説明

光出力モジュール、光送受信機、及び光伝送システム

【課題】バイアス電圧に基づいて光信号の位相シフトを行う場合において、バイアス電圧にパイロット信号を付与しなくても、位相シフト量を所期の位相シフト量に調整できるようにする。
【解決手段】I用位相変調器(12)は、第1変調信号と第1パイロット信号とが付与されたバイアス電圧V1に基づいて位相変調し、Q用位相変調器(14)は、第1パイロット信号と異なる第2パイロット信号と第2変調信号とが付与されたバイアス電圧V2に基づいて位相変調する。時間平均パワー同期検波部(22)は、両パイロット信号の電圧の正負が同じとなるタイミングにおける光パワーと、両パイロット信号の電圧の正負が逆となるときの光パワーと、を検出する。バイアス電圧制御部(18)は、時間平均パワー同期検波部(22)の検出結果に基づいて、両光パワーの差が小さくなるように、バイアス電圧V3を制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光出力モジュール及び光送受信機、及び光伝送システムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、DQPSK変調方式はWDM(Wavelength Division Multiplexing)光通信システムにおいて、高い受信感度、長距離伝送など、優れた特性を持ち、光通信システムの高性能化に向けて関心が高まっている。
【0003】
図6にDQPSK光送信器100の基本構成を例示する。DQPSK光送信器100は、信号発生部102、第1増幅器104、第2増幅器106、レーザ光源108、I用位相変調器110、Q用位相変調器112、及び位相シフト部114を含む。
【0004】
第1増幅器104は、信号発生部102により出力される第1の駆動信号の増幅信号を第1変調信号として生成し、第2増幅器106は、信号発生部102により出力される第2の駆動信号の増幅信号を第2変調信号として生成する。レーザ光源108から出力される光信号はI用位相変調器110に入力され、I用位相変調器110が、第1変調信号に基づいて光信号を位相変調する。また、レーザ光源108から出力される光信号はQ用位相変調器112にも入力され、Q用位相変調器112が、第2変調信号に基づいて光信号を位相変調するとともに、2つの光信号の位相差を90度とするために、位相シフト部114がバイアス電圧に基づいて位相シフトを行う。
【0005】
そして、I用位相変調器110による位相変調が施された光信号と、Q用位相変調器112による位相変調と位相シフト部114による位相シフトとが施された光信号と、が合波され、DQPSK光信号として出力される。
【0006】
このようなDQPSK光送信器100では、周辺温度や時間経過に対して位相シフト部114が90度の位相シフトを行うためのバイアス電圧の最適値がドリフトするため、バイアス電圧を最適値に調整することが必要となる。
【0007】
そこで、下記特許文献1及び下記特許文献2では、図7に示すように、バイアス電圧に低周波のパイロット信号が付与されるようになっている。また、フォトダイオード116が、DQPSK光信号を受光するようになっている。また、パワー同期検波部118が、パイロット信号の周波数に合わせて同期検波を行うことによって、DQPSK光信号の低周波成分のパワーを検出するようになっている。そして、バイアス制御部120が、パワー同期検波部118により検出されるパワーに基づいて、DQPSK光信号の低周波成分のパワーが最小になるようバイアス電圧を調整するようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2007−82094号公報
【特許文献2】特開2010−204689号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上記のようにしてバイアス電圧を調整するようにする場合、パワー同期検波部118にRF(Radio Frequency)パワー検出器を追加すること等が必要であり、ハード規模及び製造コストの増大を招くという問題がある。
【0010】
本発明の目的は、バイアス電圧に基づいて光信号の位相シフトを行う場合において、バイアス電圧にパイロット信号を付与しなくても、位相シフト量を所期の位相シフト量に調整できるようにすることである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するために、本発明に係る光出力モジュールは、レーザと、前記レーザから出力される光信号を、第1の変調信号が付与された第1のバイアス電圧に基づいて位相変調する第1の位相変調手段と、前記レーザから出力される光信号を、第2の変調信号が付与された第2のバイアス電圧に基づいて位相変調する第2の位相変調手段と、前記レーザから出力される光信号の位相を、第3のバイアス電圧に基づいてシフトする移相手段と、前記第3のバイアス電圧を制御するバイアス制御手段と、を含み、前記第1の位相変調手段による位相変調が施された光信号と、前記第2の位相手段による位相変調及び前記移相手段による位相シフトが施された光信号と、を合波してなる変調光信号を出力する光出力モジュールにおいて、前記第1の位相変調手段は、前記第1の変調信号と第1の低周波信号とが付与された前記第1のバイアス電圧に基づいて、前記レーザから出力される光信号を位相変調し、前記第2の位相変調手段は、前記第1の低周波信号と異なる低周波信号である第2の低周波信号と前記第2の変調信号とが付与された前記第2のバイアス電圧に基づいて、前記レーザから出力される光信号を位相変調し、前記光出力モジュールは、前記第1の低周波信号の電圧と前記第2の低周波信号の電圧とが共に正又は負であるタイミングにおける前記変調光信号のパワーである第1のパワーと、前記第1の低周波信号と前記第2の低周波信号とのうちの一方の電圧が正であり且つ他方の電圧が負であるタイミングにおける前記変調光信号のパワーである第2のパワーと、を検出する検出手段をさらに含み、前記バイアス制御手段は、前記検出手段の検出結果に基づいて、前記第1のパワーと前記第2のパワーとの差が小さくなるように、前記第3のバイアス電圧を制御することを特徴とする。
【0012】
