説明

光周波数コム発生装置及びそれを用いた光パルス発生装置、並びに光周波数コム発生方法及びそれを用いた光パルス発生方法

【課題】光周波数コムの駆動条件を精確に制御することが可能であり、制御に係る構成が複雑化せず、高コスト化しない、光周波数コム発生装置及びそれを用いた光パルス発生装置、並びに光周波数コム発生方法及びそれを用いた光パルス発生方法を提供する。
【解決手段】マッハツェンダー型光導波路の2つの分岐導波路を伝搬する光波を独立に変調する2つの光変調部41,42と、伝搬する光波の位相差を制御する位相調整部43とを有する光周波数コム発生装置において、少なくとも一方の光変調部に印加するRF信号の電圧振幅を調整する振幅調整手段22と、出力光の強度をモニタするモニタ手段21と、振幅調整手段を制御して各光変調部に印加されるRF信号の電圧振幅の差を変化させ、電圧振幅差の変化に対応する出力光の変化を、モニタ手段の出力信号から検出し、検出結果に基づき位相調整部を制御して位相差を調整するバイアス制御回路20を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は光周波数コム発生装置及びそれを用いた光パルス発生装置、並びに光周波数コム発生方法及びそれを用いた光パルス発生方法に関し、特に、マッハツェンダー型光導波路の2つの分岐導波路を伝搬する光波を独立に変調する2つの光変調部と、該2つの分岐導波路を伝搬する光波の位相差を制御する位相調整部とを有する光変調器を利用した光周波数コム発生装置及び該光周波数コム発生装置を用いた光パルス発生装置、並びに、該光変調器を用いた光周波数コム発生方法及び該光周波数コム発生方法を用いた光パルス発生方法に関する。
【背景技術】
【0002】
等間隔の周波数差を有する複数の光周波数成分を同時に生成する光周波数コムの発生方法が注目されている。当該技術は、光波長多重分割通信システムの波長多重光源や、超高速伝送や光計測で使用される短パルス光源として利用される。
【0003】
光周波数コム発生装置としては、特許文献1に示すように、マッハツェンダー型光導波路の2つの分岐導波路を伝搬する光波を独立に変調する、所謂、デュアル駆動のマッハツェンダー型光変調器を用いたものが提案されている。
【0004】
特許文献1には、光周波数コムの最適な周波数分布強度として、平坦なパワースペクトル特性やリニアなチャープ特性を提供する方法が開示されている。これによると式(1)に示すような第一の条件を満足する必要がある。
【0005】
【数1】

【0006】
式(1)の条件を満足する時、パワースペクトルが平坦になり、かつチャープがほぼリニアになる。ここでΔA≡A−A及びΔθ≡θ−θであり、A,Aは各分岐導波路での変調度を示し、θ,θは各分岐導波路における光路長やバイアスコントロールによる位相進みを表す。
【0007】
さらに、第二の条件として、式(2)の条件を満足することにより、コム信号変換効率が最大となり光パワでの出力/入力比ηが0.5となる。式(2)は式(1)の条件の中に含まれるので式(2)が最適駆動条件となる。
【0008】
【数2】

【0009】
光変調器の駆動条件が、長期的・安定的に式(2)を満たすための駆動条件の制御方法について、非特許文献1に開示がある。図1は、非特許文献1に示された制御方法の概略を示す図である。
【0010】
光変調器4には、マッハツェンダー型光導波路44が設けられ、2つの分岐導波路には、独立して駆動できる光変調部41,42が形成されている。また、2つの分岐導波路を伝搬する光波の位相差を調整する手段として、位相調整部43が設けられている。
【0011】
光変調器4には、半導体レーザー光源などの連続光光源1からの光波を偏波コントローラ2で偏波面を調整したものが入力される。光変調器の変調部には、RF信号源6から供給されるRF信号が分配器7で2つに分けられ供給されている。一方のRF信号については、減衰器8を介して、信号強度が調整され、光変調部に印加される。
【0012】
この方法では、第1の駆動信号の変調度A、第2の駆動信号の変調度A、光変調器への入力される光のパワーPin及び光変調器からの出力される光のパワーPoutの4つをモニタし、以下の式(3)及び式(4)を満足するように、バイアス制御回路10により、位相調整部43に印加するDCバイアスを制御している。図1では、入力光のパワーPinと出力光Poutの比をモニタするため、各導波路に設けられた光カプラー3,5などにより、光波の一部を導出し、バランスド・受光素子9に入力するよう構成している。また、変調度A,Aをモニタするため、各光変調部に印加されるRF信号の強度を検知する回路(不図示)が設けられる。
