説明

光学フィルム用粘着剤層およびその製造方法、粘着型光学フィルムおよびその製造方法、画像表示装置ならびに塗布液供給装置

【課題】粘着剤層の原料となる粘着剤塗布液の気泡および/または異物を効果的に除去することで、粘着剤層中の外観欠点を低減した光学フィルム用粘着剤層およびその製造方法、粘着型光学フィルムおよびその製造方法、画像表示装置、ならびに粘着剤層を形成するための粘着剤塗布液供給装置を提供すること。
【解決手段】ろ過精度が1〜20μmであるデプスタイプ・フィルターを使用し、水分散型粘着剤を含有する粘着剤塗布液を、差圧が0kPaを超え、かつ150kPa以下の状態でろ過処理するろ過工程と、ろ過処理後の前記粘着剤塗布液を塗布した後、乾燥する塗布・乾燥工程と、を含むことを特徴とする光学フィルム用粘着剤層の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、気泡および/または異物に起因した外観欠点を低減した光学フィルム用粘着剤層およびその製造方法、ならびに光学フィルムの少なくとも片側に、粘着剤層が積層されている粘着型光学フィルムであって、該粘着剤層中の外観欠点を低減した粘着型光学フィルムおよびその製造方法に関する。かかる粘着型光学フィルムとしては、少なくとも片側に、粘着剤層が積層された偏光板、位相差板、光学補償フィルム、輝度向上フィルムや、反射防止フィルムなどの表面処理フィルム、さらにはこれらが積層されているものが挙げられる。さらに、本発明は、該粘着型光学フィルムを少なくとも1つ用いた画像表示装置、および該粘着型光学フィルムを構成する粘着剤層の原料となる粘着剤塗布液を供給するための塗布液供給装置に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶表示装置および有機EL表示装置などは、その画像形成方式から、例えば、液晶表示装置では、液晶セルの両側に偏光素子を配置することが必要不可欠であり、一般的には偏光板が貼着されている。また液晶パネルおよび有機ELパネルなどの表示パネルには偏光板の他に、ディスプレイの表示品位を向上させるために様々な光学素子が用いられるようになってきている。また液晶表示装置や有機EL表示装置、CRT、PDPなどの画像表示装置を保護したり、高級感を付与したり、デザインを差別化するために前面板が使用されている。これら液晶表示装置および有機EL表示装置などの画像表示装置や前面板などの画像表示装置と共に使用される部材には、例えば、着色防止としての位相差板、液晶ディスプレイの視野角を改善するための視野角拡大フィルム、さらにはディスプレイのコントラストを高めるための輝度向上フィルム、表面の耐擦傷性を付与するために用いられるハードコートフィルム、画像表示装置に対する写り込みを防止するためのアンチグレア処理フィルム、アンチリフレクティブフィルム、ローリフレクティブフィルムなどの反射防止フィルムなどの表面処理フィルムが用いられている。これらのフィルムは総称して光学フィルムと呼ばれる。
【0003】
前記光学フィルムを液晶セルおよび有機ELパネルなどの表示パネル、または前面板に貼着する際には、通常、粘着剤が使用される。また、光学フィルムと液晶セルおよび有機ELパネルなどの表示パネル、または前面板、または光学フィルム間の接着は、通常、光の損失を低減するため、それぞれの材料は粘着剤を用いて密着されている。このような場合に、光学フィルムを固着させるのに乾燥工程を必要としないことなどのメリットを有することから、光学フィルムの少なくとも片側に、粘着剤層が積層された粘着型光学フィルムが一般的に用いられる。
【0004】
粘着型光学フィルムは、直接目視される画像表示装置に用いられるため、粘着剤層においても異物や気泡などに起因した外観欠点(スジ状欠点、点欠点)に対して、極めて厳しい品質管理がなされる。したがって、粘着剤層の原料となる粘着剤塗布液は、必要に応じて真空脱泡処理や遠心分離処理、さらにはろ過処理などを経て、光学フィルム上に塗布されるのが一般的である。しかしながら、真空脱泡処理や遠心分離処理により粘着剤塗布液の気泡の除去を試みても、塗布液の粘度が高い場合、あるいは微小な気泡径を有する気泡を除去する場合、多大な時間と労力を要する一方で、気泡の除去が不十分となる場合が多い。
【0005】
下記特許文献1では、ポリジメチルシロキサンなどの、微量のはじき欠点を発生させる成分を除去することを目的として、溶剤と、活性放射線により硬化可能なモノマー成分と、を含有する塗布液(いわゆる「溶剤系塗布液」)を、ポリオレフィン製のろ過材を有するデプスタイプ・フィルターでろ過処理する工程、およびろ過処理した塗布液をフィルム基材上に塗布して塗布層を形成する塗布工程を少なくとも含み、塗布層における100μm以上の、核となる異物を有しない欠点がフィルム1mあたり1.0個以上である光学フィルムの製造方法が記載されている。かかる特許文献に記載の方法は、一般に粘度が低い溶剤系塗布液の場合に、100μm以上である欠点の原因となる異物や気泡を除去する手段としては有用である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第4542920号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、本発明者らが鋭意検討した結果、前記特許文献に記載の方法では、泡噛みが発生し易いエマルション溶液などの水分散型粘着剤や、溶剤系塗布液に比して粘度が高い粘着剤塗布液を使用した場合、気泡および/または異物の除去効率が劣ることが判明した。
【0008】
本発明は上記実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、粘着剤層の原料となる粘着剤塗布液の気泡および/または異物を効果的に除去することで、粘着剤層中の外観欠点を低減した光学フィルム用粘着剤層およびその製造方法、該光学フィルム用粘着剤層が積層された粘着型光学フィルムおよびその製造方法、画像表示装置、ならびに粘着剤層を形成するための粘着剤塗布液供給装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、(i)水分散型粘着剤を主成分とする粘着剤塗布液は、泡噛みが発生し易く、微小な気泡、具体的には100μm未満の気泡を含み易いという、溶剤系塗布液では見られない特有の課題が存在すること、(ii)前記溶剤系塗布液に比して粘度が高い粘着剤塗布液をろ過処理した場合、差圧が高いと、気泡および/または異物は容易に変形しつつろ過フィルターを抜ける傾向があること、(iii)ろ過フィルターのろ過精度が高すぎても、あるいは低すぎても、微小な気泡および/または異物を確実に除去できず、ろ過精度に最適な範囲が存在すること、を見出した。本発明は、上記の検討の結果なされたものであり、下記の如き構成により上述の目的を達成するものである。
【0010】
すなわち、本発明に係る光学フィルム用粘着剤層の製造方法は、ろ過精度が1〜20μmであるデプスタイプ・フィルターを使用し、水分散型粘着剤を含有する粘着剤塗布液を、差圧が150kPa以下の状態でろ過処理するろ過工程と、ろ過処理後の前記粘着剤塗布液を塗布した後、乾燥する塗布・乾燥工程と、を含むことを特徴とする。かかる光学フィルム用粘着剤層の製造方法において、前記デプスタイプ・フィルターが、ろ過精度に勾配を有することが好ましい。
【0011】
また、本発明に係る光学フィルム用粘着剤層は、前記いずれかに記載の製造方法により製造されたものであり、特に最大長さが100μmを超える気泡および/または異物を含んでおらず、かつ、前記粘着剤層の面において、最大長さが20μm以上の気泡および/または異物の個数が、10個/m以内であることが好ましい。なお、本発明において、粘着剤層の外観欠点の原因となるのは、粘着剤塗布液中に存在する気泡のみ、または異物のみである場合もあれば、粘着剤塗布液中に存在する気泡および異物の両方である場合もある。
【0012】
また、本発明に係る粘着型光学フィルムの製造方法は、光学フィルムの少なくとも片側に、粘着剤層が積層されている粘着型光学フィルムの製造方法であって、前記粘着剤層を製造する工程が、デプスタイプ・フィルターを使用し、前記粘着剤層の原料となる粘着剤塗布液を、差圧が0kPaを超え、かつ150kPa以下の状態でろ過処理するろ過工程を含み、前記粘着剤塗布液が、水分散型粘着剤を含有するものであり、前記デプスタイプ・フィルターのろ過精度が1〜20μmであることを特徴とする。
【0013】
また、上記粘着型光学フィルムの製造方法において、前記デプスタイプ・フィルターが、ろ過精度に勾配を有することが好ましい。
【0014】
また、上記粘着型光学フィルムの製造方法において、前記ろ過工程の後、前記粘着剤塗布液を可撓性支持体(ウェブ)に塗布し、乾燥することにより、粘着剤層を設けた可撓性支持体(ウェブ)を製造する塗布・乾燥工程と、前記粘着剤層を設けた可撓性支持体(ウェブ)から、前記粘着剤層を前記光学フィルム上に転写する転写工程と、をさらに含むことが好ましい。
【0015】
また、上記粘着型光学フィルムの製造方法において、前記ろ過工程の後、前記粘着剤塗布液を前記光学フィルム上に塗布した後、乾燥する塗布・乾燥工程をさらに含むことが好ましい。
【0016】
本発明に係る粘着型光学フィルムは、前記いずれかに記載の製造方法により製造されたものである。また、本発明に係る画像表示装置は、前記に記載の粘着型光学フィルムを少なくとも1つ用いたことを特徴とする。
【0017】
本発明に係る塗布液供給装置は、粘着型光学フィルムを構成する粘着剤層の原料となる粘着剤塗布液を供給するための塗布液供給装置であって、少なくとも前記粘着剤塗布液を送液するためのポンプと、前記粘着剤塗布液中に含まれる気泡および/または異物を除去するためのろ過部と、前記粘着剤塗布液を移送するための送液部と、を備え、前記ろ過部が、ろ過精度が1〜20μmであるデプスタイプ・フィルターを備え、差圧が0kPaを超え、かつ150kPa以下の状態でろ過処理する機能を有することを特徴とする。かかる塗布液供給装置において、前記デプスタイプ・フィルターが、ろ過精度に勾配を有することが好ましい。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係る光学フィルム用粘着剤層の製造方法では、水分散型粘着剤を含有する粘着剤塗布液をろ過処理する工程を含む。水分散型粘着剤は、一般に粘度が低い溶剤系塗布液に比して泡噛みが発生し易く、かつ粘度が比較的高いため、微小な気泡、具体的には100μm未満の気泡を含み易い。しかしながら、本発明に係る光学フィルム用粘着剤層の製造方法では、デプスタイプ・フィルターを使用し、粘着剤層の原料となる粘着剤塗布液を、差圧が0kPaを超え、かつ150kPa以下の状態でろ過処理するろ過工程を含み、かつデプスタイプ・フィルターのろ過精度が1〜20μmであるため、微小な気泡および/または異物、特には100μm未満の気泡および/または異物であっても確実かつ効率よく除去することができる。かかるデプスタイプ・フィルターとして、ろ過精度に勾配を有し、下流側に向けてろ過精度が高いものを使用した場合、上流側で大きな気泡および/または異物を捕集し、下流側に進むに連れて小さな気泡および/または異物を捕集することができる。このため、フィルター寿命を延ばしつつ、気泡および/または異物の除去効率を高めることができる。また、本発明に係る光学フィルム用粘着剤層の製造方法は、粘度が5〜50000mPa・sである粘着剤塗布液に対して、気泡および/または異物の除去効率が高いため、かかる粘度を有する粘着剤塗布液を原料として使用する場合に特に有用である。なお、本発明に係る光学フィルム用粘着剤層の製造方法では、デプスタイプ・フィルターを製造工程、特には粘着剤塗布液の塗布工程途中に設置可能であり、粘着剤塗布液に与える影響も少ないため、他の脱泡方法(例えば、真空脱泡処理や遠心分離処理)と比較しても利便である。
