説明

光モジュール

【課題】有効NAをより大きくすることができ、レンズの調心も容易に行うことができ、LDと光ファイバとの光結合効率をより高めることが可能な光モジュールを提供する。
【解決手段】光モジュールのレンズは、第1の非球面レンズ9aと第2の非球面レンズ9bからなり、第1の非球面レンズ9aはステム6の上面に下端が固定されたレンズキャップ7の上部側に備えられ、第2の非球面レンズ9bはレンズキャップの上端に接合固定されるレンズホルダ8に取付けられる。そして、第1の非球面レンズ9aと第2の非球面レンズ9bからなる前記レンズの倍率が4〜7であり、光ファイバ20側の開口数NAが0.13以上、レーザダイオード10側の開口数NAが0.65以上である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザダイオードから出射された信号光を光ファイバに光結合させて光通信するための光モジュールに関する。
【背景技術】
【0002】
光通信に用いられる送信用の光モジュールは、レーザダイオード(LD)から出射された信号光を、集光レンズにより光ファイバに光結合させている。この場合、LDからの出射される光は発散光であることから、集光レンズに球面レンズを用いると球面収差により光結合効率や光学特性が低下する。このため、例えば、特許文献1に開示されるように、集光レンズに非球面レンズを用いることが知られている。
【0003】
また、送信用の光モジュールにおいて、光ファイバに入射された信号光が反射により戻るのを防止するのに光ファイバ端を斜めにカットすることが行われている。この場合、信号光が光ファイバのコア軸方向に効率よく入射するように、例えば、特許文献2に開示するように、LDと光ファイバの軸方向をずらせたり、レンズのアパーチャを偏心させることが行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平9−61665号公報
【特許文献2】特開平9−211268号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
LDからの出射光は発散光であることから、これを集光して光ファイバに光結合させるレンズとしては、上記の特許文献1に開示されるように非球面レンズを用いるが知られている。単一の非球面レンズを用いて集光する場合、レンズの有効開口数(NA)が大きいほど高い結合効率を得ることができる。しかしながら、量産に適した非球面レンズは、通常、成型によって形成されるため、金型の構造上、光ファイバ側の有効NAが0.12、LD側の有効NAが0.6程度とするのが限界であった。
【0006】
さらに結合効率を高めるために、より高い有効NAを得ようとすると、レンズ外縁部の表面と光軸の成す角度が小さくなり、レンズ成型で金型からの抜け難くなったり、レンズ外縁部へのLD出射角が大きくなり、全反射角となってしまい、透過させることができなくなるなどの問題があった。
本発明は、上述した実状に鑑みてなされたもので、有効NAをより大きくすることができ、また、レンズの調心も容易に行うことができ、LDと光ファイバとの光結合効率をより高めることが可能な光モジュールの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明による光モジュールは、ステム上に搭載されたレーザダイオードから出射された信号光を、レンズキャップに備えられたレンズにより集光して光ファイバに光結合させる光モジュールである。光モジュールのレンズは、第1の非球面レンズと第2の非球面レンズからなり、第1の非球面レンズはステム面に下端が固定されたレンズキャップの上部側に備えられ、第2の非球面レンズはレンズキャップの上端に接合固定されるレンズホルダに取付けられる。そして、第1の非球面レンズと第2の非球面レンズからなる前記レンズの倍率が4〜7であり、光ファイバ側の開口数NAが0.13以上、レーザダイオード側の開口数NAが0.65以上であることを特徴とする。
【0008】
なお、第1の非球面レンズの出射光は発散光である。また、レンズキャップは下端に設けた環状のプロジェクションを抵抗溶接により溶融してステム上に固定され、レンズホルダとレンズキャップは平坦な面で接し、面方向に位置調整による調心が可能とされている。また、第2の非球面レンズは、縦横の倍率を異ならせ、LDから出射される楕円形状の光を円形状にして光ファイバと光結合するようにしている。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、有効NAを従来のものより大きくすることができると共に調心が容易となり、LDと光ファイバとの光結合効率を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明による光モジュールの概略を説明する図である。
