説明

光力学的療法のための乳酸・グリコール酸共重合体をベースにしたナノ粒子キャリアシステム

保存において安定な組成物と、疎水性の光増感剤、乳酸・グリコール酸共重合体および安定化剤を含む、光力学的療法における臨床での使用のための薬剤系ナノ粒子製剤の製造方法とが提供される。これらのナノ粒子医薬製剤は、非経口投与に関して光増感剤の治療上の有効量を提供する。特に、テトラピロールが光増感剤として用いられ、当該ナノ粒子によってその有効性と安全性とが向上する。また、それは無菌状態でのPLGA系ナノ粒子の調製方法に関する。本発明の1つの好ましい実施の形態では、PLGA系ナノ粒子は、500nm未満の平均粒子サイズを有し、光増感剤はテモポルフィン、5,10,15,20‐テトラキス(3‐ヒドロキシフェニル)‐クロリン(mTHPC)である。他の実施の形態では、光増感剤2,3‐ジヒドロキシ‐5,10,15,20‐テトラキス(3‐ヒドロキシフェニル)‐クロリン(mTHPD‐OH)は、非経口投与のためのナノ粒子として製剤化される。さらに、他の実施の形態では、好ましい光増感剤は、5,10,15,20‐テトラキス(3‐ヒドロキシフェニル)‐ポルフィリン(mTHPP)である。当該製剤は、過形成や腫瘍性疾患、炎症性疾患を治療するため、さらに具体的には、腫瘍細胞を標的とするために用いられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、疎水性の光増感剤を含有するナノ粒子製剤の調製および光力学的療法、特に、静脈投与を用いる腫瘍の光力学的療法でのそれらの使用に関する。
【背景技術】
【0002】
光力学的療法(PDT)は、最も有望な新しい技術の1つであり、様々な医療用途で使用されるために現在検討されている、具体的には腫瘍を破壊するための処置としてよく認識されている。光力学的療法は、所望する医学的効果を達成するよう光および光増感剤(染料)を使用する。多数の天然の染料および合成された染料が、光力学的療法のための見込みのある光増感剤として評価されてきた。特に、最も広く研究されている光増感剤の種類は、大環状テトラピロール化合物である。これらの中でも特にポルフィリンおよびクロリンは、PDTにおける効果について調べられた。
【0003】
ポルフィリンは、ピロールと結合している1つの炭素原子の架橋を有する大環状化合物であって、特徴的なテトラピロール環構造を形成する。ポルフィリン誘導体には、多くの異なる種類があり、ポルフィリン誘導体は、1つのジヒドロピロール基を有するクロリンおよび2つのジヒドロピロール基を有するバクテリオクロリンを含む。PDTに関して見込みのある当該ポルフィリン誘導体はどちらも天然物と全合成のいずれからでも得ることが可能である。
【0004】
ポルフィリンと比較して、クロリンには、より有益な吸収スペクトルを有するという利点がある。すなわち、それらは、電磁スペクトルの赤外および近赤外領域において、より強い吸収を示す。PDTが腫瘍療法に適用される場合、長波長の光は深い組織の中へ入り込むので、例えばかなり広がった腫瘍の治療が可能となる。
【0005】
しかし、様々な疾患の治療のためのPDTの適用は、光増感剤(PS)の固有の特性によって限定される。これらには、高い費用、ホスト生体内での広範囲の残留、皮膚におけるかなりの光毒性、生理溶液での低い溶解度(これは、血管内投与での実用性を低下させ、血栓塞栓性障害を惹起する)、および標的に対する有効性の低下が含まれる。これらの不利な点、特にこれまでの当該技術分野におけるPSに関しては、かなり高濃度の光増感剤の投与につながることであり、これは非損傷組織における光増感剤の蓄積の可能性、およびこれに伴う照射による非損傷部位への影響の危険性を大いに増加させる。
【0006】
費用の減少および付随する毒性の減少について努力されてきたが、これらは本発明の開発には関連しない。生理溶液における溶解度、皮膚における光毒性の影響、ホスト生体内での残留、および標的に対する狭い範囲の有効性についての研究が本発明の領域であって、本発明は、様々な新生組織形成、過形成および関連する疾患を治療するためのPDTの使用における、新規かつ自明でない改良されたものを提供する。
【0007】
腫瘍の光力学的療法において好適に使用される物質のほとんどは、脂溶性物質であり、これは適切な方法で形成されるうえで特有の低い水溶性が必要とされるためである。このため、テトラピロール系光増感剤の新規な製剤には、体内におけるこれらの取り込みとバイオアベイラビリティの向上が特に求められている。
【0008】
ナノ粒子は脂溶性の医薬物質のためのキャリアとして集中的に研究されている。実際に、ヒト血清アルブミン(HSA)をベースにした抗癌剤パクリタキセルのナノ粒子製剤は、欧州および米国において規制当局によって近年認可された。
【0009】
一般に、ナノ粒子は10nmから1000nmの範囲のサイズの固形のコロイド状の粒子である。それらは、活性成分が溶解され、取り込まれるかカプセル封入される、および/または活性本体が吸収され、付着する高分子物質から構成される。多くの異なる種類のナノ粒子、例えば、量子ドット、シリカ系ナノ粒子、光結晶、リポソーム、天然物や合成物に由来する種々のポリマーをベースにしたナノ粒子および金属系ナノ粒子が研究されている。
【0010】
光増感剤と組み合わされたナノ粒子がイメージング手法を含む多くの適用に関して研究されており、例えば、バイオイメージングで用いるために近赤外染料を封入した生物分解性ポリマー物質を含有するナノ粒子がSadoqiらによって特許文献1に開示された。さらに、蛍光イメージングおよび磁気共鳴イメージングと組み合わせた他のナノ粒子、特に金属(イオン)系ナノ粒子との組み合わせが当技術分野で知られているが(非特許文献1ないし3参照)、これらの研究は本発明に関連しない。また、当技術分野で既知のリポソーム、量子ドット、無機物質(金属を含む)をベースにした他のナノ粒子は、本発明と競合しない。