【0019】
本発明に係る光学フィルム用粘着剤層の製造方法では、外観欠点が極めて低減された光学フィルム用粘着剤層、特には最大長さが100μmを超える気泡および/または異物を含んでおらず、かつ、前記粘着剤層の面において、最大長さが20μm以上の気泡および/または異物の個数が、10個/m以内である光学フィルム用粘着剤層を製造することができる。かかる粘着剤層は、光学フィルム用部材として有用である。
【0020】
また、本発明に係る粘着型光学フィルムの製造方法では、水分散型粘着剤を含有する粘着剤塗布液をろ過処理する工程を含む。水分散型粘着剤は、一般に粘度が低い溶剤系塗布液に比して泡噛みが発生し易く、かつ粘度が比較的高いため、微小な気泡、具体的には100μm未満の気泡を含み易い。しかしながら、本発明に係る粘着型光学フィルムの製造方法では、デプスタイプ・フィルターを使用し、粘着剤層の原料となる粘着剤塗布液を、差圧が0kPaを超え、かつ150kPa以下の状態でろ過処理するろ過工程を含み、かつデプスタイプ・フィルターのろ過精度が1〜20μmであるため、微小な気泡および/または異物、特には100μm未満の気泡および/または異物であっても確実かつ効率よく除去することができる。かかるデプスタイプ・フィルターとして、ろ過精度に勾配を有し、下流側に向けてろ過精度が高いものを使用した場合、上流側で大きな気泡および/または異物を捕集し、下流側に進むに連れて小さな気泡および/または異物を捕集することができる。このため、フィルター寿命を延ばしつつ、気泡および/または異物の除去効率を高めることができる。また、本発明に係る粘着型光学フィルムの製造方法は、粘度が5〜50000mPa・sである粘着剤塗布液に対して、気泡および/または異物の除去効率が高いため、かかる粘度を有する粘着剤塗布液を原料として使用する場合に特に有用である。なお、本発明に係る粘着型光学フィルムの製造方法では、デプスタイプ・フィルターを製造工程、特には粘着剤塗布液の塗布工程途中に設置可能であり、粘着剤塗布液に与える影響も少ないため、他の脱泡方法(例えば、真空脱泡処理や遠心分離処理)と比較しても利便である。
【0021】
前記ろ過工程の後、前記粘着剤塗布液を前記光学フィルム上に塗布した後、乾燥する塗布・乾燥工程をさらに含むことにより、粘着剤層が積層された粘着型光学フィルムを製造しても良い。また、前記ろ過工程の後、前記粘着剤塗布液を可撓性支持体(ウェブ)に塗布し、乾燥することにより、粘着剤層を設けた可撓性支持体(ウェブ)を製造する塗布・乾燥工程と、前記粘着剤層を設けた可撓性支持体(ウェブ)から、前記粘着剤層を前記光学フィルム上に転写する転写工程と、をさらに含むことにより、粘着剤層が積層された粘着型光学フィルムを製造しても良い。後者の場合、加熱による乾燥工程において、光学フィルムが加熱されることを防止できるため、光学フィルムの光学特性を保持したまま、粘着型光学フィルムを製造することができる。
【0022】
本発明に係る粘着型光学フィルムの製造方法では、粘着剤層中の外観欠点を低減した粘着型光学フィルムを製造することができる。このため、かかる粘着型光学フィルムを少なくとも1つ用いた画像表示装置は、同様に外観欠点が低減されている。
【0023】
本発明に係る塗布液供給装置は、塗布液から、外観欠点の原因となる気泡および/または異物を確実かつ効率よく除去することができる。このため、粘着型光学フィルムの製造装置として有用である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明に係る光学フィルム用粘着剤総の製造方法は、ろ過精度が1〜20μmであるデプスタイプ・フィルターを使用し、水分散型粘着剤を含有する粘着剤塗布液を、差圧が0kPaを超え、かつ150kPa以下の状態でろ過処理するろ過工程と、ろ過処理後の前記粘着剤塗布液を塗布した後、乾燥する塗布・乾燥工程と、を含む。
【0025】
前記粘着剤塗布液は、水分散型粘着剤を含有する。粘着剤塗布液は、必要に応じて水分散型粘着剤に加えて、各種粘度調整剤、剥離調整剤、粘着付与剤、可塑剤、軟化剤、ガラス繊維、ガラスビーズ、金属粉、その他の無機粉末などからなる充填剤、顔料、着色剤(顔料、染料など)、pH調整剤(酸または塩基)、酸化防止剤、紫外線吸収剤、シランカップリング剤などを含有することができる。
【0026】
水分散型粘着剤は、少なくともベースポリマーが水中に分散含有されている水分散液である。当該水分散液としては、通常は、界面活性剤の存在下にベースポリマーが分散しているものが用いられるが、ベースポリマーが水中に分散含有されているものであれば、自己分散性ベースポリマーの自己分散によって、水分散液になっているものを用いることができる。
【0027】
水分散液中のベースポリマーは、モノマーを乳化剤の存在下において乳化重合したり、または界面活性剤の存在下に分散重合したりして重合することにより得られたものが挙げられる。
【0028】
また、水分散液は、別途製造したベースポリマーを、乳化剤の存在下に水中で乳化分散することにより製造することができる。乳化方法としては、ポリマーと乳化剤を予め加熱溶融し、または加熱溶融することなく、それらと水とを、例えば加圧ニーダー、コロイドミル、高速攪拌シャフトなどの混合機を用いて、高剪断をかけて均一に乳化分散させた後、分散粒子が融着凝集しないように冷却して所望の水分散体を得る方法(高圧乳化法)や、ポリマーを予めベンゼン、トルエン、酢酸エチルなどの有機溶剤に溶解した後、前記乳化剤および水を添加し、例えば高速乳化機を用いて、高剪断をかけて均一に乳化分散させた後、減圧−加熱処理などにより有機溶剤を除去して所望の水分散体とする方法(溶剤溶解法)などが挙げられる。
【0029】
水分散型粘着剤としては、各種の粘着剤を用いることができ、例えば、ゴム系粘着剤、アクリル系粘着剤、シリコーン系粘着剤、ポリウレタン系粘着剤、ビニルアルキルエーテル系粘着剤、ポリビニルアルコール系粘着剤、ポリビニルピロリドン系粘着剤、ポリアクリルアミド系粘着剤、セルロース系粘着剤、ポリエステル系粘着剤、フッ素系粘着剤などが挙げられる。前記粘着剤の種類に応じて粘着性のベースポリマーや分散手段が選択される。
【0030】
前記粘着剤のなかでも、本発明では、光学的透明性に優れ、適宜な濡れ性と凝集性と接着性の粘着特性を示して、耐候性や耐熱性などに優れる点から水分散型のアクリル系粘着剤が好ましく使用される。
【0031】
水分散型アクリル系粘着剤のベースポリマーである(メタ)アクリル系ポリマーは、例えば、(メタ)アクリル酸アルキルエステルを主成分とするモノマー成分を、乳化剤、ラジカル重合開始剤の存在下に乳化重合することにより共重合体エマルションとして得られる。なお、(メタ)アクリル酸アルキルエステルはアクリル酸アルキルエステルおよび/またはメタクリル酸アルキルエステルをいい、本発明の(メタ)とは同様の意味である。
【0032】
(メタ)アクリル系ポリマーの主骨格を構成する、(メタ)アクリル酸アルキルエステルとしては、直鎖状または分岐鎖状のアルキル基の炭素数1〜20のものを例示できる。例えば、前記アルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、t−ブチル基、ペンチル基、ネオペンチル基、イソアミル基、ヘキシル基、ヘプチル基、2−エチルヘキシル基、イソオクチル基、ノニル基、イソノニル基、デシル基、イソデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基、ナノデシル基、エイコシル基などを例示できる。これらは単独であるいは組み合わせて使用することができる。これらアルキル基の平均炭素数は3〜9であるのが好ましい。特に、本発明においては、上記(メタ)アクリル酸アルキルエステルとして、アクリル酸ブチルのような、水よりも沸点が高いモノマーが特に好適に使用される。
【0033】
前記(メタ)アクリル系ポリマー中には、(メタ)アクリル酸アルキルエステル以外に、水分散液の安定化、粘着剤層の光学フィルムなどの支持基材に対する密着性の向上、さらには、被着体に対する初期接着性の向上などを目的として、(メタ)アクリロイル基またはビニル基などの不飽和二重結合に係る重合性の官能基を有する、1種類以上の共重合モノマーを共重合により導入することができる。
【0034】
前記共重合モノマーの具体例としては、特に制限されず、例えば、(メタ)アクリル酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸、クロトン酸、カルボキシエチルアクリレート、カルボキシペンチルアクリレートなどのカルボキシル基含有モノマー;例えば、無水マレイン酸、無水イタコン酸などの酸無水物基含有モノマー;例えば、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸ボルニル、(メタ)アクリル酸イソボルニルなどの (メタ)アクリル酸脂環式炭化水素エステル;例えば、(メタ)アクリル酸フェニルなどの(メタ)アクリル酸アリールエステル、例えば、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニルなどのビニルエステル類;例えば、スチレンやα−メチルスチレンなどのスチレン系モノマー;例えば、(メタ)アクリル酸グリシジル、(メタ)アクリル酸メチルグリシジルなどのエポキシ基含有モノマー;例えば、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸4−ヒドロキシブチルなどのヒドロキシル基含有モノマー;例えば、(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメチル (メタ)アクリルアミド、N,N−ジエチル(メタ)アクリルアミド、N−イソプロピル(メタ)アクリルアミド、N−ブチル(メタ)アクリルアミド、N−メチロール(メタ)アクリルアミド、N−メチロールプロパン(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリロイルモルホリン、(メタ)アクリル酸アミノエチル、(メタ)アクリル酸N,N−ジメチルアミノエチル、(メタ)アクリル酸t−ブチルアミノエチルなどの窒素原子含有モノマー;例えば、(メタ)アクリル酸メトキシエチル、(メタ)アクリル酸エトキシエチルなどのアルコキシ基含有モノマー;例えば、アクリロニトリル、メタクリロニトリルなどのシアノ基含有モノマー;例えば、2−メタクリロイルオキシエチルイソシアネートなどの官能性モノマー;例えば、エチレン、プロピレン、イソプレン、ブタジエン、イソブチレンなどのオレフィン系モノマー;例えば、ビニルエーテルなどのビニルエーテル系モノマー;例えば、塩化ビニルなどのハロゲン原子含有モノマー;その他、例えば、N−ビニルピロリドン、N−(1−メチルビニル)ピロリドン、N−ビニルピリジン、N−ビニルピペリドン、N−ビニルピリミジン、N−ビニルピペラジン、N−ビニルピラジン、N−ビニルピロール、N−ビニルイミダゾール、N−ビニルオキサゾール、N−ビニルモルホリンなどのビニル基含有複素環化合物や、N−ビニルカルボン酸アミド類などが挙げられる。