【図2】本発明で用いる非球面レンズについて説明する図である。
【図3】本発明における非球面レンズの調心について説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
図により本発明の実施の形態を説明する。図1は、本発明が適用される光モジュールの一例を示し、送信部と受信部を備えた送受信型の光モジュールである。図において、1は光モジュール、2は送信部、3は受信部、4は連結部、5は光ファイバ結合部、6,14はステム、7,15はレンズキャップ、8はレンズホルダ、9aは第1の非球面レンズ、9bは第2の非球面レンズ、10はレーザダイオード(LD)、11,18はリードピン、12は光アイソレータ、13は波長分波フィルタ、16は球面レンズ、17はフォトダイオード(PD)、20は光ファイバ、21はフェルール、22はスリーブ、23はブーツを示す。
【0012】
送受信型の光モジュール1は、図1に示すように信号光を送信する送信部2と信号光を受信する受信部3とが連結部4を介して組付けられ、連結部4に外部機器と光接続する光ファイバ結合部5を連結して構成される。
送信部2は、ステム6に第1の非球面レンズ9aを有するレンズキャップ7が密封形状で固定され、レンズキャップ7には第2の非球面レンズ9bを有するレンズホルダ8が接合固定されて成る。なお、ステム6には、外部制御回路に接続するためのリードピン11が絶縁封止されており、また、信号光を送出するレーザダイオード(LD)等の電子部品が搭載されている。
【0013】
受信部3は、送信部2と同様に、例えば、ステム14にレンズ(球面または非球面レンズ)16を有するレンズキャップ15を密封形状で固定して成る。また、ステム14には、外部制御回路に接続するためのリードピン18が絶縁封止されており、信号光を受信するフォトダイオード(PD)等の電子部品が搭載されている。
【0014】
連結部4は、送信部2と受信部3、並びに、光ファイバ結合部5を一体的に組付ける機能を有し、内部に光アイソレータ12や波長分波フィルタ13を配置することができる。光アイソレータ12は、LD10から出射された信号光がLDに戻るのを抑制するものであり、波長分波フィルタ13は、LD10からの出射される波長の信号光を透過させて光ファイバ側に送り、光ファイバ側から送られてきた波長の信号光を反射させて、PD17側に入射させるものである。
【0015】
光ファイバ結合部5は、光ファイバ20の先端部にフェルール21を固定し、フェルール21をスリーブ22で光ファイバ端面が所定位置に突き出るように位置決めして成る。また、光ファイバの引き出し部は、弾性を有するゴム等からなるブーツ23で保護し、ピグテール型の光ファイバ端末とされる。
【0016】
上述した光モジュール1は、LD10と光ファイバ20の端面との光結合は、光軸方向(Z)については、連結部4の嵌合部4aとレンズキャップ7との軸方向位置を調心することにより行われる。光軸方向と直交する方向(XY)については、連結部4の上端4bとスリーブ22の下端面との接合位置を調心することにより行われる。また、受信部3のPD17と光ファイバ20との光結合は、連結部4の光軸と平行な面4cと受信部3のレンズキャップ15の端面との接合位置を調心することにより行われる。
【0017】
上述した構成の光モジュール1は、LD10から出射された信号光は、第1の非球面レンズ9a及び第2の非球面レンズ9bにより集光されて、光アイソレータ12及び波長分波フィルタ13を通って、光ファイバ20の端面に入射される。一方、光ファイバ20からの信号光は、波長分波フィルタ13により反射されて受光部3の球面レンズ16により集光されて、PD17により受光される。
【0018】
本発明は、上述の光モジュールにおいて、送信部2の集光レンズとして、第1の非球面レンズ9aと第2の非球面レンズ9bの2つの非球面レンズで形成したことにある。第1の非球面レンズ9aは、上述したようにレンズキャップ7に備えられて、送信部2の密閉封止の機能も兼ね備えたものとされる。第2の非球面レンズ9bは、レンズホルダ8に取付けられて、第1の非球面レンズ9aに対して、後述するように、接合面方向に位置調整が可能に配置される。
【0019】
送信部2の集光レンズに非球面レンズを用いる理由としては、図2(A)に示すように、球面レンズの場合は、レンズへの光の入射角(θ)によって、焦点位置に差が生じる。すなわち、レンズ中心付近へ入射する光と、レンズの外縁部へ入射する光とでは、レンズ表面への入射角が異なるため焦点位置が大きくズレる球面収差が生じ、光結合効率が低下する。一方、非球面レンズを用いることにより、レンズへの光の入射角(θ)が変化しても、焦点位置をほぼ一定にすることが可能で、球面収差の問題を解消することができる。したがって、送信部2のLD10から出射される信号光は発散光であることから、集光レンズとしては非球面レンズを用いるのが好ましいと言える。
