説明

光分波/合波装置

【課題】電気信号に変換することなく、制御光で信号光波の分波や合波をできるようにすること。
【解決手段】
第1光伝送路14と他の光伝送路16とを所定区間Aにおいて接近させて同方向に光結合させる。また、第3光伝送路0を第1光伝送路14と光結合させる。第3光伝送路を伝搬する制御光により第1光伝送路を伝搬する信号光波をラマン増幅させて伝搬定数を変化させる。これにより、第1光伝送路14から第2光伝送路16へ分波する信号光波の分波率を制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光分波/合波装置に関する。特に、制御光により光分波又は光合波をオンオフ的に制御する光スイッチ、または、分波や合波の比率を制御できる装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、光伝送路を伝搬する異なる波長を有した複数の光波のうち、選択的に特定の波長の光波を同方向に分波又は合波することの制御を光で行える高性能な光分波/合波装置の実現が要請されている。すなわち、光を電気に変換することなく、光信号を制御信号として、分波/合波を行う装置の実現が要請されている。例えば、CATVネットワークにおいては、1.55μmの波長の光波を放送用の下り搬送波とし、波長1.49μmの光波をデータ通信用の下り搬送波とし、1.31μmの波長の光波をデータ通信用の上り搬送波として、それらの光波を1本の光ファイバーで伝送させる波長多重伝送方式が提案されている。また、PONシステムにおいては、集線局と加入者宅内を結ぶ光伝送路にパッシブダブルスター等の方式を適用し、1芯双方向通信が提案されている。
【0003】
この伝送方式を実現するためには、1.55μmの波長の光波のみを選択的に同方向に効率良く光分波することが必要である。この光分波を行う装置として、図7に示すように、2本の光伝送路を部分的に接近させて、同方向に光結合させる装置が知られている。同装置は、第1光伝送路210を伝搬する光のうち特定波長λ1 の光波だけを、光結合区間Aから第2光伝送路220に分波させる装置である。
【0004】
また、この光分波装置の欠点を改良するために、下記特許文献1の技術が知られている。その特許文献1による光分波装置は、図8に示すように構成されている。第1光伝送路100と第2光伝送路110とを区間Aにおいて接近させて、特定波長の光波に対する光結合を実現している。特許文献1の特徴は、光結合区間Aを2分して、その2つの区間において、区間の中点を中心として、その区間の伝搬定数差を、点対称に設定したことが特徴である。すなわち、第1光伝送路100の上流側の部分120の特定波長の光波の伝搬定数を、第2光伝送路110の対応する部分122の伝搬定数よりも2Δ(λ)だけ大きくしている。逆に、第2光伝送路110の下流側の部分122の特定波長の光波の伝搬定数を、第1光伝送路100の対応する部分130の伝搬定数よりも2Δ(λ)だけ大きくしている。
【0005】
また、これらの分波を外部信号によりオンオフ的に制御することができれば、多くの用途がある。すなわち、制御光で、光波を通過または遮断させたり、光波を分波または合波したり、あるいは、光波の通過または遮断量比率や、分波または合波比率を変化させる装置は、例を挙げるまでなく、多くの用途が存在する。
【特許文献1】特許第3027965号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来は、電気信号を用いることなく、制御光だけを用いて、信号である光波を通過または遮断、分波または合波する装置は存在していない。
【0007】
よって、本発明の目的は、制御光だけで、オンオフ的に、光波を通過または遮断させ、または、光波を他の光伝送路に分波または他の光伝送路から合波する分波/合波装置を実現することである。
また、本発明の他の目的は、制御光だけで、光波を通過または遮断させる比率、または、光波を他の光伝送路に分波または他の光伝送路から合波する比率を制御できる分波/合波装置を実現することである。
また、本発明の他の目的は、性能の良い光分波/合波装置の製造を容易にすることである。