【0035】
また、共重合性モノマーとして、例えば、N−シクロヘキシルマレイミド、N−イソプロピルマレイミド、N−ラウリルマレイミド、N−フェニルマレイミドなどのマレイミド系モノマー;例えば、N−メチルイタコンイミド、N−エチルイタコンイミド、N−ブチルイタコンイミド、N−オクチルイタコンイミド、N−2−エチルヘキシルイタコンイミド、N−シクロヘキシルイタコンイミド、N−ラウリルイタコンイミドなどのイタコンイミド系モノマー;例えば、N−(メタ)アクリロイルオキシメチレンスクシンイミド、N−(メタ)アクリロイル−6−オキシヘキサメチレンスクシンイミド、N−(メタ)アクリロイル−8−オキシオクタメチレンスクシンイミドなどのスクシンイミド系モノマー;例えば、スチレンスルホン酸、アリルスルホン酸、2−(メタ)アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、(メタ)アクリルアミドプロパンスルホン酸、スルホプロピル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリロイルオキシナフタレンスルホン酸などのスルホン酸基含有モノマーが挙げられる。
【0036】
また、共重合性モノマーとしては、リン酸基含有モノマーが挙げられる。リン酸基含有モノマーとしては、例えば、下記一般式(1):
【化1】


(一般式(1)中、Rは、水素原子またはメチル基を示し、Rは炭素数1〜4のアルキレン基、mは2以上の整数を示し、MおよびMは、それぞれ独立に、水素原子またはカチオンを示す。)で表されるリン酸基またはその塩を示す。)で表されるリン酸基含有モノマーが挙げられる。
【0037】
なお、一般式(1)中、mは、2以上、好ましくは、4以上、通常40以下であり、mは、オキシアルキレン基の重合度を表す。また、ポリオキシアルキレン基としては、例えば、ポリオキシエチレン基、ポリオキシプロピレン基などが挙げられ、これらポリオキシアルキレン基は、これらのランダム、ブロックまたはグラフトユニットなどであってもよい。また、リン酸基の塩に係る、カチオンは、特に制限されず、例えば、ナトリウム、カリウムなどのアルカリ金属、例えば、カルシウム、マグネシウムなどのアルカリ土類金属などの無機カチオン、例えば、4級アミン類などの有機カチオンなどが挙げられる。
【0038】
また、共重合性モノマーとして、例えば、(メタ)アクリル酸ポリエチレングリコール、(メタ)アクリル酸ポリプロピレングリコール、(メタ)アクリル酸メトキシエチレングリコール、(メタ)アクリル酸メトキシポリプロピレングリコールなどのグリコール系アクリルエステルモノマー;その他、例えば、(メタ)アクリル酸テトラヒドロフルフリルや、フッ素(メタ)アクリレートなどの複素環や、ハロゲン原子を含有するアクリル酸エステル系モノマーなどが挙げられる。
【0039】
さらに共重合性モノマーとして、シリコーン系不飽和モノマーが挙げられる。シリコーン系不飽和モノマーには、シリコーン系(メタ)アクリレートモノマーや、シリコーン系ビニルモノマーなどが含まれる。シリコーン系(メタ)アクリレートモノマーとしては、例えば、(メタ)アクリロイルオキシメチル−トリメトキシシラン、(メタ)アクリロイルオキシメチル−トリエトキシシラン、2−(メタ)アクリロイルオキシエチル−トリメトキシシラン、2−(メタ)アクリロイルオキシエチル−トリエトキシシラン、3−(メタ)アクリロイルオキシプロピル−トリメトキシシラン、3−(メタ)アクリロイルオキシプロピル−トリエトキシシラン、3−(メタ)アクリロイルオキシプロピル−トリプロポキシシラン、3−(メタ)アクリロイルオキシプロピル−トリイソプロポキシシラン、3−(メタ)アクリロイルオキシプロピル−トリブトキシシランなどの(メタ)アクリロイルオキシアルキル−トリアルコキシシラン;例えば、(メタ)アクリロイルオキシメチル−メチルジメトキシシラン、(メタ)アクリロイルオキシメチル−メチルジエトキシシラン、2−(メタ)アクリロイルオキシエチル−メチルジメトキシシラン、2−(メタ)アクリロイルオキシエチル−メチルジエトキシシラン、3−(メタ)アクリロイルオキシプロピル−メチルジメトキシシラン、3−(メタ)アクリロイルオキシプロピル−メチルジエトキシシラン、3−(メタ)アクリロイルオキシプロピル−メチルジプロポキシシラン、3−(メタ)アクリロイルオキシプロピル−メチルジイソプロポキシシラン、3−(メタ)アクリロイルオキシプロピル−メチルジブトキシシラン、3−(メタ)アクリロイルオキシプロピル−エチルジメトキシシラン、3−(メタ)アクリロイルオキシプロピル−エチルジエトキシシラン、3−(メタ)アクリロイルオキシプロピル−エチルジプロポキシシラン、3−(メタ)アクリロイルオキシプロピル−エチルジイソプロポキシシラン、3−(メタ)アクリロイルオキシプロピル−エチルジブトキシシラン、3−(メタ)アクリロイルオキシプロピル−プロピルジメトキシシラン、3−(メタ)アクリロイルオキシプロピル−プロピルジエトキシシランなどの(メタ)アクリロイルオキシアルキル−アルキルジアルコキシシランや、これらに対応する(メタ)アクリロイルオキシアルキル−ジアルキル(モノ)アルコキシシランなどが挙げられる。また、シリコーン系ビニルモノマーとしては、例えば、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリプロポキシシラン、ビニルトリイソプロポキシシラン、ビニルトリブトキシシランなどのビニルトリアルコキシシランの他、これらに対応するビニルアルキルジアルコキシシランや、ビニルジアルキルアルコキシシラン、例えば、ビニルメチルトリメトキシシラン、ビニルメチルトリエトキシシラン、β−ビニルエチルトリメトキシシラン、β−ビニルエチルトリエトキシシラン、γ−ビニルプロピルトリメトキシシラン、γ−ビニルプロピルトリエトキシシラン、γ−ビニルプロピルトリプロポキシシラン、γ−ビニルプロピルトリイソプロポキシシラン、γ−ビニルプロピルトリブトキシシランなどのビニルアルキルトリアルコキシシランの他、これらに対応する(ビニルアルキル)アルキルジアルコキシシランや、(ビニルアルキル)ジアルキル(モノ)アルコキシシランなどが挙げられる。
【0040】
さらに、共重合性モノマーとして、水分散型粘着剤のゲル分率の調整などのために、多官能性モノマーを用いることができる。多官能モノマーとしては、(メタ)アクリロイル基、ビニル基などの不飽和二重結合を2個以上有する化合物などが挙げられる。例えば、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ) アクリレートなどの(モノまたはポリ)エチレングリコールジ(メタ)アクリレートや、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレートなどの(モノまたはポリ)プロピレングリコールジ(メタ)アクリレートなどの(モノまたはポリ)アルキレングリコールジ(メタ)アクリレートの他、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレートなどの(メタ)アクリル酸と多価アルコールとのエステル化物;ジビニルベンゼンなどの多官能ビニル化合物;(メタ)アクリル酸アリル、(メタ)アクリル酸ビニルなどの反応性の不飽和二重結合を有する化合物などが挙げられる。また、多官能性モノマーとしては、ポリエステル、エポキシ、ウレタンなどの骨格にモノマー成分と同様の官能基として(メタ)アクリロイル基、ビニル基などの不飽和二重結合を2個以上付加したポリエステル(メタ)アクリレート、エポキシ(メタ)アクリレート、ウレタン(メタ)アクリレートなどを用いることもできる。
【0041】
これらの共重合モノマーの中でも、水分散液(エマルションなど)の安定化や、当該水分散液から形成される粘着剤層の被着体であるガラスパネルへの密着性の確保の観点から、アクリル酸などのカルボキシル基含有モノマー、リン酸基含有モノマー、シリコーン系不飽和モノマーが好ましく用いられる。
【0042】
(メタ)アクリル系ポリマーは、(メタ)アクリル酸アルキルエステルを主成分とするものであり、その配合割合は、モノマー成分全量に対して、50重量%以上、好ましくは60重量%以上、さらに好ましくは70重量%以上である。また、その上限は、特に制限されず、例えば、100重量%、好ましくは99重量%、さらに好ましくは98重量%である。(メタ)アクリル酸アルキルエステルの配合割合が50重量%未満であると、粘着剤層の接着力などの粘着特性が低下する場合がある。
【0043】
また、共重合性モノマーの配合割合は、モノマー成分全量に対して、例えば、50重量%未満、好ましくは、40重量%未満、さらに好ましくは、30重量%未満である。共重合性モノマーは、各共重合性モノマーの種類に応じて、配合割合を適宜選択することができる。例えば、共重合性モノマーが、カルボキシル基含有モノマーの場合、その割合はモノマー成分全量に対して0.1〜6重量%であるのが好ましく、リン酸基含有モノマーの場合その割合は0.5〜5重量%であるのが好ましく、シリコーン系不飽和モノマーの場合その割合は0.005〜0.2重量%であるのが好ましい。
【0044】
前記モノマー成分の乳化重合は、常法により、モノマー成分を水に乳化させた後に、乳化重合することにより行う。これにより(メタ)アクリル系ポリマー水分散液を調製する。乳化重合では、例えば、上記したモノマー成分とともに、乳化剤、ラジカル重合開始剤、必要に応じて連鎖移動剤などを、水中において適宜配合される。より具体的には、例えば、一括仕込み法(一括重合法)、モノマー滴下法、モノマーエマルション滴下法などの公知の乳化重合法を採用することができる。なお、モノマー滴下法、モノマーエマルション滴下法では、連続滴下または分割滴下が適宜選択される。これらの方法は適宜に組み合わせることができる。反応条件などは、適宜選択されるが、重合温度は、例えば、0〜150℃程度であり、重合時間は2〜15時間程度ある。
