説明

光学ガラス及び光ファイバ用コア材

【課題】環境汚染物質である鉛を含有しなくとも、X線が照射された後にも光の伝送に好ましく用いることができ、且つ高い屈折率を有する光学ガラスを提供する。
【解決手段】光学ガラスは、酸化物換算組成のガラス全質量に対して、質量%でSiO成分を1.0%以上60.0%以下含有し、La成分、ZrO成分、TiO成分、Nb成分及びTaからなる群より選択される1種以上を必須成分として含有し、1.50以上の屈折率(n)を有し、線量2.5GyのX線を照射した後のガラスにキセノンランプの光を11時間照射したときの光量回復率が45%以上である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学ガラス及び光ファイバ用コア材に関する。
【背景技術】
【0002】
光線透過率が優れた光学ガラスは、近年様々な装置に組み込まれて用いられている。特にこれらの光学ガラスは、ライトガイドや、イメージガイド、工業用内視鏡として用いられる多成分系ガラスファイバのコア部に用いられたり、半導体の露光装置に使用されるi線用のガラスレンズ((株)オハラ発行のi線用カタログ参照)に用いられたりする。
【0003】
このうち多成分系ガラスファイバでは、光の伝達量を増やす為、コア部には屈折率(n)が高い材料を用いるとともに、クラッド部分には屈折率が低い材料を用いて開口数を上げる必要がある。また、光ファイバは伝送経路を長くして使用されることも多く、透過率が悪くなると伝送損失が大きくなる為、可視域全体で透過率が良いことも重要である。
【0004】
多成分系ガラスファイバのコア部に用いられる光学ガラスとして、特許文献1に、質量%でSiO+Bが34〜49%、NaO+KOが6〜13%、BaOが10〜30%、ZnOが6〜16%、La+ZrOが1〜15%、PbOが0〜20%である光学ガラスが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−117504号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特にライトガイドや工業用内視鏡の分野で、ガラスにX線が照射された後で、ガラスに光を透過させて伝送させる用途が検討されている。X線の照射されたガラスは光線透過率が低下するため、光が透過し難くなる。
【0007】
ここで、ガラスが鉛を含有している場合、X線の照射によって透過率が低下しても、ある一定量の光源光を照射すると透過率が回復するが、ガラスに環境汚染物質である鉛が含まれる問題がある。一方で、ガラスが鉛を含有しない場合、ひとたびX線の照射によって透過率が低下すると、光源光を照射しても透過率が回復し難いため、光を伝送する上での障害になる問題がある。
【0008】
本発明は上記問題点に鑑みてなされたものであって、その目的とするところは、環境汚染物質である鉛を含有しなくとも、X線が照射された後にも光の伝送に好ましく用いることができ、且つ高い屈折率を有する光学ガラスを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決するために、鋭意試験研究を重ねた結果、SiO成分を必須成分として所定の範囲で含有し、且つLa成分、ZrO成分、TiO成分、Nb成分及びTaからなる群より選択される1種以上を必須成分として含有することにより、屈折率(n)が高められながらも、X線が照射された後で光源光を照射させた際における透過光量の回復率が大きくなることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
(1) 酸化物換算組成のガラス全質量に対して、質量%でSiO成分を1.0%以上60.0%以下含有し、La成分、ZrO成分、TiO成分、Nb成分及びTaからなる群より選択される1種以上を必須成分として含有し、1.50以上の屈折率(n)を有し、線量2.5GyのX線を照射した後のガラスにキセノンランプの光を11時間照射したときの光量回復率が45%以上である光学ガラス。
【0011】
(2) 酸化物換算組成のガラス全質量に対して、質量%でSiO成分の含有量が50.0%以下である(1)記載の光学ガラス。
【0012】
(3) 酸化物換算組成のガラス全質量に対して、質量%で
La成分 0〜20.0%、及び/又は
ZrO成分 0〜20.0%、及び/又は
TiO成分 0〜15.0%、及び/又は
Nb成分 0〜15.0%、及び/又は
Ta成分 0〜10.0%、
の各成分を含有する(1)又は(2)記載の光学ガラス。
【0013】
(4) 酸化物換算組成のガラス全質量に対する、La成分、ZrO成分、TiO成分、Nb成分及びTa成分からなる群から選択される1種以上の含有量の質量和が1.0%以上30.0%以下である(1)から(3)のいずれか記載の光学ガラス。
【0014】
(5) 酸化物換算組成のガラス全質量に対して、質量%でLa成分を4.0より多く含有する(1)から(4)のいずれか記載の光学ガラス。
【0015】
(6) 酸化物換算組成のガラス全質量に対して、質量%で
LiO成分 0〜15.0%、及び/又は
NaO成分 0〜20.0%、及び/又は
O成分 0〜10.0%
の各成分をさらに含有する(1)から(5)のいずれか記載の光学ガラス。
【0016】
(7) 酸化物換算組成のガラス全質量に対して、質量%でLiO成分の含有量が5.0%以下である(6)記載の光学ガラス。
【0017】
(8) 酸化物換算組成のガラス全質量に対するRnO成分(式中、Rnは、Li、Na及びKからなる群より選択される1種以上である)の質量和が20.0%以下である(6)又は(7)記載の光学ガラス。
【0018】
(9) 酸化物換算組成のガラス全質量に対する質量和(NaO+KO)が0.1%以上20.0%以下である(6)から(8)のいずれか記載の光学ガラス。
【0019】
(10) 酸化物換算組成のガラス全質量に対して、質量%で
MgO成分 0〜10.0%、及び/又は
CaO成分 0〜20.0%、及び/又は
SrO成分 0〜20.0%、及び/又は
BaO成分 0〜40.0%、及び/又は
