説明

光学ガラス

【課題】
Biを含有する光学ガラスにおいて、極めて大きい部分分散比[θg,F]を維持しつつ、アッベ数[νd]が特徴的な値を有する光学ガラスを提供する。
【解決手段】
酸化物基準の質量%でBi成分を45%以上含有し、部分分散比[θg,F]が0.63以上、アッベ数が27以下であることを特徴とする光学ガラス。 酸化物基準の質量%でBi成分,BaO成分,ZnO成分,B成分,SiO成分,Sb成分の含有量の総和が96%未満となることを特徴とする前記光学ガラス。酸化物基準の質量%で、Bi成分に対するB成分の比が、0.20未満であることを特徴とする前記の光学ガラス。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は極めて大きな部分分散比[θg,F]を有するビスマス系光学ガラスに関し、さらに詳しくは部分分散比[θg,F]が0.63以上、かつ、アッベ数[νd]が27以下である光学ガラスに関するものである。
【背景技術】
【0002】
光学機器のレンズ系は、通常、異なる光学的性質を持つ複数のガラスレンズを組み合わせて設計されている。近年、多様化する光学機器のレンズ系の設計の自由度をさらに広げるため、従来用いられなかった光学特性を有する光学ガラスが、球面及び非球面レンズ等として用いられるようになった。
【0003】
特に、光学設計を行うにあたり、収差を小さくする目的に沿って、屈折率や分散傾向の異なるものが開発されている。その中で、特に特異な部分分散比[θg,F]を有する光学ガラスは、収差の補正に顕著な効果を奏し、光学設計の自由度を広げる為、種々のガラスが開発されている。
【0004】
短波長域の部分分散性を表す部分分散比[θg,F]の式(1)に示す。
θg,F=(ng−n)/(n−n) ・・・・・・ (1)
【0005】
一般に、光学ガラスは短波長域の部分分散性を表す部分分散比θg,Fとアッベ数νdとの間に、およそ直線的な反比例の関係があるが、この関係から著しく外れているガラスは、異常分散ガラスと言われている。この反比例関係を表す直線は、部分分散比[θg,F]を縦軸に、アッベ数[νd]を横軸に採用した直交座標上で、NSL7とPBM2のθg,F、νdをプロットした2点を結ぶ直線で表され、ノーマルラインと呼ばれている(図1参照)。ノーマルラインの基準となるノーマルガラスは光学ガラスメーカー毎に異なるが、各メーカー共に同等の傾きと切片を持っている。(NSL7とPBM2は株式会社オハラ社製の光学ガラスであり、PBM2のアッベ数[νd]は36.3,部分分散比[θg,F]は0.5828、NSL7のアッベ数[νd]は60.5,部分分散比[θg,F]は0.5436である。) また、異常分散性については、ノーマルラインから縦軸方向にどれだけ離れているかが指標とされている。これらの異常分散ガラスレンズを他のレンズと組み合わせて用いた場合、紫外から赤外への幅広い波長範囲において色収差を補正することが可能となる。
【0006】
上述のような異常分散ガラスは、種々の文献において開示されている。
【0007】
特許文献1から5には部分分散比[θg,F]の特異な値を有する光学ガラスが開示されている。特許文献1〜3にはSiO−B3−ZrO−Nb系やSiO−ZrO−Nb−Ta系の光学ガラスにおいて、アッベ数[νd]が28〜55の中分散領域について特異な小さい部分分散比[θg,F]を有する光学ガラスが開示されている。特許文献4,5にはSiO−B−TiO−Al系やBi−B系のガラスが開示されており、アッベ数[νd]が32〜55の中分散領域について特異な大きい部分分散比[θg,F]を有する光学ガラスが開示されている。これらの光学ガラスの中で最も部分分散比[θg,F]が大きいガラス系は特許文献5の0.59程度であり、これでは近年の光学設計上の要求を満たすには不十分であった。
【特許文献1】特開平10―130033号公報
【特許文献2】特開平10―265238号公報
【特許文献3】WO01/072650号公報
【特許文献4】特開2003−313047号
【特許文献5】特開平9−20530号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は以上のような課題に鑑みてなされたものであり、Biを含有する光学ガラスにおいて、極めて大きい部分分散比[θg,F]を維持しつつ、アッベ数[νd]が特徴的な値を有する光学ガラスを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記目的を達成するために鋭意試験研究を重ねた結果、Biを含有する光学ガラスの特定組成領域において、大きな部分分散比[θg,F]を有し、かつ、これまでにないアッベ数[νd]を有する光学ガラスが得られることを見出し、本発明を成すに至った。より具体的には以下のようなものを提供する。
