説明

光学ガラス

【課題】酸化ビスマスを含有する光学ガラスにおいて、所定の光学恒数を有し、かつ、化学的耐久性に優れた光学ガラスを提供する。
【解決手段】屈折率[nd]が1.75以上、アッベ数[νd]が10以上の光学恒数を有する光学ガラスであって、質量%で、Biを10%以上90%未満含有し、粉末法による化学的耐久性(粉末法耐久性:RW(P))がクラス1から5以下である光学ガラスである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化ビスマスを含有する光学ガラスに関し、さらに詳しくは、化学的耐久性に優れた酸化ビスマスを含有する光学ガラスに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、光学系を使用する機器の高集積化、高機能化が急速に進められる中、光学系に対する高精度化、軽量化、小型化の要求がますます強まっており、レンズ枚数の削減を図るため、高屈折率高分散ガラスを用いた非球面レンズを使用した光学設計が主流になりつつある。
【0003】
非球面レンズの製造方法としては、ゴブあるいはガラスブロックを切断・研磨したプリフォーム材を加熱軟化させ、これを高精度な面を持つ金型で加圧成形させることによって、研削・研磨工程を省略できるために、低コスト・大量生産を実現している。
【0004】
この非球面レンズの低コスト・大量生産という目的を達成するためには、まずモールドプレスに用いられる金型が繰り返し使用できなければ、低コスト・大量生産という目的には合致し得ない。そのためには金型の表面酸化を極力抑えるべく、モールドプレス時の温度をできるだけ低く設定する必要がある。また、モールドプレスの上限温度と転移温度は相関性があり、これらの温度は低ければ低い程金型の表面酸化の進行が抑えられ、金型の寿命の観点からも好ましい。
【0005】
また、一般的に低い転移温度を持つガラスは、化学的耐久性が良好ではないことが知られている。したがって、ビスマスは、ガラス転移点を下げるため、ビスマスを含有したガラスは、一般的に化学的耐久性が悪くなる。いかにして低いガラス転移温度を持ちながらも化学的耐久性の良好なガラスを得るかが重要な課題となっている。
【0006】
近年、精密プレス用材料として、特許文献1、2に、Pを主成分としたガラスが開示されている。しかし、これらのガラスにおいても、ガラスの転移点が高く、ガラスの表面の型材と反応してしまい、精密成形された光学部品の転写面の面精度を維持することが困難であった。さらに、型材の表面に傷をつけてしまう傾向にあった。さらにP、TiO、Nb、WOを主成分としていることから再加熱工程において失透の影響を受けやすく、さらに金型との融着やガラスの割れなどの現象が起こりやすいなど比較的精密プレス成形が困難なガラスであった。
【0007】
さらに高屈折率のプレス成形用ガラスとして、特許文献3に記載されるBiを主成分としたガラスが開示されているが、化学的耐久性が十分ではない。さらに、透過率が悪いため、可視領域に高い透過性が要求される光学用レンズとして使用するためには、十分な透過率ではなかった。
【特許文献1】特開平7−97234号公報
【特許文献2】特開2002−173336号公報
【特許文献3】特開2002−201039号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は以上のような課題に鑑みてなされたものであり、酸化ビスマスを含有する光学ガラスにおいて、化学的耐久性に優れた光学ガラスを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、Bを多量に含むガラスにおいて、Biと、好ましくはアルカリ金属酸化物および/またはアルカリ土類金属酸化物を所定量組み合わせることにより、屈折率[nd]が1.75以上でアッベ数[νd]が10以上の光学恒数を有し、ガラス転移点(Tg)が500℃以下で、化学的耐久性に優れ、安価な製造コストで所望の光学ガラスを得られることを見出し、本発明を完成するに至った。より具体的には、本発明は以下のようなものを提供する。
【0010】
