説明

光ファイバ素線の製造方法および製造装置

【課題】光ファイバ裸線部分の表面層に、確実かつ安定して残留圧縮応力が付与された光ファイバ素線、すなわち耐曲げ性が確実かつ安定して優れた光ファイバ素線を製造する方法および装置を提供する。
【解決手段】紡糸用加熱炉14から引き出された光ファイバ裸線16を冷却・凝固させた後、光ファイバ裸線16の表面温度が100℃以下となった段階で、光ファイバ裸線16に張力を負荷した状態でその表面層のみを再溶融させ、その後、表面層を再凝固させてから樹脂被覆を施し、これにより張力解放後の状態で光ファイバ裸線16の表面に圧縮応力が存在する光ファイバ素線24を得るようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、石英ガラス系光ファイバ素線を製造する方法および装置、特に光ファイバ裸線の表面層に残留圧縮応力を付与して耐曲げ性を向上させた石英系光ファイバ素線を製造する方法および装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に石英ガラス系光ファイバ素線の製造方法としては、石英系ガラスからなる光ファイバ母材を紡糸用加熱炉において加熱、溶融させ、その紡糸用加熱炉から線状に引き出して冷却・凝固させることによって光ファイバ裸線とし、さらに保護被覆用の樹脂により被覆して、引取機により引き取り、さらにボビンに巻き取るのが通常である。このような石英ガラス系光ファイバ素線の製造に適用される製造装置としては、線引き速度によって異なるが、線引き速度が遅い場合は、図6に示すような装置を用い、線引き速度が大きい場合は図7に示すような装置を用いるのが一般的である。
【0003】
図6に示す製造装置は、石英系ガラスからなる光ファイバ母材12を加熱溶融させるための紡糸用加熱炉14と、紡糸用加熱炉14から線状に引き出された光ファイバ裸線16を大気中で冷却・凝固するための冷却ゾーン18と、冷却・凝固された光ファイバ裸線16を保護被覆用の樹脂により被覆するためのコーティング装置20と、そのコーティング装置により被覆された樹脂を硬化させるための硬化装置22と、保護被覆用の樹脂が硬化された状態の光ファイバ素線24を引き取るためのキャプスタンなどの引取装置26と、最終的に光ファイバ素線24を巻き取るための図示しない巻取り機とを備えた構成とされている。
【0004】
一方、図7に示す製造装置では、紡糸用加熱炉14とコーティング装置20との間の冷却ゾーン18に強制冷却装置18Aが配設されており、紡糸用加熱炉14から線状に引き出された光ファイバ裸線16を強制冷却装置18Aによって強制冷却させる構成とされている。なお、強制冷却装置18Aは、通常は2重壁構造(ジャケット構造)とされて、冷却水などの冷却媒体により壁部から冷却されるとともに、内側の光ファイバ裸線16が通過する空間(冷却空間)内に、熱伝導性が良くかつ光ファイバ裸線16の材質に悪影響を及ぼさないガス、例えばHeガスなどの冷却ガスを導入して、光ファイバ裸線16を強制冷却する構成とされている。
【0005】
このような光ファイバ素線製造装置によって光ファイバ素線を製造するにあたっては、光ファイバ裸線の原料となる光ファイバ母材(石英系ガラス母材)12を紡糸用加熱炉14において2000℃以上の高温に加熱して溶融させ、その紡糸用加熱炉14の下部から、高温状態で光ファイバ裸線16として伸長させながら下方に引き出し、その光ファイバ裸線16のガラス材を凝固させるとともに、樹脂によりコーティング可能となる温度まで冷却ゾーン18で冷却(大気中冷却もしくは強制冷却装置18Aによる冷却)させる。そして所要の温度まで冷却された光ファイバ裸線16には、コーティング装置20において保護のための樹脂が未硬化状態で被覆され、さらにその被覆樹脂が、硬化装置22において加熱硬化あるいは紫外線硬化などの樹脂の種類に応じた適宜の硬化手段により硬化され、保護被覆層を備えた光ファイバ素線24となって、ターンプーリ28を経て引取装置26によって所定速度で引き取られる。さらに光ファイバ素線16は、図示しないダンサーローラなどを経て、ボビンなどの巻取り装置によって巻き取られるのが通常である。
【0006】
ところで最近では、曲げ損失特性が優れた光ファイバ、すなわち曲げ径の小さい曲げを付与した状態でも曲げ損失が少ない光ファイバの開発が進み、光ファイバを用いた装置でも、一時的に5mmφ以下の小さな曲げ径が付与される場合がある。一方、光ファイバをループ状あるいはコイル状、その他の曲げ形状に曲げた場合、その曲げ部の外側(曲げ外側)には引張り応力が発生する。そして曲げ径が小さくなれば、それに伴って光ファイバの曲げ外側に作用する引張り応力が大きくなる。
光ファイバの曲げ部の引張り応力がその材料の破断限界強度を越えれば、光ファイバはその曲げ部から破断してしまう。また曲げ部の引張り応力がその材料の破断限界強度を越えるに至らない場合でも、曲げが加わったまま長時間経過したり、繰り返し曲げが与えられれば、疲労破壊によって曲げ部から破断が生じてしまう。したがって曲げ径の小さい態様での使用が想定される場合、耐曲げ性が優れていることが必要である。そして上述のように曲げ部での破断は、主として曲げ外側に作用する引張り応力によるものであるから、耐曲げ性を向上させるための一つの方策としては、光ファイバを曲げたときに生じる曲げ外側の引張り応力を緩和させることが考えられる。
【0007】
