説明

光学ガラスフィルター

【課題】通過域における透過率が高く、且つ、紫外域においてフラットな透過特性を有する光学ガラスフィルターを提供する。
【解決手段】酸化物換算による重量%表示で、SiO 40%〜70%、B 1%〜20%、Al 3%〜10%、KO 0〜10%、NaO 0〜5%、及び、LiO 0〜3%(但し、KO+NaO+LiOで2%〜10%)を含有し、更に、ハロゲン化カリウム、及び、CoO 0.05%〜0.5%を含有し、肉厚2.0mmの試料において、330nm〜450nmの波長範囲の透過率が70%以上である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、波長300〜500nm程度の光を透過し、その他の可視域の光を吸収する光学ガラスフィルターに関する。
【背景技術】
【0002】
最高透過率を示す波長が350〜450nmの範囲に存在し、その他の可視域の光を吸収する着色ガラスとしては、例えば、特許文献1に記載の発明が知られている。
【0003】
この発明は、酸化物換算による重量%表示で、SiO 50〜75%、B 0〜10%、Al 0〜5%、LiO 0〜10%、NaO 0〜20%、KO 0〜20%(ただしLiO+NaO+KO 16.7〜30%)、MgO 0〜10%、CaO 0〜20%、SrO 0〜20%、BaO 0〜20%、ZnO 0〜20%(ただしMgO+CaO+SrO+BaO+ZnO 1〜20%)、Co 0.01〜7%、CuO 0〜7%、TiO 0〜1%、Sb 0〜3%を含有することで、最高透過率を示す波長が350〜450nmの範囲に存在するよう構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−250285号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記の発明は、通過域の最高透過率が、肉厚2.5mmの試料において、せいぜい80%程度であって透過性が必ずしも十分ではない。
【0006】
また、近年、紫外線の殺菌効果などに関連して、青色域から紫外域における高透過率フィルタの要望が高まっているが、上記の発明は、特に、紫外域における透過率がフラットではなくこの点でも問題である。
【0007】
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものであって、通過域における透過率が高く、且つ、紫外域においてフラットな透過特性を有する光学ガラスフィルターを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するため、本発明の係る光学ガラスフィルターは、酸化物換算による重量%表示で、SiO 40%〜70%、B 1%〜20%、Al 3%〜10%、KO 0〜10%、NaO 0〜5%、及び、LiO 0〜3%(但し、KO+NaO+LiOで2%〜10%)を含有し、更に、ハロゲン化物、及び、CoO 0.05%〜0.5%を含有し、肉厚2.0mmの試料において、330nm〜450nmの波長範囲の透過率が70%以上であることを特徴とする。
【0009】
本発明の数値範囲は、その下限と上限を含む概念である。なお、ガラス原料としては、上記の化合物に限定されず、例えば、KFやCoOだけでなく、KHFやCoなども含まれるのは勿論である。
【0010】
本発明の組成物のうち、SiOは、ガラスの主成分であり、化学的耐久性、耐水性を保持するためには、40%以上必要であり、70%を超えると溶融性に問題が生じる。Bは、ガラスの粘性を低下させ溶融性を高める。但し、20%を超えると化学耐久性に問題が生じるので、1%〜20%の含有量とすべきである。
【0011】
Alは、ガラスの分相や失透を抑える効果や、化学耐久性、耐水性を改善する効果がある。3%未満では効果がなく、10%を超えると溶融性に問題が生じる。なお、Al成分をAlFなどのフッ化物で代用しても良い。
【0012】
LiOは、ガラスの粘性を下げる効果があるが、3%を超えると結晶化が大きく、化学耐久性が悪くなる。KOやNaOは、ガラスの溶融性を向上させる効果があるが10%を超えると化学耐久性が悪くなる。好ましくは、KO+NaO+LiOの総量を2%〜10%程度とすべきである。
【0013】
本発明は、好ましくは、ハロゲン化物として、KF、KCl、KBr、NaF、NaCl、NaBrの何れか一以上を含有するべきである。
【0014】
KFやNaFは、これを1%〜15%含有させることで、ガラスの短波長側の透過特性を広げることができる。またCoによる吸収帯を長波長側に広げる効果もある。但し、KFやNaFの含有量が15%を超えると結晶化が激しくなり、溶融性に問題が生じる。KFやNaFの含有量は、好ましくは7%〜15%、より好ましくは、5%〜11%とすべきである。
【0015】
KClやNaClは、塩素を導入する原料で必須成分であり、Coによる吸収帯を長波長側に移動させる効果がある。但し、KClやNaClが6%を超えると失透性が大きくなるので、0.4%〜6%とすべである。KBrやNaBrは、臭素を導入する原料であり、650nm〜700nmの吸収をシャープにする効果がある。KBrやNaBrの含有量は、0〜5%(但し、KCl+KBr+NaCl+NaBrで2%〜10%)とするのが好適である。
【0016】
CoOは着色剤であり、本発明には不可欠な成分である。CoOの含有量が、0.05%未満では効果が小さく、十分な吸収を得るには、0.05%〜0.5%の含有量が必要である。好ましくは、CoOの含有率を0.1%〜0.5%すべきである。
【0017】
その他、本発明には、SbやSnOなどを含有させても良い。ここで、Sbは、清澄剤として有効であるが3%を超えると紫外域に吸収が現れ、目的の透過率を達成できなくなるので0%〜3.0%の含有量とすべきである。また、SnOの含有量は、0%〜1.0%とするのが好適である。
【0018】
本発明は、好ましくは、肉厚2.0mmの試料において、330nm〜450nmの波長範囲の透過率の最大偏差が15%以下(好ましくは12%以下)である。なお、最大偏差とは、当該波長範囲内の最高透過率と最低透過率の差を意味する。好ましくは、肉厚2.0mmの試料において、330nm〜450nmの波長範囲の両端の透過率偏差が10%以下である。
【0019】
本発明は、好ましくは、肉厚2.0mmの試料において、590nm〜700nmの範囲の透過率が20%以下(より好ましくは10%以下)である。
【発明の効果】
【0020】
上記した本発明によれば、通過域における透過率が高く、且つ、紫外域においてフラットな透過特性を有する光学ガラスフィルターを実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】実施例1の光学ガラスフィルターの透過率曲線を示す図面である。
【図2】実施例2の光学ガラスフィルターの透過率曲線を示す図面である。
【図3】実施例3の光学ガラスフィルターの透過率曲線を示す図面である。
【図4】実施例4の光学ガラスフィルターの透過率曲線を示す図面である。
【図5】実施例1と比較例1の透過率曲線を示す図面である。
【図6】比較例1と比較例2の透過率曲線を示す図面である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施例について説明するが特に本発明を限定するものではない。
【0023】
本発明の光学ガラスフィルターの作製方法には特に制限はなく、例えば、酸化物、水酸化物、炭酸塩、フッ化物、塩化物、臭化物などを適宜に用い所望の組成になるように秤量し混合して調合原料とする。これをルツボに入れ1400〜1480℃程度で溶融、攪拌、清澄を行い均質なガラスとする。次にガラスを鋳型に鋳込み、徐冷をおこない試料とした。できた試料を厚さ2.00mm±0.1mmで両面研磨を行い、分光光度計(日立U−4100)を使用して波長域250〜800nmの透過率測定を行った。
【0024】
【表1】

