説明

光学ガラス

【課題】部分分散比の小さい高分散光学ガラス、及び、この光学ガラスを利用して得られるレンズ、プリズムなどの光学素子を提供する。
【解決手段】アッベ数(νd)および部分分散比(θg,F)の関係式が、νd≦25の範囲ではθg,F≦−0.0058×νd+0.7539、νd>25の範囲ではθg,F≦−0.0020×νd+0.6589の範囲の光学定数を有し、酸化物基準のmol%で、
23 0%より多く8%未満、
TeO2 15〜63%未満、
23/TeO2 0より多く0.5未満、
であることを特徴とする光学ガラス。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アッベ数(νd)および部分分散比(θg,F)の関係式が、νd≦25の範囲ではθg,F≦−0.0058×νd+0.7539、νd>25の範囲ではθg,F≦−0.0020×νd+0.6589の範囲の光学定数を有する部分分散比の小さい高分散光学ガラス、及び、この光学ガラスを利用して得られるレンズ、プリズムなどの光学素子に関する。
【背景技術】
【0002】
デジタルカメラやビデオカメラなどの光学系は、その大小はあるが、収差と呼ばれるにじみを含んでいる。この収差は単色収差と色収差に分類され、特に色収差は光学系に使用されるレンズの材料特性に強く依存している。
【0003】
一般に色収差は、低分散の凸レンズと高分散の凹レンズを組み合わせて補正されるが、この組み合わせでは赤色と緑色領域の2色の補正しかできず、青色領域の収差が残る。この除去しきれない青色領域の収差を二次スペクトルと呼ぶ。二次スペクトルを補正するには、青色領域のg線(435.835nm)を含めた光学設計を行う必要があり、光学特性の指標として部分分散比(θg,F)が用いられている。レンズの組み合わせのうち、低分散側レンズには部分分散比(θg,F)の大きい光学材料、高分散側のレンズには部分分散比(θg,F)の小さい光学材料を用いることで、二次スペクトルが良好に補正される。
【0004】
低分散で部分分散比(θg,F)の大きい光学材料として、蛍石や弗燐酸系の光学ガラスがよく知られている。また、高分散で部分分散比(θg,F)の小さい光学材料として、特許文献1に示される光学ガラスが知られている。しかしながら特許文献1の実施例に示されるアッベ数(νd)は30.5以上であって、更にアッベ数(νd)が小さい、すなわち高分散で部分分散比(θg,F)の小さい光学ガラスが求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平10−265238号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、前記背景技術に記載した光学ガラスに見られる諸欠点を総合的に解消し、前記の光学定数を有し、部分分散比が小さい光学ガラスを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記課題を解決するために、鋭意試験研究を重ねた結果、特定量のB23、TeO2を含有させることにより、前記の光学定数を有し、部分分散比が小さい光学ガラスが得られた。
【0008】
本発明の第1の構成は、アッベ数(νd)および部分分散比(θg,F)の関係式が、νd≦25の範囲ではθg,F≦−0.0058×νd+0.7539、νd>25の範囲ではθg,F≦−0.0020×νd+0.6589の範囲の光学定数を有し、酸化物基準のmol%で、
23 0%より多く8%未満、
TeO2 15〜63%未満、
23/TeO2 0より多く0.5未満、
であることを特徴とする光学ガラスである。
【0009】
本発明の第2の構成は、酸化物基準のmol%で、
SiO2 0〜20%、
GeO2 0〜20%、
Al23 0〜20%、
TiO2 0〜20%、
ZrO2 0〜20%、
Nb25 0〜30%、
Ta25 0〜20%、
WO3 0〜20%、
La23 0〜30%、
Gd23 0〜30%、
23 0〜30%、
Yb23 0〜30%、
ZnO 0〜70%、
MgO 0〜40%、
CaO 0〜40%、
SrO 0〜40%、
BaO 0〜40%、
Li2O 0〜20%、
Na2O 0〜20%、
2O 0〜20%、
Sb23 0〜1%
の各成分を含有することを特徴とする前記構成1に記載の光学ガラスである。
【0010】
本発明の第3の構成は、酸化物基準のmol%で、
Ga23 0〜20%、
In 0〜20%、
CeO2 0〜10%、
Bi23 0〜20%
の各成分を含有することを特徴とする前記構成1〜2に記載の光学ガラスである。