また、本発明の他の目的は、光集積回路に適した光分波/合波装置を提供することである。
これらの目的は、それぞれの発明が解決するための目的であって、ある発明が全ての目的を達成すべきものとして解釈されるべきではない。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1の発明は、第1光伝送路と他の第2光伝送路とを所定区間において接近させて同方向に光結合させ、第1光伝送路を伝搬する所定の第1波長の光波を、第2光伝送路に波長選択的に分波又は合波させることを制御光により制御する光分波/合波装置であって、第1光伝送路に対して光結合し、制御光を伝送する第3光伝送路を設け、第3光伝送路において伝送させる制御光により第1光伝送路における光波をラマン増幅し、この制御光の存在により、第1光伝送路における光波の伝搬定数を変位させて、第1光伝送路と第2光伝送路間における光波の分波率を制御するようにした光分波/合波装置である。
【0009】
第1光伝送路上を信号である光波(以下、信号光であることを明確にする場合には、「信号光波」とも記述している)が伝搬している。この光波が第1光伝送路と所定区間において光結合した第2光伝送路上に分波し、または、第2光伝送路上を伝搬する他の光波に対して合波する。この状況において、第3光伝送路と少なくとも第1光伝送路とが光結合をしている。このとき、第3光伝送路は第2光伝送路とも光結合をしていても良い。この第3光伝送路上に、制御光が伝送される。制御光は第1光伝送路上を伝搬する光波の進行方向と同一であっても、逆方向に進行する光であっても良い。
【0010】
この第3光伝送路において伝送させる制御光により第1光伝送路における光波をラマン増幅する。この時、第1光伝送路上を伝搬する光波が感じる光伝送路の誘電率はラマン増幅により変化する。誘電率が変化する結果、第1光伝送路を伝搬する光波の伝搬定数が制御光により変調を受けることになる。この結果、光波の第2光伝送路における伝搬定数と、光波の第1光伝送路における伝搬定数の差が、制御光により変化することになる。第1光伝送路と第2光伝送路とが光結合している所定区間の長さが一定で変化しないとすると、第1光伝送路から第2光伝送路への光波の分波率は、伝搬定数の差に依存する。したがって、制御光により伝搬定数差が変化させられると、第1光伝送路から第2光伝送路への光波の分波率も変化することになり、制御光の有無により分波率を制御することが可能となる。
【0011】
上記では、第3光伝送路は第1光伝送路と光結合をして、第2光伝送路とは光結合をしていない場合について説明した。しかしながら、第3光伝送路が第2光伝送路とも光結合していても良い。この場合には、第2光伝送路における制御光の存在により光波の第2光伝送路における伝搬定数も変化するが、その伝搬定数の変化量は、第1光伝送路における光波の伝搬定数の変化量と異なる値になるように結合関係を設定する必要がある。
第3光伝送路と第1光伝送路との結合区間は、第1光伝送路と第2光伝送路とが光結合をしている所定区間と一致する必要はなく、この所定区間とは別の位置において、第3光伝送路を第1光伝送路にのみ光結合させるようにしても良い。すなわち、所定区間とは別の位置において、第3光伝送路と第1光伝送路とを接近させるが、第2光伝送路は遠ざけた状態にして、第3光伝送路と第1光伝送路のみを結合させた状態にしても良い。
【0012】
ラマン増幅は、非線形の3次の効果として励起光により増幅される現象である。すなわち、ラマン増幅作用をする媒体の分極率は、励起光電界の2乗と信号光波の電界と3次の非線形光学効果の積によって決定される項を有する。これを、信号光波に関して言えば、信号光波から見た媒体の誘電率は複素数となり、励起光の電界の2乗と3次の非線形光学効果との積によって決定される項を有することになる。従って、信号光のモード関数、伝搬定数の変化を導く。このように、第1光伝送路と光結合する第3光伝送路に制御光を伝搬させて、第1光伝送路へ制御光を分波して、第1光伝送路において、信号光波のラマン増幅をさせることにより、第1光伝送路における信号光波に対する誘電率を変化させることができる。誘電率を変化させることは、第1光伝送路における信号光波の伝搬定数を変化させることに他ならない。
