説明

光信号発生装置

【課題】パターン依存性ジッタが少なく、波形劣化の少ない高速な光パターン信号を発生できるようにする。
【解決手段】クロック信号Cに同期したNRZ形式の光パターン信号Paを発生する光パターン信号発生器21と、その光パターン信号Paをクロック信号Cに同期したクロックパルスによって打ち抜いてRZ形式の光パターン信号Pbに変換することで、パターン依存性ジッタを低減するデータ形式変換部30とを有する光信号発生装置20において、データ形式変換部30を、クロック信号Cに同期し光パターン信号Paの1ビット幅より狭い幅の光クロックパルスPcを発生する光クロックパルス発生器31と、光パターン信号Paと光クロックパルスPcとを受け、光クロックパルスPcが入射している間だけ光パターン信号Paを通過させるEA変調器32とにより構成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クロック信号に同期してNRZ形式で出力される光パターン信号をクロック信号に同期したクロックパルスによって打ち抜き、RZ形式の光パターン信号に変換することで、パターン依存性ジッタを低減する技術において、波形劣化を少なくするための技術に関する。
【背景技術】
【0002】
光信号を扱う各種光信号装置において、電気信号を光信号に変換するE/O変換部で発生するパターン依存性ジッタやランダムジッタの評価はなくてはならない測定項目である。そこでE/O変換部で発生するパターン依存性ジッタとランダムジッタを分離して評価するために、パターン依存性ジッタが極めて小さい光信号を発生させる技術が必要とされている。
【0003】
これを実現する技術として、特許文献1には、図6に示すように、光パターン信号発生器11から電気のクロック信号Cに同期したNRZ形式の光パターン信号Paを発生させて光変調器12に入射し、この光変調器12にクロック信号Cを与えて光パターン信号に対するサンプリング(即ち2値の読取処理)を行い、パターン依存性ジッタが低減されたRZ形式の光パターン信号Pbを生成して、パルスストレッチャ13によってそのパルス幅を拡げてNRZ形式の光パターン信号Pa′に戻す技術が開示されている。
【0004】
【特許文献1】特開2004−201327号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、光信号のビットレートは年々高速化され、近年では40Gを越える光パターン信号が必要となっている。これに対し、前記したように電気のクロック信号Cを光変調器12に入力してサンプリングを行う方法では、インピーダンスの僅かな不整合によりクロックの波形が大きく劣化し、その結果、得られるRZ形式の波形も大きく劣化して、ジッタ抑圧効果も低くなってしまうという問題があった。
【0006】
本発明は、この問題を解決し、パターン依存性ジッタが少なく、波形劣化の少ない高速な光パターン信号を発生できる光信号発生装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記目的を達成するために、本発明の請求項1記載の光信号発生装置は、
電気のクロック信号に同期したNRZ形式の光パターン信号を発生する光パターン信号発生器(21)と、
前記光パターン信号を前記クロック信号に同期したクロックパルスによって打ち抜き、RZ形式の光パターン信号に変換することで、前記パターン依存性ジッタを低減するデータ形式変換部(30)とを有する光信号発生装置において、
前記データ形式変換部を、
前記クロック信号に同期し、前記光パターン信号の1ビット幅より狭い幅の光クロックパルスを発生する光クロックパルス発生器(31)と、
前記光パターン信号発生器から出射されたNRZ形式の光パターン信号と、前記光クロックパルス発生器から出射された光クロックパルスとを受け、該光クロックパルスが入射している間だけ前記光パターン信号を通過させるEA変調器(32)とにより構成したことを特徴とする。
【0008】
また、本発明の請求項2の光信号発生装置は、請求項1記載の光信号発生装置において、
前記光パターン信号は前記EA変調器の一方の光端子に入射され、
前記EA変調器の他方の光端子側には、前記光クロックパルスを該他方の光端子に入射させるとともに、該光クロックパルスが入射したときに前記他方の光端子から出射される光パターン信号成分を前記光クロックパルスの入射光路と異なる光路へ出射させるカプラ(33)が設けられていることを特徴とする。
【0009】
また、本発明の請求項3の光信号発生装置は、請求項1記載の光信号発生装置において、
前記光クロックパルスの波長が前記光パターン信号の波長と異なっており、
前記光クロックパルスと前記光パターン信号とを合波して前記EA変調器の一方の光端子に入射させる合波器(36)と、
前記EA変調器の他方の光端子から出射される光のうち、前記光パターン信号の波長成分のみを選択的に出射させる波長フィルタ(37)とを有していることを特徴とする。
【0010】
