説明

光ファイバー及びその製造方法

【課題】透明性に優れ、かつ可撓性に富むトリクロロエチルメタクリレートをコア部モノマーの主成分とする高速通信可能な光ファイバーを提供することを目的とする。
【解決手段】コア部及び該コア部の外周に配置されたクラッド部からなる光ファイバーであって、前記コア部が、トリクロロエチルメタクリレート(TCEMA)70重量%以上を含むモノマーの重合体を主たる構成成分としてなり、前記クラッド部が、メチルメタクリレート(MMA)20重量%以上を含むモノマーの重合体を主たる構成成分としてなる光ファイバー及びコア部及び該コア部の外周に配置されたクラッド部からなる光ファイバーであって、前記コア部が、TCEMA70重量%以上を含むモノマーの重合体を主たる構成成分としてなり、前記クラッド部の外周がポリカーボネートを主成分とするプラスチックで被覆されている光ファイバー。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光ファイバー及びその製造方法に関し、より詳細には、高い透明性を有するトリクロロエチルメタクリレート(TCEMA)を主成分とするモノマーの重合体をコア部とする光ファイバー及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、ポリメチルメタクリレートなどのメタクリル系樹脂をコア部とした光ファイバーが知られている。このようなプラスチック製の光ファイバーは、良好な可撓性を有し、軽量で、加工性がよく、口径の大きいファイバーとして製造しやすく、低コストで製造可能であるという種々の長所を有する。
【0003】
一般に、近赤外〜赤外域(600〜1550nm)で光吸収を起こす炭素−水素結合が少ないハロゲン含有アルキル(メタ)アクリレート樹脂は、理論的には透明性に優れるはずである。
例えば、波長650nmにおけるポリメタクリル酸メチルの炭素−水素結合による吸収損失は96dB/kmと見積もられているのに対し、ポリメチルα−クロロアクリレートの炭素−水素結合の吸収損失は62dB/kmと見積もられている。そして、コア部重合体を構成する成分として、メチルα−クロロアクリレートを主成分とし、ハロゲン含有アルキル(メタ)アクリレートを一成分として含有し、コア部よりも屈折率が低い重合体をクラッド部とすることにより、耐熱性及び耐湿性等が良好なプラスチック光ファイバーを得ることが提案されている(例えば、特許文献1)。
【0004】
また、ポリトリクロロエチルメタクリレートの炭素−水素結合の吸収損失は49dB/kmと見積もられている。
しかし、実際に、コア部およびクラッド部共に、ポリトリクロロエチルメタクリレートを主成分として光ファイバーを構成すると、可撓性が極端に悪くなり、通信用途に使用することができないという課題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭62−147404号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上記課題に鑑みなされたものであり、透明性に優れ、かつ可撓性に富むトリクロロエチルメタクリレートをコア部モノマーの主成分とする高速通信可能な光ファイバーを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の光ファイバー及びその製造方法として、以下の発明を含む。
(1)コア部及び該コア部の外周に配置されたクラッド部からなる光ファイバーであって、
前記コア部が、トリクロロエチルメタクリレート(TCEMA)70重量%以上を含むモノマーの重合体を主たる構成成分としてなり、
前記クラッド部が、メチルメタクリレート(MMA)20重量%以上を含むモノマーの重合体を主たる構成成分としてなることを特徴とする光ファイバー。
(2)コア部が、TCEMAと、MMA、メチルアクリレート(MA)、Nシクロヘキシルマレイミド(N−cHMI)、シクロヘキシルアクリレート(cHA)、トリクロロエチルアクリレート(TCEA)、イソボルニルアクリレート(iBoA)、及びシクロヘキシルメタクリレート(cHMA)よりなる群より選ばれた少なくとも1種を含むモノマーとを構成単位とする重合体を主たる構成成分としてなる(1)の光ファイバー。
(3)クラッド部が、MMAと、TCEMA、MA、N−cHMI、cHA、TCEA、iBoA及びcHMAよりなる群より選ばれた少なくとも1種を含むモノマーとを構成単位とする重合体を主たる構成成分としてなる(1)又は(2)の光ファイバー。
(4)コア部及び該コア部の外周に配置されたクラッド部からなる光ファイバーであって、
前記コア部が、TCEMA70重量%以上を含むモノマーの重合体を主たる構成成分としてなり、
前記クラッド部の外周がポリカーボネートを主成分とするプラスチックで被覆されていることを特徴とする光ファイバー。
(5)コア部が、TCEMAと、MMA、MA、N−cHMI、cHA、TCEA、iBoA及びcHMAよりなる群より選ばれた少なくとも1種を含むモノマーとを構成単位とする重合体を主たる構成成分としてなる(4)の光ファイバー。
(6)クラッド部が、TCEMA50重量%以上と、MMA、MA、N−cHMI、cHA、TCEA、iBoA及びcHMAよりなる群より選ばれた少なくとも1種を含むモノマー50重量%以下とを構成単位とする重合体を主たる構成成分としてなる(4)又は(5)の光ファイバー。
(7)コア部にドーパントを含み、屈折率分布を有する(1)〜(6)の光ファイバー。
(8)ドーパントが、ジフェニルスルフィド(DPS)、トリフェニルホスフェート(TPP)、ジフェニルスルホン(DPSO)、トリス−2−エチルヘキシルホスフェート(TOP)よりなる群より選ばれた少なくとも1種である(7)の光ファイバー。
(9)コア部及び該コア部の外周に配置されたクラッド部からなり、前記コア部が、TCEMAと、MA、N−cHMI、cHA、TCEA、iBoA及びcHMAよりなる群より選ばれた少なくとも1種を含むモノマーとを構成単位とし、前記TCEMAを主成分とする重合体を主たる構成成分としてなる光ファイバーの製造方法であって、溶融押出ドーパント拡散法によって、少なくともコア部に屈折率分布を付与することを特徴とする光ファイバーの製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、透明性に優れ、かつ可撓性に富み、高速通信可能な光ファイバーを得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の光ファイバーは、コア部及びコア部の外周に配置されたクラッド部とから構成される。ただし、本明細書においては、クラッド部の外周を被覆する被覆層を含めて光ファイバーということもある。
本発明では、コア部及びクラッド部とは、それぞれ、光ファイバーにおける光学的な意味でのコア及びクラッドに捉われず、コアを構成する主成分となる重合体により構成される層をコア部といい、クラッドを構成する主成分となる重合体により構成される層をクラッド部という。
