光学デバイス、光学デバイスユニット及び検出装置
【課題】 流体試料を反映した光を増強して標的物質を特定し、あるいは検量することが可能な光学デバイス、検出装置及び検出方法を提供すること。
【解決手段】 光学デバイス50は、第1部材(例えば浮上ヘッド)20と、第1部材と対向する第2部材(例えば回転盤)30と、第1部材と第2部材との間にギャップGを形成するギャップ形成機構25と、第1部材と第2部材との間に流体試料を吸引させる吸引流Sを形成する吸引流形成機構40と、を有し、第1部材は、ギャップに臨む面に1〜1000nmの凸部を有する金属ナノ構造を備え、流体試料を反映した光を出射する。
【解決手段】 光学デバイス50は、第1部材(例えば浮上ヘッド)20と、第1部材と対向する第2部材(例えば回転盤)30と、第1部材と第2部材との間にギャップGを形成するギャップ形成機構25と、第1部材と第2部材との間に流体試料を吸引させる吸引流Sを形成する吸引流形成機構40と、を有し、第1部材は、ギャップに臨む面に1〜1000nmの凸部を有する金属ナノ構造を備え、流体試料を反映した光を出射する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学的に試料を分析する光学デバイス、光学デバイスユニット及び検出装置等に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、医療診断や飲食物の検査などに用いられるセンサーの需要が増大しており、高感度かつ小型のセンサーの開発が求められている。このような要求に応えるために、電気化学的な手法をはじめ様々なタイプのセンサーが検討されている。これらの中で、集積化が可能であり、低コスト、さらに測定環境を選ばないといった理由から、表面プラズモン共鳴(SPR:Localized Surface Plasmon Resonance)を用いたセンサーに対する関心が高まっている。
【0003】
SPRとは界面固有の境界条件により光と結合を起こす電子粗密波の振動モードである。SPを励起する方法としては、回折格子やプリズムを用いる方法が知られている。例えば、SPRを応用したセンサーとしては、全反射型プリズムを用いるものがある。同プリズムの表面に形成された金属膜へ標的物質を接触させ、空気と金属膜の界面に励起される伝播型SPに起因する吸光度の変化から標的物質の吸着の有無を検出する。標的物質を吸着させる手段として、抗原抗体反応等が利用されている。金属表面に伝播型のSPが存在する一方で、金属微粒子には局在型のSPが存在する。局在型のSP、つまり、表面の微細構造上に局在するSPが励起された際には、著しく増強された電場が誘起されることが知られている。そこで、センサー感度の向上を目的として、金属微粒子や金属ナノ構造を用いた局在表面プラズモン共鳴(LSPR:Localized Surface Plasmon Resonance)を利用したセンサーが提案されている(特許文献1〜6)。この構成によれば、金属微細構造が有する電場増強作用を利用して、表面増強ラマン散乱(SERS:Surface Enhanced Raman Scattering)を発現させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000−356587号公報
【特許文献2】特開2003−268592号公報
【特許文献3】特開2003−270132号公報
【特許文献4】特開2007−240361号公報
【特許文献5】特開2007−248284号公報
【特許文献6】特開2007−303973号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
物質の特定や検量に要する強いSERS信号を得るには、被検出分子が、十分に長い時間、金属ナノ構造の表面近傍に滞留するか、もしくは、その表面に吸着されなければならない。そのために、従来は選択吸着膜が利用されていた。しかし、被検出分子が金属表面に吸着すると(1)固有振動のスペクトルピークが消える、あるいは、(2)スペクトルピークがシフトする、という現象が生じるため、物質の特定や検量が困難となる場合が少なくなかった。また、検査終了後には、次の検査に備えて吸着分子を全て脱離する必要もある。
【0006】
本発明の幾つかの態様は、流体試料を反映した光を増強して、流体試料中の標的物質を特定し、あるいは検量することが可能な光学デバイス、光学デバイスユニット及び検出装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(1)本発明の一態様は、
第1部材と、
前記第1部材と対向する第2部材と、
前記第1部材と前記第2部材との間にギャップを形成するギャップ形成機構と、
前記第1部材と前記第2部材との間に前記流体試料を吸引させる吸引流を形成する吸引流形成機構と、
を有し、
前記第1部材は、前記ギャップに臨む面に1〜1000nmの凸部を有する金属ナノ構造を備え、光が照射されることで前記流体試料を反映した光を出射する光学デバイスに関する。
【0008】
本発明の一態様では、第1,第2部材がギャップ形成機構により形成されたギャップを隔てて対向し、そのギャップに臨んで金属ナノ構造が配置される。吸引流形成機構により形成される吸引流により、ギャップに流体試料を吸引させて、金属ナノ構造に流体試料を接触させる。光学デバイスに光を照射すると、金属ナノ構造の凸部の周囲に増強電場が形成され、流体試料を反映した光が増強電場にて増強されて出力される。吸引流により第1,第2部材の一方に揚力を作用させて、ギャップを形成してもよい。
【0009】
(2)本発明の一態様では、前記第1部材及び前記第2部材の一方が回転盤であり、前記吸引流形成機構は、前記回転盤を回転駆動する回転駆動部とすることができる。
【0010】
こうすると、吸引流形成機構である回転駆動部が、回転盤を回転駆動することで吸引流が形成される。
【0011】
(3)本発明の一態様では、前記第2部材が前記回転盤であり、前記第1部材が浮上ヘッドであり、前記ギャップ形成機構は、前記浮上ヘッドを可動に支持し、前記吸引流により生ずる揚力によって、前記浮上ヘッドを前記回転盤と前記ギャップを隔てて浮上させる浮上ヘッド支持機構とすることができる。
【0012】
こうすると、回転盤が回転駆動部により回転駆動されて、回転盤と浮上ヘッドとの間に吸引流が形成され、浮上ヘッド支持機構にて可動に支持され、かつ金属ナノ構造を備えた浮上ヘッドが揚力により浮上して、回転盤及び浮上ヘッド間にギャップが形成される。
【0013】
(4)本発明の一態様では、前記第1部材が前記回転盤であり、前記第2部材が浮上ヘッドであり、前記ギャップ形成機構は、前記浮上ヘッドを可動に支持し、前記吸引流により生ずる揚力によって、前記浮上ヘッドを前記回転盤と前記ギャップを隔てて浮上させる浮上ヘッド支持機構とすることができる。
【0014】
こうすると、金属ナノ構造を備えた回転盤が回転駆動部により回転駆動されて、回転盤と浮上ヘッドとの間に吸引流が形成され、浮上ヘッド支持機構にて可動に支持された浮上ヘッドが揚力により浮上して、回転盤及び浮上ヘッド間にギャップが形成される。
【0015】
(5)本発明の一態様では、前記第2部材(回転盤)は、前記ギャップに臨む面に凹溝を形成することができる。
【0016】
凹溝の深さやパターンを変更することで、ギャップの大きさを調整することができる。
【0017】
(6)本発明の一態様では、前記回転盤は、前記ギャップに臨む面にて、凹溝が周方向に沿って形成され、前記第1部材(浮上ヘッド)は、前記凹溝と対向する位置にて前記金属ナノ構造の前記凸部を周方向に沿って配置することができる。
【0018】
こうすると、回転中のギャップを狭くしても、金属ナノ構造は凹溝と常に対向しているので、金属ナノ構造の凸部が回転盤と接触しない。
【0019】
(7)本発明の一態様では、前記第1部材(回転盤)は、前記浮上ヘッドと対向する面に凹溝が形成され、前記金属ナノ構造の前記凸部は、前記凹溝内に配置することができる。
【0020】
この場合も、回転中のギャップを狭くしても、金属ナノ構造子が凹溝内に配置されるので、金属ナノ構造の凸部が浮上ヘッドと接触しない。
【0021】
(8)本発明の一態様では、前記光が照射されることで前記金属ナノ構造の前記凸部の周囲に増強電場が形成され、前記増強電場が前記第2部材に到達する染み出し距離を有することができる。
【0022】
こうすると、ギャップ内に吸引された流体試料が増強電場内に確実に入り込むので、流体試料を反映した光が増強電場で確実に増強される。
【0023】
(9)本発明の一態様では、前記回転盤の回転停止時に、前記第2部材と前記金属ナノ構造の前記凸部とが干渉することを防止するスペーサー部材をさらに有することができる。
【0024】
こうるすと、揚力がなくなっても金属ナノ構造の凸部が第2部材と干渉しなくなり、金属ナノ構造を保護できる。
【0025】
(10)本発明の一態様では、前記第1部材及び前記第2部材の一方には、既知の参照物質を固定することができる。
【0026】
こうすると、既知の参照物質を反映した光をモニターすることができる。参照物質と検出対象物質をそれぞれ反映した光の信号比を算出すれば、光学デバイスに照射される光強度が変動しても、信号比は変動しない。よって、流体試料中の検出対象物質の定量解析を高い精度で算出できる。
【0027】
(11)本発明の他の態様は、
上述した光学デバイスと、
前記光学デバイスの前記第1部材及び前記第2部材を収容し、導入口と導出口とを有する試料導入部と、
前記導入口を開閉する第1シャッターと、
前記導出口を開閉する第2シャッターと、
前記導出口を介して前記試料導入部内を負圧にする吸引駆動部と、
を有する光学デバイスユニットに関する。
【0028】
この光学デバイスは、第1,第2シャッターを開放して試料導入部内に流体試料を導入し、その後第1,第2シャッターを開放して光学デバイスに光を照射すれば、試料導入部内の流体試料を繰り返しギャップに吸引して、流体試料を反映した光を発生させることができる。
【0029】
(12)本発明のさらに他の態様は、
上述した光学デバイスユニットと、
光源と、
前記流体試料を反映した光を検出する光検出部とを含む検出装置に関する。
【0030】
この検出装置は、上述した光学デバイス及び光学デバイスユニットの特性を生かして、流体試料中の検出対象物質を定性的又は定量的に検出することができる。
【0031】