【0045】
乳化剤としては、特に制限されず、乳化重合に通常使用される各種の乳化剤が用いられる。例えば、ラウリル硫酸ナトリウム、ラウリル硫酸アンモニウム、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ポリオキシエチレンラウリル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル硫酸アンモニウム、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレンアルキルスルホコハク酸ナトリウムなどのアニオン系乳化剤;例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロックポリマーなどのノニオン系乳化剤などが挙げられる。また、これらアニオン系乳化剤やノニオン系乳化剤に、プロペニル基やアリルエーテル基などのラジカル重合性官能基(ラジカル反応性基)が導入されたラジカル重合性乳化剤などが挙げられる。これら乳化剤は、適宜、単独または併用して用いられる。これらの乳化剤の中でも、ラジカル重合性官能基を有したラジカル重合性乳化剤は、水分散液(エマルション)の安定性、粘着剤層の耐久性の観点から、好ましく使用される。
【0046】
前記乳化剤の配合割合は、前記(メタ)アクリル酸アルキルエステルを主成分とするモノマー成分100重量部に対して、例えば、0.1〜5重量部程度、好ましくは0.4〜3重量部である。乳化剤の配合割合が、この範囲であると、耐水性、粘着特性、さらには重合安定性、機械的安定性などの向上を図ることができる。
【0047】
ラジカル重合開始剤としては、特に制限されず、乳化重合に通常使用される公知のラジカル重合開始剤が用いられる。例えば、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオンアミジン)二硫酸塩、2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオンアミジン)二塩酸塩、2,2’−アゾビス(2−アミジノプロパン)二塩酸塩、2,2’−アゾビス[2−(2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]二塩酸塩などのアゾ系開始剤;例えば、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウムなどの過硫酸塩系開始剤;例えば、ベンゾイルパーオキサイド、t−ブチルハイドロパーオキサイド、過酸化水素などの過酸化物系開始剤;例えば、フェニル置換エタンなどの置換エタン系開始剤;例えば、芳香族カルボニル化合物などのカルボニル系開始剤などが挙げられる。前記ラジカル重合開始剤のなかでも、アゾ系のラジカル重合開示剤は、本発明において形成される粘着剤層の透明性を向上させることができ好ましい。これら重合開始剤は、適宜、単独または併用して用いられる。また、ラジカル重合開始剤の配合割合は、適宜選択されるが、モノマー成分100重量部に対して、例えば、0.02〜0.5重量部程度、好ましくは、0.08〜0.3重量部である。0.02重量部未満であると、ラジカル重合開始剤としての効果が低下する場合があり、0.5重量部を超えると、水分散型の(メタ)アクリル系ポリマーの分子量が低下し、水分散型粘着剤組成物の粘着性が低下する場合がある。
【0048】
連鎖移動剤は、必要により、水分散型の(メタ)アクリル系ポリマーの分子量を調節するものであって、通常、乳化重合に通常使用される連鎖移動剤が用いられる。例えば、1−ドデカンチオール、メルカプト酢酸、2−メルカプトエタノール、チオグリコール酸2−エチルへキシル、2,3−ジメチルカプト−1−プロパノール、メルカプトプロピオン酸エステル類などのメルカプタン類などが挙げられる。これら連鎖移動剤は、適宜、単独または併用して用いられる。また、連鎖移動剤の配合割合は、モノマー成分100重量部に対して、例えば、0.001〜0.3重量部である。
【0049】
このような乳化重合によって、水分散型の(メタ)アクリル系ポリマーを水分散液(エマルション)として調製することができる。このような水分散型の(メタ)アクリル系ポリマーは、その平均粒子径が、例えば、0.05〜3μm、好ましくは、0.05〜1μmに調整される。平均粒子径が0.05μmより小さいと、水分散型粘着剤の粘度が上昇する場合があり、1μmより大きいと、粒子間の融着性が低下して凝集力が低下する場合がある。
【0050】
また、前記水分散液の分散安定性を保つために、前記水分散液に係る(メタ)アクリル系ポリマーが、共重合性モノマーとしてカルボキシル基含有モノマーなどを含有する場合には、当該カルボキシル基含有モノマーなどを中和することが好ましい。中和は、例えば、アンモニア、水酸化アルカリ金属などにより行なうことができる。
【0051】
本発明の水分散型の(メタ)アクリル系ポリマーは、通常、重量平均分子量は100万以上のものが好ましい。特に重量平均分子量で100万〜400万のものが耐熱性、耐湿性の点で好ましい。重量平均分子量が100万未満であると耐熱性、耐湿性が低下し好ましくない。また乳化重合で得られる粘着剤はその重合機構より分子量が非常に高分子量になるので好ましい。ただし、乳化重合で得られる粘着剤は一般にはゲル分が多くGPC(ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー)で測定できないので分子量に関する実測定での裏付けは難しいことが多い。
【0052】
本発明で使用する水分散型粘着剤は、上記のベースポリマーに加えて、架橋剤を含有することができる。水分散型粘着剤が水分散型アクリル系粘着剤の場合に用いられる架橋剤としては、イソシアネート系架橋剤、エポキシ系架橋剤、オキサゾリン系架橋剤、アジリジン系架橋剤、カルボジイミド系架橋剤、金属キレート系架橋剤などの一般に用いられているものを使用できる。これら架橋剤は、官能基含有単量体を用いることにより重合体中に導入した官能基と反応して架橋する効果を有する。
【0053】
ベースポリマーと架橋剤の配合割合は特に限定されないが、通常、ベースポリマー(固形分)100重量部に対して、架橋剤(固形分)10重量部程度以下の割合で配合される。前記架橋剤の配合割合は、0.001〜10重量部が好ましく、さらには0.01〜5重量部程度が好ましい。
【0054】
本発明に係る光学フィルム用粘着剤層の製造方法、さらには粘着型光学フィルムの製造方法では、水分散型粘着剤を主成分として含有する粘着剤塗布液として、粘度が5〜50000mPa・sである粘着剤塗布液を使用することが好ましく、50〜20000mPa・sである粘着剤塗布液を使用することがより好ましく、200〜10000mPa・sである粘着剤塗布液を使用することが特に好ましい。
【0055】
本発明に係る光学フィルム用粘着剤層の製造方法、さらには粘着型光学フィルムの製造方法において、粘着剤層の原料となる粘着剤塗布液のろ過工程に使用するデプスタイプ・フィルターは、ポリオレフィン系複合繊維、熱接着性ポリエステル繊維などを使用し、繊維の交絡点を熱接着させることにより空隙が形成されたものである。一般に、ろ材表面でろ過するプリーツタイプ・フィルターは、繰り返しろ過工程で使用された場合にろ材が潰れたり、ろ過時の差圧が大きいと、圧力で気泡および/または異物が容易に変形して小さくなり、気泡および/または異物がフィルターを通過する可能性が高い。一方、デプスタイプ・フィルターは、ろ材の厚みでろ過するため、その厚みの影響で気泡および/または異物がフィルターを通過し難い。このため、本発明に係る粘着剤塗布液のろ過工程においては、デプスタイプ・フィルターを好適に使用することができる。なお、デプスタイプ・フィルターは、通常、カートリッジタイプのフィルターとして市販されており、市販品のデプスタイプ・フィルターも好適に使用することができる。
【0056】
本発明に係る光学フィルム用粘着剤層の製造方法、さらには粘着型光学フィルムの製造方法においては、ろ過精度が1〜20μmであるデプスタイプ・フィルターを使用する。ろ過精度が20μmを超えるデプスタイプ・フィルターを使用した場合、ろ過孔径が大きすぎて気泡および/または異物がフィルターを通過し易くなり、特に100μm未満の気泡および/または異物の除去効率が低下する。一方、ろ過精度が1μm未満であるデプスタイプ・フィルターを使用した場合、ろ過時の差圧上昇に伴い、気泡および/または異物が容易に変形し、特に100μm未満の気泡および/または異物の除去効率が経時的に悪化する。気泡および/または異物の除去効率の向上と、差圧上昇に伴う経時的な気泡および/または異物の除去効率の悪化を防止する観点から、デプスタイプ・フィルターのろ過精度は1〜10μmであることが好ましく、5〜10μmであることがより好ましい。
【0057】
本発明に係る光学フィルム用粘着剤層の製造方法、さらには粘着型光学フィルムの製造方法のろ過工程では、デプスタイプ・フィルターの差圧が0kPaを超え、かつ150kPa以下となるように設定する。かかる差圧が150kPaを超えると、圧力で気泡および/または異物が変形してフィルターを通過し易くなり、特に100μm未満の気泡および/または異物の除去効率が悪化する。なお、気泡および/または異物の除去効率を考慮した場合、差圧の下限は特に制限が無いが、低すぎるとろ過工程に要する時間が長くなるため、0kPaを超えて設定することが好ましい。気泡および/または異物の除去効率と生産性を考慮した場合、デプスタイプ・フィルターの差圧が0kPaを超え、かつ130kPa以下であることが好ましく、0kPaを超え、かつ100kPa以下であることがより好ましい。また、かかるデプスタイプ・フィルターとして、ろ過精度に勾配を有し、下流側に向けてろ過精度が高いものを使用した場合、上流側で大きな気泡および/または異物を捕集し、下流側に進むに連れて小さな気泡および/または異物を捕集することができる。このため、フィルター寿命を延ばしつつ、気泡および/または異物の除去効率を高めることができる。
【0058】
前記ろ過工程では、少なくとも粘着剤塗布液を送液するためのポンプと、粘着剤塗布液中に含まれる気泡および/または異物を除去するためのろ過部と、粘着剤塗布液を移送するための送液部と、を備え、該ろ過部が、ろ過精度が1〜20μmであるデプスタイプ・フィルターを備え、差圧が0kPaを超え、かつ150kPa以下の状態でろ過処理する機能を有する塗布液供給装置を好適に使用することができる。かかるデプスタイプ・フィルターとしては、ろ過精度に勾配を有するものを好適に使用することができる。
