説明

光増幅中継器、光増幅中継伝送システムおよび光増幅方法

【課題】中継局の停電時にもバッテリー駆動で長時間通信を可能とし、バッテリーが切れた場合でも、信号品質を確保する光増幅中継器を提供する。
【解決手段】光伝送システムの光増幅中継器は、信号光を増幅する励起光を発生する励起光源と、励起光源の出力パワーを制御する励起光源制御機構と、停電時に、励起光源に電力を供給するバッテリーとを備える光増幅器を備え、励起光源制御機構は、停電発生時に、励起光源に供給する駆動電流を通常時よりも低下させ、励起光源の出力パワーを低減する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、中継局の停電時にもバッテリー駆動で通信を可能とし、バッテリーが切れた場合でも、信号品質を確保する光増幅中継器、光増幅中継伝送システムおよび光増幅方法に関する。
【背景技術】
【0002】
光伝送システムの長距離化のためには、伝送路の途中に、光ファイバ中の伝搬損失を補償するための光増幅中継器を挿入することが不可欠である。基幹系光伝送システムにおいては、一般的に、数十km間隔で光増幅中継器が挿入され、光増幅中継器内で用いる光増幅器としてはエルビウム添加ファイバ増幅器(EDFA)が用いられる。EDFAにおいては、信号波長帯と異なる光にてエルビウム添加ファイバ(EDF)を励起することにより、光信号の増幅を行う。
【0003】
特許文献1および2は、光波長多重数に変更、ルート変更があっても、光増幅中継器の光出力レベルを端局より適正に設定制御する光増幅中継伝送システムを開示する。特許文献3は、光増幅器の劣化情報をトリガに、光スイッチにより光増幅中継器をバイパスする構成を開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平6−21897号公報
【特許文献2】特開平6−69890号公報
【特許文献3】特開平7−264126号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、既存の光増幅中継器が設置される中継局が停電した場合、EDFを励起するための光源を動作させることができなくなる。よって、既存のシステムでは停電の場合、励起されないEDFが大きな損失を有する損失媒体となるため、光信号は光増幅器を通過することにより、EDFの大きな損失の影響を受け、信号品質を確保するために十分な信号パワーレベルを確保することができなくなり、信号品質を確保した信号伝送が不可能となる。
【0006】
さらに、バッテリー駆動が可能な光増幅器を中継局に設置することを想定した場合でも、通常の安価なUPS(無停電電源装置)では、2次電池の充電能力によりバックアップ時間として数分〜数十分程度しか電源供給できない。このため、長時間にわたる大規模停電時には、対応できない。加えて、バッテリーが切れた場合に、非励起時のEDFの損失は非常に大きいため、1局でも中継局が停電した場合、信号品質を確保した信号伝送が不可能となる。
【0007】
上述の特許文献は、停電による光波長多重信号の品質劣化、バッテリ駆動の光増幅器への給電が完全に停止(バッテリ切れ)した場合の光波長多重信号の品質劣化を解決するための手段について、何も記載していない。
【0008】
そこで本発明は、中継局の停電時にもバッテリー駆動で長時間通信を可能とし、バッテリーが切れた場合でも、信号品質を確保する光増幅中継器、光増幅中継伝送システムおよび光増幅方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を実現するため本発明による光伝送システムの光増幅中継器は、信号光を増幅する励起光を発生する励起光源と、前記励起光源の出力パワーを制御する励起光源制御機構と、停電時に、前記励起光源に電力を供給するバッテリーとを備える光増幅器を備え、前記励起光源制御機構は、停電発生時に、前記励起光源に供給する駆動電流を通常時よりも低下させ、前記励起光源の出力パワーを低減する。
【0010】
また、前記励起光源制御機構は、停電発生時に、最低限必要な伝送容量または伝送可能な最低の伝送容量に合った光出力レベルまで、前記励起光源の出力パワーを低減することも好ましい。
【0011】
また、前記光増幅器は、入力光パワーモニタまたは出力光パワーモニタをさらに備え、前記励起光源制御機構は、入力光または出力光のモニタ値に基づいて、既定の最低品質に達するまで、段階的に励起光源の出力パワーを低減することも好ましい。
【0012】
また、前記光増幅器の入出力端で経路を切り替える機能を有する光スイッチをさらに備え、前記光スイッチは、前記バッテリーが電力供給できなくなったとき、前記光増幅器が含まれない経路に切り替えることも好ましい。