【0013】
【数3】

【0014】
【数4】

【0015】
このように、非特許文献1に示す方法では、駆動条件を制御するために式(3),(4)に示す4つのパラメータをモニターすることが必要であるが、この4つのパラメータを把握するために実際には、図1に示しているようにMZ変調器へ入力する2つのRFパワの一部、MZ変調器へ入力する光パワの一部、MZ変調器から出力される光パワの一部をモニタすることになる。このため、実際にモニタするパラメータとこれらと1対1で対応する4つのパラメータの関係を予め求めておくこと、即ちキャリブレーションが必要となる。
【0016】
モニタするRF信号のパワーと変調度(A,A)との関係は、比較的安価な方法でかなり精度よく求めることが可能であり、特段の問題ではない。しかしながら、光の入力パワー(Pin)と出力パワー(Pout)については、光変調器内および入出射に係る接続構造に起因する過剰損失があり、正確に求めることが難しい。
【0017】
例えば、特許文献2では、光スペクトルアナライザを用いて、複数のサイドバンドピーク強度を測定することにより、変調度を求める方法が開示されている。デュアル駆動の片側ずつ、実際の駆動条件(変調周波数、パワー)を何点かにおいて変調度及びモニタRFパワーを求めることにより、キャリブレーションが行なえる。必要なのは光スペクトルアナライザのみで、装置の配線、構成は全く変える必要がなく、直接変調度を測定できるので、極めて正確にRFパワーと変調度の関係を求めることができる。
【0018】
しかも、制御目標とする入出力光のパワー比η=0.5は、特異点にもなっていないため、最初に行なったキャリブレーションの誤差がある場合、当該誤差を把握できず、そのまま誤差となり、信号品質の劣化の原因となるという問題がある。
【0019】
別のキャリブレーション方法として、出射光の時間波形を見て、最適な駆動条件を求め、その時の入出力に係るモニタ光のパワー比を見て、それを目標制御値とすることは可能であるが、10GHz以上の超高周波で駆動させる場合、キャリブレーション用に高価な測定器が必要という問題がある。さらにキャリブレーションが正確にできたとしても、長期的に変調器での過剰損失が変化して最適制御点が変化した場合、従来の制御方法では、最適制御点の変化を認識しないため、信号劣化に気づかないという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0020】
【特許文献1】特開2007−248660号公報
【特許文献2】特開2009−229926号公報
【0021】
【非特許文献1】T.Sakamoto,I.Morohashi,T.Kawanishi,“Mach−Zehnder−modulator−based flat comb generator with auto bias control”,Microwave Photonics, 2008. Jointly held with the 2008 Asia−Pacific Microwave Photonics Conference (MWP/APMP 2008)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0022】
本発明は、上述した問題を解消し、光周波数コムの駆動条件を精確に制御することが可能であり、かつ、制御に係る構成が複雑化せず、高コスト化しない、光周波数コム発生装置及びそれを用いた光パルス発生装置、並びに光周波数コム発生方法及びそれを用いた光パルス発生方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0023】
上記課題を解決するため、請求項1に係る発明は、電気光学効果を有する基板と、該基板に形成されたマッハツェンダー型光導波路と、該マッハツェンダー型光導波路の2つの分岐導波路を伝搬する光波を独立に変調する2つの光変調部と、該2つの分岐導波路を伝搬する光波の位相差を制御する位相調整部と、該マッハツェンダー型光導波路に連続光を入力し、該2つの光変調部にRF信号を印加し、該マッハツェンダー型導波路から光周波数コムとなる出力光を出力する光周波数コム発生装置において、少なくとも一方の光変調部に印加するRF信号の電圧振幅を調整する振幅調整手段と、該出力光の強度をモニタするモニタ手段と、該振幅調整手段を制御して各光変調部に印加されるRF信号の電圧振幅の差を変化させ、該電圧振幅差の変化に対応する該出力光の変化を、該モニタ手段の出力信号から検出し、該検出結果に基づき該位相調整部を制御して該位相差を調整するバイアス制御回路を有することを特徴とする。
