説明

光学フィルタ及びそれを用いた照明器具

【課題】誘虫性が低く、かつ色調が良く、耐熱性が高い光学フィルタ及びそれを用いた照明器具を提供する。
【解決手段】光学フィルタ1は、ガラス部材2上にコーティング膜3が形成されている。コーティング膜3は、透明性バインダー34に、体積平均粒径が10nm〜200nmかつ体積基準90%径が300nm未満であって、表面がシランカップリング剤で処理されたバナジン酸ビスマス粒子31と、体積平均粒径が10nm〜200nmである酸化亜鉛粒子32と、体積平均粒径が10nm〜200nmであるコバルト複合酸化物粒子33が含有されている。これにより、紫外線がカットされると共に、それより長い一部の波長域の透過率が適度に低くなり、バナジン酸ビスマス粒子31の表面処理によって耐熱性が高くなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、昆虫の誘引を低減するための光学フィルタ及びそれを用いた照明器具に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から特定の波長の光をカットすることによって昆虫の誘引の低減すなわち誘虫性の低減を図った光学フィルタ及びそれを用いた照明器具があり、この種の光学フィルタとして、紫外線及び紫外線より長い波長の光をカットする光学フィルタが知られている(例えば、特許文献1参照)。この光学フィルタは、インジウム(In)がドープされた酸化亜鉛(ZnO:In)微粒子にバナジン酸ビスマス(BiVO4)微粒子又はチタン系複合酸化物微粒子を添加した成分を主体とする材料から成る被膜が形成されており、この被膜が紫外線及び波長400nm〜475nmの可視光線をカットする。このような光学フィルタは、紫外線と共に短い波長の可視光線をカットするので、紫外線のみをカットするフィルタと比べて誘虫性が低い。しかし、この光学フィルタは、短い波長の可視光線がカットされるので透過光の色温度が低下して黄色気味になり、色調が良くない。このため、この光学フィルタを用いた照明器具は、照明光が黄色気味になり、演色性が低くなる。また、バナジン酸ビスマス微粒子を使用した光学フィルタは、耐熱性が低く、照明器具の光源等の熱によって誘虫性を低減する性能すなわち低誘虫性が低下していた。
【0003】
また、紫外線の透過率が低く、可視光線の透過率が高い紫外線カットフィルタが知られている(例えば、特許文献2参照)。この紫外線カットフィルタは、酸化亜鉛(ZnO)微粒子が分散された紫外線カット皮膜が透光性のガラス部材上に形成されており、波長300nm〜365nmの紫外線の透過率が1%以下と低く、波長380nm〜780nmの可視光線の平均透過率が85%以上と高い。このような紫外線カットフィルタは、色調が良いが、昆虫が波長365nm以上の透過光に誘引されるので、低誘虫性が十分とは言えない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−112695号公報
【特許文献2】特開2008−140558号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記問題を解決するものであり、誘虫性が低く、かつ色調が良く、耐熱性が高い光学フィルタ及びそれを用いた照明器具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために請求項1の発明は、ガラス部材と、前記ガラス部材上に形成されたコーティング膜と、を備えた光学フィルタであって、前記コーティング膜は、透明性バインダーに、体積平均粒径が10nm乃至200nmかつ体積基準90%径が300nm未満であって、表面がシランカップリング剤、シリコーンレジン、チタネート系カップリング剤、アルミニウム系カップリング剤、ジルコアルミネート系カップリング剤からなる群から選ばれる一つ以上の表面処理剤で処理されたバナジン酸ビスマス粒子と、体積平均粒径が10nm乃至200nmである酸化亜鉛粒子と、体積平均粒径が10nm乃至200nmであるコバルト複合酸化物粒子と、が含有されているものである。
