説明

光学フイルムおよびその製造方法

【課題】光学異方性が小さく、耐熱性の優れた光学フイルムを提供する。
【解決手段】酢酸基およびプロピオン酸基を有する脂肪酸セルロースエステルからなる光学フイルム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学用途に用いられるフイルムであって、保護フイルム、特に液晶表示装置に用いられる偏光子用保護フイルム、位相差フイルム用支持体等として有用に使用される光学フイルムおよびそれを用いた偏光フイルム、楕円偏光フイルムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、需要が拡大している液晶表示装置には偏光フイルムが使用されている。偏光フイルムは、ポリビニルアルコールにヨウ素、二色性染料を吸着、配向させたものを偏光素子とし、この偏光素子を保護フイルムで被覆したものである。この保護フイルムに用いる素材としては、複屈折が小さい、すなわち光学的異方性が小さい素材であることが望ましい。このため、ポリエステル、ポリカーボネート等に比べ光学的異方性が小さいセルローストリアセテートフイルムが用いられてきた。また、平面性に優れる薄膜を形成できることから溶液流延法により製膜したセルロースアセテートフイルムが用いられてきた。
【0003】
しかし、光学的異方性が小さく、平面性に優れるセルローストリアセテートフイルムであっても、後に説明するように溶液流延法による乾燥過程でフイルム厚み方向に素材の面配向が生じるため、この寄与によるレターデーション値(Rth)は、30〜70nmとなり、とりわけ、TFT型や階調表示のFSTN型のように高コントラストを実現した液晶表示装置の視覚特性に於いてはその影響を無視できなくなってきた。このため、液晶セルの高コントラストを実質的に損なうことなく適用できる偏光フイルム及び楕円偏光フイルムが求められている。特許文献1には、自平面に対する法線から30度以内の視角範囲内において8nm以下の位相差を示す透明保護フイルムを有する偏光フイルムに関する記載があるが、この目的を達成するためには応力のかからない状態での乾燥が必要であり、光弾性係数が大きいセルロースアセテートフイルムではその制御が容易でなく、製造適性は充分とはいえない。また、セルロースアセテートフイルムは、ポリエステル、ポリカーボネート等に比べ、耐熱性、耐湿熱性が充分ではなく、屋外での使用、自動車の計器パネル等への応用には問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平6−59122号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、TFT型や階調表示のFSTN型のように高コントラストを実現した液晶表示装置の高コントラストを実質的に損なうことなく適用できる、耐熱性、耐湿熱性、取扱い性等に優れた光学フイルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、かかる観点から種々検討した結果、従来のセルローストリアセテートフイルムに比べ、厚み方向レターデーション値(Rth)が小さく、平衡水分率が小さく、かつ光学的異方性が小さい、平面性、耐熱性及び耐湿熱性に優れた混合脂肪酸セルロースエステルを見いだし、本発明に到達した。すなわち、
(1)酢酸基およびプロピオン酸基を有する脂肪酸セルロースエステルからなる光学フイルム。
(2)該脂肪酸セルロースエステルの酢酸置換度(DSac)とプロピオン酸置換度(DSpr)との和が2.0〜3.0の間にあることを特徴とする(1)記載の光学フイルム。
(3)該脂肪酸セルロースエステルの酢酸置換度(DSac)が2.0〜2.7、プロピオン酸置換度(DSpr)が0.1〜0.9であることを特徴とする(1)記載の光学
フイルム。
(4)25℃、相対湿度60%における平衡水分率が0.1から1.5であることを特徴とする(1)記載の光学フイルム。
(5)該脂肪酸セルロースエステルの粘度平均重合度(DP)が250から400であることを特徴とする(1)記載の光学フイルム。
(6)該脂肪酸セルロースエステル100重量部に対して、リン酸エステル化合物、脂肪酸エステル化合物、フタル酸エステル化合物、クエン酸エステル化合物からなる可塑剤の中の少なくとも1種を1〜40重量部含有させることを特徴とする(1)記載の光学フイルム。
(7)表面から深さ10μmまでの範囲における表面層の可塑剤含有量がフイルム全体の可塑剤の平均濃度より低いことを特徴とする(6)記載の光学フイルム。
(8)下記の一般式(I):
【0007】
【化1】

