説明

光制御型フェーズドアレーアンテナ装置

単一波長光を発生するレーザ発生手段と、前記レーザ発生手段からの出射光を第1及び第2の伝送光に分岐する光路分岐手段と、高周波信号を発生する高周波信号発生手段と、前記光路分岐手段により分岐された第1の伝送光の周波数を前記発生された高周波信号の周波数だけシフトする光周波数変調手段と、前記高周波信号の周波数だけシフトされた第1の伝送光に対してアンテナビームパターンに応じた空間的な位相変調を行う空間光位相変調手段と、前記位相変調された第1の伝送光と前記光路分岐手段により分岐された第2の伝送光を合波する光路分岐・合波手段とを設けた。そして、前記光路分岐手段と前記光路分岐・合波手段の間の2つの経路の光路長を等しくした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
この発明は、位相雑音や相対強度雑音を抑圧した光制御型フェーズドアレーアンテナ(PAA:Phased Array Antenna)装置に関するものである。
【背景技術】
従来の光制御型フェーズドアレーアンテナ装置は、入力されるフェーズドアレーアンテナのビーム方向に対応した1個の電気信号を出力する信号発生手段と、第2の分配手段から出力される複数の第1の光信号を、上記電気信号に対応し互いに異なる各位相量だけそれぞれ移相させる複数の移相手段を備え、回路を簡単化し小型・軽量化することができ、これによって当該回路を含むフェーズドアレーアンテナ全体を小型・軽量化することができる(例えば、特開平3−57305号公報(第9頁、第1図)参照)。
しかしながら、上述した従来の光制御型フェーズドアレーアンテナ装置では、光源自体の位相雑音及び相対強度雑音を抑圧するような対策を施していないという問題点があった。
この発明は、前述した問題点を解決するためになされたもので、光源自体の位相ゆらぎにより発生する位相雑音、伝送手段として空間伝送路を用いた場合、空間の温度変動等の擾乱(じょうらん)により大気の屈折率が変化し、光路長が変化するために生じる位相雑音、ビーム走査方向変更により生じる位相雑音や、光源の相対強度雑音を抑圧することができる光制御型フェーズドアレーアンテナ装置を得ることを目的とする。
【発明の開示】
この発明に係る光制御型フェーズドアレーアンテナ装置は、単一波長光を発生するレーザ発生手段と、前記レーザ発生手段からの出射光を第1及び第2の伝送光に分岐する光路分岐手段と、高周波信号を発生する高周波信号発生手段と、前記光路分岐手段により分岐された第1の伝送光の周波数を前記発生された高周波信号の周波数だけシフトする光周波数変調手段と、前記高周波信号の周波数だけシフトされた第1の伝送光に対してアンテナビームパターンに応じた空間的な位相変調を行う空間光位相変調手段と、前記位相変調された第1の伝送光と前記光路分岐手段により分岐された第2の伝送光を合波する光路分岐・合波手段とを設けた。
さらに、前記光路分岐・合波手段により合波された伝送光を複数に分割する開口分割集光手段と、前記複数の伝送光の光強度を、それぞれ電気信号に変換する複数の光電変換手段と、前記複数の光電変換手段からの電気信号を、それぞれビームとして放射する複数の素子アンテナとを設けた。
そして、前記光路分岐手段と前記光路分岐・合波手段の間の2つの経路の光路長を等しくしたものである。
【図面の簡単な説明】
図1はこの発明の実施例1に係る光制御型フェーズドアレーアンテナ装置の構成を示すブロック図、
図2はこの発明の実施例1に係る光制御型フェーズドアレーアンテナ装置の実験系の構成を示すブロック図、
図3はこの発明の実施例1に係る光制御型フェーズドアレーアンテナ装置の実験系の光路長調整前と調整後の出力スペクトルを示す図、
図4はこの発明の実施例2に係る光制御型フェーズドアレーアンテナ装置の構成を示すブロック図、
図5はこの発明の実施例2に係る光制御型フェーズドアレーアンテナ装置の位相誤差検出手段における位相差と出力電圧の関係を示す特性図、
図6はこの発明の実施例2に係る光制御型フェーズドアレーアンテナ装置の光位相変調手段における入力電圧と変調位相の関係を示す特性図、
図7はこの発明の実施例3に係る光制御型フェーズドアレーアンテナ装置において、素子アンテナのビーム走査方向変更前と変更後のビームの伝搬を示す模式図、
図8はこの発明の実施例3に係る光制御型フェーズドアレーアンテナ装置において、連続的な平面からビームを放射すると仮定したときのビーム走査方向変更前と変更後のビームの伝搬を示す模式図、