【0007】
請求項2の発明は、請求項1に記載の光学フィルタにおいて、前記透明性バインダーは、シリコン系樹脂であるものである。
【0008】
請求項3の発明は、請求項1に記載の光学フィルタにおいて、前記透明性バインダーは、酸化ケイ素を主成分とする無機系材料であるものである。
【0009】
請求項4の発明は、光源と、請求項1乃至請求項3のいずれか一項に記載の光学フィルタと、を備え、前記光源から出射された光が、前記光学フィルタを通して照射される照明器具である。
【発明の効果】
【0010】
請求項1の発明によれば、紫外線がカットされると共に、それより長い一部の波長域の透過率が適度に低くなるので、紫外線のみをカットする紫外線カットフィルタよりも誘虫性が低く、かつ色調が良いものとなる。また、バナジン酸ビスマス粒子が表面処理されているので、耐熱性が高くなる。
【0011】
請求項2の発明によれば、バインダー自体の耐熱性が高いため、含有する粒子の耐熱性が損なわれず、熱によるコーティング膜の低誘虫性の低下が防止される。また、コーティング膜を数μm以上の比較的厚膜に成膜することができるので、酸化亜鉛粒子は耐薬品性が低いが、厚膜のコーティング膜によって酸化亜鉛粒子の劣化を防止することができる。
【0012】
請求項3の発明によれば、バインダー自体の耐熱性が高いため、含有する粒子の耐熱性が損なわれず、熱によるコーティング膜の低誘虫性の低下が防止される。また、コーティング膜を薄膜に成膜することができるので、透過率の低下を抑えることができる。
【0013】
請求項4の発明によれば、光学フィルタによって誘虫性が低減されると共に、光学フィルタの色調が良いので、照明光の演色性が良いものとなる。また、光学フィルタの耐熱性が高いので、光源等の熱によって低誘虫性が低下しない。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る光学フィルタの構成を示す断面図。
【図2】本発明の第2の実施形態に係る照明器具の斜視図。
【図3】本発明の光学フィルタの一実施例の分光透過率を示す図。
【図4】光学フィルタの一比較例の分光透過率を示す図。
【図5】本発明の実施例の誘虫性の評価に用いた照明器具の斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
(第1の実施形態)
本発明の第1の実施形態に係る光学フィルタを図1を参照して説明する。本実施形態の光学フィルタ1は、フィルタ基板としての板状のガラス部材2上にコーティング膜3が成膜されている。コーティング膜3は、バナジン酸ビスマス粒子31と、酸化亜鉛粒子32と、コバルト複合酸化物粒子33が、透明性バインダー34に含有された膜である。バナジン酸ビスマス粒子31は、表面が表面処理剤35で処理されている。表面処理剤35は、例えば、シランカップリング剤であり、シリコーンレジン、チタネート系カップリング剤、アルミニウム系カップリング剤、又はジルコアルミネート系カップリング剤であってもよく、これらの一つ以上の表面処理剤35が用いられる。コバルト複合酸化物粒子33は、アルミとコバルト、亜鉛とコバルト等の複合であり、アルミとコバルトの複合が色調が良いので、望ましい。
【0016】
バナジン酸ビスマス粒子31と酸化亜鉛粒子32とコバルト複合酸化物粒子33の各微粒子(以下、これらを総称して微粒子30という)の粒子サイズが大きいと、コーティング膜3が白濁して透明性が低下する。微粒子30の粒子サイズが極端に小さいと、分散性が低くなって2次凝集が起きやすくなり、分球し難くなってコーティング膜3の生産性が低下して高コストになる。このため、バナジン酸ビスマス粒子31は、体積平均粒径が10nm〜200nmかつ体積基準90%径が300nm未満とされ、体積平均粒径が10nm〜60nmかつ体積基準90%径が200nm未満であることが望ましい。また、酸化亜鉛粒子32及びコバルト複合酸化物粒子33は、同様の理由により、体積平均粒径が10nm〜200nmとされ、10nm〜60nmであることが望ましく、体積基準90%径が200nm未満であることが望ましい。