【0008】
(但し、Rは、水素原子又はフェニル基で置換されても良い炭素原子数1〜5のアルキル基を表し、Rは、フェニル基又は炭素原子数1〜5のアルキル基を表し、そしてXは水素原子又はハロゲン原子を表す。)で表される紫外線吸収剤を含有することを特徴とする(1)記載の光学フイルム。
(9)偏光素子と該偏光素子の少なくとも一方の側に設けられている(1)から(8)記載のいずれかの光学フイルムとからなることを特徴とする偏光フイルム。
(10)(9)記載の偏光フイルムと位相差フイルムとを積層してなることを特徴とする楕円偏光フイルム。
(11)酢酸基およびプロピオン酸基を有する脂肪酸セルロースエステルを溶媒に溶解し、得られた溶液を支持体上に流延し、はぎ取ることを特徴とする光学フイルムの製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明の酢酸基とプロピオン酸基とを有する脂肪酸セルロースエステルフイルムにより、厚み方向の複屈折(Rth)が小さい光学的異方性が極めて少ない光学フイルムが得られる。また、平衡水分率が小さく、フイルム表面の可塑剤含有量がフイルム層全体より少ないので、偏光膜の保護フイルムとして用いた場合に耐湿熱性、カールにより生じる光学歪の少ない偏光フイルムが得られる。また、上記一般式(I)で表される紫外線吸収剤を使用した場合は、透明性及び滑り性に優れた偏光フイルムが得られる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】フイルムの屈折率相互の関係とフイルム厚みについて示す。
【図2】溶液流延法による乾燥工程によるフイルム厚みの変化とそれに伴うポリマーの面配向の変化を模式的に示し、nTHとRthとを比較した。
【図3】実施例8、実施例10及び比較例7で得られたフイルムの、300nm〜450nmの波長範囲における透過率(分光曲線)を示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
まず、本発明の混合脂肪酸セルロースエステルの下記(式1)で示されるレターデーション値(Rth)について説明する。
Rth={(nMD+nTD)/2−nTH}×d (式1)
〔nMDは流延方向に平行な方向でのフイルム屈折率、nTDは流延方向に垂直な方向でのフイルム屈折率、nTHは厚み方向でのフイルム屈折率、dはフイルム厚み(nm)である。〕
一般に、光学的に一軸異方性をもった物質に光が入射すると、位相速度の異なる互いに直行する直線偏光が伝搬するため、2つの屈折光が現れる。このような現象を複屈折といい、複屈折の大きさは、光学軸に平行な方向での屈折率(np)と光学軸に垂直な方向での屈折率(nv)との差によるので、
Δn=np−nv (式2)
を複屈折ということが多い。この複屈折(Δn)と厚み(d)の積、
Re=Δn×d (式3)
をレターデーション値(Re)といい、物質の光学的異方性を表す指標として用いられる。
【0012】
一般に、フイルムのレターデーション値としては、図1に示すようにフイルム面に対して垂直方向から測定した場合のフイルム面内で直交する2つの屈折率の差の絶対値(以下「正面複屈折」という。)に基づいて下記(式4)のように表される。以下、これを正面レターデーション値(Rmt)という。
Rmt=|nMD−nTD|×d (式4)
セルローストリアセテートフイルムは、この正面レターデーション値が極めて低いものとして知られ、液晶表示装置に用いる偏光板にその保護フイルムとして需要が大きい。しかしながら、液晶表示装置の偏光板としての用途の場合、液晶表示装置の表示面に垂直な方向での光学的異方性のみならず、表示面に対して任意の角度における光学的異方性をも考慮する必要がある。この場合、フイルム面内で直交する2つの屈折率(nMD、nTD)に加えてフイルム面に垂直な方向の屈折率(nTH)の寄与も考慮する必要がある。このため、フイルムの光学的異方性は(式1)に示すレターデーション値(Rth:以下「厚み方向レターデーション」という。)を考慮する必要がある。本発明は、(式1)に示すレターデーション値(Rth)が40nm≧Rth>0nm、好ましくは20nm≧Rth>0nmであり、しかも、(式4)に示す正面レターデーション値と(式1)に示す厚み方向レターデーション値との差の絶対値が0〜20nmとフイルム全体としても光学的異方性が少ない光学フイルムを提供するものである。図2に示す通り、溶液流延法による製膜では乾燥過程で溶媒が除かれるにつれフイルムの厚みは流延当初の1/5〜1/10となり、フイルム厚み方向に直交するポリマーの配向が進んで厚み方向の屈折率(nTH)が小さくなり、結果として厚み方向の複屈折(Rth)は大きくなる。比較例に示す通り、溶媒により異なるがセルローストリアセテートフイルムは25〜160nm、ポリカーボネートフイルムは216nmもあるが、実施例に示すように、本発明の混合脂肪酸セルロースエステルフイルムは、おおよそ5nmとセルローストリアセテートフイルムやポリカーボネートフイルムに比べて極めて低い。この理由としては、素材本来の複屈折値、いわゆる固有複屈折値差と溶液流延による製膜過程で生じる面配向性の差の両者の寄与が考えられる。ただし、両者の寄与の程度については明かでない。なお、本発明はプロピオン酸基を含むものについて述べているが、これは例示にすぎず、炭素数3以上のカルボン酸についても可能である。
【0013】
