説明

光学ガラスの製造方法

【課題】本発明は、リン酸塩を含有するガラスにおいて、良好な透過率を有する光学ガラスを製造する方法を提供する。
【解決手段】酸化物基準の質量%でP25成分を10%以上含有する光学ガラスを製造する方法であって、原料混合物を溶融成形し、前記原料混合物のうち、ガラス溶融時に酸化性ガスを放出する原料を、前記原料混合物全質量の1%以上含む前記製造方法。前記ガラス原料混合物が、硝酸塩または硫酸塩あるいはこれらの複合塩からなる群より選択される1種以上含む前記製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リン酸塩を含有する光学ガラス及びその製造方法に関し、さらに詳しくは透過率を良好にすることが可能なリン酸塩を含有する光学ガラス及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、光学系を使用する機器の集積化、高機能化に急速に進められており、光学系に対する高精度化、軽量化、小型化の要求がますます強まっている。特に、高屈折率高分散領域における光学ガラスは、デジタルカメラやビデオカメラ、携帯電話のカメラ等のレンズに用いられ、レンズ設計上、高倍率、広角化である特性を有するため、光学系市場での需要が高まっている。
【0003】
高屈折率高分散性ガラスによるレンズは、光学設計において、光学系の色収差を補正する事を目的として、低屈折率低分散性光学ガラスからなるレンズと組み合わせて使用されるものであり、多種多様の光学機器において使用されている。一般的に高屈折率高分散になるほど、ガラスに高屈折率、高分散特性を付与する成分を多く含有させる必要があるが、それらの成分は短波長領域において吸収を生じる成分が多いため、ガラスの短波長領域の光線透過率は悪化する傾向となる。さらに、ガラスの屈折率が高くなるほど、ガラス表面における光線反射率が大きくなるため、高屈折率になるに従い、これに起因する光線透過率の低下傾向が表れる。
【0004】
高屈折率高分散ガラスは、主に以下のようなP−Nb系のガラスが開示されている。しかしながら、P−Nb系のガラスは、ガラス溶解中に一定量のP成分を超えてしまうと、高屈折率成分を有するNbやTiOなどの原料が還元され、それらの成分が着色原因となってしまい、透過率が悪化してしまう。
【0005】
したがって、P成分を含有するガラスについて、大規模な装置の付加を要せずに、ガラス溶融時に大気中程度の酸素濃度で溶解してもガラスが還元されないようにし、光透過性の良好な光学ガラスを製造できる方法が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平08−104537号公報
【特許文献2】特開2003−160355号公報
【特許文献3】特開2006−11499号公報
【特許文献4】特開2007−51055号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は以上のような課題に鑑みてなされたものであり、リン酸塩を含有する光学ガラスにおいて、一部構成元素還元による透過率劣化を生じない製造方法及びその製法により製造される光学ガラスを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の第1の構成は、酸化物基準の質量%でP成分を10%以上含有する光学ガラスを製造する方法であって、原料混合物を溶融成形し、前記原料混合物が、ガラス溶融時に酸化性ガスを放出する原料であって、ガラス原料全質量のうち1%以上含む前記製造方法である。このような原料を使用することにより、通常のガラス溶融の過程において、原料混合物から多量にガスが放出され、そのガスの放出によって溶融ガラス中に攪拌効果が生じやすくなり、大気中の酸素とガラスが接触する事で酸化を進行させ、透過率を向上させることが期待できる。
【0009】
本発明の第2の構成は、前記ガラス原料混合物が、硝酸塩、硫酸塩の複合塩いずれか1種以上含む前記構成1の製造方法である。
【0010】
本発明の第3の構成は、前記原料混合物を溶融成形した光学ガラスを再昇温して熱処理する工程を含まないことを特徴とする前記構成1または2の製造方法である。
【0011】
本発明の第4の構成は、非酸化性ガスを放出する原料に対する酸化性ガスを放出する原料の割合が、質量比で0.2以上であることを特徴とする前記構成1〜3いずれかの製造方法である。
【0012】
