説明

光反射体用成形品の製造方法及び光反射体

【課題】熱可塑性樹脂組成物から形成される成形品に金属蒸着して、光反射金属層を直接形成させて、成形性(表面平滑性、離型性)に優れ、表面平滑性、金属との密着性、耐熱性が良好で、高温環境下でも光反射金属層に不具合(ユズ肌状欠陥、白化、曇り)を生じにくい光反射体を提供する。
【解決手段】ポリエステル樹脂を含有する熱可塑性樹脂組成物を用いて、算術平均表面粗さRaが0.075μm以下である金型、磨き番手5000番以上で表面を磨いた金型又はクロムめっきした金型で成形することを特徴とする光反射体用成形品の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車用ランプのハウジング、リフレクター、エクステンション、照明器具等の光反射体に使用される光反射体用成形品の製造方法及び光反射体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車用ランプ等に使用されるリフレクターやエクステンション等の光反射体用材料として、熱硬化性樹脂であるバルクモールディングコンパウンド(以下、BMCと略す)が使用されている。BMCは、耐熱性、寸法安定性に優れるものの、成形サイクルが長く、成形時のバリ等の処理に手間がかかり、生産性が低いという問題があった。こうした問題点を解決する手段として、熱可塑性樹脂を用いる検討が行われてきている。
【0003】
熱可塑性樹脂を使った例としては、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル樹脂に代表される結晶性樹脂や、ポリカーボネート樹脂に代表される非晶性樹脂等に、種々の強化材を配合した材料が使用されている。
【0004】
例えば、熱可塑性樹脂としてポリエチレンテレフタレート樹脂を用い、これにガラス繊維及びタルクを強化材として配合した組成物を用いる方法が提案されている(特許文献1参照)。
【0005】
しかしながら、この方法では、フィラーの浮き出しや離型不良により成形品表面の平滑性が不充分であるため、成形品に光反射金属層を形成するに先立って、アンダーコート処理を施し、成形品表面を平滑にすることが必要である。このアンダーコート処理を行わないと、光反射金属層を形成させても鏡面がでず、満足できる光反射体が得られなかった。この様なアンダーコート処理は、工程が余分にかかることと、アンダーコート材に使用される溶剤の処理問題、更に塗料の乾燥が必要であるので、余分なエネルギーが必要になり、また、環境に与える負荷が大きいという問題があった。
【0006】
この様なアンダーコート処理を必要としない方法として、近年、ダイレクト蒸着(直接蒸着)法が提案されている。このダイレクト蒸着法は、成形品に直接金属を蒸着するか、または成形品にプラズマ活性化処理を施した後に金属膜を蒸着させることにより、成形品表面にアンダーコート処理を施すことなく、光反射金属層を直接形成させる方法である。
【0007】
一方、最近では、輝度を高めるために高出力のランプを使用する傾向にあり、ヘッドランプ内の温度が上昇し、反射体の基材として160〜180℃の耐熱温度を要求されるようになってきている。しかしながら、ダイレクト蒸着法により製造された光反射体においては、高温の環境下で長時間保持されると、光反射層が曇るという問題(加熱曇り)が特に顕著であった。
【0008】
この加熱曇り現象には、いくつかのタイプがあり、例えば、(1)基材樹脂の熱変形(表面平滑性の低下)によって、基材樹脂と金属層とが剥離する現象(ユズ肌状欠陥)、(2)基材樹脂の加熱分解ガスによって、基材樹脂と金属層とが剥離または変形する現象(白化)、(3)基材樹脂中の添加剤等の成分の滲み出しによって、基材樹脂と金属層とが剥離または変形する現象(白化)等がある。
【0009】
この加熱曇りの問題を解決するために、種々の試みがなされており、例えば、ポリブチレンテレフタレート樹脂に、無機充填剤、酸化防止剤、内部潤滑剤を配合した樹脂組成物(特許文献2参照)や、ポリブチレンテレフタレート樹脂とポリアルキレンナフタレート樹脂からなる樹脂に、無機強化材、ワックスを配合した樹脂組成物(特許文献3参照)が提案されている。
【0010】