【0011】
光増感剤のキャリアシステムとして最も興味深いのは、生体適合性物質から構成されるナノ粒子である。当該キャリアシステムは、光力学的療法の治療レジメンを顕著に改良できた。既知の高い生体適合性を有するキャリアシステムは、例えば、乳酸・グリコール酸共重合体(PLGA)である。PLGA物質のナノ粒子としての製剤化が成功している。
【0012】
当技術分野で既知の光増感剤のためのキャリアとしてのPLGA系ナノ粒子の例がいくつかある(非特許文献4乃至13参照)。
【0013】
しかし、上記既知の技術の一部は、他の種類の光増感剤に集中しており、例えば、特許文献2に開示された発明は、本発明に関連しない光増感剤である亜鉛(II)フタロシアニンおよびインドシアニングリーンを含む。
【0014】
この他、例えばAllemannらによる特許文献3および4には、光増感剤のキャリアとして用いられるPLGA系ナノ粒子は、薬剤の速い放出、好ましくはナノ粒子が血清タンパク質を含む環境に取り込まれた後、約60秒以内を意図しており、このため、標的の細胞や組織に薬剤を移行させるのにはあまり適切ではない。光増感剤は血清タンパク質を含む環境に取り込まれてから数秒で放出されるので、PLGA系ナノ粒子の標的に対する有効性が欠けている。さらに、小型化され、単分散する当技術分野で既知のPLA‐またはPLGA‐系ナノ粒子の調製では、溶液において約5‐20%の範囲という高い濃度のポリビニルアルコール(PVA)安定剤が使用される。
【0015】
臨床業務における非経口投与のためのナノ粒子製剤の適用では、薬局方の仕様が保証されるように無菌の製剤が求められる。PLGAを含有するナノ粒子光増感剤製剤の殺菌の問題は、ナノ粒子マトリックスの不安定性に加え、光増感剤の不安定性のために難しいことである。従来の無菌化の方法(オートクレーブ、エチレンオキシドの使用、ガンマ線照射)は、本発明に係る光増感剤製剤と両立しない(非特許文献14および15を参照)。このように化学的および熱的に反応性のある物質に対して、1つの選択肢は、決められたサイズの膜フィルターを通す無菌化ろ過である。無菌化ろ過のための細孔のサイズは、通常0.22μmであって、一方、本発明のナノ粒子は、100から500nmの間の範囲のサイズである。このため、無菌化ろ過は、その欠点を有し、一般には本発明の対象であるナノ粒子と両立しない。
【0016】
また、臨床の用途では、製剤が凍結乾燥でき、後から水媒体で再構成できる製剤が特に望ましい。特に、本発明に係るクロリンあるいはバクテリオクロリン類(すなわち、1個または2個のジヒドロピロール基を有するテトラピロール)である光増感剤の場合、無菌のナノ粒子製剤および凍結乾燥に適したナノ粒子製剤を開発するのが難しいのは、上記システムは、ナノ粒子の調製でよく用いられる操作条件で誘導される酸化及び光化学修飾に特に影響を受けやすいからである(非特許文献16ないし18参照)。1個または2個のジヒドロピロール基を有するクロリンあるいはバクテリオクロリン類のこれらの光増感剤は、それぞれポルフィリンに応じてそれらの化学的および物理的な挙動に大きな違いがある(非特許文献19および20参照)。第2のポイントとして、無菌化と凍結乾燥の課題は、これまでに複数のテトラピロール系光増感剤に関してのみ化学的に解決されてきたが、特にAllemannらによって記載された緑色ポルフィリン、あるいはKonanらによって研究された光増感剤に関しては残されている。
【0017】
当技術分野で既知の光増感剤のためのキャリアとして用いられるPLGA系ナノ粒子は、無菌化および凍結乾燥といった上記課題はいずれも解決されておらず、あるいはそうだとしたら、上記の研究された光増感剤は、より安定な化学構造のために、この点ではほとんど問題にならない。
【0018】
これは、ナノ粒子の中核を形成する光増感剤と、生物分解性ポリマー殻と、標的アプタマー(ErbB3受容体特異的なアプタマー)を含有する光増感剤ナノ粒子アプタマー複合体を開示する特許文献5の場合であるが、安定なナノ粒子光増感剤製剤を得るのに必要なナノ粒子光増感剤製剤の無菌化および凍結乾燥工程のどちらの課題も解決していない。
【0019】
上記した欠点にも関わらず、本発明はPLGA系ナノ粒子製剤と、非経口用途に適した光増感剤に関する調製方法とを提供し、クロリンおよびバクテリオクロリンのような反応性のある化合物の調製が可能となる。
【0020】
当技術分野には上記課題が残されており、本発明はこれに対処し解決する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0021】
【特許文献1】米国特許出願公開第2007/0148074号明細書
【特許文献2】国際公開第97/010811号
【特許文献3】国際公開第03/097096号
【特許文献4】米国特許第7455858号明細書
【特許文献5】国際公開第06/133271号
【非特許文献】
【0022】
【非特許文献1】Mulder et. al, Nanomed., 2007, 2, 307-324
【非特許文献2】Kim et.al, NanotechnoL, 2002, 13, 610-614
【非特許文献3】Primo et al, J. Magnetism Magn. Maten, 2007, 311, 354-357
【非特許文献4】Gomes et al., Photomed Laser Surg., 2007, 25, 428-435
