説明

光フィルター、光フィルターモジュール、分析機器、及び光機器

【課題】ギャップ量を精度良く得る光フィルター及び光フィルターモジュール並びに分析機器及び光機器を提供すること。
【解決手段】光フィルター10は、第1基板20と、第2基板30と、第1基板に設けられた第1反射膜40と、第2基板に設けられた第2反射膜50と、平面視で第1反射膜の周囲の位置にて第1基板に設けられた第1,第2電極62,64と、第2基板に設けられて第1,第2電極と対向する第3,第4電極72,74とを有する。第2電極64は第1スリットを有し、第1電極に接続された第1配線は第1スリットが形成された領域を経て第1基板の外周領域に延在する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光フィルター、光フィルターモジュール、分析機器、及び光機器等に関する。
【背景技術】
【0002】
透過波長を可変にする干渉フィルターが提案されている(特許文献1)。特許文献1の図3に示すように、互いに平行に保持された一対の基板と、この一対の基板上に互いに対向すると共に一定間隔のギャップを有するように形成された一対の多層膜(反射膜)と、ギャップを制御するための一対の静電駆動電極とを備える。このような波長可変干渉フィルターは、静電駆動電極に印加される電圧によって静電引力を発生させ、ギャップを制御し、透過光の中心波長を変化させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平11−142752号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、こうした波長可変干渉フィルターは、ノイズ等による駆動電圧の変動によって、ギャップ量を精度良く得ることが困難である。
【0005】
本発明は、ギャップ量を精度良く得る光フィルター及び光フィルターモジュール並びに分析機器及び光機器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
(1)本発明の一態様に係る光フィルターは、
第1基板と、
前記第1基板と対向する第2基板と、
前記第1基板に設けられた第1反射膜と、
前記第2基板に設けられ、前記第1反射膜と対向する第2反射膜と、
前記第1基板に設けられ、平面視において、前記第1反射膜の周囲に形成された第1電極と、
前記第1基板に設けられ、平面視において、前記第1電極の周囲に形成された第2電極と、
前記第2基板に設けられ、前記第1電極と対向する第3電極と、
前記第2基板に設けられ、前記第2電極と対向する第4電極と、
前記第1電極に接続された第1配線と、
前記第2電極に接続された第2配線と、
を含み、
前記第2電極は、第1スリットを有し、
前記第1配線は、前記第1電極から前記第1スリットが形成された領域を経て前記第1の基板の外周領域に向かって延在し、
前記第2配線は、前記第2電極の前記第1スリットが形成された領域から前記第1配線に沿って延在していることを特徴とする。
【0007】
本発明の一態様によれば、第2基板に設けられ、第1電極と対向する第3電極と、第2基板に設けられ、第2電極と対向する第4電極と、を有する。これにより、後述するように、一対の電極のみで反射膜間のギャップ量を制御する形態よりも、ギャップ量を精度良く得ることができる。
【0008】
(2)本発明の一態様では、
前記第1電極と前記第2電極とは、電気的に独立しており、
前記第3電極と前記第4電極とは、接続部を介して、電気的に接続されていることを特徴とする。
【0009】
第3電極と第4電極とは、接続部を介して、電気的に接続されているため、第3電極および第4電極を共通電極とすることができる。
【0010】
(3)本発明の一態様では、
前記第1電極は、第1リング形状を有し、
前期第2電極は、第2リング形状を有することを特徴とする。
第1電極および第2電極はリング形状であるため、ギャップを制御する際に、反射膜間の平行度を高く保つことができる。
【0011】
(4)本発明の一態様では、
前記第3電極は、第3リング形状を有し、
前記第4電極は、第4リング形状を有することを特徴とする。
【0012】
第3電極および第4電極はリング形状であるため、ギャップを制御する際に、反射膜間の平行度を高く保つことができる。
【0013】
(5)本発明の一態様では、
前記第3電極は、第3リング形状を有し、
前記第4電極は、第2スリットを有する第4リング形状を有し、
平面視において、前記第2スリットは前記第1スリットと重なることを特徴とする。
【0014】
平面視において、第2スリットは第1スリットと重なっている。つまり、第1スリットの領域に形成された第1配線の一部の上方には、第4電極が形成されていない。これにより、第1配線に電圧が印加されたとしても、第1配線と第4電極との間において、不要な静電引力が発生することを抑制することができる。
【0015】
(6)本発明の一態様では、
前記第3電極に接続された第3配線と、
前記第3電極に接続された第4配線と、
をさらに含むことを特徴とする。
【0016】
第3電極に、第3配線および第4配線が接続されるため、配線抵抗を少なくすることができる。
【0017】
(7)本発明の一態様では、
前記第1基板は、平面視において、第1仮想直線を有し、
前記第1配線、および前記第2配線は、前記第1仮想直線に沿った第1方向に延在し、
前記第3配線、および前記第4配線は、前記第1仮想直線に沿った第1方向に延在することを特徴とする。
【0018】
このように、第1配線、第2配線、第3配線および第4配線を形成することで、外部との接続部を1ヶ所に集中することができ、チップを小型化することが可能になる。
【0019】
(8)本発明の一態様では、
前記第2電極のリング幅は、前記第1電極のリング幅よりも大きく、
前記第4電極のリング幅は、前記第2電極のリング幅よりも大きいことを特徴とする。
【0020】
第2電極および第4電極は、第1基板と第2基板との接合部分に近い領域に位置するため、第1電極および第2電極間の静電引力より大きな静電引力が必要となる。よって、第2電極および第4電極のリング幅を大きくすることで、大きな静電引力を発生させることができる。
【0021】
(9)本発明の一態様では、
前記第2基板は、第1部分と、前記第1部分の膜厚よりも薄い第2部分とを有し、
前記第2反射膜は、前記第2基板の前記第1部分に形成され、
前記第3電極および前記第4電極は、前記第2基板の前記第2部分に形成されていることを特徴とする。
【0022】
第3電極および第4電極は、第1部分の膜厚より薄い前記第2部分に形成されているため、ギャップ制御をする際、第1基板を可動し易くできる。
【0023】
(10)本発明の一態様では、
前記第1基板は、第1面と、前記第1面よりも低い第2面とを有し、
前記第1反射膜は、前記第1面に形成され、
前記第1電極および前記第2電極は、前記第2面に形成されていることを特徴とする。
【0024】
(11)本発明の一態様では、
前記第1電極と前記第3電極との間の電位差と、前記第2電極と前記第4電極との電位差とを制御する電位差制御部をさらに有することを特徴とする光フィルター。
【0025】
(12)本発明の一態様では、
前記電位差制御部は、前記第2電極と前記第4電極との間の電位差を第1電位差に設定した後に、前記第1電極と前記第3電極との間の電位差を第2電位差に設定することを特徴とする。
【0026】
これにより、後述するように、ギャップ制御を容易に行うことができる。
【0027】
(13)本発明の一態様では、
前記電位差制御部は、前記第1電位差に設定した状態で、前記第2電位差に設定することを特徴とする。
【0028】
第1電位差に設定した状態で第2電位差に設定するため、後述するように、迅速なギャップ制御を行うことができる。
【0029】
(14)本発明の一態様では、
前記電位差制御部は、
前記第2電極と前記第4電極との間の電位差を第1電位差に設定し、
前記第1電位差に設定した後に、前記第2電極と前記第4電極との間の電位差を前記第1電位差より大きい第2電位差に設定し、
前記第2電位差に設定した状態で、前記第1電極と前記第3電極との間の電位差を第3電位差に設定し、
前記第3電位差に設定した後に、前記第2電極と前記第4電極との間の電位差を前記第2電位差に設定した状態で、前記第1電極と前記第3電極との間の電位差を前記第3電位差より大きい第4電位差に設定することを特徴とする。
【0030】
これにより、より多段階でのギャップ制御を行うことができる。また、第1電位差から第1電位差より大きい第2電位差に設定し、第3電位差から第3電位差より大きい第4電位差に設定するため、迅速なギャップ制御を行うことができる。
【0031】
(15)本発明の一態様では、
前記第2電位差に設定されている期間は、前記第1電位差に設定されている期間よりも長く、
前記第4電位差に設定されている期間は、前記第3電位差に設定されている期間よりも長いことを特徴とする。
【0032】
これにより、後述するように、所望のギャップ間隔に安定させることができる。
【0033】
(16)本発明の一態様では、
前記電位差制御部は、
前記第2電極と前記第4電極との間の電位差を第1電位差に設定し、
前記第1電位差に設定した後に、前記第2電極と前記第4電極との間の電位差を前記第1電位差より大きい第2電位差に設定し、
前記第2電位差に設定した後に、前記第2電極と前記第4電極との間の電位差を前記第2電位差より大きい第3電位差に設定し、
前記第3電位差に設定した状態で、前記第1電極と前記第3電極との間の電位差を第4電位差に設定し、