特許文献2に記載されている樹脂組成物は、末端カルボキシル基量を特定量以下とすることにより、基材樹脂であるポリエステル樹脂の熱分解ガスの発生(上記(2)の現象)を抑えることにより、加熱曇り(白化)を抑制するものである。しかしながら、同文献に記載されている樹脂組成物は、50mm角平板のような小型で単純な形状の成形品を成形する場合には問題ないが、離型剤成分が含まれていないため、リフレクターやエクステンション等の大型で複雑な三次元形状の成形品を成形する場合には、離型不良による成形欠陥(成形品の表面平滑性、離型マーク等)の問題が生じる。
【0011】
特許文献3に記載されている樹脂組成物は、ポリアルキレンナフタレート樹脂を用いることにより基材の耐熱性を高め、加熱による基材の表面平滑性の低下(上記(1)の現象)を抑えることによって、加熱曇り(ユズ肌状欠陥)を抑制するものである。しかしながら、同文献に記載されている樹脂組成物は、離型剤ワックスとして、モンタン酸カルシウム(Hostalub CaV102)やモンタン酸ペンタエリスリトールテトラエステル(Hostalub WE40)を用いているため、加熱曇り(白化)、離型マークの問題が生じる。モンタン酸カルシウムを用いた樹脂組成物は、離型性は良好であるものの、モンタン酸カルシウムが高温環境下で滲みだしてくるため、加熱曇り(白化)を生じ、また、モンタン酸ペンタエリスリトールテトラエステルを用いた場合には、加熱曇り(白化)は少ないものの、離型効果が小さいため、離型不良による離型マーク等が発生する。
【0012】
このように、加熱曇りの問題と離型性の問題の両者を同時に満足する熱可塑性樹脂組成物は、これまでなかった。
【0013】
一方、リフレクターやエクステンションが使用されている自動車のヘッドランプは、レンズと部品を収納するケース(ハウジング)で密封された容器中に光源装置、リフレクター、エクステンション等が組み込まれた構造となっているため、光源点灯時に高温に曝される樹脂から揮発分が生じ、それがレンズ部分に付着して、レンズ面が曇るという問題点もある。このレンズ面の曇りはフォギングと呼ばれており、これを改善することも樹脂製リフレクター、エクステンション材料の重要な技術的課題である。熱可塑性ポリエステル樹脂にエポキシ含有物質を添加することによって、フォギング性を改善する検討(特許文献4参照)がされている。しかしながら、特許文献4記載の樹脂組成物においても、前述の光反射金属層の曇り(加熱曇り)の問題があった。
【0014】
また、上記問題が材料面で解決できても、従来のアンダーコート処理をした後に光反射金属層を形成させる場合には問題とはならなかった問題が、材料の種類によっては新たに発生するということが明らかになった。それは、アンダーコート処理をするタイプの光反射体を成形するときに使用する金型と同じ程度の表面状態(表面粗さ)を有する金型を使用すると、成形材料の種類によっては、成形品表面に金型の表面粗さ(凹凸)が転写されてしまい、像鮮映性が悪くなってしまうという問題である。この成形品に転写された金型の凹凸はごく僅かなものであるため、これにアンダーコートを施した場合には、凹凸が平滑化され、従来、特に問題とならなかった。しかしながら、アンダーコートを施さずに光反射体用成形品に直接光反射金属層を形成させた場合には、成形品に転写された凹凸が、光反射体の反射特性に影響を与え、像鮮映性に劣る外観の光反射体しか得ることができなかった。
【特許文献1】特開平6−203613号公報
【特許文献2】特開2000−35509号公報
【特許文献3】特開2002−179895号公報
【特許文献4】特開2001−316573号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明の目的は、ポリエステル樹脂を含む熱可塑性樹脂組成物から光反射体を製造する際に、成形外観、特に像鮮映性に優れた外観を有する光反射体を製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明は、ポリエステル樹脂を含有する熱可塑性樹脂組成物を用いて、算術平均表面粗さRaが0.075μm以下である金型で成形することを特徴とする光反射体用成形品の製造方法、ポリエステル樹脂を含有する熱可塑性樹脂組成物を用いて、磨き番手5000番以上で表面を磨いた金型で成形することを特徴とする光反射体用成形品の製造方法、もしくはポリエステル樹脂を含有する熱可塑性樹脂組成物を用いて、クロムめっきした金型で成形することを特徴とする光反射体用成形品の製造方法に関するものである。
【発明の効果】
【0017】