【0010】
(1) 酸化物基準の質量%でBi成分を45%以上含有し、
部分分散比[θg,F]が0.63以上、アッベ数が27以下であることを特徴とする光学ガラス。
【0011】
(2) 酸化物基準の質量%でBi成分,BaO成分,ZnO成分,B成分,SiO成分,Sb成分の含有量の総和が96%未満となることを特徴とする前記(1)の光学ガラス。
【0012】
(3) 酸化物基準の質量%で、Bi成分に対するB成分の比が、0.20未満であることを特徴とする前記(1)又は(2)の光学ガラス。
【0013】
(4) 酸化物基準の質量%で
Bi 64%以上、及び/又は
RO 0%〜35%以下、及び/又は
0%〜30%以下、及び/又は
SiO 0%〜20%以下、
を含むことを特徴とする前記(1)から(3)のいずれかの光学ガラス。
(RはMg,Ca,Sr,Ba,Znから選ばれる1種以上。)
【0014】
(5) 酸化物基準の質量%で、Bi成分に対するRO成分の比が0.292未満であることを特徴とする前記(1)から(4)いずれかの光学ガラス。
(RはMg,Ca,Sr,Ba,Znから選ばれる1種以上。)
【0015】
(6) 酸化物基準の質量%で、B成分に対するRO成分の比が1.01未満であることを特徴とする(1)から(5)いずれかの光学ガラス。
【0016】
(7) 酸化物基準の質量%で、希土類酸化物成分の含有量が3%以下であることを特徴とする前記(1)から(6)いずれかの光学ガラス。
【0017】
(8) 酸化物基準の質量%で、
Al 0〜10%及び/又は
TiO 0〜10及び/又は
Nb 0〜10%及び/又は
WO 0〜10%及び/又は
Ta 0〜10%及び/又は
ZrO 0〜10%及び/又は
ZnO 0〜20%及び/又は
MgO 0〜20%及び/又は
CaO 0〜20%及び/又は
SrO 0〜20%及び/又は
BaO 0〜20%及び/又は
LiO 0〜25%及び/又は
NaO 0〜25%及び/又は
O 0〜25%及び/又は
RbO 0〜25%及び/又は
CsO 0〜25%及び/又は
0〜10%及び/又は
La 0〜10%及び/又は
Gd 0〜10%及び/又は
Yb 0〜10%
を含むことを特徴とする前記(1)から(7)いずれかの光学ガラス。
【0018】
(9) 液相温度が850℃以下であることを特徴とする(1)から(8)いずれかの光学ガラス。
【0019】
(10) B成分を、酸化物基準の質量%で、0%を超えて含有する(1)から(9)いずれかの光学ガラス。
【0020】
(11) 前記(1)から(10)いずれかの光学ガラスからなる研磨加工用プリフォーム及び/又は精密プレス成形用プリフォーム。
【0021】
(12) (11)の研磨加工用プリフォームを研磨してなる光学素子。
【0022】
(13) (11)の精密プリフォームを精密プレス成形してなる光学素子。
【発明の効果】
【0023】
本発明の光学ガラスは、上記構成要件を採用することにより、部分分散比[θg,F]が0.63以上かつ、アッベ数[νd]が27以下かつ、耐失透性が良好であり、レンズ系の設計上、極めて有用な異常分散性ガラスを提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
次に、本発明の光学ガラスにおいて、具体的な実施態様について説明する。
【0025】
[ガラス成分]
本発明の光学ガラスを構成する各成分の組成範囲を以下に述べる。各成分は酸化物基準の質量%にて表現する。ここで「酸化物基準」とは、本発明のガラス構成成分の原料として使用される酸化物、複合塩、金属フッ化物等が溶融時にすべて分解され酸化物へ変化すると仮定した場合に、当該生成酸化物の質量の総和を100質量%として、ガラス中に含有される各成分を表記した組成であり、上記酸化物の一部又は全部をフッ化物置換したFの合計量とは、本発明のガラス組成物中に存在しうるフッ素の含有率を、前記酸化物基準組成100%を基準にして、F原子として計算した場合の質量%で表したものである。
【0026】
<必須成分、任意成分について>
Bi成分は部分分散比[θg,F]を大きくし、低分散化に効果があり、さらには低Tg化、耐水性の向上等、本発明のガラスに欠かすことができない成分である。しかしながら、その含有量が多すぎるとガラス安定性を欠如させやすく、少なすぎると、前記効果が得にくくなる。したがって、好ましくは45%、より好ましくは55%、最も好ましくは64%を下限とし、好ましくは95%、より好ましくは90%、最も好ましくは85%を上限とする。
