説明

光ヘッド装置

【課題】異なる3つの波長の光に対して同一の対物レンズを用いて良好な集光特性を得るための反射ミラーを備えた光ヘッド装置を提供する。
【解決手段】波長λの平行光31に対して発散角を変えず反射させ、波長λの発散光32に対して発散角を変えずに反射させ、さらに波長λ(λ<λ<λ)の平行光に対して発散角を変えて反射させる反射ミラー15を備えることで、波長λの平行光および波長λの発散光に合わせて光ディスク18のそれぞれの情報記録面18a、18bに良好に集光する特性を有する対物レンズ17に対し、さらに波長λの平行光の発散角を調整して波長λの光を光ディスク18の情報記録面18cに良好に集光させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光ストレージを扱う光学系として、CD、DVD、光磁気ディスクなどの光記録媒体および、「Blu−ray」(登録商標:以下BD)などの高密度光記録媒体(以下、「光ディスク」という)に情報の記録および再生(以下、「記録・再生」という。)を行う光ヘッド装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、光ディスクの規格として、BD、DVD、CDが広く普及している。BDは、カバー層の厚さ(以下、基板厚さという)が0.1mmの情報記録媒体に405nm波長帯の光源から出射された光を、開口数(以下、「NA」という。)0.85の対物レンズにより集光させることで情報の記録・再生を行う。DVDは、基板厚さが0.6mmの情報記録媒体に660nm波長帯の光源から出射された光を、NA0.6の対物レンズにより集光し、記録・再生を行う。また、CDは、基板厚さが1.2mmの情報記録媒体に785nm波長帯の光源から出射された光を、NA0.45の対物レンズにより集光し、記録・再生を行う。
【0003】
このように規格の異なる3つの光ディスクに対して、1つの対物レンズを用いて使用するそれぞれの波長帯の光を集光させる場合、上記のようにそれぞれの光ディスクの基板厚さの違いに起因して球面収差が発生する。このため、これら全ての規格の光ディスクの情報記録面上に適度な光のスポットサイズが得られず、規格の異なる3つの光ディスク全てに対して良好な記録・再生が実現できないという問題があった。
【0004】
このような問題に対して、波長が異なる複数のレーザ光を発射し、1つの対物レンズを共有して光ディスクの規格に合わせてそれぞれの光ディスクの情報記録層に集光させる光ヘッド装置が報告されている(特許文献1)。とくに、特許文献1の光ヘッド装置において、例えば波長635nmの光は、ビーム径が変化しない平行光で対物レンズに入射させることによって該対物レンズを透過した光が635nm用の光ディスクの情報記録面に良好に集光させるように設計される。さらに、波長785nmの光は発散しながら進行する光として対物レンズに入射させることによって、対物レンズを透過した光が785nm用の光ディスクであるCDの情報記録面に良好に集光させる。つまり、入射する光の波長によって対物レンズに入射する光の発散状態を変えることによって、異なる波長の光に対し異なる規格の光ディスクの情報記録面に良好に集光させる設計がされている。
【0005】
このようにして波長が異なる3つの光に対して1つの対物レンズを共有するとき、例えば、CD用、DVD用に加えてBD用の波長405nmの光を利用する場合においてもこのような設計が適用できる。このとき、例えば、波長405nmの光を平行光で入射させ、BDの情報記録面に良好に集光できるように対物レンズが設計され、DVD用の波長660nmの光およびCD用の波長785nmの光の発散状態を変えて対物レンズに入射させることで、それぞれの光ディスクの情報記録面に良好に集光させることができる。
【0006】
しかし、このように対物レンズに対して異なる波長の光の発散状態がそれぞれ異なって入射させる光ヘッド装置とする場合、各光ディスクから反射されて対物レンズを透過する信号光が集光する位置もそれぞれ異なる。このため、光ディスクで反射されたそれぞれの波長の光が集光する位置に配置する光検出器もそれぞれの波長の種類の数だけ必要となる。つまり、3つの異なる波長の光を取り扱う光ヘッド装置では、3つの光検出器を必要とするため、光学部品点数を大きく削減することができず光ヘッド装置の小型化の実現が困難であるとともに、光を検出するための電気制御部分も複雑化するという問題があった。
【0007】
特許文献1の光ヘッド装置のように、光ディスクで反射されて対物レンズを透過する光のうち、一方の波長の光が平行光であって進行方向に焦点を結ばない無限光学系であって、他方の波長の光が収束しながら進行して光ディスクから有限の距離で焦点を結ぶ有限光学系であると、上記の理由より複数の波長の光を1つの光検出器で共有することができない。しかし、光ディスクで反射された波長が異なる複数の光がいずれも平行光となる無限光学系である場合、波長が異なる複数の光に対して1つのレンズでほぼ同じ距離に焦点が合うように集光させることができるので、これらを1つの光検出器で共有化することができる。このように、各光ディスクで反射された、BD用、DVD用そしてCD用の波長の光を平行光とする波長選択性互換素子を用いた光ヘッド装置が報告されている(特許文献2)。
【0008】
とくに、特許文献2の光ヘッド装置に使用されている波長選択性互換素子には、BD用、DVD用、CD用の波長の光がいずれも平行光で入射し、以下の作用によって球面収差が小さい集光特性を各光ディスクの情報記録面で得られるようにしている。波長選択性互換素子は、BD用の波長の光に対して作用せず直進透過させ、DVD用の波長の光に対して1次回折光となる発散する光を発生させる。そして、CD用の波長の光に対して球面収差をキャンセルさせるため位相シフタで位相分布を含ませた平行光として透過させることによって、1つの対物レンズによって波長が異なるそれぞれの光に対して基板厚さが異なる各光ディスクの情報記録面に集光させる。また、各光ディスクで反射したそれぞれの波長の光は再び波長選択性互換素子を透過することによって平行光となって進行する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平08−055363号公報
【特許文献2】特開2006−351090号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特許文献2の光ヘッド装置に用いられる波長選択性互換素子は、CD用の波長の光に対して開口制限をするために、光軸を含む位相シフタ領域の周辺部に回折格子からなる回折領域を形成している。この回折領域は、とくにBD用の波長の光とDVD用の波長の光が入射したとき回折作用を発生させずに直進透過させるため、BD用の波長405nmの光およびDVD用の波長660nmの光に対し、この回折格子の凹凸形状の高さによって生じる位相差をそれぞれ2πの整数倍とし、一方、CD用の波長785nmの光に対して直進透過する0次回折光をほぼゼロとし±1次回折光を最大とすることで開口制限機能を発生している。
【0011】
しかしながら、この回折格子の高さによって生じる位相差を2πの整数倍となるように設計して整数の値が大きくなると、設計した波長から変動した波長の光が入射したとき0次回折効率(直進透過率)も変動する。設計した波長に対してこのように揺らぎが生じる原因としては、例えば使用温度の変化によって、光源となる半導体レーザから発振する光の波長が変化したり、半導体レーザなどの素子毎の製造ばらつきが発生したりすることに起因する。例えば、引用文献2の波長選択性互換素子の回折領域を直進透過するBD用の波長の光およびDVD用の波長の光はほぼ100%となるように設計されていても、波長の変動によって±1次回折光が発生すると、BDおよびDVDに集光する光量が少なくなるだけでなく、発生した±1次回折光によって集光特性を劣化させ、情報の記録・再生品質が低下する原因となることがある。また、この回折領域を直進透過するCD用の波長の光はほぼ0%となるように設計されていても、波長の変動によって0次回折光(直進透過光)が発生すると、開口制限の精度が低下し回折領域を直進透過した光が球面収差を発生してCDに集光されるため、情報の記録・再生品質が低下するという問題があった。
【0012】
本発明は上述の実情に鑑み、複数の波長の光を用い、これらの光に対応するそれぞれの光ディスクを用いる光ヘッド装置において、光ディスクで反射された光が平行光となるように光の発散状態を制御する機能を有する光学部品を具備することで、複数の波長の光に対して1つの光検出器を共有化できるとともに、使用する光の波長変動に対して光学特性の変化による情報の記録・再生品質が安定した光ヘッド装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本願発明は、以上の点を鑑みてなされたものであって、1つ以上の光源と、前記光源から出射する波長λの光、波長λの光および波長λの光(λ<λ<λ)を反射する反射ミラーと、前記反射ミラーで反射された前記波長λの光、前記波長λの光および前記波長λの光の共通の光路中に配される対物レンズと、光ディスクで反射された前記波長λの光、前記波長λの光および前記波長λの光を受光する1つ以上の受光素子と、を備えた光ヘッド装置であって、前記反射ミラーは、入射する前記波長λの光に対して発散角を変えずに反射し、入射する前記波長λの光および波長λの光のうち少なくとも一方の光に対して発散角を変えて反射する光ヘッド装置を提供する。
【0014】
また、前記反射ミラーは、光が入射する順に第1の反射層と第2の反射層を有し、前記第1の反射層は、前記波長λの光および前記波長λの光をいずれも発散角を変えずに反射させるとともに、前記波長λの光を透過させる光学多層膜からなるダイクロイックミラーを有し、前記第2の反射層は、前記波長λの光の発散角が大きくなるように反射させる、断面がフレネルレンズ形状である凹凸部と、前記凹凸部の凹凸面に少なくとも前記波長λの光を反射する反射部を有する上記の光ヘッド装置を提供する。
【0015】
また、前記第1の反射層は、透明基板と前記ダイクロイックミラーからなる上記の光ヘッド装置を提供する。
【0016】
前記透明基板は、光が入射および出射する異なる2つの入出射面を有し、前記ダイクロイックミラー面と2つの前記入出射面とがなす角度が約45°、2つの前記入出射面がなす角度が約90°である上記の光ヘッド装置を提供する。
【0017】
また、前記第2の反射層は、前記波長λの光のうち第1の直線偏光の光に対して発散角を変えずに反射させ、前記第1の直線偏光の光と直交する第2の直線偏光の光に対して発散角を変えて反射する上記の光ヘッド装置を提供する。
【0018】
また、前記第2の反射層は、少なくとも波長λの光を反射する平坦な反射部と、前記反射部の上に前記凹凸部とを有し、前記凹凸部は、前記波長λの光に対して常光屈折率n、異常光屈折率n(n≠n)となる複屈折性材料からなり、前記凹凸部の少なくとも凹部にnまたはnに略等しい透明材料が形成される上記の光ヘッド装置を提供する。
【0019】
また、前記第2の反射層は、光が入射する順に、少なくとも波長λの光のうち前記第1の直線偏光の光を反射し前記第2の直線偏光の光を透過する偏光ビームスプリッタと、前記凹凸部の凹凸面に少なくとも前記波長λの光を反射する反射部を有する上記の光ヘッド装置を提供する。
【0020】
また、前記反射ミラーは、光が入射する順に第1の反射層と第2の反射層と第3の反射層を有し、前記第1の反射層は、前記波長λの光に対して発散角を変えずに反射させるとともに、前記波長λの光および前記波長λの光をいずれも透過させる光学多層膜からなる第1のダイクロイックミラーを有し、前記第2の反射層は、断面がフレネルレンズ形状である第1の凹凸部と、前記第1の凹凸部の凹凸面に前記波長λの波長の光を反射させるとともに、前記波長λの光を透過させる光学多層膜からなる第2のダイクロイックミラーを有し、前記第3の反射層は、断面がフレネルレンズ形状である第2の凹凸部と、前記第1の凹凸部の凹凸面に少なくとも前記波長λの光を反射する反射部を有する上記の光ヘッド装置を提供する。