ZnO成分 0〜20.0%
の各成分をさらに含有する(1)から(9)のいずれか記載の光学ガラス。
【0020】
(11) 酸化物換算組成のガラス全質量に対するRO成分(式中、Rは、Mg、Ca、Sr、Ba及びZnからなる群より選択される1種以上である)の質量和が50.0%以下である(10)記載の光学ガラス。
【0021】
(12) 酸化物換算組成のガラス全質量に対して、質量%でBaO成分の含有量が28.0%未満である(10)又は(11)記載の光学ガラス。
【0022】
(13) 酸化物換算組成のガラス全質量に対して、質量%で
成分 0〜15.0%、及び/又は
Al成分 0〜3.0%
の各成分をさらに含有する(1)から(12)のいずれか記載の光学ガラス。
【0023】
(14) 酸化物換算組成のガラス全質量に対して、質量%で
Gd成分 0〜15.0%、及び/又は
成分 0〜10.0%、及び/又は
Yb成分 0〜10.0%、及び/又は
Lu成分 0〜10.0%
の各成分をさらに含有する(1)から(13)のいずれか記載の光学ガラス。
【0024】
(15) 酸化物換算組成のガラス全質量に対するLn成分(式中、Lnは、La、Gd、Y、Yb及びLuからなる群より選択される1種以上である)の質量和が20.0%以下である(14)記載の光学ガラス。
【0025】
(16) 酸化物換算組成のガラス全質量に対して、質量%で
GeO成分 0〜15.0%、及び/又は
WO成分 0〜15.0%、及び/又は
Bi成分 0〜15.0%、及び/又は
TeO成分 0〜15.0%、及び/又は
Sb成分 0〜1.0%
の各成分をさらに含有する(1)から(15)のいずれか記載の光学ガラス。
【0026】
(17) 実質的に鉛化合物及びヒ素化合物を含有しない(1)から(16)のいずれか記載の光学ガラス。
【0027】
(18) 395〜400nmでの内部透過率が0.9950以上である(1)から(17)のいずれか記載の光学ガラス。
【0028】
(19) 1.60以上2.00以下の屈折率(n)を有する(1)から(18)のいずれか記載の光学ガラス。
【0029】
(20) (1)から(19)のいずれか記載の光学ガラスよりなる光ファイバ用コア材。
【発明の効果】
【0030】
本発明によれば、SiO成分を必須成分として所定の範囲で含有し、且つLa成分、ZrO成分、TiO成分、Nb成分及びTaからなる群より選択される1種以上を必須成分として含有することにより、屈折率(n)が高められながらも、X線が照射された後で光源光を照射させた際における透過光量の回復率が大きくなる。そのため、環境汚染物質である鉛を含有しなくとも、X線が照射された後にも光の伝送に好ましく用いることができ、且つ高い屈折率を有する光学ガラスを提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0031】
本発明の光学ガラスは、酸化物換算組成のガラス全質量に対して、質量%でSiO成分を1.0%以上60.0%以下含有し、La成分、ZrO成分、TiO成分及びTaからなる群より選択される1種以上を必須成分として含有する。SiO成分を必須成分として所定の範囲で含有し、且つLa成分、ZrO成分、TiO成分、Nb成分及びTaからなる群より選択される1種以上を必須成分として含有することにより、屈折率(n)が高められながらも、X線が照射された後で光源光を照射させた際における透過光量の回復率が大きくなる。このため、環境汚染物質である鉛を含有しなくとも、線量2.5GyのX線を照射した後のガラスにキセノンランプの光を11時間照射したときの光量回復率が45%以上であり、且つ1.50以上の高い屈折率を有する光学ガラスと、これを用いた光ファイバ用コア材を得ることができる。
【0032】
以下、本発明の光学ガラスの実施形態について詳細に説明するが、本発明は、以下の実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の目的の範囲内において、適宜変更を加えて実施することができる。なお、説明が重複する箇所については、適宜説明を省略する場合があるが、発明の趣旨を限定するものではない。
【0033】
[ガラス成分]
本発明の光学ガラスを構成する各成分の組成範囲を以下に述べる。本明細書中において、各成分の含有率は特に断りがない場合は、全て酸化物換算組成のガラス全質量に対する質量%で表示されるものとする。ここで、「酸化物換算組成」とは、本発明のガラス構成成分の原料として使用される酸化物、複合塩、金属弗化物等が溶融時に全て分解され酸化物へ変化すると仮定した場合に、当該生成酸化物の総質量を100質量%として、ガラス中に含有される各成分を表記した組成である。
【0034】
<必須成分、任意成分について>
SiO成分は、ガラス形成成分であり、ガラス形成時における耐失透性を高め、ガラスの化学的耐久性を向上させる成分であり、且つ、光源光を照射した際の、ガラスを透過する光量の回復能力を高める成分である。特に、SiO成分の含有率を1.0%以上にすることで、光源光を照射した際の、ガラスを透過する光量の回復能力が高められるため、ガラスをX線が照射される用途に好ましく用いることができる。一方で、SiO成分の含有率を60.0%以下にすることで、屈折率の低下を抑制しつつ、低いガラス転移点(Tg)を確保することができる。従って、酸化物換算組成のガラス全質量に対するSiO成分の含有率は、好ましくは1.0%、より好ましくは10.0%、さらに好ましくは20.0%、最も好ましくは25.0%を下限とし、好ましくは60.0%、より好ましくは50.0%、最も好ましくは45.0%を上限とする。SiO成分は、原料として例えばSiO、KSiF、NaSiF等を用いてガラス内に含有することができる。
【0035】