【0027】
SiO成分は透過率の向上、ガラス安定性の向上、低分散化に効果がある任意成分である。しかしながら、その含有量が多すぎると部分分散比[θg,F]を低下させやすく、溶融性も悪化させやすい。したがって、SiO成分の含有量については、好ましくは20%、より好ましくは15%、最も好ましくは10%を上限とする。
【0028】
成分はガラス安定性を向上させ、部分分散比[θg,F]を高く維持する効果のある任意成分である。しかしながら、その含有量が多すぎるとガラス安定性を低下させやすく、かつ低分散化させやすくなる。したがって、B成分の含有量については、好ましくは30%、より好ましくは23%、最も好ましくは15%を上限とする。
【0029】
上記の通り、SiOとBはそれぞれ任意成分ではあるが、両者のうち少なくとも一方、特にBは0%を超えて含有していることが好ましい。しかしながら、それらの含有量の和が大きすぎると、所望の部分分散比[θg,F]、アッベ数[νd]を得にくくなる。したがって、BとSiOの含有量の和については、好ましくは0を超え、さらに好ましくは0.5%、最も好ましくは1%を下限とする。また、BとSiOの含有量の和の上限については、好ましくは50%、さらに好ましくは45%、最も好ましくは35%とする。
【0030】
LiO成分はガラス安定性を向上させ、低Tg化に効果のある任意成分である。しかしながら、その含有量が多すぎるとガラス安定性を低下させやすく、機械的強度を低下させやすくなる。したがって、LiO成分の含有量については、好ましくは25%、さらに好ましくは20%、最も好ましくは15%を上限とする。
【0031】
NaO成分は含有量を調整することで部分分散比[θg,F]とアッベ数[νd]を調整するために有用な任意成分である。しかしながら、その含有量が多すぎるとガラス安定性を低下させやすく、化学的耐久性及び機械的強度を低下させやすくなる。したがって、NaO成分の含有量については、好ましくは25%、さらに好ましくは20%、最も好ましくは15%を上限とする。また、NaO成分を含まなくとも本発明において所望の光学特性を有するガラスは製造することができるが、上記部分分散比とアッベ数の調整を容易にするためには、好ましくは0%を越え、より好ましくは1%以上、最も好ましくは2%以上含有することが好ましい。
【0032】
O成分は含有量を調整することで部分分散比[θg,F]とアッベ数[νd] を調整するために有用な任意成分である。アルカリ金属の中でも特にその効果は顕著である。しかしながら、その含有量が多すぎるとガラス安定性を低下させやすく、化学的耐久性及び機械的強度を著しく低下させやすくなる。したがって、KO成分の含有量については、好ましくは25%、さらに好ましくは20%、最も好ましくは15%を上限とする。また、KO成分を含まなくとも本発明において所望の光学特性を有するガラスは製造することができるが、上記部分分散比とアッベ数の調整を容易にするためには、好ましくは0%を越え、より好ましくは1%以上、最も好ましくは2%以上含有することが好ましい。
【0033】
RbO成分は含有量を調整することで部分分散比[θg,F]とアッベ数[νd] を調整するために有用な任意成分である。しかしながら、RbO成分は産出量が少なく、光学ガラスの原料としては不向きあり、過剰に含有すると他のアルカリ金属成分と同じ様に化学的耐久性、機械的強度を低下させやすくなる。したがって、RbO成分の含有量については、好ましくは25%、さらに好ましくは20%、最も好ましくは15%を上限とする。
【0034】
CsO成分は含有量を調整することで部分分散比[θg,F]とアッベ数[νd] を調整するために有用な任意成分である。しかしながら、その含有量が多すぎると他のアルカリ金属成分と同じ様に化学的耐久性、機械的強度を低下させやすくなる。したがって、RbO成分の含有量については、好ましくは25%、さらに好ましくは20%、最も好ましくは15%を上限とする。
【0035】
上記の様にRnO成分(RnはLi、Na、K、Rb、Csから選ばれる1種または2種以上)は、本発明のガラスの特徴である部分分散比[θg,F]とアッベ数[νd]を所望の値に調整するために必要な成分である。しかしながら、それらの含有量が多すぎると、却って所望の部分分散比[θg,F]、アッベ数[νd]を実現しにくくなり、ガラス安定性を著しく損なう。したがって、RnO成分(RnはLi、Na、K、Rb、Csから選ばれる1種以上)は、好ましくは0を超え、さらに好ましくは0.5%、最も好ましくは1%を下限とする。また、RnO成分(RnはLi、Na、K、Rb、Csから選ばれる1種以上)の含有量の上限については、好ましくは25%、さらに好ましくは20%、最も好ましくは15%とする。