【0024】
請求項2に係る発明は、請求項1に記載の光周波数コム発生装置と、該光周波数コム発生装置から出力される該出力光を入力し、該出力光の各周波数成分の位相及び強度を制御する分散補償器と有することを特徴とする光パルス発生装置である。
【0025】
請求項3に係る発明は、電気光学効果を有する基板と、該基板に形成されたマッハツェンダー型光導波路と、該マッハツェンダー型光導波路の2つの分岐導波路を伝搬する光波を独立に変調する2つの光変調部と、該2つの分岐導波路を伝搬する光波の位相差を制御する位相調整部と、該マッハツェンダー型光導波路に連続光を入力し、該2つの光変調部にRF信号を印加し、該マッハツェンダー型導波路から光周波数コムとなる出力光を出力する光周波数コム発生装置を利用する光周波数コム発生方法において、少なくとも一方の光変調部に印加するRF信号の電圧振幅を調整すると共に、該出力光の強度をモニタする振幅調整・出力光モニタステップと、該振幅調整・出力光モニタステップにおける該出力光の強度変化の幅が所定値となるように、該位相調整部を制御するバイアス制御ステップとを有することを特徴とする。
【0026】
請求項4に係る発明は、請求項3に記載の光周波数コム発生方法において、該所定値が最小値であることを特徴とする。
【0027】
請求項5に係る発明は、請求項3又は4に記載の光周波数コム発生方法で発生させた出力光を、該出力光の各周波数成分の位相及び強度を制御して所定の光パルスに成形する光パルス・ステップとを有する光パルス発生方法である。
【発明の効果】
【0028】
請求項1に係る発明により、電気光学効果を有する基板と、該基板に形成されたマッハツェンダー型光導波路と、該マッハツェンダー型光導波路の2つの分岐導波路を伝搬する光波を独立に変調する2つの光変調部と、該2つの分岐導波路を伝搬する光波の位相差を制御する位相調整部と、該マッハツェンダー型光導波路に連続光を入力し、該2つの光変調部にRF信号を印加し、該マッハツェンダー型導波路から光周波数コムとなる出力光を出力する光周波数コム発生装置において、少なくとも一方の光変調部に印加するRF信号の電圧振幅を調整する振幅調整手段と、該出力光の強度をモニタするモニタ手段と、該振幅調整手段を制御して各光変調部に印加されるRF信号の電圧振幅の差を変化させ、該電圧振幅差の変化に対応する該出力光の変化を、該モニタ手段の出力信号から検出し、該検出結果に基づき該位相調整部を制御して該位相差を調整するバイアス制御回路を有するため、従来の駆動制御に必要なキャリブレーションなどが不要となり、より精確な駆動制御が可能となる。しかも、モニタする対象が出力光の変化のみであるため、装置全体の複雑化や高コスト化を抑制することも可能となる。
【0029】
請求項2に係る発明により、請求項1に係る光周波数コム発生装置と、該光周波数コム発生装置から出力される該出力光を入力し、該出力光の各周波数成分の位相及び強度を制御する分散補償器と有することを特徴とする光パルス発生装置であるため、請求項1の光周波数コム発生装置で高精度に駆動制御された光周波数コムを利用できる。これにより、光パルスの波形をより高精度に制御した光パルス発生装置を提供することが可能となる。
【0030】
請求項3に係る発明により、電気光学効果を有する基板と、該基板に形成されたマッハツェンダー型光導波路と、該マッハツェンダー型光導波路の2つの分岐導波路を伝搬する光波を独立に変調する2つの光変調部と、該2つの分岐導波路を伝搬する光波の位相差を制御する位相調整部と、該マッハツェンダー型光導波路に連続光を入力し、該2つの光変調部にRF信号を印加し、該マッハツェンダー型導波路から光周波数コムとなる出力光を出力する光周波数コム発生装置を利用する光周波数コム発生方法において、少なくとも一方の光変調部に印加するRF信号の電圧振幅を調整すると共に、該出力光の強度をモニタする振幅調整・出力光モニタステップと、該振幅調整・出力光モニタステップにおける該出力光の強度変化の幅が所定値となるように、該位相調整部を制御するバイアス制御ステップとを有するため、上述した式(1)を満足する光周波数コムを容易に得ることが可能となる。このように、簡便な方法で高精度に駆動制御を行うことができる。
【0031】