【0021】
また、前記第2の反射層は、前記第1の反射層側に、前記波長λの光および前記波長λの光のうち第1の直線偏光を反射し、前記第1の直線偏光と直交する前記第2の直線偏光を透過する偏光ビームスプリッタを備える上記の光ヘッド装置を提供する。
【0022】
さらに、前記波長λは波長385〜420nmの405nm波長帯であり、前記波長λは波長640〜675nmの660nm波長帯であり、さらに前記波長λは波長770〜800nmの785nm波長帯である上記の光ヘッド装置を提供する。
【発明の効果】
【0023】
本発明は、複数の波長の光を用い、これらの光に対応するそれぞれの光ディスクの記録・再生を行う光ヘッド装置において、入射する光の波長によってその発散状態を変える機能と光ディスク方向に偏向させる機能を併せ持つ反射ミラーを用い、とくに光ディスクから反射されたこれらの光を反射ミラーによって平行光とすることで複数の波長に対して1つの光検出器を共有化でき、光ヘッド装置の小型化を実現できる。さらに、設計波長に対して変動した波長の光に対して光学特性が安定した反射ミラーであるので、1つの対物レンズを共有して情報の記録・再生品質が安定した光ヘッド装置を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】第1の実施形態に係る光ヘッド装置の構成例を示す模式図
【図2】光の発散角を定義するための模式図
【図3】第1の実施形態に係る光ヘッド装置に用いられる反射ミラーの反射作用を示す模式図
【図4】第1の実施形態に係る光ヘッド装置に用いられる反射ミラーの構成を示す断面模式図
【図5】第1の実施形態に係る光ヘッド装置に用いられる反射ミラーの具体的構成を示す断面模式図
【図6】反射ミラーの凹凸部で反射した光の光路長の分布を示すグラフ
【図7】反射ミラーの凹凸部に入射した光および反射した光の発散状態を示す模式図
【図8】ブレーズ形状および擬似ブレーズ形状の深さの定義を示す模式図
【図9】第2の実施形態に係る光ヘッド装置の構成例を示す模式図
【図10】第2の実施形態に係る光ヘッド装置に用いられる反射ミラーにより光の反射作用を示す模式図
【図11】第2の実施形態に係る光ヘッド装置に用いられる反射ミラーの構成および入射する光の様子を示す模式図
【図12】第2の実施形態に係る光ヘッド装置に用いられる反射ミラーの具体的構成を示す断面模式図
【図13】第3の実施形態に係る光ヘッド装置の構成例を示す模式図
【図14】第3の実施形態に係る光ヘッド装置に用いられる反射ミラーの反射作用を示す模式図
【図15】第3の実施形態に係る光ヘッド装置に用いられる反射ミラーの具体的構成を示す断面模式図
【図16】第4の実施形態に係る光ヘッド装置の構成例を示す模式図
【図17】第4の実施形態に係る光ヘッド装置に用いられる反射ミラーの反射作用を示す模式図
【図18】第4の実施形態に係る光ヘッド装置に用いられる反射ミラーの具体的構成を示す断面模式図
【図19】第4の実施形態に係る光ヘッド装置に用いられる反射ミラーにより光の反射作用を示す模式図
【図20】実施例1に係るダイクロイックミラーに入射する光の波長に対する透過率の関係を示すシミュレーション結果を示すグラフ
【図21】実施例2に係るダイクロイックミラーに入射する光の波長に対する透過率の関係を示すシミュレーション結果を示すグラフ
【図22】実施例3に係るダイクロイックミラーに入射する光の波長に対する透過率の関係を示すシミュレーション結果を示すグラフ
【図23】実施例5に係るビームスプリッタ層に入射する光の波長に対する透過率の関係を示すシミュレーション結果を示すグラフ
【図24】実施例6に係る第1のダイクロイックミラーに入射する光の波長に対する透過率の関係を示すシミュレーション結果を示すグラフ
【図25】実施例6に係る第2のダイクロイックミラーに入射する光の波長に対する透過率の関係を示すシミュレーション結果を示すグラフ
【図26】実施例7に係るビームスプリッタ層に入射する光の波長に対する透過率の関係を示すシミュレーション結果を示すグラフ
【発明を実施するための形態】
【0025】
(第1の実施形態)
図1は、本実施形態に係る光ヘッド装置10の概念的な構成を示す模式図である。光ヘッド装置10は、波長λの光を出射する光源11aと、波長λの光および波長λの光を出射するモノシリックタイプの光源11bを備えている。光源11aおよび光源11bから出射した光は光ディスク18に到達し、光源11aから出射し光ディスク18で反射された光は光検出器20aに、光源11bから出射し光ディスク18で反射された光は光検出器20bに到達する。これらの光源から出射される光の光路を図1では点線で示し、以下、光源から光ディスクに至るまでの光路を「往路」とし、光ディスクから光検出器に至るまでの光路を「復路」として説明する。なお、各波長の長さは、λ<λ<λの関係を有する。とくに、後述する405nm波長帯は、波長385〜420nm、660nm波長帯は、波長640〜675nm、785nm波長帯は、波長770〜800nmとする。
【0026】
光源11aから出射した波長λの光は、カップリングレンズ12aによって後述する平行に進行する光(以下、平行光という)となる。カップリングレンズ12aを透過した平行光は、偏光ビームスプリッタ13aおよびダイクロイックミラー14を透過し、反射ミラー15で光ディスク18の方向へ反射される。反射ミラー15から光ディスク18に至る光路中には、入射する光の波長に対して1/4の位相差を与える1/4波長板16および対物レンズ17がこの順番で配置され、光ディスク18の情報記録面には円偏光の光となって集光される。なお、ここで、ダイクロイックミラー14は、波長λの光は透過し、波長λの光および波長λの光は反射する機能を有する。波長λの光は、光ディスク18で反射されて往路とは逆回りの円偏光の光となって対物レンズ17、1/4波長板16の順に透過し、往路の直線偏光の光と直交する直線偏光の光となって反射ミラー15で反射される。そしてダイクロイックミラー14を透過し、偏光ビームスプリッタ13aで反射され、カップリングレンズ19aを透過し光検出器20aに到達する。また、図示しないが、各光源から出射した光のビーム径を制御するための開口制限機能を有する光学素子を備えてもよい。
【0027】
光源11bから出射した波長λの光および波長λの光は、カップリングレンズ12bによって発散角が変えられた光となって進行する。図2は、光の発散角(状態)について定義するための模式図である。図2(a)は、光21がX方向に発散しながら進行する様子を光軸に沿った断面で示す模式図であり、図2(b)は、光軸上の点Cを含み光軸と直交し直線A−A´に沿った平面(Y−Z面)を示す模式図、図2(c)は、点Cと異なる光軸上の点Cを含み光軸と直交し直線B−B´に沿った平面(Y−Z面)を示す模式図である。
【0028】
ここで、発散角とは、光軸と進行方向に連続(直線)的に変化する光の軌道とがなす角度であり、とくに光学系の瞳(レンズ)の最外周部分を通過する光の軌道とがなす角度のことをいう。ここで、光軸と直交する平面における光強度分布は光軸が最大の光強度となるガウシアン分布であって、光軸における光強度を1としたとき、光の半径は、光軸を基点として1/eの光強度となる距離として定義する。また、ビーム径はこの光の半径の2倍の距離に相当する。なお、このビーム径を有する領域を「有効領域」と定義し、この有効領域は光学系の瞳(レンズ)の領域よりも大きく設計されてもよい。
【0029】
図2は、光の発散角について説明するための模式図であって、ここでは簡単のため、光学系の瞳(レンズ)の最外周部分を通過する光が有効領域の最外周部分と一致するものとして説明する。光軸と直交し直線A−A´に沿った平面における光の半径をRとし、光軸(点C)からRの距離となる+Z方向の点を点Pとする。そして、光軸と直交し直線B−B´に沿った平面における光の半径をRとし、光軸(点C)からRの距離となる+Z方向の点を点Pとする。このとき、光は+X方向(点Cから点Cの方向へ)に進行するものと考えると、光軸(直線C−C)と直線P−Pとがなす角度θを発散角という。
【0030】
なお、図2(a)では、直線B−B´に沿った平面において+Z方向に距離Rとなる点を点P´とし、直線P−P´と、直線P−Pとの角度をθ(=発散角)としているが、意味は同じである。発散角θの符号は、光が拡散しながら進行する場合プラス(+)であって、光が収束しながら進行する場合はマイナス(−)である。例えば、図2(a)の光が、−X方向に進行する場合、発散角は−θとなる。なお、発散角θ>0であるとき光は「発散状態」、θ<0であるとき光は「収束状態」と表現する。また、平行光は、θ=0であるので、「発散状態」でも「収束状態」でもない。さらに「発散状態」となる光を「発散光」、「収束状態」となる光を「収束光」として説明する。
【0031】
ここで、図1の光ヘッド装置10において、カップリングレンズ12bを出射する波長λの光および波長λの光は、発散角θ>0の値で進行するように調整される。カップリングレンズ12bを出射したこれらの波長の光は、偏光ビームスプリッタ13bおよびダイクロイックミラー14を反射し、さらに反射ミラー15で反射して光ディスク18の方向へ進行する。光ディスク18で反射された復路の光は、往路の直線偏光の光と直交する直線偏光の光となって再び反射ミラー15およびダイクロイックミラー14で反射され、偏光ビームスプリッタ13bおよびカップリングレンズ19bを直進透過し光検出器20bに到達する。このとき、後述するように、復路の光は反射ミラー15によって各波長の光の発散角を調整することができるので、波長λの光および波長λの光いずれも1つの光検出器20bを共有することができる。
【0032】
光検出器20aおよび20bでは、光ディスク18の情報記録面に記録された情報の再生信号、フォーカスエラー信号、トラッキングエラー信号などが検出される。なお、光ヘッド装置10は、検出されたフォーカスエラー信号に基づいて対物レンズ17を光軸方向に制御する図示しないフォーカスサーボと、トラッキングエラー信号に基づいて対物レンズ17を光軸に対して垂直方向に制御する図示しないトラッキングサーボと、を備える。
【0033】
次に、本実施形態に係る光ヘッド装置の反射ミラーの構成について説明する。図3(a)および図3(b)は、反射ミラー15の作用を説明するための模式図であり、図1の光ヘッド装置10のうち、反射ミラー15、対物レンズ17および光ディスク18のみを取り上げ、またそれぞれの波長の光の入射および反射の様子も併せて示すものである。なお、ここでは1/4波長板は図示せずに省略している。また、光ディスク18は、波長の異なる3つの光に対応する3つの規格の光ディスクについて模式的に示すものであり、波長λに対応する光ディスクの情報記録面を18a、波長λに対応する光ディスクの情報記録面を18b、波長λに対応する光ディスクの情報記録面を18cに示す。また、図3(a)に実線で波長λの光31の集光の様子を示し、図3(b)に実線で波長λの光32、点線で波長λの光33の集光の様子を示す。なお、図3(a)、図3(b)の一点鎖線は各波長の光に共通する光軸を示す。
【0034】
図3(a)および図3(b)に示すように波長λの光、波長λの光および波長λの光は光軸が反射ミラー15に対して約45°の角度をなして入射する。まず、図3(a)に示すように、反射ミラー15は、波長λの平行光に対して光の発散角を変えずに、つまり平行光のままZ方向に反射して対物レンズ17へ進行する。また、ここで対物レンズ17は、波長λの平行光が入射するときに情報記録面18aに集光されるように設計されている。このため、反射ミラー15は、平行光(発散角θ=0)で入射する波長λの光31に対して発散角を変えないよう平行光のまま反射させる機能を有する。
