説明

光学フィルムおよびその製造方法、ならびに積層物

【課題】遅相軸方向がフィルムの長手方向と一定の角度をなす傾斜した方向となっている位相差フィルム、または光学軸方向がフィルムの長手方向と一定の角度をなす傾斜した方向となっている偏光フィルムとして使用できる光学フィルムを提供する。
【解決手段】マトリックス樹脂と、該マトリックス樹脂中に分散されている弱磁性微粒子を含有する長尺の光学フィルムであって、前記弱磁性微粒子の平均粒径が500nm以下であり、該弱磁性微粒子がフィルムの面方向に対して平行な一方向に配向されており、かつ該弱磁性微粒子の配向方向とフィルムの長手方向とのなす角度θが0°を超え90°未満であることを特徴とする光学フィルム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学フィルムおよびその製造方法、ならびに該光学フィルムを用いた積層物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、液晶表示装置は、非常に薄くコンパクトで低消費電力であることから、電卓、デジタル時計、オーディオ表示、ノートパソコン、液晶TV、携帯電話などの機器や家電に広く使われるようになってきた。
【0003】
STN型液晶表示装置の光学補償層として一般に使用されている位相差フィルムは、ポリカーボネート、ポリビニルアルコール、ポリアリレート、ポリサルフォン、ポリオレフィンなどの高分子材料からなる一軸延伸フィルムである。一軸延伸フィルムからなる位相差フィルムにおいては、高分子フィルムの延伸により位相差が発現し、遅相軸方向(面内最大屈折率方向)は延伸方向と同軸である。
【0004】
例えば、液晶表示装置においては、1/4波長板としての機能を有する位相差フィルムと偏光フィルムとを積層一体化してなる積層一体型の楕円(円)偏光板が多く用いられる。
かかる積層一体型の楕円(円)偏光板にあっては、例えば偏光フィルムによって直線偏光化された光線が、その振動方向と位相差フィルムの遅相軸方向とのなす角度が45°の角度となるように位相差フィルムに入射されると、該位相差フィルムからの出射光線は円偏光となる。一方、前記直線偏光化された光線の振動方向と、前記位相差フィルムの遅相軸方向とのなす角度が45°および0°のいずれでもない場合は、前記位相差フィルムからの出射光線は楕円偏光となり、その楕円偏光状態は前記直線偏光化された光線の振動方向と、前記位相差フィルムの遅相軸方向とのなす角度に応じて変化する。
したがって、積層一体型の楕円(円)偏光板を構成するに際しては、位相差フィルムの遅相軸方向と偏光フィルムの光学軸方向とが、要求特性に応じた所定の角度をなすように両者を積層することが求められる。
【0005】
ところが、偏光フィルムおよび位相差フィルムは、通常、長尺体で生産され、偏光フィルムの光学軸方向、および位相差フィルムの遅相軸方向は、いずれもフィルム製造時の延伸方向に応じてフィルムの長手方向に一致または直交している。
そのため、位相差フィルムの遅相軸方向と偏光フィルムの光学軸方向とのなす角度が90°未満の範囲内となるように両者を積層するには、例えば図2に示すように、位相差フィルム11の長手方向11aと偏光フィルム12の長手方向12aとが所定の角度で交差するように積層し、両者の重なり合った部分から所定形状(例えば矩形)の積層一体型の楕円(円)偏光板13を切り出す方法がある。
しかしながらこの方法では、位相差フィルム11および偏光フィルム12のロスが多く発生するとともに、いわゆるロールツーロールでの連続生産ができないため、生産性が悪い。
【0006】
これに対して、例えば下記特許文献1及び2には、フィルムの長手方向又は幅方向と一定の角度をなす傾斜した方向に延伸を行って位相差フィルムを製造する方法が提案されている。この方法によれば、位相差フィルムの遅相軸方向を、該フィルムの長手方向又は幅方向と一定の角度をなす傾斜した方向とすることができるため、ロールツーロールで積層一体型の楕円(円)偏光板を製造することが可能となる。