本発明の第5の構成は、前溶融成形された光学ガラスの光線透過率が70%となる波長λ70が500nm以下であることを特徴とする前記構成1〜4いずれかの製造方法である。
【0013】
本発明の第6の構成は、前記原料混合物をガラス状態に溶融する工程で、溶融炉内の酸素濃度が5%以上であることを特徴とする前記構成1〜5の製造方法である。
【0014】
本発明の第7の構成は、前記原料混合物中の酸化性ガスを放出する原料が、原料混合物総重量の1〜90%含む前記構成1〜6の製造方法である。
【0015】
本発明の第8の構成は、酸化物基準の質量%で
Nb10〜70%
10〜50%
TiO3〜40%
NaO 0〜30%
O 0〜20%
0〜10%
LiO 0〜10%
SiO0〜10%
BaO 0〜20%
Gd0〜10%
Bi0〜10%
WO0〜20%
Sb0〜3%
を各成分を含むことを特徴とする前記構成1〜7いずれかに記載の製造方法である。
【0016】
本発明の第9の構成は、前記製造方法1〜8いずれかの方法により製造される光学ガラスであって、TiO成分を10%より多く含むことを特徴とする前記構成1〜8いずれかの製造方法である。
【0017】
本発明の第10の構成は、前記構成1〜9いずれかの製造方法により、製造された光学ガラスである。
【0018】
本発明の第11の構成は、前記構成1〜10のいずれかの方法により製造される光学ガラスであって、屈折率[nd]が1.80以上、アッベ数[νd]が25以下の光学恒数を有する前記光学ガラスである。
【0019】
本発明の第12の構成は、前記構成1〜11いずれか記載の光学ガラスからなる精密プレス成形用プリフォームである。
【0020】
本発明の第13の構成は、前記構成12に記載のプリフォームを精密プレス成形してなる光学素子である。
【発明の効果】
【0021】
本発明の光学ガラスの製法は、上記構成要件を採用することにより、光学ガラスの還元による透過率劣化を回避することができ、光線透過性の良好な光学ガラスを得ることができる。また、本発明の製造方法によれば、Pを主成分とする光学ガラスにおける還元による着色を改善しつつ、透過率の良好な高屈折率高分散性を有した光学ガラスを得ることができる。例えば、ガラスの組成成分を実質的に変化させることなく、ガラスの成分の還元に起因する透過率を向上させることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】図1は本発明の光学ガラスと比較例の透過率を示す曲線である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
次に、本発明の光学ガラスにおいて、具体的な実施態様について説明する。
【0024】
本発明の光学ガラスは、酸化物基準の質量%でP成分を10%以上含有するリン酸塩系光学ガラスを対象とする。上記のようなリン酸塩系のガラスを、高屈折率高分散のガラスを溶融成形する際に、酸化性ガスを放出する原料を用いると、溶融時に酸化雰囲気が多くなるため、着色成分の原因となる成分が還元しにくくなり、透過率が良好となる。酸化性ガスを放出する原料としては、硝酸塩や硫酸塩、あるいはそれらの複合塩の原料が好ましい。
【0025】
リン酸塩系の光学ガラスは、Nb成分やTiO成分を多量に含有させると、溶融成形時にこれらの成分が還元され、ガラスが着色してしまう。そこで、通常は溶融成形後に光学ガラスを再昇温し、熱処理をする工程を経て、ガラスの着色軽減処理を行う。本発明者は、酸化性ガスを放出する原料を多く含有させることで、ガラスの溶融成形時に酸素雰囲気が満たされ、着色成分を還元しにくくすることができることを見出した。そのため、透過率が大きく向上し、ガラスを再昇温して熱処理をする工程を省くことが可能となった。
【0026】
また、本発明者は、ガラス原料混合物の中にある酸化性ガスを放出する原料と非酸化性ガスを放出する原料の割合に注目した。これらの原料を所定の範囲内にすることによって、ガラスの透過率を劇的に改善することが出来るとともに、従来必要であった再加熱処理が不要になること見出した。具体的には非酸化性ガスを放出する原料に対する酸化性ガスを放出する原料の割合が、質量比で0.2以上が好ましく、0.23%がより好ましく、0.25%が最も好ましい。
【0027】
本発明は、酸化性ガスを放出する原料を一定以上の割合で含有させると透過率が上昇する。具体的には、光線透過率が70%となる波長λ70が500nm以下であることが好ましく、より好ましくは490nm以下、最も好ましくは480nm以下である。
