説明

光反射板、光反射板の製造方法およびそれを用いた照明用部材

【課題】耐熱性および反射特性に優れ、しかも、優れた加工性を有する光反射板を提供すること。
【解決手段】 基体2と、前記基体2上に形成され、160℃における半結晶化時間が80〜120秒であるポリエステル樹脂を含む樹脂層4と、前記樹脂層4上に形成され、銀または銀合金からなる反射層6と、前記反射層6上に形成され、樹脂を含む保護層8と、を備える光反射板。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光反射板、光反射板の製造方法およびそれを用いた照明用部材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、光反射部材を備えた照明装置として、光ダクト、蛍光灯や水銀灯などの照明器具、液晶表示装置のエッジライト型バックライトなどが知られている。このような照明装置においては、照明の高効率化および省エネルギー化に伴い、照明装置に備えられる光反射部材に対しても、高反射率化が求められている。
【0003】
このような光反射部材としては、一般的に、加工性や耐食性に優れ、軽量化が可能という点より、板状のアルミニウム材を基体として用い、このアルミニウム材を照明装置に応じた所望の形状に加工し、得られた加工品の反射面について、その反射率を向上させるために、反射率の高い銀または銀合金からなる層を、めっきあるいは蒸着により形成することにより製造されている。しかしながら、このように、板状のアルミニウム材を予め所望の形状に加工した後に、銀または銀合金からなる層を形成する方法では、製造コストが高くなるという問題や、適用可能な用途が限られてしまうという問題がある。
【0004】
そのため、反射率の高い銀または銀合金からなる層が予め形成されており、かつ、所望の形状に加工可能な光反射板が、求められている。このような光反射板として、たとえば、特許文献1には、金属やプラスチック板、ガラス板等の基体上に、基体と反射層との密着を向上させるための樹脂層を形成し、この上に、銀鏡反応を利用した銀めっきや銀蒸着などにより反射層を形成し、さらにこの上に、保護層を形成してなる光反射板が開示されている。なお、この特許文献1の具体的な実施例では、基板上に、スプレー塗装によりアクリル樹脂からなる樹脂層を形成する例が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−25716号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
一方で、照明装置用の光反射板においては、照明装置を構成するランプ光源の種類や、使用環境によっては、100℃以上の耐熱性が要求され、さらには、照明装置の使用用途に応じて、様々な形状に加工する必要があることから、加工性に優れていることも求められている。
【0007】
しかしながら、上述した特許文献1に記載された光反射板では、照明装置に適用するために所定の形状に加工して照明用部材とした際に、高温雰囲気下において、光反射板全面に着色が生じてしまい、反射率が著しく低下してしまうという問題がある。なお、この原因としては、高温雰囲気とした場合に、樹脂層(たとえば、スプレー塗装により形成したアクリル樹脂からなる樹脂層)を形成する際に用いた残留溶剤等が気化し、反射層の微細な割れを通じて、保護層を構成する樹脂と相互反応してしまうことなどによると考えられる。
【0008】
本発明は、耐熱性および反射特性に優れ、しかも、優れた加工性を有する光反射板、およびその製造方法を提供することを目的とする。また、本発明は、該光反射板を用いて得られる照明用部材を提供することも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上述の目的を達成すべく鋭意検討した結果、基体上に、樹脂層として、160℃における半結晶化時間が80〜120秒であるポリエステル樹脂を含む樹脂層を形成することで、上記目的を達成できることを見出し本発明を完成させるに至った。
【0010】
