説明

光反応容器及び光反応装置

【課題】本発明は、光反応容器に設けられたポート(開口部)からの光損失を抑制することで、生成物の収率を向上させることの可能な光反応容器及び光反応装置を提供することを課題とする。
【解決手段】光反応容器本体12を貫通するように設けられた少なくとも1つの開口部15と、光反応容器本体12の内面12b側に配置され、光を拡散反射させる拡散反射面16aを備え、かつ開口部15の内周側面15aと接触するように開口部15に配置された拡散反射板16と、拡散反射板16と開口部15の内周側面15aとの間に隙間が形成されるように、拡散反射板16を変位させる拡散反射板変位手段18と、を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガスの光反応に使用される光反応容器及び光反応装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的にガスの光反応は、使用される光源の形状や光の広がり角等に応じた様々な形状のガラス製容器を用いて行われることが多い。光反応における光吸収は、下記(1)式に示すようにLambert−Beerの法則で表される。
【数1】

【0003】
上記(1)式において、Iは初期光量[W]、I(z)は光路長z[cm]における光量[W]、σは光吸収断面積[cm/molecule]、Nは分子密度[molecules/cm]を示している。上記(1)式では、光路長zが大きいほど光吸収が大きくなる。
【0004】
また、光利用率ηは、下記(2)式で表され(但し、σNz≪1の場合)、光路長zに比例して大きい。
【数2】

【0005】
光反応は、Lambert−Beerの法則により光を吸収した分子が、反応のポテンシャル障壁を乗り越えて分子の結合を切断・再結合することにより進行する。
したがって、光反応を効率よく行う(対象反応の速度を上げる)ための方法としては、照射対象の分子数を増加させる方法、吸収断面積が大きくなる光波長を選択する方法、投入光量を増加させる方法、及び光の漏洩や壁面等への吸収を極力減らし、反射等を利用して長光路化する方法の4つを挙げることができる。
【0006】
上記長光路化する方法は、レーザを光源とした光吸収によるガス濃度測定等に見られる方法である。吸収断面積が大きい系に対しては光反応を行う光反応容器(セル)にレーザ光を1度だけ通過させるone−pass方式、或いはone−pass方式を複数回繰り返す方法が用いられる(例えば、特許文献1参照)。
【0007】
一方、吸収断面積が小さい系に対する光反応では、one−pass方式では十分な吸光率を得ることが困難なため、光を複数回反射させて、光路長を飛躍的に増大させることで、吸光率を向上させる長光路方式が用いられる。
【0008】
特許文献2には、光吸収断面積が小さい光反応系において、17Oあるいは18Oを含むオゾン分子にレーザ光を照射し、目的とする酸素同位体を含むオゾン分子を選択的に分解して17Oあるいは18Oを濃縮する方法が開示されている。
【0009】
このときのオゾンの光吸収断面積は、wulf band(近赤外領域)において10−23cm/moleculeの桁の小さな値(水のσより約4桁小さい)である。このような光反応を実施する場合、長光路方式が光の利用効率、すなわち投入エネルギーに対する収率の面でone−pass方式よりも有利である。
【0010】
また、長光路方式には、ミラーを用いて複数回反射を繰り返す多重反射方式と、内表面に拡散反射面を持つ球形、或いは楕円球とされた光反応容器を用いる方式がある。
なお、主に、球形の容器の場合、積分球という。以下、利便性のため、拡散反射面を内部に有する容器全てを積分球という。
【0011】
理想的な拡散反射面は、Lambertian surfaceと呼ばれ、入射光に対して全方向に反射光を放射する。積分球は、拡散反射光が容器壁面、或いは内部試料に吸収されるまでの間に複数回反射を行うことで、長光路化を達成するものである。この方式は、多重反射方式よりも入射光の光路調整が容易であるというメリットがある。
【0012】
非特許文献1には、積分球を利用してガス濃度の分析を試みた報告が記載されている。しかしながら、長光路特性を活かした光反応容器の報告はされていない。
積分球の拡散反射面の材料には、硫酸バリウム、金、銅、或いは圧縮されたPTFE粉末等が用いられる(例えば、非特許文献2参照)。
【0013】
近赤外領域において高反射率を持ち、かつ理想的な拡散反射面の放射角分布を持つ材料としてはPTFE粉末を用いたLabsphere社製「Spectralon(登録商標)」、硫酸バリウムコーティング等が知られている。