【0011】
本発明の第4の構成は、屈折率(nd)が1.7以上であることを特徴とする前記構成1〜3に記載の光学ガラスである。
【0012】
本発明の第5の構成は、ガラス転移点(Tg)が600℃以下であることを特徴とする前記構成1〜4に記載の光学ガラスである。
【0013】
本発明の第6の構成は、前記構成1〜5のいずれか1項の光学ガラスからなるレンズプリフォーム材である。
【0014】
本発明の第7の構成は、前記構成1〜6のいずれかに記載の光学ガラスからなるモールドプレス成形用レンズプリフォーム材である。
【0015】
本発明の第8の構成は、前記構成1〜7のいずれか1項の光学ガラスからなる光学素子である。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、TeO及びB成分を所定の関係で含有させることにより、アッベ数(νd)および部分分散比(θg,F)の関係式が、νd≦25の範囲ではθg,F≦−0.0058×νd+0.7539、νd>25の範囲ではθg,F≦−0.0020×νd+0.6589の範囲の光学定数を有する部分分散比の小さい高分散光学ガラス及び、この光学ガラスを利用して得られるレンズ、プリズムなどの光学素子を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の光学ガラスの実施形態について詳細に説明するが、本発明は、以下の実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の目的の範囲内において、適宜変更を加えて実施することができる。なお、説明が重複する箇所については、適宜説明を省略する場合があるが、発明の趣旨を限定するものではない。
【0018】
[ガラス成分]
本発明の光学ガラスを構成する各成分の組成範囲を以下に述べる。本明細書中において、各成分の含有率は特に断りがない場合は、全て酸化物換算組成のガラス全物質量に対するmol%で表示されるものとする。ここで、「酸化物換算組成」とは、本発明のガラス構成成分の原料として使用される酸化物、複合塩、金属弗化物等が溶融時に全て分解され酸化物へ変化すると仮定した場合に、当該生成酸化物の総物質量を100mol%として、ガラス中に含有される各成分を表記した組成である。
【0019】
23成分は、ガラス形成酸化物成分として欠かすことのできない成分であり、ガラスの耐失透性および化学的耐久性を向上させるのに有効である。しかし、その量が少なすぎるとその効果が不十分であり、多すぎると熔融性が悪化しやすくなる。従って、好ましくは0%より多く、より好ましくは0.1%、最も好ましくは0.5%を下限として含有することができ、好ましくは8%未満、より好ましくは7.8%、最も好ましくは7.6%を上限として含有することができる。
【0020】
23は、原料として例えばH3BO3、B23等を使用してガラス内に導入される。
【0021】
TeO2成分は、高分散特性を有しつつ部分分散比(θg,F)を低くするのに極めて有効な成分であり、アッベ数(νd)および部分分散比(θg,F)の関係式が、νd≦25の範囲ではθg,F≦−0.0058×νd+0.7539、νd>25の範囲ではθg,F≦−0.0020×νd+0.6589の範囲を満足するために、必須な成分である。しかし、その量が少なすぎるとその効果が不十分であり、多すぎると透過率が悪化しやすくなる。従って、好ましくは15%、より好ましくは30%、最も好ましくは45%を下限として含有することができ、好ましくは63%未満、より好ましくは62.5%、最も好ましくは62%を上限として含有することができる。
【0022】
またTeO2は、原料として例えばTeO2等を使用してガラス内に導入される。
【0023】
SiO2成分は、本発明の光学ガラスにおいて、ガラス形成酸化物成分として作用する成分であり、ガラスの粘度を高め、化学的耐久性を向上させるのに有効である。しかし、その量が多すぎると耐失透性、熔融性が悪化しやすくなる。従って、好ましくは20%、より好ましくは15%、最も好ましくは10%を上限として含有することができる。
【0024】
SiOは、原料として例えばSiO等を使用してガラス内に導入される。
【0025】
GeO2成分は、屈折率を高め、耐失透性を向上させる効果を有する任意成分であり、ガラス形成酸化物として作用する。しかし、その量が多すぎると原料が非常に高価であるため、コストが高くなる。従って、好ましくは20%、より好ましくは10%、最も好ましくは5%を上限として含有することができる。
【0026】