すなわち、本発明によれば、基体と、前記基体上に形成され、160℃における半結晶化時間が80〜120秒であるポリエステル樹脂を含む樹脂層と、前記樹脂層上に形成され、銀または銀合金からなる反射層と、前記反射層上に形成され、樹脂を含む保護層と、を備える光反射板が提供される。
【0011】
本発明の光反射板において、好ましくは、前記ポリエステル樹脂が、無配向のポリエステル樹脂である。
本発明の光反射板において、好ましくは、前記ポリエステル樹脂の固有粘度が0.6〜1.4である。
【0012】
本発明によれば、上記いずれかの光反射板を加工成形してなる照明用部材が提供される。
【0013】
また、本発明によれば、基体上に、160℃における半結晶化時間が80〜120秒であるポリエステル樹脂を熱融着により積層して、樹脂層を形成する工程と、前記樹脂層上に、銀または銀合金からなる反射層を形成する工程と、前記反射層上に、樹脂を含有する保護層用溶液を塗布し、乾燥することで、前記樹脂からなる保護層を形成する工程と、を有する光反射板の製造方法が提供される。
【0014】
本発明の製造方法において、前記ポリエステル樹脂の融点が220〜245℃であり、前記ポリエステル樹脂を、その融点以上の温度とすることにより、前記基体上に、前記ポリエステル樹脂を熱融着により積層して、前記樹脂層を形成することが好ましい。
本発明の製造方法において、前記ポリエステル樹脂の固有粘度が0.6〜1.4であることが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、耐熱性および反射特性に優れ、しかも、優れた加工性を有する光反射板、およびその製造方法、ならびに、該光反射板を用いて得られ、耐熱性および反射特性に優れた照明用部材を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】図1は、本実施形態に係る光反射板10の構成を示す図である。
【図2】図2は、本実施形態に係るポリエステル樹脂の半結晶化時間の測定方法を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面に基づいて、本発明の実施形態について説明する。
【0018】
図1は、本実施形態に係る光反射板10の構成を示す図である。図1に示すように、基体2、樹脂層4、反射層6、および保護層8を、この順に積層することにより、形成されている。
【0019】
<基体2>
基体2としては、所望の形状に加工可能な材質で構成すればよいが、本実施形態では、加工性に優れるという点より、金属板を用いる。また、基体2を構成する金属板としては、特に限定されないが、鋼板、アルミニウム板、アルミニウム合金板などが挙げられ、これらのなかでも、耐食性に優れるという点から、アルミニウム合金板が好ましく用いられる。
【0020】
鋼板としては、クロム含有量が11質量%未満の鉄合金の板、または、クロム含有量が11質量%以上の鉄合金、いわゆるステンレスの板が挙げられる。特に、クロム含有量が11質量%未満の鉄合金鋼板は、アルミニウムやステンレスと比べて安価な材料であるため、製品を広く普及させるのに好適である。
【0021】
アルミニウム合金板は、アルミニウムを主成分とし、強度、加工性、耐食性などを付与するためにマグネシウム(Mg)、マンガン(Mn)、シリコン(Si)などを添加し、合金化したものである。アルミニウム合金板のなかでも、1000系のもので0材(焼きなまし材)が好ましい。
【0022】
また、基体2を構成するための金属板としては、表面処理が施された表面処理金属板であってもよい。表面処理金属板としては、上記した金属板の表面に各種めっきを施したもの(たとえば、鋼板に、亜鉛めっきまたは亜鉛合金めっきを施してなる亜鉛めっき鋼板など)、またはアルミニウム板の表面にアルマイト処理を施したものなどが挙げられる。
【0023】
基体2の厚みは、特に限定されず、使用用途に応じて適宜選択すればよいが、通常、0.6〜1.2mmであり、好ましくは0.8〜1.0mmである。
【0024】
<樹脂層4>
樹脂層4は、160℃における半結晶化時間が80〜120秒であるポリエステル樹脂からなる。樹脂層4を設けることで、基体2との間の密着性を向上させ、反射層6の平滑性を向上させることができる。
【0025】