(1) 屈折率[nd]が1.75以上、アッベ数[νd]が10以上の光学恒数を有する光学ガラスであって、質量%で、Biを10%以上90%未満含有し、粉末法による化学的耐久性(粉末法耐久性:RW(P))がクラス1から5である光学ガラス。
【0011】
従来のビスマスを含有するガラスは、Si−Ti系、P−Nb系のガラスと比較し、化学的耐久性が低い傾向にあった。また、低Tgガラスは、アルカリ酸化物を比較的多く含んでいるため、アルカリ成分とプロトンのイオン交換反応によって、侵食が進行し化学的耐久性が劣っていた。
【0012】
本発明の光学ガラスは、Biを10%以上90%未満含有し、アルカリ成分を所定量含有させることで、屈折率が1.75以上、アッベ数が10以上の光学恒数を有し、かつ、P−Nb系のガラスと同程度の化学的耐久性を有することが容易となるため、製造した光学ガラスの洗浄工程および保管による変質を防止することが容易となり、レンズ成膜後の長時間の信頼性を有する傾向となる。
【0013】
なお、「化学的耐久性」とは、水あるいは酸によるガラスの侵食に対する耐久性であり、水に対する耐久性は、日本光学硝子工業会規格「光学ガラスの化学的耐久性の測定方法」JOGIS06−1996により測定することができる。また、「化学的耐久性がクラス1から5である」とは、JOGIS06−1996に準じて行った測定前後の試料の質量の減量率が、1.10wt%未満であることを意味する。なお、クラス1は、測定前後の試料の質量の減量率が、0.05wt%未満であり、クラス2は、0.05wt%以上0.10wt%未満、クラス3は、0.10wt%以上0.25wt%未満、クラス4は、0.25wt%以上0.60wt%未満、クラス5は、0.60wt%以上1.10wt%未満である。
【0014】
(2) 質量%で、SiOを0%を超え20%未満含有する(1)記載の光学ガラス。
【0015】
(3) 質量%で、RnO成分(Rn=アルカリ金属成分)を、合計0.5%を超えて含有し、RO成分(R=Zn,Ba,Sr,Ca,Mgより選択される1種以上)を合計5%以上含有する(1)または(2)記載の光学ガラス。
【0016】
(4) 質量%で、RO成分(R=Zn,Ba,Sr,Ca,Mgより選択される1種以上)を合計15%以上含有する(1)から(3)いずれか記載の光学ガラス。
【0017】
(5) 質量%で、RnO成分(Rn=アルカリ金属成分)を、合計1%を超えて含有し、RO成分(R=Zn,Ba,Sr,Ca,Mgより選択される1種以上)を合計15%以上含有する(1)から(4)いずれか記載の光学ガラス。
【0018】
(2)から(5)の組成により光学ガラスを製造することで、(1)記載の光学恒数を有し、かつ、化学的耐久性を向上させることが容易となる。また、アルカリ金属成分であるRnO成分は、Tgを下げ、ガラス溶融性を向上させる効果があるが、化学的耐久性を悪化させる効果も有する。(3)または(5)の態様によれば、アルカリ金属成分を含有させることで、Tgを下げ、さらに、RO成分のガラス溶融性を向上させることが容易となる。また、RO成分でRnO成分の化学的耐久性の悪化を改善しており、RnO成分とRO成分が相互に作用して、低Tgガラスと化学的耐久性の向上を構成している。また、LiOはガラスの安定性を向上させる効果も有する。
【0019】
(6) 質量%で、TiO+Nb+WO+ZrO+Lnの合計量を0%〜20%含有する(1)から(5)いずれか記載の光学ガラス。(ただし、LnはLa,Gd,Y,Ce,Eu,Dy,Yb,Luより選択される1種以上を示す。)
【0020】
この態様によれば、屈折率の向上と、分散の調節を容易にし、さらに、化学的耐久性を向上させる効果を有する。
【0021】
(7) 前記化学的耐久性がクラス1から4である(1)から(6)いずれか記載の光学ガラス、または、(8) 前記化学的耐久性がクラス1から3である(1)から(7)いずれか記載の光学ガラス。
【0022】
この態様によれば、化学的耐久性がクラス1から4またはクラス1から3であるため、より変質しにくい特性を有する光学ガラスを提供することが容易となる。
【0023】
(9) 質量%で
Bi:10〜90%未満、および/または
SiO:0%を超え20%未満、および/または
BaO:0〜50%、および/または
:0〜30%、および/または
Al:0〜4%、および/または