(13)本発明のさらに他の態様では、前記流体試料を反映した光をラマン散乱光とすることができる。こうすると、流体試料中の検出対象物質によるラマン散乱光を検出することで、検出対象物質を検出できる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】図1(A)〜図1(D)は、表面増強ラマン光の検出原理の説明図である。
【図2】光学デバイスの要部を説明する図である。
【図3】回転盤と浮上ヘッドを有する光学デバイスの平面図である。
【図4】回転盤の凹溝とギャップとの相関を示す特性図である。
【図5】増強電場の染み出し距離を説明するための図である。
【図6】金属ナノ粒子と試料分子との距離と、ラマン散乱光強度との相関を示す特性図である。
【図7】図7(A)は光学デバイスの要部の断面図であり、図7(B)は増強電場を説明するための図である。
【図8】回転盤に形成される凹溝と金属ナノ粒子の配置を説明するための図である。
【図9】浮上ヘッドに形成される凹溝と、金属ナノ粒子の配置を説明するための図である。
【図10】図10(A)(B)は凹溝のパターンを示す図である。
【図11】光学デバイスユニットの平面図である。
【図12】図12(A)(B)は光学デバイスユニットのシャッターの開閉動作を示す図である。
【図13】検出装置の概略図である。
【図14】回転停止時の増強電場と試料分子の位置を説明する図である。
【図15】総回転数の相違によるスペクトル強度の差を説明するための図である。
【図16】参照物質を備えた回転盤を示す図である。
【図17】試料分子の検出ピークと参照物質の参照ピークとを示す図である。
【図18】図18(A)はレーザー出力の変動を示し、図18(B)は検出ピークと参照ピークとの信号比を示す特性図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお以下に説明する本実施形態は特許請求の範囲に記載された本発明の内容を不当に限定するものではなく、本実施形態で説明される構成の全てが本発明の解決手段として必須であるとは限らない。
【0034】
以下にて説明する本実施形態の光学デバイスは、光源からの光が照射されることで、吸着している流体試料を反映した光を出射するものである。本実施形態では、流体試料は例えば大気であり、検査対象の物質は大気中の特定気体分子(試料分子)とすることができるが、これに限定されない。
【0035】
1.試料の検出(定性検出)原理
先ず、流体試料を反映した光、例えばラマン散乱光に基づく物質の同定技術について説明する。図1(A)〜図1(D)は、ラマン散乱光の検出原理の説明図を示す。図1(A)はラマン分光について説明され、流体試料中の試料分子に入射光(振動数ν)が照射されると、一般に、入射光の多くは、レイリー散乱光として散乱され、レイリー散乱光の振動数ν又は波長は変化しない。入射光の一部は、ラマン散乱光として散乱され、ラマン散乱光の振動数(ν−ν’及びν+ν’)又は波長は、試料分子の振動数ν’(分子振動)が反映される。入射光の一部は、試料分子を振動させてエネルギーを失うが、試料分子の振動エネルギーがラマン散乱光の振動エネルギー又は光エネルギーに付加されることもある。このような振動数のシフト(ν’)をラマンシフトと呼ぶ。
【0036】
図1(B)には、流体試料中の検出対象の試料分子が例えばアセトアルデヒド分子である場合のラマンスペクトルが示されている。言い換えれば、図1(B)に示すラマンスペクトルを分析することで、例えばアセトアルデヒド分子を特定することができる(定性検出)。しかしながら、試料分子が微量である場合、ラマン散乱光は、一般に微弱であり、試料分子を検出又は特定することは困難である。そこで、増強電場を提供し、ラマン散乱光を増強電場によって増強することが好ましい。なお、図1(B)のラマンスペクトルは、ラマンシフトを波数で表している。
【0037】
図1(C)の例では、金属微粒子(金属ナノ粒子)13に入射光(照射光)を照射した時に形成される増強電場14について説明される。入射光の波長よりも小さな金属微粒子(金属ナノ粒子)13に対して入射光を照射する場合、入射光の電場は、金属微粒子13の表面に存在する自由電子に作用し、共鳴を引き起こす。これにより、自由電子による電気双極子が金属微粒子13内に励起され、金属微粒子13の近傍に入射光の電場よりも強い増強電場14が形成される。これは、局在表面プラズモン共鳴(LSPR:Localized Surface Plasmon Resonance)とも呼ばれる。この現象は、入射光の波長よりも小さな1〜1000nmの凸部を有する金属微粒子13等の電気伝導体に特有の現象である。
【0038】
図1(D)は、SERSセンサー10に入射光を照射した時の表面増強ラマン散乱(SERS: Surface Enhanced Raman Scattering)について説明している。SERSセンサー10は、例えば基板11を有し、基板11の凸部12に金属微粒子13を形成する。結果として、SERSセンサー10は、1〜1000nmの凸部を有する金属ナノ構造を有することができる。1〜1000nmの凸部を有する金属ナノ構造とは、基板11の上面を当該サイズの凸部構造(基板材で)を持つように加工する他に、基板11上に当該サイズの金属微粒子を蒸着・スパッタ等で固着させる、または、基板11上にアイランド構造を有する金属膜を形成する等の方法でも形成できる。
【0039】
このようなSERSセンサー10に入射光を照射することで、金属微粒子(金属ナノ構造の凸部)13の周囲近傍に増強電場14を形成することができる。増強電場14に試料分子1が入り込むと、その試料分子1によるラマン散乱光は増強電場14で増強されて、ラマン散乱光の信号強度は、強くなる。このような表面増強ラマン散乱では、試料分子1が微量であっても、検出感度を高めることができる。
【0040】
図1(D)の例では、SERSセンサー10の表側(金属ナノ粒子13側)から入射光が照射されているが、SERSセンサー10の裏側(基板11側)から入射光を照射してもよい。
【0041】
2.光学デバイス
2.1.基本的構成
図2は、本発明の一実施形態に係る光学デバイス50の要部を示している。図2に示す光学デバイス50は、図1(A)〜図1(D)にて説明した通り、光が照射されることで流体試料の分子振動数が反映されたラマン散乱光を発生するものである。
【0042】
図2に示す光学デバイス50は、図1(D)に示すSERSセンサー10を搭載した第1部材20と、第1部材20と対向する第2部材30とを有する。さらに光学デバイス50は、第1部材20と第2部材30との間にギャップGを形成するギャップ形成機構と、第1部材20と第2部材30との間に試料分子1を吸引させる吸引流Sを形成する吸引流形成機構と、を有する。
【0043】
ここで、ギャップ形成機構及び吸引流形成機構について、図3も参照して説明する。図3では、第1,第2部材20,30の一方、例えば第2部材30を回転盤としたとき、吸引流形成機構は、回転盤30を回転駆動する回転駆動部40にて形成している。回転駆動部40は例えばスピンドルモーターにて形成され、回転盤30を5000〜15000rpm、例えば12000rpmにて回転方向Aに高速回転駆動する。こうすると、回転駆動部40は、図3に示す吸引流Sを形成することができる。なお、回転盤30が第1部材20と対向する面に、凹溝31を形成することができる。凹溝31は、例えば周方向に連続して形成することができる。
【0044】
一方、回転盤(第2部材)30と対向させてSERSセンサー10を搭載した第1部材20は、浮上ヘッドとすることができる。この場合、ギャップ形成機構は、自由端に浮上ヘッド20が固定されたアーム21の基端をヒンジ部22にて可動に支持している浮上ヘッド支持機構とすることができる。
【0045】
ここで、回転ディスクに対して情報を記録/再生する磁気ヘッドスライダーの浮上原理を用いれば、回転盤(第2部材)30を回転駆動部40により回転駆動すると、吸引流とともに揚力が生じ、浮上ヘッド支持機構25にて可動に支持された浮上ヘッド(第1部材)20は、揚力により図2に示すB方向に浮上する。これにより、第1部材(浮上ヘッド)20と第2部材(回転盤)30との間にギャップGが形成され、しかも回転中はギャップGが一定に維持される。つまり、回転盤30を回転駆動する回転駆動部40が吸引流形成機構として機能することと協働して、浮上ヘッド支持機構25は浮上ヘッド(第1部材)20と第2部材(回転盤)30との間にギャップGを形成するギャップ形成機構として機能する。
【0046】
図4は、凹溝31の深さと、ギャップGの大きさとの関係を示す特性図である。なお、図4に示す数値は一例であり、浮上ヘッド20の重量、凹溝31の深さやパターン等の条件変更により数値を適宜変更することができる。図4から、溝深さが0、つまり凹溝31が存在しなくてもギャップGを形成できることが分かる。また図4から、凹溝31が深いほどギャップGは大きくなり、凹溝31が浅いほどギャップGは小さくなることが分かる。つまり、凹溝31の深さやパターンを調整して、ギャップGの大きさを例えば100nm以下、好ましくは50nm以下の範囲で調整できる。
【0047】
浮上ヘッド20と回転盤30との間にギャップGが形成される理由は、図2に示すように、浮上ヘッド支持機構25により支持された浮上ヘッド20と回転盤30との間に吸引流Sが形成されるからである。この吸引力Sにより浮上ヘッド20が図2のB方向に浮上することを浮上ヘッド支持機構25が案内することで、ギャップGが形成される。
【0048】
2.2.ラマン散乱光の増強原理
図5、図6、図7(A)及び図7(B)は、本実施形態にてラマン散乱光を増強できる原理を示している。先ず、図7(A)に示すように、吸引流Sは揚力を生ずるだけでなく、センサー空間内の試料分子1を、例えば100nm以下の非常に狭いギャップGに次々と搬送することができる。つまり、センサー空間内の同一試料分子1が、回転盤30の時間あたりの回転数例えば12000rpmと比例する回数にて、ギャップGを繰り返し通過する。試料分子1は、1回転する間に少なくとも1回、ギャップGの中を通過できる。例えば、回転盤30の回転数を12000rpmとすれば、10秒間に、試料分子1はギャップGの中を2000回も通過することになる。通過するたびに、ラマン散乱光が発生するため、例えば10秒間に積算された強いSERS信号が得られることになる。
【0049】
しかも、図7(B)に示すように、光照射領域15には、図1(C)(D)にて説明した通り、金属微粒子13の周囲に増強電場14が形成されている。この増強電場14は、図7(A)に示すようにギャップG内に形成される。
【0050】