本発明の一態様では、前記第1の位相変調手段によって光が位相変調される場合、位相変調が施された当該光の光電界は、前記第1の位相変調手段が当該光の位相変調に用いた電圧に応じて第1の電圧周期で周期的に変化し、前記第2の位相変調手段によって光が位相変調される場合、位相変調が施された当該光の光電界は、前記第2の位相変調手段が当該光の位相変調に用いた電圧に応じて第2の電圧周期で周期的に変化し、前記第1の変調信号の振幅は、前記第1の電圧周期の2分の1未満であり、前記第2変調信号の振幅は、前記第2の電圧周期の2分の1未満であってよい。
【0013】
また、本発明の一態様では、前記光出力モジュールは、駆動信号の増幅信号を前記第1の変調信号として生成する第1増幅手段と、駆動信号の増幅信号を前記第2の変調信号として生成する第2増幅手段と、前記第1増幅手段と前記第2増幅手段とのうちの一方の増幅率をある期間変化させ続けた後、他方の増幅率をある期間変化させ続ける増幅率変化手段と、前記増幅率変化手段が前記第1増幅手段の増幅率を変化させ続けているときの前記変調光信号のパワーを検出する第1パワー検出手段と、前記増幅率変化手段が前記第2増幅手段の増幅率を変化させ続けているときの前記変調光信号のパワーを検出する第2パワー検出手段と、前記増幅率変化手段が前記第1増幅手段の増幅率をある期間変化させ続けた後に、前記第1パワー検出手段による検出結果の推移、に関する特徴量に基づいて、前記第1増幅手段の増幅率を設定する第1増幅率設定手段と、前記増幅率変化手段が前記第2増幅手段の増幅率をある期間変化させ続けた後に、前記第2パワー検出手段による検出結果の推移、に関する特徴量に基づいて、前記第2増幅手段の増幅率を設定する第2増幅率設定手段と、をさらに含んでもよい。
【0014】
また、本発明の一態様では、前記第1の位相変調手段は、前記第1増幅手段の増幅率と前記第2増幅手段の増幅率との両方が設定される前は、前記第1の変調信号と第1の低周波信号とが付与された前記第1のバイアス電圧に基づいて位相変調を行う代わりに、前記第1の変調信号が付与された前記第1のバイアス電圧に基づいて位相変調を行い、前記第2の位相変調手段は、前記第1増幅手段の増幅率と前記第2増幅手段の増幅率との両方が設定される前は、前記第2の低周波信号と前記第2の変調信号とが付与された前記第2のバイアス電圧に基づいて位相変調を行う代わりに、前記第2の変調信号が付与された前記第2のバイアス電圧に基づいて位相変調を行ってもよい。
【0015】
上記目的を達成するために、本発明に係る光送受信機は、光信号を出力する光出力モジュールと、光信号を受信する光受信モジュールと、を含む光送受信機であって、前記光出力モジュールが、レーザと、前記レーザから出力される光信号を、第1の変調信号と第1の低周波信号とが付与された第1のバイアス電圧に基づいて位相変調する第1の位相変調手段と、前記レーザから出力される光信号を、前記第1の低周波信号と異なる低周波信号である第2の低周波信号と第2の変調信号とが付与された第2のバイアス電圧に基づいて位相変調する第2の位相変調手段と、前記レーザから出力される光信号の位相を、第3のバイアス電圧に基づいてシフトする移相手段と、前記第1の位相変調手段による位相変調が施された光信号と、前記第2の位相手段による位相変調及び前記移相手段による位相シフトが施された光信号と、を合波してなる変調光信号の、前記第1の低周波信号の電圧と前記第2の低周波信号の電圧とが共に正又は負であるタイミングにおけるパワーである第1のパワーと、前記第1の低周波信号と前記第2の低周波信号とのうちの一方の電圧が正であり且つ他方の電圧が負であるタイミングにおける前記変調光信号のパワーである第2のパワーと、を検出する検出手段と、前記検出手段の検出結果に基づいて、前記第1のパワーと前記第2のパワーとの差が小さくなるように、前記第3のバイアス電圧を制御するバイアス制御手段と、を含み、前記変調光信号を出力することを特徴とする。
【0016】
本発明の一態様では、前記バイアス制御手段は、前記第1のパワーと前記第2のパワーとのうちどちらが大きいかに基づいて、前記位相手段により位相シフトが施された光信号と、前記第1の変調手段により位相変調が施された光信号との位相差を、kが整数であるとして、90×(4k+1)度の状態および90×(4k+3)度の状態のうち予め定められた状態となるように制御してもよい。
【0017】
上記目的を達成するために、本発明に係る光通信システムは、上述の光送受信器と、前記光送受信機より出力される前記変調光信号を伝送する光ファイバと、前記光ファイバより伝送された前記変調光信号を受信する光受信器と、を含み、前記光受信器は、90×(4k+1)度の状態および90×(4k+3)度の状態のうち前記予め定められた状態に応じた復調処理を行う、ことを特徴とする。
【0018】
本発明の一態様では、前記光受信器は、第1の位相復調器と、前記第1の位相復調器と異なる位相の信号を復調する第2の位相復調器と、前記第1の位相復調器が出力する第1のデータと前記第2の位相復調器が出力する第2のデータに基づいて出力データを出力するデータ処理部と、を含み、前記データ処理部は、前記第1のデータと前記第2のデータとに基づく出力データを出力する第1のモードと、前記第1のデータと前記第2のデータを交換したデータに基づく出力データを出力する第2のモードとのうち前記予め定められた状態に応じたモードの処理を行ってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の実施形態に係る光出力モジュールの構成を例示する図である。
【図2】本発明の実施形態に係る光送受信機を例示する図である。
【図3A】光電界と電圧との関係を示す図である。
【図3B】光電界と電圧との関係を示す図である。
【図3C】光電界と電圧との関係を示す図である。
【図3D】光電界と電圧との関係を示す図である。
【図4A】コンスタレーションを示す図である。
【図4B】コンスタレーションを示す図である。
【図4C】コンスタレーションを示す図である。
【図4D】コンスタレーションを示す図である。
【図5】位相シフト量と時間平均パワーとの関係を示す図である。
【図6】DQPSK光送信器の基本構成を例示する図である。
【図7】DQPSK光送信器の構成を例示する図である。
【図8】本発明の実施形態にかかる光伝送システムを例示する図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明を実施するための好適な実施の形態を、図面を参照しながら説明する。
【0021】