前記第4電位差に設定した後に、前記第2電極と前記第4電極との間の電位差を前記第3電位差に設定した状態で、前記第1電極と前記第3電極との間の電位差を前記第4電位差より大きい第5電位差に設定し、
前記第5電位差に設定した後に、前記第2電極と前記第4電極との間の電位差を前記第3電位差に設定した状態で、前記第1電極と前記第3電極との間の電位差を前記第5電位差より大きい第6電位差に設定し、
前記第2電位差と前記第3電位差との差の絶対値は、前記第1電位差と前記第2電位差との差の絶対値よりも小さく、
前記第5電位差と前記第6電位差との差の絶対値は、前記第4電位差と前記第5電位差との差の絶対値よりも小さいことを特徴とする。
【0034】
これにより、後述するように、所望のギャップ間隔に安定させることができる。
【0035】
(17)本発明の一態様に係る光フィルターモジュールは、
前述の光フィルターを透過した光を受光する受光素子と、を含む。
【0036】
(18)本発明の一態様に係る分析機器は、
前述に記載の光フィルターを含む。
【0037】
(19)本発明の一態様に係る光機器は、
前述に記載の光フィルターを含む。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明の一実施例である光フィルターの電圧非印加状態を示す断面図である。
【図2】図1に示す光フィルターの電圧印加状態を示す断面図である。
【図3】図3(A)は下部電極の平面図であり、図3(B)は上部電極の平面図である。
【図4】図4(A)(B)は、下部、上部電極の重なり状態を第2基板側から見た平面図である。
【図5】第2基板側から第2基板を透視して、第1〜第4引き出し配線の配線レイアウトを示す平面図である。
【図6】光フィルターの印加電圧制御系ブロック図である。
【図7】電圧テーブルデータの一例を示す特性図である。
【図8】電圧テーブルデータに従って実現される電圧印加のタイミングチャートである。
【図9】光フィルターの第1,第2反射膜間ギャップと透過ピーク波長との関係を示す特性図である。
【図10】第1,第2電極間の電位差と静電引力との関係を示す特性図である。
【図11】図7に示す電位差、ギャップ及び可変波長に関する実施例のデータを示す特性図である。
【図12】図11に示す印加電圧とギャップとの関係を示す特性図である。
【図13】図11に示す印加電圧と透過ピーク波長との関係を示す特性図である。
【図14】図14(A)(B)は比較例の第1,第2電極を示す平面図である。
【図15】電位差、ギャップ及び可変波長に関する比較例のデータを示す特性図である。
【図16】図15に示す印加電圧とギャップとの関係を示す特性図である。
【図17】図15に示す印加電圧と透過ピーク波長との関係を示す特性図である。
【図18】本発明の第2の実施形態に係る光フィルターを示す図で、図18(A)は下部電極の平面図であり、図18(B)は上部電極の平面図である。
【図19】本発明の第3の実施形態に係る光フィルターの電圧非印加状態を示す断面図である。
【図20】本発明の更に他の実施形態である分析装置のブロック図である。
【図21】図20に示す装置での分光測定動作を示すフローチャートである。
【図22】本発明の更に他の実施形態である光機器のブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0039】
以下、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、以下に説明する本実施形態は特許請求の範囲に記載された本発明の内容を不当に限定するものではなく、本実施形態で説明される構成の全てが本発明の解決手段として必須であるとは限らない。
【0040】
1.光フィルター
1.1.光フィルターのフィルター部
1.1.1.フィルター部の概要
図1は本実施形態の光フィルター10の電圧非印加状態の断面図であり、図2は電圧印加状態の断面図である。図1及び図2に示す光フィルター10は、第1基板20と、第1基板20と対向する第2基板30とを含む。本実施形態では、第1基板20を固定基板とし、第2基板30を可動基板またはダイヤフラムとするが、いずれか一方又は双方が可動であれば良い。
【0041】
本実施形態では、第1基板20と例えば一体で、第2基板30を可動に支持する支持部22が形成されている。支持部22は、第2基板30に設けても良く、あるいは第1,第2基板20,30とは別体で形成しても良い。
【0042】
第1,第2基板20,30は、それぞれ例えば、ソーダガラス、結晶性ガラス、石英ガラス、鉛ガラス、カリウムガラス、ホウケイ酸ガラス、無アルカリガラスなどの各種ガラスや、水晶などにより形成されている。これらの中でも、各基板20,30の構成材料としては、例えばナトリウム(Na)やカリウム(K)などのアルカリ金属を含有したガラスが好ましく、このようなガラスにより各基板20,30を形成することで、後述する反射膜40,50や、各電極60,70の密着性や、基板同士の接合強度を向上させることが可能となる。そして、これらの2つの基板20,30は、例えばプラズマ重合膜を用いた表面活性化接合などにより接合されることで、一体化されている。第1,第2基板20,30の各々は、一辺が例えば10mmの正方形に形成され、ダイヤフラムとして機能する部分の最大直径は例えば5mmである。
【0043】
第1基板20は、厚みが例えば500μmに形成されるガラス基材をエッチングにより加工することで形成される。第1基板20は、第2基板30と対向する対向面のうちの中央の第1対向面20A1に、例えば円形の第1反射膜40が形成されている。同様に、第2基板30は、厚みが例えば200μmに形成されるガラス基材をエッチングにより加工することで形成される。第2基板30は、第1基板20と対向する対向面30Aの中央位置に、第1反射膜40と対向する例えば円形の第2反射膜50が形成されている。
【0044】
なお、第1,第2反射膜40,50は、例えば直径が約3mmの円形状に形成されている。この第1,第2反射膜40,50は、AgC単層により形成される反射膜であり、スパッタリングなどの手法により第1,第2基板20,30に形成することができる。AgC単層反射膜の膜厚寸法は、例えば0.03μmに形成されている。本実施形態では、第1,第2反射膜40,50として、可視光全域を分光できるAgC単層の反射膜を用いる例を示すが、これに限定されず、分光可能な波長域が狭いが、AgC単層反射膜よりも、分光された光の透過率が大きく、透過率の半値幅も狭く分解能が良好な、例えばTiO2とSiO2との積層膜を積層した誘電体多層膜を用いてもよい。
【0045】
さらに、第1,第2基板20,30の各対向面20A1,20A2,30Aとは逆側の面にて、第1,第2反射膜40,50に対応する位置に図示しない反射防止膜(AR)を形成することができる。この反射防止膜は、低屈折率膜および高屈折率膜を交互に積層することで形成され、第1,第2基板20,30の界面での可視光の反射率を低下させ、透過率を増大させる。
【0046】
これら第1,第2反射膜40,50は、図1に示す電圧非印加状態にて第1ギャップG1を介して対向配置されている。なお、本実施形態では、第1反射膜40を固定鏡とし、第2反射膜50を可動鏡とするが、上述した第1,第2基板20,30の態様に応じて、第1,第2反射膜40,50のいずれか一方又は双方を可動とすることができる。
【0047】
平面視で第1反射膜40の周囲の位置であって、第1基板20の第1対向面20A1の周囲の第2対向面20A2には、例えば下部電極60が形成されている。同様に、第2基板30の対向面30Aには、下部電極60と対向して上部電極70が設けられている。下部電極60と上部電極70は、第2ギャップG2を介して、対向配置されている。なお、下部、上部電極60,70の表面は、絶縁膜にて被覆することができる。
【0048】
本実施形態では、第1基板20が第2基板30と対向する面は、第1反射膜40が形成される第1対向面20A1と、平面視で第1対向面20A1の周囲に配置されて、下部電極60が形成される第2対向面20A2とを有する。第1対向面20A1と第2対向面20A2とは同一面であっても良いが、本実施形態では第1対向面20A1と第2対向面20A2との間には段差があり、第1対向面20A1の方が第2対向面20A2よりも第2基板30に近い位置に設定している。これにより、第1ギャップG1<第2ギャップG2の関係が成立する。
【0049】
下部電極60は、電気的に独立した少なくともK(Kは2以上の整数)個のセグメント電極に分割され、本実施形態ではK=2の例として第1,第2電極62,64を有する。つまり、K個のセグメント電極62,64はそれぞれ、異なる電圧に設定可能である一方で、上部電極70は、同電位となる共通電極である。上部電極70も第3、第4電極72、74に分割されている。第3、第4電極72、74は、同電位となる共通電極としなくてもよく、第3電極72と第4電極74とが電気的に独立している(独立して制御できる)構造であってもよい。例えば、第3電極72と第4電極74とは、図4(A)で示すような構造とすることができる。また、下部電極60および上部電極70の構造は、第1電極62と第3電極72との間の電位差と、第2電極64と第4電極74との間の電位差とが、独立に制御可能であればよい。なお、K≧3の場合には、第1,第2電極62,64に関して以下にて説明する関係は、相隣り合う任意の2つのセグメント電極について適用することができる。
【0050】