【非特許文献5】Ricci-Junior et al., J. Mic vencapsuL, 2006, 23, 523-538
【非特許文献6】Ricci-Junior et al., Int, J. Pharm., 2006, 310, 187-195
【非特許文献7】Saxena et al., Int. J. Pharm., 2006, 308, 200-204
【非特許文献8】McCarthy et al., Abstracts of Papers, 229th ACS Meeting, 2005
【非特許文献9】Vargas et al., Int. J. Pharm., 2004, 286, 131-145
【非特許文献10】Konan et al., Eur. J. Pharm. Sci., 2003, 18, 241-249
【非特許文献11】Konan et al., Eur. J. Pharm. Biopharm., 2003, 55, 115-124
【非特許文献12】Vargas et al., Eur. J. Pharm. Biopharm., 2008, 69, 43-53
【非特許文献13】Pegaz et at., J. Photochem. Photobiol. B: Biology, 2005, 80, 19-27
【非特許文献14】K. A. Athanasiou, et al., Biomaterials, 1996, 17, 93-102
【非特許文献15】C. Volland, et al., J. Contr. Rel., 1994, 31,293-305
【非特許文献16】Y. Hongying, et al., Dyes Pigm., 1999, 43, 109-117
【非特許文献17】C. Hadjur, et al., J. Photochem. Photobiol. B: Biology, 1998, 45, 170-178
【非特許文献18】R. Bonnett, et al., J. Chem. Soc. Perkin Trans., 2, 1999, 325-328
【非特許文献19】R. Bonnett, et al., J. Chem. Soc. Perkin Trans., 2, 1999, 325-328
【非特許文献20】R. Bonnett, et al., J. Porphyrins Phthatocyanines, 2001, 5, 652-661
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0023】
本発明の目的は、光力学的療法のための疎水性の光増感剤に係る、生体適合性PLGA物質をベースにしたナノ粒子製剤を提供する。
【0024】
本発明の他の目的は、疎水性のテトラピロール類の光増感剤、すなわちクロリンおよびバクテリオクロリンに係る乳酸・グリコール酸共重合体(PLGA)および安定化剤をベースにしたナノ粒子を提供し、好ましくは、該安定化剤は、ポリ(ビニルアルコール)、ポリソルベート、ポロキサマーおよびヒト血清アルブミン等で構成される群から選択される。
【0025】
本発明のさらに他の目的は、粒子システムが薬剤の薬物動態を変更できるように、光増感剤の含有率を変化させる(mgのナノ粒子あたり2から320μgの光増感剤)ことを可能にする疎水性の光増感剤に係るナノ粒子製剤を提供する。
【0026】
本発明のさらなる目的は、細胞内への蓄積後の薬剤放出と組み合わされる標的の細胞および組織への効果的な薬剤移行を可能にする疎水性の光増感剤に係るナノ粒子製剤を提供する。
【0027】
本発明のさらに他の目的は、平均粒子サイズが500nm未満のPLGA系の、光増感剤を含有する無菌のナノ粒子の製造方法を提供し、当該光増感剤は、クロリンおよびバクテリオクロリンである。本発明の当該ナノ粒子は、凍結乾燥および水媒体内での再構成を可能にするほどに十分安定である。
【0028】
本発明のさらに他の目的は、これらに限定されないが、腫瘍、腫瘍性疾患、皮膚疾患、眼科疾患、泌尿器疾患、関節炎および類似する炎症疾患に対する光力学療法においてPLGAをベースにしたナノ粒子光増感剤製剤の使用方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0029】
簡潔に述べると、本発明は保存において安定な組成物と、疎水性の光増感剤、乳酸・グリコール酸共重合体および安定化剤を含む、光力学的療法における臨床での使用のための薬剤系ナノ粒子製剤の製造方法とを提供する。これらのナノ粒子製剤は、非経口投与において光増感剤の治療上の有効量を提供する。特にテトラピロール誘導体は光増感剤として用いられ、その有効性と安全性とが上記ナノ粒子製剤によって高められる。また、無菌条件下でのPLGA系ナノ粒子の調製方法が提供される。本発明に係る好ましい1つの実施の形態では、PLGA系ナノ粒子は、500nm未満の平均粒子サイズを有し、光増感剤はテモポルフィン、5,10,15,20‐テトラキス(3‐ヒドロキシフェニル)‐クロリン(mTHPC)である。他の実施の形態では、光増感剤2,3‐ジヒドロキシ‐5,10,15,20‐テトラキス(3‐ヒドロキシフェニル)‐クロリン(mTHPD‐OH)が非経口投与のためのナノ粒子として製剤化される。さらに、他の実施の形態では、好ましい光増感剤は5,10,15,20‐テトラキス(3‐ヒドロキシフェニル)‐ポルフィリン(mTHPP)である。当該製剤は、過形成や腫瘍性疾患、炎症性疾患を治療するため、さらに具体的には、腫瘍細胞を標的とするために用いられる。