【0017】
透明性バインダー34は、例えば、シリコン系樹脂である。シリコン系樹脂は、耐熱温度が200℃以上と高い。シリコン系樹脂の透明性バインダー34は、バインダー自体の耐熱性が高いため、含有する微粒子30の耐熱性を損なわず、熱によるコーティング膜3の低誘虫性の低下が防止される。また、シリコン系樹脂の透明性バインダー34は、数μm以上の比較的厚膜に成膜することができる。微粒子30のなかでも特に酸化亜鉛粒子32は、耐熱性は高いが、耐薬品性が低いため、酸等によって劣化しやすい。光学フィルタ1を屋外等で使用する場合、厚膜のシリコン系樹脂によって、酸性雨等による酸化亜鉛粒子32の劣化を防止することができる。
【0018】
シリコン系樹脂は、ストレートシリコン系、アクリル変性シリコン、ポリエステルシリコン等であり、特に、ストレートシリコン系は、耐熱性が高く、透明性バインダー34として望ましい。
【0019】
透明性バインダー34には、無機材料である酸化ケイ素を用いてもよい。酸化ケイ素は、耐熱温度が300℃以上と高い。透明性バインダー34に酸化ケイ素を用いると、バインダー自体の耐熱性が高いため、含有する微粒子30の耐熱性を損なわず、熱によるコーティング膜3の低誘虫性の低下が防止される。また、酸化ケイ素は、0.2〜3μm程度の薄膜に成膜することができるので、光学フィルタ1の透過率の低下を抑えることができる。なお、このような透明性バインダー34は、酸化ケイ素が主成分であれば、他の無機成分を含んだ無機系材料であっても構わない。
【0020】
次に、光学フィルタ1の作成について説明する。バナジン酸ビスマス粒子31は、例えば、その粒子31を含有した溶媒中に、表面処理剤35をそのまま又は溶媒で希釈して添加し、撹拌して処理した後、溶媒を除去し乾燥させることによって表面処理する。また、粉末状のバナジン酸ビスマス粒子31に、表面処理剤35又は溶媒で希釈した表面処理剤35を吹き付けて処理した後、乾燥させることによって表面処理してもよい。
【0021】
酸化亜鉛粒子32は、耐酸性等が比較的低いため、シランカプリング剤等で湿式又は蒸着工法等の乾式等による表面処理をし、耐酸性等を高めてもよい。
【0022】
コバルト複合酸化物粒子33は、一定温度で焼成する方法、真空中で合成する方法等により製造する。
【0023】
これらの微粒子30を透明性バインダー34に添加し、その透明性バインダー34を、ガラス部材2の表面に、スピンコート、ディッピング、スプレー塗布等によって塗布し、塗布後に焼成する。これにより、コーティング膜3が成膜された光学フィルタ1が作成される。
【0024】
透明性バインダー34は、それに合った溶剤等に予め微粒子30及びそれを分散するための界面活性剤等の分散剤等を添加することが望ましい。微粒子30は、分散剤の添加によって透明性バインダー34に分散し易くなり、2次凝集が起き難くなる。この分散剤は、アクリル系、シリコン系、ポリカルボン酸系などが挙げられ、特に、シリコン系とポリカルボン酸系は、分散性と耐熱性の両方を満足するので望ましい。しかし、分散剤は、それ自体が熱変色の原因になることがあるため、微粒子30の分散性に問題が無ければ、添加しないほうが望ましい。
【0025】
ガラス部材2に塗布された透明性バインダー34は、焼成炉等により、バインダーの硬化する温度領域で焼成する。一般的には、焼成温度は、ガラスの使用温度以上が望ましい。また、透明性バインダー34は、焼成だけでは硬化が不十分となる場合には、硬化のための触媒を添加してもよい。
【0026】