このような構造の光フィルター10は、第1,第2基板20,30が共に、反射膜(第1,第2反射膜40,50)が形成される領域と、電極(下部、上部電極60,70)が形成される領域とは、平面視で異なる領域となり、特許文献1のように反射膜と電極とが積層されることはない。よって、第1,第2基板20,30の少なくとも一方(本実施形態では第2基板30)が可動基板とされても、反射膜と電極が積層されないために可動基板は撓み易さを確保できる。しかも、特許文献1とは異なり、下部、上部電極60,70上には反射膜が形成されないので、透過型または反射型波長可変干渉フィルターとして光フィルター10を利用しても、下部、上部電極60,70を、透明電極とする制約も生じない。なお、透明電極であっても透過特性には影響を与えるため、下部、上部電極60,70上に反射膜が形成されてない事によって、透過型波長可変干渉フィルターである光フィルター10は所望の透過特性が得られる。
【0051】
また、この光フィルター10では、平面視で第2反射膜50の周囲に配置された上部電極70に共通電圧(例えば接地電圧)を印加し、平面視で第1反射膜40の周囲に配置された下部電極60を構成するK個のセグメント電極62,64の個々に独立した電圧を印加して、図2に示すように対向電極間に矢印で示す静電引力を作用させることで、第1,第2反射膜40,50間の第1ギャップG1を初期ギャップの大きさよりも小さいギャップとなるように可変する。
【0052】
つまり、電圧印加状態の光フィルター10を示す図2の通り、第1電極62及びそれと対向する上部電極70とで構成される第1ギャップ可変駆動部(静電アクチュエーター)80と、第2電極64及びそれと対向する上部電極70とで構成される第2ギャップ可変駆動部(静電アクチュエーター)90とが、それぞれ独立して駆動される。
【0053】
このように、平面視で第1,第2反射膜40,50の周囲にのみ配置された独立する複数(K個)のギャップ可変駆動部80,90を有することで、K個のセグメント電極62,64に印加する電圧の大きさと、K個のセグメント電極62,64の中から電圧を印加するために選択されたセグメント電極数との、2つのパラメーターを変化させることで、第1,第2反射膜40,50間のギャップの大きさを制御する。
【0054】
特許文献1のように、パラメーターが電圧の種類だけでは、大きなギャップ可動範囲と、ノイズ等による電圧変動に対する低感度とを、両立することが困難であった。本実施形態のように、電極数というパラメーターを加えることで、電圧だけで制御する場合と同じ印加電圧範囲を個々のセグメント電極に適用することで、大きなギャップ可動範囲の中で、より微調整された静電引力を発生させて、精細なギャップ調整を行うことが可能となる。
【0055】
ここで、印加電圧の最大値をVmaxとし、ギャップをN段階で可変するものとする。下部電極60が複数に分割されていない場合には、最大電圧VmaxをN分割して印加電圧を割り当てる必要がある。このとき、異なる印加電圧間の電圧変化量の最小値をΔV1minとする。一方、本実施形態では、K個のセグメント電極の各々への印加電圧は、最大電圧Vmaxを平均的には(N/K)分割して割り当てればよい。このとき、K個のセグメント電極の各々について、同一セグメント電極に印加される異なる印加電圧間の電圧変化量の最小値をΔVkminとする。その場合、ΔV1min<ΔVkminが成立することが明らかである。
【0056】
このように、電圧最小変化量ΔVkminを大きく確保できれば、電源変動や環境等に依存したノイズによってK個の第1,第2電極62,64への印加電圧が多少変動してもギャップ変動は小さくなる。つまり、ノイズに対する感度が小さい、換言すれば電圧感度が小さくなる。それにより、高精度なギャップ制御が可能となり、特許文献1のようにギャップを帰還制御することは必ずしも要しない。また、ギャップを帰還制御したとしても、ノイズに対する感度が小さいために早期に安定させることができる。
【0057】
本実施形態では、可動基板である第2基板30の撓み性を確保するために、図1に示すように、上部電極70が形成される領域を例えば厚み寸法が50μm程度の薄肉部34としている。この薄肉部34は、第2反射膜50が配置される領域の厚肉部32、および支持部22と接触する領域の厚肉部36よりも肉薄に形成されている。換言すれば、第2基板30は、第2反射膜50及び上部電極70が形成される面30Aは平坦面であり、第2反射膜50が配置される第1領域に厚肉部32が形成され、上部電極70が形成される第2領域に薄肉部34が形成される。こうして、薄肉部34にて撓み性を確保しながら、厚肉部32を撓み難くすることで、第2反射膜50は平面度を保ってギャップを可変することが可能となる。
【0058】
なお、本実施形態では、独立した複数(K個)のギャップ可変駆動部はそれぞれ、一対の電極からなる静電アクチュエーターで構成したが、それらの少なくとも一つを圧電素子等の他のアクチュエーターに置き換えても良い。ただし、非接触で吸引力を与える静電アクチュエーターは、複数あるギャップ可変駆動部同士の干渉が少なく、ギャップを高精度に制御する上で適している。これとは異なり、例えば2つの圧電素子を第1,第2基板20,30間に配置した場合、駆動していない圧電素子が、他の駆動している圧電素子によるギャップ変位を妨げる存在となる等が生じ、複数のギャップ可変駆動部を独立して駆動する方式にとっては弊害を生じる。その点から、複数のギャップ可変駆動部は静電アクチュエーターで構成することが好ましい。
【0059】
1.1.2.下部電極
下部電極60を構成するK個のセグメント電極62,64は、図3(A)の通り、第1反射膜40の中心に対して同心リング状に配置することができる。つまり、第1電極62は第1リング状電極部62Aを有し、第2電極64はリング状電極部62Aの外側に第2リング状電極部64Aを有し、各リング状電極部62A,64Aが第1反射膜に対して同心リング状に形成される。なお、「リング状」または「リング形状」とは、無端リングに限らず不連続リング形状も含み、円形リングに限らず矩形リングまたは多角形リング等を含む用語である。
【0060】
こうすると、図2に示すように、第1反射膜40の中心線Lに対して、第1,第2電極62,64の各々が線対称配置となる。これにより、電圧印加時に下部、上部電極60,70間に作用する静電引力F1,F2は、第1反射膜40の中心線Lに対して線対称に作用するので、第1,第2反射膜40,50の平行度が高まる。
【0061】
なお、図3(A)に示すように、第2電極64のリング幅W2は、第1電極62のリング幅W1よりも広くすることができる(W2>W1)。静電引力は電極面積に比例し、第2電極64により生じさせる静電引力F2の方が、第1電極62により生じさせる静電引力F1よりも大きく求められるからである。さらに詳しく言えば、外側の第2電極64は、ヒンジ部として機能する支持部22(以下、ヒンジ部22ともいう。)に対して第1電極62よりも近くに設けられる。このため、第2電極64はヒンジ部22での抵抗力に抗する大きな静電引力F2を発生する必要がある。外側の第2電極64は、内側の第1電極62に比べて直径が大きく、幅W1=幅W2であっても第2電極64の面積は大きい。よって、幅W1=幅W2としてもよいが、リング幅W2をより広げることにより、更に面積を増大させて大きな静電引力F2の発生を可能とした。特に、後述するように、外側の第2電極64を内側の第1電極62よりも先に駆動する場合には、第2電極64と上部電極70との間の初期ギャップG2が大きいので、第2電極64の面積を広くして大きな静電引力F2を発生できる点でも有利となる。その場合、内側の第1電極62の駆動時には、第2電極64の駆動状態が維持されている限りギャップは小さくなっているので、第1電極62のリング幅W1は小さくても駆動上の弊害はない。
【0062】
ここで、第1電極62には第1引き出し配線62Bが、第2電極64には第2引き出し電極64Bがそれぞれ接続される。これら第1,第2引き出し電極62B,64Bは例えば第1反射膜40の中心から第1基板の外周方向に向けて延在形成される。第2電極64には、第2リング状電極部64Aを不連続とする第1スリット64Cが設けられている。内側の第1電極62から延びる第1引き出し配線62Bは、外側の第2電極64に形成された第1スリット64Cを通って、第2電極64の外方に引き出される。外側の第2電極64から延びる第2引き出し配線64Bは、第1スリット64Cが形成された領域から第1配線62Bに沿って引き出される。
【0063】
このように、第1,第2電極62,64をそれぞれリング状電極部62A,64Aとした場合に、外側の第2電極64に形成された第1スリット64Cにより、内側の第1電極62の第1引き出し配線62Bの取り出し経路を容易に確保できる。
【0064】
1.1.3.上部電極
第2基板30に配置された上部電極70は、第2基板30のうち、第1基板20に形成された下部電極60(第1,第2電極62,64)と対向する領域を含む域に形成することができる。上部電極70を同一電圧に設定される共通電極とする場合は、例えば、ベタ電極にしてもよい。
【0065】
これに代えて、本実施形態のように第1基板20に対して変位する第2基板30に配置された上部電極70は、下部電極60と同様に、K個のセグメント電極とすることができる。このK個のセグメント電極もまた、第2反射膜50の中心に対して同心リング状に配置することができる。こうすると、可動である第2基板30に形成される電極面積は、必要最小限に縮小されるので、第2基板30の剛性が低くなり、撓み易さを確保できる。
【0066】