次いで、本発明の混合脂肪酸セルロースエステルの置換度、すなわち、酢酸置換度(DSac)とプロピオン酸置換度(DSpr)について説明する。本発明の混合脂肪酸セルロースエステルは、酢酸置換度(DSac)が2.0〜2.7、プロピオン酸置換度(DSpr)が0.1から0.9である。ここで、置換度とは、いわゆる結合脂肪酸量であり、セルロース単位重量当たりの結合脂肪酸重量の百分率をいい、ASTM:D−817−91(セルロースアセテート等の試験方法)におけるアセチル化度の測定および計算に準じて測定および計算をしたものである。
本発明の混合脂肪酸セルロースエステルの全置換度、すなわち、酢酸置換度(DSac)とプロピオン酸置換度(DSpr)との和は、2.0〜3.0の間において任意に選択できる。とりわけ、全置換度が2.8を越える範囲においては、セルローストリアセテートに比べて、レターデーション値が低いことに加えて、置換度が同等のセルローストリア
セテートを常温で溶解することが困難である、アセトン、メチルアセテート等の(式5)に示す溶解度パラメーター1.9〜2.0の溶媒にも常温で溶解する。このため、溶媒の選択範囲が広がり、近年、環境面、安全衛生面から問題となっている塩素系炭化水素を溶媒とせずとも溶液製膜できるという長所もある。
δ=(E/v)1/2 (式5)
[δは溶解度パラメーター(MPa1/2)であり、Eは蒸発エネルギー(J/mol)であり、vはモル容積(ml/mol、20℃)である。]
【0014】
次に本発明で用いる混合脂肪酸セルロースエステルは、粘度平均重合度(DP)が250から400、好ましくは290から400の混合脂肪酸セルロースエステルである。重合度は、溶液流延におけるポリマー溶液の粘度を制御する因子であり、製膜工程の経済性と成形されるフイルムの面状を最適なものにするため、あるいは、成形フイルムの機械的強度をあるレベル以上に保持するために、本発明の範囲にあることが必須である。本発明における粘度平均重合度(DP)の測定方法および算出方法は次の通りである。絶乾したセルロースアセテート約0.2gを精秤し、メチレンクロリド:エタノール=9:1の溶液100mlに溶解する。これをオストワルド粘度計にて25℃で落下秒数を測定し、重合度を以下の式により求める。
ηrel=T/T
〔η〕=(lnηrel)/C
DP=〔η〕/Km
T: 測定試料の落下秒数
: 溶剤単独の落下秒数
C: 濃度(g/リットル)
Km:6×10−4
【0015】
また、本発明の混合脂肪酸セルロースエステルは、綿花リンターから合成されたものでも、木材パルプから合成されたものでも、あるいは両者の混合されたものであってもよい。混合の割合を変えることにより流延後剥ぎ取り時の負荷を軽減できフイルムの面状を良化するからである。
【0016】
次に、本発明の混合脂肪酸セルロースエステルフイルムの平衡水分率について説明する。これは、温度25℃、相対湿度60%条件下で24時間放置した後、平衡に達した試料の水分量をカールフィッシャー法で測定し、得られた水分量(g)を試料重量(g)で除して算出したものである。測定装置としては、三菱化学製水分測定装置CA−03、同試料乾燥装置VA−05を用いた。カールフィッシャー試薬としては、同社製AKS、CKSを用いた。セルローストリアセテートフイルムは、偏光膜の保護フイルムとして用いられているが、透湿性が大きいため高温多湿下に長時間さらされると吸水のために偏光能が低下し、また、フイルムがカールして光学歪を生じるという欠点を有するが、本発明の混合セルロースエステルは、平衡水分率がセルロースアセテートに比べて低く、透湿性、カール特性ともに優れるため偏光膜の保護フイルムとして使用する場合に上述の欠点を克服できる。
【0017】
さらに、成型フイルムの機械的物性改良または溶剤乾燥速度向上のため、可塑剤、例えば、トリフェニルフォスフェート(TPP)、トリクレジルホスフェート(TCP)等のリン酸エステル化合物、ジメチルフタレート(DMP)、ジエチルフタレート(DEP)、ジブチルフタレート(DBP)、ジオクチルフタレート(DOP)、ジエチルヘキシルフタレート(DEHP)等のフタル酸エステル化合物、オレイン酸ブチル、リシノール酸メチルアセチル、セバシン酸ジブチル等の脂肪酸エステル化合物、クエン酸アセチルトリエチル(OACTE)、クエン酸アセチルトリブチル(OACTB)等のクエン酸エステル化合物、あるいは種々のトリメリット酸エステル化合物がある。ただし、上記の化合物
は例示列挙にすぎず、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0018】
混合脂肪酸セルロースエステルフイルム中の可塑剤は、フイルムに良好な機械的物性を与えるために不可欠ではあるが、リン酸エステル等の可塑剤の入ったフイルムを保護フイルムとして用いた偏光フイルムを高温高湿度下で使用した場合、保護フイルムにクラックが入ったり、保護フイルムが偏光素子から剥離したり、あるいは保護フイルムが着色したりする等の問題が発生する。このため、本発明の実施態様としては、上記可塑剤のフイルム厚み方向における濃度分布を、フイルム表面、すなわち、表面から深さ10μmまでの範囲、における可塑剤濃度を低くし、フイルム全体としてはある程度可塑剤濃度を保持することが好ましい。結果として、フイルム全体としては柔軟性を維持しながら耐湿熱性を向上させることができる。
【0019】
【化2】