【0035】
一方、図3(b)に示すように、波長λの光32は、発散角θ>0となる発散光で反射ミラー15に入射し、そして反射ミラー15で反射されるが、発散角を変えないまま対物レンズ17に入射する。また、波長λの光32の発散角θは、波長λの光32に対する対物レンズ17の球面収差を低減するために図1のカップリングレンズ12bによって最適化されている。また、前述のように光路中に開口制御機能を有する光学素子を配置して調整してもよい。そのため、特定の発散角θで対物レンズ17に入射する波長λの光32は、情報記録面18bに集光する。
【0036】
また、波長λの光33も同様にカップリングレンズ12bによって発散光となって反射ミラー15に入射する。反射ミラー15は、入射する波長λの光33に対して、入射する光の発散角θよりも反射して対物レンズ17側に進行する光の発散角θ´が大きくなるように作用する。反射ミラー15に入射する波長λの光33の発散角θは、光源11bの出射角とカップリングレンズ12bによって決定されるが、カップリングレンズ12bは波長λの光32の発散角θを最適化するように調整されている。そのため、波長λの光33に対しては、カップリングレンズ12bとは別の方法で発散角の調整をする方が、波長λの光33に対する対物レンズでの球面収差を抑制するのに都合がよい。本実施形態では、反射ミラー15は、波長λの光33に対して発散角を大きくして(θ<θ´)反射する作用を有しているため、球面収差を低減するとともに対物レンズ17によって情報記録面18cに集光される。
【0037】
次に、本実施形態の光ヘッド装置にかかる反射ミラー15の具体的構成の一例について図4(a)および図4(b)を用いて説明する。図4(a)の反射ミラー40aは、光が入射する方から順に第1の反射層41aと第2の反射層42aが積層されてなる。このように反射ミラー40aの光入射面が、光入射方向(X方向またはZ方向)に対して約45°の角度をなすように設定されているとき、第1の反射層41aは、X方向から入射する波長λの光と波長λの光をZ方向へ反射し、X方向から入射する波長λの光を直進透過する機能を有する。一方、第2の反射層42aはX方向から入射する波長λの光をZ方向に反射する機能を有する。同様に、第1の反射層41aは、Z方向から入射する波長λの光と波長λの光をX方向へ反射し、Z方向から入射する波長λの光を直進透過する機能を有し、第2の反射層42aはZ方向から入射する波長λの光をX方向に反射する機能を有する。
【0038】
図4(b)に示す反射ミラー40bは、第1の反射層41bと第2の反射層42bおよび42cとが透明基板43に接着された構造からなる。このように反射ミラー40bの光入射面(第1の反射層41b)が、光入射方向(X方向またはZ方向)に対して約45°の角度をなすように設定されているとき、第1の反射層41bは、X方向から入射する波長λの光および波長λの光をZ方向へ反射し、X方向から入射する波長λの光を直進透過する機能を有する。また、第2の反射層42bおよび42cは波長λの光を反射する機能を有する。第2の反射層42bは、X方向から入射する波長λの光を第2の反射層42cの方向へ反射し、さらに第2の反射層42cで反射してZ方向に向けて進行させる。また、Z方向から入射する波長λ、波長λおよび波長λの光が反射してX方向に向けて進行させる場合、それぞれの波長の光は、上記と逆の経路を辿って進行する。
【0039】
第1の反射層41aおよび41bは具体的に、平行に配された2種類の無機材料を交互に積層した誘電体多層膜からなるダイクロイックミラーを用いることができる。また、第2の反射層42a、42bおよび42cとしては、球面形状をしたミラー、反射型の回折格子の形状を有する回折素子(回折レンズ)を用いることができる。
【0040】
図4(a)に示す反射ミラー40aの具体的な構成例として、図5(a)、図5(b)および図5(c)それぞれに反射ミラー50a、50bおよび50cの断面模式図を示す。反射ミラー50aは、透明基板52aの片面に波長λの光および波長λの光を反射し、波長λの光を透過するダイクロイックミラー51aが成膜されている。そして、透明基板52aの他方の面には波長λの光の発散角を変化させる凹凸部53aと、凹凸部53aの凹凸面に反射部54aが形成されてなる、反射型の回折格子構造を有している。回折格子構造とする場合、後述する回折レンズ形状とし、とくに波長λの光が入射したとき、入射光の発散角θに対して反射した波長λの光の発散角θ´(θ<θ´)を大きくして反射させる凹レンズの機能を有するとよい。また、図4(a)の第1の反射層41aは、ダイクロイックミラー51aに相当するが、透明基板52aを含んでもよい。さらに、図4(a)の第2の反射層42aは、凹凸部53aと反射部54aから構成される部分に相当するが、透明基板52aを含んでもよい。また、凹凸部53aは透明基板52aと同一材料であって、透明基板52aを加工して形成されものであってもよい。
【0041】
反射ミラー50bは、透明基板52bの片面に波長λの光および波長λの光を反射し、波長λの光を透過するダイクロイックミラー51bが成膜されている。また、基板56bには回折格子となる凹凸部53bと凹凸部53bの凹凸面に反射部54bが形成されてなる、反射型の回折格子構造を有している。回折格子構造とする場合、凹凸部53aと同様に凹レンズの機能を有するとよい。そしてダイクロイックミラー51bと反射部54bを凹凸の少なくとも凹部を埋めるように透明な接着剤55bで一体化される。接着剤としては、UV硬化型や熱硬化型の接着剤を使用することができる。また、図4(a)の第1の反射層41aは、ダイクロイックミラー51bに相当するが、透明基板52bを含んでもよい。さらに、図4(a)の第2の反射層42aは、凹凸部53bと反射部54bから構成される部分に相当するが、接着剤55bや基板56bを含んでもよい。なお、基板56bは光が入射しないので透明でなくてもよい。また、凹凸部53bは基板56bと同一材料であって、基板56bを加工して形成されものであってもよい。また、反射部54bは、凹凸部53bの凹凸面に形成されているが、接着剤55bの屈折率と凹凸部53bの屈折率とが異なる組み合わせとして、反射部54に相当する反射機能を基板56b面に形成してもよい。
【0042】
反射ミラー50cは、反射ミラー50bに含まれる平坦な透明基板52bの代わりに断面が直角二等辺三角形となる三角柱の形状を有する透明基板52cを備えるものである。そして、この直角二等辺三角形のうち辺の長さが最も長い辺を有する面上に波長λの光および波長λの光を反射し、波長λの光を透過するダイクロイックミラー51cが成膜されている。透明基板52cは光入出面57a、57bを有し、光(光軸)は、この入出射面57aの法線方向に平行する方向に入射したり反射して出射したりする。このようにすると、反射ミラー50cに入射する前や出射した後の媒質の屈折率と透明基板53cの屈折率との差があってもダイクロイックミラー51c面への光の入射角度を約45°とすることができる。なお、入射する光を90°偏向させるように反射する場合は断面が直角三角形としたが、90°とは異なる角度に偏向させる場合は適宜、透明基板52cの形状を変えてもよい。その場合、二等辺三角形の底辺上にダイクロイックミラー51cに相当する膜が形成されていればよい。
【0043】
また、基板56cには回折格子となる凹凸部53cと凹凸部53cの凹凸面に反射部54cが形成されてなる、反射型の回折格子構造を有している。回折格子構造とする場合、凹凸部53bと同様に凹レンズの機能を有するとよい。そしてダイクロイックミラー51cと反射部54cを凹凸の少なくとも凹部を埋めるように透明な接着剤55cで一体化される。接着剤としては、UV硬化型や熱硬化型の接着剤を使用することができる。また、図4(a)の第1の反射層41aは、ダイクロイックミラー51cと透明基板52cからなる。さらに、図4(a)の第2の反射層42aは、凹凸部53cと反射部54cから構成される部分に相当するが、接着剤55cや基板56cを含んでもよい。なお、基板56cは光が入射しないので透明でなくてもよい。また、凹凸部53cは基板56cと同一材料であって、基板52cを加工して形成されものであってもよい。また、反射部54cは、凹凸部53cの凹凸面に形成されているが、接着剤55cの屈折率と凹凸部53cの屈折率とが異なる組み合わせとして、反射部54に相当する反射機能を基板56c面に形成してもよい。
【0044】
次に反射型の回折レンズの形状について反射ミラー50aを用いて説明する。凹凸部53aの凹凸面は、入射する光が発散角を変えて反射されるような形状を有する。そして、光が例えば入射角45°のように凹凸面に対して斜め方向から入射するので、凹凸部53aで反射された光の強度分布が大きく乱れないように、凹凸面の形状は、光軸を中心としたとき非対称となる形状となる。これは、入射する光を垂直方向に偏向させるために入射角度が約45°となるように配置しているため、反射した光の光軸と垂直となる断面形状が、円形から歪んだ形状が大きな非対称性とならないようにするためである。
【0045】
次に、例として、反射ミラー50aの凹凸部53aのブレーズ(鋸歯)形状について説明する。反射ミラー50aに入射する平面波の波面において、光軸より座標(x,y)の位置を反射する光線の光路長差OPD(x,y)は、
OPD(x,y)=ax+bxy+cy+dx+・・・ ・・・ (1)
a,b,c,d,・・・;定数
の関数を満たすようにする。なお、入射する波長λの光が所望の発散角に変わるように反射させるために、上記の各定数を決める。
【0046】
ここで、図6(a)は、反射した光の発散角が変わるとともに光軸と垂直となる光の断面形状が大きな非対称性とならないようにしたとき、光軸を含む断面における光路長差を符号αで示した曲線の例である。例えば、横軸をX軸方向としたとき、縦軸は光路長差OPDを入射光の波長λを単位として表記したものである。そして、波長λの入射光に対して、λの整数倍の光路長差を有し反射部で反射する波面は同等を見なすことができる。図6(b)は、図6(a)のαで示すグラフ(光路長差)を波長λ間隔で分割して光路長差をゼロの面に投影した光路長差を示すグラフであり、グラフαと実質的に同等である。そして、グラフβで示される光路長差は、全てλ以内であり、これを反映させて断面が鋸歯状となっているものである。また、反射ミラー50aで反射された光の発散状態はこの符号αの曲線の状態に依存するので、反射した波長λの光が所望の発散角となるように調整し、それに合わせて図6(b)に示す曲線βのように凹凸の隣り合う頂点(山や谷同士)の間隔を設計するとよい。また、この曲線βのような分布を有する形状をフレネルレンズ形状として説明する。
【0047】
図7は、このような光路長差の分布を有するフレネルレンズ形状の凹凸(ミラー)面58に、入射する波長λの光59aが、入射面に対して45°方向に進行して反射するときの光59bの例を示す模式図である。また、点線および一点鎖線は、光線を追跡した線であって、凹凸面58に入射する各部分においてそれぞれ回折角を変えて反射させる。このように、反射ミラーは、式(1)を用いて求めた光路長の分布によって、反射した光の発散角を調整できるように各定数を決定するとよく、凹凸部の反射作用に加え、凹レンズとしての機能を合わせ持つことができる。
【0048】