図9はこの発明の実施例4に係る光制御型フェーズドアレーアンテナ装置の構成を示すブロック図、
図10は図2の実験系を用いてバランス型受信手段による相対強度雑音抑圧測定時の出力スペクトルを示す図である。
【発明を実施するための最良の形態】
以下、この発明の各実施例について図面に基づき説明する。
【実施例1】
この発明の実施例1に係る光制御型フェーズドアレーアンテナ装置について図面を参照しながら説明する。図1は、この発明の実施例1に係る光制御型フェーズドアレーアンテナ装置の構成を示すブロック図である。なお、各図中、同一符号は同一又は相当部分を示す。
図1において、本装置は、単一波長の光を発生してかつ、発生光を光ファイバにより出力するレーザ発生手段1と、このレーザ発生手段1による出力光を伝送するための光ファイバ型伝送手段(太線の箇所)2と、この光ファイバ型伝送手段2による伝送光を分岐し、かつ分岐比を自由に変更することが可能な光路分岐手段3と、単一周波数で発振する高周波信号発生手段4と、この高周波信号発生手段4によって入力される高周波信号の周波数だけ伝送光の周波数をシフトして出力する光周波数変調手段5と、光ファイバ型伝送手段2から光ファイバ外の伝送手段に変更するための伝送ビーム径変換手段6a及び6bと、光ファイバ型伝送手段2による伝送光に対して一括してアンテナビームパターンに応じた空間的な位相変調を行う空間光位相変調手段7と、空間伝送路による伝送光を分岐、または合波することが可能な光路分岐・合波手段8と、空間伝送による伝送光を光ファイバ型伝送に変換し、かつ伝送光を複数に分割する開口分割集光手段9と、光ファイバ型伝送手段2の伝送光の光強度を電気信号に変換し、かつ所望の電圧レベルまで増幅する光電変換手段10a、10b〜10nと、光電変換手段10a〜10nの出力部に接続された給電線11a、11b〜11nと、給電線11a〜11nのそれぞれ他端に接続された素子アンテナ12a、12b〜12nとを備える。
また、光路分岐手段3から光路分岐・合波手段8までの2分岐した伝送光の光路長を等しくした。
なお、伝送ビーム径変換手段6a及び6bと開口分割集光手段9の間は、空間伝送路である(2本の細線の箇所)。
つぎに、この実施例1に係る光制御型フェーズドアレーアンテナ装置の動作について図面を参照しながら説明する。
まず、レーザ発生手段1によりレーザ光が出力され、光ファイバ型伝送手段2を介して伝達し、光路分岐手段3によって伝送光は2経路に分岐される。ここで2経路に分岐された伝送光の周波数をfとする。
光路分岐手段3で分岐された一方の伝送光(信号光)は、高周波信号発生手段4、光周波数変調手段5を介し、高周波信号発生手段4による発振周波数fRFだけシフトした信号(周波数f+fRF)となる。さらに、伝送ビーム径変換手段6aによって光ファイバ型伝送手段2から光ファイバ外の伝送手段(この例では、空間伝送路)への変更を行い、空間光位相変調手段7によって所望のアンテナパターンに応じた空間的な位相変調を行う。
一方、光路分岐手段3で分岐されたもう一方の伝送光(ローカル光)は、伝送ビーム径変換手段6bを介して光ファイバ型伝送手段2から光ファイバ外の伝送手段(この例では、空間伝送路)へ変更される。
これらの信号光及びローカル光を光路分岐・合波手段8によって合波し、開口分割集光手段9によって再び光ファイバ型伝送に変換し、さらに合波された伝送光を複数に分割する。複数に分割された伝送光は、n(自然数)個の光電変換手段10a〜10nによって電気信号に変換され、かつ所望の電圧レベルまで増幅される。光電変換手段10a〜10nに信号光とローカル光の周波数差分を出力するような検知器を用いると、出力される信号は(f+fRF)−f=fRFとなり、伝送光の周波数fを排除できる。周波数fRFの無線信号は、n本の給電線11a〜11nを介して各素子アンテナ12a〜12nに給電される。
図1の構成において、光路分岐手段3によって分岐され、光路分岐・合波手段8によって合波されるまでの光ファイバ内伝送手段及び光ファイバ外伝送手段(空間伝送路)を含む、信号光とローカル光の2つの経路の光路長をそれぞれL及びLとする。
ここで、|L−L|=ΔL、τ=nΔL/c(ここでのnは伝送路媒質の屈折率、cは光速)とすると、τと検知器からの出力信号スペクトルS(f)との関係は以下の式(1)のようになる(参考文献:大越、菊池共著、「コヒーレント光通信工学」、pp90−94)。なお、δfは光源(レーザ発生手段1)の線幅とする。