La成分は、ガラスの屈折率を高め、且つ硬度やヤング率等の特性を向上する成分であり、本発明の光学ガラス中の任意成分である。特に、La成分の含有率を20.0%以下にすることで、ガラスの分散の低下を抑制し、且つガラス形成時における耐失透性を高めることができる。従って、酸化物換算組成のガラス全質量に対するLa成分の含有率は、好ましくは20.0%、より好ましくは15.0%、最も好ましくは12.0%を上限とする。なお、La成分は含有しなくとも技術的に不利益はないが、La成分を0%より多く含有することで、所望の屈折率と、光源光を照射した際における透過光量の回復能力と、を得易くすることができる。従って、酸化物換算組成のガラス全質量に対するLa成分の含有率は、好ましくは0%を超え、より好ましくは1.0%を超え、最も好ましくは4.0%を超える。La成分は、原料として例えばLa、La(NO・XHO(Xは任意の整数)等を用いてガラス内に含有することができる。
【0036】
ZrO成分は、ガラス形成時における失透を低減し、ガラスの屈折率を高め、且つ光源光を照射した際の透過光量の回復能力を高める成分であり、本発明の光学ガラス中の任意成分である。特に、ZrO成分の含有率を20.0%以下にすることで、ガラス形成時における耐失透性を高め、ガラスをより低温で溶解し易くすることができる。従って、酸化物換算組成のガラス全質量に対するZrO成分の含有率は、好ましくは20.0%、より好ましくは15.0%、最も好ましくは13.0%を上限とする。ZrO成分は、原料として例えばZrO、ZrF等を用いてガラス内に含有することができる。
【0037】
TiO成分は、ガラスの屈折率を高めるとともに、ガラスの分散を大きくする成分である。特に、TiO成分の含有率を15.0%以下にすることで、ガラスの着色を低減することができる。従って、酸化物換算組成のガラス全質量に対するTiO成分の含有率は、好ましくは15.0%、より好ましくは12.0%、最も好ましくは10.0%を上限とする。ガラスの着色を特に低減し、波長400nm近傍におけるガラスの内部透過率を特に高められる観点では、酸化物換算組成のガラス全質量に対するTiO成分の含有率は、好ましくは8.0%、より好ましくは5.0%、最も好ましくは3.0%を上限とする。TiO成分は、原料として例えばTiO等を用いてガラス内に含有することができる。
【0038】
Nb成分は、ガラスの屈折率を高めるとともに、ガラスの分散を大きくする成分である。特に、Nb成分の含有率を15.0%以下にすることで、ガラスの着色を低減することができる。従って、酸化物換算組成のガラス全質量に対するNb成分の含有率は、好ましくは15.0%、より好ましくは12.0%、最も好ましくは10.0%を上限とする。Nb成分は、原料として例えばNb等を用いてガラス内に含有することができる。
【0039】
Ta成分は、ガラスの屈折率を高め、ガラスの耐失透性を向上する成分であり、本発明の光学ガラス中の任意成分である。特に、Ta成分の含有率を10.0%以下にすることで、ガラス形成時における耐失透性を高めることができる。従って、酸化物換算組成のガラス全質量に対するTa成分の含有率は、好ましくは10.0%、より好ましくは5.0%、最も好ましくは3.0%を上限とする。Ta成分は、原料として例えばTa等を用いてガラス内に含有することができる。
【0040】
本発明の光学ガラスは、La成分、ZrO成分、TiO成分、Nb成分及びTa成分からなる群から選択される1種以上の含有量の質量和が1.0%以上30.0%以下であることが好ましい。この質量和を1.0%以上にすることで、所望の高屈折率が得られ易くなるため、所望のガラスファイバの光伝達量を得易くすることができる。一方、この質量和を30.0%以下にすることで、ガラス形成時における耐失透性を高めることができる。ここで特に、上記質量和をLa成分、ZrO成分及びTa成分からなる群から選択される1種以上の含有量の質量和とすることで、ガラスの着色をより低減し、ガラスにより高い透過率を与えることができる。また、上記質量和をLa成分、ZrO成分及びNb成分からなる群から選択される1種以上の含有量の質量和とすることで、ガラスの光源光を照射した際の透過光量の回復能力をより高めることができる。従って、酸化物換算組成のガラス全質量に対する、La成分、ZrO成分、TiO成分、Nb成分及びTa成分からなる群から選択される1種以上の含有量の質量和は、好ましくは1.0%、より好ましくは3.0%、最も好ましくは5.0%を下限とし、好ましくは30.0%、より好ましくは25.0%、さらに好ましくは20.0%、最も好ましくは18.0%を上限とする。
【0041】
LiO成分は、低いガラス転移点(Tg)を確保し、ガラスの溶融性を向上する成分である。ここで、LiO成分の含有率を15.0%以下にすることで、ガラスの耐失透性及び機械的強度を高めることができ、且つ、ガラスの平均線膨張係数の必要以上の上昇を抑えてコア−クラッド構造の光ファイバを形成し易くできる。特に、LiO成分の含有率を5.0%以下にすることで、光源光を照射した際の透過光量の回復能力の低下を抑えることができる。従って、酸化物換算組成のガラス全質量に対するLiO成分の含有率は、好ましくは15.0%、より好ましくは10.0%、さらに好ましくは5.0%、最も好ましくは3.0%を上限とする。LiO成分は、原料として例えばLiCO、LiNO、LiF等を用いてガラス内に含有することができる。
【0042】
NaO成分は、ガラス転移点(Tg)を低下してガラスの溶融性を向上する成分であり、本発明の光学ガラス中の任意成分である。特に、NaO成分の含有率を20.0%以下にすることで、プレス成形時におけるガラスの失透を低減しつつ、ガラスの平均線膨張係数の必要以上の上昇を抑えてコア−クラッド構造の光ファイバを形成し易くできる。従って、酸化物換算組成のガラス全質量に対するNaO成分の含有率は、好ましくは20.0%、より好ましくは15.0%、さらに好ましくは12.0%、最も好ましくは10.0%を上限とする。本発明において、NaO成分は含有しなくとも技術的な不利益はないが、NaO成分の含有率を0%より多くすることで、光源光を照射した際の透過光量の回復能力をより高めることができる。また、特にSiO成分を含有する本発明のガラスでは、ガラスの平均線膨張係数が高められるため、コア−クラッド構造の光ファイバを形成し易くできる。従って、酸化物換算組成のガラス全質量に対するNaO成分の含有率は、好ましくは0%を超え、より好ましくは1.0%、最も好ましくは4.0%を下限とする。NaO成分は、原料として例えばNaCO、NaNO、NaF、NaSiF等を用いてガラス内に含有することができる。