【0013】
上記目的を実現するため本発明による光増幅中継伝送システムは、光送信機、光受信機、光増幅中継器、および管理システムを備える光増幅中継伝送システムにおいて、前記光増幅中継器は、信号光を増幅する励起光を発生する励起光源と、前記励起光源の出力パワーを制御する励起光源制御機構と、停電時に、前記励起光源に電力を供給するバッテリーとを備える光増幅器を備え、前記励起光源制御機構は、前記管理システムからの制御メッセージに基づいて、停電発生時に、前記励起光源に供給する駆動電流を通常時よりも低下させ、前記励起光源の出力パワーを低減する。
【0014】
また、前記光受信機は、受信する光信号の品質をモニタし、前記管理システムに通知する手段を備え、前記管理システムは、前記通知に基づいて、既定の最低品質に達するまで、段階的に励起光源の出力パワーを減少する制御メッセージを前記光増幅中継器に通知することも好ましい。
【0015】
上記目的を実現するため本発明による光増幅方法は、信号光を増幅する励起光を発生する励起光源と、前記励起光源の出力パワーを制御する励起光源制御機構と、停電時に、前記励起光源に電力を供給するバッテリーとを備える光増幅器における光増幅方法であって、前記励起光源制御機構が停電を検知するステップと、前記励起光源制御機構が前記励起光源に供給する駆動電流を通常時よりも低下させ、前記励起光源の出力パワーを低減するステップとを含む。
【発明の効果】
【0016】
本発明では、光増幅器の励起光源の出力パワーを意図的に低減することにより、励起光源による電力消費量(バッテリー消費量)を抑え、バッテリー駆動可能な光増幅器をより長く動作させ、通信をより長く維持させることが可能になる。
【0017】
さらに、バッテリーによる光増幅器の駆動ができなくなった場合に、光増幅中継器内の経路が切り替え、光増幅器による損失をなくし、信号品質を確保した信号伝送が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の光増幅中継伝送システムの構成を示す。
【図2】本発明のバッテリー駆動型光増幅器の構成を示す。
【図3】本発明の光スイッチ内蔵型光増幅中継器の構成を示す。
【図4】光増幅中継伝送システムの全体の制御信号の流れを示す。
【図5】本発明の3つの実施例を示す。
【図6】2つの連続する中継局が停電した場合の信号パワーの変化を示す。
【図7】1つの中継局が停電した場合の信号パワーの変化を示す。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明を実施するための形態について、以下では図面を用いて詳細に説明する。図1は、本発明の光増幅中継伝送システムの構成を示す。本システムは、光送信機1、光増幅中継器2、および光受信機3を備え、光送信機1から出力された光信号は、光増幅中継器2で増幅中継されて長距離の光ファイバを伝送され、光受信機3で受信される。
【0020】
図2は、本発明のバッテリー駆動型光増幅器の構成を示す。バッテリー駆動型光増幅器4は、光増幅中継器2内で用いられ、励起光源41、励起光源制御機構42、バッテリー43、およびEDF44を備える。
【0021】
励起光源41は、EDFを励起する励起光を発生するものであり、レーザダイオード等により構成される。バッテリー43は、UPS等の一般に利用されている2次電池である。本発明では、通常使用で数分〜数十分程度電源供給が可能なものである。EDF44は、励起光により光信号の増幅を行う。
【0022】
励起光源制御機構42は、停電発生時に、バッテリー43による光増幅器4の駆動時間を極力長く維持するために、励起光源41へ供給する駆動電流を通常時よりも低下して動作させ、励起光源41による電力消費量(バッテリー消費量)を抑える。例えば、最低限必要となる伝送容量または伝送可能な最低の伝送容量まで、伝送容量を縮小することとし、光増幅器4はその伝送容量に応じて励起光源の出力パワー(実効的には必要な利得分だけ供給)を低減する。また、励起光源制御機構42は、伝送品質のモニタと連携して最低品質(例えばFEC(前方誤り訂正)後で10−12dB以下)を確保できるくらいに光増幅器4の励起光源41の出力パワーを低減する。
【0023】
また、光増幅器4は、制御信号を送信、および受信する機能を備え、この制御信号に基づいて、励起光源41へ供給する駆動電流を制御することも可能である。
【0024】
図3は、本発明の光スイッチ内蔵型光増幅中継器の構成を示す。光スイッチ内蔵型光増幅中継器2は、バッテリー駆動型光増幅器4、および光スイッチ5を備えている。
【0025】