【0014】
特に、Spectralon(登録商標)は、耐食性に優れており、宇宙などの極限環境下でも使用されている(例えば、特許文献3参照)。
さらに、Spectralon(登録商標)は、1μmの近赤外光に対する反射率が0.99と高反射率の素材でもある。
【0015】
ここで理想的な積分球として、ポート(開口部)を持たず、照射光の損失は全て積分球内壁面での拡散反射時における壁面への吸収のみであると仮定した場合を考える。この理想積分球の1光子あたりの平均光路長zは以下の式により算出される(例えば、非特許文献3参照)。
【数3】

【0016】
上記(3)式において、Lは積分球内を光子が1度横断するときの全軌跡の平均長、ρは積分球内面反射率、Pは積分球内表面から放出された光子が媒体を1度通過したときに試料に吸収されずに残存する確率をそれぞれ示している。
また、上記Pは、下記(4)式により算出され、上記Lは下記(5)式により算出される。
【数4】

【数5】

【0017】
ここで、上記(4)式において、rは積分球内半径、aは積分球内の試料の吸光係数でありσNに等しい。
このときポートからの光損失は、ポートなしを仮定した積分球内表面積Aからポート断面積を差し引いた実際の積分球内表面積Aを用いると、下記(6)式に示すように、みかけの反射率ρによって表わされる。
【数6】

【0018】
上式から算出されたみかけの反射率ρを、上記(3)式に代入して計算すれば、ポート(開口部)損失を考慮した積分球における平均光路長zが求められ、z−zが理想積分球と実際のポート付積分球との光路長の差となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0019】
【特許文献1】特開平06−190243号公報
【特許文献2】特開2006−272090号公報
【特許文献3】米国特許第3,764,364号明細書
【非特許文献】
【0020】
【非特許文献1】S.Tranchart,I.H.Bachir and J. Destombes,Applied Optics,Vol.35,No.36,1996,pp.7070−7074.
【非特許文献2】Victor R.Weidner and Jack J. Hsia, J. Opt. Soc. Am,Vol.71,No.7,1981,pp.856−861.
【非特許文献3】J.T.O.Kirk, Applied Optics,Vol.34, No.21,1995,pp.4397−4408.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0021】
ガスを照射対象とする光反応容器として積分球を用いる場合、積分球にガス試料を導入・排出するガスポート(ガス用開口部)が必要となる。このとき何も対策を施さなければ、各ポート(開口部)からの漏れ光が発生する。
漏れ光が発生するとその分、積分球の光路長は減少する。これを防ぐ方法として、2つの方法がある。1つは、積分球のポート径を極力小さくするという方法であり、もう1つは、使用しないポートを内表面材料と同じ物質で製作されたキャップで塞ぐという方法である。
【0022】
しかしながら、積分球のポート径を極力小さくする方法では、ガス導入・排気の際の圧力損失の増大を招く。また、使用しないポートを内表面材料と同じ物質で製作されたキャップで塞ぐという方法では、ポートに接続されているガス管等をガス封入時に取り外す必要がある。
このため、上記2つの方法を用いた場合、試料の損失や圧力温度条件の変動要因となり生成物の収率を下げるという問題があった。
【0023】
そこで、本発明は、光反応容器に設けられたポート(開口部)からの光損失を抑制することで、生成物の収率を向上させることの可能な光反応容器及び光反応装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0024】
上記課題を解決するため、請求項1に係る発明によれば、ガスの光反応に用いられる光反応容器本体を有する光反応容器であって、前記光反応容器本体を貫通するように設けられた少なくとも1つの開口部と、前記光反応容器本体の内面側に配置され、前記光を拡散反射させる拡散反射面を備え、かつ前記開口部の内周側面と接触するように前記開口部に配置された拡散反射板と、前記拡散反射板と前記開口部の内周側面との間に隙間が形成されるように、前記拡散反射板を変位させる拡散反射板変位手段と、を有することを特徴とする光反応容器が提供される。
【0025】