また、フレネルレンズ形状となる凹凸部の断面はブレーズ形状に限らず、ブレーズ形状を階段状に近似した疑似ブレーズ形状であってもよい。図8は、ブレーズ形状と疑似ブレーズ形状の深さdとステップ数Nとの関係を説明する模式図である。図8(a)は、ブレーズ形状の断面模式図であって、ブレーズ形状の深さをdとしたものである。図8(b)は、図8(a)のブレーズ形状に相当する疑似ブレーズ形状を示すものである。ここで、図8(b)に示すように、擬似ブレーズ形状に加工するときの凹凸部の物理的な厚さd´は、ステップ数Nの場合、d×(N−1)/Nに相当する。なお、ステップ数は、凹凸部の断面の1つの周期において異なる段差の数を示すものであり、1つのステップの幅は1つの周期においていずれも同じものである。このような疑似ブレーズ形状は、例えば、フォトリソグラフィおよびエッチング加工の一連の工程を繰り返すことで作製することができる。
【0049】
このような機能をもつ反射ミラー15を光ヘッド装置10に配置することで、3つの異なる波長λ、λおよびλそれぞれの光に対して、一つの対物レンズに入射する光の発散角を調整することができる。そして、各波長に対応する光ディスク18の情報記録面18a、18bおよび18cにそれぞれ良好に集光させることができ、規格の異なる光ディスクの記録・再生の互換性ができるとともに高品質の光ヘッド装置を実現することができる。
【0050】
(第2の実施形態)
図9は、本実施形態にかかる光ヘッド装置60の概念的な構成を示す模式図である。第1の実施形態にかかる光ヘッド装置10と異なるのは、波長λの光を出射する光源61bと波長λの光を出射する光源61cを配置したものであり、それに対応してそれぞれカップリングレンズ62bとカップリングレンズ62cを配置しているところである。また、偏光ビームスプリッタ63bは波長λの光のうち往路の光を反射し、復路の光を透過する。偏光ビームスプリッタ63cは波長λの光のうち往路の光を反射するとともに復路の光を透過し、波長λの光のうち往路および復路の光いずれも透過する機能を有する。また、光ヘッド装置60において光ヘッド装置10と同じ機能を有するものは同じ番号を付して説明の重複を避ける。
【0051】
光源61bから出射した波長λの光は、カップリングレンズ62bによって発散角が変えられた発散光(発散角>0)となって進行する。カップリングレンズ62bを出射した波長λの発散光は、偏光ビームスプリッタ63bで反射され、偏光ビームスプリッタ63cを透過し、ダイクロイックミラー14を反射し、さらに反射ミラー65で反射して光ディスク18に進行する。光ディスク18で反射された復路の光は、往路の直線偏光の光と直交する直線偏光の光となって再び反射ミラー65およびダイクロイックミラー14で反射され、偏光ビームスプリッタ63c、偏光ビームスプリッタ63bおよびカップリングレンズ19bを透過し光検出器20bに到達する。
【0052】
また、光源61cから出射した波長λの光は、カップリングレンズ62cによって発散角が変えられた発散光(発散角>0)となって進行する。カップリングレンズ62cを出射した光は、偏光ビームスプリッタ63cで反射され、ダイクロイックミラー14を反射し、さらに反射ミラー65で反射して光ディスク18に進行する。光ディスク18で反射された復路の光は、往路の直線偏光と直交する直線偏光の光となって再び反射ミラー65およびダイクロイックミラー14で反射され、偏光ビームスプリッタ63c、偏光ビームスプリッタ63bおよびカップリングレンズ19bを透過し光検出器20bに到達する。
【0053】
図10(a)および図10(b)は、本実施形態にかかる反射ミラー65の作用を説明するための模式図であり、図9の光ヘッド装置60のうち、反射ミラー65、対物レンズ17および光ディスク18のみを取り上げ、またそれぞれの波長の光の入射および反射の様子も併せて示すものである。なお、1/4波長板は図示せずに省略している。また、図10(a)は波長λの光72の集光の様子を示すものである。図10(b)は波長λの光の様子を示すものであって、実線は往路の光および復路うち光ディスク18から反射ミラー65までの光73a、点線は復路の光のうち反射ミラー65を反射する光73bを示す。
【0054】
波長λの光に対しては、第1の実施形態と同様に(図示しない)平行光が反射ミラー65に入射し、対物レンズ17の光軸の方向へ平行光のまま進行する。一方、波長λの光は発散光であって、反射ミラー65で反射され発散角を変えないまま対物レンズ17に入射する。また、波長λの光72の発散角は、波長λの光72に対する対物レンズ17の球面収差を低減するために図9のカップリングレンズ62bによって最適化されている。そのため、特定の発散角で対物レンズ17に入射する波長λの光72は、情報記録面18bに集光する。また、図示しないが、各光源から出射した光のビーム径を制御するための開口制限機能を有する光学素子を備えてもよい。
【0055】
また、波長λの光73aも同様にカップリングレンズ62cによって発散光となって反射ミラー65に入射する。また、反射ミラー65に入射する波長λの往路の光73aの偏光状態は、図10(b)において特定の偏光方向を有する。ここでは、この偏光方向をY方向に振動する直線偏光(=S偏光)とし、S偏光で入射する波長λの光は発散角を変えないまま反射し対物レンズ17の光軸に沿って進行し、対物レンズ17によって情報記録面18cに集光する。一方、光ディスク18で反射された光は、図示しない1/4波長板を透過してX方向の直線偏光の光となって反射ミラー65に入射する。なお、ここではZ方向に進行する光のうちX方向の直線偏光の光およびX方向に進行する光のうちZ方向に振動する直線偏光の光をP偏光とする。反射ミラー65にS偏光で入射して反射する復路の光73bは、入射する収束光(発散角<0)よりも大きい発散角を有する収束光となって進行する。以下の実施形態においてもとくに説明が無い場合、S偏光およびP偏光は上記の偏光状態であるとする。
【0056】
このように入射する光の偏光状態によって発散角が異なる機能を有する反射ミラー65を用いると、往路の波長λの光73aの発散角と復路の波長λの光73bの発散角を異ならせることができ、波長λの光に合わせて集光位置を設定した光検出器20bの位置に波長λの光も集光できるように調整することができる。なお、波長λの光に対する反射ミラー65の機能は、P偏光の入射光で発散角を変えず、S偏光の入射光で発散角を変える機能を有するものであってもよい。
【0057】
本実施形態の光ヘッド装置にかかる反射ミラー65の具体的構成の一例について図11(a)および図11(b)の断面模式図を用いて説明する。また、図11には、反射ミラー80aおよび80bに対して、入射するP偏光およびS偏光の具体的な透過/反射機能を模式的に示す。図11(a)の反射ミラー80aは、光が入射する順に第1の反射層81aと第2の反射層82bとが積層された構成を有する。まず、第1の反射層81aは、波長λの光および波長λの光を反射し、波長λの光を透過する。そして、第2の反射層82aは、波長λの光のうち第1の直線偏光の光は発散角を変えずに反射させ、第1の直線偏光の光と直交する第2の直線偏光の光は発散角を変えて反射させる機能を有する。なお、以下、第1の直線偏光の光をS偏光、第2の直線偏光の光をP偏光として説明するが、第1の直線偏光の光がP偏光、第2の直線偏光の光がS偏光であってもよい。
【0058】
また、図11(b)の反射ミラー80bは、反射ミラー80aの第1の反射層81aと同じ機能を有する第1の反射層81bを有する。そして、反射ミラー80aの第2の反射層82aと同じ機能を有する第2の反射層82bを有する。第2の反射層82bは、第1の反射層81bと接する偏光ビームスプリッタ層84bと、偏光変換反射層85bと、86bとが三角柱の形状となる透明基板83bに接着されて構成されている。偏光変換反射層85b、86bは、1/4波長板87bと光の発散角を変えるミラー層88bまたは89bが積層されてなる。また、偏光変換反射層85b、86bは、三角柱の形状となる透明基板83bの側面のうち直角となる面にそれぞれ配置され、偏光ビームスプリッタ層84bはもう一つの面に配置され、光の進行方向に対して約45°の角度をなしているものとする。なお、1/4波長板87bは、少なくとも入射する波長λの光に対して機能していればよい。
【0059】
ここで、偏光ビームスプリッタ層84bは、波長λのS偏光を反射させP偏光を透過させる機能を有する。X方向に進行する波長λのS偏光は、偏光ビームスプリッタ層84bで発散角を変えずに反射する。一方、(光ディスクで反射されて)Z方向から入射する波長λの復路のP偏光は、ビームスプリッタ層84bを透過する。透過したP偏光は偏光変換反射層86bに入射する。そして、1/4波長板87bで円偏光となってミラー層89bで反射され、再び1/4波長板87bによってS偏光に変換され、ビームスプリッタ層84bで反射されて偏光変換反射層85b側に進行する。偏光変換反射層85bに入射するP偏光は、1/4波長板87bで円偏光の光となってミラー層88bで反射され、再び1/4波長板87bによってP偏光に変換される。P偏光に変換された光は、偏光ビームスプリッタ層84bおよび第1の反射層81bを直進透過する。このとき、反射ミラー層88bと反射ミラー層89bの少なくとも一方で、発散角を変化させる作用が発生するように構成される。
【0060】
反射ミラー80aの第1の反射層81aおよび81bは、具体的に、平行に配された2種類の無機材料を交互に積層した誘電体多層膜からなるダイクロイックミラーを用いることができる。また、第2の反射層82aとしては、波長λの光で入射するS偏光を反射しP偏光を透過させる偏光ビームスプリッタと反射型の回折素子とを組み合わせたもの、複屈折性材料により形成された透過型回折格子と少なくとも波長λの光を反射するミラーを組み合わせたもの、そして、波長λの光のうちP偏光を回折して反射し、S偏光を透過させる機能を有する反射型回折素子と透過するS偏光の光を反射するミラーを組み合わせたもの、などを用いることができる。また、例えば、反射ミラー80bのミラー層88bは、図5(a)の凹凸部53aと、凹凸部53aの面に反射部54aが形成されてなる、反射型の回折格子構造と同様のものが形成され、反射するとともに発散角を変化させる機能を有する。
【0061】
図12(a)および図12(b)は、本実施形態の光ヘッド装置に係る図11(a)の反射ミラー80aの具体的な構成を示す断面模式図の一例である。反射ミラー90aは、透明基板92aの片面に波長λの光および波長λの光を反射させ、波長λの光を透過させるダイクロイックミラー91aが成膜されている。また、(透明)基板96aには少なくともλの光を反射させる平坦な反射部94aと、そして反射部94a上に複屈折性材料からなり凹レンズ機能を有する回折格子である凹凸部93aが形成されており、凹凸部93aの少なくとも凹部を埋めるように透明な接着剤95aで一体化される。なお、凹凸部93aは、図6(b)に示すような光軸に対して非対称となる形状を有する。
【0062】
また、接着剤95aは凹凸部93aを構成する複屈折性材料の常光屈折率(n)と略一致しており、常光屈折率となる偏光方向の光に対して回折格子として作用しないようにする。一方、複屈折性材料の異常光屈折率(n)となる偏光方向の光に対して回折作用が発
生するとともに反射部94aで反射される。なお、接着剤95aの屈折率は異常光屈折率(n)に一致させ、複屈折性材料の異常光屈折率(n)となる偏光方向の光に対して回折作用を発現させてもよい。また、図11(a)の第1の反射層81aは、図12(a)の反射ミラー90aのダイクロイックミラー91aに相当するが、透明基板92aを含んでもよい。さらに、図11(a)の第2の反射層82aは、図12(a)の反射ミラー90aの凹凸部93aと反射部94aから構成される部分に相当するが、接着剤95aや基板96aを含んでもよい。なお、基板96aは光が入射しないので平坦であれば透明でなくてもよい。