バッテリー駆動型光増幅器4は、上述の光増幅器であり、光スイッチ5は、光増幅器4の入出力端で経路を切り替える機能を有し、無給電時(バッテリー43が電力供給できなくなったとき)には、光増幅器4が含まれない経路に切り替わることにより、光増幅器4を迂回させることが可能となり、非励起のEDFによる大きな損失の影響を受けなくすることができる。
【0026】
図4は、光増幅中継伝送システムの全体の制御信号の流れを示す。管理システム6は、制御用ネットワークを介して、光送信機1および光受信機3と接続される。管理システム6は、停電発生情報、光受信機3からの品質情報等により、容量(波長数)情報、または励起光源設定情報を光送信機1に送信する。光送信機1は制御信号にこの情報をのせ、光増幅中継器2に通知して、励起光源制御機構42がこの制御信号に基づいて、励起光源41へ供給する駆動電流を制御する。なお、この制御信号は、光ファイバに重畳して、または専用の管理網により伝送される。
【0027】
図5は、本発明の3つの実施例を示す。図5aは、光ファイバによる伝送容量を最低限とし、それに合わせて励起光源の出力パワーを下げる例を示す。
【0028】
1)管理システム6が停電を検知すると、管理システム6は、緊急時に必要な最低限の容量、ないしは伝送可能な最低の容量に伝送容量(波長数など)を下げる制御メッセージを光送信機1に送信する。
2)光送信機1は、光増幅中継器2に対して、その伝送容量の合った光出力レベルになるように制御信号を送信する。例えば、100波長システムを10波長稼働システムに伝送容量を低減した場合、光出力レベルは10dBmダウンとするような制御信号を送信することとなる。
3)上記制御信号を受けた光増幅中継器2の励起光源制御機構42は、所望の出力レベルになるように励起光源41の光出力レベルを制御する。
【0029】
本実施例では、励起光源41の光出力レベルが通常のバッテリ駆動の場合よりも低減される。このため、バッテリの駆動時間が従来より大幅に増加され、長時間におよぶ停電にも対処することができる。例えば、100波長システムを10波長稼働システムに伝送容量を低減した場合、電力使用量は約10分の1になり、数分〜数十分程度しかバッテリーが持たなかったUPSでも、約10倍の数十分〜数時間バッテリーを持たすことが可能になる。
【0030】
図5bは、光受信機3が、品質をモニタリングしながら、最低品質まで励起光パワーを下げる例を示す。
【0031】
1)管理システム6が停電を検知すると、管理システム6は、段階的に励起光源設定要求及びその励起光源設定パラメータを光送信機1へ送信する。光送信機1はその情報を該当する光増幅中継器2へ送信する。その制御信号を受信した光増幅中継器2は励起光源の光出力レベルを制御する。
2)光受信機3は、1)の状態での光品質をモニタし、管理システム6へ通知する。管理システム6は、既定の最低品質(例えばFEC(前方誤り訂正)後で10−12dB)に達するまで1)および2)を繰り返す。
【0032】
本実施例では、緊急時に必要な最低限の容量、および伝送可能な最低の容量に伝送容量を管理システム6が保持していない場合に適用可能であり、光受信機3が光品質をモニタして最低品質になるまで励起光源の光出力レベルを制御する。このため、最低品質以下に励起光源の光出力レベルを下げることがなくなり、光増幅中継器2は最低伝送品質を保つことが可能になる。また、図5aの例のように、停電後すぐに伝送容量が必要最低限の容量まで下がることがないため、停電が短時間であった場合、利用者への影響がない。
【0033】
図5cは、管理システム6等の外部からの制御ではなく、光増幅中継器2単体で予め決められた利得まで下げて駆動する例を示す。
【0034】
1)励起光源制御機能42は、停電時の励起光源設定パラメータ(緊急時に必要な最低限の容量、ないしは伝送可能な最低の容量に伝送容量)を予め保持しておく。
2)励起光源制御機能42は、停電が発生したことを検知する。
3)励起光源制御機能42は、停電時の励起光源設定パラメータに基づいて励起光源の出力パワーを低減する。
【0035】
また、光増幅器4は、入力光パワーモニタ、出力光パワーモニタを備え、このモニタ値を使って、図5bの実施例のように励起光源の光出力レベルを段階的に制御することも可能である。
【0036】
本実施例では、管理システム6を使用せずに自律的に励起光源の光出力レベルを制御することが可能になる。
【0037】
また、上記実施例図5a,b,cのいずれも光スイッチ内蔵型光増幅中継器であることもできる。この場合、無給電時にも非励起のEDFによる大きな損失の影響を受けなくすることができる。
【0038】
以下に本発明の効果を示す。図6は、2つの連続する中継局が停電した場合の信号パワーの変化を示す。中継局は、バッテリー駆動型光増幅器を備える。本発明方法では、停電時に励起光源の出力パワーを低減するため、信号光レベルは正常時よりも下がるが、バッテリがない場合に比べると高く保たれる。