上述のような観点に立って耐曲げ性を向上させる手法については、既に特許文献1において提案されている。この特許文献1の提案では、ガラス母材を軟化、溶融させて連続的に線引きする(ファイバ化する)過程において、光ファイバ裸線が凝固した段階で、その光ファイバに線引きのための引張り力(張力)を与えたまま、改めてその光ファイバ裸線の表面を再加熱して、表面層のみを軟化、溶融させ(したがって中心部は凝固したままとし)、引き続いて、張力を付与したまま表面層を再凝固させることが示されている。この方法では、一旦は完全に凝固した光ファイバ裸線の表面層のみを再溶融させることによって、表面の微小な亀裂を消失させることができるばかりでなく、線引きのための張力により光ファイバ裸線に生じる歪み(引っ張り歪み)が、裸線の表面層において緩和され、その結果、張力を解除した状態では、表面層に圧縮応力が残留する。このように表面に残留圧縮応力が存在する光ファイバを曲げたときには、曲げ外側の表面層に生じる引張り応力が、残留圧縮応力によって緩和もしくは相殺され、そのため曲げ径が小さい場合であっても、曲げ外側に作用する引張り応力が実質的に小さくなり、その結果、曲げによる亀裂や破断が生じにくくなる。
【0008】
しかしながら、本発明者等が特許文献1に示される方法について実験を行なったところ、次のような問題があることが判明した。
すなわち、特許文献1では、紡糸用加熱炉から引き出された光ファイバ裸線を冷却して完全凝固させ後、張力の存在下で光ファイバ裸線の表面を再加熱し、表面層を再溶融させればよいとされているに過ぎない。そして光ファイバ裸線の表面を再加熱して表面層を再溶融させる際の光ファイバ裸線の温度については、一例として、例えば約200℃まで冷却した状態で再加熱すればよい旨、記載されているだけである。しかるに本発明者等が特許文献1に示される方法に従って、光ファイバ裸線が完全凝固した段階で表面層を再加熱し、再凝固させた場合、張力解放後の光ファイバ素線の裸線部分の表面層に安定して残留圧縮応力を付与し得ない場合が多いことが判明した。特に、特許文献1に一例として記載されているような温度、すなわち200℃程度まで光ファイバ裸線を冷却した段階で表面層を再加熱し、再凝固させた場合には、張力解放後の光ファイバ素線の裸線部分の表面層に残留圧縮応力が付与されていないか、または光ファイバの長さ方向の全体にわたって均一に残留圧縮応力が付与されておらず、そのため耐曲げ性を確実かつ安定して向上させ得ないことが判明した。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平1−301531号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、以上のような事情に鑑みてなされたもので、光ファイバ裸線部分の表面層に、確実かつ安定して残留圧縮応力が付与された光ファイバ素線、したがって耐曲げ性が確実かつ安定して優れた光ファイバ素線を製造する方法および装置を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者等は、前述の課題を解決するべく種々実験、検討を重ねた結果、光ファイバ裸線の表面層を再溶融させるときの光ファイバ裸線表面の温度条件が、最終的に残留圧縮応力を確実かつ安定して付与するために重要な要素であることを見い出した。すなわち、光ファイバ裸線の表面層を再溶融させる際の光ファイバ裸線表面温度を種々変化させて、表面を加熱、再溶融させる実験を行なったところ、表面温度が100℃を越えている段階で加熱、再溶融させた場合には、張力解放後に残留圧縮応力が安定して付与されず、一方表面温度が100℃以下となった段階で加熱、再溶融させれば、張力解放後に残留圧縮応力を確実かつ安定して存在させ得ることを新規に知見し、本発明をなすに至ったのである。
【0012】
具体的には、本発明の基本的な態様(第1の態様)による光ファイバ素線の製造方法は、
石英系光ファイバ母材を紡糸用加熱炉にて加熱溶融させ、その紡糸用加熱炉から溶融した母材を線状に引き出して連続的に冷却、凝固させ、得られた光ファイバ裸線に樹脂被覆を施して光ファイバ素線とし、さらにその光ファイバ素線を、引き取り機により張力を付与しつつ連続的に引き取る光ファイバ素線の製造方法において、
前記冷却・凝固された光ファイバ裸線の表面温度が100℃以下となった段階で、前記張力を付与した状態で光ファイバ裸線の表面を再加熱して、光ファイバ裸線の表面層のみを再溶融させ、その後、表面層を再凝固させてから樹脂被覆を施し、これにより、張力を解放した状態で光ファイバ裸線部分の表面層に残留圧縮応力が付与されている光ファイバ素線を得ることを特徴とするものである。
なおここで、“光ファイバ裸線の表面を再加熱して、光ファイバ裸線の表面層のみを再溶融させる”とは、光ファイバ裸線を構成している石英系ガラスの表面層のみについて、軟化して流動性を示す温度以上に加熱すること、言い換えれば、表面層を、その表面層中の歪みが除去される温度以上に加熱し、一方表面層よりも内側の部分については、硬化したままの状態、すなわち歪が除去されないままの状態を保持することを意味するものとする。また“再凝固させる”とは、軟化した表面層を、冷却によって再び硬化させて流動性がない状態に戻すことを意味する。
【0013】
このような態様の光ファイバ素線の製造方法においては、光ファイバ裸線の表面層のみを再溶融させるための、張力を付与した状態での光ファイバ裸線の表面の再加熱を、光ファイバ裸線の表面温度が100℃以下の低温となった段階で行なうことにより、張力解放後の光ファイバ素線の裸線部分の表面層に圧縮残留応力を確実かつ安定して付与することができる。
【0014】
また本発明の第2の態様による光ファイバ素線の製造方法は、前記第1の態様の光ファイバ素線の製造方法において、
前記紡糸用加熱炉から引き出された線状の母材を、大気中冷却によって冷却・凝固させ、かつ紡糸用加熱炉から引き出されてから前記再加熱を開始するまでの時間を2秒以上とすることを特徴とするものである。
【0015】