また、請求項2に係る発明によれば、前記開口部は、前記光反応容器本体の外面から前記光反応容器本体の内面に向かうにつれて、開口径が狭くなる形状とされており、前記拡散反射板は、前記開口部の形状と略等しい形状とされており、前記拡散反射板変位手段は、前記拡散反射板の中心と前記光反応容器本体の中心とを結ぶ線方向に前記拡散反射板を移動させることを特徴とする請求項1記載の光反応容器が提供される。
【0026】
また、請求項3に係る発明によれば、前記開口部は、前記光反応容器本体の外面から前記光反応容器本体の内面に向かうにつれて、開口径が狭くなる形状とされており、前記拡散反射板は、前記開口部のうち、前記光反応容器本体の内面側に配置されており、前記拡散反射板変位手段は、前記開口部内において前記拡散反射板を回転させることを特徴とする請求項1記載の光反応容器が提供される。
【0027】
また、請求項4に係る発明によれば、前記拡散反射板変位手段は、一方の端が前記拡散反射板と接続された軸部と、前記光反応容器本体の外面のうち、前記隙間が形成される面を露出する空間、及び該空間を介して、前記光反応容器本体内に前記ガスを導入及び導出するためのガス用開口部を有し、かつ前記軸部の一部を移動可能に支持する軸支持部と、前記軸支持部の外側に位置する前記軸部の他方の端に設けられ、前記軸部を介して、前記拡散反射板を移動させるハンドル部と、を含むことを特徴とする請求項2記載の光反応容器が提供される。
【0028】
また、請求項5に係る発明によれば、前記拡散反射板変位手段は、一部が前記光反応容器本体に内設され、一方の端が前記拡散反射板の外周側面と接続された軸部と、前記光反応容器本体から露出された前記軸部の他端と接続され、前記軸部を介して、前記拡散反射板を回転させるハンドル部と、を含むことを特徴とする請求項3記載の光反応容器が提供される。
【0029】
また、請求項6に係る発明によれば、前記光反応容器本体を貫通するように配置され、前記光反応容器本体内に光を照射する光ファイバーを設けたことを特徴とする請求項1ないし5のうち、いずれか1項記載の光反応容器が提供される。
【0030】
また、請求項7に係る発明によれば、前記光反応容器本体の内面に、該光反応容器本体の内面の形状に対応する曲面とされた反射面を有する反射層を設けたことを特徴とする請求項1ないし6のうち、いずれか1項記載の光反応容器が提供される。
【0031】
また、請求項8に係る発明によれば、前記拡散反射面は、前記反射面と共に連続した曲面を構成することを特徴とする請求項7記載の光反応容器が提供される。
【0032】
また、請求項9に係る発明によれば、前記拡散反射板のうち、少なくとも前記拡散反射面を構成する部分の材料が、PTFE、硫酸バリウム、金、銀、銅のうち、少なくとも1つの材料よりなることを特徴とする請求項1ないし8のうち、いずれか1項記載の光反応容器が提供される。
【0033】
また、請求項10に係る発明によれば、前記光反応容器本体の形状は、内部が中空とされた球体であることを特徴とする請求項1ないし9のうち、いずれか1項記載の光反応容器が提供される。
【0034】
また、請求項11に係る発明によれば、前記光反応容器本体の温度を調整する冷凍機を設けたことを特徴とする請求項1ないし10のうち、いずれか1項記載の光反応容器が提供される。
【0035】
また、請求項12に係る発明によれば、請求項1ないし11のうち、いずれか1項記載の光反応容器を複数設け、複数の前記光反応容器を並列に接続し、複数の前記光反応容器を切り替え可能な構成としたことを特徴とする光反応装置が提供される。
【発明の効果】
【0036】
本発明の光反応容器によれば、光反応容器本体を貫通するように設けられた少なくとも1つの開口部と、光反応容器本体の内面側に配置され、光を拡散反射させる拡散反射面を備え、かつ開口部の内周側面と接触するように開口部に配置された拡散反射板と、拡散反射板と開口部の内周側面との間に隙間が形成されるように、拡散反射板を変位させる拡散反射板変位手段と、を有することにより、開口部の内周側面と拡散反射板とを接触させて光反応容器本体内の雰囲気を気密することが可能になると共に、拡散反射板変位手段により拡散反射板を変位させて、拡散反射板と開口部の内周側面との間に隙間を形成し、該隙間を介して、光反応容器本体内にガスを導入または導出させることが可能となる。
【0037】
これにより、光反応容器本体に設けられた開口部からの光損失を抑制することが可能となり、入射光を有効利用することが可能となるので、生成物の収率を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明の第1の実施の形態に係る光反応容器の概略構成を示す断面図であり、光反応容器本体内の雰囲気が気密された状態を模式的に示す図である。