光ファイバーは、通常、マルチモード光ファイバーと、シングルモード光ファイバーとに分類されるが、本発明の光ファイバーは、特に、マルチモード光ファイバーに有利である。
【0010】
さらにマルチモード光ファイバーは、ステップインデックス(SI)型と屈折率分布を有するグレーデッドインデックス(GI)型とに分類されるが、本発明の光ファイバーは、GI型であることが好ましい。ここで、屈折率分布とは、ファイバーの中心から半径方向に向かって屈折率が放物線に近い曲線で又は一定幅で段階的に変化することを意味する。なかでも、中心から半径方向に向かって屈折率が低下しているものが好ましい。このような屈折率分布をもたせることにより、通信速度を向上させることができる。
【0011】
また、ファイバーの中心から半径方向に向って、一旦屈折率が曲線的又は段階的に低下した後、曲線的又は段階的に増加してもよい。この場合、コア部とクラッド部の最外層とでは、コア部の方が、屈折率がより高いことが好ましいが、クラッド部の最外層がコア部よりも屈折率が高くなってもよい。
【0012】
本発明の光ファイバーの一形態として、特定成分で構成されたコア部及び特定成分で構成されたクラッド部を有する光ファイバーが挙げられる。
このような光ファイバーにおいては、コア部を形成する重合体は、主成分としてトリクロロエチルメタクリレート(以下、「TCEMA」と記す場合がある)を含んで形成されていることが適している。特に、TCEMAと、任意成分としてメチルメタクリレート(以下、「MMA」と記す場合がある)、メチルアクリレート(以下、「MA」と記す場合がある)、Nシクロヘキシルマレイミド(以下、「N−cHMI」と記す場合がある)、シクロヘキシルアクリレート(以下、「cHA」と記す場合がある)、トリクロロエチルアクリレート(以下、「TCEA」と記す場合がある)、イソボルニルアクリレート(以下、「iBoA」と記す場合がある)及びシクロヘキシルメタクリレート(以下、「cHMA」と記す場合がある)から選択される少なくとも1種のモノマーとを含んで形成されるものが好ましい。ここで、「主成分」とは、重合体を得る場合に用いる全モノマー中で最も多重量の成分を意味する。
【0013】
コア部は、重合体を構成する全モノマーにおいてTCEMAが70重量%以上用いられた重合体を主たる構成成分として形成することが適している。ここで、「主たる構成成分」とは、コア部を構成する全成分において最も多重量の成分を指し、主たる構成成分の他に、他の重合体、後述するドーパント、添加剤等を含んでいてもよいことを意味する。
TCEMA70重量%以上を含むモノマー由来の重合体は、TCEMAのみ用いられた重合体であってもよいし、全モノマーにおいてTCEMAが95重量%以下で用いられた重合体であってもよい。特に、コア部におけるTCEMAは、全モノマーにおいて80〜95重量%、80〜100重量%、さらに100重量%で含有されることが好ましい。
TCEMAを70重量%以上の割合で用いた重合体を、主たる構成成分としてコア部を形成する場合には、透明性に優れ、通信距離を伸ばすことができるからである。
【0014】
任意成分であるMMAを用いる場合には、MMAは30重量%以下で用いることが適している。この範囲とする場合には、コア部の屈折率を適度に調節することができ、透明性、可撓性を維持しながら通信速度を向上させることができる。特に、コア部におけるMMAは、全モノマーにおいて20重量%以下で含有されていることが好ましい。
【0015】
任意性分であるMAを用いる場合には、MAは10重量%以下で用いることが適している。この範囲とする場合には、コア部の屈折率を適度に調節することができ、透明性、可撓性を維持しながら通信速度を向上させることができる。特に、コア部におけるMAは、全モノマーにおいて8重量%以下で含有されていることが好ましい。
任意成分であるN−cHMIを用いる場合には、N−cHMIを20重量%以下で用いることが適している。この範囲とする場合には、コア部のガラス転移温度を上げることができ、透明性、可撓性を維持しながら耐熱性に優れた光ファイバーとして使用することができる。特に、コア部におけるN−cHMIは、全モノマーにおいて15重量%以下で含有されていることが好ましい。
任意成分であるcHAを用いる場合には、cHAを10重量%以下で用いることが適している。この範囲とする場合には、透明性、可撓性に優れた光ファイバーとして使用することができる。特に、コア部におけるcHAは、全モノマーにおいて8重量%以下で含有されていることが好ましい。
【0016】
任意成分であるTCEAを用いる場合には、TCEAを10重量%以下で用いることが適している。この範囲とする場合には、透明性、可撓性に優れた光ファイバーとして使用することができる。特に、コア部におけるTCEAは、全モノマーにおいて8重量%以下で含有されていることが好ましい。
任意成分であるiBoAを用いる場合には、iBoAを10重量%以下で用いることが適している。この範囲とする場合には、コア部のガラス転移温度を上げることができ、透明性、可撓性を維持しながら耐熱性に優れた光ファイバーとして使用することができる。特に、コア部におけるiBoAは、全モノマーにおいて8重量%以下で含有されていることが好ましい。
任意成分であるcHMAを用いる場合には、cHMAを10重量%以下で用いることが適している。この範囲とする場合には、透明性、可撓性に優れた光ファイバーとして使用することができる。特に、コア部におけるcHMAは、全モノマーにおいて8重量%以下で含有されていることが好ましい。
【0017】
任意成分であるMMA、MA、N−cHMI、cHA、TCEA、iBoA及びcHMAから選択される少なくとも2種を含むモノマーを用いる場合には、これらの総量が、全モノマーにおいて30重量%以下で用いることが適しており、20重量%以下で用いることが好ましい。
コア部は、重合体成分としては、実質的にTCEMAが70重量%以上用いられた重合体のみで形成されることが好ましい。
【0018】
クラッド部を形成する重合体は、MMAを含んで形成されていることが適している。特に、MMAと、任意成分としてTCEMA、MA、N−cHMI、cHA、TCEA、iBoA及びcHMAから選択される少なくとも1種のモノマーとを含んで形成されているものが適しており、MMAとこれら任意成分とを由来とする重合体を主たる構成成分とするものが好ましい。ここで、主たる構成成分とは、クラッド部を構成する全成分において最も多重量の成分を指し、主たる構成成分の他に、他の重合体、後述するドーパント、添加剤等を含んでいてもよいことを意味する。
クラッド部は、MMAを、全モノマーにおいて20重量%以上用いた重合体によって形成することが適している。クラッド部は、MMAのみ用いられた重合体によって形成されていてもよいし、全モノマーにおいてMMAが95重量%以下で用いられた重合体によって形成されていてもよい。特に、クラッド部におけるMMAは、全モノマーにおいて30〜95重量%、30〜100重量%で含有されることが好ましい。
