説明

光モジュール用清掃具及びその製造方法

【課題】 本体部が曲がりにくく、先端部に樹脂バインダーが実質的に残存しておらず、しかも光モジュールの光学ガラス面も清掃しうる光モジュール用清掃具を提供する。
【解決手段】 この光モジュール用清掃具10は、略円柱状の本体部1と略截頭円錐状の先端部2とを具備している。本体部1は、単糸繊度0.01〜11デシテックスの合成樹脂製フィラメントが数百乃至数万本集束されてなり、径方向に圧密化されている。そして、フィラメント間は樹脂バインダーによって径方向に略均一に接合されている。先端部2も、単糸繊度0.01〜11デシテックスの合成樹脂製フィラメントが集束されてなり、径方向に圧密化されているが、樹脂バインダーによって実質的に接合されていない。したがって、被清掃面に先端部2を押し付けることにより、フィラメント間がばらけるので、清掃性が良好である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光通信に使用されている光モジュールを清掃する際に使用する清掃具及びその製造方法に関し、特に微小な光モジュールの微細孔の奥に配置された光学レンズを清掃する際に使用する清掃具及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
光モジュール11は、図2に示すように、一般的に光半導体発光素子及び受光素子13と光学レンズ13aとで、その主要部が構成されており、着脱可能な光コネクタを結合して光通信に使用されるものである。光モジュール11と光コネクタを結合する場合、光コネクタのフェルール12先端が、光学レンズ13aに接触すると光学レンズ13aを傷つけるため、フェルール12外径より小さい内径の微細孔15の奥に光学レンズ13aを配置する構造が一般的である。なお、この微細孔15は、光モジュール11に精密スリーブ14を嵌合し、精密スリーブ14の突き当て部14aに貫通孔を設けて形成されるのが一般的である。また、この微細孔15はフェルール12のコア部12aと合致させると共に、コア部12aよりも大径となるように形成されており、光通信に悪影響が生じないように形成されている。
【0003】
従来より、光コネクタのフェルール12先端や光モジュール11のフェルール12が結合する精密スリーブ14内周面及び底面(突き当て部14a)を清掃する清掃具として、先端の尖った爪楊枝状の光ファイバー接続端清掃具が提案されている(特許文献1)。この光ファイバー接続端清掃具は、精密スリーブ14内に先端部を挿入して、尖った先端面を精密スリーブ14の内周面や底面に当接させて擦り、それによって、塵埃等を除去するというものである。特許文献1に記載された清掃具は、合成樹脂製フィラメントを集束して円柱体とし、中心部は樹脂バインダー量を少なくして、フィラメント相互間を弱く接合してばらけやすくし、外周部は樹脂バインダー量を多くして、フィラメント相互間を強固に接合して硬くしたものである。そして、先端部において、硬い外周部を研磨除去して、ばらけやすいフィラメント束からなる中心部を露出させ、先端部での清掃を十分に行えるようにしたものである。このような清掃具は、先端部以外の本体部が硬く剛直になっているため、ここを手指で把持して、精密スリーブ14に挿入しても曲がりにくくなっている。しかしながら、先端部の樹脂バインダーが絶対量としては未だ多く、フィラメント束が十分にばらけないということがあった。このため、先端部を精密スリーブ14の底面に当接して擦っても、底面に存在する塵埃等の除去性(以下、「清掃性」という。)において満足のいくものではなかった。フィラメント束を十分にばらけさせ清掃性を向上させようとすれば、樹脂バインダーの絶対量を少なくすればよいと考えられる。しかし、このようにすると本体部の剛直性が低下し、精密スリーブ14に挿入すると曲がりやすくなり、精密スリーブの内周面や底面に先端部を当接して擦りにくくなる。したがって、清掃性の面において満足のいくものではない。すなわち、特許文献1記載の清掃具は、いずれにしても、清掃性の面で不十分なものであった。
【0004】
また、特許文献1に記載された清掃具は、光ファイバー接続端の清掃具であり、光コネクタのフェルール12先端や光モジュール11の精密スリーブ14の内周面や底面を清掃する際に使用するものであって、底面に設けられた微細孔15の奥に配置された光学レンズ13aを清掃することを意図したものではなかった。また、現実に光学レンズ13aを清掃しようとしても、微細孔15に挿入できず、光学レンズ13aの清掃は困難であった。このため、光学レンズ13aに塵埃等が付着した場合、エアーの吹き付けや揮発性洗浄液で洗浄し清掃していたが、清掃作業が煩雑で、合理的な方法とはいえなかった。