【0007】
一方、磁性微粒子に関しては、近年の強磁場発生技術の進展により、室温で10T程度の磁場の利用が容易になったため、弱磁性物質が磁場効果の研究対象として盛んに取り上げられるようになった。その一環として、酸化亜鉛等の反磁性微粒子を磁場配向させて、光学フィルム用途に用いる研究もなされている(例えば、非特許文献1参照。)。
【特許文献1】特開2000−9912号公報
【特許文献2】特開2003−215343号公報
【非特許文献1】「高分子中に分散したZnOナノ粒子の磁場配向」、強磁場新機能ニュースレター、文部科学省科学研究費特定領域研究「強磁場新機能の開発」第2回研究会、No.5、2005年7月9日
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記特許文献1及び2に記載されているようなフィルム製造時に斜め方向に延伸する方法で、所望の光学特性を有する位相差フィルムを精度良く製造することは、技術的にも生産性においても、実際にはかなりの困難を伴う。
そこで、遅相軸方向が、フィルムの長手方向に対して傾斜した任意の方向となっている位相差フィルムを容易にかつ高精度で実現できる技術の開発が望まれていた。
【0009】
本発明は上記問題点を解消するためになされたもので、遅相軸方向がフィルムの長手方向と一定の角度をなす傾斜した方向となっている位相差フィルム、または光学軸方向がフィルムの長手方向と一定の角度をなす傾斜した方向となっている偏光フィルムとして使用できる光学フィルムおよびその製造方法、ならびに該光学フィルムを用いた積層物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、弱磁性微粒子に対して磁場を印加して該弱磁性微粒子を一定の方向に配向できること、およびフィルム中に分散された弱磁性微粒子の配向方向に応じて位相差フィルムにおける遅相軸方向または偏光フィルムにおける光学軸方向が決まることを利用して、マトリックス樹脂中に分散させた弱磁性微粒子の配向方向を、フィルムの長手方向に対して所望の角度で傾斜させて光学フィルムを形成することにより上記課題が解決できることを見出し、本発明を完成した。
【0011】
すなわち、本発明の光学フィルムは、マトリックス樹脂と、該マトリックス樹脂中に分散されている弱磁性微粒子を含有する長尺の光学フィルムであって、前記弱磁性微粒子の平均粒径が500nm以下であり、該弱磁性微粒子がフィルムの面方向に対して平行な一方向に配向されており、かつ該弱磁性微粒子の配向方向とフィルムの長手方向とのなす角度θが0°を超え90°未満であることを特徴とする。
【0012】
また本発明は、本発明の光学フィルムであって、前記弱磁性微粒子の配向方向とフィルムの長手方向とのなす角度θが45°である光学フィルムからなる1/4波長板と、光学軸方向がフィルムの長手方向に一致または直交している長尺の偏光フィルムを、両者の長手方向が一致するように積層してなる積層物を提供する。
【0013】
また本発明は、流動状態のマトリックス樹脂と平均粒径が500nm以下の弱磁性微粒子を混合してスラリーを調製するスラリー調製工程と、前記スラリーを長尺の基材上に連続的に塗布してスラリー層を形成するスラリー層形成工程と、前記スラリー層に磁場を印加して前記弱磁性微粒子を、前記スラリー層の面方向に対して平行で、かつ前記スラリー層の長手方向とのなす角度が0°を超え90°未満である一方向に配向させる配向化工程と、前記弱磁性微粒子が配向している状態で、前記スラリー層中のマトリックス樹脂を固化する固化工程を具備してなることを特徴とする光学フィルムの製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、遅相軸方向がフィルムの長手方向と一定の角度をなす傾斜した方向となっている位相差フィルム、または光学軸方向がフィルムの長手方向と一定の角度をなす傾斜した方向となっている偏光フィルムとして使用できる光学フィルムが得られる。