【図2】開口部の内周側面と拡散反射板との間にガスを導入及び導出する隙間が形成された状態の図1に示す光反応容器を模式的に示す断面図である。
【図3】本発明の第2の実施の形態に係る光反応容器の概略構成を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0039】
(第1の実施の形態)
図1は、本発明の第1の実施の形態に係る光反応容器の概略構成を示す断面図であり、光反応容器本体内の雰囲気が気密された状態を模式的に示す図である。
図1を参照するに、第1の実施の形態の光反応容器10は、筐体11と、光反応容器本体12と、反射層13と、光ファイバー14と、開口部15(ポート)と、拡散反射板16と、拡散反射板変位手段18と、を有する。
【0040】
筐体11は、光反応容器本体12を収容しており、断面形状が円形とされた光反応容器本体12の外面12aの一部(図1では4箇所)と接触している。また、筐体11は、開口部15を露出している。
光反応容器本体12は、断面形状が円形とされている。光反応容器本体12は、曲面とされた外面12a及び内面12bと、内部に形成された空間21と、を有する。光反応容器本体12としては、円筒状とされた容器や、内部が中空とされた球形の容器等を用いることができる。光反応容器本体12の材料としては、例えば、テフロン(登録商標)を用いることができる。
【0041】
反射層13は、光反応容器本体12の内面12bを覆うように設けられている。反射層13は、光反応容器本体の内面の形状に対応する曲面とされ、空間21に露出された反射面13aを有する。反射層13としては、例えば、Spectralon(登録商標)を用いることができる。
【0042】
光ファイバー14は、反射層13が形成された光反応容器本体12を貫通するように設けられている。光ファイバー14は、光を照射する先端部14Aを有する。先端部14Aは、光反応容器本体12内に形成された空間21に配置されている。
【0043】
開口部15は、反射層13が形成された光反応容器本体12の一部を貫通するように設けられている。開口部15は、光反応容器本体12の外面12aから光反応容器本体12の内面12bに向かうにつれて、開口径が狭くなる略円錐台形状とされている。
【0044】
拡散反射板16は、開口部の形状と略等しい形状、つまり、光反応容器本体12の外面12aから光反応容器本体12の内面12bに向かうにつれて、幅が狭くなる略円錐台形状とされている。
開口部15に拡散反射板16が完全に収容された際、拡散反射板16の外周側面16b全体は、開口部15の内周側面15a全体と接触する(図1参照)。これにより、光反応容器本体12内の空間21は気密される。
【0045】
拡散反射板16は、光反応容器本体12の内面12b側に配置され、光を拡散反射させる拡散反射面16aを有する。開口部15に拡散反射板16が完全に収容された際、拡散反射面16aは、反射面13aと共に連続した曲面を構成している。
拡散反射板16のうち、少なくとも拡散反射面16aを構成する部分の材料としては、PTFE、硫酸バリウム、金、銀、銅のうち、少なくとも1つの材料を用いることができる。
拡散反射板変位手段18は、軸部25と、軸支持部26と、ハンドル部28と、を有する。軸部25は、一方の端が、拡散反射板16のうち、拡散反射面16aの反対側に位置する部分と接続されている。
【0046】
軸支持部26は、開口部15を露出するように、筐体11の外壁に設けられている。 軸支持部26は、シール材を介して、軸部25の一部を移動可能に支持している。
軸支持部26は、光反応容器本体12の外面12aのうち、軸支持部26内の空間26Aを介して、光反応容器本体12内にガスを導入及び導出するためのガス用開口部29と、内部にガス用開口部29と接続され、開口部15及び拡散反射板16を露出する空間26Aと、を有する。ガス用開口部29は、空間26Aに試料ガスを供給する。
【0047】
図2は、開口部の内周側面と拡散反射板との間にガスを導入及び導出する隙間が形成された状態の図1に示す光反応容器を模式的に示す断面図である。図2において、図1に示す光反応容器1と同一構成部分には同一符号を付す。
図1及び図2を参照するに、ハンドル部28は、軸支持部26の外側に位置する軸部25の他方の端に設けられている。
図2を参照するに、ハンドル部28は、軸部25を介して、拡散反射板16の中心Cと光反応容器本体12の中心Cとを結ぶ線方向Aに拡散反射板16を移動させる。