式(1)において、ΔLを0に近付けると式(1)の第1項(信号スペクトル成分)が第2項以降(雑音スペクトル成分)に対して支配的になり、測定される出力スペクトルは鋭いピークとなる。例えば、δf=3.2MHz、オフセット周波数f=2MHzとおくと、ΔL=1μmにまでファイバ長を合わせれば、S(f)におけるSNR(式(1)の第1項と第2項以降との比)として142dBを得ることが可能となる。
また、図2のような実験系を構築し、位相雑音抑圧測定を行った。
図2において、本実験系は、半導体レーザ(LD)101と、偏波面保存光ファイバ102と、光コネクタ(FC−PC)103と、光アイソレータ104と、3dBカプラ105と、光アッテネータ106と、光コネクタ(FC−AngledPC)107a〜107cと、音響光学変調器(AOM)108と、可変カプラ109と、2つのフォトダイオード(PD及びPD)を有するバランス型受信手段(BR:Balanced Receiver)110と、伝送線路111と、電気スペクトラムアナライザ112とを備える。
次に、実験系の動作について説明する。半導体レーザ(LD)101からの出力光を、3dBカプラ105を用いて2つに分岐する。一方の伝送光はヘテロダイン検波方式におけるローカル光として使用し、光アッテネータ106で減衰後、可変カプラ109に入射させる。もう一方の伝送光はヘテロダイン検波方式における信号光として使用するため、音響光学変調器(AOM)108を用いて50MHzの周波数変調を行った後、可変カプラ109に入射させる。
さらに、可変カプラ109でローカル光と信号光を合波した後の2つの出力光を光電変換器であるバランス型受信手段(BR)110に入射し、その出力信号のスペクトルを、電気スペクトラムアナライザ112を用いて測定した。ここで、3dBカプラ105から光アッテネータ106を通り、可変カプラ109を経てバランス型受信手段(BR)110に入射されるまでの光路長をLlocal、3dBカプラ105のもう一方の出力ポートから音響光学変調器(AOM)108を通り、可変カプラ109を経てバランス型受信手段(BR)110に入射されるまでの光路長をLsignalとする。測定では2つの光路長がLlocal=Lsignalとなるようにファイバ長を調整して出力スペクトルを測定した。
光路長の調整前と調整後の出力スペクトルの測定結果を図3に示す。図3から2MHzオフセット時SNRは、1HzあたりのSNRに換算して、光路長調整前の92dB/Hzに対し、光路長調整後は120dB/Hzを得た。この結果から、2つの光路長を等しくすることより位相雑音抑圧が可能であることが実証された。
また、本実施例では図1に示しているように光路分岐手段3を用いているので、単一光源による位相雑音抑圧が可能となる。
以上のように、光制御型PAA装置において、ヘテロダイン検波を行うために2分岐した伝送光の光路長を等しくした構成では、単一光源で光源自体の位相雑音抑圧が可能である、という利点を有する。
なお、本実施例では光伝送手段として光ファイバを用いている箇所があるが、本発明では伝送手段については特に限定はしない。
【実施例2】
この発明の実施例2に係る光制御型フェーズドアレーアンテナ装置について図面を参照しながら説明する。図4は、この発明の実施例2に係る光制御型フェーズドアレーアンテナ装置の構成を示すブロック図である。
上記の実施例1は、光制御型PAA装置において、ヘテロダイン検波を行うために2分岐した伝送光の2つの光路長を等しくすることで、単一光源による位相雑音抑圧化を図ったが、伝送手段として空間伝送路を用いた場合、空間の温度変動等の擾乱により大気の屈折率が変化し、光路長が変化するため新たな位相ゆらぎが生じてしまう。この問題を解決する方策として、この実施例2では、PLL(Phase Locked Loop)を用いて位相雑音抑圧化を図ったものである。
図4において、図1と同一の部分には共通の符号を付し、その箇所についての説明は省略する。