【0063】
この構成により、反射ミラー90aに入射する波長λの光および波長λの光は偏光状態に関係せずにダイクロイックミラー91aで発散角を変えずに反射する。一方、反射ミラー90aに入射する波長λの光のうちS偏光は、接着剤95aと凹凸部93aとの間で屈折率差がない方向に合わせると、反射部94aで発散角を変えずに反射する。そして反射ミラー90aに入射する波長λの光のうちP偏光は、接着剤95aと凹凸部93aとの間で屈折率差が与えられる方向となり、凹レンズ機能を有し、反射部94aで反射される光の発散角は入射する光の発散角とは異なる。
【0064】
図12(b)に示す反射ミラー90bは、透明基板92bの片面に波長λの光および波長λの光を反射させ、波長λの光を透過させるダイクロイックミラー91bが成膜されている。そして、透明基板92bのうちダイクロイックミラー91bと反対の面に、波長λの光のうちP偏光を反射し、S偏光を透過する偏光ビームスプリッタ層97bが成膜される。なお、偏光ビームスプリッタ層97bは、平行に配された2種類の無機材料を交互に積層した誘電体多層膜からなる。また、(透明)基板96b上には凹レンズ機能を有する回折格子である凹凸部93bと凹凸部93bの凹凸面に反射部94bが形成されてなる、反射型の回折格子構造を有している。そして偏光ビームスプリッタ層97bと反射部94bとの間の凹凸の少なくとも凹部を埋めるように透明な接着剤95bで一体化される。接着剤としては、UV硬化型や熱硬化型の接着剤を使用することができる。
【0065】
また、図11(a)の第1の反射層81aは、ダイクロイックミラー91bに相当するが、透明基板92bを含んでもよい。さらに、図11(a)の第2の反射層82aは、偏光ビームスプリッタ層97b、接着剤95b、凹凸部93bと反射部94bから構成される部分に相当するが、基板96bを含んでもよい。なお、基板96bは光が入射しないので透明でなくてもよい。また、凹凸部93bは基板96bと同一材料であって、基板96bを加工して形成されるものであってもよい。
【0066】
この構成により、反射ミラー90bに入射する波長λの光および波長λの光は偏光状態に関係せずにダイクロイックミラー91bで発散角を変えずに反射する。一方、反射ミラー90bに入射する波長λの光のうちS偏光は、偏光ビームスプリッタ層97bで発散角を変えずに反射する。そして反射ミラー90aに入射する波長λの光のうちP偏光は、偏光ビームスプリッタ層97bを透過し、凹凸部93b面に形成された反射部94bで反射される。凹凸部94bは凹レンズ機能を有するので、反射部94bで反射される光の発散角は入射する光の発散角とは異なる。
【0067】
このように反射ミラーを構成することで、波長λ、波長λおよび波長λの光に対する発散角を適切に調整することができ、各波長の光の球面収差を一定のレベル以下に抑えて各波長の光に対する各光ディスクの情報記録面に良好に集光させることができる。さらに、光ヘッド装置60のように波長λの光と波長λの光との間で往路(復路)の光路の長さが異なる場合でも、波長による復路の光の発散角を調整することによって、いずれの波長の光においても1つの光検出器20bで集光性よく光(情報)を検出することができる。
【0068】
(第3の実施形態)
図13は、本実施形態にかかる光ヘッド装置100の概念的な構成を示す模式図である。光ヘッド装置100は波長λの光、波長λの光および波長λの光を出射する光源101と、光源101から出射された光を平行光に変換するカップリングレンズ102と、カップリングレンズ102から出射した往路の光を透過するとともに復路の光を反射する偏光ビームスプリッタ103と、偏光ビームスプリッタ103を出射した光を対物レンズ17の光軸方向に反射させる反射ミラー105、さらに、偏光ビームスプリッタ103を反射した復路の光を集光するカップリングレンズ104および光検出器106を備える。また、1/4波長板16、対物レンズ17および光ディスク18は、第1の実施形態と同じものである。また、図示しないが、各光源から出射した光のビーム径を制御するための開口制限機能を有する光学素子を備えてもよい。
【0069】
図14(a)および図14(b)は、本実施形態にかかる反射ミラー105の作用を説明するための模式図であり、図13の光ヘッド装置100のうち、反射ミラー105、対物レンズ17および光ディスク18のみを取り上げ、またそれぞれの波長の光の入射および反射の様子も併せて示すものである。なお、ここでは1/4波長板は省略している。また、図14(a)に実線で波長λの光111の集光の様子を示し、図14(b)に実線で波長λの光112、点線で波長λの光113の集光の様子を示す。なお、図14(a)、図14(b)の一点鎖線は光軸を示す。
【0070】
波長λの光111に対しては、第1の実施形態と同様に(図示しない)平行光が反射ミラー105に入射し、対物レンズ17の光軸の方向へ平行光のまま進行する。一方、波長λの光112および波長λの光113も平行光で反射ミラー105に入射するが、反射ミラー105でいずれも発散角を変えて(発散角>0)反射して対物レンズ17に入射する。また、対物レンズ17は、波長λの光111が平行光で入射するとき、光ディスク18の情報記録面18aに集光されるように設計されている。波長λの光112、波長λの光113は、反射ミラー105で発散光(発散角>0)となって対物レンズ17に入射してそれぞれ情報記録面18b、18cに集光されるように発散角を調整している。
【0071】
本実施形態の光ヘッド装置100にかかる反射ミラー105の具体的構成の一例について図15(a)および図15(b)を用いて説明する。図15(a)の反射ミラー120は、光が入射する順に第1の反射層121、第2の反射層122、第3の反射層123が積層された構成を有する。まず、第1の反射層121は、波長λの光を反射するとともに波長λの光および波長λの光を透過する。第2の反射層122は、波長λの光を透過するとともに波長λの光の発散角を変えて反射する。そして、第3の反射層123は、波長λの光の発散角を変えて反射する。
【0072】
第1の反射層121および第2の反射層122は具体的に、平行に配された2種類の無機材料を交互に積層した誘電体多層膜からなるダイクロイックミラーを用いることができる。また、第3の反射層123としては、球面形状をしたミラー、反射型の回折格子を配した回折素子を用いることができる。
【0073】
図15(a)の反射ミラー120をさらに具体的に示した一例として図15(b)の反射ミラー130の構成について説明する。反射ミラー130は、透明基板132の片面に波長λの光を反射させ、波長λの光および波長λの光を透過させる第1のダイクロイックミラー131が成膜されている。そして、透明基板132のもう一方の面には、回折格子となる第1の凹凸部133が形成されており、第1の凹凸部133の凹凸面に誘電体多層膜からなる第2のダイクロイックミラー134が形成される。第2のダイクロイックミラー134は、波長λの光を反射し波長λの光を透過させる機能を有する。(透明)基板138の片面には回折格子となる第2の凹凸部137が形成されており、第2の凹凸部137の凹凸面に光を反射する反射部136が形成されている。そして、第1の凹凸部133と第2の凹凸部137の少なくとも凹部を埋めるように透明な接着剤135で接着された構造となっている。なお、波長λの光に対し、第1の凹凸部133の屈折率と接着剤135の屈折率とが等しい材料にするとよい。また、第1の凹凸部133と第2の凹凸部137の形状は反射する波長λの光、波長λの光に対してそれぞれ所望の発散角となるよういにピッチや深さを調整すればよい。また、反射部136は、凹凸部137の凹凸面に形成されているが、接着剤135の屈折率と凹凸部137の屈折率とが異なる組み合わせとして、反射部136に相当する反射機能を基板138面に形成してもよい。
【0074】
また、図15(a)の第1の反射層121は、反射ミラー130の第1のダイクロイックミラー131に相当するが、透明基板132を含んでもよい。また、図15(a)の第2の反射層122は、反射ミラー130の第1の凹凸部133と第2のダイクロイックミラー134から構成される部分に相当するが、透明基板132、接着剤135を含んでもよい。さらに、図15(a)の第3の反射層123は、反射ミラー130の第2の凹凸部137と反射部136から構成される部分に相当するが、接着剤135、基板138を含んでもよい。なお、基板138には光が入射しないので透明でなくてもよい。また、第2の凹凸部137は基板138と同一材料であって、基板138を加工して形成されるものであってもよい。
【0075】
この構成により、反射ミラー130に入射する波長λの光は第1のダイクロイックミラー131で発散角を変えずに反射し、波長λの光および波長λの光は透過する。そして、第1のダイクロイックミラー131を透過した波長λの光は第1の凹凸部133の凹凸面上の第2のダイクロイックミラー134で発散角を変えて反射し、波長λの光は透過する。さらに、第2のダイクロイックミラー134を透過した波長λの光は第2の凹凸部137の凹凸面上の反射部136で発散角を変えて反射する。
【0076】
このように反射ミラーを構成することで、波長λ、波長λおよび波長λそれぞれの光に対する発散角を適切に調整することができ、各波長の光の球面収差を一定のレベル以下に抑えて各波長の光に対する各光ディスクの情報記録面に良好に集光させることができる。さらに、光ヘッド装置100のように波長λ、波長λおよび波長λの光が平行光であって進行方向に焦点を結ばない無限光学系とすることができるので、いずれの波長の光においても1つの光検出器106で集光性よく光(情報)を検出することができ、光ヘッド装置の部品点数を削減することができる。
【0077】
(第4の実施形態)
図16は、本実施形態にかかる光ヘッド装置140の概念的な構成を示す模式図である。光ヘッド装置140は波長λの光を出射する光源141a、波長λの光を出射する光源141b、波長λの光を出射する光源141cを有し、それぞれの光源に対して出射された光の発散角を調整するカップリングレンズ142a、142bおよび142cが配置されている。さらに、カップリングレンズ142aを出射した波長λの光を透過してカップリングレンズ142bを出射した波長λの光を反射するダイクロイックミラー143aと、ダイクロイックミラー143aを出射した波長λの光および波長λの光を透過してカップリングレンズ142cを出射した波長λの光を反射するダイクロイックミラー143bを備え、さらに光の波長によって発散角を調整して反射する反射ミラー145を備える。また、反射ミラー145を除き、ダイクロイックミラー143bを出射した光が光ディスク18で反射され光検出器106に到達するまでの光路中の部品は第3の実施形態の光ヘッド装置100のものと同じであり、同じ番号を付して説明の重複を避ける。また、図示しないが、各光源から出射した光のビーム径を制御するための開口制限機能を有する光学素子を備えてもよい。
【0078】
図17(a)および図17(b)は、本実施形態にかかる反射ミラー145の作用を説明するための模式図である。図16の光ヘッド装置140のうち、反射ミラー145、対物レンズ17および光ディスク18をのみ取り上げ、またそれぞれの波長の光の入射および反射の様子も併せて示すものである。なお、ここでは1/4波長板は省略している。また、図17(a)は波長λの光の集光の様子を示すものであって、実線は往路の光および復路うち光ディスク18から反射ミラー145までの光146a、点線は復路の光のうち反射ミラー145を反射する光146bを示す。図17(b)は波長λの光の様子を示すものであって、実線は往路の光および復路うち光ディスク18から反射ミラー145までの光147a、点線は復路の光のうち反射ミラー145を反射する光147bを示す。