【0030】
添付する図面とともに以下の説明を読むことで、上記および他の目的、本発明の特徴と利点が明らかになる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明で用いられるクロリンおよびバクテリオクロリンの好ましい構造を示す。
【図2】本発明におけるナノ粒子で製剤化される特に好ましいクロリンの構造を示す。
【図3】PLGAに対する薬剤の比に応じて、ミリグラムPLGAに対してmTHPPが2から320μgの間である薬剤含有効率を示す分布曲線である。
【図4】A及びBは、光増感剤5,10,15,20‐テトラキス(3‐ヒドロキシフェニル)‐ポルフィリン(mTHPP)を含有するPLGA系ナノ粒子の細胞取り込みと細胞内分布に関する共焦点レーザー走査顕微鏡画像である。
【図5】A及びBは、光増感剤5,10,15,20‐テトラキス(3‐ヒドロキシフェニル)‐クロリン(mTHPC)を含有するPLGA系ナノ粒子の細胞取り込みと細胞内分布に関する共焦点レーザー走査顕微鏡画像である。
【図6】3μMのmTHPC、および各インキュベーション時間後のJurkat細胞による異なる濃度のmTHPCを含有するPLGAナノ粒子の光毒性の結果である。
【図7】3μMのmTHPC、および各インキュベーション時間後のJurkat細胞による異なる濃度のmTHPCを含有するPLGAナノ粒子の細胞内取り込みの結果である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
本発明の記載されたナノ粒子システムの調製方法は、血清タンパク質が存在しても数時間を超えて薬剤を放出でき、かつ標的の細胞および組織への薬剤の移行に適したシステムを提供する。これは、PLGAナノ粒子システムを使用する先行技術における粒子の速い分解や光増感剤の放出と対照的である。さらに、賦形剤が粒子調製において使用される場合の状態に依存して、高い可変性の薬剤放出の動力学が得られる。
【0033】
上記で概説したように、無菌化および凍結乾燥のような課題が光増感剤のナノ粒子製剤の開発に極めて重大である。臨床用途に適した上記PLGA系ナノ粒子光増感剤製剤は、無菌製造工程で調製できることがわかった。このため、本発明は、無菌の、平均粒子サイズが500nm未満のPLGA系の光増感剤含有ナノ粒子を製造するための方法を提供し、該光増感剤は、クロリンかバクテリオクロリンである。さらに、本発明のナノ粒子医薬製剤は、凍結乾燥および水媒体における再構成を可能にするほど安定である。このため、本発明は、臨床業務での非経口投与における必要性を満たす、光力学的療法のための疎水性の光増感剤に適切なナノ粒子製剤の問題を解決する。
【0034】
PDTにおけるPLGAをベースにしたナノ粒子光増感剤製剤の治療上の使用は、これらに限定されないが、皮膚疾患、眼科疾患、泌尿器疾患、関節炎および類似する炎症疾患を含む。より好ましくは、PDTにおけるPLGAをベースにしたナノ粒子光増感剤製剤の治療上の使用は、腫瘍組織、新生組織形成、過形成および関連疾患の治療を含む。
【0035】
非経口投与のための、クロリンおよびバクテリオクロリンに関するPLGA系ナノ粒子製剤に係る記載されたナノ粒子システムは、安定剤を減らして調製できる(すなわち1.0%PVA)。当該システムは、血清タンパク質が存在しても数時間を超えて薬剤を放出することができ、このため、薬剤を標的の細胞および組織に移行させるのに好適である。延長された薬剤の放出は、薬剤標的リガンドの粒子表面(例えば抗体)への付着を可能にし、標的の細胞および組織への光増感剤の高度な移行を可能とする。
【0036】
本発明は、粒子の調製において、ポリビニルアルコール(PVA)のような賦形剤が用いられた状況での驚くべき発見に、一部、基づく。それは、1)光増感剤が粒子マトリックスに封入されることで付着し、2)粒子マトリックスに吸着することで付着し、3)あるいは粒子マトリックスに封入され、および吸着した結果、薬剤放出の動力学に高い可変性がもたらされたことである。
【0037】
本発明に係る特に好ましい実施の形態では、PLGA系ナノ粒子は、500nm未満の平均粒子サイズであって、光増感剤はテモポルフィン、5,10,15,20‐テトラキス(3‐ヒドロキシフェニル)‐クロリン(mTHPC)である。
【0038】
本発明に係る他の実施の形態では、PLGA系ナノ粒子は、500nm未満の平均粒径であって、光増感剤は2,3‐ジヒドロキシ‐5,10,15,20‐テトラキス(3‐ヒドロキシフェニル)‐クロリン(mTHPD‐OH)である。
【0039】
さらに他の実施の形態では、PLGA系ナノ粒子は、500nm未満の平均粒径であって、光増感剤は5,10,15,20‐テトラキス(3‐ヒドロキシフェニル)‐ポルフィリン(mTHPP)である。
【0040】
本発明は、好ましくはクロリンおよびバクテリオクロリン類の光増感剤を用いた光増感剤含有ナノ粒子の製剤の調製方法を提供する。以下で開示される方法によって調製されたナノ粒子は、予測可能なサイズと均一性(サイズのぱらつきにおいて)を有する。ナノ粒子は、無菌製造工程で調製される。好ましくはPLGA系ナノ粒子は、直径500nm未満の平均サイズを有する。用語「直径」は、ナノ粒子が必ず球形状であることを意味するのではない。当該用語は、ナノ粒子のだいたいの平均幅を意味する。
【0041】
本発明の好ましい実施の形態では、PLGA系ナノ粒子は、光増感剤の含有量が幅広い濃度範囲(mgのナノ粒子に対して2から320μg)で変更できるように調製される。
【0042】