また、本発明の請求項4の光信号発生装置は、請求項1〜3のいずれかに記載の光信号発生装置において、
前記EA変調器に入射される光クロックパルスのパワーとパルス幅を可変する手段を有していることを特徴とする。
【0011】
また、本発明の請求項5の光信号発生装置は、請求項1〜4のいずれかに記載の光信号発生装置において、
前記EA変調器から出射されたRZ形式の光パターン信号のパルス幅を拡げて、NRZ形式に変換するパルスストレッチャ(40)を有していることを特徴とする。
【0012】
また、本発明の請求項6の光信号発生装置は、請求項1〜5のいずれかに記載の光信号発生装置において、
前記光クロックパルス発生器は、再生モードロック型ファイバレーザであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
このように、本発明では、光パターン信号を入射したEA変調器に光クロックパルスを与えてEA変調器内部の光損失を小さくして(これを相互吸収変調効果という)で光パターン信号に対するサンプリングを行っているので、電気信号のようなインピーダンス不整合による波形劣化が発生せず、パターン依存性ジッタの少ない高速な光パターン信号を発生することができる。
【0014】
また、EA変調器の一方の光端子に光パターン信号を入射し、他方の光端子に光パルス信号を入射する方式であれば、光パターン信号と光パルス信号の通過方向が互いに逆となるので両者の波長がたとえ等しくても使用でき、波長による制限がなくなる。
【0015】
また、光パターン信号と光パルス信号の通過方向を同じにして用いる場合には、EA変調器の出力から波長フィルタで光パターン信号を抽出することで対応できる。
【0016】
また、EA変調器に入射される光パルス信号のパワーとパルス幅を可変する手段を設けることで、EA変調器から出射される光パターン信号の出力およびパルス幅を可変することができる。
【0017】
また、光パルス発生器を再生モードロック型ファイバレーザで構成すれば、パターンジッタだけでなく、ランダムジッタも抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、図面に基づいて本発明の実施の形態を説明する。
図1は、本発明を適用した光信号発生装置20の構成を示している。
【0019】
この光信号発生装置20は、光パターン信号発生器21、クロック信号発生器25、データ形式変換部30およびパルスストレッチャ40を有している。
【0020】
光パターン信号発生器21は、所定波長で強度がほぼ一定のレーザ光P0を出射するレーザ光源22と、クロック信号発生器25が図2の(a)のように出力する電気の所定周波数(例えば40GHz)のクロック信号Cに同期したNRZ形式のパターン信号Aを発生するパターン信号発生器23と、レーザ光源22から出射されたレーザ光P0をパターン信号Aで強度変調して、図2の(b)のようにNRZ形式の光パターン信号Paを生成する光変調器24により構成されている。
【0021】
この光変調器24から出射されるNRZ形式の光パターン信号Paには、図2の(b)に示しているように、パターン信号Aのパターンに依存して生じるジッタ(位相揺らぎ)が含まれている。なお、この例ではクロック信号発生器25を含む構成としているが、外部から入力されたクロック信号Cを用いる構成であってもよい。
【0022】
データ形式変換部30は、この光パターン信号Paを受け、クロック信号Cに同期したクロックパルスによる打ち抜き処理(2値データのサンプリング処理)を行い、RZ形式の信号に変換することで光パターン信号Paに含まれていたパターン依存性ジッタを低減する。
【0023】
このデータ形式変換部30は、クロック信号Cに同期し、図2の(c)のように、光パターン信号Paの1ビット幅より狭い幅の光クロックパルスPcを発生する光クロックパルス発生器31と、光パターン信号Paと光クロックパルスPcとを受け、光クロックパルスPcが入射している間だけ光パターン信号Paを通過(打ち抜き処理)させるEA(Electoro Absorption)変調器32とを含んでいる。
【0024】
光クロックパルス発生器31の構成例は具体的には記載しないが、例えば前記光パターン信号発生器21でパターン信号Aの代わりにクロック信号Cを光変調器に用いる構成であってもよい。この場合、クロック信号Cで変調するのでパターン依存性ジッタは原理的には発生しない。
【0025】
ただし、クロック信号Cにランダムジッタがある場合、出射される光クロックパルスPcにもランダムジッタが含まれることになる。そのランダムジッタが問題となるような場合には、ランダムジッタを抑圧する効果をもつ光クロックパルス発生器31を用いる。例えば、再生モードロック型ファイバレーザを用いることで、クロック信号のランダムジッタが0.5ps程度であっても、0.1〜0.01ps程度までランダムジッタが抑圧された光クロックパルスPcを出射することができる。
【0026】
なお、再生モードロック型ファイバレーザは、例えば次の非特許文献1等に記載された公知のものであり、ここではその詳細については説明しない。