上部電極70を構成するK個のセグメント電極は、図1、図2及び図3(B)に示すように、第3電極72及び第4電極74を有することができる。第3電極72は第3リング状電極部72Aを有し、第4電極74は第3リング状電極部62Aの外側に第4リング状電極部74Aを有し、各リング状電極部72A,74Aが第2反射膜に対して同心リング状に形成される。「同心リング状」の意味は、下部電極60に対するものと同一である。第3電極72は第1電極62と対向し、第4電極74は第2電極64と対向している。よって、本実施形態では第4電極74のリング幅(第2電極64のリング幅W2と同じ)は、第3電極72のリング幅(第1電極62のリング幅W1と同じ)よりも広い。
【0067】
また、第3,第4電極72,74同士は電気的に接続されて、同一電位に設定してもよい。この場合、例えば第3,第4引き出し電極76A,76Bは共通電極として形成することができ、例えば第2反射膜50の中心から外側に向けて延在形成される。このとき、第3,第4引き出し電極76A,76Bの各々は、内側の第3電極72と外側の第4電極74の双方と電気的に接続される。なお、第3,第4電極72,74は、共通電極としているため、1本の引き出し電極により接続されても良いが、引き出し電極を複数とすることで配線抵抗を少なくして、共通電極の充放電速度を速めることも可能である。なお、第3、第4電極72、74が、電気的に独立している構造の場合は、それぞれの電極に引き出し電極が形成される。
【0068】
1.1.4.下部、上部電極の重合領域
図4(A)は、本実施形態の下部、上部電極60,70を第2基板30側から見た平面視での重なり状態を示している。図4(A)において、下側に位置する下部電極60は、第1,第2電極62,64が第2電極の第3,第4電極72,74と対向しているため、第2基板30側から見た平面視では現れない。下側に位置する下部電極60は、ハッチングで示すように第2引き出し配線64Bのみが、第2基板30側から見た平面視で現れている。
【0069】
本実施形態では、図3(A)に示すように、下部電極60のうちの外側の第2電極64は、第1スリット64Cを有するので、このスリット64Cの領域では第2電極64に印加した電圧に基づく静電引力F2(図2参照)は作用しない。
【0070】
一方、この第1スリット64C内には図3(A)に示すように第1引き出し配線62Bが配置されるので、内側の第1電極62と同電位である第1引き出し配線62Bと、外側の第4電極74間に作用する静電引力F1(図2参照)を第1スリット64C内にて生じさせることができる。その利点として、例えば第1,第2電極62,64を実質的に同電圧で駆動した場合には、外側の第4電極74のほぼ全周(第1スリット64Cとの対向領域74A1を含む)に均等な静電引力を生じさせることができる。
【0071】
図4(B)は、変形例である下部、上部電極60,70’を第2基板30側から見た平面視での重なり状態を示している。図4(B)の上部電極70’が図4(A)の上部電極70と相違する点は、第4電極74が、下部電極60の第1スリット64Cと対向する位置にて第4リング状電極部74A’を不連続とする第2スリット78をさらに有する点である。その余の点では、図4(B)の上部電極70’は図4(A)の上部電極70と同一である。
【0072】
こうすると、第4引き出し配線76Bと対向する第2電極64が存在しなくなる。よって、内側の第1電極62を駆動した時、内側の第1電極62と同電位である第1引き出し配線62Bと、外側の第4電極74’間に作用する不要な静電引力が、第1スリット64C内で発生することを阻止できる。
【0073】
1.1.5.引き出し配線
図5は、第2基板30側から第2基板30を透視した平面図であり、第1〜第4引き出し配線62B,64B,76A,76Bの配線レイアウトを示している。図5において、第1,第2基板20,30の少なくとも一方が、第1及び第2対角線を有する矩形基板とされる。本実施形態では、第1,第2基板20,30の各々が、一辺が例えば10mmの正方形に形成されている。第1引き出し配線62Bが、第1対角線に沿って第1電極62Aより延びる方向を第1方向D1としたとき、第2引き出し配線64Bも、第1方向D1に延びている。さらに、第3引き出し配線76Aと第4引き出し配線は、1本にまとめられ、第1方向D1に延びている。そして、平面視にて矩形基板20,30のひとつの隅の位置に、第1〜第4引き出し配線62B,64B,76A,76Bが接続される第1〜第4接続電極部101〜103が設けられている。本実施形態においては、第1〜4接続電極部101〜103をひとつの隅の位置にまとめているため、外部との接続を一ヶ所に集中することができ、チップを小型化することが可能な構成となっている。
【0074】
なお、第1〜第3外部接続電極部101〜103は、第1,第2基板20,30のいずれか一方か、あるいは双方に各一部を設けても良い。第1,第2基板20,30のいずれか一方にのみ第1〜第3外部接続電極部101〜103を設ける場合には、第1,第2基板20,30の他方に配置された引き出し配線は、導電性ペースト等によって一方の基板に形成された外部接続電極部に接続することができる。なお、第1〜第3外部接続電極部101〜103は、リード線またはワイヤボンディング等の接続部を介して、外部と接続される。
【0075】
また、第1〜第4引き出し配線62B,64B,76A,76Bは、第1,第2基板20,30を接合する例えばプラズマ重合膜と交差してもよい。あるいは、第1,第2基板20,30の接合面の一方に設けた溝部を介して、第1〜第4引き出し配線62B,64B,76A,76Bを、接合面を超えて外部に引き出しても良い。
【0076】
1.2.光フィルターの電圧制御系
1.2.1.印加電圧制御系ブロックの概要
図6は、光フィルター10の印加電圧制御系ブロック図である。図6に示すように、光フィルター10は、下部電極60と上部電極70との間の電位差を制御する電位差制御部110を有する。本実施形態では、共通電極である上部電極70(第3,第4電極72,74)は一定の共通電圧例えば接地電圧(0V)に固定されているため、電位差制御部110は、下部電極60を構成するK個のセグメント電極である第1,第2電極62,64への印加電圧を変化させて、第1,第2電極62,64の各々と上部電極70との間の内周側電位差ΔVseg1及び外周側電位差ΔVseg2をそれぞれ制御する。なお、上部電極70は接地電圧以外の共通電圧を印加してもよく、その場合、電位差制御部110が上部電極70に共通電圧の印加/非印加を制御しても良い。
【0077】
図6では、電位差制御部110は、第1電極62に接続された第1電極駆動部例えば第1デジタル−アナログコンバーター(DAC1)112と、第2電極64に接続された第2電極駆動部例えば第2デジタル−アナログコンバーター(DAC2)114と、それらを制御例えばデジタル制御するデジタル制御部116とを含んでいる。第1,第2デジタル−アナログコンバーター112,114には電源120からの電圧が供給される。第1,第2デジタル−アナログコンバーター112,114は、電源120からの電圧の供給を受けると共に、デジタル制御部116からのデジタル値に応じたアナログ電圧を出力する。電源120は、光フィルター10が装着される分析機器または光機器に装備されているものを利用できるが、光フィルター10専用の電源を用いても良い。
【0078】
1.2.2.光フィルターの駆動方法
図7は、図6に示すデジタル制御部116での制御の元データである電圧テーブルデータの一例を示す特性図である。この電圧テーブルデータは、デジタル制御部116自体に設けても良いし、あるいは光フィルター10が装着される分析機器または光機器に装備しても良い。
【0079】
図7は、K個の第1,第2電極62,64の各々に順次電圧を印加することで、計N段階で第1,第2反射膜40,50の間のギャップを可変するための電圧テーブルデータとして、N=9の例を示している。なお、図7では、第1,第2電極62,64の双方と上部電極70との間の各電位差が共に0Vであるときは、N段階のギャップ可変範囲に含めていない。図7は、第1,第2電極62,64の少なくとも一方に、上部電極70に印加される共通電圧の電圧値(0V)以外の電圧値が印加される場合のみを示している。ただし、第1,第2電極62,64の双方と上部電極70との間の各電位差が共に0Vであるときを、透過ピーク波長が最大であると定義しても良い。
【0080】
電位差制御部110は、図7に示す電圧テーブルデータに従って、K個のセグメント電極(第1,第2電極62,64)毎に設定された電圧値を、K個のセグメント電極(第1,第2電極62,64)の各々に印加している。図8は、図7に示す電圧テーブルデータのデータ番号順に駆動することで実現される電圧印加のタイミングチャートである。
【0081】
図7及び図8に示すように、第1電極62には、L=4種類の電圧(VI1〜VI4:VI1<VI2<VI3<VI4)を印加し、第2電極64には、M=5種類の電圧(VO1〜VO5:VO1<VO2<VO3<VO4<VO5)を印加し、第1,第2反射膜40,50の間の第1ギャップG1をg0〜g8の9(N=L+M=9)段階にて可変している。
【0082】
このような電圧制御により、光フィルター10では、図9に示す波長透過特性を実現できる。図9は、第1,第2反射膜40,50間の第1ギャップG1の大きさを例えばg0〜g3に変化した時の波長透過特性を示している。光フィルター10では、第1,第2反射膜40,50の間の第1ギャップG1の大きさが例えばg0〜g3(g0>g1>g2>g3)と可変されると、その第1ギャップG1の大きさに応じて透過ピーク波長が決定される。すなわち、光フィルター10を透過する光の波長λは、その半波長(λ/2)の整数(n)倍が第1ギャップG1と一致する光であり(n×λ=2G1)、半波長(λ/2)の整数(n)倍が第1ギャップG1と一致しない光は、第1,第2反射膜40,50により多重反射される過程で干渉しあって減衰され、透過することがない。