MMAを20重量%以上の割合で用いた重合体を、主たる構成成分としてクラッド部を形成する場合には、可撓性に優れ、コア部よりも屈折率を適度に低減させることができ、曲げ損失を抑え、かつ通信速度を向上させることができる。
【0019】
任意成分であるTCEMAを用いる場合には、TCEMAは80重量%以下で用いることが適している。この範囲とする場合には、クラッド部の屈折率を適度に調節することができると同時に、ガラス転移温度を上げることができ、透明性、可撓性を維持しながら高速通信性、耐熱性に優れた光ファイバーとして使用することができる。特に、クラッド部におけるTCEMAは、全モノマーにおいて70重量%以下で含有されていることが好ましい。
任意性分であるMAを用いる場合には、MAは10重量%以下で用いることが適している。この範囲とする場合には、クラッド部の屈折率を適度に調節することができ、透明性、可撓性を維持しながら高速通信性に優れた光ファイバーとして使用することができる。特に、クラッド部におけるMAは、全モノマーにおいて8重量%以下で含有されていることが好ましい。
任意成分であるN−cHMIを用いる場合には、N−cHMIを20重量%以下で用いることが適している。この範囲とする場合には、クラッド部の屈折率を適度に調節することができると同時に、クラッド部のガラス転移温度を上げることができ、透明性、可撓性を維持しながら高速通信性、耐熱性に優れた光ファイバーとして使用することができる。特に、クラッド部におけるN−cHMIは、全モノマーにおいて15重量%以下で含有されていることが好ましい。
【0020】
任意性分であるcHAを用いる場合には、cHAは10重量%以下で用いることが適している。この範囲とする場合には、クラッド部の屈折率を適度に調節することができ、透明性、可撓性を維持しながら高速通信性に優れた光ファイバーとして使用することができる。特に、クラッド部におけるcHAは、全モノマーにおいて8重量%以下で含有されていることが好ましい。
任意性分であるTCEAを用いる場合には、TCEAは10重量%以下で用いることが適している。この範囲とする場合には、クラッド部の屈折率を適度に調節することができ、透明性、可撓性を維持しながら高速通信性に優れた光ファイバーとして使用することができる。特に、クラッド部におけるTCEAは、全モノマーにおいて8重量%以下で含有されていることが好ましい。
任意成分であるiBoAを用いる場合には、iBoAを10重量%以下で用いることが適している。この範囲とする場合には、クラッド部の屈折率を適度に調節することができると同時に、クラッド部のガラス転移温度を上げることができ、透明性、可撓性を維持しながら高速通信性、耐熱性に優れた光ファイバーとして使用することができる。特に、クラッド部におけるiBoAは、全モノマーにおいて8重量%以下で含有されていることが好ましい。
任意性分であるcHMAを用いる場合には、cHMAは10重量%以下で用いることが適している。この範囲とする場合には、クラッド部の屈折率を適度に調節することができ、透明性、可撓性を維持しながら高速通信性に優れた光ファイバーとして使用することができる。特に、クラッド部におけるcHMAは、全モノマーにおいて8重量%以下で含有されていることが好ましい。
【0021】
任意成分であるTCEMA、MA、N−cHMI、cHA、TCEA、iBoA及びcHMAから選択される少なくとも2種を含むモノマーを用いる場合には、これらの総量が、全モノマーにおいて80重量%以下で用いることが適している。
クラッド部は、重合体成分としては、MMAと、任意成分としてTCEMA、MA、N−cHMI、cHA、TCEA、iBoA及びcHMAから選択される少なくとも1種のモノマーによって形成された重合体のみで形成されることが好ましい。
なお、コア部及びクラッド部を構成する構成成分は、同一組成、つまり、構成モノマー種及びその割合が同一であってもよいが、異なる組成であることが好ましい。
【0022】
本発明の光ファイバーの別の形態として、特定成分で構成されたコア部及びクラッド部の外周を被覆するプラスチックの被覆材(以下、「オーバークラッド材」と記すことがある)を有する光ファイバーが挙げられる。
このような光ファイバーにおいては、コア部を形成する重合体は、主成分としてTCEMAを含んで形成されることが適している特に、TCEMAと、任意成分としてMMA、MA、N−cHMI、cHA、TCEA、iBoA及びcHMAから選択される少なくとも1種のモノマーとを含んで形成されているものが好ましい。
クラッド部の外周を被覆するプラスチックの被覆材は、ポリカーボネートを主成分とするプラスチックで形成されているものが好ましい。
【0023】
コア部は、重合体を構成する全モノマーにおいてTCEMAが70重量%以上用いられた重合体を主たる構成成分として形成することが適している。ここで、主たる構成成分とは、コア部を構成する重合体において最も多重量の成分を意味し、主たる構成成分の他に、他の重合体、後述するドーパント、添加剤等を含んでいてもよいことを意味する。
TCEMA70重量%以上を含むモノマー由来の重合体は、TCEMAのみ用いられた重合体であってもよいし、全モノマーにおいてTCEMAが95重量%以下で用いられた重合体であってもよい。特に、コア部におけるTCEMAは、全モノマーにおいて80〜95重量%、80〜100重量%、さらに100重量%で含有されることが好ましい。
TCEMAを70重量%以上の割合で用いた重合体を、主たる構成成分としてコア部を形成する場合には、透明性に優れ、通信距離を伸ばすことができるからである。
【0024】
任意成分であるMMAを用いる場合には、MMAは30重量%以下で用いることが適している。この範囲とする場合には、コア部の屈折率を適度に調節することができ、透明性、可撓性を維持しながら通信速度を向上させることができる。特に、コア部におけるMMAは、全モノマーにおいて20重量%以下で含有されていることが好ましい。
任意性分であるMAを用いる場合には、MAは10重量%以下で用いることが適している。この範囲とする場合には、コア部の屈折率を適度に調節することができ、透明性、可撓性を維持しながら通信速度を向上させることができる。特に、コア部におけるMAは、全モノマーにおいて8重量%以下で含有されていることが好ましい。
任意成分であるN−cHMIを用いる場合には、N−cHMIを20重量%以下で用いることが適している。この範囲とする場合には、コア部のガラス転移温度を上げることができ、透明性、可撓性を維持しながら耐熱性に優れた光ファイバーとして使用することができる。特に、コア部におけるN−cHMIは、全モノマーにおいて15重量%以下で含有されていることが好ましい。