このような第2の態様の光ファイバ素線の製造方法は、線引き速度(線速)が遅い場合、例えば線速が5〜100m/min程度の場合に適している。すなわち、線速が遅い場合は、紡糸用加熱炉から線状に引き出された光ファイバ裸線を、大気中冷却によって冷却・凝固させることができ、その場合、光ファイバ裸線の表面温度の指標として、紡糸用加熱炉から引き出された時点からの経過時間を用いることができ、その経過時間が2秒以上となれば、表面温度が100℃以下となったと推定することができる。したがって2秒以上経過した時点で再加熱を開始して表面層のみを再溶融させ、さらに再凝固させることにより、張力解放後の光ファイバ素線の裸線部分の表面層に圧縮残留応力を確実かつ安定して付与することができる。
【0016】
また本発明の第3の態様による光ファイバ素線の製造方法は、前記第1の態様の光ファイバ素線の製造方法において、
前記紡糸用加熱炉から引き出された線状の母材を、強制冷却装置を連続的に通過させることによって冷却・凝固させ、かつその強制冷却装置から引き出された光ファイバ裸線の表面温度が100℃以下となった時点で前記再加熱を開始することを特徴とするものである。
【0017】
このような第3の態様の光ファイバ素線の製造方法は、線速が速い場合、例えば線速が100〜1000m/min程度の場合に適している。すなわち、線速が速い場合は、紡糸用加熱炉から線状に引き出された光ファイバ裸線を、強制冷却装置によって強制冷却することが望ましく、その場合、強制冷却装置から引き出された光ファイバ裸線の表面温度が100℃以下となった時点で前記再加熱を開始して表面層のみを再溶融させ、さらに再凝固させることにより、張力解放後の光ファイバ素線の裸線部分に圧縮残留応力を確実かつ安定して付与することができる。
【0018】
さらに本発明の第4〜第6の態様では、前記第1〜第3の態様として記載した光ファイバ素線の製造方法を実施するための装置を規定している。
すなわち本発明の第4の態様による光ファイバ素線の製造装置は、
光ファイバ母材を加熱溶融させるための紡糸用加熱炉と、
その紡糸用加熱炉から線状に引き出された光ファイバ裸線を強制冷却して凝固させるための冷却ゾーンと、
冷却・凝固された光ファイバ裸線の表面を、その表面温度が100℃以下となった段階で再加熱して表面層のみを再溶融させるための再加熱装置と、
その再加熱装置により再溶融された光ファイバ裸線の表面層を冷却して再凝固させるための再冷却ゾーンと、
再冷却ゾーンで冷却された光ファイバ裸線を樹脂により被覆するためのコーティング装置と、
コーティング装置により被覆された樹脂が硬化された状態の光ファイバ素線に張力を負荷しつつ引き取るための引取装置、
と有してなることを特徴とするものである。
【0019】
そしてまた本発明の第5の態様による光ファイバ素線の製造装置は、前記第4の態様の光ファイバ素線の製造装置において、
前記冷却ゾーンが、大気中で光ファイバ裸線を冷却する構成とされていることを特徴とするものである。
【0020】
この第5の態様の光ファイバ素線の製造装置は、線速が遅い場合、例えば線速が5〜100m/min程度の場合に適している。すなわちこの態様の製造装置では、第2の態様として記載したように、紡糸用加熱炉から引き出された線状の母材を、大気中冷却によって冷却・凝固させ、かつ紡糸用加熱炉から引き出されてから前記再加熱を開始するまでの時間を2秒以上とすることができ、これによって張力解放後の光ファイバ素線の裸線部分表面層に残留圧縮応力を確実かつ安定して付与することができる。
【0021】
そしてまた本発明の第6の態様による光ファイバ素線の製造装置は、前記第4の態様の光ファイバ素線の製造装置において、
前記冷却ゾーンに、光ファイバ裸線を強制冷却するための強制冷却装置が設けられていることを特徴とするものである。
【0022】
この第6の態様の光ファイバ素線の製造装置は、線速が速い場合、例えば線速が100〜1000m/min程度の場合に適している。すなわちこの態様の製造装置では、第3の態様として記載したように、紡糸用加熱炉から線状に引き出された光ファイバ裸線を、強制冷却装置によって強制冷却して、その表面温度が100℃以下となった時点で前記再加熱を開始して表面層のみを再溶融させ、さらに再凝固させることにより、張力解放後の光ファイバ素線の裸線部分に圧縮残留応力を確実かつ安定して付与することができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明の光ファイバ素線の製造方法によれば、張力解放後の光ファイバ素線として、その裸線部分の表面層に圧縮残留応力を確実かつ安定して付与することができ、そのため小さな曲げ径の曲げが光ファイバ素線に繰り返し加えられる場合であっても、曲げの外側から亀裂や破断が生じるおそれが少ない光ファイバ素線、すなわち耐曲げ性に優れた光ファイバ素線を、確実かつ安定して製造することができる。また本発明の光ファイバ素線の製造装置によれば、上述のように耐曲げ性に優れた光ファイバ素線を量産的規模で製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の第1の実施形態の光ファイバ素線製造方法を実施するための装置の一例を示す略解図である。
【図2】本発明の第1の実施形態の光ファイバ素線製造方法を適用して光ファイバ素線を製造する過程における、光ファイバ裸線の状況を説明するための模式図である。
【図3】本発明の第2の実施形態の光ファイバ素線製造方法を実施するための装置の一例を示す略解図である。
【図4】本発明の実施例1および比較例1による残留圧縮応力付与状況を示すグラフである。
【図5】本発明の実施例2および比較例2による残留圧縮応力付与状況を示すグラフである。