本実施形態においては、樹脂層4を構成する材料として、160℃における半結晶化時間が80〜120秒であるポリエステル樹脂を用いているため、基体2上に、樹脂層4を形成する際には、該ポリエステル樹脂を加熱溶融させた状態とし、加熱溶融させたポリエステル樹脂をフィルム積層法または押出積層法により形成することが可能となる。すなわち、溶剤を用いることなく、樹脂層4を形成することが可能となる。そのため、本実施形態の光反射板10は、高温環境下において、残留溶剤が気化することにより発生する不具合、たとえば、残留溶剤が、保護層8を構成する樹脂と相互反応することにより、着色が生じたり、反射率が著しく低下してしまうという不具合を有効に防止することができる。
【0026】
加えて、樹脂層4を構成する材料として、160℃における半結晶化時間が80〜120秒であるポリエステル樹脂を用いているため、基体2との間の密着性を高くすることができ、その結果、光反射板10を所望の形状に加工した際に、加工により、樹脂層4が、基体2から剥離してしまうという不具合を有効に防止することができる。すなわち、本実施形態においては、樹脂層4を構成する材料として、160℃における半結晶化時間が80〜120秒であるポリエステル樹脂を用いることで、光反射板10を、加工性に優れたものとすることができる。加えて、樹脂層4を構成する材料として、160℃における半結晶化時間が80〜120秒であるポリエステル樹脂を用いることにより、反射層6の平滑性を良好にすることもでき、これにより、反射特性を良好なものとすることができる。
【0027】
樹脂層4を構成するポリエステル樹脂としては、160℃における半結晶化時間が80〜120秒の範囲にあるものであればよく、特に限定されないが、エチレンテレフタレート単位、エチレンイソフタレート単位、ブチレンテレフタレート単位、ブチレンイソフタレート単位などのエステル単位を有するものが好ましく、さらにこれらの中から選択される少なくとも1種類のエステル単位を、主構成単位とするポリエステル樹脂であることが好ましい。また、ポリエステル樹脂としては、上述した各エステル単位が共重合されたものであってもよく、さらには、上述した各エステル単位のホモポリマー、または共重合ポリマーを2種以上ブレンドしてなるものとしてもよい。また、上述したもの以外でも、エステル単位を構成する酸成分として、ナフタレンジカルボン酸、アジピン酸、セバシン酸、トリメリット酸などを用いたものや、エステル単位を構成するアルコール成分として、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、ネオペンチルグリコール、シクロヘキサンジメタノール、ペンタエチスリトールなどを用いたものなどを使用してもよい。
【0028】
また、樹脂層4を構成するポリエステル樹脂の半結晶化時間は、80〜120秒であり、半結晶化時間をこのような範囲とすることにより、光反射板10の反射特性を良好なものとすることができる。ポリエステル樹脂の半結晶化時間が80秒未満の結晶性の高いポリエステル樹脂を用いると基体2との密着性に乏しく、光反射板10を所望の形状に加工した際に、樹脂層4が剥離し易くなり、樹脂層4に割れやクラックが生じやすくなる。また、光反射板10の反射特性が不十分となってしまう。一方、ポリエステル樹脂の半結晶化時間が120秒超である場合には、保護層8を形成するために加熱を行なった際に、加熱により、樹脂層4が融解してしまい、シワが生じてしまい、結果として、光反射板10の反射特性が不十分となってしまう。
【0029】
なお、ポリエステル樹脂の半結晶化時間は、たとえば、示差走査熱分析装置(DSC)を用いて測定することができる。具体的には、DSCを用いて100℃/分の昇温速度でポリエステル樹脂の融解温度以上の290℃まで加熱して、融解させ3分間保持した後、200℃/分の冷却速度で30℃まで急冷し、ポリエステル樹脂を非晶質化させる。そして、このようにして得られた非晶質化した樹脂を、DSCを用いて再び100℃/分の昇温速度で樹脂が結晶化する160℃まで加熱し、20分間保持して結晶化させる。この時、160℃での保持を開始してからの吸熱量を連続的に測定すると、図2に示すように一定時間経過後に吸熱ピークの最低部が出現する。そして、160℃での保持を開始してから吸熱ピークの最低部が出現するまでの時間(すなわち、図2におけるT)を半結晶化時間として求めることができる。