またGeO2は、原料として例えばGeO2等を使用してガラス内に導入される。
【0027】
Al23成分は、化学的耐久性の改善に有効な任意成分である。しかし、その量が多すぎると耐失透性が悪化しやすくなる。従って、好ましくは20%、より好ましくは15%、最も好ましくは10%を上限として含有することができる。
【0028】
またAl23は、原料として例えばAl23、Al(OH)3等を使用してガラス内に導入される。
【0029】
TiO2成分は、屈折率を高め、分散を大きくする効果がある。しかし、その量が多すぎると可視光短波長域の透過率を悪化させ、部分分散比も大きくなる。従って、好ましくは20%、より好ましくは15%、最も好ましくは10%を上限として含有することができる。
【0030】
TiO2は、原料として例えばTiO2等を使用してガラス内に導入される。
【0031】
ZrO2成分は、屈折率を高め、部分分散比を小さくし、化学的耐久性を向上させる効果がある。しかし、その量が多すぎると熔融性や耐失透性が悪化しやすくなる。従って、好ましくは20%、より好ましくは10%、最も好ましくは5%を上限として含有することができる。
【0032】
またZrO2は、原料として例えばZrO2等を使用してガラス内に導入される。
【0033】
Nb25成分は、屈折率を高め、分散を大きくしつつ部分分散比を小さくするのに有効な成分である。しかし、多すぎると逆に耐失透性が悪くなり、可視光短波長域の透過率も悪化しやすくなる。従って、好ましくは30%、より好ましくは20%、最も好ましくは10%を上限として含有することができる。
【0034】
またNb25は、原料として例えばNb25等を使用してガラス内に導入される。
【0035】
Ta25成分は、屈折率を高め、化学的耐久性を改善する効果がある。しかし、その量が多すぎると耐失透性が悪化しやすくなる。従って、好ましくは20%、より好ましくは10%、最も好ましくは5%を上限として含有することができる。
【0036】
またTa25は、原料として例えばTa25等を使用してガラス内に導入される。
【0037】
WO3成分は、耐失透性を改善する効果がある。しかし、その量が多すぎると逆に耐失透性や可視光領域の短波長域の光線透過率が悪くなる上、部分分散比が大きくなる。従って、好ましくは50%、より好ましくは30%、最も好ましくは10%を上限として含有することができる。
【0038】
またWO3は、原料として例えばWO3等を使用してガラス内に導入される。
【0039】
La23成分は、ガラスの屈折率を高め、低分散化させるのに有効な成分である。しかし、その量が多すぎると耐失透性が悪化しやすくなる。従って、好ましくは30%、より好ましくは17%、更に好ましくは7.5%未満、最も好ましくは4.9%を上限として含有することができる。
【0040】
またLa23は、原料として例えばLa23、硝酸ランタン又はその水和物等を使用してガラス内に導入される。
【0041】
Gd23成分は、ガラスの屈折率を高め、低分散化させるのに効果がある。しかし、その量が多すぎると耐失透性が悪化しやすくなる。従って、好ましくは30%、より好ましくは20%、最も好ましくは10%を上限として含有することができる。
【0042】
またGd23は、原料として例えばGd23等を使用してガラス内に導入される。
【0043】
23成分は、ガラスの屈折率を高め、低分散化させるのに効果がある。しかし、その量が多すぎると耐失透性が悪化しやすくなる。従って、好ましくは30%、より好ましくは15%、最も好ましくは5%を上限として含有することができる。
【0044】
またY23は、原料として例えばY23等を使用してガラス内に導入される。
【0045】
Yb23成分は、ガラスの屈折率を高め、低分散化させるのに効果がある。しかし、その量が多すぎると耐失透性および化学的耐久性が悪化しやすくなる。従って、好ましくは30%、より好ましくは15%、最も好ましくは5%を上限として含有することができる。
【0046】
またYb23は、原料として例えばYb23等を使用してガラス内に導入される。
【0047】
ZnO成分は、耐失透性を改善し、ガラス転移温度(Tg)を低くし、化学的耐久性を改善する効果がある。しかし、その量が多すぎると逆に耐失透性が悪化しやすくなる。従って、好ましくは70%、より好ましくは55%、最も好ましくは45%を上限として含有することができる。
【0048】
またZnOは、原料として例えばZnO等を使用してガラス内に導入できる。
【0049】