本発明の特に好ましい実施の形態では、PLGA系ナノ粒子は、光増感剤が粒子マトリックスに封入されることで付着し、粒子マトリックスに吸着することで付着し、あるいは粒子マトリックスに封入され、および吸着した結果、薬剤放出の動力学に高い可変性がもたらされるように調製される。
【0043】
当該ナノ粒子システムにおける薬剤の標的に対する有効性がPLGAナノ粒子に結合した1個または複数個のリガンドで向上し、当該ナノ粒子システムは光増感剤分子に結合せずに光増感剤化学物質を保持する。
【0044】
本発明のナノ粒子は、保存上の安定性を改良するために脱水されてもよい。脱水の好ましい方法は、凍結乾燥か凍結真空乾燥である。凍結乾燥の間および水媒体での再構成の間の安定性を改良するために、添加剤として凍結乾燥保護剤が任意に用いられてもよい。
【0045】
他の実施の形態では、本発明は、光力学的療法におけるPLGAをベースにしたナノ粒子光増感剤製剤の使用方法を提供し、その使用方法は、ナノ粒子の投与と、標的組織における蓄積と、特有の波長の光による光増感剤の活性化とを含む。投与は、好ましくは非経口手段、例えば、これに限定されないが静脈注射による。
【0046】
光増感剤を含有するナノ粒子調製のために使用される材料
ポリマー
本発明で用いられるポリマーの限定しない例は、乳酸・グリコール酸共重合体PLGAであって、好ましくは50:50または75:25の共重合体比であることを特徴とする。本発明の基本的な調製に用いられるPLGAは、Boehringer Ingelheim社から取得された(Resomer RG502HおよびResomer RG504H)。
【0047】
光増感剤
本発明で用いられる光増感剤は、好ましくは、これらに限定されないがクロリンおよびバクテリオクロリン類のテトラピロールである。当該光増感剤は、天然物由来でも全合成によるものであってもよい。クロリンおよびバクテリオクロリンの全合成は、はじめにポルフィリンの合成、続いてそれをクロリンおよびバクテリオクロリン系に変換することによって行われる(例えば、R. Bonnet-t, R. D. White, U.-J. Winfield, M. C. Berenbaum, Hydroporphyrins of the meso-tetra(hydroxyphenyl)porphyrin series as tumor photosensitizers, Bioehem. J. 1989, 261,277-280)。
【0048】
本発明で用いられるクロリンおよびバクテリオクロリンは、好ましくは図1の構造を有する。
【0049】
本発明におけるナノ粒子で製剤化されるのに特に好ましいクロリンは、図2の構造を有する。
【0050】
本発明に係るPLGA系ナノ粒子は、Ultra‐Turrax拡散装置を用いた乳化‐拡散‐蒸発工程によって調製される。粒子マトリックスへの光増感剤の吸着結合、粒子マトリックスへの封入結合および粒子マトリックスへの吸着および封入結合の組み合わせが形成される。薬物含有ナノ粒子は、グルコース、トレハロース、スクロース、ソルビトールおよびマンニトール等を含む抗凍結剤の存在下で凍結乾燥される。
【0051】
本発明は以下の実施例によってさらに説明されるが、これらに限定されない。
【0052】
実施例1a:
光増感剤5,10,15,20‐テトラキス(3‐ヒドロキシフェニル)‐ポルフィリン(mTHPP)を含有するPLGA系ナノ粒子の調製と特徴付け;粒子マトリックスへの吸着および封入結合の組み合わせ
【0053】
本発明に係るPLGA系ナノ粒子がUltra‐Turrax拡散装置(Ultra Turrax T25デジタル、IKA、シュタウフェン、ドイツ)を用いた乳化‐拡散‐蒸発工程によって調製された。
【0054】
500mgのPLGA(Resomer RG502Hまたは504H)が5mLの酢酸エチル(Fluka社、シュタインハイム、ドイツ)に溶解された。この溶液に異なる量のmTHPPが添加された。1から200mgの範囲の量が評価された。一般に、50mgのmTHPPが用いられた。
【0055】
この有機溶液が安定化された1%ポリビニルアルコール(PVA)水溶液10mLに添加された。Ultra‐Turrax拡散装置(17,000rpm、5分)で水中油型ナノエマルションが形成された。この調製工程の後、外部水相に有機溶媒が完全に拡散した後のナノ粒子の形成を誘導するために、エマルションが40mLのPVA安定化水溶液に添加された。継続される機械的な撹拌(550rpm)が18時間維持され、酢酸エチルが完全に蒸発できた。
【0056】
粒子は5回の遠心分離(16,100G;8分)で精製され、超音波浴(5分)で1.0mLの水に再拡散された。
【0057】
粒子調製に用いられる全ての水溶液は、殺菌され、細孔サイズが0.22μmの膜(Schleicher and Schuell社、ダッセル、ドイツ)を通して事前にろ過された。用いられた全ての器具が20分間以上、121℃でオートクレーブされた。粒子調製の全ての操作工程が層流キャビネット内で行われた。
【0058】
粒子の平均サイズと多分散性がZetasizer 300HSA(Malvern Instruments社、マルバーン、英国)を用いた光子相関分光法によって測定された。ナノ粒子の量は、微小重力で決定された。
【0059】
直接的な定量方法:PLGAナノ粒子がアセトンに溶解され、光増感剤の含有量を決定するために該溶液が光度的にmTHPPに関して512nmで測定された。PLGAに対する薬剤の比に応じて、ミリグラムPLGAに対してmTHPPが2から320μgの間である薬剤含有効率が得られた(図3)。
【0060】
次のプロトコールに従って、ナノ粒子の凍結乾燥が実行される。