【0030】
また、樹脂層4を構成するポリエステル樹脂としては、固有粘度が0.6〜1.4の範囲であることが好ましく、0.8〜1.2の範囲であることがより好ましい。固有粘度が低すぎると、樹脂層4の強度が低下してしまい、光反射板10を所望の形状に加工した際に、樹脂層4に欠陥が生じ易くなるおそれがある。一方、固有粘度が高すぎると、ポリエステル樹脂を加熱溶融させた際の溶融粘度が極端に高くなってしまい、基体2上に、ポリエステル樹脂からなる樹脂層4を形成する作業が困難となるおそれがある。
【0031】
また、樹脂層4を構成するポリエステル樹脂は、その結晶配向が、無配向であることが好ましい。ポリエステル樹脂として、無配向のものを用いることにより、光反射板10の成形加工性をより向上させることができ、これにより、光反射板10を、照明装置の使用用途に応じて、様々な形状に容易に加工可能なものとすることができる。
【0032】
さらに、樹脂層4を構成するポリエステル樹脂は、融点が、好ましくは220〜245℃であり、より好ましくは225〜243℃である。
【0033】
樹脂層4の厚みは、好ましくは5〜60μmであり、より好ましくは10〜40μmである。樹脂層4の厚みが薄すぎると、基体2上に、樹脂層4を形成する作業が困難となり、光反射板10を所望の形状に加工した際に、樹脂層4に欠陥が生じ易くなるおそれがある。一方、樹脂層4の厚みが厚すぎると、経済的に不利となる。
【0034】
また、樹脂層4の表面粗さRaは、0.1μm以下であること好ましい。表面粗さRaを0.1μm以下とすることにより、拡散反射率を低く抑えることができ、光反射板10を、一部分に導光させる目的で用いる照明装置の光反射部材として、良好に用いることができる。
【0035】
さらに、樹脂層4を構成するエステル樹脂中には、本発明の作用効果を損なわない範囲で、シリカなどの滑剤、安定剤や酸化防止剤などの添加剤を含有させてもよい。ただし、シリカなどの滑剤を含有させる場合には、樹脂層4の表面粗さRaを低く保つために、樹脂層4を、上下2層構造とし、下層にのみ、シリカなどの滑剤を含有させることが好ましい。
【0036】
<反射層6>
反射層6は、銀または銀合金からなる層である。銀は元素の中でも可視光域において高い反射率を有していることから、光反射板10の反射効率を高めるという観点より、好適である。
【0037】
反射層6は、銀鏡反応により銀を還元析出させる無電解めっき法、たとえば、スプレーめっき法により形成することができる。その他に、銀イオンを含む水溶液中で電気分解を行なう電気めっき法や、減圧雰囲気下にて銀を蒸発させて皮膜を形成する蒸着法などにより形成することができる。
【0038】
反射層6の厚みは、好ましくは0.01〜0.3μmであり、より好ましくは0.08〜0.15μmである。反射層6の厚みが薄すぎると、ピンホールが発生してしまい、反射率が低下するおそれがある。一方、反射層6の厚みが厚すぎると、所望の光沢面を得ることができず、反射率が低下するおそれがある。また、経済的にも、反射層6の厚みが厚すぎることは望ましくない。
【0039】
<保護層8>
保護層8は、反射層6を保護するための層であり、樹脂を含む層である。反射層6は、銀または銀合金からなるため、大気に露出されると変色したり、汚れなどを生じ易く、特に、雰囲気がイオウ系ガスを微量でも含む場合に変色し易いという性質を有する。また、反射層6に付着した砂塵、埃を洗浄する場合、反射層6は洗剤による変色跡を残り易いという性質も有する。そのため、保護層8はこれらを防止するために光反射層6上に設けられる層であり、保護層8を設けることにより、長期間にわたり、光反射板10の性能維持および保守管理が可能となる。
【0040】
保護層8を構成する樹脂としては、特に限定されないが、透明性が高く、薄層化が可能な樹脂が好ましく用いられる。保護層8を構成する樹脂の具体例としては、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、シリコーン樹脂などを用いることができる。保護層8は、樹脂を含有する保護層用溶液を用いた塗布法により、形成することができる。
【0041】