TiO:0〜20%、および/または
Nb:0〜20%、および/または
WO:0〜15%、および/または
Ta:0〜15%、および/または
ZrO:0〜10%、および/または
ZnO:0〜15%、および/または
MgO:0〜10%、および/または
CaO:0〜15%、および/または
SrO:0〜50%、および/または
LiO:0〜15%、および/または
NaO:0〜15%、および/または
O:0〜20%、および/または
:0〜10%、および/または
La:0〜10%、および/または
Gd:0〜10%、および/または
Yb:0〜10%、および/または
:0〜10%、および/または
Sb:0〜3%、および/または
GeO:0〜20%、および/または
F:0〜5%
を含有する(1)から(8)いずれか記載の光学ガラス。
【0024】
上記組成により光学ガラスを製造することで、化学的耐久性を向上させることができる。
【0025】
(10) (1)から(9)いずれか記載の光学ガラスを精密プレス成形してなる光学素子。
【0026】
この態様によれば、光学ガラスの化学耐久性が高いため、当該光学ガラスを用いて精密プレス成形した光学素子においても、化学的耐久性の向上した光学素子を製造することが容易となる。したがって、製造した光学素子の洗浄工程において、変質しにくい特性を有する。
【0027】
(11) (1)から(10)いずれか記載の光学ガラスからなる精密プレス成形用プリフォーム、または、(12) (11)記載の精密プレス成形用プリフォームを精密プレス成形してなる光学素子。
【0028】
この態様によれば、(10)と同様に、光学ガラスの化学的耐久性が高いため、当該光学ガラスを用いて製造したプリフォーム、または、当該プリフォームを用いた光学素子においても化学的耐久性を向上させることが容易となる。
【発明の効果】
【0029】
本発明の光学ガラスは、上記構成要件を採用することにより、光学ガラスの化学的耐久性を向上させることができるため、製造された光学ガラス、プリフォームおよび光学素子の洗浄工程および保管において、変質しにくい特性を有する光学ガラス、プリフォームおよび光学素子を提供することが容易となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
次に、本発明の光学ガラスにおいて、具体的な実施態様について説明する。
【0031】
[ガラス成分]
本発明の光学ガラスを構成する各成分の組成範囲を以下に述べる。各成分は質量%にて表現する。なお、本願明細書中において質量%で表されるガラス組成は全て酸化物基準での質量%で表されたものである。ここで、「酸化物基準」とは、本発明のガラス構成成分の原料として使用される酸化物、硝酸塩等が溶融時に全て分解され酸化物へ変化すると仮定した場合に、当該生成酸化物の質量の総和を100質量%として、ガラス中に含有される各成分を表記した組成である。
【0032】
<必須成分、任意成分について>
Biは、ガラスの安定性の向上、および、高屈折率高分散化およびガラス転移点(Tg)を下げるため、本発明の目的を達成するのに欠かせない成分である。しかし、Biを過剰に含有するとガラス安定性が損なわれ、少なすぎると本発明の目的を満たすことが出来ない。よって、Bi量は10%以上90%未満の範囲が好ましい。より好ましい範囲は20%以上90%未満で最も好ましい範囲は30%以上90%未満である。
【0033】
または、SiOはガラス形成酸化物として非常に有用な成分であり、ガラスの失透性および液相温度に対する粘性を高くするのに非常に効果がある成分である。これら成分の1種または2種合計の含有量の下限値は0%を超えることが好ましく、3%以上とすることがより好ましく、さらに好ましくは、7%以上とすることが好ましい。ただし、本発明が目的とする屈折率を得る為には、含有量の上限値を50%とすることが望ましく、45%とすることがより望ましく、さらに40%とすることが最も望ましい。
【0034】
上記2つの成分は、単独でガラス中に導入しても本発明の目的を達成することができるが、BとSiOを共存させることにより、ガラスの液相温度を格段に下げることができる。さらにSiO/Bの比が1.2未満にするとガラス溶融時における溶け残りが少なくなる傾向にある為、その比率を1.1未満とすることが好ましい。