算術平均表面粗さRaが0.075μm以下である金型で成形することにより、磨き番手5000番以上で磨いた金型で成形することにより、またはクロムメッキ表面処理を行った金型により、ポリエステル樹脂を含有する熱可塑性樹脂組成物を用いた場合であっても、良好な反射外観を有する光反射金属層が直接形成された光反射体を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明について説明する。
【0019】
本発明において用いられるポリエステル樹脂としては、芳香族もしくは脂環式のジカルボン酸又はそれらの誘導体と、ポリオールとを重縮合して得られるポリエステルが挙げられる。ジカルボン酸の例としてはテレフタル酸、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、シクロヘキサンジカルボン酸等があげられる。ポリオールの例としては、メチレン鎖が2〜6であるエチレングリコール、ジエチレングリコール、プロパンジオール、ブタンジオール等のアルキレンジオールや、ビスフェノールAのポリエチレングリコールおよび/またはポリプロピレングリコールの付加体等が挙げられる。
【0020】
(a)ポリエステル樹脂の具体例としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンナフタレート等が挙げられ、それら単体を使用してもよいし、組成および/または分子量の異なるポリエステル樹脂を併用した混合物を使用してもよい。
【0021】
特に、成形性、外観、経済性の観点から、(a−1)ポリブチレンテレフタレートと(a−2)ポリエチレンテレフタレートとを併用することが好ましい。これらを併用する場合の混合比率は、特に制限されないが、(a)ポリエステル樹脂全量中、(a−1)ポリブチレンテレフタレート55〜95質量%、(a−2)ポリエチレンテレフタレート5〜45質量%であることが好ましい。(a−1)ポリブチレンテレフタレートの混合比率が55質量%以上の場合に、成形サイクル時間が短くなり生産性が良好となる傾向にあり、95質量%以下の場合に成形品の表面平滑性が良好となる傾向にある。また、(a−2)ポリエチレンテレフタレートの混合比率が、5質量%以上の場合に、成形品の表面平滑性が良好となる傾向にあり、45質量%以下の場合に、成形サイクル時間が短くなり生産性が良好となる傾向にある。(a−1)成分の混合比率の下限値は、60質量%以上がより好ましく、70質量%以上が特に好ましい。(a−1)成分の混合比率の上限値は、90質量%以下がより好ましく、85質量%以下が特に好ましい。また、(a−2)成分の混合比率の下限値は、10質量%以上がより好ましく、15質量%以上が特に好ましい。(a−2)成分の混合比率の上限値は、40質量%以下がより好ましく、37質量%以下が特に好ましい。
【0022】
(a−1)ポリブチレンテレフタレートは、特に制限されず、ブチレンテレフタレート単位の単独重合体であってもよいし、ブチレンテレフタレート単位を繰り返し単位中70質量%以上含有する共重合体であってもよい。共重合されるモノマーとしては、テレフクル酸およびその低級アルコールエステル以外の二塩基酸成分として、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、アジピン酸、セバシン酸、トリメリット酸、コハク酸等の芳香族もしくは脂肪族多塩基酸またはそれらのエステル等が挙げられる。また、1,4−ブタンジオール以外のグリコール成分としては、例えばエチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、トリメチレングリコール、ヘキサメチレングリコール、ネオベンチルグリコール、シクロヘキサンジメタノール、1,3−オクタンジオール等のアルキレングリコール;ビスフェノールA、4,4’−ジヒドロキシビフェニル等の芳香族アルコール、ビスフェノールAのエチレンオキサイド2モル付加体、ビスフェノールAのプロピレンオキサイド3モル付加体等のアルキレンオキサイド付加体アルコール;グリセリン、ペンタエリスリトール等のポリヒドロキシ化合物またはそれらのエステル形成性誘導体が挙げられる。
【0023】
(a−1)ポリブチレンテレフタレートの分子量は、特に制限されないが、分子量の指標としての25℃における還元粘度(ηsp/C)が0.7〜2.0であることが好ましい。還元粘度が0.7以上の場合に強度が良好となる傾向にあり、2.0以下の場合に流動性および外観が良好となる傾向にある。この還元粘度の下限値は、0.8以上がより好ましく、0.9以上が特に好ましい。また、この還元粘度の上限値は、1.7以下がより好ましく、1.5以下が特に好ましい。
