しているため、偏波の変動を打ち消すことができる。
【符号の説明】
【0070】
1 マイクロ波入力部、2 マイクロ波/光変換器、3 光周波数コム信号発生器、4 光分波器、5 光合波器、6 光サーキュレータ、7 可変ディレイライン、8 光ファイバ、9 部分反射器、10 光/マイクロ波変換器、11 マイクロ波出力部、12 基準マイクロ波信号源、13 光周波数シフタ、14 光波長分波器、15 光波長分波器、16 光カプラ、17 光カプラ、18 光/マイクロ波変換器、19 光/マイクロ波変換器、20 位相比較器、21 制御装置、22 ドライバ、91 光波長分波フィルタ、92 ファラディローテータミラー、141 アレイ導波路グレーティング、142 光スイッチ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力される第1のマイクロ波信号により強度変調された変調光を出力する電気/光変換手段と、
所定の周波数間隔で複数の光信号が並らんだ光周波数コム信号を発生する光周波数コム信号発生手段と、
前記光周波数コム信号発生手段により発生された光周波数コム信号を第1及び第2の分波光周波数コム信号に分波する光分波手段と、
前記変調光及び前記第1の分波光周波数コム信号を合波して第1の合波信号を出力する第1の光合波手段と、
前記第1の光合波手段の出力側に接続された入力ポートから入力される前記第1の合波信号を入出力ポートへ伝達するとともに、前記入出力ポートから入力される前記第1の分波光周波数コム信号を出力ポートへ伝達する光伝達手段と、
前記光伝達手段の入出力ポートに一端が接続され、第1の制御信号に基づいて、光路の長さを可変する光路長可変手段と、
前記光路長可変手段の他端から出力された前記第1の合波信号を伝送する光ファイバと、
前記光ファイバにより伝送された第1の合波信号のうち、前記変調光を透過させるとともに、前記第1の分波光周波数コム信号を反射する部分反射手段と、
前記部分反射手段を透過してきた前記変調光を復調して前記第1のマイクロ波信号を出力する第1の光/電気変換手段と、
基準マイクロ波信号を出力する基準マイクロ波信号源と、
前記基準マイクロ波信号に応じて、前記部分反射手段により反射され、前記光ファイバ及び前記可変遅延手段を経て、前記光伝達手段の出力ポートから出力された前記第1の分波光周波数コム信号の周波数を偏移する光周波数偏移手段と、
第2の制御信号に基づいて、前記光分波手段により分波された第2の分波光周波数コム信号の中から第1及び第2の波長の光信号を分波する第1の光波長分波手段と、
前記第2の制御信号に基づいて、前記光周波数偏移手段により周波数偏移された第1の分波光周波数コム信号の中から第3及び第4の波長の光信号を分波する第2の光波長分波手段と、
前記第1の波長分波手段から出力された第1の波長の光信号及び前記第2の波長分波手段から出力された第3の波長の光信号を合波して第2の合波信号を出力する第2の光合波手段と、
前記第1の波長分波手段から出力された第2の波長の光信号及び前記第2の波長分波手段から出力された第4の波長の光信号を合波して第3の合波信号を出力する第3の光合波手段と、
前記第2の合波信号を光電変換して第2のマイクロ波信号を出力する第1の光電変換手段と、
前記第3の合波信号を光電変換して第3のマイクロ波信号を出力する第2の光電変換手段と、
前記第2及び第3のマイクロ波信号の位相を比較し位相差を求めて出力する位相比較手段と、
前記位相差と前記第1及び第2の分波光周波数コム信号の中からそれぞれ選択する2つの波長の波長差である周波数差とに基づいて、前記光分波手段から前記第2の光合波手段まで、又は前記光分波手段から前記第3の光合波手段までの前記第1及び第2の分波光周波数コム信号が通過する2つの光路間の光路長差を算出し、この光路長差が小さくなるように、前記第1の制御信号を前記光路長可変手段へ出力するとともに、算出した光路長差が所定の閾値より小さくなった場合には、前記第1及び第2の分波光周波数コム信号の中からそれぞれ選択する光信号の2つの波長を切り替え、前記周波数差を大きくするように、2つの波長の選択を指示する前記第2の制御信号を前記第1及び第2の光波長分波手段へそれぞれ出力する制御手段と
を備えたことを特徴とする光ファイバマイクロ波伝送装置。
【請求項2】
前記第1及び第2の波長分波手段は、
前記第1又は第2の分波光周波数コム信号を入力して波長毎に異なる出力ポートから分離出力する光信号波長分離手段と、
前記光信号波長分離手段により分離された各波長の光信号を複数の入力ポートから入力し、その中から前記第2の制御信号に従い選択された2つの入力ポートから入力された波長の光信号をそれぞれ別々の出力ポートから出力する光スイッチとから構成される
ことを特徴とする請求項1記載の光ファイバマイクロ波伝送装置。
【請求項3】
前記部分反射手段は、
前記光ファイバにより伝送された第1の合波信号のうち、前記変調光の波長のみを透過させるとともに、前記第1の分波光周波数コム信号を前記光ファイバとは別の光路に分波する光波長分波フィルタと、
分波された第1の分波光周波数コム信号の偏波方向を90度回転させて反射し、前記光ファイバとは反対側から前記光波長分波手段へ前記第1の分波光周波数コム信号を戻す偏波回転手段とから構成され、
前記光伝達手段の代わりに、偏光ビームスプリッタを用いる
ことを特徴とする請求項1又は2記載の光ファイバマイクロ波伝送装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−34182(P2012−34182A)
【公開日】平成24年2月16日(2012.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−171862(P2010−171862)
【出願日】平成22年7月30日(2010.7.30)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】