【0043】
O成分は、ガラス転移点(Tg)を低下してガラスの溶融性を向上させる成分であり、且つ、光源光を照射した際の、ガラスを透過する光量の回復能力を高める成分であり、本発明の光学ガラス中の任意成分である。特に、SiO成分を含有する本発明のガラスでは、ガラスの平均線膨張係数を高める成分でもある。ここで、KO成分の含有率を10.0%以下にすることで、プレス成形時におけるガラスの失透を低減することができる。また、ガラスの平均線膨張係数の上昇を抑えてコア−クラッド構造の光ファイバを形成し易くできる。従って、酸化物換算組成のガラス全質量に対するKO成分の含有率は、好ましくは10.0%、より好ましくは8.0%、最も好ましくは5.0%を上限とする。KO成分は、原料として例えばKCO、KNO、KF、KHF、KSiF等を用いてガラス内に含有することができる。
【0044】
本発明の光学ガラスは、RnO(式中、RnはLi、Na、Kからなる群より選択される1種以上)成分の質量和が20.0%以下であることが好ましい。この質量和を20.0%以下にすることで、ガラスの安定性を高め、ガラスの失透を低減することができる。従って、酸化物換算組成のガラス全質量に対するRnO成分の質量和は、好ましくは20.0%、より好ましくは15.0%、最も好ましくは12.0%を上限とする。なお、本発明の光学ガラスは、RnO成分を含有しなくとも所望の物性を有する光学ガラスを得ることは可能であるが、RnO成分の質量和を0%より多くすることで、低いガラス転移点(Tg)を得易くし、ガラスの溶融性を向上することができる。ここで特に、上記RnをNa及びKからなる群から選択される1種以上とした上で、この質量和を1.0%以上にすることで、光源光を照射した際におけるガラスの透過光量の回復能力をより高めることができる。従って、酸化物換算組成のガラス全質量に対するRnO成分の質量和は、好ましくは0%を超え、より好ましくは1.0%、最も好ましくは4.0%を下限とする。
【0045】
特に、本発明の光学ガラスは、質量和(NaO+KO)が0.1%以上20.0%以下であることが好ましい。特に、質量和(NaO+KO)を0.1%以上とすることにより、光源光を照射した際の透過光量の回復能力の低下を抑えながらも、低いガラス転移点(Tg)を得易くし、且つガラスの溶融性を向上することができる。一方、質量和(NaO+KO)を20.0%以下とすることにより、ガラスの安定性を高め、ガラスの失透を低減することができる。従って、酸化物換算組成のガラス全質量に対する質量和(NaO+KO)は、好ましくは0.1%、より好ましくは1.0%、さらに好ましくは2.0%、最も好ましくは4.0%を下限とし、好ましくは20.0%、より好ましくは15.0%、最も好ましくは12.0%を上限とする。
【0046】
MgO成分は、ガラスの耐失透性を向上し、且つガラスの溶融時の粘性を低下させる成分であり、本発明の光学ガラス中の任意成分である。特に、MgO成分の含有率を10.0%以下にすることで、ガラスの耐失透性を高めることができる。従って、酸化物換算組成のガラス全質量に対するMgO成分の含有率は、好ましくは10.0%、より好ましくは8.0%、最も好ましくは5.0%を上限とする。MgO成分は、原料として例えばMgCO、MgF等を用いてガラス内に含有することができる。
【0047】
CaO成分は、ガラスの溶融性及び耐失透性を向上し、ガラスの光学恒数を調整する成分であり、且つ、溶融温度におけるガラスの粘度を小さくする成分であり、本発明の光学ガラス中の任意成分である。特に、CaO成分の含有率を20.0%以下にすることで、ガラスの耐失透性を高めつつ、光源光を照射した際におけるガラスの透過光量の回復能力の低下を抑えることができる。従って、酸化物換算組成のガラス全質量に対するCaO成分の含有率は、好ましくは20.0%、より好ましくは10.0%、さらに好ましくは7.0%、最も好ましくは5.0%を上限とする。CaO成分は、原料として例えばCaCO、CaF等を用いてガラス内に含有することができる。
【0048】
SrO成分は、ガラスの溶融性及び耐失透性を向上し、ガラスの光学恒数を調整する成分であり、本発明の光学ガラス中の任意成分である。特に、SrO成分の含有率を20.0%以下にすることで、ガラスの耐失透性を高めることができる。従って、酸化物換算組成のガラス全質量に対するSrO成分の含有率は、好ましくは20.0%、より好ましくは10.0%、最も好ましくは8.0%を上限とする。SrO成分は、原料として例えばSr(NO、SrF等を用いてガラス内に含有することができる。
【0049】
BaO成分は、ガラスの溶融性及び耐失透性を向上し、ガラスの光学恒数を調整する成分であり、本発明の光学ガラス中の任意成分である。ここで、BaO成分の含有率を40.0%以下にすることで、ガラスの耐失透性を高めつつ、光源光を照射した際におけるガラスの透過光量の回復能力の低下を抑えることができる。この効果は、BaO成分の含有率を28.0%未満にしたときに、より顕著である。従って、酸化物換算組成のガラス全質量に対するBaO成分の含有率は、好ましくは40.0%、より好ましくは30.0%を上限とし、さらに好ましくは28.0%未満、最も好ましくは24.0%を上限とする。BaO成分は、原料として例えばBaCO、Ba(NO等を用いてガラス内に含有することができる。
【0050】