【0048】
図2に示すように、ハンドル部18を引っ張って、図1に示す状態から拡散反射板16を右方向に移動させることで、開口部15の内周側面15aと拡散反射板16の外周側面16bとの間に隙間31が形成される。この隙間31を介して、反応容器本体12内に試料ガスが導入、或いは反応容器本体12から試料ガスが排出される。
また、空間21を気密したい場合には、ハンドル部28を左側に押し込むことで、図2に示す拡散反射板16を左方向に移動させて、図1に示すように、開口部15の内周側面15aと拡散反射板16の外周側面16b全体とを接触させる。
【0049】
ところで、光反応容器本体12の大きさは自由に決められるが、約0.5m以上の直径とされた光反応容器本体12では一体型圧縮テフロン(登録商標)面を製作することが難しくなる。
そこで、光反応容器本体12を小さなブロックに分割したものをまず製作し、その後、ブロック同士を球形に組み合わせる方法が取られるが、この方法では一定量の隙間が発生するため反射率のロスを考慮する必要がある。
【0050】
本発明では、そのようなブロック間の隙間を考慮しなくてもよい一体型の光反応容器本体12について考える。
光反応容器本体12の内側の半径をr=0.1(m)とし、かつ反射層13としてSpectralonを用いた場合、反射率は0.990となる。
【0051】
ここで、オゾンにCFを添加した系にレーザ照射することでターゲットとなる酸素同位体を含むオゾンを選択的に分解し酸素同位体を濃縮する方法(特許文献2に記載された方法)を用いた場合について説明する。
【0052】
オゾンのWulf帯における吸光係数aは、約1.0×10−6−1である。反応に用いる光を光反応容器本体12に伝播する光ファイバー14には、伝搬モードの違いにより大きく分けて、シングルモードファイバーとマルチモードファイバーの2種類がある。
シングルモードファイバーは、単一モードのみ搬送するが、コア径が5〜15μmと小さく、光源からの光をファイバー結合する際のロスが大きい。
【0053】
一方、マルチモードファイバーは、複数モードの光を伝搬するがコア径が40〜100μmと大きいため、本発明の光反応用途に適している。
例えば、コア径100μmのマルチモードファイバーを用いても、光反応容器本体12の内面12bの表面積に対してコア断面積は10桁以上小さく、光ファイバー14から外部に漏洩する光損失は無視できる。
【0054】
光ファイバー14からの入射光量I = 1Wとし、図1に示す拡散反射板16の径を6.35 mmとすると、拡散反射板16の断面積は、約3.17×10−5である。
一方、ガス用開口部29(ガスポート)の接続がなく、拡散反射板16の設置箇所が拡散反射面16aで完全に覆われている場合の光反応容器本体12の内面12bの表面積は、約1.26×10−2である。
【0055】
したがって、拡散反射板16の有無による光反応容器本体12の内面12bの表面積の比A/A= 2.52×10−3となる。したがって、拡散反射板16で塞がれていない場合の反射面13aにおけるみなし反射率はρ1≒0.9875となる。
このみなし反射率を用いると、下記式(7)〜(9)より、拡散反射板16がない場合の光損失を考慮した光路長z=10.7mが算出される。
【数7】

【数8】

【数9】

【0056】
一方、図1に示すように、拡散反射面16aを有する拡散反射板16を設けた場合には、拡散反射板16と光反応容器本体12との間のわずかな隙間による損失は発生するが、これは無視できる程度であり、反射面13aにおける反射率は、略開口部15(ポート)を考慮しない理想積分球に等しい。
したがって、Spectralon(登録商標)の反射率を、そのままρ=0.990として用いることができ、平均光路長z [m] は、上記式(7)〜(9)により13.3 mとなる。
【0057】
第1の実施の形態の光反応容器によれば、反射層13が形成された光反応容器本体12を貫通するように設けられた少なくとも1つの開口部15と、光反応容器本体12の内面12b側に光を拡散反射させる拡散反射面16aを備え、かつ開口部15の内周側面15aと接触するように開口部15に配置された拡散反射板16と、拡散反射板16と開口部15の内周側面15aとの間に隙間31が形成されるように、拡散反射板16を変位させる拡散反射板変位手段18と、を有することにより、開口部15の内周側面15aと拡散反射板16とを接触させて光反応容器本体12内の雰囲気を気密することが可能になると共に、拡散反射板変位手段18により拡散反射板16を移動させて、拡散反射板16と開口部15の内周側面15aとの間に隙間31を形成し、該隙間31を介して、光反応容器本体12内に試料ガスを導入または排出させることが可能となる。