保護層8の厚みは、好ましくは1〜15μmであり、より好ましくは3〜10μmである。保護層8の厚みが薄すぎると、反射層6の保護効果が小さくなり、反射層6に変色が発生したり、汚れが生じやすくなったりするおそれがある。一方、保護層8の厚みが厚すぎると、光反射板10の反射率が低下するおそれがある。
【0042】
<光反射板10の製造方法>
次いで、本発明の光反射板10の製造方法について、説明する。
【0043】
まず、基体2を構成するための金属板を準備し、樹脂層4を構成することとなるポリエステル樹脂を用いて、フィルム積層法または押出積層法により、準備した金属板上に、樹脂層4を形成する。
【0044】
樹脂層4を、フィルム積層法で形成する場合には、まず、ポリエステル樹脂のペレットを、ポリエステル樹脂の融解温度より20〜40℃高い温度で加熱溶融させて、Tダイから、冷却したキャストロール上にキャストし、延伸せずにコイラーで巻き取ることにより、無配向のポリエステル樹脂フィルムを作製する。一方、長尺帯状の金属板をアンコイラーから解き戻しながら、金属板を加熱し、加熱した金属板にポリエステル樹脂フィルムを解き戻しながら当接し、1対のラミネートロールで挟み付けて圧着し、結晶化を防止するために直ちに水中に急冷することで、樹脂層4を形成することができる。
金属板は、ポリエステル樹脂の融解温度より−30℃以上に加熱することで金属板上に樹脂層4を形成することができる。なお、ポリエステル樹脂の融解温度より20〜40℃高い温度で金属板を加熱することにより、金属板と樹脂層4との密着性がより高くなる。
【0045】
樹脂層4を、押出積層法で形成する場合には、ポリエステル樹脂のペレットをポリエステル樹脂の融解温度より20〜40℃高い温度で加熱溶融させて、アンコイラーから解き戻される長尺帯状の金属板上にTダイから直接キャストした後、結晶化を防止するため直ちに水中に急冷することで、樹脂層4を形成することができる。
【0046】
なお、上述したフィルム積層法においては、長尺帯状の金属板に予めプライマーを塗布しておき、プライマーを塗布した金属板を加熱した状態で、該金属板のプライマーを塗布した面上に、ポリエステル樹脂フィルムを当接させてもよい。
【0047】
次いで、樹脂層4上に、銀または銀合金からなる反射層6を形成する。以下においては、無電解めっき法により、銀からなる反射層6を形成する方法について、説明する。
まず、樹脂層4と、反射層6との密着性をより向上させるために、樹脂層4の表面に、コロナ放電処理またはグロー放電処理を施す。
【0048】
次いで、樹脂層4の表面に、塩酸を含有する塩化第2錫、塩化第1錫および塩化第2鉄を含んだ水溶液(前処理溶液)を塗布することで、触媒としての錫を樹脂層4の表面に形成する。なお、前処理溶液としては、pHを2以下に調製したものを用いることが好ましい。次いで、イオン交換水または蒸留水を用いて錫を形成させた樹脂層4の表面を洗浄し、樹脂層4表面に残る前処理溶液を除去する。
【0049】
次いで、樹脂層4の表面に、硝酸銀水溶液を塗布する。これにより樹脂層4の表面に析出した銀により、前処理溶液を用いて形成した錫が置換され、銀の始動核が形成される。次いで、イオン交換水または蒸留水を用いて樹脂層4の表面を洗浄し、樹脂層4表面に残る余剰の硝酸銀水溶液を除去する。
【0050】
次いで、銀の始動核が形成された樹脂層4表面に、スプレー噴射によりpH10 〜13のアンモニア性硝酸銀水溶液と、還元剤(例えば、硫酸ヒドラジニウム、グリオキサールなど)を含むpH8〜12の還元剤水溶液とを同時に射出する。なお、この際においては、還元剤水溶液として、還元剤を水に溶解、あるいは希釈したものに水酸化ナトリウムを加えてアルカリ性にしたものを用いる。そして、これにより、樹脂層4表面に形成した銀を始動核として、銀からなる反射層6が形成される。
【0051】
次いで、イオン交換水または蒸留水を用いて洗浄を行い、反射層6の表面に残存しているアンモニア性硝酸銀水溶液と還元剤水溶液とを除去し、エアブローにて反射層6表面に付着している水滴を吹き飛ばし、その後、乾燥を行なう。乾燥条件は、たとえば、70℃、20分とすることができる。
【0052】