【0013】
第1光伝送路を伝搬する信号光波の第2光伝送路への分波率は、信号光波の第1光伝送路における伝搬定数と、第2光伝送路における伝搬定数との差及び結合長の位相によって決定される。このため、第1光伝送路と第2光伝送路との光結合をしている所定区間の長さ(位相)を適正に設定することにより、制御光が存在しない場合に、第1光伝送路を伝搬する信号光波の第2光伝送路への分波率を0に、制御光が存在する場合に、第1光伝送路を伝搬する信号光波の第2光伝送路への分波率を1に設計することが可能である。また、逆に制御光が存在しない場合に、第1光伝送路を伝搬する信号光波の第2光伝送路への分波率を1に、制御光が存在する場合に、第1光伝送路を伝搬する信号光波の第2光伝送路への分波率を0に設計することが可能である。
【0014】
本発明は、ラマン増幅により信号光波の伝搬定数が変化することに注目して、制御光により、信号光波の伝搬と遮断や、分波や合波をオンオフ的に制御したり、分波率や合波率をアナログ的に制御するものである。ここに、分波、合波の数は1又は2以上、任意である。すなわち、他の第2光伝送路は1個でも、2個以上でも良い。
【0015】
請求項2の発明は、所定区間では、少なくとも同方向の結合に係る光伝送路部分の誘電率を、第1波長の光波の伝搬方向に対して周期的に変化させたことを特徴とする請求項1に記載の光分波/合波装置である。
誘電率を周期的に変化させるには、誘電率が周期的に変化するように新たな材料を所定区間に堆積させても良い。また、光伝送路にスリットを周期的に形成することで、誘電率を周期的に変化させても良い。さらに、光伝送路を形成する工程において不純物を周期的に添加して誘電率を周期的に変化させても良い。周期的に誘電率を変化させる領域は、光結合を生じる部分であれば任意である。例えば、第1光伝送路のコアだけに形成すること、第2光伝送路のコアだけに形成すること、第1光伝送路のクラッドだけに形成すること、第2光伝送路のクラッドだけに形成すること、第1光伝送路と第2光伝送路との間に形成すること、所定区間の全領域に渡って形成することなど、任意である。要は、伝搬する光波と分波された光波とが誘電率により変調を受けるような光結合領域であれば、形成領域や形成方法は任意である。誘電率の変化は材質の変化、不純物の添加によるもの、形状の変化によるものなど任意である。
また、誘電率の変化は媒質の誘電率自体の変化であっても、等価屈折率によって決定される等価誘電率の変化であっても良い。
第1伝送路の伝搬定数がβ1 、第2伝送路の伝搬定数がβ2 、格子周期がΛ、K=2π/Λの時に、上記伝搬定数の差がβ1 −β2 =±Kとなる。
同方向に光結合させるためには、理想的には、誘電率を変化させた後において第1光伝送路と光分波される第2光伝送路とにおける第1波長の光波の伝搬定数の差が零となるように誘電率の変化の周期を設定することである。したがって、同方向に光結合させる場合には、誘電率の変化の周期は、分波すべき波長に比べて充分に長くなる。周期が波長程度になると逆方向結合となる。
【0016】
本請求項2の発明の特徴は、第1光伝送路と第2光伝送路とにおける光結合を生じさせる所定区間において、少なくとも同方向の結合に係る光伝送路部分の誘電率を、第1波長の光波の伝搬方向に対して周期的に変化させたことである。すなわち、この所定区間に同方向に第1波長の分波比を向上させるために、伝搬定数差δの調整の容易な光格子を設けたことを特徴とする。
なお、第3光伝送路と第1光伝送路との光結合においても、請求項1または請求項2に記載の第1光伝送路と第2光伝送路との光結合の方法を用いることができる。しかし、制御光は第1光伝送路に供給できれば良いので、光結合の方法にはこれらに限定されるものではない。
【0017】
また、請求項3の発明は、誘電率の変化の周期は、誘電率を変化させた後において第1光伝送路と光分波される第2光伝送路とにおける第1波長の光波の伝搬定数の差が零となるように設定されることを特徴とする請求項2に記載の光分波/合波装置である。