【0015】
また本発明によれば、積層一体型の円偏光板として用いることができる積層物が得られる。本発明の積層物は、位相差フィルムと偏光フィルムとを、両者の長手方向が一致するように積層してなるものであるので、ロールツーロールで連続生産することができるとともに、製造時のロス発生を防止できる。
【0016】
本発明の光学フィルムの製造方法によれば、遅相軸がフィルムの長手方向に対して任意の角度で傾斜している位相差フィルム、または光学軸がフィルムの長手方向に対して任意の角度で傾斜している偏光フィルムとして使用できる光学フィルムを容易にかつ精度良く製造できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態を詳細に説明する。
<光学フィルム>
本発明の光学フィルムは、マトリックス樹脂と、このマトリックス樹脂中に分散されている弱磁性微粒子を含有する。さらに高分子系分散剤を含有することが望ましい。
【0018】
[マトリックス樹脂]
マトリックス樹脂としては、光透過性に優れた可視光硬化樹脂又は紫外線硬化樹脂が用いられる。未硬化状態において溶媒に分散させることなく流動性を有するものが好ましい。マトリックス樹脂の具体例としては、メタクリル酸テトラヒドロフルフリルとメタクリル酸イソボルニルと脂肪族ウレタンアクリレートとの混合物を硬化させたものが好ましく、その一例として、HeraeusKulzer社製のTechnovit 2000LC(商品名)を例示することができる。
【0019】
[弱磁性微粒子]
本明細書における弱磁性微粒子とは、反磁性の微粒子および常磁性の微粒子の総称である。弱磁性微粒子は磁気異方性を有するものが用いられる。
弱磁性微粒子において、結晶構造に異方性のある粒子の殆どは磁気的にも異方性を有する。
たとえば、アスペクト比の大きい粒子を考えるとき、長軸方向(l)とそれに垂直な短軸方向(s)では磁化率が異なる。その差を磁化率の異方性といい、χa=χl−χsで表す。χa<0の場合は、長軸方向が磁場方向に対して垂直になった方がエネルギー的に安定であるため、このような弱磁性微粒子に対して磁場が印加されると、微粒子の長軸方向が磁場方向と直交するように配向する。したがって、磁場の方向をたとえば光学フィルムの面方向と平行な一方向に設定することにより、弱磁性微粒子の長軸方向が光学フィルムの面方向に平行でかつ前記磁場方向と直交する方向に配向する。
【0020】
磁気異方性を有する弱磁性微粒子としては、六方晶、正方晶、斜方晶、単斜晶又は三斜晶の結晶構造を有するものが好ましく、特に磁気異方性を有する金属酸化物や金属水酸化物等の金属化合物が好ましい。
磁気異方性を有する金属化合物として、例えば、酸化亜鉛、アナターゼ型酸化チタン、酸化イットリウムなどの反磁性金属酸化物や、水酸化ガドリニウム、水酸化ランタン、水酸化サマリウム、水酸化ニッケルなどの常磁性金属水酸化物を挙げることができる。これらの金属化合物は、磁気異方性が大きいことから、磁場を印加したときに高い配向度が得られる。また、これらの金属化合物は透明性が高いので、光学フィルム中に含有させることによる光学的特性への影響が小さい。
特に、弱磁性微粒子として酸化亜鉛や酸化チタンなどの紫外線吸収能のある微粒子を使用すると、紫外線による光学フィルムの劣化を防ぐ効果も得られる。
【0021】
弱磁性微粒子の平均粒径は500nm以下であり、好ましくは50nm以下である。平均粒径が500nmを超えると、光学フィルムの光透過性が低下するので好ましくない。
弱磁性微粒子の平均粒径の下限値は特に制限されないが、弱磁性微粒子の粒径が小さいほど、該粒子を配向させるのにより強い磁場が必要となるため、この点から15nm以上であることが好ましく、35nm以上がより好ましい。