よって、ギャップGを繰り返し通過する試料分子1は、金属微粒子13に吸着されなくても、増強電場14中を通過する確率が格段に高まる。増強電場14に試料分子1が入り込むと、その試料分子1によるラマン散乱光は増強電場14で増強されて、ラマン散乱光の信号強度は、強くなる。本実施形態では、以上の原理により流体試料を反映する光(ラマン散乱光)を増強して、ラマンスペクトル強度を高めている。
【0051】
ここで、図5に示すように、浮上ヘッド20側に設けた金属微粒子13の周囲に形成される増強電場14が、回転盤30に到達する染み出し距離H0を有する。このことは、図6から説明される。図6は、金属微粒子13と試料分子1との距離を横軸とし、ラマン散乱光の強度を縦軸に示している。図6に示すように、金属微粒子13と試料分子1との距離が100nmを越える付近から、ラマン散乱光の強度が急激に低下してほぼ一定で推移している。換言すれば、金属微粒子13から染み出す増強電場14の距離H0(図5)は、100nm程度確保されていることになる。上述した通り、浮上ヘッド20が浮上する距離であるギャップGは100nm以下であるので、増強電場14が回転盤30に到達する染み出し距離H0を有することになる。
【0052】
このようにすると、図6の通りギャップGの高さ領域全域まで増強電場14が染み出すため、ギャップGを通過する試料分子1は増強電場14中を通過することになり、ラマンスペクトル強度がさらに高まる。
【0053】
なお、図2において、SERSセンサー10に対して、レーザーを上からあるいは下から照射することができる。浮上ヘッド20及び回転円盤30は、不透明部材の他、レーザー光を通過させる場合には透明部材にて形成できである。また、SERSセンサー10の主要素である金属微粒子13に関し、ナノオーダーの金属突起が回転方向Aに対して所定の角度で一次元または二次元にて周期的に配列させることができる。
【0054】
2.3.スペーサー部材
図7(A)では、回転盤30の回転停止時に金属微粒子13と回転盤30とが干渉することを防止するスペーサー部材23を、例えば浮上ヘッド20側に設けている。スペーサー部材23の高さH2は、金属微粒子(金属ナノ構造の凸部)13の高さH1よりも高い(H2>H1)。こうすると、図2に示すB方向への揚力がなくなっても、金属微粒子13は回転盤30と接触することがない。よって、金属微粒子13をスペーサー部材23により保護できる。
【0055】
図8は、回転盤30の周方向に沿って、深さDの凹溝31を形成している。なお、図8の回転盤30の回転接線方向は、紙面と直交する方向である。そして、金属微粒子(金属ナノ構造の凸部)13は、凹溝31と対向する領域に形成されている。凹溝31は複数設けられ、各凹溝31と対向させて金属微粒子13を配置できる。この場合、スペーサー部材23の高さH2は、金属微粒子13の高さH1よりも低くできる(H2<H1)。ただし、H2+D>H1を満たす必要がある。なお、図7及び図8において、スペーサー部材23は回転盤30側に固定しても良い。
【0056】
2.4.光学デバイスの変形例
図9に示すように、金属微粒子13を配列した第1部材20を回転盤とし、第1部材20と対向する第2部材30を浮上ヘッドとしても良い。この場合には、回転盤(第1部材)20を回転させることで、浮上ヘッド(第2部材)30が浮上して、回転盤(第1部材)20と浮上ヘッド(第2部材)30との間にギャップGが形成される。
【0057】
このとき、回転盤(第1部材)20に凹溝24を設けることができる。さらに、その凹溝24内に金属微粒子13を配置することができる。この場合、図9に示すスペーサー部材23の高さH2は、凹溝24の深さをDとすると、図8と同じく、スペーサー部材23の高さH2は、金属微粒子13の高さH1よりも低くできる(H2<H1)。ただし、H2+D>H1を満たす必要がある。なお、図9において、スペーサー部材23は浮上ヘッド30側に固定しても良い。
【0058】
また、回転盤(第1部材)20に凹溝24を設けない場合には、図7と同じく、スペーサー部材23の高さH2は、金属微粒子13の高さH1よりも高くすればよい(H2>H1)。
【0059】
図8に示す回転盤(第2部材)30に形成される凹溝31は、揚力が発生しないときにスペーサー部材23により金属微粒子13と回転盤(第2部材)30との干渉を常に避けるためには、円周溝とする必要があった。
【0060】
しかし、図9の場合などでは、凹溝24の形状は問わない。図10(A)(B)は、凹溝24の各種パターンを示している。図10(A)に示すように、直線状または曲線状の凹溝24に対して、回転方向(回転接線方向)Aは凹溝24と平行でも良いし直交しても良い。このことから、図10(B)に示すように、回転方向Aとは無関係に格子状の凹溝24としても良い。
【0061】
3.光学デバイスユニット
次に、上述した光学デバイス50を用いて構成される光学デバイスユニット100につい、図11及び図12(A)(B)を参照して説明する。図11及び図12(A)(B)に示すように、光学デバイスユニット100は、光学デバイス50の第1部材20及び第2部材30を収容し、導入口64Aと導出口64Bとを有する試料導入部60と、導入口64A及び導出口64Bを開閉するシャッター70(第1シャッター70A及び第2シャッター70B)と、導出口64Bを介して試料導入部60内を負圧にする吸引駆動部であるファン80と、を有する。
【0062】
試料導入部60は、流体試料が導入される空間部を有する中空箱型を呈している。図12(A)(B)は試料導入部60の一側面を示しているが、図12(B)に示すように、試料導入部60の例えば側壁62には開口64が形成されている。試料導入部60の側壁62には少なくとも2つの開口64が形成されている。試料導入側の開口64を導入口64Aと称し、試料導出側の開口64を導出口64Bと称する。
【0063】
2つの開口64を開閉する2つのシャッター70が設けられている。導入口64Aを開閉するシャッター70を第1シャッター70Aと称し、導出口64Bを開閉するシャッター70を第2シャッター70Bと称する。図11では、第1,第2シャッター70A,70Bは、試料導入部60の側壁62に沿って移動可能に設けられている。
【0064】
図11に示すように、導出口64Bを介して試料導入部60内を負圧にする吸引駆動部であるファン80が設けられている。よって、ファン80が駆動され、かつ、第1,第2シャッター70A,70Bが開放されていれば(図12(B)の状態)、導入口64Aを介して、人体の呼気や環境雰囲気中の流体試料が試料導入部60に吸引されて導入される。なお、吸引駆動部は、ファンに限らず、チューブポンプ、ダイアフラム式ポンプ等のポンプなど、試料導入部60内にて負圧を発生させて流体試料を吸引できるものであれば良い。
【0065】
そして、本実施形態の光学デバイスユニット100では、第1シャッター70A及び第2シャッター70Bを開放して、流体試料を試料導入部60内に導入する第1状態と、第1シャッター70A及び第2シャッター70Bを閉鎖して、流体試料を試料導入部60内に閉じ込めた第2状態とを実現することができる。第2の状態にて、光源より光を発して検査を実施すれば、試料導入部60内に閉じ込められた流体試料は排出されずに、吸引流Sにより流体試料をギャップGに何度も通過させて検査に寄与させることができる。また、検査時に試料導入部60内に外光が取り込まれることを低減できる。
【0066】
図11に示すように、試料導入部60には、試料供給流路90Aと試料排出流路90Bを設けることができる。試料供給流路90Aは、一端に外気と連通する供給口91Aを有し、他端が導入口64Aと連通している。試料排出流路90Bは、一端に外気と連通する排出口91Bを有し、他端が導出口64Bと連通している。
【0067】
本実施形態では、図11に示すように、試料導入部60の側壁62は円周壁であり、側壁62と対向する円周内壁66を有している。導入口64A及び導出口64Bは、側壁62と円周内壁66とを貫通している。
【0068】
ここで、導出口64Bは、平面視にて、円周内壁66の中心Pと導入口64Aとを結ぶ線L上から外れた位置に配置されることが好ましい。こうすると、導入口64Aから直ちに導出口64Bに向かう流体試料は少なく、円周内壁66に沿うX方向に向かう流体試料の旋回流が生ずる。
【0069】
図11に示すように、試料供給流路90A及び試料排出流路90Bは、円周内壁66の一つの接線方向と平行な方向に沿って互いに同じ向きに延びる部分を、少なくとも試料導入部60との連結端側に有することができる。こうすると、導入口64A及び導出口64B付近の流体試料は接線方向と平行に流れるので、上述の旋回流がより発生し易くなる。
【0070】
第1,第2シャッター70A,70Bは、第1,第2弾性体(バネ)71A,71Bにより図示Y,Z方向(シャッター閉鎖方向)に付勢されている。第1,第2シャッター70A,70Bには第1,第2ラック72A,72Bが固定されている。これら第1,第2ラック72A,72Bに第1,第2のシャッター駆動歯車73A,73Bが噛合している。第1,第2シャッター駆動歯車73A,73Bを駆動することで、第1,第2シャッター70A,70Bは第1,第2弾性体71A,71Bの付勢力に抗して開放される。第1,第2シャッター駆動歯車73A,73Bへの駆動力を解除すれば、第1,第2シャッター70A,70Bは第1,第2弾性体71A,71Bにより閉鎖駆動される。
【0071】
4.検出装置
図13は、本実施形態の検出装置の構成例を示す。図13に示される検出装置200は、図2に示す第1,第2シャッター70A,70B(図13では省略)や歯車93A,93B等を備えた試料導入部60、ファン80、試料供給流路90A及び試料排出流路90B、光学デバイス50等を備えた光学デバイスユニット100を有する。検出装置200の筐体210は、ヒンジ部212により開閉可能なセンサーカバー211を備える。光学デバイスユニット100は、センサーカバー211内にて、筐体210に対して着脱自在に配置される。光学デバイスユニッ100が装着/非装着状態は、センサー213により検出できる。なお、試料供給流路90Aの供給口91Aには、除塵フィルター92が設けられる。
【0072】
試料供給流路90A及び試料排出流路90Bは、試料導入部60の円周内壁66(図11)の接線方向と平行に水平に延び、そこから上方に延び、さらに水平に延びている。よって、試料供給流路90Aは、供給口91Aから直進する外光を遮光する壁部93Aを含み、試料排出流路90Bは、排出口91Bから直進する外光を遮光する壁部93Bを有する。これにより、外光が試料導入部60内に入射し難い構造となっている。