【0035】
また、より効果的に本発明が目的とするガラス屈伏点(At)を得たい場合は、Bの上限値を30%以下とすることが好ましく、25%以下とすることがより好ましく、20%以下とすることが最も好ましい。また、SiOの上限値を20%未満とすることが好ましく、さらに15%以下とすることがより好ましく、さらには10%以下とすることが最も好ましい。さらに、SiOの下限値が0.1%を超えることが好ましく、さらに1%以上とすることがより好ましく、さらには2%以上とすることが最も好ましい。
【0036】
Alは、化学的耐久性を改善させるのには効果的な成分であるが、その量が多すぎるとガラスの溶融性が悪くなり失透性が増し、ガラス屈伏点を高くする傾向にある。したがって、上限値を4%とすることが好ましく、3%とすることが好ましく、1%とすることが最も好ましい。
【0037】
TiOは、ガラスの屈折率を高め、高分散を寄与し、液相温度を下げるのには効果的な成分であるが、その量が多すぎると逆にガラスの失透性が増す傾向にある。したがって、20%以下とすることが好ましく、10%以下とすることがより好ましく、5%以下とすることが最も好ましい。
【0038】
Nbは、ガラスの屈折率を高め、高分散を寄与し、ガラスの失透性を改善させるのには効果的な成分であるが、その量が多すぎるとガラスの溶融性が悪化する傾向にある。したがって、20%以下とすることが好ましく、15%以下とすることが好ましく、8%以下とすることが最も好ましい。
【0039】
WOは、ガラスの屈折率を高め、高分散を寄与し、ガラスの屈伏点を下げるのに効果的な成分であるが、その量が多すぎるとガラスの分相が増す傾向にある。したがって、15%以下とすることが好ましく、10%以下とすることが好ましく、5%以下とすることが最も好ましい。
【0040】
特に本発明が目的とする高屈折率高分散ガラスを得たい場合は、TiOとNbとWOの合計量を、0.5%以上とすることが好ましく、1%以上とすることが最も好ましい。
【0041】
Taは、ガラスの屈折率を高め、化学的耐久性を改善させるのには効果的な成分であるが、その量が多すぎるとガラスの分相が増す傾向にあり任意に添加しうる成分である。上限値を15%とすることが好ましく、10%とすることが好ましく、5%とすることが最も好ましい。さらに好ましくは含まない。
【0042】
ZrOは、化学的耐久性を改善させるのには効果的な成分であるが、その量が多すぎるとガラスの失透傾向が増す為、任意に添加しうる成分である。上限値を10%とすることが好ましく、5%とすることが好ましく、1%とすることが最も好ましい。さらには含まないことが好ましい。
【0043】
RO(R=Zn,Ba,Ca,Mg,Sr)成分はガラスの溶融性、耐失透性の向上および化学的耐久性の向上に効果があり、これらの成分のいずれかが含まれていることが好ましい。好ましくはこれらの合計量をRO(R=Zn,Ba,Ca,Mg,Sr)を0.1%以上含有させることが必要であり、さらに好ましくは5%以上さらに好ましくは10%以上含有させることが必要である。
【0044】
ZnOは、化学的耐久性を改善させるのには効果的な成分であるが、その量が多すぎると失透が発生しやすくなる。したがって、上限値を15%とすることが好ましく、10%とすることが好ましく、5%とすることが最も好ましい。
【0045】
CaOは、ガラスの溶融性を改善させるのには効果的な成分であるが、その量が多すぎると失透が発生しやすくなる。したがって、上限値を15%とすることが好ましく、10%とすることが好ましく、5%とすることが最も好ましい。
【0046】
BaOは、ガラスの失透性および着色を改善させるのには効果的な成分であるが、その量が多すぎると本開発が目的とする屈折率が得られにくくなる。したがって、上限値を50%とすることが好ましく、40%とすることが好ましく、35%とすることが最も好ましい。下限値については、0.1%とすることが好ましく、1%とすることが好ましく、3%とすることが最も好ましい。
【0047】
MgOは、ガラスを高分散化させるのには効果的な成分であるが、その量が多すぎると失透が発生しやすくなる。したがって、上限値を10%とすることが好ましく、7%とすることが好ましく、5%とすることが最も好ましい。