また弱磁性微粒子のアスペクト比が(長軸方向の長さ/短軸方向の長さ)が2〜20のものが好ましく、5〜15のものがより好ましい。
光学フィルム中における弱磁性微粒子の配合比率は、光学フィルムに良好な複屈折性を付与するとともに、光透過性を低下させないために、好ましくは1〜20質量%、より好ましくは5〜15質量%である。
【0022】
光学フィルム中において、弱磁性微粒子はフィルムの面方向に対して一方向に配向された状態で分散されている。該弱磁性微粒子の配向方向とフィルムの長手方向とのなす角度θは0°を超え90°未満の範囲内である。本発明の光学フィルムは長尺物であり、「フィルムの長手方向」とは該長尺の光学フィルムの長さ方向を指す。
本発明における弱磁性微粒子の配向方向とは、配向している弱磁性微粒子の長軸方向であり、偏光顕微鏡により観察できる。
尚、ここでの角度θは絶対量であり、角度の向きは区別しないものとする。例えば0°と180°は区別せずに0°とする。また45°と−45°とは区別せずに45°とする。
前記角度θを0°を超え90°未満の範囲内とすることにより、従来の延伸フィルムでは実現困難であった、フィルムの長手方向に対して遅相軸方向または光学軸方向が傾斜している光学フィルムが得られる。
【0023】
[高分子系分散剤]
高分子系分散剤としては、脂肪酸アミン系、スルホン酸アミド系、ε−カプロラクトン系、ハイドロステアリン酸系、ポリカルボン酸系、ポリエステルアミン系などの高分子界面活性剤が好ましく用いられる。これらの界面活性剤は1種または2種以上が用いられる。具体的な商品としては、ソルスパース3000、9000、17000、20000および24000(以上、アビシア社製)、Disperbyk−161、162、163、164(以上、ビックケミー社製)などが挙げられる。
高分子系分散剤は弱磁性微粒子の凝集を防ぐ作用があり、弱磁性微粒子を配向させ易くする役割を果たす。
光学フィルム中における高分子系分散剤の配合比率は、該分散剤の種類によって異なるが、良好な添加効果を得るためには、0.1〜5質量%が好ましく、0.5〜1.5質量%がより好ましい。
【0024】
本発明の光学フィルムの厚さは、これによって光学フィルムのリターデーションの値が変化するので、該光学フィルムに要求される光学特性に応じて設計することができる。
光学フィルムの厚さの上限値は、特に限定されないが薄型化の点からは、100μm以下が好ましく、70μm以下がより好ましい。光学フィルムの厚さの下限値は、特に限定されないが厚さムラの点からは、10μm以上が好ましく、40μm以上がより好ましい。
【0025】
<光学フィルムの製造方法>
次に、本発明の光学フィルムの製造方法の実施形態について説明する。本実施形態の製造方法は、スラリー調製工程と、スラリー層形成工程と、配向化工程と、固化工程とから概略構成されている。以下、各工程について順次説明する。
【0026】
「スラリー調製工程」
スラリー調製工程では、流動状態のマトリックス樹脂と、弱磁性微粒子と、好ましくは高分子系分散剤とを混合してスラリーを調製する。該スラリーには、他に紫外線吸収剤や光安定剤を適宜添加してもよい。
マトリックス樹脂としては、前述のとおり、未硬化状態において、溶媒に分散させなくても流動性を有する無溶媒タイプの可視光硬化樹脂又は紫外線硬化樹脂を用いることが好ましい。溶媒を添加してもよいが、その場合は、マトリックス樹脂を固化する際に溶媒を除去する必要性が生じる。そして、この溶媒除去の際にマトリックス樹脂中で微小な対流が発生し、この対流により、あるいは収縮により微粒子の配向状態が変化しやすいので注意を要する。
このようにして調製されたスラリーは、次工程であるスラリー層形成工程に供される。
【0027】
「スラリー層形成工程」