また、請求項4の発明は、第1波長は、1.55μmと、制御光の波長は、1.45μmのレーザとすることを特徴とする請求項1乃至3の何れか1項に記載の光分波/合波装置である。この波長関係の場合に光ファイバーにおいてラマン増幅が可能となる。
【発明の効果】
【0018】
制御光により信号光波をラマン増幅させて、その信号光波の伝搬定数を変化させることにより、第1光伝送路から第2光伝送路への分波率を制御することができる。所定区間長の長さ(位相)と、制御光により変化する伝搬定数の変化量とに応じて分波率は制御できる。したがって、制御光の有無によりオンオフ的に分波や合波することが可能となる。また、制御光の有無により、1以下の分波率と、分波率0との間で、オンオフ的に分波や合波を制御することができる。また、制御光の強度により信号光波の伝搬定数を変化させることができるので、制御光の強度により分波率や合波率を連続的に制御したり、連続的に可変な1以下の分波率と分波率0との間でオンオフ的に制御することができる。このようにして、光信号だけで、光の分波/合波を行える光スイッチなどを実現することができる。
【0019】
また、請求項2の発明では、光結合を生じる所定区間において、少なくとも同方向の結合に係る光伝送路部分の誘電率を、第1波長の光波の伝搬方向に対して周期的に変化させている。この誘電率の変化の周期を調整することで、所定区間における第1光伝送路と光分波された光波が伝搬する第2光伝送路における伝搬定数の差を制御することが可能となる。よって、この周期の調整により第1波長の光波に対して最大分波比を得ることができるので、光分波/合波装置の性能を向上させることができる。また、従来は、最大性能を得るには、第1波長の光波において伝搬定数差δが零となり、透過波長帯に対しては伝搬定数差δが大きくなるか、結合係数χが大きくなるように、各光伝送路の材質や寸法などを選択する必要があった。しかし、本発明によると、製造時に、分波すべき第1波長に関してこの誘電率を周期的に変化させることは容易であるので、性能の高い光分波/合波装置を容易に得ることができる。例えば、誘電率を周期的に変化させる前の光伝送路において、透過波長帯の透過特性を考慮して、分波すべき第1波長に関する伝搬定数差δが零に設定できない場合においても、誘電率の変化に伴う逆格子ベクトルにより、誘電率を周期的に変化させた後の光伝送路の等価伝搬定数差を零にすることができる。これにより、最大分波比が得られる。また、他の透過波長帯においては、等価伝搬定数差が零でなくなることから、透過帯域を得ることができる。
また、誘電率の周期は、制御光が存在して信号光波のラマン増幅がある状態の時に、伝搬定数差δが零となるように設定しても、制御光が存在せずに信号光波のラマン増幅がない状態の時に、伝搬定数差δが零となるように設定しても良い。
【0020】
また、請求項2の発明によれば、第1光伝送路や他の光伝送路が形成された後に、特性を測定して、その後に誘電率を周期的に変化させる処理を行えば、より特性の良好な装置が得られる。
また、請求項3の発明では、制御光が存在する時に、誘電率の変化の周期を、誘電率を変化させた後において第1光伝送路と光分波される第2光伝送路とにおける第1波長の光波の伝搬定数の差が零となるように設定することで、制御光が存在する時に分波率を1にすることができ、制御光が存在しない時に、そのように周期を設定すれば、制御光が存在しない時に分波率を1に設定することができる。
また、請求項4の波長条件の場合には、光ファイバーにおいてラマン増幅をすることが可能となり、本発明を容易に実施することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
本発明を実施するための最良の形態について説明する。以下の実施の形態は、本発明を具体的に説明するものであって、その具体性を理由として本発明の権利の及ぶ範囲が制限されるものではない。また、それぞれの構成要素は、任意に独立して把握できるものであって、請求項の構成要件から任意の構成要件を削除した発明、任意の構成要件を付加した発明も本明細書において認識されているものである。
【0022】