【0036】
成分はガラスの分散を調整するために有用な任意成分である。しかしながら、その含有量が多すぎるとガラス安定性を低下させやすくなる。したがって、Y成分の含有量については、好ましくは10%、さらに好ましくは5%、最も好ましくは3%を上限とする。
【0037】
La成分はガラスを低分散化さるために有用な任意成分である。しかしながら、その含有量が多すぎるとガラス安定性を低下させやすくなる。したがって、La成分の含有量については、好ましくは10%、さらに好ましくは5%、最も好ましくは3%を上限とする。
【0038】
Gd成分はガラスの分散を調整するために有用な任意成分である。しかしながら、その含有量が多すぎるとガラス安定性を低下させやすくなる。したがって、Gd成分の含有量については、好ましくは10%、さらに好ましくは5%、最も好ましくは3%を上限とする。
【0039】
Yb成分はガラスの分散を調整するために有用な任意成分である。しかしながら、その含有量が多すぎるとガラス安定性を低下させやすくなる。したがって、Yb成分の含有量については、好ましくは10%、さらに好ましくは5%、最も好ましくは3%を上限とする。
【0040】
希土類酸化物は、上記範囲で各成分を含有しても本発明の所望の光学ガラスを製造することは可能であるが、製造に適した耐失透性を維持するためには特に酸化物基準の質量%で、希土類酸化物成分の合計含有量が3%以下であることが好ましい。
【0041】
Al成分はガラスの化学的耐久性や機械的強度を向上させる為に有用な任意成分である。しかしながら、その含有量が多すぎると溶融性を低下させやすくなる。したがって、Al成分の含有量については、好ましくは10%、さらに好ましくは5%、最も好ましくは3%を上限とする。
【0042】
TiO成分はガラスを高分散化させることに有用な任意成分である。しかしながら、その含有量が多すぎるとガラス安定性を低下させやすくなる。したがって、TiO成分の含有量については、好ましくは10%、さらに好ましくは5%、最も好ましくは3%を上限とする。
【0043】
Nb成分はガラスの部分分散比[θg,F]を向上させることに有用な任意成分である。しかしながら、その含有量が多すぎるとガラス安定性を低下させやすくなる。したがって、Nb成分の含有量については、好ましくは10%、さらに好ましくは5%、最も好ましくは3%を上限とする。
【0044】
WO成分はガラスの部分分散比[θg,F]を向上させ、低Tg化に有用な任意成分である。しかしながら、その含有量が多すぎるとガラス安定性を低下させやすくなる。したがって、WO成分の含有量については、好ましくは10%、さらに好ましくは5%、最も好ましくは3%を上限とする。
【0045】
Ta成分はガラス安定性向上に有用な任意成分である。しかしながら、その含有量が多すぎるとガラス安定性を低下させやすく、さらにコストを大幅に上昇させる。したがって、Ta成分の含有量については、好ましくは10%、さらに好ましくは5%、最も好ましくは3%を上限とする。
【0046】
ZrO成分はガラスの化学的耐久性や機械的強度を向上させることに有用な任意成分である。しかしながら、その含有量が多すぎるとガラス安定性を低下させやすくなる。したがって、ZrO成分の含有量については、好ましくは10%、さらに好ましくは5%、最も好ましくは3%を上限とする。
【0047】
ZnO成分はガラスの耐失透性を向上させることに有用な任意成分である。しかしながら、その含有量が多すぎると所望の部分分散比[θg,F]とアッベ数[νd]を得にくくなる。したがって、ZnO成分の含有量については、好ましくは 20%、さらに好ましくは15%、最も好ましくは10%を上限とする。また、ZnO成分を含有しなくとも、本発明において所望の光学特性を有する光学ガラスを作製することはできるが、上記部分分散比とアッベ数の調整を容易にするためには、好ましくは0%を超え、より好ましくは0.5%以上、最も好ましくは1%以上含有する。
【0048】
MgO成分はガラスの低分散化の為に有用な任意成分である。しかしながら、その含有量が多すぎるとガラス安定性を大幅に低下させやすく、再加熱処理により失透しやすくなる。したがって、MgO成分の含有量については、好ましくは20%、さらに好ましくは15%、最も好ましくは10%を上限とする。
【0049】
CaO成分はガラスの低分散化と耐失透性向上に有用な任意成分である。しかしながら、その含有量が多すぎると耐失透性を大幅に低下させやすくなる。したがって、CaO成分の含有量については、好ましくは20%、さらに好ましくは15%、最も好ましくは10%を上限とする。