【0025】
上記の表1は、実施例1〜4及び比較例1〜2について、ガラス組成と光学特性をまとめたものである。なお、ピーク位置(peak position)は、90%以上透過率または89%以上透過率を示す波長域の平均位置(中心位置)を意味している。したがって、例えば、363nm〜410nmが90%以上の場合には、ピーク位置を386.5nmとする。
【0026】
図1〜図4は、実施例1〜4の透過率特性を示す図面である。何れも肉厚2.0mmの試料についてのデータであるが、屈折率が1.45〜1.50程度であるので、2.5mm程度の肉厚であっても、透過特性が殆ど変化しないことを確認している。
【0027】
表2は、各サンプルについて、波長330nm、450nmにおける透過率と、その波長範囲内の最高透過率とを示している。また、波長390nm、700nmにおける透過率も示している。
【0028】
【表2】

【0029】
図5は、実施例1と比較例2の透過率曲線を重ねて表示したものである。比較例1は、Coの含有量が実施例1〜4と同じであるが、ハロゲン化合物を含有していない。そのため、比較例1では、吸収ピークが534nm〜663nm位置にあるが、実施例1では、吸収ピークが、長波長側に移行して572nm〜691nmであることが確認できる。
【0030】
このように、コバルト成分を含むガラスに、ハロゲン(フッ素、塩素、臭素)成分を含有させることで、一般の酸化物ガラスに比べて、可視域の吸収域が長波長側に移行し、また300〜450nmの透過率が高まることが確認された。なお、KF、KCl、KBrを使用した実施例を示しているが、これらに代えて、NaF、NaCl、NaBrを使用しても同等の効果が得られた。
【0031】
図6は、参考のために、比較例1と比較例2の透過率曲線を重ねて表示したものである。2つの比較例は、KFを含有するか否かで顕著に相違し、フッ素を含有させることで、紫外域の吸収端を短波長側にのばす効果があることが確認される。
【0032】
なお、LiOを含有させた実施例については、図示を省略しているが、KOやNaOを含有する実施例1〜4と同等の効果を示すことを確認している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化物換算による重量%表示で、SiO 40%〜70%、B 1%〜20%、Al 3%〜10%、KO 0〜10%、NaO 0〜5%、及び、LiO 0〜3%(但し、KO+NaO+LiOで2%〜10%)を含有し、
更に、ハロゲン化物、及び、CoO 0.05%〜0.5%を含有し、
肉厚2.0mmの試料において、330nm〜450nmの波長範囲の透過率が70%以上であることを特徴とする光学ガラスフィルター。
【請求項2】
ハロゲン化物として、KF、KCl、KBr、NaF、NaCl、NaBrの何れか一以上を含有する請求項1に記載の光学ガラスフィルター。
【請求項3】
KF又はNaFを1%〜15%含有する請求項2に記載の光学ガラスフィルター。
【請求項4】
KCl又はNaCl 0.4%〜6%、KBr又はNaBr 0〜5%(但し、KCl+KBr+NaCl+NaBrで2%〜10%)を含有する請求項2又は3に記載の光学ガラスフィルター。
【請求項5】
肉厚2.0mmの試料において、330nm〜450nmの波長範囲の透過率の最大偏差が15%以下である請求項1〜4の何れかに記載の光学ガラスフィルター。
【請求項6】
肉厚2.0mmの試料において、590nm〜700nmの範囲の透過率が20%以下である請求項1〜5の何れかに記載の光学ガラスフィルター。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−20022(P2013−20022A)
【公開日】平成25年1月31日(2013.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−152169(P2011−152169)
【出願日】平成23年7月8日(2011.7.8)
【出願人】(398012476)オーエムジー株式会社 (8)
【Fターム(参考)】