【図6】従来の光ファイバ素線製造方法を実施するための装置の一例を示す略解図である。
【図7】従来の光ファイバ素線製造方法を実施するための装置の他の例を示す略解図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の各実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。
【0026】
図1は本発明の第1の実施形態の光ファイバ素線製造方法を実施するための光ファイバ素線製造装置10の全体的な構成を示す図である。なお図1に示される光ファイバ素線製造装置10は、線速が遅い場合に好適に適用されるものである。
【0027】
図1において、光ファイバ素線製造装置10は、例えば石英系ガラスなどからなる光ファイバ母材12を加熱溶融させるための紡糸用加熱炉14と、紡糸用加熱炉14から下方に向けて線状に引き出された光ファイバ裸線16を冷却して凝固させるための冷却ゾーン18と、冷却・凝固された光ファイバ裸線16の表面を加熱して、その表面層のみを再溶融させるための再加熱装置30と、再溶融した表面層を再凝固させるための再冷却ゾーン32と、表面層が再凝固した光ファイバ裸線を保護被覆用の樹脂により被覆するためのコーティング装置20と、そのコーティング装置20により被覆された樹脂を硬化させるために必要に応じて設けられる硬化装置22と、保護被覆用の樹脂が硬化された状態の光ファイバ素線24を引き取るために光ファイバ素線24に引張り力(張力)を負荷するための引取装置26とを備えた構成とされている。
【0028】
ここで前記冷却ゾーン18は、第1の実施形態の場合、光ファイバ裸線16を、大気中を通過させることにより空冷する領域とされている。また再冷却ゾーン32も、光ファイバ裸線16を、大気中を通過させることにより空冷する領域とされている。
【0029】
前記冷却ゾーン18の長さは、紡糸用加熱炉14を出た光ファイバ裸線16が再加熱装置30の入口に至るまでの時間を2秒以上確保できるように、光ファイバ裸線16の線速に応じた適切な長さに設定されている。言い換えれば、冷却ゾーン18において光ファイバ裸線16が大気により2秒以上空冷されるように定められている。このように光ファイバ裸線16が紡糸用加熱炉14を出てから再加熱装置30の入口に至るまでに2秒以上空冷されることにより、再加熱装置30に入る際の光ファイバ裸線16の表面温度は100℃以下となることが本発明者等の実験により確認されている。
なお前記再加熱装置30は、要は光ファイバ裸線16を、その表面層が溶融される温度、すなわち軟化して流動性を示すことにより歪みが除去される温度(例えば1600℃以上)に急速短時間加熱可能なものであればよく、その具体的構成は特に限定されないが、COレーザ装置が代表的であり、そのほか、電気炉や酸水素バーナなどを用いることもできる。
【0030】
なおまた、図1では、コーティング装置20および硬化装置22をそれぞれ1基ずつ配設しているが、場合によっては第1のコーティング装置および第1の硬化装置と、第2のコーティング装置および第2の硬化装置とを直列状に配設して、2層被覆するようにしてもよいことはもちろんであり、また図1に示すようにコーティング装置および硬化装置をそれぞれ1基ずつ配設する場合でも、コーティング装置として2層一括被覆が可能なものを用いて2層被覆してもよい。この点は、後に説明する図2の製造装置(第2の実施形態)でも同様である。
【0031】
以下に図1の光ファイバ素線製造装置を用いた本発明の第1の実施形態の光ファイバ素線製造方法について、図2を参照しながら説明する。なお図2において、ドットを付した部分は、光ファイバ母材12、光ファイバ裸線16における溶融した部分を示す。
【0032】
図1、図2において、紡糸用加熱炉14で2000℃以上の高温に加熱されて溶融した光ファイバ母材12は、引取装置26からの引き取り力(張力)Tによって紡糸用加熱炉14の下端から例えば5〜100m/min程度の低速で、光ファイバ裸線16として引き出され、その光ファイバ裸線16は直ちに冷却ゾーン18を通過する。冷却ゾーン18を通過する間においては、光ファイバ裸線16は室温程度の大気によって冷却されて、温度が低下し、その途中で光ファイバ裸線16がその中心部まで凝固し、さらに冷却が進行する。そして紡糸用加熱炉14を出てから2秒以上経過した時点、したがって光ファイバ裸線16の表面温度が100℃以下となった段階で再加熱装置30によって光ファイバ裸線16の表面が加熱されて、表面層16Aのみが溶融される。すなわち、光ファイバ裸線16における中心部分16Bは凝固状態を保ったまま、表面から所定の深さまでの表面層16Aのみが溶融される。
【0033】
ここで、冷却ゾーン18において中心部分16Bまで凝固した光ファイバ裸線16の全体には、引取装置26からの張力Tが作用して、引っ張り応力により引張り歪みが生じている。そして再加熱装置30によって再溶融した表面層16Aは、軟化して流動性を有する状態となるため、引張り歪みが一旦解放され、引取装置26からの張力Tは再溶融しなかった中心部分16Bのみが負担する状態となる。続いて光ファイバ裸線16は、再冷却ゾーン32を通過して室温の大気によって表面から冷却され、表面層16Aが再凝固する。その後光ファイバ裸線16は、コーティング装置20および硬化装置22を経て、保護被覆用の樹脂により被覆され、保護被覆を施した光ファイバ素線24となって、引取装置26によって張力Tが負荷されつつ引き取られ、ボビンなどの図示しない巻取装置に巻き取られる。
【0034】