図1は、本発明の具体的な一実施例に係る光分波装置10の構成を示した平面図である。基板12の上に第1光伝送路14とその伝送路14に光結合している第2光伝送路16と第1光伝送路14に光結合している第3伝送路20とが形成されている。この2つの第1光伝送路と第2光伝送路は所定区間Aにおいて接近するように形成されている。この所定区間(以下、「光結合区間」という)Aが同方向の光結合領域となる。第1光伝送路14を伝搬する第1波長λ1 の光波はこの光結合区間Aにおいて第2光伝送路16に分波される。また、第1光伝送路14を伝搬する他の波長λ2 の光波は第2光伝送路16に分波されることなく、第1光伝送路14を下流側に伝搬する。同様に、第1光伝送路14を伝搬する他の波長λ3 の光波は第2光伝送路16に分波されることなく、第1光伝送路14を上流側に伝搬する。第1光伝送路14の上流側と下流側、第2光伝送路16の下流側には光ファイバーが接続されており、光伝送路を形成している。第3光伝送路20は第1光伝送路14と光結合しており、波長λ0 の制御光が第3光伝送路20を伝搬している。本実施例は、制御光が第3光伝送路20に存在する時に、第1波長λ1 の光波の信号光波が分波率1で、第2光伝送路16に分波し、制御光が第3光伝送路20に存在しない時には、第1波長λ1 の光波の信号光波は第2光伝送路16には全く分波しない光スイッチの例である。
【0023】
これらの波長は、例えば、CATVネットワークにおいては、λ1 を1.55μmとして、第1波長の光波を放送用の下り搬送波とし、λ2 を1.49μmとして、この光波をデータ通信用の下り搬送波とし、λ3 を1.31μmとして、この光波をデータ通信用の上り搬送波とすることができる。
【0024】
本実施例では、この光結合区間Aにおいて、光波の進行方向に沿って誘電率を周期的に変化させている。図2は、誘電率を周期的に変化させる模式図が示されている。第1光伝送路14、第2光伝送路16、その間のクラッド18において、光波の進行方向に沿って誘電率を周期Λで周期的に変化させている。この部分は回折格子に当たる。
【0025】
誘電率の変化特性は、図3に示すように様々なものが考えられる。図3(a)に示すように、不純物を添加して、誘電率の所定の変化特性を得るものである。図3(b)、(c)は、光伝送路やクラッドの表面をエッチングすることで、屈折率を周期的に変化させたものである。
第3光伝送路20と第1光伝送路14との間には、誘電率の周期的変化をさせずに、平行伝送路による光結合をさせて、制御光の波長λ0 において、第1光伝送路14への最大の分波率が得られるように構成されている。また、第3光伝送路20と第2光伝送路16とは光結合が小さく構成されており、制御光は第2光伝送路16へは分波されないように構成されている。本実施例では、光結合区間Aにおいて、第3光伝送路20と第1光伝送路14とを光結合させているが、この区間とは別の位置にて、第1光伝送路14に接近させて第3光伝送路20を設けることで、第1光伝送路14にのみ第3光伝送路20を結合させるようにしても良い。
【0026】
次に、本装置の原理について説明する。
まず、第3光伝送路20上に制御光λ0 が伝搬しており、制御光λ0 は、第1光伝送路14に分波して、光結合区間Aにおいて、第1波長の信号光波のラマン増幅が行われているものとする。
同方向の光結合に関しては、電磁界解析により、第1光伝送路14におけるz方向に進行する光波の電磁界振幅A(z)は、(1)式で与えられ、第2光伝送路16に光結合により分波される光波のz方向に進行する光波の電磁界振幅B(z)は、(2)式で与えられる。
【0027】
ただし、第2光伝送路の伝搬定数をβ2 、第1光伝送路の伝搬定数をβ1 、δ=(β2 −β1 )/2、光伝送路間の結合係数をχとする。
信号光波に対してラマン増幅があるので、第1光伝送路の伝搬定数β1 は、ラマン増幅がない場合の伝搬定数β10に対して、Δβだけ増加している。すなわち、β1 =β10+Δβである。ここで、rを位置ベクトルとして、非線形誘電率εN (r)は、制御光の電界強度E(r)、線形時の誘電率εL (r)、非線形ラマン効果係数ζを用いてεN (r)=εL (r)+ζ|E(r)|2 である。
【数1】