【0028】
溶融炉内の酸素雰囲気は、溶融ガラス中から放出される酸化性ガスと共に、炉内を酸素で満たし、溶融ガラス中の成分の酸化を促進させるような環境が必要である。本発明者は、ガラスの着色原因となり得る成分を多く含有する場合、溶融炉内の酸素雰囲気を上昇させ、着色原因となり得る成分の酸化を促進させることで、透過率が劇的に良好になる傾向があることを見出した。
酸素濃度は、好ましくは、酸素濃度が5%以上、より好ましくは6%以上、最も好ましくは8%以上の雰囲気で溶融する。
【0029】
本発明の原料混合物中の酸化性ガスを放出する原料が、原料混合物総重量の1〜90%含有されていると、着色原因となる成分の還元を抑える酸化性ガスを適量にすることで透過率がより良好なガラスを得ることができる。しかしその量が多すぎると、作業上安定した溶解ができにくくなる。また、酸化雰囲気が非常に強くなるため、白金製の坩堝や、溶融ガラスと接する部分が白金で形成されている溶融槽でガラス原料を溶融する場合、白金が溶融ガラス中に溶け込んでしまい、着色原因となる。そのため、好ましくは90%、より好ましくは80%、最も好ましくは50%を上限として含有することができる。その量が少なすぎると還元を抑える効果が十分でないため、したがって、好ましくは1%、より好ましくは1.5%、最も好ましくは2%を下限として含有することができる。
【0030】
[ガラス成分]
本発明の光学ガラスを構成する各成分の組成範囲を以下に述べる。各成分は質量%にて表現する。なお、本願明細書中において質量%で表されるガラス組成は全て酸化物基準での質量%で表されたものである。ここで「酸化物基準」とは、本発明のガラス構成成分の原料として使用される酸化物、複合塩、金属フッ化物等が溶融時にすべて分解され酸化物へ変化すると仮定した場合に、当該生成酸化物の質量の総和を100質量%として、ガラス中に含有される各成分を表記した組成である。
<必須成分、任意成分について>
【0031】
成分は、ガラスに高分散性を付与し、高透過率を付与する成分であり、ケイ酸塩ガラスやホウ酸塩ガラス等に比べて、溶融性及びプレス時における失透性も優れており、かつ優れた光線透過率を得ることができる。また、ガラスの耐失透性及び透過率を向上させる効果がある。また、その量が多すぎると目的とする高屈折率が得難くなり、かえって耐失透性も悪化する傾向となり易い。したがって、特に耐失透性が優れた高屈折率高分散性ガラスを得るためには、好ましくは10%、より好ましくは11%、最も好ましくは12%を下限とし、好ましくは50%、より好ましくは40%、最も好ましくは、30%を上限とする。
【0032】
またPは、原料として例えばHPO等を使用してガラス内に導入される。
【0033】
Nb成分は、広範囲でガラス化する成分であり、ガラスを高屈折率高分散にする効果や、ガラスの化学的耐久性を向上させる効果を有する、非常に有用な成分である。そして、これらの効果を十分に得るためには、好ましくは10%、より好ましくは20%、最も好ましくは30%を下限とする。その量が多すぎるとガラスの耐失透性が悪化し、光線透過率が低下する傾向となり易くなるので、好ましくは70%、より好ましくは65%、最も好ましくは60%を上限とする。
【0034】
またNbは、原料として例えばNb等を使用してガラス内に導入される。
【0035】
TiO成分は、ガラスの屈折率を高め、かつ高分散化する効果を有する成分であり、非常に有用な成分である。そして、これらの効果を十分に得るためには、好ましくは3%、より好ましくは5%、最も好ましくは7%を下限とする。
その量が多過ぎるとガラスの光線透過率を悪化させ易い成分でもあり、更に、溶融やプレスの際に失透し易くなる傾向も増すので、好ましくは40%であり、より好ましくは30%であり、最も好ましくは30%を上限とする。
【0036】
また、TiO成分は特に10%超のときに有効に作用し、TiO成分による着色の軽減がより顕著に現れる。
【0037】
TiOは、原料として例えばTiO等を使用してガラス内に導入される。
【0038】
NaO成分は、溶融温度を低下させ、ガラスの着色を防止するのに非常に有効な成分であり、しかも、ガラス転移温度や屈伏点温度を低下させることができる、任意に添加し得る成分である。しかし他方では、その量が多すぎると本発明が目的とする高屈折率のガラスが得難くなり平均膨張係数も大きくなる傾向にある。よって、好ましくは30%、より好ましくは20%、最も好ましくは10%を上限とする。