ZnO成分は、ガラスの溶融性及び耐失透性を向上し、屈折率を高める成分であり、且つ、ガラスの平均線膨張係数を小さくする成分であり、本発明の光学ガラス中の任意成分である。特に、ZnO成分の含有率を20.0%以下にすることで、ガラスの耐失透性を高めることができる。従って、酸化物換算組成のガラス全質量に対するZnO成分の含有率は、好ましくは20.0%、より好ましくは15.0%、最も好ましくは12.0%を上限とする。ここで、ZnO成分を含有しなくとも技術的な不利益はないが、ZnO成分の含有率を0%より多くすることで、光源光を照射した際におけるガラスの透過光量の回復能力をより高めることができる。また、ガラスの溶融時の粘度が小さくなるため、ガラスの溶融温度を低下させて炉材等の溶融ガラス中への溶存の低減を図ることが可能になり、ひいてはガラスの透過率をより高めることができる。従って、酸化物換算組成のガラス全質量に対するZnO成分の含有率は、好ましくは0%を超え、より好ましくは1.0%、さらに好ましくは3.0%、最も好ましくは5.0%を下限とする。ZnO成分は、原料として例えばZnO、ZnF等を用いてガラス内に含有することができる。
【0051】
本発明の光学ガラスは、RO(式中、RはZn、Mg、Ca、Sr、Baからなる群より選択される1種以上)成分の質量和が50.0%以下であることが好ましい。この質量和を50.0%以下にすることで、ガラスの耐失透性を高めることができる。従って、酸化物換算組成のガラス全質量に対するRO成分の質量和は、好ましくは50.0%、より好ましくは40.0%、最も好ましくは35.0%を上限とする。なお、本発明の光学ガラスは、RO成分を含有しなくとも所望の物性を有する光学ガラスを得ることは可能であるが、RO成分の質量和を1.0%以上にすることで、ガラスの安定性を高めて失透を抑えつつ、所望のガラスの光学特性を得易くすることができる。従って、酸化物換算組成のガラス全質量に対するRO成分の含有率の合計は、好ましくは1.0%、より好ましくは5.0%、さらに好ましくは10.0%、最も好ましくは20.0%を下限とする。
【0052】
成分は、ガラスの化学的耐久性の低下を抑制しつつ、ガラス転移点(Tg)を低くする成分であり、且つ、ガラスの平均線膨張係数を小さくする成分であり、本発明の光学ガラス中の任意成分である。ここで、B成分の含有率を15.0%以下、特に好ましくは10.0%以下にすることで、光源光を照射した際におけるガラスの透過光量の回復能力の低下を抑えることができる。従って、酸化物換算組成のガラス全質量に対するB成分の含有率は、好ましくは15.0%、より好ましくは10.0%を上限とし、さらに好ましくは5.0%未満とし、最も好ましくは3.0%を上限とする。B成分は、原料として例えばHBO、Na、Na・10HO、BPO等を用いてガラス内に含有することができる。
【0053】
Al成分は、ガラスの化学的耐久性を高め、ガラスの溶融時の粘度を小さくする成分であり、且つ、ガラスの平均線膨張係数を小さくする成分であり、本発明の光学ガラス中の任意成分である。特に、Al成分の含有率を3.0%以下にすることで、光源光を照射した際における透過光量の回復能力の低下を抑えることができる。従って、酸化物換算組成のガラス全質量に対するAl成分の含有率は、好ましくは3.0%、より好ましくは2.0%、最も好ましくは1.0%を上限とする。Al成分は、原料として例えばAl、Al(OH)、AlF等を用いてガラス内に含有することができる。
【0054】
Gd成分、Y成分、Yb成分及びLu成分は、高屈折率を実現し、且つ硬度やヤング率等の特性を向上する成分である。特に、Gd成分の含有量を15.0%以下にすること、若しくはY成分、Yb成分及びLu成分の各々の含有量を10.0%以下にすることで、ガラスの分散の低下を抑制し、ガラス形成時における耐失透性を高めることができる。従って、酸化物換算組成のガラス全質量に対するGd成分の含有率は、好ましくは15.0%、より好ましくは10.0%、最も好ましくは5.0%を上限とする。また、酸化物換算組成のガラス全質量に対するY成分、Yb成分及びLu成分の各々の含有率は、好ましくは10.0%、より好ましくは8.0%、最も好ましくは5.0%を上限とする。Gd成分、Y成分、Yb成分及びLu成分は、原料として例えばGd、GdF、Y、YF、Yb、Lu等を用いてガラス内に含有することができる。
【0055】
本発明の光学ガラスは、Ln成分(LnはLa、Gd、Y、Yb、及びLuからなる群より選択される1種以上)の質量和が15.0%以下であることが好ましい。この質量和を15.0%以下にすることで、ガラスの分散の低下を抑制し、ガラス形成時における耐失透性を高めることができる。従って、酸化物換算組成のガラス全質量に対するLn成分の質量和は、好ましくは15.0%、より好ましくは10.0%、最も好ましくは5.0%を上限とする。なお、Ln成分はいずれも含有しなくても所望のガラスを得ることが可能であるが、Ln成分を0%より多く含有することで、所望の高屈折率や高い機械的強度を得易くすることができる。従って、酸化物換算組成のガラス全質量に対するLn成分の質量和は、好ましくは0%より多くし、より好ましくは1.0%、最も好ましくは3.0%を下限とする。
【0056】
GeO成分は、ガラスの屈折率を高める成分であり、本発明の光学ガラス中の任意成分である。特に、GeO成分の含有率を15.0%以下にすることで、ガラスの溶融性の低下を抑えることができる。また、高価なGeO成分の使用量が減少するため、ガラスの材料コストを低減することができる。従って、酸化物換算組成のガラス全質量に対するGeO成分の含有率は、好ましくは15.0%、より好ましくは12.0%、最も好ましくは10.0%を上限とする。GeO成分は、原料として例えばGeO等を用いてガラス内に含有することができる。
【0057】
WO成分は、ガラス転移点(Tg)を下げ、ガラスのプレス成形性を向上する成分であり、本発明の光学ガラス中の任意成分である。特に、WO成分の含有率を15.0%以下にすることで、高価なWO成分の使用量が減るとともに、ガラスがより低温で溶解し易くなるため、ガラスの生産コストを低減することができる。従って、酸化物換算組成のガラス全質量に対するWO成分の含有率は、好ましくは15.0%、より好ましくは12.0%、最も好ましくは10.0%を上限とする。WO成分は、原料として例えばWO等を用いてガラス内に含有することができる。
【0058】