【0005】
【特許文献1】特開2005−266628公報(特許請求の範囲)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記したように、特許文献1に記載された清掃具は、光モジュールの精密スリーブに挿入して清掃するには、清掃性が不十分であるという欠点と、光モジュールの精密スリーブの突き当て部に設けられた微細孔の奥に配置された光学レンズを清掃することが困難であるという欠点があった。本発明は、これらの欠点を一挙に解決することを課題としてなされたものであり、清掃具中における合成樹脂製フィラメント及び樹脂バインダーの存在状態と、爪楊枝状の清掃具の形状等を工夫するという技術的手段を採用したものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
すなわち、本発明は、単糸繊度0.01〜11デシテックスの合成樹脂製フィラメントが数百乃至数万本集束されてなるフィラメント束の一方の先端部を研磨することにより形成された、略円柱状の本体部と略截頭円錐状の先端部とを具備した光モジュール用清掃具において、該本体部はその直径が0.5〜2mmの略円柱状であって、該本体部のフィラメント間は径方向に圧密化されていると共に、樹脂バインダーによって径方向に略均一に接合されており、該先端部はその先端面の直径が0.05〜0.5mmで、尖り角が5〜14度の略截頭円錐状であって、該先端部のフィラメント間は径方向に圧密化されているだけで、実質的に樹脂バインダーによって接合されておらず、被清掃面に該先端部を押し付けることにより、該フィラメント間がばらけることを特徴とする光モジュール用清掃具に関するものである。
【0008】
また、この光モジュール用清掃具は、以下のような方法で得ることができる。すなわち、
(a)単糸繊度0.01〜11デシテックスの合成樹脂製フィラメントを数百乃至数万本集束してフィラメント束を形成する工程と、
(b)該フィラメントの軟化点付近の温度条件下で、該フィラメント束を径方向に圧密化する工程と、
(c)圧密化した該フィラメント束に、樹脂バインダー液を均一に含浸した後、加熱固化させて、該フィラメント間を固化した樹脂バインダーで径方向に略均一に接合して略円柱体を得る工程と、
(d)略円柱体の一方の先端部を研磨して尖らせ、略截頭円錐状の先端部を形成する工程と、
(e)略截頭円錐状の先端部を溶剤に浸漬して、該先端部に存在する樹脂バインダーを溶解除去する工程と、
を具備する方法で光モジュール用清掃具を得ることができる。
【0009】
本発明に係る光モジュール用清掃具は、前記した方法で得られるものであるため、その製造方法について説明する。まず、単糸繊度0.01〜11デシテックスの合成樹脂製フィラメントを準備する。0.1〜11デシテックス程度の合成樹脂製フィラメントは、常法の溶融紡糸法により得ることができる。単糸繊度0.01〜1デシテックス程度の細かい合成樹脂製フィラメントは、分割割繊型フィラメントを分割割繊することにより、容易に得られる。分割割繊は、フィラメント束を得る前であれば、どの時点で行ってもよく、たとえば後述する流体攪乱処理の後に行ってもよい。単糸繊度が0.01デシテックス未満のフィラメントは、細すぎて取り扱いにくいため、好ましくない。また、単糸繊度が11デシテックスを超えるフィラメントは、細かい塵埃等の除去性能に劣るため、好ましくない。合成樹脂製フィラメントとしては、ポリエステル系フィラメント、ポリオレフィン系フィラメント、ポリアミド系フィラメント、ポリアクリロニトリル系フィラメント等が用いられるが、耐久性や形態安定性の面から、ポリエステル系フィラメントを用いるのが好ましい。
【0010】