【0039】
またNaOは、原料として例えばNaOまたはその炭酸塩、硝酸塩、水酸化物等を使用してガラス内に導入できる。
【0040】
O成分は、ガラス転移温度や屈伏点温度を低下させることができる成分で、任意に添加することができる。しかし他方では、その量が多過ぎると、ガラスの溶解時において失透し易くなり、結果として内部品質が悪化する傾向となり易い。よって好ましくは20%、さらに好ましくは15%、最も好ましくは10%を上限とする。
【0041】
またKOは、原料として例えばKOまたはその炭酸塩、硝酸塩、水酸化物等を使用してガラス内に導入できる。
【0042】
成分は、耐失透性を向上させる効果を有する、任意に添加し得る成分である。特にP−Nb系のガラスにおいて、SiO成分は溶け残りを生じ易くなる傾向となるが、Bを共存させることにより溶融性が改善され、しかも化学的耐久性が優れたガラスを容易に得ることができる。しかし他方では、その量が多過ぎると本発明が目的とする高屈折率高分散性が得難くなるため、好ましくは10%、より好ましくは8%、最も好ましくは7%を上限とする。
【0043】
は、原料として例えばHBO、B等を使用してガラス内に導入される。
【0044】
LiO成分は、ガラス転移温度や屈伏点温度を低下させる効果を有しており、任意に添加し得る成分である。しかし他方では、その量が多過ぎると、化学的耐久性が悪くなる傾向になり易く、また加工性も悪化する傾向となり易いため、好ましくは10%であり、より好ましくは8%、更に化学的耐久性及び平均線膨張係数が小さく加工性の良いガラスを得るためには、7%未満とすることが最も好ましい。
【0045】
またLiOは、原料として例えばLi2Oまたはその炭酸塩、硝酸塩、水酸化物等を使用
してガラス内に導入できる。
【0046】
SiO成分は、ガラスの化学的耐久性を向上させる効果を有しており、任意に添加し得る分である。しかし他方では、その量が多過ぎると、ガラスの溶融性が悪化する傾向となり易い。好ましくは上限が10%、より好ましくは8%であり、最も好ましくは7%を上限とする。
【0047】
SiOは、原料として例えばSiO2等を使用してガラス内に導入される。
【0048】
BaO成分は、本組成範囲において、溶融中のガラスを安定化させ、失透を防止しガラスを割れやすさを抑える効果やガラスの光線透過率を高める効果がある。しかし他方では、その量が多過ぎると、本発明が目的とする高屈折率高分散性が得難くなるので、好ましくは20%、より好ましくは15%、最も好ましくは10%を上限とする。
【0049】
BaOは、原料として例えばBaOまたはその炭酸塩、硝酸塩、水酸化物等を使用し
てガラス内に導入できる。
【0050】
Gd成分は、本発明のP−Nb系のガラスにおいて、ガラスを高屈折率に保ったまま、ガラスの光線透過率を向上させる効果や、溶融中のガラスを安定化及び耐失透性を向上させる効果、そして、ガラスの均質性を向上させる効果や、分相を生じ難い性質を有することから、内部品質の優れたガラスを容易に得ることを可能とする効果を有する有用な成分であり、この様な効果を目的として任意に添加し得る成分である。しかし他方では、その量が多過ぎると、失透性が悪くなる傾向にある、よって、好ましくは10%、より好ましくは8%、最も好ましくは7%を上限とする。
【0051】
またGdは、原料として例えばGd等を使用してガラス内に導入される。
【0052】
Bi成分は、ガラスの融点を下げ、ガラスを高屈折率高分散にする効果を有する、任意に添加し得る成分である。しかし他方では、その量が多過ぎると、短波長領域の透過率が悪化する傾向となり易い。好ましくは10%であり、より好ましくは9%、最も好ましくは8%以下とすべきである。
【0053】
またBiは、原料として例えばBi等を使用してガラス内に導入される。
【0054】
WO成分は、低融点特性を維持しながらも高屈折率高分散特性を与えることのできる、任意に添加し得る成分である。しかし他方では、その量が多過ぎると、短波長領域の光線透過率が悪化し易くなる。好ましい上限は20%であり、より好ましい上限は15%であり、最も好ましい上限は10%である。
【0055】
またWOは、原料として例えばWO等を使用してガラス内に導入される。
【0056】
Sb成分は、少量含有させることにより、ガラスを溶融する際、泡切れ(脱泡性) 良くする効果があるが、その量が少しでも多くなると、短波長領域の光線透過率が悪化する傾向となり易い。好ましい上限は3% であり、より好ましい上限は2%であり、より好ましい上限は1%である。