【0079】
波長λの光に対しては、第3の実施形態と同様に(図示しない)平行光が反射ミラー145に入射し、対物レンズ17の光軸の方向へ平行光のまま進行する。一方、反射ミラー145に入射する波長λの往路の光146aの偏光状態は図17(a)において特定の偏光方向を有する発散光(発散角>0)である。ここでは特定の偏光方向をS偏光とし、S偏光で入射する光は発散角を変えないまま反射し対物レンズ17の光軸に沿って進行し、対物レンズによって情報記録面18bに集光する。また、波長λの光146aの発散角は、波長λの光146aに対する対物レンズ17の球面収差を低減するために図16のカップリングレンズ142bによって最適化されている。そして光ディスク18で反射された光は、図示しない1/4波長板を透過してP偏光となって反射ミラー145に入射する。反射ミラー145にP偏光で入射して反射する復路の光146bは、入射する収束光(発散角<0)よりも大きい発散角を有する平行光となって進行する。
【0080】
また、反射ミラー145は、図17(b)に示すように波長λの光に対しても、波長λの光と同じように往路のS偏光に対して発散角を変えずに反射させ、復路のP偏光に対して発散角が大きくなって平行光となるよう反射する特性を有する。このように入射する光の偏光状態によって発散角が異なる機能を有する反射ミラー145を用いると、復路の波長λの光の発散角と波長λの光の発散角を調整、とくにいずれに波長の光も平行光にすることができるので、波長λの光、波長λの光および波長λの光いずれも一つの光検出器106の位置に合わせて集光することができる。
【0081】
本実施形態の光ヘッド装置にかかる反射ミラー145の具体的構成の一例について図18(a)および図18(b)を用いて説明する。図18(a)の反射ミラー150は、光が入射する順に第1の反射層151、第2の反射層152、第3の反射層153が積層された構成を有する。まず、第1の反射層151は、波長λの光を反射するとともに、波長λの光および波長λの光を透過する。第2の反射層152は、S偏光で入射する波長λの光に対して発散角を変えずに反射し、P偏光で入射する波長λの光に対して発散角を変えて反射する。さらに、第2の反射層152は、S偏光で入射する波長λの光に対して発散角を変えずに反射し、P偏光で入射する波長λの光を透過する。そして、第3の反射層153は、(P偏光で)入射する波長λの光の発散角を変えて反射する。
【0082】
第1の反射層151は具体的に、平行に配された2種類の無機材料を交互に積層した誘電体多層膜からなるダイクロイックミラーを用いることができる。また、第2の反射層152として、少なくとも波長λの光と波長λの光に対してS偏光を反射しP偏光を透過させる偏光ビームスプリッタと、波長λの光は透過し波長λの光に対して回折して発散角を変えて反射する回折格子と誘電体多層膜が積層されてなる構造を用いることができる。第3の反射層153として、波長λの光に対して回折して発散角を変えて反射する回折格子と光を反射するミラーが積層してなる構造を用いることができる。
【0083】
図18(a)の反射ミラー150をさらに具体的に示した一例として図18(b)の反射ミラー160の構成について説明する。反射ミラー160は、透明基板162に片面に波長λの光を反射させ、波長λの光および波長λの光を透過させる第1のダイクロイックミラー161が成膜されている。そして、透明基板162のもう一方の面には、少なくとも波長λの光および波長λの光においてS偏光を反射しP偏光を透過させる偏光ビームスプリッタ層169が積層される。なお、偏光ビームスプリッタ層169は、平行に配された2種類の無機材料を交互に積層した誘電体多層膜からなる。
【0084】
偏光ビームスプリッタ層169上には凹レンズ機能を有する第1の凹凸部163が形成され、第1の凹凸部163の凹凸面上に波長λの光を反射させるとともに波長λの光を透過する第2のダイクロイックミラー164が形成される。また、(透明)基板168上には、凹レンズ機能を有する回折格子である第2の凹凸部167と第2の凹凸部167の凹凸面に反射部166が形成されてなる、反射型の回折格子構造を有している。そして第1の凹凸部163と第2の凹凸部167との間の凹凸の少なくとも凹部を埋めるように透明な接着剤165で一体化される。接着剤としては、UV硬化型や熱硬化型の接着剤を使用することができる。なお、波長λの光に対し、第1の凹凸部163の屈折率と接着剤165の屈折率とが等しい材料にするとよい。
【0085】
また、図18(a)の第1の反射層151は、反射ミラー160の第1のダイクロイックミラー161に相当するが、透明基板162を含んでもよい。また、図18(a)の第2の反射層152は、反射ミラー160のビームスプリッタ層169と、第1の凹凸部163と、第2のダイクロイックミラー164から構成される部分に相当するが、透明基板162、接着剤165を含んでもよい。さらに、図18(a)の第3の反射層153は、反射ミラー160の第2の凹凸部167と反射部166から構成される部分に相当するが、接着剤165、基板168を含んでもよい。なお、基板168は光が入射しないので透明でなくてもよい。また、第2の凹凸部167は基板168と同一材料であって、基板168を加工して形成されるものであってもよい。また、反射部166は、凹凸部167の凹凸面に形成されているが、接着剤165の屈折率と凹凸部167の屈折率とが異なる組み合わせとして、反射部166に相当する反射機能を基板168面に形成してもよい。
【0086】
図19(a)および図19(b)は、反射ミラー150に各波長のそれぞれの偏光状態の光が入射したときの光の反射の様子を示す模式図であり、とくに図19(a)は波長λの光と波長λの光、図19(b)は波長λの光の反射の様子を示す。波長λの光は、図19(a)に示すように、偏光方向に拘わらず第1の反射層151(反射ミラー160の第1のダイクロイックミラー161)で発散角を変えずに反射し、第2の反射層152および第3の反射層153には到達しない。
【0087】
波長λの光は、図19(a)に示すように、偏光方向に拘わらず第1の反射層151を透過し、第2の反射層152で反射する。具体的に、波長λの光と図18(b)の反射ミラー160の第2の反射層152との関係として、(往路の)S偏光は偏光ビームスプリッタ層169で発散角を変えずに反射し、(復路の)P偏光は偏光ビームスプリッタ層169を透過し、第2のダイクロイックミラー164で発散角を変えて反射する。波長λの光は偏光方向に拘わらず、図19(a)の第2の反射層152で反射する様子を示すが、偏光状態によって発散角を変える機能を有する。
【0088】
波長λの光は、図19(b)に示すように、偏光方向に拘わらず第1の反射層151を透過し、S偏光は第2の反射層152で反射し、P偏光は第2の反射層を透過し第3の反射層で反射する。具体的に、波長λの光と図18(b)の反射ミラー160の第2の反射層152との関係として、(往路の)S偏光は偏光ビームスプリッタ層169で発散角を変えずに反射し、(復路の)P偏光は偏光ビームスプリッタ層169および第2のダイクロイックミラー164を透過する。そして、第3の反射層に到達する波長λのS偏光は、図18(b)の反射ミラー160の反射部166で発散角を変えて反射する。
【0089】
このように反射ミラーを構成することで、波長λ、波長λおよび波長λの光に対する発散角を適切に調整することができ、各波長の光の球面収差を一定のレベル以下に抑えて各波長の光に対する各光ディスクの情報記録面に良好に集光させることができる。さらに、光ヘッド装置140のように波長λ、波長λおよび波長λの光が平行光であって進行方向に焦点を結ばない無限光学系とすることができるので、いずれの波長の光においても1つの光検出器106で集光性よく光(情報)を検出することができ、光ヘッド装置の部品点数を削減することができる。
【0090】
(実施例1)
実施例1として、図5(a)に示す、第1の実施形態に係る光ヘッド装置の反射ミラー50aを作製する。図5(a)の透明基板52aとして厚さ約0.5mmの石英ガラス基板を用いる。石英ガラス基板を洗浄して乾燥後、真空蒸着法によって表1に示すようにTa膜およびSiO膜がそれぞれ均一の膜厚となるように交互に積層し、ダイクロイックミラー51aとなる光学多層膜を形成する。なお、表1において、層番号が1の層が空気との界面にある層であって、層番号39が石英ガラス基板との界面にある層である。
【0091】
【表1】

【0092】
次に、石英ガラス基板のもう一方の面に対して、フォトリソグラフィ加工、エッチング加工により、断面が4段のステップ状となる疑似ブレーズ形状を有するとともに、入射する光の光軸に対して非対称となるようなフレネルレンズ形状の凹凸部53aを作製する。そして、フレネルレンズ形状を有する面に、スパッタ法により反射部54aとして膜厚約1μmで金を成膜する。
【0093】
図20は、作製した反射ミラー50aのダイクロイックミラー51a面に対して入射角45°で光を入射させるものであって、入射する光の波長λ[nm]を変化させたとき、表1の光学多層膜構成のダイクロイックミラー51aの透過率Tr[%]をシミュレーションによって調べたものである。なお、図20において実線は入射する光がP偏光のときの透過率、点線はS偏光のときの透過率を表す。この結果、表1の光学多層膜は、405nm波長帯の光および660nm波長帯の光に対して、偏光状態に拘わらずほぼ反射させ、785nm波長帯の光に対して偏光状態に関わらずほぼ透過させることができる。
【0094】
この結果より、反射ミラー50aは、405nm波長帯の光および660nm波長帯の光に対してダイクロイックミラー51aで発散角を変えずに反射し、一方、785nm波長帯の光は反射部54aで凹レンズ機能を有する反射部54aで発散角を変えて反射するので、光ヘッド装置の反射ミラーとして用いると、それぞれの波長帯の光が1つの対物レンズを共有してそれぞれの規格の光ディスクの情報記録面上に良好に集光させることができる。
【0095】
(実施例2)
実施例2として、図5(b)に示す、第1の実施形態に係る光ヘッド装置の反射ミラー50bを作製する。図5(b)の透明基板52bとして厚さ約0.5mmの石英ガラス基板を用いる。石英ガラス基板を洗浄して乾燥後、真空蒸着法によって表2に示すようにTa膜およびSiO膜がそれぞれ均一の膜厚となるように交互に積層し、ダイクロイックミラー51bとなる光学多層膜を形成する。なお、表2において、層番号が1の層が石英ガラス基板との界面にある層であって、層番号39が後述する透明な接着剤との界面にある層である。
【0096】
【表2】

【0097】
次に、もう1つの厚さ約0.5mmの石英ガラス基板の一方の面に対して、フォトリソグラフィ加工、エッチング加工により、断面が4段のステップ状となる疑似ブレーズ形状を有するとともに、入射する光の光軸に対して非対称となるようなフレネルレンズ形状の凹凸部53bを作製する。そして、フレネルレンズ形状を有する面に、スパッタ法により反射部54bとして膜厚約1μmで金を成膜する。その後、光学多層膜(ダイクロイックミラー51b)側とフレネルレンズ側とを対向させ、その間に屈折率が1.5である透明な接着剤55bを介して接着する。
【0098】
図21は、作製した反射ミラー50bの透明基板52b面に対して入射角45°で光を入射させるものであって、入射する光の波長λ[nm]を変化させたとき、ダイクロイックミラー51bの透過率Tr[%]をシミュレーションによって調べたものである。このとき、光が空気(屈折率=1)から透明基板52bとなる石英ガラス基板(屈折率=1.5)に入射すると、これらの屈折率差により屈折した光がダイクロイックミラー51b面に対して入射角が約29°となって進行する。図21は、具体的に入射角が29°であるときの波長λ[nm]に対する透過率Tr[%]の特性を示すものである。なお、図21において実線は入射する光がP偏光のときの透過率、点線はS偏光のときの透過率を表す。