【0020】
さらに、混合脂肪酸セルロースエステルは、光透過率が高く光学的異方性が少ない等の優れた性質を有しているが、紫外線を吸収する性質はないため、液晶表示装置の液晶の紫外線による劣化を防止するために、通常のセルロースアセテートフイルムと同様にフイルム中に紫外線吸収剤を添加することが好ましい。紫外線吸収剤としては特に限定するものではないが、本発明の実施態様としては、前記の一般式(I)で示される化合物をフイルム中に0.1〜10重量%含有させることが好ましい。
前記一般式(I)を有する化合物は、紫外線防止剤としての作用のほか、フイルム表面の滑り性も向上する。滑り性が要求されるのは、偏光素子と保護フイルムとから偏光フイルムを製造する場合に、フイルムのケン化処理(親水処理)、偏光素子と保護フイルムの接着剤による接着工程、保護フイルム上へのハードコートのコーティング工程、さらにこれらの工程などを行うための搬送作業等が行われる。この場合において、表面の耐傷性が充分でないときは、作業中に保護フイルム表面に傷がつき、このような保護フイルムを用いた偏光フイルムが組み込まれた液晶表示装置は致命的な表示欠陥を示すこととなるからである。
【0021】
ただし、滑り性を付与するために無機または有機の微粒子を含有させてもよい。無機化合物の例として、二酸化ケイ素、二酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、炭酸カルシウム、タルク、クレイ、焼成カオリン、焼成ケイ酸カルシウム、水和ケイ酸カルシウム、ケイ酸アルミニウム、ケイ酸マグネシウム及びリン酸カルシウムを挙げることができる。有機化合物(ポリマー)の例としては、シリコン樹脂、フッ素樹脂及びアクリル樹脂を挙げることができる。
【0022】
上記一般式(I)において、Rとしては、水素原子、炭素原子数3〜5もアルキル基又はα−ジメチルベンジル基が一般的であり、水素原子又は炭素原子数4又は5のアルキル基が好ましく、特に水素原子又はt−ブチル基が好ましく、そして水素原子が最も好ましい。Rとしては、メチル基、炭素原子数4もしくは5のアルキル基又はオクタロイロキシエチル基が一般的であり、メチル基又は炭素原子数4もしくは5のアルキル基が好ましく、特にメチル基又はt−ブチル基が好ましく、そしてt−ブチル基が最も好ましい。
Xとしては、水素原子又は塩素原子が好ましく、特に水素原子が好ましい。代表的な化合物の構造式、吸収スペクトル及び融点を以下に示す。
【0023】
【化3】