このようにして得られた光学フィルタ1は、紫外線がカットされると共に、それより長い一部の波長域の透過率が適度に低くなるので、紫外線のみをカットする紫外線カットフィルタよりも誘虫性が低く、かつ色調が良いものとなる。また、バナジン酸ビスマス粒子31が表面処理されているので、光学フィルタ1の耐熱性が高くなる。
【0027】
(第2の実施形態)
本発明の第2の実施形態を図2を参照して説明する。本実施形態は、第1の実施形態の光学フィルタ1を用いた照明器具10である。この照明器具10は、筺体4内に蛍光灯等から成る光源5が設けられ、筺体4は、側面等に少なくとも1つの開口41を有し、光学フィルタ1がその開口41を覆うように設けられる。筺体4は、ポール6によって床面から支持される。
【0028】
上記のように構成された照明器具10において、光源5が給電されて点灯する。点灯した光源5から出射された光は、光学フィルタ1を通して、筺体4外に照射される。
【0029】
光源5から出射された光が光学フィルタ1を通して照明光として照射されるので、照明光による誘虫性が、紫外線のみをカットする紫外線カットフィルタを用いたものよりも低減されると共に、光学フィルタ1の色調が良いので、照明光の演色性が良いものとなる。また、光学フィルタ1は、耐熱性が高いので、光源5等の熱によって低誘虫性が低下しない。
【0030】
(実施例)
次に、本発明の実施例について説明する。6つの実施例1〜6及びこれらの実施例と比較するための7つの比較例1〜7について評価試験を行った。表1は、この評価試験における評価の条件及び評価結果を示す。
【0031】
【表1】

【0032】
この評価試験において、光学フィルタ1の透明性バインダー34、酸化亜鉛粒子32、バナジン酸ビスマス粒子31、コバルト複合酸化物粒子33、及びコーティング膜3の膜厚(μm)について評価の条件を変えた。酸化亜鉛粒子32は、体積平均粒径(nm)、配合(重量部)、及び表面処理を、バナジン酸ビスマス粒子31は、体積平均粒径(nm)、体積基準90%径(nm)、配合(重量部)、及び表面処理を、コバルト複合酸化物粒子33は、体積平均粒径(nm)及び配合(重量部)を、それぞれ変えた。
【0033】
バナジン酸ビスマス粒子31、酸化亜鉛粒子32、及びコバルト複合酸化物粒子33の各微粒子30の体積平均粒径及び体積基準90%径は、ナノトラック粒度分布測定装置(日機装製)を用いて動的光散乱法で測定した。
【0034】
バナジン酸ビスマス粒子31の表面処理については、シランカップリング剤(トリメチルエトキシランTS8121、GE東芝シリコン製)、チタネート系カップリング剤(KR−46B、味の素ファインテクノ製)、アルミニウム系カップリング剤(プレンアクトAL−M、味の素ファインテクノ製)のいずれかの表面処理剤35の分散溶液を、バナジン酸ビスマス粒子31を分散させた溶剤の中に添加し、ボールミルで攪拌後、静置して乾燥させた。また、酸化亜鉛粒子32を表面処理する場合も同様に処理した。
【0035】
光学フィルタ1は、ガラス部材2として板厚4mmのソーダガラスを用い、溶剤に分散された各微粒子30を透明性バインダー34に添加し、その透明性バインダー34をガラス部材2にスプレー塗装し、そのガラス部材2を250℃で30分間焼成して作成した。但し、透明性バインダー34がアクリルウレタンである比較例7は、120℃で40分間の焼成とした。また、比較例4は、透明性バインダーを用いず、微粒子30が分散された溶剤をガラス部材2にスプレー塗装し、そのガラス部材2を焼成した。
【0036】
評価項目は、光学フィルタ1の成膜性及び表面状態、透明性、色調、誘虫性、UV(紫外線)カット性、耐久性(耐久性1と耐久性2)、及び耐薬品性とした。
【0037】
成膜性及び表面状態、透明性は、外観目視で評価した。また、自記分光光度計(U4000、日立製作所製)で、光学フィルタ1の波長ごとの透過率(分光透過率)を1nmごとに測定し、その測定データから波長380nm〜780nmの平均透過率を算出し、その平均透過率を外観目視に加味して評価した。透明性の評価は、◎が「くもりがほどんどない。光学フィルタを2枚以上重ねて見ても白っぽく見えない」、○が「くもりがほとんどない。光学フィルタを2枚以上重ねて見た場合に白っぽく見える」、×が「1枚の光学フィルタで白っぽく見える」である。