ここで、紡糸用加熱炉14から引き出されて冷却ゾーン18の中途で凝固してから引取装置26によって引き取られるまでの間においては、光ファイバ裸線16、光ファイバ素線24には張力Tが加えられている。そして特に光ファイバ裸線16の中心部分(再溶融されなかった部分)16Bには、凝固してから引き取られるまでの間、その張力Tによって引っ張り応力が生じ続けるため、歪み(引張り歪み)が蓄積される。一方、光ファイバ裸線16の表面層(再溶融された部分)16Aは、その再溶融によって引張り歪みが一旦解放され、その後に再凝固してから若干の引張り歪みだけが残ることになる。したがって引取装置26によって引き取られた段階では、光ファイバ裸線部分の中心部分16Bには大きな引張り歪みが残存し、表面層16Aにはそれより小さい引張り歪みしか残存しないことになる。そして、引取後に張力Tを解放したときには、光ファイバ裸線部分は、上記の引張り歪み(特に中心部の大きな引張り歪み)が解放される方向、すなわち圧縮方向に弾性変形するが、このとき中心部分16Bと表面層16Aとでは、残存していた引張り歪みに大きな差があるため、中心部分16Bの引張り歪みが消失する(もしくは小さくなる)と同時に、表面層16Aには圧縮応力が発生して、その圧縮応力が張力解放後も残留する。すなわち表面層16Aに残留圧縮応力が付与された状態となる。このようにして光ファイバ裸線部分の表面層16Aに残留圧縮応力が付与された光ファイバ素線は、これに曲げを与えた場合、曲げの外側の表面層に引張り応力が生じるが、表面層には予め残留圧縮応力が存在するため、曲げの外側の表面層に作用する引張り応力は、残留圧縮応力と相殺されるか、または少なくとも残留圧縮応力によって緩和され、その結果、曲げの外側に加えられる引張り応力によって曲げ外側の表面に亀裂が生じたり曲げ外側から破断が生じたりすることが有効に防止される。したがって小さい曲げ半径の場合にも、優れた耐曲げ性を示すことになる。
【0035】
ここで、冷却ゾーン18における冷却時間が2秒以下と短く、冷却が不充分で、光ファイバ裸線16の表面層を再加熱する際の表面温度が未だ高温(100℃以上、例えば特許文献1に示されている200℃)となっている場合は、その時点での光ファイバ裸線16の中心部も未だかなりの高温となっているため、再加熱を行なうことによって中心部がさらに高温となり、そのため溶融はしないまでも軟化が進行して、中心部の引張り歪みも緩和されてしまい、その結果、表面層と中心部との間で充分な引っ張り歪みの差を付与することが困難となり、張力解放後の状態でも、表面層に充分な圧縮残留応力を付与することが困難となる。また、表面層再溶融のための再加熱時において表面温度が100℃以下となるまで光ファイバ裸線が十分に冷却されていない場合、再加熱時の中心部の温度のばらつきも大きく、そのため、中心部における引張り歪みの緩和の有無や緩和の程度にもばらつきが大きくなり、光ファイバ裸線の長さ方向のある位置では中心部の引張り歪みが緩和されていないのに対し、長さ方向の別の位置では中心部の引張り歪みが大きく緩和されてしまい、その結果、最終的に張力が解放された状態で、表面層に残留圧縮応力が付与された個所と付与されない個所とが長さ方向に混在し、長さ方向に耐曲げ性がばらついてしまうおそれがある。
【0036】
しかるに、紡糸用加熱炉14を出た光ファイバ裸線16が大気中空冷による冷却ゾーン18を通過して再加熱装置30の入口に至るまでの時間を2秒以上確保して、再加熱装置30による再加熱の直前までに表面が100℃以下の低温となるまで十分に冷却させておけば、その時点では中心部の温度も既に充分に低下しているため、再加熱しても中心部と表面との温度差を充分に確保でき、しかも中心部の温度のばらつきも比較的小さく、そのため中心部の引張り歪みが緩和されたり、中心部の引張り歪みにばらつきが生じたりすることを防止できる。したがって張力負荷状態での中心部と表面層との間の引張り歪みの差を大きく確保することができるとともに、その引張り歪みの差のばらつきも小さくし、最終的に張力が解放された状態で表面層に残留圧縮応力を充分に付与することができ、しかもその表面層の残留圧縮応力のばらつきも小さくすることができるのである。
【0037】
図3には、本発明の第2の実施形態の光ファイバ素線製造方法を実施するための光ファイバ素線製造装置の全体的な構成を示す。図3に示される光ファイバ素線製造装置は、線速が速い場合、例えば100〜1000m/min程度の場合に適したものである。なお図3において、図1に示される要素と同一の要素については、図1と同じ符号を付し、その説明は省略する。
【0038】
この第2の実施形態の装置の場合、紡糸用加熱炉14から引き出された光ファイバ裸線16を冷却・凝固させるための冷却ゾーン18に、強制冷却装置18Aが設けられている。この強制冷却装置18Aは、冷却制御装置36によって冷却能力が制御されるものであり、その具体的構成は特に限定されないが、要は冷却能力を調整可能な冷却装置であればよく、例えば光ファイバ裸線16の通過領域を取り囲む2重壁構造(ジャケット構造)として、冷却水などの冷却媒体により壁部から冷却するとともに、内側の光ファイバ裸線16の通過領域(冷却空間)内に、熱伝導性が良くかつ光ファイバ裸線16の材質に悪影響を及ぼさない冷却用ガス、例えばHeガスなどを導入して光ファイバ裸線16を冷却する構成とし、かつその冷却ガスの導入流量を冷却制御装置36により制御することによって、光ファイバ裸線16に対する冷却能力を制御可能とした構成とすればよい。さらに強制冷却装置18Aの下方でかつ再加熱装置30の直上の位置(再加熱装置30の入口付近)には、光ファイバ裸線16の表面温度を測定するための表面温度検出装置34、たとえば放射温度計が配設されている。この表面温度検出装置34によって得られた表面温度信号は冷却制御装置36に送られ、この冷却制御装置36によって強制冷却装置18Aの冷却能を制御するようになっている。また再加熱装置30によって表面層のみが再溶融された光ファイバ裸線16を再冷却するための再冷却ゾーン32には、再冷却用の強制冷却装置32Aが設けられている。この再冷却用の強制冷却装置32Aも、その具体的構成は特に限定されないが、例えば前記強制冷却装置18Aと同様に、光ファイバ裸線16の通過領域を取り囲む2重壁構造(ジャケット構造)として、冷却水などの冷却媒体により壁部から冷却するとともに、内側の光ファイバ裸線16の通過領域(冷却空間)内に、熱伝導性が良くかつ光ファイバ裸線16の材質に悪影響を及ぼさないHeガスなどの冷却ガスを導入して、光ファイバ裸線16を冷却する構成とすればよい。