凍結乾燥工程において、トレハロースが3%(m/V)の濃度でナノ粒子試料に添加された。試料は、凍結乾燥機に移され、装置内温度が1℃/分の速度で5℃から−40℃に下げられた。圧力は、0.08mbarに設定された。これらのパラメータは、6時間維持された。0.5℃/分で−40℃から−25℃まで温度が上昇することによって、一次乾燥が終了した。圧力は変化させずに維持された。一次乾燥の熱傾斜の終了時点で、圧力上昇試験(PRT)が実行された。一次乾燥の終了に続いて、0.2℃/分で25℃まで温度を上昇させることで二次乾燥が行われた。この温度は、圧力60mT(=0.08mbar)で6時間維持された。
【0061】
実施例1b
光増感剤5,10,15,20‐テトラキス(3‐ヒドロキシフェニル)‐クロリン、mTHPCを含有するPLGA系ナノ粒子の調製と特徴付け;粒子マトリックスへの吸着および封入結合の組み合わせ
【0062】
mTHPPの代わりにmTHPCを用いたことを除いてナノ粒子が実施例1aに従って調製された。mTHPCが517nmで光度的に定量された。PLGAに対する薬剤の比に応じて、ミリグラムPLGAに対してmTHPCが2から320μgの間である薬剤含有効率得られた。
【0063】
mTHPCを含有するナノ粒子が実施例1aに記載されたように特徴付けされた。
【0064】
実施例1c
光増感剤5,10,15,20‐テトラキス(3‐ヒドロキシフェニル)‐ポルフィリン(mTHPP)を含有するPLGA系ナノ粒子の調製と特徴付け;粒子マトリックスへの吸着のみによる結合
【0065】
上記の標準的な方法(実施例1a)が空のPLGAナノ粒子を調製するために用いられた。光増感剤mTHPPの添加を除いて調製工程が実施例1aに記載されたように行われた。
【0066】
次のステップで、PVAで安定化されたmTHPP溶液が調製された。このため、25mgのmTHPPが5mLの酢酸エチルに溶解され、その後1%PVA水溶液10mLが添加された。Ultra‐Turrax拡散装置で、エマルションが調製された。当該エマルションは、40mLのPVA溶液(1%)に添加された。継続される機械的な撹拌(550rpm)が18時間維持され、酢酸エチルが完全に蒸発できた。
【0067】
10mgのナノ粒子に相当する体積のPLGAナノ粒子懸濁液が遠心分離され(16,100G、8分)、上清が除去された。超音波浴(5分)を用いて、ナノ粒子がPVAで安定化されたmTHPP溶液に再拡散された。
【0068】
粒子表面へのmTHPPの吸着平衡を得るために、混合物が18時間撹拌(500rpm、20℃)された(Thermomixer comfort、Eppendorf社、ハンブルグ、ドイツ)。当該ナノ粒子は、上記のように精製された。
【0069】
PLGAに対する薬剤の比に応じて、ミリグラムPLGAに対してmTHPPが2から80μgの間である薬剤含有効率(具体的には標準プロトコールで20μg)が得られた。
【0070】
mTHPP含有(吸着)ナノ粒子は、実施例1aに記載されたように特徴付けされ、凍結乾燥された。
【0071】
実施例1d
光増感剤5,10,15,20‐テトラキス(3‐ヒドロキシフェニル)‐クロリン、mTHPCを含有するPLGA系ナノ粒子の調製と特徴付け;粒子マトリックスへの吸着のみによる結合
【0072】
ナノ粒子は、mTHPPの代わりにmTHPCを用いたことを除いて実施例1cに従って調製された。mTHPCは517nmで光度的に定量された。
【0073】
PLGAに対する薬剤の比に応じて、ミリグラムPLGAに対してmTHPCが2から80μgの間である薬剤含有率(具体的には標準プロトコールで20μg)が得られた。
【0074】
mTHPC含有(吸着)ナノ粒子は、実施例1aに記載されたように特徴付けされ、凍結乾燥された。
【0075】
実施例1e
光増感剤5,10,15,20‐テトラキス(3‐ヒドロキシフェニル)‐ポルフィリン(mTHPP)を含有するPLGA系ナノ粒子の調製と特徴付け;粒子マトリックスへの封入のみによる結合
【0076】
PLGAナノ粒子は、実施例1aに従って調製された。得られたナノ粒子は、ナノ粒子表面から吸着的に結合したmTHPPを置換するために、精製水の代わりに5%(m/V)PVA水溶液で洗浄された。PVA溶液での洗浄を3回繰り返した後、ナノ粒子は遠心分離および精製水での再拡散を繰り返すことでさらに精製された。
【0077】
PLGAに対する薬剤の比に応じて、ミリグラムPLGAに対してmTHPPが15から80μgの間である薬剤含有効率(具体的には標準プロトコールで50μg)が得られた。
【0078】
mTHPP含有(封入)ナノ粒子は、実施例1aに記載されたように特徴付けされ、凍結乾燥された。
【0079】
実施例1f
光増感剤5,10,15,20‐テトラキス(3‐ヒドロキシフェニル)‐クロリン(mTHPC)を含有するPLGA系ナノ粒子の調製と特徴付け;粒子マトリックスへの封入のみによる結合
【0080】
ナノ粒子は、mTHPPの代わりにmTHPCを用いたことを除いて実施例1eに従って調製された。mTHPCは517nmで光度的に定量された。
【0081】
PLGAに対する薬剤の比に応じて、ミリグラムPLGAに対してmTHPCが15から80μgの間である薬剤含有効率(具体的には標準プロトコールで50μg)が得られた。
【0082】
mTHPC含有(封入)ナノ粒子は、実施例1aに記載されたように特徴付けされ、凍結乾燥された。
【0083】
実施例2a
光増感剤5,10,15,20‐テトラキス(3‐ヒドロキシフェニル)‐ポルフィリン(mTHPP)を含有するPLGA系ナノ粒子の細胞取り込みおよび細胞粘着
【0084】