本装置は、光電変換手段10a〜10nと同じく光ファイバ型伝送手段2の伝送光の光強度を電気信号に変換し、かつ所望の電圧レベルまで増幅する光電変換手段10Aと、伝送光の位相を制御することが可能な光位相変調手段13と、伝送光の伝達の際生じた位相誤差を検出する位相誤差検出手段14と、所望の電圧レベルに設定するための電圧変換手段15とをさらに備える。
つぎに、この実施例2に係る光制御型フェーズドアレーアンテナ装置の動作について図面を参照しながら説明する。
上記の実施例1と異なる動作について説明する。まず、光路分岐手段3によって分岐したローカル光の伝送路において、光路分岐手段3と伝送ビーム径変換手段6bの間に光位相変調手段13を挿入する。なお、この光位相変調手段13を信号光の伝送路に挿入してもよい。
また、光路分岐・合波手段8によって合波した伝送光を2経路に分岐し、一方は図1と同様に開口分割集光手段9へ供給し、もう一方は光電変換手段10Aによって電気信号に変換する。
変換された電気信号は位相誤差検出手段14へ供給され、位相誤差検出手段14は、高周波信号発生手段4で発生する電気信号と光電変換手段10Aからの電気信号との位相差を検出する。
さらに、位相誤差検出手段14では、検出した位相差を例えば図5のような位相差に比例した電圧信号に変換し出力する。ここで、高周波信号発生手段4で発生する電気信号の位相をφ、光電変換手段10Aからの電気信号の位相をφ、位相誤差検出手段14の出力電圧をVOUTとし、φ−φ=Δφにおける位相誤差検出手段14の出力電圧をΔVとした。なお、位相差と出力電圧の特性については理解を容易にするため比例関係としているが、特性が既知であれば限定はしない。
その後、位相誤差検出手段14からの出力電圧は、電圧変換手段15を経て光位相変調手段13へ供給され、例えば図6のような入力電圧に比例した位相に変調される。ここで、入力電圧をVIN、変調位相をφとし、電圧ΔVの信号が光位相変調手段13に入力したときの変調位相をΔφとする。なお、入力電圧と変調位相の特性については理解を容易にするため比例関係としているが、特性が既知であれば限定はしない。このとき、Δφ=Δφとなるように電圧信号をΔVからΔVへ変換する電圧変換手段15を挿入しておく。これにより、高周波信号発生手段4で発生する電気信号と合波光を光電変換した電気信号との位相差を小さくするような負帰還回路が形成され、位相ゆらぎにより発生する位相雑音抑圧が可能となる。
以上のように、本実施例では空間の温度変動等の擾乱により生じる位相雑音の抑圧が可能となる、という利点を有する。
なお、本実施例では光伝送手段として光ファイバを用いている箇所があるが、本発明では伝送手段については特に限定はしない。
【実施例3】
この発明の実施例3に係る光制御型フェーズドアレーアンテナ装置について図面を参照しながら説明する。
図4に示す空間光位相変調手段7では、素子アンテナ12a〜12nから出射するビーム走査方向を変更することが可能である。しかし、その際にも光路長差による位相ずれが生じる。実施例2と同様のPLLを用いた方式ではこのビーム方向変更により発生する位相差の補正も可能である。以下、この原理について説明する。
ここで、空間光位相変調手段7のパターン変更による位相変動は、素子アンテナより放射されるビームの走査方向変更による位相変動と同一と考えることにし、以下、素子アンテナより放射されるビームの走査方向変更時の位相変動について考察する。
素子アンテナの配置面を、ビーム走査方向の方位角方向及び仰角方向とで考え、各々独立に考察できるので、ここではビーム走査方向の方位角方向についてのみ考える。
図7に方位角方向での素子アンテナの配置を示す。ここで、素子アンテナの間隔をd、素子アンテナの個数をNとする。このとき、素子アンテナから放射されるビームの方位角方向が図7(b)のように角度θ変更したとすると、k(k=1,2,・・・,N−1)番目とk+1番目の素子アンテナの方位角方向における光路長差Δl(注:lはエルです。)は次式のように与えられる。