【0039】
上述のような図3に示される光ファイバ素線製造装置を用いた、本発明の第2の実施形態の光ファイバ素線製造方法について説明する。
図3において、紡糸用加熱炉14で2000℃以上の高温に加熱されて溶融した光ファイバ母材12は、引取装置26からの引き取り力(張力)Tによって紡糸用加熱炉14の下端から例えば100〜1000m/min程度の高速で、線状に光ファイバ裸線16として引き出され、その光ファイバ裸線16は、冷却ゾーン18の強制冷却装置18Aを通過する。強制冷却装置18Aを通過する間においては、光ファイバ裸線16は強制冷却されて、温度が急速に低下し、その途中で光ファイバ裸線16がその中心部まで凝固し、さらに冷却が進行する。一方、再加熱装置30の入口付近に配設された表面温度検出装置34によって、再加熱装置30に入るときの光ファイバ裸線16の表面温度が測定され、その温度が100℃以下となるように、冷却制御装置36によって強制冷却装置18Aの冷却能力がフィードバック制御される。例えば上記の検出された表面温度に応じて、冷却制御装置36に流入する冷却ガスの流量が制御される。このような制御によって、光ファイバ裸線16はその表面温度が100℃以下となるように冷却され、その段階で、再加熱装置30によって表面が再加熱されて、表面層のみが溶融される。すなわち、光ファイバ裸線16における中心部分は凝固状態を保ったまま、表面層の部分のみが溶融される。
【0040】
ここで、図1に示した第1の実施形態の場合と同様に、強制冷却装置18Aにおいて中心部分まで凝固した光ファイバ裸線16の全体には、引取装置26からの張力Tが作用して、引っ張り歪みが生じており、そして再加熱装置30によって再溶融した表面層は、軟化して流動性を有する状態となるため、引張り歪みが一旦解放され、引取装置26からの張力Tは再溶融しなかった中心部分のみが負担する状態となる。
続いて光ファイバ裸線16は再冷却ゾーン32の強制冷却装置32Aを通過する。強制冷却装置32Aにおいては、光ファイバ裸線16がその表面から強制冷却され、表面層が再凝固する。その後光ファイバ裸線16は、コーティング装置20および硬化装置22を経て、保護被覆用の樹脂により被覆され、保護被覆を施した光ファイバ素線24となって、引取装置26により張力Tが負荷されながら引き取られ、ボビンなどの図示しない巻取装置に巻き取られる。
【0041】
このように図3に示す光ファイバ素線製造装置を用いた第2の実施形態の製造方法においても、光ファイバ裸線16の表面層のみを溶融するための再加熱が、表面温度が100℃以下となるまで充分に冷却された段階で行なわれるため、第1の実施形態の場合と同様に、再加熱時の中心部温度も充分に低下しているから、表面層再溶融のために再加熱した際の中心部の温度はさほど高くならず、しかも中心部の温度のばらつきも比較的小さく、そのため中心部の引張り歪みが緩和されたり、中心部の引張り歪みにばらつきが生じたりすることを防止でき、したがって張力負荷状態での中心部と表面層との間の引張り歪みの差を大きく確保することができるとともに、その引張り歪みの差のばらつきも小さくし、最終的に張力が解放された状態で表面層に残留圧縮応力を充分に付与することができ、しかもその表面層の残留圧縮応力のばらつきも小さくすることができる。
【0042】
以上のところにおいて、光ファイバ裸線をその表面から再加熱して再溶融させる表面層の厚み(再溶融深さ)は特に限定しないが、汎用の通信用の光ファイバにおける光ファイバ裸線径(通常は80〜150μm程度の範囲内、一般には125μmが多い)の場合、2〜10μm程度の深さの部分まで圧縮歪が付与されるように再溶融させることが好ましい。2μm未満の深さの部分にのみ圧縮歪を付与させようとする場合、耐曲げ性を向上させるために十分な残留圧縮応力を付与することが困難となるおそれがあり、一方10μmを越える部分まで圧縮歪が付与されれば、光ファイバ素線の光学特性に影響を与えるおそれがある。
【0043】
以下に本発明の実施例を、比較例とともに説明する。なお以下の実施例は、本発明の作用効果を明確化するためのものであって、実施例に記載された条件が本発明の技術的範囲を限定しないことはもちろんである。
【実施例】
【0044】
〔実施例1〕
実施例1は、図1に示す装置を用い、第1の実施形態に基づいて本発明の光ファイバ製造方法を実施した例である。
すなわち、一般的なシングルモードファイバの特性を有する2層被覆構造の石英ガラス系光ファイバ素線(裸線径125μm、素線仕上がり外径250μm)を製造するにあたり、紡糸用加熱炉14から引き出された光ファイバ裸線16を冷却ゾーン18において大気により空冷してから、再加熱装置30により光ファイバ裸線の表面層のみを溶融させ、引き続いて再冷却ゾーン32で表面層を再凝固させた後、紫外線硬化樹脂からなる保護被覆層を形成し、引取装置26により張力100gf程度で引き取る実験を行なった。ここで、紡糸用加熱炉14の下端から出て再加熱装置30に至るまでの時間、すなわち冷却ゾーン18による冷却時間を、2秒〜5秒の範囲内において0.5秒間隔で変化させ、また引き取り速度(線速)を、5〜100m/minの範囲内で種々変化させた。