【0024】
(a−2)ポリエチレンテレフタレートは、特に制限されず、エチレンテレフタレート単位の単独重合体であってもよいし、エチレンテレフタレート単位を繰り返し単位中70質量%以上含有する共重合体であってもよい。共重合されるモノマーとしては、テレフタル酸およびその低級アルコールエステル以外の二塩基酸成分として、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、アジピン酸、セバシン酸、トリメリット酸、コハク酸等の芳香族もしくは脂肪族多塩基酸またはそれらのエステル等が挙げられる。エチレングリコール以外のグリコール成分としては、例えばジエチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、トリメチレングリコール、ヘキサメチレングリコール、ネオペンチルグリコール、シクロヘキサンジメタノール、1,3−オクタンジオール等のアルキレングリコール;ビスフェノールA、4,4’−ジヒドロキシビフェニル等の芳香族アルコール、ビスフェノールAのエチレンオキサイド2モル付加体、ビスフェノールAのプロピレンオキサイド3モル付加体等のアルキレンオキサイド付加体アルコール;グリセリン、ペンタエリスリトール等のポリヒドロキシ化合物またはそれらのエステル形成性誘導体が挙げられる。
【0025】
(a−2)ポリエチレンテレフタレートの分子量は、特に制限されないが、分子量の指標としての固有粘度([η])が0.4〜1.0であることが好ましい。固有粘度が0.4以上の場合に強度が良好となる傾向にあり、1.0以下の場合に流動性および外観が良好となる傾向にある。この固有粘度の下限値は、0.45以上がより好ましく、0.5以上が特に好ましい。また、この固有粘度の上限値は、0.9以下がより好ましく、0.8以下が特に好ましい。
【0026】
本発明において熱可塑性樹脂組成物の製造方法は、特に制限されず、例えば、溶融混練法により製造することができる。溶融混練に用いる装置としては、特に制限されず、公知の装置を使用することができ、例えば、押出機、バンバリーミキサー、ローラー、ニーダ一等を使用することができる。
【0027】
本発明においては、熱可塑性樹脂組成物としてポリエステル樹脂を含有する熱可塑性樹脂組成物を用いる場合に、算術平均表面粗さRaが0.075μm以下である金型で光反射体用成形品を製造する。ここで、算術平均表面粗さRaとは、JIS B0601で定義されるものであり、三鷹光器製の非接触三次元測定装置NH−3を用い、評価長さ2mm、カットオフ値0.8mm、評価速度0.3mm/secで金型表面を測定したものである。
【0028】
熱可塑性樹脂組成物を用いて、光反射体用成形品、特に光反射金属層を直接形成するための光反射体用成形品にあっては、熱可塑性樹脂組成物の種類とそれを成形するための金型の組合せが、特に重要である。
【0029】
ポリエステル樹脂を含有する熱可塑性樹脂組成物を成形する場合には、特に金型の表面状態(表面粗さ)が、光反射体用成形品の表面状態に影響を及ぼす。これは、ポリエステル樹脂の流動特性に起因するものであり、ポリエステル樹脂は流動性が良好であるために、金型表面の微小な凹凸の間にも樹脂が流れ込み、その結果、成形品が金型の表面状態をそのまま転写する傾向にある。
【0030】
この傾向は、ポリエステル樹脂の含有量が、熱可塑性樹脂組成物を構成する熱可塑性樹脂中、10質量%以上の場合に発現する傾向にあり、30質量%以上でより顕著になり、50質量%以上でさらに顕著になり、80質量%以上で特に顕著となり、ポリエステル樹脂100質量%の場合最も顕著となる。
【0031】
従って、ポリエステル樹脂の含有量に合わせて、適宜、金型の算術平均表面粗さRaを選択することが好ましい。例えば、ポリエステル樹脂の含有量が、10質量%以上の場合には金型の算術表面粗さRaは0.07μm以下が好ましく、30質量%以上の場合にはRaは0.065μm以下が好ましく、50質量%以上の場合にはRaは0.06μm以下が好ましく、80質量%以上の場合には0.055μm以下が好ましく、100質量%の場合には0.05μm以下が好ましい。
【0032】