【0059】
本発明に係る粘着型光学フィルムの製造方法では、ろ過処理を経た粘着剤塗布液を原料として粘着剤層を形成し、光学フィルムの少なくとも片側に、かかる粘着剤層を積層する工程を有する。なお、光学フィルムと粘着剤層との密着性をより高めるため、本発明に係る粘着型光学フィルムの製造方法では、粘着剤層を積層する工程の前に、光学フィルムの粘着剤層積層面側にコロナ処理またはプラズマ処理を施す工程を有してもよく、さらには光学フィルムと粘着剤層との間にアンカー層を形成する工程を有してもよい。
【0060】
光学フィルム上に粘着剤層を積層する工程は、特に制限されず、光学フィルム(あるいは光学フィルム上に形成されたアンカー層、コロナ処理面またはプラズマ処理面)に粘着剤溶液を塗布し乾燥する工程、粘着剤層を設けた可撓性支持体(ウェブ)により転写する工程などが挙げられる。塗布法は、リバースコーティング、グラビアコーティングなどのロールコーティング法、スピンコーティング法、スクリーンコーティング法、ファウンテンコーティング法、ディッピング法、スプレー法などを採用できる。ただし、水分散型粘着剤を含有する粘着剤塗布液を用いて光学フィルム用粘着剤層を形成する場合、水分の乾燥には80℃以上の加熱による乾燥工程が必要となる。光学フィルム上に粘着剤塗布液を直接塗布する場合、80度以上の加熱による乾燥工程は光学フィルムの光学特性に悪影響を及ぼす恐れがある。したがって、本発明においては、可撓性支持体(ウェブ)に粘着剤塗布液を塗布し、乾燥工程後に、粘着剤層を設けた可撓性支持体(ウェブ)により転写する転写方式が好ましい。
【0061】
積層する粘着剤層の厚さは1〜100μmであることが好ましく、5〜70μmであることがより好ましく、10〜50μmであることが特に好ましい。粘着剤層の厚さが薄すぎると、光学フィルムとの密着性不足やガラス界面との剥がれなどの不具合が発生し易く、厚すぎると、粘着剤の発泡などの不具合が発生し易い場合がある。
【0062】
可撓性支持体(ウェブ)の構成材料としては、紙、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレートなどの合成樹脂フィルム、ゴムシート、紙、布、不織布、ネット、発泡シートや金属箔、それらのラミネート体などの適宜な薄葉体などが挙げられる。可撓性支持体(ウェブ)の表面には、粘着剤層からの剥離性を高めるため、必要に応じてシリコーン処理、長鎖アルキル処理、フッ素処理などの低接着性の剥離処理が施されていても良い。
【0063】
本発明に係る粘着型光学フィルムの製造方法に使用される光学フィルムとしては、例えば、偏光板が挙げられる。偏光板は偏光子の片面または両面には透明保護フィルムを有するものが通常用いられる。
【0064】
偏光子は、特に限定されず、各種のものを使用できる。偏光子としては、例えば、ポリビニルアルコール系フィルム、部分ホルマール化ポリビニルアルコール系フィルム、エチレン・酢酸ビニル共重合体系部分ケン化フィルムなどの親水性高分子フィルムに、ヨウ素や二色性染料の二色性物質を吸着させて一軸延伸したもの、ポリビニルアルコールの脱水処理物やポリ塩化ビニルの脱塩酸処理物などポリエン系配向フィルムなどが挙げられる。これらの中でも、ポリビニルアルコール系フィルムとヨウ素などの二色性物質からなる偏光子が好適である。これらの偏光子の厚さは特に制限されないが、一般的に3〜80μm程度である。
【0065】
ポリビニルアルコール系フィルムをヨウ素で染色し一軸延伸した偏光子は、例えば、ポリビニルアルコールをヨウ素の水溶液に浸漬することによって染色し、元長の3〜7倍に延伸することで作成することができる。必要に応じてホウ酸や硫酸亜鉛、塩化亜鉛などを含んでいても良いヨウ化カリウムなどの水溶液に浸漬することもできる。さらに必要に応じて染色前にポリビニルアルコール系フィルムを水に浸漬して水洗してもよい。ポリビニルアルコール系フィルムを水洗することでポリビニルアルコール系フィルム表面の汚れやブロッキング防止剤を洗浄することができるほかに、ポリビニルアルコール系フィルムを膨潤させることで染色のムラなどの不均一を防止する効果もある。延伸はヨウ素で染色した後に行っても良いし、染色しながら延伸しても良いし、また延伸してからヨウ素で染色しても良い。ホウ酸やヨウ化カリウムなどの水溶液や水浴中でも延伸することができる。
【0066】
透明保護フィルムを構成する材料としては、例えば透明性、機械的強度、熱安定性、水分遮断性、等方性などに優れる熱可塑性樹脂が用いられる。このような熱可塑性樹脂の具体例としては、トリアセチルセルロースなどのセルロース樹脂、ポリエステル樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、ポリスルホン樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリオレフィン樹脂、(メタ)アクリル樹脂、環状ポリオレフィン樹脂(ノルボルネン系樹脂)、ポリアリレート樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、およびこれらの混合物が挙げられる。なお、偏光子の片側には、透明保護フィルムが接着剤層により貼り合わされるが、他の片側には、透明保護フィルムとして、(メタ)アクリル系、ウレタン系、アクリルウレタン系、エポキシ系、シリコーン系などの熱硬化性樹脂または紫外線硬化型樹脂を用いることができる。透明保護フィルム中には任意の適切な添加剤が1種類以上含まれていてもよい。添加剤としては、例えば、紫外線吸収剤、酸化防止剤、滑剤、可塑剤、離型剤、着色防止剤、難燃剤、核剤、帯電防止剤、顔料、着色剤などが挙げられる。透明保護フィルム中の前記熱可塑性樹脂の含有量は、好ましくは50〜100重量%、より好ましくは50〜99重量%、さらに好ましくは60〜98重量%、特に好ましくは70〜97重量%である。透明保護フィルム中の前記熱可塑性樹脂の含有量が50重量%以下の場合、熱可塑性樹脂が本来有する高透明性などが十分に発現できないおそれがある。
【0067】
また、透明保護フィルムとしては、特開2001−343529号公報(WO01/37007)に記載のポリマーフィルム、例えば、(A)側鎖に置換および/または非置換イミド基を有する熱可塑性樹脂と、(B)側鎖に置換および/または非置換フェニルならびにニトリル基を有する熱可塑性樹脂を含有する樹脂組成物が挙げられる。具体例としてはイソブチレンとN−メチルマレイミドからなる交互共重合体とアクリロニトリル・スチレン共重合体とを含有する樹脂組成物のフィルムが挙げられる。フィルムは樹脂組成物の混合押出品などからなるフィルムを用いることができる。これらのフィルムは位相差が小さく、光弾性係数が小さいため偏光板の歪みによるムラなどの不具合を解消することができ、また透湿度が小さいため、加湿耐久性に優れる。
【0068】
透明保護フィルムの厚さは、適宜に決定しうるが、一般には強度や取扱性などの作業性、薄層性などの点より1〜500μm程度である。特に1〜300μmが好ましく、5〜200μmがより好ましい。透明保護フィルムは、5〜150μmの場合に特に好適である。
【0069】
なお、偏光子の両側に透明保護フィルムを設ける場合、その表裏で同じポリマー材料からなる保護フィルムを用いてもよく、異なるポリマー材料などからなる保護フィルムを用いてもよい。
【0070】
本発明の透明保護フィルムとしては、セルロース樹脂、ポリカーボネート樹脂、環状ポリオレフィン樹脂および(メタ)アクリル樹脂から選ばれるいずれか少なくとも1つを用いるのが好ましい。
【0071】
セルロース樹脂は、セルロースと脂肪酸のエステルである。このようセルロースエステル系樹脂の具体例としでは、トリアセチルセルロース、ジアセチルセルロース、トリプロピオニルセルロース、ジプロピオニルセルロースなどが挙げられる。これらのなかでも、トリアセチルセルロースが特に好ましい。トリアセチルセルロースは多くの製品が市販されており、入手容易性やコストの点でも有利である。トリアセチルセルロースの市販品の例としては、富士フイルム社製の商品名「UV−50」、「UV−80」、「SH−80」、「TD−80U」、「TD−TAC」、「UZ−TAC」や、コニカ社製の「KCシリーズ」などが挙げられる。一般的にこれらトリアセチルセルロースは、面内位相差(Re)はほぼゼロであるが、厚み方向位相差(Rth)は、〜60nm程度を有している。
【0072】
なお、厚み方向位相差が小さいセルロース樹脂フィルムは、例えば、前記セルロース樹脂を処理することにより得られる。例えばシクロペンタノン、メチルエチルケトンなどの溶剤を塗工したポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレン、ステンレスなどの基材フィルムを、一般的なセルロース系フィルムに貼り合わせ、加熱乾燥(例えば80〜150℃で3〜10分間程度)した後、基材フィルムを剥離する方法;ノルボルネン系樹脂、(メタ)アクリル系樹脂などをシクロペンタノン、メチルエチルケトンなどの溶剤に溶解した溶液を一般的なセルロース樹脂フィルムに塗工し加熱乾燥(例えば80〜150℃で3〜10分間程度)した後、塗工フィルムを剥離する方法などが挙げられる。
【0073】
また、厚み方向位相差が小さいセルロース樹脂フィルムとしては、脂肪置換度を制御した脂肪酸セルロース系樹脂フィルムを用いることができる。一般的に用いられるトリアセチルセルロースでは酢酸置換度が2.8程度であるが、好ましくは酢酸置換度を1.8〜2.7に制御することによってRthを小さくすることができる。前記脂肪酸置換セルロース系樹脂に、ジブチルフタレート、p−トルエンスルホンアニリド、クエン酸アセチルトリエチルなどの可塑剤を添加することにより、Rthを小さく制御することができる。可塑剤の添加量は、脂肪酸セルロース系樹脂100重量部に対して、好ましくは40重量部以下、より好ましくは1〜20重量部、さらに好ましくは1〜15重量部である。
【0074】
環状ポリオレフィン樹脂の具体例としては、好ましくはノルボルネン系樹脂である。環状オレフィン系樹脂は、環状オレフィンを重合単位として重合される樹脂の総称であり、例えば、特開平1−240517号公報、特開平3−14882号公報、特開平3−122137号公報などに記載されている樹脂が挙げられる。具体例としては、環状オレフィンの開環(共)重合体、環状オレフィンの付加重合体、環状オレフィンとエチレン、プロピレンなどのα−オレフィンとその共重合体(代表的にはランダム共重合体)、および、これらを不飽和カルボン酸やその誘導体で変性したグラフト重合体、ならびに、それらの水素化物などが挙げられる。環状オレフィンの具体例としては、ノルボルネン系モノマーが挙げられる。
【0075】
環状ポリオレフィン樹脂としては、種々の製品が市販されている。具体例としては、日本ゼオン株式会社製の商品名「ゼオネックス」、「ゼオノア」、JSR株式会社製の商品名「アートン」、TICONA社製の商品名「トーパス」、三井化学株式会社製の商品名「APEL」が挙げられる。