PLGA系ナノ粒子の細胞内取り込みと粘着、および細胞内分布を解析するために、共焦点レーザー走査顕微鏡法が用いられた。HT29細胞がガラススライド(BD Biosciencees GmbH社、ハイデンベルグ)上で培養され、37℃で4時間、ナノ粒子製剤とインキュベーションされた。続いて、細胞がPBSで2回洗浄され、コンカナバリンA AlexFluor350(50μg/ml;Invitrogen社、カルルスルーエ)によって膜が2分間染色された。細胞は、0.4%パラホルムアルデヒドで6分間固定された。固定後、細胞は2回洗浄され、次にVectashield HardSet Mounting培地(Axxora社、グルンベルグ)に組み込まれた。顕微鏡解析は、510 NLO Meta装置(Zeiss社、イェナ)、カメレオンフェムト秒あるいはアルゴンイオンレーザーおよびLSM Image Examinerソフトウェアを備えるAxiovert 200M顕微鏡で行われた。封入されたLumogen Yellow(登録商標)(BASF社;ルートヴィヒスハーフェン)由来のPLGA系ナノ粒子の緑色蛍光と光増感剤5,10,15,20‐テトラキス(3‐ヒドロキシフェニル)‐ポルフィリン(mTHPP)の赤色自己蛍光が分布の決定に利用された。
【0085】
図4AおよびBは、共焦点レーザー走査顕微鏡法によって調べられた光増感剤5,10,15,20‐テトラキス(3‐ヒドロキシフェニル)‐ポルフィリン(mTHPP)を含有するPLGA系ナノ粒子の細胞取り込み/細胞粘着および細胞内分布を示す。HT29細胞は、ガラススライド上で培養され、ナノ粒子と37℃で4時間インキュベートされた。光増感剤mTHPPの赤色自己蛍光が用いられた。ナノ粒子は、封入されたLumogen Yellow(登録商標)(緑色)を含む。
【0086】
図4Aは、緑色ナノ粒子のチャネルを示し、図4Bは、赤色光増感剤のチャネルを示す。スケールバーは20μmである。
【0087】
実施例2b
光増感剤5,10,15,20‐テトラキス(3‐ヒドロキシフェニル)‐クロリン(mTHPC)を含有するPLGA系ナノ粒子の細胞取り込みおよび細胞粘着
図5AおよびBは、共焦点レーザー走査顕微鏡法によって調べられた光増感剤5,10,15,20‐テトラキス(3‐ヒドロキシフェニル)‐クロリン(mTHPC)を含有するPLGA系ナノ粒子の細胞取り込み/細胞粘着および細胞内分布を示す。HT29細胞は、ガラススライド上で培養され、ナノ粒子と37℃で4時間インキュベートされた。光増感剤mTHPCの赤色自己蛍光が用いられた。ナノ粒子は、封入されたLumogen Yellow(登録商標)(緑色)を含む。
【0088】
図5Aは、緑色ナノ粒子のチャネルを示し、図5Bは、赤色光増感剤のチャネルを示す。スケールバーは20μmである。
【0089】
実施例3
mTHPC光増感剤を含有するPLGAナノ粒子の細胞取り込みおよび光力学活性
表1に挙げた試料がmTHPC‐PLGA‐ナノ粒子の細胞取り込みおよび光毒性に関して調べられた。
【表1】

【0090】
全ての細胞試料は、培地(RPMI1640)において染料濃度3μMのmTHPCで、Jurkat細胞懸濁液に対して1時間、3時間、5時間、24時間インキュベートされた。
【0091】
異なるインキュベーション時間後のJurkat細胞に対する各mTHPCを含有するPLGAナノ粒子の光毒性がトリパンブルー試験と細胞形状のアポトーシス変化で評価された。実験は、660nmのLED光源で暴露時間120秒、290mJ/cmの光量で実行された。
【0092】
図6は、各インキュベーション時間後のJurkat細胞に対する3μMのmTHPCの光毒性、および各mTHPC含有PLGAナノ粒子の光毒性の結果を示す。左がアポトーシスの割合で、右がネクローシスの割合である(対照の細胞は光増感剤なしでインキュベートされ、照射された)。光源はLEDで、λexc=660nmである。暴露時間は120秒である。光量は290mJ/cmである。この実験は、2回繰り返され、各測定で細胞数は、光暴露後2時間で平均を得るために3回計数された。エラーバーは、6回の測定(n=6)の標準偏差を示す。
【0093】
各mTHPCを含有するPLGAナノ粒子の細胞取り込みを定量する実験が行われた。
【0094】
図7は、各インキュベーション時間後のJurkat細胞による3μMのmTHPC、および各mTHPCを含有するPLGAナノ粒子の細胞内取り込みの結果を示す。この実験は、2回繰り返され、各測定で細胞数は、平均を得るために3回計数された。エラーバーは、6回の測定(n=6)の標準偏差を示す。
【0095】
インキュベーション後、細胞は血球計を用いて計数され、洗浄され(PBS、400×g、3分、2回)、細胞沈殿物が細胞膜を破壊するために−20℃で一晩、凍結保存された。
【0096】
超音波を用いて、これらの細胞からmTHPCがエタノールに抽出された。
【0097】
エタノール抽出におけるmTHPCの濃度は、標準的な蛍光系を用いて蛍光強度を介して決定された。細胞内濃度の計算のために、細胞の直径が10μmであると想定された(3回測定)。
【0098】
3つ全てのPLGAナノ粒子が細胞内にmTHPCを移行させる。移行は速い様式で起こり、それはmTHPCがナノ粒子に封入されるときである。
【0099】
インキュベーションの5時間後、全てのナノ粒子が高い光毒性を起こす。
【0100】
本発明に係る好ましい実施の形態が添付された図面を参照することで説明され、本発明は上記実施の形態のみに限定されず、添付の特許請求の範囲に定義された本発明の範囲から逸脱することなく、当業者が改変および改良できることが理解される。
【0101】