【0073】
筐体210内には、光源110、光学系120と、光検出部130と、信号処理・制御部140と、電力供給部150とが設けられている。筐体210内にはさらに、光学デバイスユニット100内の第1,第2駆動歯車73A,73Bに駆動力を付与して第1,第2シャッター70A,70B(図11)を駆動するシャッター駆動部160,161を有する。
【0074】
図13において、光源110は例えばレーザーであり、小型化の観点から好ましくは垂直共振型面発光レーザーを用いることができるが、これに限定ざれない。
【0075】
光源110からの光は、光学系120を構成するコリメーターレン121により平行光にされる。コリメーターレンズ121の下流に偏光制御素子を設け、直線偏光に変換しても良い。ただし、光源110として例えば面発光レーザーを採用し、直線偏光を有する光を発光可能であれば、偏光制御素子を省略することができる。
【0076】
コリメーターレンズ121により平行光された光は、ハーフミラー(ダイクロイックミラー)122により光学デバイス50の方向に導かれ、対物レンズ123で集光され、光学デバイス50に入射する。光学デバイス50からのレイリー散乱光及びラマン散乱光は、対物レンズ123を通過し、ハーフミラー122によって光検出部130の方向に導かれる。
【0077】
光学デバイス50からのレイリー散乱光及びラマン散乱光は、集光レンズ124で集光されて、光検出部130に入力される。光検出部130では先ず、光フィルター131に到達する。光フィルター131(例えばノッチフィルター)によりラマン散乱光が取り出される。このラマン散乱光は、さらに分光器132を介して受光素子133にて受光される。分光器132は、例えばファブリペロー共振を利用したエタロン等で形成されて通過波長帯域を可変とすることができる。分光器132を通過する光の波長は、信号処理・制御回路140により制御(選択)することができる。受光素子133によって、試料分子1に特有のラマンスペクトルが得られ、得られたラマンスペクトルと予め保持するデータと照合することで、試料分子1を特定することができる。
【0078】
電力供給部150は、光源110、光検出部130、信号処理・制御部140及びファン80等に供給する。電力供給部150は、例えば2次電池で構成することができ、1次電池、ACアダプター等で構成してもよい。
【0079】
5.定量検出
5.1.定量検出精度
本実施形態では、図13の受光素子133から得られる図1(B)に示す試料分子の振動数を反映したラマン散乱光のスペクトル強度から、試料分子の濃度を定量検出することも可能である。試料分子1の数が多いほど、図1(B)の特定試料分子のスペクトル強度は高くなるからである。
【0080】
ここで、本実施形態装置にて検出される特定試料分子の定量検出精度について考察する。図14は、回転盤30が停止した直後の状態を模式的に示している。増強電場14を通過しなかった試料分子1は、ラマン散乱光の発生に寄与せず、図13の受光素子133ではカウントされなかった分子である。一方、増強電場14を通過した試料分子1は、ラマン散乱光の発生に寄与し、図13の受光素子133でカウントされた分子である。
【0081】
測定時間をΔTとし、一回転時間をtとすると、増強電場14を横切る回数はR=ΔT/tとなる。一回転中にギャップGを通過する試料分子1の数をN個とし、図14のように回転停止時にカウントされない試料分子1の数をn個(0≦n≦N)とする。このとき、図13の受光素子133で得られる試料分子1のラマン散乱光の強度Iは(RN−n)に比例する。本実施形態では、回転数Rが充分に大きいので、カウントされない試料分子1の数n個による誤差は無視できる。よって、回転停止位置精度に依存した誤差は無視できることが分かる。
【0082】
図15は、回転停止時までの回転数Rとラマン散乱光の強度IとギャップGを通過する試料分子1のカウント数との関係を示している。図15において、一回転中にギャップGを通過する試料分子1の数をN個とすると、回転数R回でのラマン散乱光の強度Iはカウント分子数RNに比例し、回転数(R−1)回でのラマン散乱光の強度Iはカウント分子数(R−1)Nに比例する。回転数R回と回転数(R−1)回との各々の強度Iを比較した時、回転数Rが1000回点を越えるレベルであれば(R>1000)、回転数R回と回転数(R−1)回との強度Iによるラマン散乱光の強度Iの誤差は0.1%以下である。よって、回転停止位置精度に依存した誤差は無視でき、ラマン散乱光の強度Iに基づいた定量分析が可能となる。
【0083】
このように、回転停止位置精度に依存した誤差や、総回転数に依存した誤差は、総回転数が充分に大きければいずれも無視でき、ラマン散乱光の強度Iに基づいた定量分析が可能となる。
【0084】
5.2.レーザー出力などの変動に基づく検出精度
図13に示す光源110であるレーザー出力が変動すれば、ラマン散乱光の強度Iも変動し、それにより定量分析精度が悪化することが懸念される。そのために、図16に示すように、例えば回転盤30の例えば凹溝31に、参照物質32を例えばナノインプリント等で形成する。なお、浮上ヘッド20に参照物質32を固定しても良い。
【0085】
こうすると、回転盤30の回転に従い、図7のレーザー照射領域15内に参照物質32が搬入される毎に、参照物質32の分子振動数を反映したラマン散乱光が増強電場14で増強されて出力される。図17は、試料分子1の検出ピークI1と、参照物質32の参照ピークI2を示している。
【0086】
図18(A)は、図13に示す光源110であるレーザー出力の変動を示している。ここで、図17に示す試料分子1の検出ピークI1と、参照物質32の参照ピークI2との信号比(I1/I2またはI2/I)を考える。図18(A)に示すレーザー出力が低下すれば、I1,I2が共に低下するので、信号比は変化しない。同様に、図18(A)に示すレーザー出力が増加すれば、I1,I2が共に増加するので、信号比は変化しない。
【0087】
このように、図18(A)に示すレーザー出力の変動があっても、図18(B)に示すように信号比は変化しない。このことから、レーザー出力などが変動しても、検出精度を維持することができる。よって、定量分析精度も向上する。
【0088】
なお、上記のように本実施形態について詳細に説明したが、本発明の新規事項および効果から実体的に逸脱しない多くの変形が可能であることは当業者には容易に理解できる。
【符号の説明】
【0089】
1 試料分子、10 SRESセンサー、13 金属微粒子、14 増強電場、20 第1部材(浮上ヘッド)、21 アーム、22 ヒンジ部、23 スペーサー部材、24 凹溝、25 ギャップ形成機構(浮上ヘッド支持機構)、30 第2部材(回転盤)、31 凹溝、32 固定された参照試料、40 吸引流形成機構(回転駆動部)、50 光学デバイス、60 試料導入部、64A 導入口、64B 導出口、70A 第1シャッター、70B 第2シャッター、80 吸引駆動部(ファン)、90A 試料供給流路、90B 試料排出流路、100 光学デバイスユニット、110 光源、130 光検出部、200 検出装置
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学的に試料を分析する光学デバイス、光学デバイスユニット及び検出装置等に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、医療診断や飲食物の検査などに用いられるセンサーの需要が増大しており、高感度かつ小型のセンサーの開発が求められている。このような要求に応えるために、電気化学的な手法をはじめ様々なタイプのセンサーが検討されている。これらの中で、集積化が可能であり、低コスト、さらに測定環境を選ばないといった理由から、表面プラズモン共鳴(SPR:Localized Surface Plasmon Resonance)を用いたセンサーに対する関心が高まっている。
【0003】
SPRとは界面固有の境界条件により光と結合を起こす電子粗密波の振動モードである。SPを励起する方法としては、回折格子やプリズムを用いる方法が知られている。例えば、SPRを応用したセンサーとしては、全反射型プリズムを用いるものがある。同プリズムの表面に形成された金属膜へ標的物質を接触させ、空気と金属膜の界面に励起される伝播型SPに起因する吸光度の変化から標的物質の吸着の有無を検出する。標的物質を吸着させる手段として、抗原抗体反応等が利用されている。金属表面に伝播型のSPが存在する一方で、金属微粒子には局在型のSPが存在する。局在型のSP、つまり、表面の微細構造上に局在するSPが励起された際には、著しく増強された電場が誘起されることが知られている。そこで、センサー感度の向上を目的として、金属微粒子や金属ナノ構造を用いた局在表面プラズモン共鳴(LSPR:Localized Surface Plasmon Resonance)を利用したセンサーが提案されている(特許文献1〜6)。この構成によれば、金属微細構造が有する電場増強作用を利用して、表面増強ラマン散乱(SERS:Surface Enhanced Raman Scattering)を発現させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000−356587号公報
【特許文献2】特開2003−268592号公報
【特許文献3】特開2003−270132号公報
【特許文献4】特開2007−240361号公報
【特許文献5】特開2007−248284号公報
【特許文献6】特開2007−303973号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
物質の特定や検量に要する強いSERS信号を得るには、被検出分子が、十分に長い時間、金属ナノ構造の表面近傍に滞留するか、もしくは、その表面に吸着されなければならない。そのために、従来は選択吸着膜が利用されていた。しかし、被検出分子が金属表面に吸着すると(1)固有振動のスペクトルピークが消える、あるいは、(2)スペクトルピークがシフトする、という現象が生じるため、物質の特定や検量が困難となる場合が少なくなかった。また、検査終了後には、次の検査に備えて吸着分子を全て脱離する必要もある。
【0006】