【0050】
SrO成分は耐失透性向上に有用な任意成分である。しかしながら、その含有量が多すぎると耐失透性を大幅に低下させやすく、 さらには所望の部分分散比[θg,F]、アッベ数[νd]を得ることが難しくなる。したがって、SrO成分の含有量については、好ましくは20%、さらに好ましくは15%、最も好ましくは10%を上限とする。
【0051】
BaO成分は耐失透性向上に有用な任意成分である。しかしながら、その含有量が多すぎると所望の部分分散比[θg,F]、アッベ数[νd]を得ることが難しくなる。したがって、BaO成分の含有量については、好ましくは20%、さらに好ましくは15%、最も好ましくは10%を上限とする。
【0052】
RO成分(RはMg、Ca、Sr、Ba、Znから選ばれる1種又は2種以上)は耐失透性や分散、機械的強度等あらゆる物性を調整するために有用な成分である。しかし、その合計含有量が大きすぎると所望の部分分散比[θg,F]、アッベ数[νd]を得ることが難しくなる。RO成分の上限としては好ましくは35%、より好ましくは30%、最も好ましくは25%とする。一方、RO成分を含有しなくとも本発明において所望の光学特性を実現することは可能であるが、耐失透性向上のためには、好ましくは0%を超え、より好ましくは0.5%、最も好ましくは1%を下限とする。
【0053】
本発明の光学ガラスにおいては所望の部分分散比[θg,F]とアッベ数[νd]を得ながら、良好な清澄性及び耐失透性を維持するために、Bi成分,BaO成分,ZnO成分,B成分,SiO成分,Sb成分の含有量の総和が96%未満となることが好ましく、93%以下となることがより好ましく、89%以下となることが最も好ましい。
【0054】
本発明の光学ガラスにおいては所望の部分分散比[θg,F]とアッベ数[νd]を得ながら、再加熱時を含めた耐失透性向上のために、 酸化物基準の質量%で、Bi成分に対するB成分の比が、0.20未満であることが好ましく、0.17以下であることがより好ましく、0.15以下であることが最も好ましい。
本発明の光学ガラスにおいては所望の部分分散比[θg,F]とアッベ数[νd]を得るために、酸化物基準の質量%で、Bi成分に対するRO成分(RはMg,Ca,Sr,Ba,Znから選ばれる1種以上。)の比が0.292未満であることが好ましく、0.2以下であることがより好ましく、0.1以下であることが最も好ましい。
【0055】
本発明の光学ガラスにおいては所望の部分分散比[θg,F]とアッベ数[νd]を得ながら、良好な化学的耐久性を維持するために、酸化物基準の質量%で、B成分に対するRO成分の比が1.01未満である好ましく、0.82以下であることがより好ましく、0.64以下であることが最も好ましい。
【0056】
GeO成分はガラスの耐失透性を向上させる為に必要な任意に添加し得る成分である。しかしながら、その含有量が多すぎると溶融性を低下させやすくなる。したがって、GeO成分の含有量については、好ましくは20%、さらに好ましくは15%、最も好ましくは10%を上限とする。
【0057】
成分はガラスの透過率を向上させる為に必要な任意に添加し得る成分である。しかしながら、その含有量が多すぎると溶融性を低下させやすくなる。したがって、P成分の含有量については、好ましくは10%、さらに好ましくは5%、最も好ましくは3%を上限とする。
【0058】
TeO成分はガラスの清澄を促す効果があり、任意に添加し得る成分である。しかしながら、その含有量が多すぎると耐失透性を低下させやすくなる。したがって、TeO成分の含有量については、好ましくは20%、さらに好ましくは15%、最も好ましくは10%を上限とする。
【0059】
Sb成分はガラスの清澄を促す効果があり、任意に添加し得る成分である。しかしながら、その含有量が多すぎると耐失透性を低下させる。したがって、Sb成分の含有量については、好ましくは3%、さらに好ましくは2%、最も好ましくは1%を上限とする。
【0060】
CeO成分はガラスの部分分散比[θg,F]を大きくする効果のある、任意に添加し得る成分である。しかしながら、その含有量が多すぎると透過率を大幅に低下させやすくなる。したがって、CeO成分の含有量については、好ましくは3%、さらに好ましくは2%、最も好ましくは1%を上限とする。
【0061】
Tl成分はガラスの部分分散比[θg,F]やアッベ数[νd]を調整する効果のある任意に添加し得る成分である。しかしながら、その含有量が多すぎると透過率を大幅に低下させやすくなる。したがって、Tl成分の含有量については、好ましくは10%、さらに好ましくは5%、最も好ましくは3%を上限とする。