【0083】
したがって、図9に示すように、第1,第2反射膜40,50間の第1ギャップG1の大きさをg0、g1、g2、g3と狭めるように変化させることで、光フィルター10を透過する光、すなわち透過ピーク波長がλ0、λ1、λ2、λ3(λ0>λ1>λ2>λ3)と、順次短くなるように変化する。
【0084】
ここで、L,M,Nの値は任意に変更できるが、L≧3,M≧3、N≧6の整数とすることが好ましい。L≧3,M≧3、N≧6とすると、第1,第2電極62,64毎に設定されている、第1電位差ΔV1から、第1電位差ΔV1より大きい第2電位差ΔV2、第2電位差ΔV2より大きい第3電位差ΔV3へと、内周側電位差ΔVseg1及び外周側電位差ΔVseg2をそれぞれ切り替えることができる。
【0085】
図7に示すように、電位差制御部110は、先ず、外側の第2電極64に電圧VO1〜電圧VO5を順次印加する。上部電極70が0Vであることから、上部電極70と第2電極64との間の電位差は、第1電位差VO1、第2電位差VO2、第3電位差VO3、第4電位差VO4、第5電位差VO5と、外周側電位差Vseg2を順次大きくすることができる。それにより、第1,第2反射膜40,50間の第1ギャップG1の大きさが、go→g1→g2→g3→g4と順次狭まる。この結果、光フィルター10を透過する光、すなわち透過ピーク波長がλ0→λ1→λ2→λ3→λ4と、順次短くなるように変化する。
【0086】
次に電位差制御部110は、図7に示すように、第2電極64への最大印加電圧VO5の印加を維持したまま、電位差制御部110は、内側の第1電極62に電圧VI1〜電圧VI4を順次印加する。上部電極70が0Vであることから、上部電極70と第1電極62との間の電位差は、第1電位差VI1、第2電位差VI2、第3電位差VI3、第4電位差VIO4と、内周側電位差Vseg1を順次大きくすることができる。それにより、第1,第2反射膜40,50間の第1ギャップG1の大きさが、g5→g6→g7→g8と順次小さくな。この結果、光フィルター10を透過する光、すなわち透過ピーク波長がλ5→λ6→λ7→λ8と、順次短くなるように変化する。
【0087】
電位差制御部110は、外周側電位差Vseg2ついて少なくとも、第1電位差VO1から、第1電位差VO1より大きい第2電位差VO2へ、さらに第2電位差VO2よりも大きい第3電位差VO3に切り替え、内周側電位差Vseg1について少なくとも、第1電位差VI1から、第1電位差VI1より大きい第2電位差VI2へ、さらに第2電位差VI2よりも大きい第3電位差VI3に切り替えるため、可動側の第2基板30の減衰自由振動を抑制することができ、迅速な波長可変動作が実施することができる。しかも、電位差制御部110は、第1,第2電極62,64の各々に対して3値以上の電圧(電圧0を含んでも良い)として、第1電極62に対して少なくとも第1セグメント電圧VI1、第2セグメント電圧VI2及び第3セグメント電圧VI3を、第2電極64に対して少なくとも第1セグメント電圧VO1、第2セグメント電圧VO2及び第3セグメント電圧VO3を印加している。よって、第1,第2電極62,64の各一つを駆動するだけで、それぞれ3段階以上のギャップ可変が可能となり、下部電極60のセグメント電極数を無用に多くする必要がない。
【0088】
1.2.3.電圧変化量(第1電位差と第2電位差との差の絶対値等)
電位差制御部110は、内周側電位差Vseg1及び外周側電位差Vseg2の各々について、第2電位差と第3電位差との差の絶対値を、第1電位差と第2電位差との差の絶対値よりも小さくすることができる。本実施形態では上部電極70は共通電圧0Vで不変であるので、例えば外周側電位差Vseg2としての第1電位差と第2電位差との差の絶対値とは、図7及び図8に示すように、第2電極64に印加される第1セグメント電圧VO1及び第2セグメント電圧VO2間の電圧変化量ΔVO1と等価である。図7及び図8に示すように、外周側電位差Vseg2の電圧変化量は、ΔVO1>ΔVO2>ΔVO3>ΔVO4と順次小さくなる関係にあり、内周側電位差Vseg1電圧変化量も、ΔVI1>ΔVI2>ΔVI3と順次小さくなる関係にある。
【0089】
このような関係にした理由は次の通りである。
【0090】
静電引力Fは、「F=(1/2)ε(V/G)2S」と示すことができる。ここで、ε:誘電率、V:印加電圧、G:電極間ギャップ、S:電極対向面積である。この式から、静電引力Fは、下部、上部電極60,70間の電位差(本実施形態では下部電極60への印加電圧V)の二乗に比例する。図10は、電位差Vの二乗に比例する静電引力Fの特性図(F=V2の図)である。図10に示すように、電位差Vが大きくなる方向に、第1電位差、第2電位差、第3電位差と切り替えたとき、第1電位差と第2電位差との差の絶対値ΔV1と、第2電位差と第3電位差との絶対値の差ΔV2が同じ場合(図10ではΔV1=ΔV2)、静電引力の増加量ΔFは、ΔF1からΔF2へと急激に増大することになり、オーバーシュートの原因となる。
【0091】
そこで、第2電位差と第3電位差との差の絶対値ΔV2は、第1電位差と第2電位差との差の絶対値ΔV2よりも小さくする。これにより、ギャップが狭くなった際の静電引力の急激な増大を抑制することができ、オーバーシュートをより抑制することができ、より迅速な波長可変動作を実現することができる。
【0092】
1.2.4.電圧印加期間
電位差制御部110は、内周側電位差Vreg1及び外周側電位差Vreg2の各々について、第2電位差に設定されている期間は、第1電位差に設定されている期間より長く、第3電位差に設定されている期間は、第2電位差に設定されている期間より長くすることができる。本実施形態では、図8に示すように、外周側電位差Vreg2について、第2電位差VO1の期間TO2は、第1電位差VO1の期間TO1よりも長く、第3電位差VO3の期間TO3は、第2電位差VO2の期間TO2よりも長く、TO1<TO2<TO3<TO4<TO5と順次長くなる関係にある。同様に、図8に示すように、内周側電位差Vreg1について、第2電位差VI1の期間TI2は、第1電位差VI1の期間TI1よりも長く、第3電位差VI3の期間TI3は、第2電位差VI2の期間TI2よりも長く、TI1<TI2<TI3<TI4と順次長くなる関係にある。
【0093】
第1電位差よりも大きい第2電位差としたとき、または第2電位差より大きい第3電位差としたとき、第2基板30の復元力も大きくなる。このため、第2基板30が静止するまでの時間が長くなる。すなわち、第1,第2反射膜40,50間の第1ギャップG1が、定位置に安定するまでの時間が長くなる。これに対して、本実施形態のように、第2電位差に設定されている期間を、第1電位差に設定されている期間より長く、第3電位差に設定されている期間を、第2電位差に設定されている期間より長く設定することにより、第1ギャップG1を所定値に安定させることができる。
【0094】
1.2.5.電位差、ギャップ及び可変波長の実施例
図11は、図7に示す電位差、ギャップ及び可変波長の実施例のデータを示す特性図である。図11のデータ番号1〜9は図7のデータ番号1〜9と同一である。図12は、図11に示す印加電圧とギャップとの関係を示す特性図である。図13は、図11に示す印加電圧と透過ピーク波長との関係を示す特性図である。
【0095】
図11では、透過ピーク波長の最大波長λ0=700nmから最小波長λ8=380nmの9段階で透過ピーク波長を可変するために、第1,第2反射膜40,50間の第1ギャップG1は最大ギャップg0=300nmから最小ギャップg8=140nmの9段階に可変されている(図12も参照)。これに対応して、透過ピーク波長は最大波長λ0から最小波長λ8までの9段階に可変されている(図13も参照)。しかも、図11では、最大ギャップg0から最小ギャップg8までの9段階のギャッブg0〜g8を等間隔(=40nm)に設定することにより、最大波長λ0から最小波長λ8までの9段階の波長λ0〜λ8も等間隔(=40nm)となっている。このように、第1,第2反射膜間の第1ギャップG1の大きさを一定量ずつ順次狭まるように変化させることで、透過ピーク波長も一定値ずつ短くなる。
【0096】
電位差制御部110が、外周側電位差Vseg2をVO1=16.9V、VO2=21.4V、VO3=25V、VO4=27.6V、VO5=29.8Vに順次設定し、VO5=29.8Vに維持したまま、内周側電位差Vseg1をVI1=16.4V、VI2=22.2V、VI3=26.3V、VI4=29.3Vに順次設定する。
【0097】
なお、第1,第2反射膜40,50間の第1ギャップG1の大きさは、外周側電位差Vreg2に基づく静電引力F2よりも内周側電位差Vreg1に基づく静電引力F1の影響の方が大きい。よって、先ず内周側電位差Vreg1を変化させた後に、内周側電位差Vreg1を一定値に維持したまま外周側電位差Vreg2を変化させても、内周側電位差Vreg1による静電引力F1が支配的となって第1,第2反射膜40,50間のギャップは外周側電位差Vreg2の通りに変化しない。そこで、本実施形態では先ず外周側電位差Vreg2を変化させた後に、外周側電位差Vreg2を一定値に維持したまま内周側電位差Vreg1を変化させている。
【0098】
電位差制御部110は、外周側電位差Vreg2が外周側最大電位差VO5に到達した後に、外周側電位差Vreg2を外周側最大電位差VO5に維持して内周側電位差Vreg1を変化させている。こうすると、外周側最大電位差VO5にて設定された第1ギャップG1からさらに、内周側電位差Vreg1の印加による1ステップ分のギャップ変化が可能となる。しかも、内周側電位差Vreg1を印加させた後には、既に外周側最大外周側電位差VO5に達しているので、外周側電位差Vreg2をさらに変化させる必要はない。よって、外周側電位差Vreg2を変化させる時には、内周側電位差Vreg1による支配的な静電引力F2の悪影響は生じない。