【0038】
色調は、消灯時及び点灯時において外観目視で評価した。点灯時の外観目視では、マルチハロゲンランプ(MF400、パナソニック製)を点灯し、その前面約100mmに光学フィルタ1を設置し、白色の壁に向かって照射した壁面の色調を観察した。色調の評価は、×が「黄みが強い」、○が「黄みがほとんどない(コーティング膜を塗装しないガラス部材と著しい色調の違いなし)」である。
【0039】
UVカット性は、波長300nm〜365nmの紫外線の透過率を自記分光光度計(U4000、日立製作所製)で測定して評価した。UVカット性の評価は、○が「波長300nm〜365nmの透過率が3%未満」、×が「波長300nm〜365nmの透過率が3%以上」である。
【0040】
耐久性は、耐久性1及び耐久性2の2条件とし、光学フィルタ1を恒温槽内に一定期間放置した後、目視で評価した。耐久性1は、恒温槽内の温度を200℃、放置期間を1ヶ月間とした。耐久性2は、恒温槽内の温度を300℃、放置期間を1000時間とした。耐久性1及び耐久性2の評価は、○が「変色・コーティング膜の剥離等の著しい変化なし」、×が「変色・剥離等の著しい変化あり」である。
【0041】
耐薬品性は、耐酸性及び耐アルカリ性を試験するものであり、光学フィルタ1に2%の酸性(硫酸)、アルカリ性(水酸化ナトリウム)液をつけ、1時間放置した後、目視で評価した。耐薬品性の評価は、○が「変色・剥離等の著しい変化なし」、△が「どちらか一方の試験で変色・剥離等の著しい変化あり」、×が「両方の試験で変色・剥離等の著しい変化あり」である。
【0042】
誘虫性の試験では、図5に示されるように、第2の実施形態の照明器具と同様の構成の照明器具11を用い、その光学フィルタ1を取り替えることによって、実施例及び比較例の条件を設定した。光学フィルタ1の下側近傍に、捕虫のための粘着トラップ7を、光学フィルタ1と略面一となるように設けた。粘着トラップ7は、一辺が50〜300mmの略同サイズの四角形とした。光源5には、32Wコンパクト型蛍光灯(パナソニック製)を用いた。この照明器具11を、10m四方の部屋の中に設置した。その部屋の中に3種類の昆虫(ハエ、コナガ、ガ)を各200匹放し、1時間後に粘着トラップ7の捕虫数を計数して誘虫性を評価した。誘虫性の評価は、○が「捕虫数が実施例1と同等」、×が「捕虫数が実施例1の1.3倍以上」である。
【0043】
表中の評価結果に示されるように、実施例1〜6は、全て、成膜性と表面状態が良好であり、透明性、色調、誘虫性、UVカット性が、いずれも◎又は○の評価であった。これに対して、比較例1〜6は、成膜性と表面状態、透明性、色調、誘虫性、UVカット性のいずれかの項目が×の評価であった。従って、本発明の光学フィルタ1は、コーティング膜3が良好に成膜され、紫外線をカットし、かつ色調が良く、誘虫性が低い。
【0044】
この評価結果を分光透過率に基づいて説明する。例えば、図3に示されるように、実施例1は、波長300nm〜365nmの紫外線がカットされると共に、365nm以上の一部の波長域の透過率が適度に低くなっている。このため、実施例1は、紫外線のみをカットする紫外線カットフィルタよりも誘虫性が低くなる。これに対して、図4に示されるように、比較例3は、波長300nm〜365nmのうち大部分の波長域の紫外線の透過率が3%以上と高い。このため、比較例3は、誘虫性が高くなる。
【0045】