金型の表面をこのような算術平均表面粗さRaの範囲にするための方法としては、特に制限はなく、ダイヤモンドヤスリ、砥石、セラミック砥石、ルビー砥石、GC砥石等を用いて超音波研磨機あるいは手作業により金型表面を磨くことによって、所望の算術表面粗さRaに調整することができる。例えば、金型の算術表面粗さRaを0.07μm以下にするためには磨き番手4000番手以上で金型表面を磨くことが好ましく、金型の算術表面粗さRaを0.06μm以下にするためには磨き番手5000番手以上で金型表面を磨くことが好ましく、金型の算術表面粗さRaを0.05μm以下にするためには磨き番手6000番手以上で金型表面を磨くことが好ましく、金型の算術表面粗さRaを0.04μm以下にするためには磨き番手8000番手以上で金型表面を磨くことが好ましく、金型の算術表面粗さRaを0.03μm以下にするためには磨き番手14000番手以上で金型表面を磨くことが好ましい。
【0033】
本発明においては、熱可塑性樹脂組成物としてポリエステル樹脂を含有する熱可塑性樹脂組成物を用いる場合に、上述のよにして磨いた金型の代わりに、クロムめっきした金型を用いてもよい。また、上述のようにして磨いた金型にさらにクロムめっきをしてもよい。もちろん、上述のようにして磨いた金型をそのまま使用しても差し支えない。
【0034】
そして、このような方法で光反射体用成形品を製造することによって、光反射体用成形品の像鮮映性を良好とすることができる傾向にある。ここで、光反射体用成形品の像鮮映性とは、JIS H 8686に準拠して、スガ試験機株式会社製写像性測定器ICM−1DPを用い、光学クシ幅0.5mmで測定したものである。この光反射体用成形品の像鮮映性は、90%以上が好ましく、93%以上がより好ましく、95%以上がさらに好ましく、96%以上が特に好ましく、97%以上が最も好ましい。
【0035】
本発明の光反射体は、前記の熱可塑性樹脂組成物からなる成形品の少なくとも一部の表面に光反射金属層が直接形成されたものである。初期あるいは耐熱試験後の拡散反射率が3%以下の場合に、光反射体としての良好な機能を果たすため、好ましい。また、光反射体の像鮮映性は、90%以上が好ましく、93%以上がより好ましく、95%以上がさらに好ましく、96%以上が特に好ましく、97%以上が最も好ましい。
【0036】
成形品に光反射金属層を直接形成する方法としては、特に制限されず、蒸着等の公知の方法で形成できる。例えば、次に示す方法が挙げられる。
【0037】
(1)まず、成形品を真空状態下の蒸着装置に置き、アルゴン等の不活性ガスと酸素を導入することにより、成形品表面にプラズマ活性化処理を施す。(2)次に、蒸着装置内においてターゲットを担持した電極に通電することで、チャンバー内に誘導放電したプラズマによりスパッタしたスパッタ粒子(アルミ粒子等)を成形体に付着させる。(3)さらに、アルミニウム等金属蒸着膜の保護膜として珪素を含むガスをプラズマ重合処理するか、あるいは、酸化珪素をイオンプレーティング法によりアルミニウム蒸着膜の表面に付着させる。
【実施例】
【0038】
次に、実施例、比較例により、本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらに限
定されるものではない。
[金型の表面粗さの評価方法]
金型の表面を三鷹光器製非接触三次元測定装置NH−3を用いて、評価長さ2mm、カ
ットオフ値0.8mm、評価速度0.3mm/secで測定し、JIS B0601に準
拠して、算術平均表面粗さRaを求めた。
[樹脂の評価方法]
(1)還元粘度(ηsp/C)
ポリブチレンテレフタレート樹脂0.25gに対し、フェノールとテトラクロロエタンの1:1(質量比)混合溶媒(関東化学(株)製、商品名「PTM11」)50mlを添加し、140℃で10〜30分溶解して溶液を得た。これを25℃の恒温水槽中で3分間調温したのち、ウベローデ型粘度計により標線間を通過する時間を測定し、還元粘度ηsp/Cを求めた。
【0039】
ηsp/C=(ηrel−1)/C =(T/T0−1)/C
T:サンプル溶液の毛細管標線通過時間(秒)
T0:混合溶媒のみの毛細管標線間通過時間(秒)
C:サンプル濃度(g/dl)
(2)固有粘度([η])
フェノールとテトラクロロエタンの1:1(質量比)混合溶剤を用い、濃度0.2、0.3、0.4g/dlのポリエチレンテレフタレート樹脂溶液を調製した。各濃度の溶液の粘度を、ウベローデ型自動粘度計(SAN DENSHI(株)製、AVL−2C)を用いて、温度25℃で測定し、得られた値をHugginsプロットにて、濃度0g/dlに外挿して、固有粘度[η]を求めた。