【0027】
【非特許文献1】IEEE PHOTONICS TECNOLOGY LETTERS, VOL.11, NO.5, MAY 1999‘Measurement of Timing Jitter and Pulse Energy Fluctuation of a PLLRegeneratively Mode-Locked Fiber Laser’ Eiji Yoshidaand Masataka Nakazawa ,Fellow, IEEE
【0028】
EA変調器32は、一般的には、印加した電気信号の電界強度に応じて光損失が変化する電界吸収効果を用いて入力光を強度変調させているが、前記したように、ここでは、入力した光(この場合光クロックパルス)の強度に応じて、光損失が変化する相互吸収変調効果を利用している。
【0029】
なお、上記のようなEA変調器32の相互吸収変調効果を利用する場合には、光クロックパルスPcが入射されない期間では、光吸収による損失が大きく光パターン信号Paを通過させないオフ状態となり、光クロックパルスPcが入射されている期間では、光吸収による損失が小さくなって光パターン信号Paを通過させるオン状態となる動作点にバイアス電圧Vbを設定している。なお、上記原理を用いているために必然的に光クロックパルスPcのピーク強度は、光パターン信号Paの強度より大である。
【0030】
また、EA変調器32に対する光クロックパルスPcの入射の仕方としては、図1の例に示しているように、光パターン信号Paが入射される一方の光端子32aと逆の他方の光端子32bからカプラ33を介して入射する方法と、光パターン信号Paが入射される光端子に入射する方法とが考えられる。
【0031】
図1のように、光パターン信号Paを一方の光端子32aに入射し、光クロックパルスPcを、カプラ33を介して他方の光端子32bから入射する場合、光クロックパルスPcと光パターン信号Paの通過方向が互いに逆で、光クロックパルスPcがパルスストレッチャ40方向へ出射される心配がないので、光クロックパルスPcとしては任意の波長が使用できる。ただし、光端子32aから出射された光クロックパルスPcの成分が、光パターン信号発生器21側へ入射される影響を考慮して、光端子32a側にもカプラ34を挿入して、光パターン信号Paを光端子32aへ入射させ、光端子32aから出射される光クロックパルスPcの成分を光吸収器35に与えて吸収している。
【0032】
このようにEA変調器32に光クロックパルスPcを入射することで、図2の(d)に示すように、NRZ形式の光パターン信号Paの各ビットデータ(ここでは10100……と続くパターン)のサンプリングが行われて、RZ形式の光パターン信号Pbが得られる。
【0033】
なお、光パターン信号Paに対する光クロックパルスPcの位相は、光パターン信号Paの各ビットのほぼ中央に光クロックパルスPcのピークが合うように図示しない遅延器等で調整されているものとする。
【0034】
このようにして得られたRZ形式の光パターン信号Pbは、パルスストレッチャ40に入射され、データ1に対応する各パルスの幅が図2の(e)のように、クロック周期と等しい幅まで拡げられて、NRZ形式の光パターン信号Pa′が得られる。
【0035】
ここで用いるパルスストレッチャ40としては、前記した特許文献1で開示されているように、偏光維持ファイバの2つの直交する主軸F、Sに対して角度を持つ直線偏光で光パターン信号Pbを入射させて、主軸F(高速軸)に沿った成分と主軸S(低速軸)に沿った成分とを出射端側で合わせてそのパルス幅を拡げる技術が採用できる。
また、入射光を2経路に分けて異なる光路長を経由させて合波する方式であってもよい。
【0036】
以上のように、実施形態の光信号発生装置20では、光パターン信号Paを入射したEA変調器32に光クロックパルスPcを与えてEA変調器32内部の光損失を小さくして(これを相互吸収変調効果という)で光パターン信号Paに対するサンプリングを行っているので、電気信号のようなインピーダンス不整合による波形劣化が発生せず、パターン依存性ジッタの少ない高速な光パターン信号を発生することができる。
【0037】
なお、ここでは、NRZ形式の光パターン信号Pa′を得るためにパルスストレッチャ40を用いているが、装置として要求される出力がRZ形式の光パターン信号Pbでよい場合にはパルスストレッチャ40を省略できる。
【0038】
また、上記実施形態のデータ形式変換部30は、EA変調器32に対して光パターン信号Paと光クロックパルスPcとを入射する光端子を反対にしていたが、図3に示すように、光パターン信号Paと光クロックパルスPcとを合波器36で合波してEA変調器32の一方の光端子32aに入射することもできる。ただし、この場合、光パターン信号Paと光クロックパルスPcが同時に他方の光端子32bに出射されてしまい両光の区別ができない。そこで、光パターン信号Paに対して光クロックパルスPcの波長を変えておき、他方の光端子32bから出射された光から光パターン信号Paの波長成分を波長フィルタ37で抽出して出射する構成も採用できる。