任意成分であるcHAを用いる場合には、cHAを10重量%以下で用いることが適している。この範囲とする場合には、透明性、可撓性に優れた光ファイバーとして使用することができる。特に、コア部におけるcHAは、全モノマーにおいて8重量%以下で含有されていることが好ましい。
【0025】
任意成分であるTCEAを用いる場合には、TCEAを10重量%以下で用いることが適している。この範囲とする場合には、透明性、可撓性に優れた光ファイバーとして使用することができる。特に、コア部におけるTCEAは、全モノマーにおいて8重量%以下で含有されていることが好ましい。
任意成分であるiBoAを用いる場合には、iBoAを10重量%以下で用いることが適している。この範囲とする場合には、コア部のガラス転移温度を上げることができ、透明性、可撓性を維持しながら耐熱性に優れた光ファイバーとして使用することができる。特に、コア部におけるiBoAは、全モノマーにおいて8重量%以下で含有されていることが好ましい。
任意成分であるcHMAを用いる場合には、cHMAを10重量%以下で用いることが適している。この範囲とする場合には、透明性、可撓性に優れた光ファイバーとして使用することができる。特に、コア部におけるcHMAは、全モノマーにおいて8重量%以下で含有されていることが好ましい。
【0026】
任意成分であるMMA、MA、N−cHMI、cHA、TCEA、iBoA及びcHMAから選択される少なくとも2種を含むモノマーを用いる場合には、これらの総量が、全モノマーにおいて30重量%以下で用いることが適しており、20重量%以下で用いることが好ましい。
コア部は、重合体成分としては、実質的にTCEMAが70重量%以上用いられた重合体のみで形成されることが好ましい。
【0027】
クラッド部は、TCEMA50〜100重量%を用いた重合体によって形成することが適している。特に、クラッド部におけるTCEMAは、全モノマーにおいて50〜90重量%、60〜100重量%、60〜90重量%で含有されることが好ましい。任意成分を用いる場合には、MMA0〜50重量%、好ましくは0〜40重量%、MA0〜10重量%、好ましくは0〜8重量%、N−cHMI0〜20重量%、好ましくは0〜15重量%、cHA0〜10重量%、好ましくは0〜8重量%、TCEA0〜10重量%、好ましくは0〜8重量%、iBoA0〜10重量%、好ましくは0〜8重量%、cHMA0〜10重量%、好ましくは0〜8重量%の少なくとも1種のモノマーを用いることが好ましい。任意成分であるMMA、MA、N−cHMI、cHA、TCEA、iBoA及びcHMAから選択される少なくとも2種を含むモノマーを用いる場合には、これらの総量が、全モノマーにおいて50重量%以下で用いることが適している。
この範囲とすることにより、透明性を維持しながら高速通信性、耐熱性に優れた光ファイバーとして使用することができる。
なお、クラッド部は、上述した特定成分で構成されたコア部及び特定成分で構成されたクラッド部を有する光ファイバーにおけるクラッド部と同様の組成を有していてもよい。
また、この光ファイバーにおいても、コア部及びクラッド部を構成する構成成分は、同一組成、つまり、構成モノマー種及びその割合が同一であってもよいが、異なる組成であることが好ましい。
【0028】
クラッド部の外周を被覆するプラスチックの被覆材は、機械強度特性に優れ、且つクラッド部と十分な密着性が得られるものであれば、どのようなもので形成してもよいが、特に、クラッド部の外周をポリカーボネートで被覆することにより、透明性、耐熱性を維持しながら可撓性に優れた光ファイバーとして使用することができる。この被覆材は、ポリカーボネートを主成分とするプラスチックで形成されていることが適しており、耐薬品性、流動性に優れる点で、ポリエステルと複合された変性ポリカーボネートが好ましい。被覆材による被覆層の厚みは、特に限定されないが、50μm以上500μm以下が適している。この範囲とすることにより、可撓性に優れ、且つ柔軟性等の光ファイバーに必要な物性を満足できる。
【0029】
本発明の光ファイバーにおいて、コア部はドーパントを含んでなることが好ましい。ドーパントを含有させることにより、光ファイバーにおけるコア部の屈折率を変化させ、屈折率分布をもたせることができる。なかでも、中心から半径方向に向かって屈折率が低下しているものが好ましい。このような屈折率分布をもたせることにより、通信速度を向上させることができる。特に、屈折率分布をもたせるために、コア部においてドーパントの濃度分布を調整することが有効である。なお、クラッド部には、ドーパントが含有されていてもよい。
【0030】
ドーパントは、コア部及び/又はクラッド部の主たる構成成分である重合体と相溶性があり、これら重合体の屈折率よりも高い又は低い屈折率をもつ化合物であることが適している。相溶性の良好な化合物を用いることにより、コア部の濁りを生じさせず、散乱損失を極力抑え、通信できる距離を増大させることができる。
高い屈折率をもつ化合物をドーパントとする場合は、中心から半径方向に向かってドーパント濃度が低下するように濃度分布を調整することにより、中心から半径方向に向かって屈折率が低下する屈折率分布をもたせることができる。
低い屈折率をもつ化合物をドーパントとする場合は、中心から半径方向に向かってドーパント濃度が上昇するように濃度分布を調整することにより、中心から半径方向に向かって屈折率が低下する屈折率分布をもたせることができる。
また、ドーパントを配合する際に、二種類以上の屈折率の異なる化合物を配合してもよい。この二種類以上の化合物の中に、コア部及び/又はクラッド部の主たる構成成分である重合体の屈折率と比較して、高屈折率の化合物及び低屈折率の化合物が含まれることが好ましい。このような高屈折率の化合物及び低屈折率の化合物を併用することにより、高屈折率の化合物のみ又は低屈折率の化合物のみを配合した場合と比較して、これと同じ屈折率差を得るために配合させるドーパントの添加量を相対的に少なくすることができる。このため、ガラス転移点が相対的に高くなり、これによって得られる光ファイバーの耐熱性を向上させることができる。
【0031】
ドーパントの候補としては、低分子化合物又はこれら化合物中に存在する水素原子を重水素原子に置換した化合物等が挙げられる。高い屈折率をもつ低分子化合物としては、ジフェニルスルホン(DPSO)及びジフェニルスルホン誘導体(例えば、4,4'−ジクロロジフェニルスルホン、3,3',4,4'−テトラクロロジフェニルスルホン等の塩化ジフェニルスルホン)、ジフェニルスルフィド(DPS)、ジフェニルスルホキシド、ジベンゾチオフェン、ジチアン誘導体等の硫黄化合物;トリフェニルホスフェート(TPP)、リン酸トリクレジル等のリン酸化合物;安息香酸ベンジル;フタル酸ベンジルn−ブチル;フタル酸ジフェニル;ビフェニル;ジフェニルメタン等が挙げられる。低い屈折率をもつ低分子化合物としては、トリス−2−エチルヘキシルホスフェート(TOP)等が挙げられる。これらは、単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0032】