ここで、素子アンテナが離散的に配置されるのではなく、一般性を持たせるために長さd×Nの連続的な平面からビームが放射されているとする。ここでも上述のようにビームの方位角方向及び仰角方向は各々独立に考察してよいので、方位角方向について考える。
図8のように座標軸を設定し、位置jをビーム走査時の回転中心軸とする。また、信号光の強度は方位角方向上で一様に伝搬しているとする。このときビーム走査方向θ変更時の位置jに対する放射面上での光路長差は次式で与えられる。

よって、光路長差が最小となるためには位置0(ビーム放射面の中心)をビーム走査時の回転中心軸とすればよい。また、式(3)の光路長差により生じる位相差はPLLを用いて補正することができる。
以上のように、本実施例では図4の空間光位相変調手段7においてアンテナパターンを変更した際に生じる位相雑音の抑圧が可能となる、という利点を有する。
なお、本実施例では光伝送手段として光ファイバを用いている箇所があるが、本発明では伝送手段については特に限定はしない。
【実施例4】
この発明の実施例4に係る光制御型フェーズドアレーアンテナ装置について図面を参照しながら説明する。図9は、この発明の実施例4に係る光制御型フェーズドアレーアンテナ装置の構成を示すブロック図である。
上記の実施例1〜3は、それぞれ光源自体の位相雑音抑圧化、及び空間の擾乱、アンテナパターン変更により生じる位相雑音の抑圧化を図った方式である。さらに、ヘテロダイン検波における受信時のSNR劣化原因として光源自体の相対強度雑音が考えられる。この問題を解決する方策として、この実施例4では、光電変換手段10a〜10nにバランス型受信手段(BR:Balanced Receiver)を用いて、光源の相対強度雑音抑圧化を図ったものである。
図9において、図1及び図4と同一の部分には共通の符号を付し、その箇所についての説明は省略する。
本装置は、光ファイバ型伝送手段2による伝送光を2分岐する光路分岐手段16a〜16nと、バランス型受信手段(BR)17a〜17nとをさらに備える。
次に、バランス型受信手段(BR)を用いた相対強度雑音抑圧化の原理について説明する。
ヘテロダイン検波における信号光及びローカル光の瞬時電界は次式で表される。