この合成樹脂製フィラメントを、数百乃至数万本集束させる。すなわち、集束するフィラメント数は適宜多数であれば差し支えない。このように多数のフィラメントを用いるのも、清掃性を向上させるためである。集束する方法としては、単フィラメントである合成樹脂製フィラメントを数百乃至数万本集束してもよいし、単フィラメント数十乃至数百本からなるマルチフィラメント糸条を複数本引き揃えて集束してもよい。また、マルチフィラメント糸条を引き揃える前に、マルチフィラメント糸条に流体攪乱処理を施して、各合成樹脂製フィラメントにループ、たるみ又は毛羽を形成させてもよい。合成樹脂製フィラメントにループ等を形成させると、この箇所でも塵埃の捕捉性が向上し、清掃性が向上するので好ましい。また、分割割繊型フィラメントよりなるマルチフィラメント糸条を用い、このマルチフィラメント糸条に分割割繊処理を施して、単糸繊度0.01〜1デシテックス程度の細かい合成樹脂製フィラメントを生成させた後、このマルチフィラメント糸条を引き揃えて、合成樹脂製フィラメントを集束してもよい。さらには、マルチフィラメント糸条に流体攪乱処理及び分割割繊処理を施した後、これを引き揃えて、合成樹脂製フィラメントを集束してもよい。
【0011】
合成樹脂製フィラメントを集束したフィラメント束を、当該フィラメントの軟化点付近の温度条件下で、径方向に圧密化する。軟化点付近の温度条件下で圧密するのは、フィラメント相互間に疑似接着を生じさせ、後の工程でばらけるのを防止するためである。軟化点を超えて融点付近の温度条件になると、フィラメント相互間が融着してしまい、清掃時にフィラメント間がばらけにくくなるので、好ましくない。また、圧密化は、フィラメント相互間の間隙を狭くして、毛細管現象により、樹脂バインダー液が内部に浸透しやすくするためである。さらに、圧密化することにより、全体として硬く剛性のある清掃具とするためでもある。圧密化は、たとえば、所定の温度に加熱された貫通孔に、フィラメント束を通すことによって行われる。貫通孔の直径は、得られる清掃具の本体部の直径と同一であるのが好ましい。
【0012】
フィラメント束を圧密化した後、このフィラメント束に樹脂バインダー液を均一に含浸させる。樹脂バインダー液としては、ポリウレタン樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂等の各種樹脂を、溶剤や水に溶解又は分散させてなるものである。樹脂バインダー液をフィラメント束に均一に含浸するには、たとえば、フィラメント束を樹脂バインダー液に浸漬するのがよい。具体的には、樹脂バインダー液槽中に、フィラメント束を通せばよい。フィラメント束に、樹脂バインダー液を噴霧する方法は、樹脂バインダー液がフィラメント束の中心部に浸透しにくい傾向がある。しかし、噴霧量を多くすることで、中心部まで浸透させることができる。要するに、樹脂バインダー液の浸透が、外周部も中心部も均一になるように、樹脂バインダー液を含浸すればよい。
【0013】
フィラメント束に樹脂バインダー液を含浸した後、加熱固化させる。この加熱固化の際に、フィラメント束中の樹脂バインダーが移動しにくいようにする。具体的には、一段階で加熱固化させずに、二段階で加熱固化させる。すなわち、一段階目の加熱で樹脂バインダーをゲル化させて、フィラメント束中で動きにくくし、その後、二段階目の加熱で樹脂バインダーを硬化させて固化するのが最適である。たとえば、一段階目の加熱は、高周波加熱によって、溶剤や水の蒸発量を抑制しながら行い、樹脂バインダーをゲル化させる。そして、二段階目の加熱は、熱風加熱を採用して、樹脂バインダーを硬化させながら、溶剤や水を積極的に蒸発させるのである。たとえば、一段階目の加熱を省略して、二段階目の加熱のみを採用すると、溶剤や水の急速な蒸発と共に、樹脂バインダーが外周部に移動し、径方向において偏在することになるので、好ましくない。なお、上記した具体的な加熱条件に限定されるものではなく、要するに、樹脂バインダーが移動しにくいような加熱条件が適宜採用される。
【0014】
以上のような加熱固化によって、フィラメント間は硬化し固化した樹脂バインダーで径方向に略均一に接合される。そして、全体として剛直な円柱体が形成される。この円柱体は、一般的に、長手方向に連続した形態となっているので、使用時の長さに適宜切断される。具体的には20〜200mm程度の長さに切断される。切断した円柱体の一方の先端部を研磨して尖らせ、略截頭円錐状の形状となるようにする。研磨は、従来公知の切削具等を用いて行うことができる。たとえば、先端部を回転している円盤状砥石に接触させながら、尖り角5〜14度となるように先端部を尖らせる。なお、尖り角とは、図1のθで示した角度のことである。
【0015】