【0057】
MgO、CaO及びSrOの各成分は、溶融中のガラスを安定化させ、失透を防止する効果を有する、任意に添加し得る成分である。しかし他方では、その量が多過ぎると、均質なガラスが得難くなる傾向となり易い。好ましくはこれら各成分の量が、それぞれ、20%であり、より好ましくは、それぞれ15%であり、最も好ましくは、10%を上限とする。
【0058】
ZnO及びZrOは、共に、ガラスの光学定数を調整するのに有効である、任意に添加し得る成分である。しかし他方では、その量が多過ぎると、ガラスの耐失透性が悪化し易い。好ましくは、それぞれ、20%、より好ましくは15%、より好ましくは10% を上限とする。
【0059】
Alは、ガラスの化学的耐久性を向上させ、光線透過率を高める効果を得る任意に添加し得る成分である。しかし他方では、その量が多過ぎるとガラスの失透傾向が増大し易くなるため、好ましくは20%であり、より好ましくは15%であり、最も好ましくは10%を上限とする。
【0060】
Taは、ガラスを高屈折率にする効果を有する、任意に添加し得る成分である。しかし他方では、その量が多過ぎると脈理が生じ易くなり、その結果、均質なガラスを得難くなる。尚、Ta は原料単価が非常に高価な成分であるため、所望の特性を得るために、必要な場合のみ添加することが好ましい。好ましい上限は20%であり、より好ましい上限は15%であり、最も好ましくは10%を上限とする。
<含有させるべきでない成分について>
【0061】
本発明においては、他の成分を本発明のガラスの特性を損なわない範囲で必要に応じ、添加することができる。ただし、Tiを除くV,Cr,Mn,Fe,Co,Ni,Cu,Ag及びMo等の各遷移金属成分は、それぞれを単独又は複合して少量含有した場合においても、ガラスが着色し、可視域の特定の波長に吸収を生じさせる。したがって、可視領域の波長を使用する光学ガラスにおいては、実質的に含まないことが好ましい。ここで「実質的に含まない」とは、不純物として混入される場合を除き、人為的に含有させないことを意味する。
【0062】
Th成分は高屈折率化又はガラスとしての安定性向上を目的として、Cd及びTl成分は低Tg化を目的として含有することができる。しかし、Th,Cd,Tl,Osの各成分は、近年有害な化学物質成分として使用を控える傾向にあるため、ガラスの製造工程のみならず、加工工程、及び製品化後の処分に至るまで環境対策上の措置が必要とされる。したがって、環境上の影響を重視する場合には実質的に含まない方が好ましい。
【0063】
鉛成分は、ガラスを製造、加工、及び廃棄をする際に環境対策上の措置を講ずる必要があるため、コストが高くなり、本発明のガラスに鉛成分を含有させるべきでない。
【0064】
As成分は、ガラス溶融の清澄性を向上させるために使用されている成分であるが、ガラスを製造、加工、及び廃棄をする際に環境対策上の措置を講ずる必要があるため、本発明のガラスにAsを含有させることが好ましくない。
【0065】
本発明においては、原料を溶融する際にその一部が分解、揮発等し、最終的なガラス中に残存しないことが要求される。そのためには、原料として酸化物以外の原料を使用することが好ましい。例えば、塩化物、過酸化物、硝酸塩、炭酸塩等が挙げられ、特に好ましくは、硝酸塩が使用される。
【0066】
本発明の光学ガラスは、精密プレス成形をされ、典型的にはレンズ、プリズム、ミラー用途に使用することができる。前述のとおり本発明の光学ガラスはプレス成形用のプリフォーム材として使用することができ、或いは溶融ガラスをダイレクトプレスすることも可能である。プリフォーム材として使用する場合、その製造方法及び精密プレス成形方法は特に限定されるものではなく、公知の製造方法及び成形方法を使用することができる。プリフォーム材の製造方法としては、例えば特開平8−319124に記載のガラスゴブの成形方法や特開平8−73229に記載の光学ガラスの製造方法及び製造装置のような溶融ガラスから直接プリフォーム材を製造することもでき、またストリップ材を冷間加工して製造しても良い。
【実施例】
【0067】