ここでP、Pは信号光及びローカル光の電力、ω、ωは信号光及びローカル光の角周波数、φ、φは信号光及びローカル光の位相である。また、信号光及びローカル光はそれぞれ角周波数Ω、Ω、変調度m、m、位相θ、θで表される相対強度雑音を有するものとする。バランス型受信手段(BR)の前に挿入した光路分岐手段の電力分岐比をε、信号光の伝搬定数をβ、ローカル光の伝搬定数をβ、光路分岐手段の通過後の出射光の伝搬定数をβとすれば、バランス型受信手段(BR)内部に設置されたフォトダイオードPD及びPDに入射する光電界E(t)、E(t)はそれぞれ次式で与えられる。

ここで、フォトダイオードPDに入射する光路長がΔだけ長いと仮定している。これらの光電界がフォトダイオードPD及びPDに入射したとき生成される光電流I(t)、I(t)は、それぞれ次式で与えられる。

ここで、n(t)、n(t)はショット雑音と熱雑音の合計を表す。また、η、ηはフォトダイオードPD及びPDの量子効率、eはエレクトロンチャージ、hはプランク定数である。
2つのフォトダイオードPD及びPDの差動出力を次式のように表わす。

ここで、IDC(t)は光電流の直流(DC)成分、I1F(t)は中間周波成分である。このとき、IDC(t)は次式のようになる。

全てのパラメータにばらつきがない場合、すなわち、量子効率がη=η=η、電力分岐比がε=0.5、Δ=0とした場合を考える。このとき、IDC(t)のうち時間変動成分を相対強度雑音成分と考えI(t)と表すと、次式のようになり、相対強度雑音は完全に打ち消される。

また、上記実施例1で示した図2の実験系を用いてバランス型受信手段(BR)による相対強度雑音抑圧測定を行った。
図10(a)、(b)に出力スペクトルを示す。図10(a)は可変カプラ109からバランス型受信手段(BR)110までの2経路の光路長が異なるときの分岐比調整前後の出力スペクトルである。また、図10(b)は可変カプラ109からバランス型受信手段(BR)110までの2経路の光路長を同一としたときの分岐比調整前後の出力スペクトルである。図10(a)、(b)から光路長が異なるときの分岐比調整(ε=0.5)によるSNR増加が約7dBとなるのに対し、光路長を同一としたときの分岐比調整(ε=0.5)によるSNR増加が約39dBとなり、電力分岐比をε=0.5とすることと、光路長を同一にすることを同時に行うことにより大幅に相対強度雑音を抑圧できることが実証できた。
よって、光電変換手段にバランス型受信手段(BR)を用いた構成は、バランス型受信手段(BR)に投入される2つの入射光の電力を同一にし、かつ分岐後からフォトダイオードPD及びPDに入射されるまでの2つの入射光の光路長を同一にすることにより、光源の相対強度雑音抑圧が可能である、という利点を有する。
なお、本実施例では光伝送手段として光ファイバを用いている箇所があるが、本発明では伝送手段については特に限定はしない。
【産業上の利用の可能性】
この発明に係る光制御型フェーズドアレーアンテナ装置は、以上説明したとおり、光路分岐手段と光路分岐・合波手段の間の信号光とローカル光の2つの経路の光路長を等しくすることにより、光源自身の位相ゆらぎにより発生する位相雑音の抑圧が可能で、光源の線幅に対する要求が大幅に緩和できる。従って、レーダ装置などの無線応用装置に適用できる。
【図1】