(3)酸価
ベンジルアルコールに、ポリブチレンテレフタレートを溶解させ、1/50N NaOHベンジルアルコール溶液にて滴定して測定した。
[成形品の評価方法]
(1)離型性
各組成の溶融混練ペレットを乾燥後、射出成形機(山城精密社製SANJECT3601 60T)を用いて、シリンダー温度260℃、金型温度80℃、冷却時間20秒、サイクル35秒の条件で、長さ50mm、内径45mm、肉厚3mm〜4mmの円筒形成形品を成形し、離型時の突出し力(離型力)を圧力センサーにより測定した。離型力が小さい程、金型離型性は良好である。
【0040】
なお、この離型力が500N以下のものが、各種ランプの部品として成形する際に、良好な離型性を有する。離型力が500Nを超える場合は、離型性に難があり、生産性の低下が生じたり、大型の成形品や複雑な形状の成形品を成形する際に問題となることがある。
(2)フォギング性
成形品から20mm×10mm程度の小片を切出し、試験管(φ30×200mm)に6g入れ、160℃に温度調節したフォギング試験機(スガ試験機製フォギングテスターWSF−2改良型)にセットした。さらに、上記試験管に、耐熱ガラス(テンパックスガラス55×55×3mmt)の蓋をした後、25℃に温度調節した冷却水を通水したアルミブロックを載せ、160℃で20時間、熱処理を実施した。この熱処理の結果、ガラス板内壁には樹脂組成物より昇華した分解物等による付着物が析出した。これらのガラス板におけるヘイズ(光線の透過度)を、反射・透過率計((株)村上色彩技術研究所製HR−100)を用いて測定した。
【0041】
なお、160℃×20時間加熱後のガラス板ヘイズが45%を超える場合は、各種ランプ部品として実用上問題がある。ガラス板ヘイズが45%以下の場合に、各種ランプの部
品としての機能を果たし、良好で好ましく、20%以下の場合が特に好ましい。
(3)像鮮映性
JIS H 8686に準拠して、スガ試験機株式会社製写像性測定器ICM−1DPを用いて、光学クシ幅0.5mmで光反射体用成形品の像鮮明度を測定した。
[光反射体の評価方法]
(1)目視による外観評価
光反射体の光反射金属層の外観について、耐熱試験の前後で、欠陥(離型マークによる欠陥、ユズ肌状の欠陥、白化)がないか、目視により評価した。
1)離型マーク
◎:樹脂の離型性不良による型表面凹凸の転写(型凹凸転写)による白い模様、および樹脂の収縮による毛羽立ち状凹凸(フローマーク状)の白い模様が、全く無い。
【0042】
○:型凹凸転写による白い模様またはフローマーク状の白い模様が、目視の角度により僅かに認められるが、実用上問題ないレベル。
【0043】
△:型凹凸転写による白い模様またはフローマーク状の白い模様が、表面にある。
【0044】
×:型凹凸転写による白い模様およびフローマーク状の白い模様が、甚だしく目立つ。
2)ユズ肌状の欠陥
◎:表面の荒れ(ザラザラ、ブツブツ感)が全く無い。
【0045】
○:表面の荒れ(ザラザラ、ブツブツ感)が目視の角度により僅かに認められるが、実用上問題ないレベル。
【0046】
△:表面の荒れ(ザラザラ、ブツブツ感)がある。
【0047】
×:表面の荒れ(ザラザラ、ブツブツ感)が甚だしく目立つ。
3)白化(耐熱試験前)
◎:成形時に添加剤が成形品表面へ滲み出したことに起因する不均一な形状(斑点状等)の白化が、全く無い。
【0048】
○:成形時に添加剤が成形品表面へ滲み出したことに起因する不均一な形状(斑点状等)の白化が、目視の角度により僅かに認められるが、実用上問題ないレベル。
【0049】
△:成形時に添加剤が成形品表面へ滲み出したことに起因する不均一な形状(斑点状等)の白化が、認められる。
【0050】
×:成形時に添加剤が成形品表面へ滲み出したことに起因する不均一な形状(斑点状等)の白化が、甚だしく認められる。
4)白化(耐熱試験後)
◎:成形時に添加剤が成形品表面へ滲み出したことに起因する不均一な形状(斑点状等)の白化、または耐熱試験時に添加剤が成形品表面へ滲み出したことに起因する不均一な形状(斑点状等)の白化が、全く無い。
【0051】
○:成形時に添加剤が成形品表面へ滲み出したことに起因する不均一な形状(斑点状等)の白化、または耐熱試験時に添加剤が成形品表面へ滲み出したことに起因する不均一な形状(斑点状等)の白化が、目視の角度により僅かに認められるが、実用上問題ないレベル。