なお、本実施形態においては、反射層6を形成する際には、上述したスプレー噴射方式に代えて、浸漬方式を用いてもよいし、さらには、上述した無電解めっき法に代えて、従来公知の電気めっき法や蒸着法などにより、反射層6を形成してもよい。
【0053】
次いで、反射層6上に、保護層8を形成する。保護層8は、保護層8を構成することとなる樹脂を含有する保護層用溶液を、反射層6上に、塗布し、乾燥することで形成することができる。乾燥温度は、好ましくは70〜120℃、より好ましくは、80〜100℃である。乾燥時間は、好ましくは20〜90分、より好ましくは、30〜60分である。なお、本実施形態においては、樹脂層4を、160℃における半結晶化時間が80〜120秒であるポリエステル樹脂を用いて形成しているため、保護層8を形成する際に、上記温度にて加熱を行なった際においても、樹脂層4が融解することで、シワが生じてしまい、これにより反射特性が低下してしまうという不具合の発生を有効に防止することができる。
【0054】
以上のようにして、本実施形態の光反射板10は製造される。
【0055】
本実施形態の光反射板10は、樹脂層4を、160℃における半結晶化時間が80〜120秒であるポリエステル樹脂を用いて形成しているため、耐熱性および反射特性に優れ、しかも優れた加工性を有するものである。特に、本実施形態の光反射板10は、照明装置に応じた所望の形状に加工した後においても優れた耐熱性および反射特性を、長期間にわたり、良好に維持することができるものである。
【0056】
加えて、本実施形態によれば、基体2上に、樹脂層4を形成する際には、樹脂層4を形成することとなるポリエステル樹脂を加熱溶融させた状態とし、加熱溶融させたポリエステル樹脂を用いて、フィルム積層法または押出積層法により形成することができるものである。すなわち、本実施形態によれば、溶剤を用いることなく、樹脂層4を形成することができ、そのため、高温環境下において、残留溶剤が気化することにより発生する不具合、たとえば、残留溶剤が、保護層8を構成する樹脂と相互反応することにより、着色が生じたり、反射率が著しく低下してしまうという不具合を有効に防止することができる。また、本実施形態によれば、接着剤等を用いることなく、基体2にポリエステル樹脂を熱融着させることにより、基体2上に、樹脂層4を形成することができるため、製造コストの低減も可能となる。
【0057】
さらに、本実施形態の光反射板10は、予め反射層6および保護層8を備えるものであるため、本実施形態の光反射板10を、照明装置用の光反射板として用いる際において、照明装置に応じた所望の形状に加工した後に、めっき等により反射層を形成し、さらにその上に保護層を形成するという工程を省くことができ、そのため、製造工程の簡略化が可能となる。
【0058】
<照明用部材>
本実施形態の照明用部材は、上述した本実施形態の光反射板10を、加工成形してなる。光反射板10を、加工成形して、照明用部材を得る方法としては、照明装置に対応した所望の形状とすることが可能な方法であればよく、特に限定されないが、たとえば、へら絞り加工や、プレス加工などが挙げられる。へら絞り加工は、光反射板10を回転させながら所望の形状へ加工する方法である。本実施形態では、光反射板10の反射面への傷つきを防止することができるという点より、プレス加工が好ましい。
【0059】
本実施形態の照明用部材は、上述した本実施形態の光反射板10を用いて得られるものであるため、耐熱性および反射特性に優れるものである。そのため、各種照明装置用の光反射部材として好適に用いることができる。加えて、本実施形態の光反射板10は、予め反射層6および保護層8を備え、さらには、加工性に優れるものであるため、本実施形態によれば、比較的容易かつ、安価に、照明用部材を得ることができる。
【実施例】
【0060】
以下に、実施例を挙げて、本発明についてより具体的に説明するが、本発明は、これら実施例に限定されない。
なお、各特性の定義および評価方法は、以下のとおりである。
【0061】
<ポリエステル樹脂の半結晶化時間>
ポリエステル樹脂の半結晶化時間は、示差走査熱分析装置(DSC)を用いて、上述した方法に従って、測定した。
【0062】
<固有粘度>
ASTM−D2857に準拠して求めた。
【0063】
<反射特性>