MgO成分は光学定数の調整に有効である。しかし、その量が多すぎると耐失透性が悪化しやすくなる。従って、好ましくは40%、より好ましくは10%、最も好ましくは5%を上限として含有することができる。
【0050】
MgO成分は、原料として例えばMgOまたはその炭酸塩、硝酸塩、水酸化物等を使用してガラス内に導入できる。
【0051】
CaO成分は光学定数の調整に有効である。しかし、その量が多すぎると耐失透性が悪化しやすくなる。従って、好ましくは40%、より好ましくは10%、最も好ましくは5%を上限として含有することができる。
【0052】
CaO成分は、原料として例えばCaOまたはその炭酸塩、硝酸塩、水酸化物等を使用してガラス内に導入できる。
【0053】
SrO成分は光学定数の調整に有効である。しかし、その量が多すぎると耐失透性が悪化しやすくなる。従って、好ましくは40%、より好ましくは10%、最も好ましくは5%を上限として含有することができる。
【0054】
SrO成分は、原料として例えばSrOまたはその炭酸塩、硝酸塩、水酸化物等を使用してガラス内に導入できる。
【0055】
BaO成分は光学定数の調整に有効である。しかし、その量が多すぎると耐失透性が悪化しやすくなる。従って、好ましくは40%、より好ましくは10%、最も好ましくは5%を上限として含有することができる。
【0056】
BaO成分は、原料として例えばBaOまたはその炭酸塩、硝酸塩、水酸化物等を使用してガラス内に導入できる。
【0057】
Li2O成分は、部分分散比を小さくし、ガラス転移温度(Tg)を大幅に下げ、かつ、混合したガラス原料の溶融を促進するのに有効である。しかし、その量が多すぎると摩耗度や化学的耐久性、耐失透性が急激に悪化しやすくなる。従って、好ましくは20%、より好ましくは18%、最も好ましくは16%を上限として含有することができる。
【0058】
またLi2Oは、原料として例えばLi2Oまたはその炭酸塩、硝酸塩、水酸化物等を使用してガラス内に導入できる。
【0059】
Na2O成分は、ガラス転移温度(Tg)を下げ、混合したガラス原料の溶融を促進する効果がある。しかし、その量が多すぎると摩耗度や化学的耐久性、耐失透性が急激に悪化しやすくなる。従って、好ましくは20%、より好ましくは10%、最も好ましくは5%を上限として含有することができる。
【0060】
またNa2Oは、原料として例えばNa2Oまたはその炭酸塩、硝酸塩、水酸化物等を使用してガラス内に導入できる。
【0061】
2O成分は、ガラス転移温度(Tg)を下げ、混合したガラス原料の溶融を促進する効果がある。しかし、その量が多すぎると耐失透性が急激に悪化しやすくなる。従って、好ましくは20%、より好ましくは10%、最も好ましくは5%を上限として含有することができる。
【0062】
またK2Oは、原料として例えばK2Oまたはその炭酸塩、硝酸塩、水酸化物等を使用してガラス内に導入できる。
【0063】
Sb23成分は、ガラス溶融時の脱泡のために任意に添加しうるが、その量が多すぎると可視光領域の短波長領域における透過率が悪化しやすくなる。従って、好ましくは1%、より好ましくは0.5%、最も好ましくは0.2%を上限として含有できる。
【0064】
Ga23成分は、屈折率を高める効果を有する成分であるが、原料が非常に高価であるため、好ましくは20%を上限とし、より好ましくは10%、最も好ましくは5%を上限として含有できる。
【0065】
またGa23は、原料として例えばGa23等を使用してガラス内に導入される。
【0066】
In23成分は、屈折率を高める効果を有する成分であるが、原料が非常に高価であるため、好ましくは20%を上限とし、より好ましくは5%、最も好ましくは3%を上限として含有できる。
【0067】
またIn23は、原料として例えばIn23等を使用してガラス内に導入される。
【0068】
CeO2成分は、耐失透性を改善する効果を有する成分であるが、その量が多すぎると短波長領域の光線透過率が悪化しやすくなる。従って、好ましくは10%を上限とし、より好ましくは5%、最も好ましくは3%を上限として含有できる。
【0069】
またCeO2は、原料として例えばCeO2等を使用してガラス内に導入される。
【0070】
Bi23成分は、屈折率を高め、ガラス転移温度(Tg)を下げる効果がある。しかし、その量が多すぎると耐失透性が悪化しやすくなり、部分分散比を大きくする。従って、好ましくは20%、より好ましくは15%、最も好ましくは10%を上限として含有することができる。
【0071】
またBi23は、原料として例えばBi23等を使用してガラス内に導入される。
【0072】