Bi成分及びTeO成分は、ガラス転移点(Tg)を下げ、ガラスの屈折率を高める成分である。特に、Bi成分及びTeO成分の各々の含有量を15.0%以下にすることで、これらの成分のプレス成形時の揮発が低減されることで、ガラスの表面へのクモリを低減できる。従って、酸化物換算組成のガラス全質量に対するこれらの成分の含有率は、好ましくは15.0%、より好ましくは10.0%、最も好ましくは5.0%を上限とする。Bi成分及びTeO成分は、原料として例えばBi、TeO等を用いてガラス内に含有することができる。
【0059】
Sb成分は、ガラスの脱泡を促進し、ガラスを清澄する成分であり、本発明の光学ガラス中の任意成分である。特に、Sb成分の含有率を1.0%以下にすることで、ガラス溶融時における過度の発泡を生じ難くすることができ、Sb成分が溶解設備(特にPt等の貴金属)と合金化し難くすることができる。従って、酸化物換算組成のガラス全質量に対するSb成分の含有率は、好ましくは1.0%、より好ましくは0.8%、最も好ましくは0.5%を上限とする。特に、光学ガラスの環境上の影響を重視する場合には、Sb成分を含有しないことが好ましい。Sb成分は、原料として例えばSb、Sb、NaSb・5HO等を用いてガラス内に含有することができる。
【0060】
なお、ガラスを清澄し脱泡する成分は、上記のSb成分に限定されるものではなく、ガラス製造の分野における公知の清澄剤、脱泡剤或いはそれらの組み合わせを用いることができる。
【0061】
<含有すべきでない成分について>
次に、本発明の光学ガラスに含有すべきでない成分、及び含有することが好ましくない成分について説明する。
【0062】
本発明の光学ガラスには、他の成分を本願発明のガラスの特性を損なわない範囲で必要に応じ、添加することができる。
【0063】
また、La、Zr、Ti、Ta、Nb、W、Gd、Y、Yb、Luを除く、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Ag及びMo等の各遷移金属成分は、それぞれを単独又は複合して少量含有した場合でもガラスが着色し、可視域の特定の波長に吸収を生じる性質があるため、特に可視領域の波長を使用する光学ガラスにおいては、実質的に含まないことが好ましい。
【0064】
さらに、PbO等の鉛化合物及びAs等のヒ素化合物、並びに、Th、Cd、Tl、Os、Be、Seの各成分は、近年有害な化学物資として使用を控える傾向にあり、ガラスの製造工程のみならず、加工工程、及び製品化後の処分に至るまで環境対策上の措置が必要とされる。従って、環境上の影響を重視する場合には、不可避な混入を除き、これらを実質的に含有しないことが好ましい。これにより、光学ガラスに環境を汚染する物質が実質的に含まれなくなる。そのため、特別な環境対策上の措置を講じなくとも、この光学ガラスを製造し、加工し、及び廃棄することができる。
【0065】
本発明のガラス組成物は、その組成が酸化物換算組成のガラス全質量に対する質量%で表されているため直接的にモル%の記載に表せるものではないが、本発明において要求される諸特性を満たすガラス組成物中に存在する各成分のモル%表示による組成は、酸化物換算組成で概ね以下の値をとる。
SiO成分 1.0〜75.0mol%
並びに
La成分 0〜7.0mol%、及び/又は
ZrO成分 0〜10.0mol%、及び/又は
TiO成分 0〜12.0mol%、及び/又は
Nb成分 0〜6.0mol%、及び/又は
Ta成分 0〜3.0mol%、及び/又は
LiO成分 0〜30.0mol%、及び/又は
NaO成分 0〜30.0mol%、及び/又は
O成分 0〜7.0mol%、及び/又は
MgO成分 0〜15.0mol%、及び/又は
CaO成分 0〜20.0mol%、及び/又は
SrO成分 0〜15.0mol%、及び/又は
BaO成分 0〜20.0mol%、及び/又は
ZnO成分 0〜15.0mol%、及び/又は
成分 0〜15.0mol%、及び/又は
Al成分 0〜3.0mol%、及び/又は
Gd成分 0〜3.0mol%、及び/又は
成分 0〜4.0mol%、及び/又は
Yb成分 0〜3.0mol%、及び/又は
Lu成分 0〜3.0mol%、及び/又は
GeO成分 0〜7.0mol%、及び/又は
WO成分 0〜7.0mol%、及び/又は
Bi成分 0〜3.0mol%、及び/又は
TeO成分 0〜7.0mol%、及び/又は
Sb成分 0〜0.3mol%
【0066】
[製造方法]
本発明の光学ガラスは、例えば以下のように作製される。すなわち、上記原料を各成分が所定の含有率の範囲内になるように均一に混合し、作製した混合物を白金坩堝、石英坩堝又はアルミナ坩堝に投入して粗溶解してカレットを作製する。作製したカレットを、金坩堝、白金坩堝、白金合金坩堝又はイリジウム坩堝に入れて800〜1200℃の温度範囲で1〜12時間溶融し、攪拌均質化してから所望の形状に成形して徐冷することにより作製される。
【0067】
特に、上記の手順により作製された光学ガラスを、光ファイバのコア材として使用する場合は、上記の手順により作製されたカレットを、クラッド材とともに公知の方法を使用して紡糸する。
【0068】
[物性]
本発明の光学ガラスは、X線を照射した後における光量回復率が大きいことが好ましい。より具体的には、線量2.5GyのX線を照射した後のガラスにキセノンランプからの光源光を11時間照射した場合の、X線照射直後の透過光の光量からの光量回復率が、X線照射前のガラスの光量を100%としたときに、45%以上であることが好ましい。これにより、X線が照射されて透過光が減少しても、光源光を照射させることで光線透過率が回復して伝送される光の損失が低減されるため、特にX線が照射されうる環境下での光伝送の用途に好ましく用いることができる。従って、本発明の光学ガラスは、X線照射後のガラスに光源光を所定時間照射したときの光量回復率が、好ましくは45%、より好ましくは50%、最も好ましくは55%を下限とする。
【0069】