【0062】
Fは、ガラスの低分散化、溶融性向上に効果のある成分である。しかしながら、その含有量が多すぎると耐失透性を大幅に低下させやすくなる。したがって、上記酸化物の一部又は全部をフッ化物置換したFの合計量が前記酸化物基準組成100質量%基準にして、F原子として計算した場合の質量%で表した場合に上限値を10%とすることが好ましく、5%とすることがより好ましく、1%とすることが最も好ましい。さらに好ましくは含まない。
【0063】
<含有させるべきでない成分について>
本発明においては、他の成分を本発明のガラスの特性を損なわない範囲で必要に応じ、添加することができる。ただし、Tiを除くV,Cr,Mn,Fe,Co,Ni,Cu,Ag及びMo等の各遷移金属成分は、それぞれを単独又は複合して少量含有した場合においても、ガラスが着色し、可視域の特定の波長に吸収を生じさせる。したがって、可視領域の波長を使用する光学ガラスにおいては、実質的に含まないことが好ましい。ここで「実質的に含まない」とは、不純物として混入される場合を除き、人為的に含有させないことを意味する。
【0064】
Th成分は高屈折率化又はガラスとしての安定性向上を目的として、Cd及びTl成分は低Tg化を目的として含有することができる。しかし、Th、Cd、Osの各成分は、近年有害な化学物質成分として使用を控える傾向にあるため、ガラスの製造工程のみならず、加工工程、及び製品化後の処分に至るまで環境対策上の措置が必要とされる。したがって、環境上の影響を重視する場合には実質的に含まない方が好ましい。
【0065】
鉛成分は、ガラスを製造、加工、及び廃棄をする際に環境対策上の措置を講ずる必要があるため、コストが高くなり、本発明のガラスに鉛成分を含有させるべきでない。
【0066】
As成分は、ガラスを溶融する際、泡切れ(脱法性)を良くするために使用されている成分であるが、ガラスを製造、加工、及び廃棄をする際に環境対策上の措置を講ずる必要があるため、本発明のガラスにAsを含有させることが好ましくない。
【0067】
本発明のガラス組成物は、その組成が質量%で表されているため直接的にmol%の記載に表せるものではないが、本発明において要求される諸特性を満たすガラス組成物中に存在する各成分のmol%表示による組成は、酸化物換算組成で概ね以下の値をとる。
Bi 20%以上、
SiO 0〜15%以下、
0〜30%以下、並びに
Al 0〜15%及び/又は
TiO 0〜15及び/又は
Nb 0〜15%及び/又は
WO 0〜15%及び/又は
Ta 0〜15%及び/又は
ZrO 0〜15%及び/又は
ZnO 0〜15%及び/又は
MgO 0〜15%及び/又は
CaO 0〜15%及び/又は
SrO 0〜15%及び/又は
BaO 0〜20%及び/又は
LiO 0〜25%及び/又は
NaO 0〜25%及び/又は
O 0〜25%及び/又は
RbO 0〜25%及び/又は
CsO 0〜25%及び/又は
0〜15%及び/又は
La 0〜15%及び/又は
Gd 0〜15%及び/又は
Yb 0〜15%及び/又は
0〜15%及び/又は
Sb 0〜3%及び/又は
GeO 0〜20%及び/又は
CeO 0〜10%及び/又は
TeO 0〜10%及び/又は
F 0〜10%及び/又は
【0068】
本発明の態様によると、部分分散比[θg,F]を0.63以上、かつアッベ数[νd]が27以下の光学性能を持つ光学ガラスを得ることができ、光学設計における自由度が大幅に広がる。部分分散比[θg,F]の好ましい範囲は0.63以上であり、より好ましくは0.64以上であり、最も好ましくは0.65以上である。なお、この範囲を下回ると光学設計上特徴的な光学性能とは言い難い。アッベ数[νd]の好ましい範囲は27以下であり、より好ましくは26以下であり、最も好ましくは25以下である。
【0069】
本発明の光学ガラスは、精密プレス成形をされ、典型的にはレンズ、プリズム、ミラー用途に使用することができる。前述のとおり本発明の光学ガラスはプレス成形用のプリフォーム材として使用することができ、或いは溶融ガラスをダイレクトプレスすることも可能である。プリフォーム材として使用する場合、その製造方法及び精密プレス成形方法は特に限定されるものではなく、公知の製造方法及び成形方法を使用することができる。プリフォーム材の製造方法としては、例えば特開平8−319124に記載のガラスゴブの成形方法や特開平8−73229に記載の光学ガラスの製造方法及び製造装置のような溶融ガラスから直接プリフォーム材を製造することもでき、またストリップ材を研削研磨等の冷間加工して製造しても良い。
【0070】