【0099】
電位差制御部110が内周側電位差Vreg1を内周側最大電位差VI4に設定したとき、第1,第2反射膜40,50間の第1ギャップG1は最小間隔g8に設定される。外周側最大電位差VO5及び内周側最大電位差VI4の各々は、電位差制御部110に供給される最大電圧Vmaxを超えない範囲で実質的に等しくすることができる。本実施形態では、図6に示す電源120から例えば最大電圧Vmax=30Vが電位差制御部110に供給される。このとき、外周側最大電位差VO5は、最大電圧Vmax(30V)を越えない29.8Vに設定され、内周側最大電位差VI4もまた、最大電圧Vmax(30V)を越えない29.3Vに設定されている。
【0100】
図11では、内周側最大電位差VO5及び内周側最大電位差VI4との間には0.5Vの微小な相違があるが、実質的に同一と言える。この微小な相違は、内周側電位差Vreg1及び外周側電位差Vreg2の各々について最大電圧Vmax(30V)を越えない範囲のフルスケール(図12及び図13参照)で、等間隔の透過ピーク波長を得るように設計された結果である。内周側最大電位差VO5及び内周側最大電位差VI4を厳密に一致させるには、第1,第2電極62,64の面積比などを調整することで可能ではあるが、厳密に一致させる必要性は乏しい。なお、本実施形態の駆動法では、内周側最大電位差VO5及び内周側最大電位差VI4を実質的に等しくすることで、図4(A)にて説明したように、外側の第4電極74のほぼ全周(第1スリット64Cとの対向領域74A1を含む)に均等な静電引力を生じさせることができるという利点がある。
【0101】
本実施形態では、電位差制御部110は、K=2個の第1,第2電極62,64の各々に順次電圧を印加することで、計N=9段階で第1,第2反射膜40,50間の第1ギャップG1を可変している。このとき、K=2個の第1,第2電極62,64のうち同一セグメント電極62(または64)に印加される各印加電圧間の電圧変化量の最小値をΔVkminと定義する。図7及び図11の例では、第1電極62についてはΔVkmin=ΔVI3=3.0Vであり、第2電極64についてはΔVkmin=ΔVO4=2.2Vである。電源ノイズが0.1V程度であることを考慮すると、この最小電圧値ΔVkminがノイズに対する感度が小さいことは、以下の比較例との比較からも明らかである。
【0102】
1.2.6比較例
比較例では、図14(A)(B)に示すように、本実施形態の下部電極60に代えて図14(A)に示す下部電極61を、本実施形態の上部電極70に代えて図14(B)に示す上部電極71を用いる。つまり、比較例の下部、上部電極61,71はセグメント分割されていない。
【0103】
図15は、図14(A)(B)に示す下部、上部電極61,71間の電位差と、それにより得られるギャップ及び可変波長のデータを示す特性図である。図15のデータ番号1〜9は図7及び図11のデータ番号1〜9と同一である。図16は、図15に示す印加電圧とギャップとの関係を示す特性図である。図17は、図15に示す印加電圧と透過ピーク波長との関係を示す特性図である。
【0104】
図15でも、透過ピーク波長の最大波長λ0=700nmから最小波長λ8=380nmの9段階で透過ピーク波長を可変するために、第1,第2反射膜40,50間の第1ギャップG1は最大ギャップg0=300nmから最小ギャップg8=140nmの9段階に可変されている(図15も参照)。これに対応して、透過ピーク波長は最大波長λ0から最小波長λ8までの9段階に可変されている(図16も参照)。
【0105】
ただし、比較例では、単一電極である下部電極61に印加される9段階の電圧を、最大電圧Vmax(30v)のフルスケールの中で設定しなければならない。
【0106】
比較例のように、下部電極61を単一電極で形成した時のN=9段階の各印加電圧間の電圧最小変化量をΔV1minと定義する。図15の例では、ΔV1min=0.9Vである。電源ノイズが0.1V程度であることを考慮すると、比較例の電圧最小変化量ΔV1minはノイズに対する感度が大きい。
【0107】
本実施形態の電圧最小変化量ΔVkminと比較例の電圧最小変化量V1minとを比較すると、ΔV1min<ΔVkminが成立し、本実施形態ではノイズに対する感度を小さくできる。
【0108】
2.光フィルターの第2の実施態様
図18は、光フィルターの第2の実施態様を示す図である。
図1〜図6に示す第1の実施態様との違いは、下部電極60として第5電極66を追加し、上部電極70として第6電極76を追加した点である。以下、第1の実施態様と異なる点を中心に説明し、共通点については説明を簡略化し、又は省略する。
【0109】
図18(A)は下部電極の平面図である。
下部電極60を構成する3個のセグメント電極62,64,66は、第1反射膜40の中心に対して同心リング状に配置することができる。つまり、第1電極62は第1リング状電極部62Aを有し、第2電極64はリング状電極部62Aの外側に第2リング状電極部64Aを有し、第5電極66はリング状電極部64Aの外側に第3リング状電極部66Aを有し、各リング状電極部62A,64A,66Aが第1反射膜に対して同心リング状に形成される。
【0110】
こうすると、第1反射膜40の中心線Lに対して、第1,第2,第5電極62,64,66の各々が線対称配置となる。これにより、電圧印加時に下部、上部電極60,70間に作用する静電引力F1,F2,F3は、第1反射膜40の中心線Lに対して線対称に作用するので、第1,第2反射膜40,50の平行度が高まる。
【0111】
ここで、第1電極62には第1引き出し配線62Bが、第2電極64には第2引き出し電極64Bが、さらに第5電極66には第3引き出し配線66Bがそれぞれ接続される。これら第1,第2,第5引き出し電極62B,64B,66Bは例えば第1反射膜40の中心から第1基板外周方向に向けて延在形成される。第2電極64には、第2リング状電極部64Aを不連続とする第1スリット64Cが、第5電極66には、第3リング状電極66Aを不連続とする第3スリット66Cが、設けられている。内側の第1電極62から延びる第1引き出し配線62Bは、第2電極64に形成された第1スリット64C、及び外側の第5電極66に形成された第3スリット66Cを通って、第2電極64、及び第5電極66の外方に引き出される。また、第2電極64から延びる第2引き出し配線64Bは、外側の第5電極66に形成された第2スリット66Cを通って、第5電極66の外方に引き出される。
【0112】
このように、第1,第2,第5電極62,64,66をそれぞれリング状電極部62A,64A,66Aとした場合に、外側の第2,第5電極64,66に形成された第1,第3スリット64C,66Cにより、内側の第1電極62の第1引き出し配線62Bの取り出し経路、及び第2電極64の第2引き出し配線64の取り出し経路を容易に確保できる。
【0113】
ところで、下部電極は電極ごとに引き出し配線を設けているが、3電極以上の構成を採用する場合、本発明のように、スリットを1ヶ所に集中させ、スリット部に引き出し配線を配置しない限り、電極と引き出し配線とが交叉する部分が生じてしまう。電極と引き出し配線とが交叉する部分が生じる場合、引き出し配線をパターニングにより形成した後、電極パターンを形成する必要があり、1回の工程で電極、及び配線を形成することができない。本発明によれば、リング状電極部に形成されたスリットを1ヶ所に集中させ、前記スリット部に引き出し配線を配置することにより、3電極以上の構造であっても、1回の電極パターニングで形成することが可能になる。
【0114】
図18(B)は上部電極の平面図である。
上部電極70を構成する3個のセグメント電極は、図6(B)に示すように、第3電極72,第4電極74,第6電極76を有する。第3電極72は第3リング状電極部72Aを有し、第4電極74は第3リング状電極部72Aの外側に第4リング状電極部74Aを有し、第6電極76は第4リング状電極74Aの外側に第6リング状電極部76Aを有し、各リング状電極部72A,74A,76Aが第2反射膜に対して同心リング状に形成される。「同心リング状」の意味は、下部電極60に対するものと同一である。第3電極72は第1電極62と対向し、第4電極74は第2電極64と対向し、第6電極76は、第5電極66と対向している。
【0115】
また、第3,第4,第6電極72,74,76同士は電気的に接続されて、同一電位に設定されている。この場合、第3,第4,第6引き出し電極76A,76B,76Cは共通電極として形成することができ、例えば第2反射膜50の中心から外側に向けて延在形成される。このとき、第3,第4,第6引き出し電極76A,76B,76Cの各々は、内側の第3電極72、中央の第4電極74、外側の第6電極76に電気的に接続される。なお、第3,第4,第6電極72,74,76は、共通電極としているため、1本の引き出し電極により形成することが可能である。
【0116】
さらに、第4電極74は、下部電極60の第1スリット64Cと対向する位置に第4リング状電極部74を不連続とする第2スリット78を有し、第6電極は、下部電極の第3スリット66Cと対向する位置に第6リング状電極部76を不連続とする第4スリット79を有する。
【0117】