なお、上記ガラス中に存在する各成分を導入させるために使用される原料は、例示の目的で記載したものであり、上記列挙された酸化物等に限定されるものではない。従って、ガラス製造の条件の諸変更に適宜対応させて、公知の原料から選択できる。
【0073】
本発明者は、前記範囲内の光学定数において、B23成分の含有量とTeO2成分の含有量の比を所定の値に調節することにより、部分分散比(θg,F)が小さいガラスが得られることを見出した。すなわちB23/TeO2の値が、好ましくは0.5未満、より好ましくは0.2、最も好ましくは0.15を上限とすることができ、好ましくは0より多く、より好ましくは0.01、最も好ましくは0.015を下限とすることができる。
【0074】
Lu23、SnO2、BeOの各成分は含有させることは可能であるが、Lu23は高額原料であるため原料コストが高くなり実際の製造においては現実的ではなく、SnO2は白金製の坩堝や、溶融ガラスと接する部分が白金で形成されている溶融槽でガラス原料を溶融する際に錫と白金が合金化して合金となった箇所は耐熱性が悪くなり、その箇所に穴が開き溶融ガラス流出する事故がおこる危険性が憂慮され、BeOは、環境に有害な影響を与え、環境負荷の非常に大きい成分である、という問題がある。従って、好ましくは5%未満、より好ましくは1%を上限として含有され、最も好ましくは含有しない。
【0075】
F成分は含有させることは可能であるが、熔解中における揮発性が強く、また、本組成系にあっては耐失透性を悪化しやすくさせるという問題がある。従って、好ましくは5%未満、より好ましくは1%を上限として含有され、最も好ましくは含有しない。
【0076】
Ag2O成分は含有させることは可能であるが、高額原料であるため原料コストが高くなるという問題がある。従って、好ましくは37%未満、より好ましくは10%を上限として含有され、最も好ましくは含有しない。
【0077】
次に、本発明の光学ガラスに含有させるべきではない成分について説明する。
【0078】
鉛化合物は、ガラスの製造のみならず、研磨等のガラスの冷間加工及びガラスの廃棄に至るまで、環境対策上の措置が必要となり、環境負荷が大きい成分であるという問題があるため、本発明の光学ガラスに含有させるべきではない。
【0079】
As23、カドミウム及びトリウムは、共に、環境に有害な影響を与え、環境負荷の非常に大きい成分であるため、本発明の光学ガラスに含有させるべきではない。
【0080】
さらに本発明の光学ガラスにおいては、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Mo、Eu、Nd、Sm、Tb、Dy、Er等の着色成分は、含有しないことが好ましい。ただし、ここでいう含有しないとは、不純物として混入される場合を除き、人為的に含有させないことを意味する。
【0081】
本発明のガラス組成物は、その組成がmol%で表されているため直接的に質量%の記載に表せるものではないが、本発明において要求される諸特性を満たすガラス組成物中に存在する各成分の質量%表示による組成は、酸化物換算組成で概ね以下の値をとる。
23 0%より多く15%、
TeO2 45〜80%、
SiO2 0〜15%、
GeO2 0〜15%、
Al23 0〜10%、
TiO2 0〜10%、
ZrO2 0〜5%、
Nb25 0〜30%、
Ta25 0〜10%、
WO3 0〜15%、
La23 0〜20%、
Gd23 0〜20%、
23 0〜20%、
Yb23 0〜20%、
ZnO 0〜50%、
MgO 0〜10%、
CaO 0〜10%、
SrO 0〜10%、
BaO 0〜10%、
Li2O 0〜10%、
Na2O 0〜10%、
2O 0〜10%、
Sb23 0〜1%
Ga23 0〜10%、
In 0〜10%、
CeO2 0〜10%、
Bi23 0〜40%
【0082】
次に本発明の光学ガラスの物性について説明する。
【0083】
前述のとおり、本発明の光学ガラスは光学設計上の有用性の観点から、屈折率(nd)が好ましくは1.7、より好ましくは1.78、最も好ましくは1.89を下限とし、好ましくは2.2、より好ましくは2.1、最も好ましくは2.06を上限とする。
【0084】
また、本発明の光学ガラスは光学設計上の有用性の観点から、アッベ数(νd)が好ましくは18、より好ましくは18.5、最も好ましくは19を下限とし、好ましくは30、より好ましくは28、最も好ましくは27を上限とする。
【0085】