【0058】
これにより、開口部15からの光損失を抑制することが可能となり、入射光を有効利用することが可能となるので、生成物の収率を向上させることができる。
【0059】
なお、図1及び図2には、図示していないが、光反応容器本体12の温度を調整する冷凍機を設けてもよい。
また、図示してはいないが、並列に接続された複数の光反応容器10により、複数の光反応容器10を切り替え可能とされた光反応装置を構成してもよい。
【0060】
(第2の実施の形態)
図3は、本発明の第2の実施の形態に係る光反応容器の概略構成を示す断面図であり、光反応容器本体内の雰囲気が気密された状態を模式的に示す図である。
図3を参照するに、第2の実施の形態の光反応容器40は、第1の実施の形態の光反応容器10に設けられた拡散反射板16及び拡散反射板変位手段18の替わりに、拡散反射板41、拡散反射板変位手段43、及びガス用開口部44を設けた以外は、光反応容器10と同様に構成される。
【0061】
拡散反射板41は、開口部15のうち、光反応容器本体12の内面12b側に配置されており、円形板形状とされている。図3では、空間21が気密された状態を示しており、この状態では、拡散反射板41の外周側面41a全体は、開口部15の内周側面15a全体と接触している。
【0062】
拡散反射板41は、光反応容器本体12の内面12b側に配置され、光を拡散反射させる拡散反射面41aを有する。図1に示す状態において、拡散反射面41aは、反射面13aと共に連続した曲面を構成している。
拡散反射板41のうち、少なくとも拡散反射面41aを構成する部分の材料としては、PTFE、硫酸バリウム、金、銀、銅のうち、少なくとも1つの材料を用いることができる。
【0063】
拡散反射板変位手段43は、第1の実施の形態で説明した拡散反射板変位手段18(図1参照)に設けられた軸部25及びハンドル部28と、軸支持部45と、を有する。
軸部25は、筐体11及び光反応容器本体12を貫通するように設けられており、一方の端が拡散反射板41の外周側面と接続されている。軸部25は、回転可能な構成とされており、回転することで、拡散反射板41を回転させる。
【0064】
ハンドル部28は、軸支持部45から露出され、筐体11の外部に設けられた軸部25の他方の端と接続されている。ハンドル部28を回転させることで、拡散反射板41が回転し、拡散反射板41と開口部の内周側面15aとの間に隙間(図示せず)が形成される。
軸支持部45は、筐体11の外壁に設けられている。軸支持部45は、シール材を介して、軸部25の一部を移動可能な状態で支持している。
ガス用開口部44は、筐体11の外壁に設けられており、開口部15を露出している。ガス用開口部44は、試料ガスを空間21に導入及び導出するための開口部である。
【0065】
上記構成とされた第2の実施の形態の光反応容器40に設けられた拡散反射板変位手段43は、バタフライバルブと同等の構造を有するものであり、拡散反射板41を90度回転させて光反応容器本体12とガス用開口部44とを接続したときの圧力損失は、第1の実施の形態の光反応容器10よりも小さくすることができる。
【0066】
ただし、第2の実施の形態では、拡散反射板41の外周側面41bと開口部15内周側面15aとの接触は、押圧によるものではないので、第1の実施に形態と比較して、リーク性能が悪化する虞があるので、必要な性能に応じて第1の実施の形態の光反応容器10の構造、または第2の実施の形態の光反応容器40の構造を選択することが望ましい。
【0067】
なお、図3には、図示していないが、光反応容器本体12の温度を調整する冷凍機を設けてもよい。
また、図示してはいないが、並列に接続された複数の光反応容器40により、複数の光反応容器40を切り替え可能とされた光反応装置を構成してもよい。
【0068】
以上、本発明の好ましい実施の形態について詳述したが、本発明はかかる特定の実施の形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲内に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0069】
本発明は、光反応容器本体に設けられた開口部からの光損失を抑制することで、生成物の収率を向上させることの可能な光反応容器及び光反応装置に適用可能である。
【符号の説明】
【0070】