こうすると、第2,3引き出し配線64B,66Bと対向する電極が存在しなくなる。よって、例えば、第2電極64を駆動した時、第1電極64と同電位である第2引き出し配線64Bと、外側の第6電極76間に作用する不要な静電引力が、第2スリット66C内で発生することを阻止できる。
【0118】
3.光フィルターの第3の実施形態
図19は、図1の光フィルター10とは異なる光フィルター11を示している。図19に示す第1基板21は、図1にて下部電極60が形成される第2対向面20A2、平面視にて第1反射膜40が形成される第1対向面20A1の周囲の第1面20A21と、平面視にて第1面20A21の周囲に配置されて第1面20A21とは段差のある第2面20A22とを含む。
【0119】
第1電極62は第1面20A21に配置され、第2電極64は第2面20A22に配置され、第2電極64と上部電極70との間の初期のギャップG22が、第1電極62と前記上部電極70との間の初期のギャップG21と異なっている。
【0120】
このような関係にした理由は、以下の通りである。初期のギャップG21,G22のうち、最初に駆動される例えば第2電極64と対応する初期のギャップG22は、その第2電極64と第2電極との間に作用する静電引力により狭められる。このとき、同時にギャップG21も狭められ、初期ギャップよりも小さくなる。よって、第1電極62を駆動する時には、ギャップG21は初期値よりも小さくなっている。
【0121】
ここで、仮に第1面20A21と第2面20A22とが面一であってギャップG21,G22の初期値が同一であるとする。この場合、例えば第2電極64を最初に駆動するときのギャップG22は、後に第1電極62を駆動するときのギャップG21よりも大きくなってしまう。よって、第2電極64を最初に駆動するときの静電引力を、第1電極64が駆動されたときの静電引力よりも過度に大きく設定しなければならなくなる。
【0122】
よって、この場合には図19に示すように、ギャップG22の初期値をギャップG21の初期値よりも小さくしておくと良い。なお、第1電極62を最初に駆動する場合には、ギャップG21の初期値をギャップG22の初期値よりも小さくしておけばよい。
【0123】
4.分析機器
図20は、本発明に係る一実施形態の分析機器の一例である測色器の概略構成を示すブロック図である。
【0124】
図20において、測色器200は、光源装置202と、分光測定装置203と、測色制御装置204と、を備えている。この測色器200は、光源装置202から検査対象Aに向かって例えば白色光を射出し、検査対象Aで反射された光である検査対象光を分光測定装置203に入射させる。そして、分光測定装置203にて検査対象光を分光し、分光した各波長の光の光量を測定する分光特性測定を実施する。言い換えると、検査対象Aで反射された光である検査対象光を光フィルター10(以下、エタロン10ともいう。)に入射させ、エタロン10から透過した透過光の光量を測定する分光特性測定を実施する。そして、測色制御装置204は、得られた分光特性に基づいて、検査対象Aの測色処理、すなわち、どの波長の色がどの程度含まれているかを分析する。
【0125】
光源装置202は、光源210、複数のレンズ212(図1には1つのみ記載)を備え、検査対象Aに対して白色光を射出する。また、複数のレンズ212には、コリメーターレンズが含まれており、光源装置202は、光源210から射出された白色光をコリメーターレンズにより平行光とし、図示しない投射レンズから検査対象Aに向かって射出する。
【0126】
分光測定装置203は、図20に示すように、エタロン10と、受光素子を含む受光部220と、駆動回路230と、制御回路部240と、を備えている。また、分光測定装置203は、エタロン10に対向する位置に、検査対象Aで反射された反射光(測定対象光)を、内部に導光する図示しない入射光学レンズを備えている。
【0127】
受光部220は、複数の光電交換素子(受光素子)により構成されており、受光量に応じた電気信号を生成する。そして、受光部220は、制御回路部240に接続されており、生成した電気信号を受光信号として制御回路部240に出力する。なお、エタロン10と受光部(受光素子)220とでユニット化して、光フィルターモジュールを構成することができる。
【0128】
駆動回路230は、エタロン10の下部電極60、上部電極70、および制御回路部240に接続される。この駆動回路230は、制御回路部240から入力される駆動制御信号に基づいて、下部電極60および上部電極70間に駆動電圧を印加し、第2基板30を所定の変位位置まで移動させる。駆動電圧としては、下部電極60と上部電極70との間に所望の電位差が生じるように印加されればよく、例えば、下部電極60に所定の電圧を印加し、上部電極70をアース電位としてもよい。駆動電圧としては、直流電圧を用いるのが好ましい。
【0129】
制御回路部240は、分光測定装置203の全体動作を制御する。この制御回路部240は、図20に示すように、例えばCPU250、記憶部260などにより構成されている。そして、CPU350は、記憶部250に記憶された各種プログラム、各種データに基づいて、分光測定処理を実施する。記憶部250は、例えばメモリーやハードディスクなどの記録媒体を備えて構成され、各種プログラム、各種データなどを適宜読み出し可能に記憶する。
【0130】
ここで、記憶部260には、プログラムとして、電圧調整部261、ギャップ測定部262、光量認識部263、および測定部264が記憶されている。なお、ギャップ測定部262は上述の通り省略しても良い。
【0131】
また、記憶部260には、第1ギャップG1の間隔を調整するために静電アクチュエーター80,90に印加する電圧値、およびその電圧値を印加する時間を関連付けた図7に示す電圧テーブルデータ265が記憶されている。
【0132】
測色制御装置204は、分光測定装置203および光源装置202に接続されており、光源装置202の制御、分光測定装置203により取得される分光特性に基づく測色処理を実施する。この測色制御装置204としては、例えば汎用パーソナルコンピューターや、携帯情報端末、その他、測色専用コンピューターなどを用いることができる。
【0133】
そして、測色制御装置204は、図20に示すように、光源制御部272、分光特性取得部270、および測色処理部271などを備えて構成されている。
【0134】
光源制御部272は、光源装置202に接続されている。そして、光源制御部272は、例えば利用者の設定入力に基づいて、光源装置202に所定の制御信号を出力し、光源装置202から所定の明るさの白色光を射出させる。
【0135】
分光特性取得部270は、分光測定装置203に接続され、分光測定装置203から入力される分光特性を取得する。
【0136】
測色処理部271は、分光特性に基づいて、検査対象Aの色度を測定する測色処理を実施する。例えば、測色処理部271は、分光測定装置203から得られた分光特性をグラフ化し、図示しないプリンターやディスプレイなどの出力装置に出力するなどの処理を実施する。
【0137】
図21は、分光測定装置203の分光測定動作を示すフローチャートである。まず、制御回路部240のCPU250は、電圧調整部261、光量認識部263、および測定部264を起動させる。また、CPU250は、初期状態として、測定回変数nを初期化(n=0に設定)する(ステップS1)。なお、測定回変数nは、0以上の整数の値をとる。
【0138】
この後、測定部264は、初期状態、すなわち、静電アクチュエーター80,90に電圧が印加されていない状態で、エタロン10を透過した光の光量を測定する(ステップS2)。なお、この初期状態における第1ギャップG1の大きさは、例えば分光測定装置の製造時において予め測定し、記憶部260に記憶しておいてもよい。そして、ここで得られた初期状態の透過光の光量、および第1ギャップG1の大きさを測色制御装置204に出力する。
【0139】
次に、電圧調整部261は、記憶部260に記憶されている電圧テーブルデータ265を読み込む(ステップS3)。また、電圧調整部261は、測定回変数nに「1」を加算する(ステップS4)。
【0140】
この後、電圧調整部261は、電圧テーブルデータ265から、測定回変数nに対応する第1,第2電極62,64の電圧データ及び電圧印加期間データを取得する(ステップS5)。そして、電圧調整部261は、駆動回路230に駆動制御信号を出力し、電圧テーブルデータ265のデータに従って静電アクチュエーター80,90を駆動する処理を実施する(ステップS6)。
【0141】
また、測定部264は、印加時間経過タイミングで、分光測定処理を実施する(ステップS7)。すなわち、測定部264は、光量認識部263により透過光の光量を測定させる。また、測定部264は、測定された透過光の光量と、透過光の波長とを関連付けた分光測定結果を測色制御装置204に出力する制御をする。なお、光量の測定は、複数回または全ての回数の光量のデータを記憶部260に記憶させておき、複数回毎の光量のデータまたは全ての光量のデータの取得後に、まとめて、それぞれの光量を測定してもよい。
【0142】
この後、CPU250は、測定回変数nが最大値Nに達したか否かを判断し(ステップS8)、測定回変数nがNであると判断すると、一連の分光測定動作を終了する。一方,ステップS8において、測定回変数nがN未満である場合、ステップS4に戻り、測定回変数nに「1」を加算する処理を実施し、ステップS5〜ステップS8の処理を繰り返す。
【0143】
5.光機器
図22は、本発明に係る一実施形態の光機器の一例である波長多重通信システムの送信機の概略構成を示すブロック図である。波長多重(WDM:Wavelength Division Multiplexing)通信では、波長の異なる信号は干渉し合わないという特性を利用して、波長が異なる複数の光信号を一本の光ファイバー内で多重的に使用すれば、光ファイバー回線を増設せずにデータの伝送量を向上させることができるようになる。