【0048】
SrOは、ガラスの失透性を改善させるのには効果的な成分であるが、その量が多すぎると再加熱試験における失透が発生しやすくなる。したがって、上限値を50%とすることが好ましく、40%とすることが好ましく、35%とすることが最も好ましい。
【0049】
RnO(Rn=K,Na,Li,Cs)成分はガラスの溶融性とガラス屈伏点を下げる効果がある。また、他の成分、例えばアルカリ土類金属と組み合わせて用いることにより、化学的耐久性を向上させる効果を有する。したがって、RnOの合計量の下限値を0.1%とすることが好ましく、0.5%とすることが好ましく、1%とすることが最も好ましい。
【0050】
LiOは、ガラスの溶融性を改善させ、再加熱試験における失透の発生防止に効果的な成分であるが、その量が多すぎると本発明の目的とする屈折率が得られにくくなる。したがって、上限値を15%とすることが好ましく、10%とすることが好ましく、5%とすることが最も好ましい。
【0051】
NaOは、ガラスの失透性を改善させ、再加熱試験における失透の発生防止に効果的な成分であるが、その量が多すぎると屈折率が下がってしまう。したがって、上限値を15%とすることが好ましく、10%とすることが好ましく、5%とすることが最も好ましい。
【0052】
Oは、ガラスの失透性を改善させるのに効果的な成分であるが、その量が多すぎると屈折率が下がってしまい本発明の目的とする屈折率が得られにくくなる。したがって、上限値を20%とすることが好ましく、15%とすることが好ましく、10%とすることが最も好ましい。
【0053】
、La、Gd、Ybの成分は、ガラスの化学的耐久性の向上に効果があり、任意に添加し得る成分であるが、その量が多いと分散が低分散になる傾向があり、耐失透性も増す傾向にある。したがって上記成分の合計量の上限値を10%とすることが好ましく、7%とすることがより好ましい。
【0054】
は、ガラスの着色の改善に効果がある成分であり任意に添加し得る成分である。しかしその量が多すぎるとガラスの分相傾向が強くなる。したがって、上限値を10%とすることが好ましく、5%とすることが好ましく、1%とすることが最も好ましい。さらに好ましくは含まない。
【0055】
Sbは、ガラス溶融の脱泡のために任意に添加することができるが、その量は3%以下で十分に効果を有する。
【0056】
GeOは、ガラスの着色の改善と高屈折率・高分散の向上に効果がある成分であるが、高価であるために任意に添加し得る成分である。したがって、上限値を20%とすることが好ましく、10%とすることが好ましく、5%とすることが最も好ましい。さらに好ましくは含まない。
【0057】
Fは、ガラスの溶融性を高める効果があるが、屈折率を急激に下げるために任意に添加し得る成分である。したがって、上限値を5%とすることが好ましく、3%とすることが好ましく、1%とすることが最も好ましい。さらに好ましくは含まない。
【0058】
また、TiO+Nb+WO+ZrO+Lnの合計量が多すぎると耐失透性を悪化させるため、その上限値を20%とすることが好ましく、19%とすることがより好ましく、18%とすることが最も好ましい。また、その含有量は0%でもよいが、下限値を1%とすることが好ましく、2%とすることが最も好ましい。
【0059】
<含有させるべきでない成分について>
他の成分を本願発明のガラスの特性を損なわない範囲で必要に応じ、添加することができる。ただし、Tiを除くV、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、AgおよびMo等の各遷移金属成分は、それぞれを単独または複合して少量含有した場合においても、ガラスが着色し、可視域の特定の波長に吸収を生じさせる。したがって、可視領域の波長を使用する光学ガラスにおいては、実質的に含まないことが好ましい。
【0060】
Th成分は高屈折率化またはガラスとしての安定性の向上を目的として、CdおよびTl成分は低ガラス転移点(Tg)化を目的として含有させることができる。しかし、Pb、Th、Cd、Tl、Osの各成分は、近年有害な化学物資として使用を控える傾向にあるため、ガラスの製造工程のみならず、加工工程、および製品化後の処分に至るまで環境対策上の措置が必要とされる。したがって、環境上の影響を重視する場合には実質的に含まないことが好ましい。