【0076】
(メタ)アクリル系樹脂としては、Tg(ガラス転移温度)が好ましくは115℃以上、より好ましくは120℃以上、さらに好ましくは125℃以上、特に好ましくは130℃以上である。Tgが115℃以上であることにより、偏光板の耐久性に優れたものとなりうる。前記(メタ)アクリル系樹脂のTgの上限値は特に限定きれないが、成形性当の観点から、好ましくは170℃以下である。(メタ)アクリル系樹脂からは、面内位相差(Re)、厚み方向位相差(Rth)がほぼゼロものフィルムを得ることができる。
【0077】
(メタ)アクリル系樹脂としては、本発明の効果を損なわない範囲内で、任意の適切な(メタ)アクリル系樹脂を採用し得る。例えば、ポリメタクリル酸メチルなどのポリ(メタ)アクリル酸エステル、メタクリル酸メチル−(メタ)アクリル酸共重合、メタクリル酸メチル−(メタ)アクリル酸エステル共重合体、メタクリル酸メチル−アクリル酸エステル−(メタ)アクリル酸共重合体、(メタ)アクリル酸メチル−スチレン共重合体(MS樹脂など)、脂環族炭化水素基を有する重合体(例えば、メタクリル酸メチル−メタクリル酸シクロヘキシル共重合体、メタクリル酸メチル−(メタ)アクリル酸ノルボルニル共重合体など)が挙げられる。好ましくは、ポリ(メタ)アクリル酸メチルなどのポリ(メタ)アクリル酸C1−6アルキルが挙げられる。より好ましくはメタクリル酸メチルを主成分(50〜100重量%、好ましくは70〜100重量%)とするメタクリル酸メチル系樹脂が挙げられる。
【0078】
(メタ)アクリル系樹脂の具体例として、例えば、三菱レイヨン株式会社製のアクリペットVHやアクリペットVRL20A、特開2004−70296号公報に記載の分子内に環構造を有する(メタ)アクリル系樹脂、分子内架橋や分子内環化反応により得られる高Tg(メタ)アクリル樹脂系が挙げられる。
【0079】
(メタ)アクリル系樹脂として、ラクトン環構造を有する(メタ)アクリル系樹脂を用いることもできる。高い耐熱性、高い透明性、二軸延伸することにより高い機械的強度を有するからである。
【0080】
ラクトン環構造を有する(メタ)アクリル系樹脂としては、特開2000−230016号公報、特開2001−151814号公報、特開2002−120326号公報、特開2002−254544号公報、特開2005−146084号公報などに記載の、ラクトン環構造を有する(メタ)アクリル系樹脂が挙げられる。
【0081】
ラクトン環構造を有する(メタ)アクリル系樹脂は、好ましくは下記一般式(化2)で表される環擬構造を有する。
【化2】


式中、R、RおよびRは、それぞれ独立に、水素原子または炭素原子数1〜20の有機残基を示す。なお、有機残基は酸素原子を含んでいてもよい。
【0082】
ラクトン環構造を有する(メタ)アクリル系樹脂の構造中の一般式(化2)で表されるラクトン環構造の含有割合は、好ましくは5〜90重量%、より好ましくは10〜70重量%、さらに好ましくは10〜60重量%、特に好ましくは10〜50重量%である。ラクトン環構造を有する(メタ)アクリル系樹脂の構造中の一般式(化2)で表されるラクトン環構造の含有割合が5重量%よりも少ないと、耐熱性、耐溶剤性、表面硬度が不十分になるおそれがある。ラクトン環構造を有する(メタ)アクリル系樹脂の構造中の一般式(化2)で表されるラクトン環構造の含有割合が90重量%より多いと、成形加工性に乏しくなるおそれがある。
【0083】
ラクトン環構造を有する(メタ)アクリル系樹脂は、質量平均分子量(重量平均分子量と称することも有る)が、好ましくは1000〜2000000、より好ましくは5000〜1000000、さらに好ましくは10000〜500000、特に好ましくは50000〜500000である。質量平均分子量が前記範囲から外れると、成型加工性の点から好ましくない。
【0084】
ラクトン環構造を有する(メタ)アクリル系樹脂は、Tgが好ましくは115℃以上、より好ましくは120℃以上、さらに好ましくは125℃以上、特に好ましくは130℃以上である。Tgが115℃以上であることから、例えば、透明保護フィルムとして偏光板に組み入れた場合に、耐久性に優れたものとなる。前記ラクトン環構造を有する(メタ)アクリル系樹脂のTgの上限値は特に限定されないが、成形性などの観点から、好ましくは170℃以下である。
【0085】
ラクトン環構造を有する(メタ)アクリル系樹脂は、射出成形により得られる成形品の、ASTM−D−1003に準じた方法で測定される全光線透過率が、高ければ高いほど好ましく、好ましくは85%以上、より好ましくは88%以上、さらに好ましくは90%以上である。全光線透過率は透明性の目安であり、全光線透過率が85%未満であると、透明性が低下するおそれがある。
【0086】
前記透明保護フィルムは、正面位相差が40nm未満、かつ、厚み方向位相差が80nm未満であるものが、通常、用いられる。正面位相差Reは、Re=(nx−ny)×d、で表わされる。厚み方向位相差Rthは、Rth=(nx−nz)×d、で表される。また、Nz係数は、Nz=(nx−nz)/(nx−ny)、で表される。[ただし、フィルムの遅相軸方向、進相軸方向および厚さ方向の屈折率をそれぞれnx、ny、nzとし、d(nm)はフィルムの厚みとする。遅相軸方向は、フィルム面内の屈折率の最大となる方向とする。]。なお、透明保護フィルムは、できるだけ色付きがないことが好ましい。厚み方向の位相差値が−90nm〜+75nmである保護フィルムが好ましく用いられる。かかる厚み方向の位相差値(Rth)が−90nm〜+75nmのものを使用することにより、透明保護フィルムに起因する偏光板の着色(光学的な着色)をほぼ解消することができる。厚み方向位相差値(Rth)は、さらに好ましくは−80nm〜+60nm、特に−70nm〜+45nmが好ましい。
【0087】
一方、前記透明保護フィルムとして、正面位相差が40nm以上および/または、厚み方向位相差が80nm以上の位相差を有する位相差板を用いることができる。正面位相差は、通常、40〜200nmの範囲に、厚み方向位相差は、通常、80〜300nmの範囲に制御される。透明保護フィルムとして位相差板を用いる場合には、当該位相差板が透明保護フィルムとしても機能するため、薄型化を図ることができる。
【0088】
位相差板としては、高分子素材を一軸または二軸延伸処理してなる複屈折性フィルム、液晶ポリマーの配向フィルム、液晶ポリマーの配向層をフィルムにて支持したものなどが挙げられる。位相差板の厚さも特に制限されないが、20〜150μm程度が一般的である。
【0089】
高分子素材としては、例えば、ポリビニルアルコール、ポリビニルブチラール、ポリメチルビニルエーテル、ポリヒドロキシエチルアクリレート、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、メチルセルロース、ポリカーボネート、ポリアリレート、ポリスルホン、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリエーテルスルホン、ポリフェニレンスルファイド、ポリフェニレンオキサイド、ポリアリルスルホン、ポリアミド、ポリイミド、ポリオレフィン、ポリ塩化ビニル、セルロース樹脂、環状ポリオレフィン樹脂(ノルボルネン系樹脂)、またはこれらの二元系、三元系各種共重合体、グラフト共重合体、ブレンド物などが挙げられる。これらの高分子素材は延伸などにより配向物(延伸フィルム)となる。
【0090】
液晶ポリマーとしては、例えば、液晶配向性を付与する共役性の直線状原子団(メソゲン)がポリマーの主鎖や側鎖に導入された主鎖型や側鎖型の各種のものなどを挙げられる。主鎖型の液晶ポリマーの具体例としては、屈曲性を付与するスペーサー部でメソゲン基を結合した構造の、例えばネマチック配向性のポリエステル系液晶性ポリマー、ディスコティックポリマーやコレステリックポリマーなどが挙げられる。側鎖型の液晶ポリマーの具体例としては、ポリシロキサン、ポリアクリレート、ポリメタクリレートまたはポリマロネートを主鎖骨格とし、側鎖として共役性の原子団からなるスペーサー部を介してネマチック配向付与性のパラ置換環状化合物単位からなるメソゲン部を有するものなどが挙げられる。これらの液晶ポリマーは、例えば、ガラス板上に形成したポリイミドやポリビニルアルコールなどの薄膜の表面をラビング処理したもの、酸化ケイ素を斜方蒸着したものなどの配向処理面上に液晶性ポリマーの溶液を展開して熱処理することにより行われる。
【0091】
位相差板は、例えば各種波長板や液晶層の複屈折による着色や視角などの補償を目的としたものなどの使用目的に応じた適宜な位相差を有するものであって良く、2種以上の位相差板を積層して位相差などの光学特性を制御したものなどであっても良い。
【0092】
位相差板は、nx=ny>nz、nx>ny>nz、nx>ny=nz、nx>nz>ny、nz=nx>ny、nz>nx>ny、nz>nx=ny、の関係を満足するものが、各種用途に応じて選択して用いられる。なお、ny=nzとは、nyとnzが完全に同一である場合だけでなく、実質的にnyとnzが同じ場合も含む。
【0093】
例えば、nx>ny>nz、を満足する位相差板では、正面位相差は40〜100nm、厚み方向位相差は100〜320nm、Nz係数は1.8〜4.5を満足するものを用いるのが好ましい。例えば、nx>ny=nz、を満足する位相差板(ポジティブAプレート)では、正面位相差は100〜200nmを満足するものを用いるのが好ましい。例えば、nz=nx>ny、を満足する位相差板(ネガティブAプレート)では、正面位相差は100〜200nmを満足するものを用いるのが好ましい。例えば、nx>nz>ny、を満足する位相差板では、正面位相差は150〜300nm、Nz係数は0を超え〜0.7を満足するものを用いるのが好ましい。また、前記の通り、例えば、nx=ny>nz、nz>nx>ny、またはnz>nx=ny、を満足するものを用いることができる。
【0094】
透明保護フィルムは、適用される液晶表示装置に応じて適宜に選択できる。例えば、VA(VerticalAlignment,MVA,PVA含む)の場合は、偏光板の少なくとも片方(セル側)の透明保護フィルムが位相差を有している方が望ましい。具体的な位相差として、Re=0〜240nm、Rth=0〜500nmの範囲である事が望ましい。三次元屈折率で言うと、nx>ny=nz、nx>ny>nz、nx>nz>ny、nx=ny>nz(ポジティブAプレート,二軸,ネガティブCプレート)の場合が望ましい。VA型では、ポジティブAプレートとネガティブCプレートの組み合わせ、または二軸フィルム1枚で用いるのが好ましい。液晶セルの上下に偏光板を使用する際、液晶セルの上下共に、位相差を有している、または上下いずれかの透明保護フィルムが位相差を有していてもよい。