特に、DPSO、DPS、TPP、TOPが好ましい。DPSO、DPSの屈折率は1.63、TPPの屈折率は1.563と高く、TOPの屈折率は1.442と低く、かつ、TCEMAを主成分とするモノマーの重合体を主たる構成成分とするコア部との相溶性に優れるので、透明性、耐熱性を維持しながら通信速度を向上させることができる。
また、DPS、TPP、TOPがより好ましい。DPSは光ファイバー製造時の熱負荷によるTCEMAを主成分とするモノマーの重合体の熱分解を抑制する効果があり、TPP、TOPは熱負荷により脱離した塩酸を捕捉することができる。
後述の溶融押出ドーパント拡散法で製造する場合、押出に用いるコア部材に高屈折率ドーパントを含有させる及び/又は押出に用いるクラッド部材に低屈折率ドーパントを含有させることにより、中心から半径方向に向かって屈折率が低下する屈折率分布をもたせることができる。
【0033】
コア部材に含有させるドーパント量は、コア部を構成する重合体の組成、意図する屈折率、用いるクラッド部を構成する重合体の屈折率、用いるドーパントの種類等によって適宜調整することができる。例えば、コア部を構成する重合体100重量部に対して0.1〜25重量部程度、さらに1〜20重量部程度、2〜15重量部程度などが挙げられる。また、クラッド部材に含有させるドーパント量は、クラッド部を構成する重合体の組成、意図する屈折率、用いるコア部を構成する重合体の屈折率、用いるドーパントの種類等によって適宜調整することができ、例えば、クラッド部を構成する重合体100重量部に対して0〜25重量部程度、さらに0〜20重量部程度、0〜15重量部程度などが挙げられる。特に、TOPを用いる場合には、0〜25重量部程度、好ましくは0〜20重量部程度、より好ましくは0〜15重量部程度などが挙げられる。ドーパント量をこの範囲とすることにより、コア部の屈折率分布を好適に調整することができ、光ファイバーのTgの低下を防止することができるとともに、光ファイバーの透明性、耐熱性、可撓性を維持しながら曲げ損失を抑え、かつ通信速度を向上させることができる。さらに後述の溶融押出ドーパント拡散法で光ファイバーを製造する場合、コア部材及び/又はクラッド部材の押出時の流動性を向上させることができる。
【0034】
本発明の光ファイバーのコア部及びクラッド部を構成する重合体は、当該分野で公知の方法によって製造することができる。例えば、重合体を構成するモノマーの混合物を、溶液重合、塊状重合、乳化重合又は懸濁重合等に付す方法などが挙げられる。なかでも、異物、不純物の混入を防ぐという観点から、塊状重合法が好ましい。
この際の重合温度は、特に限定されず、例えば、80〜150℃程度が適している。反応時間は、モノマーの量、種類、後述する重合開始剤、連鎖移動剤等の量、反応温度等に応じて適宜調整することができ、20〜60時間程度が適している。
これらの重合体は、後述するコア部及び/又はクラッド部を成形する際に、同時に又は連続して製造してもよい。
【0035】
コア部及び/又はクラッド部を構成する重合体は、上述したTCEMA、MMA、MA、N−cHMI、cHA、TCEA、iBoA及びcHMA以外に、他のモノマー成分を用いないことが好ましいが、得られる光ファイバーの特性を損なわない範囲で、さらに重合性モノマー等を含有していてもよい。
例えば、(メタ)アクリル酸エステル系化合物として、メタクリル酸エチル、メタクリル酸n−プロピル、メタクリル酸n−ブチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n−プロピル、アクリル酸n−ブチル、メタクリル酸ペンタフルオロフェニル、メタクリル酸トリフルオロエチル、メタクリル酸ヘキサフルオロイソプロピル、フルオロアクリル酸ヘキサフルオロイソプロピル等;スチレン系化合物として、スチレン、α−メチルスチレン、フルオロスチレン、ペンタフルオロスチレン、クロロスチレン、ブロモスチレン等;ビニルエステル類として、ビニルアセテート、ビニルベンゾエート、ビニルフェニルアセテート、ビニルクロロアセテート等;マレイミド類として、マレイミド、N−メチルマレイミド、N―n−ブチルマレイミド、N―tert−ブチルマレイミド、N―イソプロピルマレイミド、N−フェニルマレイミド等;その他、フマル酸ジシクロヘキシル、アクリロニトリル、9−ビニルカルバゾール、メタクリル酸無水物等;及びこれらモノマーの重水素置換物等が例示される。
【0036】
重合体を製造する際、重合開始剤及び/又は連鎖移動剤等の添加剤を使用することが好ましい。
重合開始剤としては、通常のラジカル開始剤が挙げられる。例えば、過酸化ベンゾイル、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサネート、ジ−t−ブチルパーオキシド、t−ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート、n−ブチル4,4,ビス(t−ブチルパーオキシ)バラレートなどのパーオキサイド系化合物;2,2'−アゾビスイソブチロニトリル、2,2'−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)、1,1'―アゾビス(シクロヘキサン−1−カルボニトリル)、2,2'−アゾビス(2−メチルプロパン)、2,2'−アゾビス(2−メチルブタン)、2,2'−アゾビス(2−メチルペンタン)、2,2'−アゾビス(2,3−ジメチルブタン)、2,2'−アゾビス(2−メチルヘキサン)、2,2'−アゾビス(2,4−ジメチルペンタン)、2,2'−アゾビス(2,3,3−トリメチルブタン)、2,2'−アゾビス(2,4,4−トリメチルペンタン)、3,3'−アゾビス(3−メチルペンタン)、3,3'−アゾビス(3−メチルヘキサン)、3,3'−アゾビス(3,4−ジメチルペンタン)、3,3'−アゾビス(3−エチルペンタン)、ジメチル−2,2'−アゾビス(2−メチルプロピオネート)、ジエチル−2,2'−アゾビス(2−メチルプロピオネート)、ジ−t−ブチル−2,2'−アゾビス(2−メチルプロピオネート)などのアゾ系化合物等が挙げられる。これらは、単独で用いてもよいし、2種類以上を併用してもよい。
重合開始剤は、全モノマーに対して0.01〜2重量%程度で用いることが適している。
【0037】
連鎖移動剤としては、特に限定されることなく、公知のものを用いることができる。例えば、アルキルメルカプタン類(n−ブチルメルカプタン、n−ペンチルメルカプタン、n−オクチルメルカプタン、n−ラウリルメルカプタン、t−ドデシルメルカプタン等)、チオフェノール類(チオフェノール、m−ブロモチオフェノール、p−ブロモチオフェノール、m−トルエンチオール、p−トルエンチオール等)等が挙げられる。なかでも、n−ブチルメルカプタン、n−オクチルメルカプタン、n−ラウリルメルカプタン、t−ドデシルメルカプタン等のアルキルメルカプタンが好適に用いられる。また、C−H結合の水素原子が重水素原子又はフッ素原子で置換された連鎖移動剤を用いてもよい。これらは、単独で用いてもよいし、2種類以上を併用してもよい。