また、本発明の光学ガラスは光学設計上の有用性の観点から、アッベ数(νd)および部分分散比(θg,F)の関係式が、νd≦25の範囲では、好ましくはθg,F≦−0.0058×νd+0.7539、より好ましくはθg,F≦−0.0058×νd+0.7519、最も好ましくはθg,F≦−0.0058×νd+0.7509を上限とすることができ、好ましくはθg,F≦−0.0016×νd+0.6346、より好ましくはθg,F≦−0.0016×νd+0.6366、最も好ましくはθg,F≦−0.0016×νd+0.6386を下限とすることができる。νd>25の範囲では、好ましくはθg,F≦−0.0020×νd+0.6589、より好ましくはθg,F≦−0.0020×νd+0.6569、最も好ましくはθg,F≦−0.0020×νd+0.6559を上限とすることができ、好ましくはθg,F≦−0.0025×νd+0.6571、より好ましくはθg,F≦−0.0025×νd+0.6591、最も好ましくはθg,F≦−0.0025×νd+0.6611を下限とすることができる。
【0086】
本発明の光学ガラスにおいては、ガラス転移点(Tg)が高くなりすぎると前述したように精密プレス成形を行う場合、成形型の劣化などが起こり易くなる。従って、本発明の光学ガラスのTgは好ましくは600℃、より好ましくは550℃、最も好ましくは500℃を上限とする。
【0087】
本発明の光学ガラスは精密プレス成形用のプリフォーム材として使用することができる。プリフォーム材として使用する場合、その製造方法及び精密プレス成形方法は特に限定されるものではなく、公知の製造方法及び成形方法を使用することができる。例えば、熔融ガラスから直接プリフォーム材を製造することもでき、また板状に成形されたガラスを冷間加工して製造しても良い。
【0088】
なお、本発明の光学ガラスを用いて熔融ガラスを滴下させてプリフォームを製造する場合、熔融ガラスの粘度は、低すぎるとガラスプリフォームに脈理が入りやすくなり、高すぎると、自重と表面張力によるガラスの切断が困難になる。
【0089】
従って、高品質かつ安定した生産のためには、液相温度における粘度(Pa・s)の対数logηの値が好ましくは0.2〜2.0、より好ましくは0.3〜1.8、最も好ましくは0.4〜1.6の範囲である。
【実施例】
【0090】
以下、本発明の実施例について述べるが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0091】
本発明のガラスの実施例(No.1〜No.61)の組成を、これらのガラスの屈折率(nd)、アッベ数(νd)、部分分散比(θg,F)、反射損失を含む透過率70%における波長(λ70)、ガラス転移温度(Tg)と共に表1〜表6に示した。表中、各成分の組成はmol%で表示するものとする。
【0092】
また、比較例のガラス(No.A〜No.B)の組成を、これらのガラスの屈折率(nd)、アッベ数(νd)、部分分散比(θg,F)、ガラス転移温度(Tg)と共に表7に示した。表中、各成分の組成はmol%で表示するものとする。














【0093】
【表1】

















【0094】
【表2】


















【0095】
【表3】


















【0096】
【表4】


















【0097】
【表5】


















【0098】
【表6】

















【0099】
【表7】

【0100】
表1〜表6に示した本発明の実施例の光学ガラス(No.1〜No.61)は、酸化物、水酸化物、炭酸塩、硝酸塩等の通常の光学ガラス用原料を表1〜表6に示した各実施例の組成の割合となるように秤量し、混合し、石英るつぼ、または金るつぼに投入し、組成による熔融性に応じて、650〜950℃で、2〜5時間溶融、清澄、攪拌して均質化した後、金型等に鋳込み徐冷することにより得ることができた。
【0101】
屈折率(nd)及びアッベ数(νd)は徐冷降温速度を−25℃/時にして得られた光学ガラスについて測定した。
【0102】
部分分散比(θg,F)は、徐冷降温速度を−25℃/時にして得られた光学ガラスについてCライン(波長 656.27nm)における屈折率(nC)、Fライン(波長 486.13nm)における屈折率(nF)、gライン(波長 435.835nm)における屈折率(ng)を測定し、θg,F=(ng−nF)/(nF−nC)による式にて算出した。
【0103】
ガラス転移温度(Tg)は日本光学硝子工業会規格JOGIS08−2003(光学ガラスの熱膨張の測定方法)に記載された方法により測定した。ただし試験片として長さ50mm、直径4mmの試料を使用した。