【0020】
非球面レンズを用いてLDからの信号光を光ファイバに光結合させる場合、有効開口数(NA)を大きくして、集光効率を高めることが望ましい。図2(B)に示すように、NAは、LD側においては、入射角を(θ)とすると、「NA=n・sinθ」で表すことができる。また、光ファイバ側においては、入射角(θ’)とすると、「NA’=n・sinθ’」で表すことができる。なお、nは屈折率で、空気中では「1」である。また、この光学系の倍率mは、一般的に、「m=NA/NA’」で表される。
【0021】
上記の非球面レンズを安価に得るには、成型による量産が適している。しかしながら、非球面レンズを成型により形成する場合、図2(B)に示すように、単一の非球面レンズを用いると、Sで示す周囲領域の急な傾斜部分での金型の抜き性が低下する。また、周囲領域の傾斜部分では屈折角が大きくなるため高精度の加工が必要となり、有効NAをあまり大きくすることはできない。
一般に、有効NAが大きいほど、LDと光ファイバの光学系で高い光結合率を得ることができるとされているが、前述したように金型の構造上から、LD側の有効NAは0.6程度で、他方の光ファイバ側の有効NAは0.12程度が上限とされている。
【0022】
本発明においては、図2(C)に示すように、図2(B)の非球面レンズを、LD側に配する第1の非球面レンズと光ファイバ側に配するレンズを第2の非球面レンズとの2つのレンズを用いることにより、上記の問題を解決している。この2つ非球面レンズを用いることによりレンズ設計を容易にし、図2(B)のレンズ周囲領域Sの傾斜を緩やかにして、金型の抜き性や精度を緩和することができる。この結果、1レンズでは実現が難しいとされるLD側の有効NAを0.65以上、他方の光ファイバ側の有効NAを0.13以上とすることが可能となる。
【0023】
また、上記の光モジュールの光学系において、LDと第1の非球面レンズ間の位置決め、第1の非球面レンズと第2の非球面レンズ間の位置決め、第2の非球面レンズと光ファイバ間の位置決めが、精度よく容易に行えることが必要とされる。
本発明は、上記した第1の非球面レンズと第2の非球面レンズを用いることで、光モジュールの組付けと調心を容易にし、高い光結合効率を得ることを可能としている。
【0024】
図3(A)は、本発明による第1の非球面レンズ9aと第2の非球面レンズ9bの組付け形態を説明する図である。第1の非球面レンズ9aを備えたレンズキャップ7は、ステム6の上面6aを基準面として、レンズキャップ7の下端に設けたプロジェクション7aを抵抗溶接により溶融して内部を密封するようにして固定される。なお、このプロジェクション7aの溶接による歪の影響を軽減するために、レンズキャップ7は肉厚で形成されていることが望ましい。
【0025】
より具体的には、レンズキャップ7の底面の厚み方向の幅に占めるプロジェクション7aの幅は、従来品では通常1/3程度であったが、本願の実施例では1/10程度となるようにレンズキャップ7の底面の厚みを大きくしている。その結果、レンズキャップ7の底面における、プロジェクション7a以外の部分の熱容量が大きくなるため、プロジェクション溶接後のステムに対するレンズキャップ7の高さ方向のバラツキを抑えることができる。
【0026】
第2の非球面レンズ9bは、レンズホルダ8に取付けられて、第1の非球面レンズ9aに対して所定の離間距離で設置される。このため、レンズキャップ7の上端面7bとレンズホルダ8の下端面8bは平坦面で形成され、単に接合するだけで光軸方向の位置決め(離間距離)は、機械的に決まるようにされる。したがって、光軸と直交するXY方向の調心、並びに、光軸を中心とする円周方向Rの調心を行うことで済ますことができる。なお、調心は光結合パワーをモニターしながら行ってもよく、画像認識により行ってもよい。
【0027】
光ファイバ端面は、通常、LDからの出射光の反射戻りを防ぐために、斜めに形成することが行われている。そして、この斜めに形成された光ファイバ端面にLDの出射光を効率よく結合させるには、光軸に対して所定の角度で光を入射させることも知られている。本発明においては、上記の構成により、第2の非球面レンズ9bが取付けられたレンズホルダ8を、その下端面8bをレンズキャップ7の上端面7bにXY方向にスライドさせて、第1の非球面レンズ9aと第2の非球面レンズ9bの中心位置をずらすことにより、光の入射角を容易に調整することができる。第2の非球面レンズ9bの調心状態は、溶接24(例えば、YAG溶接)等により固定される。
【0028】