【0038】
連鎖移動剤は、通常、成形上及び物性上、適当な分子量に調整するために用いられる。各モノマーに対する連鎖移動剤の連鎖移動定数は、例えば、ポリマーハンドブック第3版(J.BRANDRUPおよびE.H.IMMERGUT編、JOHN WILEY&SON発行)「高分子合成の実験法」(大津隆行、木下雅悦共著、化学同人、昭和47年刊)等を参考にして、実験によって求めることができる。よって、連鎖移動定数を考慮して、モノマーの種類等に応じて、適宜、その種類及び添加量を調整することが好ましい。例えば、全モノマーに対して0.01〜4重量%程度が挙げられる。
【0039】
コア部及び/又はクラッド部を構成する重合体は、重量平均分子量が、5〜30万程度の範囲のものが適しており、10〜25万程度のものが好ましい。適当な可撓性、透明性等を確保するためである。なお、コア部とクラッド部においては、例えば、粘度調整等のために、分子量が異なっていてもよい。重量平均分子量は、例えば、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)により測定されたポリスチレン換算の値を指す。
【0040】
本発明の光ファイバーを構成する重合体には、光ファイバーとしての透明性、耐熱性等の性能を損なわない範囲で、必要に応じて、配合剤、例えば、熱安定化助剤、加工助剤、耐熱向上剤、酸化防止剤、光安定剤等の添加剤を配合してもよい。これらは、それぞれ、単独又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0041】
耐熱向上剤としては、例えば、α−メチルスチレン系、N−フェニルマレイミド系等が挙げられる。
酸化防止剤としては、例えば、フェノール系抗酸化剤等が挙げられる。
光安定剤としては、例えば、ヒンダードアミン系の光安定剤等が挙げられる。
これらの配合物とモノマー又は重合体とを混合する方法は、例えば、ホットブレンド法、コールドブレンド法、溶液混合法等が挙げられる。
【0042】
本発明の光ファイバーを製造する方法としては、当該分野で公知の方法を利用することができる。
光ファイバーの製造方法の一態様としては、例えば、1層または2層以上のコア部の外周に1層または2層以上のクラッド部を形成するために、界面ゲル重合法、回転重合、溶融押出ドーパント拡散法、複合溶融紡糸およびロッドインチューブ法等を利用することができる。
本発明の光ファイバーの製造方法では、予めプリフォームを形成し、延伸、線引き等を行ってもよいし、直接ファイバーを形成してもよい。
【0043】
具体的には、2台以上の溶融押出機と2層以上の多層ダイ及び多層用紡糸ノズルを用いて、コア部及びクラッド部を形成する溶融押出法が挙げられる。
つまり、コア部及びクラッド部を構成する重合体等を、それぞれ加熱溶融させ、個々の流路から多層ダイ及び多層用紡糸ノズルへ注入する。このダイ及びノズルでコア部を押出成形すると同時に、その外周に1層又は2層以上の同心円状のクラッド部を押出し、溶着一体化させることでファイバー又はプリフォームを形成することができる。
【0044】
なお、光ファイバーにおいてGI型の屈折率分布、特に、少なくともコア部に屈折率分布をつけるには、例えば、WO93/08488号に記載されたように、モノマー組成比を一定にして、ドーパントを加えて、重合体の界面でモノマーを塊状重合させ、その反応によってドーパントの濃度分布を付与する界面ゲル重合、または、その界面ゲル重合の反応機構を回転重合法で行う回転ゲル重合法及び屈折率の異なるモノマー仕込み組成比率を漸進的に変化させ、つまり、前層の重合率を制御(重合率を低く)し、より高屈折率になる次層を重合し、クラッド部との界面から中心部まで、屈折率分布が漸進的に増加するように、回転重合を行う方法、ロッド状のコア部と中空状のクラッド部を嵌め合い、加熱処理を行うことにより、コア部外周面とクラッド部内周面を溶着一体化させると同時に、予めコア部に配合されたドーパントを周辺部方向に及び/または予めクラッドに配合されたドーパントを中心部に向かって拡散させ、ドーパントの濃度分布を付与するロッドインチューブ法などの方法が例示される。
また、2台以上の溶融押出機と2層以上の多層ダイ及び多層用紡糸ノズルを用いて、コア部及びクラッド部を形成した後、引続いて設けられた熱処理ゾーンで、予めコア部に配合されたドーパントを周辺部方向に及び/または予めクラッドに配合されたドーパントを中心部に向かって拡散させ、ドーパントの濃度分布を付与する溶融押出ドーパント拡散法、2台以上の溶融押出機にそれぞれドーパント量を変えた重合体等を導入して、多層構造でコア部および/またはクラッド部を押出成形する方法等が例示される。
【0045】
溶融押出ドーパント拡散法によりGI型光ファイバーを成形する場合、特に、コア部が、TCEMAと、MA、N−cHMI、cHA、TCEA、iBoA及びcHMAよりなる群より選ばれた少なくとも1種を含むモノマーとを構成成分とし、TCEMAを主成分とする重合体を、主たる構成成分として形成されることが適している。ここで、「TCEMAを主成分とする重合体を主たる構成成分として形成される」とは、例えば、上述したように、コア部を構成する全成分において、TCEMAを主成分とする重合体(つまり、TCEMAが全モノマー中で最も多重量の重合体)を、最も多重量の成分とすることを意味する。
【0046】
MAを用いる場合には、MAを0〜10重量%の範囲で用いることにより、押出時の熱による重合体の熱劣化を抑制し、かつ、コア部の屈折率を適度に調節することができ、透明性、可撓性を維持しながら通信速度を向上させることができる。特に、コア部におけるMAは、全モノマーにおいて2〜8重量%の範囲で含有されていることが好ましい。
N−cHMIを用いる場合には、N−cHMIを0〜20重量%の範囲で用いることにより、押出時の熱による重合体の熱劣化を抑制し、かつ、コア部のガラス転移温度を上げることができ、透明性、可撓性を維持しながら耐熱性を向上させることができる。特に、コア部におけるN−cHMIは、全モノマーにおいて2〜15重量%の範囲で含有されていることが好ましい。
cHAを用いる場合には、cHAを0〜10重量%の範囲で用いることにより、押出時の熱による重合体の熱劣化を抑制し、かつ、透明性、可撓性に優れた光ファイバーを製造することができる。特に、コア部におけるcHAは、全モノマーにおいて2〜8重量%の範囲で含有されていることが好ましい。
【0047】
TCEAを用いる場合には、TCEAを0〜10重量%の範囲で用いることにより、押出時の熱による重合体の熱劣化を抑制し、かつ、透明性、可撓性に優れた光ファイバーを製造することができる。特に、コア部におけるTCEAは、全モノマーにおいて2〜8重量%の範囲で含有されていることが好ましい。