【0095】
例えば、IPS(In−Plane Switching,FFS含む)の場合、偏光板の片方の透明保護フィルムが位相差を有している場合、有していない場合のいずれも使用できる。例えば、位相差を有していない場合は、液晶セルの上下(セル側)ともに位相差を有していない場合が望ましい。位相差を有している場合は、液晶セルの上下ともに位相差を有している場合、上下のいずれかが位相差を有している場合が望ましい(例えば、上側にnx>nz>nyの関係を満足する二軸フィルム、下側に位相差なしの場合や、上側にポジティブAプレート、下側にポジティブCプレートの場合)。位相差を有している場合、Re=−500〜500nm、Rth=−500〜500nmの範囲が望ましい。三次元屈折率で言うと、nx>ny=nz、nx>nz>ny、nz>nx=ny、nz>nx>ny(ポジティブAプレート,二軸,ポジティブCプレート)が望ましい。
【0096】
なお、前記位相差を有するフィルムは、位相差を有しない透明保護フィルムに、別途、貼り合せて前記機能を付与することができる。
【0097】
前記透明保護フィルムは、接着剤を塗工する前に、偏光子との接着性を向上させるために、表面改質処理を行ってもよい。具体的な処理としては、コロナ処理、プラズマ処理、フレーム処理、オゾン処理、プライマー処理、グロー処理、ケン化処理、カップリング剤による処理などが挙げられる。また適宜に帯電防止層を形成することができる。
【0098】
前記透明保護フィルムの偏光子を接着させない面には、ハードコート層や反射防止処理、スティッキング防止や、拡散ないしアンチグレアを目的とした処理を施したものであってもよい。
【0099】
ハードコート処理は偏光板表面の傷付き防止などを目的に施されるものであり、例えばアクリル系、シリコーン系などの適宜な紫外線硬化型樹脂による硬度や滑り特性などに優れる硬化皮膜を透明保護フィルムの表面に付加する方式などにて形成することができる。反射防止処理は偏光板表面での外光の反射防止を目的に施されるものであり、従来に準じた反射防止膜などの形成により達成することができる。また、スティッキング防止処理は隣接層(例えば、バックライト側の拡散板)との密着防止を目的に施される。
【0100】
またアンチグレア処理は偏光板の表面で外光が反射して偏光板透過光の視認を阻害することの防止などを目的に施されるものであり、例えばサンドブラスト方式やエンボス加工方式による粗面化方式や透明微粒子の配合方式などの適宜な方式にて透明保護フィルムの表面に微細凹凸構造を付与することにより形成することができる。前記表面微細凹凸構造の形成に含有させる微粒子としては、例えば平均粒径が0.5〜20μmのシリカ、アルミナ、チタニア、ジルコニア、酸化錫、酸化インジウム、酸化カドミウム、酸化アンチモンなどからなる導電性のこともある無機系微粒子、架橋または未架橋のポリマーなどからなる有機系微粒子などの透明微粒子が用いられる。表面微細凹凸構造を形成する場合、微粒子の使用量は、表面微細凹凸構造を形成する透明樹脂100重量部に対して一般的に2〜70重量部程度であり、5〜50重量部が好ましい。アンチグレア層は、偏光板透過光を拡散して視角などを拡大するための拡散層(視角拡大機能など)を兼ねるものであってもよい。
【0101】
なお、前記反射防止層、スティッキング防止層、拡散層やアンチグレア層などは、透明保護フィルムそのものに設けることができるほか、別途光学層として透明保護フィルムとは別体のものとして設けることもできる。
【0102】
前記偏光子と透明保護フィルムとの接着処理には、接着剤が用いられる。接着剤としては、イソシアネート系接着剤、ポリビニルアルコール系接着剤、ゼラチン系接着剤、ビニル系ラテックス系、水系ポリエステルなどを例示できる。前記接着剤は、通常、水溶液からなる接着剤として用いられ、通常、0.5〜60重量%の固形分を含有してなる。前記の他、偏光子と透明保護フィルムとの接着剤としては、紫外硬化型接着剤、電子線硬化型接着剤などが挙げられる。電子線硬化型偏光板用接着剤は、前記各種の透明保護フィルムに対して、好適な接着性を示す。また本発明で用いる接着剤には、金属化合物フィラーを含有させることができる。
【0103】
また光学フィルムとしては、例えば反射板や反透過板、位相差板(1/2や1/4などの波長板を含む)、視覚補償フィルム、輝度向上フィルム、表面処理フィルムなどの液晶表示装置などの形成に用いられることのある光学層となるものが挙げられる。これらは単独で光学フィルムとして用いることができる他、前記偏光板に、実用に際して積層して、1層または2層以上用いることができる。
【0104】
表面処理フィルムは、前面板に貼り合せても設けられる。表面処理フィルムとしては、表面の耐擦傷性を付与するために用いられるハードコートフィルム、画像表示装置に対する写り込みを防止するためのアンチグレア処理フィルム、アンチリフレクティブフィルム、ローリフレクティブフィルムなどの反射防止フィルムなどが挙げられる。前面板は、液晶表示装置や有機EL表示装置、CRT、PDPなどの画像表示装置を保護したり、高級感を付与したり、デザインにより差別化したりするために、前記画像表示装置の表面に貼り合せて設けられる。また前面板は、3D−TVにおけるλ/4板の支持体として用いられる。例えば、液晶表示装置では、視認側の偏光板の上側に設けられる。本発明の粘着剤層を用いた場合には、前面板として、ガラス基材の他に、ポリカーボネート基材、ポリメチルメタクリレート基材などのプラスチック基材においてもガラス基材と同様の効果を発揮する。
【0105】
偏光板に前記光学層を積層した光学フィルムは、液晶表示装置などの製造過程で順次別個に積層する方式にても形成することができるが、予め積層して光学フィルムとしたものは、品質の安定性や組立作業などに優れていて液晶表示装置などの製造工程を向上させうる利点がある。積層には粘着層などの適宜な接着手段を用いうる。前記の偏光板と他の光学層の接着に際し、それらの光学軸は目的とする位相差特性などに応じて適宜な配置角度とすることができる。
【0106】
本発明の粘着型光学フィルムは液晶表示装置などの各種画像表示装置の形成などに好ましく用いることができる。液晶表示装置の形成は、従来に準じて行いうる。すなわち液晶表示装置は一般に、液晶セルなどの表示パネルと粘着型光学フィルム、および必要に応じての照明システムなどの構成部品を適宜に組み立てて駆動回路を組み込むことなどにより形成されるが、本発明においては本発明による粘着型光学フィルムを用いる点を除いて特に限定は無く、従来に準じうる。液晶セルについても、例えばTN型やSTN型、π型、VA型、IPS型などの任意なタイプのものを用いうる。
【0107】
液晶セルなどの表示パネルの片側または両側に粘着型光学フィルムを配置した液晶表示装置や、照明システムにバックライトあるいは反射板を用いたものなどの適宜な液晶表示装置を形成することができる。その場合、本発明による光学フィルムは液晶セルなどの表示パネルの片側または両側に設置することができる。両側に光学フィルムを設ける場合、それらは同じものであっても良いし、異なるものであっても良い。さらに、液晶表示装置の形成に際しては、例えば拡散板、アンチグレア層、反射防止膜、保護板、プリズムアレイ、レンズアレイシート、光拡散板、バックライトなどの適宜な部品を適宜な位置に1層または2層以上配置することができる。
【0108】
次いで有機エレクトロルミネセンス装置(有機EL表示装置:OLED)について説明する。一般に、有機EL表示装置は、透明基板上に透明電極と有機発光層と金属電極とを順に積層して発光体(有機エレクトロルミネセンス発光体)を形成している。ここで、有機発光層は、種々の有機薄膜の積層体であり、例えばトリフェニルアミン誘導体などからなる正孔注入層と、アントラセンなどの蛍光性の有機固体からなる発光層との積層体や、あるいはこのような発光層とペリレン誘導体などからなる電子注入層の積層体や、またあるいはこれらの正孔注入層、発光層、および電子注入層の積層体など、種々の組み合わせをもった構成が知られている。
【0109】
有機EL表示装置は、透明電極と金属電極とに電圧を印加することによって、有機発光層に正孔と電子とが注入され、これら正孔と電子との再結合によって生じるエネルギーが蛍光物資を励起し、励起された蛍光物質が基底状態に戻るときに光を放射する、という原理で発光する。途中の再結合というメカニズムは、一般のダイオードと同様であり、このことからも予想できるように、電流と発光強度は印加電圧に対して整流性を伴う強い非線形性を示す。
【0110】
有機EL表示装置においては、有機発光層での発光を取り出すために、少なくとも一方の電極が透明でなくてはならず、通常酸化インジウムスズ(ITO)などの透明導電体で形成した透明電極を陽極として用いている。一方、電子注入を容易にして発光効率を上げるには、陰極に仕事関数の小さな物質を用いることが重要で、通常Mg−Ag、Al−Liなどの金属電極を用いている。
【0111】
このような構成の有機EL表示装置において、有機発光層は、厚さ10nm程度ときわめて薄い膜で形成されている。このため、有機発光層も透明電極と同様、光をほぼ完全に透過する。その結果、非発光時に透明基板の表面から入射し、透明電極と有機発光層とを透過して金属電極で反射した光が、再び透明基板の表面側へと出るため、外部から視認したとき、有機EL表示装置の表示面が鏡面のように見える。
【0112】
電圧の印加によって発光する有機発光層の表面側に透明電極を備えるとともに、有機発光層の裏面側に金属電極を備えてなる有機エレクトロルミネセンス発光体を含む有機EL表示装置において、透明電極の表面側に偏光板を設けるとともに、これら透明電極と偏光板との間に位相差板を設けることができる。
【0113】
位相差板および偏光板は、外部から入射して金属電極で反射してきた光を偏光する作用を有するため、その偏光作用によって金属電極の鏡面を外部から視認させないという効果がある。特に、位相差板を1/4波長板で構成し、かつ偏光板と位相差板との偏光方向のなす角をπ/4に調整すれば、金属電極の鏡面を完全に遮蔽することができる。
【0114】
すなわち、この有機EL表示装置に入射する外部光は、偏光板により直線偏光成分のみが透過する。この直線偏光は位相差板により一般に楕円偏光となるが、とくに位相差板が1/4波長板でしかも偏光板と位相差板との偏光方向のなす角がπ/4のときには円偏光となる。
【0115】
この円偏光は、透明基板、透明電極、有機薄膜を透過し、金属電極で反射して、再び有機薄膜、透明電極、透明基板を透過して、位相差板に再び直線偏光となる。そして、この直線偏光は、偏光板の偏光方向と直交しているので、偏光板を透過できない。その結果、金属電極の鏡面を完全に遮蔽することができる。
【実施例】
【0116】
以下に、実施例によって本発明を具体的に説明するが、本発明はこれら実施例によって限定されるものではない。なお、各例中の部および%はいずれも重量基準である。