各実施例および比較例で得られた光反射板を、ダウンライト用の所定の形状に加工し、得られた加工品について、分光測色計(コニカミノルタ製CM−3500d)を用いて全反射率を測定した。なお、反射特性は、以下の基準により評価した。
○:全反射率85%以上
△:全反射率70%以上、85%未満
×:全反射率70%未満
【0064】
<耐熱性>
各実施例および比較例で得られた光反射板を、ダウンライト用の所定の形状に加工し、得られた加工品について、120℃の電気オーブンにて60日間加熱した後の試料表面の全反射率と着色(表示色系b*にて判定)を分光測色計にて測定した。なお、耐熱性は、以下の基準により評価した。
・全反射率
○:「耐熱試験前の全反射率−耐熱試験後の全反射率」が、−10%以上
×:「耐熱試験前の全反射率−耐熱試験後の全反射率」が、−10%未満
・着色(b*)
○:「耐熱試験前のb*−耐熱試験後のb*」が、10%以下
×:「耐熱試験前のb*−耐熱試験後のb*」が、10%超
【0065】
<照度>
各実施例および比較例で得られた光反射板を、ダウンライト用の所定の形状に加工し、得られた加工品に、光源となるミニクリプトン球を装着して、照明装置を、得て、得られた照明装置から1m離れた場所で照度の測定を行なった。なお、照度の測定は、ミニクリプトン球が鉛直下向きの状態となるように、照明装置を設置し、ミニクリプトン球の直下の照度(1点のみ)、ミニクリプトン球の光源位置から、ミニクリプトン球の光源位置と直下の位置とを結ぶ線に対して、10°の角度で延びる線上の照度(合計4点)、ミニクリプトン球の光源位置から、ミニクリプトン球の光源位置と直下の位置とを結ぶ線に対して、20°の角度で延びる線上の照度(合計4点)を、それぞれ測定し、これらを平均することにより行なった。なお、照度の測定は、照度計(コニカミノルタ製、CL−200)を用いて行った。
【0066】
<実施例1>
ペレット状のポリエステル樹脂(エチレンテレフタレート単位95モル%、エチレンイソフタレート単位5モル%の共重合ポリエステル樹脂、固有粘度:0.9、半結晶化時間:113秒、融点234℃)を、280℃で加熱溶融させて、Tダイから、冷却したキャストロール上にキャストし、延伸せずにコイラーで巻き取ることにより、無配向のポリエステル樹脂フィルムを作製した。そして、得られたポリエステル樹脂フィルムを、220℃に加熱した厚さ1mmの1100系のアルミニウム合金板上に載置し、1対のラミネートロールで挟み付けて圧着した後、結晶化を防止するため直ちに水中に急冷することで、厚さ28μmのポリエステル樹脂とアルミニウム合金板との積層体を得た。次いで、得られた積層体のポリエステル樹脂フィルムを形成した面上に、上述した方法に従い、スプレー噴射による銀鏡反応により厚さ80nmの銀めっき層を形成した。次いで、銀めっき層上に、2液硬化型アクリルシリコン系樹脂塗料(大橋化学工業株式会社製)を主剤60g、硬化剤10g、シンナー200gの割合で配合し、乾燥後の厚さ7μmとなるようにスプレー塗装により形成し、90℃で30分間乾燥することで、保護層を形成することで、図1に示すような構成を有する光反射板を製造した。
【0067】
そして、得られた光反射板を用いて、加工成形後の反射特性、耐熱性、および照度の各評価を行った。結果を表1に示す。
【0068】
<実施例2,3、比較例1,2>
以下に示すポリエステル樹脂を用いた以外は、実施例1と同様にして、光反射板を製造し、同様に評価を行った。結果を表1に示す。
実施例2:エチレンテレフタレート単位98モル%、エチレンイソフタレート単位2モル%の共重合ポリエステル樹脂、固有粘度:0.9、半結晶化時間:85秒、融点:243℃
実施例3:エチレンテレフタレート単位92モル%、エチレンイソフタレート単位8モル%の共重合ポリエステル樹脂、固有粘度:0.7、半結晶化時間:118秒、融点:230℃
比較例1:エチレンテレフタレート単位92モル%、エチレンイソフタレート単位8モル%の共重合ポリエステル樹脂、固有粘度:0.4、半結晶化時間:58秒、融点:252℃
比較例2:エチレンテレフタレート単位90モル%、エチレンイソフタレート単位10モル%の共重合ポリエステル樹脂、固有粘度:0.4、半結晶化時間:165秒、融点:明確な融点を示さなかった
【0069】