【0099】
この結果より、ダイクロイックミラー51bを構成する表2の光学多層膜は、405nm波長帯の光および660nm波長帯の光に対して、偏光状態に拘わらずほぼ反射させ、785nm波長帯の光に対して偏光状態に拘わらずほぼ透過させることができる。これより、反射ミラー50bは、405nm波長帯の光および660nm波長帯の光に対してダイクロイックミラー51bで発散角を変えずに反射し、一方、785nm波長帯の光は凹レンズ機能を有する反射部54bで発散角を変えて反射する。これより、光ヘッド装置の反射ミラーとして用いると、それぞれの波長帯の光が1つの対物レンズを共有してそれぞれの規格の光ディスクの情報記録面上に良好に集光させることができる。
【0100】
(実施例3)
実施例3として、図5(c)に示す、第1の実施形態に係る光ヘッド装置の反射ミラー50cを作製する。透明基板52bの厚さよりも十分に厚い、厚さ約3mmの石英ガラス基板を用い、石英ガラス基板を洗浄して乾燥後、真空蒸着法によって表3に示すようにTa膜およびSiO膜がそれぞれ均一の膜厚となるように交互に積層し、ダイクロイックミラー51cとなる光学多層膜を形成する。なお、表3において、層番号が1の層が石英ガラス基板との界面にある層であって、層番号59が後述する透明な接着剤との界面にある層である。
【0101】
【表3】

【0102】
次に、もう1つの厚さ約0.5mmの石英ガラス基板の一方の面に対して、フォトリソグラフィ加工、エッチング加工により、断面が4段のステップ状となる疑似ブレーズ形状を有するとともに、入射する光の光軸に対して非対称となるようなフレネルレンズ形状の凹凸部53cを形成する。そして、フレネルレンズ形状を有する面に、スパッタ法により反射部54cとして膜厚約1μmで金を成膜する。その後、光学多層膜(ダイクロイックミラー51c)側とフレネルレンズ側とを対向させ、その間に屈折率1.5の透明な接着剤55cを介して接着する。
【0103】
次に、これら2つの基板を接着後、入射する光の光軸に対して、入出射面57a、57bが垂直になるように切断し、切断後面を研磨する。このとき、石英ガラス基板52cの入出射面57aと57bとがなす角度が90°となるようにする。図22は、作製した反射ミラー50cのダイクロイックミラー51c面に対して入射角45°で光を入射させるものであって、入射する光の波長λ[nm]を変化させたとき、ダイクロイックミラー51cの透過率Tr[%]をシミュレーションによって調べたものである。なお、この場合、光が空気(屈折率=1)から透明基板52cとなる石英ガラス基板(屈折率=1.5)に入射するが、入出射面57a、57bの法線と光軸とが平行であるので、空気における光の進行方向と石英ガラス基板における光の進行方向とは同じである。
【0104】
図22は、具体的に実線は入射する光がP偏光のときの透過率、点線はS偏光のときの透過率を表す。この結果、ダイクロイックミラー51cを構成する表3の光学多層膜は、405nm波長帯の光および660nm波長帯の光に対して、偏光状態に拘わらずほぼ反射させ、785nm波長帯の光に対して偏光状態に拘わらずほぼ透過させることができる。
【0105】
この結果より、反射ミラー50cは、405nm波長帯の光および660nm波長帯の光は、ダイクロイックミラー51cで発散角を変えずに反射し、一方、785nm波長帯の光は凹レンズ機能を有する反射部54cで発散角を変えて反射するので、光ヘッド装置の反射ミラーとして用いると、それぞれの波長帯の光が1つの対物レンズを共有してそれぞれの規格の光ディスクの情報記録面上に良好に集光させることができる。
【0106】
(実施例4)
実施例4として図12(a)に示す、第2の実施形態に係る光ヘッド装置の反射ミラー90aを作製する。透明基板92aとして厚さ0.5mmの石英ガラス基板を用い、石英ガラス基板を洗浄して乾燥後、真空蒸着法によって、実施例1に示す表1に相当するTa膜およびSiO膜がそれぞれ均一の膜厚となるように交互に積層し、ダイクロイックミラー91aとなる光学多層膜を形成する。
【0107】
次に、もう1つの厚さ約0.5mmの石英ガラス基板を洗浄して乾燥後、スパッタ法により反射部94aとして膜厚約1μmで金を成膜する。そして、金の膜上に、図示しないポリイミド膜を形成しラビングによって配向膜を形成する。その後、配向膜を施した図示しない透明基板を配向方向が一致し、配向膜が対向するようにして厚さが一定の厚さ約2.3μmの空隙ができるように重ね、空隙に液晶を注入し紫外線によって重合硬化させる。そして、図示しない透明基板を除去し、厚さ約2.3μmの高分子液晶膜を形成する。なお、高分子液晶膜は785nmの波長の光に対して、常光屈折率が1.5、異常光屈折率が1.7となる材料を用いる。
【0108】
そして、形成した高分子液晶膜をフォトリソグラフィ、エッチング加工により断面が4段のステップ状となる疑似ブレーズ形状を有するとともに、入射する光の光軸に対して非対称となるようなフレネルレンズ形状の凹凸部93aを形成する。その後、石英ガラス基板のうち光学多層膜(ダイクロイックミラー91a)と反対側の面とフレネルレンズ側とを対向させ、その間に785nm波長帯において屈折率1.5の透明な接着剤95aを介して接着させて反射ミラー90aを作製する。
【0109】
また、フレネルレンズ形状としたブレーズ形状の高さをdとする。このとき、785nm波長帯の光が常光屈折率となる偏光方向で入射して反射部94aで反射される光の光路長と、785nm波長帯の光が異常光屈折率となる偏光方向で入射して反射部94aで反射される光の光路長と、の差(=光路長差)をφとする。さらに、接着剤95a中を進行する光の方向と反射部94a面の法線方向とがなす角度をθ、高分子液晶からなる凹凸部93a中を進行する光の方向と反射部94a面の法線方向とがなす角度をθ、とすると、この光路長差φはほぼ、
φ=2×d(1.7/cosθ−1.5/cosθ)、
で表されるので、φ≒785[nm]となるように設計すると、異常光屈折率となる偏光方向で入射した785nm波長帯の光は反射部94aの金膜表面で反射して凹レンズ機能を有する。
【0110】
この結果より、反射ミラー90aは、405nm波長帯の光および660nm波長帯の光に対してダイクロイックミラー91aで発散角を変えずに反射する。一方、785nm波長帯の光のうち、高分子液晶の常光屈折率となる偏光方向の光は発散角を変えずに反射するのに対し、高分子液晶の異常光屈折率となる偏光方向の光は発散角を変えて反射するので、光ヘッド装置の反射ミラーとして用いると、それぞれの波長帯の光が1つの対物レンズを共有してそれぞれの規格の光ディスクの情報記録面上に良好に集光させることができ、さらに復路の660nm波長帯の光および785nm波長帯の光に対して共通の光検出器を用いることができる。
【0111】
(実施例5)
実施例5として図12(b)に示す、第2の実施形態に係る光ヘッド装置の反射ミラー90bを作製する。透明基板92bとして厚さ0.5mmの石英ガラス基板を用い、石英ガラス基板を洗浄して乾燥後、真空蒸着法によって、実施例1に示す表1に相当するTa膜およびSiO膜がそれぞれ均一の膜厚となるように交互に積層し、ダイクロイックミラー91bとなる光学多層膜を形成する。
【0112】
次に、透明基板92bのうちダイクロイックミラー91bと反対側の面に真空蒸着法によって表4に示すようにTa膜およびSiO膜がそれぞれ均一の膜厚となるように交互に積層し、偏光ビームスプリッタ層97bとなる光学多層膜を形成する。なお、表4において、層番号が1の層が石英ガラス基板との界面にある層であって、層番号39が後述する透明な接着剤との界面にある層である。
【0113】
【表4】

【0114】
次に、もう1つの厚さ約0.5mmの石英ガラス基板の一方の面に対して、フォトリソグラフィ加工、エッチング加工により、断面が4段のステップ状となる疑似ブレーズ形状を有するとともに、入射する光の光軸に対して非対称となるようなフレネルレンズ形状の凹凸部93bを形成する。そして、フレネルレンズ形状を有する面に、スパッタ法により反射部94bとして膜厚約1μmで金を成膜する。その後、光学多層膜(偏光ビームスプリッタ層97b)側とフレネルレンズ側とを対向させ、その間に屈折率1.5の透明な接着剤95bを介して接着する。
【0115】
次に、作製した反射ミラー90bのダイクロイックミラー91b面に対して入射角45°で光を入射させる。図23は、入射する光の波長λ[nm]を変化させたとき、偏光ビームスプリッタ層97bの透過率Tr[%]をシミュレーションによって調べたものである。なお、この場合、光がダイクロイックミラー91bを透過し、空気(屈折率=1)から透明基板92bとなる石英ガラス基板(屈折率=1.5)に入射すると、偏光ビームスプリッタ層97bへ入射する光の入射角は約29°であり、図23は、入射角が約29°のときの特性を示すものである。
【0116】
図23は、具体的に実線は入射する光がP偏光のときの透過率、点線はS偏光のときの透過率を表す。この結果、偏光ビームスプリッタ層97bを構成する表4の光学多層膜は、785nm波長帯の光のうちS偏光をほぼ反射させ、P偏光をほぼ透過させることができる。そして、偏光ビームスプリッタ層97bを透過する785nm波長帯のP偏光は、凹レンズ機能を有する反射部94bで発散角を変えて反射する。これより、光ヘッド装置の反射ミラーとして用いると、それぞれの波長帯の光が1つの対物レンズを共有してそれぞれの規格の光ディスクの情報記録面上に良好に集光させることができる。
【0117】
(実施例6)
実施例6として図15(b)に示す、第3の実施形態に係る光ヘッド装置の反射ミラー130を作製する。透明基板132として厚さ0.5mmの石英ガラス基板を用い、石英ガラス基板を洗浄して乾燥後、真空蒸着法によって表5に示すようにTa膜およびSiO膜がそれぞれ均一の膜厚となるように交互に積層し、第1のダイクロイックミラー131となる光学多層膜を形成する。なお、表5において、層番号が1の層が空気との界面にある層であって、層番号19が石英ガラス基板との界面にある層である。
【0118】
【表5】

【0119】
次に、石英ガラス基板のうち第1のダイクロイックミラー131と反対側の面上に、フォトリソグラフィ加工、エッチング加工により、断面が4段のステップ状となる疑似ブレーズ形状を有するとともに、入射する光の光軸に対して非対称となるようなフレネルレンズ形状の第1の凹凸部133を作製する。そして、第1の凹凸部133の凹凸面に、真空蒸着法によって表6に示すようにTa膜およびSiO膜がそれぞれ均一の膜厚となるように交互に積層し、第2のダイクロイックミラー134となる光学多層膜を形成する。なお、表6において、層番号が1の層が石英ガラス基板との界面にある層であって、層番号19が後述する透明な接着剤との界面にある層である。
【0120】
【表6】

【0121】
次に、石英ガラス基板のもう一方の面に対して、フォトリソグラフィ加工、エッチング加工により、断面が4段のステップ状となる疑似ブレーズ形状を有するとともに、入射する光の光軸に対して非対称となる楕円形状となるようなフレネルレンズ形状の第2の凹凸部137を作製する。そして、フレネルレンズ形状を有する面に、スパッタ法により反射部136として膜厚約1μmで金を成膜する。
【0122】
図24は、作製した反射ミラー130の第1のダイクロイックミラー131面に対して入射角45°で光を入射させるものであって、入射する光の波長λ[nm]を変化させたとき、表5の光学多層膜構成のダイクロイックミラー131の透過率Tr[%]をシミュレーションによって調べたものである。なお、図24において実線は入射する光がP偏光のときの透過率、点線はS偏光のときの透過率を表す。この結果、表5の光学多層膜は、405nm波長帯の光に対して、偏光状態に拘わらずほぼ反射させ、660nm波長帯の光および785nm波長帯の光に対して偏光状態に拘わらずほぼ透過させることができる。