本発明の幾つかの態様は、流体試料を反映した光を増強して、流体試料中の標的物質を特定し、あるいは検量することが可能な光学デバイス、光学デバイスユニット及び検出装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(1)本発明の一態様は、
第1部材と、
前記第1部材と対向する第2部材と、
前記第1部材と前記第2部材との間にギャップを形成するギャップ形成機構と、
前記第1部材と前記第2部材との間に前記流体試料を吸引させる吸引流を形成する吸引流形成機構と、
を有し、
前記第1部材は、前記ギャップに臨む面に1〜1000nmの凸部を有する金属ナノ構造を備え、光が照射されることで前記流体試料を反映した光を出射する光学デバイスに関する。
【0008】
本発明の一態様では、第1,第2部材がギャップ形成機構により形成されたギャップを隔てて対向し、そのギャップに臨んで金属ナノ構造が配置される。吸引流形成機構により形成される吸引流により、ギャップに流体試料を吸引させて、金属ナノ構造に流体試料を接触させる。光学デバイスに光を照射すると、金属ナノ構造の凸部の周囲に増強電場が形成され、流体試料を反映した光が増強電場にて増強されて出力される。吸引流により第1,第2部材の一方に揚力を作用させて、ギャップを形成してもよい。
【0009】
(2)本発明の一態様では、前記第1部材及び前記第2部材の一方が回転盤であり、前記吸引流形成機構は、前記回転盤を回転駆動する回転駆動部とすることができる。
【0010】
こうすると、吸引流形成機構である回転駆動部が、回転盤を回転駆動することで吸引流が形成される。
【0011】
(3)本発明の一態様では、前記第2部材が前記回転盤であり、前記第1部材が浮上ヘッドであり、前記ギャップ形成機構は、前記浮上ヘッドを可動に支持し、前記吸引流により生ずる揚力によって、前記浮上ヘッドを前記回転盤と前記ギャップを隔てて浮上させる浮上ヘッド支持機構とすることができる。
【0012】
こうすると、回転盤が回転駆動部により回転駆動されて、回転盤と浮上ヘッドとの間に吸引流が形成され、浮上ヘッド支持機構にて可動に支持され、かつ金属ナノ構造を備えた浮上ヘッドが揚力により浮上して、回転盤及び浮上ヘッド間にギャップが形成される。
【0013】
(4)本発明の一態様では、前記第1部材が前記回転盤であり、前記第2部材が浮上ヘッドであり、前記ギャップ形成機構は、前記浮上ヘッドを可動に支持し、前記吸引流により生ずる揚力によって、前記浮上ヘッドを前記回転盤と前記ギャップを隔てて浮上させる浮上ヘッド支持機構とすることができる。
【0014】
こうすると、金属ナノ構造を備えた回転盤が回転駆動部により回転駆動されて、回転盤と浮上ヘッドとの間に吸引流が形成され、浮上ヘッド支持機構にて可動に支持された浮上ヘッドが揚力により浮上して、回転盤及び浮上ヘッド間にギャップが形成される。
【0015】
(5)本発明の一態様では、前記第2部材(回転盤)は、前記ギャップに臨む面に凹溝を形成することができる。
【0016】
凹溝の深さやパターンを変更することで、ギャップの大きさを調整することができる。
【0017】
(6)本発明の一態様では、前記回転盤は、前記ギャップに臨む面にて、凹溝が周方向に沿って形成され、前記第1部材(浮上ヘッド)は、前記凹溝と対向する位置にて前記金属ナノ構造の前記凸部を周方向に沿って配置することができる。
【0018】
こうすると、回転中のギャップを狭くしても、金属ナノ構造は凹溝と常に対向しているので、金属ナノ構造の凸部が回転盤と接触しない。
【0019】
(7)本発明の一態様では、前記第1部材(回転盤)は、前記浮上ヘッドと対向する面に凹溝が形成され、前記金属ナノ構造の前記凸部は、前記凹溝内に配置することができる。
【0020】
この場合も、回転中のギャップを狭くしても、金属ナノ構造子が凹溝内に配置されるので、金属ナノ構造の凸部が浮上ヘッドと接触しない。
【0021】
(8)本発明の一態様では、前記光が照射されることで前記金属ナノ構造の前記凸部の周囲に増強電場が形成され、前記増強電場が前記第2部材に到達する染み出し距離を有することができる。
【0022】
こうすると、ギャップ内に吸引された流体試料が増強電場内に確実に入り込むので、流体試料を反映した光が増強電場で確実に増強される。
【0023】
(9)本発明の一態様では、前記回転盤の回転停止時に、前記第2部材と前記金属ナノ構造の前記凸部とが干渉することを防止するスペーサー部材をさらに有することができる。
【0024】
こうるすと、揚力がなくなっても金属ナノ構造の凸部が第2部材と干渉しなくなり、金属ナノ構造を保護できる。
【0025】
(10)本発明の一態様では、前記第1部材及び前記第2部材の一方には、既知の参照物質を固定することができる。
【0026】
こうすると、既知の参照物質を反映した光をモニターすることができる。参照物質と検出対象物質をそれぞれ反映した光の信号比を算出すれば、光学デバイスに照射される光強度が変動しても、信号比は変動しない。よって、流体試料中の検出対象物質の定量解析を高い精度で算出できる。
【0027】
(11)本発明の他の態様は、
上述した光学デバイスと、
前記光学デバイスの前記第1部材及び前記第2部材を収容し、導入口と導出口とを有する試料導入部と、
前記導入口を開閉する第1シャッターと、
前記導出口を開閉する第2シャッターと、
前記導出口を介して前記試料導入部内を負圧にする吸引駆動部と、
を有する光学デバイスユニットに関する。
【0028】
この光学デバイスは、第1,第2シャッターを開放して試料導入部内に流体試料を導入し、その後第1,第2シャッターを開放して光学デバイスに光を照射すれば、試料導入部内の流体試料を繰り返しギャップに吸引して、流体試料を反映した光を発生させることができる。
【0029】
(12)本発明のさらに他の態様は、
上述した光学デバイスユニットと、
光源と、
前記流体試料を反映した光を検出する光検出部とを含む検出装置に関する。
【0030】
この検出装置は、上述した光学デバイス及び光学デバイスユニットの特性を生かして、流体試料中の検出対象物質を定性的又は定量的に検出することができる。
【0031】
(13)本発明のさらに他の態様では、前記流体試料を反映した光をラマン散乱光とすることができる。こうすると、流体試料中の検出対象物質によるラマン散乱光を検出することで、検出対象物質を検出できる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】図1(A)〜図1(D)は、表面増強ラマン光の検出原理の説明図である。
【図2】光学デバイスの要部を説明する図である。
【図3】回転盤と浮上ヘッドを有する光学デバイスの平面図である。
【図4】回転盤の凹溝とギャップとの相関を示す特性図である。
【図5】増強電場の染み出し距離を説明するための図である。
【図6】金属ナノ粒子と試料分子との距離と、ラマン散乱光強度との相関を示す特性図である。
【図7】図7(A)は光学デバイスの要部の断面図であり、図7(B)は増強電場を説明するための図である。
【図8】回転盤に形成される凹溝と金属ナノ粒子の配置を説明するための図である。
【図9】浮上ヘッドに形成される凹溝と、金属ナノ粒子の配置を説明するための図である。
【図10】図10(A)(B)は凹溝のパターンを示す図である。
【図11】光学デバイスユニットの平面図である。
【図12】図12(A)(B)は光学デバイスユニットのシャッターの開閉動作を示す図である。
【図13】検出装置の概略図である。
【図14】回転停止時の増強電場と試料分子の位置を説明する図である。
【図15】総回転数の相違によるスペクトル強度の差を説明するための図である。
【図16】参照物質を備えた回転盤を示す図である。
【図17】試料分子の検出ピークと参照物質の参照ピークとを示す図である。
【図18】図18(A)はレーザー出力の変動を示し、図18(B)は検出ピークと参照ピークとの信号比を示す特性図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお以下に説明する本実施形態は特許請求の範囲に記載された本発明の内容を不当に限定するものではなく、本実施形態で説明される構成の全てが本発明の解決手段として必須であるとは限らない。
【0034】
以下にて説明する本実施形態の光学デバイスは、光源からの光が照射されることで、吸着している流体試料を反映した光を出射するものである。本実施形態では、流体試料は例えば大気であり、検査対象の物質は大気中の特定気体分子(試料分子)とすることができるが、これに限定されない。
【0035】
1.試料の検出(定性検出)原理
先ず、流体試料を反映した光、例えばラマン散乱光に基づく物質の同定技術について説明する。図1(A)〜図1(D)は、ラマン散乱光の検出原理の説明図を示す。図1(A)はラマン分光について説明され、流体試料中の試料分子に入射光(振動数ν)が照射されると、一般に、入射光の多くは、レイリー散乱光として散乱され、レイリー散乱光の振動数ν又は波長は変化しない。入射光の一部は、ラマン散乱光として散乱され、ラマン散乱光の振動数(ν−ν’及びν+ν’)又は波長は、試料分子の振動数ν’(分子振動)が反映される。入射光の一部は、試料分子を振動させてエネルギーを失うが、試料分子の振動エネルギーがラマン散乱光の振動エネルギー又は光エネルギーに付加されることもある。このような振動数のシフト(ν’)をラマンシフトと呼ぶ。
【0036】
図1(B)には、流体試料中の検出対象の試料分子が例えばアセトアルデヒド分子である場合のラマンスペクトルが示されている。言い換えれば、図1(B)に示すラマンスペクトルを分析することで、例えばアセトアルデヒド分子を特定することができる(定性検出)。しかしながら、試料分子が微量である場合、ラマン散乱光は、一般に微弱であり、試料分子を検出又は特定することは困難である。そこで、増強電場を提供し、ラマン散乱光を増強電場によって増強することが好ましい。なお、図1(B)のラマンスペクトルは、ラマンシフトを波数で表している。
【0037】
図1(C)の例では、金属微粒子(金属ナノ粒子)13に入射光(照射光)を照射した時に形成される増強電場14について説明される。入射光の波長よりも小さな金属微粒子(金属ナノ粒子)13に対して入射光を照射する場合、入射光の電場は、金属微粒子13の表面に存在する自由電子に作用し、共鳴を引き起こす。これにより、自由電子による電気双極子が金属微粒子13内に励起され、金属微粒子13の近傍に入射光の電場よりも強い増強電場14が形成される。これは、局在表面プラズモン共鳴(LSPR:Localized Surface Plasmon Resonance)とも呼ばれる。この現象は、入射光の波長よりも小さな1〜1000nmの凸部を有する金属微粒子13等の電気伝導体に特有の現象である。