先端部を尖らせた後、この先端部を溶剤に浸漬する。溶剤としては、樹脂バインダーを溶解させるものであれば、どのようなものでも使用しうる。たとえば、樹脂バインダーとしてポリウレタン樹脂を用いた場合には、ジメチルホルムアミドが用いることができる。ポリウレタン樹脂の場合は、硬化していても、ジメチルホルムアミドに容易に溶解するので、本発明では最適な樹脂バインダーである。フェノール樹脂やエポキシ樹脂の場合は、硬化後は溶剤に溶解しにくい傾向がある。溶剤に浸漬することによって、先端部に存在していた樹脂バインダーが溶解除去され、先端部のフィラメント間がばらけやすくなるのである。
【0016】
以上のようにして得られた光モジュール用清掃具は、図1に示すような形状となっており、本体部1と先端部2とを備えている。本体部1は略円柱状であって、単糸繊度0.01〜11デシテックスの合成樹脂製フィラメントが数百乃至数万本集束されてなる。そして、径方向に圧密化されており、フィラメント間は樹脂バインダーによって径方向に略均一に接合されている。本体部1の直径φは、0.5〜2mm程度である。先端部2は尖った略截頭円錐状となっている。なお、先端部2の略截頭円錐状の形状とは、厳密な截頭円錐状に限らず、截頭円錐状の頭に更に微小な略円柱体が繋がっているものでもよい。先端部2も単糸繊度0.01〜11デシテックスの合成樹脂製フィラメントで構成されており圧密化されている。しかし、合成樹脂製フィラメントの数は、研磨によって少なくなっている。そして、先端部2においては、樹脂バインダーが溶解除去されているので、合成樹脂製フィラメント間に樹脂バインダーが実質的に存在せず、フィラメント間を実質的に接合していない。ここで、「樹脂バインダーが実質的に存在しない」とは、合成樹脂製フィラメント間を接合しうる程度の樹脂バインダーが存在しないという意味であり、極少量の樹脂バインダーが存在することを排除する意味ではない。したがって、被清掃面に先端部2を押し付けると、フィラメント間がばらけやすくなる構成となっている。先端部2の端面の直径ψは、0.05〜0.5mm程度である。
【0017】
本発明に係る光モジュール用清掃具は、このままでも使用しうるが、本体部2を手指で把持しやすくするため、合成樹脂製筒体3で緊締被覆するのが好ましい。合成樹脂製筒体3で緊締被覆する方法としては、本体部1の直径φよりも大きい内径を持つ熱収縮性合成樹脂製筒体を準備する。そして、本体部1の少なくとも一部を、熱収縮性合成樹脂製筒体の中空部に挿入する。その後、この筒体が収縮する温度で加熱すると、筒体が収縮し本体部1を緊締被覆することとなる。熱収縮性合成樹脂製筒体としては、熱収縮性ポリオレフィン系筒体を用いるのが好ましい。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係る光モジュール用清掃具は、その本体部1が数百乃至数万本の単糸繊度0.01〜11デシテックスの合成樹脂製フィラメントが集束され、フィラメント間には樹脂バインダーが径方向に略均一に存在して、当該フィラメント間を径方向に略均一に接合している。したがって、本体部1の外周部も中心部も同様に剛直となっているので、清掃時に、光モジュールの精密スリーブや微細孔に挿入しても、曲がりにくく使用しやすいという効果を奏する。また、先端部1は、圧密化されているだけで樹脂バインダーが実質的に存在していないため、被清掃面に当接すれば、容易にフィラメント間がばらけて、塵埃等を除去できると共に、樹脂バインダーが剥落して被清掃面に付着することを防止しうるという効果を奏する。したがって、本発明に係る光モジュール用清掃具は、従来の清掃具に比べて、清掃性に優れるという効果を奏する。
【0019】
また、本発明に係る光モジュール用清掃具は、全体として微小であり、しかも先端部が鋭く尖っているため、先端面は光モジュールの微細孔の奥に配置された光学レンズに接触させることも可能である。したがって、従来の清掃具では清掃するのが困難であった、光モジュールの光学レンズを清掃することができるという効果を奏する。
【実施例】
【0020】
実施例1
単糸繊度1.65デシテックスのポリエステルフィラメント(融点:255〜260℃、軟化点:238〜240℃)を、1500本引き揃えてフィラメント束を形成した。このフィラメント束を、235℃に加熱された成型金型に設けられた、内径1.0mmの貫通孔を通過させた。これにより、フィラメント束は、径方向に圧密化された。この後、ポリウレタン系樹脂バインダー液が収納されている槽中に、圧密化されたフィラメント束を通過させた。これにより、樹脂バインダー液がフィラメント束に略均一に含浸された。
【0021】