得られた各光ファイバ素線について、張力解放後の裸線部分表面層の残留応力を調べたところ、いずれの線速、いずれの冷却時間でも、光ファイバ素線の長さ方向の全長にわたって、裸線表面層にほぼ均一に残留圧縮応力が付与されていることが確認された。代表的には、線速が20m/minで冷却時間が2秒の場合、張力解放後の裸線部分表面層には、50MPa程度の残留圧縮応力が、長さ方向にほぼ均一に付与されていることが確認されている。またこれらの残留圧縮応力が付与された光ファイバ素線について実際に曲げを付与した場合、曲げ径2.0mmφにおいても、曲げの印加による破断は生じなかった。
なおここで残留圧縮応力の有無の判定基準としては、表面の残留圧縮応力を、FOSE社製FSA(ファイバストレスアナライザ)を用いて測定し、その残留圧縮応力の測定値が5MPa以上の場合を、残留圧縮応力有りと判定し、表面の残留圧縮応力が5MPa未満の場合を残留圧縮応力無しと判定した。
なおまた、この実施例1において、冷却時間が2秒以上では、再加熱装置30の入口における光ファイバ裸線表面温度が100℃以下となっていることが確認されている。
【0045】
〔比較例1〕
実施例1と同様にして、一般的なシングルモードファイバの特性を有する2層被覆構造の石英ガラス系光ファイバ素線(裸線径125μm、素線仕上がり外径250μm)を製造するにあたり、紡糸用加熱炉14から引き出された光ファイバ裸線16を冷却ゾーン18において大気により空冷してから、再加熱装置30により光ファイバ裸線の表面層のみを溶融させ、引き続いて再冷却ゾーン32で表面層を再凝固させた後、紫外線硬化樹脂からなる保護被覆層を形成し、引取装置26により張力100gf程度で引き取る実験を行なった。ここで、紡糸用加熱炉14の下端から出て再加熱装置30に至るまでの時間、すなわち冷却ゾーン18による冷却時間は、2秒未満、すなわち1.5〜0.5秒の範囲内において0.5秒間隔で変化させた。また引き取り速度(線速)は、実施例1と同様に、5〜100m/minの範囲内で種々変化させた。
得られた各光ファイバ素線について、張力解放後の裸線部分表面層の残留圧縮応力を調べたところ、冷却時間が1.5秒の場合には、いずれの線速でも、光ファイバ素線の長さ方向に残留圧縮応力が付与されている部分と付与されていない部分とが混在していること、すなわち、残留圧縮応力の付与状況にばらつきがあることが判明した。また、冷却時間が1.0秒、0.5秒の場合には、いずれの線速でも、裸線部分表面層に残留圧縮応力が付与されていないことが確認された。
またこれらの残留圧縮応力が付与されていないかまたは残留圧縮応力の有無状況が長さ方向にばらついている光ファイバ素線について、実際に曲げを付与した場合には、曲げ径2.0mmφまで曲げれば、いずれも曲げの外側に亀裂もしくは破断が生じてしまうことが確認された。
なおまた、この比較例1においては、冷却時間が1.5〜0.5秒以上で、再加熱装置30の入口における光ファイバ裸線表面温度が100℃を超えていることが確認されている。
【0046】
以上の実施例1および比較例1における各線速、各冷却時間での、張力解放後の残留圧縮の有無の状況について、図4にまとめて示す。図4から、図1に示すような装置を用いた場合、冷却ゾーン18での大気中冷却時間を2秒以上とすれば、5〜100m/minの範囲内のいずれの線速で製造した場合でも、張力解放後に安定して残留圧縮応力を付与できることが明らかである。
【0047】
〔実施例2〕
実施例2は、図3に示す装置を用い、第2の実施形態に基づいて本発明の光ファイバ製造方法を実施した例である。
すなわち、一般的なシングルモードファイバの特性を有する2層被覆構造の石英ガラス系光ファイバ素線(裸線径125μm、素線仕上がり外径250μm)を製造するにあたり、紡糸用加熱炉14から引き出された光ファイバ裸線16を、冷却ガスとしてHeガスを用いた強制冷却装置18Aにおいて強制冷却してから、光ファイバ裸線の表面層のみを溶融させ、引き続いて再冷却装置32Aにおいて強制冷却して表面層を再凝固させ、さらに紫外線硬化樹脂からなる保護被覆層を形成し、引取装置26により張力100gf程度で引き取る実験を行なった。ここで、表面温度検出装置34によって再加熱装置30の入口における光ファイバ裸線16の表面温度を検出し、その位置での光ファイバ裸線16の表面温度が100℃もしくは50℃となるように、強制冷却装置32Aの冷却ガス(Heガス)流量を制御した。また引き取り速度(線速)は、100〜600m/minの範囲内で種々変化させた。
得られた各光ファイバ素線について、張力解放後の裸線部分表面層の圧縮残留応力を調べたところ、いずれの線速、いずれの温度(再加熱装置30の入口における表面温度)でも、光ファイバ素線の長さ方向の全長にわたって、ほぼ均一に残留圧縮応力が付与されていることが確認された。代表的には、線速が600m/minで再加熱直前の表面温度が100℃の場合、張力解放後の裸線部分表面層には、55MPa程度の残留圧縮応力が、長さ方向にほぼ均一に付与されていることが確認された。
またこれらの残留圧縮応力が付与された光ファイバ素線について実際に曲げを付与した場合、曲げ径2.0mmφ程度までは、いずれも曲げの外側に亀裂や破断が生じないことが確認された。
【0048】
〔比較例2〕