図1は、本発明の実施形態に係る光出力モジュール2の構成を例示する図である。光出力モジュール2は、例えば、光送信機と光受信機とを備える光送受信機に備えられる。すなわち、光送受信機を例示する図2に示すように、光出力モジュール2は、光送受信機の光送信機に備えられる。光送信機には、光出力モジュール2とRZ変調器とを備えたRZ−DQPSK光送信機、RZ変調器が備えられていないNRZ−DQPSK光送信機などがある。
【0022】
図1に示すように、光出力モジュール2は、レーザ4を備える。レーザ4は、光信号を出力する。光信号は、CW(Continuous Wave)光である。
【0023】
また、光出力モジュール2は、信号発生部6を備える。信号発生部6は、デジタル信号に対応する駆動信号を発生する。より詳しくは、信号発生部6は、データ列の前後2ビットをパラレル信号として2チャンネルで出力する。
【0024】
また、光出力モジュール2は、第1増幅器8を備える。第1増幅器8は、光出力モジュール2の製造時に設定された増幅率で駆動信号を増幅する。駆動信号を増幅することにより、第1増幅器8は、第1変調信号を生成する。なお、第1増幅器8の増幅率は、第1変調信号の振幅が、基準電圧Vsの2分の1未満となるように設定されている。本実施形態の場合、第1変調信号の振幅は、基準電圧Vsの0.45倍たる「0.45×Vs」である。ここで、基準電圧Vsの4分の1は、いわゆる半波長電圧Vπに相当する。ここで、振幅は信号電圧の最大値と最小値との差である。
【0025】
基準電圧Vsについては後述する。また、第1変調信号の振幅が、基準電圧Vsの2分の1未満となっていることの意義についても後述する。
【0026】
また、光出力モジュール2は、第2増幅器10を備える。第2増幅器10は、光出力モジュール2の製造時に設定された増幅率で駆動信号を増幅する。駆動信号を増幅することにより、第2増幅器10は、第2変調信号を生成する。なお、第2増幅器10の増幅率は、第2変調信号の振幅が、基準電圧Vs(第2の電圧周期)の2分の1未満となるように設定されている。本実施形態の場合、第2変調信号の振幅は、第1変調信号の振幅と同様、基準電圧Vsの0.45倍たる「0.45×Vs」である。
【0027】
第2変調信号の振幅が、基準電圧Vsの2分の1未満となっていることに意義については後述する。
【0028】
また、光出力モジュール2は、I用位相変調器12と、Q用位相変調器14と、を備える。I用位相変調器12と、Q用位相変調器14と、は例えばゼロチャープマッハツェンダ型LN変調器である。
【0029】
I用位相変調器12は、レーザ4から出力される光信号を、第1変調信号と低周波信号である第1パイロット信号とが付与されたバイアス電圧V1とに基づいて位相変調する。また、Q用位相変調器14は、レーザ4から出力される光信号を、第2変調信号と第2パイロット信号とが付与されたバイアス電圧V2とに基づいて位相変調する。なお、第2パイロット信号は、第1パイロット信号の位相を「90×n」度(nは奇数)シフトした低周波信号であり、ここでは、第1パイロット信号の位相を90度シフトした低周波信号を、第2パイロット信号として用いている。なお、例えば第1パイロット信号と第2パイロット信号とで位相が異なる代わりに、その周期が互いに異なっていてもよい。第1パイロット信号と第2パイロット信号とは異なる信号であればよい。また、ここでは、第1パイロット信号と第2パイロット信号とを矩形波とするが、これらは正弦波であってもよいし三角波であってもよい。
【0030】
図3Aは、I用位相変調器12を透過した光の光電界(I用位相変調器12による位相変調が光に施された後の光電界)とI用位相変調器12が当該光の位相変調に用いた電圧との関係を示す図である。縦軸が光電界を示し、横軸が電圧を示している。なお、図3Aは、Q用位相変調器14を透過した光の光電界(Q用位相変調器14による位相変調が光に施された後の光電界)とQ用位相変調器14が当該光の位相変調器に用いた電圧との関係も示している。
【0031】
同図に示すように、光電界は、電圧に応じて正弦的且つ周期的に変化する。上述の基準電圧Vsは、光電界が変化する電圧周期であり、半波長電圧Vπの4倍に相当する。正の光電界が、光位相0度に対応し、負の光電界が、光位相180度に対応している。また、同図に示すように、電圧がV0であるときに光電界が「0」となる。なお、PD20(後述)により検波される時間平均パワーが最大になるよう、図示しないABC(Automatic Bias Control)回路がバイアス電圧V1及びバイアス電圧V2を制御することによって、バイアス電圧V1やバイアス電圧V2がV0に設定されている。
【0032】
バイアス電圧V1に第1変調信号が付与される場合、図3Bに示すように、光電界はデータが「1」である場合に「I」となり、データが「0」である場合に「−I」となる。なお、「I」と「I」はともに「I」である。同様に、バイアス電圧V2に第2変調信号が付与される場合、光電界はデータが「1」である場合に「Q」となり、データが「0」である場合に「−Q」となる。なお、「Q」と「Q」はともに「Q」である。
【0033】
上述のように、バイアス電圧V1には第1変調信号だけでなく第1パイロット信号も付与される。従って、第1パイロット信号の電圧が正の電圧であるとき、図3Cに示すように、光電界は、データが「1」である場合に「I+ΔI」となり、データが「0」である場合に「−I+ΔI」となる。一方、第1パイロットの信号の電圧が負の電圧であるとき、図3Dに示すように、光電界は、データが「1」である場合に「I−ΔI」となり、データが「0」である場合に「−I−ΔI」となる。なお、パイロット信号の電圧が正であるとは、パイロット信号の電圧の時間平均よりパイロット信号の電圧が高いことを示し、パイロット信号の電圧が負であるとは、パイロット信号の電圧が時間平均より低いことを示す。
【0034】
また、上述のように、バイアス電圧V2には第2変調信号だけでなく第2パイロット信号も付与される。従って、第2パイロット信号の電圧が正の電圧であるとき、図3Cに示すように、光電界は、データが「1」である場合に「Q+ΔQ」となり、データが「0」である場合に「−Q+ΔQ」となる。一方、第2パイロットの信号の電圧が負の電圧であるとき、図3Dに示すように、光電界は、データが「1」である場合に「Q−ΔQ」となり、データが「0」である場合に「−Q−ΔQ」となる。
【0035】