<比較例3>
アルミニウム合金板上に、ポリエステル樹脂の代わりに、2液硬化型アクリルウレタン系樹脂塗料(大橋化学工業株式会社製)を主剤50g、硬化剤10g、シンナー100gの割合で配合し、乾燥後の厚さ5μmとなるようにスプレー塗装により形成し、スプレー塗装により形成し、次いで、実施例1と同様にして、アクリルシリコン系樹膜上に、銀めっき層および保護層を形成することで、光反射板を製造した。そして、得られた光反射板について、同様に評価を行った。結果を表1に示す。
【0070】
<比較例4>
ポリエステル樹脂を形成しなかった以外は、実施例1と同様にして、光反射板を製造した。すなわち、比較例4においては、アルミニウム合金板上に、直接、銀めっき層を形成した。そして、得られた光反射板について、同様に評価を行った。結果を表1に示す。
【0071】
【表1】

【0072】
表1に示すように、樹脂層4を、160℃における半結晶化時間が80〜120秒であるポリエステル樹脂を用いて形成した場合には、所望の形状に加工した後においても、反射特性、耐熱性および照度のいずれも優れる結果となった(実施例1〜3)。
【0073】
一方、ポリエステル樹脂として、160℃における半結晶化時間が80秒未満のものを用いた場合には、樹脂層の密着性に劣り、そのため、所望の形状に加工した際に、樹脂層と基体の間で剥離が生じてしまい、反射特性に劣る結果となった(比較例1)。
ポリエステル樹脂として、160℃における半結晶化時間が120秒超のものを用いた場合には、保護層を形成時における加熱により、樹脂層にシワが生じてしまい、反射特性に劣る結果となった。また、シワが生じたことにより、光が拡散してしまい、照度も低下する結果となった(比較例2)。
また、樹脂層を構成する樹脂として、アクリルウレタン樹脂を用いるとともに、スプレー塗装により、樹脂層を形成した場合には、耐熱試験後において、著しく着色が発生し、さらには、反射特性が劣化する結果となり、さらには照度も低くなる結果となった(比較例3)。
さらに、樹脂層を形成しなかった場合には、反射率が低く、高い照度を得ることができなかった(比較例4)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基体と、
前記基体上に形成され、160℃における半結晶化時間が80〜120秒であるポリエステル樹脂を含む樹脂層と、
前記樹脂層上に形成され、銀または銀合金からなる反射層と、
前記反射層上に形成され、樹脂を含む保護層と、を備える光反射板。
【請求項2】
前記ポリエステル樹脂が、無配向のポリエステル樹脂である請求項1に記載の光反射板。
【請求項3】
前記ポリエステル樹脂の固有粘度が0.6〜1.4である請求項1または2に記載の光反射板。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の光反射板を加工成形してなる照明用部材。
【請求項5】
基体上に、160℃における半結晶化時間が80〜120秒であるポリエステル樹脂を熱融着により積層して、樹脂層を形成する工程と、
前記樹脂層上に、銀または銀合金からなる反射層を形成する工程と、
前記反射層上に、樹脂を含有する保護層用溶液を塗布し、乾燥することで、前記樹脂からなる保護層を形成する工程と、を有する光反射板の製造方法。
【請求項6】
前記ポリエステル樹脂の融点が220〜245℃であり、
前記ポリエステル樹脂を、その融点以上の温度とすることにより、前記基体上に、前記ポリエステル樹脂を熱融着により積層して、前記樹脂層を形成する請求項5に記載の光反射板の製造方法。
【請求項7】
前記ポリエステル樹脂の固有粘度が0.6〜1.4である請求項5または6に記載の光反射板の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−155124(P2012−155124A)
【公開日】平成24年8月16日(2012.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−13821(P2011−13821)
【出願日】平成23年1月26日(2011.1.26)
【出願人】(390003193)東洋鋼鈑株式会社 (265)
【Fターム(参考)】