【0024】
λmax=350nm(メタノール)、融点=137〜14℃
【0025】
【化4】

【0026】
λmax=339nm(メタノール)、融点=154℃
【0027】
【化5】

【0028】
λmax=348nm、ε=1.69×10(メタノール)、融点=158.5℃
【0029】
【化6】

【0030】
λmax=341nm、ε=1.60×10(メタノール)、融点=80〜84℃
【0031】
【化7】

【0032】
λmax=346nm、ε=1.49×10(メタノール)、油状
【0033】
【化8】

【0034】
λmax=344nm、ε=1.56×10(メタノール)
【0035】
【化9】

【0036】
λmax=346nm、ε=3.47×10(メタノール)、融点=137〜141℃
【0037】
【化10】

【0038】
融点=131〜133℃
【0039】
【化11】

【0040】
λmax=337nm、ε=1.60×10(メタノール)、融点=95〜100℃
【0041】
上記紫外線吸収剤を含有する本発明のフイルムは、波長400nmの光の透過率として65%以上を示すことが好ましい。さらに、80%以上示すことが好ましい。また、波長370nmの光の透過率が3%以下、さらには1%以下であることが好ましい。さらに、成型フイルムの保存性改良のための劣化防止剤をフイルム中に含有することが好ましい。詳しくは特開平5−197073号公報に記載された過酸化物分解剤、ラジカル禁止剤、金属不活性化剤、酸捕獲剤である。
【0042】
本発明における流延製膜方法について、実施態様に沿って説明するが、必ずしも以下の記載に限定されるものではない。本発明の混合脂肪酸セルロースエステルをメチレンクロリド、クロロホルムその他の塩素系炭化水素、アセトン、メチルエチルケトンその他のケトン類、酢酸メチル、ギ酸エチルその他のエステル類、1,4−ジオキサン、1,3−ジオキソランその他のエーテル類、メタノール、エタノールその他の低級アルコール類を任意に混合した溶媒を用いて溶解する。さらに、該混合脂肪酸セルロースエステルと可塑剤、紫外線吸収剤、滑り剤、劣化防止剤等の固形分とを合わせた重量がドープ中に18から35wt%になるように調製し、鏡面状態に仕上げた支持体、例えば、ドラムまたはバンド上に流延し、一部乾燥してはぎ取る方法をとることができる。この方法は、一般的な流延方法であり、米国特許第2492078号、同第2739070号、同第2739069号、同第2492977号、同第2336310号、同第2367603号、同第2492978号、同第2607704号、英国特許第640731号、同第736892号、特公昭45−4554号、同49−5614号、特開昭62−115035号、同60ー176834号、同60−203430号等に詳細に記載されている。また、本発明における成型フイルムの膜厚は、5から500μm、好ましくは20から200μmであり、さらに好ましくは60から120μmである。透明性、フイルム強度との関係からこの範囲が好ましい。
【実施例】
【0043】
本発明を実施例により説明するが、これに限定されるものではない。
表1は、本発明の実施例および比較例で用いた素材のセルロース置換度、粘度平均重合度及び素材に対する溶媒と可塑剤との組成比を示したものである。ここで、CAPとは、本発明の混合脂肪酸セルロースエステルをいい、酢酸置換度が2.2〜2.3、プロピオン酸置換度が0.5〜0.7である。CTAとは、セルローストリアセテートをいい、酢酸置換度2.87と2.81の2品種がある。溶媒および可塑剤にカッコ書きで付記した数値は、素材100重量部に対するこれらの混合割合を示すものである。
【0044】
【表1】

【0045】
表2は、表1の実施例、比較例に基づいて製膜したフイルムのレターデーション値、および平衡水分率を示す。ここで、Rmtは、フイルム正面レターデーション値、Rthは、フイルム厚み方向のレターデーション値をそれぞれ示す。レターデーション値は、エリプソメーター(島津製作所のAEP−100)により測定した。フイルム厚み方向のレターデーション値はレターデーション値の角度依存性の測定値から計算によりnTHを求めることにより決定した。
【0046】
【表2】

【0047】
表3は、本発明の混合脂肪酸セルロースエステルを偏光フイルムの保護フイルムとして使用する場合の性能と可塑剤濃度との関係を実施例及び比較例に基づき表したものである。素材としては、実施例2に記載のCAPを用いた。溶媒、可塑剤のカッコ書きで付記した数値は、素材100重量部に対するこれらの混合割合を示す。乾燥工程後の熱処理条件とは、上述の方法に基づき製膜した膜厚80μmのCAPフイルムを可塑剤を揮発させるために行う処理をいう。
【0048】
【表3】