【0144】
図22において、波長多重送信機300は、光源301からの光が入射される光フィルター10を有し、光フィルター10からは複数の波長λ0,λ1,λ2,…の光が透過される。波長毎に送信器311,312,313が設けられる。送信器311,312,313からの複数チャンネル分の光パルス信号は、波長多重装置321にて1つに合わせられて一本の光ファイバー伝送路331に送出される。
【0145】
本発明は光符号分割多重(OCDM:Optical Code Division Multiplexing)送信機にも同様に適用できる。OCDMは、符号化された光パルス信号のパターンマッチングによってチャンネルを識別するが、光パルス信号を構成する光パルスは、異なる波長の光成分を含んでいるからである。
【0146】
以上、幾つかの実施形態について説明したが、本発明の新規事項および効果から実体的に逸脱しない多くの変形が可能であることは当業者には容易に理解できるものである。従って、このような変形例はすべて本発明の範囲に含まれるものとする。例えば、明細書又は図面において、少なくとも一度、より広義または同義な異なる用語と共に記載された用語は、明細書又は図面のいかなる箇所においても、その異なる用語に置き換えることができる。
【符号の説明】
【0147】
10 光フィルター、20 第1基板、20A1 第1対向面、20A2 第2対向面、20A21 第1面、20A22 第2面、30 第2基板、30A 対向面、40 第1反射膜、50 第2反射膜、60 下部電極、62 第1電極、62A 第1リング状電極、62B 第1引き出し配線、64 第5電極、66 第2電極、64A 第2リング状電極、64B 第2引き出し配線、64C 第1スリット、66C 第3スリット、70,70’ 上部電極、72 第3電極、72A 第3リング状電極、74,74’ 第4電極、74A,74A’ 第6電極 76、第4リング状電極、76A 第3引き出し配線、76B 第4引出し配線、78 第2スリット、79 第4スリット、 80 第1ギャップ可変駆動部(静電アクチュエーター)、90 第2ギャップ可変駆動部(静電アクチュエーター)、101〜104 第1〜第4外部接続電極、110 電位差制御部、112 第1電極駆動部、114 第2電極駆動部、116 デジタル制御部、120 電源、200 分析機器(測色器)、300 光機器、G1 第1ギャップ、G2 第2ギャップ、L 中心線、ΔVseg1 内周側電位差、ΔVseg2 外周側電位差、W1,W2 リング幅。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1基板と、
前記第1基板と対向する第2基板と、
前記第1基板に設けられた第1反射膜と、
前記第2基板に設けられ、前記第1反射膜と対向する第2反射膜と、
前記第1基板に設けられ、平面視において、前記第1反射膜の周囲に形成された第1電極と、
前記第1基板に設けられ、平面視において、前記第1電極の周囲に形成された第2電極と、
前記第2基板に設けられ、前記第1電極と対向する第3電極と、
前記第2基板に設けられ、前記第2電極と対向する第4電極と、
前記第1電極に接続された第1配線と、
前記第2電極に接続された第2配線と、
を含み、
前記第2電極は、第1スリットを有し、
前記第1配線は、前記第1電極から前記第1スリットが形成された領域を通って前記第1の基板の外周領域に向かって延在し、
前記第2配線は、前記第2電極の前記第1スリットが形成された領域から前記第1配線に沿って延在していることを特徴とする光フィルター。
【請求項2】
請求項1において、
前記第1電極と前記第2電極とは、電気的に独立しており、
前記第3電極と前記第4電極とは、接続部を介して、電気的に接続されていることを特徴とする光フィルター。
【請求項3】
請求項1または2において
前記第1電極は、第1リング形状を有し、
前期第2電極は、第2リング形状を有することを特徴とする光フィルター。
【請求項4】
請求項3において、
前記第3電極は、第3リング形状を有し、
前記第4電極は、第4リング形状を有することを特徴とする光フィルター。
【請求項5】
請求項3において、
前記第3電極は、第3リング形状を有し、
前記第4電極は、第2スリットを有する第4リング形状を有し、
平面視において、前記第2スリットは前記第1スリットと重なることを特徴とする光フィルター。
【請求項6】
請求項3ないし5のいずれか一項において、
前記第3電極に接続された第3配線と、
前記第3電極に接続された第4配線と、
をさらに含むことを特徴とする光フィルター。
【請求項7】
請求項6において、
前記第1基板は、平面視において、第1仮想直線を有し、
前記第1配線、および前記第2配線は、前記第1仮想直線に沿った第1方向に延在し、
前記第3配線、および前記第4配線は、前記第1仮想直線に沿った第1方向に延在することを特徴とする光フィルター。
【請求項8】
請求項1ないし7のいずれか一項において、
前記第2電極のリング幅は、前記第1電極のリング幅よりも大きく、
前記第4電極のリング幅は、前記第2電極のリング幅よりも大きいことを特徴とする光フィルター。
【請求項9】
請求項1ないし8のいずれか一項において、
前記第2基板は、第1部分と、前記第1部分の膜厚よりも薄い第2部分とを有し、
前記第2反射膜は、前記第2基板の前記第1部分に形成され、
前記第3電極および前記第4電極は、前記第2基板の前記第2部分に形成されていることを特徴とする光フィルター。
【請求項10】
請求項1ないし9のいずれか一項において、
前記第1基板は、第1面と、前記第1面よりも低い第2面とを有し、
前記第1反射膜は、前記第1面に形成され、
前記第1電極および前記第2電極は、前記第2面に形成されていることを特徴とする光フィルター。
【請求項11】
請求項1ないし10のいずれか一項において、
前記第1電極と前記第3電極との間の電位差と、前記第2電極と前記第4電極との電位差とを制御する電位差制御部をさらに有することを特徴とする光フィルター。
【請求項12】
請求項11において、
前記電位差制御部は、前記第2電極と前記第4電極との間の電位差を第1電位差に設定した後に、前記第1電極と前記第3電極との間の電位差を第2電位差に設定することを特徴とする光フィルター。
【請求項13】
請求項12において、
前記電位差制御部は、前記第1電位差に設定した状態で、前記第2電位差に設定することを特徴とする光フィルター。
【請求項14】
請求項11において、
前記電位差制御部は、
前記第2電極と前記第4電極との間の電位差を第1電位差に設定し、
前記第1電位差に設定した後に、前記第2電極と前記第4電極との間の電位差を前記第1電位差より大きい第2電位差に設定し、
前記第2電位差に設定した状態で、前記第1電極と前記第3電極との間の電位差を第3電位差に設定し、
前記第3電位差に設定した後に、前記第2電極と前記第4電極との間の電位差を前記第2電位差に設定した状態で、前記第1電極と前記第3電極との間の電位差を前記第3電位差より大きい第4電位差に設定することを特徴とする光フィルター。
【請求項15】
請求項14において、
前記第2電位差に設定されている期間は、前記第1電位差に設定されている期間よりも長く、
前記第4電位差に設定されている期間は、前記第3電位差に設定されている期間よりも長いことを特徴とする光フィルター。
【請求項16】
請求項11において、
前記電位差制御部は、
前記第2電極と前記第4電極との間の電位差を第1電位差に設定し、
前記第1電位差に設定した後に、前記第2電極と前記第4電極との間の電位差を前記第1電位差より大きい第2電位差に設定し、
前記第2電位差に設定した後に、前記第2電極と前記第4電極との間の電位差を前記第2電位差より大きい第3電位差に設定し、
前記第3電位差に設定した状態で、前記第1電極と前記第3電極との間の電位差を第4電位差に設定し、
前記第4電位差に設定した後に、前記第2電極と前記第4電極との間の電位差を前記第3電位差に設定した状態で、前記第1電極と前記第3電極との間の電位差を前記第4電位差より大きい第5電位差に設定し、
前記第5電位差に設定した後に、前記第2電極と前記第4電極との間の電位差を前記第3電位差に設定した状態で、前記第1電極と前記第3電極との間の電位差を前記第5電位差より大きい第6電位差に設定し、
前記第2電位差と前記第3電位差との差の絶対値は、前記第1電位差と前記第2電位差との差の絶対値よりも小さく、
前記第5電位差と前記第6電位差との差の絶対値は、前記第4電位差と前記第5電位差との差の絶対値よりも小さいことを特徴とする光フィルター。
【請求項17】
請求項1乃至16のいずれかに記載の光フィルターと
前記光フィルターを透過した光を受光する受光素子と、
を含む光フィルターモジュール。
【請求項18】
請求項1乃至16のいずれかに記載の光フィルターを含む分析機器。
【請求項19】
請求項1乃至16のいずれかに記載の光フィルターを含む光機器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【公開番号】特開2013−88601(P2013−88601A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−228655(P2011−228655)
【出願日】平成23年10月18日(2011.10.18)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】