iBoAを用いる場合には、iBoAを0〜10重量%の範囲で用いることにより、押出時の熱による重合体の熱劣化を抑制し、かつ、コア部のガラス転移温度を上げることができ、透明性、可撓性を維持しながら耐熱性を向上させることができる。特に、コア部におけるiBoAは、全モノマーにおいて2〜8重量%の範囲で含有されていることが好ましい。
cHMAを用いる場合には、cHMAを0〜10重量%の範囲で用いることにより、押出時の熱による重合体の熱劣化を抑制し、かつ、透明性、可撓性に優れた光ファイバーを製造することができる。特に、コア部におけるcHMAは、全モノマーにおいて2〜8重量%の範囲で含有されていることが好ましい。
また、任意成分であるMMAを用いる場合には、MMAは30重量%以下、好ましくは20重量%以下で用いることが適している。この範囲とする場合には、コア部の屈折率を適度に調節することができ、透明性、可撓性を維持しながら通信速度を向上させることができる。
【0048】
SI型及びマルチステップ型の屈折率分布をつける場合には、ドーパントを含まないコア部及びクラッド部を構成する重合体等を、2台以上の溶融押出機と2層以上の多層ダイ及び多層用紡糸ノズルを用いて溶融押出することが適している。
【0049】
上述した方法等によって光ファイバーのプリフォームを形成した場合、このプリフォームを溶融延伸することにより、プラスチック光ファイバーを作製することができる。延伸は、例えば、プリフォームを、加熱炉等の内部を通過させることによって加熱し、溶融させた後、延伸紡糸する方法が例示される。加熱温度は、プリフォームの材質等に応じて適宜決定することができ、例えば、180〜250℃程度が例示される。延伸条件(延伸温度等)は、得られたプリフォームの径、所望の光ファイバーの径及び用いた材料等を考慮して、適宜調整することができる。
【0050】
また、任意の段階で、熱処理を行ってもよい。この熱処理によって、ドーパントを光ファイバー又はプリフォームの周辺部又は中心部に向かって拡散させることができる。この際の条件(例えば、温度、時間、圧力、雰囲気組成等)は、任意に調節することが好ましい。
【0051】
本発明の光ファイバーは、そのままの形態で適用することができる。また、上述したように、その外周を1つ又は複数の樹脂層、繊維層、金属線等の被覆材で被覆することにより及び/又は複数のファイバーを束ねることにより、光ファイバーケーブル等の種々の用途に適用することができる。
【0052】
光ファイバーを被覆する樹脂としては、特に限定されないが、光ファイバーケーブル等に必要な、強度、難燃性、柔軟性、耐薬品性、耐熱性等を満足するものを選択することが好ましい。例えば、塩化ビニル樹脂、塩素化塩化ビニル樹脂、塩素化ポリエチレン樹脂、ポリエチレン樹脂、アクリル樹脂、フッ素樹脂、ポリカーボネート樹脂、ナイロン樹脂、ポリエステル樹脂、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体、塩ビ−エチレン−酢酸ビニル共重合体、酢酸ビニル−塩化ビニル共重合体等を主成分とするものなどが挙げられる。また、これら樹脂に上述した添加剤を添加した組成物を用いたものであってもよい。
繊維としては、例えば、アラミド繊維、ポリエステル繊維、ポリアミド繊維が挙げられる。
金属線としては、ステンレス線、亜鉛合金線、銅線などが挙げられる。
【0053】
光ファイバーの外周に樹脂を被覆する方法としては、特に限定されず、光ファイバー成形後に表層に被覆押出する方法等が挙げられる。
また、光ファイバーを用いたケーブルは、端部に接続用光プラグを用いてジャック部に確実に固定することが好ましい。プラグおよびジャックにより構成されるコネクタとしては、PN型、SMA型、SMI型、F05型、MU型、FC型、SC型などの市販の各種コネクタを利用することが可能である。また、光ファイバーを用いたケーブルの端部に接続用プラグは用いず、メディアコンバーター等の接続機器側にOptoLock(商品名、Firecomms社製)等のプラグレスコネクタを取り付け、切り放したケーブルを差し込んで接続することも可能である。
以下、本発明の光ファイバーの実施態様を詳細に説明するが、本発明は下記の例に限定されるものではない。
【0054】
実施例1
ファイバーの作成:ロッドインチューブ法を利用して、光ファイバーを作成した。
精製したTCEMAとドーパントとしてジフェニルスルフィド(以下、「DPS」と記すことがある)を重量比でTCEMA:DPS=100:4の割合で混合した。さらに、全重量中の濃度がそれぞれ0.03重量%及び0.2重量%となるように、重合開始剤としてジt−ブチルパーオキサイド及び連鎖移動剤としてn−ラウリルメルカプタンを添加した。その後、細孔径0.2μmのメンブレンフィルタにより濾過を行った。
これをガラス製重合容器に導入し、凍結脱気法により溶存空気を除去し、真空封緘を行った。重合容器の温度を120℃に維持しながら40時間かけてモノマーを重合し、外径10mmのコア部材ロッドを得た。
【0055】
精製したTCEMA及びMMAを重量比でTCEMA:MMA=20:80の割合で混合した。さらに、全重量中の濃度がそれぞれ0.5重量%及び0.3重量%となるように重合開始剤として過酸化ベンゾイル及び連鎖移動剤としてn−ブチルメルカプタンを添加した。その後、細孔径0.2μmのメンブレンフィルタにより濾過を行った。
これをガラス製重合容器に導入し、重合器を円周方向に高速回転(約2500rpm)させながら、70℃で20時間、さらに90℃で20時間モノマーを重合させることにより内径10.5mm、外径20mmの中空管を得た。
得られたコア部材ロッド、クラッド部材中空管を同じ長さだけ切りだし、蒸留水にて洗浄し、嵌め合い、熱収縮チューブを被覆した。その後、真空下180℃で5時間加熱することにより、GIプリフォームを得た。
得られたプリフォームを250℃に調整された加熱炉内に鉛直下向きに挿入することにより、溶融延伸しGI型プラスチック光ファイバーを得た。
ファイバー外径は、約600μmであり、引取速度を調整することで制御を行った。
【0056】
作製したファイバーについて、以下の測定及び試験を行った。
損失測定:カットバック法を用いて665nmでの伝送損失を測定した。
帯域測定:50mのファイバーについて、コア径50μmの石英マルチモードファイバーによる限定モード励振で650nmでの伝送帯域を測定した。
巻き付け試験:直径10mmのロッドに光ファイバーを5回巻き付けた後、解除後の伝送損失増加(巻き付け前に対する解除後の損失増加)をJIS 6823に準拠して測定した。(表1中、「破断」は解除後全く測定光が透過しなかったことを表す。)
ガラス転移温度測定:コア部材ロッドから試料をサンプリングし、窒素雰囲気下、昇温速度10℃/minでのDSC法により測定した。
これらの結果を表1−2に示す。
【0057】
実施例2〜26及び比較例1〜3