【0049】
得られたCAPフイルムを打ち抜きして二枚のフイルムを作製し、これらの片面にポリウレタン系接着剤を塗布して、ポリビニルアルコールと二色性染料とからなる偏光素子(30μm)の両面に接着することにより偏光フイルムを作製した。
【0050】
以上の方法で得られた実施例6,7と比較例4〜6のCAPフイルム及び偏光フイルムについて以下の方法によりその特性を評価した。
1)フイルム中の可塑剤濃度(表面層及び膜全体)
各例で得られたCAPフイルムについて、フイルムの表面から深さ10μmまでの表面層を削って0.5gを採取し、フイルムのもう一方の表面についても同様に試料を採取し、さらにフイルムを厚さ方向に切断して膜全体の試料として0.5gを採取した。上記試料0.5gをそれぞれクロロホルム40mlに溶解し、2μlをガスクロマトグラフィーの気化室注入し、得られたガスクロマトグラムから可塑剤濃度を決定した。
【0051】
上記ガスクロマトグラフィーによる測定条件は下記の通りである。
使用機種: GC−15A((株)島津製作所製)
カラム: シリコンOV、2%、1.6m、3φ、260℃
キャリアガス:窒素50ml/min
検出器: FID、水素0.6kg/cm、空気0.5kg/cm
気化室: 280℃
【0052】
2)加工適性各例で得られたCAPフイルムにスリット加工(切断)を行い、その時発生する切り屑の量を観察した。また、スリットしたフイルムの切り口の凹凸の程度を顕微鏡で観察し、下記のように評価した。
A:切り屑の発生がほとんどなく、切り口が滑らかであった。
B:切り屑が少し発生し、切り口が多少ノコギリ状であった。
C:切り屑が多く、切り口がノコギリ状であった。
【0053】
3)耐湿熱性得られた偏光フイルムを100mm×100mmの大きさに切断し、アクリル系接着剤を用いてガラス板に接着し、85℃、90%RHの雰囲気下に500時間放置した後、偏光フイルムの割れ、保護フイルムの剥離、着色等について観察し、下記のように評価した。
A:割れ、剥離、着色のいずれの発生もなかった。
B:割れが数カ所発生し、若干の着色があった。
C:割れ、剥離、着色の発生があった。
【0054】
以上の結果から明らかなように、実施例6及び7で得られた本発明の偏光フイルムは、加工適性及び耐湿熱性の両方において良好であった。一方、比較例5で得られた偏光フイルムの保護フイルムについては、深さ5μmまでの表面層の可塑剤濃度も測定したところ7.5及び7.3重量%との低い値が得られたにもかかわらず、劣った耐湿熱性を示しており、本発明の可塑剤濃度を満足する表面層としては10μmの深さまで必要であることがわかる。さらに、比較例6に示すように、可塑剤濃度が10重量%未満と低い保護フイルムを用いた偏光フイルムでは、可塑剤濃度が低いため耐湿熱性は良好であるが、加工適性に問題がある。
【0055】
【表4】

【0056】
表4は、本発明の混合脂肪酸セルロースエステルを偏光フイルムの保護フイルムとして使用する場合の性能、すなわち光透過率(可視領域、400nm)と動摩擦係数を実施例及び比較例に基づき表したものである。素材としては、実施例2に記載のCAPを用いた。溶媒、可塑剤、紫外線吸収剤その他の添加剤のカッコ書きで付記した数値は、素材10
0重量部に対するこれらの混合割合を示す。紫外線吸収剤は上述の化合物例の記載されたものである。実施例11記載のアエロジル972は、二酸化珪素の微粒子(商品名:アエロジルR972D、一次粒子の平均孔径:0.016μm;日本アエロジル(株)製)を、比較例8記載のアエロジル200は、二酸化珪素の微粒子(商品名:アエロジル200、一次粒子の平均孔径:0.012μm;日本アエロジル(株)製)を、それぞれ分散機にて分散液(該微粒子0.5重量部、メチレンクロリド80重量部、メタノール20重量部)中での平均孔径が0.3μmになるように調製した。また、2,2’−ジヒドロキシ−4,4’−ジメトキシベンゾフェノンは、下記の構造式を有するものである。
【0057】
【化12】