また、本発明の光学ガラスは、所望の屈折率(n)を有することが好ましい。特に、本発明の光学ガラスの屈折率(n)は、好ましくは1.50、より好ましくは1.60、最も好ましくは1.63を下限とする。これにより、光学ガラスの開口数が高められるため、ガラスファイバを伝達する光の光量を増加させることができる。なお、本発明の光学ガラスは、屈折率が高いガラスであるほど光ファイバ用コア材として優れたガラスとなるため、その屈折率の上限は特に限定されないが、例えば2.00以下、具体的には1.90以下、より具体的には1.80以下であることが多い。
【0070】
また、本発明の光学ガラスは、できるだけ高い光線透過率を必要とする。特に400nm近辺、より具体的には395〜400nmの波長範囲における内部透過率が0.9950以上であることが好ましく、0.9970以上であることがより好ましく、0.9980以上であることが最も好ましい。これにより、光学ガラスを透過する短波長領域の光の損失がより小さくなる。そのため、この光学ガラスから光ファイバを形成したときに、光ファイバの伝送効率をより高めることができる。なお、本明細書中において、395〜400nmでの内部透過率とは、395〜400nmの各波長における内部透過率の最低値を意味する。
【0071】
また、本発明の光学ガラスは、平均線膨張係数(α)が所定の範囲内であることが好ましい。特に、本発明の光学ガラスは、好ましくは110×10−7−1以下、より好ましくは108×10−7−1以下、最も好ましくは105×10−7−1以下の平均線膨張係数(α)を有することが好ましい。これにより、光学ガラスを光ファイバ用コア材として用いた場合、クラッド材との平均線膨張係数の差異が低減される。そのため、これらコア材及びクラッド材を組み合わせた際の熱応力を低減し、所望の形状のコア−クラッド構造の光ファイバを得ることができる。なお、本発明の光学ガラスの平均線膨張係数(α)は特に限定されないが、好ましくは85×10−7−1以上、より好ましくは88×10−7−1以上、最も好ましくは90×10−7−1以上の平均線膨張係数(α)を有するようにしてもよい。これにより、光学ガラスを光ファイバ用コア材として用いた場合、屈折率が低くSiO成分やB成分等のガラス形成成分が多く含まれていることが多いクラッド材よりも、平均線膨張係数が適度に高められる。そのため、これらコア材及びクラッド材により形成されるコア−クラッド構造の光ファイバの曲げ強度を高めることができる。
【0072】
[光ファイバ用コア材]
本発明の光学ガラスは、特に光ファイバ用コア材として用いることにより、コア材の内部を透過する光の比率が高くなるため、より光伝送損失が少ない光ファイバ用コア材を提供することができる。ここで、本発明の光学ガラスから光ファイバを作製するには、粗溶解したカレットを用いて、二重坩堝法等の公知の方法を使用することができる。
【実施例】
【0073】
本発明の実施例(No.1〜No.27)及び比較例(No.A)の組成、並びに、これらのガラスの屈折率(n)、アッベ数(ν)、光量回復率、分光透過率で70%及び5%を示す透過波長(λ70、λ)の結果を表1〜表4に示す。なお、以下の実施例はあくまで例示の目的であり、これらの実施例のみ限定されるものではない。
【0074】
本発明の実施例(No.1〜No.27)の光学ガラス及び比較例(No.A)のガラスは、いずれも各成分の原料として各々相当する酸化物、水酸化物、炭酸塩、硝酸塩、弗化物、水酸化物、メタ燐酸化合物等の通常の光学ガラスに使用される高純度原料を選定し、表1〜表4に示した各実施例の組成の割合になるように秤量して均一に混合した後、石英坩堝に投入して原料を溶融させ、カレットを作製した。その後、白金合金からなる二重坩堝にカレットを投入し、ガラス組成の熔融難易度に応じて電気炉で800〜1200℃の温度範囲で1〜12時間熔融した後、攪拌均質化してから直径30〜100μmのファイバ形状に成形し、うち1mの長さのものを切断し、回復試験用のガラスファイバを作製した。
【0075】
ここで、実施例(No.1〜No.27)の光学ガラス及び比較例(No.A)のガラスの光量回復率は、以下のように測定した。すなわち、市販の医療用X線照射装置で発生させたX線を、ガラスに照射した。ガラスに吸収されるX線の線量は、2.5Gyとなるようにした。その後、市販のキセノンランプから発光した光源光を、X線を照射した後のガラスに断続的に11時間照射した。このとき、X線を照射する前と、X線を照射した直後と、光源光を照射した直後と、におけるガラスを透過光の光量を測定し、X線を照射する前のガラスの光量を100%としたときの、X線を照射した直後の透過光の光量からの光量回復率(%)を求めた。
【0076】
ここで、実施例(No.1〜No.27)の光学ガラス及び比較例(No.A)のガラスの屈折率(n)、アッベ数(ν)は、徐冷降温速度を−25℃/hにして得られたガラスについて、日本光学硝子工業会規格JOGIS01―2003に基づいて測定を行うことで求めた。
【0077】
また、実施例(No.1〜No.27)及び比較例(No.A)のガラスの透過率については、日本光学硝子工業会規格JOGIS02に準じて測定した。なお、本発明においては、ガラスの透過率を測定することで、ガラスの着色の有無と程度を求めた。具体的には、厚さ10±0.1mmの対面平行研磨品をJISZ8722に準じ、200〜800nmの分光透過率を測定し、λ及びλ70(透過率5%時及び70%時の波長)を求めた。
【0078】
また、実施例(No.1〜No.27)及び比較例(No.A)のガラスについて、日本光学硝子工業会規格JOGIS17−1982「光学ガラスの内部透過率の測定方法」により、厚みの異なる2つの試料より395〜400nmにおける内部透過率を求めた。なお、内部透過率の測定に使用した試料は、厚みが10mmと50mmの試料である。
【0079】
【表1】

【0080】
【表2】

【0081】
【表3】

【0082】
【表4】

【0083】
表1〜表4に表されるように、本発明の実施例の光学ガラスは、X線を照射した後のガラスに光源光を所定時間照射したときの光量回復率が45.0%以上、より詳細には70.0%以上であった。一方で、比較例Aのガラスは、いずれも光量回復率が45.0%より小さかった。従って、本発明の実施例の光学ガラスは、比較例Aのガラスに比べ、X線を照射した後のガラスに光源光を所定時間照射したときの光量回復率が大きいことが明らかになった。