10,40…光反応容器、11…筐体、12…光反応容器本体、12a…外面、12b…内面、13…反射層、13a…反射面、14…光ファイバー、14A…先端部、15…開口部、15a…内周側面、16,41…拡散反射板、16a,41a…拡散反射面、16b,41b…外周側面、18,43…拡散反射板変位手段、21,26A…空間、25…軸部、26,45…軸支持部、28…ハンドル部、29,44…ガス用開口部、31…隙間、A…線方向、C,C…中心、M,M…厚さ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガスの光反応に用いられる光反応容器本体を有する光反応容器であって、
前記光反応容器本体を貫通するように設けられた少なくとも1つの開口部と、
前記光反応容器本体の内面側に配置され、前記光を拡散反射させる拡散反射面を備え、かつ前記開口部の内周側面と接触するように前記開口部に配置された拡散反射板と、
前記拡散反射板と前記開口部の内周側面との間に隙間が形成されるように、前記拡散反射板を変位させる拡散反射板変位手段と、
を有することを特徴とする光反応容器。
【請求項2】
前記開口部は、前記光反応容器本体の外面から前記光反応容器本体の内面に向かうにつれて、開口径が狭くなる形状とされており、
前記拡散反射板は、前記開口部の形状と略等しい形状とされており、
前記拡散反射板変位手段は、前記拡散反射板の中心と前記光反応容器本体の中心とを結ぶ線方向に前記拡散反射板を移動させることを特徴とする請求項1記載の光反応容器。
【請求項3】
前記開口部は、前記光反応容器本体の外面から前記光反応容器本体の内面に向かうにつれて、開口径が狭くなる形状とされており、
前記拡散反射板は、前記開口部のうち、前記光反応容器本体の内面側に配置されており、
前記拡散反射板変位手段は、前記開口部内において前記拡散反射板を回転させることを特徴とする請求項1記載の光反応容器。
【請求項4】
前記拡散反射板変位手段は、一方の端が前記拡散反射板と接続された軸部と、
前記光反応容器本体の外面のうち、前記隙間が形成される面を露出する空間、及び該空間を介して、前記光反応容器本体内に前記ガスを導入及び導出するためのガス用開口部を有し、かつ前記軸部の一部を移動可能に支持する軸支持部と、
前記軸支持部の外側に位置する前記軸部の他方の端に設けられ、前記軸部を介して、前記拡散反射板を移動させるハンドル部と、
を含むことを特徴とする請求項2記載の光反応容器。
【請求項5】
前記拡散反射板変位手段は、一部が前記光反応容器本体に内設され、一方の端が前記拡散反射板の外周側面と接続された軸部と、
前記光反応容器本体から露出された前記軸部の他端と接続され、前記軸部を介して、前記拡散反射板を回転させるハンドル部と、
を含むことを特徴とする請求項3記載の光反応容器。
【請求項6】
前記光反応容器本体を貫通するように配置され、前記光反応容器本体内に光を照射する光ファイバーを設けたことを特徴とする請求項1ないし5のうち、いずれか1項記載の光反応容器。
【請求項7】
前記光反応容器本体の内面に、該光反応容器本体の内面の形状に対応する曲面とされた反射面を有する反射層を設けたことを特徴とする請求項1ないし6のうち、いずれか1項記載の光反応容器。
【請求項8】
前記拡散反射面は、前記反射面と共に連続した曲面を構成することを特徴とする請求項7記載の光反応容器。
【請求項9】
前記拡散反射板のうち、少なくとも前記拡散反射面を構成する部分の材料が、PTFE、硫酸バリウム、金、銀、銅のうち、少なくとも1つの材料よりなることを特徴とする請求項1ないし8のうち、いずれか1項記載の光反応容器。
【請求項10】
前記光反応容器本体の形状は、内部が中空とされた球体であることを特徴とする請求項1ないし9のうち、いずれか1項記載の光反応容器。
【請求項11】
前記光反応容器本体の温度を調整する冷凍機を設けたことを特徴とする請求項1ないし10のうち、いずれか1項記載の光反応容器。
【請求項12】
請求項1ないし11のうち、いずれか1項記載の光反応容器を複数設け、
複数の前記光反応容器を並列に接続し、
複数の前記光反応容器を切り替え可能な構成としたことを特徴とする光反応装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−239983(P2012−239983A)
【公開日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−112721(P2011−112721)
【出願日】平成23年5月19日(2011.5.19)
【出願人】(000231235)大陽日酸株式会社 (642)
【Fターム(参考)】