【0058】
なお、フイルムの膜厚は、80μmである。上記で得られたCAPフイルムについて下記の方法によりその特性を評価した。
【0059】
1)分光特性実施例8,10及び比較例7で得られたCAPフイルムについて、分光光度計(U−3400、(株)日立製作所製)を用いて、波長範囲300nm〜450nmにおける透過率を測定した。この結果を図3に示す。この分光特性のグラフから、短波長領域では共に透過率は0%であるが、可視領域に入る400nmでは実施例8のCAPフイルムでは84.8%であるが、比較例7のCAPフイルムでは60.2%であり、比較例7は可視光線をかなり吸収していることは明らかである。
2)光透過率透明度測定機((株)KOTAKI製作所製)を用いて、得られたCAPフイルムの可視光線の透過率を測定した。
3)波長400nmの光透過率分光光度計(U−3400、(株)日立製作所製)を用いて、得られたCAPフイルムの波長400nmの光透過率を測定した。
4)動摩擦係数100mm×200mmのフイルム上に75mm×100mmのフイルムを載せ、これを固定した台の上に載せ、さらにフイルム上にフォームラバーで覆われた200gのおもりを載せる。おもりを水平方向に引っ張り、動きだした時の力(F)を測定し、下記式より動摩擦係数(μ)を求めた。
F=μ×W (W:おもりの重さ(kgf))
【0060】
以上の結果から明らかなように、実施例8〜11で得られた本発明の混合脂肪酸セルロースエステルフイルムは、可視光線の光透過率が高く、かつ400nmの透過率が高いので透明性に優れたフイルムということができる。さらに、動摩擦係数も従来の滑り剤を用いた比較例7と差がなく、耐傷性についても向上していることがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酢酸基およびプロピオン酸基を有する脂肪酸セルロースエステルからなる光学フイルム。
【請求項2】
該脂肪酸セルロースエステルの酢酸置換度(DSac)とプロピオン酸置換度(DSpr)との和が2.0〜3.0の間にあることを特徴とする請求項1記載の光学フイルム。
【請求項3】
該脂肪酸セルロースエステルの酢酸置換度(DSac)が2.0〜2.7、プロピオン酸置換度(DSpr)が0.1〜0.9であることを特徴とする請求項1記載の光学フイルム。
【請求項4】
25℃、相対湿度60%における平衡水分率が0.1から1.5であることを特徴とする請求項1記載の光学フイルム。
【請求項5】
該脂肪酸セルロースエステルの粘度平均重合度(DP)が250から400であることを特徴とする請求項1記載の光学フイルム。
【請求項6】
該脂肪酸セルロースエステル100重量部に対して、リン酸エステル化合物、脂肪酸エステル化合物、フタル酸エステル化合物、クエン酸エステル化合物からなる可塑剤の中の少なくとも1種を1〜40重量部含有させることを特徴とする請求項1記載の光学フイルム。
【請求項7】
表面から深さ10μmまでの範囲における表面層の可塑剤含有量がフイルム全体の可塑剤の平均濃度より低いことを特徴とする請求項6記載の光学フイルム。
【請求項8】
下記の一般式(I):
【化1】

(但し、Rは、水素原子又はフェニル基で置換されても良い炭素原子数1〜5のアルキル基を表し、Rは、フェニル基又は炭素原子数1〜5のアルキル基を表し、そしてXは水素原子又はハロゲン原子を表す。)で表される紫外線吸収剤を含有することを特徴とする請求項1記載の光学フイルム。
【請求項9】
偏光素子と該偏光素子の少なくとも一方の側に設けられている請求項1から請求項8記載のいずれかの光学フイルムとからなることを特徴とする偏光フイルム。
【請求項10】
請求項9記載の偏光フイルムと位相差フイルムとを積層してなることを特徴とする楕円偏光フイルム。
【請求項11】
酢酸基およびプロピオン酸基を有する脂肪酸セルロースエステルを溶媒に溶解し、得られた溶液を支持体上に流延し、はぎ取ることを特徴とする光学フイルムの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−22609(P2011−22609A)
【公開日】平成23年2月3日(2011.2.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−224566(P2010−224566)
【出願日】平成22年10月4日(2010.10.4)
【分割の表示】特願2007−319725(P2007−319725)の分割
【原出願日】平成8年5月30日(1996.5.30)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】