【数2】

【0028】
ただし、A0 は、光結合領域の入射端での電磁界強度である。
第1光伝送路14における光波の進行方向zに関する規格化電力密度分布Pa (z)は、(3)式で与えられ、第2光伝送路16に分波した光波の進行方向zに関する規格化電力密度分布Pb (z)は、(4)式で与えられる。
【数3】

【数4】

ただし、
【数5】

【数6】

【0029】
である。
また、最短結合長Lc は、(7)式で与えられ、伝搬定数差δ=0の時に、分波比は1(最大)となりその時の最短結合長Lc は、(8)式で与えられる。

【数7】

【数8】

【0030】
まず、第1波長λ1 で分波特性を持たせるためには、その波長においてδ(λ1 )=0とすれば、結合長Lc =π/(2χ)+nπ (n=0,1,2,…)の時に、Pb (Lc )は最大値1となり、Pa (Lc )は零となる。すなわち、この条件を満たす時、第1波長λ1 の光波は結合領域Aにより、第2光伝送路16に全て分波されることになる。
この時の分波率、透過率の特性を示すと、図4のようになる。
【0031】
また、δ=2χに設定すると、分波率、透過率は、図5に示すようになる。最小結合長Lc =π/(2q)において(qz=π/2)、分波率は0.2、透過率は0.8となることが理解される。
すなわち、第1波長に対して分波比率を1として、他の波長に対しては分波比率を0とするには、第1波長λ1 に対しては、δ(λ1 )=0を満たし、他の透過波長λ2 、λ3 においては、δ(λ2 )/χ(λ2 )=∞、δ(λ3 )/χ(λ3 )=∞となり、F=0となることが理想である。
【0032】
次に、結合領域Aにおいて、光波の進行方向に沿って誘電率を周期的に変化させた場合について説明する。
この場合には、モード結合方程式は、(9)、(10)式のようになる。