【0061】
鉛成分は、ガラスを製造、加工、および廃棄をする際に環境対策上の措置を講ずる必要があるため、コストが高くなり、本発明のガラスに鉛成分を含有させるべきでない。
【0062】
Asは、ガラスを溶融する際、泡切れ(脱泡性)を良くするために使用される成分であるが、ガラスを製造、加工、および廃棄をする際に環境対策上の措置を講ずる必要があるため、本発明のガラスにAsを含有させることは好ましくない。
【0063】
本発明は、各成分を質量%で、以下の範囲で含有させることが好ましい。
Bi:10〜90%未満、および/または
SiO:0%を超え20%未満、および/または
BaO:0〜50%、および/または
:0〜30%、および/または
Al:0〜4%、および/または
TiO:0〜20%、および/または
Nb:0〜20%、および/または
WO:0〜15%、および/または
Ta:0〜15%、および/または
ZrO:0〜10%、および/または
ZnO:0〜15%、および/または
MgO:0〜10%、および/または
CaO:0〜15%、および/または
SrO:0〜50%、および/または
LiO:0〜15%、および/または
NaO:0〜15%、および/または
O:0〜20%、および/または
:0〜10%、および/または
La:0〜10%、および/または
Gd:0〜10%、および/または
Yb:0〜10%、および/または
:0〜10%、および/または
Sb:0〜3%、および/または
GeO:0〜20%、および/または
F:0〜5%
【0064】
本発明の光学ガラスは、高屈折率、高分散であると共に、500℃以下のガラス転移点(Tg)を容易に得ることができる。Tgのより好ましい範囲は、480℃以下であり、より好ましくは470℃以下、さらに好ましくは430℃以下である。
【0065】
本発明の光学ガラスは、化学的耐久性(粉末法耐水性)がクラス1から5である。化学的耐久性が悪いと光学ガラス研磨面や光学素子の洗浄工程において、変質しやすくなるためである。より好ましい化学的耐久性の範囲は、クラス1から4であり、さらに好ましくはクラス1から3であり、最も好ましくはクラス1または2、さらには1である。
【0066】
[製造方法]
本発明の光学ガラスは、通常の光学ガラスを製造する方法であれば、特に限定されないが、例えば、以下の方法により製造することができる。各出発原料(酸化物、炭酸塩、硝酸塩、リン酸塩、硫酸塩、フッ化物塩など)を所定量秤量し、均一に混合する。混合した原料を石英坩堝またはアルミナ坩堝に投入し、粗溶融の後、金坩堝、白金坩堝、白金合金坩堝またはイリジウム坩堝に投入し、溶解炉で850〜1250℃で1〜10時間熔解する。その後、攪拌、均質化した後、適当な温度に下げて金型等に鋳込み、ガラスを製造する。
【0067】
本発明の光学ガラスは、典型的にはレンズ、プリズム、ミラー用途に使用される。また、本発明の光学素子製造においては、溶融状態のガラスを白金等の流出パイプの流出口から滴下させて典型的には球状のプリフォームを作製する。前記プリフォームは精密プレス成形方法によって所望の形状の光学素子が製造される。
【実施例】
【0068】
以下、実施例を用いて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0069】
表1に示す組成で、合計量が400gになるように原料を秤量し、均一に混合した。石英坩堝、または、白金坩堝を用いて950〜1050℃で2〜3時間熔解した後、800〜900℃に下げて、さらに1時間くらい保温してから金型に鋳込み、ガラスを作製した。得られたガラスと特性を表1に示す。
【0070】
実施例1から12の光学ガラスについて、屈折率[nd]、アッベ数[νd]、ガラス転移点[Tg]、化学的耐久性の測定を行った。
【0071】
屈折率[nd]およびアッベ数[νd]については、徐冷降温速度を−25℃/Hrとして得られたガラスについて測定した。
【0072】
ガラス転移点[Tg]については、熱膨張測定機で昇温速度を8℃/minにして測定した。
【0073】