この後、フィラメント束を高周波加熱装置に通して加熱し、続いて、210〜230℃に加熱した熱風乾燥装置に通して、樹脂バインダーを硬化させ固化させた。これによって、フィラメント間は固化した樹脂バインダーによって径方向に略均一に接合された。得られた円柱体を、50mm長さに切断した。そして、一方の先端部を研磨して尖らせて、略截頭円錐状とした。尖り角は10度で、先端部の端面の直径ψは0.2mmであった。なお、本体部1の直径は1mmφ、長さaは47mmで、先端部2の長さbは4.5mmであった。
【0022】
次に、先端部を、85℃のジメチルホルムアミド液に15分間浸漬して、先端部に存在している樹脂バインダーを溶解除去した。その後、全体をイソプロピルアルコールに浸漬して、10分間超音波洗浄を行って光モジュール用清掃具を得た。
【0023】
実施例2
単糸繊度0.165デシテックスのポリエステルフィラメントを、15000本引き揃えてフィラメント束を得た他は、実施例1と同一の方法で光モジュール用清掃具を得た。
【0024】
実施例3
極限粘度0.68のポリエチレンテレフタレート(ポリエステルA)と、5−ナトリウムスルホイソフタル酸成分を2.5モル%及びビスフェノールAのエチレンオキシド10モル付加物を5モル%共重合したポリエチレンテレフタレート系コポリエステル(ポリエステルB)とを準備した。ポリエステルA:ポリエステルB=72:28(重量比)の割合で複合溶融紡糸して、78デシテックス/48フィラメントのマルチフィラメント糸条を得た。このマルチフィラメント糸条を構成している単フィラメントは、横断面楔形のポリエステルAと横断面楔形のポリエステルBとが交互に配列して、横断面円形となっており、横断面楔形のポリエステルAは8本存在する。この単フィラメントを分割割繊処理すると、ポリエステルBが溶解除去されて8分割され、約0.15デシテックスのポリエステルAよりなる合成樹脂製フィラメントが生成する。
【0025】
この78デシテックス/48フィラメントのマルチフィラメント糸条を2本準備し、1本のマルチフィラメント糸条はオーバーフィード率を7%とし、他の1本のマルチフィラメント糸条はオーバーフィード率100%として、流体攪乱処理を行った。流体攪乱処理の条件は、以下のとおりである。
使用機械: ヘマジェット311タイプ(ヘバーライン社製、空気加圧ノズル)を搭載 した株式会社愛機製作所製の空気加圧機(AT−501EX型)
空気圧: 7kg/cm2
糸速: 100m/分
巻き取りオーバーフィード率(ストレッチ率): 5%
【0026】
以上のようにして、流体攪乱処理した156デシテックス/96フィラメントのマルチフィラメント糸条を得た。この糸条を、染色釜に収納した濃度20g/Lの水酸化ナトリウム水溶液中に、浴比1:40で浸漬し、30分間煮沸して、ポリエステルBを溶解除去して分割割繊処理を行った。その後、中和、水洗及び乾燥して、約112デシテックス/768フィラメントの処理済みマルチフィラメント糸条を得た。この処理済みマルチフィラメント糸条を20本引き揃えて、単糸繊度約0.15デシテックスのポリエステルAフィラメントが15360本集束されてなるフィラメント束を得た。このフィラメント束を用いて実施例1と同一の方法で光モジュール用清掃具を得た。
【0027】
実施例4
内径2mmで長さ30mmの熱収縮性ポリオレフィン系筒体を準備した。そして、実施例1で得られた光モジュール用清掃具の本体部1を、この筒体に挿入した。その後、105℃で10分間乾熱処理し、筒体を収縮させた。以上のようにして、本体部1の一部が緊締被覆された光モジュール用清掃具を得た。
【0028】
比較例1
ジメチルホルムアミド液を用いた樹脂バインダーの溶解除去と、イソプロピレルアルコールを用いた超音波洗浄を行わない他は、実施例1と同一の方法で光モジュール用清掃具を得た。
【0029】
[使用例]
光モジュール11の光学レンズ13a面に皮脂を付着させた。そして、実施例1〜3及び比較例1で得られた光モジュール用清掃具10を用いて、図3に示したように先端部端面を光学レンズ13a面に押し付けて、手指で光モジュール用清掃具10を一方向に3回転させて、光学レンズ13a面を擦った。この作業を3回繰り返した後、顕微鏡にて光学レンズ13a面を観察した。この結果、実施例1〜3で得られた光モジュール用清掃具10を使用した場合は、皮脂が拭い去られ、樹脂バインダーの付着も、フィラメントの屑(毛羽)の付着もなかった。これに対して、比較例1で得られた光モジュール用清掃具10を使用した場合は、皮脂が残存しており、実施例1〜3のものに比べて、清掃性に劣るものであった。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の一例に係る光モジュール用清掃具の断面を模式的に現した図である。