また、光出力モジュール2は、位相シフト部16を備える。位相シフト部16は、I用位相変調器12に入力される光信号と、Q用位相変調器14に入力される光信号と、の位相差を「90×m」度とするために、Q用位相変調器14による位相変調が施された光信号の位相をシフトする。「m」は奇数であり、ここでは「m」は「1」である。具体的には、位相シフト部16は、バイアス電圧V3に基づいて位相変調を行う。
【0036】
また、光出力モジュール2は、バイアス電圧制御部18を備える。バイアス電圧制御部18は、例えばマイクロコンピュータにより実現される。バイアス電圧制御部18は、位相シフト部16により位相シフト量が90度となるように、バイアス電圧V3を制御する。
【0037】
I用位相変調器12による位相変調が施された光信号と、Q用位相変調器14による位相変調と位相シフト部16による位相シフトとが施された光信号と、は合波されてDQPSK(Differential Quadrature Phase Shift Keying)光信号となり、光出力モジュール2から出力されることとなる。また、DQPSK光信号はフォトダイオード20(以下、PD20)により受光されることとなる。
【0038】
また、光出力モジュール2は、位相シフト部16による位相シフト量が90度となるようバイアス電圧制御部18にバイアス電圧V3を制御させるために、時間平均パワー同期検波部22を備えている。時間平均パワー同期検波部22は、例えば、マイクロコンピュータにより実現される。時間平均パワー同期検波部22の動作については後述する。
【0039】
なお、光出力モジュール2は、時間平均パワー検出部24、ゲイン制御部26、及び図示しない記憶手段も備える。本実施形態の場合、時間平均パワー検出部24及びゲイン制御部26は、光出力モジュール2の製造時において動作するようになっており、例えばマイクロコンピュータにより実現される。時間平均パワー検出部24及びゲイン制御部26については、光出力モジュール2の製造時の動作について説明する際に説明する。
【0040】
以下、位相シフト量が90度となるようバイアス電圧V3を制御するための、バイアス電圧制御部18及び時間平均パワー同期検波部22の動作、について説明するための前提として、DQPSK位相変調の原理について説明する。
【0041】
光信号の状態を、光電界の強度と位相とを複素平面で表したコンスタレーションで表した場合、I用位相変調部12で変調された光信号は光位相が0度の光信号となり、そのコンスタレーションは図4Aに示すようになる。また、Q用位相変調部14で変調された直後の光信号は光位相が180度の光信号となり、そのコンスタレーションは図4Bに示すようになる。光位相180度のときの光電界強度を「q」、「i」、光位相0度のときの光電界強度を「q」、「i」とする。位相シフト部16では、図4Bに示すコンスタレーションをφ(φ=90×m)度回転させる(図4C参照)。
【0042】
図4Dに位相シフトφ=90度のときのDQPSK光信号のコンスタレーションを示す。4つの状態を複素表記すると、それぞれの状態は、「i+qexp(jφ)」、「−i-+qexp(jφ)」、「−i-−q-exp(jφ)」、「i−q-exp(jφ)」となり、φが「90×m」度である場合、45度、135度、225度、315度の4つの位相状態となる。
【0043】
マーク率を4シンボルでそれぞれ1/4とすると、DQPSK光信号の時間平均パワーPは下記式で表される。
【0044】
P=1/4(|i+qexp(jφ)|+|−i+qexp(jφ)|+|−i−qexp(jφ)|+|i−qexp(jφ)|)=1/2[i+i+q+q+(i−i)(q−q)cosφ]
【0045】
この式によれば、「i−i=0」、「q−q=0」のとき、位相シフト量φに依らず、Pは一定値K(K=(i+i+q+q)/2)となる。そのため、バイアス電圧V1に第1変調信号のみが付与されたり、バイアス電圧V2に第2変調信号のみが付与されたりした場合、「i」である「I」が「i」である「I」と同じ値となり、「q」である「Q」が「q」である「Q」と同じ値となるので、位相シフト量φによらず、Pは一定値Kとなってしまう。この場合、時間平均パワーPを検出することによって位相シフト量φを90度へと調整することは困難となる。
【0046】
この点、この光出力モジュール2では、第1パイロット信号と第2パイロット信号とが付与される。そのため、第1パイロット信号の電圧と第2パイロット信号の電圧とがともに正である場合(「q」が「Q+ΔQ」であり、且つ、「q」が「−Q+ΔQ」であり、且つ、「i」が「I+ΔI」であり、且つ、「i」が「−I+ΔI」である場合)、及び第1パイロット信号の電圧と第2パイロット信号の電圧とがともに負である場合(「q」が「Q−ΔQ」であり、且つ、「q」が「−Q−ΔQ」であり、且つ、「i」が「I−ΔI」であり、且つ、「i」が「−I−ΔI」である場合)、時間平均パワーPが「K1+2×ΔI×ΔQ×cosφ」となる。すなわち、第1パイロット信号の電圧と第2パイロット信号の電圧との正負が同じとなるタイミングでの時間平均パワーP(以下、P1)が「K1+2×ΔI×ΔQ×cosφ」となる。なお、K1は、「(I+I+Q+Q)/2」である。
【0047】
また、第1パイロット信号の電圧が正であり第2パイロット信号の電圧が負である場合(「q」が「Q−ΔQ」であり、且つ、「q」が「−Q−ΔQ」であり、且つ、「i」が「I+ΔI」であり、且つ、「i」が「−I+ΔI」である場合)、及び第1パイロット信号の電圧が負であり第2パイロット信号の電圧が正である場合(「q」が「Q+ΔQ」であり、且つ、「q」が「−Q+ΔQ」であり、且つ、「i」が「I−ΔI」であり、且つ、「i」が「−I−ΔI」である場合)、時間平均パワーPが「K1−2×ΔI×ΔQ×cosφ」となる。すなわち、第1パイロット信号の電圧と第2パイロット信号の電圧との正負が逆となるタイミングでの時間平均パワーP(以下、P2)が「K1−2×ΔI×ΔQ×cosφ」となる。
【0048】
図5に、位相シフト量φと、時間平均パワーP1及び時間平均パワーP2と、の関係を例示した。
【0049】
図5からも分かるように、位相シフト量φが「90×m」度であるとき、P1とP2との差は「0」になり、P1とP2とはともにK1となる。そのため、P1とP2とが同じになるようにバイアス電圧V3を調整すれば、位相シフト量φを「90×m」度へと調整することが可能になる。
【0050】