請求項4に係る発明により、請求項3に記載の光周波数コム発生方法において、該所定値が最小値であるため、上述した式(2)の最適条件を満足する光周波数コムを容易に得ることが可能となる。
【0032】
請求項5に係る発明により、請求項3又は4に記載の光周波数コム発生方法で発生させた出力光を、該出力光の各周波数成分の位相及び強度を制御して所定の光パルスに成形する光パルス・ステップとを有する光パルス発生方法であるため、請求項2又は4の光周波数コム発生方法で高精度に制御された光周波数コムを利用し、高精度な光パルスを容易に得ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】従来の光周波数コム発生装置の概略を示す図である。
【図2】本発明に係る光周波数コム発生装置の概略を示す図である。
【図3】出力光パワー(時間平均)のΔθ及びΔAへの依存性を示すグラフである。
【図4】ΔAを変化した際の出力光パワーの変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0034】
本発明の光周波数コム発生装置及びそれを用いた光パルス発生装置、並びに光周波数コム発生方法及びそれを用いた光パルス発生方法について、以下に詳細に説明する。なお、図2において図1と同様の符号は、同一の部材を意味する。
本発明の特徴の一つは、従来の制御方法における問題点であるキャリブレーションを行う必要が無く、モニタする光パワーの絶対値に依存しない制御方法を採用することである。
【0035】
本発明が前提とする光周波数コム発生装置は、図2に示すように、電気光学効果を有する基板と、該基板に形成されたマッハツェンダー型光導波路44と、該マッハツェンダー型光導波路の2つの分岐導波路を伝搬する光波を独立に変調する2つの光変調部41,42と、該2つの分岐導波路を伝搬する光波の位相差を制御する位相調整部43と、該マッハツェンダー型光導波路に連続光(Pin)を入力し、該2つの光変調部にRF信号(RF信号源6)を印加し、該マッハツェンダー型導波路から光周波数コムとなる出力光(Pout)を出力する光周波数コム発生装置である。
【0036】
本発明の光周波数コム発生装置を構成する光変調器は、当該技術分野において公知の技術により製造することが可能である。電気光学効果を有する材料を用いた基板としては、ニオブ酸リチウム、タンタル酸リチウム、PLZT(ジルコン酸チタン酸鉛ランタン)、及び石英系の材料、並びにこれらの材料を組み合わせた基板が利用可能である。特に、電気光学効果の高いニオブ酸リチウム(LN)結晶が好適に利用される。
【0037】
基板に光導波路を形成する方法としては、Tiなどを熱拡散法やプロトン交換法などで基板表面に拡散させることにより形成することができる。また、光導波路以外の基板をエッチングしたり、光導波路の両側に溝を形成するなど、基板に光導波路に対応する部分を凸状としたリッジ形状の導波路を利用することも可能である。
【0038】
光変調器の光変調部41,42や位相調整部43では、基板上に信号電極や接地電極などの変調電極が形成される。このような電極は、Ti・Auの電極パターンの形成及び金メッキ方法などにより形成することが可能である。さらに、必要に応じて光導波路形成後の基板表面に誘電体SiO等のバッファ層を設け、バッファ層の上に変調電極を形成することも可能である。
【0039】
デュアル駆動のマッハツェンダー型光変調器の出力時間波形は、以下の式(5)で与えられる。
【0040】
【数5】

【0041】
式(5)において、Ein、ωは、それぞれ入力光の電界強度と光周波数を表している。これにより、光出力パワーPoutを求めると、式(6)が得られ、さらに、光出力パワーの時間平均Paveを求めると式(7)が得られる。
【0042】
【数6】

【0043】
【数7】

【0044】
上記の式(7)よりΔθ,ΔAをパラメータとして、Pave/Pinをプロットすると、図3に示すようなグラフとなる。これより式(2)が成立する条件は、極大値、極小値となる特異点ではないため、損失変動などにより最適制御点がずれても判別できないことが分かる。
【0045】
ところで、式(2)の条件であるΔθ=π/2となる時、式(7)の第2項は0となりPaveはΔAとは無関係に一定の値になっていることが分かる。つまり、図2の一方の光変調部に印加されるRF信号の振幅値を変動させて、ΔAを変化させても、出力光のパワーは変化しない。
【0046】