【0123】
図25は、作製した反射ミラー130の第2のダイクロイックミラー134面に対して入射角29°で光を入射させるものであって、入射する光の波長λ[nm]を変化させたとき、表6の光学多層膜構成のダイクロイックミラー134の透過率Tr[%]をシミュレーションによって調べたものである。なお、図25において実線は入射する光がP偏光のときの透過率、点線はS偏光のときの透過率を表す。この結果、表6の光学多層膜は、660nm波長帯の光に対して、偏光状態に拘わらずほぼ反射させ、785nm波長帯の光に対して偏光状態に拘わらずほぼ透過させることができる。
【0124】
この結果より、反射ミラー130は、405nm波長帯の光は、第1のダイクロイックミラー131で発散角を変えずに反射する。そして、660nm波長帯の光は凹レンズ機能を有する第2のダイクロイックミラー134で発散角を変えて反射し、785nm波長来の光は凹レンズ機能を有する反射部136で発散角を変えて反射するので、光ヘッド装置の反射ミラーとして用いると、それぞれの波長帯の光が1つの対物レンズを共有してそれぞれの規格の光ディスクの情報記録面上に良好に集光させることができる。
【0125】
(実施例7)
実施例7として図18(b)に示す、第4の実施形態に係る光ヘッド装置の反射ミラー160を作製する。透明基板162として厚さ0.5mmの石英ガラス基板を用い、石英ガラス基板を洗浄して乾燥後、真空蒸着法によって実施例6に示す表6に相当するTa膜およびSiO膜がそれぞれ均一の膜厚となるように交互に積層し、第1のダイクロイックミラー161となる光学多層膜を形成する。
【0126】
次に、透明基板162のうち第1のダイクロイックミラー161と反対側の面に真空蒸着法によって表7に示すようにTa膜およびSiO膜がそれぞれ均一の膜厚となるように交互に積層し、偏光ビームスプリッタ層169となる光学多層膜を形成する。なお、表7において、層番号が1の層が石英ガラス基板との界面にある層であって、層番号69が後述する透明な接着剤との界面にある層である。
【0127】
【表7】

【0128】
次に、偏光ビームスプリッタ層169の上にスパッタ法によってSiOを約1μm成膜する。そして、SiO膜面に対してフォトリソグラフィ加工、エッチング加工により、断面が4段のステップ状となる疑似ブレーズ形状を有するとともに、入射する光の光軸に対して非対称となる楕円形状となるようなフレネルレンズ形状の第1の凹凸部163を作製する。そして、第1の凹凸部163の凹凸面に表6に、真空蒸着法によって表6に示すようにTa膜およびSiO膜がそれぞれ均一の膜厚となるように交互に積層し、第2のダイクロイックミラー164となる光学多層膜を形成する。
【0129】
次に、もう1つの厚さ約0.5mmの石英ガラス基板の一方の面に対して、フォトリソグラフィ加工、エッチング加工により、断面が4段のステップ状となる疑似ブレーズ形状を有するとともに、入射する光の光軸に対して非対称となる楕円形状となるようなフレネルレンズ形状の凹凸部167を形成する。そして、フレネルレンズ形状を有する面に、スパッタ法により反射部166として膜厚約1μmで金を成膜する。その後、光学多層膜(第2のダイクロイックミラー164)側とフレネルレンズ側とを対向させ、その間に屈折率1.5の透明な接着剤165を介して接着する。
【0130】
次に、作製した反射ミラー160の第1のダイクロイックミラー161面に対して入射角45°で光を入射させる。図26は、入射する光の波長λ[nm]を変化させたとき、偏光ビームスプリッタ層169の透過率Tr[%]をシミュレーションによって調べたものである。なお、この場合、光が第1ダイクロイックミラー161を透過し、空気(屈折率=1)から透明基板162となる石英ガラス基板(屈折率=1.5)に入射すると、偏光ビームスプリッタ層169へ入射する光の入射角は約29°であり、図26は、入射角が約29°のときの特性を示すものである。
【0131】
図26は、具体的に実線は入射する光がP偏光のときの透過率、点線はS偏光のときの透過率を表す。この結果、偏光ビームスプリッタ層169を構成する表7の光学多層膜は、660nm波長帯および785nm波長帯の光のうちS偏光をほぼ反射させ、P偏光をほぼ透過させることができる。そして、偏光ビームスプリッタ層169を透過する660nm波長帯および785nm波長帯のP偏光は、凹レンズ機能を有する反射部166で発散角を変えて反射する。これより、光ヘッド装置の反射ミラーとして用いると、それぞれの波長帯の光が1つの対物レンズを共有してそれぞれの規格の光ディスクの情報記録面上に良好に集光させることができる。
【産業上の利用可能性】
【0132】
以上説明したように、3つの異なる波長の光を利用する光ヘッド装置において、波長λの光に対する反射角を変えずに反射させ、波長λの光と波長λの光のうち少なくとも一方の光の反射角を変えて反射させる機能を有する反射ミラーを備えることで、規格の異なる3つの光ディスクのそれぞれの情報記録面に対していずれも良好に光を集光できるとともに、複数の波長の光を1つの光検出器で共有することができるので、光ディスクの記録・再生の品質を高めるとともに、部品点数が少なく光ヘッド装置の小型化が実現でき有用である。
【符号の説明】
【0133】
10、60、100、140 光ヘッド装置
11a、11b、61b、61c、101、141a、141b、141c 光源
12a、12b、19a、19b、61b、61c、102、104、142a、142b、141c カップリングレンズ
13a、13b、63b、63c、103 偏光ビームスプリッタ
14、51a、91a、91b、131、143a、143b ダイクロイックミラー
15、40a、40b、50a、50b、50c、65、80a、80b、90a、90b、105、120、130、145、150、160 反射ミラー
16、87b 1/4波長板
17 対物レンズ
18 光ディスク
18a、18b、18c 情報記録面
20a、20b、106 光検出器
21 発散しながら進行する光
31、111 波長λの光
32、72、112 波長λの光
33、59a、59b、73a、73b、113 波長λの光
41a、41b、81a、81b、121、151 第1の反射層
42a、42b、42c、82a、82b、122、152 第2の反射層
52a、52b、52c、83b、92a、92b、132、162 透明基板
53a、53b、53c、93a、93b 凹凸部
54a、54b、54c、94a、94b、136 反射部
55b、55c、95a、95b、135、165 接着剤
56b、56c、96a、96b、138、168 基板
57a、57b 光入出射面
58 凹凸面
88b、89b ミラー層
84b、97b、169 偏光ビームスプリッタ層
85b、86b 偏光変換反射層
123、153 第3の反射層
131、161 第1のダイクロイックミラー
133、163 第1の凹凸部
134、164 第2ダイクロイックミラー
137、167 第2の凹凸部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1つ以上の光源と、
前記光源から出射する波長λの光、波長λの光および波長λの光(λ<λ<λ)を反射する反射ミラーと、
前記反射ミラーで反射された前記波長λの光、前記波長λの光および前記波長λの光の共通の光路中に配される対物レンズと、
光ディスクで反射された前記波長λの光、前記波長λの光および前記波長λの光を受光する1つ以上の受光素子と、を備えた光ヘッド装置であって、
前記反射ミラーは、入射する前記波長λの光に対して発散角を変えずに反射し、入射する前記波長λの光および波長λの光のうち少なくとも一方の光に対して発散角を変えて反射する光ヘッド装置。
【請求項2】
前記反射ミラーは、光が入射する順に第1の反射層と第2の反射層を有し、
前記第1の反射層は、前記波長λの光および前記波長λの光をいずれも発散角を変えずに反射させるとともに、前記波長λの光を透過させる光学多層膜からなるダイクロイックミラーを有し、
前記第2の反射層は、前記波長λの光の発散角が大きくなるように反射させる、断面がフレネルレンズ形状である凹凸部と、前記凹凸部の凹凸面に少なくとも前記波長λの光を反射する反射部を有する請求項1に記載の光ヘッド装置。
【請求項3】
前記第1の反射層は、透明基板と前記ダイクロイックミラーからなる請求項2に記載の光ヘッド装置。
【請求項4】
前記透明基板は、光が入射および出射する異なる2つの入出射面を有し、前記ダイクロイックミラー面と2つの前記入出射面とがなす角度が約45°、2つの前記入出射面がなす角度が約90°である請求項3に記載の光ヘッド装置。
【請求項5】
前記第2の反射層は、前記波長λの光のうち第1の直線偏光の光に対して発散角を変えずに反射させ、前記第1の直線偏光の光と直交する第2の直線偏光の光に対して発散角を変えて反射する請求項2〜4いずれか1項に記載の光ヘッド装置。
【請求項6】
前記第2の反射層は、少なくとも波長λの光を反射する平坦な反射部と、前記反射部の上に前記凹凸部とを有し、
前記凹凸部は、前記波長λの光に対して常光屈折率n、異常光屈折率n(n≠n)となる複屈折性材料からなり、
前記凹凸部の少なくとも凹部にnまたはnに略等しい透明材料が形成される請求項5に記載の光ヘッド装置。
【請求項7】
前記第2の反射層は、光が入射する順に、少なくとも波長λの光のうち前記第1の直線偏光の光を反射し前記第2の直線偏光の光を透過する偏光ビームスプリッタと、前記凹凸部の凹凸面に少なくとも前記波長λの光を反射する反射部を有する請求項5に記載の光ヘッド装置。
【請求項8】
前記反射ミラーは、光が入射する順に第1の反射層と第2の反射層と第3の反射層を有し、
前記第1の反射層は、前記波長λの光に対して発散角を変えずに反射させるとともに、前記波長λの光および前記波長λの光をいずれも透過させる光学多層膜からなる第1のダイクロイックミラーを有し、
前記第2の反射層は、断面がフレネルレンズ形状である第1の凹凸部と、前記第1の凹凸部の凹凸面に前記波長λの波長の光を反射させるとともに、前記波長λの光を透過させる光学多層膜からなる第2のダイクロイックミラーを有し、
前記第3の反射層は、断面がフレネルレンズ形状である第2の凹凸部と、前記第1の凹凸部の凹凸面に少なくとも前記波長λの光を反射する反射部を有する請求項1に記載の光ヘッド装置。
【請求項9】
前記第2の反射層は、前記第1の反射層側に、前記波長λの光および前記波長λの光のうち第1の直線偏光を反射し、前記第1の直線偏光と直交する前記第2の直線偏光を透過する偏光ビームスプリッタを備える請求項8に記載の光ヘッド装置。
【請求項10】
前記波長λは波長385〜420nmの405nm波長帯であり、前記波長λは波長640〜675nmの660nm波長帯であり、さらに前記波長λは波長770〜800nmの785nm波長帯である請求項1〜9いずれか1項に記載の光ヘッド装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【公開番号】特開2010−205362(P2010−205362A)
【公開日】平成22年9月16日(2010.9.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−52240(P2009−52240)
【出願日】平成21年3月5日(2009.3.5)
【出願人】(000000044)旭硝子株式会社 (2,665)
【Fターム(参考)】