【0117】
(実施例1)
実施例1では、粘着剤塗布液として水分散型アクリル系粘着剤を用いた。この水分散型アクリル系粘着剤の調製に際しては、容器に、原料としてブチルアクリレート55554部、アクリル酸2776部、モノ[ポリ(プロピレンオキシド)メタクリレート]リン酸エステル(プロピレンオキシドの平均重合度5.0)1665部、および3−メタクリロイルオキシプロピル−トリエトキシシラン(信越化学工業(株)製,KBM−503)5部を加えて混合し、モノマー混合物を得た。次いで、調製したモノマー混合物60000部に、反応性乳化剤としてアクアロンHS−10(第一工業製薬社製)1300部、イオン交換水38700部を加え、ホモジナイザー(特殊機化工業(株)製)を用い、10分間、7000rpmで攪拌し、モノマーエマルションを調製した。次に、冷却管、窒素導入管、温度計、滴下ロートおよび攪拌羽根を備えた反応容器に、上記のようにして調製したモノマーエマルションのうちの20000部およびイオン交換水35000部を仕込み、次いで、反応容器を十分窒素置換した後、過硫酸アンモニウム10部を添加して、60℃で1時間重合した。次いで、残りのモノマーエマルションのうち80000部を、反応容器に3時間かけて滴下し、その後、3時間重合した。さらにその後、窒素置換しながら、65℃で5時間重合し、固形分濃度45%の水分散型粘着剤水溶液を得た。次いで、上記エマルション溶液を室温まで冷却した後、濃度10%のアンモニア水を30部添加し、さらに蒸留水で固形分を調製して39%とした。この液を、B型粘度計(東機産業製)を用いて、23℃、ローター回転数20rpmにて測定した結果、2000mPa・sであった。
【0118】
得られた前記水分散型アクリル系粘着剤をタンクに投入し、送液するためのポンプ(送液量2L/min)と、ろ過精度が1μmであって、ろ過精度に勾配を有するデプスタイプ・フィルター(30インチサイズ×6本)を備え、初期差圧が40kPaに設定されたろ過部と、塗布液を移送するための送液部と、を備える塗布液供給装置を使用して、前記水分散型アクリル系粘着剤を含有する粘着剤塗布液をろ過処理した(ろ過工程)。
【0119】
ろ過部(デプスタイプ・フィルター)を通過する前後で、粘着剤塗布液の気泡数および異物数をパーティクルカウンターで評価した。使用したパーティクルカウンターは、一定の領域を通過する粘着剤塗布液に対してレーザー光を照射した場合に、気泡および/または異物が存在すると、レーザー光が減衰する原理を利用して、レーザー光の減衰量を光検出器により検知することで、粘着剤塗布液中の気泡径および異物径、ならびに気泡数および異物数を測定するものである。評価方法の詳細を以下に示す。
【0120】
(気泡数および異物数評価方法)
塗布液中の気泡数および異物数評価として、Particle Measuring Systems社製の光遮蔽式のパーティクルカウンターを使用して、5〜100umのサイズの気泡および異物を計測した。塗布液は、ろ過前、ろ過後の液をサンプリングして評価した。また、フィルターのライフ(寿命)を評価するために、フィルターを10時間連続使用した後のろ過後の液もサンプリングしてパーティクルカウンターで計測した。測定結果は、単位重量当たりの気泡数および異物数(個/g)で表わされる。計測された5〜100umの気泡数および異物数を合計して、ろ過前後で計測された気泡数および異物数から(1)式の除去効率を算出して評価した。各実施例および比較例の評価結果を表1に示す。
[除去効率]=([ろ過後の気泡数および異物数]/[ろ過前の気泡数および異物数])×100 (1)
【0121】
(実施例2〜9)
ろ過精度、ろ過精度の勾配の有無、および差圧を表1に記載のものに変更したこと以外は、実施例1と同様の方法により、前記水分散型アクリル系粘着剤を含有する粘着剤塗布液をろ過処理した(ろ過工程)。
【0122】
(比較例1)
デプスタイプ・フィルターに代えて、プリーツタイプ・フィルターを使用したこと以外は、実施例1と同様の方法により、前記水分散型アクリル系粘着剤を含有する粘着剤塗布液をろ過処理した(ろ過工程)。
【0123】
(比較例2〜4)
ろ過精度、ろ過精度の勾配の有無、および差圧を表1に記載のものに変更したこと以外は、実施例1と同様の方法により、前記水分散型アクリル系粘着剤を含有する粘着剤塗布液をろ過処理した(ろ過工程)。
【0124】
【表1】

【0125】
表1の結果から、実施例1〜9のろ過工程では、粘着剤塗布液の100μm以下の気泡数および異物数が著しく低減され、かつフィルターを10時間連続使用した後でも、気泡および異物の除去効率が低下しないことがわかる。
【0126】
一方、プリーツタイプ・フィルターを使用した比較例1、差圧が大きい比較例2、さらにはろ過精度が大きい比較例3では、気泡および異物の除去効率が悪化することがわかる。
【0127】
さらに、ろ過精度が小さい比較例4では、初期の気泡および異物の除去効率は良好であるが、経時的に差圧が上昇し、気泡および異物の除去効率も経時的に悪化することがわかる。したがって、デプスタイプ・フィルターを使用して、水分散型アクリル系粘着剤を含有する粘着剤塗布液をろ過することにより気泡および異物を除去する場合、ろ過精度に最適な範囲(1〜20μm)が存在することがわかる。
【0128】
(粘着剤層の形成)
実施例1〜9および比較例1〜4のろ過工程後に得られた粘着剤塗布液を、剥離処理したポリエチレンテレフタレート(厚さ38μm)からなるセパレータの表面に、乾燥厚みが25μmになるようにダイコーターにより塗布した後、100℃で150秒間乾燥して、粘着剤層を形成した。
【0129】
(粘着剤層中の気泡および/または異物)
得られた粘着剤層(面積1m)の面に含まれる気泡および/または異物を、目視、および光学顕微鏡にて、その個数と大きさを測定した。最大長さが20μm以上の気泡および/または異物の個数(個/m)を表2に示す。なお、表2中、「20μm以上の気泡および/または異物の個数(個/m);10時間後」は、フィルターのライフ(寿命)を評価するために、フィルターを10時間連続使用した後のろ過後の粘着剤塗布液を用いて形成した粘着剤層の面において測定された、20μm以上の気泡および/または異物の個数(個/m)を意味する。
【0130】
【表2】

【0131】
表2の結果から、実施例1〜9のろ過工程後に得られた粘着剤塗布液を用いて得られた粘着剤層では、異物として検出される気泡数および異物数が著しく低減されていることがわかる。したがって、実施例1〜9のろ過工程を含む粘着型光学フィルムの製造方法でも、粘着剤層中に気泡および異物が殆ど存在せず、気泡および異物に起因した外観欠点が低減された粘着型光学フィルムを製造できることがわかる。
【0132】
一方、比較例1〜3のろ過工程後に得られた粘着剤塗布液を用いて得られた粘着剤層では、異物として検出される気泡数および異物数が多いため、最終的に得られる粘着型光学フィルムにおいても、気泡および異物に起因した外観欠点が多くなることがわかる。
【0133】
さらに、比較例4のろ過工程後に得られた粘着剤塗布液を用いて得られた粘着剤層では、ろ過工程において経時的に差圧が上昇し、気泡および異物の除去効率も経時的に悪化するため、得られる粘着剤層においても、徐々に、外観欠点となる気泡数および異物数が増加することがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ろ過精度が1〜20μmであるデプスタイプ・フィルターを使用し、水分散型粘着剤を含有する粘着剤塗布液を、差圧が0kPaを超え、かつ150kPa以下の状態でろ過処理するろ過工程と、ろ過処理後の前記粘着剤塗布液を塗布した後、乾燥する塗布・乾燥工程と、を含むことを特徴とする光学フィルム用粘着剤層の製造方法。
【請求項2】
前記デプスタイプ・フィルターが、ろ過精度に勾配を有する請求項1に記載の光学フィルム用粘着剤層の製造方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載の製造方法により製造された光学フィルム用粘着剤層。
【請求項4】
最大長さが100μmを超える気泡および/または異物を含んでおらず、かつ、前記粘着剤層の面において、最大長さが20μm以上の気泡および/または異物の個数が、10個/m以内である請求項3に記載の光学フィルム用粘着剤層。
【請求項5】
光学フィルムの少なくとも片側に、粘着剤層が積層されている粘着型光学フィルムの製造方法であって、
前記粘着剤層を製造する工程が、デプスタイプ・フィルターを使用し、前記粘着剤層の原料となる粘着剤塗布液を、差圧が0kPaを超え、かつ150kPa以下の状態でろ過処理するろ過工程を含み、
前記粘着剤塗布液が、水分散型粘着剤を含有するものであり、
前記デプスタイプ・フィルターのろ過精度が1〜20μmであることを特徴とする粘着型光学フィルムの製造方法。
【請求項6】
前記デプスタイプ・フィルターが、ろ過精度に勾配を有する請求項5に記載の粘着型光学フィルムの製造方法。
【請求項7】
前記ろ過工程の後、前記粘着剤塗布液を可撓性支持体(ウェブ)に塗布し、乾燥することにより、粘着剤層を設けた可撓性支持体(ウェブ)を製造する塗布・乾燥工程と、前記粘着剤層を設けた可撓性支持体(ウェブ)から、前記粘着剤層を前記光学フィルム上に転写する転写工程と、をさらに含む請求項5または6に記載の粘着型光学フィルムの製造方法。
【請求項8】
前記ろ過工程の後、前記粘着剤塗布液を前記光学フィルム上に塗布した後、乾燥する塗布・乾燥工程をさらに含む請求項5〜7のいずれかに記載の粘着型光学フィルムの製造方法。
【請求項9】
請求項5〜8のいずれかに記載の製造方法により製造された粘着型光学フィルム。
【請求項10】
請求項9に記載の粘着型光学フィルムを少なくとも1つ用いたことを特徴とする画像表示装置。
【請求項11】
粘着型光学フィルムを構成する粘着剤層の原料となる粘着剤塗布液を供給するための塗布液供給装置であって、
少なくとも前記粘着剤塗布液を送液するためのポンプと、前記粘着剤塗布液中に含まれる気泡を除去するためのろ過部と、前記粘着剤塗布液を移送するための送液部と、を備え、
前記ろ過部が、ろ過精度が1〜20μmであるデプスタイプ・フィルターを備え、差圧が0kPaを超え、かつ150kPa以下の状態でろ過処理する機能を有することを特徴とする塗布液供給装置。
【請求項12】
前記デプスタイプ・フィルターが、ろ過精度に勾配を有する請求項11に記載の塗布液供給装置。

【公開番号】特開2012−229305(P2012−229305A)
【公開日】平成24年11月22日(2012.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−97249(P2011−97249)
【出願日】平成23年4月25日(2011.4.25)
【出願人】(000003964)日東電工株式会社 (5,557)
【Fターム(参考)】