本発明は光学ガラスに必要とされる光学的物性以外にも機械的物性・化学的耐久性・熱的性質・量産性について、良好な物性値を有している。
【0071】
磨耗度は光学ガラスの加工性の指標とされる物性であり、大きすぎるとガラス加工時に不具合が生じる。本発明の光学ガラスは「日本光学硝子工業会規格JOGIS10−1994光学ガラスの磨耗度の測定方法」に準じた測定方法にて測定を行い、好ましくは700以下であり、より好ましくは680以下、最も好ましくは670以下である。
【0072】
化学的耐久性は光学ガラスの加工性及び耐環境性の指標とされる物性であり、クラスが大きすぎると加工性及び耐環境性に不具合が生じる。本発明のガラスは「日本光学硝子工業会規格JOGIS06−1999光学ガラスの化学的耐久性の測定方法(粉末法)」に準じた測定方法にて測定を行い、耐酸性・耐水性が好ましくは5以下であり、最も好ましくは4以下である。
【0073】
熱的特性は光学ガラスの耐熱衝撃性、モールドプレス成形時の成形性の指標とされる物性である。ガラス転移点[Tg]が低いとモールドプレス成形を低温で実施する事ができ、低エネルギーかつ高価な金型の長寿命化を図る事が出来る。また、熱膨張係数[α]が大きいとガラスの加熱時にガラスが割れ易くなる。本発明のガラスは「日本光学硝子工業会規格JOGIS08−2003光学ガラスの熱膨張の測定方法」に準じた測定方法にてガラス転移温度[Tg]と熱膨張係数[α]の測定を行い、好ましくはガラス転移点[Tg]が530℃以下であり、熱膨張係数[α]が190以下であり、より好ましくはガラス転移点[Tg]が500℃以下であり、熱膨張係数[α]が180以下であり、最も好ましくはガラス転移点[Tg]が470℃以下であり、熱膨張係数[α]が170以下である。
【0074】
光学ガラスの量産性において、液相温度及び液相温度における粘性は、ガラス溶解成形時の指標とされる物性である。液相温度が高いとその温度以下の温度領域における保温によって、失透が発生し易くなるため、温度を下げて成形に適した粘性を得ることができないという不利益があるため、好ましくは850℃以下であり、より好ましくは830℃以下であり、最も好ましくは800℃以下である。
【0075】
一方、液相温度での粘性が高いと光学ガラスの成形に適した粘性域で成形する事ができ、低いと光学ガラスの成形が困難となり、ガラス表面や内部に異物が生じてしまう。本発明のガラスの液相温度での粘性は、好ましくは0.1Pa・s以上、、好ましくは0.12Pa・s以上、最も好ましくは0.15Pa・s以上である。
【0076】
本発明のガラスの液相温度測定は、400から1100℃の温度勾配のついた失透試験炉に本発明のガラスを10mm間隔に並べ、その後30分間保持し、倍率80倍の顕微鏡により失透の有無を観察し液相温度を測定した。
【0077】
また、光学ガラス溶解成形品の残存泡については、光学ガラス清澄性を評価する為の指標とされる物性である。泡の級が大きいと清澄性が悪く、量産時に問題が生じる。本発明のガラスの泡は「JOGIS12−1994光学ガラスの泡の測定方法」に準じた測定方法において、4〜1級であることが好ましく、3〜1級であることがよりも好ましい。
【0078】
再加熱時の失透性は製造過程における再加熱工程、例えば精密プレス成形又はリヒートプレス成形における重要な指標となる。再加熱時に失透が析出しやすい場合、製造過程での再加熱工程でも内部に失透が生じやすくなる問題が発生する。本発明のガラスでは再加熱試験において、内部に失透は析出しない。(再加熱試験:試験片15mm×15mm×30mmを再加熱し、前記光学ガラスのガラス転移点[Tg]よりも80℃高い温度で30分間保温し、その後常温まで冷却し、試験片の対向する2面を厚み10mmに研磨した後に目視観察する。)
【実施例】
【0079】
以下、実施例を用いて本発明を更に詳細に説明するが、本発明は以下に限定されるものではない。
表1〜16に示す組成で、ガラス重量が400gになるように原料を秤量し、均一に混合した。石英坩堝、又は、金坩堝を用いて750℃〜950℃で2〜3時間溶解した後、800〜650℃程度に下げて、1時間程度保温してから金型に鋳込み、ガラスを作製した。得られたガラス特性を表1〜16に示す。なお表中の各成分の組成は、全て酸化物基準の質量%にて表される。
【0080】
屈折率[nd]、アッベ数[νd]、部分分散比[θg,F]については日本光学硝子工業会規格JOGIS01―2003に基づいて測定した。なお、アニール条件は徐冷降下速度を−25℃/hrとして、徐冷炉にて処理を行った。













