粉末法耐水性(RW(P))は、日本光学硝子工業会規格「光学ガラスの化学的耐久性の測定方法」JOGIS06−1996に準じて行った。具体的には、粒度425〜600μmに破砕したガラス試料の比重グラムをとり、白金かごの中に入れる。白金かごを純水(pH6.5〜7.5)の入った石英ガラス製丸底フラスコに入れて、沸騰水浴中で60分間処理した。処理後のガラス試料の減量率(%)を算出して、減量率(wt%)が0.05未満の場合をクラス1、減量率が0.05〜0.10未満の場合をクラス2、減量率が0.10〜0.25未満の場合をクラス3、減量率が0.25〜0.60未満の場合をクラス4、減量率が0.60〜1.10未満の場合をクラス5、減量率が1.10以上の場合をクラス6としたものであり、クラスの数が小さいほど、ガラスの耐水性が優れていることを意味する。
【0074】
【表1】

【0075】
表1に見られるとおり、本発明の実施例1から12の光学ガラスは、化学的耐久性が、1から4である。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
屈折率[nd]が1.75以上、アッベ数[νd]が10以上の光学恒数を有する光学ガラスであって、
質量%で、Biを10%以上90%未満含有し、
粉末法による化学的耐久性(粉末法耐久性:RW(P))がクラス1から5である光学ガラス。
【請求項2】
質量%で、SiOを0%を超え20%未満含有する請求項1に記載の光学ガラス。
【請求項3】
質量%で、RnO成分(Rn=アルカリ金属成分)を、合計0.5%を超えて含有し、RO成分(R=Zn,Ba,Sr,Ca,Mgより選択される1種以上)を合計5%以上含有する請求項1または2記載の光学ガラス。
【請求項4】
質量%で、RO成分(R=Zn,Ba,Sr,Ca,Mgより選択される1種以上)を合計15%以上含有する請求項1から3いずれか記載の光学ガラス。
【請求項5】
質量%で、RnO成分(Rn=アルカリ金属成分)を、合計1%を超えて含有し、RO成分(R=Zn,Ba,Sr,Ca,Mgより選択される1種以上)を合計15%以上含有する請求項1から4いずれか記載の光学ガラス。
【請求項6】
質量%で、TiO+Nb+WO+ZrO+Lnの合計量を0〜20%含有する請求項1から5いずれか記載の光学ガラス。
(ただし、LnはLa,Gd,Y,Ce,Eu,Dy,Yb,Luより選択される1種以上を示す。)
【請求項7】
前記化学的耐久性がクラス1から4である請求項1から6いずれか記載の光学ガラス。
【請求項8】
前記化学的耐久性がクラス1から3である請求項1から7いずれか記載の光学ガラス。
【請求項9】
質量%で
Bi:10〜90%未満、及び/又は
SiO:0%を超え20%未満、及び/又は
BaO:0〜50%、及び/又は
:0〜30%、及び/又は
Al:0〜4%、及び/又は
TiO:0〜20%、及び/又は
Nb:0〜20%、及び/又は
WO:0〜15%、及び/又は
Ta:0〜15%、及び/又は
ZrO:0〜10%、及び/又は
ZnO:0〜15%、及び/又は
MgO:0〜10%、及び/又は
CaO:0〜15%、及び/又は
SrO:0〜50%、及び/又は
LiO:0〜15%、及び/又は
NaO:0〜15%、及び/又は
O:0〜20%、及び/又は
:0〜10%、及び/又は
La:0〜10%、及び/又は
Gd:0〜10%、及び/又は
Yb:0〜10%、及び/又は
:0〜10%、及び/又は
Sb:0〜3%、及び/又は
GeO:0〜20%、及び/又は
F:0〜5%
を含有する請求項1から8いずれか記載の光学ガラス。
【請求項10】
請求項1から9いずれか記載の光学ガラスを精密プレス成形してなる光学素子。
【請求項11】
請求項1から9いずれか記載の光学ガラスからなる精密プレス成形用プリフォーム。
【請求項12】
請求項11記載の精密プレス成形用プリフォームを精密プレス成形してなる光学素子。


【公開番号】特開2007−99610(P2007−99610A)
【公開日】平成19年4月19日(2007.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−209813(P2006−209813)
【出願日】平成18年8月1日(2006.8.1)
【出願人】(000128784)株式会社オハラ (539)
【Fターム(参考)】