【0038】
図1(D)は、SERSセンサー10に入射光を照射した時の表面増強ラマン散乱(SERS: Surface Enhanced Raman Scattering)について説明している。SERSセンサー10は、例えば基板11を有し、基板11の凸部12に金属微粒子13を形成する。結果として、SERSセンサー10は、1〜1000nmの凸部を有する金属ナノ構造を有することができる。1〜1000nmの凸部を有する金属ナノ構造とは、基板11の上面を当該サイズの凸部構造(基板材で)を持つように加工する他に、基板11上に当該サイズの金属微粒子を蒸着・スパッタ等で固着させる、または、基板11上にアイランド構造を有する金属膜を形成する等の方法でも形成できる。
【0039】
このようなSERSセンサー10に入射光を照射することで、金属微粒子(金属ナノ構造の凸部)13の周囲近傍に増強電場14を形成することができる。増強電場14に試料分子1が入り込むと、その試料分子1によるラマン散乱光は増強電場14で増強されて、ラマン散乱光の信号強度は、強くなる。このような表面増強ラマン散乱では、試料分子1が微量であっても、検出感度を高めることができる。
【0040】
図1(D)の例では、SERSセンサー10の表側(金属ナノ粒子13側)から入射光が照射されているが、SERSセンサー10の裏側(基板11側)から入射光を照射してもよい。
【0041】
2.光学デバイス
2.1.基本的構成
図2は、本発明の一実施形態に係る光学デバイス50の要部を示している。図2に示す光学デバイス50は、図1(A)〜図1(D)にて説明した通り、光が照射されることで流体試料の分子振動数が反映されたラマン散乱光を発生するものである。
【0042】
図2に示す光学デバイス50は、図1(D)に示すSERSセンサー10を搭載した第1部材20と、第1部材20と対向する第2部材30とを有する。さらに光学デバイス50は、第1部材20と第2部材30との間にギャップGを形成するギャップ形成機構と、第1部材20と第2部材30との間に試料分子1を吸引させる吸引流Sを形成する吸引流形成機構と、を有する。
【0043】
ここで、ギャップ形成機構及び吸引流形成機構について、図3も参照して説明する。図3では、第1,第2部材20,30の一方、例えば第2部材30を回転盤としたとき、吸引流形成機構は、回転盤30を回転駆動する回転駆動部40にて形成している。回転駆動部40は例えばスピンドルモーターにて形成され、回転盤30を5000〜15000rpm、例えば12000rpmにて回転方向Aに高速回転駆動する。こうすると、回転駆動部40は、図3に示す吸引流Sを形成することができる。なお、回転盤30が第1部材20と対向する面に、凹溝31を形成することができる。凹溝31は、例えば周方向に連続して形成することができる。
【0044】
一方、回転盤(第2部材)30と対向させてSERSセンサー10を搭載した第1部材20は、浮上ヘッドとすることができる。この場合、ギャップ形成機構は、自由端に浮上ヘッド20が固定されたアーム21の基端をヒンジ部22にて可動に支持している浮上ヘッド支持機構とすることができる。
【0045】
ここで、回転ディスクに対して情報を記録/再生する磁気ヘッドスライダーの浮上原理を用いれば、回転盤(第2部材)30を回転駆動部40により回転駆動すると、吸引流とともに揚力が生じ、浮上ヘッド支持機構25にて可動に支持された浮上ヘッド(第1部材)20は、揚力により図2に示すB方向に浮上する。これにより、第1部材(浮上ヘッド)20と第2部材(回転盤)30との間にギャップGが形成され、しかも回転中はギャップGが一定に維持される。つまり、回転盤30を回転駆動する回転駆動部40が吸引流形成機構として機能することと協働して、浮上ヘッド支持機構25は浮上ヘッド(第1部材)20と第2部材(回転盤)30との間にギャップGを形成するギャップ形成機構として機能する。
【0046】
図4は、凹溝31の深さと、ギャップGの大きさとの関係を示す特性図である。なお、図4に示す数値は一例であり、浮上ヘッド20の重量、凹溝31の深さやパターン等の条件変更により数値を適宜変更することができる。図4から、溝深さが0、つまり凹溝31が存在しなくてもギャップGを形成できることが分かる。また図4から、凹溝31が深いほどギャップGは大きくなり、凹溝31が浅いほどギャップGは小さくなることが分かる。つまり、凹溝31の深さやパターンを調整して、ギャップGの大きさを例えば100nm以下、好ましくは50nm以下の範囲で調整できる。
【0047】
浮上ヘッド20と回転盤30との間にギャップGが形成される理由は、図2に示すように、浮上ヘッド支持機構25により支持された浮上ヘッド20と回転盤30との間に吸引流Sが形成されるからである。この吸引力Sにより浮上ヘッド20が図2のB方向に浮上することを浮上ヘッド支持機構25が案内することで、ギャップGが形成される。
【0048】
2.2.ラマン散乱光の増強原理
図5、図6、図7(A)及び図7(B)は、本実施形態にてラマン散乱光を増強できる原理を示している。先ず、図7(A)に示すように、吸引流Sは揚力を生ずるだけでなく、センサー空間内の試料分子1を、例えば100nm以下の非常に狭いギャップGに次々と搬送することができる。つまり、センサー空間内の同一試料分子1が、回転盤30の時間あたりの回転数例えば12000rpmと比例する回数にて、ギャップGを繰り返し通過する。試料分子1は、1回転する間に少なくとも1回、ギャップGの中を通過できる。例えば、回転盤30の回転数を12000rpmとすれば、10秒間に、試料分子1はギャップGの中を2000回も通過することになる。通過するたびに、ラマン散乱光が発生するため、例えば10秒間に積算された強いSERS信号が得られることになる。
【0049】
しかも、図7(B)に示すように、光照射領域15には、図1(C)(D)にて説明した通り、金属微粒子13の周囲に増強電場14が形成されている。この増強電場14は、図7(A)に示すようにギャップG内に形成される。
【0050】
よって、ギャップGを繰り返し通過する試料分子1は、金属微粒子13に吸着されなくても、増強電場14中を通過する確率が格段に高まる。増強電場14に試料分子1が入り込むと、その試料分子1によるラマン散乱光は増強電場14で増強されて、ラマン散乱光の信号強度は、強くなる。本実施形態では、以上の原理により流体試料を反映する光(ラマン散乱光)を増強して、ラマンスペクトル強度を高めている。
【0051】
ここで、図5に示すように、浮上ヘッド20側に設けた金属微粒子13の周囲に形成される増強電場14が、回転盤30に到達する染み出し距離H0を有する。このことは、図6から説明される。図6は、金属微粒子13と試料分子1との距離を横軸とし、ラマン散乱光の強度を縦軸に示している。図6に示すように、金属微粒子13と試料分子1との距離が100nmを越える付近から、ラマン散乱光の強度が急激に低下してほぼ一定で推移している。換言すれば、金属微粒子13から染み出す増強電場14の距離H0(図5)は、100nm程度確保されていることになる。上述した通り、浮上ヘッド20が浮上する距離であるギャップGは100nm以下であるので、増強電場14が回転盤30に到達する染み出し距離H0を有することになる。
【0052】
このようにすると、図6の通りギャップGの高さ領域全域まで増強電場14が染み出すため、ギャップGを通過する試料分子1は増強電場14中を通過することになり、ラマンスペクトル強度がさらに高まる。
【0053】
なお、図2において、SERSセンサー10に対して、レーザーを上からあるいは下から照射することができる。浮上ヘッド20及び回転円盤30は、不透明部材の他、レーザー光を通過させる場合には透明部材にて形成できである。また、SERSセンサー10の主要素である金属微粒子13に関し、ナノオーダーの金属突起が回転方向Aに対して所定の角度で一次元または二次元にて周期的に配列させることができる。
【0054】
2.3.スペーサー部材
図7(A)では、回転盤30の回転停止時に金属微粒子13と回転盤30とが干渉することを防止するスペーサー部材23を、例えば浮上ヘッド20側に設けている。スペーサー部材23の高さH2は、金属微粒子(金属ナノ構造の凸部)13の高さH1よりも高い(H2>H1)。こうすると、図2に示すB方向への揚力がなくなっても、金属微粒子13は回転盤30と接触することがない。よって、金属微粒子13をスペーサー部材23により保護できる。
【0055】
図8は、回転盤30の周方向に沿って、深さDの凹溝31を形成している。なお、図8の回転盤30の回転接線方向は、紙面と直交する方向である。そして、金属微粒子(金属ナノ構造の凸部)13は、凹溝31と対向する領域に形成されている。凹溝31は複数設けられ、各凹溝31と対向させて金属微粒子13を配置できる。この場合、スペーサー部材23の高さH2は、金属微粒子13の高さH1よりも低くできる(H2<H1)。ただし、H2+D>H1を満たす必要がある。なお、図7及び図8において、スペーサー部材23は回転盤30側に固定しても良い。
【0056】
2.4.光学デバイスの変形例
図9に示すように、金属微粒子13を配列した第1部材20を回転盤とし、第1部材20と対向する第2部材30を浮上ヘッドとしても良い。この場合には、回転盤(第1部材)20を回転させることで、浮上ヘッド(第2部材)30が浮上して、回転盤(第1部材)20と浮上ヘッド(第2部材)30との間にギャップGが形成される。
【0057】
このとき、回転盤(第1部材)20に凹溝24を設けることができる。さらに、その凹溝24内に金属微粒子13を配置することができる。この場合、図9に示すスペーサー部材23の高さH2は、凹溝24の深さをDとすると、図8と同じく、スペーサー部材23の高さH2は、金属微粒子13の高さH1よりも低くできる(H2<H1)。ただし、H2+D>H1を満たす必要がある。なお、図9において、スペーサー部材23は浮上ヘッド30側に固定しても良い。
【0058】
また、回転盤(第1部材)20に凹溝24を設けない場合には、図7と同じく、スペーサー部材23の高さH2は、金属微粒子13の高さH1よりも高くすればよい(H2>H1)。
【0059】
図8に示す回転盤(第2部材)30に形成される凹溝31は、揚力が発生しないときにスペーサー部材23により金属微粒子13と回転盤(第2部材)30との干渉を常に避けるためには、円周溝とする必要があった。
【0060】