【0084】
また、本発明の実施例の光学ガラスは、いずれも屈折率(n)が1.50以上、より詳細には1.60以上であるとともに、この屈折率(n)は2.00以下、より詳細には1.80以下であり、所望の範囲内であった。
【0085】
また、本発明の実施例の光学ガラスは、いずれも395〜400nmにおける内部透過率が0.995以上であり、所望の範囲内であった。
【0086】
従って、本発明の実施例の光学ガラスは、大きなX線照射後の光量回復を有しながらも、高屈折率(n)を有し、且つ可視領域のより広い波長範囲について透過率が高いことが明らかになった。
【0087】
以上、本発明を例示の目的で詳細に説明したが、本実施例はあくまで例示の目的のみであって、本発明の思想及び範囲を逸脱することなく多くの改変を当業者により成し得ることが理解されよう。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化物換算組成のガラス全質量に対して、質量%でSiO成分を1.0%以上60.0%以下含有し、La成分、ZrO成分、TiO成分、Nb成分及びTaからなる群より選択される1種以上を必須成分として含有し、1.50以上の屈折率(n)を有し、線量2.5GyのX線を照射した後のガラスにキセノンランプの光を11時間照射したときの光量回復率が45%以上である光学ガラス。
【請求項2】
酸化物換算組成のガラス全質量に対して、質量%でSiO成分の含有量が50.0%以下である請求項1記載の光学ガラス。
【請求項3】
酸化物換算組成のガラス全質量に対して、質量%で
La成分 0〜20.0%、及び/又は
ZrO成分 0〜20.0%、及び/又は
TiO成分 0〜15.0%、及び/又は
Nb成分 0〜15.0%、及び/又は
Ta成分 0〜10.0%、
の各成分を含有する請求項1又は2記載の光学ガラス。
【請求項4】
酸化物換算組成のガラス全質量に対する、La成分、ZrO成分、TiO成分、Nb成分及びTa成分からなる群から選択される1種以上の含有量の質量和が1.0%以上30.0%以下である請求項1から3のいずれか記載の光学ガラス。
【請求項5】
酸化物換算組成のガラス全質量に対して、質量%でLa成分を4.0より多く含有する請求項1から4のいずれか記載の光学ガラス。
【請求項6】
酸化物換算組成のガラス全質量に対して、質量%で
LiO成分 0〜15.0%、及び/又は
NaO成分 0〜20.0%、及び/又は
O成分 0〜10.0%
の各成分をさらに含有する請求項1から5のいずれか記載の光学ガラス。
【請求項7】
酸化物換算組成のガラス全質量に対して、質量%でLiO成分の含有量が5.0%以下である請求項6記載の光学ガラス。
【請求項8】
酸化物換算組成のガラス全質量に対するRnO成分(式中、Rnは、Li、Na及びKからなる群より選択される1種以上である)の質量和が20.0%以下である請求項6又は7記載の光学ガラス。
【請求項9】
酸化物換算組成のガラス全質量に対する質量和(NaO+KO)が0.1%以上20.0%以下である請求項6から8のいずれか記載の光学ガラス。
【請求項10】
酸化物換算組成のガラス全質量に対して、質量%で
MgO成分 0〜10.0%、及び/又は
CaO成分 0〜20.0%、及び/又は
SrO成分 0〜20.0%、及び/又は
BaO成分 0〜40.0%、及び/又は
ZnO成分 0〜20.0%
の各成分をさらに含有する請求項1から9のいずれか記載の光学ガラス。
【請求項11】
酸化物換算組成のガラス全質量に対するRO成分(式中、Rは、Mg、Ca、Sr、Ba及びZnからなる群より選択される1種以上である)の質量和が50.0%以下である請求項10記載の光学ガラス。
【請求項12】
酸化物換算組成のガラス全質量に対して、質量%でBaO成分の含有量が28.0%未満である請求項10又は11記載の光学ガラス。
【請求項13】
酸化物換算組成のガラス全質量に対して、質量%で
成分 0〜15.0%、及び/又は
Al成分 0〜3.0%、
の各成分をさらに含有する請求項1から12のいずれか記載の光学ガラス。
【請求項14】
酸化物換算組成のガラス全質量に対して、質量%で
Gd成分 0〜15.0%、及び/又は
成分 0〜10.0%、及び/又は
Yb成分 0〜10.0%、及び/又は
Lu成分 0〜10.0%
の各成分をさらに含有する請求項1から13のいずれか記載の光学ガラス。
【請求項15】
酸化物換算組成のガラス全質量に対するLn成分(式中、Lnは、La、Gd、Y、Yb及びLuからなる群より選択される1種以上である)の質量和が20.0%以下である請求項14記載の光学ガラス。
【請求項16】
酸化物換算組成のガラス全質量に対して、質量%で
GeO成分 0〜15.0%、及び/又は
WO成分 0〜15.0%、及び/又は
Bi成分 0〜15.0%、及び/又は
TeO成分 0〜15.0%、及び/又は
Sb成分 0〜1.0%
の各成分をさらに含有する請求項1から15のいずれか記載の光学ガラス。
【請求項17】
実質的に鉛化合物及びヒ素化合物を含有しない請求項1から16のいずれか記載の光学ガラス。
【請求項18】
395〜400nmでの内部透過率が0.9950以上である請求項1から17のいずれか記載の光学ガラス。
【請求項19】
1.60以上2.00以下の屈折率(n)を有する請求項1から18のいずれか記載の光学ガラス。
【請求項20】
請求項1から19のいずれか記載の光学ガラスよりなる光ファイバ用コア材。

【公開番号】特開2011−116621(P2011−116621A)
【公開日】平成23年6月16日(2011.6.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−123398(P2010−123398)
【出願日】平成22年5月28日(2010.5.28)
【出願人】(000128784)株式会社オハラ (539)
【Fターム(参考)】