【数9】

【数10】

また、等価的な結合要素χ´は、結合係数χG を用いて、周期的な誘電率の変化により(11)式のようになる。

【数11】

δがφに対応し、χはχG として同じである。
また、位相の整合条件を示す変数ψを(12)式で定義する。以下、この変数2ψを位相変数という。
【数12】

【0033】
このように、誘電率の周期的変化は、波動方程式において摂動となるために、誘電率が周期的に変化しない場合における上記の(1)〜(8)式における伝搬定数差2δを、位相変数2ψで置換した議論がそのまま成立する。よって、(1)〜(8)の2δを2ψに置き換えた式が全て成立する。
【0034】
したがって、まず、第1波長λ1 で最大分波比1を得るための条件は、ψ(λ1 )=0であり、他の透過波長λ2 、λ3 においては、ψ(λ2 )/χG (λ2 )=∞、ψ(λ3 )/χG (λ3 )=∞となることが理想である。また、この時の結合長Lc は、
c =π/(2χG )+nπ (n=0,1,2,…)
で与えられる。
【0035】
よって、周期的な誘電率の変化を2π/Λ=β2 −β1 =β2 −β10−Δβとして、光結合区間長をLc =π/(2χG )+nπとすれば、第1光伝送路14から第2光伝送路16への分波率を1にすることができる。すなわち、制御光を第3光伝送路20に伝搬させた時に、波長λ1 の第1光伝送路14の信号光波を全て第2光伝送路16に分波できる。
【0036】
次に、制御光が第3光伝送路20上に存在しない場合には、第1光伝送路14において、ラマン増幅は起こらない。したがって、信号光波の位相変数2ψは、Δβ=0であるので、
2ψ=β10−β2 +2π/Λ
となる。また、
β10+Δβ−β2 +2π/Λ=0
であるので、
2ψ=−Δβとなる。
【0037】
この時に、分波率が0となる条件は、(4)式より、qz=mπ(m=0,1,2…)である。すなわち、所定区間長はLc =mπ/qとなる。したがって、分波率が1となるように求めた上記の所定区間長Lc と、分波率が0となる所定区間長Lc とが一致する必要がある。よって、
π/(2χG )+nπ=mπ/q=mπ/(χG 2 +ψ2 1/2
=mπ/(χG 2 +(Δβ/2)2 1/2
であるので、
π/(2χG )+nπ=mπ/(χG 2 +(Δβ/2)2 1/2
を満たすように、n、m、Δβを決定すれば、制御光があれば、分波率1で、制御光が存在しなければ、分波率0とすることができる。なお、Δβは、制御光の強度により変化させることができる。このように、制御光の有無に応じた光スイッチを構成することができる。
【0038】
上記と逆に、制御光が存在する時に分波率0、制御光が存在しない時に分波率1とすることも可能である。すなわち、分波率1を実現するには、ψ=0が必要であるので、
2π/Λ=β2 −β10
に誘電率の周期を設定する。この時の所定区間長は
c =π/(2χG )+nπ
である。また、分波率0の条件は、qz=mπであるので、所定区間長は
c =mπ/q=mπ/(χG 2 +(Δβ/2)2 1/2
となり、結局、所定区間長Lc と、n、m、Δβの値は、上記の場合と同一となる。
【0039】
次に、制御光が存在する場合に分波率0.2、制御光が存在しない場合に分波率0とする分波/合波装置について説明する。
ψ=2χG に設定すると、分波率が0.2となることは前述した。よって、
2π/Λ=4χG +(β2 −β1 )=4χG +β2 −β10−Δβ
に、誘電率の周期を設定する。結合長は、
c =π/(2・51/2 ・χG )+nπ
であり、制御光が存在しない時に、分波率0を実現するには、
c =mπ/(5χG 2 +(Δβ/2)2 1/2
となる。よって、
π/(2・51/2 ・χG )+nπ=mπ/(5χG 2 +(Δβ/2)2 1/2
を満たすように、n、m、Δβを決定すれば良い。
【0040】
逆に、制御光が存在しない時に分波率0.2、制御光が存在する時に分波率0とする場合には、
2π/Λ=4χG +(β2 −β1 )=4χG +β2 −β10
に制定し、
π/(2・51/2 ・χG )+nπ=mπ/(5χG 2 +(Δβ/2)2 1/2
を満たすように、n、m、Δβを設定し、結合長を
c =π/(2・51/2 ・χG )+nπ
にすれば良い。
【0041】
また、ψ=kχG 設定すると、分波率は1/(1+k2 )となる。よって、誘電率の周期を、たとえば、2π/Λ=β2 −β10に設定しておくと、Δβ=2kχG であるので、Δβを変化させれば、kを変化でき、したがって、分波率を変化させることができる。すなわち、制御光の強度に応じて、分波率の大きさを制御することが可能である。なお、2π/Λ=β2 −β10に設定しなくとも、Δβによりψが変化することは明らかであるので、誘電率を周期をどのように設定しようとも、制御光の強度により分波率を制御することが可能となる。なお、結合長は、分波率の可変範囲を決定する。すなわち、2π/ΛとΔβとにより、分波率を制御することが可能である。
【0042】