スラリー層形成工程では、前工程で調製されたスラリーを長尺フィルム状の基材上に連続的に塗布してスラリー層を形成する。後の配向化工程でスラリー層に対して磁場を印加する際に、基材によって磁場が遮られるのを防ぐために、基材としては非磁性のフィルムやシートを用いることが好ましい。具体的には、ポリエチレンテレフタレート(PET)やウレタンメタクリレート系電子線硬化樹脂からなる厚さ30〜300μm程度のフィルムまたはシートが好適である。
スラリーを基材上に塗布する方法は、特に限定されないが、例えばロッドコート法、ナイフコート法などを用いることができる。また、マトリックス樹脂として可視光硬化樹脂を使用する場合は、当然ながら遮光した状態で塗布することが好ましい。
スラリー層の厚みは、得ようとする光学フィルムの厚みと同じにする。
このようにして基材上に形成されたスラリー層は、次工程である配向化工程に供される。
【0028】
「配向化工程」
配向化工程では、スラリー層に磁場を印加することにより、スラリー層に含まれる弱磁性微粒子を一方向に配向させる。磁場の印加方向は、長尺フィルム状の基材上に形成されたスラリー層の面に平行であって、基材の長手方向に対して0°を超え90°未満の一定の角度Aだけ傾斜した方向とする。
弱磁性微粒子を磁場配向させるための磁場発生装置には、永久磁石や電磁石を用いることができるが、より強力な磁場を得るためには超電導マグネットを用いることが好ましい。
【0029】
例えば図1に示すように、強磁場発生手段として、円環状に形成されたコイル2を備えた電磁石を用いて、該コイル2の中心軸Pに平行な方向の磁場を発生させる。
また、スラリー層が形成された基材1を、コイル2の中心部分の空間に挿通させる。このとき、基材1をコイル2の中心軸Pに対して斜めにして、基材1の長手方向とコイル2の中心軸P方向、すなわち磁場方向とのなす角度が所定の角度Aとなるようにする。
そして、コイル2によって磁場を発生させた状態で、該基材1を長手方向に沿う一方向に移動させることにより、基材1上のスラリー層に対して所定方向の磁場を連続的に印加することができる。
【0030】
このようにしてスラリー層の面に平行な方向の磁場が印加されると、該スラリー層中の弱磁性微粒子は、磁化率の異方性χa<0の場合は、その結晶の長軸方向がスラリー層の面に平行でかつ磁場方向と直交する方向となるように配向する。磁化率の異方性χa>0の場合は、その結晶の長軸方向がスラリー層の面に平行でかつ磁場方向と平行な方向となるように配向する。この弱磁性微粒子の配向方向(結晶の長軸方向)とフィルムの長手方向とのなす角度θは、基材1の長手方向と磁場方向とのなす角度Aによって決まる。
例えば、基材1の長手方向と磁場方向とのなす角度Aを−45°(スラリー層の表面から見て基材1の移動方向に対して反時計回り方向へ45°)とした場合、反磁性粒子の配向方向とフィルムの長手方向とのなす角度θは+45°となる。
【0031】
スラリー層に印加する磁場の強度は、該スラリー層に含まれる弱磁性微粒子の平均粒径及び磁化率にもよるが、弱磁性微粒子が配向するのに足りる程度の磁場を印加すればよい。例えば、磁化率の異方性χaが10−6オーダーの場合、磁場強度を28T(テスラ)まで上昇させたときに、配向できる微粒子の粒径は理論上14〜30nmが限界である。磁場配向し得る弱磁性微粒子の平均粒径の三乗と磁場強度の二乗は反比例の関係にあるので、より小さな粒径の弱磁性微粒子を配向させるためには、磁場強度を高くするか、あるいは磁化率の異方性が大きい粒子を選べばよい。
【0032】
以上のようにして弱磁性微粒子が一方向に配向したスラリー層は、直ちに次工程である固化工程に供される。固化工程において弱磁性微粒子は配向状態を保持していることが必要である。そのために、配向化工程から固化工程にまで至る間は、磁場の印加を継続させることが望ましい。
【0033】
「固化工程」