【図2】光モジュールにフェルールが接続された状態を示した模式的断面図である。
【図3】光モジュール用清掃具で、光モジュールの光学ガラス面を清掃している状態を示した模式的断面図である。
【符号の説明】
【0031】
1 本体部
2 先端部
3 合成樹脂製筒体
θ 尖り角
φ 本体部の径
ψ 先端部の端面の径
a 本体部の長さ
b 先端部の長さ
10 光モジュール用清掃具
11 光モジュール
12 フェルール
12a フェルールのコア部
13 発光又は受光素子
13a 光学レンズ
14 精密スリーブ
14a 精密スリーブ突き当て部
15 微細孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
単糸繊度0.01〜11デシテックスの合成樹脂製フィラメントが数百乃至数万本集束されてなるフィラメント束の一方の先端部を研磨することにより形成された、略円柱状の本体部と略截頭円錐状の先端部とを具備した光モジュール用清掃具において、
該本体部はその直径が0.5〜2mmの略円柱状であって、該本体部のフィラメント間は径方向に圧密化されていると共に、樹脂バインダーによって径方向に略均一に接合されており、
該先端部はその先端面の直径が0.05〜0.5mmで、尖り角が5〜14度の略截頭円錐状であって、該先端部のフィラメント間は径方向に圧密化されているだけで、実質的に樹脂バインダーによって接合されておらず、
被清掃面に該先端部を押し付けることにより、該フィラメント間がばらけることを特徴とする光モジュール用清掃具。
【請求項2】
合成樹脂製フィラメントが流体攪乱処理を施されたものである請求項1記載の光モジュール用清掃具。
【請求項3】
合成樹脂製フィラメントが分割割繊により形成されたものである請求項1又は2記載の光モジュール用清掃具。
【請求項4】
樹脂バインダーがポリウレタン樹脂である請求項1乃至3のいずれか一項に記載の光モジュール用清掃具。
【請求項5】
本体部の少なくとも一部が、合成樹脂製筒体で緊締被覆されている請求項1乃至4のいずれか一項に記載の光モジュール用清掃具。
【請求項6】
(a)単糸繊度0.01〜11デシテックスの合成樹脂製フィラメントを数百乃至数万本集束してフィラメント束を形成する工程と、
(b)該フィラメントの軟化点付近の温度条件下で、該フィラメント束を径方向に圧密化する工程と、
(c)圧密化した該フィラメント束に、樹脂バインダー液を均一に含浸した後、加熱固化させて、該フィラメント間を固化した樹脂バインダーで径方向に略均一に接合して略円柱体を得る工程と、
(d)略円柱体の一方の先端部を研磨して尖らせ、略截頭円錐状の先端部を形成する工程と、
(e)略截頭円錐状の先端部を溶剤に浸漬して、該先端部に存在する樹脂バインダーを溶解除去する工程と、
を具備することを特徴とする光モジュール用清掃具の製造方法。
【請求項7】
(a)工程として、流体攪乱処理を施したマルチフィラメント糸条を複数本引き揃える工程を採用する請求項6記載の光モジュール用清掃具の製造方法。
【請求項8】
(a)工程として、分割割繊処理を施したマルチフィラメント糸条を複数本引き揃える工程を採用する請求項6又は7記載の光モジュール用清掃具の製造方法。
【請求項9】
樹脂バインダーとして、ポリウレタン樹脂を用いる請求項6乃至8のいずれか一項に記載の光モジュール用清掃具の製造方法。
【請求項10】
(f)円柱体の一部を、熱収縮性合成樹脂製筒体で被覆した後、熱処理して該熱収縮性合成樹脂製筒体を収縮させ、緊締被覆する工程を付加する請求項6乃至9のいずれか一項に記載の光モジュール用清掃具の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−145783(P2009−145783A)
【公開日】平成21年7月2日(2009.7.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−325226(P2007−325226)
【出願日】平成19年12月17日(2007.12.17)
【出願人】(592197315)ユニチカ通商株式会社 (84)
【出願人】(000243342)本多通信工業株式会社 (92)
【Fターム(参考)】