しかし、図9の場合などでは、凹溝24の形状は問わない。図10(A)(B)は、凹溝24の各種パターンを示している。図10(A)に示すように、直線状または曲線状の凹溝24に対して、回転方向(回転接線方向)Aは凹溝24と平行でも良いし直交しても良い。このことから、図10(B)に示すように、回転方向Aとは無関係に格子状の凹溝24としても良い。
【0061】
3.光学デバイスユニット
次に、上述した光学デバイス50を用いて構成される光学デバイスユニット100につい、図11及び図12(A)(B)を参照して説明する。図11及び図12(A)(B)に示すように、光学デバイスユニット100は、光学デバイス50の第1部材20及び第2部材30を収容し、導入口64Aと導出口64Bとを有する試料導入部60と、導入口64A及び導出口64Bを開閉するシャッター70(第1シャッター70A及び第2シャッター70B)と、導出口64Bを介して試料導入部60内を負圧にする吸引駆動部であるファン80と、を有する。
【0062】
試料導入部60は、流体試料が導入される空間部を有する中空箱型を呈している。図12(A)(B)は試料導入部60の一側面を示しているが、図12(B)に示すように、試料導入部60の例えば側壁62には開口64が形成されている。試料導入部60の側壁62には少なくとも2つの開口64が形成されている。試料導入側の開口64を導入口64Aと称し、試料導出側の開口64を導出口64Bと称する。
【0063】
2つの開口64を開閉する2つのシャッター70が設けられている。導入口64Aを開閉するシャッター70を第1シャッター70Aと称し、導出口64Bを開閉するシャッター70を第2シャッター70Bと称する。図11では、第1,第2シャッター70A,70Bは、試料導入部60の側壁62に沿って移動可能に設けられている。
【0064】
図11に示すように、導出口64Bを介して試料導入部60内を負圧にする吸引駆動部であるファン80が設けられている。よって、ファン80が駆動され、かつ、第1,第2シャッター70A,70Bが開放されていれば(図12(B)の状態)、導入口64Aを介して、人体の呼気や環境雰囲気中の流体試料が試料導入部60に吸引されて導入される。なお、吸引駆動部は、ファンに限らず、チューブポンプ、ダイアフラム式ポンプ等のポンプなど、試料導入部60内にて負圧を発生させて流体試料を吸引できるものであれば良い。
【0065】
そして、本実施形態の光学デバイスユニット100では、第1シャッター70A及び第2シャッター70Bを開放して、流体試料を試料導入部60内に導入する第1状態と、第1シャッター70A及び第2シャッター70Bを閉鎖して、流体試料を試料導入部60内に閉じ込めた第2状態とを実現することができる。第2の状態にて、光源より光を発して検査を実施すれば、試料導入部60内に閉じ込められた流体試料は排出されずに、吸引流Sにより流体試料をギャップGに何度も通過させて検査に寄与させることができる。また、検査時に試料導入部60内に外光が取り込まれることを低減できる。
【0066】
図11に示すように、試料導入部60には、試料供給流路90Aと試料排出流路90Bを設けることができる。試料供給流路90Aは、一端に外気と連通する供給口91Aを有し、他端が導入口64Aと連通している。試料排出流路90Bは、一端に外気と連通する排出口91Bを有し、他端が導出口64Bと連通している。
【0067】
本実施形態では、図11に示すように、試料導入部60の側壁62は円周壁であり、側壁62と対向する円周内壁66を有している。導入口64A及び導出口64Bは、側壁62と円周内壁66とを貫通している。
【0068】
ここで、導出口64Bは、平面視にて、円周内壁66の中心Pと導入口64Aとを結ぶ線L上から外れた位置に配置されることが好ましい。こうすると、導入口64Aから直ちに導出口64Bに向かう流体試料は少なく、円周内壁66に沿うX方向に向かう流体試料の旋回流が生ずる。
【0069】
図11に示すように、試料供給流路90A及び試料排出流路90Bは、円周内壁66の一つの接線方向と平行な方向に沿って互いに同じ向きに延びる部分を、少なくとも試料導入部60との連結端側に有することができる。こうすると、導入口64A及び導出口64B付近の流体試料は接線方向と平行に流れるので、上述の旋回流がより発生し易くなる。
【0070】
第1,第2シャッター70A,70Bは、第1,第2弾性体(バネ)71A,71Bにより図示Y,Z方向(シャッター閉鎖方向)に付勢されている。第1,第2シャッター70A,70Bには第1,第2ラック72A,72Bが固定されている。これら第1,第2ラック72A,72Bに第1,第2のシャッター駆動歯車73A,73Bが噛合している。第1,第2シャッター駆動歯車73A,73Bを駆動することで、第1,第2シャッター70A,70Bは第1,第2弾性体71A,71Bの付勢力に抗して開放される。第1,第2シャッター駆動歯車73A,73Bへの駆動力を解除すれば、第1,第2シャッター70A,70Bは第1,第2弾性体71A,71Bにより閉鎖駆動される。
【0071】
4.検出装置
図13は、本実施形態の検出装置の構成例を示す。図13に示される検出装置200は、図2に示す第1,第2シャッター70A,70B(図13では省略)や歯車93A,93B等を備えた試料導入部60、ファン80、試料供給流路90A及び試料排出流路90B、光学デバイス50等を備えた光学デバイスユニット100を有する。検出装置200の筐体210は、ヒンジ部212により開閉可能なセンサーカバー211を備える。光学デバイスユニット100は、センサーカバー211内にて、筐体210に対して着脱自在に配置される。光学デバイスユニッ100が装着/非装着状態は、センサー213により検出できる。なお、試料供給流路90Aの供給口91Aには、除塵フィルター92が設けられる。
【0072】
試料供給流路90A及び試料排出流路90Bは、試料導入部60の円周内壁66(図11)の接線方向と平行に水平に延び、そこから上方に延び、さらに水平に延びている。よって、試料供給流路90Aは、供給口91Aから直進する外光を遮光する壁部93Aを含み、試料排出流路90Bは、排出口91Bから直進する外光を遮光する壁部93Bを有する。これにより、外光が試料導入部60内に入射し難い構造となっている。
【0073】
筐体210内には、光源110、光学系120と、光検出部130と、信号処理・制御部140と、電力供給部150とが設けられている。筐体210内にはさらに、光学デバイスユニット100内の第1,第2駆動歯車73A,73Bに駆動力を付与して第1,第2シャッター70A,70B(図11)を駆動するシャッター駆動部160,161を有する。
【0074】
図13において、光源110は例えばレーザーであり、小型化の観点から好ましくは垂直共振型面発光レーザーを用いることができるが、これに限定ざれない。
【0075】
光源110からの光は、光学系120を構成するコリメーターレン121により平行光にされる。コリメーターレンズ121の下流に偏光制御素子を設け、直線偏光に変換しても良い。ただし、光源110として例えば面発光レーザーを採用し、直線偏光を有する光を発光可能であれば、偏光制御素子を省略することができる。
【0076】
コリメーターレンズ121により平行光された光は、ハーフミラー(ダイクロイックミラー)122により光学デバイス50の方向に導かれ、対物レンズ123で集光され、光学デバイス50に入射する。光学デバイス50からのレイリー散乱光及びラマン散乱光は、対物レンズ123を通過し、ハーフミラー122によって光検出部130の方向に導かれる。
【0077】
光学デバイス50からのレイリー散乱光及びラマン散乱光は、集光レンズ124で集光されて、光検出部130に入力される。光検出部130では先ず、光フィルター131に到達する。光フィルター131(例えばノッチフィルター)によりラマン散乱光が取り出される。このラマン散乱光は、さらに分光器132を介して受光素子133にて受光される。分光器132は、例えばファブリペロー共振を利用したエタロン等で形成されて通過波長帯域を可変とすることができる。分光器132を通過する光の波長は、信号処理・制御回路140により制御(選択)することができる。受光素子133によって、試料分子1に特有のラマンスペクトルが得られ、得られたラマンスペクトルと予め保持するデータと照合することで、試料分子1を特定することができる。
【0078】
電力供給部150は、光源110、光検出部130、信号処理・制御部140及びファン80等に供給する。電力供給部150は、例えば2次電池で構成することができ、1次電池、ACアダプター等で構成してもよい。
【0079】
5.定量検出
5.1.定量検出精度
本実施形態では、図13の受光素子133から得られる図1(B)に示す試料分子の振動数を反映したラマン散乱光のスペクトル強度から、試料分子の濃度を定量検出することも可能である。試料分子1の数が多いほど、図1(B)の特定試料分子のスペクトル強度は高くなるからである。
【0080】
ここで、本実施形態装置にて検出される特定試料分子の定量検出精度について考察する。図14は、回転盤30が停止した直後の状態を模式的に示している。増強電場14を通過しなかった試料分子1は、ラマン散乱光の発生に寄与せず、図13の受光素子133ではカウントされなかった分子である。一方、増強電場14を通過した試料分子1は、ラマン散乱光の発生に寄与し、図13の受光素子133でカウントされた分子である。
【0081】
測定時間をΔTとし、一回転時間をtとすると、増強電場14を横切る回数はR=ΔT/tとなる。一回転中にギャップGを通過する試料分子1の数をN個とし、図14のように回転停止時にカウントされない試料分子1の数をn個(0≦n≦N)とする。このとき、図13の受光素子133で得られる試料分子1のラマン散乱光の強度Iは(RN−n)に比例する。本実施形態では、回転数Rが充分に大きいので、カウントされない試料分子1の数n個による誤差は無視できる。よって、回転停止位置精度に依存した誤差は無視できることが分かる。
【0082】
図15は、回転停止時までの回転数Rとラマン散乱光の強度IとギャップGを通過する試料分子1のカウント数との関係を示している。図15において、一回転中にギャップGを通過する試料分子1の数をN個とすると、回転数R回でのラマン散乱光の強度Iはカウント分子数RNに比例し、回転数(R−1)回でのラマン散乱光の強度Iはカウント分子数(R−1)Nに比例する。回転数R回と回転数(R−1)回との各々の強度Iを比較した時、回転数Rが1000回点を越えるレベルであれば(R>1000)、回転数R回と回転数(R−1)回との強度Iによるラマン散乱光の強度Iの誤差は0.1%以下である。よって、回転停止位置精度に依存した誤差は無視でき、ラマン散乱光の強度Iに基づいた定量分析が可能となる。