固化工程では、スラリー層中のマトリックス樹脂を固化することにより、マトリックス樹脂中に分散されている弱磁性微粒子を固定する。具体的には、マトリックス樹脂として可視光硬化型樹脂又は紫外線硬化型樹脂を用いた場合、配向化工程を経たスラリー層に可視光又は紫外線を照射してマトリックス樹脂を硬化させ、流動状態にあったマトリックス樹脂を固化する。これに伴い、マトリックス樹脂中の弱磁性微粒子が配向状態を保ったまま固定され、本発明の光学フィルムが得られる。
固化工程終了時において、光学フィルムは基材上に積層されている。光学フィルムと基材とが積層された状態で使用することもでき、光学フィルムを基材から適宜の方法で剥離して使用してもよい。
【0034】
本発明の光学フィルムの製造方法は、マトリックス樹脂中に分散させた弱磁性微粒子に磁場を印加して配向させるので、磁場の印加方向を調整するだけで、微粒子の配向方向とフィルムの長手方向とのなす角度を容易に、かつ任意の角度に変更でき、再現性も良い。したがって、遅相軸がフィルムの長手方向に対して任意の角度で傾斜している位相差フィルムまたは光学軸がフィルムの長手方向に対して任意の角度で傾斜している偏光フィルム等の光学フィルムを容易にかつ精度良く製造できる。
【実施例】
【0035】
以下、本発明の実施例を挙げるが、本発明はかかる実施例によって何ら限定されるものではない。
【0036】
(実施例1)
マトリックス樹脂として可視光硬化型樹脂(HeraeusKulzer社製の商品名「Technovit 2000LC」)を90質量部用意し、このマトリックス樹脂に、反磁性微粒子として六方晶結晶からなる平均粒径10nmの酸化亜鉛微粒子(堺化学工業社製の商品名「NanoFine75」)を10質量部添加し、更に、高分子系分散剤(アビシア社製の商品名「ソルパース24000GR」)を0.38質量部添加した。
マトリックス樹脂に反磁性微粒子と高分子系分散剤を添加した後、ビーズミルで十分混合してスラリーを調製した。
次に、得られたスラリーをロッドコート法によってウレタンメタクリレート系電子線硬化樹脂からなる長尺フィルム状の基材上に50μmの厚みで塗布し、スラリー層を形成した。次いで、高磁場発生装置を用いてスラリー層に磁束密度12T(テスラ)の磁場を30分間印加して反磁性粒子を配向させた。磁場方向はスラリー層の面方向に平行で、かつ基材フィルムの長手方向に対して−45°(スラリー層の表面から見てフィルムの進行方向に対して反時計回り方向へ45°)の方向とした。
次に、スラリー層に磁場を印加させた状態で、スラリー層に可視光を照射してマトリックス樹脂を硬化させ、試料フィルムを製造した。
【0037】
得られた試料フィルムについて、該フィルム中に含まれている酸化亜鉛微粒子の配向方向を偏光顕微鏡により観察したところ、フィルムの面方向に対して平行で、フィルムの長手方向とのなす角度θは45°(磁場方向に対して垂直方向)であった
【0038】
得られた試料フィルムについて、偏光顕微鏡を用いてリターデーション(位相差)の有無を確認した。すなわち、試料フィルムの下側(光源側)に第1の偏光板を設置し、試料フィルムの上側に位相差530nmの鋭敏色板を配置し、その上に第2の偏光板を設置した。これらは面方向が互いに平行となるように保持し、第1の偏光板と第2の偏光板はクロスニコル(光路上に2つの偏光板を90°回して直列に配置した状態)とした。そして、第1の偏光板、鋭敏色板、および第2の偏光板を固定した状態で、試料フィルムを、その面に垂直な中心軸を回転軸として回転させながら、偏光顕微鏡により透過光の色の変化を観察した。
クロスニコルの偏光板間に鋭敏色板(位相差530nm)のみが配置された状態では、透過光は干渉色として赤紫色を示す。さらに該偏光板間に試料フィルムが挿入されたとき、位相差が530nmよりも大きくなるにしたがって、透過光の色は青紫色から青色へと変化する。また位相差が530nmよりも小さくなるにしたがって、透過光の色は橙色から黄色へと変化する。