【0104】
屈伏点(At)は前記ガラス転移温度(Tg)と同様の測定方法で行い、ガラスの伸びが止まり、収縮が始まる温度とした。
【0105】
表1〜表6に見られる通り、本発明の実施例の光学ガラス(No.1〜No.61)はすべて、前記範囲内の光学定数(屈折率(nd)、アッベ数(νd)、部分分散比(θg,F))を有しているために光学設計上の利用価値があり、ガラス転移温度(Tg)が395℃以下であるため、精密モールドプレス成形に適している。
【0106】
これに対し、表7に示す組成の比較例A〜Bの各試料について、酸化物、水酸化物、炭酸塩、硝酸塩等の通常の光学ガラス用原料を表7に示した各比較例の組成の割合となるように秤量し、混合し、白金るつぼに投入し、組成による熔融性に応じて、1300〜1400℃で、3〜4時間溶融、清澄、攪拌して均質化した後、金型等に鋳込み徐冷することにより作製し、同一の評価方法により、作製したガラスを評価した。比較例A〜Bに見られる通り、アッベ数(νd)と部分分散比(θg,F)の関係は良好であるが、屈折率(nd)が1.73以下であるため、本発明の目的に合致した利用には不向きである。
【0107】
以上、述べたとおり、本発明の光学ガラスは、組成がB23−TeO2系であり、かつ、mol%の比率でB23/TeO2が0より多く0.5未満であって、アッベ数(νd)および部分分散比(θg,F)の関係式が、νd≦25の範囲ではθg,F≦−0.0058×νd+0.7539、νd>25の範囲ではθg,F≦−0.0020×νd+0.6589の範囲の光学定数を有しているから、光学設計上、非常に有用であり、また、転移温度(Tg)が600℃以下であるから、精密モールドプレス成形に適しており、産業上非常に有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アッベ数(νd)および部分分散比(θg,F)の関係式が、νd≦25の範囲ではθg,F≦−0.0058×νd+0.7539、νd>25の範囲ではθg,F≦−0.0020×νd+0.6589の範囲の光学定数を有し、酸化物基準のmol%で、
23 0%より多く8%未満、
TeO2 15〜63%未満、
23/TeO2 0より多く0.5未満、
であることを特徴とする光学ガラス。
【請求項2】
酸化物基準のmol%で、
SiO2 0〜20%、
GeO2 0〜20%、
Al23 0〜20%、
TiO2 0〜20%、
ZrO2 0〜20%、
Nb25 0〜30%、
Ta25 0〜20%、
WO3 0〜50%、
La23 0〜30%、
Gd23 0〜30%、
23 0〜30%、
Yb23 0〜30%、
ZnO 0〜70%、
MgO 0〜40%、
CaO 0〜40%、
SrO 0〜40%、
BaO 0〜40%、
Li2O 0〜20%、
Na2O 0〜20%、
2O 0〜20%、
Sb23 0〜1%
の各成分を含有することを特徴とする請求項1に記載の光学ガラス。
【請求項3】
酸化物基準のmol%で、
Ga23 0〜20%、
In 0〜20%、
CeO2 0〜10%、
Bi23 0〜20%
の各成分を含有することを特徴とする請求項1〜2に記載の光学ガラス。
【請求項4】
屈折率(nd)が1.7以上であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の光学ガラス。
【請求項5】
ガラス転移点(Tg)が600℃以下であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の光学ガラス。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項の光学ガラスからなるレンズプリフォーム材。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載の光学ガラスからなるモールドプレス成形用レンズプリフォーム材。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1項の光学ガラスからなる光学素子。

【公開番号】特開2010−260735(P2010−260735A)
【公開日】平成22年11月18日(2010.11.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−111169(P2009−111169)
【出願日】平成21年4月30日(2009.4.30)
【出願人】(000128784)株式会社オハラ (539)
【Fターム(参考)】