【0039】
また、単純には、図4の(a)、(b)に示すように、EA変調器32に対する光クロックパルスPcの入射角度を光パターン信号Paの入射角度に対して傾けることで、前記カプラ33、34、合波器36、波長フィルタ37等を用いずに、光パターン信号Pcのサンプリングを行うことができる。
【0040】
また、EA変調器32に光クロックパルスPcを与えて光パターン信号Paのサンプリングを行う場合、RZ形式で出射される光パターン信号Pbの強度およびパルス幅は、光クロックパルスPcの強度とパルス幅に依存するので、光パターン信号Pbの強度およびパルス幅を可変する必要がある場合には、図5のように、パルス幅可変手段38とパワー可変手段39を設ければよい。このパルス幅可変手段38とパワー可変手段39を制御することで、EA変調器32から出射される光パターン信号Pbの出力およびパルス幅を所定範囲内で可変することができる。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明の実施形態の構成図
【図2】実施形態の動作説明図
【図3】実施形態の要部の別の構成例を示す図
【図4】実施形態の要部の別の構成例を示す図
【図5】実施形態の要部の別の構成例を示す図
【図6】従来装置の構成図
【符号の説明】
【0042】
21……光パターン信号発生器、22……レーザ光源、23……パターン信号発生器、24……光変調器、25……クロック信号発生器、30……データ形式変換部、31……光クロックパルス発生器、32……EA変調器、33、34……カプラ、35……光吸収器、36……合波器、37……波長フィルタ、38……パルス幅可変手段、39……パワー可変手段、40……パルスストレッチャ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気のクロック信号に同期したNRZ形式の光パターン信号を発生する光パターン信号発生器(21)と、
前記光パターン信号を前記クロック信号に同期したクロックパルスによって打ち抜き、RZ形式の光パターン信号に変換することで、前記パターン依存性ジッタを低減するデータ形式変換部(30)とを有する光信号発生装置において、
前記データ形式変換部を、
前記クロック信号に同期し、前記光パターン信号の1ビット幅より狭い幅の光クロックパルスを発生する光クロックパルス発生器(31)と、
前記光パターン信号発生器から出射されたNRZ形式の光パターン信号と、前記光クロックパルス発生器から出射された光クロックパルスとを受け、該光クロックパルスが入射している間だけ前記光パターン信号を通過させるEA変調器(32)とにより構成したことを特徴とする光信号発生装置。
【請求項2】
前記光パターン信号は前記EA変調器の一方の光端子に入射され、
前記EA変調器の他方の光端子側には、前記光クロックパルスを該他方の光端子に入射させるとともに、該光クロックパルスが入射したときに前記他方の光端子から出射される光パターン信号成分を前記光クロックパルスの入射光路と異なる光路へ出射させるカプラ(33)が設けられていることを特徴とする請求項1記載の光信号発生装置。
【請求項3】
前記光クロックパルスの波長が前記光パターン信号の波長と異なっており、
前記光クロックパルスと前記光パターン信号とを合波して前記EA変調器の一方の光端子に入射させる合波器(36)と、
前記EA変調器の他方の光端子から出射される光のうち、前記光パターン信号の波長成分のみを選択的に出射させる波長フィルタ(37)とを有していることを特徴とする請求項1記載の光信号発生装置。
【請求項4】
前記EA変調器に入射される光クロックパルスのパワーとパルス幅を可変する手段を有していることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の光信号発生装置。
【請求項5】
前記EA変調器から出射されたRZ形式の光パターン信号のパルス幅を拡げて、NRZ形式に変換するパルスストレッチャ(40)を有していることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の光信号発生装置。
【請求項6】
前記光クロックパルス発生器は、再生モードロック型ファイバレーザであることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の光信号発生装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−81210(P2010−81210A)
【公開日】平成22年4月8日(2010.4.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−246126(P2008−246126)
【出願日】平成20年9月25日(2008.9.25)
【出願人】(000000572)アンリツ株式会社 (838)
【Fターム(参考)】