【0052】
△:成形時に添加剤が成形品表面へ滲み出したことに起因する不均一な形状(斑点状等)の白化、または耐熱試験時に添加剤が成形品表面へ滲み出したことに起因する不均一な形状(斑点状等)の白化が、認められる。
【0053】
×:成形時に添加剤が成形品表面へ滲み出したことに起因する不均一な形状(斑点状等)の白化、または耐熱試験時に添加剤が成形品表面へ滲み出したことに起因する不均一な形状(斑点状等)の白化が、甚だしく認められる。
(2)拡散反射率
耐熱試験の前後での光反射体の拡散反射率を、(株)村上色彩技術研究所 反射・透過率計 HR−100を用いて測定した。
【0054】
なお、初期あるいは耐熱試験後の拡散反射率が3%以下の場合に、光反射体としての機能を果たし、良好である。拡散反射率が3%を超える場合は、光反射体として実用上問題がある。
(3)像鮮映性
JIS H 8686に準拠して、スガ試験機株式会社製写像性測定器ICM−1DPを用いて、光学クシ幅0.5mmで光反射体の像鮮明度を測定した。
(4)金属膜接着強度
光反射体の初期および耐熱試験後の金属層接着強度を碁盤目剥離試験により評価した。碁盤目剥離試験は、ニチバン製セロハンテープ(品番:CT−24)を使用し、1mm間隔の碁盤目数100の碁盤目剥離試験を実施した。評価は全碁盤目数に対する成形品表面に残存する碁盤目数の百分率(%)で示した。初期で100%かつ耐熱試験後80%以上のものが、光反射体としての機能を果たし、良好である。
【0055】
なお、光反射体の初期の碁盤目剥離試験は、光反射体用成形品にアルミ蒸着を施した後、室温で24時間以上放置してから行った。また、耐熱試験後の碁盤目剥離試験は、耐熱試験後、光反射体を室温で24時間以上放置してから行った。
(5)耐熱試験
タバイエスベック(株)製ギヤオーブンGPH(H)−100を用いて、光反射体を160℃の熱風中に24時間放置し、熱処理をした。
実施例1
(A)成分として、(a−1)ポリブチレンテレフタレート樹脂(三菱レイヨン(株)製、商品名「タフペットN1300」、還元粘度ηsp/C=1.01、酸価=42meq/kg)80質量部、および(a−2)ポリエチレンテレフタレート樹脂(三菱レイヨン(株)製、商品名「ダイヤナイトMA521H−D」、固有粘度[η]=0.780)20質量部、(B)成分として(B−1)モンタン酸グリセリントリエステル(クラリアントジャパン(株)製、商品名「Licolub WE4」)0.2質量部、(E)強化材として(E−1)タルク(林化成(株)製、商品名「#SG200」、平均粒子径4.4μm)にγ−グリキドキシプロピルトリメトラキシンで表面処理(0.5質量%)したもの1質量部、並びに顔料としてカーボンブラック(住化カラー(株)製、商品名「ブラックBPM−8E756」)0.24質量部を配合し、V型ブレンダーで5分間混合均一化させて、シリンダー温度260℃で直径30mmのベント付き二軸押出機に投入し、ペレットを得た。
【0056】
得られたペレットを用いて、離型力を測定したところ、406Nであった。
【0057】
また、別に、ペレットを射出成形機((株)東芝製IS80FPB)を用いて、シリンダー温度260℃、金型温度80℃の条件で、100mm角の平板用金型(金型表面を#14000で磨き上げたもの、算術平均表面粗さRa=0.03μm)に射出成形して、光反射体用の平板成形品(100mm×100mm)を得た。得られた平板成形品の像鮮映性は98.2%であった。
【0058】
次に、得られた100mm角の平板成形品を用いて、フォギング性を評価したところ、ヘイズの値は27%であった。
【0059】
また、得られた100mm角の平板成形品に、下記方法によりアルミニウムを直接蒸着した。まず、真空状態下の蒸着装置内に不活性ガスと酸素を導入し、チャンバー内をプラズマ状態にして、成形品の表面を活性化させるプラズマ活性化処理を行った。次に、真空状態下の蒸着装置でアルミニウムを蒸着した。蒸着装置内においてターゲットを担持した電極に通電することで、チャンバー内には誘導放電によりプラズマが生成され、プラズマ中のイオンはターゲットをスパッタし、ターゲットから飛び出したスパッタ粒子すなわちアルミニウム粒子が成形品表面に付着し、全面にアルミニウム蒸着膜が形成された。アルミニウム蒸着膜の膜厚は80nmであった。さらに、アルミニウム蒸着面の保護膜として、プラズマ重合処理を行った。プラズマ重合膜は、真空プラズマ状態下にヘキサメチレンジシロキサンを導入し、二酸化珪素重合膜を形成させた。二酸化珪素重合膜の膜厚は50nmであった。