そこで、この光出力モジュール2では、時間平均パワー同期検波部22が、第1パイロット信号の周波数に同期してPD20からの信号を検波することによって、時間平均パワーP1と時間平均パワーP2とを繰り返し検出する。
【0051】
そして、バイアス電圧制御部18が、時間平均パワー同期検波部22の検出結果に基づいて、時間平均パワーP1と時間平均パワーP2との差が小さくなるように、バイアス電圧V3を繰り返し制御する。
【0052】
こうすれば、バイアス電圧V3にパイロット信号を付与せずとも、位相シフト量φを「90×m」度へと調整することができる。そのため、RF(Radio Frequency)パワー検出器等を用いなくてもよくなり、ハード規模及び製造コストの増大を抑制することができる。第1パイロット信号と第2パイロット信号とは、第1パイロット信号の電圧と第2パイロット信号の電圧の両方が正または負になる期間と、第1パイロット信号と第2パイロット信号のうち一方が正になり他方が負になる期間とが生じるという条件を満たせばよい。
【0053】
ところで、第1変調信号及び第2変調信号の振幅が基準電圧Vs(図3B参照)の2分の1倍である「0.5×Vs」である場合、第1パイロット信号や第2パイロット信号による光電界の変位ΔQ及びΔI(図3C、図3D参照)が小さくなりすぎ、位相シフト量φの調整がうまくいかない可能性がある。
【0054】
この点、この光出力モジュール2では、第1変調信号及び第2変調信号の振幅が「0.5×Vs」未満である「0.45×Vs」になるよう、第1増幅器8及び第2増幅器10の増幅率が設定されている。そのため、光電界の変位ΔQ及びΔIが比較的大きくなるよう担保され、その結果として、位相シフト量φの調整精度が担保されるようになる。また、DWDM(Dense Wavelength Division Multiplexing)システムにおいて、OSNR(Optical Signal-to-Noise Ratio)特性の劣化はほとんどなく、光伝送特性に影響を与えることもなくなる。なお、第1変調信号及び第2変調信号の振幅は、バイアス電圧V1及びバイアス電圧V2の制御に関して誤作動が起こらないよう、「0.35×Vs」以上「0.45×Vs」以下であることが望ましい。
【0055】
なお、第1増幅器8の増幅率が、第1変調信号の振幅が「0.45×Vs」となるように光出力モジュール2の製造時において予め設定されていること、及び、第2増幅器10の増幅率が、第2変調信号の振幅が「0.45×Vs」となるように光出力モジュール2の製造時において予め設定されていること、は既に述べた。ここでは、第1増幅器8の増幅率を第1変調信号の振幅が「0.45×Vs」となるように設定し、且つ、第2増幅器10の増幅率を第2変調信号の振幅が「0.45×Vs」となるように設定するための、光出力モジュール2の製造時における動作について説明する。なお、以下、第1変調信号と第2変調信号を総称して変調信号と呼ぶ場合がある。
【0056】
製造時では、バイアス電圧V1に第1変調信号のみが付与されるようになっており、I用位相変調器12は、第1変調信号と第1パイロット信号とが付与されたバイアス電圧V1ではなく、第1変調信号のみが付与されたバイアス電圧V1に基づいて位相変調を行う。また、製造時では、バイアス電圧V2に第2変調信号のみが付与されるようになっており、Q用位相変調器14は、第2変調信号と第2パイロット信号とが付与されたバイアス電圧V2ではなく、第2変調信号のみが付与されたバイアス電圧V2に基づいて位相変調を行う。
【0057】
そのため、DQPSK信号の時間平均パワーPは、第1パイロット信号及び第2パイロット信号が付与されないので、上記K1、すなわち「I+Q」となる。但し、Iは第1増幅器8の増幅率によって変化し、Qは第2増幅器10の増幅率の増幅率によって変化する。そのため、時間平均パワーPは、第1増幅器8の増幅率及び第2増幅器10の増幅率によって変化する。
【0058】
すなわち、第2増幅器10の増幅率を固定した場合、すなわち、第2変調信号の振幅を固定した場合、時間平均パワーPは、第1変調信号の振幅が「0.5×Vs」となる場合(第1増幅器8の増幅率が、第1変調信号の振幅が「0.5×Vs」となるような増幅率である場合)に、時間平均パワーPは極大となる。また、第1増幅器8の増幅率を固定した場合、すなわち、第1変調信号の振幅を固定した場合、時間平均パワーPは、第2変調信号の振幅が「0.5×Vs」となる場合(第2増幅器10の増幅率が、第2変調信号の振幅が「0.5×Vs」となるような増幅率である場合)に、時間平均パワーPは極大となる。
【0059】
この性質を利用する。
【0060】
すなわち、ゲイン制御部26が、任意の期間(以下、第1期間と呼ぶ)において、第1増幅器8及び第2増幅器10のうちの一方の増幅率を固定したまま、他方の増幅率を変化させ続け、第1期間後の任意の期間(以下、第2期間と呼ぶ)において、上記他方の増幅率を固定したまま、上記一方の増幅率を変化させ続ける。ここでは、ゲイン制御部26は、第1期間においては、第2増幅器10に一定の増幅制御信号を供給する一方で、第1増幅器8に供給する増幅制御信号を所定範囲内で変化させ続ける。また、ゲイン制御部26は、第2期間においては、第1増幅器8に一定の増幅制御信号を供給する一方で、第2増幅器10に供給する増幅制御信号を所定範囲内で変化させ続ける。なお、増幅制御信号とは、増幅率を制御するための信号である。
【0061】
時間平均パワーPは、時間平均パワー検出部24により繰り返し検出され、第1期間における時間平均パワーP及び第2期間における時間平均パワーPが、記憶手段に記憶される。
【0062】
こうした上で、ゲイン制御部26が、第1期間の経過後、記憶手段に記憶される、第1期間における時間平均パワーPの推移に関する特徴量に基づいて、第1増幅器8の増幅率を設定する。すなわち、ゲイン制御部26は、第1増幅器8に今後供給すべき増幅制御信号の値を設定する。また、ゲイン制御部26が、第2期間の経過後、記憶手段に記憶される、第2期間における時間平均パワーPの推移に関する特徴量に基づいて、第2増幅器10の増幅率を設定する。すなわち、ゲイン制御部26は、第2増幅器10に今後供給すべき増幅制御信号の値を設定する。
【0063】
以下、増幅率の設定方法の一例を第1増幅器8の増幅率を設定する場合を例に取り上げて説明する。例えば、ゲイン制御部26は、記憶手段に記憶される、第1期間における時間平均パワーを参照して、時間平均パワーPが極大値をとったときの増幅制御信号Sの値であるSmaxを特定する。また、第1期間における時間平均パワーPを、横軸を増幅制御信号Sに設定してプロットする。そして、プロットの結果から描かれる二次曲線の曲率半径ρを算出する。