【0039】
図7は、1つの中継局が停電した場合の信号パワーの変化を示す。中継局は、光スイッチ内蔵型光増幅中継器であり、中継局の一つが停電し、かつバッテリーが切れた場合の光増幅中継伝送システム中の信号パワーの変化を示す。本発明方法では、非励起のEDFによる損失がないため、信号光レベルは従来の方式よりも高く保たれる。
【0040】
以上のように、光中継局の停電時に、光増幅器の励起光パワーを制御する機能により、バッテリー駆動可能な光増幅器をより長く動作させ、通信をより長く維持させることが可能になる。また、光スイッチによって光増幅器をバイパスする機能により、光増幅器による損失をなくし、信号品質を確保した信号伝送が可能となる。
【0041】
また、以上述べた実施形態は全て本発明を例示的に示すものであって限定的に示すものではなく、本発明は他の種々の変形態様および変更態様で実施することができる。従って本発明の範囲は特許請求の範囲およびその均等範囲によってのみ規定されるものである。
【符号の説明】
【0042】
1 光送信機
2 光増幅中継器
3 光受信機
4 バッテリー駆動型光増幅器
5 光スイッチ
6 管理システム
41 励起光源
42 励起光源制御機構
43 バッテリー
44 EDF

【特許請求の範囲】
【請求項1】
信号光を増幅する励起光を発生する励起光源と、
前記励起光源の出力パワーを制御する励起光源制御機構と、
停電時に、前記励起光源に電力を供給するバッテリーと、
を備える光増幅器を備え、
前記励起光源制御機構は、停電発生時に、前記励起光源に供給する駆動電流を通常時よりも低下させ、前記励起光源の出力パワーを低減することを特徴とする光伝送システムの光増幅中継器。
【請求項2】
前記励起光源制御機構は、停電発生時に、最低限必要な伝送容量または伝送可能な最低の伝送容量に合った光出力レベルまで、前記励起光源の出力パワーを低減することを特徴とする請求項1に記載の光増幅中継器。
【請求項3】
前記光増幅器は、入力光パワーモニタまたは出力光パワーモニタをさらに備え、
前記励起光源制御機構は、入力光または出力光のモニタ値に基づいて、既定の最低品質に達するまで、段階的に励起光源の出力パワーを低減することを特徴とする請求項1に記載の光増幅中継器。
【請求項4】
前記光増幅器の入出力端で経路を切り替える機能を有する光スイッチをさらに備え、
前記光スイッチは、前記バッテリーが電力供給できなくなったとき、前記光増幅器が含まれない経路に切り替えることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の光増幅中継器。
【請求項5】
光送信機、光受信機、光増幅中継器、および管理システムを備える光増幅中継伝送システムにおいて、
前記光増幅中継器は、
信号光を増幅する励起光を発生する励起光源と、
前記励起光源の出力パワーを制御する励起光源制御機構と、
停電時に、前記励起光源に電力を供給するバッテリーと、
を備える光増幅器を備え、
前記励起光源制御機構は、前記管理システムからの制御メッセージに基づいて、停電発生時に、前記励起光源に供給する駆動電流を通常時よりも低下させ、前記励起光源の出力パワーを低減することを特徴とする光増幅中継伝送システム。
【請求項6】
前記光受信機は、受信する光信号の品質をモニタし、前記管理システムに通知する手段を備え、
前記管理システムは、前記通知に基づいて、既定の最低品質に達するまで、段階的に励起光源の出力パワーを減少する制御メッセージを前記光増幅中継器に通知することを特徴とする請求項5に記載の光増幅中継伝送システム。
【請求項7】
信号光を増幅する励起光を発生する励起光源と、
前記励起光源の出力パワーを制御する励起光源制御機構と、
停電時に、前記励起光源に電力を供給するバッテリーと、
を備える光増幅器における光増幅方法であって、
前記励起光源制御機構が停電を検知するステップと、
前記励起光源制御機構が前記励起光源に供給する駆動電流を通常時よりも低下させ、前記励起光源の出力パワーを低減するステップと、
を含むことを特徴とする光増幅方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−77990(P2013−77990A)
【公開日】平成25年4月25日(2013.4.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−216740(P2011−216740)
【出願日】平成23年9月30日(2011.9.30)
【出願人】(000208891)KDDI株式会社 (2,700)
【Fターム(参考)】