【0060】
このようにして、熱可塑性ポリエステル系樹脂成形品に直接光反射金属層が形成された光反射体を得た。得られた光反射体の評価結果を表1および表3に示す。
【0061】
次に、得られた光反射体の耐熱試験を行った。試験後の光反射体の評価結果を表1に示す。
実施例2〜8
熱可塑性樹脂組成物の組成を、表1の組成とする以外は、実施例1と同様の方法で、ペレット、成形品、光反射体を得た。評価結果を表1に示す。

【表1】

実施例9
実施例1のペレットを用いて、射出成形機((株)東芝製IS80FPB)で、シリンダー温度260℃、金型温度80℃の条件で、100mm角の平板用金型(金型表面を#8000で磨き上げたもの、算術平均表面粗さRa=0.04μm)に射出成形して、光反射体用の平板成形品(100mm×100mm)を得た。得られた100mm角の平板成形品に、実施例1と同様の方法でアルミニウムを直接蒸着して光反射体を得た。得られた光反射体の像鮮映性を表2に示す。
実施例10
平板用金型として、金型表面を#5000で磨き上げた金型(算術平均表面粗さRa=0.06μm)を用いること以外は、実施例9と同様の方法で光反射体を得た。得られた光反射体の像鮮映性を表2に示す。
比較例1
平板用金型として、金型表面を#3000で磨き上げた金型(算術平均表面粗さRa=0.08μm)を用いること以外は、実施例10と同様の方法で光反射体を得た。得られた光反射体の像鮮映性を表2に示す。
比較例2
平板用金型として、金型表面を#800で磨き上げた金型(算術平均表面粗さRa=0.13μm)を用いること以外は、実施例10と同様の方法で光反射体を得た。得られた光反射体の像鮮映性を表2に示す。

【表2】

なお、表1に記載した材料は、以下のものを用いた。
(B−1)モンタン酸グリセリントリエステル:クラリアントジャパン(株)製、商品名「Licolub WE4」
(b−2)モンタン酸ナトリウム:クラリアントジャパン(株)製、商品名「Licomont NaV」
(b−3)モンタン酸カルシウム:クラリアントジャパン(株)製、商品名「Licomont CaV102」
(C−1)脂肪酸グリセリンモノエステル:理研ビタミン(株)製、商品名「リケマールS100A」
(E−1)タルク(平均粒子径4.4μm):林化成(株)製、商品名「#SG200」にγ−グリキドキシプロピルトリメトラキシンで表面処理(0.5質量%)したもの(E−2)タルク(平均粒子径0.9μm):林化成(株)製、商品名「#SG2000」にγ−グリキドキシプロピルトリメトラキシン(エポキシシラン)で表面処理(0.5質量%)したもの
(E−3)カオリン(0.4μm):ステアリン酸で表面処理(0.5質量%)した含水カオリン、ENGELHARD製、商品名「ASP−101」
(その他)安息香酸ナトリウム:和光純薬(株)製

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエステル樹脂を含有する熱可塑性樹脂組成物を用いて、算術平均表面粗さRaが0.075μm以下である金型で成形することを特徴とする光反射体用成形品の製造方法。
【請求項2】
ポリエステル樹脂を含有する熱可塑性樹脂組成物を用いて、磨き番手5000番以上で表面を磨いた金型で成形することを特徴とする光反射体用成形品の製造方法。
【請求項3】
ポリエステル樹脂を含有する熱可塑性樹脂組成物を用いて、クロムめっきした金型で成形することを特徴とする光反射体用成形品の製造方法。
【請求項4】
請求項1〜3に記載の製造方法により得られた光反射体用成形品の少なくとも一部の表面に光反射金属層が直接形成された光反射体。

【公開番号】特開2011−168060(P2011−168060A)
【公開日】平成23年9月1日(2011.9.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−107058(P2011−107058)
【出願日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【分割の表示】特願2004−235995(P2004−235995)の分割
【原出願日】平成16年8月13日(2004.8.13)
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【Fターム(参考)】