【0081】
【表1】










【0082】
【表2】












【0083】
【表3】











【0084】
【表4】











【0085】
【表5】










【0086】
【表6】











【0087】
【表7】










【0088】
【表8】










【0089】
【表9】











【0090】
【表10】











【0091】
【表11】











【0092】
【表12】









【0093】
【表13】










【0094】
【表14】






【0095】
【表15】











【0096】
【表16】

【0097】
本発明の実施例のガラスは部分分散比[θg,F]が0.63以上であり、アッベ数[νd]が27以下である特徴的な光学定数を有した光学ガラスであり、液相温度も低く、安定性に優れていた。一方、比較例のガラスは屈折率[nd]が高いものもあるが、部分分散比[θg,F]におけるアッベ数[νd]の値については一般的な高屈折率ガラスの域を脱していない。
【図面の簡単な説明】
【0098】
【図1】部分分散比[θg,F]を縦軸に、アッベ数[νd]を横軸にした直交座標におけるノーマルライン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化物基準の質量%でBi成分を45%以上含有し、
部分分散比[θg,F]が0.63以上、アッベ数が27以下であることを特徴とする光学ガラス。
【請求項2】
酸化物基準の質量%でBi成分、BaO成分、ZnO成分、B成分、SiO成分、Sb成分の含有量の総和が96%未満となることを特徴とする請求項1記載の光学ガラス。
【請求項3】
酸化物基準の質量%で、Bi成分に対するB成分の比が、0.20未満であることを特徴とする請求項1から2いずれかに記載の光学ガラス。
【請求項4】
酸化物基準の質量%で
Bi 64%以上、及び/又は
RO 0%〜35%以下、及び/又は
0%〜30%以下、及び/又は
SiO 0%〜20%以下、
を含むことを特徴とする請求項1から3いずれかに記載の光学ガラス。
(RはMg,Ca,Sr,Ba,Znから選ばれる1種以上。)
【請求項5】
酸化物基準の質量%で、Bi成分に対するRO成分の比が0.292未満であることを特徴とする請求項1から4いずれかに記載の光学ガラス。
(RはMg,Ca,Sr,Ba,Znから選ばれる1種以上。)
【請求項6】
酸化物基準の質量%で、B成分に対するRO成分の比が1.01未満であることを特徴とする請求項1から5いずれかに記載の光学ガラス。
【請求項7】
酸化物基準の質量%で、希土類酸化物成分の含有量が3%以下であることを特徴とする請求項1から6いずれかに記載の光学ガラス。
【請求項8】
酸化物基準の質量%で、
Al 0〜10%及び/又は
TiO 0〜10及び/又は
Nb 0〜10%及び/又は
WO 0〜10%及び/又は
Ta 0〜10%及び/又は
ZrO 0〜10%及び/又は
ZnO 0〜20%及び/又は
MgO 0〜20%及び/又は
CaO 0〜20%及び/又は
SrO 0〜20%及び/又は
BaO 0〜20%及び/又は
LiO 0〜25%及び/又は
NaO 0〜25%及び/又は
O 0〜25%及び/又は
RbO 0〜25%及び/又は
CsO 0〜25%及び/又は
0〜10%及び/又は
La 0〜10%及び/又は
Gd 0〜10%及び/又は
Yb 0〜10%
を含むことを特徴とする請求項1から7いずれかに記載の光学ガラス。
【請求項9】
液相温度が850℃以下であることを特徴とする請求項1から8いずれかに記載の光学ガラス。
【請求項10】
成分を、酸化物基準の質量%で、0%を超えて含有する請求項1から9いずれかに記載の光学ガラス。
【請求項11】
請求項1から10いずれか1項の光学ガラスからなる研磨加工用プリフォーム及び/又は精密プレス成形用プリフォーム。
【請求項12】
請求項11の研磨加工用プリフォームを研磨してなる光学素子。
【請求項13】
請求項11の精密プレス成形用プリフォームを精密プレス成形してなる光学素子。

【図1】
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【公開番号】特開2009−263191(P2009−263191A)
【公開日】平成21年11月12日(2009.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−117956(P2008−117956)
【出願日】平成20年4月29日(2008.4.29)
【出願人】(000128784)株式会社オハラ (539)
【Fターム(参考)】