【0064】
記憶手段には、曲率半径ρの候補である複数の曲率半径候補ρcの各々と、増幅制御信号Sの減少推奨量ΔSと、が関連づけて記憶されている。曲率半径候補ρcと減少推奨量ΔSと、は予め行われたシミュレーション結果を参考に設定されている。すなわち、曲率半径候補ρcと減少推奨量ΔSとは、曲率半径ρがρcである場合において増幅制御信号Sを「Smax−ΔS」に設定すると変調信号の振幅が「0.45×Vs」になるように設定されている。
【0065】
こうして、曲率半径ρを算出すると、ゲイン制御部26は、複数の曲率半径候補ρcのうち曲率半径ρとの差が最も小さい曲率半径候補ρc、に関連づけられた減少推奨量ΔSを読み出し、増幅制御信号Sを「Smax−ΔS」に設定する。こうして、ゲイン制御部26は、第1変調信号の振幅が「0.45×Vs」となるよう、第1増幅器8の増幅率を設定する。また、ゲイン制御部26は、以上と同様にして、第2期間において第2増幅器10の増幅率を設定する。
【0066】
なお、第2増幅器10の増幅率を設定する際に、第1増幅器8の増幅率の設定に用いた減少推奨量ΔSを用いてもよいように思われる。しかしながら、増幅器の特性には個体差があるため、第1増幅器8と第2増幅器10とで同じ減少推奨量ΔSを用いた場合に、第1の変調信号及び第2変調信号の両方の振幅が「0.45×Vs」になるとは限らない。場合によっては、第1増幅器8の出力振幅と第2増幅器10の出力振幅とがI用位相変調器12及びQ用位相変調器14の消光特性に対してアンバランスになり、伝送特性の劣化を招いてしまう。この点、この光出力モジュール2では、第1増幅器8及び第2増幅器10の各々の特性を考慮して、減少推奨量ΔSが特定される。すなわち、第1増幅器8及び第2増幅器10の各々に関し、個別に減少推奨量ΔSが特定される。その結果、このような事態の発生が抑止されることとなる。
【0067】
上述の内容からわかるように、光出力モジュール2に含まれるバイアス電圧制御部18はI用位相変調器12からの出力光と位相シフト部16からの出力光との間の位相シフト量φを「90×m」度に制御することが可能である。ここで、mは奇数である。さらに、バイアス電圧制御部18は、m=4k+1(kは整数)の状態とm=4k+3の状態とうち予め定められた状態になるように制御してもよい。以降では代表例として光位相シフト量φが90°(m=1)と270°(m=3)との間で選択的に制御される例を用いてバイアス電圧制御部18が行う制御について説明する。
【0068】
図5によれば、位相シフト量φが90°から270°の間では時間平均パワーP1は時間平均パワーP2より大きい。これを定式化すると、90×(4k+1)<φ<90×(4k+3)ではP1>P2であり、90×(4k+3)<φ<90×(4k+5)ではP1<P2となる。ここで、バイアス電圧制御部18は位相シフト部16に対するバイアス電圧のフィードバック制御において、P1とP2とのうちどちらが大きいかによって位相シフト量φを増加させるか減少させるかを選択する。これにより、位相シフト量φがm=4k+1の状態とm=4k+3の状態とのうち予め定められた方に制御することができる。
【0069】
より具体的な例として、予め目標とする位相シフト量φを90×(4k+3)度(例えば270°)にする場合について説明する。バイアス電圧制御部18はP1とP2との差が「0」となるように制御する際に、P1−P2が正の場合に位相シフト量φが高くなるようにバイアス電圧を制御し、負の場合には位相シフト量φが低くなるようにバイアス電圧を制御する。すると図5からわかるように、P1−P2が0となったときには必ずφ=90×(4k+3)となるように制御することが可能となる。また、位相シフト量φを増加させるか減少させるかを反対にすることで、φ=90×(4k+1)に制御することができる。本実施形態においては、位相シフト部16を構成する変調器は直流バイアス電圧で位相シフト量φを制御するので、P1−P2の正負に応じてバイアス電圧を増加または減少させる制御を行う。尚、本実施例では光出力モジュール2と光受信器30とを含む光伝送システムについて説明したが、光出力モジュール2の代わりに、光出力モジュール2の機能と光受信器30の機能とを持たせた光送受信機を用いてもよいし、光受信器30の代わりに光送受信機を用いてもよい。
【0070】
上述の光出力モジュール2を用いると、従来にない光伝送システムを得ることができる。図8は本発明の実施形態にかかる光伝送システムを例示する図である。光伝送システムは、光出力モジュール2と、光受信器30とを含んでいる。図8に示す光出力モジュール2は、図1に示すものと同じ構成である。光出力モジュール2は、製造時に、位相シフト部16における位相シフト量φを90×(4k+1)度(m=4K+1の場合、例えば90度)となるように制御するか、位相シフト部16における位相シフト量φを90×(4k+3)度(m=4k+3の場合、例えば270度)となるように制御するかが設定されている。また光出力モジュール2から出力された光位相信号は光ファイバを介して伝送され、複数の復調器を備えた光受信器30にて受信される。光受信器30は、I用位相復調器32とQ用位相復調器34と、データ処理部36とを有している。I用位相復調器32とQ用位相復調器34とのそれぞれは、光位相信号を電気の強度信号(データを示す信号)に復調する。I用位相復調器32とQ用位相復調器34の後段に設けられたデータ処理部36は、その電気の強度信号に基づいて、送信された信号を復元する。
【0071】
本実施形態における光出力モジュール2は、あらかじめ光位相シフト量φを90°または270°に決めることができる。すると、φ=90°ではI用位相復調器32からI−data、Q用位相復調器34からQ−dataが復調され、φ=270°では、I用位相復調器32からQ−dataが復調され、Q用位相復調器34からI−dataが復調される。従って、データ処理部36は、I用位相復調器32とQ用位相復調器34とのそれぞれから出力される電気の強度信号に対応する2つのビットをある向きに並べたデータを出力するモードと、その2つのビットを交換(データスワップ)した上で並べたデータを出力するモードのうち予め設定されたモードの処理を実行するだけでよい。例えば、φが90°(厳密にはm=4k+1)の場合はデータスワップは不要で、270°(厳密にはm=4k+3)の場合はデータスワップを行うこととすればよい。