以下、実施例を用いて本発明を更に詳細に説明するが、本発明は以下に限定されるものではない。実施例1と比較例1の組成は、一部の成分の供給原材料の供給形態が異なるのみである。比較例1については非酸化性ガスである炭酸塩のみを含有させているが、実施例1については、酸化性ガスである硝酸塩のみを含有させていることが特徴である。なお表中の各成分の成分比は酸化物基準に換算したものであり、原料含有量はそれぞれの成分について、酸化物基準で表される各組成をガラス中に含有させるための各原料の(酸化物基準に対する)相対的な重量である。
【0068】
【表1】

【0069】
表1に示す組成、原料形態でガラスの重量が600gになるように原料を秤量し、均一に混合した。石英坩堝を用いて650℃〜900で2〜3時間粗溶解した後、800℃程度に調整して、1時間程度保温してから金型に鋳込み、ガラスを作製した。得られたガラス特性を表1に示す。
【0070】
実施例の光学ガラスについて、透過率測定を実施した。透過率は、日本光学硝子工業会規格JOGIS02に準じて行った。具体的には厚さ10±0.1mmの対面平行研磨品をJISZ8722に準じ、200〜800nmの分光透過率を測定するものである。
【0071】
図1に、実施例1と比較例1のガラスの透過スペクトルを示す。実施例1の組成はNaOの原料をNaNO、BaOの原料をBa(NO)、KOの原料をKNOとし、比較例1の組成はNaOの原料をNaCO、BaOの原料をBaCO、KOの原料をKCOとしたものであり、このような組成の置換により透過率が飛躍的に向上した。このように、原料の一部の原料形態の変更により、生産技術的な多大なコストをかけることなく、リン酸塩系成分含有ガラスの特有の問題点である透過率を大きく改善することができた。
【産業上の利用可能性】
【0072】
以上、説明したように本発明で製造される光学ガラスは透過率が飛躍的に良好な光学ガラスを得ることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化物基準の質量%でP成分を10%以上含有する光学ガラスを製造する方法であって、原料混合物を溶融成形し、前記原料混合物のうち、ガラス溶融時に酸化性ガスを放出する原料を、前記原料混合物全質量の1%以上含む前記製造方法。
【請求項2】
前記ガラス原料混合物が、硝酸塩または硫酸塩あるいはこれらの複合塩からなる群より選択される1種以上含む請求項1の製造方法。
【請求項3】
前記原料混合物を溶融成形した光学ガラスを再昇温して熱処理する工程を含まないことを特徴とする請求項1または2の製造方法。
【請求項4】
非酸化性ガスを放出する原料に対する酸化性ガスを放出する原料の割合が、質量比で0.2以上であることを特徴とする請求項1〜3いずれかの製造方法。
【請求項5】
溶融成形された光学ガラスの光線透過率が70%となる波長λ70が500nm以下であることを特徴とする請求項1〜4いずれかの製造方法。
【請求項6】
前記原料混合物を溶融する工程で、溶融炉内の酸素濃度が5%以上であることを特徴とする請求項1〜5いずれかの製造方法。
【請求項7】
前記原料混合物中の酸化性ガスを放出する原料が、原料混合物全質量の1〜90%含む請求項1〜6いずれかの製造方法。
【請求項8】
酸化物基準の質量%で
必須成分として
Nb10〜70%
10〜50%及び
TiO3〜40%並びに
任意成分として
NaO 0〜30%
O 0〜20%
0〜10%
LiO 0〜10%
SiO0〜10%
BaO 0〜20%
Gd0〜10%
Bi0〜10%
WO0〜20%
Sb0〜3%
を含むことを特徴とする請求項1〜7いずれかに記載の製造方法。
【請求項9】
前記光学ガラスがTiO成分を10%より多く含むことを特徴とする請求項1〜8いずれかの製造方法。
【請求項10】
請求項1〜9いずれかの製造方法により、製造された光学ガラス。
【請求項11】
屈折率[nd]が1.80以上、アッベ数[νd]が25以下の光学恒数を有する請求項10の光学ガラス。
【請求項12】
請求項10または11記載の光学ガラスからなる精密プレス成形用プリフォーム。
【請求項13】
請求項10または11記載の光学ガラスからなる光学素子。

【図1】
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【公開番号】特開2011−93721(P2011−93721A)
【公開日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−246763(P2009−246763)
【出願日】平成21年10月27日(2009.10.27)
【出願人】(000128784)株式会社オハラ (539)
【Fターム(参考)】