また、LDの出射光は、広がり角が水平方向と垂直方向で異なるため、光ビームの断面形状が楕円状になる。しかし、光ファイバのコアは円形であるため、楕円形状の光ビームが円形になるように補正して入射させることが、結合効率を高める上で好ましい。このため、本発明においては、第1の非球面レンズ9a又は第2の非球面レンズ9bのいずれか一方に、収差を抑制する形状に加えて、楕円形状の光を円形状に変換するアナモフィック(縦横の倍率を異ならせる)な楕円形の凸状とする。レンズキャップ7が備える第1の非球面レンズ9aは、レンズキャップ7をステムへ抵抗溶接によって固定するため回転方向の調整に手間がかかる場合がある。その場合には、第2の非球面レンズ9bをアナモフィックとすることが望ましい。
【0029】
このとき、目視では凸形状の楕円方向の確認が難しいので、レンズ面に視認が容易なマーキングを付しておくのが好ましい。図3(B)及び図3(C)は、第2の非球面レンズ9bを楕円形の凸状とし、そのレンズ面にマーキングを付した例で、例えば、凸起25又は凹み26を光結合に影響しないレンズ表面の周縁部に少なくとも1箇所に形成する。なお、マーキングは凹凸の他に、表面を粗くして曇らせた部分で形成するようにしてもよい。そして、図3(A)で説明したように、第2の非球面レンズ9bが取付けられたレンズホルダ8を、XY方向の調心時にその下端面8bをレンズキャップ7の上端面7bでR方向に回転させて、LDからの楕円形状の出射光を円形状に補正することができる。
【0030】
本発明は、上述したように、LDと光ファイバとの光結合を形成する集光レンズに、2つの非球面レンズを用いることにより、LDと光ファイバとの光結合に最適とされている倍率5〜6程度に対する有効NAを大きくすることが可能となる。また、2つの非球面レンズを用いて平面で接合させることにより、傾斜した光ファイバ端への光の入射角の調整、LDの楕円形状のビームを円形に補正するための調心が容易となって、高効率で光結合された光モジュールを実現することが可能となる。
【符号の説明】
【0031】
1…光モジュール、2…送信部、3…受信部、4…連結部、5…光ファイバ結合部、6,14…ステム、7,15…レンズキャップ、8…レンズホルダ、9a…第1の非球面レンズ、9b…第2の非球面レンズ、10…レーザダイオード(LD)、11,18…リードピン、12…光アイソレータ、13…波長分波フィルタ、16…球面レンズ、17…フォトダイオード(PD)、20…光ファイバ、21…フェルール、22…スリーブ、23…ブーツ、24…溶接、25…凸起、26…凹み。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ステム上に搭載されたレーザダイオードから出射された信号光を、レンズキャップ部材に取り付けられたレンズにより集光して光ファイバに結合させる同軸型の光モジュールであって、
前記レンズは第1の非球面レンズと第2の非球面レンズからなり、前記第1の非球面レンズはステム面に下端が固定された前記レンズキャップ部材の上部側に備えられ、前記第2の非球面レンズは、前記レンズキャップ部材の上端に接合固定されるレンズホルダにより保持され、
前記第1の非球面レンズと第2の非球面レンズからなる前記レンズの倍率が4〜7であり、光ファイバ側の開口数NAが0.13以上、レーザダイオード側の開口数NAが0.65以上であることを特徴とする光モジュール。
【請求項2】
前記第1の非球面レンズの出射光は発散光であることを特徴とする請求項1に記載の光モジュール。
【請求項3】
前記レンズキャップ部材は、下端に設けた環状のプロジェクションを抵抗溶接により溶融してステム上に固定されていることを特徴とする請求項1または2に記載の光モジュール。
【請求項4】
前記レンズホルダと前記レンズキャップは平坦な面で接し、面方向に位置調整が可能とされていることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の光モジュール。
【請求項5】
前記第2の非球面レンズは、縦横の倍率を異ならせていることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の光モジュール。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−168240(P2012−168240A)
【公開日】平成24年9月6日(2012.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−26988(P2011−26988)
【出願日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【出願人】(000154325)住友電工デバイス・イノベーション株式会社 (291)
【Fターム(参考)】