【0072】
一方、従来の光出力モジュール100は、例えば位相シフト量φを90°と270°のうちどちらか一方に固定する制御ができなかった。そのため、従来の光受信器では、電気の強度信号からデータを復元する際に、I用位相復調器32とQ用位相復調器34とのどちらがI−Data(またはQ―Data)を出力するか分からない。従って、従来の光受信器では、データスワップをした場合としない場合の両方についてどちらが正しいか否かを選択する処理が必要であった。その組合せが正しいか否かの判定には、例えばビットエラーレートを確認するなどの処理が必要であった。より正確にいえば、データスワップをした場合としない場合、ビットシフトをした場合としない場合、インバートをした場合としない場合の全ての組合せについてどの組合せが正しいかを判定する必要があった。
【0073】
つまり、従来データスワップをした場合としない場合、ビットシフトをした場合としない場合、インバートをした場合としない場合の全ての組合せについてデータ処理を行っていたところ、本実施形態にかかる光受信器30は、データスワップは行うか行わないかを予め決めることができるために、判定が必要な組合せの数が減少する。したがって、光受信器30での復調アルゴリズムを簡略化し、復調時間を短縮することができる。上述の光出力モジュール2を用いることで、より復元時間が短い光受信器30を備えた光伝送システムを構築することができる。この光伝送システムは、例えば初期起動時や光出力モジュールのシャットダウンからの復帰時には、従来より短時間で実際の通信を開始できる。
【0074】
さらに、本発明の実施形態にかかる光出力モジュール2を用いることで以下の効果も得られる。従来の位相シフト量φの制御は光信号の低周波成分を検出することでφ=90°またはφ=270°に制御をしていたため、信号発生部102より出力される信号に低周波成分が含まれていない、または、小さい場合、位相シフト量を制御できないという問題点もあった。たとえばPBRSデータ(Pseudorandom Bit Sequence)を用いた場合、PN段数が小さくなるにつれて、低周波成分が少なくなるため、制御が困難になる。一方、本発明は検出された時間平均パワーに応じて位相シフト量を制御するため、信号周波数帯域に依存しない。よって、信号発生部102より出力される信号がPBRSデータの場合、PN段数によらず一定の検出信号が得られ、PN段数が小さい場合や01の交番信号を用いる場合も制御することが可能である。ここで、01の交番信号とは010101・・・のように0と1が交互にならぶ信号のことである。
【0075】
本発明は他の光多値位相変調送信器の位相シフト制御に適用してもよい。たとえばDQPSK(differential quadrature phase shift keying)、DP−QPSK(dual
polarization quadrature phase shift keying)、QAM(quadrature amplitude modulation)のような通信方式に適用してもよい。
【符号の説明】
【0076】
2 光出力モジュール、4 レーザ、6 信号発生部、8 第1増幅器、10 第2増幅器、12 I用位相変調器、14 Q用位相変調器、16 位相シフト部、18 バイアス電圧制御部、20 フォトダイオード、22 時間平均パワー同期検波部、24 時間平均パワー検出部、26 ゲイン制御部、30 光受信器、32 I用位相復調器、34 Q用位相復調器、36 データ処理部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザと、
前記レーザから出力される光信号を、第1の変調信号が付与された第1のバイアス電圧に基づいて位相変調する第1の位相変調手段と、
前記レーザから出力される光信号を、第2の変調信号が付与された第2のバイアス電圧に基づいて位相変調する第2の位相変調手段と、
前記レーザから出力される光信号の位相を、第3のバイアス電圧に基づいてシフトする移相手段と、
前記第3のバイアス電圧を制御するバイアス制御手段と、を含み、
前記第1の位相変調手段による位相変調が施された光信号と、前記第2の位相手段による位相変調及び前記移相手段による位相シフトが施された光信号と、を合波してなる変調光信号を出力する光出力モジュールにおいて、
前記第1の位相変調手段は、
前記第1の変調信号と第1の低周波信号とが付与された前記第1のバイアス電圧に基づいて、前記レーザから出力される光信号を位相変調し、
前記第2の位相変調手段は、
前記第1の低周波信号と異なる低周波信号である第2の低周波信号と前記第2の変調信号とが付与された前記第2のバイアス電圧に基づいて、前記レーザから出力される光信号を位相変調し、
前記光出力モジュールは、
前記第1の低周波信号の電圧と前記第2の低周波信号の電圧とが共に正又は負であるタイミングにおける前記変調光信号のパワーである第1のパワーと、前記第1の低周波信号と前記第2の低周波信号とのうちの一方の電圧が正であり且つ他方の電圧が負であるタイミングにおける前記変調光信号のパワーである第2のパワーと、を検出する検出手段をさらに含み、
前記バイアス制御手段は、
前記検出手段の検出結果に基づいて、前記第1のパワーと前記第2のパワーとの差が小さくなるように、前記第3のバイアス電圧を制御すること、
を特徴とする光出力モジュール。
【請求項2】
前記第1の位相変調手段によって光が位相変調される場合、位相変調が施された当該光の光電界は、前記第1の位相変調手段が当該光の位相変調に用いた電圧に応じて第1の電圧周期で周期的に変化し、
前記第2の位相変調手段によって光が位相変調される場合、位相変調が施された当該光の光電界は、前記第2の位相変調手段が当該光の位相変調に用いた電圧に応じて第2の電圧周期で周期的に変化し、
前記第1の変調信号の振幅は、前記第1の電圧周期の2分の1未満であり、前記第2変調信号の振幅は、前記第2の電圧周期の2分の1未満であること、
を特徴とする請求項1に記載の光出力モジュール。
【請求項3】
前記光出力モジュールは、
駆動信号の増幅信号を前記第1の変調信号として生成する第1増幅手段と、
駆動信号の増幅信号を前記第2の変調信号として生成する第2増幅手段と、