【図2】

【図3】

【図4】

【図5】

【図6】

【図7】

【図8】

【図9】

【図10】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
単一波長光を発生するレーザ発生手段と、
前記レーザ発生手段からの出射光を第1及び第2の伝送光に分岐する光路分岐手段と、
高周波信号を発生する高周波信号発生手段と、
前記光路分岐手段により分岐された第1の伝送光の周波数を前記発生された高周波信号の周波数だけシフトする光周波数変調手段と、
前記高周波信号の周波数だけシフトされた第1の伝送光に対してアンテナビームパターンに応じた空間的な位相変調を行う空間光位相変調手段と、
前記位相変調された第1の伝送光と前記光路分岐手段により分岐された第2の伝送光を合波する光路分岐・合波手段と、
前記光路分岐・合波手段により合波された伝送光を複数に分割する開口分割集光手段と、
前記複数の伝送光の光強度を、それぞれ電気信号に変換する複数の光電変換手段と、
前記複数の光電変換手段からの電気信号を、それぞれビームとして放射する複数の素子アンテナとを備え、
前記光路分岐手段と前記光路分岐・合波手段の間の2つの経路の光路長を等しくした光制御型フェーズドアレーアンテナ装置。
【請求項2】
前記光路分岐・合波手段により合波された伝送光が分岐された伝送光の光強度を電気信号に変換する第2の光電変換手段と、
前記高周波信号発生手段により発生された電気信号と前記第2の光電変換手段からの電気信号の位相差を検出する位相誤差検出手段と、
前記位相誤差検出手段により検出された位相差に基づいて前記光路分岐手段により分岐された第1又は第2の伝送光の位相を変調する光位相変調手段と
をさらに備えた請求項1記載の光制御型フェーズドアレーアンテナ装置。
【請求項3】
前記位相誤差検出手段からの検出位相差に応じた第1の電圧信号を第2の電圧信号へ変換する電圧変換手段をさらに備え、
前記光位相変調手段は、前記第2の電圧信号に応じて前記光路分岐手段により分岐された第1又は第2の伝送光の位相を変調する
請求項2記載の光制御型フェーズドアレーアンテナ装置。
【請求項4】
単一波長光を発生するレーザ発生手段と、
前記レーザ発生手段からの出射光を第1及び第2の伝送光に分岐する光路分岐手段と、
高周波信号を発生する高周波信号発生手段と、
前記光路分岐手段により分岐された第1の伝送光の周波数を前記発生された高周波信号の周波数だけシフトする光周波数変調手段と、
前記高周波信号の周波数だけシフトされた第1の伝送光に対してアンテナビームパターンに応じた空間的な位相変調を行う空間光位相変調手段と、
前記位相変調された第1の伝送光と前記光路分岐手段により分岐された第2の伝送光を合波する光路分岐・合波手段と、
前記光路分岐・合波手段により合波された伝送光を複数に分割する開口分割集光手段と、
前記開口分割集光手段により分割された複数の伝送光を、それぞれ2分岐する複数の第2の光路分岐手段と、
前記2分岐された伝送光毎に、複数の分岐伝送光の光強度を、それぞれ電気信号に変換する複数のバランス型受信手段と、
前記複数のバランス型受信手段からの電気信号を、それぞれビームとして放射する複数の素子アンテナと、
前記光路分岐・合波手段により合波された伝送光が分岐された伝送光の光強度を電気信号に変換する光電変換手段と、
前記高周波信号発生手段により発生された電気信号と前記光電変換手段からの電気信号の位相差を検出する位相誤差検出手段と、
前記位相誤差検出手段により検出された位相差に基づいて前記光路分岐手段により分岐された第1又は第2の伝送光の位相を変調する光位相変調手段とを備え、
前記光路分岐手段と前記光路分岐・合波手段の間の2つの経路の光路長を等しくした光制御型フェーズドアレーアンテナ装置。

【国際公開番号】WO2004/107567
【国際公開日】平成16年12月9日(2004.12.9)
【発行日】平成18年7月20日(2006.7.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−570610(P2004−570610)
【国際出願番号】PCT/JP2003/006761
【国際出願日】平成15年5月29日(2003.5.29)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】