(関連出願の相互参照)
本願は、2009年12月11日にKlaus Langerらによって出願された「光力学的療法のための乳酸・グリコール酸共重合体(PLGA)をベースにしたナノ粒子キャリアシステム」というタイトルの米国仮出願番号第61/285,895号の利益と優先権とを主張し、本願で参照することにより組み込まれる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
500nm未満の範囲の乳酸・グリコール酸共重合体粒子と、
治療上有効量のテトラピロール系の疎水性光増感剤と、
安定化剤と、
を含み、
前記光増感剤は、
式Aのクロリン又はバクテリオクロリン誘導体であって、
【化1】

ここで、
は、HまたはOHであって、
からRは、‐OH、‐COOH、‐NH、‐COOX、‐NHX、OX、‐NH‐Y‐COOHまたは‐CO‐Y‐NHからなる置換基の群から互いに独立して選択され、フェニル環のメタ‐、パラ‐位のいずれかにおける置換基であって、
このとき、
Xは、n=1‐30の(CHCHO)CHを有するポリエチレングリコール残基あるいは炭水化物基であって、
Yは、n=1‐30のペプチドまたはオリゴペプチドであって、
環Dは、次の構造を有し、
【化2】

前記安定化剤は、
ポリ(ビニルアルコール)、ポリソルベート、ポロキサマーおよびヒト血清アルブミンを含む標準的な安定剤の群から選択される、
光力学的療法における臨床使用のためのナノ粒子医薬製剤。
【請求項2】
前記光増感剤の治療上有効な濃度は、
ナノ粒子mgあたり10から320μgで極めて可変である、
ことを特徴とする請求項1に記載のナノ粒子医薬製剤。
【請求項3】
前記光増感剤は、
テモポルフィン(mTHPC)、2,3‐ジヒドロキシ‐5,10,15,20‐テトラキス(3‐ヒドロキシフェニル)‐クロリン(mTHPD‐OH)または5,10,15,20‐テトラキス(3‐ヒドロキシフェニル)‐ポルフィリン(mTHPP)である、
ことを特徴とする請求項1に記載のナノ粒子医薬製剤。
【請求項4】
前記薬剤含有ナノ粒子は、
グルコース、トレハロース、スクロース、ソルビトール、マンニトールおよびこれらの組み合わせの群から選択される抗凍結剤の存在下で凍結乾燥される、
ことを特徴とする請求項1に記載のナノ粒子医薬製剤。
【請求項5】
前記製剤が、好ましくは静脈注射を含む非経口手段によって投与される、
ことを特徴とする請求項1に記載のナノ粒子医薬製剤。
【請求項6】
前記製剤が、標的の細胞および組織への光増感剤の高度な移行のために薬剤標的リガンドのナノ粒子表面への付着を可能とする、
ことを特徴とする請求項1に記載のナノ粒子医薬製剤。
【請求項7】
a.有機溶媒にPLGAを溶解するステップと、
b.ろ過器を通して前記PLGA溶液をろ過し、水溶液を安定化するステップと、
c.粒子表面への吸着結合、封入結合およびこれらの組み合わせによって光増感剤を加えるステップと、
d.安定化水溶液を加え、水中油型ナノエマルションを形成するステップと、
e.得られたナノ粒子を精製するステップと、
を含む、
請求項1に記載のナノ粒子医薬製剤の調製方法。
【請求項8】
前記有機溶媒は、
酢酸エチルである、
ことを特徴とする請求項7に記載の調製方法。
【請求項9】
前記安定化水溶液は、
PVAを含む、
ことを特徴とする請求項7に記載の調製方法。
【請求項10】
請求項1に記載のナノ粒子医薬製剤の光力学的療法における使用。
【請求項11】
前記光力学的療法は、
腫瘍、その他の腫瘍性疾患および関連する疾患に対するものである、
ことを特徴とする請求項10に記載のナノ粒子医薬製剤の光力学的療法における使用。
【請求項12】
前記光力学的療法は、
皮膚疾患、眼科疾患および泌尿器疾患および関連する疾患に対するものである、
ことを特徴とする請求項10に記載のナノ粒子医薬製剤の光力学的療法における使用。
【請求項13】
前記光力学的療法は、
関節炎、類似する炎症疾患および関連する疾患に対するものである、
ことを特徴とする請求項10に記載のナノ粒子医薬製剤の光力学的療法における使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4A】
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【図4B】
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【図5A】
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【図5B】
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【図6】
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【図7】
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【公表番号】特表2013−513610(P2013−513610A)
【公表日】平成25年4月22日(2013.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−543222(P2012−543222)
【出願日】平成22年12月8日(2010.12.8)
【国際出願番号】PCT/US2010/059367
【国際公開番号】WO2011/071970
【国際公開日】平成23年6月16日(2011.6.16)
【出願人】(512152868)バイオリテック ファーマ マーケティング リミテッド (3)
【Fターム(参考)】