したがって、ΔAを変化させ、出力光のパワー変動をモニタし、該変動が最小になるようにΔθを調整すれば、Δθ=π/2の最適条件に光変調器をセットすることが可能となる。
【0047】
本発明の光周波数コム発生装置では、図2に示すように、少なくとも一方の光変調部に印加するRF信号の電圧振幅を調整する振幅調整手段22と、光変調器からの出力光Poutの強度をモニタするモニタ手段21と、該振幅調整手段を制御して各光変調部に印加されるRF信号の電圧振幅の差を変化させ、該電圧振幅差の変化に対応する該出力光の変化を、該モニタ手段の出力信号から検出し、該検出結果に基づき該位相調整部43を制御して該位相差を調整するバイアス制御回路20を有することを特徴とする。
【0048】
振幅調整手段22は、振幅可変のアンプ又はアッテネータを用いることができる。振幅可変機構は、モニタ手段の受光素子21が追従できる程度の低周波で良いため、電気的又は機械的のいずれの機構でも利用可能である。
【0049】
図2のバイアス制御回路20では、光周波数コム発生装置に対する駆動制御方法としては、以下のような手順でバイアス調整を行う。
(1)振幅調整手段22を制御することで、一方の光変調部42に印加するRF信号の電圧振幅を調整すると共に、光変調器からの出力光の強度Poutをモニタする。(振幅調整・出力光モニタステップ)
(2)上記(1)の「振幅調整・出力光モニタステップ」における該出力光の強度変化の幅が所定値となるように、該位相調整部43に印加するバイアス電圧を制御する。(バイアス制御ステップ)
【0050】
(3)上記(2)の「バイアス制御ステップ」において、該所定値を最小の変化値になるよう設定することで、上述したΔθ=π/2の最適条件を満足する光周波数コムを容易に得ることが可能となる。
【0051】
本発明の光周波数コム発生装置では、さらに、ΔAを検出するため、光変調部41,42に印加するRF信号をモニタする手段を付加することも可能である。
【0052】
さらに、上記式(7)に着目すると、Δθ≠π/2の場合でも、各Δθの点において、ΔAを0〜1.2πまで変動させると、図4に示すような出力光のパワー変動が発生する。このグラフから、上記バイアス調整のステップ(2)「バイアス制御ステップ」の所定値を利用し、ΔAを変化させた際の出力光の強度の最大値と最小値の比が、図4のグラフの縦軸のいずれかの値になるように設定することで、その条件を満足するΔθの値に調整することが可能となる。
【0053】
特に、光周波数コムでは、ΔθやΔAの値は、共にπ/2に近いところで使用される。このため、図4に示すように、出力光のパワー変動はπ/2の近傍では、Δθにほぼリニアで推移するため、ΔAに対して、出力光の強度の最大値と最小値の比がある値になるように制御することで、容易に、Δθを設定することができる。
【0054】
以上のように、Δθを最適駆動条件又は、所定の条件に設定し、その後、ΔAを必要な値に設定することで、容易に光周波数コムの周波数強度分布を、例えば、平坦化するなどの調整を行うことができる。なお、RF信号をモニタするなどにより、より高精度にΔAを制御できることは言うまでもない。
【0055】
電気光学効果を有する基板である、LN基板などを利用した光変調器では、DCドリフト現象が発生する。このため、長期的に安定動作をさせるためには、バイアス点の制御は必要不可欠である。通常の光通信用途の光変調器では、低周波信号をバイアス電圧に重畳して、該低周波に対応した光出力をモニタすることで容易にバイアス点を最適化することが可能である。しかしながら、光周波数コム発生装置として使用する場合には、光出力のパワーのモニタからはバイアス点が明らかではないため、このようなバイアス制御方法は利用できない。このため、本発明のような光周波数コム発生装置や光周波数コム発生方法と利用することで、従来のような、光パワーモニタを入力光用と出力光用の2か所から、出力光用の1か所のみとでき、さらに、従来は必須のキャリブレーションが不要となる。しかも、光損失増加など光変調器の特性が変わった場合には、従来のもの制御が不能であったが、本発明のものでは、特性が途中で変化しても駆動制御を行うことが可能となる。
【0056】
本発明では、上述した光周波数コム発生装置を利用し、該光周波数コム発生装置から出力される出力光を入力し、該出力光の各周波数成分の位相及び強度を制御する分散補償器を設置することで、光パルス発生装置を構成することが可能である。これにより、光周波数コム発生装置で高精度に駆動制御された光周波数コムを利用するため、光パルスの波形をより高精度に制御した光パルス発生装置を提供することが可能となる。