【0083】
このように、回転停止位置精度に依存した誤差や、総回転数に依存した誤差は、総回転数が充分に大きければいずれも無視でき、ラマン散乱光の強度Iに基づいた定量分析が可能となる。
【0084】
5.2.レーザー出力などの変動に基づく検出精度
図13に示す光源110であるレーザー出力が変動すれば、ラマン散乱光の強度Iも変動し、それにより定量分析精度が悪化することが懸念される。そのために、図16に示すように、例えば回転盤30の例えば凹溝31に、参照物質32を例えばナノインプリント等で形成する。なお、浮上ヘッド20に参照物質32を固定しても良い。
【0085】
こうすると、回転盤30の回転に従い、図7のレーザー照射領域15内に参照物質32が搬入される毎に、参照物質32の分子振動数を反映したラマン散乱光が増強電場14で増強されて出力される。図17は、試料分子1の検出ピークI1と、参照物質32の参照ピークI2を示している。
【0086】
図18(A)は、図13に示す光源110であるレーザー出力の変動を示している。ここで、図17に示す試料分子1の検出ピークI1と、参照物質32の参照ピークI2との信号比(I1/I2またはI2/I)を考える。図18(A)に示すレーザー出力が低下すれば、I1,I2が共に低下するので、信号比は変化しない。同様に、図18(A)に示すレーザー出力が増加すれば、I1,I2が共に増加するので、信号比は変化しない。
【0087】
このように、図18(A)に示すレーザー出力の変動があっても、図18(B)に示すように信号比は変化しない。このことから、レーザー出力などが変動しても、検出精度を維持することができる。よって、定量分析精度も向上する。
【0088】
なお、上記のように本実施形態について詳細に説明したが、本発明の新規事項および効果から実体的に逸脱しない多くの変形が可能であることは当業者には容易に理解できる。
【符号の説明】
【0089】
1 試料分子、10 SRESセンサー、13 金属微粒子、14 増強電場、20 第1部材(浮上ヘッド)、21 アーム、22 ヒンジ部、23 スペーサー部材、24 凹溝、25 ギャップ形成機構(浮上ヘッド支持機構)、30 第2部材(回転盤)、31 凹溝、32 固定された参照試料、40 吸引流形成機構(回転駆動部)、50 光学デバイス、60 試料導入部、64A 導入口、64B 導出口、70A 第1シャッター、70B 第2シャッター、80 吸引駆動部(ファン)、90A 試料供給流路、90B 試料排出流路、100 光学デバイスユニット、110 光源、130 光検出部、200 検出装置
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1部材と、
前記第1部材と対向する第2部材と、
前記第1部材と前記第2部材との間にギャップを形成するギャップ形成機構と、
前記第1部材と前記第2部材との間に流体試料を吸引させる吸引流を形成する吸引流形成機構と、
を有し、
前記第1部材は、前記ギャップに臨む面に1〜1000nmの凸部を有する金属ナノ構造を備え、光が照射されることで前記流体試料を反映した光を出射することを特徴とする光学デバイス。
【請求項2】
請求項1において、
前記第1部材及び前記第2部材の一方が回転盤であり、前記吸引流形成機構は、前記回転盤を回転駆動する回転駆動部であることを特徴とする光学デバイス。
【請求項3】
請求項2において、
前記第2部材が前記回転盤であり、
前記第1部材が浮上ヘッドであり、
前記ギャップ形成機構は、前記浮上ヘッドを可動に支持し、前記吸引流により生ずる揚力によって、前記浮上ヘッドを前記回転盤と前記ギャップを隔てて浮上させる浮上ヘッド支持機構であることを特徴とする光学デバイス。
【請求項4】
請求項2において、
前記第1部材が前記回転盤であり、
前記第2部材が浮上ヘッドであり、
前記ギャップ形成機構は、前記浮上ヘッドを可動に支持し、前記吸引流により生ずる揚力によって、前記浮上ヘッドを前記回転盤と前記ギャップを隔てて浮上させる浮上ヘッド支持機構であることを特徴とする光学デバイス。
【請求項5】
請求項2において、
前記回転盤は、前記ギャップに臨む面に凹溝が形成されていることを特徴とする光学デバイス。
【請求項6】
請求項3において、
前記第2部材は、前記ギャップに臨む面にて、凹溝が周方向に沿って形成され、
前記第1部材は、前記凹溝と対向する位置にて前記金属ナノ構造の前記凸部を周方向に沿って配置していることを特徴とする光学デバイス。
【請求項7】
請求項4において、
前記第1部材は、前記ギャップに臨む面に凹溝が形成され、
前記金属ナノ構造の前記凸部は、前記凹溝内に配置されていることを特徴とする光学デバイス。
【請求項8】
請求項1乃至7のいずれかにおいて、
前記光が照射されることで前記金属ナノ構造の前記凸部の周囲に増強電場が形成され、
前記増強電場が前記第2部材に到達する染み出し距離を有することを特徴とする光学デバイス。
【請求項9】
請求項2乃至7のいずれかにおいて、
前記回転盤の回転停止時に、前記第2部材と前記金属ナノ構造の前記凸部とが干渉することを防止するスペーサー部材をさらに有することを特徴とする光学デバイス。
【請求項10】
請求項1乃至9のいずれかにおいて、
前記第1部材及び前記第2部材の一方には、既知の参照物質が固定されていることを特徴とする光学デバイス。
【請求項11】
請求項1乃至10のいずれか記載の光学デバイスと、
前記光学デバイスの前記第1部材及び前記第2部材を収容し、導入口と導出口とを有する試料導入部と、
前記導入口を開閉する第1シャッターと、
前記導出口を開閉する第2シャッターと、
前記導出口を介して前記試料導入部内を負圧にする吸引駆動部と、
を有することを特徴とする光学デバイスユニット。
【請求項12】
請求項11に記載の光学デバイスユニットと、
光源と、
前記流体試料を反映した光を検出する光検出部とを含むことを特徴とする検出装置。
【請求項13】
請求項12において、
前記流体試料を反映した光はラマン散乱光であることを特徴とする検出装置。
【請求項1】
第1部材と、
前記第1部材と対向する第2部材と、
前記第1部材と前記第2部材との間にギャップを形成するギャップ形成機構と、
前記第1部材と前記第2部材との間に流体試料を吸引させる吸引流を形成する吸引流形成機構と、
を有し、
前記第1部材は、前記ギャップに臨む面に1〜1000nmの凸部を有する金属ナノ構造を備え、光が照射されることで前記流体試料を反映した光を出射することを特徴とする光学デバイス。
【請求項2】
請求項1において、
前記第1部材及び前記第2部材の一方が回転盤であり、前記吸引流形成機構は、前記回転盤を回転駆動する回転駆動部であることを特徴とする光学デバイス。
【請求項3】
請求項2において、
前記第2部材が前記回転盤であり、
前記第1部材が浮上ヘッドであり、
前記ギャップ形成機構は、前記浮上ヘッドを可動に支持し、前記吸引流により生ずる揚力によって、前記浮上ヘッドを前記回転盤と前記ギャップを隔てて浮上させる浮上ヘッド支持機構であることを特徴とする光学デバイス。
【請求項4】
請求項2において、
前記第1部材が前記回転盤であり、
前記第2部材が浮上ヘッドであり、
前記ギャップ形成機構は、前記浮上ヘッドを可動に支持し、前記吸引流により生ずる揚力によって、前記浮上ヘッドを前記回転盤と前記ギャップを隔てて浮上させる浮上ヘッド支持機構であることを特徴とする光学デバイス。
【請求項5】
請求項2において、
前記回転盤は、前記ギャップに臨む面に凹溝が形成されていることを特徴とする光学デバイス。
【請求項6】
請求項3において、
前記第2部材は、前記ギャップに臨む面にて、凹溝が周方向に沿って形成され、
前記第1部材は、前記凹溝と対向する位置にて前記金属ナノ構造の前記凸部を周方向に沿って配置していることを特徴とする光学デバイス。
【請求項7】
請求項4において、
前記第1部材は、前記ギャップに臨む面に凹溝が形成され、
前記金属ナノ構造の前記凸部は、前記凹溝内に配置されていることを特徴とする光学デバイス。
【請求項8】
請求項1乃至7のいずれかにおいて、
前記光が照射されることで前記金属ナノ構造の前記凸部の周囲に増強電場が形成され、
前記増強電場が前記第2部材に到達する染み出し距離を有することを特徴とする光学デバイス。
【請求項9】
請求項2乃至7のいずれかにおいて、
前記回転盤の回転停止時に、前記第2部材と前記金属ナノ構造の前記凸部とが干渉することを防止するスペーサー部材をさらに有することを特徴とする光学デバイス。
【請求項10】
請求項1乃至9のいずれかにおいて、
前記第1部材及び前記第2部材の一方には、既知の参照物質が固定されていることを特徴とする光学デバイス。
【請求項11】
請求項1乃至10のいずれか記載の光学デバイスと、
前記光学デバイスの前記第1部材及び前記第2部材を収容し、導入口と導出口とを有する試料導入部と、
前記導入口を開閉する第1シャッターと、
前記導出口を開閉する第2シャッターと、
前記導出口を介して前記試料導入部内を負圧にする吸引駆動部と、
を有することを特徴とする光学デバイスユニット。
【請求項12】
請求項11に記載の光学デバイスユニットと、
光源と、
前記流体試料を反映した光を検出する光検出部とを含むことを特徴とする検出装置。
【請求項13】
請求項12において、
前記流体試料を反映した光はラマン散乱光であることを特徴とする検出装置。
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図1】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図1】
【公開番号】特開2012−220432(P2012−220432A)
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−88913(P2011−88913)
【出願日】平成23年4月13日(2011.4.13)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年4月13日(2011.4.13)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】
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