上記の実施例では、第1光伝送路14と第2光伝送路16とにおいて誘電率を周期的に変化させた例を示した。しかし、この誘電率の周期的変化がなくとも、本発明を実施することは可能である。すなわち、2π/Λ=0であっても、上記の実施例は成立する。ただし、2π/Λ≠0とすると、光分波/光合波装置の製造が容易となる。
【0043】
このように、本実施例では、誘電率の周期Λを制御することにより、分波率、透過率を制御できることになる。すなわち、制御困難な伝搬定数差2δ(λ)に代えて、制御容易なΛ(λ)の特性を用いることができる。よって、特定波長で分波比が最大で、透過帯波長帯の光波に対しては損失の小さいな光分波装置となる。また、合波も同様であることから、本装置は、性能の良好な光分波/合波装置となる。
上記実施例において制御光の第1光伝送路への分波も伝送路間の光結合で行ったが、45度に傾斜させた多層ハーフミラーにより制御光を第1光伝送路に導入しても良い。
【0044】
また、図6に示す波長関係において、波長λ1 だけを分波する場合には、分波光の半値幅Δλと、波長λ1 と回折格子の周期Λと、結合長Lc との間には、Δλ/λ1 =Λ/Lc の関係がある。半値幅の定義により、(4)式から与えられる結合率において、半値幅Δλだけずれた波長λ1 +Δλの波長においては、結合率は波長λ1 時の結合率の1/2になる。このことから、この関係式は得られる。例えば、λ1 =1.55μm、Λ=10.0μm、Lc =5mmで設計した場合には、Δλ1 =3.1nmとなる。
これは、第1光伝送路における次の2つの波長差と次の関係がある。
|λ2 −λ1 |=|1.49−1.55|≫Δλ1
|λ3 −λ1 |=|1.31−1.55|≫Δλ1
このことから、第1光伝送路では上記の3つの波長の多重化が可能となり、第2光伝送路にのみ第1波長を分波させることが可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明は、特定波長のみを分波したり、合波したりする装置に用いることができる。具体的には、1.55μmの波長の光波を放送用の下り搬送波とし、波長1.49μmの光波をデータ通信用の下り搬送波とし、波長1.31μmの波長の光波をデータ通信用の上り搬送波として、それらの光波を1本の光ファイバーで伝送させる波長多重伝送方式に用いることができる。そして、所定の分波率や合波率での分波と合波とを制御光によりオンオフ的に制御することができる。また、その分波率や合波率は、誘電体の周期Λと、制御光の強度によって制御可能なΔβにより制御することができる。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】本発明の具体的な実施例に係る光分波装置の構成を示した平面図。
【図2】同実施例装置の概念を示した説明図。
【図3】誘電率の変化の方法を示した説明図。
【図4】分波特性を示した説明図。
【図5】分波特性を示した説明図。
【図6】本実施例装置で用いられる波長と半値幅との関係を示した説明図。
【図7】従来の光結合による分波装置の構成図。
【図8】従来の光結合による分波装置の構成図。
【符号の説明】
【0047】
10…分波装置
12…基板
14…第1光伝送路
16…第2光伝送路
20…第3光伝送路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1光伝送路と他の第2光伝送路とを所定区間において接近させて同方向に光結合させ、第1光伝送路を伝搬する所定の第1波長の光波を、前記第2光伝送路に波長選択的に分波又は合波させることを制御光により制御する光分波/合波装置であって、
前記第1光伝送路に対して光結合し、前記制御光を伝送する第3光伝送路を設け、
前記第3光伝送路において伝送させる前記制御光により前記第1光伝送路における前記光波をラマン増幅し、この制御光の存在により、前記第1伝送路における前記光波の伝搬定数を変位させて、前記第1光伝送路と前記第2光伝送路間における前記光波の分波率を制御するようにした光分波/合波装置。
【請求項2】
前記所定区間では、少なくとも同方向の結合に係る前記第1光伝送路と前記第2光伝送路の誘電率を、前記第1波長の光波の伝搬方向に対して周期的に変化させたことを特徴とする請求項1に記載の光分波/合波装置。
【請求項3】
前記誘電率の変化の周期は、誘電率を変化させた後において前記第1光伝送路と光分波される前記第2光伝送路とにおける前記第1波長の光波の伝搬定数の差が零となるように設定されることを特徴とする請求項2に記載の光分波/合波装置。
【請求項4】
前記第1波長は、1.55μmと、前記制御光の波長は、1.45μmのレーザとすることを特徴とする請求項1乃至3の何れか1項に記載の光分波/合波装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−91761(P2006−91761A)
【公開日】平成18年4月6日(2006.4.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−280344(P2004−280344)
【出願日】平成16年9月27日(2004.9.27)
【出願人】(000116677)シンクレイヤ株式会社 (38)
【Fターム(参考)】