実施例2と同様にして、一般的なシングルモードファイバの特性を有する2層被覆構造の石英ガラス系光ファイバ素線(裸線径125μm、素線仕上がり外径250μm)を製造するにあたり、紡糸用加熱炉14から引き出された光ファイバ裸線16を強制冷却装置18Aにおいて強制冷却してから光ファイバ裸線の表面層のみを溶融させ、引き続いて再冷却装置32Aにおいて強制冷却して表面層を再凝固させ、さらに紫外線硬化樹脂からなる保護被覆層を形成し、引取装置26により張力100gf程度で引き取る実験を行なった。ここで、表面温度検出装置34によって再加熱装置30の入口における光ファイバ裸線16の表面温度を検出し、その位置での光ファイバ裸線16の表面温度が150℃〜5000℃となるように、強制冷却装置32Aの冷却ガス(Heガス)流量を制御した。また引き取り速度(線速)は、100〜1000m/minの範囲内で種々変化させた。
得られた各光ファイバ素線について、張力解放後の裸線部分表面層の残留圧縮応力を調べたところ、再加熱装置30の入口における光ファイバ裸線16の表面温度が150℃の場合には、いずれの線速でも、光ファイバ素線の長さ方向に残留圧縮応力が付与されている部分と付与されていない部分とが混在していること、すなわち、残留圧縮応力の付与状況にばらつきがあることが判明した。また、再加熱装置30の入口における光ファイバ裸線16の表面温度が200〜500℃の場合には、いずれの線速でも、光ファイバ素線に残留圧縮応力が付与されていないことが確認された。
またこれらの残留圧縮応力が付与されていないかまたは残留圧縮応力の有無状況が長さ方向にばらついている光ファイバ素線について、実際に曲げを付与した場合には、曲げ径2.0mmφまで曲げれば、いずれも曲げの外側に亀裂もしくは破断が生じてしまうことが確認された。
【0049】
以上の実施例2および比較例2における各線速、各冷却時間での、張力解放後の残留圧縮の有無の状況について、図5にまとめて示す。図5から、図3に示すような装置を用いた場合、再加熱直前の表面温度を100℃以下に制御することによって、100〜600m/minの範囲内のいずれの線速で製造した場合でも、張力解放後に安定して残留圧縮応力を付与できることが明らかである。
【符号の説明】
【0050】
10・・・光ファイバ素線製造装置、12・・・光ファイバ母材、14・・・紡糸用加熱炉、16・・・光ファイバ裸線、16A・・・表面層、16B・・・中心部分、18・・・冷却ゾーン、18A・・・強制冷却装置、20・・・コーティング装置、24・・・光ファイバ素線、26・・・引取装置、30・・・再加熱装置、32・・・再冷却ゾーン、32A・・・強制冷却装置、34・・・表面温度検出装置、T・・・張力。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
石英系光ファイバ母材を紡糸用加熱炉にて加熱溶融させ、その紡糸用加熱炉から溶融した母材を線状に引き出して連続的に冷却、凝固させ、得られた光ファイバ裸線に樹脂被覆を施して光ファイバ素線とし、さらにその光ファイバ素線を、引き取り機により張力を付与しつつ連続的に引き取る光ファイバ素線の製造方法において、
前記冷却・凝固された光ファイバ裸線の表面温度が100℃以下となった段階で、前記張力を付与した状態で光ファイバ裸線の表面を再加熱して、光ファイバ裸線の表面層のみを再溶融させ、その後、表面層を再凝固させてから樹脂被覆を施し、これにより、張力を解放した状態で光ファイバ裸線部分の表面層に残留圧縮応力が付与されている光ファイバ素線を得ることを特徴とする、光ファイバ素線の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の光ファイバ素線の製造方法において、
前記紡糸用加熱炉から引き出された線状の母材を、大気中冷却によって冷却・凝固させ、かつ紡糸用加熱炉から引き出されてから前記再加熱を開始するまでの時間を2秒以上とすることを特徴とする、光ファイバ素線の製造方法。
【請求項3】
請求項1に記載の光ファイバ素線の製造方法において、
前記紡糸用加熱炉から引き出された線状の母材を、強制冷却装置を連続的に通過させることによって冷却・凝固させ、かつその強制冷却装置から引き出された光ファイバ裸線の表面温度が100℃以下となった時点で前記再加熱を開始することを特徴とする、光ファイバ素線の製造方法。
【請求項4】
光ファイバ母材を加熱溶融させるための紡糸用加熱炉と、
その紡糸用加熱炉から線状に引き出された光ファイバ裸線を強制冷却して凝固させるための冷却ゾーンと、
冷却・凝固された光ファイバ裸線の表面を、その表面温度が100℃以下となった段階で再加熱して表面層のみを再溶融させるための再加熱装置と、
その再加熱装置により再溶融された光ファイバ裸線の表面層を冷却して再凝固させるための再冷却ゾーンと、
その再冷却ゾーンで冷却された光ファイバ裸線を樹脂により被覆するためのコーティング装置と、
そのコーティング装置により被覆された樹脂が硬化された状態の光ファイバ素線に張力を負荷しつつ引き取るための引取装置、
と有してなることを特徴とする、光ファイバ素線の製造装置。
【請求項5】
請求項4に記載の光ファイバ素線の製造装置において、
前記冷却ゾーンが、大気中で光ファイバ裸線を冷却する構成とされていることを特徴とすることを特徴とする、光ファイバ素線の製造装置。
【請求項6】
請求項4に記載の光ファイバ素線の製造装置において、
前記冷却ゾーンに、光ファイバ裸線を強制冷却するための強制冷却装置が設けられていることを特徴とする、光ファイバ素線の製造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−40063(P2013−40063A)
【公開日】平成25年2月28日(2013.2.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−176740(P2011−176740)
【出願日】平成23年8月12日(2011.8.12)
【出願人】(000005186)株式会社フジクラ (4,463)
【Fターム(参考)】