前記第1増幅手段と前記第2増幅手段とのうちの一方の増幅率をある期間変化させ続けた後、他方の増幅率をある期間変化させ続ける増幅率変化手段と、
前記増幅率変化手段が前記第1増幅手段の増幅率を変化させ続けているときの前記変調光信号のパワーを検出する第1パワー検出手段と、
前記増幅率変化手段が前記第2増幅手段の増幅率を変化させ続けているときの前記変調光信号のパワーを検出する第2パワー検出手段と、
前記増幅率変化手段が前記第1増幅手段の増幅率をある期間変化させ続けた後に、前記第1パワー検出手段による検出結果の推移、に関する特徴量に基づいて、前記第1増幅手段の増幅率を設定する第1増幅率設定手段と、
前記増幅率変化手段が前記第2増幅手段の増幅率をある期間変化させ続けた後に、前記第2パワー検出手段による検出結果の推移、に関する特徴量に基づいて、前記第2増幅手段の増幅率を設定する第2増幅率設定手段と、
をさらに含むことを特徴とする請求項1に記載の光出力モジュール。
【請求項4】
前記第1の位相変調手段は、
前記第1増幅手段の増幅率と前記第2増幅手段の増幅率との両方が設定される前は、前記第1の変調信号と第1の低周波信号とが付与された前記第1のバイアス電圧に基づいて位相変調を行う代わりに、前記第1の変調信号が付与された前記第1のバイアス電圧に基づいて位相変調を行い、
前記第2の位相変調手段は、
前記第1増幅手段の増幅率と前記第2増幅手段の増幅率との両方が設定される前は、前記第2の低周波信号と前記第2の変調信号とが付与された前記第2のバイアス電圧に基づいて位相変調を行う代わりに、前記第2の変調信号が付与された前記第2のバイアス電圧に基づいて位相変調を行うこと、
を特徴とする請求項3に記載の光出力モジュール。
【請求項5】
光信号を出力する光出力モジュールと、光信号を受信する光受信モジュールと、を含む光送受信機であって、
前記光出力モジュールは、
レーザと、
前記レーザから出力される光信号を、第1の変調信号と第1の低周波信号とが付与された第1のバイアス電圧に基づいて位相変調する第1の位相変調手段と、
前記レーザから出力される光信号を、前記第1の低周波信号と異なる低周波信号である第2の低周波信号と第2の変調信号とが付与された第2のバイアス電圧に基づいて位相変調する第2の位相変調手段と、
前記レーザから出力される光信号の位相を、第3のバイアス電圧に基づいてシフトする移相手段と、
前記第1の位相変調手段による位相変調が施された光信号と、前記第2の位相手段による位相変調及び前記移相手段による位相シフトが施された光信号と、を合波してなる変調光信号の、前記第1の低周波信号の電圧と前記第2の低周波信号の電圧とが共に正又は負であるタイミングにおけるパワーである第1のパワーと、前記第1の低周波信号と前記第2の低周波信号とのうちの一方の電圧が正であり且つ他方の電圧が負であるタイミングにおける前記変調光信号のパワーである第2のパワーと、を検出する検出手段と、
前記検出手段の検出結果に基づいて、前記第1のパワーと前記第2のパワーとの差が小さくなるように、前記第3のバイアス電圧を制御するバイアス制御手段と、を含み、前記変調光信号を出力すること、
を特徴とする光送受信機。
【請求項6】
請求項5に記載の光送受信機であって、
前記バイアス制御手段は、前記第1のパワーと前記第2のパワーとのうちどちらが大きいかに基づいて、前記位相手段により位相シフトが施された光信号と、前記第1の変調手段により位相変調が施された光信号との位相差を、kが整数であるとして、90×(4k+1)度の状態および90×(4k+3)度の状態のうち予め定められた状態となるように制御する、
ことを特徴とする光送受信機。
【請求項7】
請求項6に記載の光送受信機と、前記光送受信機より出力される前記変調光信号を伝送する光ファイバと、前記光ファイバより伝送された前記変調光信号を受信する光受信器と、を備えた光通信システムであって、
前記光受信器は、90×(4k+1)度の状態および90×(4k+3)度の状態のうち前記予め定められた状態に応じた復調処理を行う、
ことを特徴とする光通信システム。
【請求項8】
請求項7に記載の光通信システムであって、
前記光受信器は、
第1の位相復調器と、
前記第1の位相復調器と異なる位相の信号を復調する第2の位相復調器と、
前記第1の位相復調器が出力する第1のデータと前記第2の位相復調器が出力する第2のデータに基づいて出力データを出力するデータ処理部と、を含み、
前記データ処理部は、前記第1のデータと前記第2のデータとに基づく出力データを出力する第1のモードと、前記第1のデータと前記第2のデータを交換したデータに基づく出力データを出力する第2のモードとのうち前記予め定められた状態に応じたモードの処理を行う、
ことを特徴とする光通信システム。

【図1】
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【図2】
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【図3A】
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【図3B】
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【図3C】
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【図3D】
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【図4A】
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【図4B】
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【図4C】
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【図4D】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−9305(P2013−9305A)
【公開日】平成25年1月10日(2013.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−92702(P2012−92702)
【出願日】平成24年4月16日(2012.4.16)
【出願人】(301005371)日本オクラロ株式会社 (311)
【Fターム(参考)】