本実施例においては、鋭敏色板における遅相軸方向と試料フィルムにおける磁場印加方向とが135°のときに透過光が緑色を示し、45°のときに黄色を示した。これにより試料フィルムが遅相軸と、それに直交する進相軸を有しており、位相差フィルムとして機能していることが判明した。また試料フィルムにおける遅相軸方向は、磁場印加方向に対して90°であった。
さらに、試料フィルムの全光線透過率をJIS K 7361−1に従って測定したところ、位相差フィルムとして要求される全光線透過率90%以上を満たしていた。
【0039】
(実施例2)
反磁性微粒子として六方晶結晶からなる平均粒径20nmの酸化亜鉛微粒子(堺化学工業社製の商品名「NanoFine50」)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、マトリックス樹脂中の反磁性微粒子を磁場配向させた試料フィルムを製造した。
得られた試料フィルムについて、実施例1と同様にして酸化亜鉛微粒子の配向方向を測定したところ、フィルムの面方向に対して平行で、フィルムの長手方向とのなす角度θは45°(磁場方向に対して垂直方向)であった
また得られた試料フィルムについて、実施例1と同様にしてリターデーションの有無を確認したところ、試料フィルムは実施例1と同様に位相差フィルムとして機能していることが判明した。また試料フィルムにおける遅相軸方向は、磁場印加方向に対して90°であった。
さらに、試料フィルムの全光線透過率を実施例1と同様に測定したところ、位相差フィルムとして要求される全光線透過率90%以上を満たしていた。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明の光学フィルムの製造方法に係る配向化工程の例を示す説明図である。
【図2】従来の楕円(円)偏光板の製造方法の例を示す説明図である。
【符号の説明】
【0041】
1 基材
2 コイル


【特許請求の範囲】
【請求項1】
マトリックス樹脂と、該マトリックス樹脂中に分散されている弱磁性微粒子を含有する長尺の光学フィルムであって、
前記弱磁性微粒子の平均粒径が500nm以下であり、該弱磁性微粒子がフィルムの面方向に対して平行な一方向に配向されており、かつ該弱磁性微粒子の配向方向とフィルムの長手方向とのなす角度θが0°を超え90°未満であることを特徴とする光学フィルム。
【請求項2】
さらに高分子系分散剤を含有する請求項1記載の光学フィルム。
【請求項3】
前記弱磁性微粒子の配向方向とフィルムの長手方向とのなす角度θが45°である請求項1または2に記載の光学フィルムからなる1/4波長板と、光学軸方向がフィルムの長手方向に一致または直交している長尺の偏光フィルムを、両者の長手方向が一致するように積層してなる積層物。
【請求項4】
流動状態のマトリックス樹脂と平均粒径が500nm以下の弱磁性微粒子を混合してスラリーを調製するスラリー調製工程と、
前記スラリーを長尺の基材上に連続的に塗布してスラリー層を形成するスラリー層形成工程と、
前記スラリー層に磁場を印加して前記弱磁性微粒子を、前記スラリー層の面方向に対して平行で、かつ前記スラリー層の長手方向とのなす角度が0°を超え90°未満である一方向に配向させる配向化工程と、
前記弱磁性微粒子が配向している状態で、前記スラリー層中のマトリックス樹脂を固化する固化工程を具備してなることを特徴とする光学フィルムの製造方法。


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2007−256630(P2007−256630A)
【公開日】平成19年10月4日(2007.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−80893(P2006−80893)
【出願日】平成18年3月23日(2006.3.23)
【出願人】(301023238)独立行政法人物質・材料研究機構 (1,333)
【出願人】(000106726)シーアイ化成株式会社 (267)
【Fターム(参考)】