表1−1及び表1−2に示すように、コア部材及びクラッド部材のモノマー成分及びドーパントの化合物種及び割合を変えた以外は実施例1と同様に光ファイバーを作製し、評価した。
【0058】
実施例27
ファイバーの作成:溶融押出ドーパント拡散法を利用して、光ファイバーを作成した。
精製したTCEMA及びMAとドーパントとしてDPSを重量比でTCEMA:MA:DPS=95:5:10の割合で混合した。さらに、全重量中の濃度がそれぞれ0.03重量%及び0.2重量%となるように、重合開始剤としてジt−ブチルパーオキサイド及び連鎖移動剤としてn−ラウリルメルカプタンを添加した。その後、細孔径0.2μmのメンブレンフィルタにより濾過を行った。この混合液を、超音波を与えながら減圧脱気した後、重合容器に入れ、重合容器の温度を120℃に維持しながら、40時間かけてモノマーを重合し、コア部材ロッド(外径30mm)を得た。
精製したTCEMA及びMAを重量比でTCEMA:MA=95:5の割合で混合した。さらに、全重量中の濃度がそれぞれ0.03重量%及び0.2重量%となるように、重合開始剤としてジt−ブチルパーオキサイド及び連鎖移動剤としてn−ラウリルメルカプタンを添加した。その後、細孔径0.2μmのメンブレンフィルタにより濾過を行った。この混合液を、超音波を与えながら減圧脱気した後、重合容器に入れ、重合容器の温度を120℃に維持しながら、40時間かけてモノマーを重合し、クラッド部材ロッド(外径30mm)を得た。
【0059】
得られた、コア部材ロッドとクラッド部材ロッドを、別々の押出成形機とそれらに連結された2層金型とを用いて、コア部、クラッド部の積層複層状を形成し、さらに加熱流路に一定時間通すことで、コア部に含有されるドーパントをクラッド部へ拡散させた。
さらに、もう一台の押出成形機によりオーバークラッド材であるXYLEX X7300CL[製品名、SABIC Innovative Plastics社製、ポリエステル変性ポリカーボネート](以下PCともいう)を溶融し、2層金型を用いて、上記のコア部、クラッド部溶融物の通る流路と合流させることで最外周へ被覆させた。金型出口より吐出される溶融樹脂を引き取り、コア部径、クラッド部径およびファイバー外径が、それぞれ、200μm、280μmおよび750μmであるGI型プラスチック光ファイバーを得た。得られた光ファイバー試料について、実施例1と同様に評価した。
【0060】
実施例28〜42及び比較例4
表1−1及び表1−2に示すように、コア部材及びクラッド部材のモノマー成分及びドーパントの化合物種及び割合を変えた以外は実施例27と同様に光ファイバーを作製し、評価した。
これらの結果を表1−2に示す。
【0061】
【表1−1】

【0062】
【表1−2】

※表中、TFEMAはテトラフルオロエチルメタクリレートを意味する。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明は、高速通信を意図する光ファイバー、光ファイバーケーブルの構成要素として有用であり、さらに、形状を変化させることにより、光導波路等の光導性素子類、スチールカメラ用、ビデオカメラ用、望遠鏡用、眼鏡用、プラスチックコンタクトレンズ用、太陽光集光用等のレンズ類、凹面鏡、ポリゴン等の鏡類、ペンタプリズム類等のプリズム類等の光学部材として応用することが可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コア部及び該コア部の外周に配置されたクラッド部からなる光ファイバーであって、
前記コア部が、トリクロロエチルメタクリレート(TCEMA)70重量%以上を含むモノマーの重合体を主たる構成成分としてなり、
前記クラッド部が、メチルメタクリレート(MMA)20重量%以上を含むモノマーの重合体を主たる構成成分としてなることを特徴とする光ファイバー。
【請求項2】
コア部が、TCEMAと、MMA、メチルアクリレート(MA)、Nシクロヘキシルマレイミド(N−cHMI)、シクロヘキシルアクリレート(cHA)、トリクロロエチルアクリレート(TCEA)、イソボルニルアクリレート(iBoA)及びシクロヘキシルメタクリレート(cHMA)よりなる群より選ばれた少なくとも1種のモノマーとを構成単位とする重合体を主たる構成成分としてなる請求項1に記載の光ファイバー。
【請求項3】
クラッド部が、MMAと、TCEMA、MA、N−cHMI、cHA、TCEA、iBoA及びcHMAよりなる群より選ばれた少なくとも1種のモノマーとを構成単位とする重合体を主たる構成成分としてなる請求項1又は2に記載の光ファイバー。
【請求項4】
コア部及び該コア部の外周に配置されたクラッド部からなる光ファイバーであって、
前記コア部が、TCEMA70重量%以上を含むモノマーの重合体を主たる構成成分としてなり、
前記クラッド部の外周がポリカーボネートを主成分とするプラスチックで被覆されていることを特徴とする光ファイバー。
【請求項5】
コア部が、TCEMAと、MMA、MA、N−cHMI、cHA、TCEA、iBoA及びcHMAよりなる群より選ばれた少なくとも1種を含むモノマーとを構成単位とする重合体を主たる構成成分としてなる請求項4に記載の光ファイバー。
【請求項6】
クラッド部が、TCEMA50重量%以上と、MMA、MA、N−cHMI、cHA、TCEA、iBoA及びcHMAよりなる群より選ばれた少なくとも1種を含むモノマー50重量%以下とを構成単位とする重合体を主たる構成成分としてなる請求項4又は5に記載の光ファイバー。
【請求項7】
コア部にドーパントを含み、屈折率分布を有する請求項1〜6のいずれか1項に記載の光ファイバー。
【請求項8】
ドーパントが、ジフェニルスルフィド(DPS)、トリフェニルホスフェート(TPP)、ジフェニルスルホン(DPSO)及びトリス−2−エチルヘキシルホスフェート(TOP)よりなる群より選ばれた少なくとも1種である請求項7に記載の光ファイバー。
【請求項9】
コア部及び該コア部の外周に配置されたクラッド部からなり、前記コア部が、TCEMAと、MA、N−cHMI、cHA、TCEA、iBoA及びcHMAよりなる群より選ばれた少なくとも1種を含むモノマーとを構成単位とし、前記TCEMAを主成分とする重合体を主たる構成成分としてなる光ファイバーの製造方法であって、溶融押出ドーパント拡散法によって、少なくともコア部に屈折率分布を付与することを特徴とする光ファイバーの製造方法。

【公開番号】特開2011−232726(P2011−232726A)
【公開日】平成23年11月17日(2011.11.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−152733(P2010−152733)
【出願日】平成22年7月5日(2010.7.5)
【出願人】(000002174)積水化学工業株式会社 (5,781)
【出願人】(899000079)学校法人慶應義塾 (742)
【Fターム(参考)】