耐久性については、表中の評価結果に示されるように、比較例4は、透明性バインダーがなく、コーティング膜3が剥離した。比較例7は、透明性バインダー34がアクリルウレタンであり、コーティング膜3が成膜されたが、耐久性1が×の評価であった。その他の比較例及び実施例1〜6は、透明性バインダー34がシリコン系樹脂又は酸化ケイ素を主成分とする無機材料であり、耐久性1が○の評価であった。従って、シリコン系樹脂又は酸化ケイ素を主成分とする無機材料を透明性バインダー34に用いることにより、光学フィルタ1の高温での耐久性(耐熱性)が高くなる。
【0046】
また、実施例1、2は、透明性バインダー34が酸化ケイ素を主成分とする無機材料であり、耐久性1と耐久性2が共に○の評価であった。これに対して、実施例3〜6は、透明性バインダー34がシリコン系樹脂であり、耐久性1が○の評価であったが、耐久性2が×の評価であった。従って、酸化ケイ素を主成分とする無機材料を透明性バインダー34に用いることにより、光学フィルタ1は、一層の高温での耐久性(耐熱性)が得られる。
【0047】
耐薬品性については、実施例3〜6は、透明性バインダー34がシリコン系樹脂であるコーティング膜3を膜厚8μm又は18μmの比較的厚膜に成膜し、耐薬品性が○の評価であった。これに対し、実施例1、2は、透明性バインダー34が無機材料であるコーティング膜3をそれぞれ膜厚1.3μm、1.5μmの薄膜に成膜し、耐薬品性が△の評価であった。従って、透明性バインダー34にシリコン系樹脂を用いてコーティング膜3を比較的厚膜に成膜することにより、光学フィルタ1の耐薬品性が高くなる。このため、酸化亜鉛粒子32は、耐薬品性が低いが、コーティング膜3の厚膜によって劣化を防止することができる。
【0048】
以上の通り、実施例1〜6及び比較例1〜7の評価結果から、前述した本発明の効果が確認された。
【0049】
なお、本発明は、上記の実施形態の構成に限られず、発明の要旨を変更しない範囲で種々の変形が可能である。例えば、照明器具10において、光学フィルタ1のガラス部材2で光源5のカバーを立体成形することよって、筺体4を省略してもよい。
【符号の説明】
【0050】
1 光学フィルタ
2 ガラス部材
3 コーティング膜
31 バナジン酸ビスマス粒子
32 酸化亜鉛粒子
33 コバルト複合酸化物粒子
34 透明性バインダー
35 表面処理剤
5 光源
10、11 照明器具

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス部材と、前記ガラス部材上に形成されたコーティング膜と、を備えた光学フィルタであって、
前記コーティング膜は、透明性バインダーに、
体積平均粒径が10nm乃至200nmかつ体積基準90%径が300nm未満であって、表面がシランカップリング剤、シリコーンレジン、チタネート系カップリング剤、アルミニウム系カップリング剤、ジルコアルミネート系カップリング剤からなる群から選ばれる一つ以上の表面処理剤で処理されたバナジン酸ビスマス粒子と、
体積平均粒径が10nm乃至200nmである酸化亜鉛粒子と、
体積平均粒径が10nm乃至200nmであるコバルト複合酸化物粒子と、が含有されていることを特徴とする光学フィルタ。
【請求項2】
前記透明性バインダーは、シリコン系樹脂であることを特徴とする請求項1に記載の光学フィルタ。
【請求項3】
前記透明性バインダーは、酸化ケイ素を主成分とする無機系材料であることを特徴とする請求項1に記載の光学フィルタ。
【請求項4】
光源と、請求項1乃至請求項3のいずれか一項に記載の光学フィルタと、を備え、
前記光源から出射された光が、前記光学フィルタを通して照射されることを特徴とする照明器具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−275123(P2010−275123A)
【公開日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−126369(P2009−126369)
【出願日】平成21年5月26日(2009.5.26)
【出願人】(000005832)パナソニック電工株式会社 (17,916)
【Fターム(参考)】