【0057】
当然、上述した光周波数コム発生方法を利用し、当該方法で発生させた出力光を、該出力光の各周波数成分の位相及び強度を制御して所定の光パルスに成形する光パルス・ステップを付加するだけで、高精度にパルス波形を制御可能な光パルス発生方法を提供することが可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0058】
以上説明したように、本発明によれば、光周波数コムの駆動条件を精確に制御することが可能であり、かつ、制御に係る構成が複雑化せず、高コスト化しない、光周波数コム発生装置及びそれを用いた光パルス発生装置、並びに光周波数コム発生方法及びそれを用いた光パルス発生方法を提供することが可能となる。
【符号の説明】
【0059】
1 連続光光源
2 偏波コントローラ
4 光変調器
5 光カプラー
6 RF信号源
7 分配器
20 バイアス制御回路
21 モニタ手段
22 振幅調整手段
41,42 光変調部
43 位相調整部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気光学効果を有する基板と、該基板に形成されたマッハツェンダー型光導波路と、該マッハツェンダー型光導波路の2つの分岐導波路を伝搬する光波を独立に変調する2つの光変調部と、該2つの分岐導波路を伝搬する光波の位相差を制御する位相調整部と、該マッハツェンダー型光導波路に連続光を入力し、該2つの光変調部にRF信号を印加し、該マッハツェンダー型導波路から光周波数コムとなる出力光を出力する光周波数コム発生装置において、
少なくとも一方の光変調部に印加するRF信号の電圧振幅を調整する振幅調整手段と、
該出力光の強度をモニタするモニタ手段と、
該振幅調整手段を制御して各光変調部に印加されるRF信号の電圧振幅の差を変化させ、該電圧振幅差の変化に対応する該出力光の変化を、該モニタ手段の出力信号から検出し、該検出結果に基づき該位相調整部を制御して該位相差を調整するバイアス制御回路を有することを特徴とする光周波数コム発生装置。
【請求項2】
請求項1に記載の光周波数コム発生装置と、該光周波数コム発生装置から出力される該出力光を入力し、該出力光の各周波数成分の位相及び強度を制御する分散補償器と有することを特徴とする光パルス発生装置。
【請求項3】
電気光学効果を有する基板と、該基板に形成されたマッハツェンダー型光導波路と、該マッハツェンダー型光導波路の2つの分岐導波路を伝搬する光波を独立に変調する2つの光変調部と、該2つの分岐導波路を伝搬する光波の位相差を制御する位相調整部と、該マッハツェンダー型光導波路に連続光を入力し、該2つの光変調部にRF信号を印加し、該マッハツェンダー型導波路から光周波数コムとなる出力光を出力する光周波数コム発生装置を利用する光周波数コム発生方法において、
少なくとも一方の光変調部に印加するRF信号の電圧振幅を調整すると共に、該出力光の強度をモニタする振幅調整・出力光モニタステップと、
該振幅調整・出力光モニタステップにおける該出力光の強度変化の幅が所定値となるように、該位相調整部を制御するバイアス制御ステップとを有することを特徴とする光周波数コム発生方法。
【請求項4】
請求項3に記載の光周波数コム発生方法において、該所定値が最小値であることを特徴とする光周波数コム発生方法。
【請求項5】
請求項3又は4に記載の光周波数コム発生方法で発生させた出力光を、該出力光の各周波数成分の位相及び強度を制御して所定の光パルスに成形する光パルス・ステップとを有する光パルス発生方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−180192(P2011−180192A)
【公開日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−41610(P2010−41610)
【出願日】平成22年2月26日(2010.2.26)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成21年度、独立行政法人情報通信研究機構、「高度通信・放送研究開発委託研究/近接テラヘルツセンサシステムのための超短パルス光源の研究開発」、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000183266)住友大阪セメント株式会社 (1,342)
【Fターム(参考)】